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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140283
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂又はその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/02 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C08G59/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051348
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有吉 裕亮
(72)【発明者】
【氏名】小澤 かおり
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036AA05
4J036AJ01
4J036AJ02
4J036AJ03
4J036AJ14
4J036AJ15
4J036AJ19
4J036BA01
4J036CA07
4J036CA08
4J036CA09
4J036CA25
4J036FA04
4J036JA06
4J036JA07
(57)【要約】
【課題】皮膜とした際に、耐熱性に優れたエポキシ樹脂又はその塩を安定的に供給しうる、エポキシ樹脂又はその塩の製造方法を提供する。
【解決手段】エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とを、水を500~2000ppm含む溶液中で反応させる反応工程、を含むエポキシ樹脂又はその塩の製造方法により、課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とを、水を500~2000ppm含む溶液中で反応させる反応工程、を含むエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
【請求項2】
前記反応工程は、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び窒素から選ばれる少なくとも1種のガスを連続的に反応容器に流す、請求項1に記載のエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
【請求項3】
前記反応工程は、反応の触媒として、水中における解離定数が一つであり、その値が25℃においてpKa9以上12以下の含窒素化合物を用いる、請求項1に記載のエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂(A)が、下記式(1)~式(3)で表される少なくとも一種を含み、前記ヒドロキシ基を有する化合物(B)が、下記式(4)~式(6)で表される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは式(1a)で表される構造である。式(1a)中、Rは、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O、又はSOである。また式中*は結合手である。)
【化2】

【化3】

(式(2)中、Rは式(2a)又は式(2b)で表される構造である。式(2b)中、Rは水素原子又はアルキル基である。また式中*は結合手である。)
【化4】

【化5】

(式(3)中、Rは式(3a)又は式(3b)で表される構造である。また式中*は結合手である。)
【化6】

【化7】

(式(4)中、Rは式(4a)で表される構造である。式(4a)中、R~Rは各々独立して、水素原子、メチル基、アルコキシ基又はスルホ基である。また式中*は結合手である。)
【化8】

【化9】

(式(5)中、R10は式(5a)、式(5b)、式(5c)又は式(5d)で表される構造である。式(5a)中、R11は、単結合、C(CH、CH(CH)、CH
、S、O、又はSOである。式(5b)中、R12~R15は各々独立して、水素原子、メチル基、又はスルホ基を表す。式(5c)中、R16~R19は各々独立して、水素原子、メチル基、スルホ基を表す。式(5d)中、R20は炭素数1~20のアルキレン基である。前記アルキレン基はアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はメチレン基を有していてもよい。前記アルキレン基の炭素数が2~20である場合、隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。前記環はアルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2種以上の置換基を1又は2以上有していてもよい。また式中*は結合手である。)
【化10】

【化11】

(式(6)中、R21は式(6a)、式(6b)、式(6c)又は式(6d)で表される構造である。式(6a)中、R22は、水素原子又はアルキル基である。式(6b)中、R23~R25は各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。式(6d)中、R26は水素原子又はアルキル基である。また式中*は結合手である。)
【化12】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂又はその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂は硬化物が耐熱性に優れる点から、接着剤や成形材料、塗料、電子部品等の材料に用いられている。例えば特許文献1には、多官能エポキシ樹脂と多官能フェノール樹脂によって重合されたエポキシ樹脂に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6992932号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年においては、エポキシ樹脂やそれを用いた皮膜に耐熱性などの性能が求められている。そこで、本発明は、皮膜とした際に、耐熱性に優れたエポキシ樹脂又はその塩を安定的に供給しうる、エポキシ樹脂又はその塩の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明は、以下のものを含み得る。
[1]エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とを、水を500~2000ppm含む溶液中で反応させる反応工程、を含むエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
[2]前記反応工程は、アルゴン、ヘリウム、ネオン及び窒素から選ばれる少なくとも1種のガスを連続的に反応容器内に流す、[1]に記載のエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
[3]前記反応工程は、反応の触媒として、水中における解離定数が一つであり、その値が25℃においてpKa9以上12以下の含窒素化合物を用いる、[1]又は[2]に記載のエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
[4]前記エポキシ樹脂(A)が、下記式(1)~式(3)で表される少なくとも一種を含み、前記ヒドロキシ基を有する化合物(B)が、下記式(4)~式(6)で表される少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のエポキシ樹脂又はその塩の製造方法。
【化1】

