IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ KDDI株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-通信装置及び通信システム 図1
  • 特開-通信装置及び通信システム 図2
  • 特開-通信装置及び通信システム 図3
  • 特開-通信装置及び通信システム 図4
  • 特開-通信装置及び通信システム 図5
  • 特開-通信装置及び通信システム 図6
  • 特開-通信装置及び通信システム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140352
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】通信装置及び通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/04 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
H04B1/04 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051452
(22)【出願日】2023-03-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5Gに向けたテラヘルツ帯を活用した端末拡張型無線通信システム実現のための研究開発 研究開発項目 2 テラヘルツ帯を適用した端末拡張のための信号処理技術 副題:Beyond5Gに向けたテラヘルツ帯を活用するユーザセントリックアーキテクチャ実現に関する研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大詩
(72)【発明者】
【氏名】大関 武雄
【テーマコード(参考)】
5K060
【Fターム(参考)】
5K060BB07
5K060CC04
5K060CC11
5K060HH31
5K060HH32
5K060HH36
5K060KK06
5K060LL24
(57)【要約】
【課題】送信装置がバックオフをした場合の通信品質の低下を抑制する。
【解決手段】通信装置1は、送信装置におけるバックオフ量が基準値から変化した量を示すバックオフ変化量と、送信装置が送信した伝送信号と、を送信装置から受信する受信部11と、バックオフ変化量に基づいて決定した、送信装置から送信された伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを用いて伝送信号の歪みを補償する補償部141と、を有する。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信装置におけるバックオフ量が基準値から変化した量を示すバックオフ変化量と、前記送信装置が送信した伝送信号と、を前記送信装置から受信する受信部と、
前記バックオフ変化量に基づいて決定した、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、
を有する通信装置。
【請求項2】
バックオフ変化量に関連付けて複数の前記補償モデルを記憶する記憶部をさらに有し、
前記補償部は、前記受信部が受信した前記バックオフ変化量に関連付けて前記記憶部に記憶された前記補償モデルを、前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる前記補償モデルに決定する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記受信部が受信した前記伝送信号であって、特性が既知の前記伝送信号である参照信号とバックオフ変化量とが入力されると、当該参照信号に基づいて、前記バックオフ変化量に対応する前記補償モデルを作成するモデル作成部をさらに有する、
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記モデル作成部は、歪みが生じていない状態の基準参照信号と前記参照信号との差を減少させることができる前記補償モデルを作成する、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記モデル作成部は、複数の前記補償モデルを作成し、作成した複数の前記補償モデルのうち、前記補償部が前記参照信号を補償した後の信号の品質が相対的に良い1つの補償モデルを前記バックオフ変化量に対応する前記補償モデルに決定する、
請求項3に記載の通信装置。
【請求項6】
送信装置におけるバックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報と、前記送信装置が送信した伝送信号と、を受信する受信部と、
前記受信部が前記バックオフ変化情報を受信した場合に、特性が既知の前記伝送信号である参照信号を前記受信部が受信すると、当該参照信号に基づいて、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを作成するモデル作成部と、
