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特開2024-140356膝痛リスク推定装置、身体状態推定システム、膝痛リスク推定方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140356
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】膝痛リスク推定装置、身体状態推定システム、膝痛リスク推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/30 20180101AFI20241003BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G16H50/30
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051456
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】井原 和紀
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 史行
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】野崎 善喬
(72)【発明者】
【氏名】中原 謙太郎
【テーマコード(参考)】
4C038
5L099
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
5L099AA04
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる膝痛リスク推定装置等を提供する。
【解決手段】正規化された歩行波形を用いて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する特徴量構築部と、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定し、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する標識変数推定部と、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定し、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する膝痛リスク推定部と、生成された膝痛リスク情報を出力する出力部と、を備える膝痛リスク推定装置とする。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出し、抽出された前記歩行波形を正規化する歩行波形処理部と、
正規化された前記歩行波形を用いて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する特徴量構築部と、
前記特徴量の入力に応じて前記膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに前記特徴量を入力して少なくとも一つの前記標識変数を推定し、推定された少なくとも一つの前記標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する標識変数推定部と、
前記主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、前記主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定し、推定された前記膝痛リスク指標を用いて、前記膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する膝痛リスク推定部と、
生成された前記膝痛リスク情報を出力する出力部と、を備える膝痛リスク推定装置。
【請求項2】
前記指標推定モデルは、
前記主成分ベクトルの入力に応じて、5年後に膝痛が原因で受診するリスクを示す前記膝痛リスク指標を出力する請求項1に記載の膝痛リスク推定装置。
【請求項3】
前記指標推定モデルは、
前記主成分ベクトルを説明変数とし、将来において膝痛が原因で受診する可能性を示す前記膝痛リスク指標を目的変数とする学習で生成されたモデルである請求項1に記載の膝痛リスク推定装置。
【請求項4】
前記膝痛リスク推定部は、
前記指標推定モデルから出力された前記膝痛リスク指標の値に応じた判定結果を示す前記膝痛リスク情報を生成する請求項1に記載の膝痛リスク推定装置。
【請求項5】
前記特徴量構築部は、
膝痛リスクに関する前記標識変数として、膝関節屈曲角度に関する複数の前記標識変数と、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の前記標識変数との推定に用いられる前記特徴量を構築し、
前記標識変数推定モデルは、
膝関節屈曲角度に関する複数の前記標識変数の各々を推定する複数のモデルを含む第1モデル群と、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の前記標識変数の各々を推定する複数のモデルを含む第2モデル群と、を含み、
前記標識変数推定部は、
前記第1モデル群に含まれる複数のモデルの各々に、膝関節屈曲角度に関する複数の前記標識変数の推定に用いられる前記特徴量を入力して、膝関節屈曲角度に関する複数の前記標識変数を推定し、
前記第2モデル群に含まれる複数のモデルの各々に、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の前記標識変数の推定に用いられる前記特徴量を入力して、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の前記標識変数を推定する請求項1に記載の膝痛リスク推定装置。
【請求項6】
前記第1モデル群は、
一歩行周期の膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークに関連する膝関節屈曲角度に関する複数の前記標識変数の各々を推定する複数のモデルと、
一歩行周期の膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークのうち遊脚相に表れるピークのタイミングと爪先離地のタイミングとの時間的関係を含む膝関節屈曲角度に関する複数の前記標識変数の各々を推定する複数のモデルと、を含み、
前記第2モデル群は、
立脚相に含まれる複数の区間の各々に関して、膝の運動の円滑さを示す前記コストに関する前記標識変数を推定する複数のモデルを含む請求項5に記載の膝痛リスク推定装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の膝痛リスク推定装置と、
前記膝痛リスク情報の推定対象であるユーザの履物に設置され、空間加速度および空間角速度を計測し、計測した前記空間加速度および前記空間角速度を用いて歩行に応じたセンサデータを生成し、生成した前記センサデータを前記膝痛リスク推定装置に送信する計測装置と、を備える身体状態推定システム。
【請求項8】
前記膝痛リスク推定装置は、
前記ユーザによって閲覧可能な端末装置の画面に、前記ユーザに関して推定された前記膝痛リスク情報を表示させる請求項7に記載の身体状態推定システム。
【請求項9】
コンピュータが、
足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出し、
