(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140315
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】プレス金型、及び、平行プレス製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21D 37/14 20060101AFI20241003BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20241003BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B21D37/14 F
B21D24/00 L
B21D22/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051404
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 京介
【テーマコード(参考)】
4E050
4E137
【Fターム(参考)】
4E050FA02
4E050FB03
4E137AA10
4E137EA26
4E137EA36
4E137HA10
(57)【要約】
【課題】プレス機に取り付けた状態で上型と下型との平行度を調整可能なプレス金型を提供する。
【解決手段】プレス金型において上型又は下型の一方は、フローティングユニット30と、複数のクサビコマ63と、コマロック機構(調整ネジ67、ロックナット69)と、を備える。フローティングユニット30は、金型中心線Oを共有して対向する第1プレート40及び第2プレート50を含み、金型中心線上Oの点を支点として第1プレート40と第2プレート50との相対的傾きが調整可能に構成されている。複数のクサビコマ63は、フローティングユニット30の金型中心線Oを基準として放射状に配置される。クサビコマ63は、第1プレート40と第2プレート50との間で金型中心線Oに向かって嵌入され、第1プレート40と第2プレート50との相対的傾き状態を保持する。コマロック機構は、クサビコマ63が嵌入された位置でクサビコマ63を固定する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型(700)のプレス面(72)と下型(80)のプレス面(82)との間でワーク(100)がプレスされるプレス金型であって、
前記上型又は前記下型の一方は、
金型中心線(O)を共有して対向する第1プレート(40)及び第2プレート(50)を含み、前記金型中心線上の点を支点として前記第1プレートと前記第2プレートとの相対的傾きが調整可能に構成されたフローティングユニット(30)と、
前記フローティングユニットの前記金型中心線を基準として放射状に3箇所以上配置され、前記第1プレートと前記第2プレートとの間で前記金型中心線に向かって嵌入され、前記第1プレートと前記第2プレートとの相対的傾き状態を保持する複数のクサビコマ(63)と、
前記クサビコマが嵌入された位置で前記クサビコマを固定するコマロック機構(67、69)と、
を備え、
プレス機(90)に取り付けられ、前記上型及び前記下型の前記プレス面同士が当接して前記第1プレートと前記第2プレートとの相対的傾きが倣い調整された状態で、複数の前記クサビコマが嵌入位置で固定されることが可能なプレス金型。
【請求項2】
前記フローティングユニットの前記第1プレート及び前記第2プレートは、前記金型中心線上に凹球面を有するボール受容穴(41、51)が形成されており、前記ボール受容穴に受容されたボール(61)の頂点を支点としてフローティング可能である請求項1に記載のプレス金型。
【請求項3】
複数の前記クサビコマは、前記第1プレートに放射状に形成された収容溝(43)に収容され、前記金型中心線に向かって嵌入されたとき、第1接触部(634)が前記収容溝の溝底面(44)に接触し、第2接触部(635)が前記第2プレートに形成された傾斜面(55)に接触する請求項1に記載のプレス金型。
【請求項4】
前記クサビコマは、調整ネジ(67)の回転角度に応じて前記金型中心線に向かって嵌入され、
前記コマロック機構は、前記調整ネジと、前記調整ネジの回転を規制するロックナット(69)とで構成されている請求項1に記載のプレス金型。
