(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140260
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】太陽電池および太陽電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20241003BHJP
H10K 30/20 20230101ALI20241003BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20241003BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20241003BHJP
H10K 71/12 20230101ALI20241003BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/20
H10K85/60
H10K85/10
H10K71/12
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051314
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】指田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】中西 勝
(72)【発明者】
【氏名】川島 広平
(72)【発明者】
【氏名】柴 唯啓
【テーマコード(参考)】
3K107
5F251
【Fターム(参考)】
3K107AA03
3K107EE68
3K107FF15
5F251AA11
5F251CB14
5F251FA02
5F251FA03
5F251FA04
5F251FA06
5F251GA03
(57)【要約】
【課題】発電効率を向上させることが可能な太陽電池を提供する。
【解決手段】太陽電池は、陰極、電子輸送層、活性層13、正孔輸送層および陽極が順次積層されている。活性層13は、有機ドナー材料Dおよび有機アクセプター材料Aを含み、1μm
2当たりの界面長さが70μm以上100μm以下である相分離構造を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極、電子輸送層、活性層、正孔輸送層および陽極が順次積層されており、
前記活性層は、有機ドナー材料および有機アクセプター材料を含み、1μm2当たりの界面長さが70μm以上100μm以下である相分離構造を有する、太陽電池。
【請求項2】
前記有機ドナー材料は、化学式
【化1】
で表される化合物であり、
前記有機アクセプター材料は、化学式
【化2】
で表される化合物である、請求項1に記載の太陽電池。
【請求項3】
請求項1または2に記載の太陽電池を製造する方法であって、
前記有機ドナー材料、前記有機アクセプター材料、第1溶媒および第2溶媒を含む塗布液を塗布して、前記活性層を成膜する工程を含み、
前記第2溶媒は、前記第1溶媒よりも、前記有機ドナー材料および前記有機アクセプター材料に対する溶解度が低い、太陽電池の製造方法。
【請求項4】
前記第1溶媒は、ハロゲン系溶媒であり、
前記第2溶媒は、ジヨードオクタン、クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルベンジルアミン、ジクロロオクタンおよびオクタンジオールからなる群より選択される一種以上の溶媒であり、
前記第2溶媒の含有量が1.0体積%以下である、請求項3に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項5】
前記活性層を成膜する環境の温度は、25℃以上40℃以下である、請求項3に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池および太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの人々が手頃で信頼でき、持続可能かつ先進的なエネルギーへのアクセスを確保できるようにするため、エネルギーの効率化に貢献する太陽電池の研究開発が実施されている。
【0003】
陰極、電子輸送層、活性層、正孔輸送層および陽極が順次積層されており、活性層が有機ドナー材料および有機アクセプター材料を含む太陽電池が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、太陽電池の発電効率を向上させることが望まれている。
【0006】
本発明は、発電効率を向上させることが可能な太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)陰極、電子輸送層、活性層、正孔輸送層および陽極が順次積層されており、前記活性層は、有機ドナー材料および有機アクセプター材料を含み、1μm2当たりの界面長さが70μm以上100μm以下である相分離構造を有する、太陽電池。
【0008】
(2)前記有機ドナー材料は、化学式
【化1】
で表される化合物であり、前記有機アクセプター材料は、化学式
【化2】
で表される化合物である、(1)に記載の太陽電池。
【0009】
(3)(1)または(2)に記載の太陽電池を製造する方法であって、前記有機ドナー材料、前記有機アクセプター材料、第1溶媒および第2溶媒を含む塗布液を塗布して、前記活性層を成膜する工程を含み、前記第2溶媒は、前記第1溶媒よりも、前記有機ドナー材料および前記有機アクセプター材料に対する溶解度が低い、太陽電池の製造方法。
【0010】
(4)前記第1溶媒は、ハロゲン系溶媒であり、前記第2溶媒は、ジヨードオクタン、クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルベンジルアミン、ジクロロオクタンおよびオクタンジオールからなる群より選択される一種以上の溶媒であり、前記第2溶媒の含有量が1.0体積%以下である、(3)に記載の太陽電池の製造方法。
【0011】
(5)前記活性層を成膜する環境の温度は、25℃以上40℃以下である、(3)または(4)に記載の太陽電池の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発電効率を向上させることが可能な太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の太陽電池の一例を示す断面図である。
