IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図1
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図2
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図3
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図4
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図5
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図6
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図7
  • 特開-電動圧縮機及びその組立方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140115
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電動圧縮機及びその組立方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/00 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
F04C29/00 T
F04C29/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051114
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】大橋 寛之
(72)【発明者】
【氏名】柳 恵史
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA02
3H129AA16
3H129AB03
3H129BB32
3H129CC27
(57)【要約】
【課題】端子箱の構成の複雑化を抑制しつつ、モータの組付け作業を容易にできる電動圧縮機及びその組立方法を提供する。
【解決手段】軸支部材15には、モータ室17から固定スクロール部材9の外周壁9bと圧縮部ハウジング14との間に流体を流入させる吸入通路55aが形成されている。モータ室17は、回転軸5の軸方向視において、モータハウジング13の開口側に、回転軸5の径方向に対して吸入通路55aよりも外方に膨出し、引出線76とともにコイルエンド74よりも径方向の外方に引き出された端子箱61を収容する膨張空間60を有している。モータハウジング13に形成され、導電ピン71が挿入、保持される貫通孔13hは膨張空間60に開口している。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
前記回転軸に固定されるロータ、前記ロータを囲む筒状のステータコア、及び前記回転軸の軸方向における前記ステータコアの両端面からそれぞれコイルエンドが突出するように前記ステータコアに巻回されたコイルを備え、前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の回転によって駆動して流体を圧縮する圧縮部と、
前記モータを駆動するインバータと、
内周面側に前記モータを収容し、外周面側に前記インバータが搭載される有底筒状のモータハウジングと、
前記圧縮部を収容する有底筒状の圧縮部ハウジングと、
前記モータハウジングの開口側の第1端面及び前記圧縮部ハウジングの開口側の第2端面との間に設けられ、前記モータを収容したモータ室を前記モータハウジングとともに区画するとともに、前記圧縮部を収容した圧縮部室を前記圧縮部ハウジングとともに区画し、かつ前記回転軸が挿通される挿通孔を有し、前記回転軸を回転可能に支持する軸支部材と、
前記モータハウジングに形成された貫通孔に挿入されるとともに前記貫通孔に対して保持され、前記コイルと前記インバータとを電気的に接続する導電ピンと、を有し、
前記モータは、
前記モータハウジングの開口側に配置された前記コイルエンドから引き出された引出線と、
前記導電ピンと前記引出線とを電気的に接続する接続端子と、
前記接続端子を内部に収容するとともに前記導電ピンが挿通されるピン挿入孔が形成された端子箱と、を有し、
前記圧縮部は、
前記圧縮部室に収容された固定スクロール部材と、前記圧縮部室に収容されるとともに前記固定スクロール部材と噛合する旋回スクロール部材と、を有し、
前記固定スクロール部材は、渦巻状に延びる固定渦巻壁と、前記固定渦巻壁を囲う筒状の外周壁と、を有する電動圧縮機であって、
前記軸支部材には、前記モータ室から前記外周壁と前記圧縮部ハウジングとの間に流体を流入させる吸入通路が形成され、
前記モータ室は、前記軸方向視において、前記モータハウジングの開口側に、前記回転軸の径方向に対して前記吸入通路よりも外方に膨出し、前記引出線とともに前記コイルエンドよりも前記径方向の外方に引き出された前記端子箱を収容する膨張空間を有し、
前記貫通孔は前記膨張空間に開口していることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記膨張空間も前記軸支部材によって閉塞されている請求項1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記端子箱には、前記モータの相数分の前記接続端子が収容され、かつ、前記モータの相数分の前記ピン挿入孔が形成され、
前記膨張空間に収容された前記端子箱の外面と前記モータハウジングの内面との間には空隙が設けられている請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【請求項4】
回転軸と、
前記回転軸に固定されるロータ、前記ロータを囲む筒状のステータコア、及び前記回転軸の軸方向における前記ステータコアの両端面からそれぞれコイルエンドが突出するように前記ステータコアに巻回されたコイルを備え、前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の回転によって駆動して流体を圧縮する圧縮部と、
前記モータを駆動するインバータと、
内周面側に前記モータを収容し、外周面側に前記インバータが搭載される有底筒状のモータハウジングと、
前記圧縮部を収容する有底筒状の圧縮部ハウジングと、
前記モータハウジングの開口側の第1端面及び前記圧縮部ハウジングの開口側の第2端面との間に設けられ、前記モータを収容したモータ室を前記モータハウジングとともに区画するとともに、前記圧縮部を収容した圧縮部室を前記圧縮部ハウジングとともに区画し、かつ前記回転軸が挿通される挿通孔を有し、前記回転軸を回転可能に支持する軸支部材と、
