IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TDK株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-全固体電池 図1
  • 特開-全固体電池 図2
  • 特開-全固体電池 図3
  • 特開-全固体電池 図4
  • 特開-全固体電池 図5
  • 特開-全固体電池 図6
  • 特開-全固体電池 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140242
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241003BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/13
H01M4/74 A
H01M4/62 Z
H01M4/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051286
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114937
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】磯道 岳歩
(72)【発明者】
【氏名】野島 昭信
【テーマコード(参考)】
5H017
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H017AA03
5H017AA04
5H017AS02
5H017CC05
5H017EE01
5H017EE04
5H017EE05
5H017HH00
5H017HH03
5H017HH05
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK04
5H029AK05
5H029AK16
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AL16
5H029AM12
5H029DJ07
5H029DJ09
5H029EJ01
5H029HJ00
5H029HJ04
5H029HJ12
5H050AA12
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA05
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA10
5H050CA11
5H050CA20
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA03
5H050DA04
5H050DA13
5H050FA09
5H050FA13
5H050FA15
5H050HA00
5H050HA04
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】内部抵抗の低い全固体電池を提供する。
【解決手段】この全固体電池は、正極活物質を含む正極合剤層と、負極活物質を含む負極合剤層と、が固体電解質層を介して積層された積層体を備え、前記正極合剤層及び前記負極合剤層の少なくとも一方が、エキスパンドメタルと、固体電解質粒子と、を含む電極合剤層であり、前記積層体の積層方向に沿った断面において、前記エキスパンドメタルは、前記固体電解質層と近い第一辺と、前記第一辺と対向する第二辺と、前記第一辺及び前記第二辺をつなぐ第三辺及び第四辺と、により画定され、前記第二辺と前記第三辺とのなす角と、前記第二辺と前記第四辺とのなす角と、のうち、小さい角Xが、20°≦X<90°を満たす。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極合剤層と、負極活物質を含む負極合剤層と、が固体電解質層を介して積層された積層体を備え、
前記正極合剤層及び前記負極合剤層の少なくとも一方が、エキスパンドメタルと、固体電解質粒子と、を含む電極合剤層であり、
前記積層体の積層方向に沿った断面において、前記エキスパンドメタルは、前記固体電解質層と近い第一辺と、前記第一辺と対向する第二辺と、前記第一辺及び前記第二辺をつなぐ第三辺及び第四辺と、により画定され、
前記第二辺と前記第三辺とのなす角と、前記第二辺と前記第四辺とのなす角と、のうち、小さい方の角Xが、20°≦X<90°を満たす、全固体電池。
【請求項2】
前記第三辺及び前記第四辺のうち一方が、前記第一辺と直交する方向に対して傾斜しており、前記第一辺の長さをa、前記第二辺の長さをb、前記第一辺及び前記第二辺の距離をcとしたときの傾斜(|a-b|/c)が0.01を超え3以下である、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項3】
前記第二辺と前記第三辺とのなす角及び前記第二辺と前記第四辺とのなす角は、20°以上90°未満の範囲にある、請求項1に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記エキスパンドメタルがAl、Ni、Cu、Mo、Pt、Ti、SUS及びカーボンからなる群から選択される一種又は二種以上を含むことを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【請求項5】
前記正極合剤層及び前記負極合剤層の何れも前記エキスパンドメタルと、前記固体電解質粒子と、を含むことを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【請求項6】
前記電極合剤層及び前記固体電解質層の界面に対する前記エキスパンドメタルの角度が0.5°以上15°以下であることを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス技術の発達はめざましく、携帯電子機器の小型軽量化、薄型化、多機能化が図られている。それに伴い、電子機器の電源となる電池に対し、小型軽量化、薄型化、信頼性の向上が強く望まれている。そこで、電解質として固体電解質を用いる全固体電池が注目されている。従来、全固体電池の固体電解質として、酸化物系固体電解質、錯体水素化物系固体電解質などが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、不燃性の固体電解質として一般式Li1+xIII TiIV 2-x(PO(式中、0≦x≦0.6、MIII:Al,Y,Ga,In及びLaよりなる群から選択される少なくとも一種の金属イオン)で表される固体電解質を備える全固体電池が開示されている。この全固体リチウム二次電池は、活物質層と、活物質層に焼結によって接合された固体電解質層を含み、活物質層がリチウムイオンを放出及び吸蔵し得る結晶性の第1物質を含み、固体電解質層がリチウムイオン伝導性を有する結晶性の第2物質を含むことが開示されている。また、固体電解質層の充填率は、70%を超えることが好ましいと記載されており、各層を構成する材料が順次積層された後に焼結されることで製造される。
