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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140179
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】レーダ反射断面積計測用装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/41 20060101AFI20241003BHJP
   G01S 7/40 20060101ALI20241003BHJP
   H01F 7/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01S7/41
G01S7/40 104
H01F7/02 F
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051201
(22)【出願日】2023-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-05-02
(71)【出願人】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】松林 一也
(72)【発明者】
【氏名】平野 誠
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼熊 亨
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC19
5J070AE04
5J070AE06
5J070AF01
5J070AK22
(57)【要約】
【課題】目標物と台座の間に接続箇所が存在しないため高精度なRCS 計測が可能なレーダ反射断面積計測用台座を提供する。
【解決手段】台座1は、床面G上に設置した回転台3の上に設けた電磁石4と、目標物100 に設けた永久磁石5と、目標物100 を回転台3に連結する化学繊維糸6と、回転台3及び電磁石4等を電波から遮蔽する電波吸収体7とを具備している。電磁石4が発生する磁場と永久磁石5が発生する磁場の相互作用により永久磁石5に発生する磁力を、目標物100 に発生する重力と釣り合わせることにより、目標物100 を中空に保持できる。目標物100 の周囲に異物がなく、電磁石等も電波から遮蔽されているため、目標物100 の高精度なRCS 計測が可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物のレーダ反射断面積を計測するために前記目標物を保持するレーダ反射断面積計測用台座であって、
設置面に設置された第1磁場発生手段と、
前記目標物に設けられた第2磁場発生手段と、
前記第1磁場発生手段を電波から遮蔽する電波吸収体と、
を具備し、
前記第1磁場発生手段が発生する磁場と前記第2磁場発生手段が発生する磁場の相互作用により前記第2磁場発生手段に発生する磁力を、前記目標物に発生する重力と釣り合わせることにより、前記目標物を中空に保持することを特徴とするレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項2】
第1磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであり、第2磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであることを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項3】
前記第1磁場発生手段が電磁石であり、
前記第2磁場発生手段が永久磁石であり、
前記目標物の位置を検出するセンサを備えており、
前記センサが検出した前記目標物の位置に応じて前記電磁石を制御することにより、前記目標物を中空に保持することを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項4】
前記電磁石が床面上に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する斥力であることを特徴とする請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項5】
前記電磁石が天井面に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する引力であることを特徴とする請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項6】
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の内部の空間に設けられており、前記目標物の表面における前記空間の開口部は、前記目標物の外形に沿って磁気透過性材料により作製された蓋体により閉止されていることを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項7】
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の表面の少なくとも一部と同一の形状に形成されて前記一部に設けられた可撓性磁石板であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項8】
前記第2磁場発生手段に発生する磁力が、前記第2磁場発生手段を含む前記目標物の重心に作用するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【請求項9】
前記目標物を化学繊維糸で固定部分に接続したことを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射された電波に対する目標物のレーダ反射断面積(Radar cross-section 、以下「RCS」という)を計測するために前記目標物が取り付けられるレーダ反射断面積計測用台座(以下、単に台座とも称する。)に係り、特に目標物の高精度なRCS計測が可能なレーダ反射断面積計測用台座に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標物に照射されて目標物により散乱(反射)された電波の大きさは、目標物の材質や形状、大きさ等に依存するが、目標物が完全導体球(金属製の球)の場合は、照射されたエネルギーが100%等方的に散乱される。そこで、レーダから電波の照射を受けた目標物が受信アンテナの方向に電波を反射させる能力の尺度として、前記完全導体球を基準にして換算した当該目標物の断面積をレーダ反射断面積として定義する。すなわちレーダ反射断面積は、ターゲットを完全導体球に置き換えたと仮定した場合に、同じ大きさの反射波が受信されるような完全導体球の断面積を意味しており、反射波の反射電力に正比例する値となっている。
【0003】
図12は、目標物の一例である航空機100(目標物100とも呼ぶ。)のRCS計測の原理を示す図である。図12に示すように、RCS計測は、RCS計測装置101から目標物100に対して電波を照射(照射電波102)し、そのときの目標物から反射した電波(反射電波103)を計測することによって行われる。RCS計測においては、目標物100のみが空中に浮遊して静止した状態で計測を行うことが望ましいが、実際にはそのような状態を実現することは困難であるため、目標物100の下部に、目標物100を支持するためのレーダ反射断面積計測用台座を設置することが必要となる。台座が存在する状況下で、RCS計測を理想的な状態、すなわち目標物100のみが浮遊しているような状態に近づけるためには、台座自体のRCSが目標物100のRCSに対して無視できるほど小さくなくてはならない。仮に、台座のRCSが十分に小さくない場合には、目標物100のRCS計測精度が著しく低下する。
【0004】
従来の代表的な台座には、発泡スチロール製台座と金属製台座がある。
図13に発泡スチロール製台座107の一例を示す。発泡スチロール製台座107は、発泡スチロールの比誘電率が空気の誘電率に近いために電波を透過しやすいという性質を利用し、照射された電波(照射電波102)のうち透過成分(透過電波104)を増加させ、反射成分(反射電波103)を減少させることで台座107のRCSの低減を図るものである。また台座107を回転台108に固定し、この回転台108回転させることにより、目標物100の姿勢角を、図中矢印で示すアジマス方向に変化させてRCSを計測する。
【0005】
図14に金属製台座111の一例を示す。この金属製台座111は、図中破線で示すように水平な断面がオジャイブ形状の支柱と、その上部に設けられたローテータ109で構成される。金属製台座111がオジャイブ形状であることにより、照射された電波(照射電波102)のうち電波の送受信方向106以外の方向への反射成分(反射電波105)を増加させ、電波の送受信方向106への反射成分(反射電波103)を減少させることで台座111のRCS低減を図るものである。また目標物100を、別途用意したインターフェース110を介してローテータ109と固定し、ローテータ109を回転させることにより、目標物100の姿勢角を、図中矢印で示すアジマス方向に変化させてRCSを計測する。
