(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140165
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 11/16 20060101AFI20241003BHJP
B22D 11/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B22D11/16 104R
B22D11/16 104F
B22D11/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051183
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆
(72)【発明者】
【氏名】田村 匠
(72)【発明者】
【氏名】益田 稜介
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB09
4E004MB15
4E004MC11
(57)【要約】
【課題】鋳造開始直後の過渡状態においても速やかにブレイクアウトを検知することができる、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法を提供すること。
【解決手段】鋼の連続鋳造設備1において、鋳造開始時期に鋳型13内部に供給される溶鋼2の湯面高さ及び鋳型13内部に供給される溶鋼2の供給量を調整するノズル(スライディングノズル11)の開度偏差の少なくとも一方を監視し、湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H
0未満となる場合、及び開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S
0超となる場合の少なくとも一方の場合において、ブレイクアウトが発生したと検知する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造設備において、鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の湯面高さ及び前記鋳型内部に供給される前記溶鋼の供給量を調整するノズルの開度偏差の少なくとも一方を監視し、
前記湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H0未満となる場合、及び前記開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S0超となる場合の少なくとも一方の場合において、ブレイクアウトが発生したと検知する、ブレイクアウトの検知方法。
【請求項2】
前記許容高さ下限H0は、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(1)式で算出される、請求項1に記載のブレイクアウトの検知方法。
H0=H-Aσ1 ・・・(1)
ここで、
H0:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ1:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
【請求項3】
前記許容偏差上限S0は、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(2)式で算出される、請求項1に記載のブレイクアウトの検知方法。
S0=S+Bσ2 ・・・(2)
ここで、
S0:許容偏差上限
S:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の平均値
B:係数
σ2:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の標準偏差
【請求項4】
前記湯面高さが前記許容高さ下限H0未満、且つ前記開度偏差が前記許容偏差上限S0超となる場合に、ブレイクアウトが発生したと検知する、請求項1に記載のブレイクアウトの検知方法。
【請求項5】
鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、
鋳造開始時期において、請求項1~4のいずれか1項に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、前記ブレイクアウトを検知し、
前記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法。
【請求項6】
請求項5に記載の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造設備における従来のブレイクアウト検知方法においては、特許文献1,2のように鋳型直下に取り付けられたカメラによってその光量の変化を閾値によって判断してブレイクアウトを検知する方法が用いられている。また、ブレイクアウトが検知された場合には、いち早く溶鋼の供給を止めるなどの処置が行われている。