前記モデル作成部が作成した前記補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、
を有する通信装置。
【請求項7】
前記補償部は、前記受信部が前記バックオフ変化情報を受信した場合に、前記モデル作成部が前記補償モデルを作成する動作を開始させ、前記モデル作成部が前記補償モデルを作成した後に、前記モデル作成部が前記補償モデルを作成する動作を停止させる、
請求項6に記載の通信装置。
【請求項8】
送信装置と、前記送信装置が送信した伝送信号を受信する受信装置と、を備え、
前記送信装置は、
バックオフ量を変化させるバックオフ制御部と、
前記バックオフ量の基準値からの変化量であるバックオフ変化量と、前記伝送信号と、を送信する送信部と、
を有し、
前記受信装置は、
前記バックオフ変化量と前記伝送信号とを受信する受信部と、
前記バックオフ変化量に基づいて決定した、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、
を有する通信システム。
【請求項9】
送信装置と、前記送信装置が送信した伝送信号を受信する受信装置と、を備え、
前記送信装置は、
バックオフ量を変化させるバックオフ制御部と、
前記バックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報と、前記伝送信号と、を送信する送信部と、
を有し、
前記受信装置は、
前記バックオフ変化情報と、前記伝送信号と、を受信する受信部と、
前記受信部が前記バックオフ変化情報を受信した場合に、特性が既知の前記伝送信号である参照信号を前記受信部が受信すると、当該参照信号に基づいて、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを作成するモデル作成部と、
前記モデル作成部が作成した前記補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、
を有する通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信装置及び通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通信装置における最大出力電力レベルを制限することにより、電力増幅器の特性が線形な領域の信号が出力されるようにするバックオフという手法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2019-510392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
送信装置は、電力増幅器の効率を向上させるためにバックオフを小さくしたり、近隣の他の通信装置への干渉を小さくするためにバックオフを大きくしたりすることが想定される。送信装置がバックオフを変化させると、受信装置が送信装置から受信する信号の非線形歪みの状態が変化する。受信信号の非線形歪みの状態が変化すると、受信装置が受信信号の歪みを適切に補償することができなくなり、通信品質が低下してしまうという問題が生じていた。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、送信装置がバックオフをした場合の通信品質の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の通信装置は、送信装置におけるバックオフ量が基準値から変化した量を示すバックオフ変化量と、前記送信装置が送信した伝送信号と、を前記送信装置から受信する受信部と、前記バックオフ変化量に基づいて決定した、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、を有する。
【0007】
前記通信装置は、バックオフ変化量に関連付けて複数の前記補償モデルを記憶する記憶部をさらに有し、前記補償部は、前記受信部が受信した前記バックオフ変化量に関連付けて前記記憶部に記憶された前記補償モデルを、前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる前記補償モデルに決定してもよい。
【0008】
前記通信装置は、前記受信部が受信した前記伝送信号であって、特性が既知の前記伝送信号である参照信号とバックオフ変化量とが入力されると、当該参照信号に基づいて、前記バックオフ変化量に対応する前記補償モデルを作成するモデル作成部をさらに有してもよい。
【0009】
前記モデル作成部は、歪みが生じていない状態の基準参照信号と前記参照信号との差を減少させることができる前記補償モデルを作成してもよい。
【0010】
前記モデル作成部は、複数の前記補償モデルを作成し、作成した複数の前記補償モデルのうち、前記補償部が前記参照信号を補償した後の信号の品質が相対的に良い1つの補償モデルを前記バックオフ変化量に対応する前記補償モデルに決定してもよい。
【0011】
