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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140146
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両用電池制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20241003BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20241003BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241003BHJP
   B60L 58/16 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
H02J7/00 P
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L58/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051153
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淀 紳悟
【テーマコード(参考)】
5G503
5H030
5H125
【Fターム(参考)】
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA10
5G503DA04
5G503EA08
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA10
5H030AS08
5H030FF22
5H030FF41
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
5H030FF52
5H125AA01
5H125AC12
5H125BC06
5H125EE29
5H125EE51
5H125EE61
(57)【要約】
【課題】車両の乗り換えが行われる場合でも、迅速に適切な最大入出力を行うことができる車両用電池制御システムを提供する。
【解決手段】車両用電池制御システムは、第1の車両12Aに搭載可能な第1の電池10Aの入出力を制御する第1の制御部22Aaと、第1の電池10Aの劣化の要因となり得る第1の電池10Aの利用状態を示す利用傾向情報を継続的に取得する第1の取得部22Abと、継続的に取得される利用傾向情報を第1の記憶部22Afに蓄積する第1の蓄積処理部22Acと、蓄積された利用傾向情報に基づいて第1の制御部22Aaにおける第1の電池10Aの入出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制限する第1の制限部22Adと、蓄積した利用傾向情報を第1の車両12Aとは異なる第2の車両12Bの第2の電池10Bの入出力を電池劣化抑制範囲に制限する第2の制限部22Bdに移行させる第1の移行部22Aeと、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の車両に搭載可能な第1の電池の入出力を制御する第1の制御部と、
前記第1の電池の劣化の要因となり得る前記第1の電池の利用状態を示す利用傾向情報を継続的に取得する第1の取得部と、
継続的に取得される前記利用傾向情報を第1の記憶部に蓄積する第1の蓄積処理部と、
蓄積された前記利用傾向情報に基づいて前記第1の制御部における前記第1の電池の入出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制限する第1の制限部と、
前記蓄積した前記利用傾向情報を前記第1の車両とは異なる第2の車両の第2の電池の入出力を電池劣化抑制範囲に制限する第2の制限部に移行させる第1の移行部と、
を含む、車両用電池制御システム。
【請求項2】
前記第2の制限部は、前記第1の車両から移行した前記利用傾向情報に基づいて、前記第2の車両の前記第2の電池の入出力を前記電池劣化抑制範囲に制限する、請求項1に記載の車両用電池制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電池制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電気自動車に搭載されている電池は、BMS(Battery Management System)によって、電池を安全かつ劣化させないようにするため、入出力制限を行っている場合がある。電池は、過剰な負荷をかけた状態の使用(例えば、過剰な入出力を伴う使用や過酷な環境での使用等)により、劣化が促進されて、十分な出力が確保できなくなってしまう場合がある。