IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱自動車工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-車両制御装置 図1
  • 特開-車両制御装置 図2
  • 特開-車両制御装置 図3
  • 特開-車両制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140333
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 7/22 20060101AFI20241003BHJP
   B60L 7/24 20060101ALI20241003BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20241003BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20241003BHJP
   B60L 58/12 20190101ALI20241003BHJP
   B60L 58/15 20190101ALI20241003BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241003BHJP
   B60T 8/17 20060101ALI20241003BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
B60L7/22 G
B60L7/24 D
B60L15/20 S
B60L50/60
B60L58/12
B60L58/15
H02J7/00 P
B60T8/17 C
B60L9/18 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051427
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】国政 奈津子
(72)【発明者】
【氏名】廣江 健太
【テーマコード(参考)】
3D246
5G503
5H125
【Fターム(参考)】
3D246AA08
3D246BA02
3D246BA08
3D246DA01
3D246EA05
3D246GB39
3D246GC16
3D246HA39A
3D246HC13
3D246JA12
3D246JB02
3D246JB11
3D246JB31
5G503AA07
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA08
5G503FA06
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA05
5H125BC06
5H125BC12
5H125BC14
5H125CA02
5H125CB01
5H125CB03
5H125CB07
5H125DD18
5H125DD19
5H125EE05
5H125EE27
5H125EE44
5H125EE52
5H125EE53
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】充電制限中の車両において、走行用モータの温度が上昇した際にも効率的に回生制動を行う。
【解決手段】フロントモータ及びリヤモータに電力を供給する走行用バッテリと、走行用バッテリの充電可否状態を検出する充電可否検出手段と、フロントモータの温度及びリヤモータの温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、フロントモータ及びリヤモータを制御する制御部とを備え、制御部は、車両が減速中であり走行用バッテリが充電可能状態である場合は、フロントモータ及びリヤモータの少なくとも一方を回生状態とするとともに回生電力を走行用バッテリに充電し、車両が減速中であり走行用バッテリが充電不可状態である場合に、フロントモータの温度から第1出力制限閾値を差し引いた値、及び、リヤモータの温度から第2出力制限閾値を差し引いた値を比較し、値が大きい側のモータを回生状態にし、値が小さい側のモータを放電状態にして回生電力を消費する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪に駆動力を供給するフロントモータと、前記車両の後輪に駆動力を供給するリヤモータと、前記フロントモータ及び前記リヤモータに電力を供給する走行用バッテリと、前記走行用バッテリの充電可否状態を検出する充電可否検出手段と、前記フロントモータの温度及び前記リヤモータの温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、前記フロントモータ及び前記リヤモータを制御する制御部とを備え、
