(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014028
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】ハンドル
(51)【国際特許分類】
B62D 1/04 20060101AFI20240125BHJP
【FI】
B62D1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116565
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076473
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】森田 文平
(72)【発明者】
【氏名】水戸 雅人
(72)【発明者】
【氏名】岡下 隆一
(72)【発明者】
【氏名】船津 基也
【テーマコード(参考)】
3D030
【Fターム(参考)】
3D030DB13
(57)【要約】
【課題】運転席への乗降時に操舵部を把持する際、安定して把持することができるハンドルを提供すること。
【解決手段】操舵中心軸Cを設けたボス部3から離れた外縁側に、操舵中心軸回りに回転操舵可能な把持部29(L,R)を設けた操舵部20が配設され、把持部のボス部側に、押下操作と引上操作とにより、車両のアクセル操作とブレーキ操作とを行ない可能な操作部62(L,R)が配設されるハンドル1である。操舵部は、左右の把持部29(L,R)を、略前後方向に沿って延びる略棒状として、配設させるとともに、ボス部の後方側で、左右方向に沿う略直線状として、左右の把持部の後端29d側相互を連結する横杆部40を、配設させる。横杆部は、少なくとも左右方向の中央付近に、外周側にスペースを設けて、運転者の手DHで握り可能なグリップ部42、を配設させている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵中心軸を設けたボス部から離れた外縁側に、運転者が把持して前記操舵中心軸回りに回転操舵可能な把持部を設けた操舵部が配設されるとともに、前記把持部の前記ボス部側に、車両のアクセル操作とブレーキ操作とを行ない可能な操作部が配設され、前記操作部が、上面側を押下する押下操作と、下面側を引き上げる引上操作と、を行ない可能とするとともに、押下操作と引上操作との一方を、前記アクセル操作とし、押下操作と引上操作との他方を、前記ブレーキ操作とするように、構成されたハンドルであって、
前記操舵部が、前記ボス部の左右に、それぞれ、左右に設けた前記操作部を介在させて、前記把持部を、略前後方向に沿って延びる略棒状として、配設させるとともに、前記ボス部の後方側で、左右方向に沿う略直線状として、左右の前記把持部の後端側相互を連結する横杆部を、配設させる構成として、
前記横杆部が、少なくとも左右方向の中央付近に、外周側にスペースを設けて、運転者の手で握り可能なグリップ部、を配設させていることを特徴とするハンドル。
【請求項2】
前記操舵部が、左右の前記把持部の前端側に、前記ボス部に延びて、前記把持部の前端付近とともに把持可能な屈曲部を配設させ、
該屈曲部における前記把持部近傍に、上面側から前面側にかけて凹む凹溝が配設されていることを特徴とする請求項1に記載のハンドル。
【請求項3】
前記横杆部が、
車両搭載状態の鉛直方向の上方から見て、
前縁側を左右方向に延びる略直線状とし、
左右方向の中央の後縁側に、前方に凹む凹部を設けるとともに、
該凹部の左右両側に、前記凹部近傍を幅広として、左右の前記把持部の後端側に接近するにしたがって、前後方向の幅寸法を狭めた形状として、
上面に、運転者の左右の手の掌をそれぞれ載せて、把持可能なハンドレスト部、を配設させて構成されていることを特徴とする請求項1若しくは請求項2に記載のハンドル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者が把持部を把持して操舵できるハンドルに関し、特に、下肢の不自由な運転者に好適なハンドルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のハンドルでは、操舵中心軸を設けたボス部から離れた外縁側に、運転者が把持して操舵中心軸回りに回転操舵可能な把持部を設けた操舵部が配設されるとともに、把持部のボス部側に、車両のアクセル操作とブレーキ操作とを行ない可能な操作部が配設されるものがあった(例えば、特許文献1)。