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特開2024-140329金属拡張アンカーおよび金属拡張アンカーの施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140329
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】金属拡張アンカーおよび金属拡張アンカーの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/41 20060101AFI20241003BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
E04B1/41 503F
E04G21/12 105Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051423
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】390022389
【氏名又は名称】サンコーテクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【弁理士】
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179833
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 将尚
(72)【発明者】
【氏名】八木沢 康衛
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125BA14
(57)【要約】
【課題】施工に際して特殊な工具を必要とせず、かつ、施工者または管理者が施工状態を目視で確認できる金属拡張アンカーおよび金属拡張アンカーの施工方法を提供する。
【解決手段】金属拡張アンカー100は、ネジ孔11bを有するアンカー本体10と、第2軸部12に外挿される拡張スリーブ20と、第2軸部12に螺着される拡径部材30と、ネジ孔11bに螺着されるネジ軸42を有する回転体40と、を備える。第2軸部12には雄ネジが形成されている。拡径部材30は、アンカー本体10が回転することによって、拡張スリーブ20の内側に入り込んで拡張スリーブ20を拡張させる。回転体40は、ネジ軸42の螺着が進行することによって、第1螺着状態から第2螺着状態となる。回転体40は、第2螺着状態において所定値を超える回転トルクが加えられると、ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合が解除されて空転する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端にネジ孔を有する第1軸部、および前記第1軸部の他方の端から延びる第2軸部を有するアンカー本体と、
前記第2軸部に外挿される拡張スリーブと、
前記第2軸部に螺着される拡径部材と、
前記ネジ孔に螺着されるネジ軸を有する回転体と、を備え、
前記第2軸部に雄ネジが形成され、
前記拡径部材は、前記アンカー本体が回転することによって、前記拡張スリーブの内側に入り込んで前記拡張スリーブを拡張させ、
前記回転体は、前記ネジ孔に対する前記ネジ軸の螺着が進行することによって第1螺着状態から第2螺着状態となり、
前記回転体は、前記第2螺着状態において所定値を超える回転トルクが加えられると、前記ネジ軸と前記ネジ孔とのネジ嵌合が解除されて空転する、
金属拡張アンカー。
【請求項2】
前記回転体は、前記ネジ軸の一端に設けられたヘッド部を備え、
前記回転体が前記第2螺着状態にあるとき、前記ヘッド部は、前記第1螺着状態に比べて前記アンカー本体に近い、
請求項1記載の金属拡張アンカー。
【請求項3】
前記ネジ孔の深さは、前記ネジ軸の長さ以上である、
請求項1記載の金属拡張アンカー。
【請求項4】
前記回転体は、前記所定値を超える回転トルクが加えられたときに、前記ネジ軸と前記ネジ孔のうち少なくとも一方のネジが破損することによって前記ネジ嵌合が解除される、
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の金属拡張アンカー。