抽出された前記歩行波形を正規化し、
正規化された前記歩行波形を用いて、膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築し、
前記特徴量の入力に応じて前記膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに前記特徴量を入力して少なくとも一つの前記標識変数を推定し、
推定された少なくとも一つの前記標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成し、
前記主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、前記主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定し、
推定された前記膝痛リスク指標を用いて、前記膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成し、
生成された前記膝痛リスク情報を出力する膝痛リスク推定方法。
【請求項10】
足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出する処理と、
抽出された前記歩行波形を正規化する処理と、
正規化された前記歩行波形を用いて、膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する処理と、
前記特徴量の入力に応じて前記膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに前記特徴量を入力して少なくとも一つの前記標識変数を推定する処理と、
推定された少なくとも一つの前記標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する処理と、
前記主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、前記主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定する処理と、
推定された前記膝痛リスク指標を用いて、前記膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する処理と、
生成された前記膝痛リスク情報を出力する処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、身体状態を示す指標を推定する膝痛リスク推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘルスケアへの関心の高まりに伴って、歩容に応じた情報を提供するサービスに注目が集まっている。例えば、靴等の履物に実装されたセンサによって計測されたセンサデータを用いて、歩容を解析する技術が開発されている。センサデータの時系列データには、身体状態と関連する歩行イベントに伴った特徴が表れる。歩行イベントに伴った特徴を含む歩行データを解析することによって、対象者の身体状態を推定できる。例えば、対象者の膝の状態を推定できれば、膝痛リスクの早期発見や予防が可能になる。
【0003】
特許文献1には、変形性膝関節症の判定を行う判定装置について開示されている。特許文献1の装置は、対象者の脛骨近部に装着された第1加速度センサにより、歩行時に垂直方向に生じる第1加速度信号を検出する。また、特許文献1の装置は、対象者の踵近部位に装着された第2加速度センサにより、歩行時に垂直方向に生じる第2加速度信号を検出する。特許文献1の装置は、第1加速度信号に生じた第1ピーク点の第1時刻を抽出する。また、特許文献1の装置は、第2加速度信号に生じた第2ピーク点の第2時刻を抽出する。特許文献1の装置は、第1時刻から第2時刻までの衝撃伝達期間を算出する。特許文献1の装置は、衝撃伝達期間が所定範囲にあるか否かにより、変形性膝関節症の判定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-261525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置は、脛骨近部および踵付近部に装着された加速度センサからの加速度信号を用いて、現時点における対象者の変形性膝関節症の判定を行う。しかし、特許文献1の装置は、将来発生し得る膝痛リスクを推定できなかった。
【0006】
本開示の目的は、将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる膝痛リスク推定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の膝痛リスク推定装置は、足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出し、抽出された歩行波形を正規化する歩行波形処理部と、正規化された歩行波形を用いて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する特徴量構築部と、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定し、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する標識変数推定部と、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定し、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する膝痛リスク推定部と、生成された膝痛リスク情報を出力する出力部と、を備える。
【0008】
本開示の一態様の膝痛リスク推定方法においては、足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出し、抽出された歩行波形を正規化し、正規化された歩行波形を用いて、膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築し、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定し、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成し、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定し、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成し、生成された膝痛リスク情報を出力する。
【0009】
本開示の一態様のプログラムは、足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出する処理と、抽出された歩行波形を正規化する処理と、正規化された歩行波形を用いて、膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する処理と、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定する処理と、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する処理と、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定する処理と、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する処理と、生成された膝痛リスク情報を出力する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる膝痛リスク推定装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る身体状態推定システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える計測装置の構成の一例を示すブロック図である。