【0006】
RCS計測では、測定位置の周辺の状況に影響を避けるため、電波の不要な反射が少ない環境を選択する必要があり、そのために目標物の設置場所を変えながら計測を行いたい場合がある。このような場合には金属製台座は重量物であるため用いられず、発泡スチロール製台座が用いられるのが普通である。
【0007】
なお、下記非特許文献1には、発泡スチロール製台座のRCSは周波数の4乗および台座の体積に正比例することが記載されている。このため、周波数が高い場合や台座の体積が大きい場合には、台座のRCSが増加する可能性があり、単に台座の材質を発泡スチロールとしただけでは、台座のRCSを十分に低減できない場合があると考えられる。
【0008】
また、前述のとおり発泡スチロール製台座は、照射された電波のうち透過成分を増加させることによりRCSを低減するものであるが、電波の透過成分を増加させるためには、発泡度を高くする必要があり、その場合、強度的に弱いものとなるため、使用の度に劣化するという問題点もある。
【0009】
以上説明したように、台座のRCSを低減するためには、発泡スチロールのような電波を透過しやすい材質を選択することも考えられるが、その他、材質以外では台座の形状を工夫することも考えられる。
【0010】
図15は、RCSを低減するために、台座の形状を円錐台形状や多角錐形状とした場合を示している。これらは、いずれも電波の送受信方向106以外の方向への電波の反射成分(反射電波105)を増加させ、電波の送受信方向106への電波の反射成分(反射電波103)を減少させることで、台座のRCSの低減を図ろうとするものである。分図(b)の多角錐形状の台座112では、同分図中、縦方向である錐形状の軸線を中心とした回転方向(アジマス方向)に台座112を回動させた場合、多角錐形状のカット面114が電波の送受信方向106と正対すると、台座112のRCSが急激に上昇してしまう。このため、通常はアジマス方向の回動によってRCSが変化しない分図(a)の円錐台形状の台座113が用いられることが多い。しかしながら、この場合でも、発泡スチロールからの反射を完全に除去することはできない。また、発泡スチロールを円錐台形状に切断・加工することとで、強度的にはさらに弱いものとなり、繰り返しの使用の際には発泡スチロールの形状が変化し、反射特性が変化してしまう。
【0011】
また、台座のRCSの低減が可能な形状の他の公知例としては、下記特許文献1に開示された蛇腹形状の台座115が知られている。この蛇腹形状の台座115は、図16に示すように、電波を受ける部分に蛇腹構造を設けることにより、電波の送受信方向106以外の方向への電波の反射成分(反射電波105)を増加させ、電波の送受信方向106への電波の反射成分(反射電波103)を減少させることで、台座115のRCS低減を図っている。なお、蛇腹のピッチdは照射電波102の波長と同程度とされており、また台座115の材質はセラミックである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5-172931号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】M. A. Plonus, “Theoretical Investigations of Scattering from Plastic Foams ”, IEEE Trans. A. P., Vol. 13, pp.88-93, 1965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上説明した従来の技術と、その課題に鑑みてなされたものであり、可搬性があるため設置及び撤去が容易であるとともに、目標物と台座の間に接続箇所(接続用治具)があることに起因する計測誤差がないため、高精度なRCS計測が可能なレーダ反射断面積計測用台座を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、
目標物のレーダ反射断面積を計測するために前記目標物を保持するレーダ反射断面積計測用台座であって、
設置面に設置された第1磁場発生手段と、
前記目標物に設けられた第2磁場発生手段と、
前記第1磁場発生手段を電波から遮蔽する電波吸収体と、
を具備し、
前記第1磁場発生手段が発生する磁場と前記第2磁場発生手段が発生する磁場の相互作用により前記第2磁場発生手段に発生する磁力を、前記目標物に発生する重力と釣り合わせることにより、前記目標物を中空に保持することを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
第1磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであり、第2磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであることを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記第1磁場発生手段が電磁石であり、
前記第2磁場発生手段が永久磁石であり、
前記目標物の位置を検出するセンサを備えており、
前記センサが検出した前記目標物の位置に応じて前記電磁石を制御することにより、前記目標物を中空に保持することを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記電磁石が床面上に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する斥力であることを特徴としている。
【0019】
請求項5に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記電磁石が天井面に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する引力であることを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の内部の空間に設けられており、前記目標物の表面における前記空間の開口部は、前記目標物の外形に沿って磁気透過性材料により作製された蓋体により閉止されていることを特徴としている。
【0021】
請求項7に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の表面の少なくとも一部と同一の形状に形成されて前記一部に設けられた可撓性磁石板であることを特徴としている。
【0022】
請求項8に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記第2磁場発生手段に発生する磁力が、前記第2磁場発生手段を含む前記目標物の重心に作用するように構成されたことを特徴としている。
【0023】
請求項9に記載されたレーダ反射断面積計測用台座は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用台座において、
前記目標物を化学繊維糸で固定部分に接続したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、第1磁場発生手段が発生する磁場と第2磁場発生手段が発生する磁場の相互作用によって第2磁場発生手段に発生する磁力が、目標物に作用する重力と釣り合うため、目標物を中空に保持することができる。目標物の周囲には異物が存在せず、第1磁場発生手段も電波吸収体によって計測用の電波から遮蔽されているため、目標物の高精度なRCS計測が可能となる。
【0025】
請求項2に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段を、それぞれ永久磁石と電磁石の何れかで構成することができるため、測定位置の周辺の環境や利用可能な電源の状況等に応じて磁場発生手段の適宜な組み合わせを選択することができる。
【0026】
請求項3に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、電磁石が発生する磁場と永久磁石が発生する磁場の相互作用によって永久磁石に発生する磁力が、永久磁石を含む目標物に作用する重力と釣り合うため、目標物を中空に保持することができる。中空に保持された目標物の位置はセンサによって検出されており、目標物の位置を示すセンサからの信号によって電磁石が制御されるので、目標物の永久磁石に作用する磁力は目標物に作用する重力と常に釣り合うように調整されるため、目標物を安定して中空に保持することができる。
【0027】
請求項4に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、床面上の電磁石が発生する磁場と永久磁石が発生する磁場の相互作用により永久磁石に発生する磁力は、電磁石から離れる上向きに作用する斥力であり、これが永久磁石を含む目標物に作用する下向きの重力と釣り合うため、床面及び電磁石の上方に目標物を保持することができる。
【0028】
請求項5に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、天井面上の電磁石が発生する磁場と永久磁石が発生する磁場の相互作用により永久磁石に発生する磁力は、電磁石に向かう上向きに作用する引力であり、これが永久磁石を含む目標物に作用する下向きの重力と釣り合うため、床面及び電磁石の上方に目標物を保持することができる。