【請求項5】
プレス機(90)に取り付けられたプレス金型(200)の上型(700)のプレス面(72)と下型(80)のプレス面(82)との間にワーク(100)を挟んでプレスし、上端面と下端面とが平行である平行プレス製品を製造する方法であって、
前記上型又は前記下型の一方は、
金型中心線(O)を共有して対向する第1プレート(40)及び第2プレート(50)を含み、前記金型中心線上の点を支点として前記第1プレートと前記第2プレートとの相対的傾きが調整可能に構成されたフローティングユニット(30)と、
前記フローティングユニットの前記金型中心線を基準として放射状に3箇所以上配置され、前記第1プレートと前記第2プレートとの間で前記金型中心線に向かって嵌入され、前記第1プレートと前記第2プレートとの相対的傾き状態を保持する複数のクサビコマ(63)と、
前記クサビコマが嵌入された位置で前記クサビコマを固定するコマロック機構(67、69)と、
を備え、
前記プレス金型を前記プレス機に取り付け、前記上型及び前記下型の前記プレス面同士を当接させ、前記フローティングユニットの前記第1プレートと前記第2プレートとの相対的傾きが倣い調整されるフローティング工程(S1)と、
前記クサビコマが前記金型中心線に向かって嵌入されるコマ嵌入工程(S2)と、
前記クサビコマが嵌入された位置で前記コマロック機構により固定されるコマロック工程(S3)と、
前記プレス金型に前記ワークが挟まれてプレスされるワークプレス工程(S5)と、
を含む平行プレス製品の製造方法。
【請求項6】
前記平行プレス製品は、複数の平板状部品(11、12、13)の間に接着剤層(14)が積層された接着積層物である請求項5に記載の平行プレス製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス金型、及び、平行プレス製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示された技術では、平板状のリードフレーム、中間部材及び半導体チップの間に接着剤層が積層された積層構造体が、金型やプレスローラに挟まれて押圧されることで接着剤層が圧縮されて塑性変形する。積層構造体の半導体チップの上面とリードフレームの下面との間の平行度は接着剤層の厚さの所定比率以下となっていることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書では、プレス金型でプレスされて製造される、上端面と下端面とが平行である製品を「平行プレス製品」という。例えば特許文献1の積層構造体のような製品が平行プレス製品に該当する。平行プレス製品の中には上端面と下端面との平行度が数μm以下であることを要求されるものがある。その要求に対しプレス金型は、上型のプレス面と下型のプレス面との平行度を数μm以下にする必要がある。
【0005】
プレス金型単独でプレス面の精度を確保する視点から、上型及び下型がそれぞれ複数枚の型板で構成されている場合、一体に組み付けられた状態で研磨加工されることが好ましい。ただし、一部の型板にヒータ等の電気部品が設置されており、断線やクーラントの浸水による漏電等の懸念がある場合、一体での研磨加工ができない。型板を単体で研磨加工しても組付時に誤差が生じるおそれがある。また、上型及び下型を一体で研磨加工できる場合であっても、プレス機に取り付ける段階で傾きが生じるおそれもある。
【0006】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、プレス機に取り付けた状態で上型と下型との平行度を調整可能なプレス金型を提供することにある。別の目的は、平行度精度が確保された平行プレス製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上型(700)のプレス面(72)と下型(80)のプレス面(82)との間でワークがプレスされるプレス金型である。上型又は下型の一方は、フローティングユニット(30)と、複数のクサビコマ(63)と、コマロック機構(67、69)と、を備える。
【0008】
フローティングユニットは、金型中心線(O)を共有して対向する第1プレート(40)及び第2プレート(50)を含み、金型中心線上の点を支点として第1プレートと第2プレートとの相対的傾きが調整可能に構成されている。