図3】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える計測装置の配置例を示す概念図である。
図4】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える計測装置に設定されるローカル座標系と世界座標系の関係の一例について説明するための概念図である。
図5】第1実施形態における説明で用いられる人体面について説明するための概念図である。
図6】第1実施形態における説明で用いられる歩行周期について説明するための概念図である。
図7】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図8】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による歩容パラメータの検出について説明するためのグラフである。
図9】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による歩行波形の正規化について説明するためのグラフである。
図10】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置が用いる膝関節屈曲角度の時系列データの一例を示すグラフである。
図11】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置が用いる角躍度の時系列データの一例を示すグラフである。
図12】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による標識変数推定モデルを用いた標識変数の推定について説明するための概念図である。
図13】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による主成分分析について説明するための概念図である。
図14】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による膝痛リスク指標の推定例を示す概念図である。
図15】第1実施形態に係る身体状態推定システムが用いる指標推定モデルの一例を検証した結果を示すグラフである。
図16】第1実施形態に係る身体状態推定システムの適用例を示す概念図である。
図17】第1実施形態に係る身体状態推定システムの適用例を示す概念図である。
図18】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える計測装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図19】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図20】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による特徴量構築処理の一例について説明するためのフローチャートである。
図21】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による標識変数推定処理の一例について説明するためのフローチャートである。
図22】第1実施形態に係る身体状態推定システムが備える膝痛リスク推定装置による膝痛リスク推定処理の一例について説明するためのフローチャートである。
図23】第2実施形態に係る膝痛リスク推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図24】第2実施形態に係る膝痛リスク推定装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図25】各実施形態の制御や処理を実行するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0013】
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係る身体状態推定システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の身体状態推定システムは、ユーザの歩行に応じた足の動きに関するセンサデータを計測する。本実施形態の身体状態推定システムは、計測されたセンサデータを用いて、将来において膝痛が発生するリスクを示す指標を推定する。本実施形態では、将来において膝痛が発生するリスクを示す指標として、膝痛リスクを推定する例をあげる。膝痛リスクは、今後5年以内に膝関節の痛みによって受診する確率を示す。
【0014】
(構成)
図1は、本実施形態に係る身体状態推定システム1の構成の一例を示すブロック図である。身体状態推定システム1は、計測装置10と膝痛リスク推定装置13を備える。例えば、計測装置10は、膝痛リスクの推定対象である被験者(ユーザ)の履物等に設置される。例えば、膝痛リスク推定装置13の機能は、被験者(ユーザ)の携帯する携帯端末にインストールされる。以下においては、計測装置10および膝痛リスク推定装置13の構成について、個別に説明する。
【0015】
〔計測装置〕
図2は、計測装置10の構成の一例を示すブロック図である。計測装置10は、センサ110、制御部113、および通信部115を有する。図2のように、センサ110は、加速度センサ111と角速度センサ112を有する。図2には、加速度センサ111と角速度センサ112が、センサ110に含まれる例をあげる。センサ110には、加速度センサ111および角速度センサ112以外のセンサが含まれてもよい。センサ110に含まれうる加速度センサ111および角速度センサ112以外のセンサについては、説明を省略する。
【0016】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、足の動きに関する物理量として、加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測する。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。加速度センサ111として用いられるセンサは、加速度を計測できればよい。
【0017】
角速度センサ112は、3軸周りの角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、足の動きに関する物理量として、角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測する。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。角速度センサ112として用いられるセンサは、角速度を計測できればよい。
【0018】
