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特開2024-140166ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140166
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20241003BHJP
   B22D 11/18 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B22D11/16 104R
B22D11/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051184
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田村 匠
(72)【発明者】
【氏名】西村 隆
(72)【発明者】
【氏名】益田 稜介
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB09
4E004MC11
(57)【要約】
【課題】鋳造開始直後の過渡状態においても速やかにブレイクアウトを検知することができ、最適化のための調整が容易な、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法を提供すること。
【解決手段】鋼の連続鋳造設備1において、鋳造開始時期に鋳型13内部に供給される溶鋼2の供給量を調整するスライディングノズル11のノズル開度を連続的又は間欠的に測定し、測定されるノズル開度に応じた開度値と、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量に応じて設定される許容上限開度とを比較し、開度値が許容上限開度を上回った場合にブレイクアウトが発生したと判定する、ブレイクアウトの検知方法。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造設備において、
鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の供給量を調整するスライディングノズルのノズル開度を連続的又は間欠的に測定し、
測定される前記ノズル開度に応じた開度値と、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量に応じて設定される許容上限開度とを比較し、前記開度値が前記許容上限開度を上回った場合にブレイクアウトが発生したと判定する、ブレイクアウトの検知方法。
【請求項2】
前記許容上限開度は、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量を含む変数で構成されるパラメータxの一次式で表される、請求項1に記載のブレイクアウトの検知方法。
【請求項3】
前記パラメータxは、下記(1)式で示される、請求項2に記載のブレイクアウトの検知方法。
【数1】
ここで、
:鋳造速度(m/min)
Δh:鋳型内湯面高さ変化率(m/min)
w:鋳型幅(m)
d:鋳型厚み(m)
TD:タンディッシュ内溶鋼重量(t)
【請求項4】
下記(3)式を満たす場合に、前記ブレイクアウトが発生したと判定する、請求項3に記載のブレイクアウトの検知方法。
(sn-SN)-a(x-X)-b>0.0 ・・・(3)
ここで、
sn:ノズル開度(%)
SN:鋳造開始から50秒間のノズル開度の平均値(%)
X:鋳造開始から50秒間のパラメータxの平均値
a:一次式の勾配に対応する定数
b:一次式の切片に対応する定数
【請求項5】
定数a及び定数bは、50回から200回分の過去の複数の操業データをもとに設定され、
前記定数aは、前記複数の操業データに含まれる、複数の前記開度値と、当該開度値の測定時における複数の前記パラメータxとから、下記(4)式の一次式で示される回帰式により求められ、
前記定数bは、(4)式で求められる定数b’を用いた(5)式で求められる、請求項4に記載のブレイクアウトの検知方法。
(sn-SN)=a(x-X)+b’ ・・・(4)
b=b’+c・σ ・・・(5)
ここで、
b’:回帰式の切片に対応する定数
c:5.0以上10.0以下の定数
σ:回帰式の標準偏差
【請求項6】
前記鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の湯面高さ及び前記鋳型内部に供給される前記溶鋼の供給量を調整するノズルの開度偏差の少なくとも一方を監視し、
前記湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H未満となる場合、及び前記開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S超となる場合の少なくとも一方の場合、且つ前記開度値が前記許容上限開度を上回った場合において、ブレイクアウトが発生したと検知する、請求項1~5のいずれか1項に記載のブレイクアウトの検知方法。
【請求項7】
前記許容高さ下限Hは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(8)式で算出され、前記許容偏差上限Sは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(9)式で算出される、請求項6に記載のブレイクアウトの検知方法。
=H-Aσ ・・・(8)
=S+Bσ ・・・(9)
ここで、
:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
:許容偏差上限
S:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の平均値
B:係数
σ:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の標準偏差
【請求項8】
