(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140278
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素還元触媒、二酸化炭素還元触媒装置、及びジェット燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/78 20060101AFI20241003BHJP
B01J 23/80 20060101ALI20241003BHJP
B01J 23/825 20060101ALI20241003BHJP
C10G 2/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B01J23/78 M
B01J23/80 M ZAB
B01J23/825 Z
C10G2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051341
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】山本 修身
(72)【発明者】
【氏名】椿 範立
(72)【発明者】
【氏名】何 英洛
(72)【発明者】
【氏名】ワン チャンウェイ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H129
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BC02A
4G169BC02B
4G169BC16A
4G169BC16B
4G169BC17A
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4G169BC67A
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4H129KD30X
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4H129KD31X
4H129KD31Y
4H129NA22
4H129NA23
4H129NA45
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素の水素化反応により、炭素数8~16の炭化水素を好ましく生成できる二酸化炭素還元触媒を提供すること。
【解決手段】二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、触媒金属として、Feと、Coと、Znと、を含み、Znの含有量は、7.5~12.5質量%である、又は、触媒金属として、Feと、Coと、Alと、を含み、Alの含有量は、8.5~11.5質量%である、二酸化炭素還元触媒。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、
触媒金属として、Feと、Coと、Znと、を含み、
前記Znの含有量は、7.5~12.5質量%である、二酸化炭素還元触媒。
【請求項2】
二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、
触媒金属として、Feと、Coと、Alと、を含み、
前記Alの含有量は、8.5~11.5質量%である、二酸化炭素還元触媒。
【請求項3】
触媒金属として、Naを更に含み、
前記Naの含有量は、0.5~1.5質量%である、請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元触媒。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元触媒の上流側に、触媒金属として、Feと、Ga又はZrの少なくとも何れかと、を含む第2の触媒が配置される、二酸化炭素還元触媒装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の二酸化炭素還元触媒により二酸化炭素を還元する二酸化炭素還元工程と、
前記二酸化炭素還元工程により得られた炭化水素に対してアップグレーディング処理を行うアップグレーディング工程と、を有する、ジェット燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素還元触媒、二酸化炭素還元触媒装置、及びジェット燃料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気候変動の緩和又は影響軽減を目的とした取り組みが継続され、この実現に向けて、自動車の排気ガス規制が一段と進んでいる。とりわけ、内燃機関の排ガスに含まれる二酸化炭素排出量の削減が求められている。