【請求項5】
一方の端にネジ孔を有する第1軸部、および前記第1軸部の他方の端から延びる第2軸部を有するアンカー本体と、前記第2軸部に外挿される拡張スリーブと、前記第2軸部に螺着される拡径部材と、前記ネジ孔に螺着されるネジ軸を有する回転体と、を備えた金属拡張アンカーの施工方法であって、
対象物に孔を形成する工程と、
前記孔に、前記回転体が第1螺着状態にある前記金属拡張アンカーを挿入し、前記回転体を前記第1螺着状態から第2螺着状態に進行させるとともに、前記回転体の回転により前記アンカー本体を回転させることによって、前記拡径部材によって前記拡張スリーブを拡張させ、前記拡張スリーブを前記孔の内面に係止させる工程と、
前記回転体に、前記第2螺着状態において所定値を超える回転トルクが加えることによって、前記ネジ軸と前記ネジ孔とのネジ嵌合を解除させて前記回転体を空転させる工程と、を有する、
金属拡張アンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属拡張アンカーおよび金属拡張アンカーの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や構造物を構成するコンクリート躯体に、各種の機器、配管、ダクト等の物品を取り付ける場合、金属拡張アンカーが用いられる。金属拡張アンカーは、コンクリート躯体に形成された孔に挿入され、定着される。金属拡張アンカーは、軸状(棒状)のアンカーボルトと、アンカーボルトの一端部に設けられた拡張部材と、を備える。金属拡張アンカーは、締付けに伴い、拡径部材が径方向外側に拡がる。これによって、拡径部材は孔の内周面に食い込み、金属拡張アンカーはコンクリート躯体に定着される。金属拡張アンカーには、各種の機器、配管、ダクト等の物品が取り付けられる。
【0003】
このような金属拡張アンカーは、コンクリート躯体に形成された孔に対する定着が不十分であると、物品の荷重等によって、ぐらつきが起きたり、孔からアンカー自体が抜けるおそれがある。
【0004】
金属拡張アンカーの施工品質は、施工者の習熟度等によって差が生じる場合がある。そこで、施工中または施工後に、金属拡張アンカーの定着が確実に行われたかどうかを施工者または管理者が目視で確認することが必要となる。
【0005】
特許文献1には、外周面に環状の破断溝を形成した構成の金属拡張アンカーが記載されている。この金属拡張アンカーは、ソケットレンチ等の工具を用いて所定値以上のトルクを作用させると、破断溝において破断が起きる。破断が起きるまでアンカーボルトを締め付けることによって、拡径部材が孔内で十分に拡張して金属拡張アンカーが確実に定着されたことを確認することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6047382号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような金属拡張アンカーにおいては、破断溝に対し、破断により取り除かれる側(コンクリート躯体から離間した側)にのみ、ソケット等の工具を係合させる必要がある。工具が、破断溝を挟んで、取り除かれる側と、コンクリート躯体側に残る側との両方に跨がっていると、破断溝で破断を生じさせるトルクが発生しないためである。したがって、上記のような金属拡張アンカーの施工に際しては、ソケットの深さが限定されてしまう。また、施工後には、破断溝で破断した破断片が廃棄物となり、その処分に手間が掛かるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて、施工に際して特殊な工具を必要とせず、かつ、施工者または管理者が施工状態を目視で確認できる金属拡張アンカーおよび金属拡張アンカーの施工方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様1の金属拡張アンカーは、一方の端にネジ孔を有する第1軸部、および前記第1軸部の他方の端から延びる第2軸部を有するアンカー本体と、前記第2軸部に外挿される拡張スリーブと、前記第2軸部に螺着される拡径部材と、前記ネジ孔に螺着されるネジ軸を有する回転体と、を備え、前記第2軸部に雄ネジが形成され、前記拡径部材は、前記アンカー本体が回転することによって、前記拡張スリーブの内側に入り込んで前記拡張スリーブを拡張させ、前記回転体は、前記ネジ孔に対する前記ネジ軸の螺着が進行することによって第1螺着状態から第2螺着状態となり、前記回転体は、前記第2螺着状態において所定値を超える回転トルクが加えられると、前記ネジ軸と前記ネジ孔とのネジ嵌合が解除されて空転する。