センサ110は、例えば、加速度や角速度を計測する慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)があげられる。IMUは、3軸方向の加速度を計測する加速度センサ111と、3軸周りの角速度を計測する角速度センサ112を含む。センサ110は、VG(Vertical Gyro)やAHRS(Attitude Heading Reference System)などの慣性計測装置によって実現されてもよい。また、センサ110は、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)によって実現されてもよい。センサ110は、足の動きに関する物理量を計測できれば、慣性計測装置以外の装置によって実現されてもよい。
【0019】
図3は、両足の靴100の中に、計測装置10が配置される一例を示す概念図である。図3の例では、足弓の裏側に当たる位置に、計測装置10が設置される。例えば、計測装置10は、靴100の中に挿入されるインソールに配置される。例えば、計測装置10は、靴100の底面に配置されてもよい。例えば、計測装置10は、靴100の本体に埋設されてもよい。計測装置10は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。計測装置10は、足の動きに関するセンサデータを計測できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、計測装置10は、ユーザが履いている靴下や、ユーザが装着しているアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、計測装置10は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。
【0020】
図3の例では、計測装置10(センサ110)を基準として、左右方向のx軸、前後方向のy軸、上下方向のz軸を含むローカル座標系が設定される。図3には、左足と右足とで異なる座標系が設定される例を示す。左足に関しては、x軸は左方を正とし、y軸は前方を正とし、z軸は上方を正とする。右足に関しては、x軸は右方を正とし、y軸は前方を正とし、z軸は上方を正とする。センサ110に設定される軸の向きは、左右の足で同じでもよい。例えば、同じスペックで生産されたセンサ110が左右の靴100の中に配置される場合、左右の靴100に配置されるセンサ110の上下の向き(Z軸方向の向き)は、同じ向きである。その場合、左足に由来するセンサデータに設定されるローカル座標系の3軸と、右足に由来するセンサデータに設定されるローカル座標系の3軸とは、左右で同じである。
【0021】
図4は、足弓の裏側に設置された計測装置10(センサ110)に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。図4には、左足と右足とで異なる座標系が設定された例を示す。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、進行方向に正対した状態のユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向、ユーザの背面の方向がY軸方向、重力方向がZ軸方向に設定される。なお、図4の例は、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)の関係を概念的に示すものであり、ユーザの歩行に応じて変動するローカル座標系と世界座標系の関係を正確に示すものではない。
【0022】
図5は、人体に対して設定される面(人体面とも呼ぶ)について説明するための概念図である。本実施形態では、身体を左右に分ける矢状面、身体を前後に分ける冠状面、身体を水平に分ける水平面が定義される。なお、図5のように、足の中心線を進行方向に向けて直立した状態では、世界座標系とローカル座標系が一致するものとする。図5には、左足と右足とで異なる座標系が設定された例を示す。本実施形態においては、X軸(x軸)を回転軸とする矢状面内の回転をロール、Y軸(y軸)を回転軸とする冠状面内の回転をピッチ、Z軸(z軸)を回転軸とする水平面内の回転をヨーと定義する。また、X軸(x軸)を回転軸とする矢状面内の回転角をロール角、Y軸(y軸)を回転軸とする冠状面内の回転角をピッチ角、Z軸(z軸)を回転軸とする水平面内の回転角をヨー角と定義する。
【0023】
制御部113(制御手段)は、膝痛リスク推定装置13から送信された計測開始信号を、通信部115から取得する。制御部113は、計測開始信号に応じて、加速度センサ111および角速度センサ112に計測を開始させる。例えば、制御部113は、ユーザの歩行検知に応じて、加速度センサ111および角速度センサ112に計測を開始させてもよい。例えば、制御部113は、予め設定された所定期間を越えて両足の垂直方向の高さが同じであった後に、左右いずれかの足の進行方向への動き出しが検出された時点を起点として、歩隔の計測を開始するように構成されてもよい。また、制御部113は、予め設定された所定タイミングにおいて、歩隔の計測を開始するように構成されてもよい。
【0024】
制御部113は、加速度センサ111から、3軸方向の加速度を取得する。また、制御部113は、角速度センサ112から、3軸周りの角速度を取得する。例えば、制御部113は、取得された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)する。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。制御部113は、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)を通信部115に出力する。
【0025】
制御部113は、図示しない記憶部に、センサデータを記憶させるように構成されてもよい。センサデータには、デジタルデータに変換された加速度データと、デジタルデータに変換された角速度データとが少なくとも含まれる。加速度データは、3軸方向の加速度ベクトルを含む。角速度データは、3軸周りの角速度ベクトルを含む。加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、制御部113は、加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えてもよい。
【0026】
例えば、制御部113は、計測装置10の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータやマイクロコントローラによって実現される。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して、角速度や加速度を計測する。
【0027】
図6は、右足を基準とする一歩行周期について説明するための概念図である。左足を基準とする一歩行周期も、右足と同様である。図6の横軸は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする右足の一歩行周期である。図6の横軸は、一歩行周期を100%として第1正規化されている。また、図6の横軸は、立脚相が60%、遊脚相が40%になるように第2正規化されている。片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。なお、図6は一例であって、一歩行周期を構成する期間や、それらの期間の名称等を限定するものではない。
【0028】