前記モータハウジングに形成された貫通孔に挿入されるとともに前記貫通孔に対して保持され、前記コイルと前記インバータとを電気的に接続する導電ピンと、を有し、
前記モータは、
前記モータハウジングの開口側に配置された前記コイルエンドから引き出された引出線と、
前記導電ピンと前記引出線とを電気的に接続する接続端子と、
前記接続端子を内部に収容するとともに前記導電ピンが挿通されるピン挿入孔が形成された端子箱と、を有し、
前記圧縮部は、
前記圧縮部室に収容された固定スクロール部材と、前記圧縮部室に収容されるとともに前記固定スクロール部材と噛合する旋回スクロール部材と、を有し、
前記固定スクロール部材は、渦巻状に延びる固定渦巻壁と、前記固定渦巻壁を囲う筒状の外周壁と、を有する電動圧縮機の組立方法であって、
前記軸支部材には、前記モータ室から前記外周壁と前記圧縮部ハウジングとの間に流体を流入させる吸入通路が形成され、
前記モータ室は、前記軸方向視において、前記モータハウジングの開口側に、前記回転軸の径方向に対して前記吸入通路よりも外方に膨出し、前記引出線とともに前記コイルエンドよりも前記径方向の外方に引き出された前記端子箱を収容する膨張空間を有し、
前記貫通孔は前記膨張空間に開口し、
前記ステータコアを前記モータハウジングの内周面に配置し、前記端子箱を前記膨張空間に配置する配置工程と、
前記導電ピンの挿入方向に対して、前記貫通孔の位置と前記ピン挿入孔の位置とが重なるように、前記膨張空間内で、前記端子箱における前記接続端子を間に挟んで前記ピン挿入孔とは反対側の面を治具で保持する保持工程と、
前記端子箱を前記治具で保持した状態で、前記導電ピンを前記貫通孔及び前記ピン挿入孔に挿入するとともに、前記貫通孔に対して保持された前記導電ピンを前記接続端子に電気的に接続する接続工程と、を有することを特徴とする電動圧縮機の組立方法。
【請求項5】
前記貫通孔から前記ピン挿入孔に挿入される前記導電ピンの挿入方向と、前記モータハウジングの開口から挿入される前記治具の挿入方向とは交差する請求項4記載の電動圧縮機の組立方法。
【請求項6】
前記端子箱の外面には、前記治具を位置決めする位置決め突起が設けられ、
前記治具は、前記位置決め突起に嵌合される溝部を有する請求項4又は5記載の電動圧縮機の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機及びその組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動圧縮機の一例が開示されている。この電動圧縮機におけるモータは、ステータの圧縮機構側の端部に設けられているステータコイルエンドカバー又はボビンの外周部位に、コイルエンドからの引出線と接続された端子箱が組付けられた様態で、モータハウジング内にアッセンブリされている。
【0003】
このステータは、モータハウジング内に圧入等により挿入設置される。この際、ハーメチック端子を挿入設置するためにモータハウジングに設けられた開口と対向する位置に、端子箱を位置決めする必要がある。しかし、ステータをモータハウジング内に圧入等により挿入設置する際に、組付誤差が生じる。
【0004】
上記従来の電動圧縮機では、上記組付誤差を吸収するために、ステータコイルエンドカバーやボビンに対して、端子箱が周方向及び/又は軸方向に微小変位可能に設置されている。この場合、端子箱は、ステータコイルエンドカバーやボビンの外周部位から立設された複数の爪部に対して、周方向及び/又は軸方向に微小隙間をもって嵌合される取付け孔を介して微小変位可能に係止されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-144997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の電動圧縮機では、ステータコイルエンドカバーやボビンに爪部を成形し、端子箱に取付け孔を設けるため、ステータコイルエンドカバー、ボビン及び端子箱の構成が複雑になる。
【0007】
また、ハーメチック端子との接続が可能となる微小隙間の範囲内に端子箱の位置を微調整するために、アッセンブリされたモータの位置を微調整する必要があり、モータハウジングに対するステータの挿入設置作業が困難であった。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、端子箱の構成の複雑化を抑制しつつ、モータの組付け作業を容易にできる電動圧縮機及びその組立方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の電動圧縮機は、回転軸と、
前記回転軸に固定されるロータ、前記ロータを囲む筒状のステータコア、及び前記回転軸の軸方向における前記ステータコアの両端面からそれぞれコイルエンドが突出するように前記ステータコアに巻回されたコイルを備え、前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の回転によって駆動して流体を圧縮する圧縮部と、
前記モータを駆動するインバータと、
内周面側に前記モータを収容し、外周面側に前記インバータが搭載される有底筒状のモータハウジングと、
前記圧縮部を収容する有底筒状の圧縮部ハウジングと、
前記モータハウジングの開口側の第1端面及び前記圧縮部ハウジングの開口側の第2端面との間に設けられ、前記モータを収容したモータ室を前記モータハウジングとともに区画するとともに、前記圧縮部を収容した圧縮部室を前記圧縮部ハウジングとともに区画し、かつ前記回転軸が挿通される挿通孔を有し、前記回転軸を回転可能に支持する軸支部材と、
前記モータハウジングに形成された貫通孔に挿入されるとともに前記貫通孔に対して保持され、前記コイルと前記インバータとを電気的に接続する導電ピンと、を有し、
前記モータは、
前記モータハウジングの開口側に配置された前記コイルエンドから引き出された引出線と、
前記導電ピンと前記引出線とを電気的に接続する接続端子と、
前記接続端子を内部に収容するとともに前記導電ピンが挿通されるピン挿入孔が形成された端子箱と、を有し、
前記圧縮部は、
前記圧縮部室に収容された固定スクロール部材と、前記圧縮部室に収容されるとともに前記固定スクロール部材と噛合する旋回スクロール部材と、を有し、
前記固定スクロール部材は、渦巻状に延びる固定渦巻壁と、前記固定渦巻壁を囲う筒状の外周壁と、を有する電動圧縮機であって、
前記軸支部材には、前記モータ室から前記外周壁と前記圧縮部ハウジングとの間に流体を流入させる吸入通路が形成され、
前記モータ室は、前記軸方向視において、前記モータハウジングの開口側に、前記回転軸の径方向に対して前記吸入通路よりも外方に膨出し、前記引出線とともに前記コイルエンドよりも前記径方向の外方に引き出された前記端子箱を収容する膨張空間を有し、
前記貫通孔は前記膨張空間に開口していることを特徴とする。
【0010】