【0003】
また、ブレイクアウトを予知する方法として様々な方法が提案されており、例えば特許文献3においては、温度測定器を用いた方法が開示されている。特許文献3の方法では、連続鋳造機の鋳型の湯面より下方に、複数個の温度測定器を水平に配列した測温列を鋳込方向に複数段配置し、複数段のうちの任意の2段について、上段の測温列に配列される温度測定器と、下段の測温列に配列される温度測定器とを同一の直線上に配置する。そして、同一直線上の上下段の温度測定器の測定値を演算装置に伝送し、これらの測定値の関係を用いてブレイクアウトを判定する。
【0004】
さらに、特許文献4,5には、溶鋼の湯面高さの閾値や制御しようとする湯面高さと、実際の湯面高さとの偏差をもとにブレイクアウトを判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-25851号公報
【特許文献2】特開平2-235561号公報
【特許文献3】特開2017-154155号公報
【特許文献4】特開2004-160525号公報
【特許文献5】特開昭47-21331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ブレイクアウトの予知方法においては、特許文献3のように様々な方法が提案され、ブレイクアウトが発生する予兆により、ある程度の精度で予知はできているものの、完全に全てのブレイクアウトを予知できているわけではない。そのため、特許文献1,2のように、鋳型直下に取り付けられたカメラによりブレイクアウトを検知することが必要になっている。
【0007】
また、鋳造が開始した直後においては、以下の理由から、特許文献1~3に開示された方法では、ブレイクアウトを予知又は検知することができなかった。ブレイクアウトの予知方法は、鋳型の温度をもとにしているが、鋳造開始直後は鋳型が常温から上昇している過渡的な状態であり、毎回同じ挙動を示していない。そのため、鋳造開始直後にブレイクアウトを予知することは困難である。また鋳型下部のカメラにおいても鋳型内部の溶鋼量が通常の状態に比べて少ないため、光量が不足し、ブレイクアウトとして検知することが困難である。
【0008】
さらに、特許文献4,5においては、一定の閾値をもって湯面高さの下限値を定めたり、制御値との偏差から閾値を作ることでブレイクアウトを検知しようとしており、湯面高さに基づいているため、鋳造開始直後の過渡状態でも検知可能である。しかし、鋳造初期においては一定のパターンをもって鋳造速度を制御していることが多く、その際に鋳造速度を上昇させた直後や、鋳造速度を一定にした直後などのタイミングにおいて湯面がハンチングしやすい。このため鋳造初期に一定の閾値をもって判断しようとすると、バラつきの大きい部分に合わせて閾値を設定する必要があり、そうではないタイミングではブレイクアウトを検知する時間に遅れが生じてしまうという課題がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、鋳造開始直後の過渡状態においても速やかにブレイクアウトを検知することができる、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一態様によれば、鋼の連続鋳造設備において、鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の湯面高さ及び上記鋳型内部に供給される上記溶鋼の供給量を調整するノズルの開度偏差の少なくとも一方を監視し、上記湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H0未満となる場合、及び上記開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S0超となる場合の少なくとも一方の場合において、ブレイクアウトが発生したと検知する、ブレイクアウトの検知方法が提供される。
【0011】
(2)上記(1)の構成において、上記許容高さ下限H0は、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(1)式で算出される。
H0=H-Aσ1 ・・・(1)
ここで、
H0:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ1:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
【0012】
(3)上記(1)又は(2)の構成において、上記許容偏差上限S0は、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(2)式で算出される。
S0=S+Bσ2 ・・・(2)
ここで、
S0:許容偏差上限
S:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の平均値
B:係数
σ2:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の標準偏差
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つの構成において、上記湯面高さが上記許容高さ下限H0未満、且つ上記開度偏差が上記許容偏差上限S0超となる場合に、ブレイクアウトが発生したと検知する。
【0014】
(5)本発明の一態様によれば、鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、
鋳造開始時期において、上記(1)~(4)のいずれか1つの構成に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、上記ブレイクアウトを検知し、上記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法が提供される。
【0015】
(6)本発明の一態様によれば、上記(5)の構成の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、鋳造開始直後の過渡状態においても速やかにブレイクアウトを検知することができる、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における連続鋳造設備を示す構成図である。
【
図2】鋳造開始時期における連続鋳造設備の状態を示す模式図である。
【
図3】実施例において、許容高さ下限とブレイクアウト発生時の湯面高さとを示すグラフである。
【
図4】実施例において、許容偏差上限とブレイクアウト発生時の開度偏差さとを示すグラフである。
【
図5】実施例において、係数Aと検知件数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0019】
<装置構成>
図1には、本発明の一実施形態における鋼の連続鋳造設備1を示す模式図を示す。連続鋳造設備1は、タンディッシュ10と、スライディングノズル11と、浸漬ノズル12と、鋳型13と、複数の支持ロール14と、溶鋼レベル計15と、判定部16とを備える。連続鋳造設備1では、タンディッシュ10に収容された溶鋼2が、スライディングノズル11及び浸漬ノズル12を介して鋳型13へと注入され、冷却されることで鋳型13と溶鋼2との境界に凝固シェルが形成される。その後、支持ロール14で支持されながら凝固シェルが引き抜かれ、冷却水などによってさらに冷却されることで、所定の断面形状の鋳片となる。
【0020】
スライディングノズル11は、孔が形成されたプレート110を有し、プレート110が摺動することで、タンディッシュ10から鋳型13への溶鋼2の供給量を制御するノズルである。具体的には、プレート110の孔と、タンディッシュ10の底部に形成された孔との重畳する面積を制御することで、溶鋼2の供給量が制御される。また、プレート110のタンディッシュ10に対する摺動方向の相対位置に基いた、摺動量の割合をノズル開度(%)という。ノズル開度は、例えば、摺動方向の位置において、プレート110の孔とタンディッシュ10の底部の孔とが完全に重畳する位置を100%、この2つの孔が重畳しない位置を0%としてもよい。さらに、鋳込み開始時から一定期間のノズル開度の平均値に対する、その後のノズル開度の差分(変動値)を開度偏差という。本実施形態では、ノズル開度の測定結果からの開度偏差の算出が、判定部16によって行われる。なお、ノズル開度の平均値を算出するための一定期間は、特に限定されないが、50秒程度とすることが好ましい。
【0021】
溶鋼レベル計15は、鋳型13内の溶鋼2の浴面の高さである湯面高さを測定する計測装置である。溶鋼レベル計15の計測手法は、湯面高さを測定可能な既知の計測方法であれば特に限定されない。例えば、溶鋼レベル計15には、渦流式の湯面レベル計を用いてもよい。湯面高さは、溶鋼2の浴面の鋳型13内での高さ方向位置を把握可能なものであれば特に限定されず、例えば、鋳型13の下面又は鋳型13内部の所定位置からの高さ(鉛直方向の距離)であってもよい。
【0022】
また、連続鋳造設備1では、溶鋼2の鋳型13への供給量の調整は、不図示の調整機構によって行われる。この調整機構による溶鋼2の供給量の調整は、溶鋼レベル計15の計測結果に基づいて、湯面高さが所定の高さとなるようにノズル開度が調整されることで行われる。
【0023】
判定部16は、ノズル開度及び湯面高さの少なくとも一方に基づいて、鋳造開始時期におけるブレイクアウトを検知する、コンピュータ等の演算装置である。判定部16によるブレイクアウトの検知方法の詳細については後述する。
【0024】