このハンドルでは、操作部が、上面側を押下する押下操作と、下面側を引き上げる引上操作と、を行ない可能とするとともに、押下操作と引上操作との一方である押下操作を、アクセル操作とし、押下操作と引上操作との他方の引上操作を、ブレーキ操作とするように、構成されていた。このハンドルでは、左右の把持部のボス部側に、アクセル操作とブレーキ操作とを行ない可能に、車両の加減速を行う操作部が、配設されており、車両の左右方向の操舵とともに、車両の速度も調整できて、下肢の不自由な運転者にも好適に操舵できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のハンドルでは、操舵部が円環状としており、さらに、操舵部の後端側に、ボス部と操舵部とを連結する部材(スポーク部)が配設されている。そのため、下肢の不自由な運転者が、運転席に乗り降りする際、例えば、運転席に着座する際、運転者は、操舵部を把持しつつ、車椅子から、上半身側を下肢側とともに持ち上げて、上半身側を運転席の縁に乗り上げさせ、下肢側を車内に入れ、さらに、上半身側を座面上をずれ移動させつつ、位置調整して、着座することとなるが、従来のハンドルのように、操舵部が円環状としていれば、把持する際の握力を掛け難く、円滑に、着座姿勢を確保できない。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、運転席への乗降時に操舵部を把持する際、安定して把持することができるハンドルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るハンドルは、操舵中心軸を設けたボス部から離れた外縁側に、運転者が把持して前記操舵中心軸回りに回転操舵可能な把持部を設けた操舵部が配設されるとともに、前記把持部の前記ボス部側に、車両のアクセル操作とブレーキ操作とを行ない可能な操作部が配設され、前記操作部が、上面側を押下する押下操作と、下面側を引き上げる引上操作と、を行ない可能とするとともに、押下操作と引上操作との一方を、前記アクセル操作とし、押下操作と引上操作との他方を、前記ブレーキ操作とするように、構成されたハンドルであって、
前記操舵部が、前記ボス部の左右に、それぞれ、左右に設けた前記操作部を介在させて、前記把持部を、略前後方向に沿って延びる略棒状として、配設させるとともに、前記ボス部の後方側で、左右方向に沿う略直線状として、左右の前記把持部の後端側相互を連結する横杆部を、配設させる構成として、
前記横杆部が、少なくとも左右方向の中央付近に、外周側にスペースを設けて、運転者の手で握り可能なグリップ部、を配設させていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係るハンドルでは、運転席に乗降する際、運転者は、操舵部の横杆部に配設されたグリップ部を把持しつつ、上半身を持ち上げて、運転席の縁に乗り上げ、さらに、座面上をずれ移動しつつ、位置調整して、着座する。その際、運転者の把持するグリップ部は、操舵部の後方側で、左右方向に略直線状に延びる横杆部の左右方向の中央付近で、かつ、周囲にスペースを空けて、配設されており、周囲の部材に干渉されること無く、円滑に、把持でき、かつ、曲がっていない直線状であることから、力を入れて把持できるため、運転者は、グリップ部を把持して、円滑に、運転席への乗降を行なえる。勿論、車両の操舵時には、横杆部の左右両端付近から前方に略棒状に延びる左右の把持部を把持して、容易に、操舵でき、さらに、把持部のボス部側に配設された操作部の押下操作や引上操作を行えば、車両の加減速も円滑に行なえて、車両を円滑に走行させることができる。
【0008】
したがって、本発明に係るハンドルでは、運転席への乗降時に操舵部を把持する際、安定して把持することができる。
【0009】
そして、本発明に係るハンドルでは、前記操舵部は、左右の前記把持部の前端側に、前記ボス部に延びて、前記把持部の前端付近とともに把持可能な屈曲部を配設させ、
該屈曲部における前記把持部近傍に、上面側から前面側にかけて凹む凹溝が配設されていることが望ましい。
【0010】
このような構成では、車両の走行時、運転者が左右の把持部を把持する際、掌の母指球付近を、操作部の上面側の押下操作面に当てつつ、親指側を、押下操作する押下操作面から前方へ外して、凹溝に収納できる。すなわち、押下操作し続けていた親指を、凹溝に収納して、休ませることができる。
