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  • 特開-電磁波吸収シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140220
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電磁波吸収シート
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241003BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241003BHJP
   H01Q 17/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B15/08 D
B32B27/18 Z
H01Q17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051256
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小椎尾 健次
(72)【発明者】
【氏名】何 家成
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【テーマコード(参考)】
4F100
5E321
5J020
【Fターム(参考)】
4F100AA37
4F100AA37A
4F100AB01C
4F100AB10
4F100AB33
4F100AK01A
4F100AK04A
4F100AK07
4F100AK07A
4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AK46A
4F100AK51
4F100AK51B
4F100AK53B
4F100AR00A
4F100AR00B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA21A
4F100BA21B
4F100CA23A
4F100CB00
4F100CB00B
4F100DG01
4F100DG01A
4F100EH17
4F100GB32
4F100GB48
4F100JB16A
4F100JD08
4F100JD08A
4F100JD08B
4F100JD08C
4F100JD14
4F100JD14A
4F100JD14B
4F100JD14C
4F100JG05
4F100JG05A
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
5E321BB21
5E321BB25
5E321BB32
5E321BB34
5E321BB60
5E321GG11
5E321GH03
5J020EA03
5J020EA04
5J020EA05
5J020EA07
5J020EA09
(57)【要約】
【課題】ミリ波(76GHz)に対する遮蔽性及び吸収性に優れる電磁波吸収シートを提供する。
【解決手段】本開示の電磁波吸収シートは、誘電損失層と、非誘電損失層と、金属層と、をこの順に備える。前記誘電損失層は、熱可塑性樹脂と、1種類以上の誘電性フィラーとを含有する。前記誘電損失層は、下記式(1)を満たす。式(1)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、[ε”]は前記誘電損失層の複素比誘電率の虚数部を示す。前記誘電損失層及び前記非誘電損失層は、下記式(2)を満たす。式(2)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、d1は前記誘電損失層の厚み(μm)を示し、d2は前記非誘電損失層の厚み(μm)を示す。
式(1):|0.9085×[ε']0.6245-[ε”]|<1
式(2):0≦|(d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202|≦11
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電損失層と、非誘電損失層と、金属層と、をこの順に備え、
前記誘電損失層が、熱可塑性樹脂と、少なくとも1種の誘電性フィラーと、を含有し、
前記誘電損失層が、下記式(1)を満たし、
前記誘電損失層及び前記非誘電損失層が、下記式(2)を満たす、電磁波吸収シート。
式(1):|0.9085×[ε']0.6245-[ε”]|<1
(式(1)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、[ε”]は前記誘電損失層の複素比誘電率の虚数部を示す。)
式(2):0≦|(d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202|≦11
(式(2)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、d1は前記誘電損失層の厚み(μm)を示し、d2は前記非誘電損失層の厚み(μm)を示す。)
【請求項2】
前記非誘電損失層の厚みd2に対する前記誘電損失層の厚みd1の比が、1超である、請求項1に記載の電磁波吸収シート。
【請求項3】
前記非誘電損失層が、少なくとも1つの接着層を含む、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項4】
電磁波吸収シートの厚さが、500μm以下であり、
前記誘電損失層の厚さd1が、100μm~450μmである、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項5】
前記誘電性フィラーが、カーボンナノチューブを含む、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項6】
前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部が、6~20の範囲内である、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項8】
前記非誘電損失層の材質が、ウレタン接着剤、エポキシ接着剤、及びアクリル接着剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項9】
76GHzの電磁波に対する吸収量が、16dB以上である、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、92質量%~95質量%であり、