前記制御部は、前記フロントモータの温度が第1出力制限閾値以上となると前記フロントモータの出力制限制御を行い、前記リヤモータの温度が第2出力制限閾値以上となると前記リヤモータの出力制限制御を行うものであり、
前記制御部は、前記車両が減速中であり前記走行用バッテリが充電可能状態である場合は、前記フロントモータ及び前記リヤモータの少なくとも一方を回生状態とするとともに回生電力を前記走行用バッテリに充電し、前記車両が減速中であり前記走行用バッテリが充電不可状態である場合に、前記フロントモータの温度から前記第1出力制限閾値を差し引いた値、及び、前記リヤモータの温度から前記第2出力制限閾値を差し引いた値を比較し、前記フロントモータ及び前記リヤモータのうち前記値が大きい側のモータを回生状態にし、前記値が小さい側のモータを放電状態にして前記値が大きい側のモータの回生電力を消費する回生電力消費制御を行う車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記車両が減速中であり前記走行用バッテリが充電不可状態である場合に、前記フロントモータ及び前記リヤモータの出力制限制御が行われる場合は、前記値が大きい側のモータの回生制動力及び摩擦ブレーキによる制動力を使用する請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記放電状態は、前記放電状態の側のモータに対して、前記車両の減速に伴う車輪の回転を増加させないように回転トルクを付与する力行制御と、前記車両の減速に伴う車輪の回転により前記放電状態の側のモータに発生する誘導起電力を打ち消すように電力を供給する非力行制御を含み、前記車両の要求減速度が所定未満場合は非力行制御を、前記車両の要求減速度が所定以上場合は力行制御とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
車両が所定勾配よりも急な上り坂を走行中の場合は、前記フロントモータを前記回生状態に、前記リヤモータを前記放電状態とし、車両が所定勾配よりも急な下り坂を走行中の場合は、前記フロントモータを前記放電状態に、前記リヤモータを前記回生状態とする請求項1~3のいずれか一つに記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気自動車の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用の動力源として走行用モータを搭載した電気自動車が普及しつつある。電気自動車では、走行用モータの駆動力での走行中にアクセルオフの操作が成されると、走行用モータの回生制御によりエンジンブレーキに相当する回生トルクを発生させて車両を制動する。また、その回生制動に伴って発生する回生電力を走行用バッテリに充電している。
【0003】
しかし、走行用バッテリへの充電電力には制限が課せられる場合がある。例えば、充電率(SOC/State Of Charge)が充電限界近くに設定された所定値以上の場合、あるいは、バッテリ温度が通常温度域から外れている場合等は、バッテリ保護のために充電制限が行われる。充電制限中にアクセルオフの操作が成されると、モータの回生トルクを制限せざるを得ない。このため、車両の制動力が不足して運転者に違和感を与えるという問題がある。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1では、直列配置した第1の走行用モータと第2の走行用モータの駆動力を、デファレンシャルギア機構を介して左右の後輪に伝達するようにし、充電制限中にアクセルオフの操作があった際には、何れか一方の走行用モータを回生制御し、発電された電力により他方の走行用モータを駆動している。これにより、充電制限中の車両の制動力を確保している。
【0005】
また、例えば、特許文献2では、前輪及び後輪にそれぞれ走行用モータを備え、充電制限中にアクセルオフの操作があった際には、車両が備える前後輪のサスペンションの変位量を読み込み、それらの変位量から前後輪の接地荷重を求め、接地荷重の大きい方を回生側に、接地荷重の小さい方を力行側に設定して、制動性能を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7-99704号公報
【特許文献2】特開2017-38470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、走行用モータは運転状態によっては温度が上昇する場合がある。走行用モータの温度が過度に上昇すると、本来の性能を発揮できないばかりか、そのままの状態で運転を継続すると装置の故障につながる恐れもある。そこで、走行用モータの温度が所定の閾値以上となると、モータの出力制限制御を行うのが一般的である。
【0008】