【0011】
さらに、本発明に係るハンドルでは、前記横杆部が、
車両搭載状態の鉛直方向の上方から見て、
前縁側を左右方向に延びる略直線状とし、
左右方向の中央の後縁側に、前方に凹む凹部を設けるとともに、
該凹部の左右両側に、前記凹部近傍を幅広として、左右の前記把持部の後端側に接近するにしたがって、前後方向の幅寸法を狭めた形状として、
上面に、運転者の左右の手の掌をそれぞれ載せて、把持可能なハンドレスト部、を配設させて構成されていることが望ましい。
【0012】
このような構成では、運転者は、左右の親指を横杆部の凹部内に収納し、横杆部の左右のハンドレスト部の上面側に、左右の掌を載せつつ、親指と他の四指とで、ハンドレスト部の前後を挟むように把持することができる。このように把持できれば、運転者は、ハンドレスト部を把持した状態で、上半身を左右に捩じる等の動作を行なえて、左右の前後方向に延びた把持部を把持し続けていた運転者の緊張状態を、円滑に、ほぐすことに寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る一実施形態のハンドルにおける操舵中心軸に沿った上方から見た正面図である。
【
図5】実施形態のハンドルの斜視図であり、車両搭載状態の斜視図である。
【
図6】実施形態のハンドルの車両搭載状態の鉛直方向上方から横杆部を見た図である。
【
図7】実施形態のハンドルの下方から見た概略斜視図である。
【
図8】実施形態のハンドルの概略縦断面図であり、
図1のVIII-VIII部位付近に対応する。
【
図9】実施形態のハンドルの左右の操作部を示す概略斜視図である。
【
図10】実施形態のハンドルの左右の操作部の運動伝達機構を説明する概略斜視図である。
【
図11】実施形態のハンドルの右方側の操作部と把持部とを説明する概略断面図である。
【
図12】実施形態のハンドルの操作部を押下操作する状態を説明する概略断面図である。
【
図13】実施形態のハンドルの操作部を引上操作する状態を説明する概略断面図である。
【
図14】実施形態のハンドルのハンドレスト部を把持する状態を説明する概略図である。
【
図15】実施形態のハンドルの把持部の前端側を把持する状態を説明する儀略説明図である。
【
図16】実施形態のハンドルのハンドレスト部の概略断面図であり、
図14のA-A,B-B,C-C,及び、D-Dの部位に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態のハンドル1は、
図1~8に示すように、操舵中心軸Cを設けたボス部3から離れた外縁側に、運転者が把持する把持部29(L,R)を配置させた操舵部20を備えて構成されている。ボス部3は、図示しないステアリングシャフトを鋼製のボス4に締結させて、図示しないステアリングシャフトにより、ボス4の中心に、操舵中心軸Cを配設する構成としている。
【0015】
なお、実施形態のハンドル1での上下方向は、特に断らない限り、操舵中心軸Cに沿った上下方向であり、前後方向は、操舵中心軸Cの直交方向とした車両の前後方向であり、左右方向は、操舵中心軸Cの直交方向とした車両の左右方向を指すものである。
【0016】
操舵部20は、上方から見て略四角環状として、左右の略前後方向に沿って延びる略棒状(詳しくは、前後29c,29dをボス部3側に接近させるように、若干、湾曲させた棒状)の部位を、運転者が把持する把持部29(L,R)としている。操舵部20は、既述の左右の把持部29(L,R)と、把持部29(L,R)の前端29c相互を連結する前連結部24と、把持部29(L,R)の後端29d相互を連結する横杆部40と、を備えて構成されている。
【0017】
操舵部20は、金属製の芯材21(
図2,8参照)と、その周囲を被覆する合成樹脂製の被覆部22と、を備えて構成されている。芯材21は、操舵部20の全域に埋設されるように配設される帯状としている。なお、パッド12は、図示しないエアバッグ装置の上方に配設されるエアバッグカバーとして、ボス部3の前縁側に取り付けられて、配設されている。
【0018】
芯材21には、
図7,8に示すように、ボス部3のボス4を取り付けたボスプレート5の後縁側の左右から上方に延びる金属製の後支持杆7(L,R)と、ボスプレート5の上面側に連結された左右の縦支持板8(L,R)を連結させるように配設される前支持板10と、が連結されて、操舵部20がボス部3に連結支持されている。後支持杆7(L,R)には、芯材22を被覆する被覆部22が延設されており、被覆部22に覆われた後支持杆7(L,R)は、連結杆部16(L,R)を形成している(