【0003】
近年、二酸化炭素を水素化反応させて燃料を生成する技術が知られている。例えば、二酸化炭素と水素の混合ガスからメタノールを合成する触媒として、Cu、Zn及びアルミナからなる触媒が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
二酸化炭素を水素化反応させて得られる燃料として、液体燃料として使用可能な、炭素数が例えば5以上の炭化水素を生成できることが求められる。このような技術として、FT(フィッシャー・トロプシュ:Fischer-Tropsch)合成反応におけるFe触媒に対しカリウムを助触媒として用いることで、高度に分岐した炭素数5以上の生成物を調製する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭45-16682号公報
【特許文献2】特表2005-537340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、二酸化炭素の排出量削減の取り組みの中で、バイオマス由来原料や廃棄物等から製造された航空燃料であるSAF(Sustainable Aviation Fuel)に関する技術が注目されている。二酸化炭素の水素化反応に関する技術を用いて、二酸化炭素から直接SAFを製造することができれば好ましい。しかし、特許文献2に開示された技術で生成される炭化水素は、SAFの主成分である、炭素数8~16程度の炭化水素の生成率が低いという課題がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素の水素化反応により、炭素数8~16の炭化水素を好ましく生成できる二酸化炭素還元触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明は、二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、触媒金属として、Feと、Coと、Znと、を含み、前記Znの含有量は、7.5~12.5質量%である、二酸化炭素還元触媒に関する。
【0009】
(1)の発明によれば、二酸化炭素の水素化反応により、炭素数8~16の炭化水素を好ましく生成できる二酸化炭素還元触媒を提供できる。
【0010】
(2) また、本発明は、二酸化炭素を水素化反応させて二酸化炭素を還元し炭化水素を生成する二酸化炭素還元触媒であって、触媒金属として、Feと、Coと、Alと、を含み、前記Alの含有量は、8.5~11.5質量%である、二酸化炭素還元触媒に関する。
【0011】
(2)の発明によれば、二酸化炭素の水素化反応により、炭素数8~16の炭化水素を好ましく生成できる二酸化炭素還元触媒を提供できる。
【0012】
(3) 触媒金属として、Naを更に含み、前記Naの含有量は、0.5~1.5質量%である、(1)又は(2)に記載の二酸化炭素還元触媒。
【0013】
(3)の発明によれば、触媒の塩基性度を高めることができ、かつNaが反応サイトを被覆することによる悪影響を回避できるため、副生成物の生成が抑制され、炭素数8~16の炭化水素をより好ましく生成できる。
【0014】
(4) (1)又は(2)に記載の二酸化炭素還元触媒の上流側に、触媒金属として、Feと、Ga又はZrの少なくとも何れかと、を含む第2の触媒が配置される、二酸化炭素還元触媒装置。
【0015】
(4)の発明によれば、第2の触媒により二酸化炭素が一酸化炭素に還元される逆水性ガスシフト反応と、一酸化炭素が炭化水素へと転換されるFT合成反応とが一段で行われ、かつ下流側に配置される二酸化炭素還元触媒によって生成された炭化水素の炭素数が増大するため、炭素数8~16の炭化水素をより好ましく生成できる。
【0016】
(5) (1)又は(2)に記載の二酸化炭素還元触媒により二酸化炭素を還元する二酸化炭素還元工程と、前記二酸化炭素還元工程により得られた炭化水素に対してアップグレーディング処理を行うアップグレーディング工程と、を有する、ジェット燃料の製造方法。
【0017】
(5)の発明によれば、二酸化炭素還元工程により得られた高級炭化水素に対してアップグレーディング工程が施されることで、炭素数8~16の炭化水素の生成率が向上し、効率よくジェット燃料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施例及び比較例に係る二酸化炭素還元触媒のAl添加量とCO
2変換率との関係を示すグラフである。
【
図2】実施例及び比較例のAl添加量とC
8-C
16選択率との関係を示すグラフである。
【
