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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140261
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】構造部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/87 20060101AFI20241003BHJP
   C23C 24/04 20060101ALI20241003BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B41/87 A
C04B41/87 G
C23C24/04
H01L21/302 101G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051316
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】金城 厚
(72)【発明者】
【氏名】大塚 信朋
(72)【発明者】
【氏名】戸田 文人
【テーマコード(参考)】
4K044
5F004
【Fターム(参考)】
4K044AA01
4K044AA13
4K044AB02
4K044BA12
4K044BB01
4K044BB13
4K044BC02
4K044CA21
5F004BB29
(57)【要約】
【課題】熱膨張差に伴う保護膜の劣化を抑制することのできる構造部材、を提供する。
【解決手段】構造部材10は、基材100と、基材100の表面110を覆う保護膜200と、を備える。保護膜200を表面110に対し垂直に切断した場合の断面について、単位面積あたりにおいて空隙が占めている割合のことを空隙率としたときに、断面の一部である第1部分201における空隙率が、断面のうち第1部分201よりも基材100側の部分、である第2部分202における空隙率よりも小さい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面を覆う保護膜と、を備え、
前記保護膜を前記表面に対し垂直に切断した場合の断面について、単位面積あたりにおいて空隙が占めている割合のことを空隙率としたときに、
前記断面の一部である第1部分における前記空隙率が、
前記断面のうち前記第1部分よりも前記基材側の部分、である第2部分における前記空隙率よりも小さいことを特徴とする構造部材。
【請求項2】
前記第1部分に含まれる各空隙の1つあたりの断面積の平均値は、
前記第2部分に含まれる各空隙の1つあたりの断面積の平均値よりも小さいことを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項3】
前記第1部分における単位面積あたりの空隙の個数は、
前記第2部分における単位面積あたりの空隙の個数はよりも少ないことを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項4】
前記断面においては、前記基材から遠ざかるに従って前記空隙率が次第に小さくなっていることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項5】
前記第1部分における前記保護膜の化学組成と、
前記第2部分における前記保護膜の化学組成と、が互いに同じであることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項6】
前記第1部分における前記保護膜の結晶子サイズ、及び、
前記第2部分における前記保護膜の結晶子サイズが、いずれも50nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項7】
前記保護膜がエアロゾルデポジション法により形成された膜であることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は構造部材に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に保護膜を有する構造部材は、半導体製造装置等の様々な分野で用いられる。例えばプラズマエッチング装置においては、チャンバーの内壁を構成する基材の表面に、基材をプラズマから保護するための保護膜が形成されている。このような保護膜としては、例えば、イットリアのような酸化物セラミックスや、フッ化イットリウム等のフッ化物セラミックス等が用いられる。下記特許文献1に記載されているように、保護膜は、例えば物理蒸着法(PVD)、化学蒸着法(CVD)、及びエアロゾルデポジション法等の種々の方法を用いて成膜される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/102075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基材の表面に保護膜を形成する過程においては、保護膜の中に気泡が含まれてしまうことがある。例えば耐プラズマ性のような、保護膜の機能を十分に発揮させるためには、保護膜の中の気泡は無い方が望ましいと考えられている。このため、保護膜を成膜する際には、保護膜の中の気泡が可能な限り小さく、又は少なくなるような条件として、成膜条件を設定するのが一般的である。