前記鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の湯面高さ及び前記鋳型内部に供給される前記溶鋼の供給量を調整するノズルの開度偏差の少なくとも一方を監視し、
前記湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H未満となり、前記開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S超となり、前記開度値が前記許容上限開度を上回った場合に、ブレイクアウトが発生したと検知する、請求項1~5のいずれか1項に記載のブレイクアウトの検知方法。
【請求項9】
前記許容高さ下限Hは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(8)式で算出され、前記許容偏差上限Sは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(9)式で算出される、請求項8に記載のブレイクアウトの検知方法。
=H-Aσ ・・・(8)
=S+Bσ ・・・(9)
ここで、
:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
:許容偏差上限
S:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の平均値
B:係数
σ:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の標準偏差
【請求項10】
鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、
鋳造開始時期において、請求項1~5のいずれか1項に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、前記ブレイクアウトを検知し、
前記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法。
【請求項11】
請求項10に記載の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法。
【請求項12】
鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、
鋳造開始時期において、請求項6に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、前記ブレイクアウトを検知し、
前記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法。
【請求項13】
請求項12に記載の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法。
【請求項14】
鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、
鋳造開始時期において、請求項8に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、前記ブレイクアウトを検知し、
前記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法。
【請求項15】
請求項14に記載の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法。
【請求項16】
鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、
鋳造開始時期において、請求項9に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、前記ブレイクアウトを検知し、
前記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法。
【請求項17】
請求項16に記載の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造設備における従来のブレイクアウト検知方法においては、特許文献1,2のように鋳型直下に取り付けられたカメラによってその光量の変化を閾値によって判断してブレイクアウトを検知して、いち早く溶鋼の供給を止めるなど処置が行われている。
【0003】
また、ブレイクアウトを予知する方法として様々な方法が提案されており、例えば特許文献3においては、温度測定器を用いた方法が開示されている。特許文献3の方法では、連続鋳造機の鋳型の湯面より下方に、複数個の温度測定器を水平に配列した測温列を鋳込方向に複数段配置し、複数段のうちの任意の2段について、上段の測温列に配列される温度測定器と、下段の測温列に配列される温度測定器とを同一の直線上に配置する。そして、同一直線上の上下段の温度測定器の測定値を演算装置に伝送し、これらの測定値の関係を用いてブレイクアウトを判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-197352号公報
【特許文献2】特開平2-235561号公報
【特許文献3】特開2016-39644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブレイクアウトの検知技術においては、ブレイクアウトが発生した場合の検知率はより高い方がブレイクアウトの被害がより減少するため望ましい。また、ブレイクアウトが発生していない場合の誤検知率はより低い方が操業を中断する頻度がより減少しより生産性が高まるため望ましく、ブレイクアウト発生から検知までの時間はより短い方がブレイクアウトの被害がより減少するため望ましい。
【0006】
特許文献1,2のような鋳型下部に設置したカメラによるブレイクアウトの検知は、鋳型内部の溶鋼量が通常の状態に比べて少なく光量が不足する鋳造開始直後のブレイクアウトを検知することが困難であるという問題がある。
【0007】