図3】実施例及び比較例のAl添加量とC
8-C
16生成率との関係を示すグラフである。
【
図4A】比較例1の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図4B】比較例2の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図4C】実施例1の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図4D】比較例3の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図5】実施例及び比較例のZn添加量とCO
2変換率との関係を示すグラフである。
【
図6】実施例及び比較例のZn添加量とC
8-C
16選択率との関係を示すグラフである。
【
図7】実施例及び比較例のZn添加量とC
8-C
16生成率との関係を示すグラフである。
【
図8A】比較例5の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図8B】実施例2の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図8C】比較例6の炭素数と炭化水素選択率との関係を示すグラフである。
【
図9】第1実施形態に掛かる二酸化炭素還元触媒装置の構成を示す図である。
【
図10】第1実施形態の変形例に掛かる二酸化炭素還元触媒装置の構成を示す図である。
【
図11】第2実施形態に掛かる二酸化炭素還元触媒装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<二酸化炭素還元触媒>
《第1実施形態》
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、触媒金属として、Fe(鉄)と、Co(コバルト)と、Zn(亜鉛)と、を必須として含む。また、更にNa(ナトリウム)を含むことが好ましい。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒を用いた二酸化炭素還元反応は、H2(水素)とCO2(二酸化炭素)の混合ガスを原料とし、CO2がCO(一酸化炭素)に還元される逆水性ガスシフト反応と、COが炭化水素へと転換されるFT合成反応と、を一段で行うことにより炭化水素を生成する反応である。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、上記逆水性ガスシフト反応と、FT合成反応との両方に寄与する。
【0020】
Feは、二酸化炭素還元触媒の触媒金属として含有され、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。また、Feは、Fe及びCoを含むFe-Co複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。Fe-Co複合酸化物を含有する触媒金属を用いることで、Co自身が炭素成長反応性を有しているため、鉄酸化物等の化合物と比較して炭素鎖の成長を促進させることができる。
【0021】
Feの含有量は、二酸化炭素還元触媒の触媒金属中において、例えば、金属原子換算で65~75質量%であることが好ましい。
【0022】
Coは、二酸化炭素還元触媒の触媒金属として含有され、Feと同様に、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。Coは、Fe及びCoを含むFe-Co複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。
【0023】
Coの含有量は、二酸化炭素還元触媒の触媒金属中において、例えば、金属原子換算で15~25質量%であることが好ましい。Coの含有量を15質量%以上とすることで、Co自身の炭素成長反応性を発現させることができる。Coの含有量を25質量%以下とすることで、副生物であるメタンの生成を抑制することができる。また鉄触媒における二酸化炭素を一酸化炭素に還元する機能(逆水性ガスシフト反応)を維持することができる。
【0024】
Znは、二酸化炭素還元触媒の触媒金属として含有され、Feと同様に、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。Znは、Fe及びCoを含むFe-Co-Zn複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。
【0025】