図2参照)。
【0019】
ボス部3の下面側には、ボス部3を下方から覆う合成樹脂からなるロアカバー14が、ボスプレート5に保持されて配設されている(
図8参照)。
【0020】
左右の把持部29(L,R)のボス部3側には、
図8,9,11~13に示すように、車両のアクセル操作とブレーキ操作とを行ない可能な操作部62(L,R)が配設されている。操作部62(L,R)は、上面側を押下する押下操作と、下面側を引き上げる引上操作と、を行ない可能とするとともに、押下操作と引上操作との一方、実施形態の場合、押下操作を、アクセル操作とし、押下操作と引上操作との他方の引上操作を、ブレーキ操作とするように、構成されている。すなわち、操作部62(L,R)は、車両の加減速操作機構60を構成するものであり、加減速操作機構60は、操作部62(L,R)の押下操作や引上操作のストロークを、センサ95(
図7,8参照)によりセンシングして、車両の図示しない制御装置が、そのセンシングの値に応じて、車両の加速装置や減速装置を作動させることとなる。
【0021】
加減速操作機構60を簡単に説明すると、加減速操作機構60は、
図7~10に示すように、左右の操作部62(L,R)をそれぞれ設けて揺動軸78を回動中心として上下に揺動可能な左右の保持レバー72(L,R)と、左右の保持レバー72の上下の揺動運動を同期させる同期機構83と、を備えて構成されている。
【0022】
左右の保持レバー72は、それぞれ、揺動軸78に連結固定される軸支部89(L,R)を中心として、ボス部3から離れる外方側に延びる支持側部73と、下方に延びる機構側部74と、を備えて構成され、支持側部73の先端に、操作部62(L,R)が配設されている。
【0023】
操作部62(L,R)は、相互に左右対称形として、上方から見て、左右の把持部29(L,R)のボス部3側で、把持部29(L,R)とエアバッグカバー12との間の隙間を埋めるように、配設されている。具体的には、操作部62(L,R)は、上方から見て、前後の端部62a,62bより、前後方向の中間部62cをボス部3側から離れるように、「く」の字状に屈曲させた帯状の平面形状としている。そして、操作部62は、上部側を、押下操作する際に運転者の手DH(
図17参照)における親指FPや母指球DPM付近からなる親指エリアHU側を当てて、押下操作する押下操作部63とし、下部側を、親指FP以外の四指(人差し指F1、中指F2、薬指F3、及び、小指F4)FCの指先のエリア(指先エリア)HDを当てて、引上操作する引上操作部68としている(
図12,13参照)。
【0024】
押下操作部63は、上面を、把持部29(L,R)の上面29aより上方に突出させて、親指エリアHUを当てて押下操作する押下操作面64としている。押下操作面64は、上面側を、操舵中心軸Cと直交する天井面64aと、天井面64aにおける近傍の把持部29(L,R)側に向かって下がる傾斜面64bと、を備えて構成されている。
【0025】
引上操作部68は、下面側を、把持部29(L,R)の下面29bより下方に突出させて、指先エリアHDを当てて引上操作する引上操作面69としている。引上操作部68は、具体的には、操作部62の下端側のボス部3側に、凹部62dを設けた外縁側の板状部位62eに配設されて(
図11参照)、その板状部位62eの下方に、近傍の把持部29(L,R)に接近するように湾曲した下端62f付近から構成されており、そして、下端62fの下端面69aと、下端62fの下端面69aから内周側に延びた下縁側面69bと、を指先エリアHDを引掛けて引き上げる引上操作面69としている。
【0026】
保持レバー72(L,R)の軸支部75(L,R)には、
図8に示すように、操舵中心軸C側に突出する先細り状のストッパ部76が、配設されている。軸支部75(L,R)には、軸受部79に回動可能に支持される揺動軸78が固定されている。そして、軸受部79の操舵中心軸C側には、ストッパ部76に当接させて、操作部62(L,R)の押上操作時と引上操作時とのストロークを位置規制する上側規制部80と下側規制部81とが配設されている。
【0027】
左右の軸受部79は、それぞれ、ボスプレート5から上方に延びる左右の縦支持板8(L,R)の上端側に固定されている。そして、実施形態の場合、右方側の軸受部79には、揺動軸78の回動角度をセンシングして、押下操作と引上操作との各ストロークを検知可能な既述のセンサ95が配設されている。