本発明の第2の態様の通信装置は、送信装置におけるバックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報と、前記送信装置が送信した伝送信号と、を受信する受信部と、前記受信部が前記バックオフ変化情報を受信した場合に、特性が既知の前記伝送信号である参照信号を前記受信部が受信すると、当該参照信号に基づいて、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを作成するモデル作成部と、前記モデル作成部が作成した前記補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、を有する。
【0012】
前記補償部は、前記受信部が前記バックオフ変化情報を受信した場合に、前記モデル作成部が前記補償モデルを作成する動作を開始させ、前記モデル作成部が前記補償モデルを作成した後に、前記モデル作成部が前記補償モデルを作成する動作を停止させてもよい。
【0013】
本発明の第3の態様の通信システムは、送信装置と、前記送信装置が送信した伝送信号を受信する受信装置と、を備え、前記送信装置は、バックオフ量を変化させるバックオフ制御部と、前記バックオフ量の基準値からの変化量であるバックオフ変化量と、前記伝送信号と、を送信する送信部と、を有し、前記受信装置は、前記バックオフ変化量と前記伝送信号とを受信する受信部と、前記バックオフ変化量に基づいて決定した、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、を有する。
【0014】
本発明の第4の態様の通信システムは、送信装置と、前記送信装置が送信した伝送信号を受信する受信装置と、を備え、前記送信装置は、バックオフ量を変化させるバックオフ制御部と、前記バックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報と、前記伝送信号と、を送信する送信部と、を有し、前記受信装置は、前記バックオフ変化情報と、前記伝送信号と、を受信する受信部と、前記受信部が前記バックオフ変化情報を受信した場合に、特性が既知の前記伝送信号である参照信号を前記受信部が受信すると、当該参照信号に基づいて、前記送信装置から送信された前記伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを作成するモデル作成部と、前記モデル作成部が作成した前記補償モデルを用いて前記伝送信号の歪みを補償する補償部と、を有する。
を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、送信装置がバックオフをした場合の通信品質の低下を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係る通信システムS1の概要を説明するための図である。
図2】第1実施形態に係る通信装置1の構成を示す図である。
図3】記憶部13が記憶している補償モデルの概要を示す図である。
図4】第2実施形態に係る通信装置10の構成を示す図である。
図5】モデル作成部145の動作を模式的に示す図である。
図6】第3実施形態に係る通信システムS2の構成を示す図である。
図7】通信装置10における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[通信システムS1の概要]
<第1実施形態>
図1は、通信システムS1の概要を説明するための図である。通信システムS1は、通信装置1Aと通信装置1Bを有する。通信装置1Aは送信装置として機能し、通信装置1Bは受信装置として機能する。通信装置1A及び通信装置1Bは、例えば無線通信機能を有する装置であり、電波により通信装置1Aから通信装置1Bに信号を伝送することができる。
【0018】
通信装置1Aは電力増幅器を有しており、電力増幅器に入力することができる最大電力よりも小さい電力の信号を電力増幅器に入力するバックオフを行う。通信装置1Aは、各種の状態に応じて、電力増幅器の出力飽和電力レベルと、電力増幅器に入力される信号の最大振幅レベルとの差であるバックオフ量を変化させる。
【0019】
通信装置1Aは、例えば近隣に他の通信装置に干渉を与える可能性がある場合に、干渉を抑制するためにバックオフ量を大きくし、干渉が生じる可能性が低く電力増幅器の効率を向上させる方がよいときにバックオフ量を小さくする。以下の説明において、バックオフ量の基準値(例えば初期値)から変化した量をバックオフ変化量という。
【0020】
通信装置1Aは、伝送信号を出力するとともに、バックオフ変化量を通信装置1Bに対して送信する。通信装置1Aは、例えば、通信装置1Aと通信装置1Bとの間の無線通信チャネルにおける物理レイヤの制御チャネル、MACレイヤ、又はRRCシグナリングのいずれかでバックオフ変化量を送信する。通信装置1Bは、受信した伝送信号の非線形歪みを補償する補償モデルを記憶しており、伝送信号を補償モデルに入力することにより、歪みが補償された信号を得ることができる。