(式(1)中、Rは式(1a)で表される構造である。式(1a)中、Rは、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O、又はSOである。また式中*は結合手である。)
【化2】

【化3】

(式(2)中、Rは式(2a)又は式(2b)で表される構造である。式(2b)中、Rは水素原子又はアルキル基である。また式中*は結合手である。)
【化4】

【化5】

(式(3)中、Rは式(3a)又は式(3b)で表される構造である。また式中*は結合手である。)
【化6】

【化7】

(式(4)中、Rは式(4a)で表される構造である。式(4a)中、R~Rは各々独立して、水素原子、メチル基、アルコキシ基又はスルホ基である。また式中*は結合手である。)
【化8】

【化9】

(式(5)中、R10は式(5a)、式(5b)、式(5c)又は式(5d)で表される構造である。式(5a)中、R11は、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O、又はSOである。式(5b)中、R12~R15は各々独立して、水素原子、メチル基、又はスルホ基を表す。式(5c)中、R16~R19は各々独立して、水素原子、メチル基、スルホ基を表す。式(5d)中、R20は炭素数1~20のアルキレン基である。前記アルキレン基はアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はメチレン基を有していてもよい。前記アルキレン基の炭素数が2~20である場合、隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。前記環はアルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2種以上の置換基を1又は2以上有していてもよい。また式中*は結合手である。)
【化10】

【化11】

(式(6)中、R21は式(6a)、式(6b)、式(6c)又は式(6d)で表される構造である。式(6a)中、R22は、水素原子又はアルキル基である。式(6b)中、R23~R25は各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。式(6d)中、R26は水素原子又はアルキル基である。また式中*は結合手である。)
【化12】
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、耐熱性に優れる皮膜を形成するためのエポキシ樹脂又はその塩を安定的に供給しうる、エポキシ樹脂又はその塩の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、具体的な実施形態を示し、本発明を詳細に評価する。
<エポキシ樹脂又はその塩の製造方法>
本実施形態に係るエポキシ樹脂(以下、単に「樹脂」と称する事がある。)又はその塩は、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ化合物(B)とを原料として適宜配合し、また、必
要に応じて有機溶剤を適宜配合して、溶液中の水分量を所定の値として重合反応させる反応工程、により製造することが出来る。
反応工程では、反応触媒を配合し、重合反応を行うことが好ましい。重合反応温度は特に制限されるものでは無いが、通常70℃以上200℃以下の範囲内である。反応時間は特に制限されるものではないが、通常10分間以上24時間以内の範囲内である。
【0008】
反応工程において、原料となるエポキシ樹脂(A)とヒドロキシ化合物(B)とは特に限定されないが、エポキシ樹脂(A)は以下に説明する式(1)~式(3)で表される少なくとも1種を含むことが好ましい。また、ヒドロキシ化合物(B)は以下に説明する式(4)~式(6)で表される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0009】
<エポキシ樹脂(A)>
【化13】