本発明の電動圧縮機では、コイルエンドから引き出された引出線が、端子箱内に収容された接続端子に接続されている。また、モータハウジングの貫通孔に対して保持された導電ピンが、ピン挿入孔から端子箱内に挿通されるとともに、端子箱内に収容された接続端子に接続されている。
【0011】
こうして、モータハウジングの貫通孔に対して保持された導電ピンを端子箱内で接続端子に接続することで、端子箱がモータハウジングに保持される。このため、ステータコアに対して端子箱を固定するための部材が不要となる。その結果、端子箱を加工する必要がなく、端子箱の構成の複雑化を抑制できる。
【0012】
また、端子箱は、コイルエンドから引き出された引出線を介してステータコアに組付けられているだけで、ステータコアに対して固定されていない。そして、ステータコアをモータハウジングの開口から挿入設置した後に、膨張空間内で端子箱の位置を微調整して、端子箱内で導電ピンを接続端子に接続することができる。このため、ステータコアを挿入設置する際に、膨張空間内における端子箱の位置を調整する必要がない。その結果、モータハウジングの開口からステータコアを容易に挿入設置することができる。
【0013】
したがって、本発明の電動圧縮機によれば、端子箱の構成の複雑化を抑制しつつ、モータの組付け作業を容易にできる。
【0014】
膨張空間も軸支部材によって閉塞されていることが好ましい。
【0015】
この場合、膨張空間を閉塞する専用の部品が不要なので、部品点数の増加を抑制できる。
【0016】
端子箱には、モータの相数分の接続端子が収容され、かつ、モータの相数分のピン挿入孔が形成されていることが好ましい。そして、膨張空間に収容された端子箱の外面とモータハウジングの内面との間には空隙が設けられていることが好ましい。
【0017】
この場合、空隙によって端子箱の位置の微調整が容易になる。
【0018】
本発明の電動圧縮機の組立方法は、回転軸と、
前記回転軸に固定されるロータ、前記ロータを囲む筒状のステータコア、及び前記回転軸の軸方向における前記ステータコアの両端面からそれぞれコイルエンドが突出するように前記ステータコアに巻回されたコイルを備え、前記回転軸を回転させるモータと、
前記回転軸の回転によって駆動して流体を圧縮する圧縮部と、
前記モータを駆動するインバータと、
内周面側に前記モータを収容し、外周面側に前記インバータが搭載される有底筒状のモータハウジングと、
前記圧縮部を収容する有底筒状の圧縮部ハウジングと、
前記モータハウジングの開口側の第1端面及び前記圧縮部ハウジングの開口側の第2端面との間に設けられ、前記モータを収容したモータ室を前記モータハウジングとともに区画するとともに、前記圧縮部を収容した圧縮部室を前記圧縮部ハウジングとともに区画し、かつ前記回転軸が挿通される挿通孔を有し、前記回転軸を回転可能に支持する軸支部材と、
前記モータハウジングに形成された貫通孔に挿入されるとともに前記貫通孔に対して保持され、前記コイルと前記インバータとを電気的に接続する導電ピンと、を有し、
前記モータは、
前記モータハウジングの開口側に配置された前記コイルエンドから引き出された引出線と、
前記導電ピンと前記引出線とを電気的に接続する接続端子と、
前記接続端子を内部に収容するとともに前記導電ピンが挿通されるピン挿入孔が形成された端子箱と、を有し、
前記圧縮部は、
前記圧縮部室に収容された固定スクロール部材と、前記圧縮部室に収容されるとともに前記固定スクロール部材と噛合する旋回スクロール部材と、を有し、
前記固定スクロール部材は、渦巻状に延びる固定渦巻壁と、前記固定渦巻壁を囲う筒状の外周壁と、を有する電動圧縮機の組立方法であって、
前記軸支部材には、前記モータ室から前記外周壁と前記圧縮部ハウジングとの間に流体を流入させる吸入通路が形成され、
前記モータ室は、前記軸方向視において、前記モータハウジングの開口側に、前記回転軸の径方向に対して前記吸入通路よりも外方に膨出し、前記引出線とともに前記コイルエンドよりも前記径方向の外方に引き出された前記端子箱を収容する膨張空間を有し、
前記貫通孔は前記膨張空間に開口し、
前記ステータコアを前記モータハウジングの内周面に配置し、前記端子箱を前記膨張空間に配置する配置工程と、
前記導電ピンの挿入方向に対して、前記貫通孔の位置と前記ピン挿入孔の位置とが重なるように、前記膨張空間内で、前記端子箱における前記接続端子を間に挟んで前記ピン挿入孔とは反対側の面を治具で保持する保持工程と、
前記端子箱を前記治具で保持した状態で、前記導電ピンを前記貫通孔及び前記ピン挿入孔に挿入するとともに、前記貫通孔に対して保持された前記導電ピンを前記接続端子に電気的に接続する接続工程と、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の電動圧縮機の組立方法における配置工程では、例えばコイルエンドから引き出された引出線を端子箱内に収容された接続端子に接続した状態で、ステータコアをモータハウジングの内周面に配置するとともに、端子箱を膨張空間に配置する。
【0020】
その後の保持工程では、導電ピンの挿入方向に対して、貫通孔の位置とピン挿入孔の位置とが重なるように、膨張空間内で端子箱を治具により保持する。
【0021】
その後の接続工程では、端子箱を治具で保持した状態で、導電ピンを貫通孔及びピン挿入孔に挿入する。そして、貫通孔に対して保持された導電ピンを端子箱内で接続端子に接続する。
【0022】
こうして、モータハウジングの貫通孔に対して保持された導電ピンを端子箱内で接続端子に接続することで、端子箱がモータハウジングに保持される。このため、ステータコアに対して端子箱を固定するための部材が不要となる。その結果、端子箱を加工する必要がなく、端子箱の構成の複雑化を抑制できる。
【0023】
また、端子箱は、コイルエンドから引き出された引出線を介してステータコアに組付けられているだけで、ステータコアに対して固定されていない。そして、配置工程において、ステータコアをモータハウジングの開口から挿入設置した後に、保持工程において、膨張空間内で端子箱の位置を治具で微調整することができる。このため、配置工程において、ステータコアを挿入設置する際に、膨張空間内における端子箱の位置を調整する必要がない。その結果、モータハウジングの開口からステータコアを容易に挿入設置することができる。
【0024】
さらに、接続工程において、治具で端子箱を保持しつつ、導電ピンを接続端子に接続するので、この接続時の荷重を治具で受けることができる。また、端子箱の位置は治具によって微調整されている。このため、端子箱内で接続端子に対して導電ピンを容易に接続することができる。
【0025】
したがって、本発明の電動圧縮機の組立方法によれば、端子箱の構成の複雑化を抑制しつつ、モータの組付け作業を容易にできる。
【0026】
貫通孔からピン挿入孔に挿入される導電ピンの挿入方向と、モータハウジングの開口から挿入される治具の挿入方向とは交差することが好ましい。
【0027】
