(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140320
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】伸縮性織物
(51)【国際特許分類】
D03D 15/47 20210101AFI20241003BHJP
D03D 15/56 20210101ALI20241003BHJP
D03D 15/283 20210101ALI20241003BHJP
D03D 15/217 20210101ALI20241003BHJP
D02G 3/36 20060101ALI20241003BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20241003BHJP
【FI】
D03D15/47
D03D15/56
D03D15/283
D03D15/217
D02G3/36
A41D31/00 502B
A41D31/00 503G
A41D31/00 503Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051410
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和義
(72)【発明者】
【氏名】古庭 裕樹
【テーマコード(参考)】
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA06
4L036MA39
4L036PA31
4L036RA24
4L036UA01
4L048AA08
4L048AA09
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4L048AB01
4L048AB11
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4L048AB19
4L048AC12
4L048BA01
4L048CA01
4L048CA02
4L048CA04
4L048DA01
4L048EA00
(57)【要約】
【課題】伸縮性、風合い、引張強さおよび耐切創性に優れ、かつ高い伸び率を有する織物を提供する。
【解決手段】芯糸に弾性糸を用い、鞘糸に引張強さが17.5cN/dtex以上の高機能繊維および非高機能繊維を含む芯鞘複合糸を用いてなる織物であって、前記織物重量に対して、弾性糸を1~10重量%、かつ、高機能繊維を5~90重量%含み、前記弾性糸および/または高機能性繊維の含有量を増減することで、前記織物の伸び率を15%以上に調整したことを特徴とする伸縮性織物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸に弾性糸を用い、鞘糸に引張強さ17.5cN/dtex以上の高機能繊維および非高機能繊維を含む芯鞘複合糸を用いてなる織物であって、
前記織物重量に対して、前記弾性糸を1~10重量%かつ前記高機能繊維を5~90重量%含み、
前記弾性糸および/または高機能性繊維の含有量を増減することで、前記織物の伸び率を調整したことを特徴とする伸縮性織物。
【請求項2】
前記織物のJIS L1096 8.16B法で測定した伸び率が15%以上である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項3】
前記織物のJIS L1096 8.14A法(ラベルドストリップ法)で測定した、たて方向および/またはよこ方向の引張強さが100N/cm以上である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項4】
前記織物のJIS T8052法で測定した耐切創性が2.0以上である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項5】
前記弾性糸が、ポリウレタン弾性糸である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項6】
前記非高機能繊維が、合成繊維(ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン)、再生繊維(レーヨン、キュプラ)、半合成繊維(アセテート)、及び天然繊維(綿、麻)から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項7】
前記織物が、綾織組織を有する織物である、請求項1に記載の伸縮性織物。
【請求項8】