【0010】
本発明の態様1の構成によれば、施工者または管理者は、施工後に、回転体が第2螺着状態にあるかどうかを目視で確認することによって、金属拡張アンカーの施工状態を確認することができる。
本発明の態様1の構成によれば、施工時に特殊な専用工具が必要ないため、施工が容易となる。
【0011】
本発明の態様2の金属拡張アンカーは、態様1の金属拡張アンカーにおいて、前記回転体は、前記ネジ軸の一端に設けられたヘッド部を備え、前記回転体が前記第2螺着状態にあるとき、前記ヘッド部は、前記第1螺着状態に比べて前記アンカー本体に近い。
【0012】
本発明の態様2の構成によれば、回転体が第2螺着状態にあることを目視によって容易に確認できる。
【0013】
本発明の態様3の金属拡張アンカーは、態様1または態様2の金属拡張アンカーにおいて、前記ネジ孔の深さは、前記ネジ軸の長さ以上である。
【0014】
本発明の態様3の構成によれば、回転体のヘッド部は、第2螺着状態においてアンカー本体に接触または近接する。そのため、回転体が第2螺着状態にあることを目視によって容易に確認できる。
【0015】
本発明の態様4の金属拡張アンカーは、態様1~態様3のうちいずれか1つに記載の金属拡張アンカーにおいて、前記回転体は、前記所定値を超える回転トルクが加えられたときに、前記ネジ軸と前記ネジ孔のうち少なくとも一方のネジが破損することによって前記ネジ嵌合が解除される。
【0016】
本発明の態様4の構成によれば、回転体を回転させる力によってネジ嵌合を解除することができる。よって、容易な操作で回転体を空転させることができる。
【0017】
本発明の態様5の金属拡張アンカーの施工方法は、一方の端にネジ孔を有する第1軸部、および前記第1軸部の他方の端から延びる第2軸部を有するアンカー本体と、前記第2軸部に外挿される拡張スリーブと、前記第2軸部に螺着される拡径部材と、前記ネジ孔に螺着されるネジ軸を有する回転体と、を備えた金属拡張アンカーの施工方法であって、対象物に孔を形成する工程と、前記孔に、前記回転体が第1螺着状態にある前記金属拡張アンカーを挿入し、前記回転体を前記第1螺着状態から第2螺着状態に進行させるとともに、前記回転体の回転により前記アンカー本体を回転させることによって、前記拡径部材によって前記拡張スリーブを拡張させ、前記拡張スリーブを前記孔の内面に係止させる工程と、前記回転体に、前記第2螺着状態において所定値を超える回転トルクが加えることによって、前記ネジ軸と前記ネジ孔とのネジ嵌合を解除させて前記回転体を空転させる工程と、を有する。
【0018】
本発明の態様5の構成によれば、施工者または管理者は、施工後に、回転体が第2螺着状態にあるかどうかを目視で確認することによって、金属拡張アンカーの施工状態を確認することができる。
本発明の態様5の構成によれば、施工時に特殊な専用工具が必要ないため、施工が容易となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、施工に際して特殊な工具を必要としない。本発明の一態様によれば、施工者または管理者が施工状態を目視で確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】(A)は実施形態に係る金属拡張アンカーのボルトを示す平面図である。(B)は実施形態に係る金属拡張アンカーの外観を示す側面図である。
図2】実施形態に係る金属拡張アンカーの分解図である。
図3】実施形態に係る金属拡張アンカーの一部を示す一部断面図である。
図4】実施形態に係る金属拡張アンカーの一部を示す一部断面図である。
図5】実施形態に係る金属拡張アンカーの一部を示す一部断面図である。
図6】実施形態に係る金属拡張アンカーの施工方法を示す工程図である。
図7】実施形態に係る金属拡張アンカーの施工におけるボルトの回転トルクの具体例を示す図である。
図8】変形例に係るアンカー本体の一部を示す一部断面図である。
