(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140284
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂中空構造体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20241003BHJP
A61G 3/06 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08J5/04 CER
C08J5/04 CFC
A61G3/06 711
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051351
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 比呂実
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB30
4F072AD08
4F072AD23
4F072AE02
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH22
4F072AH31
4F072AH48
4F072AJ04
4F072AJ22
4F072AK05
4F072AK14
4F072AL01
4F072AL17
(57)【要約】
【課題】軽量でスロープ自体の運搬性にも優れ、かつ耐荷、耐久性に優れ、車いす利用者の使用時にスロープ上に荷重が負荷されたときの剛性を確保しつつ安全性に優れ、長尺化することによって高い段差に対応することのできる携帯用スロープを提供する。
【解決手段】繊維強化樹脂構造体であって、前記繊維強化樹脂構造体が少なくとも一つの平板部と、前記平板部の少なくとも一方の面に、前記平板部とは異なる繊維強化樹脂層が接合一体化されており、前記繊維強化樹脂層の一部は前記平板部の延設方向と垂直な断面形状において多角形状の中空断面が形成され、前記平板部の幅方向に沿って前記中空断面が並列していることを特徴とする繊維強化樹脂構造体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化樹脂構造体であって、前記繊維強化樹脂構造体が少なくとも一つの平板部と、前記平板部の少なくとも一方の面に、前記平板部とは異なる繊維強化樹脂層が接合一体化されており、前記繊維強化樹脂層の一部は前記平板部の延設方向と垂直な断面形状において多角形状の中空断面が形成され、前記平板部の幅方向に沿って前記中空断面が並列していることを特徴とする繊維強化樹脂構造体。
【請求項2】
前記平板部および前記繊維強化樹脂層はそれぞれ少なくとも一層の繊維強化織物を含み、前記平板部に含まれる前記繊維強化織物の強化繊維が経緯方向に交差するとともに強化繊維の経糸が前記平板部の延設方向と平行に配置されることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂構造体。
【請求項3】
前記平板部の延設方向と垂直な断面形状における全長が200~500mmであり、前記多角形状の中空断面が台形形状であり、前記台形形状のうち前記平板部の稜線長さが10~100mmであり、前記台形形状の高さが10~50mmであり、前記平板部から立設する前記繊維強化樹脂層と前記平板部とのなす角が45~90°であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維強化樹脂構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引抜成形により形成される繊維強化樹脂中空構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維強化樹脂中空構造体は、医療用天板、介護用スロープ、止水板、渡し板、建材、足場、配管などの幅広い分野で使用されており、主に引抜成形によって成形され、その軽量性から金属材料に代わる材料として期待されている。
【0003】
中でも公共施設等ではバリアフリー対策としてエレベータやエスカレータが設置され、また、階段にはその傍らに迂回路としてスロープが作られている場合もあり、車椅子での通行が容易に行えるようになっている。しかし、いまだ公共施設やビルディング等の建造物の内外において、多くの段差が存在している。こうした段差は、通常人であれば容易に超えることが出来るが、車椅子使用者や老人にとっては、乗り越えるのが困難な場合がある。
【0004】
バリアフリーの社会インフラ整備が進んでも、未だ整備されていない段差は数多く存在し、たとえば、歩道と車道との段差、バスの乗降口と道路との段差、道路に作られた溝、電車に乗降する際の車両とホームとの段差や溝が車椅子の通行に支障を来している。