請求項1~7いずれかに記載の伸縮性織物を用いてなる衣料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘複合糸を用いてなる、耐切創性を有する伸縮性織物に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性糸を芯糸、高機能繊維を鞘糸に用いた芯鞘複合糸は、その優れた伸縮性と耐切創性を活かして、繊維製品に使用されている。例えば、特許文献1には、芯糸に弾性糸、鞘糸にパラ系アラミド短繊維の紡績糸を用いた芯鞘複合糸を用いてなる手袋(編物)が開示されている。また、特許文献2には、芯糸に弾性糸、鞘糸にパラ系アラミド繊維のフィラメント糸を用いた芯鞘複合糸を用いた防護衣料(編物、織物)が開示されている。しかし、特許文献1、2の織編物は、耐切創性に優れるものであるが、伸び率や引張強さに課題がある。
【0003】
また、特許文献3には、弾性糸とメタ系アラミド繊維の紡績糸からなる芯鞘複合糸を用いることで、織物の引張強さが高くなることが開示されているが、布帛面に金属粒子含有層と着色剤含有樹脂層を積層しているため、加工工程が煩雑になる不都合があるだけでなく、風合いも劣る。
【0004】
さらに、特許文献4には、難燃性と伸縮性を付与するため、2成分がサイドバイサイド型あるいは偏心芯鞘型に貼り合わされた複合繊維と、アラミド繊維等の難燃繊維を含む紡績糸との複合糸を用いた平織物が開示されている。難燃性かつ伸縮性の布帛にするため、難燃性繊維を75重量%以上(対布帛)、複合繊維を5~15重量%(対布帛)含むことを特徴としているが、布帛の伸び率は、最大でも12%程度である。そのため、一般的にストレッチのある作業着(Tシャツやインナーウェア)、ズボン等の用途向けとしては伸縮性が不足している。耐切創性には言及していない。
【0005】
したがって、高機能繊維(難燃性繊維)を用いて耐切創性を有する織編物を作製することは、これまで検討されているが、高機能繊維を用いた織物で、伸縮性に優れ、風合いがよく、かつ、引張強さおよび耐切創性に優れる織物は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-011060号公報
【特許文献2】特開2003-193314号公報
【特許文献3】特開2014-061646号公報
【特許文献4】特開2014-240532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑みてなされたものであり、伸縮性、風合い、引張強さおよび耐切創性に優れ、かつ高い伸び率を有する織物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明者等は鋭意検討を行い、弾性糸からなる芯糸の周囲を、引張強さに優れる高機能繊維と非高機能繊維を含む鞘糸で構成した芯鞘複合糸にすることで、前記課題を一挙に解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
芯糸に弾性糸を用い、鞘糸に引張強さが17.5cN/dtex以上の高機能繊維および非高機能繊維を含む芯鞘複合糸を用いてなる織物であって、
前記織物重量に対して、前記弾性糸を1~10重量%かつ前記高機能繊維を5~90重量%含み、前記弾性糸および/または高機能性繊維の含有量を変更することで、前記織物の伸び率 (JIS L1096 8.16B法に準拠)を調整したことを特徴とする伸縮性織物を提供する。
【0010】
前記本発明の伸縮性織物は、伸び率(JIS L1096 8.16B法に準拠)が、15%以上であることを特徴とする。
また、前記本発明の伸縮性織物は、たて方向および/またはよこ方向の引張強さ(JIS L1096 8.14A法に準拠)が、100N/cm以上であり、耐切創性(JIS T8052法)が2.0以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の伸縮性織物は、芯糸に弾性糸を一定の比率で含み、鞘糸に引張強さに優れる高機能繊維を一定の比率で含むため、弾性糸や高機能繊維の含有量を変更することで、伸び率が高い(例えば15%以上)の織物を得ることができる。得られる織物は伸縮性、風合い、引張強さおよび耐切創性に優れている。また、芯鞘複合糸における弾性糸や高機能繊維の含有量を増減することで、織物の伸び率を調整した際にも、織物の引張強力や耐切創性が急激に低下することがない。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の伸縮性織物(以下、「織物」と省略することがある。)は、芯糸に弾性糸、鞘糸に引張強さが17.5cN/dtex以上の有機繊維および非高機能繊維を含む、芯鞘複合糸を用いてなるものである。
【0013】
[芯鞘複合糸]
(芯糸)
芯鞘複合糸の芯糸を構成する弾性糸としては、ポリウレタン系弾性糸やポリエステル系エラストマー繊維、仮撚捲縮加工糸等が挙げられる。それらの中でも、伸縮性に優れると共に、加工性が良好である点より、ポリウレタン系弾性糸が好ましい。
【0014】
前記弾性糸は、繊度が10~200dtexの範囲が好ましく、より好ましくは20~150dtex、さらに好ましくは40~100dtexである。10dtex以上であれば、鞘糸のカバーリング時あるいは織物の編成工程で糸切れの原因となることがなく、織物を着用した際のフィット感も良好である。200dtex以下であれば、芯鞘複合糸の伸び縮みのパワーが強すぎることがないため、織物着用時のフィット感および風合いを損なうことがない。