【0004】
特許文献1に開示されているように、全固体電池に備えられる固体電解質は、緻密であることが好ましいと考えられている。
【0005】
一方で、全固体電池の充放電に伴い膨張収縮が生じることが知られている。このような充放電に伴う膨張収縮によって、全固体電池の電極材料の割れが生じることを抑制する手法が検討されている(例えば、特許文献2)。
【0006】
特許文献2には、発泡金属又は金属繊維焼結体である多孔質金属シートが固体電解質層に設けられた構成が開示されている。特許文献2の全固体電池は、多孔質金属シートに電極材料を充填する工程を含む製造方法により作製される。特許文献2には、該構成を備えることで、電極材料の割れ等を抑制できると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-005279号公報
【特許文献2】特開2010-40218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び特許文献2に開示されたような全固体電池では、内部抵抗が過剰に高く、低減することが求められていた。本発明は、上記事情に鑑みてなされた発明であり、内部抵抗の低い全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を重ねた。その結果、特許文献2の多孔質金属シートを用いる方法では、多孔質電極シートの内部の空隙及び周囲に他の材料が緻密に形成されているとは言えなかった。電極合剤層内にエキスパンドメタルが設けられる構造とし、該エキスパンドメタルの面のうち固体電解質層から離れた面の面積が大きくなるように作製した際に、全固体電池の内部抵抗を低減できることを見出した。
【0010】
すなわち本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0011】
(1)本発明の一態様に係る全固体電池は、正極活物質を含む正極合剤層と、負極活物質を含む負極合剤層と、が固体電解質層を介して積層された積層体を備え、前記正極合剤層及び前記負極合剤層の少なくとも一方が、エキスパンドメタルと、固体電解質粒子と、を含む電極合剤層であり、前記積層体の積層方向に沿った断面において、前記エキスパンドメタルは、前記固体電解質層と近い第一辺と、前記第一辺と対向する第二辺と、前記第一辺及び前記第二辺をつなぐ第三辺及び第四辺と、により画定され、前記第二辺と前記第三辺とのなす角と、前記第二辺と前記第四辺とのなす角と、のうち、小さい角Xが、20°≦X<90°を満たす。
【0012】
(2)上記(1)の全固体電池において、前記第三辺及び前記第四辺のうち一方が、前記第一辺と直交する方向に対して傾斜しており、前記第一辺の長さをa、前記第二辺の長さをb、前記第一辺及び前記第二辺の距離をcとしたときの傾斜(|a-b|/c)が0.01を超え3以下であってもよい。
【0013】
(3)上記(1)及び(2)の全固体電池において、前記第二辺と前記第三辺とのなす角及び前記第二辺と前記第四辺とのなす角は、20°以上90°未満の範囲にあってもよい。
【0014】
(4)上記(1)~(3)の全固体電池において、前記エキスパンドメタルがAl、Ni、Cu、Mo、Pt、Ti、SUS及びカーボンからなる群から選択される一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0015】
(5)上記(1)~(4)の全固体電池において、前記正極合剤層及び前記負極合剤層の何れも前記エキスパンドメタルと、前記固体電解質粒子と、を含んでいてもよい。
【0016】
(6)上記(1)~(5)の全固体電池において、前記電極合剤層及び前記固体電解質層の界面に対する前記エキスパンドメタルの角度が0.5°以上15°以下であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内部抵抗の低い全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る全固体電池の構成の一例を示す斜視図である。
図2図1の全固体電池を蓄電素子の積層方向に沿って切断した断面図である。
図3図2の全固体電池において、二点鎖線で囲まれた領域R1の拡大図である。
図4図2の全固体電池において、正極合剤層に設けられたエキスパンドメタルの構成の一例を示す平面図である。
図5図3において二点鎖線で囲まれた領域の拡大図であって、エキスパンドメタルの断面単位構造を示す図である。
図6図2の全固体電池において、二点鎖線で囲まれた領域R2の拡大図である。
図7図5の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態の正極活物質層、正極及び全固体電池について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。したがって、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であり、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
[全固体電池]
図1は、本発明の一実施形態に係る全固体電池の構成の一例を示す斜視図である。図1に示す全固体電池100は、蓄電素子10と外装体20とを備える。蓄電素子10は、外装体20内の収容空間Kに収容される。図1では、理解を容易にするために、蓄電素子10が外装体20内に収容される直前の状態を図示している。蓄電素子10は、外部と電気的に接続される外部端子12、14を有する。
【0021】
外装体20は、例えば、金属箔と、金属箔22の両面に積層された樹脂層24と、を有する(図2参照)。外装体20は、金属箔を高分子膜(樹脂層)で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムである。金属箔22は、例えばアルミ箔である。樹脂層24は、例えば、ポリプロピレン等の高分子膜である。樹脂層24は、内側と外側とで異なっていてもよい。例えば、外側の樹脂層として、融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)等を用い、内側の樹脂層として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等、耐熱性、耐酸化性、耐還元性の高いものを用いることができる。
【0022】