従来の技術では、充電制限中の車両において、一方の走行用モータを回生制御し、他方の走行用モータで回生電力を消費して回生制動の制動力を確保している。しかし、走行用モータの温度が上昇した際に、どのように回生制動の制動力を確保するかについては開示していない。
【0009】
そこで、この発明の課題は、充電制限中の車両において、走行用モータの温度が上昇した際にも効率的に回生制動を行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、この発明は、車両の前輪に駆動力を供給するフロントモータと、前記車両の後輪に駆動力を供給するリヤモータと、前記フロントモータ及び前記リヤモータに電力を供給する走行用バッテリと、前記走行用バッテリの充電可否状態を検出する充電可否検出手段と、前記フロントモータの温度及び前記リヤモータの温度をそれぞれ検出する温度検出手段と、前記フロントモータ及び前記リヤモータを制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記フロントモータの温度が第1出力制限閾値以上となると前記フロントモータの出力制限制御を行い、前記リヤモータの温度が第2出力制限閾値以上となると前記リヤモータの出力制限制御を行うものであり、前記制御部は、前記車両が減速中であり前記走行用バッテリが充電可能状態である場合は、前記フロントモータ及び前記リヤモータの少なくとも一方を回生状態とするとともに回生電力を前記走行用バッテリに充電し、前記車両が減速中であり前記走行用バッテリが充電不可状態である場合に、前記フロントモータの温度から前記第1出力制限閾値を差し引いた値、及び、前記リヤモータの温度から前記第2出力制限閾値を差し引いた値を比較し、前記フロントモータ及び前記リヤモータのうち前記値が大きい側のモータを回生状態にし、前記値が小さい側のモータを放電状態にして前記値が大きい側のモータの回生電力を消費する回生電力消費制御を行う車両の制御装置を採用した(構成1)。
【0011】
構成1において、前記制御部は、前記車両が減速中であり前記走行用バッテリが充電不可状態である場合に、前記フロントモータ及び前記リヤモータの出力制限制御が行われる場合は、前記値が大きい側のモータの回生制動力及び摩擦ブレーキによる制動力を使用する構成を採用できる(構成2)。
【0012】
また、構成1において、前記放電状態は、前記放電状態の側のモータに対して、前記車両の減速に伴う車輪の回転を増加させないように回転トルクを付与する力行制御と、前記車両の減速に伴う車輪の回転により前記放電状態の側のモータに発生する誘導起電力を打ち消すように電力を供給する非力行制御を含み、前記車両の要求減速度が所定未満場合は非力行制御を、前記車両の要求減速度が所定以上場合は力行制御とする構成を採用できる(構成3)。
【0013】
上記の各態様において、車両が所定勾配よりも急な上り坂を走行中の場合は、前記フロントモータを前記回生状態に、前記リヤモータを前記放電状態とし、車両が所定勾配よりも急な下り坂を走行中の場合は、前記フロントモータを前記放電状態に、前記リヤモータを前記回生状態とする構成を採用できる(構成4)。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、充電制限中の車両において、走行用モータの温度が上昇した際にも効率的に回生制動を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この発明の一実施形態を示す車両の模式図である。
図2】制御の例を示すグラフ図である。
図3】制御の例を示す図表である。
図4】坂道における制御の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この発明に係る車両の制御装置が搭載された車両1は、図1に示すように、前輪2に駆動力を供給する電動のフロントモータ12(走行用モータ)、及び、後輪3に駆動力を供給する電動のリヤモータ13(走行用モータ)を備えた4輪駆動車である。
【0017】
フロントモータ12は、インバータを介して走行用バッテリ11から電力を供給されて駆動され、減速機を介して前輪2の駆動軸を駆動する。リヤモータ13は、同じくインバータを介して走行用バッテリ11から電力を供給されて駆動され、減速機を介して後輪3の駆動軸を駆動する。フロントモータ12及びリヤモータ13は、それぞれ回転軸と一体に回転するロータと、そのロータの外周においてケーシングに固定されたステータを備え、電力の供給によってロータとともに回転軸が軸回り回転する構成となっている。インバータは、走行用バッテリ11から供給される直流電流を交流電流に変換する機能を有し、そのインバータの制御によって、フロントモータ12及びリヤモータ13の回転速度等を調節できる。これにより、前輪2及び後輪3の駆動力を独立して制御することが可能である。
【0018】