【0028】
保持レバー72(L,R)の軸支部75から下方に延びる機構側部74の下端には、後方側に突出する張出し軸部88(L,R)が配設されている(
図7,8,10参照)。
【0029】
同期機構83は、中央リンク84と、左右の張出し軸部88(L,R)に連結されるリンク86(L,R)と、戻りばね機構90と、を備えて構成されている(
図8,10参照)。
【0030】
中央リンク84は、ボスプレート5に固定された左右の縦支持板8(L,R)の前面側に固定されて、操舵部20の芯材21に連結される前支持板10に、支持軸85を利用して、上下端を左右に揺動可能に軸支されている。すなわち、中央リンク84は、前支持板10に連結固定された支持軸85に、中央軸支部84aを回動可能に軸支させて、上下の先端軸支部84b,84c側を、左右に揺動可能としている。
【0031】
リンク86(L,R)は、内側端を、中央リンク84の上下の先端軸支部84b,84cに対し、回り対偶として、連結されている。右方のリンク86Rは、上方側の先端軸支部84bと右方側の張出し軸部88Rとに軸支され、左方のリンク86Lは、下方側の先端軸支部84cと左方側の張出し軸部88Lとに軸支されている。
【0032】
そのため、中央リンク84とリンク86(L,R)との挙動は、例えば、右方側の操作部62Rを押下操作すると、保持レバー72Rが、
図8に示す揺動軸78を揺動中心として、時計回り方向に回転し、機構側部74を操舵中心軸C側に接近させる。すると、機構側部74に連結されている張出し軸部88Rも操舵中心軸C側に移動して、張出し軸部88Rと連結されているリンク86Rが、中央リンク84を、支持軸85を回転中心として、反時計回り方向に回転させる。この回転は、左側のリンク86Lを操舵中心軸C側に引き込むこととなり、リンク86Lと連結されている張出し軸部88Lを介在させて、左方側の保持レバー72Lの機構側部74を操舵中心軸C側に引き、保持レバー72Lを、揺動軸78を回転中心として、反時計回り方向に回転させ、左方の操作部62Lを押下操作したと同様に、同期させることができる。
【0033】
同様に、右側の操作部62Rを引上操作しても、保持レバー72Rが、
図8に示す揺動軸78を揺動中心として、反時計回り方向に回転し、機構側部74を操舵中心軸C側から離隔させる。すると、機構側部74に連結されている張出し軸部88Rも操舵中心軸C側から離隔し、張出し軸部88Rと連結されているリンク86Rが、中央リンク84を、支持軸85を回転中心として、時計回り方向に回転させる。この回転は、左側のリンク86Lを操舵中心軸Cから離れるように押すこととなり、リンク86Lと連結されている張出し軸部88Lを介在させて、左方側の保持レバー72Lの機構側部74を操舵中心軸Cから離れるように押し、保持レバー72Lを、揺動軸78を回転中心として、時計回り方向に回転させ、左方の操作部62Lを引上操作したと同様に、同期させることができる。
【0034】
勿論、左方側の操作部62L自体を押下操作したり、あるいは、引上操作しても、同様に、右方の操作部62Rを同期させることができる。
【0035】
そして、戻りばね機構90は、中央リンク84の中央軸支部84aの前面側に固定されて、支持軸85周りで、中央リンク84とともに回動可能なカム92と、支持軸85の先端(前端)に取付固定される付勢部91と、を備えて構成されている。付勢部91は、カム92の前面側のカム面92aに当接するカムフォロアとしての突起91aを備えて、支持軸85の先端側に設けられた圧縮コイルばねにより、カム92側に押圧されている。カム面92aは、操作部62L,62Rの押下操作や引上操作を行わない待機位置を、中立点として、突起91aの押圧力が少ない位置となるように凹んだ部位を備え、操作部62L,62Rが押下若しくは引上操作されて中央リンク34と共にカム92が回転した際、突起91aの押圧力を強く受けるように、突起91a側に接近するような傾斜面を有して、構成されている。そのため、操作部62L,62Rを操作した後、操作部62L,62Rから手を離せば、ばねの付勢力を受けて支持軸85の軸方向に沿って押圧している突起91aがカム面92aの最も凹んだ位置に、カム92を回転させ、すなわち、中央リンク84を操作前の待機位置に復帰させ、同時に、操作部62(L,R)も待機位置に復帰することとなる。なお、付勢部91自体は、前支持板10に取付固定された支持軸85に取付固定されており、操作部62(L,R)の操作により中央リンク34に取り付けられたカム92が回転しても、回転しない。また、付勢部91の突起91aとカム92のカム面92aとは、支持軸85を中心とした点対称の二箇所に、相互に対応して、配設されている。
