(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140266
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】担体と結合した細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/87 20060101AFI20241003BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20241003BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241003BHJP
C12N 11/06 20060101ALI20241003BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20241003BHJP
C12N 1/02 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C12N15/87 Z
C12N1/00 A
C12N5/10
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N11/06
C12N11/02
C12N1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051325
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】戸谷 貴彦
【テーマコード(参考)】
4B033
4B065
【Fターム(参考)】
4B033NA11
4B033NA16
4B033NB34
4B033NB62
4B033NC05
4B033ND06
4B033ND12
4B033NF07
4B033NF10
4B033NG05
4B033NH02
4B033NH06
4B033NJ02
4B033NJ10
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
(57)【要約】
【課題】本発明は、細胞と、前記細胞に結合可能な担体との結合を増大させることを可能とする新たな手法を提供することを目的とする。
【解決手段】担体と結合した細胞の製造方法であって、細胞と、前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを、20℃~42℃にて結合する工程を含む、上記方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と結合した細胞の製造方法であって、
細胞と、前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを、20℃~42℃にて結合する工程を含む、上記方法。
【請求項2】
前記担体がビーズ状の形態を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記担体が前記細胞に結合可能な抗体又はその断片を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞がビオチンを備え、前記担体がアビジンを備える、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記結合する工程を、細胞凝集抑制剤の存在下にて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞凝集抑制剤がカルシウムキレート剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、又はそれらの塩である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記カルシウムキレート剤が、2mM~50mMの濃度である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
細胞と前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを結合する方法であって、
細胞と、前記担体とを、20℃~42℃にて結合する工程を含む、上記方法。
【請求項10】
前記結合する工程を、細胞凝集抑制剤の存在下にて行う、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1又は9に記載の方法において、細胞と前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを結合するために用いられる調製用組成物であって、細胞凝集抑制剤を含むことを特徴とする、調製用組成物。
【請求項12】
前記細胞凝集抑制剤がカルシウムキレート剤である、請求項11に記載の調製用組成物。
【請求項13】
前記カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、又はそれらの塩である、請求項12に記載の調製用組成物。
【請求項14】
前記カルシウムキレート剤を、2mM~50mMの濃度で含む、請求項13に記載の調製用組成物。
【請求項15】
請求項1又は9に記載の方法により調製された担体と結合した細胞と、細胞内導入因子が固定化されている針状体とを接触させ、前記針状体の一部分を前記細胞内に挿入して、前記細胞内導入因子を前記細胞内に導入する工程、ならびに、
前記針状体の一部分を前記細胞より抜き出す工程、
を含む、改変細胞の製造方法。
【請求項16】
前記細胞内導入因子が、細胞内分子に結合可能な結合体であり、前記針状体を前記細胞より抜き出して、前記細胞内において前記結合体に結合した細胞胞内分子を前記針状体と共に、前記細胞より抜き出すことを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記結合体が、核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、又は抗体もしくはその断片である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞内導入因子が生理活性物質であり、前記針状体を前記細胞より抜き出して、前記細胞内導入因子を前記細胞内に残留させることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記生理活性物質が、核酸、ペプチド、タンパク質、糖類、多糖、脂肪酸、コレステロール、脂質、シグナル伝達物質、リガンド物質、ホルモン物質、サイトカイン、イオン、金属粒子、磁性微粒子、無機化合物、量子ドット、有機化合物及び薬剤からなる群から選択される一又は複数の物質である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1又は9に記載の方法により調製された担体と結合した細胞を、前記担体を利用して単離することを含む、細胞の単離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞と、前記細胞に結合可能な担体とを結合する工程を含む、前記担体と結合した細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