図6のように、歩行においては、複数の事象(歩行イベントとも呼ぶ)が発生する。E1は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表すHS(Heel Strike)。E2は、右足の足裏が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。E3は、右足の足裏が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。E4は、左足の踵が接地した事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。E5は、左足の足裏が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。E6は、左足の足裏が接地した状態で、左足と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。E7は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。E8は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。E8は、E1から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。なお、図6は一例であって、歩行において発生する事象や、それらの事象の名称を限定するものではない。
【0029】
通信部115(通信手段)は、膝痛リスク推定装置13から計測開始信号を受信する。通信部115は、受信された計測開始信号を制御部113に出力する。通信部115は、計測開始信号に応じて計測されたセンサデータを制御部113から取得する。通信部115は、取得したセンサデータを膝痛リスク推定装置13に送信する。通信部115は、予め設定された送信タイミングにおいて、センサデータを送信するように構成されてもよい。例えば、通信部115は、無線通信を介して、センサデータを送信する。通信部115から送信されたセンサデータは、膝痛リスク推定装置13によって受信される。センサデータの送信タイミングについては、特に限定しない。例えば、通信部115は、センサデータの計測に応じて、リアルタイムでそのセンサデータを送信する。例えば、通信部115は、所定期間に計測されたセンサデータを記憶しておき、予め設定されたタイミングにおいて、記憶されたセンサデータを一括で送信してもよい。
【0030】
例えば、通信部115は、無線通信を介して、膝痛リスク推定装置13にセンサデータを送信する。例えば、通信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、膝痛リスク推定装置13にセンサデータを送信する。通信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。通信部115は、ケーブルなどの有線を介して、膝痛リスク推定装置13にセンサデータを送信してもよい。
【0031】
〔膝痛リスク推定装置〕
図7は、膝痛リスク推定装置13の構成の一例を示すブロック図である。膝痛リスク推定装置13は、通信部131、歩行波形処理部132、特徴量構築部133、記憶部134、標識変数推定部135、膝痛リスク推定部136、および出力部137を有する。記憶部134には、標識変数推定モデル155および指標推定モデル156が記憶される。標識変数推定モデル155および指標推定モデル156は、インターネットなどの通信ネットワーク経由で膝痛リスク推定装置13に接続されたサーバやクラウドに構築されてもよい。
【0032】
通信部131(通信手段)は、計測開始のタイミングに合わせて、計測装置10に計測開始信号を送信する。例えば、通信部131は、予め設定された時刻に計測開始信号を送信する。通信部131は、計測終了のタイミングに合わせて、計測装置10に計測終了信号を送信する。例えば、通信部131は、予め設定された時刻に計測終了信号を送信する。例えば、通信部131は、膝痛リスク指標に応じた情報(膝痛リスク情報)の生成に十分なセンサデータが取得された段階において、計測終了信号を送信する。例えば、通信部131は、膝痛リスク情報が生成された段階において、計測終了信号を送信する。計測開始信号および計測終了信号を送信するタイミングは、任意に設定されてよい。なお、通信部131から計測開始信号および計測終了信号を送信せずに、計測装置10の側において計測の開始および終了が制御されてもよい。
【0033】
通信部131は、計測装置10によって計測されたセンサデータを受信する。通信部131は、受信したセンサデータを歩行波形処理部132に出力する。例えば、通信部131は、無線通信を介して、センサデータを受信する。通信部131によって受信されたセンサデータは、膝痛リスクの推定に用いられる。例えば、通信部131は、無線通信を介して、計測装置10から送信されたセンサデータを受信する。例えば、通信部131は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、計測装置10からセンサデータを受信する。通信部131の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。通信部131は、ケーブルなどの有線を介して、計測装置10からセンサデータを受信するように構成されてもよい。
【0034】
歩行波形処理部132(歩行波形処理手段)は、通信部131からセンサデータを取得する。歩行波形処理部132は、センサデータに含まれる3軸方向の加速度および3軸周りの角速度の時系列データから、一歩行周期分の時系列データ(歩行波形データとも呼ぶ)を抽出する。歩行波形処理部132は、踵接地HSのタイミングを始点とし、次の踵接地HSのタイミングを終点とする歩行波形データを抽出する。
【0035】
図8は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データ(実線)から、踵接地HSのタイミングを抽出する一例について説明するためのグラフである。図8には、ロール角(X軸周り角速度)の時系列データ(破線)も示す。また、図8には、爪先離地TOおよび立脚中期のタイミングも示す。踵接地HSのタイミングは、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに表れる極大ピークの直後の極小ピークのタイミングである。踵接地HSのタイミングの目印になる極大ピークは、一歩行周期分の歩行波形データの最大ピークに相当する。連続する踵接地HSの間の区間が、一歩行周期に相当する。爪先離地TOのタイミングは、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに変動が表れない立脚相の期間の後に表れる極大ピークの立ち上がりのタイミングである。ロール角が最小のタイミングと、ロール角が最大のタイミングとの中点のタイミングが、立脚中期に相当する。例えば、歩行速度や、歩幅、分回し、内旋/外旋、底屈/背屈などのパラメータ(歩容パラメータとも呼ぶ)は、立脚中期を基準として検出できる。
【0036】
歩行波形処理部132は、抽出された一歩行周期分の歩行波形データの時間を、0~100%(パーセント)の歩行周期に正規化(第1正規化とも呼ぶ)する。0~100%の歩行周期に含まれる1%や10%などのタイミングを、歩行フェーズとも呼ぶ。また、歩行波形処理部132は、第1正規化された一歩行周期分の歩行波形データに関して、立脚相が60%、遊脚相が40%になるように正規化(第2正規化とも呼ぶ)する。立脚相は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している期間である。遊脚相は、足の裏側が地面から離れている期間である。歩行波形データを第2正規化すれば、特徴量が抽出される歩行フェーズのずれを低減できる。歩行波形処理部132は、正規化された歩行波形データを特徴量構築部133に出力する。
