(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140263
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】電気浸透流ポンプ用ゴム電極および電気浸透流ポンプ
(51)【国際特許分類】
A61M 5/142 20060101AFI20241003BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241003BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A61M5/142
C08K3/04
C08L83/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051320
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】515177608
【氏名又は名称】ヨダカ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】高木 和典
(72)【発明者】
【氏名】堀内 健
(72)【発明者】
【氏名】藤田 花織
(72)【発明者】
【氏名】平藤 衛
【テーマコード(参考)】
4C066
4J002
【Fターム(参考)】
4C066AA09
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD11
4J002CP04X
4J002CP12W
4J002DA036
4J002FD116
4J002FD140
4J002GM00
4J002GQ00
4J002GR00
(57)【要約】
【課題】長時間使用時における気泡の発生が抑えられ、長時間の送液安定性に優れる電気浸透流ポンプを提供可能な電気浸透流ポンプ用ゴム電極および電気浸透流ポンプを提供する。
【解決手段】電気浸透流現象を利用して送液可能な電気浸透流ポンプ20の電極であって、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上である、電気浸透流ポンプ用ゴム電極10とする。前記シリコーンゴムは、液状シリコーンゴムの硬化物であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気浸透流ポンプ用ゴム電極であって、
シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、
硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上である、電気浸透流ポンプ用ゴム電極。
【請求項2】
前記シリコーンゴムが、液状シリコーンゴムの硬化物である、請求項1に記載の電気浸透流ポンプ用ゴム電極。
【請求項3】
前記カーボンブラックの含有量が、前記シリコーンゴム100質量部に対し、7.5質量部以上10.5質量部以下である、請求項1または請求項2に記載の電気浸透流ポンプ用ゴム電極。
【請求項4】
伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量が、0%以下である、請求項1または請求項2に記載の電気浸透流ポンプ用ゴム電極。
【請求項5】
多孔質誘電体と、一対の電極と、を有し、前記一対の電極間に前記多孔質誘電体が配置され、前記一対の電極の各電極が、請求項1または請求項2に記載の電気浸透流ポンプ用ゴム電極で構成されている、電気浸透流ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気浸透流現象を利用して送液可能な電気浸透流ポンプの電極として好適な電気浸透流ポンプ用ゴム電極および電気浸透流ポンプに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気浸透流とは、液体と固体が接している電気二重層に電圧が印加されたときに生じる液体の流れである。電気浸透流では、固体が固定されているため、バルクの液体が動く。電気浸透流ポンプは、この電気浸透流現象を利用して送液可能なポンプである。電気浸透流ポンプは、無脈動でnLオーダーの微量送液を可能としており、小型点滴デバイスなどの医療用送液ポンプなどとして期待できるものである。電気浸透流ポンプは、多孔質誘電体と一対の電極とを有し、一対の電極間に多孔質誘電体が配置されているもので構成されている。電気浸透流ポンプの電極としてゴム電極を用いたものとしては、例えば特許文献1が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気浸透流ポンプを長時間使用すると、多孔質誘電体と電極の界面で気泡が発生し、送液安定性が低下するおそれがある。このため、長時間使用時における電気浸透流ポンプでの気泡の発生を抑えるための改良が求められる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、長時間使用時における気泡の発生が抑えられ、長時間の送液安定性に優れる電気浸透流ポンプを提供可能な電気浸透流ポンプ用ゴム電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極は、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上である。