Znは、Fe及びCoと共に二酸化炭素還元触媒に含有されることで、これらの金属で構成されたスピネル型結晶構造(例えば、Zn(FeCo)2O4)を取り得る。これにより、例えば、Znを有しないFe3O4や(FeCo)3O4に比べ、Feの酸素原子との配位数が低減される。また、ZnはFeよりも酸化還元電位が低く酸化されやすい。従って、Feの酸化が抑制され、FT合成の酸化還元サイクルの進行が促進されて反応性が高まると考えられる。
【0026】
Znの含有量は、二酸化炭素還元触媒の触媒金属中において、金属原子換算で7.5~12.5質量%である。Znの含有量を7.5質量%以上とすることで、CH4等の低級炭化水素の生成が抑制され、生成される炭化水素の炭素鎖を成長させる効果が得られる。Znの含有量を12.5質量%以下とすることで、ZnがFeの反応サイトを被覆することによる活性の低下を抑制できる。
【0027】
Naは、触媒金属において助触媒として機能する。Naは、上記複合酸化物とは別に、酸化物等の形態で複合酸化物の表面上に存在することが好ましい。なお、触媒金属は、Naに代えて、又はNaと共に、Li、K、Rb、Cs等のアルカリ金属を含有していてもよい。
【0028】
Naの含有量は、二酸化炭素還元触媒の触媒金属中において、0.5~1.5質量%であることが好ましく、1.0質量%であることがより好ましい。Naの含有量を0.5質量%以上とすることで、鉄触媒の塩基性度を高めることができ、炭素数が8~16の炭化水素の生成効率を十分に向上させることができる。また、Naの含有量を1.5質量%以下とすることで、NaがFeの反応サイトを被覆することによる悪影響を避けることができ、副生成物となる一酸化炭素の生成を抑制でき、触媒活性の低下を防止することができる。
【0029】
《第2実施形態》
本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、触媒金属として、Fe(鉄)と、Co(コバルト)と、Al(アルミニウム)と、を必須として含む。また、更にNa(ナトリウム)を含むことが好ましい。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒を用いた二酸化炭素還元反応は、H2(水素)とCO2(二酸化炭素)の混合ガスを原料とし、CO2がCO(一酸化炭素)に還元される逆水性ガスシフト反応と、COが炭化水素へと転換されるFT合成反応と、を一段で行うことにより炭化水素を生成する反応である。本実施形態に係る二酸化炭素還元触媒は、上記逆水性ガスシフト反応と、FT合成反応との両方に寄与する。
【0030】
本実施形態に係る触媒金属のうち、Fe(鉄)、Co(コバルト)、及びNa(ナトリウム)の構成としては、第1実施形態と同様の構成(化合物の種類、態様、含有量等)を採用できる。
【0031】
Alは、Fe及びCoと共に二酸化炭素還元触媒に含有されることで、これらの金属で構成されたスピネル型結晶構造(例えば、Al(FeCo)2O4)を取り得る。これにより、例えば、Alを有しないFe3O4や(FeCo)3O4に比べ、Feの酸素原子との配位数が低減される。また、AlはFeよりも酸化還元電位が低く酸化されやすい。従って、Feの酸化が抑制され、FT合成の酸化還元サイクルの進行が促進されて反応性が高まると考えられる。
【0032】
Alの含有量は、二酸化炭素還元触媒の触媒金属中において、金属原子換算で8.5~11.5質量%である。Alの含有量を8.5質量%以上とすることで、CH4等の低級炭化水素の生成が抑制され、生成される炭化水素の炭素鎖を成長させる効果が得られる。Alの含有量を11.5質量%以下とすることで、AlがFeの反応サイトを被覆することによる活性の低下を抑制できる。
【0033】
(二酸化炭素還元触媒の製造方法)
二酸化炭素還元触媒の製造方法は、水熱合成工程と、含浸工程と、を有することが好ましい。
【0034】
(水熱合成工程)
水熱合成工程は、Feの硝酸塩と、Coの硝酸塩と、Zn又はAlの硝酸塩とを所定量尿素水溶液に溶解させた水溶液から、水熱合成法により触媒前駆体である沈殿物を抽出する工程である。水熱合成工程により、Fe-Co-Zn複合酸化物、又はFe-Co-Al複合酸化物が形成される。水熱合成工程において、Fe及びCo、並びにZn又はAlを含む上記水溶液に対し、オートクレーブを用いた水熱合成工程により、沈殿溶液を得ることが好ましい。その後、沈殿溶液からろ過・洗浄等によって沈殿物を分離し、乾燥させることで、触媒前駆体である沈殿物(Fe-Co-Zn複合酸化物、又はFe-Co-Al複合酸化物)が得られる。
【0035】
(含浸工程)