式(1)において、Rは上式(1a)で表される構造である。式(1a)中、Rは、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O又はSOである。なお、式(1a)の構造として、Rが異なる原料を併用してもよい。
【0010】
式(1)として示される化合物としては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビスフェノールA、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のヒドロキシ基の水素原子がグリシジル基に置換したジグリシジルエーテル化合物等が挙げられる。
【0011】
【化14】
【0012】
式(2)において、Rは上式(2a)又は式(2b)で表される構造である。Rが式(2b)である場合、式(2b)中、Rは水素原子又はアルキル基である。なお、式(2)の構造として、これらの構造のうち、1種の原料を用いてもよいが、異なる構造及び置換基を有する原料を併用してもよい。
【0013】
式(2)として示される化合物としては、例えば、α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン又はトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン等のヒドロキシ基の水素原子がグリシジル基に置換した化合物等が挙げられる。
【0014】
【化15】
【0015】
式(3)において、Rは上式(3a)又は式(3b)で表される構造である。なお、式(3)の構造として、これらの構造のうち、1種の構造を原料として用いてもよいが、異なる構造を有する原料を併用してもよい。
【0016】
式(3)として示される化合物としては、例えば、1,1,2,2-テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)エタン又は1,1’-メチレンビス(2,7-ナフタレンジオール)等の4つの末端におけるヒドロキシ基の水素原子がグリシジル基に置換した化合物のテトラグリシジルエーテル化物等が挙げられる。
【0017】
<ヒドロキシ化合物(B)>
【化16】
【0018】
式(4)において、Rは上式(4a)で表される構造である。R~Rは各々独立して、水素原子、メチル基、アルコキシ基又はスルホ基を表す。なお、式(4)の基として、これらの基のうち、1種の基を原料として用いてもよいが、異なる基を有する原料を併用してもよい。
【0019】
式(4)として示される化合物としては、例えば、フェノール、2-メチルフェノール、3-メチルフェノール、4-メチルフェノール、2-メトキシフェノール、3-メトキシフェノール等のフェノール化合物;4-メトキシフェノール、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸、4-ヒドロキシ―3-メトキシベンゼンスルホン酸等のフェノールスルホン酸又はその塩;等が挙げられる。
【0020】
【化17】
【0021】
式(5)において、R10は上式(5a)、式(5b)、式(5c)又は式(5d)で表される構造である。
式(5a)中、R11は、単結合、C(CH、CH(CH)、CH、S、O、又はSOである。
式(5b)中、R12~R15は各々独立して、水素原子、メチル基、又はスルホ基を表す。
式(5c)中、R16~R19は各々独立して、水素原子、メチル基、スルホ基を表す。
式(5d)中、R20は炭素数1~20のアルキレン基である。前記アルキレン基はアルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基又はメチレン基を有していてもよい。前記アルキレン基の炭素数が2~20である場合、隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。なお、式(5)の構造として、これらの構造のうち、1種の原料を用いてもよいが、異なる構造及び置換基を有する原料を併用してもよい。
【0022】
式(5d)において、環を構成する場合は、アルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2以上の置換基を有していてもよく、アルキル基及び/又はアルケニル基の2個の置換基を有することが好ましい。環が2個の置換基を有する場合、該2個の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。環としては、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環、デカリン環において2つの炭素-炭素結合が2重結合であるビシクロ環(例えば、ビシクロ[4.4.0]デカン-1,7-ジエン等)を挙げることができる。
【0023】
より好適には、アルキレン基は、炭素数が2~18個であり、かつ、メチレン基を1個、炭素数が5から9のアルキル基を1個若しくは2個、又は、炭素数が5から9の、アルキル基、アルケニル基及びアルカジエニル基から選ばれる1種又は2種の置換基を2個、有するか;あるいは、アルキレン基は、炭素数が2~18であり、隣り合う炭素原子を介して上記環のいずれかを構成し、環は、それぞれ独立に、炭素数が5から9の、アルキル基、アルケニル基又はアルカジエニル基である2個の置換基を有する。
【0024】
上記アルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状でもよい。アルキレン基としては、例えば、炭素数1~20のアルキレン基を挙げることができ、より具体的には、メチレン鎖、エチレン鎖、プロピレン鎖、ブチレン鎖、ペンチレン鎖、ヘキシレン鎖、へプチレン鎖、オクチレン鎖、ノニレン鎖、デシレン鎖、ウンデシレン鎖、ドデシレン鎖等の炭素数1~12のアルキレン基を挙げることができる。
【0025】