前記誘電性フィラーの含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、4質量%~7質量%であり、
前記誘電損失層の厚みが、150μm~230μmであり、
前記非誘電損失層の厚みが、65μm~105μmである、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、92質量%~95質量%であり、
前記誘電性フィラーの含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、4質量%~7質量%であり、
前記誘電損失層の厚みが、230μm~280μmであり、
前記非誘電損失層の厚みが、15μm~35μmである、請求項1又は請求項2に記載の電磁波吸収シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波吸収シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動運転のキー技術としてADAS(先進運転支援システム)を支える技術(例えば、外界認識システム)の電気自動車への搭載が進められている。外界認識システムでは、多くの場合、ミリ波帯(例えば76GHz~78GHz)の電磁波(以下、「高周波」ともいう)を利用したレーダー装置が用いられている。レーダー装置は、送信用アンテナから高周波を出射し、障害物から反射してきた高周波を受信用アンテナで受信することによって、障害物の位置、相対速度、方向などを検知する。
【0003】
金属筐体は、送信用アンテナから出射される高周波を完全に反射するおそれがある。その結果、電気自動車が金属筐体(例えば、インバーター、エンブレム、エレクトロニックコントロールユニット、電気自動車用バッテリー)を備える場合、レーダー装置は、障害物の位置などを正確に検知することができないおそれがある。そのため、高周波の反射を抑えるために、電磁波吸収シートが開発されている。
【0004】
特許文献1は、電磁波吸収体(以下、「電磁波吸収シート」ともいう)を開示している。特許文献1に開示の電磁波吸収シートは、特定の樹脂組成物が形成されてなる。樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、カーボンナノチューブとを含む。
【0005】
特許文献2は、電波吸収複合体(以下、「電磁波吸収シート」ともいう)を開示している。特許文献2に開示の電磁波吸収シートは、特定の電波吸収層と、接着剤層(以下、「接着層」ともいう)と、電波反射層(以下、「反射層」ともいう)とがこの順に積層されてなる。電波吸収層は、カーボンナノチューブを含む熱可塑性樹脂発泡体からなる。
【0006】
特許文献3は、共振型電波吸収シート(以下、「電磁波吸収シート」ともいう)を開示している。特許文献3に開示の電磁波吸収シートは、誘電層と、粘着層(以下、「接着層」ともいう)と、金属層(以下、「反射層」ともいう)とがこの順に積層されてなる。誘電層は、誘電層用組成物を用いて形成されている。誘電層用組成物は、単層カーボンナノチューブと、チタン化合物と、エポキシ樹脂と、ポリアミドアミンとを含有する。単層カーボンナノチューブ及びチタン化合物の配合比は、特定の範囲内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2022-130342号公報
【特許文献2】特開2007-335680号公報
【特許文献3】特許第6588375号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の電磁波吸収シートは、特定の樹脂組成物からなる。そのため、特許文献1に開示の電磁波吸収シートでは、高周波の遮蔽性及び吸収性は、十分ではないおそれがある。
【0009】
特許文献2及び特許文献3に開示の電磁波吸収シートは、反射層を有する。そのため、高周波は、電磁波吸収シートを透過しにくい。つまり、特許文献2及び特許文献3に開示の電磁波吸収シートでは、高周波の遮蔽性は優れる。一方、特許文献2及び特許文献3では、高周波の吸収性と接着層の厚みとの関係について考慮されていない。そのため、特許文献2及び特許文献3に開示の電磁波吸収シートでは、高周波の吸収性は十分ではないおそれがある。
【0010】
以上より、76GHzの電磁波(以下、「ミリ波(76GHz)」ともいう)に対する優れた遮蔽性と、ミリ波(76GHz)に対する優れた吸収性(吸収量:16dB以上)とを有する電磁波吸収シートが求められている。
【0011】
本開示の一態様の目的は、ミリ波(76GHz)に対する遮蔽性及び吸収性に優れる電磁波吸収シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する手段には、以下の態様が含まれる。
【0013】
<1> 誘電損失層と、非誘電損失層と、金属層と、をこの順に備え、
前記誘電損失層が、熱可塑性樹脂と、少なくとも1種の誘電性フィラーと、を含有し、
前記誘電損失層が、下記式(1)を満たし、
前記誘電損失層及び前記非誘電損失層が、下記式(2)を満たす、電磁波吸収シート。
式(1):|0.9085×[ε']0.6245-[ε”]|<1
(式(1)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、[ε”]は前記誘電損失層の複素比誘電率の虚数部を示す。)
式(2):0≦|(d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202|≦11
(式(2)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、d1は前記誘電損失層の厚み(μm)を示し、d2は前記非誘電損失層の厚み(μm)を示す。)
<2> 前記非誘電損失層の厚みd2に対する前記誘電損失層の厚みd1の比が、1超である、前記<1>に記載の電磁波吸収シート。
<3> 前記非誘電損失層が、少なくとも1つの接着層を含む、前記<1>又は<2>に記載の電磁波吸収シート。
<4> 電磁波吸収シートの厚さが、500μm以下であり、