【0036】
そして、ハンドル1の操舵部20における左右の把持部29(L,R)は、
図1,8,11~13に示すように、操舵中心軸Cを中心として左右対称的に配設されている。把持部29(L,R)は、断面形状を略円形として、前後方向に延びるように配設されているものの、通常のハンドルより太く構成されており、さらに、左右の操作部62(L,R)の側方に、操作部62の操作時に干渉しない隙間HS(実施形態では約5mm)を設けて、配置されている。すなわち、実施形態の把持部29L,29Rは、外周面30の全周を握るように把持するように構成されていない。
【0037】
図1の非押下操作時の状態や
図12のAに示すように、把持部29を把持する際の把持状態では、運転者は、掌DP側における手DH(
図17参照)の親指エリア(親指FPから母指球DPM付近までのエリア)HU側を把持部29の上面29a側に当て、掌DPを、把持部29の外縁側の外周面35に当てて、親指FPを除く四指FCの指先付近の指先エリアHD側を把持部29の下面29b側に当てる状態となる。そして、押下操作部63を押下操作する際には、
図12のA,Bに、あるいは、
図1の押下操作時の状態に示すように、親指エリアHU側をボス部3側に伸ばす等して、押下操作面64を押下し、引上操作部68を引上操作する際には、
図13のA,Bに示すように、中指F2や薬指F3等の指先エリアHD側をボス部3側に伸ばして、引上操作面69を引き上げるように操作する。
【0038】
さらに、実施形態の把持部29では、外周面30の内縁30a側の下面29b側には、指先エリアHDを収納可能な凹部33、が配設されている。
【0039】
また、把持部29は、断面形状として、内縁30a側に、操作部62(L,R)に接近し、かつ、操作部62(L,R)の上下動と干渉しないように、上下方向に略平面状に延びる平面部31を配設させ、平面部31の下縁31b側から凹部33に連なり、凹部33の外縁33a側から平面部31の上縁31a側に連なる外周面の部位の外縁側外周面35を、略円弧状としている(
図11参照)。さらに、外縁側外周面35における外縁30b側の上面側(上縁側曲面部)37の曲率を、外縁側外周面35における外縁30b側の下面側(下縁側曲面部)36の曲率より、小さくしている。上縁側曲面部37の曲率半径ruは、約25mmとし、下縁側曲面部36の曲率半径rdは、約15mmとしている。
【0040】
実施形態の場合、把持部29は、上下方向の高さ寸法HTを、40~50mm程度の範囲内の約43mm、幅寸法DBを、30~45mm程度の範囲内の39mmとしている。
【0041】
さらに、実施形態の把持部29は、把持部29の外縁30b側の外周面35を間にして、操作部62の押下操作面64の外縁65側から引上操作面69の外縁70側までの上下方向の長さ寸法、すなわち、操作面間距離LGを、操作部62の押下操作時に、指先エリアHDが引上操作面69から把持部29側に離脱し、かつ、操作部62の引上操作時、親指エリアHUが押下操作面64から把持部29側に離脱する長さ寸法として、配設されている。なお、押下操作面64の外縁65の位置は、親指エリアHUによって押下操作できるか否かの操作不能側の境界地点であり、引上操作面69の外縁70の位置は、指先エリアHDによって引上操作できるか否かの操作不能側の境界地点としている。
【0042】
実施形態の場合、具体的には、操作面間距離LGは、140~200mmの範囲内の約150mmとして、配設されている。
【0043】
すなわち、既述したように、ハンドル1の操作時に把持部29を把持する際、運転者は、掌DP側における手DHの親指エリアHU側を把持部29の上面29a側に当て、掌DPを、把持部29の外縁側の外周面35に当てて、親指FPを除く四指FC側の指先エリアHD側を把持部29の下面29b側に当てる状態となる。そして、押下操作部63を押下操作する際には、親指エリアHU側をボス部3側に伸ばす等して、押下操作面64を押下し、引上操作部68を引上操作する際には、中指F2や薬指F3等の指先エリアHD側をボス部3側に伸ばして、引上操作面69を引き上げることとなる。その際、運転者の把持部29の把持状態における親指エリアHUから指先エリアHDまでの実質的な押下操作面64と引上操作面69とを操作できる長さ寸法は、