この場合、モータハウジングの開口から挿入された治具によって、端子箱における接続端子を間に挟んでピン挿入孔とは反対側の面を保持することで、導電ピンを接続端子に接続する時の荷重を治具で確実に受けることができる。
【0028】
端子箱の外面には、治具を位置決めする位置決め突起が設けられていることが好ましい。また、治具は、位置決め突起に嵌合される溝部を有することが好ましい。
【0029】
この場合、端子箱の位置決め突起と治具の溝部との嵌合により、端子箱に対して治具を確実に位置決めすることができるので、導電ピンを接続端子に接続する時の荷重を治具で確実に受けることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電動圧縮機及びその組立方法によれば、端子箱の構成の複雑化を抑制しつつ、モータの組付け作業を容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、実施例の電動圧縮機の断面図である。
図2図2は、実施例の電動圧縮機に係り、図1のA-A線断面図である。
図3図3は、実施例の電動圧縮機に係り、軸支部材を電動圧縮機の前方から見た図である。
図4図4は、実施例の電動圧縮機に係り、(a)は端子箱の平面図、(b)は端子箱の正面図、(c)は端子箱の底面図である。
図5図5は、実施例の電動圧縮機に係り、要部構成を模式的に示す部分断面図である。
図6図6は、実施例の電動圧縮機の組み立てに用いる治具の斜視図である。
図7図7は、実施例の電動圧縮機の組立方法を概略的に説明する部分断面図である。
図8図8は、実施例の電動圧縮機の組立方法を概略的に説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を具体化した実施例を、図面を参照しつつ説明する。実施例の電動圧縮機(以下、単に圧縮機という。)は、具体的には、スクロール型電動圧縮機である。この圧縮機は、図示しない車両に搭載されており、車両用空調装置を構成している。具体的には、産業用車両に搭載されるユニット型空調装置を構成している。
【0033】
図1に示すように、実施例の圧縮機は、ハウジング1と、回転軸5と、モータ7と、固定スクロール部材9と、旋回スクロール部材11とを備えている。固定スクロール部材9及び旋回スクロール部材11は、本発明における「圧縮部」の一例である。
【0034】
本実施例では、図1に示す実線矢印によって圧縮機の前後方向及び上下方向を規定している。また、図1における紙面手前側を右方とし、紙面奥側を左方とする。図2以降の図では、図1に対応して圧縮機の前後方向、上下方向及び左右方向を規定している。以下の説明において、前後、上下及び左右は、全て図1における前後、上下及び左右を基準としている。なお、これらの方向は説明の便宜上のための一例であり、圧縮機は、搭載される車両等に対応して、その姿勢が適宜変更される。
【0035】
図1及び図2に示すように、ハウジング1は、モータハウジング13と、圧縮部ハウジング14と、軸支部材15と、インバータハウジング16とで構成されている。モータハウジング13は、ハウジング1における前方部分を構成しており、圧縮部ハウジング14は、ハウジング1における後方部分を構成している。
【0036】
モータハウジング13は、前壁13aと第1周壁13bとを有している。前壁13aは、モータハウジング13の前端に位置しており、モータハウジング13の径方向に延びている。第1周壁13bは、前壁13aと接続しており、前壁13aから後方に向かって延びている。これらの前壁13a及び第1周壁13bにより、モータハウジング13は、後方が開口する有底の筒状をなしている。モータハウジング13内には、モータ室17が形成されている。
【0037】
また、モータハウジング13には、吸入開口13cと支持部13dとが形成されている。吸入開口13cは、第1周壁13bに形成されており、モータ室17と連通している。吸入開口13cは、配管(図示略)によって蒸発器(図示略)と接続されており、蒸発器を経た冷媒ガスをモータ室17内に吸入させる。冷媒ガスは、本発明における「流体」の一例である。モータ室17は、冷媒ガスが吸入される吸入室を兼ねている。
【0038】
支持部13dは、前壁13aからモータ室17内に突出している。支持部13dは、円筒状をなしており、内部に第1ラジアル軸受19が設けられている。なお、吸入開口13cを前壁13aに形成しても良い。
【0039】
圧縮部ハウジング14は、後壁14aと第2周壁14bとを有している。後壁14aは、圧縮部ハウジング14の後端に位置しており、圧縮部ハウジング14の径方向に延びている。第2周壁14bは、後壁14aと接続しており、後壁14aから前方に向かって延びている。これらの後壁14a及び第2周壁14bにより、圧縮部ハウジング14は、前方が開口する有底の筒状をなしている。
【0040】
圧縮部ハウジング14には、油分離室14cと、第1吐出凹部14dと、吐出通路14eと、吐出開口14fと、圧縮部室18とが形成されている。油分離室14cは、圧縮部ハウジング14内において後方側に位置しており、圧縮部ハウジング14の径方向に延びている。第1吐出凹部14dは、圧縮部ハウジング14内において、油分離室14cよりも前方側に位置しており、油分離室14cに向かって凹む形状をなしている。吐出通路14eは前後方向に延びており、油分離室14cと第1吐出凹部14dとを連通させている。吐出開口14fは、油分離室14cの上端と連通しており、圧縮部ハウジング14の外部に向かって開口している。吐出開口14fは、配管によって凝縮器(図示略)と接続されている。
【0041】
油分離室14c内には、分離筒21が固定されている。分離筒21は、円筒状をなす外周面21aを有している。外周面21aは、油分離室14cの内周面140と同軸をなしている。これらの外周面21a及び内周面140によって、セパレータが構成されている。
【0042】
軸支部材15は、モータハウジング13と圧縮部ハウジング14との間に設けられている。詳しくは、モータハウジング13の開口側の第1端面13jと、圧縮部ハウジング14の開口側の第2端面14gとの間に設けられている。そして、モータハウジング13と圧縮部ハウジング14と軸支部材15とは、圧縮部ハウジング14側から複数のボルト25によって締結されている。
【0043】
また、軸支部材15は、軸支部材15の外周縁から一部が径方向の外方に膨出する第1膨出部150を有している。第1膨出部150は、圧縮部ハウジング14よりも径方向の外方に膨出している。第1膨出部150とモータハウジング13の後述する第2膨出部130とは、複数のボルト25、26によって締結されている。こうして、軸支部材15は、モータハウジング13と圧縮部ハウジング14とに挟持されつつ、モータハウジング13及び圧縮部ハウジング14に固定されている。これにより、軸支部材15は、モータ室17をモータハウジング13とともに区画するとともに、圧縮部室18を圧縮部ハウジング14とともに区画している。なお、図1では、複数のボルト25、26のうちの1つずつを図示している。また、モータハウジング13と圧縮部ハウジング14と軸支部材15との固定方法は、適宜設計可能である。