【0005】
多数の段差が存在するという状況は、公共の空間や交通機関のみならず、車椅子使用者や老人の居住する個人住居の内外でも同様である。
【0006】
最近、可搬型の携帯用スロープを用い、必要な時のみ設置して使用することを可能とし、例えば、車椅子をホームから電車の車内に移動させる際や電車の乗降口からホームに移動させる際、あるいは、車椅子を道路からバスの車内に移動させる際やバスの乗降口から道路に移動させる際、ホームと電車の車内とに架け渡す渡し板や道路とバスの車内とに架け渡す渡し板が利用される場合がある。
【0007】
これらのスロープは、可搬型であることを前提とするため、軽量で運搬しやすいことが望ましく、このため、金属製や木製のスロープよりも、樹脂製のスロープ、特に軽量である上に耐荷重性能に優れた繊維強化プラスチック製のものが開示されている(例えば特許文献1、特許文献2)。
【0008】
車椅子用スロープは、車椅子に要介護者1名が乗車した車椅子を、介助者による介助操縦により、その板上に行き来させる器具であるため、段差を掛け渡したスロープが急勾配になってはならないため、より高い高低差に対応する場合には、通行者の転落と墜落をさせないスロープの強度剛性、スロープ仮設者の負担軽減のための軽量性などを、損なわない範囲でスロープを長尺化する必要がある。
【0009】
特許文献1では、「電車の乗降口とプラットホームとの間に掛け渡されて使用される電車乗降用スロープであって、一端側が前記乗降口に載置されかつ他端側が前記プラットホームに載置される長さを有しかつ車いすが通行可能な幅を有する板状のスロープ本体と、該スロープ本体の前記一端側の縁部に固着されかつスロープ本体から離間する向きにのびる基片の先端部に下方に折れ曲がることにより前記乗降口に設けられた段差部に係合可能な垂下片を有するフック部材と、このフック部材に前記スロープ本体の幅方向に沿った軸線の回りで揺動自在に連結されて基片から離間する向きに伸びるフラップとを含み、スロープ本体が繊維強化樹脂からなる電車乗降用スロープが記載され、「一端側が乗降口に載置されかつ他端側がプラットホームに載置される長さを有しかつ車いすが通行可能な幅を有する板状のスロープ本体を具える。従って、車いすの利用者は、スロープ本体上を走行することで、プラットホームと電車との間を容易に行き来することができ」る効果が開示されている。
【0010】
また、特許文献2では、「発泡性樹脂からなる方形の芯材の表裏両面に、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastic)製の板材を接着した少なくとも2枚以上の合板からなり、合板は、通行方向上下端それぞれに合板自身の段差を解消するためのテーパ構造4,5を有し、通行方向に対する外側面を枠部材9によって嵌合させた構造を有し、2枚以上の合板を、通行方向に対して並列させ、合板の対向側面をシート材6によって連結させ、合板が互いに重なり合うように折り畳み」する構成が記載され、「軽量で持ち運びが容易であり、加工性が良く最適なサイズを容易かつ安価に製造でき、固定性能に秀で、スロープ縁部及び脱輪防止壁の高い耐衝撃性能により破損が生じにくく、優れた補修性能を有する」効果が開示されている。そのスロープは、硬質ウレタン、ポリプロピレン又はアクリル等の発泡性樹脂からなる芯材の表裏両面に炭素繊維強化プラスチックを接着した合板の構成である。
【0011】
また、特許文献3では、「物体間に生じる段差に掛け渡して使用される繊維強化プラスチックの複数の板材からなる携帯用スロープにおいて、携帯用スロープの左右両側に位置する板材端上面に高さhで脱輪防止壁が設置されており、前記脱輪防止壁の高さh、厚みt、耐面圧力を一定値内に収まる」という構成が記載され、これにより「車輪が乗り上げた場合でも脱輪防止壁が折れにくく、かつ軽量で容易に持ち運ぶことができる」効果が開示されている。特許文献3の構成では、板材と脱輪防止壁とを一体に成形する方法が好ましく記載され、たとえば硬質発泡ポリウレタン等からなる芯材の表面に、強化繊維を巻きつけて金型にセットした後、この金型にマトリックス剤を流し込んで、板材と脱輪防止壁とが一体に成形される構成が例示され、これにより板材と脱輪防止壁とが一体に成形されていることから脱輪防止壁がより折れにくくなるとしている。
【0012】
また、特許文献4では、「スロープ本体は、段ボール材からなる板状コアと、この板状コアの少なくとも上面および下面に貼着された繊維強化樹脂材からなる補強層とを具える携帯用スロープ」が記載され、「板状コアとして発泡ポリウレタンを使用する場合に比して、必要な剛性強度を確保しながら、さらなる軽量化を図ることができ、使用者への負担をより軽減しうる」とする効果が開示されている。
【0013】