【0021】
通信装置1Aがバックオフ量を変化させると、伝送信号の歪みの特性も変化する。そこで、通信装置1Bは、通信装置1Aから受信したバックオフ変化量に基づいて補償モデルを切り替えることにより、バックオフ量が変化した後の伝送信号の歪みを補償するのに適した補償モデルを使用して、伝送信号の歪みを補償することができる。その結果、通信装置1Aのバックオフ量が変化したとしても、通信装置1Bは適切に歪みを補償することができるので、通信装置1Bにおいては通信品質(例えばSN比)の低下を防ぐことができる。
【0022】
なお、通信装置1Aと通信装置1Bとは、同等の通信機能を有していてもよく、それぞれが異なる通信機能を有していてもよい。通信装置1Aは例えば基地局装置であり、通信装置1Bは例えば通信端末である。以下の説明では、通信装置1Aと通信装置1Bが、同等の機能を有するものとして通信装置1の構成及び動作を説明する。通信装置1A及び通信装置1Bは、以下に説明する通信装置1の機能のうち一部の機能を有していてもよい。
【0023】
図2は、第1実施形態に係る通信装置1の構成を示す図である。通信装置1は、受信部11と、送信部12と、記憶部13と、制御部14と、を有する。制御部14は、補償部141と、受信信号処理部142と、送信信号生成部143と、バックオフ制御部144と、を有する。
【0024】
図2における補償部141及び受信信号処理部142は、図1における通信装置1Bとして通信装置1が動作する場合に機能する。図2における送信信号生成部143及びバックオフ制御部144は、図1における通信装置1Aとして通信装置1が動作する場合に機能する。
【0025】
受信部11は、送信装置(例えば通信装置1A)におけるバックオフ量が基準値から変化した量を示すバックオフ変化量と、送信装置が送信した伝送信号と、を送信装置から受信する。受信部11は、受信した伝送信号を補償部141に入力する。
【0026】
送信部12は、他の通信装置に対して信号を送信する。送信部12は、例えば通信装置1Aとして機能する場合に、送信信号生成部143から入力された送信信号と、バックオフ制御部144から入力されたバックオフ変化量と、を送信する。送信部12は電力増幅器を有しており、送信信号生成部143から入力された信号を増幅してから送信する。
【0027】
記憶部13は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)及びSSD(Solid State Drive)等の記憶媒体を有する。記憶部13は、制御部14が実行するプログラムを記憶する。また、記憶部13は、受信部11が受信した伝送信号の歪みを補償部141が補償するために使用する補償モデルを記憶している。
【0028】
補償モデルの態様は任意であるが、例えば、DPoD(Digital Post-Distortion)モデルである。補償モデルは、多項式型であってもよく、ニューラルネットワークを用いたものであってもよい。補償モデルは、送信装置から通知されてもよく、受信部11が受信した伝送信号のうち、特性が既知の参照信号に基づいて通信装置1において生成されたモデルであってもよい。
【0029】
図3は、記憶部13が記憶している補償モデルの概要を示す図である。記憶部13は、バックオフ変化量に関連付けて複数の補償モデルを記憶している。図3は、バックオフ変化量+5dBから-5dBまで1dBごとに異なる補償モデルが記憶されていることを示している。それぞれの補償モデルには、補償モデルを識別するためのモデルIDが付与されている。
【0030】
なお、通信装置1が複数の送信装置と通信をする場合、送信装置によって伝送信号に生じる歪みが異なることが想定される。そこで、記憶部13は、送信装置に関連付けて、異なる補償モデルを記憶してもよい。
【0031】
制御部14は、例えばCPU(Central Processing Unit)又はDSP(Digital Signal Processor)を有する。制御部14は、記憶部13に記憶されたプログラムを実行することにより、補償部141、受信信号処理部142、送信信号生成部143及びバックオフ制御部144として機能する。
【0032】
補償部141は、送信装置から通知されたバックオフ変化量に基づいて決定した、送信装置から送信された伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルを用いて伝送信号の歪みを補償する。補償部141は、伝送信号を補償モデルに入力し、補償モデルにおいて歪みが補償された後の伝送信号を受信信号処理部142に入力する。
【0033】
補償部141は、送信装置から通知されたバックオフ変化量に関連付けて記憶部13に記憶された補償モデルを、伝送信号の歪みを補償する処理に用いられる補償モデルに決定する。補償部141は、例えば、送信装置からバックオフ量が変化したという通知を受けた場合に、それまで使用していた補償モデルから、通知されたバックオフ変化量に対応する補償モデルに切り替える。
【0034】