図17に示すように、平らにした手DHの母指球DPM付近から中指F2の指先までの手の長さ寸法(平均的な大人の数値では約160mm)L2より、把持部29を把持するように掌DPを丸めた分(約30mm分)、短くなる。そのため、160から30mm引いた130mm(160-30=130)の値に、誤操作しない余裕分の約10mmを設けて、下限を約140mm(130+10=140)として、それ以上であれば、短すぎずに、誤操作を防止可能となる。また、上限としては、平らにした手DHの手根DPB付近から中指F2の指先までの手の長さ寸法(平均的な大人の数値では約200mm)L1を越えるように長くしても、把持部29の太さが大きくなったり、操舵中心軸Cからの把持部29と操作部62とを含めた幅寸法が大きくなって、ハンドル1の大型化を招くだけであって、好ましくない。
【0044】
そのため、上記の操作面間距離LGは、140~200mmの範囲内、好ましくは、145~180mmの範囲内、さらに望ましくは、150~160mmの範囲内がよい。
【0045】
また、実施形態の操舵部20では、
図1に示すように、前連結部24の左右の把持部29(L,R)側、すなわち、左右の把持部29(L,R)の前端29c側に、ボス部3側に延びて、把持部29の前端29c付近とともに把持可能な屈曲部26(L,R)が配設されている。屈曲部26(L,R)における把持部29の近傍には、上面26a側から前面26b側にかけて凹む凹溝27が配設されている。凹溝27は、操作部62(L,R)の押下操作面64付近に、母指球DPMを載せた状態とした運転者の手DHの親指FPの指先付近を収納可能としており、幅寸法WFを20mm程度としている。
【0046】
さらに、実施形態の操舵部20では、ボス部3の後方側で、左右の把持部29(L,R)の後端29d側相互を連結する横杆部40を、左右方向に沿う略直線状として配設させている。そして、横杆部40は、少なくとも左右方向の中央付近に、外周側にスペースを設けて、運転者の手DHで握り可能なグリップ部42を配設させている(
図5参照)。グリップ部42は、横杆部40の中央部40cに配設されるとともに、ボス部3側の後方にスペースを空け、さらに、左右の連結杆部16(L,R)間にも、十分に、手DHで握れるスペースを十分に空けて、配設されている。
【0047】
さらに、この横杆部40では、車両搭載状態の鉛直方向の上方から見て、
図6,14に示すように、前縁40a側を左右方向に延びる略直線状として、左右方向の中央の後縁40b側に、前方に凹む凹部45を設けている。凹部45は、その底面45a側に掛けて左右の側面45b間を徐々に狭めるように凹んで形成されている。さらに、凹部45の左右両側に、凹部45近傍を前後方向に幅広として、左右の把持部29(L,R)の後端29d側に接近するにしたがって、前後方向の幅寸法を狭めた形状として、上面46aに、運転者の左右の手DHの掌DPをそれぞれ載せて、把持可能なハンドレスト部46(L,R)、を配設させている。ハンドレスト部46(L,R)の把持部29(L,R)の近傍側には、把持部29(L,R)の外形寸法に対応させるように、後縁40b側を切り欠くように、切欠き凹部49が配設されている。
【0048】
左右のハンドレスト部46は、断面を略三角柱状として、上面46a側は、ハンドル1の車両搭載時、略水平方向に沿うように、構成されている(
図16参照)。
【0049】
なお、実施形態の場合、横杆部40のハンドレスト部46(L,R)は、車両搭載状態の鉛直方向から見て、左右方向の長さ寸法WL(
図6参照)は、約55mm、凹部45近傍の幅広部47の前後方向の幅寸法WBは、約60mm、幅狭部48の前後方向の幅寸法WNは、約50mmとして、凹部45の左右方向の幅寸法WVは、約120mmとし、凹部45の底面45aの部位の前後方向の横杆部40の前後方向の幅寸法WCは、約45mmとしている。また、横杆部40の前縁40aと後縁40bとの交差角θは、約10°としている。
【0050】
また、実施形態の場合、ハンドル1の前後方向の幅寸法HLは、約230mm、左右の幅寸法HBは、約380mmとしている(
図1参照)。
【0051】
この実施形態のハンドル1では、運転席に乗降する際、下肢の不自由な運転者は、
