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特開2024-140248生分解性樹脂組成物及びバイオマスナノファイバー粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140248
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】生分解性樹脂組成物及びバイオマスナノファイバー粒子
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241003BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L101/00 ZNM
C08K7/02 ZAB
C08B15/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051298
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
【テーマコード(参考)】
4C090
4J002
【Fターム(参考)】
4C090AA02
4C090BA24
4C090BB02
4C090BB12
4C090BB33
4C090BB36
4C090BB52
4C090BD19
4C090BD35
4J002AB012
4J002AB021
4J002AB041
4J002AB052
4J002AD032
4J002AH001
4J002BE021
4J002CF031
4J002CF181
4J002CF191
4J002FA042
4J002FD012
(57)【要約】
【課題】従来の生分解性樹脂に対し、引張強度を良好に保ち、耐衝撃性を向上させることができる生分解性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】バイオマスナノファイバーと生分解性樹脂とを含み、前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.1~10質量%である生分解性樹脂組成物である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスナノファイバーと生分解性樹脂とを含み、
前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.1~10質量%である生分解性樹脂組成物。
【請求項2】
前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.8~8質量%である請求項1に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項3】
前記バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである請求項1又は2に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項4】
前記バイオマスナノファイバーの重合度が150~900である請求項1~3のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項5】
バイオマスナノファイバーからなり、請求項1~4のいずれか1項に記載の生分解性樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー粒子であって、
前記バイオマスナノファイバー粒子は、平均繊維径が5~50nmである複数の前記バイオマスナノファイバーからなる集合体として粒子状をなしており、
前記バイオマスナノファイバーの重合度が150~900であり、
含水量が9質量%以下であり、
メジアン径が3~15μmであるバイオマスナノファイバー粒子。
【請求項6】
カルボキシ基、カルボキシメチル基、リン酸基、硫酸基、亜リン酸基、ザンデート基、スルホ基の少なくともいずれか1つから選ばれる官能基の含有量が0.1mmol/g以下である請求項5に記載のバイオマスナノファイバー粒子。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂組成物及び当該生分解性樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
生分解性プラスチックは、微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解されることから、廃棄物処理問題の解決につながると期待されている。しかし、生分解性プラスチックは生分解されることを前提としていることから、成形体としたときの強度が低くなってしまう。
【0003】
また、近年、石油の価格上昇や枯渇リスクの問題、炭酸ガス排出量の増大に伴う温暖化問題が注目されており、当該問題解決のために、バイオマス由来の新素材に関心が高まっている。そのような新素材の一つとして、セルロースナノファイバーがあり、その製造方法、種々の用途開発等が進められてきた。
【0004】