その表面に種々の抗体や、ある種のタンパク質、又はヌクレオチド等を結合したマイクロサイズ/ナノサイズの担体(ビーズ等)を、標的とする細胞、タンパク質、核酸等と結合させ、その後当該担体を分離・精製することにより、合わせて標的とする細胞等も分離・精製する方法が開発されている。このような担体を利用した標的細胞等の分離・精製方法は、その操作の簡便性や迅速性から、今日、ライフサイエンス、バイオテクノロジー、医療分野等、様々な分野で利用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、標的とする細胞と、当該細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを結合させる際には、当該結合の工程を2~8℃の低温で行うことが一般的であり、また、当該担体の製造メーカーによっても、このような低温で処理することが推奨されていた。しかしながら、本発明者らは、当該手法により調製・取得される、担体と結合した細胞の量が、当該手法に付した細胞及び当該担体の量に比べて、顕著に少ないことを見出した。これは、従来用いられている手法においては、細胞と、当該担体とが十分に結合できていないことを示唆するものである。
【0004】
そこで、本発明は、細胞と、当該担体との結合を増大させることを可能とする新たな手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、細胞と、当該細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを、従来用いられていた2~8℃の低温条件下で結合させるのではなく、20℃~42℃の比較的高温の条件下にて行うことにより、細胞と当該担体との間の結合を増大できることを見出した。
【0006】
同時に、本発明者らは、このような比較的高温の条件下にて細胞と当該担体とを結合させた場合には、細胞の凝集体が多く形成されることを見出した。このような凝集体は、細胞のその後の操作において不都合を生じる可能性があった。本発明者らはこの課題についても解決すべく鋭意検討した結果、前記比較的高温の条件下における細胞と当該担体との結合を、細胞凝集抑制剤の存在下にて行うことにより、凝集体の形成を低減できることを見出した。
【0007】
本発明は、これらの新規知見に基づくものであり、以下の発明を包含する。
[1] 担体と結合した細胞の製造方法であって、
細胞と、前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを、20℃~42℃にて結合する工程を含む、上記方法。
[2] 前記担体がビーズ状の形態を有する、[1]の方法。
[3] 前記担体が前記細胞に結合可能な抗体又はその断片を備える、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記細胞がビオチンを備え、前記担体がアビジンを備える、[1]又は[2]の方法。
[5] 前記結合する工程を、細胞凝集抑制剤の存在下にて行う、[1]~[4]のいずれかの方法。
[6] 前記細胞凝集抑制剤がカルシウムキレート剤である、[5]の方法。
[7] 前記カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、又はそれらの塩である、[6]の方法。
[8] 前記カルシウムキレート剤が、2mM~50mMの濃度である、[7]の方法。
【0008】
[9] 細胞と前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを結合する方法であって、
細胞と、前記担体とを、20℃~42℃にて結合する工程を含む、上記方法。
[10] 前記結合する工程を、細胞凝集抑制剤の存在下にて行う、[9]の方法。
【0009】
[11] [1]~[8]のいずれかの方法、あるいは[9]又は[10]の方法において、細胞と前記細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体とを結合するために用いられる調製用組成物であって、細胞凝集抑制剤を含むことを特徴とする、調製用組成物。
[12] 前記細胞凝集抑制剤がカルシウムキレート剤である、[11]の調製用組成物。
[13] 前記カルシウムキレート剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、クエン酸、又はそれらの塩である、[12]の調製用組成物。
[14] 前記カルシウムキレート剤を、2mM~50mMの濃度で含む、[13]の調製用組成物。
【0010】
[15] [1]~[8]のいずれかの方法、あるいは[9]又は[10]の方法により調製された担体と結合した細胞と、細胞内導入因子が固定化されている針状体とを接触させ、前記針状体の一部分を前記細胞内に挿入して、前記細胞内導入因子を前記細胞内に導入する工程、ならびに、
前記針状体の一部分を前記細胞より抜き出す工程、
を含む、改変細胞の製造方法。
[16] 前記細胞内導入因子が、細胞内分子に結合可能な結合体であり、前記針状体を前記細胞より抜き出して、前記細胞内において前記結合体に結合した細胞胞内分子を前記針状体と共に、前記細胞より抜き出すことを含む、[13]の方法。
[17] 前記結合体が、核酸、タンパク質、ペプチド、低分子化合物、又は抗体もしくはその断片である、[14]の方法。
[18] 前記細胞内導入因子が生理活性物質であり、前記針状体を前記細胞より抜き出して、前記細胞内導入因子を前記細胞内に残留させることを含む、[13]の方法。
[19] 前記生理活性物質が、核酸、ペプチド、タンパク質、糖類、多糖、脂肪酸、コレステロール、脂質、シグナル伝達物質、リガンド物質、ホルモン物質、サイトカイン、イオン、金属粒子、磁性微粒子、無機化合物、量子ドット、有機化合物及び薬剤からなる群から選択される一又は複数の物質である、[16]の方法。
[20][1]~[6]のいずれかの方法、あるいは[7]又は[8]の方法により調製された担体と結合した細胞を、前記担体を利用して単離することを含む、細胞の単離方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、細胞と、当該細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能な担体との結合を増大させることを可能とする新たな手法を提供することができる。
また、本発明によれば、当該新たな手法において生じ得る細胞凝集体の形成を低減することができる。
すなわち、本発明によれば、当該担体と結合した細胞を効率的に調製することを可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、抗PE抗体結合ビーズと、PE標識抗CD105抗体を結合させた間葉系幹細胞の結合を、4℃、21℃、又は37℃の反応温度条件にて、細胞凝集抑制剤なし、又は、細胞凝集抑制剤として10mMのEDTA、EGTA、又はクエン酸の存在下にて行った場合の、細胞回収率(上段)及び細胞凝集率(下段)を示すグラフ図である。
【
図2】
図2は、抗PE抗体結合ビーズと、PE標識抗CD105抗体を結合させた間葉系幹細胞の結合を、4℃、37℃、又は41.5℃の反応温度条件にて、細胞凝集抑制剤なし、又は、細胞凝集抑制剤として10mMのEDTAの存在下にて行った場合(左)の、細胞回収率(上段)及び細胞凝集率(下段)を示すグラフ図、ならびに当該結合を4℃、又は37℃の反応温度条件にて、細胞凝集抑制剤なし、又は、細胞凝集抑制剤として0.5mM~100mMのEDTAの存在下にて行った場合(右)の、細胞回収率(上段)及び細胞凝集率(下段)を示すグラフ図である。