前記誘電損失層の厚さd1が、100μm~450μmである、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<5> 前記誘電性フィラーが、カーボンナノチューブを含む、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<6> 前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部が、6~20の範囲内である、前記<1>~<5>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<7> 前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、前記<1>~<6>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<8> 前記非誘電損失層の材質が、ウレタン接着剤、エポキシ接着剤、及びアクリル接着剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、前記<1>~<7>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<9> 76GHzの電磁波に対する吸収量が、16dB以上である、前記<1>~<8>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<10> 前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、92質量%~95質量%であり、
前記誘電性フィラーの含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、4質量%~7質量%であり、
前記誘電損失層の厚みが、150μm~230μmであり、
前記非誘電損失層の厚みが、65μm~105μmである、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
<11> 前記熱可塑性樹脂の含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、92質量%~95質量%であり、
前記誘電性フィラーの含有量が、前記誘電損失層の総量に対して、4質量%~7質量%であり、
前記誘電損失層の厚みが、230μm~280μmであり、
前記非誘電損失層の厚みが、15μm~35μmである、前記<1>~<9>のいずれか1つに記載の電磁波吸収シート。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、ミリ波(76GHz)に対する遮蔽性及び吸収性に優れる電磁波吸収シートを提供することを課題とする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の電磁波吸収シートの一例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示において、数値範囲を示す「~」はその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
本開示において段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0017】
(1)電磁波吸収シート
本開示の電磁波吸収シート(以下、単に「電磁波吸収シート」ともいう)は、誘電損失層と、非誘電損失層と、金属層と、をこの順に備える。前記誘電損失層は、熱可塑性樹脂と、少なくとも1種の誘電性フィラーと、を含有する。前記誘電損失層は、下記式(1)を満たす。前記誘電損失層及び前記非誘電損失層は、下記式(2)を満たす。
式(1):|0.9085×[ε']0.6245-[ε”]|<1
(式(1)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、[ε”]は前記誘電損失層の複素比誘電率の虚数部を示す。)
式(2):0≦|(d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202|≦11
(式(2)中、[ε']は前記誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、d1は前記誘電損失層の厚み(μm)を示し、d2は前記非誘電損失層の厚み(μm)を示す。)
【0018】
「誘電損失層」とは、層内を伝搬するミリ波(76GHz)を減衰させる層(換言すると、ミリ波(76GHz)のエネルギーを熱に変換しやすい層)を示す。誘電損失層は、誘電損失を有する層である。「誘電損失を有する」とは、実施例に記載の方法と同じ条件で測定される[ε”]が0.6以上であることを示す。具体的に、誘電損失層は、誘電性フィラー及び熱可塑性樹脂を含有し、「誘電性フィラーを含有する」とは、誘電性フィラーの含有量が、誘電損失層の総量に対して、0.1質量%以上であることを示す。
「非誘電損失層」とは、誘電性フィラーを含有せず、かつ電気的絶縁性を有する層を示す。「誘電性フィラーを含有しない」とは、誘電性フィラーの含有量が、非誘電損失層の総量に対して、0.1質量%未満であることを示す。詳しくは、非誘電損失層は、誘電損失を有しない層である。「誘電損失を有しない」とは、実施例に記載の方法と同じ条件で測定される[ε”]が0.6未満であることを示す。
「金属層」とは、金属からなる層を示す。
「誘電損失層の複素比誘電率」は、誘電損失層の電気的性質を表し、下記式(X)で表される。式(X)中、[ε]は誘電損失層の複素比誘電率を表し、[ε']は誘電損失層の複素比誘電率の実数部を示し、[ε”]は誘電損失層の複素比誘電率の虚数部を表し、iは虚数単位を表す。[ε”]は、層内を伝搬するミリ波(76GHz)の損失を表す。
式(X):[ε]=[ε']-i[ε”]
「|0.9085×[ε']0.6245-[ε”]|」は、(0.9085×[ε']0.6245-[ε”])の数値の絶対値を示す。
「|(d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202|」は、((d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202)の数値の絶対値を示す。
【0019】
本開示の電磁波吸収シートは、上記の構成を有するので、ミリ波(76GHz)に対して遮蔽性(以下、単に「遮蔽性」ともいう)と、ミリ波(76GHz)に対する吸収性(以下、単に「吸収性」ともいう)と、に優れる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
図1は、本開示の電磁波吸収シートの一例の断面図である。電磁波吸収シート1は、誘電損失層10と、非誘電損失層20と、金属層30と、をこの順に備える。誘電損失層10は、熱可塑性樹脂11と、少なくとも1種の誘電性フィラー12と、を含有する。誘電損失層10は、上記式(1)を満たす。誘電損失層10及び非誘電損失層20は、上記式(2)を満たす。