【0009】
複数のクサビコマは、フローティングユニットの金型中心線を基準として放射状に3箇所以上配置される。クサビコマは、第1プレートと第2プレートとの間で金型中心線に向かって嵌入され、第1プレートと第2プレートとの相対的傾き状態を保持する。コマロック機構は、クサビコマが嵌入された位置でクサビコマを固定する。
【0010】
このプレス金型は、プレス機(90)に取り付けられ、上型及び下型のプレス面同士が当接して第1プレートと第2プレートとの相対的傾きが倣い調整された状態で、複数のクサビコマが嵌入位置で固定されることが可能である。したがって、プレス機に取り付けた状態での倣い調整により、上型と下型との平行度を好適に調整することができる。
【0011】
本発明の別の態様は、プレス機(90)に取り付けられたプレス金型(200)の上型(700)のプレス面(72)と下型(80)のプレス面(82)との間にワーク(100)を挟んでプレスし、上端面と下端面とが平行である平行プレス製品を製造する方法である。例えば平行プレス製品は、複数の平板状部品(11、12、13)の間に接着剤層(14)が積層された接着積層物である。
【0012】
プレス金型の構成は、上記のプレス金型の発明と同様である。この製造方法は、フローティング工程(S1)と、コマ嵌入工程(S2)と、コマロック工程(S3)と、ワークプレス工程(S5)と、を含む。
【0013】
フローティング工程では、プレス金型をプレス機(90)に取り付け、上型及び下型のプレス面同士を当接させ、フローティングユニットの第1プレートと第2プレートとの相対的傾きが倣い調整される。
【0014】
コマ嵌入工程では、クサビコマが金型中心線に向かって嵌入される。コマロック工程では、クサビコマが嵌入された位置でコマロック機構により固定される。
【0015】
ワークプレス工程では、プレス金型にワークが挟まれてプレスされる。これにより、平行度精度が確保された平行プレス製品を製造することができる。例えば接着積層物では、接着剤層の厚みを均一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態によるプレス装置の上型上昇時(ワーク無し)の模式図。
【
図2】一実施形態によるプレス装置の上型下降時(ワーク無し)の模式図。
【
図3】一実施形態によるプレス装置のワークプレス時の模式図。
【
図4】平行プレス製品の例である接着積層物の(a)平面図、(b)正面図。
【
図5】一実施形態によるプレス金型の上型モジュールの正面図。
【
図6】
図5のVI-VI線断面図(第1プレートの底面図)。
【
図7】
図6のVII-VII線断面図(フローティングユニット断面図)。
【
図8】初期状態を示す
図6のVIII-VIII線断面模式図。
【
図9】平行プレス製品の製造方法のフローチャート。
【
図10】ψ=0でのクサビコマ嵌入~コマロック工程を示す模式図。
【
図11】ψ>0でのクサビコマ嵌入~コマロック工程を示す模式図。
【
図12】ψ<0でのクサビコマ嵌入~コマロック工程を示す模式図
【
図13】他の実施形態によるプレス金型のフローティングユニット部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施形態によるプレス金型、及び、平行プレス製品の製造方法を図面に基づいて説明する。パンチとダイとで様々な製品形状を成形する一般的なプレス金型とは異なり、本実施形態のプレス金型は、上型及び下型のプレス面がいずれも真正な平面である。このプレス金型は、上端面と下端面とが平行である平行プレス製品専用であり、底面積や高さが所定範囲内で多少異なる異種の平行プレス製品に対して共用可能である。プレス金型が一旦プレス機に取り付けられたら基本的に交換されることはなく、プレス機とプレス金型とが一体となった「プレス装置」として使用される。
【0018】
図1~
図3を参照し、一実施形態によるプレス装置900の構成及び動作を説明する。
図1、
図2にはワーク無しで上型700を上昇、下降させた状態を示し、
図3にはワーク100を装置にセットしてプレスしている状態を示す。プレス金型200がプレス機90に取り付けられた状態で一体のプレス装置900となっているが、便宜上、破線枠で囲んだ部分をプレス金型200とみなす。プレス金型200の中心線を金型中心線Oと表す。