【
図3】
図3は、針状粒子が固定化された細胞処理用複合基材の作製方法を示す概略図である。
【
図4】
図4は、37℃の温度条件下にてビーズと結合させた間葉系幹細胞に、抗GSK3β抗体でコーティングされたパナテトラの針状部を挿入、抜去して培養した後の、神経系細胞への分化誘導された細胞(CD56陽性細胞)の割合を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、担体と結合した細胞の製造方法、及び、細胞と担体とを結合する方法、に関する。
【0014】
本発明において「細胞」とは、特に限定されず、接着細胞、及び浮遊細胞のいずれであってもよく、その種類は例えば、多能性幹細胞もしくはその分化誘導細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、リンパ球、神経細胞、グリア細胞、神経節細胞、膵島細胞、副腎髄質細胞、心筋細胞、肝細胞、線維芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、筋芽細胞、網膜上皮細胞、角膜幹細胞、骨芽細胞、破骨細胞、肝細胞等が挙げられるが、これらに限定はされない。細胞の由来は特に限定されず、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ブタ、ウシ、モルモット、ハムスター等の哺乳動物細胞を好ましく利用することができる。
【0015】
本発明において、「多能性幹細胞(pluripotent stem cell)」とは、胚性幹細胞(ES細胞)及びこれと同様の分化多能性、すなわち生体の様々な組織(内胚葉、中胚葉、外胚葉の全て)に分化する能力を潜在的に有する細胞を指す。ES細胞と同様の分化多能性を有する細胞としては、「人工多能性幹細胞」(「iPS細胞」とも称される場合がある)が挙げられる。好ましくは、本発明において、多能性幹細胞とはヒト多能性幹細胞である。「人工多能性幹細胞」とは、哺乳動物体細胞又は未分化幹細胞に、Oct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc等の特定の因子(核初期化因子)を導入して再プログラミングすることにより得られる細胞を指す。また、上述の多能性幹細胞の「分化誘導細胞」とは、多能性幹細胞を分化誘導して得られた所定の表現型やマーカーの発現により特徴付けられる細胞を意味する。「マーカー」とは、「マーカータンパク質」、「マーカー遺伝子」など、所定の細胞型により特異的に発現される細胞抗原又はその遺伝子を意味する。
【0016】
本発明において細胞は、生体より採取された細胞であってもよいし、培養細胞であってもよく、さらにこれら細胞を凍結融解した細胞であってもよい。細胞は、解離又は分散した状態のものを使用するのが好ましい。
【0017】
本発明において「担体」とは、ポリマー(例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、メチルスチレン、アクリルポリマー、ナイロン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、スチレン-ブタジエン共重合体、(メタ)アクリル酸エステルポリマー、ポリ乳酸、フッ素樹脂等)、金属、磁性物質、ミネラル類、タンパク質、ペプチド、核酸、多糖類(例えば、セファロース、セルロース、架橋デキストラン、ポリサッカライド等)、ビタミン類、ガラス、アガロース、ゼラチン、ヒドロゲル、シリカゲル、セラミック、シリコーン等が挙げられ(これらに限定はされない)、これらより選択される一又は複数の組み合わせを用いることができる。担体の形態は、細胞に結合可能である限り特に限定されるものではないが、例えば、球状、ビーズ状、顆粒状の形態とすることが好ましく、またその大きさは平均粒子径が0.05~10μmが好ましく、1~5μmがより好ましい。担体がこのような形態、及び大きさを有することにより、一つの細胞に対して、複数の担体を結合させることを可能とし、また細胞と結合させる前及び後の担体の操作性を容易にすることができ好ましい。なお、担体の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒子径(メディアン径)を意味する。本発明において利用可能な担体としては、例えば、磁気ビーズ(磁性ビーズとも称される)、アガロースビーズ、ストレプトアビジンビーズ、プロテインAコンジュゲートビーズ、プロテインGコンジュゲートビーズ、プロテインA/Gコンジュゲートビーズ、プロテインLコンジュゲートビーズ、オリゴTコンジュゲートビーズ、シリカビーズ、シリカ様ビーズ、抗ビオチンマイクロビーズ、抗蛍光色素マイクロビーズ等が挙げられる(これらに限定はされない)。本発明においては、市販のビーズを用いることも可能であり、例えば、Dynabeads(登録商標)(Thermo Fisher Scientific Inc.)、MACS(登録商標)マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)、MagCellect(登録商標)Cell Selection Kits & Reagents(R&DSystems Inc.)等(これらに限定はされない)を好適に用いることができる。
【0018】
本発明における「担体」は、対象とする細胞に抗原抗体反応又はアビジン-ビオチン相互作用を介して結合可能であることを特徴とする。
【0019】
本発明の一態様において、「担体」は、対象とする細胞に結合可能な抗体又はその断片を備える。抗体の「断片」としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、scFv、dsFv、ジアボディー、sc(Fv)2等が挙げられ、これらフラグメントの多量体(例えば、ダイマー、トリマー、テトラマー、ポリマー)も本発明において利用することができる。
【0020】
前記抗体又はその断片は、対象とする細胞に直接結合するものであってもよいし、間接的に結合するものであってもよい。ここで「直接結合する」とは、前記抗体又はその断片が、対象とする細胞の表面に存在する分子(例えば、膜タンパク質、膜糖タンパク質等)に結合する態様を意味し、「間接的に結合する」とは、対象とする細胞に結合した別の物質の表面に存在する分子(当該分子には、当該物質に付された標識(例えば、Phycoerythrin等)も含まれる)に結合するものであり、当該別の物質を介して細胞と結合する態様を意味する。このような別の物質としては、例えば、抗体(一次抗体とも称される)もしくはその断片等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
前記抗体又はその断片と担体との結合方法は、用いる担体の種類に応じて、適宜選択することができ、当業者に周知の方法を用いて行うことができる。当該結合方法としては例えば、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等が挙げられるが、好ましくは共有結合法である。例えば、共有結合法は、担体の表面の官能基(例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミジル基、スルフヒドリル基、エポキシ基、ビニル基等)と前記抗体又はその断片のカルボキシ末端とを化学的に反応させてエステル結合又はアミド結合等を形成させることにより行うことができる。必要に応じて、担体の表面は官能基を導入するために処理することが可能であり、これは例えば、ポリリジン、ポリエチレンイミンビニルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、アミノアルキルトリアルコキシシラン、エポキシ含有アルキルトリアルコキシシラン等を用いて行うことができる。