また、フロントモータ12には、そのフロントモータ12の温度を検出する温度検出手段が、リヤモータ13には、そのリヤモータ13の温度を検出する温度検出手段が、それぞれ備えられている。フロントモータ12及びリヤモータ13の温度検出手段は、温度センサ等で構成されている。温度を測定する部位は、例えば、ステータとすることができる。
【0019】
走行用バッテリ11は、リチウムイオン電池等の二次電池で構成され、複数の電池セルを並列して構成された電池モジュールを備えている。走行用バッテリ11には、その走行用バッテリ11の充電状態を検出する充電状態検出手段と、走行用バッテリ11の温度状態を検出するバッテリ温度検出手段が備えられている。充電状態検出手段によって検出される充電状態の情報には、二次電池が蓄電可能な電力の満容量に対する残容量の比率(残容量/満容量)が含まれ、以下、この充電状態の情報をState Of Charge(SOC)と称する。バッテリ温度検出手段も、同じく温度センサ等で構成されている。なお、車両1には、走行用バッテリ11を外部電源によって充電する充電機が備えられている。
【0020】
フロントモータ12、リヤモータ13、走行用バッテリ11、その他各部の装置は、この車両1が搭載した電子制御ユニット(electronic control unit)が備える制御部10によって制御されている。電子制御ユニットは、中央演算処理装置(CPU)、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)等を含んだ構成となっている。フロントモータ12及びリヤモータ13による前輪2及び後輪3の駆動、及び、フロントモータ12及びリヤモータ13から走行用バッテリ11への回生電力の供給は、制御部10によって制御される。フロントモータ12及びリヤモータ13の温度検出手段からの温度情報、充電状態検出手段からの充電状態の情報、バッテリ温度検出手段等からのバッテリ温度の情報、その他この車両1が備える各種センサ類からの情報は、制御部10に伝達される。
【0021】
また、制御部10には、運転者が操作するアクセルペダルの踏込み量、すなわち、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ等が接続されている。アクセル開度の情報は、制御部10に伝達されてインバータ等の制御に用いられる。
【0022】
また、制御部10は、アクセルペダルの踏込み量がゼロに、すなわち、アクセルオフの操作が成された際は負側の車両要求出力を設定し、フロントモータ12及びリヤモータ13がその負側の車両要求出力を達成するように制御する。このとき、フロントモータ12及びリヤモータ13は、ともに回生制御により負側の回生トルクを発生させ、その回生制御によって発電された電力(回生電力)を走行用バッテリ11に充電する。
【0023】
また、制御部10は、走行用バッテリ11のSOCが充電限界近傍の所定値(例えば、充電限界の95%等)以上の場合、あるいは、バッテリ温度が、通常使用温度域(例えば、45℃未満)から高温側に外れている場合等には、走行用バッテリ11を充電不可状態と認識する。充電不可状態と認識された場合、バッテリ保護のために走行用バッテリ11への充電電力を制限する充電制限を実行する。また、充電可能状態と認識された場合は、通常通り充電が許可される。すなわち、充電状態検出手段とバッテリ温度検出手段は、走行用バッテリ11への充電可否状態を検出する充電可否検出手段として機能する。なお、充電不可状態とは、走行用バッテリ11に充電電力を全く供給できないことに限定されず、走行用バッテリ11が通常状態(充電可能状態である、すなわち充電不可状態でない)の場合に比べ充電電力が制限されるものも含む。
【0024】
ここで、フロントモータ12及びリヤモータ13のそれぞれには、各モータが通常使用温度範囲を外れて一定の温度以上になると、その機能の一部が制限される閾値が設定されている。具体的には、フロントモータ12の温度が第1出力制限閾値S(例えば、S=100℃)以上となると、フロントモータ12の出力を所定出力未満に制限する制御(出力制限制御)を行う。また、リヤモータ13の温度が第2出力制限閾値S(例えば、S=110℃)以上となると、リヤモータ13の出力を所定出力未満に制限する制御(出力制限制御)を行う。このとき、許可される出力をゼロに設定する場合も考えられる。
【0025】
さらに、フロントモータ12及びリヤモータ13のそれぞれに対応して、第1出力制限閾値Sより低い温度である第1温度閾値R(例えば、R=80℃)、及び第2出力制限閾値Sより低い温度である第2温度閾値R(例えば、R=90℃)が設定されている。フロントモータ12の温度が第1温度閾値R以上となると、フロントモータ12の温度が第1出力制限閾値Sに近づいていると判断できる。また、リヤモータ13の温度が第2温度閾値R以上となると、リヤモータ13の温度が第2出力制限閾値Sに近づいていると判断できる。なお、第1出力制限閾値Sと第1温度閾値Rとの差と、第2出力制限閾値Sと第2温度閾値Rとの差は同じ値である。