76GHzの電磁波E(以下、「ミリ波E1」ともいう)を電磁波吸収シート1に照射すると、ミリ波E1は、電磁波吸収シート1の表面S1において、導入成分E10と、反射成分E20と、に分かれる。導入成分E10は、電磁波吸収シート1の内部に導入されるミリ波を示す。反射成分E20は、電磁波吸収シート1の表面S1に反射して、電磁波吸収シート1の内部に侵入しないミリ波を示す。導入成分E10は、金属層30に向けて、誘電損失層10及び非誘電損失層20の内部を伝搬する。金属層30に到達した導入成分E10の大部分は、金属層30の表面S30で反射する。表面S30で反射した導入成分E11の一部は、反射成分E12として、電磁波吸収シート1の外部に放射される。
この際、誘電損失層10は、上記式(1)を満たし、かつ誘電損失層10及び非誘電損失層20は、下記式(2)を満たす。つまり、本開示の電磁波吸収シートは、ミリ波(76GHz)に対して最大吸収効率を達成するように設計されている。詳しくは、式(1)を満たすことは、誘電損失層表面の反射が小さいことを示す。そのため、誘電損失層10内を伝搬する導入成分E10及び導入成分E11は、誘電損失層10に吸収されやすい。つまり、導入成分E10及び導入成分E11の少なくとも一部のエネルギーは、熱エネルギーに変換されやすい。式(2)を満たすことは、入射波と金属層からの反射波が打消しあうことを示す。そのため、電磁波吸収シート1は、ミリ波(76GHz)に対する吸収性に優れる。
更に、金属層30に到達する導入成分E10の周波数は、高い(すなわち、76GHz)である。そのため、導入成分E10が金属層30の表面S30に到達すると、金属層30の表面S30には渦電流が発生して、導入成分E10は反射されやすくなる。つまり、表皮効果が発現する。これにより、金属層30に到達する導入成分E10の大部分は、金属層30の表面S30で反射される。換言すると、導入成分E10は、金属層30を透過しにくい。そのため、電磁波吸収シート1は、ミリ波(76GHz)に対する反射性に優れる。
これらの結果、本開示の電磁波吸収シートは、遮蔽性及び吸収性に優れると推測される。
【0020】
誘電損失層は、上記式(1)を満たす。|0.9085×[ε']0.6245-[ε”]|は、誘電損失層表面の反射を低減する観点から、好ましくは0.4~0.9、より好ましくは0.5~0.8である。
[ε']及び[ε”]の各々の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0021】
誘電損失層及び非誘電損失層は、上記式(2)を満たす。|(d1/([ε']0.5))×2.6+d2/(2.30.5)-202|は、電磁波吸収シートの吸収性を向上させる観点から、好ましくは0~10、より好ましくは0~5である。
【0022】
電磁波吸収シートは、シート状物である。電磁波吸収シートは、誘電損失層と、誘電損失層の一方の主面に積層された非誘電損失層と、前記非誘電損失層の誘電損失層側とは反対側の主面に積層された金属層と、を備える。
【0023】
電磁波吸収シートの層構成は、誘電損失層、非誘電損失層及び金属層を有すれば特に限定されず、4層以上であってもよい。
【0024】
電磁波吸収シートのサイズは、特に限定されず、電磁波吸収シートの用途に応じて適宜選択される。電磁波吸収シートの厚み(以下、「シート厚み」ともいう。)は、電磁波吸収シートの柔軟性を向上させる等の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは105μm~450μm、さらに好ましくは150μm~350μmである。
【0025】
電磁波吸収シートの76GHzの電磁波に対する吸収量(以下、「吸収量」ともいう)は、16dB以上であることが好ましい。これにより、電磁波吸収シートの吸収量はより優れる。
電磁波吸収シートの吸収量は、高ければ高いほど好ましく、より好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上、特に好ましくは23dB以上である。電磁波吸収シートの吸収量は、80dB以下であってもよいし、50dB以下であってもよい。これらの観点から、電磁波吸収シートの吸収量は、16dB~80dBであってもよい。
電磁波吸収シートの吸収量の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0026】
(1.1)誘電損失層
誘電損失層は、主として、誘電損失層内を伝搬するミリ波(76GHz)を吸収する機能を有する。
【0027】
(1.1.1)物性
誘電損失層の[ε']は、式(1)及び式(2)を満たせば特に限定されず、6~20の範囲内であることが好ましい。これにより、誘電損失層の厚さを薄くできる。
[ε']は、誘電損失層の厚さを薄くする観点から、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは11以上である。[ε']は、フィラー濃度を下げる観点から、より好ましくは18以下、さらに好ましくは15以下、特に好ましくは13以下である。
[ε']を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、フィラー種の変更やフィラー濃度変更等が挙げられる。
【0028】
誘電損失層の[ε”]は、式(1)及び式(2)を満たせば特に限定されず、吸収性を向上させる観点から、好ましくは1.8~6.9、より好ましくは2.0~6.6である。
[ε”]を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、フィラー分散状態の制御等が挙げられる。
【0029】
(1.1.2)厚み
誘電損失層の厚みd1は、式(1)及び式(2)を満たせば特に限定されず、誘電損失層の柔軟性を向上させる等の観点から、好ましくは450μm以下、より好ましくは100μm~400μm、さらに好ましくは150μm~300μmである。誘電損失層の厚みd1が100μm以上であると、電磁波吸収シートの吸収性は、より優れる。
【0030】
(1.1.3)材質
誘電損失層は、熱可塑性樹脂と、少なくとも1種の誘電性フィラーと、を含有する。
【0031】
(1.1.3.1)熱可塑性樹脂