また、特許文献5では、「車椅子等の出し入れを可能にするスロープ装置において、前記スロープを構成するフロア部材を前記スロープの展開方向に交差する方向に複数個に分割し、隣り合う前記フロア部材の互いに対向する端面に、互いに係合可能な係合部を一体的に設けた」という構成が記載され、隣り合うフロア部材が係合部により鉛直方向に互いに係合することで、複数のフロア部材でスロープ上の荷重を受けることができ、フロア部材の剛性の低下を招くことなく、スロープの展開・収納時の操作をスムーズにでき、別部材によるフロア部材の補強も必要ない効果が開示されている。
【0014】
また、特許文献6では、「段差における上段の路面と下段の路面に、左側スロープ板と右側スロープ板を車椅子等の車幅に合わせた間隔をおいて平行に設置して架け渡されるスロープであって、前記左側スロープ板及び前記右側スロープ板には、それぞれ外側部材と、該外側部材に伸縮自在に内挿される内側部材が備えられており、前期内側部材が前記外側部材に収納された状態で、前記左側スロープ板を前記右側スロープ板に、それぞれの表面が対向するように重ねて取付けできるように、前記外側部材には取付け部材が設けられ、前期内側部材は中空部を有したアルミニウム合金押出形材からなる」という構成が記載され、左側スロープ板を右側スロープ板に重ねて取付けることで、2枚のスロープ板を一体化でき、剛性低下を招くことなく軽量化することでスロープの携帯性を向上させる効果が開示されている。
【0015】
また、特許文献7では、「電車の乗降に用いられる電車乗降用スロープであって、板状部材が一列に並んで配列されており、互いに隣接する一対の板状部材はシート部材によって連結され、少なくとも両端に位置する板状部材は板状部材の連結方向と直交する方向の一端から突出する突出部を備えており、前記突出部がある側の電車乗降用スロープの端部は切欠部を有し、板状部材を連結しているシート部材を折り曲げることによって折り畳みが可能な、電車乗降用スロープ。」という構成が記載され、スロープの携帯性を向上させる効果が開示されている。
【0016】
また、特許文献8では、「少なくとも板材及び中空セグメントからなり、前記中空セグメントはスロープの長手方向に延設され、前記板材と前記中空セグメントの間に中空部が形成されてなることを特徴とする携帯用スロープ。」という構成が記載され、スロープの携帯性を向上させる効果が開示されている。
【0017】
また、特許文献9では、「段差に掛け渡して車椅子を走行させるために使用される携帯用スロープであって、前記携帯用スロープは、前記車椅子が走行可能な板材を含み、前記板材は、前記板材と垂直な面で前記板材を少なくとも2つに分割可能な接続部を有することを特徴とする携帯用スロープ。」という構成が記載され、スロープの携帯性を向上させる効果が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2011-217963号公報
【特許文献2】特開2013-162818号公報
【特許文献3】特開2003-230600号公報
【特許文献4】特開2014-103983号公報
【特許文献5】特開2002-87164号公報
【特許文献6】特開2004-60287号公報
【特許文献8】特開2004-142509号公報
【特許文献7】特開2007-118758号公報
【特許文献8】特開2016-067517号公報
【特許文献9】特開2016-067518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
特許文献1の構成では、スロープ本体に単に繊維強化樹脂を使用することが記載されているだけであり、織物基材の使用および中空構造による軽量化と耐荷重性の両立に対する改善の示唆はなされていない。
【0020】
特許文献2の構成では、合板は発泡性樹脂の表裏両面に炭素繊維強化プラスチックを強固に接着した積層構成であり、積層構成体の製造工程に複数の工程を踏む必要があることから製造コスト的な課題がある。また、積層構造により剛性向上を図ることができるが、発泡体重量により軽量化が失われる。
【0021】
特許文献3の形態では、積層構造により剛性向上を図ることができるが、発泡体重量により軽量化が失われ、軽量性には改善の余地がある。
【0022】
特許文献4の構成では、スロープ本体は段ボール材からなる板状コアと、この板状コアの少なくとも上面および下面に貼着された繊維強化樹脂材からなる補強層構成であり、積層構成体の製造工程に複数の工程を踏む必要があることから製造コスト的な課題がある。
【0023】
特許文献5の構成では、両側面に設けられる脱輪防止壁はスロープのフロア部材と溶接又はビス止めにより固定した構成であり、複数の工程を踏む必要があることから製造コスト的な課題がある。また、脱輪防止壁となる所定の長さのサイドレールを溶接又はビス止めにより固定しているため、運搬する距離が異なる段差に対しては対応する長さのスロープを複数用意する必要があり、設置者の負担軽減とフレキシビリティー性に難がある。