【0019】
プレス機90は、基台91の上方に、天板92が支柱93及び背板94により支持されている。背板94には、プレス金型200の背面側の作業をしやすくするため作業窓95が形成されている。駆動モータ96の駆動力により、スライド98は、支柱93、及び、天板92から懸下されたガイドロッド97にガイドされて昇降する(
図1、
図2参照)。スライド98にはアダプタ99を介してプレス金型200の上型700が取り付けられている。プレス金型200の下型80は基台91に取り付けられている。
【0020】
プレス金型200は上型700及び下型80を含む。
図6に参照されるように、上型700及び下型80の平面形状は略円形である。本実施形態では、上型700はフローティングユニット30とパーティング部70とからなる。フローティングユニット30の構成及び機能については後述する。パーティング部70は、下型80と共にプレス機能を担い、狭義の上型に相当する。上型700のパーティング部70のプレス面72と下型80のプレス面82との間でワーク100がプレスされる(
図3参照)。例えば駆動モータ96は、プレス荷重を目標値に近づけるようにサーボ制御により駆動制御される。
【0021】
パーティング部70が狭義の上型だとすると、フローティングユニット30とパーティング部70とを合わせた部分を「上型モジュール700」としてもよい。なお、プレス装置900の完成に至るまでのフローティングユニット30の取付順序は問わない。フローティングユニット30のみが先にプレス機90のアダプタ99に取り付けられてから、上型パーティング部70及び下型80のセットがプレス機90に取り付けられてもよい。
【0022】
図4に、ワーク100となる平行プレス製品の一例である接着積層物を示す。接着積層物は、複数の平板状部品11、12、13の間に接着剤層14が積層されたものである。この例では、正方形板状の二枚の治具プレート11、12の間に略円板状のSiCインゴット13(半導体)が挟まれて接着される。上側の治具プレート11とSiCインゴット13の上面との間、及び、SiCインゴット13の下面と下側の治具プレート12との間にそれぞれ接着剤層14(WAX)が積層される。例えば治具プレート11、12の正方形面の大きさは一辺200mm程度であり、SiCインゴット13の厚さは最大50mm程度である。
【0023】
接着剤層14の厚みを均一にする必要があるため、両治具プレート11、12の端面の平行度は数μm以下であること、すなわち千分の一mm単位の精度を有することが要求される。その要求に対し、プレス金型200は、上型700のプレス面72及び下型80のプレス面82の各平面度が保証された上で、さらにプレス面72、82同士の平行度を数μm以下にする必要がある。
【0024】
ここで、上型パーティング部70及び下型80は、実際には一枚板ではなく、ヒータが設置された板、冷却通路が形成された板とそれをカバーする板等の複数枚の型板で構成されている。ヒータの断線やクーラントの浸水による漏電等を防止するため、複数枚の型板を合わせて一体で研磨加工することができない。プレス面72、82を有する型板を単体で研磨加工しても組付時に誤差が生じるおそれがある。また、ヒータ等の電気部品が設置されておらず、上型パーティング部70及び下型80を一体で研磨加工できる場合であっても、プレス機90に取り付ける段階で傾きが生じるおそれもある。
【0025】
そこで本実施形態のプレス金型200は、プレス機90に取り付けた状態で上型パーティング部70と下型80との平行度を調整可能としたものである。次に
図5~
図8を参照し、上型モジュール700、特にフローティングユニット30の構成について説明する。上下方向の断面図である
図7、
図8では、傾斜面55の角度θ等について上下方向の寸法比率を誇張して図示する。
【0026】
図5、
図7に示すように、フローティングユニット30は第1プレート40及び第2プレート50を含む。第1プレート40及び第2プレート50は、金型中心線Oを共有して対向する。フローティングユニット30は、金型中心線O上の点を支点として第1プレート40と第2プレート50との相対的傾きが調整可能に構成されている。
【0027】