図9】変形例に係る回転体を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態に係る金属拡張アンカーおよび金属拡張アンカーの施工方法を、図面を参照して説明する。
【0022】
[金属拡張アンカー]
図1(A)は、実施形態に係る金属拡張アンカー100のボルト40を示す平面図である。図1(B)は、実施形態に係る金属拡張アンカー100の外観を示す側面図である。図2は、金属拡張アンカー100の分解図である。図3図5は、金属拡張アンカー100の一部を示す一部断面図である。
【0023】
図1(A)、図1(B)および図2に示すように、金属拡張アンカー100は、アンカー本体10と、拡張スリーブ20と、コーンナット30(拡径部材)と、ボルト40(回転体)と、を備える。
図2において、Cは金属拡張アンカー100の中心軸である。図2における左右方向はX方向である。X方向は中心軸Cに沿う。図2における右方向は+Xの向きである。+Xの向きと反対の方向は-Xの向きである。「軸周り方向」は、中心軸Cの周りの方向である。
【0024】
(アンカー本体)
図2に示すように、アンカー本体10は、第1軸部11と、第2軸部12とを備える。
第1軸部11の第1部分11Aの外周面には、雄ネジが形成される。第1部分11Aは、第1軸部11の第1端11a(一方の端)(-X側の端)を含む長さ部分である。第1軸部11の第1端11aの端面には、ネジ孔11bが形成されている。ネジ孔11bは、第1軸部11の中心軸Cに沿って形成されている。
【0025】
図3に示すように、ネジ孔11bの内周面は、第1領域11b1と、第2領域11b2とを有する。
第1領域11b1は、ネジ孔11bの内周面のうち、ネジ孔11bの開口端を含む領域である。第2領域11b2は、ネジ孔11bの内周面のうち、第1領域11b1より深い領域(+X側の領域)である。第1領域11b1には、雌ネジが形成されている。第2領域11b2には雌ネジは形成されていない。第1領域11b1の深さは、例えば、ネジ孔11bの深さD1の約半分である。ネジ孔11bの深さD1は、例えば、第1領域11b1と第2領域11b2の合計長さである。
【0026】
図4に示すように、ボルト40は、ネジ軸42が第1領域11b1の全長にわたって螺着したとき、第1螺着状態となる。
【0027】
ボルト40は、第1領域11b1の全長に螺着させるだけで第1螺着状態となる。そのため、ボルト40を第1螺着状態とする操作は容易となる。第2領域11b2に雌ネジがないため、ネジ孔11bの深さ方向へのボルト40の位置ずれを抑制できる。
【0028】
ネジ孔11bの深さD1は、ボルト40のネジ軸42の長さL1以上であることが好ましい。言い換えれば、ネジ孔11bの深さD1は、ネジ軸42の長さL1と同じ、または長さL1より大きいことが好ましい。ネジ孔11bの深さD1がネジ軸42の長さL1以上であることによって、第2螺着状態(図5参照)において、ヘッド部41はアンカー本体10に接触または近接した状態となる。
【0029】
図2に示すように、第2軸部12は、第1軸部11の第2端11c(他方の端)(+X側の端)から+Xの向きに延出する。第2端11cは、第1軸部11の第1端11aとは反対の端である。第2軸部12の外周面には雄ネジが形成されている。第2軸部12の外径は、例えば、第1軸部11の外径より小さい。第1軸部11の第2端11cには、第1軸部11と第2軸部12との外径差により段部13が形成されている。
【0030】
(拡張スリーブ)
拡張スリーブ20は、円筒状に形成されている。拡張スリーブ20の内径は、第2軸部12の外径と同じ、または第2軸部12の外径より大きい。拡張スリーブ20は第2軸部12に外挿される。第2軸部12は拡張スリーブ20に挿通する。拡張スリーブ20の内径は、段部13の外径より小さい。そのため、拡張スリーブ20は、段部13によって-Xの向きの移動が規制される。
【0031】
拡張スリーブ20の先端20aを含む長さ部分には、複数のスリット21(すり割り)が形成されている。スリット21は、拡張スリーブ20の長さ方向に沿う。拡張スリーブ20の先端20aを含む長さ部分は、スリット21によって、突片状の拡張部22に分割されている。拡張部22は、コーンナット30のテーパ部31によって外方に押圧されたときに、径方向の外側(拡張方向)に曲げ変形可能である。