【0037】
図9は、歩行波形処理部132によって正規化された歩行波形データの一例について説明するための図である。歩行波形処理部132は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データから、踵接地HSと爪先離地TOを検出する。歩行波形処理部132は、連続する踵接地HSの間の区間を、一歩行周期分の歩行波形データとして抽出する。歩行波形処理部132は、第1正規化によって、一歩行周期分の歩行波形データの横軸(時間軸)を、0~100%の歩行周期に変換する。図9には、第1正規化後の歩行波形データを破線で示す。第1正規化後の歩行波形データ(破線)では、爪先離地TOのタイミングが60%からずれている。
【0038】
図9の例において、歩行波形処理部132は、歩行フェーズが0%の踵接地HSから、その踵接地HSに後続する爪先離地TOまでの区間を0~60%に正規化する。また、歩行波形処理部132は、爪先離地TOから、爪先離地TOに後続する歩行フェーズが100%の踵接地HSまでの区間を60~100%に正規化する。その結果、一歩行周期分の歩行波形データは、歩行周期が0~60%の区間(立脚相)と、歩行周期が60~100%の区間(遊脚相)とに正規化される。図9には、第2正規化後の歩行波形データを実線で示す。第2正規化後の歩行波形データ(実線)では、爪先離地TOのタイミングが60%に一致する。
【0039】
図8図9には、進行方向加速度(Y方向加速度)に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化する例を示した。歩行波形処理部132は、進行方向加速度(Y方向加速度)以外の加速度/角速度に関しては、進行方向加速度(Y方向加速度)の歩行周期に合わせて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化する。また、歩行波形処理部132は、3軸周りの角速度の時系列データを積分することで、3軸周りの角度の時系列データを生成してもよい。その場合、歩行波形処理部132は、3軸周りの角度に関しても、進行方向加速度(Y方向加速度)の歩行周期に合わせて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化する。
【0040】
歩行波形処理部132は、進行方向加速度(Y方向加速度)以外の加速度/角速度に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化してもよい。例えば、歩行波形処理部132は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データから、踵接地HSや爪先離地TOを検出してもよい(図面は省略)。踵接地HSのタイミングは、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに表れる急峻な極小ピークのタイミングである。急峻な極小ピークのタイミングにおいては、垂直方向加速度(Z方向加速度)の値がほぼ0になる。踵接地HSのタイミングの目印になる極小ピークは、一歩行周期分の歩行波形データの最小ピークに相当する。連続する踵接地HSの間の区間が、一歩行周期である。爪先離地TOのタイミングは、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データが、踵接地HSの直後の極大ピークの後に変動の小さい区間を経た後に、なだらかに増大する途中の変曲点のタイミングである。また、歩行波形処理部132は、進行方向加速度(Y方向加速度)および垂直方向加速度(Z方向加速度)の両方に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化してもよい。また、歩行波形処理部132は、進行方向加速度(Y方向加速度)および垂直方向加速度(Z方向加速度)以外の加速度や角速度、角度等に基づいて、一歩行周期分の歩行波形データを抽出/正規化してもよい。
【0041】
特徴量構築部133(特徴量構築手段)は、歩行波形処理部132から歩行波形データを取得する。特徴量構築部133は、歩行波形データから、膝痛リスクの推定に用いられる特徴量を抽出する。特徴量構築部133は、膝痛リスクの推定のために、膝痛リスクの推定に用いられる標識変数の推定に用いられる特徴量を構築する。膝痛リスクの推定には、膝関節屈曲角度に関する標識変数と、AJC(Angular Jerk Cost)に関する標識変数とが用いられる。膝関節屈曲角度は、膝関節を中心として、大腿部と下腿部とがなす角度である。本実施形態において、膝関節屈曲角度は、進行方向の面内(矢状面内)における角度を示す。膝関節屈曲角度は、脳性麻痺や変形性膝関節症等が原因である膝疾患の指標である。このような膝疾患があると、歩行中における膝関節屈曲角度が減少する。脳性麻痺患者における歩行中の膝関節屈曲角度が減少する現象は、Stiff-knee Gaitと呼ばれる。AJCは、歩行周期に含まれる特定期間において、膝屈曲角度の三階微分である角躍度の二乗値の総和を2で割り、底が10の対数により変換した値である。AJCは、膝の運動の円滑さを示すコストである。特定の歩行周期におけるAJCが標識変数として用いられる。
【0042】
例えば、特徴量構築部133は、予め設定された条件に基づいて、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を抽出する。歩行フェーズクラスターは、時間的に連続する歩行フェーズを統合したクラスターである。歩行フェーズクラスターは、少なくとも一つの歩行フェーズを含む。歩行フェーズクラスターには、単一の歩行フェーズも含まれる。膝痛リスクの推定に用いられる特徴量が抽出される歩行波形データや歩行フェーズについては、後述する。特徴量構築部133は、抽出された歩行フェーズクラスターごとの特徴量を標識変数推定部135に出力する。
【0043】
例えば、特徴量構築部133は、歩行フェーズクラスターを構成する歩行フェーズの各々から抽出された特徴量(第1特徴量)を取得する。特徴量構築部133は、取得した第1特徴量に特徴量構成式を適用して、歩行フェーズクラスターごとの特徴量(第2特徴量)を生成する。特徴量構成式は、歩行フェーズクラスターごとの特徴量(第2特徴量)を生成するために、予め設定された計算式である。例えば、特徴量構成式は、四則演算に関する計算式である。例えば、特徴量構成式を用いて算出される第2特徴量は、歩行フェーズクラスターに含まれる各歩行フェーズにおける第1特徴量の積分平均値や算術平均値、傾斜、ばらつきなどである。例えば、特徴量構築部133は、歩行フェーズクラスターを構成する歩行フェーズの各々から抽出された第1特徴量の傾斜やばらつきを算出する計算式を、特徴量構成式として適用する。例えば、歩行フェーズクラスターが単独の歩行フェーズで構成される場合は、傾斜やばらつきを算出できないため、積分平均値や算術平均値などを計算する特徴量構成式を用いればよい。
【0044】
