IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パーカー熱処理工業株式会社の特許一覧

特開2024-140311金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法
<>
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図1
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図2
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図3
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図4
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図5
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図6
  • 特開-金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140311
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/36 20060101AFI20241003BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20241003BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20241003BHJP
   B05D 5/12 20060101ALI20241003BHJP
   B05D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   B05D 3/02 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20241003BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B05D1/36 Z
B05D7/14 P
B05D7/00 K
B05D5/12 D
B05D5/00 Z
B05D3/02 Z
C09D201/00
C09D5/00 D
C09D179/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051399
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000111845
【氏名又は名称】パーカー熱処理工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】平井 勇也
【テーマコード(参考)】
4D075
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AE03
4D075BB28Z
4D075BB60Z
4D075BB92Y
4D075CA02
4D075CA09
4D075CA21
4D075CA23
4D075CA47
4D075CA48
4D075DA23
4D075DB01
4D075DC16
4D075EA05
4D075EB16
4D075EB33
4D075EB39
4D075EC01
4D075EC02
4D075EC04
4D075EC07
4D075EC30
4J038DJ051
4J038NA21
4J038PA06
4J038PA07
4J038PA19
4J038PB06
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】 金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法であって、従来比で優れた耐電圧性能を実現することができる方法を提供すること。
【解決手段】 本発明は、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法であって、金属部品の表面上に、絶縁皮膜の第1層を塗装する第1塗装工程と、前記第1塗装工程によって塗装された前記第1層を乾燥させる第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程によって乾燥された前記第1層の表面上に、前記絶縁皮膜の第2層を塗装する第2塗装工程と、前記第2塗装工程によって塗装された前記第2層を乾燥させる第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、固体潤滑皮膜を塗装する固体潤滑皮膜塗装工程と、前記固体潤滑皮膜塗装工程の後、前記絶縁皮膜の前記第1層及び前記第2層並びに前記固体潤滑皮膜を伴う前記金属部品を焼成する焼成工程と、を備えたことを特徴とする方法である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法であって、
金属部品の表面上に、絶縁皮膜の第1層を塗装する第1塗装工程と、
前記第1塗装工程によって塗装された前記第1層を乾燥させる第1乾燥工程と、
前記第1乾燥工程によって乾燥された前記第1層の表面上に、前記絶縁皮膜の第2層を塗装する第2塗装工程と、
前記第2塗装工程によって塗装された前記第2層を乾燥させる第2乾燥工程と、
前記第2乾燥工程の後、固体潤滑皮膜を塗装する固体潤滑皮膜塗装工程と、
前記固体潤滑皮膜塗装工程の後、前記絶縁皮膜の前記第1層及び前記第2層並びに前記固体潤滑皮膜を伴う前記金属部品を焼成する焼成工程と、
を備えたことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第1乾燥工程は、5分以上の時間をかけて実施される自然乾燥工程である
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2乾燥工程によって乾燥された前記第2層の表面上に、前記絶縁皮膜の第3層を塗装する第3塗装工程と、