【0005】
一方で、本発明者らが行った実験によれば、保護膜の全体を緻密に(つまり気泡を全く含まないように)形成し過ぎると、耐プラズマ性については十分に向上する一方で、温度変化時の熱膨張差に伴う保護膜の劣化が生じやすくなってしまう、という新たな課題が生じることが判明した。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐プラズマ性を確保しながらも、熱膨張差に伴う保護膜の劣化を抑制することのできる構造部材、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る構造部材は、基材と、基材の表面を覆う保護膜と、を備える。保護膜を表面に対し垂直に切断した場合の断面について、単位面積あたりにおいて空隙が占めている割合のことを空隙率としたときに、この構造部材では、断面の一部である第1部分における空隙率が、断面のうち第1部分よりも基材側の部分、である第2部分における空隙率よりも小さい。
【0008】
このような構造部材では、保護膜の空隙率が全体で一様とはなっておらず、厚さ方向の位置に応じて空隙率が異なっている。具体的には、相対的に表面側にある第1部分の空隙率が、基材側にある第2部分の空隙率よりも小さくなっている。
【0009】
このような構成においては、保護膜のうちプラズマに曝される表面側の部分では、空隙率が比較的小さくなっていることにより、例えば従来と同程度の耐プラズマ性を確保することができる。ここでいう「耐プラズマ性」とは、例えば、所定の条件で保護膜をプラズマに曝した後の、保護膜の劣化に伴う発塵を少なく抑える性能、のことである。
【0010】
保護膜のうち基材側の部分では、空隙率が比較的大きくなっていることで、他の部分に比べて弾性率が小さくなっている。つまり、変形を吸収しやすくなっている。このため、構造部材の温度変化時において、基材と保護膜との間で熱膨張差が生じると、保護膜のうち基材側の部分は基材に追従して変形するであるが、当該部分で生じる応力は比較的小さい。その結果、熱膨張差に伴う保護膜の劣化を、従来に比べて抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐プラズマ性を確保しながらも、熱膨張差に伴う保護膜の劣化を抑制することのできる構造部材、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る構造部材の断面を模式的に表す図である。
図2】本実施形態に係る構造部材の断面を、走査電子顕微鏡で観察し得られた画像である。
図3】本実施形態に係る構造部材の断面を模式的に表す図である。
図4】本実施形態に係る構造部材の断面を模式的に表す図である。
図5】本実施形態の変形例に係る構造部材の断面を模式的に表す図である。
図6】本実施形態の変形例に係る構造部材の断面を模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0014】
本実施形態に係る構造部材10は、例えばプラズマエッチング装置のような半導体製造装置(不図示)において、処理チャンバーの内壁を構成する部材として用いられるものである。尚、このような構造部材10の用途はあくまで一例に過ぎず、半導体製造装置用に限定されるものではないが、構造部材10は、プラズマに対する耐久性が求められる用途、のための部材として用いられることが好ましい。
【0015】
図1に示されるように、構造部材10は、基材100と、基材100の表面110を覆うように形成された保護膜200と、を有する。プラズマエッチング装置においては、チャンバー内の空間に向けて保護膜200の表面210が曝された状態となる。本実施形態の保護膜200は、基材100をプラズマから保護することを目的として設けられている。図1に示される断面は、構造部材10を、表面110に対し垂直に切断した場合の断面である。
【0016】
基材100は、構造部材10の概ね全体を占めている部材である。本実施形態では、基材100は高純度の酸化アルミニウム(Al)を含むセラミック焼結体として構成されている。基材100は、上記とは異なる材料からなるセラミック焼結体であってもよく、構造部材10の用途によっては、基材100は金属であってもよい。
【0017】
保護膜200は、上記のように基材100の表面110を覆うように形成された膜である。本実施形態では、保護膜200は多結晶のイットリア(Y)を含む膜として構成されている。保護膜200は、上記とは異なる材料からなるセラミック膜であってもよい。
【0018】