そこで、生分解性プラスチックの生分解性を損なわずに強度を上げるために、特許文献1では、生分解性樹脂にセルロースナノファイバーを配合することにより、強度及び生分解性が促進された生分解性複合材料が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-21041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、種々の強度と生分解性についての評価はなされているが、耐衝撃性については何ら検討されていない。特許文献1の実施例ではセルロースナノファイバーが20質量%以上で種々の強度が向上しているが、この場合、耐衝撃性が劣る可能性が懸念される。
【0007】
以上から、本発明は、従来の生分解性樹脂に対し、引張強度を良好に保ち、耐衝撃性を向上させることができる生分解性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] バイオマスナノファイバーと生分解性樹脂とを含み、前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.1~10質量%である生分解性樹脂組成物。
[2] 前記バイオマスナノファイバーの含有量が0.8~8質量%である[1]に記載の生分解性樹脂組成物。
[3] 前記バイオマスナノファイバーが機械解繊バイオマスナノファイバーである[1]又は[2]に記載の生分解性樹脂組成物。
[4] 前記バイオマスナノファイバーの重合度が150~900である[1]~[3]のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物。
[5] バイオマスナノファイバーからなり、[1]~[4]のいずれか1つに記載の生分解性樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー粒子であって、前記バイオマスナノファイバー粒子は、平均繊維径が5~50nmである複数のバイオマスナノファイバー同士が相互に凝集して粒子状をなしており、前記バイオマスナノファイバーの重合度が150~900であり、含水量が9質量%以下であり、メジアン径が3~15μmであるバイオマスナノファイバー粒子。
[6] カルボキシ基、カルボキシメチル基、リン酸基、硫酸基、亜リン酸基、ザンデート基、スルホ基の少なくともいずれか1つから選ばれる官能基の含有量が0.1mmol/g以下である[5]に記載のバイオマスナノファイバー粒子。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来の生分解性樹脂に対し、引張強度を良好に保ち、耐衝撃性を向上させることができる生分解性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る一実施形態(本実施形態)の生分解性樹脂組成物及びバイオマスナノファイバー粒子を説明する。
【0012】
[生分解性樹脂組成物]
本実施形態に係る生分解性樹脂組成物は、バイオマスナノファイバーと生分解性樹脂とを含み、当該バイオマスナノファイバーの含有量が0.1~10質量%である。バイオマスナノファイバーの含有量が0.1未満では、従来の生分解性樹脂に対し、引張強度を良好に保ち、耐衝撃性を向上させることができない。
【0013】
バイオマスナノファイバーの含有量は、引張強度を良好に保ち、耐衝撃性をより確実に向上させる観点から、0.8~8質量%であることが好ましく、1~7質量%であることがより好ましい。
【0014】
(バイオマスナノファイバー)
本実施形態に係るバイオマスナノファイバー(BNF)としては、生物由来の高分子で水に難溶性のナノファイバーで、例えば、セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、シルクナノファイバー等が挙げられる。なかでも、化学的安定性、熱的安定性、コストの観点からセルロースナノファイバー(CNF)が好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径は、5~100nmであることが好ましく、6~50nmであることがより好ましく、7~40nmであることがさらに好ましく、8~25nmであることがさらに好ましく、なかでも8~15nmであることが好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均長さは、0.5~100μmであることが好ましく、10~100μmであることがより好ましい。
バイオマスナノファイバーの平均繊維径や平均長さは、適切な倍率で撮影された電子顕微鏡写真に基づいて測定した繊維径や長さ(n=20程度)から算出することができる。
【0015】
バイオマスナノファイバーには種々の製造方法から製造されたものがあるが、なかでも機械解繊で製造された機械解繊バイオマスナノファイバーであることが好ましい。機械解繊バイオマスナノファイバーは、原料バイオマスをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミル等を用いて、フィブリル化または微細化(機械粉砕)して得られる。
【0016】