【0029】
請求項6に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、表面に開口するように目標物の内部に空間を設け、この空間に第2磁場発生手段を設けた場合において、目標物の外形に沿った形状の磁気透過性材料からなる蓋体で開口部を閉止したため、第2磁場発生手段の磁場は蓋体を問題なく透過し、また目標物の外形は元のままであるためRCSにも変化は生じない。
【0030】
請求項7に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、目標物の表面の少なくとも一部と同一の形状に形成されて当該一部に設けた可撓性磁石板を第2磁場発生手段としたため、目標物の外形は元のままであるためRCSにも変化は生じない。
【0031】
請求項8に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、第2磁場発生手段に発生する磁力の合力が目標物全体の重心に作用するため、中空に保持される目標物の姿勢が安定し、目標物が回転してしまうことがない。
【0032】
請求項9に記載されたレーダ反射断面積計測用台座によれば、目標物を化学繊維糸で固定部分に接続したため、中空に保持される目標物の姿勢が安定する。また、化学繊維糸はRCSが極めて小さく、RCS計測に与える影響は無視できるほど小さい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態の台座と、これを用いたRCS計測を示す斜視図である。
図2】第1実施形態の台座による目標物の浮遊原理を示す説明図である。
図3】分図(a)は、第1実施形態の台座に用いられる永久磁石の斜視図であり、分図(b)は、当該永久磁石のサイズ及び吸引力等を表形式のリストで示す図である。
図4】第1実施形態の台座により浮遊させた永久磁石を回転させる原理を示す説明図である。
図5】分図(a)は、第1実施形態における目標物の内部構造を示す一部切欠側面図であり、分図(b)は、分図(a)におけるb-b線断面図である。
図6】分図(a)は、第1実施形態の変形例における目標物の内部構造を示す側面図であり、分図(b)は、分図(a)におけるb-b線断面図である。
図7】第1実施形態の台座に目標物としての発泡スチロール製治具を載置してRCS計測を行なっている状況を示す説明図である。
図8】第1実施形態の台座に目標物を保持させずにRCS計測を行なっている状況を示す説明図である。
図9】第1実施形態の台座によって目標物としてのアルミニウム製円柱を浮遊させてRCS計測を行なっている状況を示す説明図である。
図10図7図8に示す各状況下で得られたRCS計測結果を示す図である。
図11】第2実施形態の台座による目標物の浮遊原理を示す説明図である。
図12】航空機のRCS計測の原理を示す図である。
図13】従来の発泡スチロール製の台座の一例を示す図である。
図14】従来の金属製の台座の一例を示す図である。
図15】従来の台座におけるRCS計測の原理を示す図であって、分図(a)は円錐台形状の台座を示し、分図(b)は多角錐形状の台座を示す。
図16】従来の蛇腹構造の台座の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1実施形態を図1図10を参照して説明する。
図1を参照して第1実施形態のレーダ反射断面積計測用台座1(以下、必要に応じて台座1と略称する。)の構造及び作用効果の概要を説明する。
図1に示すように、第1実施形態のレーダ反射断面積計測用台座1(以下、必要に応じて台座1と略称する。)は、不動の固定部分である設置面としての床面G上に設置された基台2と、基台2上に設けられた回転台3と、回転台3上に設けられた第1磁場発生手段としての電磁石4と、RCS計測の対象である目標物100に設けられた第2磁場発生手段としての永久磁石5と、固定部分としての回転台3に目標物100を接続する化学繊維糸6と、基台2と回転台3と電磁石4を電波から遮蔽する電波吸収体7とを有している。
【0035】
図1に示すように、電磁石4が発生する磁場と、目標物100に設けられた永久磁石5が発生する磁場の相互作用とによって、永久磁石5には、電磁石4に対する斥力である図中上向きの磁力が発生しており、永久磁石5を含む目標物100に作用する図中下向きの重力と、当該磁力とが釣り合うことにより、化学繊維糸6に所定の張力が加わって真っ直ぐ延びた状態となっている状態で、目標物100は電磁石4の上方の中空に安定して保持されている。
【0036】
図1に示すように、図示しないRCS計測装置から目標物100に対して照射電波102を照射してRCS計測を行なう。基台2と回転台3と電磁石4は電波吸収体7により電波から遮蔽されているため、電波は浮遊している目標物100のみに照射される。化学繊維糸6はRCSが極めて小さいため、目標物100のRCS計測に誤差を生じさせるような異物は目標物100の周囲には実質的に存在せず、後にデータを提示して説明するように、従来に較べて高精度なRCS計測を行なうことができる。
【0037】
また、RCS計測において必要がある場合には、回転台3を駆動し、回転台3に載せられた電磁石4を回転させ、目標物100のアジマス方向の向きを任意に変えることができる。この場合、目標物100は化学繊維糸6によって連結された回転台3とともに円滑に安定して回転するので、姿勢が乱れることはない。なお、回転台3は、例えばモータと機械的な伝達機構で円盤状の台を回すものでもよいし、図1に示した回転台3を固定的な台と考え、その上に載置する電磁石4を、複数の電磁石4を周状に並べた構成とし、これらを所定のタイミングで順に駆動することにより発生する磁界により、円盤状の永久磁石5に回転力を与えるものであってもよい。この場合は、第1磁場発生手段である電磁石4が、永久磁石5の回転手段(回転台)を兼ねることとなる。また、目標物100に一端が接続されている化学繊維糸6が、目標物100の回転に伴って捩れないようにするため、目標物100と同期して回転できる図示しない環状の固定部分を設け、これに化学繊維糸6の他端を接続するものとしてもよい。なお、図示はしないが、目標物100のエレベーション方向の向きを調整できる機構を設けてもよい。
【0038】
また、この台座1によれば、目標物100は空中に浮遊しているため、何らかの理由で目標物100が揺れた場合、揺れが収まるまでに相応の時間を要し、その間はRCS計測を行なうことが困難になる。しかしながら、この台座1によれば、目標物100が化学繊維糸6で回転台3に接続されているので、予期せぬ理由で目標物100が揺れた場合であっても、揺れが収まってRCS計測を再開できるまでに要する時間を短縮することができる。
【0039】
図2は、第1実施形態の台座1によって、目標物100に設けられた永久磁石5を、目標物100とともに浮遊させるための原理及び構造を説明する図である。なお、この図は原理を示すものであるから、永久磁石5が設けられた目標物100は図中には示していない。
【0040】
図2に示すように、電磁石4は、図示しない基台2(図1)上に載置された、固定部分である回転台3の上に設置されており、電源及び電源制御部8に接続されている。電磁石4の横の上方には、電磁石4の上方を検知範囲とするセンサ9が配置されている。センサ9は、電源及び電源制御部8に接続されており、永久磁石5の位置乃至上下方向への移動量を測定し、その測定結果を検出信号として電源及び電源制御部8に出力する。図2では、センサ9は電磁石4の位置等を検出しているように表現しているが、実機では目標物100の位置等を検出することになる。電源及び電源制御部8は、センサ9から送られた検出信号に基づいて電磁石4に供給する電力を制御し、その結果、永久磁石5を含む図示しない目標物100は電磁石4の上方の所定位置に停止するか、又は所定位置を含む上下方向の狭い所定範囲内に位置決めされるように位置制御される。永久磁石5が設けられた目標物100の位置や移動をセンサ9が検出する原理は特に限定しない。
【0041】
図2において、電源及び電源制御部8から電磁石4に適当な電力が供給されると、電磁石4が発生する磁場と、図示しない目標物100中の永久磁石5が発生する磁場との相互作用により、永久磁石5には、電磁石4に関して斥力となる上向きの磁力が発生する。この磁力は、センサ9からの検出信号を用いた電源及び電源制御部8による制御により、目標物100に作用する重力と釣り合うように調節される。すなわち、永久磁石5を内包する図示しない目標物100の位置が変化すると、その位置の変化をセンサ9が捉え、検知信号として電源及び電源制御部8に送る。電源及び電源制御部8は、検知信号の変化に基づいて電磁石4に供給する電力を調節し、その結果、永久磁石5に作用する磁力が調節される。これによって、目標物100が内包する永久磁石5に作用する磁力と、目標物100の全体に働く重力とが常に釣り合う状態が得られるため、目標物100を中空に安定して保持することができる。なお、図2に示した永久磁石5は、同図中に文字で示したように、電磁石4で代替することもできる。
【0042】