含浸工程は、水熱合成工程により得られた沈殿物にNaを含む水溶液を滴下して所定時間乾燥させ、得られた粉末を所定の温度で焼成する工程である。含浸工程により、上記複合酸化物の表面付近にNa化合物を偏在させることができる。Naを含む水溶液としては、例えば、NaNO3水溶液が挙げられる。NaNO3水溶液は、超音波加振の下、滴下することができる。これにより、上記複合酸化物の表面付近にNa化合物を均一に偏在させることができる。焼成温度は、例えば550℃、焼成時間は4時間とすることができる。
【0036】
<二酸化炭素還元触媒装置>
《第1実施形態》
図9に示すように、上記実施形態に係る二酸化炭素還元触媒C2は、上流側に、触媒金属として、Feと、Ga又はZrの少なくとも何れかと、を含む第2の触媒C1が配置されることが好ましい。二酸化炭素還元触媒C2と、第2の触媒C1とは、例えば、それぞれ触媒反応器30、20内に配置され、流路Lで接続され、二酸化炭素還元触媒装置1として用いられる。
【0037】
(第2の触媒)
第2の触媒C1は、触媒金属として、Fe(鉄)を必須として含み、Ga(ガリウム)又はZr(ジルコニウム)のうち少なくとも何れかを含む。また、更にNa(ナトリウム)を含むことが好ましい。本実施形態に係る第2の触媒C1を用いた二酸化炭素還元反応は、H2(水素)とCO2(二酸化炭素)の混合ガスを原料とし、CO2がCO(一酸化炭素)に還元される逆水性ガスシフト反応と、COが炭化水素へと転換されるFT合成反応と、を一段で行うことにより炭化水素を生成する反応である。本実施形態に係る触媒は、上記逆水性ガスシフト反応と、FT合成反応との両方に寄与する。
【0038】
第2の触媒C1の触媒金属に含有されるFeは、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。また、Feは、Fe及びGaを含むFe-Ga複合酸化物、並びにFe及びZrを含むFe-Zr複合酸化物のうち少なくとも何れかとして触媒金属に含有されることがより好ましい。Fe-Ga複合酸化物、及びFe-Zr複合酸化物のうち少なくとも何れかを含有する触媒金属を用いることで、FT合成反応においてFe粒子をよりカーバイド化させることができ、これにより触媒におけるCH2成長反応が促進され、炭素鎖の成長が促進される。
【0039】
第2の触媒C1の触媒金属中におけるFeの含有量は、金属原子換算で55~90質量%であることが好ましく、60~75質量%であることがより好ましい。
【0040】
第2の触媒C1の触媒金属に含有されるGaは、Feと同様に、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。Gaは、Fe及びGaを含むFe-Ga複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。
【0041】
第2の触媒C1の触媒金属中におけるGaの含有量は、金属原子換算で10~30質量%であることが好ましく、20~30質量%であることがより好ましい。Gaの含有量が10質量%未満である場合、触媒金属の微粒子化が十分ではない場合がある。Gaの含有量を30質量%以下とすることで、GaがFeの反応サイトを被覆することによる悪影響を避けることができ、触媒活性の低下を防止することができる。
【0042】
第2の触媒C1の触媒金属に含有されるZrは、Feと同様に、酸化物、炭酸化合物、硝酸化合物、硫酸化合物等の化合物であってもよく、酸化物であることが好ましい。これらの化合物は2種以上含有されてもよい。Zrは、Fe及びZrを含むFe-Zr複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。
【0043】
第2の触媒C1の触媒金属は、Ga及びZrの何れも含んでいてもよい。触媒金属にGa及びZrの何れも含まれる場合、これらの触媒金属は、Fe、Zr及びGaを含むFe-Ga-Zr複合酸化物として触媒金属に含有されることがより好ましい。Fe-Ga-Zr複合酸化物は、鉄酸化物等の化合物と比較して、微粒子化されるため、Fe触媒の反応サイトが増大することで、FT合成反応の反応時間、すなわち生成される炭化水素の炭素鎖が成長する時間を確保できる。
【0044】
第2の触媒C1の触媒金属のうち、Na(ナトリウム)の構成としては、上記実施形態に係る二酸化炭素還元触媒と同様の構成(化合物の種類、態様、含有量等)を採用できる。
【0045】
(触媒反応器)
上記実施形態に係る二酸化炭素還元触媒C2、及び第2の触媒C1が配置される触媒反応器20、30の構成としては、特に限定されず、公知の構成を適用することができる。例えば、所定の形状を有する流路に粉状、粒子状、又はペレット状の触媒や触媒を担持させた担体を充填した固定床流通式の反応装置が挙げられる。
【0046】
(水トラップ部)