他方、化学修飾バイオマスナノファイバーでは、原料バイオマスを化学的処理により微細化しやすくし、その後、機械解繊で微細化して得られる。よって化学修飾バイオマスナノファイバーは、化学修飾される。例えば、TEMPO酸化CNFのような化学修飾CNFを用いると塩に含まれる金属イオンが不純物として働く可能性がある。金属イオンは、例えば、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀である。しかし、機械解繊バイオマスナノファイバーは微細化の際に化学修飾等を行わず、媒体として水性媒体だけを用いるので、樹脂物性に何らかの影響を及ぼしやすい化合物が存在せず、化学的にも熱的にも安定である。なお、高圧ホモジナイザーで処理しても、機械解繊バイオマスナノファイバーは重合度の低下が起きにくい。
【0017】
ここで、機械解繊バイオマスナノファイバーは、ナトリウム、アルミニウム、銅、及び銀のいずれか1つ(好ましくは、いずれか2つのそれぞれ、より好ましくはいずれか3つのそれぞれ)の含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
また、当該含有率は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法、電子線マイクロアナライザーを用いたEPMA法、蛍光X線分析法の元素解析により測定して求めることができるが、上記の少なくともいずれかで含有率が0.1質量%以下となっており、0.01質量%以下となっていることが好ましい。
【0018】
機械解繊バイオマスナノファイバーであることで、化学修飾で生産する方法と比べ、ウォータジェットの力のみでナノファイバー化するため、不純物の混入が少ない。また、化学修飾で生産する方法と比べ、元原料からの重合度や結晶化度の低下が少ない。さらに、化学修飾で生産する方法よりも、化学修飾処理後に洗浄工程が不要である等の工程数が少なくてすむといったメリットがある。
【0019】
機械解繊バイオマスナノファイバーがセルロースナノファイバー(機械解繊セルロースナノファイバー)である場合、その重合度は150~900であることが好ましく、400~900であることがより好ましい。重合度が150以上であることで、耐衝撃性をより確実に向上させることができる。重合度が900以下であることで、当該セルロースナノファイバーをはじめとした機械解繊バイオマスナノファイバーの樹脂への分散性を良好にすることができる。
【0020】
重合度は、セルロースの最小構成単位であるグルコース単位の連結数であり、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法によって求められる。
【0021】
(生分解性樹脂)
生分解性樹脂としては、従来公知の樹脂を使用することができる。例えば、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリ(ヒドロキシブチレート/ヒドロキシヘキサノエート)(PHBH)等のポリヒドロキシアルカン酸;ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリ(カプロラクトン/ブチレンサクシネート)(PCLBS)、ポリ(ブチレンサクシネート/アジペート)(PBSA)、ポリ(ブチレンスクシネート/カーボネート)(PEC)、ポリ(エチレンテレフタレート/サクシネート)(PETS)、ポリ(ブチレンアジペート/テレフタレート)(PTMAT)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリ(エチレンサクシネート/アジペート)等のポリエステル樹脂;(ポリ乳酸/ポリブチレンサクシエート系)ブロックコポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);変性でんぷん;酢酸セルロース;キチン;キトサン;リグニン等が挙げられる。これらの中でも、ポリ乳酸(PLA)が好ましい。
【0022】
生分解性樹脂の重量平均分子量は、実用的な剛性を得る観点から、0.5万以上であることが好ましく、5万以上がより好ましく、10万以上であることがさらに好ましい。
なお、重量平均分子量は、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の平均分子量である。
【0023】
本実施形態の樹脂組成物は、既述のバイオマスナノファイバー(好ましくは、後述のバイオマスナノファイバー粒子)と生分解性樹脂とをブレンダー等で混合し、80℃程度の恒温槽にて乾燥後、二軸混練機にて溶融混練することで作製することができる。
上記の混合の際、又は、生分解性樹脂中に、結晶化促進剤としての効果のある蓚酸ナトリウム、蓚酸カルシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カルシウム、フタル酸カルシウム、酒石酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド等や、ゴム成分、可塑剤、紫外線防止剤、熱安定剤、光安定剤、防曇剤、帯電防止剤、難燃剤、酸化防止剤、顔料、着色剤などを、樹脂特性を損なわない範囲で添加してもよい。
【0024】
また、本実施形態に係る生分解性樹脂組成物は、引張強度を良好に保ち、耐衝撃性をより確実に向上させる観点から、生分解性樹脂100質量部に対して、バイオマスナノファイバーの含有量が0.1~12質量部であることが好ましく、0.3~10質量部であることがより好ましく、0.7~8質量部であることがさらに好ましい。
【0025】