前記第3塗装工程によって塗装された前記第3層を乾燥させる第3乾燥工程と、
前記固体潤滑皮膜塗装工程は、前記第3乾燥工程の後に実施される
ことを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2乾燥工程は、5分以上の時間をかけて実施される自然乾燥工程である
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品であって、
前記絶縁皮膜は、少なくとも主成分がPAI樹脂であって、10μm以下の厚さを有しており、
当該金属部品の耐電圧が、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1200V以上である
ことを特徴とする金属部品。
【請求項6】
絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品であって、
前記絶縁皮膜は、少なくとも主成分がPAI樹脂であって、10μm~15μmの厚さを有しており、
当該金属部品の耐電圧が、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1400V以上である
ことを特徴とする金属部品。
【請求項7】
絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品であって、
前記絶縁皮膜は、少なくとも主成分がPAI樹脂であって、15μm~20μmの厚さを有しており、
当該金属部品の耐電圧が、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1800V以上である
ことを特徴とする金属部品。
【請求項8】
前記絶縁皮膜と前記固体潤滑皮膜との厚さの和が、30μm以下である
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の金属部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品に絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法に関する。また、本発明は、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属部品(転がり軸受)に絶縁皮膜(絶縁被膜)と固体潤滑皮膜(耐クリープ被膜)とを被覆することによって、絶縁性能と耐摩耗性能(耐クリープ被膜)との両方を同時に実現可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-42162
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者は、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法の具体的な態様について鋭意の検討乃至実験を繰り返す中で、絶縁皮膜の塗装(塗布)及び乾燥を複数回(複数層)に分けて実施することが、当該絶縁皮膜によってもたらされる耐電圧性能を顕著に向上させることを見出した。
【0005】
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法であって、従来比で優れた耐電圧性能を実現することができる方法を提供することである。また、本発明の目的は、当該方法によって製造され得る、従来比で優れた耐電圧性能を有する金属部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法であって、金属部品の表面上に、絶縁皮膜の第1層を塗装する第1塗装工程と、前記第1塗装工程によって塗装された前記第1層を乾燥させる第1乾燥工程と、前記第1乾燥工程によって乾燥された前記第1層の表面上に、前記絶縁皮膜の第2層を塗装する第2塗装工程と、前記第2塗装工程によって塗装された前記第2層を乾燥させる第2乾燥工程と、前記第2乾燥工程の後、固体潤滑皮膜を塗装する固体潤滑皮膜塗装工程と、前記固体潤滑皮膜塗装工程の後、前記絶縁皮膜の前記第1層及び前記第2層並びに前記固体潤滑皮膜を伴う前記金属部品を焼成する焼成工程と、を備えたことを特徴とする方法である。
【0007】
本発明によれば、絶縁皮膜を第1層と第2層とに分けることによって、すなわち、当該第1層の塗装及び乾燥と当該第2層の塗装及び乾燥とを分けることによって、後述する各実施例によって明確に示されるように、従来比で顕著に優れた耐電圧性能を実現することができる。
【0008】
本件発明者による知見によれば、好ましくは、第1乾燥工程は、5分以上の時間をかけて実施される自然乾燥工程である。
【0009】
絶縁皮膜は、3層に分けて(第1層と第2層と第3層とに分けて)、塗装及び乾燥がなされてもよい。すなわち、本発明は、前記第2乾燥工程によって乾燥された前記第2層の表面上に前記絶縁皮膜の第3層を塗装する第3塗装工程と、前記第3塗装工程によって塗装された前記第3層を乾燥させる第3乾燥工程と、を更に備えることができ、この場合、前記固体潤滑皮膜塗装工程は、前記第3乾燥工程の後に実施される。
【0010】
この場合、本件発明者による知見によれば、好ましくは、第2乾燥工程は、5分以上の時間をかけて実施される自然乾燥工程である。
【0011】
同様に、絶縁皮膜は、4層以上に分けて、塗装及び乾燥がなされてもよい。
【0012】
本発明方法によれば、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、10μm以下の厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1200V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0013】
更に、本発明方法によれば、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、10μm~15μmの厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1400V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0014】