次に、上記第1実施形態に係る二酸化炭素還元触媒装置1の変形例である、二酸化炭素還元触媒装置1aの構成について、
図10を用いて説明する。以下の説明において、第1実施形態と同様の構成については、図面に同一の符号を付して説明を省略する場合がある。二酸化炭素還元触媒装置1aは、
図10に示すように、触媒反応器20、30同士が接続される流路Lに、水トラップ部40が接続されることが好ましい。水トラップ部40は、二酸化炭素還元触媒に供給される流体から水を除去する。これによって、二酸化炭素還元触媒による触媒反応において、炭化水素の炭素数を増加させる方向に化学平衡をシフトさせることができる。従って、炭素数が8~16の炭化水素の収率を向上させることができる。
【0047】
《第2実施形態》
次に、本発明の第2実施形態に係る二酸化炭素還元触媒装置1bの構成について、
図11を用いて説明する。二酸化炭素還元触媒装置1bは、
図11に示すように、触媒反応器30の後段にアップグレーディング装置40が配置される。
【0048】
(アップグレーディング装置)
アップグレーディング装置40は、触媒反応器20、30における二酸化炭素還元反応により得られた炭化水素の分解軽油等の低品位留分をアップグレーディングする装置である。アップグレーディング装置40としては、接触分解装置(FCC)等の公知の重質油分解装置を用いることができる。
【0049】
(第2の触媒の製造方法)
本実施形態に係る第2の触媒の製造方法は、共沈工程と、含浸工程と、を有することが好ましい。
【0050】
(共沈工程)
共沈工程は、Feの硝酸塩と、Gaの硝酸塩及びZrの硝酸塩の少なくとも何れかと、を所定量蒸留水に溶解させた水溶液から、共沈法により触媒前駆体である沈殿物を抽出する工程である。共沈工程により、Fe-Ga複合酸化物、Fe-Zr複合酸化物、及びFe-Ga-Zr複合酸化物の少なくとも何れかが形成される。共沈工程において、FeとGa及びZrの少なくとも何れかと、を含む上記水溶液に対し、尿素水溶液を滴下することで、沈殿溶液を得ることが好ましい。その後、沈殿溶液からろ過・洗浄等によって沈殿物を分離し、乾燥させることで、触媒前駆体である沈殿物(Fe-Ga複合酸化物、Fe-Zr複合酸化物、Fe-Ga-Zr複合酸化物)が得られる。
【0051】
(含浸工程)
含浸工程は、上記二酸化炭素還元触媒の製造方法における含浸工程と同様の工程とすることができる。
【0052】
<ジェット燃料の製造方法>
上記二酸化炭素還元触媒を用いたジェット燃料の製造方法について以下に説明する。二酸化炭素還元方法は、上記二酸化炭素還元触媒により二酸化炭素を還元する二酸化炭素還元工程と、二酸化炭素還元工程により得られた炭化水素に対してアップグレーディング処理を行うアップグレーディング工程と、を有する。
【0053】
二酸化炭素還元工程は、例えば、上記触媒反応器20、30を用いて行われる。二酸化炭素還元工程は、例えば、上流側に配置される第2の触媒C1に対して二酸化炭素を含むガスを接触させる第2触媒反応工程と、上記第2触媒反応工程により生成した炭化水素を含むガスを、下流側に配置される二酸化炭素還元触媒C2に対して接触させて炭素数を増加させる二酸化炭素還元触媒反応工程と、を含む。第2触媒反応工程と二酸化炭素還元触媒反応工程との間に、水トラップ部40により上記第2触媒反応工程により生成した炭化水素を含むガスから水分を除去する工程を含んでいてもよい。
【0054】
二酸化炭素還元触媒反応工程における二酸化炭素還元触媒C2の触媒温度T2は、第2触媒反応工程における第2の触媒C1の触媒温度T1よりも低いことが好ましい。これにより、二酸化炭素還元触媒に含まれるCoの活性をコントロールすることができ、炭素数が8~16の炭化水素の収率をより向上させることができる。
【0055】
触媒温度T1は、例えば、340~400℃とすることが好ましく、触媒温度T2は、例えば、260~340℃とすることが好ましい。
【0056】
二酸化炭素還元工程は、上記以外に、上記二酸化炭素還元触媒のみを用いて炭化水素を生成する工程であってもよい。
【0057】
アップグレーディング工程は、二酸化炭素還元工程により得られた炭化水素の分解軽油等の低品位留分をアップグレーディングし、ジェット燃料を得る工程である。アップグレーディング処理は、接触分解装置(FCC)等の公知の重質油分解装置を用いて行うことができる。
【0058】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
【実施例0059】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
【0061】
[二酸化炭素還元触媒の作製]