【
図2】
図1の活性層の相分離構造を示す上面図である。
【
図3】活性層の相分離構造における1μm
2当たりの界面長さと発電効率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0015】
【0016】
太陽電池10は、陰極11、電子輸送層12、活性層13、正孔輸送層14および陽極15が順次積層されている。
【0017】
活性層13は、
図2に示すように、有機ドナー材料Dおよび有機アクセプター材料Aを含み、相分離構造を有する。相分離構造における1μm
2当たりの界面長さは、70μm以上100μm以下であり、75μm以上90μm以下であることが好ましい。相分離構造における1μm
2当たりの界面長さが70μm未満であると、相分離構造が粗大になり、太陽光を吸収して生成した励起子が失活しやすくなるため、太陽電池10の発電効率が低くなる。一方、相分離構造における1μm
2当たりの界面長さ100μmを超えると、相分離構造が細密になり、分離した電荷が再結合しやすくなるため、太陽電池10の発電効率が低くなる。
【0018】
有機ドナー材料Dは、p型半導体材料であれば、特に限定されないが、例えば、オリゴチオフェン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレン、ポリジアセチレン、テトラチアフルバレン、キノン、テトラシアノキノジメタンが挙げられる。これらの中でも、太陽電池10の発電効率の観点から、化学式
【化3】
で表される化合物PBDB-T-2F(PM6)(Ossila製)が挙げられる。
【0019】
有機アクセプター材料Aは、n型半導体材料であれば、特に限定されないが、例えば、パーフルオロペンタセン、パーフルオロフタロシアニン、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミドが挙げられる。これらの中でも、太陽電池10の発電効率の観点から、化学式
【化4】
で表される化合物Y6(シグマアルドリッチ製)が挙げられる。上記以外の有機アクセプター材料Aとしては、BTP-eC9(Ossila製)、BTP-4Cl-12(Ossila製)、BTP-4F-12(Ossila製)、Y6のFをClに置換した化合物Y7(シグマアルドリッチ製)、BTO(Brilliant Matters製)等が挙げられる。
【0020】
活性層13の厚さは、特に限定されないが、例えば、90nm以上110nm以下である。
【0021】
活性層13は、有機ドナー材料D、有機アクセプター材料A、第1溶媒および第2溶媒を含む塗布液を塗布して、成膜される。ここで、第2溶媒は、第1溶媒よりも、有機ドナー材料Dおよび有機アクセプター材料Aに対する溶解度が低い。これにより、活性層13の相分離構造における1μm2当たりの界面長さを調整することができる。
【0022】
第1溶媒としては、特に限定されないが、例えば、クロロベンゼン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。
【0023】
第2溶媒としては、活性層13の相分離構造における1μm2当たりの界面長さを調整することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ジヨードオクタン、クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルベンジルアミン、ジクロロオクタン、オクタンジオールが挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0024】
塗布液中の第2溶媒の含有量は、1.0体積%以下であり、0.1体積%以上0.6体積%以下であることが好ましい。塗布液中の添加剤の含有量が1.0体積%以下であると、太陽電池10の発電効率が高くなる。
【0025】
活性層13を成膜する環境の温度は、25℃以上40℃以下であることが好ましい。活性層13を成膜する環境の温度が25℃以上40℃以下であると、太陽電池10の発電効率が高くなる。
【0026】
活性層13を成膜する環境は、大気下であってもよいが、窒素雰囲気下であることが好ましい。これにより、太陽電池10の発電効率が高くなる。
【0027】
窒素雰囲気中の酸素濃度は、特に限定されないが、例えば、1ppm以下である。また、窒素雰囲気の露点は、特に限定されないが、例えば、-70℃以上-50℃以下である。
【0028】
陰極11は、金属電極である。金属電極を構成する金属としては、特に限定されないが、例えば、アルミニウム、銀、金が挙げられる。
【0029】
陰極11の厚さは、特に限定されないが、例えば、150nm以上200nm以下である。
【0030】
陰極11の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、溶液塗布法が挙げられる。
【0031】
なお、陰極11は、透明電極であってもよい。
【0032】
電子輸送層12を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)、ビス-3,6-(3,5-ジ-4-ピリジルフェニル)-2-メチルピリミジン(B4PyMPM)が挙げられる。これらの中でも、ポリ(9,9-ビス(3’-(N,N-ジメチル)-N-エチルアンモニウム-プロピル-2,7-フルオレン)-alt-2,7-(9,9-ジオクチルフルオレン))ジブロミド(PFN-Br)が好ましい。
【0033】
電子輸送層12の厚さは、特に限定されないが、例えば、5nm以上30nm以下である。
【0034】
電子輸送層12の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、溶液塗布法が挙げられる。
【0035】
正孔輸送層14を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリチオフェン、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)、ポリアニリン、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミン(NPB)、ヘキサアザトリフェニレン-ヘキサカーボニトリル(HAT-CN)、テトラフェニルジベンゾペリフランテン(DBP)、が挙げられる。これらの中でも、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホン酸(PEDOT/PSS)が好ましい。