誘電損失層は、熱可塑性樹脂を含有する。これにより、誘電損失層に電気的絶縁性を付与するとともに、誘電性フィラーのバインダーとして機能する。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、水添スチレン系熱可塑性エラストマー(SEBS)、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-ブテンコポリマー、プロピレン-ブテンコポリマー、エチレン-メタクリル酸コポリマー、エチレン-アクリル酸コポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-アクリル酸エチルコポリマー、アイオノマー樹脂、ポリブテン、4-メチルペンテン-1樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、エチレン-スチレンコポリマー、スチレン系樹脂、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロックコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、酢酸セルロース、ポリエステル、ポリイミド、フッ素樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリレート、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー、熱可塑性ポリウレタン、熱可塑性エラストマー、生分解性ポリマー等が挙げられる。これらの樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレンコポリマー、ブロックポリプロピレンコポリマー、又は超高分子量ポリプロピレンを含む。
ポリエチレンは、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、又は超高分子量ポリエチレンを含む。
アイオノマー樹脂は、エチレン-メタクリル酸コポリマーアイオノマー樹脂を含む。
スチレン系樹脂は、ポリスチレン、ブタジエン-スチレンコポリマー(HIPS)、アクリロニトリル-スチレンコポリマー(AS樹脂)、又はアクリロニトリル-ブタジエン-スチレンコポリマー(ABS樹脂)を含む。
ポリエステルは、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、又はポリトリメチレンテレフタレートを含む。
生分解性ポリマーは、ポリ乳酸のようなヒドロキシカルボン酸縮合物、ポリブチレンサクシネートのようなジオールとカルボン酸の縮合物を含む。
【0033】
中でも、熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル及びポリアミドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、低コストでも電磁波吸収シートの機械強度、及び耐熱性を比較的保持しつつ、誘電性フィラーを適当に分散させることができる。
熱可塑性樹脂は、機械強度、耐熱性、及び射出成形性の観点から、ポリプロピレン、及びポリアミドの少なくとも一方を含むことが好ましく、誘電損失層をシート状物に成形する際にシート状物への延伸性の観点から、ポリプロピレンを含むことがより好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂の含有量は、誘電損失層の総量に対して、機械強度、耐熱性、及び成形性の観点から、好ましくは65.0質量%~99.5質量%、より好ましくは70.0質量%~99.5質量%、さらに好ましくは80.0質量%~99.5質量%である。
【0035】
(1.1.3.2)誘電性フィラー
誘電損失層は、少なくとも1種の誘電性フィラーを含有する。これにより、誘電損失層に吸収性を付与する。
【0036】
誘電性フィラーは、誘電性を有すれば特に限定されず、例えば、誘電性フィラーとしては、炭素材料(例えば、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」ともいう)、カーボンブラック、黒鉛等)、チタン化合物(例えば、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム等)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等)等が挙げられる。中でも、誘電性フィラーは、CNTを含有することが好ましく、CNTであることがより好ましい。誘電性フィラーがCNTを含有することにより、電磁波吸収シートの吸収性は、より優れる。CNTの詳細については、後述する。
【0037】
誘電性フィラーの形状は、特に限定されず、例えば、球状、針状、棒状、繊維状、扁平状、鱗片状、及び板状等が挙げられる。誘電性フィラーのサイズは、特に限定されず、誘電性フィラーの種類等に応じ適宜選択される。
【0038】
誘電性フィラーの含有量は、誘電損失層の総量に対して、好ましく3質量部~9質量部、より好ましくは4質量部~8質量部、さらに好ましくは5質量部~7質量部である。
【0039】
(1.1.3.3)カーボンナノチューブ
CNTは、グラフェンシートが単層又は多層の筒状に丸まった形状を有する。
CNTは、単層カーボンナノチューブ(以下、「単層CNT」ともいう)、及び多層カーボンナノチューブ(以下、「多層CNT」ともいう)の少なくとも一方を含むことが好ましく、多層CNTを含むことがより好ましく、多層CNTであることがさらに好ましい。CNTが、単層CNT、及び多層CNTの少なくとも一方を含むことで、CNTの添加量が少なくても、電磁波吸収シートの吸収性は、より優れる。CNTが多層CNTを含むことで、誘電損失層の原料は単層CNTよりも低粘度となる。そのため、誘電損失層の製造プロセスは簡易化され得る。更に、多層CNTは、単層CNTよりもコスト的に優れる。更に、多層CNTはコンデンサー的構造をとる。そのため、電磁波吸収シートの吸収性はさらに優れると推察される。
【0040】
「単層カーボンナノチューブ」とは、グラフェンシートが単層の筒状に丸まった形状を有するカーボンナノチューブを示す。「多層カーボンナノチューブ」とは、グラフェンシートが多層の筒状に丸まった形状を有するカーボンナノチューブを示す。
【0041】
CNTの平均直径は、好ましくは7nm~50nm、より好ましくは10nm~50nm、さらに好ましくは20nm~40nmである。CNTの平均直径が上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂中におけるCNTの凝集は、効果的に抑制され得る。
CNTの平均長さは、好ましくは1000nm~10000nm、より好ましくは2000nm~5000nmである。CNTの平均長さが上記範囲内であれば、熱可塑性樹脂中におけるCNTの凝集は、効果的に抑制され得る。
CNTの平均直径及び平均長さの各々は、例えば、電子顕微鏡を用いた観察において、無作為に抽出した複数(n=10)のCNTの直径及び長さの各々を測定し、これらの算術平均として求められる。