【0032】
複数のスリット21は、軸周り方向に回転対称となる位置に形成されることが好ましい。本実施形態では、スリット21は軸周り方向に90°ごとに形成されている。拡張スリーブ20の先端20aを含む長さ部分は、4つのスリット21によって、4つの拡張部22に分割されている。スリットの数は、2以上(例えば、3以上)が好ましい。
【0033】
(コーンナット)
コーンナット30は、テーパ部31と定径部32とを有する。定径部32は円柱状に形成されている。テーパ部31は定径部32の一端から-Xの向きに縮径しつつ延出する。テーパ部31は、円錐台形状に形成されている。テーパ部31の外周面は、-Xの向きに縮径するテーパ面である。テーパ部31の先端31aの外径(最小外径)は、拡張スリーブ20の内径以下である。テーパ部31の基端31bの外径(最大外径)は、拡張スリーブ20の内径より大きい。
【0034】
コーンナット30には、ネジ孔30aが形成されている。ネジ孔30aは、中心軸Cに沿ってコーンナット30を貫通して形成されている。ネジ孔30aには第2軸部12が挿通する。ネジ孔30aの内周面には、第2軸部12の雄ネジに螺合する雌ネジが形成されている。コーンナットは、「拡径部材」の一例である。コーンナットは、拡径ナットともいう。
【0035】
(ボルト)
ボルト40は、ヘッド部41と、ネジ軸42とを備える。ヘッド部41は、ネジ軸42の一端に設けられている。ヘッド部41は、例えば、円柱状に形成されている。ヘッド部41の外径はネジ軸42の外径より大きい。ボルト40は「回転体」の一例である。
【0036】
ヘッド部41には、回転操作部(駆動部)が形成されている。回転操作部は、ボルト40を回転させる際に、回転工具(例えば、電動工具、手工具)の回転力をボルト40に伝達可能とする構造を有する。回転操作部としては、ヘッド部41の外面(-X側の面)に形成されたレンチ穴を例示できる。レンチ穴としては、六角穴、四角穴、十字穴、マイナス溝などが挙げられる。本実施形態では、回転操作部は、ヘッド部41に形成された六角穴41aである(図1(A)参照)。
【0037】
ヘッド部の形状は特に限定されない。ヘッド部は、角柱状(六角柱状、四角柱状など)であってもよい。ヘッド部の最大外形寸法(中心軸に直交する方向の寸法)は、例えば、ネジ軸の外径より大きい。ヘッド部が角柱状である場合、ヘッド部は回転操作部として機能する。
【0038】
図3に示すように、ネジ軸42の外周面には全長にわたって雄ネジが形成されている。ネジ軸42は、ヘッド部41の一方の面(+X側の面)から+Xの向きに突出する。ネジ軸42は、第1軸部11のネジ孔11bに螺着される。
【0039】
図4は、ボルト40が第1螺着状態にある金属拡張アンカー100を示す。第1螺着状態では、ボルト40は、ヘッド部41がアンカー本体10の第1端11aから-X側に離間した状態でネジ孔11bに螺着している。施工開始時には、ボルト40は第1螺着状態にある。ネジ軸42は第1領域11b1の全長にわたって螺着している。そのため、ネジ軸42は、長さの約半分がネジ孔11bに螺着している。
【0040】
図5は、ボルト40が第2螺着状態にある金属拡張アンカー100を示す。第2螺着状態は、第1螺着状態と比べてネジ軸42の螺着が進行した状態である。ヘッド部41は第1螺着状態に比べてアンカー本体10に近い。図5に示す例では、ヘッド部41はアンカー本体10に接触または近接している。ネジ軸42は、全長にわたってネジ孔11bに挿入されている。
【0041】
アンカー本体10、拡張スリーブ20、コーンナット30およびボルト40は、金属で形成される。
【0042】
[金属拡張アンカーの施工方法]
次に、実施形態に係る金属拡張アンカーの施工方法について説明する。
【0043】
<穿孔工程P1>
図6(A)に示すように、躯体60は施工対象物(対象物)である。躯体60は、例えば、コンクリートなどで構成されている。例えば、回転工具(図示略)のドリルによって躯体60に下孔61(孔)を形成する。下孔61は、例えば、躯体60の表面に対し垂直に形成されている。下孔61の内径は、金属拡張アンカー100の外径より大きい。下孔61の内径は、拡張スリーブ20の拡張部22が拡張したときに下孔61の内周面に係止できるように定められる。下孔61の深さは、金属拡張アンカー100のアンカー本体10の上端(第1端11a)を含む長さ部分が躯体60の表面から突出するように定められる(図6(B)参照)。