本実施形態の樹脂組成物は、例えば、ペレット形状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、ペレット形状が後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。
【0026】
本実施形態の樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、種々の公知の製造方法で構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法等が使用可能である。
【0027】
本実施形態の樹脂組成物は、優れた機械的特性(引張弾性)及び耐衝撃性を有するため、種々の部品や製品の用途に好適に使用可能である。
【0028】
[バイオマスナノファイバー粒子]
本実施形態に係るバイオマスナノファイバー粒子は、既述の本発明の生分解性樹脂組成物用のバイオマスナノファイバー粒子であり、バイオマスナノファイバーからなる。
当該バイオマスナノファイバーは、既述のバイオマスナノファイバーであり、機械解繊バイオマスナノファイバーであることが好ましく、具体的には、下記のバイオマスナノファイバー粒子が好ましい。
【0029】
本実施形態に係るバイオマスナノファイバー粒子は、平均繊維径が5~50nmである複数のバイオマスナノファイバーからなる集合体として粒子状をなしており、バイオマスナノファイバーの重合度が150~900であり、含水量が9質量%以下であり、メジアン径が3~15μmである。
【0030】
平均繊維径が5~50nmである複数のバイオマスナノファイバー同士からなる集合体として粒子状をなしていることで、樹脂に溶融混練した際に樹脂中でバイオマスナノファイバーの集合体が解れて、樹脂中にバイオマスナノファイバーを高分散させることができる。
【0031】
バイオマスナノファイバーの重合度が150~900であることで、耐衝撃性をより確実に向上させることが可能となり、また、樹脂への分散性を良好にすることができる。当該重合度は、400~900であることがより好ましく、600~850であることがい。
【0032】
バイオマスナノファイバー粒子の含水量が9質量%以下の低含水率であることで、生分解性樹脂に添加しても、加水分解が生じにくくなり、より実用的な生分解性樹脂組成物とすることができる。含水量は8質量%以下であることがより好ましい。また、7質量%以下であることがより好ましい。また、6質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。含水量は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0033】
バイオマスナノファイバー粒子のメジアン径が3~15μmであることで、バイオマスナノファイバー同士からなる集合体が樹脂混練時に樹脂中で解れやすくなり、樹脂中にナノファイバーを好分散させることができる。メジアン径は、3~12μmであることがより好ましく、3~10μmであることさらに好ましい。メジアン径は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0034】
バイオマスナノファイバー粒子はさらに、カルボキシ基、カルボキシメチル基、リン酸基、硫酸基、亜リン酸基、ザンデート基、スルホ基の少なくともいずれかひとつから選ばれる官能基(イオン性官能基)の含有量が0.1mmol/g以下であることが好ましい。
既述の機械解繊バイオマスナノファイバーを用いることで、イオン性官能基の含有量を0.1mmol/g以下とすることができる。
【0035】
バイオマスナノファイバー粒子において、イオン性官能基の含有量が0.1mmol/g以下であることで、樹脂に混練した際の変色およびセルロース自体の耐熱性を向上することができる。イオン性官能基の含有量は、0.08mmol/g以下であることがより好ましく、0.02mmol/g以下であることがさらに好ましい。イオン性官能基の含有量は実施例に記載の方法で測定することができる。
また、既述のすべてイオン性官能基の合計含有量が上記範囲であることがより好ましい。
【0036】
バイオマスナノファイバー粒子において、バイオマスナノファイバーのBET比表面積は、樹脂への分散性、強度、耐衝撃性の観点から、70~200m/gであることが好ましく、90~150m/gであることがより好ましい。
【0037】
本実施形態のバイオマスナノファイバー粒子は、BNF分散体の調製を行った後、BNFの乾燥等を行って製造することができる。
【0038】
(BNF分散体の調製)
まず、バイオマス分散流体となる、水に分散させたバイオマスナノファイバーのスラリーを調製する。例えば、本実施形態に係るBNFがCNFである場合は、セルロースを機械粉砕して得られる繊維であり、セルロースとしては、結晶形がI型のセルロース(セルロースI型)である木材パルプや、コットン、リンター、麻、バクテリアセルロース、柔細胞繊維などの非木系パルプ、結晶形がII型のセルロース(セルロースII型)である溶解剤としてN一メチルモルホリンN-オキシド/水溶媒、銅アンモニア錯体、水酸化ナトリウム/二硫化炭素を用いた再生セルロース繊維等が用いられる。セルロースII型は、分子量および結晶化度が低下しているため、セルロースI型よりも繊維が切断されやすく、また、耐熱性も低いので、好ましい材料としては、セルロースI型である。原料セルロースを機械粉砕する方法としては、パルプをビーターやリファイナーで所定の長さとして、高圧ホモジナイザー、グラインダー、衝撃粉砕機、ビーズミルなどを用いて、フィブリル化または微細化することで機械粉砕する方法が知られている。