本実施形態の保護膜200は、焼成後における基材100の表面110に対し、エアロゾルデポジション法を用いることによって形成されたものである。よく知られているように、エアロゾルデポジション法においては、保護膜200の材料である微小粒子をガス中に分散させ「エアロゾル」とした上で、これを表面110に向けて噴射して衝突させる。表面110では、衝突の衝撃により微小粒子に変形や破砕が起こるため、微小粒子同士が結合しながら、保護膜200として少しずつ堆積して行く。保護膜200の表面210は、成膜が完了したときの表面そのものであってもよいが、成膜後に研磨等が施された面であってもよい。保護膜200は、エアロゾルデポジション法以外の方法(例えばPVD等)で成膜されたものであってもよい。
【0019】
図1において点線DL1で囲まれている部分は、保護膜200のうち図1に示される断面の一部分である。当該部分のことを、以下では「第1部分201」とも表記する。
同図において点線DL2で囲まれている部分は、保護膜200のうち図1に示される断面の一部分であって、第1部分201よりも基材100側にある部分である。当該部分のことを、以下では「第2部分202」とも表記する。
【0020】
第1部分201は、保護膜200のうち表面210の近傍の部分であるが、表面210を含む部分であってもよい。また、第2部分202は、保護膜200のうち基材100側の面(基材100との界面)の近傍の部分であるが、当該面を含む部分で合ってもよい。尚、このような第1部分201や第2部分202の定義はあくまで一例である。第1部分201は、保護膜200のうち第2部分202よりも表面210側の部分であれば、上記とは異なる位置の部分であってもよい。同様に、第2部分202は、保護膜200のうち第1部分201よりも基材100側の部分であれば、上記とは異なる位置の部分であってもよい。
【0021】
図2には、保護膜200の断面を、走査電子顕微鏡で観察し得られた画像の例が示されている。図2(A)に示されるのは第1部分201の画像であり、図2(B)に示されるのは第2部分202の画像である。それぞれの画像の倍率は互いに同一であり、面積も互いに同一である。
【0022】
図2に示されるように、それぞれの断面には、保護膜200に含まれる複数の空隙Pの断面が現れている。空隙Pは、例えば、保護膜200を成膜するプロセスにおいて、保護膜200の内部に形成されたものである。
【0023】
図2(A)と図2(B)とを対比すると明らかなように、各空隙Pの形状や分布は、保護膜200の断面の全体において一様とはなっておらず、位置に応じて異なるものとなっている。例えば、図2(A)の第1部分201に含まれるそれぞれの空隙Pは、図2(B)の第2部分202に含まれるそれぞれの空隙Pよりも大きい。
【0024】
ここで、保護膜200を表面110に対し垂直に切断した場合の断面について、単位面積あたりにおいて空隙が占めている割合のことを、以下では「空隙率」と定義する。空隙率は、第1部分201や第2部分202を含む保護膜200の断面の各部について、個別に算出される指標である。上記の「単位面積」は、複数の空隙Pを包含し得る程度の面積であればよく、任意に設定することができる。例えば、図2に示される第1部分201や第2部分202のそれぞれと同一の面積を、上記の「単位面積」に設定してもよい。
【0025】
本実施形態では、第1部分201における空隙率が、第2部分202における空隙率よりも小さくなるように、保護膜200の断面における空隙Pの形状や分布が調整されている。
【0026】
図3には、図2の各画像のそれぞれに対応する断面が、空隙Pの形状及び分布を示す模式的な断面図として描かれている。図3(A)は、第1部分201における空隙Pの形状及び分布を模式的に表しており、図3(B)は、第2部分202における空隙Pの形状及び分布を模式的に表している。
【0027】
図3の例では、第1部分201における単位面積あたりの空隙Pの個数と、第2部分202における単位面積あたりの空隙Pの個数とが、互いに概ね等しい。一方、第1部分201に含まれる各空隙Pの1つあたりの断面積の平均値は、第2部分202に含まれる各空隙Pの1つあたりの断面積の平均値よりも小さい。このように、本実施形態では、空隙Pの1つあたりの断面積を異ならせた結果として、第1部分201における空隙率が、第2部分202における空隙率よりも小さくなっている。
【0028】
このような構成としたことの理由について説明する。保護膜200のうち、第1部分201を含む表面210側の部分、すなわち、プラズマに曝される表面210側の部分では、空隙率が比較的小さい緻密な膜となっている。このため、プラズマに曝された際における表面210の劣化は生じにくく、表面210からの粒子の脱落(発塵ともいえる)も生じにくい。つまり、保護膜200のうち少なくとも表面210の部分では、少なくとも従来と同程度の高い耐プラズマ性が確保されており、粒子の脱落に伴う保護膜200の劣化が生じにくくなっている。
【0029】
保護膜200の耐プラズマ性を確保するという観点においては、保護膜200の空隙率は小さい方が好ましい。このため、第1部分201のみならず、第2部分202を含む保護膜200の断面の全体において、空隙率を可能な限り小さくした方が良いようにも思われる。
【0030】