【0022】
前記抗体又はその断片と担体との結合は、互いに直接結合されていてもよいし、あるいは、リンカーを介して間接的に結合されていてもよい。
【0023】
本発明のまた別の態様において、「担体」はアビジンを備え、その場合に、対象とする細胞はビオチンを備える。あるいは、「担体」はビオチンを備え、その場合に、対象とする細胞はアビジンを備える。本発明において「アビジン」としては、アビジン、ならびにその機能的類似体又は誘導体も利用することができる。アビジンの機能的類似体又は誘導体とは、ビオチンと結合可能なものであればよく、例えば、ストレプトアビジン、エクストラアビジン(ExtraAvidin)、ニュートロアビジン(NeutrAvidin)等が挙げられる。好ましくは、本発明において「アビジン」とは、ストレプトアビジンである。本発明において「ビオチン」としては、ビオチン、ならびにその機能的類似体又は誘導体も利用することができる。ビオチンの機能的類似体又は誘導体とは、アビジンと結合可能なものであればよく、例えば、イミノビオチン、カルボビオチン、ビオチンヒドラジド等が挙げられる。好ましくは、本発明において「ビオチン」とは、ビオチンある。
【0024】
アビジン又はビオチンと担体との結合方法は、用いる担体の種類に応じて、適宜選択することができ、当業者に周知の方法を用いて行うことができる。当該結合方法としては例えば、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等が挙げられるが、好ましくは共有結合法である。例えば、共有結合法は、担体の表面の官能基(例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミジル基、スルフヒドリル基、エポキシ基、ビニル基等)とアビジン又はビオチンのカルボキシ末端とを化学的に反応させてエステル結合又はアミド結合等を形成させることにより行うことができる。必要に応じて、担体の表面は官能基を導入するために処理することが可能であり、これは上述のとおり行うことができる。アビジン又はビオチンと担体との結合は、互いに直接結合されていてもよいし、あるいは、リンカーを介して間接的に結合されていてもよい。
一方、対象とする細胞が備えるビオチン又はアビジンの結合は、対象とする細胞に結合可能な、ビオチン又はアビジンで標識された抗体又はその断片を用いて行うことができる。ビオチン又はアビジンで標識された前記抗体又はその断片は、対象とする細胞に直接結合するものであってもよいし、間接的に結合するものであってもよい。ここで、抗体の「断片」、「直接結合する」、「間接的に結合する」とは、上記定義のとおりである。
【0025】
本発明は、対象とする細胞と、前記担体とを、20℃~42℃、好ましくは25℃~40℃、より好ましくは30℃~37℃の温度条件下にて結合する工程(以下、「結合工程」とも記載する)を含む。上記温度条件の範囲において、結合工程を実施することにより、従来一般的に行われていた2~8℃の低温条件下で結合工程を実施するよりも、細胞と前記担体との間の結合を増大させることができ、前記担体と結合した細胞をより多く製造することができる。
【0026】
前記結合工程は、適当な培養培地又は緩衝液を反応液として、その中に、対象とする細胞と前記担体とを加えることにより行うことができる。結合工程において、対象とする細胞と前記担体とは、担体が備える上述の抗体又はその断片を利用した抗原抗体反応を介して、又は担体が備えるアビジン及び対象とする細胞が備えるビオチン(あるいは、担体が備えるビオチン及び対象とする細胞が備えるアビジン)を利用したアビジン-ビオチン相互作用を介して、上述のとおり直接又は間接的に結合する。対象とする細胞と前記担体との混合割合は、細胞の種類や大きさ、前記担体の形態や大きさ等の要因に応じて当業者が適宜設定することができ特に限定されるものではないが、例えば、対象とする細胞1個に対し、前記担体1~10個、又は4~10個となるように両者を加えることが好ましい。例えば、反応液中に対象とする細胞を1×104~1×107個/mL、好ましくは1×105~2×106個/mL、前記担体を1×104~1×108個/mL、好ましくは4×105~2×107個/mLとなるように両者を加えることが好ましい。
【0027】
前記結合工程は、細胞が生存可能な環境下で行えばよく、培養培地中にて行うことが好ましく、細胞培養環境下にて行うことがより好ましく、例えば、前記結合工程は、対象とする細胞と、前記担体とを、37℃、5%CO2の培養条件を維持しながら行うことができる。
【0028】
前記結合工程は、対象とする細胞と前記担体とを加えた反応液を、連続的に又は断続的に撹拌しながら行ってもよいし、あるいは静置して行ってもよく、好ましくは静置して行う。
【0029】
前記結合工程は、対象とする細胞と前記担体とが結合するのに十分な時間維持されればよく、この時間は細胞の種類、大きさや数、前記担体の形態、大きさや数、前記担体が備える抗体やアビジンもしくはビオチンの種類、形態や数等の要因に応じて、当業者が適宜設定することが可能であるが、例えば、好ましくは1~120分間、より好ましくは5~60分間、さらに好ましくは10~30分間程度とすることができる。
【0030】
前記結合工程において、反応液にはさらに、細胞凝集抑制剤を添加することが好ましい。前記結合工程を20℃~42℃の温度条件下にて行うと5個以上の細胞が集まってなる細胞凝集体が多数形成されるところ、反応液に細胞凝集抑制剤を添加することによって、この細胞凝集体の形成を抑制することができ好ましい。
【0031】
本発明において利用可能な「細胞凝集抑制剤」としては、細胞が凝集することを抑制する効果を有することが知られている任意の化合物を使用することができる。このような細胞凝集抑制剤としては、例えば、カルシウムキレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、クエン酸(CA)、シュウ酸、1,2-ビス(o-アミノフェノキシド)エタン-N,N,N’,N’-テトラ酢酸(BAPTA)、N’-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N,N’-三酢酸(HEDTA)、ニトリロトリ酢酸(NTA)、シトレート、ヘキサメタリン酸ナトリウム、トリエチレンテトラミン、ジエチレントリアミン、o-フェナントロリン又はそれらの塩等)、PKC(プロテインキナーゼC)活性化剤(例えば、オカダ酸、オレイン酸、ブリオスタチン1、12-O-テトラデカノイルホルボール13-アセタート(PMA)、インゲノール3-アンゲラート、ホルボール12,13-ジブチラート、1-オレオイル-2-アセチル-sn-グリセロール(OAG)、プロストラチン、1,2-ジオクタノイル-sn-グリセロール、DPC-LA、1-O-ヘキサデシル-2-O-アセチル-sn-グリセロール、PIP2又はそれらの塩等)、リゾリン脂質(例えば、リゾホスファチジン酸(LPA)、スフィンゴシン-1-リン酸(S1P)又はそれらの塩等)、細胞周期停止剤(例えば、コルヒチン、ジメチルスルホキシド、サイトカラシンD、サイトカラシンB、ドセタキセル、ポドフィロトキシン、デメコルチン、ノコダゾール、ジャスプラキノライド、ビンブラスチン、グリセオフルビン、ビノレルビン、ラトランクリンA又はそれらの塩等)等が挙げられ(これらに限定はされない)、本発明において好ましく用いることができる。本発明において、細胞凝集抑制剤はカルシウムキレート剤がより好ましく、特に好ましくは、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、クエン酸、又はそれらの塩である。なお、細胞凝集抑制剤に関し、上記化合物の「塩」とは、ナトリウム、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、置換アンモニウム塩等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0032】