【0039】
BNFは、バイオマス分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することで得られたものであることが好ましい。
【0040】
この解繊手法は、市販されている高圧ホモジナイザーのように、バイオマス分散流体を高圧低速で狭い流路を通過させ、解放時に均質化させるせん断力だけではなく、衝突用硬質体に衝突させることによる衝突力や、キャビテーションを利用した、高圧での連続処理が可能である。これらウォータージェット(WJ)のせん断力、衝突力、キャビテーションを利用した解繊手法をWJ法と定義する。また、衝突処理を1回行うことを1パスとして、均一なナノファイバーを得るには、好ましくは1~30パス、さらに好ましくは5~20パスの繰り返し衝突を行う必要がある。
【0041】
また、上記方法は酸やアルカリを使用する必要がないため、例えばセルロースの分子鎖へのダメージが少なく、結晶化度の高いCNFが得られる。なお、セルロースの場合、未処理に対する各パス回数(衝突回数)における結晶化度は、40~83%となる。また、キチンの結晶化度は、48~73%となる。ボールミルやディスクミルなどの他の物理的粉砕法では、結晶化度が低下していくのに対して、WJ法では、結晶化度が低下し難いことが大きな特長である。
【0042】
さらに、WJ法では、最大で30質量%の高濃度のバイオマス分散流体を直径0.1~0.8mmの噴射ノズルを介して、100~245MPaの高圧噴射処理により、衝突用硬質体に衝突させて解繊することができ、一般的に行われている1~2質量%のナノファイバー化の工程に比べ、固形分当たりの処理量が飛躍的に向上することから、低コスト・環境低負荷・高効率でのBNF分散体を得ることができる。
【0043】
(BNFの乾燥)
BNFの乾燥は、BNF分散体、あるいはこれに適宜有機成分を混合撹拌等したものを、乾燥装置内で予熱期間経過後に進行する恒率乾燥期間(食品などを一定の加熱条件で乾燥する過程で時間に対して含水率が一定の割合で減少していく乾燥過程の期間)において、その乾燥速度が0.0002~0.5[kg/m・s]の条件で行うことが好ましい。
【0044】
このとき、乾燥前の湿り材料の質量をms[kg]の時間θ[s]に対する変化について、減少速度をrm[kg/s]として表すとrm=-dms/dθで表され、乾き材料の質量をm[kg]、水分の質量をmw[kg]とすると、ms=m+mwであり、乾燥工程中ではmは不変であり、rm=-d(m+mw)/dθ=-dmw/dθと示され、さらに、乾燥速度Rは、蒸発が起こる面積A[m]を基準として、R=-1/A・dmw/dθ=rm/A[kg/m・s]と表される。
【0045】
WJ法によって製造したBNFを乾燥させる乾燥速度について、上記0.0002~0.5[kg/m・s]の範囲に含まれる場合は、乾燥時に強固な凝集を起こすことなく、樹脂への分散性を高くすることができる。一方で、乾燥速度が0.0002[kg/m・s]を下回ると極端に分散性が低下する場合がある。乾燥速度0.0002~0.5[kg/m・s]の範囲に含まれる条件の乾燥方法としては、所望の乾燥速度が得られる乾燥装置であれば、限定されず、種々の市販された乾燥装置を用いることができる。例えば、噴霧乾燥法を利用した噴霧乾燥装置だけでなく、真空乾燥法を利用した乾燥装置、気流乾燥法を利用した気流式乾燥装置、流動層乾燥法を利用した流動層乾燥装置などが想定できる。
【0046】
噴霧乾燥は、液体や、液体と固体との混合物(スラリー)を気体中に噴霧して急速に乾燥させ、乾燥粉体を製造する手法である。噴霧乾燥は、スプレードライやスプレードライングとも呼ばれ、食品や医薬品といった熱で傷みやすい材料を乾燥させるのが好ましく、乾燥体が安定した粒度分布となるので、触媒のような製品の乾燥に用いられる。
【0047】
真空乾燥は、真空または減圧下で乾燥させる手法である。気圧が下がると空気中の水蒸気分圧が下がり、水分の沸点が低下し蒸発速度が加速されるので、対象物の乾燥を早めることができる。
【0048】
気流乾燥は、粉状、湿潤状、泥状、または塊状の材料を300~600℃の高速熱気流中で浮遊させ、輸送しつつ数秒単位で急速に乾燥させる手法である。熱風が気流乾燥管内を一般に10~30m/s程度で流れるので伝熱効率がよい。
【0049】
流動層乾燥は、乾燥ガスを吹き込むことで粉体を流動化させ、乾燥させる手法であり、流動層の優れた混合性、ガス接触性、伝熱性を乾燥に利用したものである。被乾燥物は流動室の一端から投入されて浮遊流動しながら出口より排出される。被乾燥物の移動速度、流動状態などを適宜調節したり、仕切板を入れる場合もある。
【0050】
噴霧乾燥を行うスプレードライヤー及びその条件等としては、例えば、特開2019-131772号公報及び特開2019-131774号公報に記載のものを採用することが可能で、これによりバイオマスナノファイバーの含水率が10質量%以下であるバイオマスナノファイバー粒子が製造される。
なお、乾燥速度を0.0002~0.5[kg/m・s]の範囲に調整することで、バイオマスナノファイバー粒子の含水率を9質量%以下とすることできる。