図3は、第1実施形態の台座1において使用される永久磁石5の一例であるネオジウム磁石を示している。図2(a)に示すように、この永久磁石5は直径d[mm]、高さh[mm]の円柱形であり、永久磁石5の直径d及び高さhのサイズの組み合わせごとに、磁束密度[mT]及び吸引力[kgf]の値を示した。RCS計測の目標物100の形状、大きさに適用できるサイズ(直径d[mm]及び高さh[mm])であって、当該目標物100の重量に対して必要な磁力が得られるような吸引力を発生しうる磁石を選択すればよい。なお、永久磁石5は電磁石4に吸着されるのではなく、目標物100に収納された永久磁石5を目標物100とともに磁力で浮遊させることが目的であるから、一定の大きさの永久磁石5を浮遊させるために必要な磁力は、図2(b)に示した「吸引力」よりも小さくて済む。図3(b)からは、永久磁石5の体積を大きくすれば、浮遊させうる目標物100の重量は増加することが分かる。
【0043】
図4は、第1実施形態の台座1において、図示しない目標物100に設けられる永久磁石5を浮遊させた状態で回転させる動作の原理図である。回転台3は図示しない機構により電磁石4とともに回転可能である。図1の説明では目標物100が回転台3に化学繊維糸6で接続されていたが、この原理図では永久磁石5が化学繊維糸6で電磁石4に接続されている。電磁石4を取り付けた、又は載置した回転台3を回転させれば、電磁石4に繋がれて浮遊している永久磁石5を回転させることができる。
【0044】
図5は、第1実施形態の台座1によって浮遊する目標物100(具体的には飛翔体)の図であり、目標物100に永久磁石5を設けるための一構造例を示している。目標物100の本体、少なくともその外殻は中空円筒形であり、この本体において、その周壁の下側の一部から、中心角を約60度とする周状に曲がった板状部を切り出し、本体の内部の空間に連通する開口部20を設ける。開口部20から本体の内部の空間21に永久磁石5を持ち込み、本体の中心よりも開口部20に近接した位置に永久磁石5を固定する。任意の磁気透過性材料、例えば比透磁率が1の金属(アルミニウム等)を前記板状部と同寸法・同形状に加工・製作した蓋体10を用意し、前記開口部20を当該蓋体10で閉止する。この構造によれば、永久磁石5を本体の内部の空間21に収納しているが、永久磁石5の磁場は蓋体10を透過するので、電磁石4との相互作用による磁力を用いた浮上の作用には影響がない。また、目標物100の外観に変化はないので、RCS計測にも影響はない。
【0045】
図6は、第1実施形態の変形例において、目標物100(具体的には飛翔体)に永久磁石を設けるための他の構造例を示している。目標物100の本体、少なくともその外殻はは中空円筒形であり、この本体において、その周壁の下側の一部から、中心角を約60度とする周状に曲がった板状部を切り出し、本体の内部の空間に連通する開口部を設ける。前記板状部と同寸法・同形状に加工・製作した可撓性磁石板11を用意し、前記開口部を当該可撓性磁石板11で閉止する。この構造によれば、永久磁石である可撓性磁石板11は目標物100の外側に露出しているので、電磁石4との相互作用による磁力を用いた浮上の作用には影響がない。また、目標物100の外観に変化はないので、RCS計測にも影響はない。
【0046】
図7図10を参照して第1実施形態の台座1によるRCSの低減効果及びRCSの計測精度について説明する。
図7は、第1実施形態の台座1に、目標物100として円柱形状の発泡スチロール製治具15を配置し、RCS計測装置101から発泡スチロール製治具15に対して電波を照射(照射電波102)し、反射した電波(反射電波103)を計測した第1の比較例を示している。円柱形状の発泡スチロール製治具15の直径は0.35m、高さは0.2mで発泡倍率は50倍である。
【0047】
図8は、第1実施形態の台座1に何も置かない状態でRCS計測装置101から電波を照射(照射電波102)し、反射した電波(反射電波103)を計測した第2の比較例を示している。
【0048】
図9は、第1実施形態の台座1によって、永久磁石5が仕込まれた目標物100としてのアルミニウム製円柱体16を浮遊させ、これに対してRCS計測装置101から電波を照射(照射電波102)し、反射した電波(反射電波103)を計測した第1実施形態を示している。アルミニウム製円柱体16の直径は0.2m、高さは0.05mである。
【0049】
これらの実験におけるRCS計測は屋内で実施し、計測に使用した電波の周波数および偏波はX帯の垂直偏波である。目標物のRCSは、比較較正法を用いて次式により算出した。なお、「RCS計測用基準目標」とは、「背景技術」の項で説明した完全導体球(金属製の球)を意味する。
(目標物100のRCS)
={(目標物100の反射電力)/ (RCS計測用基準目標の反射電力)} ×(RCS計測用基準目標のRCS)
【0050】
図10に、図7図9の実験において得られた計測結果を示す。
図10のグラフにおいて、横軸は計測回数であり、縦軸は被測定対象のRCS[dBsm]である。計測の時間間隔は1分程度である。図中の破線は、図7に示した円柱形状の発泡スチロール製治具15の結果である。実線は、図8に示した実施形態の台座1の結果である。一点鎖線は、実施形態の台座1により浮遊させた図9に示すアルミ製円柱16の結果である。
【0051】
浮遊状態にあるアルミ製円柱16(一点鎖線)は、RCSが-12dBsm程度であって理論値の-12.81dBsmに近く、しかも測定回ごとの差が小さく、非常に安定している。円柱形状の発泡スチロール製治具15(破線)は、電波吸収体7で遮蔽されないため、反射は比較的大きく、RCSは-20dBsm程度であり、アルミ製円柱16(一点鎖線)と約10dBsm程度の差が認められた。実施形態の治具1(実線)は、電波吸収体7で遮蔽されるため、反射は極めて小さく、RCSは-50dBsm程度となっており、計測環境の外部雑音レベルと同等であり、アルミ製円柱16(一点鎖線)と約40dBsmの差が認められた。
【0052】
本発明の第2実施形態を、図11を参照して説明する。
図11は、第2実施形態の台座1によって、目標物100に設けられた永久磁石5を、目標物100とともに浮遊させるための原理及び構造を説明する図である。第2実施形態の台座1は、図2に示した第1実施形態の台座1と同様の構成を備えているが、以下に説明するように設置する向きが異なる。また、図2の場合と同様に、永久磁石5が設けられた目標物100は図中には示していない。
【0053】
図11に示すように、電磁石4は、固定部分である回転台3の載置面(下面)に取り付けられている。図11には示していないが、設置面としての天井面(天井の下面側)には、図1に示したものと同様の基台2が取り付けられており、この基台2の載置面(下面)に、図11に示した前記回転台3が取り付けられており、図11に示すように、この回転台3の載置面(下面)に電磁石4が取り付けられている。電磁石4は、電源及び電源制御部8に接続されている。電磁石4の横の下方には、電磁石4の下方を検知範囲とするセンサ9が配置されている。センサ9は、電源及び電源制御部8に接続されており、永久磁石5の位置乃至上下方向への移動量を測定し、その測定結果を検出信号として電源及び電源制御部8に出力する。図11では、センサ9は電磁石4の位置等を検出しているように表現しているが、実機では目標物100の位置等を検出することになる。電源及び電源制御部8は、センサ9から送られた検出信号に基づいて電磁石4に供給する電力を制御し、その結果、永久磁石5は電磁石4の下方の所定位置に停止するか、又は所定位置を含む上下方向の狭い所定範囲内に位置決めされるように位置制御される。永久磁石5が設けられた目標物100の位置や移動をセンサ9が検出する原理は特に限定しない。
【0054】
図11において、電源及び電源制御部8から電磁石4に適当な電力が供給されると、電磁石4が発生する磁場と、図示しない目標物100が内包する永久磁石5が発生する磁場の相互作用により、永久磁石5には、電磁石4に関して引力となる上向きの磁力が発生する。この磁力は、センサ9からの検出信号を用いた電源及び電源制御部8による制御により、目標物100に作用する重力と釣り合うように調節される。すなわち、永久磁石5を内包する図示しない目標物100の位置が変化すると、その位置の変化をセンサ9が捉え、検知信号として電源及び電源制御部8に送る。電源及び電源制御部8は、検知信号の変化に基づいて電磁石4に供給する電力を調節し、その結果、永久磁石5に作用する磁力が調節される。これによって、永久磁石5に作用する磁力と、目標物100の全体に働く重力とが常に釣り合う状態が得られるため、目標物100を中空に安定して保持することができる。なお、図2に示した永久磁石5は、同図中に文字で示したように、電磁石4で代替することができるが、電磁石4に吸着される方向の磁力を利用するため、磁界によって磁化される磁性体(鉄、ニッケル等)で代替することも可能である。
【0055】
以上説明したように、本発明の各実施形態に係る台座1によれば、装置としての機械的な脆弱性がなく、また可搬性があるため設置及び撤去が容易であるため、屋内・屋外何れであっても容易に設置でき、さらに目標物100と台座1の間に接続箇所(接続用治具)が存在しないため、これが存在することに起因する計測誤差がなく、高精度のRCS計測を行なうことができる。
【0056】