【0026】
ここで、フロントモータ12及びリヤモータ13は互いに異なる種類(出力、形式等)のモータで構成されているので、第1出力制限閾値S及び第2出力制限閾値S、第1温度閾値R及び第2温度閾値Rは互いに異なる数値に設定されているが、フロントモータ12及びリヤモータ13が同一の種類(出力、形式等)のモータであれば、第1出力制限閾値S及び第2出力制限閾値S、第1温度閾値R及び第2温度閾値Rが同じ値である場合も考えられる。
【0027】
これらの第1出力制限閾値S、第2出力制限閾値S、第1温度閾値R、第2温度閾値R等の情報は、制御部10に記憶されている。
【0028】
以下、走行用バッテリ11が充電不可状態(充電制限を伴う運転状態)であり、その充電不可状態が走行用バッテリ11のSOCが所定値以上であることで決定されている場合を例に、制御の内容を説明する。
【0029】
充電不可状態での走行中にアクセルオフの操作が成された場合は、フロントモータ12及びリヤモータ13のいずれか一方のモータを回生制御し、その回生によって生じた回生電力を他方のモータを駆動(正側の出力)させることで消費して、車両1に制動力として作用させる。以下、回生制御中のモータを回生側のモータ又は回生状態の側のモータ、駆動制御中のモータを放電側のモータ又は放電状態の側のモータと称する。これらの制御を、以下、回生電力消費制御と称する。
【0030】
ここで、フロントモータ12及びリヤモータ13が出力制限閾値S(第1出力制限閾値S及び第2出力制限閾値S)未満の状態において、フロントモータ12の温度T12が第1温度閾値R以上となったか否か、及び、リヤモータ13の温度T13が第2温度閾値R以上となったか否かを判断する。そして、温度閾値R(第1温度閾値R及び第2温度閾値R)以上となった側のモータを回生状態にし、温度閾値R未満側のモータを放電状態にする。
【0031】
例えば、フロントモータ12の温度T12が第1温度閾値R以上となり、リヤモータ13の温度T13が第2温度閾値R未満の場合は、フロントモータ12を回生状態とし、リヤモータ13を放電状態とする。すなわち、フロントモータ12の温度T12が第1温度閾値R以上となり、リヤモータ13の温度T13が第2温度閾値R未満の場合は、フロントモータ12の温度T12から第1出力制限閾値Sを差し引いた値U(U=T12-S)と、リヤモータ13の温度T13から第2出力制限閾値Sを差し引いた値U(U=T13-S)とを比較した場合に、値Uの方が大きいことになる。この値が大きい側(出力制限閾値に近い側)のモータを回生状態とすることで、値が大きい側(出力制限閾値に近い側)のモータの温度が上昇し、出力制限閾値以上となることを抑制することができる。これは、放電状態にあるモータの方が、回生状態にあるモータより温度が上昇しやすいことに基づく。なお、値Uと値Uとの大小の比較は、その値の絶対値ではなく、その値の正負の符号を含めて判断する。
【0032】
なお、フロントモータ12及びリヤモータ13のそれぞれが第1温度閾値R及び第2温度閾値R以上となる場合、又は、フロントモータ12及びリヤモータ13のそれぞれが第1温度閾値R及び第2温度閾値R未満の場合であれば、一律にいずれか一方(例えば、フロントモータ12)を回生側のモータ、他方(例えば、リヤモータ13)を放電側のモータと決定してもよいし、後述する他の運転条件に基づいて回生側のモータ及び放電側のモータを決定してもよい。また、第1温度閾値R及び第2温度閾値Rを設けず、単に値Uと値Uとを比較し、その値が大きい側のモータを回生状態にし、値が小さい側のモータを放電状態にするものとしてもよい。
【0033】
この回生電力消費制御において、回生側のモータは、回生制動を目的に運動エネルギ(図2の符号b参照)を、電気(回生)エネルギに変換する。また、放電側のモータは、電気(回生)エネルギを消費するための駆動制御を行う(図2の符号c参照)。
【0034】
このとき、放電側のモータは、車両1の速度に対応する慣性回転数を超えない回転トルク(発生トルク)の範囲で、回生エネルギを消費することができる。慣性回転数を超えない発生トルクとは、ステータの回転数を加速させない範囲の回転トルクである。ここで、慣性回転数を超えない発生トルクの範囲を広げるために、変速ギア機構を設けてもよい。すなわち、放電側のモータの変速ギア機構の変速段を下げることで、放電側のモータの慣性回転数を超えない発生トルクを上昇させて回生エネルギの消費量を上昇させてもよい。また、慣性回転数を超えない発生トルクの範囲を広げるために、モータ特性点を変更してもよい。モータ特性点の変更は、回生電力を交流から直流へ変換するコンバータによる昇圧/降圧を利用したモータ効率変化も含まれる。また、モータ特性点の変更は、走行用バッテリ11の電力を直流から交流へ変換するインバータによる位相/電流制御を利用したモータ効率変化も含まれる。モータ効率変化では、敢えて効率の悪い力行運転行うことで、エネルギ消費を高めることも可能である。