【0051】
上述した製造方法で得られたバイオマスナノファイバー粒子の保存温度は、4~40℃が好ましく、4~30℃がさらに好ましい。圧力は、常圧で保管することが好ましい。湿度は、70%以下が好ましく、60%以下がさらに好ましい。
バイオマスナノファイバー粒子を保存する場合は、例えば、アルミパウチなどの袋や密封できる容器に添加し、密封後、保存することが好ましい。また、アルミパウチや密封した容器は、そのままの形態で輸送することができる。
【実施例0052】
[実施例1]
(セルロースナノファイバー粒子の調製)
CNF水分散液(BiNFi-sシリーズWFo、重合度:650、(株)スギノマシン製)にイオン交換水を加えて、終濃度が1質量%になるように調整し、スリーワンモーター撹拌機BLW3000(新東科学製)にて十分に撹拌混合させ、噴霧乾燥装置により表1の性状となるように乾燥し、CNF乾燥体としてのセルロースナノファイバー粒子を得た。セルロースナノファイバー粒子は、複数のバイオマスナノファイバーからなる集合体として粒子状をなしていた。
なお、セルロースナノファイバー粒子について、加熱乾燥式水分計(A&D製、製品名:MX-50)により含水率を測定したところ、4.5質量%であった。
また、作製されたセルロースナノファイバー粒子についての性状を下記表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
CNF粒子のメジアン径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定方法(堀場製作所社製、装置名:LA-960)により測定した。
CNF粒子中のイオン性官能基の含有量は、バイオマスナノファイバー水分散体をイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求める伝導度滴定法により、イオン性官能基の含有量(カルボキシ基、カルボキシメチル基、リン酸基、硫酸基、亜リン酸基、ザンデート基、スルホ基の合計含有量)を測定した。
上記表において、セルロース結晶構造は、X線回折装置(リガク社製、装置名:回転対陰極形X線発生装置ロータフレックスRU-200B)により、加速電圧40kV,加速電流150mAでNiフィルターを通したCuKα線(A=1.542)を用いて同社製粉末X線回折用横型ゴニオメーターにて測定した。回折強度は回折角2θの範囲を5°から35°に対して測定した。セルロース繊維の広角X線回折像測定により得られる回折プロファイル(広角X線回折像)において、走査角2θ=14~17°付近と2θ=22~23°付近の二つの位置に典型的なセルロースI型結晶に起因するピークをもつかどうかで、セルロースI型結晶の有無を確認した。
【0055】
(樹脂組成物の調製)
表2に示す割合で、セルロースナノファイバー粒子(CNF粒子)、ポリ乳酸(ユニチカ(株)製TE-1030)、熱安定剤(BASFジャパン製、Irganox 168)、及び酸化防止剤(BASFジャパン製、Irgafos 1010)を混合し、ブレンダーを用いて20,000rpmで1分間撹拌混合した。その後、二軸混練機によって250℃、100rpm、混練時間5分で溶融混錬し、射出成形(成形温度250℃、金型温度40℃)により、長さ150mm、最大幅20mm、最小幅13mm、厚さ3.3のダンベル片(ASTM D638 standard TYPE-1)、及び、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmのシャルピー衝撃試験用試験片(JIS K7139 短冊状TYPE-B1)を得た。それぞれの試験片が樹脂組成物に該当する。
【0056】
(評価)
得られた樹脂組成物について下記の評価を行った。なお、各種の評価は室温(23℃)で行った。結果を下記表に示す。
【0057】
・引張強度(引張弾性率)
得られたダンベル片を7日間状態調整後、精密万能試験装置(島津製作所社製、製品名:オートグラフAG-Xplus)により引張り試験を行った。試験条件として、試験速度10mm/min、つかみ具間距離60mmに設定した。JIS K7161に準じて測定した。
【0058】
・シャルピー衝撃値
作製したシャルピー衝撃試験用試験片を用いてシャルピー衝撃試験を行った。
シャルピー衝撃値は、ノッチ付シャルピー試験(ノッチ形状:タイプAノッチ(ノッチ半径0.25mm))を行い評価した。測定はJIS K7111に準拠し、測定装置はデジタル衝撃試験機(東洋精機製作所製のDG-UB))を用い、衝撃速度は2.9m/sとし、公称振り子エネルギーは2J又は4Jとし、試験片の数n=5、評価項目は吸収エネルギーとした。
【0059】
[実施例2~5、比較例1]
表2に示す割合とした以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を作製した。そして、実施例1と同様の評価を行った。結果を下記表に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
本実施例および比較例においては、ポリ乳酸としてユニチカ(株)製TE-1030を使用したが、他のポリ乳酸製品(例えば、三井化学(株)製レイシア、NatureWorks製Ingeo等)を用いてもよい。