そのため、BMSを搭載する電池の制御システムでは、例えば、電池の劣化度合が予め定められた度合よりも大きいか否かを判別し、電池の劣化度合が予め定められた度合よりも大きい場合、電池の充放電電力の制限を強化している。また、電池の劣化度合が予め定められた度合よりも小さい場合、電池の充放電電力の制限を緩和している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-124353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、BMSを用いた電池制御(電池管理)を行おうとする場合、電池を所定期間使用した後(例えば数年後)に所定の劣化状態に収まるようにするために、電池の使用開始時に目標とする劣化度合(数年後の劣化程度)として、最も安全な状態(入出力の値を小さくして劣化の進行を極力小さくする状態)に設定することが考えられる。そして、このような初期設定に対して、ユーザ(運転者)の車両の乗り方(平均車速、平均アクセル開度、平均外気温、平均電池表面温度等)と利用期間の経過に応じて、劣化度合の設定(制限)の調整を行い、適切な最大入出力が得られるようにする場合がある。しかしながら、このように利用期間に対応した調整を行うシステムの場合、車両を新車に乗り換えた場合、新車の電池のBMSは、再度、最も安全な状態から設定を行うことになり、適切な最大入出力が得られるようになるまでに長い調整期間が必要になってしまうという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、車両の乗り換えが行われる場合でも、迅速かつ適切に乗り換え後の車両の電池が利用できる車両用電池制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明に係る車両用電池制御システムは、例えば、第1の車両に搭載可能な第1の電池の入出力を制御する第1の制御部と、前記第1の電池の劣化の要因となり得る前記第1の電池の利用状態を示す利用傾向情報を継続的に取得する第1の取得部と、継続的に取得される前記利用傾向情報を第1の記憶部に蓄積する第1の蓄積処理部と、蓄積された前記利用傾向情報に基づいて前記第1の制御部における前記第1の電池の入出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制限する第1の制限部と、前記蓄積した前記利用傾向情報を前記第1の車両とは異なる第2の車両の第2の電池の入出力を前記電池劣化抑制範囲に制限する第2の制限部に移行させる第1の移行部と、を含む。
【0007】
この構成によれば、例えば、第1の車両で蓄積した利用傾向情報を第2の車両の第2の制限部に移行することで、第2の車両において、第1の車両を利用していたときのユーザの利用傾向を反映させることが可能になり、迅速かつ適切に第2の車両の第2の電池を利用できる。
【0008】
また、本発明に係る車両用電池制御システムの前記第2の制限部は、例えば、前記第1の車両から移行した前記利用傾向情報に基づいて、前記第2の車両の前記第2の電池の入出力を前記電池劣化抑制範囲に制限するようにしてもよい。
【0009】
この構成によれば、例えば、第2の車両の第2の電池においても、迅速に適切な最大入出力を実現することができる。
【0010】
また、本発明に係る車両用電池制御システムの前記第1の制限部は、例えば、前記利用傾向情報に基づく前記第1の電池の利用状態が、前記第1の電池に設定された標準利用状態より高負荷の場合、前記第1の電池の入出力を前記標準利用状態より低下させ、前記標準利用状態より低負荷の場合、前記第1の電池の入出力を前記標準利用状態より増加させるよいにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、例えば、第1の車両においてユーザの利用傾向を反映させた第1の電池の適切な最大入出力制御が実現できる。
【0012】
また、本発明に係る車両用電池制御システムの前記第2の制限部は、例えば、前記利用傾向情報に基づく前記第2の電池の利用状態が、前記第2の電池に設定された標準利用状態より高負荷の場合、前記第2の電池の入出力を前記標準利用状態より低下させ、前記標準利用状態より低負荷の場合、前記第2の電池の入出力を前記標準利用状態より増加させるようにしてもよい。
【0013】
この構成によれば、例えば、第2の車両においてユーザの利用傾向を反映させた第2の電池の適切な最大入出力制御が迅速に実現できる。
【0014】
また、本発明に係る車両用電池制御システムの前記第2の制限部は、例えば、前記第1の車両の性能と前記第2の車両の性能との差異に応じて、前記利用傾向情報を補正するよいにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、例えば、第1の車両の性能と第2の車両の性能とが異なる場合でも、ユーザの利用傾向情報を適切に反映して、第2の電池の適切な最大入出力制御が実現できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の乗り換えが行われる場合でも、迅速かつ適切に乗り換え後の車両の電池が利用できる車両用電池制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態に係る車両用電池制御システムを搭載する車両の構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。