更に、本発明方法によれば、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、15μm~20μmの厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1800V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0015】
そして、以上のように極めて高い耐電圧性能を伴いつつ、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜との厚さの和を、例えば30μm以下に収めることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁皮膜を複数層に分けることによって、すなわち、例えば第1層の塗装及び乾燥と第2層の塗装及び乾燥と(・・・第n層の塗装及び乾燥と)を分けることによって、後述する各実施例によって明確に示されるように、従来比で顕著に優れた耐電圧性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態に係る、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の第1実施形態によって得られた実施例1~6の耐電圧を、対応する比較例1~6の耐電圧と共に示す表である。
図3】本発明の第2実施形態に係る、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2実施形態によって得られた実施例7~9の耐電圧を示す表である。
図5】各実施例及び各比較例で用いられたリング試験片の表側の写真である。
図6図5のリング試験片の裏側の写真である。
図7図5のリング試験片の側方からの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
(第1実施形態:フローチャート)
図1は、本発明の第1実施形態に係る、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法を示すフローチャートである。本実施形態では、絶縁皮膜が、第1層と第2層とに分けて塗装及び乾燥される。
【0020】
すなわち、図1に示すように、まず、金属部品の表面上に絶縁皮膜の第1層を塗装(一般的にはスプレー塗布)する第1塗装工程が実施される(STEP1)。そして、当該第1塗装工程によって塗装された前記第1層を乾燥させる第1乾燥工程が実施される(STEP2)。そして、第1乾燥工程によって乾燥された第1層の表面上に絶縁皮膜の第2層を塗装(一般的にはスプレー塗布)する第2塗装工程が実施される(STEP3)。そして、第2塗装工程によって塗装された第2層を乾燥させる第2乾燥工程が実施される(STEP4)。
【0021】
第2乾燥工程の後、固体潤滑皮膜を塗装する固体潤滑皮膜塗装工程が実施され(STEP5)、固体潤滑皮膜塗装工程の後、絶縁皮膜の第1層及び第2層並びに固体潤滑皮膜を伴う金属部品を焼成する焼成工程が実施される(STEP6)。
【0022】
本実施形態では、第1乾燥工程(STEP2)及び第2乾燥工程(STEP4)は、自然乾燥工程であって、それぞれ、5分間をかけて実施される。
【0023】
本実施形態では、焼成工程(STEP6)は、120℃で90分間をかけて実施される。
【0024】
(第1実施形態:実施例及び比較例)
図1に示す第1実施形態のフローチャートに従って、実施例1~6に示す皮膜が金属部品上に形成され、耐電圧性能が評価された。一方、絶縁皮膜の塗装及び乾燥を1回だけとした比較例1~6(STEP3及びSTEP4が実施されない)についても、耐電圧性能が評価された。更に、参考のため、絶縁皮膜の塗装及び乾燥を行わない場合について、絶縁皮膜の代わりに下地としてリン酸マンガン層(厚さ5μm)を形成したものを比較例7として、耐電圧性能が評価された(比較例7の結果から、耐電圧性能は、絶縁皮膜による影響が支配的であることが分かる)。
【0025】
金属部品の例として、熱間鍛造焼結合金(AISI4620)製の、外周径35mm、厚さ8.8mm、のリング試験片が用いられた。被覆前の表面硬さは、60HRCであった。当該リング片の切断面観察後の(概ね2分割された状態の)写真を図5乃至図7に示す。各皮膜が形成された対象面は、当該リング片の円筒状の外周面である。当該リング片の内周孔は、後述する摩耗試験器への取り付けのため、テーパ面が形成されているが、当該内周孔の表面には各皮膜は形成されていない。
【0026】
絶縁皮膜の例として、第1層及び第2層とも、PAI樹脂(ポリアミドイミド樹脂)が用いられた。重量分子量は、17500程度であった(例えば一般的なGPC法によって測定され得る)。各層の塗布量は、乾燥後の厚みが図2の表に示す「絶縁皮膜の厚さ」の約半分となるように、調整された(すなわち、体積及び/または重量として概ね2等分された)。
【0027】
固体潤滑皮膜の例として、株式会社川邑研究所製の「HMB-2」が用いられた(SDSに記載されている成分は、潤滑剤成分:二硫化モリブデン5%、三酸化アンチモン5%、溶媒:1,4ジオキサン45%、N-メチルピロリドン25-35%、キシレン1.8%、エチルベンゼン1.8%)。
【0028】
耐電圧は、菊水電子工業社製の耐電圧試験器(TOS5301)を用いて評価された。具体的には、10秒間をかけて0Vから6200Vに昇圧する過程で、漏れ電流の閾値を10mAとして、耐電圧の値とした。
【0029】
図2の表に示すように、実施例1及び実施例2は、絶縁皮膜の厚さ(第1層と第2層との合計厚さ)が10μm以下の例である。絶縁皮膜の厚さ及び固体潤滑被膜の厚さは、各乾燥工程後にマイクロメーターを介して、あるいは、焼成後の皮膜断面の顕微鏡観察や成分分析を介して、評価(測定)可能である。実施例1及び実施例2の耐電圧は、対応する(絶縁皮膜の厚さが10μmである)比較例1及び比較例2の耐電圧と比較して、顕著に高くなっている。
【0030】