細胞凝集抑制剤はいずれか単独で用いてもよいし、異なる細胞凝集抑制剤を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
反応液に添加する細胞凝集抑制剤の量は、細胞の凝集を抑制することが可能な任意の量とすることができ、細胞凝集抑制剤の種類や、細胞の種類、大きさ、数等の要因に応じて、当業者が適宜設定することが可能である。例えば、細胞凝集抑制剤がエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、クエン酸、又はそれらの塩である場合には、反応液に1mM超~100mM未満の量で添加するのが好ましく、より好ましくは2mM以上~100mM未満の量(例えば、2mM以上~90mM以下、2mM以上~80mM以下、2mM以上~70mM以下、もしくは2mM以上~60mM以下の量)、さらに好ましくは2mM以上~50mM以下の量(例えば、2mM以上~20mM以下の量)、よりさらに好ましくは2mM以上~10mM以下の量である。これら範囲内の用量にて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)、クエン酸、又はそれらの塩を反応液に添加することによって、細胞凝集抑制剤を添加しなかった場合と比べて、細胞が凝集するのを抑制し、形成される細胞凝集体の量を低減することができる。
【0034】
別の態様において、本発明は、上述の方法により得られた、前記担体と結合した細胞を、前記担体を利用して単離することを含む、細胞の単離方法に関する。
【0035】
「前記担体と結合した細胞を、前記担体を利用して単離する」とは、前記担体を分離及び/回収することが可能な任意の手段に付すことにより、前記担体を分離及び/又は回収すると共に、合わせてそれに結合している細胞も分離及び/又は回収することを意味する。
【0036】
前記担体を分離及び/又は回収する手段は、用いた担体の種類に応じて、当業者が適宜設定することが可能である。例えば、磁気カラム、アフィニティーカラム等を用いたカラムクロマトグラフィー、免疫沈降、遠心分離、磁性体、酵素等による担体の分解等の手段を好適に用いることができる。前記担体を分離及び/又は回収する手段は、いずれかの手段を単独で用いてもよいし、異なる手段を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
別の態様において、本発明は、上述の方法により得られた、前記担体と結合した細胞を利用した改変細胞の製造方法に関するものであり、本方法は、前記担体と結合した細胞と、細胞内導入因子が固定化されている針状体とを接触させ、前記針状体の一部分を前記細胞内に挿入して、前記細胞内導入因子を前記細胞内に導入する工程、ならびに、前記針状体の一部分を前記細胞より抜き出す工程、を含む。
【0038】
以下、本方法について説明するが、本方法は特開2023-15592に開示される改変細胞の製造方法に準じた手法により行うことができ、本方法の構成や条件について当該文献を参照することができる。
【0039】
本方法において「針状体」とは、少なくとも一つの針状部を備える微細な構造体であり、針状部の長さは、0.5~100μm、好ましくは1~50μm、より好ましくは10~30μm程度である。「針状体」は、細胞への針状部の挿入、抜去を可能とするものであればよく、その構成は特に限定されるものではないが、好ましくは、複数の針状部を備える酸化亜鉛からなり、より好ましくは長さ10~20μmの酸化亜鉛の単結晶からなる針状部がテトラポッド状に配置されてなる形状(針状粒子)を有する。このような針状粒子としては、例えば、パナテトラ(登録商標)WZ-0501(アムテック製)等を好適に用いることができる。なお、上述の「針状体」、「針状粒子」、及び「針状部」の大きさに関する数値は平均値で表される。
【0040】
「針状体」は針状粒子の形態で用いてもよいし、下記実施例にて詳述するように基材に固定化された形態を有していてもよい。
【0041】
本方法の一実施形態において、「細胞内導入因子」としては、細胞内分子に結合可能な結合体が挙げられる。「細胞内分子に結合可能な結合体」は、導入された細胞内において標的とする細胞内分子と結合、好ましくは選択的に結合、より好ましくは特異的に結合して複合体を形成可能なものであればよく、標的とする細胞内分子に応じて適宜選択することができる。このような結合体としては例えば、核酸(DNA、RNA、DNA-RNAハイブリッド等)、タンパク質(抗体、抗原、酵素、基質、補酵素、リガンド、受容体、複合体のサブユニット、またはそれらの断片等)、ペプチド、低分子化合物等が挙げられるが、これらに限定はされない。本方法において「細胞内分子に結合可能な結合体」は、それ自体が任意の遺伝子の発現に直接影響を与えるものではないものが好ましい。ここで「直接影響を与えるものではない」とは、当該結合体の導入に起因して、細胞内の任意のシグナル伝達経路が直接活性化されないことを意味する。好ましくは、本方法において「細胞内分子に結合可能な結合体」は、標的とする細胞内分子と結合、好ましくは選択的に結合、より好ましくは特異的に結合することができる抗体又はその断片である。抗体の「断片」とは、上記定義のとおりである。
【0042】
本方法のまた別の態様において、「細胞内導入因子」としては、導入された細胞内において任意の機能を発揮するもの、又は任意の機能を発揮すると予測されるものが挙げられる。このような因子としては例えば、生理活性物質等が挙げられる。「生理活性物質」としては、例えば、核酸(DNA、RNA、DNA-RNAハイブリッド等)、プラスミド、ウイルス粒子、染色体等;タンパク質、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、マルチサブユニットタンパク質;糖類、多糖、脂肪酸、コレステロール、脂質、シグナル伝達物質、リガンド物質、ホルモン物質、サイトカイン、イオン、金属粒子、磁性微粒子、無機化合物、量子ドット、有機化合物、薬剤等からなる群から選択される一又は複数の物質が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0043】