図2図2は、実施形態に係る車両用電池制御システムの電池ECUの構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。
図3図3は、実施形態に係る車両用電池制御システムとして機能する電池において、劣化していない状態のSOCと電池温度と出力との関係を示す例示的な出力マップを示す図である。
図4図4は、実施形態に係る車両用電池制御システムにおける利用傾向情報と補正係数との関係を示す例示的かつ模式的な関係図である。
図5図5は、実施形態に係る車両用電池制御システムとして機能する電池において、補正係数を適用した所定使用期間後におけるSOCと電池温度と出力との関係を示す例示的な出力マップを示す図である。
図6図6は、実施形態に係る車両用電池制御システムを適用した車両の乗り換え前後の入出力値の変化を示す例示的な説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0019】
図1を用いて、本発明の実施形態の車両用電池制御システムの構成を説明する。図1は、車両用電池制御システムとして機能する電池10を搭載する車両12の構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。なお、図1に示す車両12は、例えば、電気自動車である。そして、図1に示す車両12は、電池10(車両用電池制御システム)の説明に必要な構成のみを示し、他の構成は図示およびその説明を省略している。
【0020】
車両12は、駆動モータ14と、インバータ16と、電池10(車両用電池制御システム)と、車両12の全体の制御を行う車両ECU(Electronic Control Unit)18等で構成されている。車両ECU18は、電池10およびインバータ16に接続されて駆動モータ14の制御を行うとともに、車両12において図示を省略した各機器の制御や各種センサの検出情報を取得して、車両12の制御に反映させる。なお、本実施形態において、ユーザが従来利用していた車両12(旧車)を第1の車両12Aと称し、他の車両、例えば乗り換えた車両12(新車)を第2の車両12Bと称する場合がある。また、第1の車両12Aに搭載された電池10を第1の電池10Aと称し、第2の車両12Bに搭載された電池10を第2の電池10Bと称する。なお、説明上特に区別する必要がない場合には、単に、電池10や車両12と称する。
【0021】
駆動モータ14は、例えば、三相交流モータであり、電池10に蓄えられた電力により駆動する。すなわち、電池10から出力される直流電力は、図示を省略したコンバータにより昇圧されて、この昇圧された直流電力がインバータ16で交流電力に変換されて、交流電力が駆動モータ14に供給される。これにより、駆動モータ14が力行運転される。駆動モータ14の駆動力は、図示を省略した減速機を介して車輪に伝えられて、車両12が走行する。また、車両12が減速する場合等、車輪によって駆動モータ14が回転させられる場合、つまり回生運転を行う場合は、駆動モータ14は発電機として機能して、発電した電力を駆動時とは逆の変換を行い、電池10に充電する。また、電池10は外部電源との接続により充電することができる。なお、本実施形態では、車両12を電気自動車として説明するが、車両12は、駆動源として内燃機関と駆動モータ14との両方を利用したり、選択的に利用して走行したりするハイブリッド車両であってもよい。
【0022】
電池10は、電池セル20と電池ECU22(BMS)と、で構成されている。電池10は、車両12ごとに搭載される。例えば、第1の車両12Aには第1の電池10Aが搭載され、第2の車両12Bには第2の電池10Bが搭載される。
【0023】
電池10は、例えば、リチウムイオン電池であり、複数の電池セル20(単電池)が、内部で直列接続された組電池である。また、電池ECU22は、電池セル20ごとの電圧差を解消しバランスを整える機能を有する。例えば、各電池セル20の電圧、電流、温度(電池温度)を測定して、規定の範囲を超えた場合、出力端子を切り離し、過充電、過放電、過電流等から保護する。電池ECU22の詳細は後述する。
【0024】