具体的に第1プレート40及び第2プレート50は、金型中心線O上に凹球面を有するボール受容穴41、51が形成されており、両プレート40、50のボール受容穴41、51に跨ってボール61が受容される。第1プレート40及び第2プレート50は、センターずれが防止され、ボール61の頂点を支点としてフローティング可能である。
【0028】
図6に示すように、第1プレート40の平面形状は円形に近い十六角形を呈しており、第2プレート50も同様である。完全な円形ではないが、便宜上、金型中心線Oを通る直線の方向を径方向といい、金型中心線Oに近い側を径方向内側、金型中心線Oから遠い側を径方向外側という。
【0029】
第1プレート40には、金型中心線Oを基準として放射状に複数の収容溝43が形成されている。本実施形態では45°等間隔で8箇所の収容溝43が形成されている。収容溝43の径方向内側端部は、ボール受容穴41の周囲に形成された環状逃がし溝42に連通している。収容溝43の径方向外側は外側壁46で閉じられている。
【0030】
8箇所の各収容溝43にはクサビコマ63が収容されている。つまり本実施形態では、金型中心線Oを基準として放射状に8個のクサビコマ63が配置されている。クサビコマ63は段付直方体形状のブロックであり、両側面633が収容溝43の内側壁にガイドされて第1プレート40の径方向に摺動可能である(
図6参照)。クサビコマ63の径方向内側部分を前部、径方向外側部分を後部と記す。
【0031】
図8に示すように、第2プレート50は、ボール受容穴51の周囲から径外方向に向かって第1プレート40から離れるように傾斜面55が形成されている。傾斜面55は全周にわたってテーパ面となっている。傾斜面55の傾斜角θは例えば1°未満であり、勾配で1/100程度である。傾斜面55の外縁側には逃がし面56が形成されている。
【0032】
図8に示す初期状態ではクサビコマ63は径方向外側寄りに配置されている。上端面の第1接触部634と収容溝43の溝底面44との間、及び、後部下端面636と第2プレート50の逃がし面56との間には隙間がある。前部下端面の角である第2接触部635は、傾斜面55に重力で軽く接触している。クサビコマ63の後端面には調整ネジ67の先端面が当接するテールシート64が設けられている。
【0033】
調整ネジ67は第1プレート40の外周壁46に形成されたネジ穴47に螺合されている。初期状態では調整ネジ67の先端面はテールシート64に軽く接触しているか、或いは接触していなくてもよい。調整ネジ67の中間部にはロックナット69がフリー状態で保持されている。後述するようにクサビコマ63が第1プレート40と第2プレートとの間に嵌入された後、ロックナット69が調整ネジ67の回転を規制することでクサビコマ63が固定される。
【0034】
図5、
図7に示すように、最終締結ボルト39は、第2プレート50のフランジ部58に形成された挿通穴59を挿通し、第1プレート40に形成されたネジ穴49に螺合している。最終締結ボルト39は、周方向においてクサビコマ63と交互に8箇所設けられている。フローティングユニット30がフローティングする段階では、
図7の左側に示すように最終締結ボルト39は仮締め状態である。クサビコマ63が固定された後、
図7の右側に示すように最終締結ボルト39は本締めされる。
【0035】
続いて
図9のフローチャート及び
図10~
図12を参照し、本実施形態による平行プレス製品の製造方法について説明する。
図10~
図12には、上型700のパーティング部70の上下面が平行であることを前提とし、下型80のプレス面82の傾きに倣ってフローティングユニット30の第2プレート50がフローティングする状態を示す。
【0036】
フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。最後のS5を除くS1~S4は、「プレス金型の平行度調製方法」のステップでもある。S1~S4において、8個のクサビコマ63は、第1プレート40と第2プレートとの間で、調整ネジ67の回転角度に応じて金型中心線Oに向かって嵌入され、第1プレート40と第2プレート50との相対的傾き状態を保持する。ロックナット69は、クサビコマ63が嵌入された位置で調整ネジ67の回転を規制することで、クサビコマ63を固定する。本実施形態では、調整ネジ67及びロックナット69が「コマロック機構」を構成する。