【0044】
軸支部材15には、前方に向かって突出するボス15aが形成されている。ボス15aの先端には、挿通孔15bが形成されている。また、ボス15a内には、第2ラジアル軸受27と、シール部材29とが設けられている。
【0045】
回転軸5は、ハウジング1内に設けられている。回転軸5は前後方向に延びる円柱状をなしている。回転軸5は、小径部5aと、大径部5bとを有している。小径部5aは、回転軸5の前端側に位置している。大径部5bは、小径部5aよりも後方側に位置している。大径部5bは、小径部5aよりも大径に形成されている。大径部5bの後端には、平面状をなす後端面5dが形成されている。
【0046】
回転軸5は、小径部5aが第1ラジアル軸受19を介して、モータハウジング13の支持部13dに回転可能に支承されている。また、大径部5bの後端側は、軸支部材15の挿通孔15bに挿通されており、ボス15a内において、大径部5bの後端が第2ラジアル軸受27を介して軸支部材15に回転可能に支承されている。こうして、回転軸5は、ハウジング1内で回転軸心O周りに回転可能となっている。回転軸心Oは、圧縮機の前後方向と平行に延びている。回転軸5の軸方向は、回転軸心Oの方向と一致する。軸支部材15と回転軸5との間は、シール部材29によって封止されている。
【0047】
また、回転軸5では、大径部5bに偏心ピン50が固定されている。偏心ピン50は、後端面5dにおいて、回転軸心Oから偏心した位置に配置されている。偏心ピン50は、回転軸5よりも小径をなす円柱状に形成されており、後端面5dから後方に向かって延びている。偏心ピン50は、後述する背圧室52内でブッシュ50aに嵌合している。
【0048】
さらに、回転軸5において、大径部5bにはバランスウェイト33が一体に形成されている。バランスウェイト33は、大径部5bにおいて、回転軸心Oから偏心した位置に配置されている。より具体的には、バランスウェイト33は、回転軸心Oを挟んで偏心ピン50の反対側となる位置に配置されている。詳細な図示を省略するものの、バランスウェイト33は、略扇型をなす板状に形成されている。そして、バランスウェイト33は回転軸5の径方向で大径部5bから離れる方向に延びている。回転軸5の径方向は、前後方向に直交する方向である。つまり、バランスウェイト33は、大径部5bからモータハウジング13の第1周壁13b側に向かって延びている。
【0049】
図1に示すように、モータ7は、モータハウジング13内のモータ室17に収容されている。モータ7は、ステータ7aとロータ7bとを有している。ステータ7aは、第1周壁13bの内周面に固定されている。ステータ7aは、インバータハウジング16内に設けられた後述するインバータ73と接続されている。
【0050】
ステータ7aは、円筒状のステータコア77と、ステータコア77に巻回されたコイル78とを有している。コイル78は、ステータコア77の軸方向でステータコア77から前後に突出するコイルエンド74を有している。
【0051】
ロータ7bは、ステータ7a内に配置されている。ロータ7bには、回転軸5の大径部5bが圧入されている。これにより、回転軸5がロータ7bに固定されている。ロータ7bは、ステータ7a内で回転することにより、回転軸5を回転軸心O周りで回転させる。
【0052】
圧縮部室18は、圧縮部ハウジング14内において前方側に位置している。圧縮部室18内には、固定スクロール部材9と、旋回スクロール部材11とが収容されている。
【0053】
固定スクロール部材9は、圧縮部ハウジング14に固定されている。固定スクロール部材9は、固定基板9aと、外周壁9bと、固定渦巻壁9cとを有している。固定基板9aは、固定スクロール部材9の後端に位置しており、円盤状に形成されている。固定基板9aには、第2吐出凹部9dと吐出ポート9eとが形成されている。第2吐出凹部9dは、固定基板9aの後端面から前方に向かって凹む形状をなしている。第2吐出凹部9dは、固定スクロール部材9が圧縮部ハウジング14に固定されることにより、第1吐出凹部14dと対向する。こうして、第1吐出凹部14dと第2吐出凹部9dとによって、吐出室35が形成されている。吐出室35は、吐出通路14eを通じて油分離室14cと連通している。吐出ポート9eは固定基板9aを前後方向に貫通しており、吐出室35と連通している。
【0054】
また、固定基板9aには、ボルト37によって、吐出リード弁39とリテーナ40とが取り付けられている。ボルト37、吐出リード弁39及びリテーナ40は、吐出室35内に配置されている。吐出リード弁39は、弾性変形することにより、吐出ポート9eの開閉を行う。リテーナ40は、吐出リード弁39の弾性変形量を調整する。
【0055】
外周壁9bは、固定基板9aの外周で固定基板9aと接続しており、前方に向かって筒状に延びている。外周壁9bには、吸入ポート9fが形成されている。吸入ポート9fは、外周壁9bを径方向に貫通している。これにより、吸入ポート9fは、圧縮部ハウジング14内に開口している。固定渦巻壁9cは、固定基板9aの前面に立ち上げられており、外周壁9bの内側で固定基板9aと一体をなしている。
【0056】
旋回スクロール部材11は、固定スクロール部材9と軸支部材15との間に位置している。旋回スクロール部材11は、旋回基板11aと、旋回渦巻壁11bとを有している。旋回基板11aは、旋回スクロール部材11の前端に位置しており、円盤状に形成されている。旋回基板11aには、第3ラジアル軸受45を介してブッシュ50aが回転可能に支持されている。これにより、旋回スクロール部材11は、ブッシュ50a及び偏心ピン50を通じて、回転軸心Oから偏心した位置で回転軸5と接続されている。旋回渦巻壁11bは、旋回基板11aの後方側の面から固定基板9aに向かって延びている。
【0057】
固定スクロール部材9と旋回スクロール部材11とは互いに噛み合わされている。これにより、固定スクロール部材9と旋回スクロール部材11との間には、固定基板9a、固定渦巻壁9c、旋回基板11a及び旋回渦巻壁11bによって、圧縮室49が形成されている。圧縮室49は、旋回スクロール部材11が回転することにより、容積を変化させる。これにより、圧縮室49は、吸入ポート9f及び吐出ポート9eとそれぞれ連通する。
【0058】
旋回スクロール部材11と軸支部材15との間には、スラストプレート51が設けられている。スラストプレート51は金属製の薄板によって形成されており、旋回スクロール部材11及び軸支部材15とそれぞれ当接している。スラストプレート51は弾性変形時の復元力によって、旋回スクロール部材11を後方側、すなわち固定スクロール部材9側に付勢可能となっている。旋回スクロール部材11と軸支部材15との間には、背圧室52が形成されている。旋回渦巻壁11bの中心近傍には、旋回渦巻壁11bの前端に開口しつつ、旋回渦巻壁11b内を前後方向に延びて旋回基板11aまで貫通する給気孔11cが貫設されている。これにより、背圧室52は給気孔11cを介して吐出ポート9eと連通している。