穿孔工程P1は、対象物に孔を形成する工程の一例である。
【0044】
<係止工程P2>
係止工程P2は、ボルト螺着工程P21と、コーンナット螺着工程P22とを含む。これらの工程について詳しく説明する。
【0045】
(ボルト螺着工程P21)
図6(B)に示すように、ボルト40が第1螺着状態(図4参照)にある金属拡張アンカー100を下孔61に挿入する。金属拡張アンカー100の下端(第2軸部12の下端)は、下孔61の底面に達する。金属拡張アンカー100のアンカー本体10の上端(第1端11a)を含む長さ部分は、躯体60の表面から上方に突出する。コーンナット30は、例えば、テーパ部31の先端を含む部分が拡張スリーブ20に挿入された状態で第2軸部12に螺着されている。
【0046】
回転工具(例えば、電動工具)を用いて、ボルト40のヘッド部41を軸周り(ねじ込み方向)に回転させる。ボルト40の回転によって、ネジ孔11bへのネジ軸42の螺着が進行する。回転工具は、例えば、インパクトドライバ(電動工具)および六角ビットである。六角ビットの基端を含む部分は、インパクトドライバの回転部に結合する。六角ビットの先端の係合部は、六角穴41a(図1(A)参照)に係合する。
【0047】
ネジ孔11bへのボルト40の螺着が進行することによって、ボルト40は第1螺着状態(図4参照)から第2螺着状態に移行する(図5参照)。ボルト40が第1螺着状態から第2螺着状態に進む際には、ネジ軸42の一部は第1領域11b1から第2領域11b2に進行する。第2領域11b2には、例えば、ネジ軸42によってネジが形成される。
【0048】
第2螺着状態ではヘッド部41がアンカー本体10に近い位置にあるため、ボルト40が第2螺着状態にあることを目視によって容易に確認できる。ヘッド部41がアンカー本体10の第1端11aに達すると、ネジ孔11bへのネジ軸42の螺着は終了する。
【0049】
(コーンナット螺着工程P22)
ボルト40に加えられた回転力は、アンカー本体10に伝えられる。そのため、アンカー本体10は軸周り(ねじ込み方向)に回転する。コーンナット30は下孔61の内周面に接触するため、摩擦によって回転しにくくなる。そのため、コーンナット30は、アンカー本体10に比べて回転数が少なくなる。したがって、アンカー本体10とコーンナット30とは相対的に軸周りに回転する。これにより、アンカー本体10に対するコーンナット30の螺着が進行し、コーンナット30は上昇する。
【0050】
コーンナット30の上昇により拡張スリーブ20は押し上げられる。拡張スリーブ20は、段部13に当接して上昇が規制される。拡張スリーブ20の上昇が段部13によって規制された状態でコーンナット30が上昇すると、コーンナット30は拡張スリーブ20の内側に深く入り込む。拡張スリーブ20の拡張部22は、コーンナット30のテーパ部31によって外方に押圧されることにより、径方向の外側(拡張方向)に曲げ変形する。拡張部22の拡張により、拡張部22の先端を含む部分は、下孔61の内周面(内面)に係止する。
【0051】
下孔61の内周面に対する拡張部22の係止によって、アンカー本体10を回転させるのに必要なトルクは増大する。下孔61の内周面に対する拡張部22の係止力が十分に大きくなると、アンカー本体10の回転は停止する。
【0052】
ボルト螺着工程P21とコーンナット螺着工程P22とは、いずれが先でもよいし、同時に進行してもよい。
係止工程P2は、拡張スリーブを拡張させ、拡張スリーブを孔の内面に係止させる工程の一例である。
【0053】
<嵌合解除工程P3>
図6(C)に示すように、ボルト40に、第2螺着状態において、所定値を超える回転トルクを加えると、例えば、ネジ軸42とネジ孔11bのうち少なくとも一方のネジが破損することによって、ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合が解除される。具体的には、例えば、ネジ孔11bのネジ山の頂部を含む部分は、ネジ軸42によって軸周り方向の力が加えられることにより変形し、ネジ山は低くなる。これによって、ネジ軸42とネジ孔11bのネジどうしの嵌合力は低下する。
【0054】
ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合の解除は、ネジ軸42のネジ山の頂部を含む部分が変形してネジ山が低くなることによって起きることも考えられる。ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合の解除は、ネジ孔11bとネジ軸42の両方のネジ山が変形して低くなることによって起きてもよい。
【0055】
<空転工程P4>
図6(D)に示すように、ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合が解除されることにより、ボルト40はアンカー本体10に対して空転する。嵌合解除工程P3および空転工程P4は、ネジ軸とネジ孔とのネジ嵌合を解除させて回転体を空転させる工程の一例である。
【0056】
[金属拡張アンカーの施工方法の具体例]
図7は、金属拡張アンカー100の施工において、係止工程P2、嵌合解除工程P3および空転工程P4のボルト40の回転トルクの具体例を示す図である。図7において、横軸は回転数を示す。縦軸は回転トルクを示す。
【0057】
図7に示すように、試験の開始時(回転トルクがゼロの時点)では、ボルト40は第1螺着状態にある(図4参照)。
係止工程P2のうちボルト螺着工程P21では、ネジ孔11bに対するネジ軸42の螺着の進行に伴って、ボルト40の回転トルクは徐々に上昇する。ボルト螺着工程P21の終了時には、ボルト40は第2螺着状態となる(図5参照)。
【0058】
コーンナット螺着工程P22では、拡張部22が下孔61の内周面に係止するため、回転トルクは上昇する。この例では、コーンナット螺着工程P22は、ボルト螺着工程P21の開始と同時に開始する。コーンナット螺着工程P22は、ボルト螺着工程P21の終了後も継続している。
【0059】
嵌合解除工程P3では、ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合が解除されることにより、回転トルクは急激に低下する。
空転工程P4では、ボルト40は空転する。
【0060】
回転工具を操作する施工者は、ボルト40が空転することによって、金属拡張アンカー100の施工が完了したことを確認できる。ネジ嵌合の解除によって、回転工具に作用する反力は低下するため、施工者は、回転工具の動作に基づいてボルト40の空転を認識することができる。ボルト40の空転によって、施工者は施工の完了を確認できる。
【0061】
施工者、または管理者(施工を管理する者)は、施工後に、ボルト40が第2螺着状態にあるかどうかを目視で確認することによって、金属拡張アンカー100の施工状態(施工が正常に完了したか否か)を確認することができる。例えば、施工者または管理者は、ボルト40が第2螺着状態にある金属拡張アンカー100について、施工が正常に完了していると判定できる(図5参照)。施工者または管理者は、ボルト40が第2螺着状態に至っていない金属拡張アンカー100について、施工が完了していないと判定できる(図4参照)。このように、施工者または管理者は、施工後において、金属拡張アンカー100の施工状態を容易に把握することができる。
【0062】
施工が完了した金属拡張アンカー100は、躯体60への取付物の固定などに用いることができる。
【0063】
[実施形態の金属拡張アンカーおよびその施工方法が奏する効果]
本実施形態の金属拡張アンカー100は、ボルト40に、第2螺着状態において、所定値を超える回転トルクが加えられると、ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合が解除されてボルト40が空転する。ボルト40の空転によって、施工者は施工の完了を確認できる。よって、金属拡張アンカー100の施工は容易となる。
【0064】
金属拡張アンカー100は、施工者または管理者が、ボルト40が第2螺着状態にあるかどうかを目視で確認することによって、施工状態を確認することができる。そのため、施工後における施工完了の確認が容易である。よって、施工者または管理者による施工管理は容易となる。
【0065】
金属拡張アンカー100は、専用工具を用いてナットを回転させることが必要となるタイプの金属拡張アンカーとは異なり、施工時に特殊な専用工具が必要ないため、施工が容易となる。