本実施形態では、連続鋳造を行う期間を鋳造開始時期と定常鋳造時期とに分けて説明する。鋳造開始時期は、連続鋳造を開始した直後から、鋳造速度が定常鋳込み速度となるまでの期間である。定常鋳造時期は、鋳造開始時期の後の期間であり、鋳造速度が定常鋳込み速度となった以降の期間である。
【0025】
鋳造開始時期では、
図2に示す状態で連続鋳造が開始される。
図2に示すように、連続鋳造の開始時においては、連続鋳造設備1の機内にダミーバ17を挿入し、ダミーバ17の先端(ダミーバヘッド)を鋳型13内に設置する。そして、ダミーバ17の先端を鋳型13の底として、鋳型13内に溶鋼2を注入することで連続鋳造が開始される。その後、溶鋼2が注入されて所定時間経過した後、ダミーバ17を引き抜く。そして、所定の位置でダミーバ17を鋳片から切り離し、鋳造速度を定常鋳込み速度まで上げる。
【0026】
鋳造開始時期には、判定部16はブレイクアウトが発生したか否かを連続的に判定することで、ブレイクアウトの検知が行われる。なお、鋳型13の内部にダミーバ17が存在しているときにはブレイクアウトは発生しえないため、ダミーバ17が鋳型13から引き抜かれてからブレイクアウトの検知が行われる。そして、ブレイクアウトが検知されると、鋳型13への溶鋼2の供給を中断して、鋳込みを中断する。一方、ブレイクアウトが検知されない場合には、鋳込みが継続され、ブレイクアウトの検知も引き続き行われる。また、定常鋳造時期については、特に限定されず、既知の連続鋳造方法を用いて定常鋳込み速度での連続鋳造が行われる。
【0027】
<ブレイクアウトの検知方法>
本実施形態に係るブレイクアウトの検知方法について説明する。本実施形態では、上述のように、鋳造開始時期において、湯面高さおよび開度偏差の少なくとも一方に基づいてブレイクアウトの検知方法が行われる。
【0028】
(湯面高さによる検知方法)
はじめに、湯面高さによるブレイクアウトの検知方法について説明する。湯面高さによる検知方法では、まず、連続鋳造が開始されたら、溶鋼レベル計15により湯面高さが連続的に測定され、測定結果が判定部16に送られることで、湯面高さの監視が行われる。なお、湯面高さとしては、実際の距離(mm)を用いてもよく、実際の距離に対応する溶鋼レベル計15の出力値(%)等を用いてもよい。
【0029】
次いで、判定部16は、測定された湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H0未満となるか否かを判定する。そして、判定部16は、湯面高さが許容高さ下限H0未満となる場合にブレイクアウトが発生したと判定し、湯面高さが許容高さ下限H0以上となる場合にブレイクアウトが発生していないと判定する。
【0030】
ブレイクアウトが発生すると、連続鋳造設備1の機内で溶鋼2が凝固シェルを破って漏れ出た状態となり、タンディッシュ10からの溶鋼2の供給量よりも鋳型13からの溶鋼2の排出量が多くなるため、湯面高さが低下する。このため、ブレイクアウトを検知できる閾値として、許容高さ下限H0を設定することで、鋳造初期におけるブレイクアウトを検知することができる。また、許容高さ下限H0は、鋳造開始後の時間経過における値であり、経過時間毎に設定される。例えば、許容高さ下限H0は、湯面高さの測定時間間隔毎に設定されてもよい。
【0031】
さらに、許容高さ下限H0は、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(1)式で算出されることが好ましい。なお、過去の複数の操業データは、ブレイクアウトが発生していない条件でのものである。また、係数Aは5.0以上10.0以下であることが好ましい。
H0=H-Aσ1 ・・・(1)
ここで、
H0:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ1:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
【0032】
また、過去の操業データの数は、湯面高さのバラつき(標準偏差)を評価するために50回以上とすることが好ましい。一方、長期的な変動によりパターンが変化することに対応するため、過去の操業データの数を200回以下とすることが好ましい。
【0033】
(開度偏差による検知方法)
次に、開度偏差によるブレイクアウトの検知方法について説明する。開度偏差による検知方法では、まず、連続鋳造が開始されたら、判定部16はスライディングノズル11のノズル開度を連続的に取得し、開度偏差を算出することで、開度偏差の監視が行われる。
【0034】
次いで、判定部16は、求められた開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S0超となるか否かを判定する。そして、判定部16は、開度偏差が許容偏差上限S0超となる場合にブレイクアウトが発生したと判定し、開度偏差が許容偏差上限S0以下となる場合にブレイクアウトが発生していないと判定する。
【0035】