図5に示すように、操舵部20の横杆部40に配設されたグリップ部42を把持しつつ、上半身を持ち上げて、運転席の縁に乗り上げ、さらに、座面上をずれ移動しつつ、位置調整して、着座する。その際、運転者の把持するグリップ部42は、操舵部20の後方側で、左右方向に略直線状に延びる横杆部40の左右方向の中央付近で、かつ、周囲にスペースを空けて、配設されており、周囲の部材に干渉されること無く、円滑に、把持でき、かつ、曲がっていない直線状であることから、力を入れて把持できるため、運転者は、グリップ部42を把持して、円滑に、運転席への乗降を行なえる。勿論、車両の操舵時には、横杆部40の左右両端付近から前方に略棒状に延びる左右の把持部29(L,R)を把持して、容易に、操舵でき、さらに、把持部29(L,R)のボス部3側に配設された操作部62(L,R)の押下操作や引上操作を行えば、車両の加減速も円滑に行なえて、車両を円滑に走行させることができる。
【0052】
したがって、実施形態のハンドル1では、運転席への乗降時に操舵部20を把持する際、安定して把持することができる。
【0053】
そして、実施形態のハンドル1では、操舵部20は、
図1に示すように、左右の把持部29(L,R)の前端29c側に、ボス部3に延びて、把持部29(L,R)の前端29c付近とともに把持可能な屈曲部26(L,R)を配設させ、屈曲部26(L,R)における把持部29(L,R)近傍に、上面26a側から前面26b側にかけて凹む凹溝27が配設されている。
【0054】
そのため、実施形態のハンドル1では、車両の走行時、運転者が左右の把持部29(L,R)を把持する際、
図15に示すように、掌DPの母指球DPM付近を、操作部62(L,R)の上面側の押下操作面64に当てつつ、親指FP側を、押下操作する押下操作面64から前方に外して、凹溝27に収納できる。すなわち、押下操作し続けていた親指FPを、凹溝27に収納して、休ませることができる。
【0055】
さらに、実施形態のハンドル1では、横杆部40が、車両搭載状態の鉛直方向の上方から見て、
図6,14に示すように、前縁40a側を左右方向に延びる略直線状とし、左右方向の中央部40cの後縁40b側に、前方に凹む凹部45を設けるとともに、凹部45の左右両側に、凹部45近傍を幅広として、左右の把持部29(L,R)の後端29d側に接近するにしたがって、前後方向の幅寸法を狭めた形状として、上面46aに、運転者の左右の手DHの掌DPをそれぞれ載せて、把持可能なハンドレスト部46(L,R)、を配設させて構成されている。
【0056】
そのため、実施形態のハンドル1では、
図14に示すように、運転者は、左右の親指FP,FPを横杆部40の側面45b,45bに当てつつ凹部45内に収納し、横杆部40の左右のハンドレスト部46(L,R)の上面46a側に、左右の掌DPを載せ、詳しくは、指尖球DPF付近をハンドレスト部46(L,R)の前縁40a側の上面46aに当てつつ、左右の掌DPを上面46aに載せ、親指RPと他の四指FCとで、ハンドレスト部46(L,R)の前後を挟むように把持することができる。このように把持できれば、運転者は、ハンドレスト部46(L,R)を把持した状態で、上半身を左右に捩じる等の動作を行なえて、左右の前後方向に延びた把持部29(L,R)を把持し続けていた運転者の緊張状態を、円滑に、ほぐすことに寄与できる。
【0057】
なお、実施形態では、操作部62(L,R)の操作において、押下操作をアクセル操作、引上操作をブレーキ操作として例示したが、逆の構成、すなわち、押下操作をブレーキ操作、引上操作をアクセル操作としてもよい。
【0058】
また、実施形態のハンドル1では、操舵部20を略四角環状としたもの示したが、左右方向に延びる横杆部40の前方に、前後方向に延びる棒状の左右の把持部29を設けることができれば、左右の把持部29の前端相互を連結する前連結部24は、左右方向に延びる棒状とせずに、半円弧状としていても良い。すなわち、操舵部の後端側に左右方向に沿って延びる横杆部が配設されていれば、横杆部を除いて、操舵部は、略円環状としても良い。
【符号の説明】
【0059】
1…ハンドル、3…ボス部、20…操舵部、26(L,R)…屈曲部、26a…上面、26b…前面、27…凹溝、29(L,R)…把持部、29c…前端、29d…後端、40…横杆部、40a…前縁、40b…後縁、40c…中央部、42…グリップ部、45…凹部、46(L,R)…ハンドレスト部、46a…上面、47…幅広部、48…幅狭部、62(L,R)…操作部、63…押下操作部、68…引上操作部、
DH…(運転者の)手、DP…掌。