図2は、図1の全固体電池を蓄電素子の積層方向に沿って切断した断面図である。図2に示される全固体電池100は、正極活物質を含む正極合剤層11Bと、負極活物質を含む負極合剤層13Bと、が固体電解質層15を介して積層された積層体30を備え、正極合剤層11B及び負極合剤層13Bの少なくとも一方が、エキスパンドメタル及び固体電解質粒子を含む電極合剤層であり、積層体30の積層方向に沿った断面において、エキスパンドメタルは、固体電解質層15と近い第一辺M1と、第一辺M1と対向する第二辺M2と、第一辺M1及び第二辺M2をつなぐ第三辺M3及び第四辺M4と、により画定され、第二辺M2及び第三辺とS3のなす角Xと、第二辺M2及び第四辺M4のなす角Xと、のうち、小さい角Xが、20°≦X<90°を満たす(図5参照)。
【0023】
全固体電池100は、蓄電素子10及び外装体20を備える。外装体20は、蓄電素子10の周囲を被覆する。蓄電素子10は、接続された一対の外部端子12、14によって外部と接続される。全固体電池100は、積層型の電池であれば、他の形状であってもよい。例えば、ラミネート電池、角型電池、コイン型電池、ボタン型電池等に適用可能である。
【0024】
<蓄電素子>
蓄電素子10は、固体電解質層15、正極層11及び負極層13を備える。蓄電素子10は、正極層11と負極層13の間で固体電解質層15を介したイオンの授受及び外部回路を介した電子の授受により充電または放電する。
【0025】
(正極層)
図2に示すように、正極層11は、例えば、板状(箔状)の正極集電体11Aと正極合剤層11Bとを有する。正極合剤層11Bは、例えば、正極集電体11Aの少なくとも一面に接するように形成されている。
【0026】
・正極集電体
正極集電体11Aは、充電時の酸化に耐え腐食しにくい電子伝導性の材料であれば良い。正極集電体11Aは、例えば、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、チタンなどの金属、伝導性樹脂等である。正極集電体11Aは、粉体、箔、パンチング、エキスパンドメタルのいずれの形態であっても良い。
【0027】
・正極合剤層
図3は、図2の全固体電池において、二点鎖線で囲まれた領域R1の拡大図である。図4は、図2の全固体電池において、電極合剤層に設けられたエキスパンドメタルの構成の一例を示す平面図である。図5は、図3において二点鎖線で囲まれた領域の拡大図であって、エキスパンドメタルを断面視した際の単位構造(断面単位構造)を示す図である。
図3に示されるように、正極合剤層11Bは、正極集電体11A及び固体電解質層15の間に設けられており、正極合剤1及びエキスパンドメタル2が含まれている。正極合剤1は、正極活物質及び固体電解質粒子を含み、バインダー及び導電助剤の一方又は双方をさらに含んでいてもよい。バインダー及び導電助剤は、公知のものを用いることができる。
【0028】
正極合剤層11Bの厚みは、300μm以下であり、30μm以上や、40μm以上295μm以下であることが好ましく、50μm以上や100μm以上260μm以下であることが好ましく、150μm以上200μm以下であることがより好ましい。正極合剤層11Bの厚みは、正極合剤層11Bの面直方向における断面SEM像により測定される。
【0029】
正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵・放出、挿入・脱離(インターカレーション・デインターカレーション)を可逆的に進行させることが可能であれば特に限定されず、公知のリチウムイオン二次電池に用いられる正極活物質を使用できる。正極活物質としては、例えば、リチウム含有金属酸化物、リチウム含有金属リン酸化物などが挙げられる。
【0030】
リチウム含有金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z=1)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiVOPO、Li(PO)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Feから選択される少なくとも1種を示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)等である。
【0031】
また正極活物質は、リチウムを含有していないものでもよい。このような正極活物質としては、リチウム非含有金属酸化物(MnO、Vなど)、リチウム非含有金属硫化物(MoSなど)、リチウム非含有フッ化物(FeF、VFなど)、硫黄変性ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。リチウムを含有していない正極活物質を用いる場合、あらかじめ負極にリチウムイオンをドープしておく、またはリチウムイオンを含有する負極を用いる。
【0032】
固体電解質としては、ヤング率が10GPa以上20GPa以下の範囲にあるものを用いることができ、12GPa以上16GPa以下の範囲にあるものを用いることが好ましい。このような固体電解質としては、ハライド系固体電解質、硫化物系固体電解質から選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。ヤング率が20GPa以下であることで、エキスパンドメタルが正極合剤層11B内に形成され、エキスパンドメタル2及び固体電解質の接触面積の高い構成を実現できる。
【0033】
ハライド系固体電解質としては、例えば、下記式(2)で表されるものを用いることができる。
Li・・・(2)
【0034】
式(2)で表されるハライド系固体電解質において、EがAl、Sc、Y、ランタノイドである場合、aは2.0≦a≦4.0が好ましく、2.5≦a≦3.5がより好ましい。EがZrまたはHfである場合、aは1.0≦a≦3.0が好ましく、1.5≦a≦2.5がより好ましい。式(2)で表される固体電解質においては、aが0.5≦a<6であるので、化合物中に含まれるLiの含有量が適正となり、イオン伝導度が高くなる。
【0035】
式(2)で表されるハライド系固体電解質において、Eは、必須の元素であり、式(2)で表されるハライド系固体電解質の骨格を形成する元素である。Eは、Al、Sc、Y、Zr、Hf、及び、ランタノイド(La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)からなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
Eを含むことにより、電位窓が広く、高いイオン伝導度を有する固体電解質となる。Eとしては、よりイオン伝導度の高い固体電解質となるため、Al、Sc、Y、Zr、Hf、Laを含むことが好ましく、特にZr、Yを含むことが好ましい。
【0036】
式(2)で表されるハライド系化合物において、bは0<b<2である。bは、Eを含むことによる効果がより効果的に得られるため、0.6≦bであることが好ましい。また、Eは、式(2)で表される正極合剤層11Bにおけるハライド系固体電解質の骨格を形成する元素であり、比較的密度の大きい元素である。bが、b≦1であると、密度の小さい固体電解質となるため、好ましい。