また、特許文献3のような鋳型の温度を測定することによるブレイクアウトの検知は、鋳型が常温から上昇する過渡的状態にある鋳造開始直後のブレイクアウトを検知することが困難であるという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、上記の課題に着目してなされたものであり、鋳造開始直後の過渡状態においても速やかにブレイクアウトを検知することができる、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一態様によれば、鋼の連続鋳造設備において、鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の供給量を調整するスライディングノズルのノズル開度を連続的又は間欠的に測定し、測定される上記ノズル開度に応じた開度値と、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量に応じて設定される許容上限開度とを比較し、上記開度値が上記許容上限開度を上回った場合にブレイクアウトが発生したと判定する、ブレイクアウトの検知方法が提供される。
【0010】
(2)上記(1)の構成において、上記許容上限開度は、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量を含む変数で構成されるパラメータxの一次式で表される。
(3)上記(2)の構成において、上記パラメータxは、下記(1)式で示される。
【0011】
【数1】
ここで、
:鋳造速度(m/min)
Δh:鋳型内湯面高さ変化率(m/min)
w:鋳型幅(m)
d:鋳型厚み(m)
TD:タンディッシュ内溶鋼重量(t)
(4)上記(3)の構成において、下記(3)式を満たす場合に、上記ブレイクアウトが発生したと判定する。
(sn-SN)-a(x-X)-b>0.0 ・・・(3)
ここで、
sn:ノズル開度(%)
SN:鋳造開始から50秒間のノズル開度の平均値(%)
X:鋳造開始から50秒間のパラメータxの平均値
a:一次式の勾配に対応する定数
b:一次式の切片に対応する定数
(5)上記(4)の構成において、定数a及び定数bは、50回から200回分の過去の複数の操業データをもとに設定され、上記定数aは、上記複数の操業データに含まれる、複数の上記開度値と、当該開度値の測定時における複数の上記パラメータxとから、下記(4)式の一次式で示される回帰式により求められ、上記定数bは、(4)式で求められる定数b’を用いた(5)式で求められる。
(sn-SN)=a(x-X)+b’ ・・・(4)
b=b’+c・σ ・・・(5)
ここで、
b’:回帰式の切片に対応する定数
c:5.0以上10.0以下の定数
σ:回帰式の標準偏差
【0012】
(6)上記(1)~(5)のいずれか一つの構成において、上記鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の湯面高さ及び上記鋳型内部に供給される上記溶鋼の供給量を調整するノズルの開度偏差の少なくとも一方を監視し、上記湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H未満となる場合、及び上記開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S超となる場合の少なくとも一方の場合、且つ上記開度値が上記許容上限開度を上回った場合において、ブレイクアウトが発生したと検知する。
【0013】
(7)上記(6)の構成において、上記許容高さ下限Hは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(8)式で算出され、上記許容偏差上限Sは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(9)式で算出される。
=H-Aσ ・・・(8)
=S+Bσ ・・・(9)
ここで、
:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
:許容偏差上限
S:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の平均値
B:係数
σ:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の標準偏差
【0014】
(8)上記(1)~(5)のいずれか一つの構成において、上記鋳造開始時期に鋳型内部に供給される溶鋼の湯面高さ及び上記鋳型内部に供給される上記溶鋼の供給量を調整するノズルの開度偏差の少なくとも一方を監視し、
上記湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H未満となり、上記開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S超となり、上記開度値が上記許容上限開度を上回った場合に、ブレイクアウトが発生したと検知する。
【0015】
(9)上記(8)の構成において、上記許容高さ下限Hは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(8)式で算出され、上記許容偏差上限Sは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(9)式で算出される。
=H-Aσ ・・・(8)
=S+Bσ ・・・(9)
ここで、
:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
:許容偏差上限
S:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の平均値
B:係数
σ:過去の複数の操業データのノズルの開度偏差の標準偏差
【0016】
(10)本発明の一態様によれば、鋼を連続鋳造する連続鋳造設備の操業方法であって、鋳造開始時期において、上記(1)~(9)のいずれか1つの構成に記載のブレイクアウトの検知方法を用いて、上記ブレイクアウトを検知し、上記ブレイクアウトが検知された場合に、鋳型への溶鋼の供給を中断する、連続鋳造設備の操業方法が提供される。