ブレイクアウトが発生すると、上述のように湯面高さが低下するため、ノズル開度を大きくしてタンディッシュ10からの溶鋼2の供給量を増やすような制御が行われる。この際の供給量は、ブレイクアウトが発生していない時よりも大きくなるため、ノズル開度及び開度偏差も通常に比べて大きくなる。このため、ブレイクアウトを検知できる閾値として、許容偏差上限S0を設定することで、鋳造初期におけるブレイクアウトを検知することができる。また、許容偏差上限S0は、鋳造開始後の時間経過における値であり、経過時間毎に設定される。例えば、許容偏差上限S0は、湯面高さの測定時間間隔毎に設定されてもよい。
【0036】
さらに、許容偏差上限S0は、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(2)式で算出されることが好ましい。なお、過去の複数の操業データは、ブレイクアウトが発生していない条件でのものである。また、係数Bは5.0以上10.0以下であることが好ましい。
S0=S+Bσ2 ・・・(2)
ここで、
S0:許容偏差上限(%)
S:過去の複数の操業データの開度偏差の平均値(%)
B:係数
σ2:過去の複数の操業データの開度偏差の標準偏差
【0037】
また、過去の操業データの数は、開度偏差のバラつき(標準偏差)を評価するために50回以上とすることが好ましい。一方、長期的な変動によりパターンが変化することに対応するため、過去の操業データの数を200回以下とすることが好ましい。
【0038】
(湯面高さ及び開度偏差による検知方法)
さらに、本実施形態では、湯面高さと開度偏差の両方に基いてブレイクアウトを検知してもよい。この場合、判定部16は、湯面高さと開度偏差の両方の監視を行い、湯面高さが許容高さ下限H0未満、且つ開度偏差が許容偏差上限S0超となった場合に、ブレイクアウトが発生したと判定する。一方、湯面高さが許容高さ下限H0未満、且つ開度偏差が許容偏差上限S0超とならない場合には、判定部16はブレイクアウトが発生していないと判定する。なお、湯面高さと開度偏差の両方の監視を行い、湯面高さが許容高さ下限H0未満、又は開度偏差が許容偏差上限S0超となった場合に、ブレイクアウトが発生したと判定してもよい。
【0039】
以上のように、本実施形態では、湯面高さ及び開度偏差の少なくとも一方に基づいて判定することで、ブレイクアウトの発生を検知する。ブレイクアウトの発生の判定は、鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H0及び許容偏差上限S0の少なくとも一方で行われるため、鋳造開始直後の過渡状態においても、湯面高さやノズル開度に対する一定の閾値で判定する場合に比べて精度よく判定することができる。
【0040】
さらに、過去の複数の操業データ及び(1)式を用いて許容高さ下限H0を設定、又は過去の複数の操業データ及び(2)式を用いて許容偏差上限S0を設定することで、精度よくブレイクアウトを検知することができる。湯面高さは、一定値となるように自動で制御されているが実際には一定ではなく、ある程度の範囲でバラつく。鋳造開始直後は一定の操業に基づいているため、速度パターンも類似するが、鋳造速度を上昇させた直後や、鋳造速度を一定にした直後などのタイミングにおいて湯面がハンチングしやすいため、湯面高さの平均及びバラつきは時間経過に依存する。このため、経過時間毎に許容高さ下限H0及び許容偏差上限S0を設定することで、より高い精度でブレイクアウトを検知することができる。さらに、検知精度が高くなることで、誤検知も防止することができ、生産性を向上させることができる。さらに、特許文献3,4のような従来の検知方法に比べて、ブレイクアウトを速やかに検知できるようになることから、ブレイクアウトによる生産影響を低減することもできる。また、鋳型温度に基いた検知方法に比べて、ブレイクアウトを直接的に検知することができるため、検知を抜けなく実施することができる。
【0041】
さらに、ノズル開度は、湯面高さと異なり、鋳型13の大きさ(幅及び厚み)や、種々の条件により開度が一定とはならない。このため、判定を行うチャンス(連続鋳造を行う単位)の鋳込み開始から一定時間の平均値からの変動値である開度偏差を用いて判定することで、鋳型13がどのようなサイズであっても同じ判定基準でブレイクアウトを検知することができるようになる。
【0042】
さらに、湯面高さと開度偏差の両方に基いてブレイクアウトを検知することで、より高い精度でブレイクアウトを検知することができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、(1)式及び(2)式における係数A,Bを5.0以上10.0以下とする、つまり、過去の操業データの湯面高さ及び開度偏差の標準偏差に対して5~10倍の変動があったときにブレイクアウトを検知することが好ましい。このようにすることで、誤検知なくブレイクアウトを判定することがきる。