【0037】
式(2)で表されるハライド系固体電解質において、Gは含んでいてもよい基である。Gは、例えば、OH、BO、BO、BO、B、B、CO、NO、AlO、SiO、SiO、Si、Si、Si11、Si18、PO、PO、P、P10、SO、SO、SO、S、S、S、S、S、S、BF、PF、BOB、(COO)、N、AlCl、CFSO、CHCOO、CFCOO、OOC-(CH-COO、OOC-CH-COO、OOC-CH(OH)-CH(OH)-COO、OOC-CH(OH)-CH-COO、CSO、OOC-CH=CH-COO、C(OH)(CHCOOH)COO、AsO、BiO、CrO、MnO、PtF、PtCl、PtBr、PtI、SbO、SeO、TeO、及び、HCOOからなる群から選択される少なくとも1つの基である。Gは、OH、SO、CHCOO、CFCOO、HCOO、及び、Oからなる群から選択される少なくとも1つの基であることが好ましく、Gとしては、Eとの間の共有結合性が強いことにより、Eイオンが還元されにくい化合物となるため、SO、BO、CO、BF、及び、PFからなる群から選択される少なくとも1種の基であることが好ましく、特にSOあるいはOであることが好ましい。Gを含むと、ハライド系固体電解質の還元側の電位窓が広くなり、還元されにくくなる。
【0038】
式(2)で表されるハライド系固体電解質において、cは0≦c≦6を満たす。cは、Gを含むことによる還元側の電位窓が広くなる効果がより顕著となるため、0.1≦cであることが好ましく、0.5≦cであることがより好ましい。cは、Gの含有量が多すぎることに起因する固体電解質のイオン伝導度の低下が生じないように、c≦3であることが好ましい。
【0039】
式(2)で表されるハライド系固体電解質において、Xは、必須成分である。XはF、Cl、Br、及び、Iからなる群から選択される少なくとも1種以上である。Xは価数当たりのイオン半径が大きい。このため、式(2)で表されるハライド系固体電解質がXを含むことにより、リチウムイオンが流れやすくなり、イオン伝導度が高くなるという効果が得られる。Xとしては、イオン伝導度の高い固体電解質となるため、Clを含むことが好ましい。さらに、XがFを含む場合、Xはイオン伝導度の高い固体電解質となるため、Fと、Cl、Br、及び、Iからなる群から選択される2種以上とを含むことが好ましい。
【0040】
XがFであると、イオン伝導度が十分に高く、かつ耐酸化性に優れる固体電解質となる。XがClであると、イオン伝導度が高く、かつ耐酸化性及び耐還元性のバランスが良い固体電解質となる。XがBrであると、イオン伝導度十分に高く、かつ耐酸化性及び耐還元性のバランスが良い固体電解質となる。XがIであると、イオン伝導度の高い固体電解質となる。
【0041】
式(2)で表されるハライド系固体電解質においては、dは、0<d≦6.1を満たす。dは1≦dであることが好ましい。dが1≦dであると、固体電解質を加圧成形してペレット状に成形する場合に、ペレットの強度が高くなる。また、dが1≦dであると、固体電解質のイオン伝導度が高くなる。また、dは、Xの含有量が多すぎることによってGが不足して、固体電解質の電位窓が狭くならないように、d≦5であることが好ましい。
【0042】
式(2)で表されるハライド系固体電解質は、例えば、LiZrCl、LiZrSOCl、LiZrCOCl、LiZr((COO)0.5Cl、LiZr(CHCOO)0.2Cl5.8、LiZr(CFCOO)0.2Cl5.8、LiZr(HCOO)0.4Cl5.6、LiZrBOCl、LiZrBFCl、LiYSOCl、LiYCOCl、LiYBOCl、LiYBFCl、LiZrOClである。
【0043】
また、固体電解質は硫化物系固体電解質とすることができ、硫化物系固体電解質としては、Liと、Sと、Si及び/またはPを含む化合物を用いることができる。硫化物系固体電解質は、さらにGe、Cl、Br、Iを含んでいてもよい。硫化物系固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶質であってもよいし、アルジロダイト型であってもよい。硫化物系固体電解質の例としては、LiS-P系固体電解質(Li7P11、LiPS、Li等)、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiBr-LiS-P、LiS-P-GeS系固体電解質(Li13GeP16、Li10GeP12等)、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、Li7-xPS6-xCl(1.0≦x≦1.9)を挙げることができる。
【0044】
硫化物系固体電解質としては、下記式(3)で表されるものを用いることができる。
Li・・・(3)
式(3)において、Liは、リチウムであり、Mは、4価の金属であり、Pは、リンであり、Oは、酸素であり、Sは、硫黄であり、Xは、F、Cl、Br、及び、Iからなる群から選択される少なくとも1種であり、q、r、s、t、u、vはそれぞれ、1≦q≦20、0≦r≦2、1≦s≦5、0≦t≦5、0≦u≦5、v=q/2+2×r+2.5×s-t-u/2を満足する数である。Mは、Si、Geであることが好ましい。
【0045】
・導電助剤
正極合剤1に含まれる導電助剤は、正極合剤層11Bの電子伝導性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。導電助剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ等の炭素系材料や、金、白金、銀、パラジウム、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属、ITO等の伝導性酸化物、またはこれらの混合物が挙げられる。導電助剤は、粉体、繊維の各形態であっても良い。また導電助剤の集電機能を低下させない観点からアルゴンガスを循環させたグローブボックス内で加熱真空乾燥などにより脱水を行い、その後ガラス瓶やアルミニウムラミネート袋などを用いて、導電助剤を保管すると良い。グローブボックス内の露点は、-30℃以下-90℃以上とすることが好ましい。
【0046】
・バインダー
正極合剤1に含まれるバインダーは、正極集電体11Aと正極合剤層11B、正極合剤層11Bと固体電解質層、正極合剤層11Bを構成する各種材料を接合する。
【0047】