10%程度の誤差を見込んだとしても、本実施形態によれば、絶縁皮膜が10μm以下の厚さを有するPAI樹脂である場合において、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1200V以上の耐電圧を実現することができる。
【0031】
図2の表に示すように、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5は、絶縁皮膜の厚さ(第1層と第2層との合計厚さ)が10μm~15μmの例である。実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5の耐電圧は、対応する(絶縁皮膜の厚さが10μm~15μmである)比較例2、比較例3、比較例4及び比較例5の耐電圧と比較して、顕著に高くなっている。
【0032】
10%程度の誤差を見込んだとしても、本実施形態によれば、絶縁皮膜が10μm~15μmの厚さを有するPAI樹脂である場合において、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1400V以上の耐電圧を実現することができる。
【0033】
図2の表に示すように、実施例5及び実施例6は、絶縁皮膜の厚さ(第1層と第2層との合計厚さ)が15μm~20μmの例である。実施例5及び実施例6の耐電圧は、対応する(絶縁皮膜の厚さが15μm~20μmである)比較例5及び比較例6の耐電圧と比較して、顕著に高くなっている。
【0034】
10%程度の誤差を見込んだとしても、本実施形態によれば、絶縁皮膜が15μm~20μmの厚さを有するPAI樹脂である場合において、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1800V以上の耐電圧を実現することができる。
【0035】
(第1実施形態:作用効果)
以上の通り、本実施形態によれば、絶縁皮膜を第1層と第2層とに分けることによって、すなわち、当該第1層の塗装及び乾燥と当該第2層の塗装及び乾燥とを分けることによって、実施例1~6によって明確に示されるように、比較例1~6に対して顕著に優れた耐電圧性能を実現することができる。
【0036】
より具体的には、実施例1及び実施例2に示されるように、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、10μm以下の厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1200V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0037】
また、実施例2、実施例3、実施例4及び実施例5に示されるように、本発明方法によれば、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、10μm~15μmの厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1400V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0038】
また、実施例5及び実施例6に示されるように、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、15μm~20μmの厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとした時、1800V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0039】
そして、実施例1~6に示されるように、極めて高い耐電圧性能を伴いつつ、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜との厚さの和(合計膜厚さ)を、30μm以下に収めることができる。
【0040】
なお、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜との厚さの比率について、以下のような5つのカテゴリーに分けることが可能であるが、当該5つのカテゴリーのいずれにおいても、耐電圧性能の向上が確認できる。
(i) 絶縁皮膜/固体潤滑皮膜≦1/2(実施例1、比較例1)
(ii) 1/2≦絶縁皮膜/固体潤滑皮膜≦2/3(実施例1~3、比較例2~4)
(iii)2/3≦絶縁皮膜/固体潤滑皮膜≦3/2(実施例3~5、比較例4~5)
(iv) 3/2≦絶縁皮膜/固体潤滑皮膜≦2 (実施例5~6、比較例5~6)
(v) 2≦絶縁皮膜/固体潤滑皮膜
【0041】
(第2実施形態:フローチャート)
次に、図3は、本発明の第2実施形態に係る、金属部品に対して絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とを被覆する方法を示すフローチャートである。本実施形態では、絶縁皮膜が、第1層と第2層と第3層とに分けて塗装及び乾燥される。
【0042】
すなわち、まず、図3に示すように、金属部品の表面上に絶縁皮膜の第1層を塗装(一般的にはスプレー塗布)する第1塗装工程が実施される(STEP21)。そして、当該第1塗装工程によって塗装された前記第1層を乾燥させる第1乾燥工程が実施される(STEP22)。そして、第1乾燥工程によって乾燥された第1層の表面上に絶縁皮膜の第2層を塗装(一般的にはスプレー塗布)する第2塗装工程が実施される(STEP23)。そして、第2塗装工程によって塗装された第2層を乾燥させる第2乾燥工程が実施される(STEP24)。そして、第2乾燥工程によって乾燥された第2層の表面上に絶縁皮膜の第3層を塗装(一般的にはスプレー塗布)する第3塗装工程が実施される(STEP25)。そして、第3塗装工程によって塗装された第3層を乾燥させる第3乾燥工程が実施される(STEP26)。
【0043】
第3乾燥工程の後、固体潤滑皮膜を塗装する固体潤滑皮膜塗装工程が実施され(STEP27)、固体潤滑皮膜塗装工程の後、絶縁皮膜の第1層、第2層及び第3層並びに固体潤滑皮膜を伴う金属部品を焼成する焼成工程が実施される(STEP28)。
【0044】