上記アルキル基、並びに、アルキルカルボニル基、アルコキシ基及びアルコキシカルボニル基におけるアルキル基としては、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。これらアルキル基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基を挙げることができ、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等の炭素数1~12のアルキル基を挙げることができる。
【0026】
上記アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状でもよい。アルケニル基としては、例えば、炭素数2~20のアルケニル基を挙げることができ、より具体的には、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基等の炭素数2~12のアルケニル基を挙げることができる。
【0027】
上記アルカジエニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状でもよい。アルカジエニル基としては、例えば、ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基、ヘプタジエニル基、オクタジエニル基、ノナジエニル基、デカジエニル基等の炭素数4~10のアルケニル基を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
式(5)として示される化合物としては、例えば、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’,5,5’-テトラメチルビフェニル等のジヒドロキシビフェニル化合物;ビスフェノールA、ビスフ
ェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS等のビスフェノール化合物;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド等のエーテル又はチオエーテル化合物;カテコール、3-メチルカテコール、4-メチルカテコール、3-メトキシカテコール、3’,4‘-ジヒドロキシアセトフェノン、3,4-ジヒドロキシ安息香酸エチル、2,3-ジヒドロキシ安息香酸メチル、3,4-ジヒドロキシ-2-メチル安息香酸メチル、2’,3’-ジヒドロキシ-4’-メトキシアセトフェノン、レゾルシノール、5-メトキシレゾルシノール、2-メチルレゾルシノール、5-メチルレゾルシノール、3’,5’-ジヒドロキシアセトフェノン、2’,6’-ジヒドロキシアセトフェノン、2’,4’-ジヒドロキシアセトフェノン、3,5-ジヒドロキシ安息香酸メチル、2,6-ジヒドロキシ安息香酸メチル、3,5-ジヒドロキシ-4-メトキシ安息香酸メチル、2,4-ジヒドロキシ-6-メトキシ安息香酸エチル、ヒドロキノン、メチルヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、2’,5’-ジヒドロキシアセトフェノン、2,3-ジメチルヒドロキノン、2,6-ジメチルヒドロキノン、トリメチルヒドロキノン、テトラメチルヒドロキノン等のジヒドロキシベンゼン化合物;ヒドロキノンスルホン酸又はその塩の化合物;2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,8-ジヒドロキシナフタレン、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン化合物;1,2-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸、1,4-ジヒドロキシナフタレン-2-スルホン酸、4,5-ジヒドロキシナフタレン-1-スルホン酸、2,3-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸等のジヒドロキシナフタレンスルホン酸又はその塩の化合物;マロン酸、コハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2,2-ジメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2-エチルアゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,15-ペンタデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,17-ヘプタデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、1,19-ノナデカンジカルボン酸、1,20-イコサンジカルボン酸、イタコン酸、フタル酸、ダイマー酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物;等が挙げられる。上記ダイマー酸としては、例えば、市販の、ハリダイマー200、250又は270S(各ハリマ化成グループ株式会社);ツノダイム205、216、228、395又は346(各筑野食品工業株式会社);Unydyme 14、14R、T-17、18、T-18、22、T-22、27、35、M-9、M-15、M-35若しくは40、又はCentury D-75、D-77、D-78若しくはD-1156、又はSylvatal 7001若しくは7002(各アリゾナケミカル社);Empol 1016、1003、1026、1028、1061、1062、1008又は1012(各BASF社);水素化ダイマー酸(average Mn~570;Sigma-Aldrich社)等が挙げられる。
【0029】
【化18】
【0030】
式(6)において、R21は上式(6a)、式(6b)、式(6c)又は式(6d)で表される構造である。式(6a)中、R22は、水素原子又はアルキル基である。式(6b)中、R23~R25は各々独立して、水素原子又はメチル基を表す。式(6d)中、R26は水素原子又はアルキル基である。なお、式(6)の構造として、これらの構造の