バインダーは、正極合剤層11Bの機能を失わない範囲内で用いることが好ましい。バインダーは、上述の接合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が挙げられる。更に、上記の他に、結着材として、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等を用いてもよい。また、結着材として電子伝導性を有する導電性高分子や、イオン伝導性を有するイオン導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性を有する導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、結着材が導電助剤粒子の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性を有するイオン導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等を伝導するものを使用することができ、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF6、LiTFSI、LiFSI等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤または熱重合開始剤などである。結着材に要求される特性としては、酸化・還元耐性があること、接着性が良いことが挙げられる。
【0048】
正極合剤層11B中のバインダーの含有量は、正極合剤層11Bの0.5~30体積%であることが正極合剤層11Bの抵抗を低くする観点から好ましい。また、エネルギー密度を向上する観点から正極合剤層11B中のバインダーの含有量は0体積%が好ましい。
【0049】
正極合剤層11B中の固体電解質の含有量は、例えば、5体積%以上70体積%以下であり、20体積%以上60体積%以下であることが好ましく、40体積%以上55体積%以下であることがより好ましい。また、正極合剤層11B中の正極活物質の含有量は、例えば、25体積%以上95体積%以下であり、55体積%以上40体積%以下であることが好ましい。
【0050】
エキスパンドメタル2は、空隙Gを囲むように形成された、ストランド51、及び、複数のストランド51が接合するボンド52を複数有する。エキスパンドメタル2は、例えば、空隙Gの面内方向の一方向における長さが該方向と直交する方向よりも大きい形状をしている。図4においては、空隙Gの長さの大きい長目方向において、最近接のボンド52間の中心間距離を符号LWで表し、長目方向と直交する短目方向において、最近接のボンド52間の中心間距離を符号SWで表す。
【0051】
エキスパンドメタル2の短目方向の中心間距離SWは、例えば、0.4mm以上1.5mm以下である。エキスパンドメタルの短目方向の中心間距離LWは、例えば、0.5mm以上3.0mm以下である。エキスパンドメタル2の刻み幅wは、例えば0.05以上0.3以下である。エキスパンドメタル2の厚みは、例えば、10μm以上300μm以下である。
【0052】
エキスパンドメタルの間隔Gは、例えば、正極合剤1により充填されている。
【0053】
エキスパンドメタル2としては、例えば、Al、Ni、Cu、Mo、Pt、Ti、SUS及びカーボンからなる群から選択される一種又は二種以上を含むものを用いることができ、Al,Ni及びTiからなる群から選択される材料であることが好ましく、Al又はTiで構成されていることがより好ましい。
【0054】
エキスパンドメタル2は、正極合剤層11B及び固体電解質層15の界面S1に対して傾斜して形成されることが好ましい。正極合剤層11B及び固体電解質層15の界面S1に対するエキスパンドメタル2の傾きの角度θ1は、0.5°以上20°以下であることが好ましく、1°以上15°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。エキスパンドメタル2の傾きの角度θ1が上記範囲内にあることで、積層方向における伝導性に優れ、内部抵抗が特に優れた全固体電池となる。
【0055】
正極合剤層11Bの体積に対するエキスパンドメタル2の体積の比率は、例えば、1%以上85%以下である。
【0056】
上記の通り、図5は、図3において二点鎖線で囲まれた領域の拡大図であって、エキスパンドメタルの断面単位構造を示す図である。図5には、エキスパンドメタル2のストランド51またはボンド52の一部が拡大して示されている。積層体30の積層方向に沿った断面において、エキスパンドメタル2は、固体電解質層15と近い第一辺M1と、第一辺M1と対向する第二辺M2と、第二辺M2及び第一辺M1をつなぐ第三辺M3及び第四辺M4と、により画定される。エキスパンドメタル2は、図3に示される断面では、上記第一辺M1~第四辺M4により画定された領域である断面単位構造が一列に並ぶ。
【0057】
第二辺M2と第三辺M3とのなす角X及び第二辺M2と第四辺M4とのなす角Xのうち、小さい角Xは、20°≦X<90°を満たし、30°≦X≦80°を満たすことが好ましく、40°≦X≦70°を満たすことがより好ましく、50°≦X≦60°を満たすことがさらに好ましい。角Xが小さすぎると、プレス成形時に合剤の密度があまり上がらないため、角が十分に大きい場合と比べ、内部抵抗が大きくなる。一方で、角Xが大きすぎる場合、角Xが十分に小さい場合と比べ第二辺M2の長さが短くなり、エキスパンドメタル2の正極集電体11Aに近い側の面の正極集電体の面積に対する面積、乃至、正極集電体11Aとの接触面積が小さくなってしまい、内部抵抗が大きくなる。
【0058】
図5に示す例では、X=Xである、断面視等脚台形であるため、角X,Xのいずれも上記角Xに該当し、上記数値範囲を満たす。このように、エキスパンドメタル2は、角X,Xのいずれも上記数値範囲を満たすことが好ましい。すなわち、角X,Xは、20°≦X<90°を満たし、30°≦X≦80°を満たすことが好ましく、40°≦X≦70°を満たすことがより好ましく、50°≦X≦60°を満たすことがさらに好ましい。
【0059】
エキスパンドメタル2の断面単位構造は、例えば、第一辺M1よりも第二辺M2が長い台形である。図5において、第一辺M1の長さは符号aで示され、第二辺M2の長さは符号bで示され、第一辺M1及び第二辺M2の距離が符号cで表される。ここで、本実施形態において、第一辺M1及び第二辺M2の距離は、第一辺M1と直交する方向における第一辺M1の中点mM1から第二辺M2の中点mM2までの距離を表す。
【0060】
エキスパンドメタルの断面単位構造において傾斜(|a-b|/c)は、例えば、0.01を超え6以下であり、0.1以上3以下であることが好ましく、0.5以上2.5以下であることがより好ましく、1.0以上2.0以下であることがさらに好ましい。
【0061】
(負極層)
負極層13は、例えば、板状(箔状)の負極集電体13A及び負極合剤層13Bを有する。負極合剤層13Bは、例えば、負極集電体13Aの少なくとも一面に接するように形成されている。以下、負極層の説明において、正極層と共通する構成要素については説明を省略している場合がある。
【0062】
・負極集電体