【0042】
CNTは、誘電損失層の内部に分散されていることが好ましい。換言すると、CNTは、誘電損失層の内部において、凝集していないことが好ましい。
分散されたCNTは、CNTが凝集する場合よりも、電磁波に対する渦電流の起電力が小さくなりにくい。その結果、誘電損失層の内部に分散されたCNTは、ミリ波(76GHz)を熱により効率良く変換することができる。
CNTを熱可塑性樹脂中に分散させる方法は、特に限定されず、物理的分散法、化学的分散法等が挙げられる。物理的分散法は、後述する分散剤を用いる方法である。化学的分散法は、CNTの表面に官能基を導入する方法である。詳しくは、化学的分散法は、後述する表面改質剤を用いる方法である。
【0043】
CNTの含有量は、電磁波吸収シートの吸収性を向上させる等の観点から、誘電損失層の総量に対して、好ましくは0.3質量%~9質量%、より好ましくは0.4質量%~8質量%、さらに好ましくは0.5質量%~7質量%である。
【0044】
CNTは、市販品であってもよい。CNTの市販品としては、Nanocyl社の「NC7000」、シーナノテクノロジー株式会社の「FLOTUBE9000」等が挙げられる。
【0045】
(1.1.3.3)添加剤
誘電損失層は、添加剤を更に含有してもよい。
【0046】
添加剤としては、分散剤、表面改質剤、着色剤、酸化防止剤、光安定剤、金属不活性剤、難燃剤及び帯電防止剤等が挙げられる。
分散剤としては、低立体規則性ポリオレフィン及び変性ポリオレフィン等が挙げられる。
表面改質剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤及びアルミネートカップリング剤等が挙げられる。
低立体規則性ポリオレフィンは、市販品であってもよい。低立体規則性ポリオレフィンの市販品としては、出光興産株式会社製の「エルモーデュ S400」、「エルモーデュ S410」、「エルモーデュ S600」、及び「エルモーデュ S901」等が挙げられる。
【0047】
添加剤の含有量は、添加剤の種類等に応じて適宜選択される。
添加剤が分散剤である場合、分散剤の含有量は、誘電性フィラーの分散性を向上させる等の観点から、誘電損失層の総量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0048】
(1.1.3.4)軟磁性材料
誘電損失層は、軟磁性材料を更に含有してもよい。これにより、誘電損失層は、ミリ波(76GHz)の磁性成分を吸収しやすい。
【0049】
軟磁性材料としては、金属系軟磁性材料、スピネル系フェライト、ガーネット系フェライト、及び六方晶系フェライト等が挙げられる。金属系軟磁性材料としては、例えば、アモルファス合金、電磁鋼板、及びカーボニル鉄等が挙げられる。スピネル系フェライトとしては、Mn-Zn系フェライト、及びNi-Zn系フェライト等が挙げられる。六方晶系フェライトとしては、マグネトプランバイト型フェライト、及びフェロックスプラナ型フェライト等が挙げられる。軟磁性材料の形状は、特に限定されず、例えば、球状、扁平状、ファイバー状等であってもよい。
【0050】
軟磁性材料の含有量は、誘電損失層の総量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0051】
(1.2)非誘電損失層
非誘電損失層は、主として、誘電損失層と金属層との接着性、加工性、及び耐久性を電磁波吸収シートに付与することができる。
【0052】
非誘電損失層の厚みd2は、式(1)及び式(2)を満たせば特に限定されない。非誘電損失層の厚みd2に対する前記誘電損失層の厚みd1の比(以下、「比(d1/d2)」ともいう)は、1超であることが好ましい。これにより、ミリ波(76GHz)に対する優れた吸収性を維持しつつ、電磁波吸収シートの厚みを薄くすることができる。
【0053】
非誘電損失層の厚みd2は、吸収性や柔軟性、耐久性の観点から、好ましくは3μm~200μm、より好ましくは5μm~150μm、さらに好ましくは10μm~120μmである。
【0054】
非誘電損失層は、誘電性フィラーを含有せず、かつ電気的絶縁性を有する層であれば特に限定されず、例えば、接着層、支持層等が挙げられる。
【0055】
中でも、非誘電損失層は、少なくとも1つの接着層を含むことが好ましい。これにより、誘電損失層と金属層とを接着することができる。更に、加工性や耐久性を向上できる。
【0056】
接着層の材料としては、特に限定されず、公知の材料であればよい。接着層の材料としては、例えば、ウレタン接着剤、エポキシ接着剤、アクリル接着剤、シリコーン接着剤、ポリビニルブチラール接着剤、ポリビニルエーテル接着剤、メラミン接着剤等が挙げられる。中でも、非誘電損失層は、ウレタン接着剤、エポキシ接着剤、及びアクリル接着剤からなる群より選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、耐候性と柔軟性と耐熱性を期待できる。
【0057】
(1.3)金属層
金属層は、主として、ミリ波(76GHz)を反射する機能を有する。
【0058】
金属層の厚みは、特に限定されず、好ましくは200μm以下、より好ましくは5μm~150μm、さらに好ましくは10μm~100μmである。
【0059】
金属層の材質は、特に限定されず、特に制限されず、例えば、アルミニウム、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金(ステンレス、真鍮、リン青銅等)等が挙げられる。
【0060】
(1.4)好ましい態様
電磁波吸収シートの厚さは、500μm以下であり、誘電損失層の厚さd1は、100μm~450μmであることが好ましい。これにより、電磁波吸収シートの柔軟性を向上させることができる。
【0061】
前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記誘電損失層の総量に対して、92質量%~95質量%であり、前記誘電性フィラーの含有量は、前記誘電損失層の総量に対して、4質量%~7質量%であり、前記誘電損失層の厚みは、150μm~230μmであり、前記非誘電損失層の厚みは、65μm~105μmであることが好ましい。これにより、電磁波吸収シートの吸収性は、より優れる。
【0062】
前記熱可塑性樹脂の含有量は、前記誘電損失層の総量に対して、92質量%~95質量%であり、前記誘電性フィラーの含有量は、前記誘電損失層の総量に対して、4質量%~7質量%であり、前記誘電損失層の厚みは、230μm~280μmであり、前記非誘電損失層の厚みは、15μm~35μmであることが好ましい。これにより、電磁波吸収シートの吸収性は、より優れる。