(11)本発明の一態様によれば、上記(10)の構成に記載の連続鋳造設備の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行うことで鋳片を製造する、鋳片の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、鋳造開始直後の過渡状態においても速やかにブレイクアウトを検知することができる、ブレイクアウトの検知方法、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態における連続鋳造設備を示す構成図である。
図2】鋳造開始時期における連続鋳造設備の状態を示す模式図である。
図3】パラメータxと標準化ノズル開度との関係及び許容上限開度を示すグラフである。
図4】係数cと検知件数との関係を示すグラフである。
図5】実施例において、許容高さ下限とブレイクアウト発生時の湯面高さとを示すグラフである。
図6】実施例において、許容偏差上限とブレイクアウト発生時の開度偏差さとを示すグラフである。
図7】実施例において、係数Aと検知件数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の詳細な説明では、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において種々の変更を加えることができる。
【0020】
<第1実施形態>
(装置構成)
図1には、本発明の第1実施形態における鋼の連続鋳造設備1を示す模式図を示す。連続鋳造設備1は、タンディッシュ10と、スライディングノズル11と、浸漬ノズル12と、鋳型13と、複数の支持ロール14と、溶鋼レベル計15と、判定部16とを備える。連続鋳造設備1では、タンディッシュ10に収容された溶鋼2が、スライディングノズル11及び浸漬ノズル12を介して鋳型13へと注入され、冷却されることで鋳型13と溶鋼2との境界に凝固シェルが形成される。その後、支持ロール14で支持されながら凝固シェルが引き抜かれ、冷却水などによってさらに冷却されることで、所定の断面形状の鋳片となる。
【0021】
スライディングノズル11は、孔が形成されたプレート110を有し、プレート110が摺動することで、タンディッシュ10から鋳型13への溶鋼2の供給量(供給速度)を制御するノズルである。具体的には、プレート110の孔と、タンディッシュ10の底部に形成された孔との重畳する面積を制御することで、溶鋼2の供給量が制御される。また、プレート110のタンディッシュ10に対する摺動方向の相対位置に基いた、摺動量の割合をノズル開度(%)という。ノズル開度は、例えば、摺動方向の位置において、プレート110の孔とタンディッシュ10の底部の孔とが完全に重畳する位置を100%、この2つの孔が重畳しない位置を0%としてもよい。
【0022】
溶鋼レベル計15は、鋳型13内の溶鋼2の浴面の高さである湯面高さを測定する計測装置である。溶鋼レベル計15の計測手法は、湯面高さを測定可能な既知の計測方法であれば特に限定されない。例えば、溶鋼レベル計15には、渦流式の湯面レベル計を用いてもよい。湯面高さは、溶鋼2の浴面の鋳型13内での高さ方向位置を把握可能なものであれば特に限定されず、例えば、鋳型13の下面又は鋳型13内部の所定位置からの高さ(鉛直方向の距離)であってもよい。
【0023】
また、連続鋳造設備1では、溶鋼2の鋳型13への供給量の調整は、不図示の調整機構によって行われる。この調整機構による溶鋼2の供給量の調整は、溶鋼レベル計15の計測結果に基づいて、湯面高さが所定の高さとなるようにノズル開度が調整されることで行われる。
【0024】
判定部16は、鋳造開始時期におけるブレイクアウトを検知する、コンピュータ等の演算装置である。判定部16によるブレイクアウトの検知方法の詳細については後述する。
【0025】
第1実施形態では、連続鋳造を行う期間を鋳造開始時期と定常鋳造時期とに分けて説明する。鋳造開始時期は、連続鋳造を開始した直後から、鋳造速度が定常鋳込み速度となるまでの期間である。定常鋳造時期は、鋳造開始時期の後の期間であり、鋳造速度が定常鋳込み速度となった以降の期間である。
【0026】
鋳造開始時期では、図2に示す状態で連続鋳造が開始される。図2に示すように、連続鋳造の開始時においては、連続鋳造設備1の機内にダミーバ17を挿入し、ダミーバ17の先端(ダミーバヘッド)を鋳型13内に設置する。そして、ダミーバ17の先端を鋳型13の底として、鋳型13内に溶鋼2を注入することで連続鋳造が開始される。その後、溶鋼2が注入されて所定時間経過した後、ダミーバ17を引き抜く。そして、所定の位置でダミーバ17を鋳片から切り離し、鋳造速度を定常鋳込み速度まで上げる。
【0027】
鋳造開始時期には、判定部16はブレイクアウトが発生したか否かを連続的又は間欠的に判定することで、ブレイクアウトの検知が行われる。なお、鋳型13の内部にダミーバ17が存在しているときにはブレイクアウトは発生しえないため、ダミーバ17が鋳型13から引き抜かれてからブレイクアウトの検知が行われる。そして、ブレイクアウトが検知されると、鋳型13への溶鋼2の供給を中断して、鋳込みを中断する。一方、ブレイクアウトが検知されない場合には、鋳込みが継続され、ブレイクアウトの検知も引き続き行われる。また、定常鋳造時期については、特に限定されず、既知の連続鋳造方法を用いて定常鋳込み速度での連続鋳造が行われる。
【0028】
(ブレイクアウトの検知方法)
第1実施形態に係るブレイクアウトの検知方法について説明する。第1実施形態では、鋳造開始時期において、鋳型13内部に供給される溶鋼2の供給量を制御するスライディングノズル11の開度値であるノズル開度が連続的又は間欠的に測定される。
【0029】
次いで、判定部16は、測定されるノズル開度に応じた開度値と、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量に応じて設定される許容上限開度とを比較する。そして、開度値が許容上限開度を上回った場合にブレイクアウトが発生したと判定し、開度値が許容上限開度以下となった場合にはブレイクアウトが発生していないと判定する。なお、ブレイクアウトが発生有無の判定は、ノズル開度の測定タイミングに応じて、連続的又は間欠的に行われる。