【0007】
前記シリコーンゴムは、液状シリコーンゴムの硬化物であるとよい。前記カーボンブラックの含有量は、前記シリコーンゴム100質量部に対し、7.5質量部以上10.5質量部以下であるとよい。伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量は、0%以下であるとよい。
【0008】
そして、本発明に係る電気浸透流ポンプは、多孔質誘電体と、一対の電極と、を有し、前記一対の電極間に前記多孔質誘電体が配置され、前記一対の電極の各電極が、上記の電気浸透流ポンプ用ゴム電極で構成されている。
【0009】
(1)本発明に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極は、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上である。
【0010】
(2)上記(1)において、前記シリコーンゴムは、液状シリコーンゴムの硬化物であるとよい。
【0011】
(3)上記(1)または上記(2)において、前記カーボンブラックの含有量は、前記シリコーンゴム100質量部に対し、7.5質量部以上10.5質量部以下であるとよい。
【0012】
(4)上記(1)から上記(3)のいずれかにおいて、伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量は、0%以下であるとよい。
【0013】
(5)そして、本発明に係る電気浸透流ポンプは、多孔質誘電体と、一対の電極と、を有し、前記一対の電極間に前記多孔質誘電体が配置され、前記一対の電極の各電極が、上記(1)から上記(4)のいずれかの電気浸透流ポンプ用ゴム電極で構成されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極によれば、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上であることから、長時間使用時における気泡の発生が抑えられ、長時間の送液安定性に優れる電気浸透流ポンプを提供することができる。
【0015】
前記シリコーンゴムが、液状シリコーンゴムの硬化物であると、カーボンのストラクチャーを破壊せず分散できる。
【0016】
前記カーボンブラックの含有量は、前記シリコーンゴム100質量部に対し、7.5質量部以上10.5質量部以下であると、低抵抗で低硬度とすることができる。
【0017】
伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量は、0%以下であると、長時間使用時における気泡の発生が抑えられやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極を含む電気浸透流ポンプの一例を示した正面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極を含む電気浸透流ポンプの一例を示した平面図である。
【
図3】
図2に示す電気浸透流ポンプのA-A線断面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極(以下、単にゴム電極ということがある。)について詳細に説明する。
図1、2は、一実施形態に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極を含む電気浸透流ポンプの一例を示した模式図である。
図3は、
図1、2に示す電気浸透流ポンプの断面図である。
図4は、電気浸透流ポンプ用ゴム電極の模式図である。
【0020】
電気浸透流ポンプ20は、多孔質誘電体12と一対の電極10,10とを有し、一対の電極10,10間に多孔質誘電体12が配置されているもので構成されている。電気浸透流ポンプ20は、電気浸透流現象を利用して送液可能なポンプである。電気浸透流とは、液体と固体が接している電気二重層に電圧が印加されたときに生じる液体の流れである。電気浸透流では、固体(多孔質誘電体12)が固定されているため、バルクの液体が動くようになっている。
【0021】
多孔質誘電体12は、適度な強度を備え、外部からの電圧印加によって多孔質内構造での電気浸透流の発生が可能な材料を用いることができる。多孔質誘電体12としては、誘電率の高い材料を用いることができる。また、多孔質誘電体12としては、送液のための微細流路構造を有する材料を用いることができる。このような材料としては、セラミック製の多孔質体を好適に用いることができる。
【0022】
セラミックとしては、アルミナ、窒化アルミ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ケイ素、これらの2種以上の混合物などが挙げられる。セラミックは、多孔質焼結体が好ましい。
【0023】