車両ECU18は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、カウンタ等を含む。車両ECU18は、車両12の運転状態や、アクセル開度、アクセル開度の変化率、シフトポジション等の車両側情報を取得して車両12の走行制御を実行する。また、車両ECU18は、アクセル開度、車速、外気温度等の車両側情報を電池10(車両用電池制御システム)の電池ECU22に提供する。電池ECU22では、車両ECU18から取得した車両側情報と、各電池セル10b(単電池)の電圧値、電流値、温度等の電池側情報と、に基づいて、電池入出力制限情報を作成して車両ECU18に戻す。車両ECU18では、電池入出力制限情報と、取得している車両情報と、メモリ等に保存されたマップおよびプログラム等に基づいて演算処理を行ない、トルク指令値を生成する。車両ECU18は、トルク指令値をインバータ16に提供することで、電池10の状態を考慮して電池劣化を抑制しつつ、ユーザ(運転者)が所望する運転状態となるように駆動モータ14の制御を行い、車両12を走行させる。
【0025】
図2は、車両用電池制御システムとして機能する電池10の電池ECU22の構成を示す例示的かつ模式的なブロック図である。なお、図2において、第1の車両12Aに搭載される第1の電池10Aの第1の電池ECU22Aと、第2の車両12Bに搭載される第2の電池10Bの第2の電池ECU22Bとが相互に情報の移行を可能にしている態様を示すために、第1の電池ECU22Aと第2の電池ECU22Bとを記載している。なお、第1の電池ECU22Aと第2の電池ECU22Bは実質的に同じ構成である。上述したように電池ECU22を第1の電池ECU22Aと第2の電池ECU22Bとで区別する必要がない場合には、電池ECU22と表記する。
【0026】
電池ECU22は、例えば、CPU(Central Processing unit)などといった演算装置とROM(Read Only Memory)等の記憶部を備え、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで、以下に示す各種の詳細モジュールを実現する。
【0027】
電池ECU22は、詳細モジュールとして、例えば、制御部22a、取得部22b、蓄積処理部22c、制限部22d、移行部22e等を実現する。なお、電池ECU22は、蓄積処理部22cが情報を蓄積するための記憶部22fを備える。記憶部22fは、例えば、SSD(Solid State Drive)等の周知の記憶デバイスで構成することができる。なお、上述したように電池ECU22を第1の電池ECU22Aと第2の電池ECU22Bとで区別する必要がない場合には、電池ECU22と表記し、電池ECU22に含まれる構成も制御部22a、取得部22b、蓄積処理部22c、制限部22d、移行部22e、記憶部22fと表記する。一方、電池ECU22を第1の電池ECU22Aと第2の電池ECU22Bとで区別する必要がある場合には、第1の電池ECU22Aに含まれる構成を、第1の制御部22Aa、第1の取得部22Ab、第1の蓄積処理部22Ac、第1の制限部22Ad、第1の移行部22Ae、第1の記憶部22Afと表記する。また、第2の電池ECU22Bに含まれる構成を、第2の制御部22Ba、第2の取得部22Bb、第2の蓄積処理部22Bc、第2の制限部22Bd、第2の移行部22Be、第2の記憶部22Bfと表記する。
【0028】
制御部22aは、車両12に搭載可能な電池10の入出力を制御する。例えば、車両ECU18から提供される車両情報等としてのアクセル開度、車速、外気温度や各電池セル20から検出可能な各電池セル20の駆動情報としての電圧値、電流値、セル温度等に基づき、電池10として可能な入出力値を決定する制御を行う。なお、制御部22aは、このとき、制限部22dが決定した制限情報(補正値)を反映させて入出力値の決定を行う。
【0029】
取得部22bは、電池10の劣化の要因となり得る電池10の利用状態を示す利用傾向情報を継続的に取得する。ここで、電池10の利用状態を示す利用傾向情報とは、上述した制御部22aで制御に利用する情報であり、例えば、車両ECU18から提供される車両情報等としてのアクセル開度、車速、外気温度や各電池セル20から検出可能な各電池セル20の駆動情報としての電圧値、電流値、温度(電池温度)等に基づく情報である。より具体的には、利用傾向情報とは、例えば、平均車速、平均車両加速度、平均アクセル開度、平均アクセル開度偏差、平均外気温度、平均電池温度、平均使用SOC(State Of Charge)範囲、急速充電使用頻度等の情報である。
【0030】