二酸化炭素還元触媒C2の触媒金属としてのFeの硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)と、同じく触媒金属としてのCoの硝酸塩(Co(NO3)2・6H2O)と、同じく触媒金属としてのAlの硝酸塩(Al(NO3)3・9H2O)とを、金属原子換算でFe:Co:Alの質量比が67.5:22.5:10となるように秤量し、尿素水に溶解させた。次いで、上記水溶液を1時間撹拌した後、オートクレーブ容器に移し120℃、12時間水熱合成させることで、FeとCoとAlとを沈殿物として含む沈殿溶液を得た。次いで、沈殿溶液を室温下、24時間エージングさせた後、ろ過、洗浄を繰り返すことで沈殿物を分離した。分離した沈殿物を60℃で12時間乾燥させることで、Fe-Co-Al触媒前駆体を得た。
【0062】
上記Fe-Co-Al触媒前駆体に対し、NaNO3水溶液を92kHz超音波加振の下、Na含有量が1.0質量%となるように滴下した。次いで、5000Paの真空下で1時間乾燥させ、更に常圧下、60℃で12時間乾燥させ、粉末を得た。得られた粉末を550℃で4時間焼成することで、実施例1に係る二酸化炭素還元触媒C2を得た。触媒金属中のAlの含有量は10質量%であった。
【0063】
[第2の触媒の作製]
第2の触媒C1の触媒金属としてのFeの硝酸塩(Fe(NO3)3・9H2O)と、同じく触媒金属としてのZrの硝酸塩(ZrO(NO3)2・2H2O)と、同じく触媒金属としてのGaの硝酸塩(Ga(NO3)3・6H2O)とを、金属原子換算でFe:Zr:Gaの質量比が6:1:3となるように秤量し、蒸留水に溶解させた。次いで、上記水溶液を撹拌しながら、CH4N2O水溶液を2ml/min滴下し、pH8.5に固定することで、FeとZrとGaとを沈殿物として含む沈殿溶液を得た。次いで、沈殿溶液を室温下、24時間エージングさせた後、ろ過、洗浄を繰り返すことで沈殿物を分離した。分離した沈殿物を60℃で12時間乾燥させることで、Fe-Ga-Zr触媒前駆体を得た。
【0064】
上記Fe-Ga-Zr触媒前駆体に対し、NaNO3水溶液を92kHz超音波加振の下、Na含有量が1.0質量%となるように滴下した。次いで、5000Paの真空下で1時間乾燥させ、更に常圧下、60℃で12時間乾燥させ、粉末を得た。得られた粉末を550℃で4時間焼成することで、実施例1に係る第2の触媒C1を得た。
【0065】
[二酸化炭素還元触媒装置の作製]
上記により得られた二酸化炭素還元触媒C2及び第2の触媒C1を用いて、二酸化炭素還元触媒装置1aを作製した。触媒反応器20、30は固定床流通式の反応装置を使用し、二酸化炭素還元触媒C2は0.4~0.8mm角のペレット状としたものを0.25g用いた。上記ペレットを、反応管(内径6mm)に5cmの長さで充填して用いた。第2の触媒も同様の形状、重量、及び充填量とした。また、触媒反応器20、30同士を接続する流路Lに水トラップ部40を設けた。反応温度は、第2の触媒の触媒温度T1を380℃、二酸化炭素還元触媒の触媒温度T2を300℃とした。
【0066】
<実施例2>
二酸化炭素還元触媒C2において、触媒金属としてのAlの硝酸塩に代えて、触媒金属としてのZnの硝酸塩(Zn(NO3)2・6H2O)を用いたこと以外は実施例1と同様とした。
【0067】
<比較例1>
二酸化炭素還元触媒C2において、触媒金属としてのAlの硝酸塩を用いなかったこと以外は実施例1と同様とした。
【0068】
<比較例2~4>
二酸化炭素還元触媒C2において、触媒金属としてのAlの含有量がそれぞれ5質量%(比較例2)、15質量%(比較例3)、20質量%(比較例4)となるようにAlの硝酸塩の量を調整したこと以外は実施例1と同様とした。なお、Alの含有量の増減に伴い、FeとCoの含有量を金属原子換算でFe:Co=3:1の割合で増減させた。
【0069】
<比較例5~7>
二酸化炭素還元触媒C2において、触媒金属としてのZnの含有量がそれぞれ5質量%(比較例5)、15質量%(比較例6)、20質量%(比較例7)となるようにZnの硝酸塩の量を調整したこと以外は実施例2と同様とした。なお、Znの含有量の増減に伴い、FeとCoの含有量を金属原子換算でFe:Co=3:1の割合で増減させた。
【0070】
[評価]