【0015】
前記弾性糸の破断伸度は、芯鞘複合糸に伸縮性を付与する観点より、200%以上であることが好ましく、300%以上であることがより好ましい。200%未満であると、織物を編成した時に十分な伸縮性を得ることができなくなるおそれがある。
【0016】
前記弾性糸は、織物重量に対して1~10%となる量範囲で用いられる。弾性糸の割合が、1重量%未満であると織物の伸縮性や風合いが劣り、10重量%を超えると織物のしぼ、しわの原因となりやすく、フラットな生地が得られにくい。より好ましくは1~8重量%、さらに好ましくは2~8重量%である。
【0017】
(鞘糸)
芯鞘複合糸の鞘糸は、高機能繊維および非高機能繊維を含む。
前記高機能繊維の重量比率は、織物重量に対して5~90重量%の範囲であることを要する。重量比率が、5重量%未満では、織物の耐切創性や引張強力が不十分となり、90重量%を超えると、織物の風合い(柔軟性等)が劣り、チクチク感が出ることがある。高機能繊維の重量比率は、好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは15~85重量%、特に好ましくは20~75重量%である。
【0018】
前記の高機能繊維としては、織物に高い引張強さを付与する観点より、原糸(フィラメント)の特性として、JIS L1013に基づいて測定される引張強さが、17.5cN/dtex以上の繊維が好適である。同じくJIS L1013に基づいて測定される引張弾性率が、400cN/dtex以上の繊維がより好適である。このような高機能繊維を用いることで、織物に対して、十分な引張強さと耐切創性を付与することができる。また、織成時の糸切れを無くすことができる。
【0019】
前記高機能繊維としては、例えば、パラ系アラミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ポリアミドイミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の高機能繊維の中から選択される1種、または2種以上の繊維を好ましく用いることができる。
【0020】
上記高機能繊維の中でも、原糸が、高強度および高弾性率で、耐切創性、耐熱性に優れている点から、パラ系アラミド繊維が好ましい。例えば、ポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維(東レ・デュポン株式会社製、商品名「ケブラー」)およびコポリパラフェニレン-3,4´-ジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維(帝人株式会社製、商品名「テクノーラ」)等のパラ系全芳香族ポリアミド繊維が挙げられる。なお、パラ系アラミド繊維は、公知またはそれに準ずる方法で製造したものを使用でき、また、上記のような市販品を用いてもよい。
【0021】
非高機能繊維としては、引張強さが17.5cN/dtex未満の繊維が該当する。このような非高機能繊維を高機能繊維と複合化することで、織物が有する耐切創性を著しく低下させずに、織物の伸び率を高くし、さらに風合いを向上させる効果がある。また、非高機能繊維を複合化することで、織成の際に芯鞘複合糸が糸切れするのを防止することができる。
【0022】
非高機能繊維としては、例えば、合成繊維(ナイロン、ビニロン、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン)、再生繊維(レーヨン、キュプラ)、半合成繊維(アセテート)、及び天然繊維(綿、麻);メタ系アラミド繊維(例えば、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(デュポン社製、商品名「ノーメックス」)等)等が挙げられ、これらの非高機能繊維の中から選択される1種、または2種以上の繊維を用いることができる。
これら非高機能繊維のなかでも、織物が有する耐切創性を著しく低下させることなく、織物の伸び率および風合いを高める効果が高い点で、セルロース系繊維(レーヨン、綿等)が好ましく、特に綿が好ましい。
【0023】
上記の高機能繊維、非高機能繊維(合成繊維、半合成繊維)の短繊維は、フィラメント糸(長繊維)の捲縮糸を切断したものが用いられる。短繊維は、JIS L1015に基づいて測定した繊度が1.0~5.0dtex、平均繊維長が25~200mm(より好ましくは30~110mm)、捲縮数が3~12山(より好ましくは5~10山)/25.4mmのものが望ましい。捲縮数が小さ過ぎると、風合い、柔軟性がある紡績糸を得ることが困難となり、反対に、捲縮数が大き過ぎると、アラミド長繊維の座屈、擦過等により強度が低下するおそれがある。
【0024】