本実施形態でも、第1乾燥工程(STEP22)、第2乾燥工程(STEP24)及び第3乾燥工程(STEP26)は、自然乾燥工程であって、それぞれ、5分間をかけて実施される。
【0045】
本実施形態でも、焼成工程(STEP26)は、120℃で90分間をかけて実施される。
【0046】
(第2実施形態:実施例)
図2に示す第2実施形態のフローチャートに従って、実施例7~9に示す皮膜が金属部品上に形成され、耐電圧性能が評価された。
【0047】
第1実施形態と同様に、金属部品の例として、熱間鍛造焼結合金(AISI4620)製の、外周径35mm、厚さ8.8mm、のリング試験片が用いられた(図5乃至図7参照)。被覆前の表面硬さは、60HRCであった。
【0048】
第1実施形態と同様に、絶縁皮膜の例として、第1層、第2層及び第3層とも、PAI樹脂(ポリアミドイミド樹脂)が用いられた。重量分子量は、17500程度であった。各層の塗布量は、乾燥後の厚みが図2の表に示す「絶縁皮膜の厚さ」の約1/3となるように、調整された(すなわち、体積及び/または重量として概ね3等分された)。
【0049】
第1実施形態と同様に、固体潤滑皮膜の例として、株式会社川邑研究所製の「HMB-2」が用いられた。
【0050】
第1実施形態と同様に、耐電圧は、菊水電子工業社製の耐電圧試験器(TOS5301)を用いて評価された。具体的には、10秒間をかけて0Vから6200Vに昇圧する過程で、漏れ電流の閾値を10mAとして、耐電圧の値とした。
【0051】
図2の表に示すように、実施例7、実施例8及び実施例9は、絶縁皮膜の厚さ(第1層と第2層と第3層との合計厚さ)が15~20μmの例である。実施例7、実施例8及び実施例9の耐電圧は、対応する(絶縁皮膜の厚さが15~20μmである)比較例5及び比較例6の耐電圧と比較して、顕著に高くなっている。
【0052】
10%程度の誤差を見込んだとしても、本実施形態によれば、絶縁皮膜が15~20μmの厚さを有するPAI樹脂である場合において、2200V以上の耐電圧を実現することができる。
【0053】
(第2実施形態:作用効果)
以上の通り、本実施形態によれば、絶縁皮膜を第1層と第2層と第3層とに分けることによって、すなわち、当該第1層の塗装及び乾燥と当該第2層の塗装及び乾燥と当該第3層の塗装及び乾燥とを分けることによって、実施例7~9によって明確に示されるように、比較例5~6に対して顕著に優れた耐電圧性能を実現することができる。
【0054】
より具体的には、実施例7、実施例8及び実施例9に示されるように、本発明方法によれば、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜とによって被覆された金属部品において、15μm~20μmの厚さ(のみ)を有する絶縁皮膜によって、漏れ電流の閾値を10mAとして、2200V以上の耐電圧性能をもたらすことができる。
【0055】
そして、実施例7~9に示されるように、極めて高い耐電圧性能を伴いつつ、絶縁皮膜と固体潤滑皮膜との厚さの和(合計膜厚さ)を、30μm以下に収めることができる。
【0056】
(絶縁皮膜についての補足)
以上の各実施例及び各比較例では、絶縁皮膜として、重量分子量が17500程度のPAI樹脂が用いられたが、重量分子量を変更しても、本発明は略同様に適用可能である。
【0057】
実際に、重量分子量が9000程度のPAI樹脂を用いて、実施例1、6(カテゴリー(i)及び(v))と概ね同様の厚さ分布を有する追加実施例1、2を製造し、耐電圧を評価したところ、それぞれ、1455V、2480Vと実施例1、6の値の±10%以内の値であった。
【0058】
更に、重量分子量が32000程度のPAI樹脂を用いて、実施例1、6(カテゴリー(i)及び(v))と概ね同様の厚さ分布を有する追加実施例3、4を製造し、耐電圧を評価したところ、それぞれ、1382V、2539Vと実施例1、6の値の±10%以内の値であった。
【0059】
また、絶縁皮膜の材料としては、主成分がPAI樹脂であって、エポキシ樹脂を混合しているものが一般的である。エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、脂肪族型、グリシジルアミン型、のエポキシ樹脂が挙げられる。エポキシ樹脂の含有量は、PAI樹脂に対して、0~50%程度が許容され得る。120℃以下で硬化しないような場合は、硬化剤や硬化促進剤を添加してもよい。硬化剤として、脂肪族ポリアミン、芳香族アミン、ポリアミドアミン、アミン塩、酸無水物、イミダゾール化合物、BF3錯体が挙げられる。硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂に対して、化学量論の80~110%程度が許容され得る。また、絶縁皮膜の摺動性を向上させるために、絶縁性の固体潤滑剤を混合しても良い。例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化エチレンプロピレン樹脂、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート、マイカ、等が挙げられる。固体潤滑剤の含有量は、乾燥したPAI樹脂の0~30%程度が許容され得る。
【0060】
(固体潤滑皮膜についての補足)
以上の実施例1~9及び追加実施例1~4について、固体潤滑皮膜に基づく耐摩耗性は、FALEX社製のブロックオンリング式LFWA-1摩擦摩耗試験器を用いた摩擦摩耗試験によって評価され、既存の固体潤滑皮膜と同等以上の良好な結果を得た。具体的には、潤滑油をATFとし、各実施例(試験片)を55RPMで回転させ、ADC12(アルミニウム合金の一種)のブロックに100LBSで押し付けて24時間摺動させ、その後の試験片及びブロックの断面曲線を測定して摩耗量を判定したところ、比較例7では試験中に摩擦係数が急上昇したため8時間で試験を中断したが、実施例1~9及び追加実施例の1~4では24時間継続され、試験片の摩耗量が25μm以下で、ブロックの摩耗量が5μm以下であって、良好な結果であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7