負極集電体13Aは、電子伝導性を有すれば良い。負極集電体13Aは、例えば、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス、鉄などの金属、または、伝導性樹脂等である。負極集電体13Aは、粉体、箔、パンチング、エキスパンドメタルの各形態であっても良い。
【0063】
・負極合剤層
図6は、図2の全固体電池において、二点鎖線で囲まれた領域R2の拡大図である。図6に示されるように、負極合剤層13Bは、負極集電体13A及び固体電解質層15の間に設けられており、負極合剤3及びエキスパンドメタル4が含まれている。
【0064】
負極合剤3は、負極活物質及びヤング率が10GPa以上20GPa以下の固体電解質を含み、バインダー及び導電助剤の一方又は双方をさらに含んでいてもよい。バインダー及び導電助剤は、公知のものを用いることができる。負極合剤層13Bにおけるバインダー及び導電助剤の種類及び量は、正極合剤層11Bにおけるバインダー及び導電助剤の種類及び量と同様であってもよい。
【0065】
負極合剤層13Bの厚みは、例えば、300μm以下であり、30μm以上であることが好ましい。負極合剤層13Bの厚みは、負極合剤層13Bの面直方向における断面SEM像により測定される。
【0066】
負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの挿入及び脱離を可逆的に進行させることができればよく、特に限定されない。負極活物質には、公知のリチウムイオン2次電池に用いられている負極活物質を使用できる。
【0067】
負極活物質は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ、メソカーボンファイバー(MCF)、コークス類、ガラス状炭素、有機化合物焼成体などの炭素材料、Si、SiOx、Sn、アルミニウムなどのリチウムと化合できる金属、これらの合金、これら金属と炭素材料との複合材料、チタン酸リチウム(LiTi12)、SnOなどの酸化物、硫黄変性ポリアクリロニトリル、金属リチウム等である。負極活物質は、天然黒鉛またはチタン酸リチウム(LiTi12)が好ましい。
【0068】
負極合剤層13B中の固体電解質の含有量は、例えば、5体積%以上70体積%以下であり、30体積%以上65体積%以下であることが好ましく、40体積%以上55体積%以下であることがより好ましい。また、負極合剤層13B中の負極活物質の含有量は、例えば、30体積%以上70体積%以下であり、40体積%以上60体積%以下であることが好ましい。
【0069】
固体電解質としては、ヤング率が10GPa以上20GPa以下の範囲にあるものを用いることができ、12GPa以上16GPa以下の範囲にあるものを用いることが好ましい。このような固体電解質としては、ハライド系固体電解質、硫化物系固体電解質から選ばれる一種又は二種以上を含むことができる。ヤング率が20GPa以下であることで、エキスパンドメタルが正極合剤層11B内に形成され、エキスパンドメタル2及び固体電解質の接触面積の高い構成を実現できる。
【0070】
ハライド系固体電解質としては、上記式(2)で表されるものを用いることができ、硫化物系固体電解質としては、上記式(3)で表されるものを用いることができ、上記式(2)で表されるハライド系固体電解質、及び、上記式(3)で表される硫化物系固体電解質のうちの2種以上を合わせて用いてもよい。負極合剤層13Bに含まれる固体電解質は、正極合剤層11Bに含まれる固体電解質と同様のものであってもよい。
【0071】
エキスパンドメタル4の形状及び材質は、例えば、エキスパンドメタル2の形状と同様にすることができる。
【0072】
エキスパンドメタル4は、負極合剤層13B及び固体電解質層15の界面S2に対して傾斜して形成されることが好ましい。負極合剤層13B及び固体電解質層15の界面S2に対するエキスパンドメタル4の傾きの角度θ2は、0.5°以上20°以下であることが好ましく、1°以上15°以下であることがより好ましく、10°以下であることがさらに好ましい。エキスパンドメタル4の傾きの角度θ2が上記範囲内にあることで、積層方向における伝導性に優れ、内部抵抗が特に優れた全固体電池となる。
【0073】
負極合剤層13Bの体積に対するエキスパンドメタル4の体積の比率は、例えば、1%以上85%以下である。
【0074】
エキスパンドメタル4は、固体電解質層15に対してエキスパンドメタル2が傾く向きと同じ向きに傾いていてもよく、異なる向きに傾いていてもよい。
【0075】
負極合剤層13Bにおけるエキスパンドメタル4の断面単位構造は、正極合剤層11Bにおけるエキスパンドメタル2の断面単位構造と同様にすることができる。すなわち、積層体30の積層方向に沿った断面において、エキスパンドメタル4は、固体電解質層15と近い第一辺M1と、第一辺M1と対向する第二辺M2と、第二辺M2及び第一辺M1をつなぐ第三辺M3及び第四辺M4と、により画定される。エキスパンドメタル4は、上記第一辺M1~第四辺M4により画定された領域が一列に並ぶ。
【0076】
第二辺M2と第三辺M3とのなす角X及び第二辺M2と第四辺M4とのなす角Xのうち、小さい角Xは、20°≦X<90°を満たし、30°≦X≦80°を満たすことが好ましく、40°≦X≦70°を満たすことがより好ましく、50°≦X≦60°を満たすことがさらに好ましい。
【0077】
角X,Xのいずれも上記角Xに該当し、上記数値範囲を満たす。このように、エキスパンドメタル4は、角X,Xのいずれも上記数値範囲を満たすことが好ましい。
【0078】
エキスパンドメタル4の断面単位構造は、例えば、第一辺M1よりも第二辺M2が長い台形である。第一辺M1の長さをa、第二辺M2の長さをb、第一辺M1及び第二辺M2の距離をcとしたとき、エキスパンドメタルの断面単位構造において傾斜(|a-b|/c)は、例えば、0.01を超え6以下であり、0.1以上3以下であることが好ましく、0.5以上2.5以下であることがより好ましく、1.0以上2.0以下であることがさらに好ましい。ここで、本実施形態において、第一辺M1及び第二辺M2の距離は、第一辺M1と直交する方向における第一辺M1の中点mM1から第二辺M2の中点mM2までの距離を表す。
【0079】
(固体電解質層)
固体電解質層15は、正極層11と負極層13とに挟まれる。固体電解質層15は、外部から印加された電圧によってイオンを移動させることができる固体電解質を含む。例えば、固体電解質は、リチウムイオンを伝導し、電子の移動を阻害する。
【0080】
固体電解質層15を構成する固体電解質は、例えば、リチウムを含む。固体電解質は、例えば、酸化物系材料、硫化物系材料、ハライド系材料、錯体水素化物系材料でもよい。固体電解質層15に備えられる固体電解質としては、ハライド系材料及び硫化物系材料の一方又は双方を用いることが好ましい。ハライド系固体電解質としては、上記式(2)で表されるものを用いてもよい。硫化物系固体電解質としては、上記式(3)で表されるものを用いてもよい。
【0081】
[全固体電池の製造方法]