また、綿繊維は、中長繊維綿(繊維長:26.2~27.8mm)や長繊維綿(繊維長:28.6~33.3mm)が用いられる。混紡績糸の品質安定性向上、および紡績工程でのトラブル防止には、高機能繊維の短繊維の繊維長を、できるだけ天然繊維の繊維長に近づけるのが良い。
【0025】
前記非高機能繊維の使用量は、弾性糸および高機能繊維の使用量にもよるが、通常、1~94重量%の範囲である。織物風合い向上の観点からは、織物重量に対して、5重量%以上用いることが好ましい。また、高機能繊維は主として織物の耐切創性や引張強さの向上に寄与するのに対し、非高機能繊維は主として織物の風合い向上に寄与するため、織物に所望の耐切創性(切創力;3.0N以上)と引張強さ(500N/5cm以上)を付与するためには、非高機能繊維は80重量以下(対織物重量)が好ましい。
【0026】
高機能繊維/非高機能繊維の重量比は、10/90~80/20が好ましい。より好ましくは15/85~70/30、さらに好ましくは、18/82~68/32である。この範囲で用いることで、高機能繊維が有する耐切創性および引張強力と、非高機能繊維が有する伸びおよび柔軟性を、織物に付与することができる。
【0027】
なお、上記の鞘糸を構成する繊維は、フィラメントのみ、短繊維のみ、あるいは、フィラメントと短繊維の組合せ、の中から任意に選択できるが、芯糸の被覆が容易で、織物の風合いが良好である点より、短繊維のみで構成することが好ましい。短繊維は、通常、紡績糸(混紡績糸)の形態で用いる。
【0028】
(カバーリング)
芯鞘複合糸は、芯糸を、鞘糸でカバーリングする公知の方法により作製することができる。例えば、弾性糸に、高機能繊維と非高機能繊維の混紡績糸(粗糸)をカバーリングする場合、精紡工程にて、粗混紡績糸の粗糸を弾性糸にカバーリングする公知の方法等を採用することができる。また、空気精紡機(例えば、村田機械株式会社製 VORTEX精紡機)を用いて練篠スライバーを弾性糸に空気の渦でカバーリングする方法でもよい。
カバーリングの際の撚り数は、10~20t/in(インチ)が好ましく、より好ましくは10~15t/インチである。また、下記式(1)で求められる撚係数(K)が2.5~6.0の範囲で加撚することが好ましい。撚係数(K)が2.5より小さいと、高機能繊維の短繊維同士の絡みが弱くなりすぎるために、短繊維の端部が紡績糸からはみ出し、ちくちく感の多い芯鞘複合糸になり易い。一方、撚係数(K)が6.0より大きいと、強撚になりすぎて二重撚の発生が強くなって加工性が悪化し、混紡績糸の引張強さが低下すると共に、風合いが悪化する。より好ましい撚係数(K)は3.0~5.0の範囲である。紡績糸単糸の撚方向は、S、Zのいずれでもよい。
【0029】
K=T/√N (1)
(ただし、Tは撚り数(t/インチ)、Nは綿番手)
【0030】
鞘糸によるカバーリングは、芯糸の周囲を一重にカバーリングするシングルカバーリングのみではなく、二重にカバーリングするダブルカバーリングでもよいが、芯糸の弾性糸による伸縮性の効果が十分に発揮されるとともに、軽量で薄手の布帛が得られる点から、シングルカバーリングが好ましい。なお、ダブルカバーリングの場合には、トルクを打ち消すため、鞘糸上のカバーリングの撚り方向は、鞘糸下のカバーリングの撚り方向と逆方向にするのが好ましい。
【0031】
[耐切創性伸縮性織物]
本発明の耐切創性伸縮性織物は、上記の芯鞘複合糸を用いることにより、JIS L 1096 8.16B法に準じて測定した織物の伸び率15%以上を達成し得るものである。前記伸び率が、15%未満では、生地のストレッチや柔軟性が不足する不都合がある。また、前記伸び率の上限は特にないが、30%程度が好ましい。より好ましくは25%である。理由としては、伸び率を高く設定した場合は、芯鞘複合糸における、芯糸あるいは非高機能繊維の比率を高くすることになるが、その場合は高機能繊維の比率が低下するため、織物に対して所望の切創力を付与することが困難になるためである。また、織物表面のしぼやしわになる原因となり、安定した耐切創性を得ることが困難となる。
【0032】
本発明の織物は、本発明の芯鞘複合糸を、布帛重量の50~100重量%用いて織成してなる。50重量%未満では、本発明の複合糸の効果(伸び率、引張強さ、耐切創性、伸縮性)が不充分となるおそれがある。より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは100重量%用いるのが良い。
【0033】
本発明の芯鞘複合糸は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維等他の公知の繊維との混繊、交撚等してなる複合糸としても使用することもできる。また、本発明の芯鞘複合糸は、最終製品の設計(要求されるストレッチ方向)に応じて、織物のタテ糸およびヨコ糸として、あるいはヨコ糸として、使用することができる。
【0034】