【0059】
旋回スクロール部材11と、スラストプレート51及び軸支部材15とは、自転防止機構41によって連結されている。自転防止機構41は、6つのリング47と、6つの自転阻止ピン31とによって構成されている。各リング47は、旋回基板11aに固定されている。なお、図1では、6つのリング47のうちの一つと、6つの自転阻止ピン31のうちの一つを図示している。
【0060】
各自転阻止ピン31は、それぞれスラストプレート51を貫通しつつ軸支部材15に固定されている。そして、各自転阻止ピン31をそれぞれリング47に進入させることにより、各リング47と各自転阻止ピン31とが連結されている。こうして、自転防止機構41では、各自転阻止ピン31が各リング47の内周面を摺動しつつ転動することにより、旋回スクロール部材11の自転を規制し、公転のみを許容している。
【0061】
図3に示すように、軸支部材15に4個の吸入通路55a、55b、55c、55dが設けられている。吸入通路55a、55b、55c、55dは、軸支部材15を前後方向に貫通している。4個の吸入通路55a、55b、55c、55dのうちの吸入通路55aは圧縮部室18における上部に開口しており、残りの吸入通路55b、55c、55dは圧縮部室18における下方域に開口している。なお、図1では、4個の吸入通路55a、55b、55c、55dのうち圧縮部室18における上部に開口した吸入通路55aを図示している。図1に示すように、吸入通路55aは、回転軸5の径方向において、回転軸5及び自転防止機構41の外側に配置されている。吸入通路55a、55b、55c、55dは、固定スクロール部材9の外周壁9bと圧縮部ハウジング14との間の空間と、モータ室17とを連通させている。これにより、吸入通路55a、55b、55c、55dは、モータ室17からの冷媒ガスを、固定スクロール部材9の外周壁9bと圧縮部ハウジング14との間の空間に流入させ、ひいては吸入ポート9fに流入させる。
【0062】
ここに、この圧縮機では、図2に示すように、モータハウジング13は、第1周壁13bから一部が径方向の外方に膨出する第2膨出部130を有している。第2膨出部130内には膨張空間60が形成されている。膨張空間60は、モータ室17の一部を構成している。すなわち、モータ室17は、図1に示すように、回転軸5の軸方向視において、モータハウジング13の開口側に、回転軸5の径方向に対して吸入通路55aよりも外方に膨出する膨張空間60を有している。
【0063】
そして、膨張空間60内には、後述する引出線76とともにコイルエンド74よりも径方向の外方に引き出された絶縁性の端子箱61が収容されている。膨張空間60内において、端子箱61の外面とモータハウジング13の内面との間には空隙60aが設けられている。詳しくは、端子箱61の後述する前壁部61a、後壁部61b、左壁部61c、右壁部61d、上壁部61e及び下壁部61fとモータハウジング13の内面との間に空隙60aが設けられている。
【0064】
モータハウジング13の右側端面13eにおける第2膨出部130の部分には、左方、すなわち膨張空間60に向かって凹む凹部13fが形成されている。なお、この凹部13f内は、後述するインバータ室72の一部を構成している。凹部13f内には、気密端子70が配置されている。気密端子70は、後述するインバータ73に電気的に接続された3個の導電ピン71を有している。気密端子70は、後述する右側壁13gに形成された3個の貫通孔13hに各導電ピン71を挿通させつつ、モータ室17を気密に維持可能に構成されている。これにより、導電ピン71は、貫通孔13hに対して保持される。
【0065】
モータハウジング13の右方には、インバータハウジング16が設けられている。インバータハウジング16は、左方が開口する有底の筒状をなしている。インバータハウジング16の開口端は、モータハウジング13の右側端面13eに図示しないボルトにより締結されている。これにより、インバータハウジング16とモータハウジング13の右側端面13eとにより、インバータ室72が形成されている。そして、モータハウジング13の右側壁13gによってインバータ室72と、モータ室17とが区画されている。右側壁13gは、モータ室17とインバータ室72とを左右方向で区画している。インバータ室72内には、モータ7を駆動するインバータ73が収容されている。右側壁13gには、右側壁13gを左右方向に貫通する貫通孔13hが形成されている。こうして、モータハウジング13は、内周面側にモータ7を収容し、外周面側にインバータ73を搭載する。インバータ73は、モータ7を駆動するインバータ回路及びインバータ回路を制御する制御回路を有する。インバータ回路は基板、基板に実装される電子部品、スイッチング素子等によって構成される。制御回路は、基板、基板に実装される電子部品、スイッチング素子等によって構成される。
【0066】
図4に示すように、端子箱61は、上下方向に長い直方体形状をなしている。端子箱61は、前壁部61a、後壁部61b、左壁部61c、右壁部61d、上壁部61e及び下壁部61fを有している。なお、図4における前後方向、上下方向及び左右方向を示す各矢印の向きは、端子箱61が膨張空間60内に配置されている姿勢を想定している。また、図4(b)は、図1に示される端子箱61を図1の後方から見た端子箱61の正面図である。
【0067】
端子箱61の右壁部61dには、モータ7の相数分である3個のピン挿入孔62が前後方向に並んで形成されている。端子箱61の下壁部61fには、3個の引出線挿入孔63が形成されている(図5参照)。なお、図5においては、3個の引出線挿入孔63のうちの一つを図示している。引出線挿入孔63の数は引出線76を挿入できれば何個でもよい。
【0068】
端子箱61の左壁部61cには、断面矩形状の位置決め突起64が設けられている。位置決め突起64の後端64aは、断面略半円形状の曲面とされている。位置決め突起64は、端子箱61の前後方向の長さ全体に棒状に延びている。
【0069】
端子箱61の左壁部61cにおける位置決め突起64よりも上方の領域(図4(c)に二点鎖線で示す領域R)が被支持部65を構成している。被支持部65は、図8に示すように、導電ピン71がピン挿入孔62に挿入される挿入方向Fから見て、後述するピン接続部75bと重なる位置に設けられている。すなわち、導電ピン71の挿入方向Fに対して、端子箱61における接続端子75のピン接続部75bを間に挟んでピン挿入孔62とは反対側の面が被支持部65とされている。また、位置決め突起64は、導電ピン71の挿入方向Fから見て、後述するピン接続部75bから離れた位置に設けられている。すなわち、位置決め突起64は、上下方向において被支持部65とは異なる位置に設けられている。