次いで、本実施形態にかかる全固体電池の製造方法について説明する。本実施形態にかかる全固体電池は、例えば、粉末成形法を用いて作製される。粉末成形法は、グローブボックス内で行われる。
【0082】
本実施形態に係る全固体電池の製造方法は、圧粉により固体電解質層を形成する固体電解質層形成工程、ハライド系固体電解質及び硫化物系固体電解質の一方又は双方を含む正極合剤を合成する正極合剤形成工程、ハライド系固体電解質及び硫化物系固体電解質の一方又は双方を含む負極合剤を形成する負極合剤形成工程、固体電解質層の一面上に正極合剤を載置し、さらにエキスパンドメタルを載置し、パンチ等を用いて圧粉成形する正極合剤層形成工程、及び、固体電解質層の一面上に負極合剤を載置し、さらにエキスパンドメタルを載置し、パンチ等を用いて圧粉成形する負極合剤層形成工程を有する。本実施形態に係る全固体電池の製造方法では、所定の形状のエキスパンドメタルを用いることができる。また、エキスパンドメタルに対して圧力かけ方を調整すること等により、断面視形状の調整が可能である。例えば、レーザー加工をすることにより、エキスパンドメタルの断面視形状を所定の方法にすることができる。レーザー加工では、例えば、エキスパンドメタルの断面視における角の部分を丸くすることもできる。
【0083】
上記実施形態によれば、電極活物質及び固体電解質を備える電極合剤層にエキスパンドメタルが形成されており、当該エキスパンドメタルが所定の断面視形状を備えることで、電極活物質をエキスパンドメタルと密に接触させるとともに、エキスパンドメタルの面のうち、電極集電体に近い側の面の面積の電極集電体の面積に対する大きさを大きくでき、また、エキスパンドメタル及び電極集電体の接触面積を増大させることも可能であり、内部抵抗の低い全固体電池を提供することができる。
【0084】
(変形例)
図7(a)、図7(b)及び図7(c)は、図5の変形例を示す断面図である。変形例において、上記実施形態と同様の構成は、同様の符号を付し、説明を省略する。図7(a)~図7(c)のいずれも、エキスパンドメタル2A~2Cの断面の一部を拡大して示した図であり、実際のエキスパンドメタル2A~2Cの断面視形状は、これらの図に示される形状が一列に並ぶ。
【0085】
上記実施形態の全固体電池に備えられるエキスパンドメタルは、図7(a)に示されるように、角が丸まった構造であってもよく、図7(b)に示されるように、第一辺M1及び第二辺M2が平行でない構成や、第三辺M3の長さ及び第四辺M4の長さが異なっている構成であってもよく、図7(c)に示されるように、第三辺M3及び第四辺M4の長さが異なっている構成や、角X及び角Xの大きさが異なっている構成であってもよい。角X及び角Xの大きさが異なる場合、角X及び角Xのうち小さい方の角Xが20°以上90°未満の範囲内にあればよく、角X及び角Xともに20°以上90°未満の範囲内にあることが好ましい。
【0086】
図7(a)~図7(c)に示された構造が一列に並ぶエキスパンドメタルを電極合剤層に備える場合であっても、内部抵抗の低い全固体電池を提供することができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例0088】
以下、本発明の実施例を説明する。本発明は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0089】
[実施例1]
-固体電解質の合成-
アルゴンガスを循環している露点-90℃、酸素濃度1ppm、大気圧環境のグローブボックス内で固体電解質の合成、正極合剤層材料の混合、負極合剤層材料の混合、及び全固体電池の作製を行った。まず原料粉として、LiSO、ZrClとをモル比で1:1となるように秤量した。次いで、秤量した原料粉をZr容器内に直径5mmのZrボールとともに入れ、遊星型ボールミルを用いてメカノケミカルミリング処理を行った。処理は、回転数500rpmの条件で、50時間混合し、その後200μmメッシュの篩にかけた。これにより固体電解質としてLiZrSOClの粉末を得た。
【0090】
-正極合剤の合成-
次いで、アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で正極合剤の秤量及び混合を行った。コバルト酸リチウム(LiCoO):LiZrSOCl:カーボンブラック=77:18:5重量部になるように秤量し、めのう乳鉢で5分間混合して、正極合剤を得た。
【0091】
-負極合剤の合成-
次いで、アルゴンガスを循環している露点-85℃、酸素濃度1ppmのグローブボックス内で負極合剤の秤量及び混合を行った。チタン酸リチウム(LiTi12):LiZrSOCl:カーボンブラック=72:22:6重量部になるように秤量し、めのう乳鉢で5分間混合して、負極合剤を得た。
【0092】
-成形工程-
次いで、上記の固体電解質、正極合剤、負極合剤及びエキスパンドメタルを用いて、粉末成形法により、正極集電体/正極合剤層/電解質層/負極合剤層/負極集電体で構成された蓄電素子を作製した。
【0093】
まず、中央に30×40mmの貫通穴を有するSKD11材製のダイスと、同様の材質で29.9×39.9mmの下パンチと、上パンチを用意した。ダイスの貫通穴に下パンチを挿入し、開口側から固体電解質を400mg投入した。次いで固体電解質の上に上パンチを挿入した。この第1ユニットをプレス機に載置し、圧力373MPaでプレスし固体電解質層を成形した。第1ユニットをプレス機から取り出し、上パンチを取り外した。
【0094】
次いで、樹脂ホルダーの開口側から固体電解質層(上パンチ側)の上に負極合剤を750mg投入した。
【0095】
次いで、負極合剤の上に、アルミニウムで構成されたエキスパンドメタルを載置した。エキスパンドメタルとしては、空隙において長さの小さい短目方向において、最近接のボンド間の中心間距離SWが1mmであり、短目方向と直交する長目方向において、最近接のボンドの中心間距離LWが2mmであり、刻み幅150μm、厚み50μmのものを用いた。すなわち、実施例1において用いたエキスパンドメタルの短目方向の中心間距離SW及び長目方向の中心間距離LWの積SW×LWは、2mmである。
【0096】
次いで、その上に上パンチを挿入した。この第2ユニットをプレス機に静置し、圧力373MPaで成形した。次に第2ユニットを取り出し、上下を逆にして下パンチを取り外した。
【0097】
次いで、固体電解質層(下パンチ側)の上に正極合剤を750mg投入した。
【0098】
次いで、正極合剤の上に、アルミニウムで構成されたエキスパンドメタルを載置した。エキスパンドメタルとしては、空隙の長さの小さい短目方向において、最近接のボンド間の中心間距離SWが1mmであり、短目方向と直交する長目方向において、最近接のボンドの中心間距離LWが2mmであり、刻み幅150μm、厚み50μmのものを用いた。
【0099】