上記各実施例及び比較例の二酸化炭素還元触媒装置を用い、以下の方法で二酸化炭素還元反応を行った。反応ガスはCO2 0.28NL/h、H2 0.84NL/h(CO2/H2=1/3)とした。W/F(触媒重量/ガス流量)は5.0g・h/mol、空間速度SV(Space Velocity)=5,000h-1とした。圧力3MPa、反応時間4時間とした。触媒反応後のガス成分を、オンラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AT、検出器:熱伝導度検出器(TCD))及び水素炎イオン化検出器(FID)(Shimadzu,GC-2014AF)により定性・定量分析した。また触媒反応後の液体成分もオフラインでのガスクロマトグラフィー(Shimadzu,GC-2014AF、検出器:水素炎イオン化検出器(FID))により定性・定量分析した。
【0071】
(CO
2変換率)
上記二酸化炭素還元反応によるCO
2の変換率を、以下の式(1)により求めた。結果を
図1、及び
図5に示す。
CO
2変換率(%)=((反応前のCO
2濃度)-(反応後のCO
2濃度))/(反応前のCO
2濃度)×100 …(1)
【0072】
(C
8-16選択率)
上記二酸化炭素還元反応により生成された炭素数が8~16の炭化水素(C
8-16)の選択率を、以下の式(2)により求めた。結果を
図2、及び
図6に示す。また、以下の式(2)と同様の方法で、各炭素数を有する炭化水素の選択率を求めた。結果を
図4A~
図4D、及び
図8A~
図8Cに示す。
C
8-16選択率(%)=(C
8-16含有成分濃度)/((反応前のCO
2濃度)-(反応後のCO
2濃度))×100 …(2)
【0073】
図4Aは、比較例1に係る二酸化炭素還元触媒装置により生成された炭化水素の炭素数と各炭素数の炭化水素の選択率を示すグラフである。同様に、
図4Bが比較例2に対応し、
図4Cが実施例1に対応し、
図4Dが比較例2に対応するグラフである。
図4Aと
図4Bとを比較すると、Alの含有量を0質量%から5質量%とすることで、炭素数1の炭化水素が炭素数2以上の炭化水素に成長している一方で、炭素数が8~16の炭化水素の選択率は大きく変化していない。
図4Cにおいて、Alの含有量を10質量%とすると、炭素数が8~16の炭化水素の選択率が高まっている。
図4Dにおいて、Alの含有量を15質量%とすると、炭素数1の炭化水素の選択率が高まり、炭素数が8~16の炭化水素の選択率が低下している。
【0074】
上記と同様に、
図8Aが比較例5に対応し、
図8Bが実施例2に対応し、
図8Cが比較例6に対応するグラフである。
図4Aと
図8Aとを比較すると、Znの含有量を0質量%から5質量%とすることで、炭素数1の炭化水素が炭素数2以上の炭化水素に成長している一方で、炭素数が8~16の炭化水素の選択率は大きく変化していない。
図8Bにおいて、Znの含有量を10質量%とすると、炭素数が8~16の炭化水素の選択率が高まっている。
図8Cにおいて、Znの含有量を15質量%とすると、炭素数1の炭化水素の選択率が高まり、炭素数が8~16の炭化水素の選択率が低下している。
【0075】
(C
8-16生成率(収率))
上記二酸化炭素還元反応により生成された炭素数が8~16の炭化水素(C
8-16)の生成率を、以下の式(3)により求めた。結果を
図3、及び
図7に示す。
C
8-16生成率(%)=CO
2変換率×C
8-16選択率/100 …(3)
【0076】
図3において、Al含有量5,10,15,20質量%のC
8-16生成率について最小二乗近似を行った。得られた近似式を以下の式(4)に示す。
(C
8-16生成率(%))=0.0179x
3-0.8129x
2+10.817x-22.246 …(4)
【0077】
上記式(4)において、xはAl含有量(質量%)を意味する。上記式(4)より、Al含有量が0質量%の比較例1のC8-16生成率(%)を上回るC8-16生成率(%)が得られる触媒金属中のAl含有量は、8.5~11.5質量%と算出された。
【0078】
図7において、Zn含有量5,10,15質量%のC
8-16生成率について最小二乗近似を行った。得られた近似式を以下の式(5)に示す。
(C
8-16生成率(%))=-0.2503x
2+5.0524x-1.8381
…(5)
【0079】
上記式(5)において、xはZn含有量(質量%)を意味する。上記式(5)より、Zn含有量が0質量%の比較例1のC8-16生成率(%)を上回るC8-16生成率(%)が得られる触媒金属中のZn含有量は、7.5~12.5質量%であることが算出された。
【0080】
図3、及び
図7に示すように、各実施例に係る二酸化炭素還元触媒装置は、各比較例に係る二酸化炭素還元触媒装置と比較してC
8-16生成率(収率)が高い結果が明らかである。また、
図3、及び
図7において、それぞれ、Alの含有量を8.5~11.5質量%とし、Znの含有量を7.5~12.5質量%とすることで、高いC
8-16生成率(収率)が得られることが明らかである。