【0070】
図5に示すように、端子箱61内には、モータ7の相数分である3個の接続端子75が収容されている。3個の接続端子75は、それぞれU相、V相、W相のコイル78に接続されている。なお、図5においては、3個の接続端子75のうちの1個だけを図示している。各接続端子75は、引出線接続部75aと、ピン接続部75bとを有している。
【0071】
各引出線接続部75aは、コイルエンド74から延びる3本の引出線76がそれぞれ電気的に接続されている。3本の引出線76は、それぞれU相、V相、W相のコイル78がステータコア77に巻回された部分から引き出された引き出し線である。各ピン接続部75bには、接続孔75cが形成されている。端子箱61のピン挿入孔62から挿入された導電ピン71が接続孔75c内に嵌入することにより、ピン接続部75bに導電ピン71が電気的に接続されている。
【0072】
ここで、この圧縮機を組み立てる際に用いる治具80について説明する。図6に示すように、治具80は、直方体形状の基部81と、基部81の一面から突出する第1脚部82、第2脚部83とを有している。第1脚部82は第2脚部83よりも幅が広い。第1脚部82は、矩形状の荷重支持部82aを有している。荷重支持部82aは、端子箱61の被支持部65の大きさに対応する大きさで形成されている。具体的には、荷重支持部82aは、被支持部65の全体に面当たりで当接する大きさとされている。こうして、治具80の荷重支持部82aは、導電ピン71とピン接続部75bとの接続時に端子箱61に作用する荷重を支持する。
【0073】
第1脚部82と第2脚部83との間には、所定幅の隙間により溝部84が形成されている。溝部84の大きさは、端子箱61の位置決め突起64の大きさとほぼ同等の大きさとされている。また、治具80の溝部84は、端子箱61の位置決め突起64と係合することで、貫通孔13h、ピン挿入孔62及び接続孔75cが同一直線上に位置するように、端子箱61を位置決めする。
【0074】
溝部84における位置決め突起64の受け入れ開口は、開口端に近づくほど幅が広くなっている。これにより、位置決め突起64の後端64aが曲面とされていることと相まって、溝部84内への位置決め突起64の挿入が容易化されている。
【0075】
この圧縮機では、インバータ73によって制御されつつ、モータ7が作動する。すなわち、外部のバッテリ等からインバータ73に給電され、インバータ73から導電ピン71、接続端子75及び引出線76を介してコイル78に給電されることにより、回転軸5が回転軸心O周りで回転する。これにより、旋回スクロール部材11が回転し、旋回基板11aが固定渦巻壁9cの先端を摺動するとともに、固定渦巻壁9cと旋回渦巻壁11bとが互いに摺動する。この際、自転防止機構41により、旋回スクロール部材11は自転が規制され、公転のみを行う。このように、旋回スクロール部材11が回転することにより、吸入室を兼ねるモータ室17内の冷媒ガスが吸入通路55a~55dを経て吸入ポート9fに流通し、吸入ポート9fから圧縮室49内に吸入される。そして、圧縮室49は、旋回スクロール部材11の回転によって容積を減少させつつ、内部の冷媒ガスを圧縮する。
【0076】
こうして圧縮室49で圧縮された高圧の冷媒ガスは、吐出ポート9eから吐出室35に吐出され、さらに、吐出室35から、吐出通路14eを経て油分離室14cに至る。そして、この高圧の冷媒ガスは、分離筒21の外周面21aと油分離室14cの内周面140との間を周回する過程で潤滑油を分離しつつ、分離筒21の内部を流通して吐出開口14fから吐出され、凝縮器へ排出される。
【0077】
ここで、この圧縮機は、治具80を用いて以下のように組み立てられる。まず、モータハウジング13の外で、ステータ7aに対して端子箱61を取り付ける。すなわち、ステータ7aのコイルエンド74から引き出された各引出線76を端子箱61内に収容された各接続端子75の引出線接続部75aに接続する。そして、図7に示すように、ステータ7aをモータ室17に配置するとともに、ステータ7aから引き出された引出線76が引出線接続部75aに接続された端子箱61を膨張空間60に配置する(配置工程)。
【0078】
そして、図8に示すように、溝部84と荷重支持部82aとを有する治具80により、端子箱61を膨張空間60内の所定位置で保持する(保持工程)。この際、モータハウジング13の開口から膨張空間60内に治具80を挿入し、端子箱61の位置決め突起64に治具80の溝部84を凹凸係合させることにより、膨張空間60において端子箱61を所定位置に確実に保持することができる。これにより、導電ピン71の挿入方向Fに対して、貫通孔13hの位置と、ピン挿入孔62の位置と、接続孔75cの位置とが重なるように、端子箱61が治具80により保持される。
【0079】
その後、インバータ室72側から導電ピン71をモータハウジング13の右側壁13gの貫通孔13h、端子箱61のピン挿入孔62及び接続端子75の接続孔75cに挿入することで、端子箱61内で導電ピン71を接続端子75のピン接続部75bに接続する(接続工程)。この際、被支持部65は、図8に示すように、導電ピン71の挿入方向Fから見て、ピン接続部75bと重なる位置に設けられている。すなわち、端子箱61の左壁部61cにおけるピン接続部75bに対応する位置で、端子箱61の被支持部65と治具80の荷重支持部82aとが面当たりで当接している。このため、端子箱61の姿勢が正確に維持され、端子箱61が接続荷重によって傾いたりするようなことがない。このため、導電ピン71をピン挿入孔62に正確に挿入することができるとともに、導電ピン71をピン接続部75bに良好に接続することができる。その結果、端子箱61の破損や導電ピン71の接続不良を抑えることができる。
【0080】
また、この接続工程においては、端子箱61内で導電ピン71を接続端子75のピン接続部75bに接続するのと同時に、気密端子70を凹部13fにおいて右側壁13gに固定する。これにより、貫通孔13hに対して導電ピン71が固定、保持される。
【0081】
この圧縮機では、コイルエンド74から引き出された引出線76が、端子箱61内に収容された接続端子75に接続されている。また、モータハウジング13の貫通孔13hに対して保持された導電ピン71が、端子箱内61に収容された接続端子75に接続されている。これにより、端子箱61がモータハウジング13に対して保持されている。このため、ステータコア77に対して端子箱61を固定するための部材が不要となる。その結果、端子箱61を加工する必要がなく、端子箱61の構成の複雑化を抑制できる。
【0082】