しかしながら、本発明者らが行った実験によれば、保護膜200の全体を緻密に(つまり気泡を全く含まないように)形成し過ぎると、耐プラズマ性については十分に向上する一方で、温度変化時の熱膨張差に伴う保護膜200の劣化が生じやすくなってしまう、という新たな知見が得られている。「温度変化時の熱膨張差」とは、構造部材10の全体の温度が変化した場合における、基材100と保護膜200との間の熱膨張差のことである。
【0031】
そこで、本実施形態ではその対策として、第1部分201における空隙率が、第2部分202における空隙率よりも小さくなるように、保護膜200の各部における空隙Pの分布及び大きさを調整している。
【0032】
このような本実施形態の構成においては、保護膜200のうち基材100側の部分では、空隙率が比較的大きくなっていることで、他の部分に比べて弾性率が小さくなっている。つまり、変形を吸収しやすくなっている。このため、構造部材10の温度変化時において、基材100と保護膜200との間で熱膨張差が生じると、保護膜200のうち基材100側の部分は基材100に追従して変形するであるが、当該部分で生じる応力は比較的小さく抑えられる。その結果、熱膨張差に伴う保護膜200の劣化を、従来に比べて抑制することが可能となっている。つまり、本実施形態に係る構造部材10では、少なくとも従来と同程度の耐プラズマ性を確保しながらも、熱膨張差に伴う保護膜200の劣化を抑制することができる。
【0033】
図4には、保護膜200のうち、表面210から表面110までの範囲の全体における空隙Pの分布が、模式的に描かれている。尚、図4はあくまで模式的な図であるから、保護膜200の厚さに対する空隙Pの大きさ等は、実際のものとは異なっている。
【0034】
図4に示されるように、本実施形態の保護膜200では、表面210から表面110までの範囲の全体に亘り、空隙Pの1つあたりの断面積が、基材100から遠ざかるに従って次第に小さくなっている。これにより、保護膜200の各部における空隙率の値も、基材100から遠ざかるに従って次第に(つまり連続的に)小さくなっており、その結果として、第1部分201及び第2部分202のそれぞれにおける空隙率が互いに異なっている。
【0035】
保護膜200の各部における空隙率の値は、表面110に対して垂直な深さ方向(図3における上下方向)の位置に応じて、本実施形態のように連続的に変化してもよいが、段階的に変化してもよい。
【0036】
尚、第1部分201及び第2部分202のそれぞれにおける空隙率は、本実施形態(図3及び図4)とは異なる態様で調整してもよい。例えば、図5に示される変形例の構成においては、第1部分201に含まれる各空隙Pの1つあたりの断面積の平均値と、第2部分202に含まれる各空隙Pの1つあたりの断面積の平均値とが、互いに概ね等しい。一方、第1部分201における単位面積あたりの空隙Pの個数は、第2部分202における単位面積あたりの空隙Pの個数よりも少ない。この変形例のように、各空隙Pの1つあたりの断面積ではなく、空隙Pの配置密度によって、第1部分201及び第2部分202のそれぞれにおける空隙率を調整することとしてもよい。
【0037】
図6には、図5の変形例に係る保護膜200における空隙Pの分布が、図4と同様に模式的に描かれている。図6に示されるように、この変形例の保護膜200では、表面210から表面110までの範囲の全体に亘り、単位面積あたりの空隙Pの個数が、基材100から遠ざかるに従って次第に少なくなっている。これにより、保護膜200の各部における空隙率の値も、基材100から遠ざかるに従って次第に(つまり連続的に)小さくなっており、その結果として、第1部分201及び第2部分202のそれぞれにおける空隙率が互いに異なっている。
【0038】
空隙率の値が上記のように調整された保護膜200は、互いに化学組成の異なる複数種類の膜を積層することで形成してもよいが、その場合、異種の膜の境界において、例えば熱膨張差に伴う不具合が生じてしまう可能性がある。従って、本実施形態のように、保護膜200の全体で材料の化学組成が同じとなるように形成されることが好ましい。つまり、第1部分201における保護膜200の化学組成と、第2部分202における保護膜200の化学組成と、が互いに同じであることが好ましい。化学組成が「同じ」とは、保護膜200を構成する元素の比率が各部で同じであることを意味する。「保護膜200を構成する元素」には、不純物として保護膜200に混入している元素が含まれてもよいが、当該元素を除外した上で「化学組成」の同一性を評価してもい。
【0039】
本実施形態の保護膜200は、結晶子サイズについても全体で略均一となっている。「結晶子サイズ」とは、保護膜200を表面110に対し垂直に切断した場合において、断面に表れる複数の結晶子の直径、の平均値のことである。
【0040】