【0037】
S1のフローティング工程では、プレス金型200をプレス機90に取り付け、上型700を下降させて、上型700及び下型80のプレス面72、82同士を当接させる(
図2参照)。プレス面72、82の平面度は個々に保証されているものとする。これにより、フローティングユニット30の第1プレート40と第2プレート50との相対的傾きが倣い調整される。
【0038】
ここで、フローティングユニット30のフローティング角度ψを次のように定義する。
図10に示すように、第2プレート50において金型中心線Oに垂直な平面(例えば逃がし面56)が第1プレート40の端面に平行であるとき、フローティング角度ψを0とする。上型700のプレス面72と下型80のプレス面82との平行度が0の場合、フローティング角度ψは0になる。
【0039】
図11に示す視方向にて、第2プレート50がボール61の頂点Pを支点として反時計回り方向に回転するときのフローティング角度ψを正(ψ>0)とする。フローティング角度ψが正のとき、この視方向における金型中心線Oの右側で第2プレート50は第1プレート40に接近する。
【0040】
図12に示す視方向にて、第2プレート50がボール61の頂点Pを支点として時計回り方向に回転するときのフローティング角度ψを負(ψ<0)とする。フローティング角度ψが負のとき、この視方向における金型中心線Oの右側で第2プレート50は第1プレート40から遠ざかる。
【0041】
S2のコマ嵌入工程では、調整ネジ67を回転させて調整ネジ67の先端面がテールシート64を押すことで、クサビコマ63が金型中心線Oに向かって移動し、第1プレート40と第2プレート50との間に嵌入される。クサビコマ63が金型中心線Oに向かって嵌入されたとき、第1接触部634が収容溝43の溝底面44に接触し、第2接触部635が傾斜面55に接触する。言い換えれば、クサビコマ63の第2接触部635が傾斜面55を上りながら、第1接触部634が収容溝43の溝底面44に接触する限界位置まで調整ネジ67が回転される。例えば勾配1/100の傾斜面55に対しピッチ1.0の調整ネジ67を1/10(36°)回転させると、クサビコマ63が1μm上に移動する。
【0042】
第1プレート40と第2プレート50との間隔が離れているほどクサビコマ63は深く嵌入される。フローティング角度ψと、初期状態から嵌入完了までのクサビコマ63の移動距離との関係について、ψ=0、ψ>0、ψ<0のときの移動距離をそれぞれX0、X1、X2とすると、「X1<X0<X2」となる。
【0043】
8個のクサビコマ63を嵌入させる作業では、全ての調整ネジ67を同じトルクで締め付けること、対角線の順番にバランス良く締め付けること等が要点となる。プレス機90の背板94に作業窓95が形成されているため金型背面側の作業性が良い。また、クサビコマ63は45°等間隔で8箇所に配置されており、前後左右の対称性があるため、作業者が3次元の傾きを把握しやすい。8個のクサビコマ63をバランス良く嵌入させることで、倣い調整された第1プレート40と第2プレート50との相対的傾き状態が精度良く保持される。
【0044】
S3のコマロック工程では、クサビコマ63が嵌入された位置でコマロック機構により固定される。つまり、8個のロックナット69をそれぞれ第1プレート40の外側壁46に当接させて締め込み、調整ネジ67の回転を規制することで、クサビコマ63が固定される。
【0045】
S4の本締め工程では、仮締め状態であった8本の最終締結ボルト39が本締めされ、第2プレート50と第1プレート40とが締結される。ロックナット69を締める作業や最終締結ボルト39の本締めする作業についても、背板94に作業窓95が形成されているため金型背面側の作業性が良い。
【0046】
S5のワークプレス工程では、プレス金型200にワーク100が挟まれてプレスされる(
図3参照)。なお、本実施形態では、上型パーティング部70及び下型80に設置されたヒータに通電され、プレス金型200が所定温度に加熱される。プレス金型200が一旦プレス機90に取り付けられたら基本的に交換されることはなく、一体のプレス装置900として量産が継続される。ただし、底面積や高さが所定範囲内で多少異なる異種の平行プレス製品を共通のプレス装置900で製造することも可能である。