【0066】
金属拡張アンカー100では、回転工具によって回転力をボルト40に加えるだけで施工を完了させることができるため、トルクレンチによる締め付けが必要な金属拡張アンカーに比べ、施工が容易である。
金属拡張アンカー100は、施工時に一部が破断するアンカーと異なり、破断片の回収、破断面の防錆処理などの後工程が必要ない。よって、施工は容易となる。
【0067】
ボルト40のヘッド部41は、第2螺着状態においてアンカー本体10に近くなる。そのため、ボルト40が第2螺着状態にあることを目視によって容易に確認できる。
【0068】
金属拡張アンカー100は、ネジ孔11bの深さがボルト40のネジ軸42の長さ以上であると、ボルト40のヘッド部41は、第2螺着状態においてアンカー本体10に接触または近接する。そのため、ボルト40が第2螺着状態にあることを目視によって容易に確認できる。
【0069】
ボルト40のネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合は、例えば、ネジ軸42とネジ孔11bのうち少なくとも一方のネジが破損することによって解除される。そのため、ボルト40を回転させる力によってネジ嵌合を解除することができる。よって、容易な操作でボルト40を空転させることができる。
【0070】
本実施形態の金属拡張アンカー100の施工方法は、ボルト40に、第2螺着状態において、所定値を超える回転トルクが加えることによって、ネジ軸42とネジ孔11bとのネジ嵌合を解除させてボルト40が空転させることができる。ボルト40の空転によって、施工者は施工の完了を確認できる。よって、金属拡張アンカー100の施工は容易となる。
【0071】
[アンカー本体](変形例)
図8は、変形例に係るアンカー本体110の一部を示す一部断面図である。
図8に示すように、アンカー本体110のネジ孔111bの内周面は、全長にわたって雌ネジが形成されている。
【0072】
ボルト40は、第1螺着状態において、接着剤などによってアンカー本体10に仮固定してもよい。これにより、移動時などにおけるボルト40の位置ずれを抑制し、第1螺着状態を維持することができる。
【0073】
[回転体](変形例)
図9は、変形例に係るボルト140を示す一部断面図である。
図9に示すように、ボルト140のネジ軸142の基端を含む部分(基端部143)には雄ネジが形成されていない。
【0074】
実施形態における各構成およびそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が可能である。本発明は実施形態によって限定されない。
例えば、図1に示す金属拡張アンカー100では、回転体として、ヘッド部41とネジ軸42とを有するボルト40を用いているが、回転体はこの例に限定されない。例えば、回転体は、アンカー本体のネジ孔に螺着できるネジ軸を備えていれば、ヘッド部がなくてもよい。
【0075】
金属拡張アンカー100では、アンカー本体10に、拡張スリーブ20の上昇を規制する構造として、第1軸部11と第2軸部12との外径差により形成された段部13が採用されているが、拡張スリーブの上昇を規制する構造は特に限定されない。例えば、段部に代えて、アンカー本体の外周面に形成された環状凸部によって拡張スリーブの上昇を規制することもできる。
【0076】
金属拡張アンカー100では、ヘッド部41と第1端11aとの間に座金(平座金、スプリングワッシャーなど)を設けてもよい。
【0077】
金属拡張アンカーの施工対象は特に限定されない。施工対象は、例えば、コンクリートなどからなる躯体の床面であってもよいし、壁面であってもよい。施工対象は、躯体の天井面であってもよい。
【符号の説明】
【0078】
10,110…アンカー本体、11,111…第1軸部、11a…第1端(一方の端)、11b,111b…ネジ孔、11c…第2端(他方の端)、12…第2軸部、20…拡張スリーブ、30…コーンナット(拡径部材)、40,140…ボルト(回転体)、41…ヘッド部、42,142…ネジ軸、60…躯体(対象物)、61…下孔(孔)、100…金属拡張アンカー、D1…ネジ孔の深さ、L1…ネジ軸の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9