結晶子サイズは、例えば、倍率40万倍以上で透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission electron Microscope)画像を撮影し、この画像において結晶子15個の円形近似による直径の平均値より算出することができる。このとき、収束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)加工時のサンプル厚みを30nm程度に十分薄くすれば、より明確に結晶子を判別することができる。撮影倍率は、40万倍以上の範囲で適宜選択することができる。
【0041】
本実施形態の保護膜200では、上記の方法で測定された結晶子サイズが、保護膜200の全体で概ね均一となっており、具体的には50nm以下となっている。つまり、第1部分201における保護膜200の結晶子サイズ、及び、第2部分202における保護膜200の結晶子サイズが、いずれも50nm以下となっている。保護膜200の結晶子サイズを全体で略均一とすることで、保護膜200の耐久性を向上させることができる。
【0042】
保護膜200の各部の空隙率を調整する方法としては、種々の方法を採用することができる。
【0043】
例えば、エアロゾルデポジション法を用いて保護膜200を形成するにあたり、その成膜条件を都度変更して行くことで、各部の空隙率を調整すればよい。エアロゾルデポジション法で膜の形成を行う当業者においては、気泡の形成を抑制するための成膜条件がノウハウとして蓄積されている。換言すれば、気泡の断面積が大きくなるような成膜条件や、気泡の配置密度が高くなるような成膜条件も、ノウハウとして蓄積されている。このため、これらの知見を活用して成膜を行うことで、図4図6の例のような空隙率の分布を有する保護膜200を容易に形成することができる。
【0044】
保護膜200を形成する際に、例えば、成膜の途中まで、多孔質の原料を用いて基材100側の部分の成膜を行うことで、空隙率を調整することもできる。
【0045】
保護膜200を形成する際に、例えば、成膜の途中まで、造孔材を含む原料を用いて基材100側の部分の成膜を行うことで、空隙率を調整することもできる。造孔材としては、例えば樹脂ビーズのような、加熱により消失する材料を用いればよい。成膜が完了した後で構造部材10の全体を加熱すれば、空隙率の調整された保護膜200を得ることができる。
【0046】
保護膜200を形成する際に、例えば、成膜の途中まで、主材とは熱膨張率の異なる材料を混入させた材料を用いて基材100側の部分の成膜を行ってもよい。成膜が完了した後で構造部材10の全体を加熱し、異素材間の界面で空隙を生じさせることで、空隙率の調整された保護膜200を得ることができる。
【0047】
従来と同じ方法で保護膜200を形成した後に、構造部材10の全体を加熱してもよい。所定の条件で加熱を行えば、保護膜200で粒成長が生じるため、その過程の中で局所的な空隙を生じさせることもできる。
【0048】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0049】
10:構造部材
100:基材
110:表面
200:保護膜
201:第1部分
202:第2部分
P:空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2024-09-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の表面を覆う保護膜と、を備え、
前記保護膜を前記表面に対し垂直に切断した場合の断面について、単位面積あたりにおいて空隙が占めている割合のことを空隙率としたときに、
前記断面の一部である第1部分における前記空隙率が、
前記断面のうち前記第1部分よりも前記基材側の部分、である第2部分における前記空隙率よりも小さく、
前記第1部分に含まれる各空隙の1つあたりの断面積の平均値は、
前記第2部分に含まれる各空隙の1つあたりの断面積の平均値よりも小さいことを特徴とする構造部材。
【請求項2】
前記断面においては、前記基材から遠ざかるに従って前記空隙率が次第に小さくなっていることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項3】
前記第1部分における前記保護膜の化学組成と、
前記第2部分における前記保護膜の化学組成と、が互いに同じであることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項4】
前記第1部分における前記保護膜の結晶子サイズ、及び、
前記第2部分における前記保護膜の結晶子サイズが、いずれも50nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【請求項5】
前記保護膜がエアロゾルデポジション法により形成された膜であることを特徴とする、請求項1に記載の構造部材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
図2(A)と図2(B)とを対比すると明らかなように、各空隙Pの形状や分布は、保護膜200の断面の全体において一様とはなっておらず、位置に応じて異なるものとなっている。例えば、図2(A)の第1部分201に含まれるそれぞれの空隙Pは、図2(B)の第2部分202に含まれるそれぞれの空隙Pよりも小さい