多孔質誘電体12の多孔質構造としては、適度な流路を確保するなどの観点から、平均気孔サイズが0.1μm以上であることが好ましい。また、電気浸透流の発生量が大きくなるなどの観点から、平均気孔サイズが5μm以下であることが好ましい。より好ましくは1.0μm以下、さらに好ましくは0.5μm以下である。
【0024】
また、多孔質誘電体12の多孔質構造としては、適度な流路を確保する、電気浸透流の発生量が多くなるなどの観点から、平均気孔率が10%以上であることが好ましい。より好ましくは25%以上、さらに好ましくは50%以上である。そして、強度などの観点から、平均気孔率が90%以下であることが好ましい。
【0025】
多孔質誘電体12の形状としては、流動液の移動を妨げない形状として、流動液の移動方向に対して垂直方向の断面形状が実質的に同一となる形状が好ましい。そして、流動液の流量と電極間距離を確保するために、横断面と部材長が確保される形状であることが好ましい。多孔質誘電体12の形状としては、円柱状、楕円柱状、角柱状などが挙げられる。角柱状としては、三角柱状、四角柱状、五角柱状などの多角柱状が挙げられる。
図1~3には、円柱状の多孔質誘電体を示している。
【0026】
多孔質誘電体12の大きさとしては、特に限定されるものではないが、小型点滴デバイスなどの医療用小型送液ポンプの適正サイズとして、断面0.2~100mm2、部材長1~20mmのものが挙げられる。
【0027】
一対の電極10,10は、それぞれ本発明に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極で構成される。一方の電極10は、多孔質誘電体12の流動液の移動方向の上流側端部に配置され、他方の電極10は、多孔質誘電体12の流動液の移動方向の下流側端部に配置される。各電極10,10は、矩形状に構成されている。各電極10,10は、一方の面から他方の面に向けて、多孔質誘電体12の端部を挿入可能な内径を有する通孔10aが形成されている。各電極10,10は、ゴム電極で構成されているため、通孔10aに挿入された多孔質誘電体12の端部は、各電極10,10のゴムの挟圧力によって保持固定することができる。また、そして、矩形状に構成された各電極10,10の多孔質誘電体12が挿入されている面と反対の面の通孔10aには、多孔質誘電体12の端部に接続されるゴムチューブ14の端部が挿入される。上流側のゴムチューブ14は、図示しない上流側のリザーバータンクなどに接続され、下流側のゴムチューブ14は、図示しない薬液チップなどに接続される。そして、多孔質誘電体12および一対の電極10,10を含む領域には、これらを覆ってポンプ全体の耐圧を維持するための包括ゴム16が配置される。包括ゴム16としては、シリコーンゴムなどが挙げられる。包括ゴム16は、
図1~2において、その内部に配置される多孔質誘電体12および一対の電極10,10を見やすくするために、一点鎖線で透明に表している。
【0028】
ゴム電極10は、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有するシリコーンゴム組成物によって形成される。
【0029】
シリコーンゴムは、オルガノポリシロキサンとして通常広く知られているものを用いることができる。シリコーンゴムは、液状ゴムであっても良いし、ミラブルゴムであっても良い。シリコーンゴムは、より好ましくは液状ゴムである。液状ゴムであると、カーボンのストラクチャーを破壊せず分散できる。
【0030】
オルガノポリシロキサンは、有機基を有する。有機基は、1価の置換または非置換の炭化水素基である。非置換の炭化水素基としては、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ヘキシル基,ドデシル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基、β-フェニルエチル基,β-フェニルプロピル基などのアラルキル基などが挙げられる。置換の炭化水素基としては、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基などが挙げられる。オルガノポリシロキサンとしては、一般的には、有機基としてメチル基を有するものが、合成のしやすさ等から多用される。オルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましいが、分岐状もしくは環状のものであっても良い。
【0031】
オルガノポリシロキサンは、その架橋機構(硬化機構)に応じて、所定の反応性基(官能基)を有する。反応性基としては、アルケニル基(ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基など)やシラノール基などが挙げられる。アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、有機過酸化物を架橋剤とする過酸化物架橋反応や、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)を架橋剤とする付加反応により架橋される。付加反応には、ヒドロシリル化触媒を組み合わせて用いることができる。シラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、縮合反応により架橋される。縮合反応には、縮合用架橋剤を組み合わせて用いることができる。