次いで、その上に下パンチを挿入し、この第3ユニットをプレス機に静置し、圧力373MPaで成形した。
【0100】
次いで、正極合剤層/固体電解質層/負極合剤層で構成された蓄電素子をダイスから取り出した。
【0101】
-収容工程-
次に、得られた蓄電素子を外装体に収容した。蓄電素子の収容は、露点-50℃のドライルームで行った。
【0102】
封入する外装体として、アルミニウムラミネート袋を用意した。また、負極集電体(アルミ箔、30×40mm、厚さ20μm)と正極集電体(アルミ箔、30×40mm、厚さ20μm)に外部端子として、無水マレイン酸をグラフト化したポリプロピレン(PP)を巻き付けたアルミニウム箔(幅4mm、長さ40mm、厚み100μm)を溶接した。正極集電体/正極合剤層/固体電解質層/負極合剤層/負極集電体となるように積層を行い、アルミラミネート袋の中に挿入した。最後に外装体の内部を真空引きしながら、開口部をヒートシールすることで、実施例1の全固体電池を作製した。
【0103】
[実施例2~実施例8]
断面単位構造が異なるエキスパンドメタルを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0104】
[実施例9~実施例12]
材質の異なるエキスパンドメタルを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0105】
[実施例13]
負極合剤層にエキスパンドメタルを形成せず、正極合剤層のみにエキスパンドメタルを形成した点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0106】
[実施例14]
正極合剤層にエキスパンドメタルを形成せず、負極合剤層のみにエキスパンドメタルを形成した点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0107】
[実施例15~実施例22]
固体電解質層の上に電極合剤を投入し、電極合剤上に、エキスパンドメタルを載置した後、パンチを挿入する前に電極合剤粉末表面を均す際に、エキスパンドメタルの向きを調整した。このようにして、正極合剤層及び固体電解質層の界面に対するエキスパンドメタルの傾きθ1、並びに、負極合剤層及び固体電解質の界面に対するエキスパンドメタルの傾きθ2を変更した点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0108】
[比較例1、比較例2]
断面単位構造が異なるエキスパンドメタルを用いた点を除き、実施例1と同様の方法で全固体電池を作製した。
【0109】
(内部抵抗測定)
実施例1~実施例22、比較例1及び比較例2の全固体電池に対し、以下の条件で電気化学インピーダンス分光法(electro-chemical impedance spectroscopy, EIS)により内部抵抗を測定した。具体的には、全固体電池を25℃の恒温槽内に保持し、測定周波数1kHzにおけるインピーダンスの実数成分Z´を内部抵抗[Ω]として測定した。
【0110】
(全固体電池の断面観察)
実施例1~実施例22、比較例1及び比較例2の全固体電池を積層方向に沿って切断し、断面SEM像を撮影した。角断面SEM像により、エキスパンドメタルの断面単位構造の確認、正極合剤層及び固体電解質層の界面に対する正極合剤層に設けられたエキスパンドメタルの角度、並びに、負極合剤層及び固体電解質層の界面に対する負極合剤層に設けられたエキスパンドメタルの角度の測定を行った。
【0111】
エキスパンドメタルの断面単位構造の確認では、先ずエキスパンドメタルのうち固体電解質層と近い第一辺M1と、第一辺M1と対向する第二辺M2と、第二辺M2及び第一辺M1をつなぐ第三辺M3及び第四辺M4と、により画定される領域を選択した。次いで、断面SEM像から第二辺M2と第三辺M3とのなす角X及び第二辺M2と第四辺M4とのなす角Xを測定した。X及びXのうち、小さい角Xの大きさを測定した。
【0112】
また、断面SEM像から、エキスパンドメタルの断面単位構造において第一辺の長さをa、前記第二辺の長さをb、前記第一辺及び前記第二辺の距離をcとしたときの傾斜(|a-b|/c)を算出した。
【0113】
表1に、実施例1~実施例22、比較例1及び比較例2のエキスパンドメタル断面単位構造における角Xの大きさ、傾斜(|a-b|/c)、エキスパンドメタルが形成された電極合剤層、正極合剤層及び固体電解質層の界面S1に対するエキスパンドメタルの角度θ1、負極合剤層及び固体電解質層の界面S2に対するエキスパンドメタルの角度θ2及び内部抵抗の測定結果をまとめる。尚、実施例1~実施例22及び比較例2において、全固体電池の正極合剤層及び負極合剤層に形成されたエキスパンドメタルは、断面単位構造の形状が同様の等脚台形であった。比較例1の全固体電池の正極合剤層及び負極合剤層に形成されたエキスパンドメタルの断面単位構造は、長方形であった。
【0114】
【表1】
【0115】
表1から分かる通り、電極合剤層に形成されたエキスパンドメタルの断面単位構造において、角Xが、20°≦X<90°の範囲にある実施例1~実施例22は、角Xが90°である比較例1及び20°未満である比較例2と比べ、際立って低い内部抵抗を示すことが確認された。また、角Xの大きさが30°以上60°以下の範囲にある実施例2及び実施例3では、上記範囲外の実施例1及び実施例4と比べ、低い内部抵抗を示した。
【0116】
また、傾斜(|a-b|/c)が0.5を超え3以下である実施例5及び実施例6は、上記範囲外の実施例7及び実施例8と比べ、低い内部抵抗を示した。また、エキスパンドメタルがAl又はNiで構成されている実施例1及び実施例9は、特に低い内部抵抗を示した。正極合剤層のみにエキスパンドメタルが形成されている実施例13と比べ、負極合剤層のみにエキスパンドメタルが形成されている実施例14の方が低い内部抵抗を示し、負極合剤層に所定の形状のエキスパンドメタルを形成することの有効性が確認された。
【0117】
また、電極合剤層及び固体電解質層の界面に対するエキスパンドメタルの傾きθ、θが0.5°以上10°以下である実施例15~実施例19は、特に優れた内部抵抗を示し、0.5°以上5°以下である実施例15~実施例17は、一層優れた内部抵抗を示すことが確認された。
【符号の説明】
【0118】
1:正極合剤、2,4:エキスパンドメタル、3:負極合剤、10:蓄電素子、11:正極層、11A:正極集電体、11B:正極合剤層、13:負極層、13A:負極集電体、13B:負極合剤層、15:固体電解質層、12,14:外部端子、20:外装体、22:金属箔、24:樹脂層、51:ストランド、52:ボンド、100:全固体電池、M1:第一辺、M2:第二辺、M3:第三辺、M4:第四辺、X:第二辺及び第三辺のなす角、X:第二辺及び第四辺のなす角
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7