補償部141は、例えば、初期状態でバックオフ変化量0dBに対応するモデルIDがM6の補償モデルを使用していたとする。補償部141は、バックオフ変化量が-2dBであるという通知を受けたことに応じて、使用する補償モデルをモデルIDがM8の補償モデルに切り替える。
【0035】
補償部141は、伝送信号を送信した送信装置に関連付けて記憶部13に記憶された補償モデルを選択してもよい。これにより、通信装置1が複数の送信装置と通信をする場合、送信装置それぞれの特性の違いによらず、補償部141が伝送信号の歪みを適切に補償することができる。
【0036】
受信信号処理部142は、補償部141から入力された歪みが補償された後の信号を処理する。受信信号処理部142は、例えば、当該信号に基づく音をスピーカから出力させたり、当該信号に基づく画像をディスプレイに表示させたりする。
【0037】
送信信号生成部143は、通信装置1が通信装置1Aとして機能する場合に、通信装置1Bに送信する信号を生成する。送信信号生成部143は、例えば、音信号又は画像信号を生成し、生成した信号を送信部12に入力する。送信信号生成部143は、生成する信号の振幅をバックオフ制御部144の制御に基づいて変化させることによりバックオフ量を変化させる。
【0038】
バックオフ制御部144は、バックオフ量を変化させるように送信信号生成部143を制御する。上述したように、バックオフ制御部144は、例えば他の通信装置に与える干渉を抑制するためにバックオフ量を大きくし、電力増幅器の効率を向上させる方がよいときにバックオフ量を小さくする。バックオフ制御部144は、バックオフ量の基準値からの変化量であるバックオフ変化量を送信部12に送信させる。
【0039】
[通信装置1による効果]
以上説明したように、通信装置1は、送信装置から通知されたバックオフ変化量に基づいて決定した補償モデルを用いて伝送信号の歪みを補償する。これにより、通信装置1は、送信装置がバックオフをした場合の受信信号の品質の低下を抑制することができる。
【0040】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る通信装置10の構成を示す図である。通信装置10は、モデル作成部145をさらに有するという点で図2に示した通信装置1と異なり、他の点で同じである。
【0041】
モデル作成部145は、第1実施形態で説明した補償モデルを作成する。モデル作成部145は、例えば、受信部11が受信した伝送信号とバックオフ変化量とが入力されると、当該受信信号に対応する補償モデルを作成する。モデル作成部145は、特性が既知の伝送信号である参照信号とバックオフ変化量とが入力されると、当該参照信号に基づいて、通信装置から通知されたバックオフ変化量に対応する補償モデルを作成する。モデル作成部145は、作成した補償モデルをバックオフ変化量に関連付けて記憶部13に記憶させる。
【0042】
図5は、モデル作成部145の動作を模式的に示す図である。図5においては、通信装置1Aが有する電力増幅器によって、基準参照信号aに歪みが生じて参照信号a’となっている。モデル作成部145は、入力された参照信号a’を元の基準参照信号aに近づけることができる補償モデルを作成する。すなわち、モデル作成部145は、歪みが生じていない状態の基準参照信号と参照信号との差を減少させることができる補償モデルを作成する。モデル作成部145は、作成した補償モデルを、送信装置から通知されたバックオフ変化量に対応する補償モデルとする。
【0043】
モデル作成部145は、ベースとなる補償モデルが有する各種のパラメータを調整することにより複数の補償モデルを作成し、作成した複数の補償モデルのうち、補償部141が参照信号を補償した後の信号の品質が相対的に良い1つの補償モデルを、送信装置から通知されたバックオフ変化量に対応する補償モデルとしてもよい。
【0044】
モデル作成部145は、受信部11が参照信号を受信するたびに、基準参照信号と受信された参照信号との差が最も小さくなるように補償モデルを更新してもよい。このようにモデル作成部145が補償モデルを更新することで、送信装置の特性や電波の伝搬環境が変化したとしても、歪みの影響を抑制することが可能になる。
【0045】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態に係る通信システムS2の構成を示す図である。第2実施形態に係る通信装置10は、受信部11が受信したバックオフ変化量に対応する補償モデルをモデル作成部145が作成したが、第3実施形態に係る通信装置10は、受信部11がバックオフ変化量を受信せず、バックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報を受信する点で異なる。
【0046】
第3実施形態に係る通信装置10は、バックオフ変化情報を受信した場合に、受信した参照信号に基づいてモデル作成部145が適応的に再学習して補償モデルを更新する点で、第2実施形態のモデル作成部145と異なる。通信装置10におけるモデル作成部145以外の各部の動作は、第1実施形態及び第2実施形態における各部の動作と同等である。