織組織は、平織、綾織、朱子織、変化織等のいかなる組織でも良いが、綾織(綾織変形組織を含む)組織は、織物の伸び易い、伸び率をある程度確保できる織物となる点で好ましく、織物組織の飛び数を多くすることにより、伸び易い生地となる。飛び数を多くし過ぎた場合、織物の耐切創性が低下する、あるいは、目ずれを起こす傾向が強くなるので、織物の完全組織における最大飛び数は、1飛び、2飛びまたは3飛び程度が望ましい。すなわち、織物組織としては、綾織(1飛び)、2/1ツイル(2飛び)、2/2ツイル(2飛び)等が望ましいが、用途に応じて選択すればよいのでこの限りでない。織密度は、経糸および緯糸糸条の繊度、織物組織、目付により決定するのがよい。
【0035】
本発明の織物の目付は、200g/m2以下が好ましく、200g/m2を超える織物の場合、耐切創性は十分であるが伸び率が不十分となる傾向がある。さらに好ましい目付は50~200g/m2である。特に好ましくは100~200g/m2である。目付を大きくすることで、織物の引張強さと耐切創性が良好になる。また、織物のカバーファクターは、1800~2500の範囲とすることが好ましく、前記の範囲内において、所望の伸び率、引張強さ、耐切創性および風合いを有する織物を得ることができる。
【0036】
本発明において、織物の伸び率に関し、JIS L1096 8.16B法による伸び率が、15%以上であることが望ましい。好ましくは15~30%、より好ましくは15~25%、さらに好ましくは15~20%である。15%未満では、織物を用いてなる衣料を着用する際、あるいは、動きの激しい作業やスポーツに着用した際に、支障をきたすおそれがある。
【0037】
本発明の織物は、織物の引張強さに関しては、JIS L1096 8.14A法による引張強さが、100N/cm以上であることが望ましい。好ましくは120N/cm以上、より好ましくは150N/cm以上、さらに好ましくは180N/cm以上である。100N/cm未満では、織物を用いてなる衣料の使用時あるいは洗濯時に破れるおそれがある。
【0038】
本発明の織物は、織物の耐切創性に関しては、JIS T8052法による耐切創性が2.0以上であることが望ましい。好ましくは2.1以上、より好ましくは2.3以上さらに好ましくは2.5以上である。2.0未満では、織物を用いてなる衣料の使用時に破れるおそれがある。本発明の織物は、厚み(目付)が増加すれば耐切創性も向上するので、織物の目付を調整することでも、所望の切創力を得ることができる。
【実施例0039】
次に、実施例および比較例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性等の評価方法は、以下の方法に準拠した。
【0040】
[糸繊度]
芯鞘複合糸の繊度は、JIS L1013:2010 化学繊維フィラメント糸試験方法8.3 B法(簡便法)により求めた。
F0=1000×m/L×(100+R0)/100
(F0:正量繊度(tex)、m:試料の絶乾重量(g)、L:試料の長さ(m)、R0:JIS L 0105の4.1に規定する工程水分率(%))
番手は、上記の正量繊度から換算した。
【0041】
[織物カのバーファクター]
下記式により求めた。
カバーファクター(CF)=√経糸総繊度×密度+√緯糸総繊度×密度
【0042】
[織物の風合い]
5名の被験者による着用試験を実施した。EN 420:2003 Protective gloves-General requirements and test methodsの5.2によって、被験者全員がデクステリティ(Dexterity)にレベル5の評価を与え、5名中5名が「フィット感良好」と評価した場合を◎(合格)、5名中3名以上が「フィット感良好」と評価した場合を○(合格)、5名中2名が「フィット感良好」と評価した場合を△、それ以外を×(不合格)とした。
【0043】
(芯鞘複合糸A)
ポリウレタン系弾性糸のライクラ44T(登録商標)(東レ・オペロンテックス株式会社製、繊度:44dtex)に、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)の短繊維(繊維長:38mm)と、中長繊維綿からなる混紡績糸(ケブラー/綿=65/35(重量比))を、16.0回/インチの撚り数でZ方向に巻き付け、綿番手20(s)の芯鞘複合糸Aを作製した。当該芯鞘複合糸Aの撚り係数は3.6となる。
【0044】
(芯鞘複合糸B)
ポリウレタン系弾性糸のライクラ78T(登録商標)(東レ・オペロンテックス株式会社製、繊度:78dtex)に、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)の短繊維(繊維長:38mm)と、中長繊維綿からなる混紡績糸(ケブラー/綿=65/35(重量比))を、16.0回/インチの撚り数でZ方向に巻き付け、綿番手20(s)の芯鞘複合糸Bを作製した。当該芯鞘複合糸Bの撚り係数は3.6となる。
【0045】
(芯鞘複合糸C)