なお、以上説明した各実施形態における主たる構成では、床面G又は天井面等の設置面に設置した第1磁場発生手段を電磁石4とし、目標物100に設けた第2磁場発生手段を永久磁石5としたが、第1磁場発生手段を永久磁石5とし、第2磁場発生手段を電磁石4としてもよい。また、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段の両方を電磁石4としてもよいし、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段の両方を永久磁石5としてもよい。これら磁場発生手段の種類や組み合わせは、測定位置の周辺の環境や利用可能な電源の状況等に応じて任意に選択することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…レーダ反射断面積計測用台座(台座)
3…固定部分である回転台
4…第1磁場発生手段としての電磁石
5…第2磁場発生手段としての永久磁石
6…化学繊維糸
9…センサ
10…蓋体
11…第2磁場発生手段である永久磁石としての可撓性磁石板
15…目標物としての発泡スチロール製治具
16…目標物としてのアルミニウム製円柱
20…目標物の開口部
21…目標物の内部の空間
100…目標物又は航空機
G…台座の設置面である床面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2024-02-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標物のレーダ反射断面積を計測するために前記目標物を保持するレーダ反射断面積計測用装置であって、
設置面に設置された第1磁場発生手段と、
前記目標物に設けられた第2磁場発生手段と、
前記第1磁場発生手段を電波から遮蔽する電波吸収体と、
を具備し、
前記第1磁場発生手段が発生する磁場と前記第2磁場発生手段が発生する磁場の相互作用により前記第2磁場発生手段に発生する磁力を、前記目標物に発生する重力と釣り合わせることにより、前記目標物を中空に保持することを特徴とするレーダ反射断面積計測用装置
【請求項2】
第1磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであり、第2磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであることを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項3】
前記第1磁場発生手段が電磁石であり、
前記第2磁場発生手段が永久磁石であり、
前記目標物の位置を検出するセンサを備えており、
前記センサが検出した前記目標物の位置に応じて前記電磁石を制御することにより、前記目標物を中空に保持することを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項4】
前記電磁石が床面上に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する斥力であることを特徴とする請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項5】
前記電磁石が天井面に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する引力であることを特徴とする請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項6】
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の内部の空間に設けられており、前記目標物の表面における前記空間の開口部は、前記目標物の外形に沿って磁気透過性材料により作製された蓋体により閉止されていることを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項7】
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の表面の少なくとも一部と同一の形状に形成されて前記一部に設けられた可撓性磁石板であることを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項8】
前記第2磁場発生手段に発生する磁力が、前記第2磁場発生手段を含む前記目標物の重心に作用するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【請求項9】
前記目標物を化学繊維糸で固定部分に接続したことを特徴とする請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射された電波に対する目標物のレーダ反射断面積(Radar cross-section 、以下「RCS」という)を計測するために前記目標物が取り付けられるレーダ反射断面積計測用装置(以下、単に装置とも称する。)に係り、特に目標物の高精度なRCS計測が可能なレーダ反射断面積計測用装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
目標物に照射されて目標物により散乱(反射)された電波の大きさは、目標物の材質や形状、大きさ等に依存するが、目標物が完全導体球(金属製の球)の場合は、照射されたエネルギーが100%等方的に散乱される。そこで、レーダから電波の照射を受けた目標物が受信アンテナの方向に電波を反射させる能力の尺度として、前記完全導体球を基準にして換算した当該目標物の断面積をレーダ反射断面積として定義する。すなわちレーダ反射断面積は、ターゲットを完全導体球に置き換えたと仮定した場合に、同じ大きさの反射波が受信されるような完全導体球の断面積を意味しており、反射波の反射電力に正比例する値となっている。
【0003】
図12は、目標物の一例である航空機100(目標物100とも呼ぶ。)のRCS計測の原理を示す図である。図12に示すように、RCS計測は、RCS計測装置101から目標物100に対して電波を照射(照射電波102)し、そのときの目標物から反射した電波(反射電波103)を計測することによって行われる。RCS計測においては、目標物100のみが空中に浮遊して静止した状態で計測を行うことが望ましいが、実際にはそのような状態を実現することは困難であるため、目標物100の下部に、目標物100を支持するためのレーダ反射断面積計測用台座を設置することが必要となる。台座が存在する状況下で、RCS計測を理想的な状態、すなわち目標物100のみが浮遊しているような状態に近づけるためには、台座自体のRCSが目標物100のRCSに対して無視できるほど小さくなくてはならない。仮に、台座のRCSが十分に小さくない場合には、目標物100のRCS計測精度が著しく低下する。
【0004】
従来の代表的な台座には、発泡スチロール製台座と金属製台座がある。
図13に発泡スチロール製台座107の一例を示す。発泡スチロール製台座107は、発泡スチロールの比誘電率が空気の誘電率に近いために電波を透過しやすいという性質を利用し、照射された電波(照射電波102)のうち透過成分(透過電波104)を増加させ、反射成分(反射電波103)を減少させることで台座107のRCSの低減を図るものである。また台座107を回転台108に固定し、この回転台108回転させることにより、目標物100の姿勢角を、図中矢印で示すアジマス方向に変化させてRCSを計測する。
【0005】
図14に金属製台座111の一例を示す。この金属製台座111は、図中破線で示すように水平な断面がオジャイブ形状の支柱と、その上部に設けられたローテータ109で構成される。金属製台座111がオジャイブ形状であることにより、照射された電波(照射電波102)のうち電波の送受信方向106以外の方向への反射成分(反射電波105)を増加させ、電波の送受信方向106への反射成分(反射電波103)を減少させることで台座111のRCS低減を図るものである。また目標物100を、別途用意したインターフェース110を介してローテータ109と固定し、ローテータ109を回転させることにより、目標物100の姿勢角を、図中矢印で示すアジマス方向に変化させてRCSを計測する。
【0006】
RCS計測では、測定位置の周辺の状況に影響を避けるため、電波の不要な反射が少ない環境を選択する必要があり、そのために目標物の設置場所を変えながら計測を行いたい場合がある。このような場合には金属製台座は重量物であるため用いられず、発泡スチロール製台座が用いられるのが普通である。
【0007】
なお、下記非特許文献1には、発泡スチロール製台座のRCSは周波数の4乗および台座の体積に正比例することが記載されている。このため、周波数が高い場合や台座の体積が大きい場合には、台座のRCSが増加する可能性があり、単に台座の材質を発泡スチロールとしただけでは、台座のRCSを十分に低減できない場合があると考えられる。
【0008】
また、前述のとおり発泡スチロール製台座は、照射された電波のうち透過成分を増加させることによりRCSを低減するものであるが、電波の透過成分を増加させるためには、発泡度を高くする必要があり、その場合、強度的に弱いものとなるため、使用の度に劣化するという問題点もある。
【0009】
以上説明したように、台座のRCSを低減するためには、発泡スチロールのような電波を透過しやすい材質を選択することも考えられるが、その他、材質以外では台座の形状を工夫することも考えられる。
【0010】