【0030】
許容上限開度は、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量を含む変数で構成されるパラメータxの一次式で表されることが好ましい。また、パラメータxは、下記(1)式で示すことができる。なお、鋳型内湯面高さ変化率は、1分間当たりの湯面高さの変化量(m/min)である。
【0031】
【数2】
ここで、
:鋳造速度(m/min)
Δh:鋳型内湯面高さ変化率(m/min)
w:鋳型幅(m)
d:鋳型厚み(m)
TD:タンディッシュ内溶鋼重量(t)
【0032】
具体的に、許容上限開度Mは、パラメータxの一次式である下記(2)式で示される。第1実施形態では、判定部16は、ノズル開度を測定したタイミングにおける、鋳造速度、鋳型内湯面高さ変化率、鋳型幅、鋳型厚み及びタンディッシュ内溶鋼重量からパラメータxを算出し、求められたパラメータxと(2)式から、許容上限開度Mを算出する。そして、判定部16は、算出された開度値が許容上限開度Mを上回るか否かを判定することで、ブレイクアウトの発生有無を判定する。この判定は、ノズル開度の開度値が(3)式を満たすか否かを判定することと同じである。
【0033】
M=a(x-X)+b ・・・(2)
(sn-SN)-a(x-X)-b>0.0 ・・・(3)
ここで、
sn:ノズル開度(%)
SN:鋳造開始から50秒間のノズル開度の平均値(%)
X:鋳造開始から50秒間のパラメータxの平均値
a:一次式の勾配に対応する定数
b:一次式の切片に対応する定数
【0034】
なお、第1実施形態では、ノズル開度に応じた開度値として、測定されるノズル開度から鋳造開始から50秒間のノズル開度の平均値を差し引いた値(標準化したノズル開度、又は開度偏差ともいう)を用いる。また、一次式の変数として、測定されるパラメータxから鋳造開始から50秒間のパラメータxの平均値を差し引いた値(標準化したパラメータxともいう)を用いる。パラメータx及びノズル開度は、タンディッシュ形状の差やタンディッシュ10内の地金付着状況などの種々の条件により一定でない。しかしながら、ノズル開度及びパラメータxについて標準化した値を用い、判定を行う鋳造チャンスの鋳込み開始から50秒までの平均値からの変動を判定することで、どのような鋳造条件であっても同じ判定基準でブレイクアウトを検知することができる。なお、ノズル開度及びパラメータxの平均値SN,Xを求めるための鋳造開始からの時間は50秒が好ましい。この鋳造開始からの時間は、50秒より長くても同様の効果は得られるが、ブレイクアウトをできるだけ検知できるように、短い方が好ましい。
【0035】
また、定数a及び定数bは、予め設定される値であり、ブレイクアウトが発生していない過去の複数の操業データをもとに設定されることが好ましい。この操業データには、複数の開度値と、この開度値の測定時における複数のパラメータxとを含む複数のデータが含まれることが好ましい。具体的には、定数aは、複数の操業データに含まれる、複数の開度値と、この開度値の測定時における複数のパラメータxとから、下記(4)式の一次式で示される回帰式により求められる。また、定数bは、(4)式で求められる定数b’を用いた(5)式で求められる。また、パラメータxとノズル開度との線形関係は実際には一定ではなく、ある程度の範囲でばらつく。このばらつきを評価するため、通常の過去の操業データの数は、50回以上とすることが好ましい。一方、長期的な変動により比例関係が変化したことに対応するため、過去の操業データの数は200回以下とすることが好ましい。
【0036】
(sn-SN)=a(x-X)+b’ ・・・(4)
b=b’+c・σ ・・・(5)
ここで、
b’:回帰式の切片に対応する定数
c:5.0以上10.0以下の係数
σ:回帰式の標準偏差
【0037】
さらに、(5)式に示すように、定数bを平均値μb’に標準偏差の5.0倍~10.0倍の値を足したもの、つまり係数cを5.0以上10.0としている。このように、標準偏差に対して5倍~10倍の変動があったときのみブレイクアウトを検知することで、誤検知なくブレイクアウトを判定できるようになる。係数cが5.0未満と小さい場合には、ブレイクアウトが発生していない状態でもノズル開度が許容上限開度Mを超える頻度が多くなることから誤検知が多くなる。一方、係数cが10.0超と大きい場合には、ブレイクアウトが発生しても検知できない場合が生じる可能性が高くなる。
【0038】
パラメータxは、鋳型13内の溶鋼2の体積変動とタンディッシュ10内の溶鋼2との比に相当するものである。本発明者らは、鋳造が正常に行われる場合には、このパラメータxとノズル開度とが一次式で示される線形関係を有することに注目をした。そして、パラメータxに基づいて設定される許容上限開度を閾値として判定することで、精度よくブレイクアウトを検知できることを知見した。
【0039】
具体的には、本発明者らは、(6)式で示される物理モデル式に対して、ヘッド高さHとタンディッシュ内溶鋼重量TDとが比例関係にあると近似することで、(7)式の比例式が成立することから本発明の着想を得た。(6)式で示される物理モデルでは、タンディッシュ10内の溶鋼2がタンディッシュ10の底から溶鋼表面までのヘッド高さ(H)から、スライディングノズル11を通って重力加速度gに従って自由落下し鋳型13内へ流入する。そして、鋳型13から鋳込み速度Vに従って溶鋼が引き抜かれ、湯面高さ変化率Δhを伴うモデルである。なお、スライディングノズル11は、ノズル断面積がAsn及びノズル開度がsnであり、鋳型13は幅w、厚みdである。
【0040】
【数3】
【0041】
ブレイクアウトが生じると鋳型13内の溶鋼レベルを一定に保つようにノズル開度が大きくなる。一方で、取鍋からタンディッシュ10への溶鋼2の供給を調整する取鍋のスライドノズルも、タンディッシュ10の溶鋼量の減少に伴ってノズル開度を開いてタンディッシュ内溶鋼重量を一定にするように制御が行われるため、パラメータxはさほど変化しない。第1実施形態における検知方法は、この応答差を利用してブレイクアウトを検知するものである。