【0024】
特許文献6の構成では、スライド伸縮式スロープとすることにより取り回しはよいが、中空形状による最適化と軽量化に対しては改善の余地がある。
【0025】
特許文献7の構成では、スロープの強化構造に対する記載は無く、軽量化と長尺化の両立に対する改善の示唆はなされていない。
【0026】
特許文献8の構成では、スロープの強化構造は中空台形断面しかない。
【0027】
特許文献9の構成では、スロープの強化構造に対する記載は無く、中空構造も長方形形状に限定されている。
【0028】
繊維強化樹脂中空体を引抜成形で成形では、主に軸方向繊維トウとランダム方向に強化繊維されたコンティニュアスストランドマットが用いられるが、中空構造の周方向の繊維強化比率が少なく、繊維強化樹脂構造の厚みで補強する必要があるため、軽量化に限界が生じる。また、軸方向繊維トウと織物基材を併用した場合においても、軸方向繊維に継目が生じるため、織物の継目に強度低下が生じる。
【0029】
本発明は、建物や、電車用の物体間に生じる段差に掛け渡して使用するスロープに関し、軽量でスロープ自体の運搬性にも優れ、かつ耐荷、耐久性に優れ、車いす利用者の使用時にスロープ上に荷重が負荷されたときの剛性を確保しつつ安全性に優れ、長尺化することによって高い段差に対応することのできる携帯用スロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
(1)繊維強化樹脂構造体であって、前記繊維強化樹脂構造体が少なくとも一つの平板部と、前記平板部の少なくとも一方の面に、前記平板部とは異なる繊維強化樹脂層が接合一体化されており、前記繊維強化樹脂層の一部は前記平板部の延設方向と垂直な断面形状において多角形状の中空断面が形成され、前記平板部の幅方向に沿って前記中空断面が並列していることを特徴とする繊維強化樹脂構造体。
(2)前記平板部および前記繊維強化樹脂層はそれぞれ少なくとも一層の繊維強化織物を含み、前記平板部に含まれる前記繊維強化織物の強化繊維が経緯方向に交差するとともに強化繊維の経糸が前記平板部の延設方向と平行に配置されることを特徴とする(1)に記載の繊維強化樹脂構造体。
(3)前記平板部の延設方向と垂直な断面形状における全長が200~500mmであり、前記多角形状の中空断面が台形形状であり、前記台形形状のうち前記平板部の稜線長さが10~100mmであり、前記台形形状の高さが10~50mmであり、前記平板部から立設する前記繊維強化樹脂層と前記平板部とのなす角が45~90°であることを特徴とする(1)または(2)に記載の繊維強化樹脂構造体。
【発明の効果】
【0031】
前述した構造体により、建物や、電車用の物体間に生じる段差に掛け渡して使用するスロープに関し、軽量でスロープ自体の運搬性にも優れ、かつ耐荷重性、耐久性に優れ、車いす利用者の使用時にスロープ上に荷重が負荷されたときの剛性を確保しつつ安全性に優れ、長尺化することによって高い段差に対応することのできる携帯用スロープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の一実施態様に係る繊維強化樹脂中空体の断面図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係る繊維強化樹脂中空体の積層断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明の実施の形態について順次説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施例形態に限定されるものではない。
【0034】
前記課題を解決するためになされた本発明の構成は、繊維強化樹脂構造体が少なくとも一つの平板部と、前記平板部の少なくとも一方の面に、前記平板部とは異なる繊維強化樹脂層が接合一体化されており、前記繊維強化樹脂層の一部は前記平板部の延設方向と垂直な断面形状において多角形状の中空断面が形成され、前記平板部の幅方向に沿って前記中空断面が並列していることを特徴とする繊維強化樹脂構造体である。
【0035】