図15は、RCSを低減するために、台座の形状を円錐台形状や多角錐形状とした場合を示している。これらは、いずれも電波の送受信方向106以外の方向への電波の反射成分(反射電波105)を増加させ、電波の送受信方向106への電波の反射成分(反射電波103)を減少させることで、台座のRCSの低減を図ろうとするものである。分図(b)の多角錐形状の台座112では、同分図中、縦方向である錐形状の軸線を中心とした回転方向(アジマス方向)に台座112を回動させた場合、多角錐形状のカット面114が電波の送受信方向106と正対すると、台座112のRCSが急激に上昇してしまう。このため、通常はアジマス方向の回動によってRCSが変化しない分図(a)の円錐台形状の台座113が用いられることが多い。しかしながら、この場合でも、発泡スチロールからの反射を完全に除去することはできない。また、発泡スチロールを円錐台形状に切断・加工することとで、強度的にはさらに弱いものとなり、繰り返しの使用の際には発泡スチロールの形状が変化し、反射特性が変化してしまう。
【0011】
また、台座のRCSの低減が可能な形状の他の公知例としては、下記特許文献1に開示された蛇腹形状の台座115が知られている。この蛇腹形状の台座115は、図16に示すように、電波を受ける部分に蛇腹構造を設けることにより、電波の送受信方向106以外の方向への電波の反射成分(反射電波105)を増加させ、電波の送受信方向106への電波の反射成分(反射電波103)を減少させることで、台座115のRCS低減を図っている。なお、蛇腹のピッチdは照射電波102の波長と同程度とされており、また台座115の材質はセラミックである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平5-172931号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】M. A. Plonus, “Theoretical Investigations of Scattering from Plastic Foams ”, IEEE Trans. A. P., Vol. 13, pp.88-93, 1965
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上説明した従来の技術と、その課題に鑑みてなされたものであり、可搬性があるため設置及び撤去が容易であるとともに、目標物と装置の間に接続箇所(接続用治具)があることに起因する計測誤差がないため、高精度なRCS計測が可能なレーダ反射断面積計測用装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、
目標物のレーダ反射断面積を計測するために前記目標物を保持するレーダ反射断面積計測用台座であって、
設置面に設置された第1磁場発生手段と、
前記目標物に設けられた第2磁場発生手段と、
前記第1磁場発生手段を電波から遮蔽する電波吸収体と、
を具備し、
前記第1磁場発生手段が発生する磁場と前記第2磁場発生手段が発生する磁場の相互作用により前記第2磁場発生手段に発生する磁力を、前記目標物に発生する重力と釣り合わせることにより、前記目標物を中空に保持することを特徴としている。
【0016】
請求項2に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
第1磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであり、第2磁場発生手段が、永久磁石と電磁石の何れかであることを特徴としている。
【0017】
請求項3に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記第1磁場発生手段が電磁石であり、
前記第2磁場発生手段が永久磁石であり、
前記目標物の位置を検出するセンサを備えており、
前記センサが検出した前記目標物の位置に応じて前記電磁石を制御することにより、前記目標物を中空に保持することを特徴としている。
【0018】
請求項4に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記電磁石が床面上に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する斥力であることを特徴としている。
【0019】
請求項5に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項3に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記電磁石が天井面に設置されており、前記第2磁場発生手段に発生する磁力が前記電磁石に対する引力であることを特徴としている。
【0020】
請求項6に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の内部の空間に設けられており、前記目標物の表面における前記空間の開口部は、前記目標物の外形に沿って磁気透過性材料により作製された蓋体により閉止されていることを特徴としている。
【0021】
請求項7に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記第2磁場発生手段が、前記目標物の表面の少なくとも一部と同一の形状に形成されて前記一部に設けられた可撓性磁石板であることを特徴としている。
【0022】
請求項8に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記第2磁場発生手段に発生する磁力が、前記第2磁場発生手段を含む前記目標物の重心に作用するように構成されたことを特徴としている。
【0023】
請求項9に記載されたレーダ反射断面積計測用装置は、請求項1に記載のレーダ反射断面積計測用装置において、
前記目標物を化学繊維糸で固定部分に接続したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0024】
請求項1に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、第1磁場発生手段が発生する磁場と第2磁場発生手段が発生する磁場の相互作用によって第2磁場発生手段に発生する磁力が、目標物に作用する重力と釣り合うため、目標物を中空に保持することができる。目標物の周囲には異物が存在せず、第1磁場発生手段も電波吸収体によって計測用の電波から遮蔽されているため、目標物の高精度なRCS計測が可能となる。
【0025】
請求項2に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段を、それぞれ永久磁石と電磁石の何れかで構成することができるため、測定位置の周辺の環境や利用可能な電源の状況等に応じて磁場発生手段の適宜な組み合わせを選択することができる。
【0026】
請求項3に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、電磁石が発生する磁場と永久磁石が発生する磁場の相互作用によって永久磁石に発生する磁力が、永久磁石を含む目標物に作用する重力と釣り合うため、目標物を中空に保持することができる。中空に保持された目標物の位置はセンサによって検出されており、目標物の位置を示すセンサからの信号によって電磁石が制御されるので、目標物の永久磁石に作用する磁力は目標物に作用する重力と常に釣り合うように調整されるため、目標物を安定して中空に保持することができる。
【0027】
請求項4に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、床面上の電磁石が発生する磁場と永久磁石が発生する磁場の相互作用により永久磁石に発生する磁力は、電磁石から離れる上向きに作用する斥力であり、これが永久磁石を含む目標物に作用する下向きの重力と釣り合うため、床面及び電磁石の上方に目標物を保持することができる。
【0028】
請求項5に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、天井面上の電磁石が発生する磁場と永久磁石が発生する磁場の相互作用により永久磁石に発生する磁力は、電磁石に向かう上向きに作用する引力であり、これが永久磁石を含む目標物に作用する下向きの重力と釣り合うため、床面及び電磁石の上方に目標物を保持することができる。
【0029】
請求項6に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、表面に開口するように目標物の内部に空間を設け、この空間に第2磁場発生手段を設けた場合において、目標物の外形に沿った形状の磁気透過性材料からなる蓋体で開口部を閉止したため、第2磁場発生手段の磁場は蓋体を問題なく透過し、また目標物の外形は元のままであるためRCSにも変化は生じない。
【0030】
請求項7に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、目標物の表面の少なくとも一部と同一の形状に形成されて当該一部に設けた可撓性磁石板を第2磁場発生手段としたため、目標物の外形は元のままであるためRCSにも変化は生じない。
【0031】