図10は、一歩行周期における膝関節屈曲角度の時系列データの一例を示すグラフである。図10は、スマートアパレルを着用した被験者の膝屈曲関節角度を、モーションキャプチャの手法で計測されたデータである、図10の横軸は、踵接地のタイミングを起点とし、その次の踵接地のタイミングを終点とする歩行周期である。歩行周期は、0~100%に正規化される。また、歩行周期は、立脚相が60%の期間になり、遊脚相が40%の期間になるように正規化される。一歩行周期における膝関節屈曲角度の時系列データには、二つのピークが表れる。二つのピークの間には、一つの谷が表れる。第1ピークは、立脚初期T1から立脚中期T2への移行期間に表れる。第1ピークのタイミングは、反対足爪先離地OTOのタイミングとほぼ一致する。第2ピークは、遊脚初期T5から遊脚中期T6への移行期間に表れる。第2ピークのタイミングは、足交差FAのタイミングとほぼ一致する。
【0045】
図10には、膝の状態を示す指標値の一例として、膝関節屈曲角度に関する標識変数を示す。本実施形態では、膝関節屈曲角度に関する標識変数として、角度変数F1、角度変数F2、角度変数F3、角度変数F4、歩行周期変数G、および時間変数Tが用いられる例をあげる。
【0046】
角度変数F1は、第1ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度から、第1ピークと第2ピークの間に表れる谷のタイミングにおける膝関節屈曲角度を引いた値である。膝疾患がある場合、第1ピークと第2ピークの間に表れる谷が不明確になる傾向がある。そのため、膝疾患がある場合、角度変数F1が小さくなる。
【0047】
角度変数F1の推定のために、特徴量構築部133は、特徴量F1-1~11を構築する。特徴量F1-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ94%から抽出される。特徴量F1-2は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ79-81%の区間から抽出される。特徴量F1-3は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ1%、33%、43%から抽出される。特徴量F1-4は、冠状面内(Y軸周り)における角速度の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ39-40%の区間から抽出される。特徴量F1-5は、水平面内(Z軸周り)における角速度の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ62-63%の区間から抽出される。特徴量F1-6は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ68-72%、88-93%の区間から抽出される。特徴量F1-7は、矢状面内(Y軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ6-21%、23-28%の区間から抽出される。特徴量F1-8は、歩容パラメータに含まれるストライド長である。特徴量F1-9は、歩容パラメータに含まれる背屈の最大値(背屈最大)である。特徴量F1-10は、歩容パラメータに含まれる、一歩行周期における立脚相の割合である。特徴量F1-11は、歩容パラメータに含まれる、一歩行周期における遊脚相の割合である。
【0048】
角度変数F2は、第2ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度から、第1ピークと第2ピークの間に表れる谷のタイミングにおける膝関節屈曲角度を引いた値である。膝疾患がある場合、第1ピークと第2ピークの間に表れる谷が不明確になる傾向がある。そのため、膝疾患がある場合、角度変数F2が小さくなる。
【0049】
角度変数F2の推定のために、特徴量構築部133は、特徴量F2-1~8を構築する。特徴量F2-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ93%から抽出される。特徴量F2-2は、進行方向加速度(Y方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ12%、78-84%の区間から抽出される。特徴量F2-3は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ25-26%から抽出される。特徴量F2-4は、冠状面内(Y軸周り)における角速度の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ70%の区間から抽出される。特徴量F2-5は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ38-44%、63-86%の区間から抽出される。特徴量F2-6は、水平面内(Z軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ9-11%の区間から抽出される。特徴量F2-7は、歩容パラメータに含まれる爪先高さの最大値(最大爪先高さ)である。特徴量F2-8は、歩容パラメータに含まれるストライド時間である。
【0050】
角度変数F3は、第2ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度から、爪先離地のタイミングにおける膝関節屈曲角度を引いた値である。膝疾患がある場合、膝関節屈曲角度が減少する傾向がある。そのため、膝疾患がある場合、角度変数F3が小さくなる。
【0051】
角度変数F3の推定のために、特徴量構築部133は、特徴量F3-1~2を構築する。特徴量F3-1は、垂直方向加速度(Z方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ33%、75-77%から抽出される。特徴量F3-2は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ52-82%の区間から抽出される。
【0052】
角度変数F4は、第2ピークのタイミングにおける膝関節屈曲角度である。膝疾患がある場合、遊脚相における膝関節屈曲角度が減少する傾向がある。そのため、膝疾患がある場合、角度変数F4が小さくなる。
【0053】
角度変数F4の推定のために、特徴量構築部133は、特徴量F4-1~2を構築する。特徴量F4-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ68%から抽出される。特徴量F4-2は、矢状面内(Y軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ75-86%の区間から抽出される。
【0054】
歩行周期変数Gは、爪先離地のタイミングから、第2ピークのタイミングまでの時間的距離(歩行周期)である。膝疾患がある場合、爪先離地のタイミングにおける膝の移動速度が低下する傾向がある。そのため、膝疾患がある場合、歩行周期変数Gが大きくなる。
【0055】
歩行周期変数Gの推定のために、特徴量構築部133は、特徴量G-1~3を構築する。特徴量G-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ87%から抽出される。特徴量G-2は、水平面内(Z軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ76-78%の区間から抽出される。特徴量G-3は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ1-3%、67-83%の区間から抽出される。
【0056】