また、端子箱61は引出線76を介してステータコア77に組付けられているだけで、ステータコア77に対して固定されていない。そして、配置工程において、ステータコア77をモータハウジング13の開口から挿入設置した後に、保持工程において、膨張空間60内で端子箱61の位置を治具80で微調整することができる。このため、配置工程において、ステータコア77を挿入設置する際に、膨張空間60内における端子箱61の位置を調整する必要がない。その結果、モータハウジング13の開口からステータコア77を容易に挿入設置することができる。
【0083】
さらに、接続工程において、治具80で端子箱61を保持しつつ、導電ピン71を接続端子75に接続するので、この接続時の荷重を治具80で受けることができる。また、端子箱61の位置は治具80によって微調整されている。このため、端子箱61内で接続端子75に対して導電ピン71を容易に接続することができる。
【0084】
したがって、この圧縮機及びその組立方法によれば、端子箱61の構成の複雑化を抑制しつつ、モータ7の組付け作業を容易にできる。
【0085】
特に、この圧縮機では、膨張空間60を含むモータ室17の全体が軸支部材15によって閉塞されている。このため、膨張空間60を閉塞する専用の部品が不要なので、部品点数の増加を抑制できる。
【0086】
また、この圧縮機では、膨張空間60に収容された端子箱61の外面全体とモータハウジング13の内面との間には空隙60aが設けられている。このため、空隙60aによって端子箱61の位置の微調整が容易になる。
【0087】
さらに、貫通孔13hからピン挿入孔62に挿入される導電ピン71の挿入方向Fは、図8に示すように、圧縮機の左右方向である。これに対して、保持工程において、治具80は、モータハウジング13の開口から膨張空間60内に挿入される。すなわち、治具80は、圧縮機の後方から前方に向かうように、膨張空間60内に挿入される。このため、導電ピン71の挿入方向Fと、治具80の挿入方向とは交差している。このため、モータハウジング13の開口から挿入された治具80によって、端子箱61における接続端子75を間に挟んでピン挿入孔62とは反対側の面を保持することで、導電ピン71を接続端子75に接続する時の荷重を治具80で確実に受けることができる。
【0088】
また、端子箱61の外面には、治具80を位置決めする位置決め突起64が設けられるとともに、治具80には、位置決め突起64に嵌合される溝部84が設けられている。このため、端子箱61の位置決め突起64と治具80の溝部84との嵌合により、端子箱61に対して治具80を確実に位置決めすることができるので、導電ピン71を接続端子75に接続する時の荷重を治具80で確実に受けることができる。
【0089】
さらに、膨張空間60に収容された端子箱61が、回転軸5の径方向において軸支部材15に設けられた吸入通路55aよりも外方に配置されている。このため、吸入通路55aを流れる冷媒ガスにより端子箱61や引出線76を冷却することができる。
【0090】
また、端子箱61が、ステータ7aから径方向に離れた位置に配置されているので、ステータ7aから端子箱61への熱の影響を抑えることができる。
【0091】
さらに、モータハウジング13は第2膨出部130が一体に設けられることで、モータハウジング13全体の剛性が上がっている。このため、モータハウジング13におけるインバータ73の搭載部分が圧縮機の作動時の振動に伴って変形することを抑えることができる。
【0092】
また、治具80を用いているので、モータハウジング13の膨張空間60を区画する内壁面に端子箱保持用の保持部を形成する場合と比較して安価となる。
【0093】
さらに、位置決め突起64が、導電ピン71の挿入方向Fから見て、ピン接続部75bから上下方向に離れた位置に設けられており、被支持部65とは異なる位置に設けられている。このため、治具80の溝部84と端子箱61の位置決め突起64とが凹凸係合により係合するとき、端子箱61の左壁部61cに形成される位置決め突起64に、接続荷重が作用することを抑えることができる。このため、位置決め突起64に応力が集中することによる端子箱61の破損を抑えることができる。
【0094】
以上において、本発明を実施例に即して説明したが、本発明は上記実施例に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0095】
例えば、実施例の圧縮機では、膨張空間60を含むモータ室17の全体を軸支部材15によって閉塞しているが、本発明はこれに限らない。例えば、膨張空間60以外のモータ室17を軸支部材15によって閉塞するとともに、膨張空間60を別部材で閉塞してもよい。
【0096】
導電ピン71の挿入方向Fから見て、位置決め突起64がピン接続部75bから上下方向に離れた位置に設けられており、位置決め突起64が被支持部65とは異なる位置に設けられているが、本発明はこれに限られない。例えば、導電ピン71の挿入方向Fから見て、ピン接続部75bと重なる位置に位置決め突起64を設けて、位置決め突起64の先端面を被支持部としてもよい。
【0097】
例えば、実施例の圧縮機において、治具80に溝部を設けるとともに、端子箱61に位置決め突起を設けているが、本発明はこれに限られない。例えば、治具80に位置決め突起と設けるとともに、端子箱61に個の位置決め突起と嵌合する溝部を設けてもよい。
【0098】
また、実施例の圧縮機において、背圧室52の背圧で旋回スクロール部材11を前後方向に適切に押圧するバルブを設ければ、スラストプレート51を省略しても良い。
【0099】
また、実施例の圧縮機では、6つのリング47と6つの自転阻止ピン31とによって自転防止機構41を構成しているが、これに限らず、自転防止機構41を他の構成としても良い。
【0100】
また、実施例の圧縮機では、流体としての冷媒ガスを圧縮室49で圧縮しているが、これに限らず、燃料電池に供給する空気等の流体を圧縮室49で圧縮しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は車両等の空調装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0102】
1…ハウジング
5…回転軸
7…モータ
7b…ロータ
9…固定スクロール部材(圧縮部)
9b…外周壁
9c…固定渦巻壁
11…旋回スクロール部材(圧縮部)
13…モータハウジング
13h…貫通孔
13j…第1端面
14…圧縮部ハウジング
14g…第2端面
15…軸支部材
15b…挿通孔
17…モータ室
18…圧縮部室
55a、55b、55c、55d…吸入通路
60…膨張空間
60a…空隙
61…端子箱
62…ピン挿入孔
64…位置決め突起
71…導電ピン
73…インバータ
74…コイルエンド
75…接続端子
76…引出線
77…ステータコア
78…コイル
80…治具
84…溝部
F…挿入方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8