【0035】
放電側のモータにおける駆動制御は、前輪2又は後輪3のホイールから伝わる回転により生じた誘導起電力を打ち消すために、放電側のモータに供給される電力によって電力消費する非力行制御と、慣性回転数を超えない程度に回転トルクを付与するように、放電側のモータに電力供給して電力消費する力行制御とを含んでいる。非力行制御とは、力行制御及び回生制御のいずれでもない「0Nm(ゼロニュートン)制御」で回生エネルギを消費するものである。
【0036】
非力行制御では、0Nm制御のための電力(=現在の車速(ホイール回転によるロータの回転数)での誘導起電力と同等の値しか電力を消費できない。一方、力行制御では、放電側のモータを回転させるため、消費電力を大きくすることができる。また、非力行制御では放電側のモータにトルクが発生しないため、減速度合いが安定する。一方、力行制御では放電側のモータにトルクが発生し、そのトルクの上限値が車輪にトルクが出力されない程度と決められているため、車両1の減速に伴いトルクの上限値が変化し、制御が複雑になるため、減速度合いを安定させることが難しい。そのため、車両1の要求減速度(要求制動力)が所定値以下の場合は非力行制御を、要求減速度(要求制動力)が所定値を超える場合は力行制御とする。要求減速度(要求制動力)は、車速等に応じて設定されるエンジンブレーキ相当の制動力である。なお、要求減速度(要求制動力)は、例えばパドルシフトの操作によって手動で設定可能としてもよい。
【0037】
非力行制御及び力行制御の双方において、放電側のモータでの電力消費量の上限値は、そのモータの回転数に比例して大きくなる。そのため、放電側のモータでの電力消費量の上限値を上昇させる方法として、変速機構を用いて回転数を高くする手法がある。あるいは、コンバータによる昇圧を用いて放電側のモータへ供給される電圧値を上昇させることでも、放電側モータの同回転数における消費電力を上昇させることができる。この実施形態では、回生電力消費制御において、制御部10は上記の方法で放電側のモータの電力消費量を上昇させる。
【0038】
回生電力消費制御は、図3におけるパターン1~12において適用することができる。なお、パターン1,2は、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13が、いずれも通常使用温度範囲(正常範囲)であるので、この場合、それぞれに対応する温度閾値Rにより近い側を回生側のモータ、遠い側を放電側のモータとして決定してもよいし、後述する他の運転条件に基づいて回生側のモータ、放電側のモータを決定してもよい。また、パターン3~6は、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13の少なくとも一方が温度閾値R以上となっている(出力制限閾値Sに近い)場合、パターン7~12では、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13の少なくとも一方が、出力制限制御の適用範囲内(出力制限閾値S以上)にある場合に行われる回生電力消費制御である。
【0039】
パターン3~12では、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13を監視し、回生側のモータと放電側のモータを切り替える制御を行う。具体的には、パターン3~4、パターン7~8では、温度閾値R以上となった側のモータを回生側とし、温度閾値R未満側のモータを放電側とする。フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13の両方が、それぞれに対応する温度閾値R以上となった場合は、それぞれに対応する出力制限閾値Sにより近い側を回生側のモータ、遠い側を放電側のモータとして決定してもよいし、後述する他の運転条件に基づいて回生側のモータ、放電側のモータを決定してもよい。
【0040】
図3中に示す温度条件の高低の欄について、F<Rとは、U<Uであることを示している。また、温度状態の欄について、注意とはモータ温度がそれぞれに対応する温度閾値R以上となっていることを示しており、超過とはモータ温度がそれぞれに対応する出力制限閾値S以上となっていることを示している。注意(低)、注意(高)は、注意状態においてどちらのモータの温度の方が高いか(出力制限閾値に近いか)を示している。超過(低)、超過(高)は、超過状態においてどちらのモータの温度の方が高いか(出力制限閾値をより大きく超えているか)を示している。
【0041】