【0032】
アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有することが好ましい。また、ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のヒドロシリル基を有することが好ましい。また、シラノール基を有するオルガノポリシロキサンは、1分子中に少なくとも2個のシラノール基を有することが好ましい。
【0033】
有機過酸化物としては、ベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、p-メチルベンゾイルパーオキサイド、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジクミルペルオキシド、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドなどが挙げられる。これらのうちでは、特に低い圧縮永久歪を与えることから、ジクミルペルオキシド、クミル-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、ジ-t-ブチルペルオキシドが好ましい。
【0034】
有機過酸化物の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~10質量部の範囲とされる。
【0035】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(オルガノハイドロジェンポリシロキサン)として、具体的には、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CH3)2HSiO 1/2単位とSiO 4/2単位とから成る共重合体、(CH3)2HSiO 1/2単位とSiO 4/2単位と(C6H5)SiO 3/2単位とから成る共重合体などが挙げられる。
【0036】
ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンの配合量は、特に限定されるものではないが、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~40質量部の範囲とされる。
【0037】
ヒドロシリル化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。白金系触媒としては、微粒子状白金、白金黒、白金担持活性炭、白金担持シリカ、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金のオレフィン錯体、白金のアルケニルシロキサン錯体などが挙げられる。
【0038】
ヒドロシリル化触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、白金系金属の金属量に換算して、通常、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1ppm~1質量部の範囲とされる。
【0039】
縮合用架橋剤としては、加水分解性の基を1分子中に2個以上、好ましくは3個以上有するシラン、あるいはその部分加水分解縮合物が使用される。この場合、その加水分解性の基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基などのケトオキシム基、アセトキシ基などのアシルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、イソブテニルオキシ基などのアルケニルオキシ基、N-ブチルアミノ基、N,N-ジエチルアミノ基などのアミノ基、N-メチルアセトアミド基などのアミド基等が挙げられる。
【0040】
縮合用架橋剤の添加量は、特に限定されるものではないが、通常、シラノール基を有するオルガノポリシロキサン100質量部に対して1~50質量部の範囲とされる。
【0041】
カーボンブラックは、導電性付与の目的で用いられる。カーボンブラックは、高導電性の観点から、比較的、低抵抗であることが好ましい。この観点から、カーボンブラックは、比較的、比表面積が大きく、粒径が小さいものが好ましい。具体的には、カーボンブラックは、比表面積が100m2/g以上であることが好ましい。より好ましくは200m2/g以上、さらに好ましくは500m2/g以上である。なお、カーボンブラックの比表面積の上限値は、特に限定されるものではないが、1500m2/g以下程度とするのがよい。また、平均粒径が10nm以上50nm以下であることが好ましい。より好ましくは20nm以上40nm以下である。カーボンブラックの比表面積は、BET法にて測定される値である。カーボンブラックの平均粒径は、カーボンブラックを電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径で表される。