【0047】
このように本実施形態のプレス金型200は、プレス機90に取り付けられ、上型700及び下型80のプレス面72、82同士が当接して第1プレート40と第2プレート50との相対的傾きが倣い調整された状態で、8個のクサビコマ63が嵌入位置で固定されることが可能である。したがって、プレス機90に取り付けた状態での倣い調整により、上型700と下型80との平行度を好適に調整することができる。
【0048】
また、本実施形態による平行プレス製品の製造方法では、上記のプレス金型を用いて、平行度精度が確保された平行プレス製品を製造することができる。例えばSiCインゴット13と治具プレート11、12との接着積層物では、接着剤層14の厚みを均一にすることができる。
【0049】
(その他の実施形態)
(a)上型でなく下型がフローティングユニット30を備えてもよい。つまり、本発明では上型又は下型の一方がフローティングユニット30を備える。また、フローティングユニット30の第1プレート40と第2プレート50とは上記実施形態に対し上下反転するように設けられてもよい。
【0050】
(b)上記実施形態では、最終締結ボルト39が仮締めの状態でフローティング工程が実施され、クサビコマ63が嵌入してロックされた後に最終締結ボルト39が本締めされて、第1プレート40と第2プレート50とが締結される。これに対し
図13に示す他の実施形態では、初期段階から第2プレート50はスタッドボルト37とスプリング38とを用いて第1プレート40にフレキシブルに締結されている。スタッドボルト37の頭部と第2プレート50のフランジ部58との間に設けられたスプリング38は、第2プレート50を第1プレート40側に付勢する。この構成では、
図9のフローチャートにおける本締め工程S4が不要となる。
【0051】
(c)フローティングユニット30は、第1、第2プレート40、50とは別部品であるボール61を備える構成に限らない。例えば、一方のプレートに一体に形成された凸球部と他方のプレートに形成された凹球部とが金型中心線O上の一点で接触するように構成されてもよい。
【0052】
(d)クサビコマ63の数は8個に限らない。プレス面72、82の平面度が理想的に0であれば、金型中心線Oを基準として最低3個のクサビコマ63が放射状に配置されればよい。ただし現実にプレス面72、82のうねり等を考慮すると、上記実施形態のように8個、又はそれ以上のクサビコマ63が設けられることが好ましい。
【0053】
(e)上記実施形態の調整ネジ67はクサビコマ63のテールシート64を押すのみであるが、他の実施形態では、例えばクサビコマ63の後端面に螺合された調整ネジを正逆回転することにより、クサビコマ63を押し引き可能な構造としてもよい。これにより、クサビコマ63の嵌入作業時に誤って押し過ぎた場合に、一度引き戻して嵌入し直すことができる。
【0054】
(f)クサビコマ63は、側面633が収容溝43の内側壁にガイドされて摺動する構成に限らない。例えば、クサビコマの底面に形成された凹部が第2プレートに形成されたレールにガイドされて摺動するようにしてもよい。
【0055】
(g)コマロック機構は、調整ネジ67とロックナット69とで構成されるものに限らない。クサビコマ63を直動させる何らかの直動機構と、所定位置で直動機構をクランプする手段とを組み合わせて構成されればよい。
【0056】
(h)本発明の製造方法の対象となる接着積層物は、治具プレート11、12とSiCインゴット13との接着積層物に限らず、他の半導体や半導体以外の接着積層物であってもよい。さらに、本発明の製造方法の対象は接着剤層14が圧縮される接着積層物に限らず、上端面と下端面との平行度が要求されるどのような平行プレス製品であってもよい。
【0057】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0058】
100・・・ワーク(平行プレス製品)、
200・・・プレス金型、
30 ・・・フローティングユニット、
40 ・・・第1プレート、 50 ・・・第2プレート、
63 ・・・クサビコマ、 67 ・・・調整ネジ、 69 ・・・ロックナット、
700・・・上型(上型モジュール)、 72・・・プレス面、
80 ・・・下型、 82・・・プレス面、
90 ・・・プレス機。