【0063】
(1.5)電磁波吸収シートの用途
電磁波吸収シートの用途としては、第1用途、第2用途、第3用途等が挙げられる。
第1用途は、電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池の筐体の内部の電磁波の吸収を示す。
第2用途は、放射ノイズ対策を兼ねたTIM(Thermal Interface Material)としての使用を示す。
第3用途は、非接触給電を行う非接触給電装置から漏洩する電磁波の吸収を示す。
【0064】
「無人航空機」とは、航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船などであって、構造上人が乗ることができないもののうち、遠隔操作又は自動操縦によって飛行させることができるものを示す。
【0065】
以下、「電子機器、エレクトロニックコントロールユニット、無人航空機又はリチウム二次電池の筐体」を「電子機器等の筐体」という。
【0066】
(1.3.1)第1用途
第1用途では、電磁波吸収シートは、電子機器等の筐体の内部の電磁波の吸収に用いられる。
電子機器等の筐体の材質が金属である場合、電子機器等の筐体の内部の放射ノイズは、電子機器等の筐体に当たると、筐体の表面に発生する渦電流によって反射されやすい。
以下、電子機器等の筐体の材質が金属である筐体を「金属筐体」という場合がある。
これにより、金属筐体は、金属筐体の内部の放射ノイズのノイズエミッションを抑制することができる。更に、金属筐体は、金属筐体の外部からの放射ノイズに対する耐性(イミュニティ)を有する。
しかしながら、金属筐体は、放射ノイズに対する渦電流の発生により、放射ノイズを除去することができない。
第1用途では、例えば、電磁波吸収シートは、金属筐体の内周壁の少なくとも一部に取り付けられる。電磁波吸収シートは、金属筐体の内部のミリ波(76GHz)の放射ノイズを吸収することができる。
【0067】
電子機器としては、特に限定されず、例えば、電動車両のモータ駆動用電力変換装置、デスクトップ型パーソナルコンピューター、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター、携帯電話機、スマートフォン、デジタルカメラ、携帯音楽プレーヤー、電子ゲーム機器、医療機器、及びテレビジョン等が挙げられる。
電動車両のモータ駆動用電力変換装置は、電動機を駆動する。電動車両のモータ駆動用電力変換装置は、順変換器(コンバーター)と、逆変換器(インバーター)とを有する。順変換器は、交流電源を直流に変換する。逆変換器は、直流電流を可変電圧及び可変周波数に変換する。逆変換器に含まれるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子のオンオフ動作(スイッチング)は、ノイズ発生源となりやすい。
エレクトロニックコントロールユニットは、マイクロコンピュータを主要構成部品とする電子制御回路である。マイクロコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random access memory)、ROM(Read Only Memory)、不揮発性メモリ、及びインターフェース(I/F)等を含む。CPUは、ROMに格納されたプログラムを実行することにより、各種機能を実現する。例えば、電動車両用エレクトロニックコントロールユニットでは、CPUは、電動車両の走行又は動作全般を制御する。
無人航空機としては、ヘリコプター、回転翼を複数有するマルチコプター(すなわち、ドローン)、HAPS(成層圏プラットフォーム;High Altitude Platform Station)用高高度ドローン無人機等が挙げられる。
二次電池としては、リチウムイオン電池、鉛電池、ニッケルカドニウム電池、ニッケル水素電池等が挙げられる。
【0068】
(1.3.2)第2用途
第2用途では、電磁波吸収シートは、放射ノイズ対策を兼ねたTIMとして用いられる。
第2用途では、例えば、電磁波吸収シートは、CPUとヒートシンクとの間に配置される。ヒートシンクは、水冷式ヒートシンク、又は空冷式ヒートシンクを含む。CPUは、作動すると、発熱する。CPUの作動時の温度は、例えば、40℃~80℃である。更に、CPUは、作動すると、放射ノイズを放射するおそれがある。
電磁波吸収シートは、CPUの作動に起因するミリ波(76GHz)の放射ノイズを除外することができる。
【0069】
(1.3.3)第3用途
第3用途では、電磁波吸収シートは、非接触給電を行う非接触給電装置から漏洩する電磁波の吸収に用いられる。
非接触給電装置は、公知の構成である。非接触給電装置は、送電装置と、受電装置とを備える。受電装置は、非接触で、送電装置から電力伝送される。送電装置は、送電コイル、及び第1筐体を有する。第1筐体は、送電コイルを収容する。受電装置は、受電コイル、及び第2筐体を有する。受電コイルは、送電装置からの電力を受電する。第2筐体は、受電コイルを収容する。非接触給電装置の給電方式は、特に限定されず、電磁誘電式、磁界共鳴式等が挙げられる。
本開示において、「非接触給電装置から漏洩する電磁波」とは、第1筐体及び第2筐体の少なくとも一方から漏洩する電磁波を示す。
非接触給電装置は、例えば、電動車両に用いられる。この場合、送電装置は定置され、受電装置は、電動車両に搭載される。
非接触給電装置に含まれる第1筐体及び第2筐体の各々の材質が金属であっても、電磁波の周波数等によっては、電磁波は非接触給電装置から漏洩する場合がある。
第3用途では、例えば、電磁波吸収シートは、第1筐体及び第2筐体の各々の外周面の少なくとも一部に取り付けられる。例えば、第1筐体及び第2筐体が開口部を有する場合、電磁波吸収シートは、開口部を覆うよう第1筐体及び第2筐体に取り付けられる。
電磁波吸収シートは、非接触給電に起因する低周波数帯域の放射ノイズを除去することができる。
【0070】
電動車両は、電動四輪車、又は電動二輪車を含む。電動四輪車は、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug‐in Hybrid Electric Vehicle)、又はハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)を含む。電動二輪車は、電動バイク、又は電動アシスト自転車を含む。
【0071】
上記第1用途~第3用途の中でも、ADAS(自動運転システム)の干渉を抑えるために、電磁波吸収シートは、電動四輪車内外の各部品に貼り付けて使用されることが好ましい。