本方法において「針状体」と「細胞内導入因子」との結合(固定化)方法は、用いる「細胞内導入因子」の種類に応じて、適宜選択することができる。例えば、用いる「細胞内導入因子」が、上述の「細胞内分子に結合可能な結合体」である場合には、針状体と前記結合体との結合(固定化)は、針状部を細胞へ挿入、その後引き抜いた際においても、当該結合が維持されている強度を有することが好ましく、当業者に周知の方法を用いて行うことができる。当該結合方法としては例えば、物理的吸着法、共有結合法、イオン結合法等が挙げられるが、好ましくは共有結合法である。例えば、共有結合法は前記結合体がタンパク質やペプチドである場合、針状部の表面の官能基(例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、N-ヒドロキシスクシンイミジル基、スルフヒドリル基、エポキシ基、ビニル基等)とタンパク質やペプチドのカルボキシ末端とを化学的に反応させてエステル結合又はアミド結合等を形成させることにより行うことができる。必要に応じて、針状部の表面は官能基を導入するために処理することが可能であり、これは例えば、ポリリジン、ポリエチレンイミンビニルトリアルコキシシラン、3-メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、アミノアルキルトリアルコキシシラン、エポキシ含有アルキルトリアルコキシシラン等を用いて行うことができる。
【0044】
針状粒子と細胞内分子に結合可能な結合体との結合(固定化)は、互いに直接結合されていてもよいし、あるいは、リンカーを介して間接的に結合されていてもよい。
【0045】
また、用いる「細胞内導入因子」が、上述の「生理活性物質」である場合には、少なくとも針状部を細胞へ挿入するまでは両者の結合(固定化)が維持される一方で、細胞内においては結合が分離/切断され、当該因子の細胞内への放出を可能とする結合が好ましい。このような結合方法としては例えば、静電気的結合;疎水性相互作用による結合;キレート結合;ジスルフィド結合(S-S結合)等の細胞内で切断され得る共有結合;光切断リンカーを介した結合;エステラーゼ等の酵素認識配列を有するリンカー(酵素切断リンカー)を介した結合等が挙げられ(これらに限定はされない)、当業者に周知の方法を用いて行うことができる(特開2006-166884号公報等)。
【0046】
細胞内への、針状体の針状部の挿入は、細胞と針状体とを接触させることにより行うことができる。この細胞と針状体との接触は、細胞に針状体を添加することによって(又は、針状体に細胞を添加することによって)、あるいは基材に固定化された形態の針状体(本明細書中、当該形態の針状体を「細胞処理用複合基材」と称する場合がある)に細胞を添加することによって行うことができる。必要に応じて、細胞と針状体との接触には、外力を加えてもよい。ここで「外力」とは、細胞及び/又は針状体に加えられる力を意味し、遠心力、磁力、静電相互作用、水流(水圧)等が挙げられ、これらより選択される一又は複数を用いることができる。遠心は細胞に損傷を与えない条件であればよく、例えば、100~30000gにて30~600秒行うことができる。水流(水圧)はピペッティング操作によりもたらすことができる。外力を用いることによって、細胞と針状体との接触時の衝撃を高めて、針状体の針状部が細胞内へ挿入されるのを容易にする(すなわち、挿入確率を高める)ことができる。
【0047】
細胞内への針状粒子の針状部の挿入は、培養培地中にて行えばよく、細胞培養環境下にて行うことが好ましく、例えば、37℃、5%CO2の培養条件を維持しながら行うことができる。挿入時間が短い場合には、室温、大気環境下等で行うことも可能である。
【0048】
そして、針状体に固定化されている細胞内導入因子が、前記「細胞内分子に結合可能な結合体」である場合には、細胞内への針状体の針状部の挿入は、細胞内において挿入した針状体に固定化された前記結合体と、細胞内の目的とする細胞内分子とが結合するのに十分な時間維持されればよく、この時間は前記結合体や目的とする細胞内分子の種類に応じて、当業者が適宜設定することが可能であるが、例えば、1~120分間、好ましくは5~60分間、より好ましくは30分間程度とすることができる。
【0049】
その後、針状部を前記結合体に結合した目的とする細胞内分子と共に、細胞より抜き出すことによって、当該細胞内において目的とする細胞内分子の量を低減、又は消失させることができ、これにより当該細胞内分子の機能が除去、又は低減された改変細胞を得ることができる。
【0050】
また、針状体に固定化されている細胞内導入因子が、前記「生理活性物質」である場合には、細胞内への針状体の針状部の挿入は、細胞内において針状体に固定化された前記生理活性物質が針状体より放出されるのに十分な時間維持されればよく(必要に応じて、結合の切断処理を行う)、この時間は前記生理活性物質等や結合の種類に応じて、当業者が適宜設定することが可能であるが、例えば、1~120分間、好ましくは5~60分間、より好ましくは30分間程度とすることができる。
【0051】
その後、針状部を細胞より抜き出し、前記生理活性物質は細胞内に残留させることによって、当該細胞内において前記生理活性物質の量を増加させることができ、これにより当該生理活性物質の機能が導入、又は増強された改変細胞を得ることができる。
【0052】
細胞からの針状部の抜き出しは、外力を加えて、接触している細胞と針状体とを引き離すことによって行うことができる。ここで「外力」とは上記定義のものを用いることができる。
【0053】
本方法において、細胞内への針状体の針状部の挿入、及び細胞からの針状部の抜き出しの工程は、同一の細胞に対して一又は複数回行うことができる。ここで「複数回」とは、2回以上、3回以上、4回以上、又は5回以上であり、その上限は特に限定されないが、細胞の負担を低減し、その生存状態及び生理状態を良好に保つとの観点から、15回以下、又は10回以下が好ましい。また、ここで「複数回行う」とは、連続して前記工程を複数回行う場合だけでなく、一定の時間間隔をおいて前記工程を複数回行う場合も意味する。
【0054】
得られる改変細胞は、導入した細胞内導入因子の機能に応じて様々である。導入した細胞内導入因子が、前記「細胞内分子に結合可能な結合体」であり、例えば、前記結合体と結合する細胞内分子が細胞の活性化を抑制又は阻害する機能を有する因子である場合には、当該因子の機能を除去、又は低減することにより、当該因子の細胞内反応が制御された、すなわち、活性化された改変細胞を得ることができる。また、例えば、前記結合体と結合する細胞内分子が細胞の分化誘導を抑制又は阻害する機能を有する因子である場合には、当該因子の機能を除去、又は低減することにより、当該因子の細胞内反応が制御された、すなわち、分化誘導された改変細胞を得ることができる(改変細胞の例はこれらに限定はされない)。
【0055】
導入した細胞内導入因子が、前記「生理活性物質」であり、例えば、それが細胞の活性化を促進する機能を有する因子である場合には、当該因子の機能を導入、又は増強することにより、当該因子の細胞内反応が制御された、すなわち、活性化が促進された改変細胞を得ることができる。また、例えば、当該生理活性物質が、細胞の分化誘導を促進する機能を有する因子である場合には、当該因子の機能を導入、又は増強することにより、当該因子の細胞内反応が制御された、すなわち、分化誘導された改変細胞を得ることができる(改変細胞の例はこれらに限定はされない)。
【0056】
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0057】
I 細胞とビーズの結合
1-1.細胞の調製