【0047】
第3実施形態における受信部11は、送信装置におけるバックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報と、送信装置が送信した伝送信号と、を受信する。そして、モデル作成部145は、受信部11がバックオフ変化情報を受信した場合に、特性が既知の伝送信号である参照信号に対応する補償モデルを作成する。具体的には、第2実施形態と同様に、モデル作成部145は、基準参照信号と受信した参照信号との差が小さくなるように、ベースとなる補償モデルが有する各種のパラメータを調整することにより補償モデルを作成する。
【0048】
補償部141は、受信部11がバックオフ変化情報を受信した場合に、モデル作成部145の動作を開始させ、モデル作成部145が補償モデルを作成した後に、モデル作成部が補償モデルを作成する動作を停止させてもよい。補償部141がこのように動作することで、バックオフ量が変化していないにもかかわらず、モデル作成部145が補償モデルを更新し続けることで消費電力が増加することを防げる。
【0049】
図7は、通信装置10における処理の流れを示すフローチャートである。図7に示すフローチャートは、通信装置10が通信装置1Aから伝送信号を受信している状態から開始している。
【0050】
補償部141は、通信装置1Aとの通信中に、バックオフ量の変化があったか否かを監視する(S1)。具体的には、補償部141は、バックオフ量が変化したことを示すバックオフ変化情報を受信部11が受信したか否かを判定する。補償部141は、バックオフ量の変化がないと判定した場合(S1においてNO)、S6に処理を進めて、伝送信号の受信を継続する。
【0051】
補償部141は、バックオフ量の変化があったと判定すると(S1においてYES)、受信部11が受信した参照信号を取得し(S2)、参照信号が所定の条件を満たすか否かを判定する(S3)。所定の条件は、例えば参照信号と基準参照信号との差が所定値以下であること、参照信号のSN比が所定値以上であること、又は参照信号のビット誤り率が所定値以下であることのように、通信品質が基準レベル以上であることである。
【0052】
補償部141は、参照信号が所定の条件を満たしていない場合(S3においてNO)、参照信号と基準参照信号との差が小さくなるように、記憶部13に記憶されている補償モデルのパラメータを更新する(S4)。補償部141は、補償モデルのパラメータを再学習して更新した後に、参照信号が所定の条件を満たすか否かを再び判定する(S3)。
【0053】
補償部141は、参照信号が所定の条件を満たしたと判定した場合(S3においてYES)、再学習を終了し(S5)、伝送信号を受信する(S6)。補償部141は、通信が終了するまでの間(S7においてNO)、S1からS6までの処理を繰り返す。
【0054】
[第3実施形態の通信装置10による効果]
以上説明したように、第3実施形態の通信装置10においては、バックオフ量が変化したという通知を受信部11が受信すると、モデル作成部145が、受信部11が受信した参照信号の状態に基づいて適応的に補償モデルを更新する。モデル作成部145がこのように動作することで、送信装置がバックオフ変化量を送信しない場合であっても、通信装置1は、受信した伝送信号の非線形歪みを除去することができる。
【0055】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【0056】
例えば、以上の説明においては、通信装置1及び通信装置10が、補償部141とバックオフ制御部144とを有する場合を例示したが、通信装置1及び通信装置10は、補償部141とバックオフ制御部144のうち一方だけを有してもよい。具体的には、通信装置1又は通信装置10が例えば基地局装置である場合には、通信装置1又は通信装置10がバックオフ制御部144を有し、補償部141を有していなくてもよい。一方、通信装置1又は通信装置10が、バックオフ量を変化させることができる基地局装置と通信する端末である場合、通信装置1又は通信装置10は、補償部141を有し、バックオフ制御部144を有していなくてもよい。
【0057】
また、以上の説明においては、バックオフ変化量がバックオフ量の基準値との差を示す値であったが、バックオフ変化量がバックオフ量の絶対値を示す値であってもよい。
【0058】
なお、本発明により、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」に貢献することが可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 通信装置
1A 通信装置
1B 通信装置
10 通信装置
11 受信部
12 送信部
13 記憶部
14 制御部
141 補償部
142 受信信号処理部
143 送信信号生成部
144 バックオフ制御部
145 モデル作成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7