この実施形態では、図3の通り、フロントモータ12及びリヤモータ13において温度状態が互いに同じ(通常、注意、超過)場合は、モータ温度が高い側(モータ温度が出力制限閾値に対して厳しい側)を回生側のモータとしている。
【0042】
ただし、パターン7~12では、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13の少なくとも一方が、第1使用制限閾値S又は第2使用制限閾値S以上となり、出力制限制御の適用範囲内となっている。この場合は、回生側のモータは回生の出力を通常(通常使用温度範囲(正常範囲)にある場合)よりも抑えた回生制限状態にする制御(回生制限制御)を行う。これに合わせ、放電側のモータの放電の出力も小さくなる(放電制限状態にする制御(放電制限制御))。なお、回生制限制御は、許可される回生電力の出力をゼロに設定する場合も考えられる。この場合、放電制限制御の出力もゼロに設定される。
【0043】
パターン7~12に示すような、回生制限状態及び放電制限状態を伴う制御を行う場合は、回生制動力が不足するため、この不足分を補うために摩擦ブレーキを使用する。摩擦ブレーキは、油圧の作用でブレーキパットをブレーキディスクに押圧して、摩擦により制動力を発揮するものである。摩擦ブレーキによる制動力は、要求減速度(要求制動力)と回生制動力との差に応じて制御部10が制御する。
【0044】
なお、この実施形態では、車両1の他の運転条件も考慮して回生側のモータ、放電側のモータを決定する。具体的には、路面の勾配状態に応じて回生側のモータ、放電側のモータを決定する。例えば、路面勾配が上り坂(勾配αが所定勾配よりも急)である場合は、フロントモータ12を回生状態に、リヤモータ13を放電状態(力行状態)とする。また、路面勾配が下り坂(勾配βが所定勾配よりも急)である場合は、フロントモータ12を放電状態(力行状態)に、リヤモータ13を回生状態とする。すなわち、図4中の左側に示すように、路面勾配が上り坂である場合には、より荷重がかかっているリヤモータ13を放電状態とすることで、リヤモータ13による放電電力を大きくすることができるため、フロントモータ12による回生制動力も大きくすることができる。同様に、図4中の右側に示すように、路面勾配が下り坂である場合は、より荷重がかかっているフロントモータ12を放電状態とする。なお、図4の中央に示すように、平地(路面勾配が小さい)の場合は、減速によるノーズダイブによりフロントモータ12側により荷重がかかるため、フロントモータ12を放電状態としてもよいし、温度状態を考慮して回生側のモータ、放電側のモータを決定してもよい。
【0045】
この勾配に基づく制御は、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13より優先して行ってもよいが、例えば、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度条件が良好な運転領域、例えば、図3のパターン1,2でのみ適用したり、あるいは、それに加えて、フロントモータ12とリヤモータ13の温度状態が同様である場合、すなわち図3のパターン5~6、パターン11~12である場合に適用してもよい。この実施形態では、フロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13に基づく制御を優先し、フロントモータ12とリヤモータ13の温度状態が同様である場合に勾配に基づく制御を行う。すなわち、すなわち図3のパターン1~2、パターン5~6、パターン11~12である場合に勾配に基づく制御を行い、その他のパターンではフロントモータ12の温度T12及びリヤモータ13の温度T13に基づく制御を行う。そのため、例えば、上り坂でパターン3の状態にある場合は、フロントモータ12を放電状態に、リヤモータ13を回生状態にする。
【0046】
上記の実施形態では、走行用バッテリ11のSOCを基準に、走行用バッテリ11の充電状態を充電可能状態と充電不可状態に判別していたが、これに代えて又は加えて、バッテリ温度に基づいて、充電可能状態と充電不可状態を判別してもよい。
【0047】
上記の実施形態では、車両1として、走行用の動力源としてエンジンを搭載せず、走行用モータのみを搭載した電気自動車を例にこの発明の構成を説明したが、この実施形態には限定されず、少なくとも、前輪2及び後輪3にそれぞれ走行用モータを備えた車両、例えば、エンジンと走行用モータを併用するハイブリッド車、特に、動力源として走行用モータのみで走行する機能を備えたストロングハイブリッド方式と呼ばれるハイブリッド車においても、この発明を適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
2 前輪
3 後輪
10 制御部
11 走行用バッテリ
12 フロントモータ
13 リヤモータ
図1
図2
図3
図4