間葉系幹細胞(以下、「MSC」と記載;PromoCell製)を、Cellartis(登録商標)MSC Xeno-Free Culture Medium(以下、「培地」と記載;タカラバイオ製)で培養した。
【0058】
1-2.ビーズの調製
Dynabeads(登録商標)M-450 Epoxy(ThermoFisher製)2×108個をpH8.0のリン酸緩衝液(富士フイルム和光純薬製)で洗浄し、anti-PE antibody(Biolegend製)100μgと取扱説明書記載の手順に従い反応させた後、0.1%BSA及び2mM EDTA(ナカライテスク製)を含むpH7.2のリン酸緩衝液(ナカライテスク製)中に分散させ、2×108 beads/mLの抗PE抗体結合ビーズ分散液を調製した。
【0059】
1-3.細胞とビーズの結合
MSCをディッシュから回収し、PE標識抗CD105抗体(Biolegend製)を100倍希釈で溶解したリン酸緩衝液中に分散し、4℃にて15分間静置することによって、MSCにPE標識抗CD105抗体を結合させた。
【0060】
前項の抗PE抗体結合ビーズ分散液より、抗PE抗体結合ビーズを回収し、pH7.2のリン酸緩衝液で洗浄した。
【0061】
1.5mL容量サンプリングチューブ(エッペンドルフ製)の中に培地100μLを加え、そこに抗PE抗体結合ビーズ1×106個とPE標識抗CD105抗体を結合させたMSC 2×105cellsとを加えて混合し(以下、「混合液」と記載)、下記表1及び表2に記載される所定の反応温度条件下、かつ所定の細胞凝集抑制剤の存在下にて、1時間静置した(以下、「結合工程」と記載)。細胞凝集抑制剤としてカルシウムキレート剤、より具体的にはエチレンジアミン四酢酸(EDTA;ナカライテスク製)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA;富士フイルム和光純薬製)、クエン酸(CA;富士フイルム和光純薬製)を使用した。
【0062】
【0063】
【0064】
1-4.結合の評価方法
前記結合工程の終了後、混合液に培地900μLを添加し、穏和にピペッティングした後、ネオジム磁石を容器側面に接触させ、ビーズが容器側面に吸着したのを確認後、磁石が接触した状態のまま培地を、ピペットを用いて回収して別のサンプリングチューブに移して回収した(ネガティブ分画)。
【0065】
次いで、磁石を外し、培地1mLを加え、ピペッティングにより再度分散させた(ポジティブ分画)。
【0066】
ネガティブ分画、及びポジティブ分画をそれぞれ遠心分離に付し(300g、3分間、室温)、上清を培地100μLに交換して再懸濁してサンプルとした。各サンプルにおける細胞数、及び細胞凝集率(%)を、細胞計数装置(NucleoCounter NC-200(Chemometec製))を用いて測定した。
【0067】
ここで、「細胞凝集率(%)」は、「5個以上の細胞が集まったものの細胞数と全体の細胞数の比」と定義され、細胞計数装置の内部プログラムにより自動的に算出される。
【0068】
また、「細胞回収率(%)」は、ポジティブ分画の細胞数/(ポジティブ分画の細胞数+ネガティブ分画の細胞数)と定義され、各実施例及び比較例について算出した。
【0069】
1-5.評価結果
各実施例及び比較例の細胞回収率(%)及び細胞凝集率(%)の結果を、下記表3及び表4、ならびに
図1及び
図2に示す。
【0070】
【0071】
【0072】
実験1の結果より(表3、
図1)、結合工程における反応温度を低温(4℃)とした場合、細胞はほとんど回収することはできず(比較例1-4)、結合工程における反応温度をより高温(21℃、又は37℃)で行うことにより、細胞回収率(%)を顕著に高められることが確認された。これは、結合工程における反応温度をより高温で行うことにより、細胞とビーズの結合効率を高めることができ、ビーズと結合した細胞がより多く製造できたことを示す。
【0073】
一方、結合工程における反応温度をより高温(21℃、又は37℃)とすることにより、細胞凝集率(%)が顕著に高くなることが確認された。ただし、高温条件がもたらす細胞凝集率(%)の上昇は、反応液に細胞凝集抑制剤を添加することにより改善できることが確認され、各種カルシウムキレート剤を細胞凝集抑制剤として好適に利用できることが確認された。
【0074】
また、実験2の結果より(表4、
図2)、結合工程における反応温度をさらに高温(41.5℃)とした場合においても、低温(4℃)とした場合よりも高い細胞回収率(%)が得られることが確認された。そして、高温条件がもたらす細胞凝集率(%)の上昇は、細胞凝集抑制剤を2mM以上の濃度で作用させることにより改善可能であるが、より高い濃度(100mM)で作用させる場合には、細胞回収率(%)が低温(4℃)条件の細胞回収率(%)と同等又はそれ以下となるため好ましくないことが確認された(比較例5,6)。
【0075】
II 細胞とビーズの結合及び目的細胞の分離
2-1.細胞の調製
MSCを、上記「1-1.細胞の調製」に記載したのと同様に、培養した。
Jurkat E6.1(ケー・エー・シー製)を、2%FBS(コスモバイオ製)入りALyS505N-0(細胞科学研究所製)で培養した。
【0076】
2-2.ビーズの調製
ビーズを、上記「1-2.ビーズの調製」に記載したのと同様に、調製した。
【0077】
2-3.細胞とビーズの結合
MSC、Jurkatをそれぞれディッシュから回収し、2×105cellsずつ取り混合した後、PE標識抗CD105抗体(Biolegend製)を100倍希釈で溶解したリン酸緩衝液中に分散し、4℃にて15分間静置することによって、MSCにPE標識抗CD105抗体を結合させた。(JurkatはCD105抗原を有さない)。
【0078】
前項の抗PE抗体結合ビーズ分散液より、抗PE抗体結合ビーズを回収し、pH7.2のリン酸緩衝液で洗浄した。
【0079】
1.5mL容量サンプリングチューブ(エッペンドルフ製)の中に、2mMのEDTAを含む培地100μLを加え、そこに抗PE抗体結合ビーズ4×106個とPE標識抗CD105抗体と反応させた細胞混合物(MSC、Jurkatにつき、それぞれ2×105cells)とを加えて混合し(以下、「混合液」と記載)、37℃にて1時間静置した(以下、「結合工程」と記載)。
【0080】
2-4.細胞の分離及び評価方法
前記結合工程の終了後、混合液に培地900μLを添加し、穏和にピペッティングした後、ネオジム磁石を容器側面に接触させ、ビーズが容器側面に吸着したのを確認後、磁石が接触した状態のまま培地を、ピペットを用いて回収して別のサンプリングチューブに移して回収した(ネガティブ分画)。
【0081】
次いで、磁石を外し、培地1mLを加え、ピペッティングにより再度分散させた(ポジティブ分画)。
【0082】
ネガティブ分画、及びポジティブ分画をそれぞれ遠心分離に付し(300g、3分間、室温)、培地をCell staining buffer(Biolegend製)100μLに交換して再懸濁した。それぞれの分画の細胞懸濁液にPacific Blue標識抗CD73抗体(Biolegend製)1μLを添加し、4℃にて20分間静置した後、Cell staining bufferで洗浄した。次いで、フローサイトメーター CytoFLEX S(Beckman coulter製)を用いてCD73陽性細胞の割合を評価した。抗CD105抗体、ビーズで処理していないMSC及びJurkatについてもそれぞれ同様にCD73陽性細胞の割合を評価した。また、陽性の基準は抗CD73抗体で処理していないMSCを用いて設定した。
【0083】