【0042】
第1実施形態では、鋳造開始時期に鋳型内部に供給される前記溶鋼の供給量を調整するスライディングノズルのノズル開度を連続的又は間欠的に測定する。そして、ノズル開度を測定するタイミングに応じて、連続的に又は間欠的に許容上限開度を求め、求められた許容上限開度がノズル開度に応じた開度値を上回る場合にブレイクアウトが発生したと判定する。このような検知方法は、カメラを用いないため、鋳型13の内部の溶鋼量が通常の状態に比べて少なく、光量が不足する鋳造開始直後のブレイクアウトを検知することが可能である。また、鋳型13の温度を用いないため、鋳型13が常温から上昇する過渡的状態にある鋳造開始直後のブレイクアウトを検知することが可能である。さらに、鋳型温度などの方法に比べてより直接的に検知できることから、検知を抜けなく実施することができるようになる。
【0043】
また、第1実施形態では、パラメータxの一次式に基いた(3)式を用いて、ブレイクアウトの発生を判定する。これによれば、設定するべき定数がa,bの2個のみであることから、最適化のための調整が容易となる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1実施形態と装置構成や連続鋳造設備の操業方法、鋳片の製造方法は同様であり、ブレイクアウトの検知方法が異なる。このため、以下の説明では、ブレイクアウトの検知方法についてのみ説明する。
【0045】
第2実施形態では、鋳造開始時期において第1実施形態でのブレイクアウトの検知(第1検知)に加えて、湯面高さおよび開度偏差の少なくとも一方に基づいたブレイクアウトの検知(第2検知)を行う。そして、第1検知と第2検知との両方においてブレイクアウトが検知された場合に、実際にブレイクアウトが発生したと検知する。
【0046】
[ブレイクアウトの検知方法(第2検知)]
第2実施形態における第2検知では、鋳造開始時期において、鋳型13内部に供給される溶鋼2の供給量を制御するスライディングノズル11の開度値であるノズル開度が連続的又は間欠的に測定される。さらに、判定部16は、鋳込み開始時から一定期間のノズル開度の平均値に対する、その後のノズル開度の差分(変動値)である開度偏差を算出する。ノズル開度の平均値を算出するための一定期間は、特に限定されないが、50秒程度とすることが好ましい。
【0047】
(湯面高さによる検知方法)
第2検知における湯面高さによるブレイクアウトの検知方法について説明する。湯面高さによる検知方法では、まず、連続鋳造が開始されたら、溶鋼レベル計15により湯面高さが連続的に測定され、測定結果が判定部16に送られることで、湯面高さの監視が行われる。なお、湯面高さとしては、実際の距離(mm)を用いてもよく、実際の距離に対応する溶鋼レベル計15の出力値(%)等を用いてもよい。
【0048】
次いで、判定部16は、測定された湯面高さが鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H未満となるか否かを判定する。そして、判定部16は、湯面高さが許容高さ下限H未満となる場合にブレイクアウトが発生したと判定し、湯面高さが許容高さ下限H以上となる場合にブレイクアウトが発生していないと判定する。
【0049】
ブレイクアウトが発生すると、連続鋳造設備1の機内で溶鋼2が凝固シェルを破って漏れ出た状態となり、タンディッシュ10からの溶鋼2の供給量よりも鋳型13からの溶鋼2の排出量が多くなるため、湯面高さが低下する。このため、ブレイクアウトを検知できる閾値として、許容高さ下限Hを設定することで、鋳造初期におけるブレイクアウトを検知することができる。また、許容高さ下限Hは、鋳造開始後の時間経過における値であり、経過時間毎に設定される。例えば、許容高さ下限Hは、湯面高さの測定時間間隔毎に設定されてもよい。
【0050】
さらに、許容高さ下限Hは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(8)式で算出されることが好ましい。なお、過去の複数の操業データは、ブレイクアウトが発生していない条件でのものである。また、係数Aは2.0以上7.0以下であることが好ましい。
=H-Aσ ・・・(8)
ここで、
:許容高さ下限
H:過去の複数の操業データの湯面高さの平均値
A:係数
σ:過去の複数の操業データの湯面高さの標準偏差
【0051】
また、過去の操業データの数は、湯面高さのバラつき(標準偏差)を評価するために50回以上とすることが好ましい。一方、長期的な変動によりパターンが変化することに対応するため、過去の操業データの数を200回以下とすることが好ましい。
【0052】
(開度偏差による検知方法)
次に、第2検知における開度偏差によるブレイクアウトの検知方法について説明する。開度偏差による検知方法では、まず、連続鋳造が開始されたら、判定部16はスライディングノズル11のノズル開度を連続的に取得し、開度偏差を算出することで、開度偏差の監視が行われる。
【0053】
次いで、判定部16は、求められた開度偏差が鋳造開始後の時間経過における許容偏差上限S超となるか否かを判定する。そして、判定部16は、開度偏差が許容偏差上限S超となる場合にブレイクアウトが発生したと判定し、開度偏差が許容偏差上限S以下となる場合にブレイクアウトが発生していないと判定する。
【0054】
ブレイクアウトが発生すると、上述のように湯面高さが低下するため、ノズル開度を大きくしてタンディッシュ10からの溶鋼2の供給量を増やすような制御が行われる。この際の供給量は、ブレイクアウトが発生していない時よりも大きくなるため、ノズル開度及び開度偏差も通常に比べて大きくなる。このため、ブレイクアウトを検知できる閾値として、許容偏差上限Sを設定することで、鋳造初期におけるブレイクアウトを検知することができる。また、許容偏差上限Sは、鋳造開始後の時間経過における値であり、経過時間毎に設定される。例えば、許容偏差上限Sは、湯面高さの測定時間間隔毎に設定されてもよい。