うち、1種の原料を用いてもよいが、異なる構造及び置換基を有する原料を併用してもよい。
【0031】
式(6)として示される化合物としては、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等のトリメチロールアルカン化合物;ピロガロール、5-メチルピロガロール、1,2,4-トリヒドロキシベンゼン、フロログルシノール、フロログルシノールカルボキシアルデヒド、2,4,6-トリホルミルフロログルシノール等のトリヒドロキシベンゼン化合物;α,α,α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼン、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、又はトリス(4-ヒドロキシフェニル)メタン等のトリスフェノール化合物;等が挙げられる。
【0032】
<反応工程における溶液中に含まれる水分量>
反応工程では、水を500~2000ppmの範囲内で含む溶液中で反応を行う。そのため、溶液中に存在する水分量を規定する。重合触媒を配合する場合には、重合触媒を配合する前に溶液中に存在する水分量を規定することが好ましい。溶液中の水分量を管理することにより、重合溶液のゲル化が抑制され、得られる樹脂の耐熱性が向上する。溶液中に含まれる水分量の測定方法としては、カールフィッシャー法、乾燥法、赤外線吸収法、誘電率法などが知られているが、特にカールフィッシャー法での測定が好ましい。
【0033】
カールフィッシャー法による水分量の測定には、カールフィッシャー水分計(特に指定は無いが、例えば京都電子工業製MKV-710やMKA-610が挙げられる)を用いて行う。この時同時に用いるカールフィッシャー試薬は特に指定は無いが、例えばケムアクア滴定液TR-3(京都電子工業製)やHoneywell HYDRANAL Composite2(Honeywell-Fluka製)などを滴定液として用い、ケムアクア脱水溶媒MET(京都電子工業製)やハヤシソルベントCE脱水溶剤(林純薬工業製)を脱水溶媒として用いることができる。
【0034】
水分量の測定には試料を正確に測量する必要があるが、サンプルを乾燥させたシリンジで採取し即座にシリンジにゴム栓を刺すことで封入し、サンプルの吸湿を妨げたうえで測量を行ってもよい。
【0035】
反応工程における、溶液に含まれる水の量は、以下のように調整することができる。
すなわち、原料が溶液に完全に溶解した事を確認したら、カールフィッシャー水分計を用いて、樹脂の溶液に含まれる水分量を測定する。この時、カールフィッシャー水分計によって得られた測定値が所望の水の量より多ければ、反応容器内を減圧することにより水分を留去することで所望の水の量とし、所望の水の量より少なければ、不足している量を脱イオン水で補充することによって所望の水の量に調整を行う。
【0036】
溶液中に含まれる水分量としては、500ppmから2000ppmが好ましく、より好ましくは、750ppmから1500ppmであり、さらに好ましくは、1000ppmから1300ppmの範囲内である。水分量が500ppmよりも少ない場合には、重合反応速度が速すぎてゲル化する傾向にある。一方で2000ppmよりも大きいと、重合反応速度はゆっくりとなるが耐熱性が発現しない傾向にある。
【0037】
<反応時に系内に流すガス>
反応工程では、反応に関与しないガスを流しながら実施してもよい。例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。これらのガスは1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
反応工程でのガスの流量としては特に限定は無いが、反応容器容積によって流量を設定
することが好ましく、例えば反応容器の容積が100Lであれば、1分間あたりのガス流量として、1Lから10Lが好ましく、2Lから5Lであればより好ましい。ガス流量は、反応容器の容積に比例させて増加させ得る。2種以上のガスを併用する場合であっても、流量は1種のみの場合と同じであることが好ましく、その比率は特に制限されない。
【0039】
<反応時に配合する重合触媒>
反応工程では触媒を用いてもよい。触媒は、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ化合物(B)との重合を促進させるものであれば特に制限されないが、水中における解離定数が一つであり、その値がpKa9以上12以下の含窒素化合物を触媒として用いることが好ましい。
【0040】
重合触媒としては、水中における解離定数が一つであり、その値が25℃においてpKa9以上12以下の含窒素化合物であれば特に制限はされず、例えば、トリエチルアミン(TEA)、ジメチルベンジルアミン(DMBA)、N-メチルジシクロヘキシルアミン、N-シクロヘキシルジメチルアミン等が挙げられる。これらの反応触媒は1種を用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、配合量については特に制限はされない。
【0041】
このように製造された樹脂は、耐熱性に優れている。ここでいう耐熱性とは、樹脂の分解が始まる温度のことであり、熱重量示差熱分析装置で(TG-DTA)で測定された試料の重量減少率が5%に到達した時の温度を指す。
【0042】
本実施形態に係るエポキシ樹脂又はその塩の重量平均分子量は特に制限されるものではないが、10000以上1000000以下の範囲内であることが好ましい。本明細書における重量平均分子量の値は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定し、ポリスチレンで換算した値である。
【0043】
本実施形態に係るエポキシ樹脂の塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;アンモニウム塩;モノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、メチルエタノールアミン塩、ジメチルエタノールアミン塩等のアルカノールアミン塩;テトラメチルアミン塩、テトラエチルアミン塩等のアルキルアミン塩;メチルベンジルアミン塩、ジメチルベンジルアミン塩等のベンジルアミン塩;ピロリジン塩、ピペリジン塩等の脂環式アミン塩; 等が挙げられる。