【実施例0072】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
[1]実施例及び比較例
[1.1]準備
実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
<熱可塑性樹脂>
・ポリプロピレン:プライムポリマー(株)製「プライムポリプラ(登録商標)F704NP」
<誘電性フィラー>
・多層カーボンナノチューブ:Nanocyl社製「NC7000」(平均直径:9.5nm、平均長さ:1.5μm、形態:粉末、層構成:多層)
<添加剤>
・分散剤:出光興産株式会社製の「エルモーデュ S400」(低立体規則性ポリオレフィン、Mw=45,000、(Mw/Mn)=2、軟化点:93℃)
<接着剤>
・ウレタン系接着剤:三井化学株式会社社製のタケラックA310/タケネートA-3
<金属層>
・アルミ箔:株式会社カンダ社製(厚み:20μm)
【0074】
[1.2]実施例1
[1.2.1]誘電損失層の作製
多層カーボンナノチューブ、及び分散剤を、表1に示す含有量の割合で、FMミキサー(日本コークス工業株式会社製の「FM10C/I」、容量:9L)に投入した。攪拌温度140℃、攪拌時間60分、及びスクリュー回転数1000rpm(revolutions per minute)の条件で、これらを攪拌混合した。これにより、混合粉体を得た。
混合粉体、及び熱可塑性樹脂を、表1に示す含有量の割合で、ドライブレンドして、ドライブレンド品を得た。
二軸押出機(東芝機械株式会社製の「TEM-35B」、スクリュー径:35mm、L/D:32、ベント式)を準備した。二軸押出機の出口には、直径3mmのストランド取出し用穴付きのダイスを取り付けられている。
ドライブレンド品を二軸押出機に投入し、混練温度230℃、スクリュー回転数100rpmの条件で、溶融混練した。得られた溶融混練物をダイスから押し出して、ストランド状物を得た。ストランド状物を水槽に入れて冷却して、ストランドカッターでカットした。これにより、ペレットを得た。
30トン真空プレス成形機(関西ロール(株)製)を用いて、設定温度230℃の条件で、ペレットをプレスして、誘電損失層用シートを得た。誘電損失層用シートの厚みは、表1に示す厚みであった。
【0075】
[1.2.2]電磁波吸収シートの作製
アルミ箔の一方の主面上にウレタン系接着剤をコートして、接着層を形成した。これにより、接着層付きアルミニウム箔を得た。接着層付きアルミニウム箔の接着層上に、誘電損失層を積層して、電磁波吸収シートを得た。接着層の厚みは、表1に示す厚みであった。
【0076】
[1.3]実施例2~実施例7、比較例1~比較例22
誘電損失層の各成分の含有量及び厚みd1、並びに非誘電損失層の厚みd2を表1に示すように変更したことの他は、実施例1と同様にして、電磁波吸収シートを得た。
【0077】
[2]測定方法
[2.1]複素比誘電率の実数部及び虚部
電波暗室内において、互いに向かい合った送信アンテナと受信アンテナとの間に、誘電損失層を挟んで固定した。下記測定条件で自由空間法にて、Sパラメータを測定した。測定したSパラメータから複素比誘電率の実数部及び虚部を計算した。
【0078】
[2.1.1]測定条件
ネットワークアナライザ:キーサイトテクノロジー社製の「5290A」
ミリ波コントローラ :キーサイトテクノロジー社製の「N5250CX10」
送受信アンテナ :キーコム社製のミリ波測定用ホーンアンテナ
同軸ケーブル :Gore社製の2.4mmコネクタ・ケーブルアセンブリ
送受信アンテナ間距離 :300mm
測定周波数 :76GHz
【0079】
[2.2]厚み
誘電損失層、金属層、及び電磁波吸収シートの各々の厚みを、デジマチックインジケータ(ID-C125XB、株式会社ミツトヨ社製)を用いて、任意の5点の厚みを測定し、平均値を取ることで厚みを算出した。非誘電損失層の厚みは、電磁波吸収シートから誘電損失層と金属層の厚みは引いた値を用いた。
【0080】
[2.3]吸収量
電波暗室内において、互いに向かい合った送信アンテナと受信アンテナとの間に、電磁波吸収シートを挟んで固定した。電磁波吸収シートの誘電損失層側の表面は、送信アンテナに対向していた。電磁波吸収シートの金属側の表面は、受信アンテナに対向していた。送信アンテナ及び受信アンテナは、ネットワークアナライザに接続されていた。下記測定条件で自由空間法にて、反射電力(RP)及び入射電力(IP)を測定した。反射電力(RP)の測定値及び入射電力(IB)の測定値を用いて、下記式(M1)により、反射係数を算出した。反射係数の算出値を用いて、下記式(M2)及び下記式(M3)から、吸収量(A)(dB)を得た。測定結果を表1に示す。電磁波吸収シートの吸収量の許容可能な範囲は、16dB以上である。
【0081】
【数1】
【0082】
【数2】
【0083】
【数3】
【0084】
[2.3.1]測定条件
ネットワークアナライザ:キーサイトテクノロジー社製の「5290A」
ミリ波コントローラ :キーサイトテクノロジー社製の「N5250CX10」
送受信アンテナ :キーコム社製のミリ波測定用ホーンアンテナ
同軸ケーブル :Gore社製の2.4mmコネクタ・ケーブルアセンブリ
送受信アンテナ間距離 :300mm
測定周波数 :76GHz
【0085】
【表1】
【0086】
表1中の表記は下記の通りである。「PP」は「ポリプロピレン」を示す。「CNT」は「多層カーボンナノチューブ」を示す。「吸収量(76Ghz)」は、ミリ波(76GHz)に対する吸収量の測定結果を示す。「PU」は、ウレタン接着剤を示す。「Al」は、アルミニウムを示す。
【0087】
比較例1~比較例23の電磁波吸収シートは、式(1)及び式(2)の少なくとも一方を満たさなかった。そのため、比較例1~比較例23の吸収量は、16dB以上ではなかった。この結果、比較例1~比較例23の電磁波吸収シートは、ミリ波(76GHz)に対する遮蔽性及び吸収性に優れる電磁波吸収シートではないことがわかった。
【0088】
実施例1~実施例7の電磁波吸収シートは、誘電損失層と、非誘電損失層と、金属層と、を備える。実施例1~実施例7の電磁波吸収シートは、式(1)及び式(2)を満たしていた。そのため、実施例1~実施例7の吸収量は、16dB以上であった。更に、実施例1~実施例7の電磁波吸収シートは、金属層を備えるため、実施例1~実施例7の電磁波吸収シートは、ミリ波(76GHz)に対する遮蔽性に優れる。これらの結果、実施例1~実施例7の電磁波吸収シートは、ミリ波(76GHz)に対する遮蔽性及び吸収性に優れる電磁波吸収シートであることがわかった。
図1