ポリウレタン系弾性糸のライクラ78T(登録商標)(東レ・オペロンテックス株式会社製、繊度:78dtex)に、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)の短繊維(繊維長:38mm)と、中長繊維綿からなる混紡績糸(ケブラー/綿=20/80(重量比))を、16.0回/インチの撚り数でZ方向に巻き付け、綿番手20(s)の芯鞘複合糸Cを作製した。当該芯鞘複合糸Cの撚り係数は3.6となる。
【0046】
(芯鞘紡績糸D)
ポリウレタン系弾性糸のライクラ78T(登録商標)(東レ・オペロンテックス株式会社製、繊度:78dtex)に、アラミド繊維(ケブラー(登録商標)の短繊維(繊維長:38mm)と、中長繊維綿からなる混紡績糸(ケブラー/綿=65/35(重量比))を、12.0回/インチの撚り数でZ方向に巻き付け、綿番手10(s)の芯鞘紡績糸Dを作製した。当該芯鞘紡績糸Dの撚り係数は3.8となる。
【0047】
芯鞘複合糸A~Cおよび芯鞘紡績糸Dの物性を表1にまとめて示した。
【0048】
【0049】
(実施例1)
たて方向糸にケブラー紡績糸(20s)、よこ方向糸に芯鞘複合糸Aを用いて、レピア織機で2/1ツイル組織を製織し、織上げ幅200cmの織物を得た。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0050】
(実施例2)
たて方向糸にケブラー紡績糸(20s)、よこ方向糸に芯鞘複合糸Bを用いて、レピア織機で2/1ツイル組織を製織し、織上げ幅200cmの織物を得た。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0051】
(実施例3)
たて方向糸およびよこ方向糸に芯鞘複合糸Bを用いて、レピア織機で2/1ツイル組織を製織し、織上げ幅200cmの織物を得た。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0052】
(実施例4)
たて方向糸およびよこ方向糸に芯鞘複合糸Cを用いて、レピア織機で2/1ツイル組織を製織し、織上げ幅200cmの織物を得た。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0053】
(比較例1)
たて方向糸にケブラー紡績糸(20s)、よこ方向糸に芯鞘紡績糸Dを用いて、レピア織機で2/2ツイル組織を製織し、織上げ幅200cmの織物を得た。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0054】
(比較例2)
たて方向糸およびよこ方向糸にケブラー紡績糸(20s)を用いて、レピア織機で2/1ツイル組織を製織し、織上げ幅200cmの織物を得た。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0055】
(比較例3)
たて方向糸およびよこ方向糸に綿紡績糸(20s)を用いて、レピア織機で平織物を製織した。製織した織物の物性は表2に示す通りであった。
【0056】
表2より、たて方向糸にケブラー紡績糸、よこ方向糸に芯鞘紡績糸を用いて織成した比較例1の織物、ならびに、ケブラー紡績糸および綿紡績糸を用いて織成した比較例2、3の織物は、伸び率が最大で約3~5%であった。とりわけ紡績糸のみを経緯に用いた比較例2、3の織物は、伸び率が3%前後であり、本発明が目標とする15%にはほど遠いものであった。
【0057】
これに対し、たて方向糸にケブラー紡績糸、よこ方向糸に、芯糸の太さが異なる芯鞘複合糸(AまたはB)を用いて織成した実施例1、2の織物は、よこ方向糸に、ケブラー紡績糸あるいは綿紡績糸を用いた比較例2、3の織物に比べて、織物のよこ方向伸び率が約5倍になった。また、芯糸を太くすることにより、織物の伸び率が1.1%、切創力が0.3N高くなった。得られた織物は、十分な引張強さおよび耐切創性を備えていた。
【0058】
たて方向糸およびよこ方向糸に、ケブラー/綿を鞘糸とする芯鞘複合糸(BまたはC)を用いて織成した実施例3、4の織物は、実施例1、2の織物に比べて、たて・よこ両方向の伸び率が良好であり、得られた織物は、良好な引張強さおよび耐切創性を備えていた。
【0059】
また、芯鞘複合糸B(ケブラーリッチ)と芯鞘複合糸C(綿リッチ)を用いて織成した織物を比較すると(実施例3と4)、伸び率および耐切創性においては、両者の差は比較的小さかった。引張強さにおいては、芯鞘複合糸Bの方が高い値を示した。
【0060】
したがって、高機能繊維と非高機能繊維を含む芯鞘複合糸において、両者の比率は、伸び率には影響しないが、引張強さおよび耐切創性に影響することがわかる。
【0061】
本発明の耐切創性伸縮性織物は、伸縮性、引張強さ、耐切創性および風合いに優れているので、着心地と安全性を併有する織製品を提供することができる。したがって、土木建設作業や農作業あるいは漁業、林業、食品産業、医療、ハイテク産業等における作業用手袋、前掛け、作業服、帽子、各種のスポーツ製品、アウトドア製品等に好適に用いることができる。