【0044】
反応工程において、エポキシ樹脂又はその塩の原料となるエポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)の配合量は、所望のエポキシ樹脂又はその塩における各構造単位の比率に応じて、適宜設定すればよい。
【0045】
反応工程において、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とを溶解させる有機溶剤としては、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とを溶解できるものであれば特に制限されない。例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド系有機溶媒を用いることができる。これらの溶媒は単独で用いても、2種以上の溶媒を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
反応工程において、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とを溶解させる条件について特に規定はないが、溶解するまでの時間を短縮できるように、溶液を
撹拌しながら加温してもよい。
また、反応工程において、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ基を有する化合物(B)とは、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基と、化合物(B)中のヒドロキシル基との割合が、10:90~90:10となるよう配合することが好ましく、20:80~80:20となるように配合することがより好ましく、40:60~60:40となるように配合することが更に好ましい。
【0047】
上述のように製造したエポキシ樹脂又はその塩において、エポキシ樹脂(A)とヒドロキシ化合物(B)とが反応したことは、核磁気共鳴装置を用いてH NMR及び/又は13C NMRを測定することにより確認できる。
【実施例0048】
〔実施例〕
本実施形態に係るエポキシ樹脂又はその塩について、実施例及び比較例を示して、更に詳細に説明する。なお、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
<エポキシ樹脂>
<製造例1>
表1に示すように、280.5gのA1と、15.8gのA2と、182.2gのB1とを521.0gのN-メチル-2-ピロリドンに加え、攪拌しながら昇温し、全ての原料を溶解させた。
A1、A2、B1が完全に溶解した事を確認したら、カールフィッシャー水分計を用いて、樹脂の溶液に含まれる水分量を測定した。この時、カールフィッシャー水分計によって得られた測定値が目標値(表1中の水分量)より多ければ、反応容器内を減圧することにより水分を留去し、目標値より少なければ、不足している量を脱イオン水で補充することによって、水分量の調整を行った。水分量の調整を行った後、反応容器内にNガスを流しながら重合触媒であるジメチルベンジルアミンを0.5g加え、内温135℃まで昇温し、その温度を維持しながら5時間反応させた。その後、反応溶液を冷却し、固形分濃度46.4%のエポキシ樹脂を得た。
【0050】
<製造例2から19および比較製造例1から4>
表1に示す各成分を所定量(配合量:質量部)用いて、同じく表1に記載のガスを流し、原料を溶解した溶液に含まれる水分量を調整し、製造例1と同様の方法で製造例2から19および比較製造例1から4のエポキシ樹脂を得た。
【表1】
【0051】
表1中の各記号は、以下の成分をそれぞれ示す。
<成分A>
A1:ビスフェノールAのジグリシジルエーテル化合物(jER828EL、三菱ケミカル社製)
A2:α、α、α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンにおける3つのヒドロキシ基における水素原子がグリシジル基に置換された化合物(TECMORE VG-3101L、ブリンテック社製)
A3:1、1’-メチレンビス(2、7-ナフタレンジオール)のテトラグリシジルエーテル化合物(EPICLON HP-4710、DIC社製)
<成分B>
B1:ビスフェノールA(出光興産製)
B2:ジカルボン酸化合物(ハリダイマー270S、ハリマ化成社製)
B3:1,16-ヘキサデカンジカルボン酸(東京化成工業社製)
B4:トリメチロールプロパン(東京化成工業社製)
B5:4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業社製)
B6:ヒドロキノンスルホン酸カリウム(東京化成工業社製)
B7:2,3-ジヒドロキシナフタレン-6-スルホン酸ナトリウム(東京化成工業社製)
【0052】
<各評価試験の合格基準>
耐熱性試験の合格基準は〇以上、製造安定性の合格基準は△以上とした。
<耐熱性試験>
製造例1から19および比較製造例1から4で製造されたエポキシ樹脂を乾固させた後、示差熱・熱重量同時測定装置(TG/DTA7300、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、試料温度を10℃/分の速度で昇温させた時の、5%重量減少温度を測定した。測定リファレンスとして、アルミナを用い、窒素気流化で測定を実施した。
(評価基準)
◎:320℃以上
〇:280℃以上320℃未満
△:240℃以上280℃未満
×:240℃未満
【0053】
<製造安定性>
製造例1から19および比較製造例1から4に記載の製造を行った際、ゲル化を生じたかを基準として判定した。
(評価基準)
〇:ゲル化無し
△:ゲル化するが、溶剤添加により溶解できる
×:ゲル化し、溶剤にも溶けない
【0054】
【表2】