【0055】
さらに、許容偏差上限Sは、過去の鋳造開始時期の複数の操業データをもとに、(9)式で算出されることが好ましい。なお、過去の複数の操業データは、ブレイクアウトが発生していない条件でのものである。また、係数Bは2.0以上10.0以下であることが好ましい。
=S+Bσ ・・・(9)
ここで、
:許容偏差上限(%)
S:過去の複数の操業データの開度偏差の平均値(%)
B:係数
σ:過去の複数の操業データの開度偏差の標準偏差
【0056】
また、過去の操業データの数は、開度偏差のバラつき(標準偏差)を評価するために50回以上とすることが好ましい。一方、長期的な変動によりパターンが変化することに対応するため、過去の操業データの数を200回以下とすることが好ましい。
【0057】
(湯面高さ及び開度偏差による検知方法)
さらに、第2検知では、湯面高さと開度偏差の両方に基いてブレイクアウトを検知してもよい。この場合、判定部16は、湯面高さと開度偏差の両方の監視を行い、湯面高さが許容高さ下限H未満、且つ開度偏差が許容偏差上限S超となった場合に、ブレイクアウトが発生したと判定する。一方、湯面高さが許容高さ下限H未満、且つ開度偏差が許容偏差上限S超とならない場合には、判定部16はブレイクアウトが発生していないと判定する。なお、湯面高さと開度偏差の両方の監視を行い、湯面高さが許容高さ下限H未満、又は開度偏差が許容偏差上限S超となった場合に、ブレイクアウトが発生したと判定してもよい。
【0058】
以上のように、第2検知では、湯面高さ及び開度偏差の少なくとも一方に基づいて判定することで、ブレイクアウトの発生を検知する。ブレイクアウトの発生の判定は、鋳造開始後の時間経過における許容高さ下限H及び許容偏差上限Sの少なくとも一方で行われるため、鋳造開始直後の過渡状態においても、湯面高さやノズル開度に対する一定の閾値で判定する場合に比べて精度よく判定することができる。
【0059】
さらに、過去の複数の操業データ及び(1)式を用いて許容高さ下限Hを設定、又は過去の複数の操業データ及び(2)式を用いて許容偏差上限Sを設定することで、精度よくブレイクアウトを検知することができる。湯面高さは、一定値となるように自動で制御されているが実際には一定ではなく、ある程度の範囲でバラつく。鋳造開始直後は一定の操業に基づいているため、速度パターンも類似するが、鋳造速度を上昇させた直後や、鋳造速度を一定にした直後などのタイミングにおいて湯面がハンチングしやすいため、湯面高さの平均及びバラつきは時間経過に依存する。このため、経過時間毎に許容高さ下限H及び許容偏差上限Sを設定することで、より高い精度でブレイクアウトを検知することができる。さらに、検知精度が高くなることで、誤検知も防止することができ、生産性を向上させることができる。さらに、従来の検知方法に比べて、ブレイクアウトを速やかに検知できるようになることから、ブレイクアウトによる生産影響を低減することもできる。また、鋳型温度に基いた検知方法に比べて、ブレイクアウトを直接的に検知することができるため、検知を抜けなく実施することができる。
【0060】
さらに、ノズル開度は、湯面高さと異なり、鋳型13の大きさ(幅及び厚み)や、種々の条件により開度が一定とはならない。このため、判定を行うチャンス(連続鋳造を行う単位)の鋳込み開始から一定時間の平均値からの変動値である開度偏差を用いて判定することで、鋳型13がどのようなサイズであっても同じ判定基準でブレイクアウトを検知することができるようになる。
【0061】
さらに、湯面高さと開度偏差の両方に基いてブレイクアウトを検知することで、より高い精度でブレイクアウトを検知することができる。
【0062】
さらに、第2検知では、(8)式及び(9)式における係数A,Bを2.0以上7.0以下とする、つまり、過去の操業データの湯面高さ及び開度偏差の標準偏差に対して5~10倍の変動があったときにブレイクアウトを検知することが好ましい。このようにすることで、誤検知なくブレイクアウトを判定することがきる。
【0063】
第2実施形態では、第1検知においてブレイクアウトが検知され、さらに、第2検知においてブレイクアウトが検知された場合に、実際にブレイクアウトが発生したと検知する。このようにすることで、第1検知によってのみブレイクアウトを検知する場合に比べて、誤検知を減らすことができ、検知を抜けなく実施できることから、検知精度を向上させることができる。
【0064】
また、第2実施形態では、設定するべき定数がa,b,A,Bの多くとも4個と少ない。このため、設定するべき定数閾値が多い場合に比べ、最適化のための調整が容易となる。
【0065】
<変形例>
以上で、特定の実施形態を参照して本発明を説明したが、これら説明によって発明を限定することを意図するものではない。本発明の説明を参照することにより、当業者には、開示された実施形態とともに種々の変形例を含む本発明の別の実施形態も明らかである。従って、特許請求の範囲に記載された発明の実施形態には、本明細書に記載したこれらの変形例を単独または組み合わせて含む実施形態も網羅すると解すべきである。
【0066】
例えば、第1及び第2実施形態では、ブレイクアウトの検知方法について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明は、連続鋳造設備の操業方法及び鋳片の製造方法にも適用することができる。本発明の一態様に係る連続鋳造設備の操業方法は、鋼を連続鋳造する連続鋳造設備1の操業方法であって、鋳造開始時期において、第1又は第2実施形態に係るブレイクアウトの検知方法を用いてブレイクアウトを検知する。そして、ブレイクアウトが検知された場合には、鋳型13への溶鋼2の供給を中断し、検知されなかった場合には、鋳型13への溶鋼2の供給を継続する。また、本発明の一態様に係る鋳片の製造方法は、上記の連続鋳造設備1の操業方法を用いて鋼の連続鋳造を行う。
【0067】