本発明に係る繊維強化樹脂構造体は、軽量化効果の観点から、繊維強化プラスチックから形成されることが好ましい。強化繊維としては、特に制限はなく、例えば、アルミニウム、黄銅、ステンレスなどの金属繊維や、ポリアクリルニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維や、黒鉛繊維や、ガラスなどの絶縁性繊維や、アラミド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂などの有機繊維や、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機繊維が挙げられる。また、これらの繊維に表面処理が施されているものであってもよい。表面処理としては、導電体として金属の被着処理のほかに、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、結束剤による処理、添加剤の付着処理などがある。また、これらの強化繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。中でも、軽量化効果の観点から、比強度、比剛性に優れるPAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。これらの中で、強度と弾性率などの力学的特性に優れるPAN系の炭素繊維をより好ましく用いることができる。
【0036】
適切な炭素繊維の例は、東レ株式会社製の、約200~250GPaの標準的弾性率を有する炭素繊維(“トレカ”(登録商標)T300、T300B、T400HB、T700SC、Z600)、約250~300GPaの中間的弾性率を有する炭素繊維(“トレカ”(登録商標)T800SC、T800HB、T830HB、T1000GB、M30SC)、又は300GPa超の高い弾性率を有する炭素繊維(“トレカ”(登録商標)M35JB、M40JB、M46JB、M50JB、M55J、M55JB、M60JB)である。これらの炭素繊維の中でも、引張強度が4500MPa以上、及び1.5%以上の伸びを有する 炭素繊維を経糸に用いることが好ましい。成形中の糸切れが発生しにくいことから、より成形が容易である。
【0037】
織物繊維層は織組織を構成する強化繊維を含むあらゆる繊維層であってよく、織組織としては例えば、平織、綾織、朱子織、二重織等が挙げられる。織物基材に用いられる炭素繊維のフィラメント数は、1000~50000本の範囲のいずれでも良い。フィラメント数が50000本を上回ると成形時に樹脂含浸が難しいことがある。フィラメント数は、特に3000、6000、12000本のものが価格、製織性の面で好ましい。
【0038】
繊維強化プラスチックの樹脂としては、繊維強化樹脂は、強化繊維とマトリクス樹脂を含んで構成されるが、マトリクス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN樹脂)、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂や、ポリエチレン(PE樹脂)、ポリプロピレン(PP樹脂)、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などのポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)などの結晶性樹脂、スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PSU)樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。なかでも、炭素繊維との接着性や、成形体の力学特性、成形性を考慮すると、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
充填材としては、一般に樹脂用フィラーとして用いられる任意のものを用いることができ、繊維強化樹脂基材やそれを用いた成形品の強度、剛性、耐熱性、難燃性、寸法安定性をより向上させることができる。充例えば、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、カオリン、マイカ、タルク、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、アルミノシリケート、アルミナ、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラスビーズ、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、シリカなどの非繊維状無機充填材などが挙げられる。これらを2種以上含有してもよい。これら充填材は中空であってもよい。また、イソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で処理されていてもよい。また、モンモリロナイトとして、有機アンモニウム塩で層間イオンをカチオン交換した有機化モンモリロナイトを用いてもよい。
【0040】