【0042】
カーボンブラックの含有量は、優れた導電性を確保しやすいなどの観点から、シリコーンゴム100質量部に対し、7.5質量部以上であることが好ましい。より好ましくは8.0質量部以上である。また、優れた導電性を確保しつつも硬度を低くすることができるなどの観点から、シリコーンゴム100質量部に対し、10.5質量部以下であることが好ましい。より好ましくは9.5質量部以下である。
【0043】
シリコーンゴム組成物は、シリコーンゴムおよびカーボンブラックの他に、本発明を阻害しない範囲内で、シリコーンゴム組成物に添加される一般的な添加剤が添加されていても良い。添加可能な添加剤としては、充填剤、架橋促進剤、架橋遅延剤、架橋助剤、スコーチ防止剤、老化防止剤、軟化剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、防錆剤などが挙げられる。
【0044】
ゴム電極10の硬度は、40以上80以下である。ゴム電極10の硬度は、JIS K 6253に従い、デュロメータ・タイプA硬度計で測定することができる。ゴム電極10の硬度が80以下と低硬度であることで、多孔質誘電体12の端部がゴム電極10の通孔に挿入されたときに、多孔質誘電体12の端部とゴム電極10の通孔10aの内壁との間に隙間が生じにくくなり、接触面積が大きくなり、密着性に優れる。これにより、誘電率が低下するため、電気浸透流ポンプ20を長時間使用しても、多孔質誘電体12とゴム電極10の界面で気泡の発生がおさえられ、送液安定性に優れるようになる。また、ゴム電極10の硬度が80以下と低硬度であることで、多孔質誘電体12の端部がゴム電極10の通孔10aに挿入されたときに、ゴム電極10が大きく変形する。大きく変形した際に、ゴム電極10の抵抗が下がることで、電気浸透流ポンプ20を長時間使用しても、多孔質誘電体12とゴム電極10の界面で気泡の発生がおさえられ、送液安定性に優れるようになる。また、この観点から、ゴム電極10の硬度は、より好ましくは75以下、さらに好ましくは70以下である。そして、ゴム電極10の硬度が40以上であることで、軟らかすぎず、多孔質誘電体12とゴム電極10の界面で気泡の発生がおさえられ、送液安定性に優れるようになる。また、この観点から、ゴム電極10の硬度は、より好ましくは45以上、さらに好ましくは50以上である。ゴム電極10の硬度は、シリコーンゴムの性状、カーボンブラックの含有量などにより調整することができる。例えば、ミラブルよりも液状のシリコーンゴムのほうが、低硬度にすることができる。また、カーボンブラックの含有量が少ないほど、低硬度にすることができる。
【0045】
ゴム電極10の弾性回復率は、70%以上である。ゴム電極10の弾性回復率が低いと、多孔質誘電体12の端部がゴム電極10の通孔10aに挿入されたときに、多孔質誘電体12の端部とゴム電極10の通孔10aの内壁との間に隙間が生じやすく、接触面積が小さくなって密着性が悪くなる。ゴム電極10の弾性回復率が70%以上で高いと、多孔質誘電体12の端部とゴム電極10の通孔10aの内壁との間の密着性が確保され、電気浸透流ポンプ20を長時間使用しても、多孔質誘電体12とゴム電極10の界面で気泡の発生がおさえられ、送液安定性に優れるようになる。また、この観点から、ゴム電極10の弾性回復率は、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは80%以上である。ゴム電極10の弾性回復率は、ISO14577-1に準拠し、微小硬度計(Fischer社製「フィッシャースコープH100C」)を用いて測定することができる。ゴム電極10の弾性回復率は、シリコーンゴムの性状、カーボンブラックの含有量などにより調整することができる。
【0046】
本発明に係るゴム電極10は、ベースゴムであるシリコーンゴムが比較的軟らかいこと、軟らかいシリコーンゴムにカーボンブラックを含有させることなどから、伸張前よりも伸張後のほうが、体積抵抗率が低くなりやすい特徴を有する。このため、ゴム電極10の通孔10aに多孔質誘電体12の端部を挿入したときに、ゴムの変形による抵抗上昇が起きにくく、適度な流速が維持されて、送液安定性が確保されやすい。本発明に係るゴム電極10においては、硬度および弾性回復率を所望の範囲にするなどにより、伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量を、所定範囲内とすることができる。具体的には、伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量は、0%以下とすることができる。また、伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量は、より好ましくは-10%以下である。ゴム電極10の体積抵抗率の測定は、JIS K6271(2008)の平行端子電極法に準じて行うことができる。伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量は、伸張前の体積抵抗率をR0、15%伸張時の体積抵抗率をR1としたときに、{(R0-R1)/R0}×100(%)で表すことができる。