請求項8に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、第2磁場発生手段に発生する磁力の合力が目標物全体の重心に作用するため、中空に保持される目標物の姿勢が安定し、目標物が回転してしまうことがない。
【0032】
請求項9に記載されたレーダ反射断面積計測用装置によれば、目標物を化学繊維糸で固定部分に接続したため、中空に保持される目標物の姿勢が安定する。また、化学繊維糸はRCSが極めて小さく、RCS計測に与える影響は無視できるほど小さい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】第1実施形態の装置と、これを用いたRCS計測を示す斜視図である。
図2】第1実施形態の装置による目標物の浮遊原理を示す説明図である。
図3】分図(a)は、第1実施形態の装置に用いられる永久磁石の斜視図であり、分図(b)は、当該永久磁石のサイズ及び吸引力等を表形式のリストで示す図である。
図4】第1実施形態の装置により浮遊させた永久磁石を回転させる原理を示す説明図である。
図5】分図(a)は、第1実施形態における目標物の内部構造を示す一部切欠側面図であり、分図(b)は、分図(a)におけるb-b線断面図である。
図6】分図(a)は、第1実施形態の変形例における目標物の内部構造を示す側面図であり、分図(b)は、分図(a)におけるb-b線断面図である。
図7】第1実施形態の装置に目標物としての発泡スチロール製治具を載置してRCS計測を行なっている状況を示す説明図である。
図8】第1実施形態の装置に目標物を保持させずにRCS計測を行なっている状況を示す説明図である。
図9】第1実施形態の装置によって目標物としてのアルミニウム製円柱を浮遊させてRCS計測を行なっている状況を示す説明図である。
図10図7図8に示す各状況下で得られたRCS計測結果を示す図である。
図11】第2実施形態の装置による目標物の浮遊原理を示す説明図である。
図12】航空機のRCS計測の原理を示す図である。
図13】従来の発泡スチロール製の台座の一例を示す図である。
図14】従来の金属製の台座の一例を示す図である。
図15】従来の台座におけるRCS計測の原理を示す図であって、分図(a)は円錐台形状の台座を示し、分図(b)は多角錐形状の台座を示す。
図16】従来の蛇腹構造の台座の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の第1実施形態を図1図10を参照して説明する。
図1を参照して第1実施形態のレーダ反射断面積計測用装置1(以下、必要に応じて装置1と略称する。)の構造及び作用効果の概要を説明する。
図1に示すように、第1実施形態のレーダ反射断面積計測用台座1は、不動の固定部分である設置面としての床面G上に設置された基台2と、基台2上に設けられた回転台3と、回転台3上に設けられた第1磁場発生手段としての電磁石4と、RCS計測の対象である目標物100に設けられた第2磁場発生手段としての永久磁石5と、固定部分としての回転台3に目標物100を接続する化学繊維糸6と、基台2と回転台3と電磁石4を電波から遮蔽する電波吸収体7とを有している。
【0035】
図1に示すように、電磁石4が発生する磁場と、目標物100に設けられた永久磁石5が発生する磁場の相互作用とによって、永久磁石5には、電磁石4に対する斥力である図中上向きの磁力が発生しており、永久磁石5を含む目標物100に作用する図中下向きの重力と、当該磁力とが釣り合うことにより、化学繊維糸6に所定の張力が加わって真っ直ぐ延びた状態となっている状態で、目標物100は電磁石4の上方の中空に安定して保持されている。
【0036】
図1に示すように、図示しないRCS計測装置から目標物100に対して照射電波102を照射してRCS計測を行なう。基台2と回転台3と電磁石4は電波吸収体7により電波から遮蔽されているため、電波は浮遊している目標物100のみに照射される。化学繊維糸6はRCSが極めて小さいため、目標物100のRCS計測に誤差を生じさせるような異物は目標物100の周囲には実質的に存在せず、後にデータを提示して説明するように、従来に較べて高精度なRCS計測を行なうことができる。
【0037】
また、RCS計測において必要がある場合には、回転台3を駆動し、回転台3に載せられた電磁石4を回転させ、目標物100のアジマス方向の向きを任意に変えることができる。この場合、目標物100は化学繊維糸6によって連結された回転台3とともに円滑に安定して回転するので、姿勢が乱れることはない。なお、回転台3は、例えばモータと機械的な伝達機構で円盤状の台を回すものでもよいし、図1に示した回転台3を固定的な台と考え、その上に載置する電磁石4を、複数の電磁石4を周状に並べた構成とし、これらを所定のタイミングで順に駆動することにより発生する磁界により、円盤状の永久磁石5に回転力を与えるものであってもよい。この場合は、第1磁場発生手段である電磁石4が、永久磁石5の回転手段(回転台)を兼ねることとなる。また、目標物100に一端が接続されている化学繊維糸6が、目標物100の回転に伴って捩れないようにするため、目標物100と同期して回転できる図示しない環状の固定部分を設け、これに化学繊維糸6の他端を接続するものとしてもよい。なお、図示はしないが、目標物100のエレベーション方向の向きを調整できる機構を設けてもよい。
【0038】
また、この装置1によれば、目標物100は空中に浮遊しているため、何らかの理由で目標物100が揺れた場合、揺れが収まるまでに相応の時間を要し、その間はRCS計測を行なうことが困難になる。しかしながら、この装置1によれば、目標物100が化学繊維糸6で回転台3に接続されているので、予期せぬ理由で目標物100が揺れた場合であっても、揺れが収まってRCS計測を再開できるまでに要する時間を短縮することができる。
【0039】
図2は、第1実施形態の装置1によって、目標物100に設けられた永久磁石5を、目標物100とともに浮遊させるための原理及び構造を説明する図である。なお、この図は原理を示すものであるから、永久磁石5が設けられた目標物100は図中には示していない。
【0040】
図2に示すように、電磁石4は、図示しない基台2(図1)上に載置された、固定部分である回転台3の上に設置されており、電源及び電源制御部8に接続されている。電磁石4の横の上方には、電磁石4の上方を検知範囲とするセンサ9が配置されている。センサ9は、電源及び電源制御部8に接続されており、永久磁石5の位置乃至上下方向への移動量を測定し、その測定結果を検出信号として電源及び電源制御部8に出力する。図2では、センサ9は電磁石4の位置等を検出しているように表現しているが、実機では目標物100の位置等を検出することになる。電源及び電源制御部8は、センサ9から送られた検出信号に基づいて電磁石4に供給する電力を制御し、その結果、永久磁石5を含む図示しない目標物100は電磁石4の上方の所定位置に停止するか、又は所定位置を含む上下方向の狭い所定範囲内に位置決めされるように位置制御される。永久磁石5が設けられた目標物100の位置や移動をセンサ9が検出する原理は特に限定しない。
【0041】
図2において、電源及び電源制御部8から電磁石4に適当な電力が供給されると、電磁石4が発生する磁場と、図示しない目標物100中の永久磁石5が発生する磁場との相互作用により、永久磁石5には、電磁石4に関して斥力となる上向きの磁力が発生する。この磁力は、センサ9からの検出信号を用いた電源及び電源制御部8による制御により、目標物100に作用する重力と釣り合うように調節される。すなわち、永久磁石5を内包する図示しない目標物100の位置が変化すると、その位置の変化をセンサ9が捉え、検知信号として電源及び電源制御部8に送る。電源及び電源制御部8は、検知信号の変化に基づいて電磁石4に供給する電力を調節し、その結果、永久磁石5に作用する磁力が調節される。これによって、目標物100が内包する永久磁石5に作用する磁力と、目標物100の全体に働く重力とが常に釣り合う状態が得られるため、目標物100を中空に安定して保持することができる。なお、図2に示した永久磁石5は、同図中に文字で示したように、電磁石4で代替することもできる。
【0042】
図3は、第1実施形態の装置1において使用される永久磁石5の一例であるネオジウム磁石を示している。図2(a)に示すように、この永久磁石5は直径d[mm]、高さh[mm]の円柱形であり、永久磁石5の直径d及び高さhのサイズの組み合わせごとに、磁束密度[mT]及び吸引力[kgf]の値を示した。RCS計測の目標物100の形状、大きさに適用できるサイズ(直径d[mm]及び高さh[mm])であって、当該目標物100の重量に対して必要な磁力が得られるような吸引力を発生しうる磁石を選択すればよい。なお、永久磁石5は電磁石4に吸着されるのではなく、目標物100に収納された永久磁石5を目標物100とともに磁力で浮遊させることが目的であるから、一定の大きさの永久磁石5を浮遊させるために必要な磁力は、図2(b)に示した「吸引力」よりも小さくて済む。図3(b)からは、永久磁石5の体積を大きくすれば、浮遊させうる目標物100の重量は増加することが分かる。
【0043】
図4は、第1実施形態の装置1において、図示しない目標物100に設けられる永久磁石5を浮遊させた状態で回転させる動作の原理図である。回転台3は図示しない機構により電磁石4とともに回転可能である。図1の説明では目標物100が回転台3に化学繊維糸6で接続されていたが、この原理図では永久磁石5が化学繊維糸6で電磁石4に接続されている。電磁石4を取り付けた、又は載置した回転台3を回転させれば、電磁石4に繋がれて浮遊している永久磁石5を回転させることができる。