また、繊維強化樹脂の炭素繊維の重量繊維含有率が15~80重量%の範囲であることが好ましい。含有量が15重量%未満であると、耐荷重性や剛性が失われ所定の目的の機能を果たすことできない。重量含有量が80重量%を超えると、前記繊維強化樹脂中にボイドが発生する問題が生じやすくなり、成形が困難となる。長尺品などで高弾性率かつ高強度が必要となる場合には、重量含有量の管理許容範囲を小さく設定することが好ましく、好ましくは重量含有率が30~75重量%、さらに好ましくは40~75重量%である。
【0041】
また、本発明に係る繊維強化樹脂構造体は、平板状の繊維強化プラスチックである平板部と、平板部とは異なる繊維強化樹脂層が接合一体化されたものである。
【0042】
図1に示すように、繊維強化樹脂層の一部は、平板部の延設方向と垂直な断面形状において多角形状の中空断面が形成されている。多角形状の中空断面は等角多角形が好ましく、底角を対称とすることにより荷重の受ける状態のバランスを均質に取ることができる。等角多角形は角が多いほど曲げ剛性の効率が下がるため、六角形よりも少ない角数が好ましく、中でも等角台形形状がより好ましい。
【0043】
台形形状のうち平板部の稜線長さは、短く緻密であるほど剛性が改善するが構造体の表面積が増え、繊維強化織物の使用量が増えて重くなる。台形形状のうち平板部の稜線長さは、10~100mmの範囲が好ましく、更に好ましくは30~60mmである。また、台形形状の高さが10~50mmの範囲が好ましい。さらに、平板部から立設する前記繊維強化樹脂層と前記平板部とのなす角が45~90°であり、更に好ましくは60~90°である。
【0044】
また、この中空断面は、平板部の幅方向に沿って並列していることが重要である。中空断面を幅方向に連続させることにより、平板部の延設方向に対する曲げ剛性が向上する。一方で介護用スロープなど渡し板として利用する場合には、平板部の幅方向を延長させるほど、幅方向の曲げ剛性は低下するため、転倒など危険を生じるおそれがある。したがって平板部の延設方向と垂直な断面形状における全長は200~500mmが好ましく、より好ましくは350~500mmである。
【0045】
本発明に係る繊維強化樹脂構造体は、平板部および繊維強化樹脂層はそれぞれ少なくとも一層の繊維強化織物を含み、平板部に含まれる繊維強化織物の強化繊維が経緯方向に交差するとともに強化繊維の経糸が平板部の延設方向と平行に配置されることが好ましい。
【0046】
本発明に係る繊維強化樹脂中空構造体に、強化繊維織物を適用した態様を
図2に示す。本発明において、繊維強化樹脂層はそれぞれ少なくとも一層の繊維強化織物を含み、より好ましくは二層以上の繊維強化織物で構成される。二層以上の繊維強化織物が、平板部で重なり、中空部で離れることで、連続した中空構造を形成することを可能とし、構造を連続させることにより曲げに対する破壊強度が向上し構造が強固になる。
【0047】
また、平板部の延設方向へ経糸を配することで、平板部の延設方向に対する曲げ剛性を向上させることができる。一方で、経糸方向のみに繊維配向された一方向繊維(UDテープ)を積層しステッチ糸で縫製した織物では、幅方向の曲げ剛性が低下し、繊維強化樹脂構造体として幅方向強度も低くなり、介護用スロープのような渡し板として安全に利用できないため、緯糸方向へも繊維強化しておく必要がある。経糸と緯糸の割合は3対1から1対1の範囲が好ましい。UDテープおよびUD連続繊維の繊維束を三方向以上に積層しステッチ糸で縫製した多方向織物では配向が乱れやすいため、強化繊維同士が二方向に織り込まれた二方向織物がより好ましい。
【0048】
本発明の繊維強化樹脂構造体は引抜成形法により製造することができる。引抜成形法においては、先ず繊維強化織物に硬化性樹脂を含浸させる。樹脂注入方法については、金型入り口で織物を樹脂バスに漬け込み、ローラーで圧力をかけながら織物への樹脂付着量を調整する方式でも良く、更に好ましくは金型入口に直接樹脂を注入する方法がより好ましい。金型に樹脂を注入する方法では、樹脂注入口での樹脂硬化をさせないよう、金型入り口を冷却することが好ましい。冷却には、水冷、ヒートポンプ、ペルチェ素子を用いても良く、冷却部を分割した金型を用いてもよい。次いで、硬化性樹脂が含浸させた繊維強化織物を、ヒーターを有する型へと挿入し加熱硬化させる。硬化一体化した繊維強化樹脂構造体は、金型から連続的に引取装置により引き出される。引取装置はキャタピラ、ベルトでも可能であるが、ダブルグリッパーがより好ましく、繊維強化樹脂構造体の二層以上の繊維強化織物が重なる平板部でグリップすることにより、積層部が加圧されてより強固な積層体が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明が開示する、繊維強化樹脂中空構造体は、物体間に生じる段差に掛け渡して車椅子の走行に使用されスロープ、医療用天板、止水板、渡し板、建材、足場、配管などの渡し板として有用である。