【0044】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0045】
例えば、本実施形態では、ブレイクアウトの検知方法について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明は、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法にも適用することができる。本発明の一態様に係る連続鋳造設備の操業方法は、鋼を連続鋳造する連続鋳造設備1の操業方法であって、鋳造開始時期において、上記実施形態に係るブレイクアウトの検知方法を用いてブレイクアウトを検知する。そして、ブレイクアウトが検知された場合には、鋳型13への溶鋼2の供給を中断し、検知されなかった場合には、鋳型13への溶鋼2の供給を継続する。また、本発明の一態様に係る鋳片の製造方法は、上記の連続鋳造設備1の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行う。
【実施例0046】
本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、200回分の過去の操業データから、(1)式及び(2)式を用いて、許容高さ下限H0及び許容偏差上限S0を求め、2チャンス分のブレイクアウト発生時の湯面高さと開度偏差との比較を行った。
【0047】
図3には、求めた許容高さ下限H
0及び2チャンス分のブレイクアウト発生時の湯面高さの経過時間に対する挙動を示す。なお、
図3において、縦軸は湯面高さであり、横軸はダミーバの引き抜き開始からの経過時間(sec)である。縦軸の湯面高さは、実際の距離に対応した溶鋼レベル計15の出力値(%)であり、45%となるように制御が行われている。また、横軸の経過時間は、鋳型13への溶鋼2の注入開始が-50secであり、ダミーバの引き抜き開始が0secである。
図3に示す例では、係数Aを7、つまり湯面高さの平均値に標準偏差の7倍を閾値として与えている。
図3に示す例では、許容高さ下限H
0未満となるタイミングは、現状オペレータに頼っているブレイクアウト検知の10~20秒前となり、ブレイクアウトの検知が精度よく速やかに検知できることを確認した。
【0048】
また、
図3に示す例では、時間経過毎に閾値は変動し、鋳込み開始後20秒程度で最大となることが確認できた。これは、鋳込み開始後20秒程度で鋳造速度の変更が行われるため、湯面高さのバラつきが大きくなるためだが、その後はピークの1/3程度に収まることが確認できた。ここで、特許文献4,5のような検知方法では、バラつきのピークに合わせた一定の閾値で検知を行うため、閾値を全時間帯に渡って大きく取らざるを得ない。しかし、上記実施形態に係る検知方法では、過去の操業データから時間経過に合わせて最適な閾値選択を行うため、従来の検知方法に比して速やかにブレイクアウトを検知することが可能である。
【0049】
図4には、求めた許容偏差上限S
0及び2チャンス分のブレイクアウト発生時の開度偏差の経過時間に対する挙動を示す。なお、
図4において、縦軸は開度偏差であり、横軸は
図3と同様にダミーバの引き抜き開始からの経過時間(sec)である。縦軸の開度偏差は、経過時間が-50sec~0secまでのノズル開度の平均値との差分であり、経過時間が0secよりも後に示される。また、
図4に示す例では、係数Bを4、つまり開度偏差の平均値に標準偏差の4倍を閾値として与えている。さらに、
図4のブレイクアウトの発生チャンスは、
図3の発生チャンスと同じものである。
図4から明らかなように、開度偏差を用いた場合においても、湯面高さを用いた場合と同様にブレイクアウトを従来に比べて速やかに検知できることが確認できた。
【0050】
さらに、(1)式,(2)式における係数A,Bによる、検知精度と誤検知発生の影響についても調査を行った。
図5には、係数A,Bを1.0~10.0に変えたときの、係数A,Bとブレイクアウトの検知件数との関係を示す。なお、
図5において、「両方」で示すグラフは、湯面高さと開度偏差の両方の検知方法を用いた場合であり、湯面高さとノズル開度の両方においてブレイクアウトを検知された場合にのみブレイクアウトが発生したと検知をしている。なお、この調査では、実際にブレイクアウトが発生した件数は2件である。係数A,Bを小さくすることで誤検知は減るものの過検知が増えることが確認でき、一方、係数A,Bを大きくすることで過検知は減るものの誤検知が増えることが確認できた。このため、本実施例の設備では、係数A,Bは、3.0以上8以下程度が適当であることが確認できた。さらに、本実施例では、係数A,Bを4とし、湯面高さと開度偏差の両方の検知方法を用いる条件において、検知件数が2件となり、過検知も誤検知もないことを確認した。このため、湯面高さと開度偏差の両方を用いて検知をすることで、ブレイクアウトの発生を精度よく検知できることが確認できた。