また、第1実施形態では、開度値として標準化したノズル開度と、標準化したパラメータxを用いるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。連続鋳造機によって、タンディッシュ形状の差やタンディッシュ10内の地金付着状況などの種々の条件による影響が小さいようであれば、開度値として測定されるノズル開度を用い、(1)式で求められるパラメータxを標準化せずにそのまま用いてもよい。
【実施例0068】
本発明者らが行った実施例について説明する。実施例では、200回分の過去の操業データから許容上限開度を求めた。許容上限開度は、(2)式により求めた。図3には、過去の操業データのプロットと、求められた許容上限開度(破線の直線)と、(4)式で求められる回帰式(実線の直線)をそれぞれ示す。また、図3において、横軸は(1)式で求められるパラメータx、縦軸は標準化されたノズル開度である開度値をそれぞれ示す。また、図3の例では、許容上限開度を求める際に、(5)式で用いる係数cを7とした。
【0069】
さらに、図3には、実際にブレイクアウトが発生した2チャージにおける、開度値とパラメータxのデータを線付きのプロットで示す。図3に示す例では、現状オペレータに頼っているブレイクアウトの検知方法に比べ、5~10秒前にブレイクアウトが検知できることが確認できた。
【0070】
また、図4には、(5)式で用いる係数cと検知件数との関係を示す。図4から分かるように、係数cを小さくすることで検知抜けはなくなるものの誤検知が多くなることから検知件数が大きくなる。また、係数cを大きくすることで、誤検知は減るものの検知抜けが発生するようになる。このため、係数cは、5.0以上10.0以下とすることが好ましいことが分かった。
【0071】
さらに、実施例では、200回分の過去の操業データから、(8)式及び(9)式を用いて、許容高さ下限H及び許容偏差上限Sを求め、2チャンス分のブレイクアウト発生時の湯面高さと開度偏差との比較を行った。
【0072】
図5には、求めた許容高さ下限H及び2チャンス分のブレイクアウト発生時の湯面高さの経過時間に対する挙動を示す。なお、図5において、縦軸は湯面高さであり、横軸はダミーバの引き抜き開始からの経過時間(sec)である。縦軸の湯面高さは、実際の距離に対応した溶鋼レベル計15の出力値(%)であり、45%となるように制御が行われている。また、横軸の経過時間は、鋳型13への溶鋼2の注入開始が-50secであり、ダミーバの引き抜き開始が0secである。図5に示す例では、係数Aを7、つまり湯面高さの平均値に標準偏差の7倍を閾値として与えている。図5に示す例では、許容高さ下限H未満となるタイミングは、現状オペレータに頼っているブレイクアウト検知の10~20秒前となり、ブレイクアウトの検知が精度よく速やかに検知できることを確認した。
【0073】
また、図5に示す例では、時間経過毎に閾値は変動し、鋳込み開始後20秒程度で最大となることが確認できた。これは、鋳込み開始後20秒程度で鋳造速度の変更が行われるため、湯面高さのバラつきが大きくなるためだが、その後はピークの1/3程度に収まることが確認できた。ここで、従来の検知方法では、バラつきのピークに合わせた一定の閾値で検知を行うため、閾値を全時間帯に渡って大きく取らざるを得ない。しかし、第2検知の方法では、過去の操業データから時間経過に合わせて最適な閾値選択を行うため、従来の検知方法に比して速やかにブレイクアウトを検知することが可能である。
【0074】
図6には、求めた許容偏差上限S及び2チャンス分のブレイクアウト発生時の開度偏差の経過時間に対する挙動を示す。なお、図6において、縦軸は開度偏差であり、横軸は図3と同様にダミーバの引き抜き開始からの経過時間(sec)である。縦軸の開度偏差は、経過時間が-50sec~0secまでのノズル開度の平均値との差分であり、経過時間が0secよりも後に示される。また、図6に示す例では、係数Bを4、つまり開度偏差の平均値に標準偏差の4倍を閾値として与えている。さらに、図6のブレイクアウトの発生チャンスは、図5の発生チャンスと同じものである。図6から明らかなように、開度偏差を用いた場合においても、湯面高さを用いた場合と同様にブレイクアウトを従来に比べて速やかに検知できることが確認できた。
【0075】
さらに、(1)式,(2)式における係数A,Bによる、検知精度と誤検知発生の影響についても調査を行った。図7には、係数A,Bを1.0~10.0に変えたときの、係数A,Bとブレイクアウトの検知件数との関係を示す。なお、図5において、「両方」で示すグラフは、湯面高さと開度偏差の両方の検知方法を用いた場合であり、湯面高さとノズル開度の両方においてブレイクアウトを検知された場合にのみブレイクアウトが発生したと検知をしている。なお、この調査では、実際にブレイクアウトが発生した件数は2件である。係数A,Bを小さくすることで誤検知は減るものの過検知が増えることが確認でき、一方、係数A,Bを大きくすることで過検知は減るものの誤検知が増えることが確認できた。このため、本実施例の設備では、係数A,Bは、2.0以上7.0以下程度が適当であることが確認できた。さらに、本実施例では、係数A,Bを4とし、係数cを7として、第1検知と第2検知を組み合わせた条件において、検知件数が2件となり、過検知も誤検知もないことを確認した。図6に示す例では、現状オペレータに頼っているブレイクアウトの検知方法に比べ、ブレイクアウト発生チャンス(1)では9秒前、ブレイクアウト発生チャンス(2)では4秒前にブレイクアウトが検知できることが確認できた。このため、湯面高さと開度偏差の両方を用いて検知をすることで、ブレイクアウトの発生を精度よく検知できることが確認できた。
【0076】
以上の結果から、第1検知と第2検知とを組わせることで、過検知も誤検知も少なくすることができ、精度よくブレイクアウトを検知できることが確認できた。
【符号の説明】
【0077】
1 連続鋳造設備
10 タンディッシュ
11 スライディングノズル
110 プレート
12 浸漬ノズル
13 鋳型
14 支持ロール
15 溶鋼レベル計
16 判定部
17 ダミーバ
2 溶鋼
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7