【0044】
図5は、第1実施形態の装置1によって浮遊する目標物100(具体的には飛翔体)の図であり、目標物100に永久磁石5を設けるための一構造例を示している。目標物100の本体、少なくともその外殻は中空円筒形であり、この本体において、その周壁の下側の一部から、中心角を約60度とする周状に曲がった板状部を切り出し、本体の内部の空間に連通する開口部20を設ける。開口部20から本体の内部の空間21に永久磁石5を持ち込み、本体の中心よりも開口部20に近接した位置に永久磁石5を固定する。任意の磁気透過性材料、例えば比透磁率が1の金属(アルミニウム等)を前記板状部と同寸法・同形状に加工・製作した蓋体10を用意し、前記開口部20を当該蓋体10で閉止する。この構造によれば、永久磁石5を本体の内部の空間21に収納しているが、永久磁石5の磁場は蓋体10を透過するので、電磁石4との相互作用による磁力を用いた浮上の作用には影響がない。また、目標物100の外観に変化はないので、RCS計測にも影響はない。
【0045】
図6は、第1実施形態の変形例において、目標物100(具体的には飛翔体)に永久磁石を設けるための他の構造例を示している。目標物100の本体、少なくともその外殻はは中空円筒形であり、この本体において、その周壁の下側の一部から、中心角を約60度とする周状に曲がった板状部を切り出し、本体の内部の空間に連通する開口部を設ける。前記板状部と同寸法・同形状に加工・製作した可撓性磁石板11を用意し、前記開口部を当該可撓性磁石板11で閉止する。この構造によれば、永久磁石である可撓性磁石板11は目標物100の外側に露出しているので、電磁石4との相互作用による磁力を用いた浮上の作用には影響がない。また、目標物100の外観に変化はないので、RCS計測にも影響はない。
【0046】
図7図10を参照して第1実施形態の装置1によるRCSの低減効果及びRCSの計測精度について説明する。
図7は、第1実施形態の装置1に、目標物100として円柱形状の発泡スチロール製治具15を配置し、RCS計測装置101から発泡スチロール製治具15に対して電波を照射(照射電波102)し、反射した電波(反射電波103)を計測した第1の比較例を示している。円柱形状の発泡スチロール製治具15の直径は0.35m、高さは0.2mで発泡倍率は50倍である。
【0047】
図8は、第1実施形態の装置1に何も置かない状態でRCS計測装置101から電波を照射(照射電波102)し、反射した電波(反射電波103)を計測した第2の比較例を示している。
【0048】
図9は、第1実施形態の装置1によって、永久磁石5が仕込まれた目標物100としてのアルミニウム製円柱体16を浮遊させ、これに対してRCS計測装置101から電波を照射(照射電波102)し、反射した電波(反射電波103)を計測した第1実施形態を示している。アルミニウム製円柱体16の直径は0.2m、高さは0.05mである。
【0049】
これらの実験におけるRCS計測は屋内で実施し、計測に使用した電波の周波数および偏波はX帯の垂直偏波である。目標物のRCSは、比較較正法を用いて次式により算出した。なお、「RCS計測用基準目標」とは、「背景技術」の項で説明した完全導体球(金属製の球)を意味する。
(目標物100のRCS)
={(目標物100の反射電力)/ (RCS計測用基準目標の反射電力)}
×(RCS計測用基準目標のRCS)
【0050】
図10に、図7図9の実験において得られた計測結果を示す。
図10のグラフにおいて、横軸は計測回数であり、縦軸は被測定対象のRCS[dBsm]である。計測の時間間隔は1分程度である。図中の破線は、図7に示した円柱形状の発泡スチロール製治具15の結果である。実線は、図8に示した実施形態の装置1の結果である。一点鎖線は、実施形態の装置1により浮遊させた図9に示すアルミ製円柱16の結果である。
【0051】
浮遊状態にあるアルミ製円柱16(一点鎖線)は、RCSが-12dBsm程度であって理論値の-12.81dBsmに近く、しかも測定回ごとの差が小さく、非常に安定している。円柱形状の発泡スチロール製治具15(破線)は、電波吸収体7で遮蔽されないため、反射は比較的大きく、RCSは-20dBsm程度であり、アルミ製円柱16(一点鎖線)と約10dBsm程度の差が認められた。実施形態の治具1(実線)は、電波吸収体7で遮蔽されるため、反射は極めて小さく、RCSは-50dBsm程度となっており、計測環境の外部雑音レベルと同等であり、アルミ製円柱16(一点鎖線)と約40dBsmの差が認められた。
【0052】
本発明の第2実施形態を、図11を参照して説明する。
図11は、第2実施形態の装置1によって、目標物100に設けられた永久磁石5を、目標物100とともに浮遊させるための原理及び構造を説明する図である。第2実施形態の装置1は、図2に示した第1実施形態の装置1と同様の構成を備えているが、以下に説明するように設置する向きが異なる。また、図2の場合と同様に、永久磁石5が設けられた目標物100は図中には示していない。
【0053】
図11に示すように、電磁石4は、固定部分である回転台3の載置面(下面)に取り付けられている。図11には示していないが、設置面としての天井面(天井の下面側)には、図1に示したものと同様の基台2が取り付けられており、この基台2の載置面(下面)に、図11に示した前記回転台3が取り付けられており、図11に示すように、この回転台3の載置面(下面)に電磁石4が取り付けられている。電磁石4は、電源及び電源制御部8に接続されている。電磁石4の横の下方には、電磁石4の下方を検知範囲とするセンサ9が配置されている。センサ9は、電源及び電源制御部8に接続されており、永久磁石5の位置乃至上下方向への移動量を測定し、その測定結果を検出信号として電源及び電源制御部8に出力する。図11では、センサ9は電磁石4の位置等を検出しているように表現しているが、実機では目標物100の位置等を検出することになる。電源及び電源制御部8は、センサ9から送られた検出信号に基づいて電磁石4に供給する電力を制御し、その結果、永久磁石5は電磁石4の下方の所定位置に停止するか、又は所定位置を含む上下方向の狭い所定範囲内に位置決めされるように位置制御される。永久磁石5が設けられた目標物100の位置や移動をセンサ9が検出する原理は特に限定しない。
【0054】
図11において、電源及び電源制御部8から電磁石4に適当な電力が供給されると、電磁石4が発生する磁場と、図示しない目標物100が内包する永久磁石5が発生する磁場の相互作用により、永久磁石5には、電磁石4に関して引力となる上向きの磁力が発生する。この磁力は、センサ9からの検出信号を用いた電源及び電源制御部8による制御により、目標物100に作用する重力と釣り合うように調節される。すなわち、永久磁石5を内包する図示しない目標物100の位置が変化すると、その位置の変化をセンサ9が捉え、検知信号として電源及び電源制御部8に送る。電源及び電源制御部8は、検知信号の変化に基づいて電磁石4に供給する電力を調節し、その結果、永久磁石5に作用する磁力が調節される。これによって、永久磁石5に作用する磁力と、目標物100の全体に働く重力とが常に釣り合う状態が得られるため、目標物100を中空に安定して保持することができる。なお、図2に示した永久磁石5は、同図中に文字で示したように、電磁石4で代替することができるが、電磁石4に吸着される方向の磁力を利用するため、磁界によって磁化される磁性体(鉄、ニッケル等)で代替することも可能である。
【0055】
以上説明したように、本発明の各実施形態に係る装置1によれば、装置としての機械的な脆弱性がなく、また可搬性があるため設置及び撤去が容易であるため、屋内・屋外何れであっても容易に設置でき、さらに目標物100と装置1の間に接続箇所(接続用治具)が存在しないため、これが存在することに起因する計測誤差がなく、高精度のRCS計測を行なうことができる。
【0056】
なお、以上説明した各実施形態における主たる構成では、床面G又は天井面等の設置面に設置した第1磁場発生手段を電磁石4とし、目標物100に設けた第2磁場発生手段を永久磁石5としたが、第1磁場発生手段を永久磁石5とし、第2磁場発生手段を電磁石4としてもよい。また、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段の両方を電磁石4としてもよいし、第1磁場発生手段と第2磁場発生手段の両方を永久磁石5としてもよい。これら磁場発生手段の種類や組み合わせは、測定位置の周辺の環境や利用可能な電源の状況等に応じて任意に選択することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…レーダ反射断面積計測用装置装置
3…固定部分である回転台
4…第1磁場発生手段としての電磁石
5…第2磁場発生手段としての永久磁石
6…化学繊維糸
9…センサ
10…蓋体
11…第2磁場発生手段である永久磁石としての可撓性磁石板
15…目標物としての発泡スチロール製治具
16…目標物としてのアルミニウム製円柱
20…目標物の開口部
21…目標物の内部の空間
100…目標物又は航空機
G…装置の設置面である床面