平均車速は、車両ECU18から得られる車両情報に含まれる車速の所定期間(例えば、車両電源のON~OFFまでの期間)における平均値である。なお、所定期間は、時間単位でもよいし、走行距離単位等でもよい。平均車両加速度は、所定期間の車速の変化に基づき算出され得る。この場合も、所定期間は、時間単位でもよいし、走行距離単位等でもよい。平均アクセル開度は、車両ECU18から得られる車両情報の含まれるアクセル開度の所定期間における平均値である。平均アクセル開度偏差は、平均アクセル開度との差を算出し、その差の平均をとることで算出できる。平均外気温度は、車両ECU18から得られる車両情報の含まれる外気温度の所定期間における平均値である。平均電池温度は、各電池セル20の駆動情報として得られる電池温度の所定期間における平均値である。平均使用SOC範囲は、電池10の使用時のSOCの変動範囲(電池容量の変動範囲)である。SOCは、電池10の満充電状態を100%、完全放電状態を0%とした場合の電池容量を示す。電池容量と電圧には相関性があるので、各電池セルの電圧の計測結果から電池容量(SOC)を推定することが可能で、平均使用SOC範囲を得ることができる。急速充電使用頻度は、充電ステーション等における電池10の充電頻度であり、車両12から車両情報として得られる情報である。
【0031】
上述したように、使用傾向情報である、平均車速、平均車両加速度、平均アクセル開度、平均アクセル開度偏差、平均外気温度、平均電池温度、平均使用SOC範囲、急速充電使用頻度等は、車両12の利用の仕方によって変化する値であり、電池10の劣化状態に影響を与える値である。つまり、車両12のユーザが車両12を利用したことより得られる電池10の劣化要因となる情報である。使用傾向情報は、ユーザの運転時の癖、例えば、速度感覚や加減速感覚、制動感覚、車両12が使用されている地域(寒冷地や高温地)等のユーザと紐づく固有情報を表す値ともいえる。これらの値は、車両12の利用期間が長くなればなるほど利用傾向情報としての精度を向上させ、制御部22aが入出力値の制御を行う際に、車両12の使われかた(運転の仕方、走行パターン等)に適した制御を行うことを可能にする。
【0032】
蓄積処理部22cは、継続的に取得される上述したような利用傾向情報を記憶部22fに順次蓄積する。なお、利用傾向情報は長期間(例えば年単位)で取得される情報であるため、利用傾向情報は、逐次更新を行い最新の情報のみを記憶するようにしてもよいし、所定期間(例えば直近の数カ月)を記憶するようにしてもよい。また、記憶期間を指定できるようにしてもよい。記憶部22fは、書き換え可能な不揮発性の記憶装置であり、例えば、SSD等の媒体が利用できる。
【0033】
制限部22dは、記憶部22fに蓄積された利用傾向情報に基づいて制御部22aにおける電池10の入出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制限する。電池劣化抑制範囲は、電池10が入出力を繰り返しても安全にかつ劣化の程度を最小限に抑えることができる入出力の制限範囲である。つまり、過剰な入出力が行われて電池10の劣化が促進されるようなことがない範囲で入出力を制限する。例えば、制限部22dは、利用傾向情報に基づく電池10の利用状態が、電池10に設定された標準利用状態より高負荷の場合、電池10の入出力を標準利用状態より低下させ、標準利用状態より低負荷の場合、電池10の入出力を標準利用状態より増加させる。その結果、電池10の入出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制御する。
【0034】
例えば、図3は、劣化していない状態(新品)の電池10のSOC(充電状態)と電池温度と出力との関係を示す例示的な出力マップを示す図である。電池10は、充電状態と周囲温度(電池温度)によって、出力可能な電力(W)が変化する。例えば、電池10の温度が25℃で充電状態が80%の場合、850Wの出力を実現することができる。また、例えば、電池10の温度が-25℃で充電状態が20%の場合、120Wの出力を実現することができる。
【0035】
一方、前述したように、電池10は、使われ方によって劣化の程度が変化する。つまり、電池10に過剰な負荷がかかるような使い方をした場合、劣化が促進されてしまう。そこで、車両12の使われ方によって補正係数を算出し、図3に示す出力マップを補正することによって、出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制限する。なお、電池10に対する入力、すなわち充電の際も過剰な負荷は電池10の劣化を招く。したがって、入力の際も制限部22dは、電池劣化抑制範囲に収まるように制限を行う。
【0036】
図4は、電池10における利用傾向情報と補正係数との関係を示す例示的かつ模式的な関係図である。図4は、例えば、車両12の平均速度に関する補正係数K1を例示的かつ模式的に示している。例えば、車両12の開発時に想定した車両12の平均車速(標準利用状態)をV1とした場合、図3に示す出力マップを補正する補正係数K11を例えば1.0とする。この場合、車両12は、理想的な状態で走行するので電池10にかかる負荷が抑制され、所定期間後の電池10の劣化を予め定めた最小の劣化状態にすることができる。一方、実際に車両12がユーザによって利用された場合の平均車速がV2(V1<V2)であった場合、車両12は、想定より高負荷で運転されていることになる。つまり、平均速度V2で車両12の走行を継続した場合、電池10の劣化が想定より早くなると推定される。したがって、この場合、補正係数K12を、理想時の補正係数K11より小さい値とする。すなわち、図3に示す出力マップは、図5に示す補正係数適用後の出力マップの様に全体的な出力が抑えられて軽負荷の状態となる。例えば、電池10の温度が25℃で充電状態が80%の場合、680Wの出力となるように制限される。また、電池10の温度が-25℃で充電状態が20%の場合、96Wの出力となるように制限される。