2-5.評価結果
各サンプルにおけるCD73陽性率(%)の評価結果を、下記表5に示す。
【表5】
【0084】
この結果より、CD73陽性率は、MSCのみにおいて92.45%、Jurkatのみにおいて0%であることから、MSC及びJurkatを同数混合した細胞集団の陽性率は、理論上約46%となる。一方、結合工程における反応温度を37℃とした場合、磁石を利用したビーズの分離操作によって、ポジティブ分画のCD73陽性率は87.61%となり、上記MSCのみの結果とほぼ同水準まで向上したことが確認され、磁石を利用したビーズの分離操作による細胞の分離・回収が成功したと結論付けられる。
【0085】
これは、結合工程における反応温度をより高温で行い、細胞とビーズの結合効率を高めたとしても、細胞とビーズの結合は依然として特異的な反応であり、目的の細胞にビーズを効率的に結合できることを示す。
【0086】
III 改変細胞の製造
以下、改変細胞の製造方法は、特開2023-15592に開示さる手法に準じて行った。
3-1.細胞処理用複合基材の作製
本実験における、針状粒子が固定化された細胞処理用複合基材の作製方法の概要を
図3に示す。すなわち、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)製フィルムの上に、φ4mmの穴を開けたLLDPE製フィルム(マスキング)をかぶせ、水溶性の感光性樹脂(BIOSURFINE(登録商標)AWP(東洋合成製))の1%水溶液を添加した後、シリコーン製のヘラで余剰液を掻き出した。
【0087】
針状粒子(パナテトラ(登録商標)WZ-0501L(アムテック製);平均針長さ20μm)の5%エタノール分散液を上記基材に滴下し、バーコーター(No.20)を用いて、パナテトラのコーティングを行った。
【0088】
マスキングを剥がし、低圧水銀ランプ(TUV15W/G15T8(フィリップス製))で感光性樹脂をUV架橋してパナテトラを接着した。UV照射条件は距離12cmにて30分間とした。次いで、水で洗浄し、接着が不十分な余剰パナテトラを洗い流した。
【0089】
LDPE製のリング型部材(内径4mm)と基材上のパナテトラコーティング済みの箇所(φ4mm)の中心をそろえて重ね合わせ、ヒートシールして、容器状の細胞処理用複合基材を作製した。
【0090】
得られた細胞処理用複合基材について観察用に一部を取り出し、その底面を切り出して超深度マルチアングル顕微鏡(VHX-D500(キーエンス製))で観察したところ、水溶性感光性樹脂にその一部分が埋め込まれて固定化されている針状粒子状のパナテトラのコーティングが観察された。
【0091】
3-2.細胞処理用複合基材への抗体のコーティング
上記3-1.で得られた細胞処理用複合基材に10μg/mLの濃度にて50μLの抗GSK3β抗体(Bethyl Laboratories製)を入れ、37℃にて2時間静置して、パナテトラを抗体でコーティングした。得られた抗体コーティング細胞処理用複合基材は、60μLのPBS(ナカライテスク製)で2回洗浄した後に、以下の細胞処理に用いた。
【0092】
3-3.細胞の調製
MSCを、上記「1-1.細胞の調製」に記載したのと同様に、培養した。
【0093】
3-4.ビーズの調製
上記「1-2.ビーズの調製」に記載したのと同様に、抗PE抗体結合ビーズ分散液を調製した。
【0094】
3-5.細胞とビーズの結合
MSCをディッシュから回収し、PE標識抗CD105抗体(Biolegend製)を100倍希釈で溶解したリン酸緩衝液中に分散し、4℃にて15分間静置することによって、MSCにPE標識抗CD105抗体を結合させた。
【0095】
前項の抗PE抗体結合ビーズ分散液より、抗PE抗体結合ビーズを回収し、pH7.2のリン酸緩衝液で洗浄した。
【0096】
1.5mL容量サンプリングチューブ(エッペンドルフ製)の中に、培地100μLを加え、そこに抗PE抗体結合ビーズ1×106個とPE標識抗CD105抗体を結合させたMSC 2×105cellsとを加えて混合し、37℃にて1時間静置し、ビーズを結合させたMSCを得た。
【0097】
3-6.細胞処理用複合基材による細胞の処理及び評価
上記3-2.で得られた抗体コーティング細胞処理用複合基材に、上記3-5.で調製したビーズを結合させたMSCを、培地と共に1×105細胞個加えて、遠心(2000g、4℃、3分)し、抗GSK3β抗体でコーティングされたパナテトラの針状部を当該細胞に挿入して、そのまま37℃にて30分間静置した。
【0098】
細胞をピペッティング操作で浮かして、細胞処理用複合基材より剥がし、96well plateに回収し、間葉系幹細胞神経細胞分化培地(PromoCell製)150μLを追加して、37℃、5%CO2環境で、6日間培養した(実施例A)。
【0099】
一方、比較例として、パナテトラが抗GSK3β抗体でコーティングされていない点を除いて、上記細胞処理用複合基材と同様に調製された細胞処理用複合基材(比較例A)、パナテトラがコーティングされていない(パナテトラを備えない)点を除いて、上記細胞処理用複合基材と同様に調製された細胞処理用複合基材(比較例B)、抗GSK3β抗体及びパナテトラのいずれもコーティングされていない点を除いて、上記細胞処理用複合基材と同様に調製された細胞処理用複合基材(比較例C)をそれぞれ用いて、上記と同様に処理された細胞を用いた。
【0100】
96well plateでの培養を開始してから6日後に、各細胞培養物を回収して抗CD56抗体(Biolegend製)で染色した後、フローサイトメーターCytoFLEX S(Beckman coulter製)で各抗体の染色強度を解析した。解析にあたっては、生細胞集団をソートし、その中からCD56の陽性率を算出した。また、陽性陰性判定の基準は無染色の細胞を用いた。
【0101】
3-7.結果
一般的に、MSCはwnt/β-catenin経路の細胞内シグナルカスケードの活性化を経て神経系細胞へと分化が促され、神経内分泌細胞のマーカーであるCD56を発現することが知られている(Qin Yuら、Biohem Biophys Res Commun.2013 Sep 20;439(2):297-302.)。一方、このwnt/β-catenin経路の細胞内シグナルカスケードの活性化は、セリンスレオニンタンパク質キナーゼであるGSK3βにより阻害され、神経系細胞への分化が阻害される(すなわちCD56の発現が抑制される)ことが知られている(Fatemeh Vahid Dastjerdiら、Cell Biol Int.2012 Nov 1;36(11):967-72.)。
【0102】
37℃の温度条件下にてビーズと結合させた細胞に抗GSK3β抗体でコーティングされたパナテトラの針状部を挿入、抜去した場合(実施例A)においては、比較例A~Cと比べて、CD56陽性細胞の割合が高くなることが確認された(
図4)。
【0103】
この結果は、抗GSK3β抗体でコーティングされたパナテトラの針状部をMSCに挿入、留置し針状部の抗GSK3β抗体と細胞内のGSK3βとを結合させ、その後、針状部が抜去された際に、抗GSK3β抗体と結合しているGSK3βが一緒に細胞外に抜き出されたために、wnt/β-catenin経路の細胞内シグナルカスケードに対するGSK3βの阻害が除去され、当該シグナルカスケードの活性化をもたらし、細胞の神経系細胞への分化を促進したことが示唆される。上記条件下にてビーズと結合させた細胞より、所望の改変細胞が製造できることが確認された。