【0047】
シリコーンゴム組成物は、例えば、次のようにして調製することができる。例えば、液状シリコーンゴムを用いる場合、液状シリコーンゴムとカーボンブラックと必要に応じて添加される各種添加剤(架橋剤、触媒除く)を、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ロスミキサー、ホバートミキサー、ニーダーミキサー等を用いて混合し、次いで、必要に応じて架橋剤、触媒を加え、プラネタリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ロスミキサー、ホバートミキサー、ニーダーミキサー、ロール等により混練することにより、調製することができる。なお、上記調製方法において、架橋剤、触媒は、最初の混練時に添加するようにしても良い。
【0048】
一方、ミラブルシリコーンゴムを用いる場合、ミラブルシリコーンゴムとカーボンブラックと必要に応じて添加される触媒等の各種添加剤(架橋剤除く)等をニーダーミキサー、ロール等を用いて混練し、次いで、架橋剤、または必要に応じて1-エチニル-1-シクロヘキサノール等の遅延剤を加え、ロール等により混練することにより、調製することができる。なお、上記調製方法において、架橋剤は、最初の混練時に添加するようにしても良い。
【0049】
シリコーンゴム組成物は、加熱硬化させることによりシリコーンゴム硬化物(成形物)となる。成形方法としては、成形物の形状や大きさに合わせて所定の成形方法を選択することができる。具体的には、注入成形、射出成形、圧縮成形、カレンダー成形、押出成形、コーティング、スクリーン印刷などの成形方法が挙げられる。
【0050】
硬化条件としては、特に限定されるものではなく、目的とする成形物の物性に応じて適宜選択することができる。一般的には、20~450℃の温度で、数秒~2週間程度である。
【0051】
得られたシリコーンゴム成形物は、所定の条件にて2次キュアが行われることが好ましい。これにより、成形物の圧縮永久歪みをより低くさせたり、シリコーンゴム中に残存する低分子量のシロキサン成分の量を低減させたり、有機過酸化物の分解物を除去させたりすることができる。2次キュアの条件としては、好ましくは200℃以上、より好ましくは200~250℃である。また、好ましくは所定温度で1時間以上、より好ましくは1~10時間である。
【0052】
以上の構成のゴム電極10によれば、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上であることで、長時間使用時における気泡の発生が抑えられ、長時間の送液安定性に優れる電気浸透流ポンプ20を提供することができる。
【0053】
本発明に係る電気浸透流ポンプ用ゴム電極10は、小型点滴デバイスなどの医療用小型送液ポンプなどに好適である。
【実施例0054】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0055】
(実施例1~6、9~12、比較例2~3)
表に示す配合となるように、液状シリコーンゴム(ビニル基含有ジメチルポリシロキサン<1>)、白金触媒、カーボンブラックを配合後、プラネタリーミキサーにて30分混合し、次いで、架橋剤(ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)、1-エチニル-1-シクロヘキサノールを配合後、さらに30分混合し、減圧脱泡して、液状シリコーンゴム組成物を調製した。
【0056】
(実施例7、8、比較例4)
さらに、炭酸カルシウムを配合し、液状シリコーンゴム組成物を調製した。
【0057】
(比較例1)
表に示す配合となるように、ミラブルシリコーンゴム(ビニル基含有ジメチルポリシロキサン<2>)、白金触媒、カーボンブラックをニーダーで15分間混練した後、2本ロールで1-エチニル-1-シクロヘキサノール、架橋剤(ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン)を練り込んで、ミラブルシリコーンゴム組成物を調製した。
【0058】
(シート成形)
各シリコーンゴム組成物を170℃×10分の条件でプレス成形し、その後、200℃×4時間の条件にて2次キュアを実施し、3.0mm厚のシートを作製した。
【0059】
実施例、比較例において用いた材料の詳細は以下の通りである。
<液状シリコーンゴム>
・ビニル基含有ジメチルポリシロキサン<1>(Gelest社製「DMS-V35」)
<ミラブルシリコーンゴム>
・ビニル基含有ジメチルポリシロキサン<2>(KCC社製「SF3900C」)
<架橋剤>
・ヒドロシリル基含有ジメチルポリシロキサン(Gelest社製「HMS-151」)
<遅延剤>
・1-エチニル-1-シクロヘキサノール(東京化成社製、試薬)
<触媒>
・白金触媒(Gelest社製「SIP6831.2」)
<カーボンブラック>
・ケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ製「EC300J」)、BET比表面積800m2/g、一次粒子径39.5nm
・アセチレンブラック(電気化学工業製「デンカブラックHS-100」」)、塩酸吸液量10.4ml/5g、嵩密度0.15g/ml
<炭酸カルシウム>
・白石カルシウム社製「ソフトン3200」
【0060】
作製した各ゴムシートについて、硬度、弾性回復率、体積抵抗率を測定した。また、各ゴムシートについて、伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量を測定した。さらに、所定電圧印加時の送液安定性を評価した。
【0061】
(硬度)
各ゴムシートの硬度は、JIS K 6253に従い、デュロメータ・タイプA硬度計で測定した。
【0062】
(弾性回復率)
ISO14577-1に準拠し、微小硬度計(Fischer社製「フィッシャースコープH100C」)を用いて、ゴムシートの表面を下記の測定条件にて測定し、ηIT[%]を求めた。すなわち、微小硬度計を用いて、試験荷重を一定にして、材料表面に圧子を押し込むと、押し込み仕事中に示されるくぼみの全機械的仕事量Wtotalは、くぼみの塑性変形仕事量Wplastとしてごく一部だけ消費される。試験荷重の除荷時に、残りの部分は、くぼみの弾性戻り変形仕事Welastとして開放される。この機械的仕事をW=∫Fdhと定義とすると、その関係は以下の通りである。
ηIT[%]=Welast/Wtotal
但し、Wtotal=Welast+Wplast
<測定条件>
圧子:対面角度136°の四角垂型ダイヤモンド圧子
初期荷重:0mN
押込み最大荷重:20mN(定荷重)
最大荷重到達時間:0.25~10sec
最大荷重保持時間:5sec
抜重時間:0.25~10sec
測定温度:25℃
【0063】
(体積抵抗率)
まず、伸張する前の自然状態(初期)におけるゴムシートの体積抵抗率を測定した。体積抵抗率の測定は、JIS K6271(2008)の平行端子電極法に準じて行った。体積抵抗率の測定において、ゴムシートを支持する絶縁樹脂製支持具には、市販のゴムシート(住友スリーエム製「VHB(登録商標)4910」)を用いた。次に、ゴムシートを支持具と共に一軸方向に伸張率15%で伸張させて、体積抵抗率を測定した。次いで、伸張前の体積抵抗率と15%伸張時の体積抵抗率の変化量(%)を算出した。伸張率は、次式(i)により算出した値である。変化量は、次式(ii)により算出した値である。
伸張率(%)=(ΔL0/L0)×100・・・(i)
[L0:試験片の標線間距離、ΔL0:試験片の標線間距離の伸張による増加分]
変化量(%)={(R0-R1)/R0}×100・・・(ii)
[R0:伸張前の体積抵抗率、R1:15%伸張時の体積抵抗率]
【0064】
(送液安定性)
図1に示すように、調製した液状シリコーンゴム組成物を用いて形成した一対のゴム電極間に多孔質誘電体(セラミックス)を配置し、ゴム電極に端子をつなぎ、所定の電圧を印加し、純水が流れることを確認した(純水は正極から負極に流れる)。次いで、サーパス工業の流速測定機(NDFD-1.6S-0.35)につなぎ、モニターした。流速が落ち込みゼロになった時点で止まったと判断した。流速の安定している時間が3500秒以上であった場合を「〇」、2000秒以上3500秒未満であった場合を「△」、2000秒未満であった場合を「×」とした。
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
比較例1のゴム電極は、シリコーンゴムとしてミラブルゴムを用いている。このため、カーボンブラックの分散性が悪く、所望の抵抗値まで低くするためにはカーボンブラックの配合量を多くする必要があり、これによって弾性回復率が悪化している。これにより、2000秒未満の使用時間において、気泡の発生が起こり、送液安定性が悪化した。比較例2のゴム電極は、シリコーンゴムとして液状ゴムを用いているが、硬度が低い。このため、2000秒未満の使用時間において、気泡の発生が起こり、送液安定性が悪化した。比較例3のゴム電極は、シリコーンゴムとして液状ゴムを用いているが、硬度が高く、多孔質誘電体の端部とゴム電極の通孔の内壁との間の隙間が大きく、接触面積が低下している。このため、2000秒未満の使用時間において、気泡の発生が起こり、送液安定性が悪化した。比較例4のゴム電極は、シリコーンゴムとして液状ゴムを用いているが、弾性回復率が悪い。これにより、2000秒未満の使用時間において、気泡の発生が起こり、送液安定性が悪化した。
【0069】
一方、実施例のゴム電極は、シリコーンゴムおよびカーボンブラックを含有し、硬度40以上80以下、弾性回復率70%以上である。そして、実施例によれば、2000秒以上の使用時間において、気泡の発生が抑えられ、送液安定性に優れていることがわかる。また、実施例1~6によれば、ゴム電極の硬度が65以上75以下であると、特に送液安定性に優れていることがわかる。
【0070】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。