【0037】
なお、実際に車両12がユーザによって利用された場合の平均車速がV2(V1>V2)であった場合、車両12は、想定より低負荷で運転されていることになる。つまり、平均速度V2で車両12の走行を継続した場合、電池10は、劣化しにくくなる半面、能力を出し切れていない状態で運用されることになる。したがって、この場合、補正係数K12を、理想時の補正係数K11より大きい値とする。すなわち、図3に示す出力マップは、図5に示す補正係数適用後の出力マップより全体的に高出力となる。
【0038】
図4に示すような利用傾向情報と補正係数との関係は、各利用傾向情報で準備され得る。つまり、平均車両加速度用の補正係数K2、平均アクセル開度用の補正係数K3、平均アクセル開度偏差用の補正係数K4、平均外気温度用の補正係数K5、平均電池温度用の補正係数K6、平均使用SOC範囲用の補正係数K7、急速充電使用頻度用の補正係数K8等が準備される。利用傾向情報と補正係数の関係は、例えば、予め試験等により定めることが可能ある。このように、複数の利用傾向情報が存在する場合、図3に示す出力マップを補正する補正係数は、全ての利用傾向情報のトータルの値で補正することができる。例えば、利用傾向情報が8つの場合は以下の様になる。
トータル補正係数K=K1×K2×K3×K4×K5×K6×K7×K8
となる。したがって、このトータル補正係数Kを図3に示す出力マップに適用することにより、車両12のユーザの利用状況、つまり、運転時の癖等に基づき、電池10の劣化を最小限に抑制しつつ、電池10の出力を最大能力に近づけるような電池制御を行うことができる。なお、利用傾向情報は、電池10の劣化に影響する項目であればよく、1以上であれば、その項目数は適宜変更可能である。利用傾向情報は、項目数が多いほど、利用傾向情報としての精度が向上する。
【0039】
図2に戻り、移行部22eは、車両12を乗り換える場合、つまり、第1の車両12Aから異なる第2の車両12B(例えば、新車)の利用を開始する場合、第1の車両12Aの記憶部22f(第1の記憶部22fA)に蓄積した利用傾向情報を第1の車両から第2の車両12Bの第2の電池10Bの入出力を電池劣化抑制範囲に制限する第2の制限部22dBに移行させる。利用傾向情報の移行は、第1の移行部22Ae(第1の電池10A)と第2の移行部22Be(第2の電池10B)とを例えば有線や無線で接続することによって実施すことができる。この場合、第1の車両12Aにおけるユーザの運転の仕方や運転環境(地域や気候等)が、そのまま第2の車両12Bの第2の電池10Bの制御に反映されることになる。なお、利用傾向情報は、平均車速、平均車両加速度、平均アクセル開度、平均アクセル開度偏差、平均外気温度、平均電池温度、平均使用SOC範囲、急速充電使用頻度等の値をそのまま利用してもよいし、上述のように補正係数を利用傾向情報として移行してもよい。
【0040】
図6は、車両用電池制御システム(第1の電池10A、第2の電池10B)を適用した第1の車両12Aと第2の車両12Bの乗り換え前後の入出力の変化を示す例示的な説明図である。前述したように、第1の車両12Aのユーザの利用傾向は、時間の経過とともに精度を増し、補正係数K1等またはトータル補正係数Kが更新され、第1の電池10Aの入出力が最適化される。その結果、使用開始時に設定された最も厳しい目標劣化値で発揮できる入出力値M(最大限劣化を抑制するような厳しい制限値)から徐々に緩和されて、第1の電池10Aが劣化していない場合に取り得る最大入出力値Nに近づけることができる。そして、第2の車両12Bに乗り換える際に、利用傾向情報の移行を行なわない場合、破線で示すように、第2の車両12Bは、第1の車両12Aの場合と同様に最も厳しい目標劣化値で発揮できる入出力値Mから徐々に最大入出力値Nに近づけるような制御が必要になる。一方、本実施形態の第1の電池10Aと第2の電池10Bとの間に行われるような、利用傾向情報の移行を行うことにより、実線で示すように、乗り換え当初から最大入出力値Nに近い状態、つまり、第2の電池10Bの劣化を抑制しつつ、最大入出力値を得るような第2の電池10Bの制御が実現できる。その結果、第2の車両12Bは、乗り換え当初から第2の電池10Bの劣化促進を抑制した状態でかつ能力上限状態で利用して、高加速性を実現することができる。また、ユーザの走り方に適した第2の電池の最大利用が可能になる。
【0041】