【0036】
正孔輸送層14の厚さは、特に限定されないが、例えば、8nm以上15nm以下である。
【0037】
正孔輸送層14の形成方法としては、例えば、真空蒸着法、溶液塗布法が挙げられる。
【0038】
陽極15は、透明電極である。透明電極を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化亜鉛(ZnO)、フッ素ドープ錫酸化物(SnO2:F)が挙げられる。これらの中でも、入手容易性の観点から、ITOが好ましい。
【0039】
陽極15の厚さは、特に限定されないが、例えば、100nm以上300nm以下である。
【0040】
なお、陽極15は、透明基板上に形成されていてもよい。
【0041】
透明基板を構成する材料としては、特に限定されないが、ガラス、樹脂等が挙げられる。
【0042】
透明基板の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.5mm以上1mm以下である。
【0043】
なお、陰極11と電子輸送層12との間に陰極バッファ層が形成されていてもよいし、陽極15と正孔輸送層14との間に陽極バッファ層が形成されていてもよい。また、電子輸送層12と活性層13との間に正孔捕集層が形成されていてもよいし、正孔輸送層14と活性層13との間に電子捕集層が形成されていてもよい。
【0044】
また、陰極11を透明電極とし、陽極15を金属電極としてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
(活性層用塗布液の作製)
化合物PM6(有機ドナー材料)および化合物Y6(有機アクセプター材料)を、質量比1:1.2で秤量した後、濃度が8mg/mlとなるように、クロロホルム(第1溶媒)に溶解させた。次に、含有量が0.5体積%となるように、クロロナフタレン(第2溶媒)を添加し、活性層用塗布液を得た。
【0048】
(太陽電池の作製)
厚さ150nmのITO膜(陽極)が形成されているガラス基板のITO膜上に、大気下、スピンコート法により、厚さ15nmのPEDOT/PSS膜(正孔輸送層)を成膜した。次に、PEDOT/PSS膜上に、窒素雰囲気下、スピンコート法により、活性層用塗布液を塗布し、厚さ100nmの活性層を成膜した。ここで、窒素雰囲気は、温度が24.5℃であり、酸素濃度が1ppmであり、露点が-40℃である。次に、活性層上に、窒素雰囲気下、スピンコート法により、厚さ5nmのPFN-Br膜(電子輸送層)を成膜した。次に、PFN-Br膜上に、真空蒸着法により、Al膜(陰極)を成膜した。次に、窒素雰囲気下、紫外線硬化接着剤を使用して、ガラスキャップで封止し、太陽電池を得た。活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さは、70μmであった。
【0049】
[実施例2]
活性層を成膜する際の窒素雰囲気の温度を30℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、太陽電池を得た。活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さは、100μmであった。
【0050】
[実施例3]
活性層を成膜する際の窒素雰囲気の温度を29.5℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、太陽電池を得た。活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さは、83μmであった。
【0051】
[比較例1]
活性層用塗布液を作製する際に、第2溶媒の含有量を1体積%に変更した以外は、実施例1と同様にして、太陽電池を得た。活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さは、52μmであった。
【0052】
[比較例2]
活性層を成膜する際の窒素雰囲気の温度を25℃に変更した以外は、比較例1と同様にして、太陽電池を得た。活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さは、52μmであった。
【0053】
[比較例3]
活性層を成膜する際の窒素雰囲気の温度を30℃に変更した以外は、比較例1と同様にして、太陽電池を得た。活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さは、62μmであった。
【0054】
[活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さ]
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、太陽電池を作製する際に成膜した活性層の位相像を得た後、位相像を二値化処理した。次に、二値化処理した位相像から、有機ドナー材料および有機アクセプター材料の境界の長さを求めた後、位相像の面積で除し、活性層の相分離構造における1μm2当たりの界面長さを算出した。ここで、位相像の二値化処理においては、活性層用塗布液中の有機ドナー材料および有機アクセプター材料の質量比と、位相像の面積比と、が等しくなる位置を閾値とした。
【0055】
[太陽電池の発電効率]
IEC61215、61836(JIS C61215 MQT06、JIS C8904)に準拠して、太陽電池の発電効率を測定した。このとき、JIS C8904-3に準拠して、光源の放射照度を1000W/m2とした。また、太陽電池の温度(モジュール温度)を25℃とした。
【0056】
表1に、太陽電池の発電効率の評価結果を示す。
【表1】
【0057】
また、
図3に、活性層の相分離構造における1μm
2当たりの界面長さと発電効率の関係を示す。
【0058】
表1および
図3から、実施例1~3の太陽電池は、発電効率が高いことがわかる。これに対して、比較例1~3の太陽電池は、活性層の相分離構造における1μm
2当たりの界面長さが、それぞれ55μm、66μm、105μmであるため、発電効率が低い。