なお、第1の車両12Aと第2の車両12Bとで、車種の違いや型式の違いにより基本性能(アクセル開度に対する加速性性能や電池温度等)が異なる場合がある。この場合、第2の車両12Bの第2の制御部22Baは、第1の車両12Aの性能と第2の車両12Bの性能との差異に応じて、利用傾向情報を補正するようにしてもよい。その結果、性能が変わった第2の車両12Bにおいてもユーザの乗り方(癖)に応じて適切に第2の電池10Bの入出力を制御して第2の電池の最大利用が可能になる。
【0042】
(本実施形態の作用効果)
以上説明したように、本実施形態に係る車両用電池制御システムは、第1の車両12Aに搭載可能な第1の電池10Aの入出力を制御する第1の制御部22Aaと、第1の電池10Aの劣化の要因となり得る第1の電池10Aの利用状態を示す利用傾向情報を継続的に取得する第1の取得部22Abと、継続的に取得される利用傾向情報を第1の記憶部22Afに蓄積する第1の蓄積処理部22Acと、蓄積された利用傾向情報に基づいて第1の制御部22Aaにおける第1の電池10Aの入出力が電池劣化抑制範囲に収まるように制限する第1の制限部22Adと、蓄積した利用傾向情報を第1の車両12Aとは異なる第2の車両12Bの第2の電池10Bの入出力を電池劣化抑制範囲に制限する第2の制限部22Bdに移行させる第1の移行部22Aeと、を含む。これによって、例えば、第1の車両12Aで蓄積した利用傾向情報を第2の車両12Bの第2の制限部22Bdに移行することで、第2の車両12Bにおいて、第1の車両12Aを利用していたときのユーザの利用傾向を反映させことが可能になり、迅速かつ適切に第2の車両12Bの第2の電池10Bを利用できる。
【0043】
また、本実施形態の車両用電池制御システムの第2の制限部22Bdは、例えば、第1の車両12Aから移行した利用傾向情報に基づいて、第2の車両12Bの第2の電池10Bの入出力を電池劣化抑制範囲に制限するようにしてもよい。これによって、例えば、第2の車両12Bの第2の電池10Bにおいても、迅速に適切な最大入出力を実現することができる。
【0044】
また、本実施形態の車両用電池制御システムの第1の制限部22Adは、例えば、利用傾向情報に基づく第1の電池10Aの利用状態が、第1の電池10Aに設定された標準利用状態より高負荷の場合、第1の電池10Aの入出力を標準利用状態より低下させ、標準利用状態より低負荷の場合、第1の電池10Aの入出力を標準利用状態より増加させるよいにしてもよい。これによって、例えば、第1の車両12Aにおいてユーザの利用傾向を反映させた第1の電池10Aの適切な最大入出力制御が実現できる。
【0045】
また、本実施形態の車両用電池制御システムの第2の制限部22Bdは、例えば、利用傾向情報に基づく第2の電池10Bの利用状態が、第2の電池10Bに設定された標準利用状態より高負荷の場合、第2の電池10Bの入出力を標準利用状態より低下させ、標準利用状態より低負荷の場合、第2の電池10Bの入出力を標準利用状態より増加させるようにしてもよい。これによって、例えば、第2の車両12Bにおいてユーザの利用傾向を反映させた第2の電池10Bの適切な最大入出力制御が迅速に実現できる。
【0046】
また、本実施形態の車両用電池制御システムの第2の制限部22Bdは、例えば、第1の車両12Aの性能と第2の車両12Bの性能との差異に応じて、利用傾向情報を補正するよいにしてもよい。これによって、例えば、第1の車両12Aの性能と第2の車両12Bの性能とが異なる場合でも、ユーザの利用傾向情報を適切に反映して、第2の電池10Bの適切な最大入出力制御が実現できる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上述した実施の形態は、例として提示したものであり、本発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能である。また、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。また、この実施の形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
10 電池(電池制御システム)
12 車両、12A 第1の車両、12B 第2の車両
14 駆動モータ
16 インバータ
18 車両ECU
20 電池セル
22 電池ECU
22A 第1の電池ECU、22B 第2の電池ECU
22a 制御部、22Aa 第1の制御部、22Ba 第2の制御部
22b 取得部、22Ab 第1の取得部、22Bb 第2の取得部
22c 蓄積処理部、22Ac 第1の蓄積処理部、22Bc 第2の蓄積処理部
22d 制限部、22Ad 第1の制限部、22Bd 第2の制限部
22e 移行部、22Ae 第1の移行部、22Be 第2の移行部
22f 記憶部、22Af 第1の記憶部、22Bf 第2の記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6