時間変数Tは、爪先離地のタイミングから、第2ピークのタイミングまでの時間である。膝疾患がある場合、爪先離地のタイミングにおける膝の移動速度が低下する傾向がある。そのため、膝疾患がある場合、時間変数Tが大きくなる。
【0057】
時間変数Tの推定のために、特徴量構築部133は、特徴量T-1~3を構築する。特徴量T-1は、左右方向加速度(X方向加速度)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ87%から抽出される。特徴量T-2は、水平面内(Z軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ76-78%の区間から抽出される。特徴量T-3は、矢状面内(X軸周り)における角度(姿勢角)の時系列データに関する歩行波形データの歩行フェーズ1-3%、67-83%の区間から抽出される。
【0058】
図11は、角躍度の時系列データの一例を示すグラフである。本実施形態では、一歩行周期の0~60%の区間(立脚相)に含まれる複数の対象区間の各々におけるAJCを推定する。本実施形態では、立脚相に含まれる第1区間P1、第2区間P2、第3区間P3、および第4区間P4ごとにAJCを推定する。第1区間P1は、初期接地IC(Initial Contact)から荷重反応期LR(Load Reaction period)までの区間である。初期接地ICは、踵接地HS直後のタイミングである。荷重反応期LRは、歩行周期が約15%のタイミングである。第1区間P1に関しては、AJC1が算出される。第2区間P2は、荷重反応期LRからミッドスタンスMSまでの区間である。ミッドスタンスMSは、立脚中期T2から立脚終期T3への移行のタイミングである。ミッドスタンスMSは、立脚相の中央のタイミングである。第2区間P2に関しては、AJC2が算出される。第3区間P3は、ミッドスタンスMSからターミナルスタンスTSまでの区間である。ターミナルスタンスTSは、立脚終期T3から遊脚前期T4への移行のタイミングである。第3区間P3に関しては、AJC3が算出される。第4区間P4は、ターミナルスタンスTSから初期遊脚PS(Pre Swing)までの区間である。初期遊脚PSは、爪先離地のタイミングである。第4区間P4に関しては、AJC4が算出される。
【0059】
変形性膝関節症を発症している被験者は、膝の疼痛や可動域の制限などの要因による膝関節の機能や歩行障害などに起因して、立脚初期において適切な運動学的対応が困難となる。そのような被験者は、床反力を小さくすることによって膝関節の角加速度変化を小さくし、膝の疼痛を回避するために運動の円滑さを保証するように対応すると推定される。本実施形態では、膝の疼痛を回避するための補償動作に応じて運動の円滑さが増大し、角躍度が低下するものと想定する。通常、膝角度の動きは、等加速度運動ではない。しかし、膝の痛みを和らげるための補償動作によって、膝角度の動きが等加速度運動に近くなる傾向がある。
【0060】
記憶部134(記憶手段)は、標識変数推定モデル155および指標推定モデル156を記憶する。標識変数推定モデル155は、特徴量構築部133によって構築された特徴量の入力に応じて、膝関節屈曲角度およびAJCに関する標識変数を出力する。標識変数推定モデル155および指標推定モデル156は、製品の工場出荷時や、身体状態推定システム1をユーザが使用する前のキャリブレーション時等のタイミングで、記憶部134に記憶させておけばよい。例えば、身体状態推定システム1は、外部のサーバ等の記憶装置に保存された標識変数推定モデル155および指標推定モデル156を用いるように構成してもよい。その場合、その記憶装置と接続されたインターフェース(図示しない)を介して、身体状態推定システム1が標識変数推定モデル155および指標推定モデル156を用いるようにすればよい。
【0061】
例えば、標識変数推定モデル155および指標推定モデル156は、後述する入力を説明変数とし、各々の推定対象を応答変数とする学習によって、予め構築されたモデルである。例えば、これらのモデルは、線形回帰のアルゴリズムを用いた学習によって構築される。例えば、これらのモデルは、サポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)のアルゴリズムを用いた学習によって構築される。例えば、これらのモデルは、ガウス過程回帰(GPR:Gaussian Process Regression)のアルゴリズムを用いた学習によって構築される。例えば、これらのモデルは、ランダムフォレスト(RF:Random Forest)のアルゴリズムを用いた学習によって構築される。例えば、これらのモデルは、特徴量データに応じて、その特徴量データの生成元の被験者を分類する教師なし学習によって構築されてもよい。これらのモデルを構築する学習のアルゴリズムには、特に限定を加えない。
【0062】
標識変数推定モデル155および指標推定モデル156は、製品の工場出荷時や、身体状態推定システム1をユーザが使用する前のキャリブレーション時等のタイミングに、記憶部134に記憶させておけばよい。例えば、標識変数推定モデル155および指標推定モデル156は、外部のサーバ等の記憶装置に保存されたモデルであってもよい。その場合、その記憶装置と接続されたインターフェース(図示しない)を介して、それらのモデルを膝痛リスク推定装置13が用いるように構成されればよい。
【0063】
標識変数推定部135は、特徴量構築部133から、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を取得する。標識変数推定部135は、取得した歩行フェーズクラスターごとの特徴量を標識変数推定モデル155に入力する。
【0064】
図12は、標識変数推定モデル155を用いた標識変数の推定について説明するための概念図である。標識変数推定モデル155には、標識変数を推定する複数のモデルが含まれる。複数のモデルは、第1モデル群151および第2モデル群152に分けられる。以下においては、標識変数推定モデル155に含まれる複数のモデルに関して、実測値と推定値との相関関係について検証した結果を示す。その検証においては、72人(男性36人、女性36人)の被験者に対して、実測値と推定値との相関を検証した。具体的には、スマートアパレルを着用した被験者に、計測装置10が搭載された靴を履かせて、5mの直線経路を2往復歩行させた。膝屈曲関節角度や歩行周期、時間の実測値は、スマートアパレルを着用した被験者の歩行において、モーションキャプチャによって計測された。AJCは、膝屈曲関節角度を用いて算出された。予測値は、実測値の計測と同時に、被験者が履く靴に搭載された計測装置10によって計測されたセンサデータを用いて推定された推定値である。以下において、モデルを用いた推定値と、実測値との相関を、級内相関係数ICC(Intraclass Correlation Coefficients)で示す。
【0065】
第1モデル群151は、膝関節屈曲角度に関する標識変数を推定するモデルである。第1モデル群151は、第1角度変数推定モデルMF1、第2角度変数推定モデルMF2、第3角度変数推定モデルMF3、および第4角度変数推定モデルMF4を含む。また、第1モデル群151は、歩行周期変数推定モデルMGおよび時間変数推定モデルMTを含む。
【0066】
第1角度変数推定モデルMF1は、特徴量の入力に応じて、角度変数F1を出力するモデルである。例えば、第1角度変数推定モデルMF1は、特徴量F1-1~11の入力に応じて、角度変数F1を出力する。第1角度変数推定モデルMF1は、角度変数F1の推定に用いられる特徴量F1-1~11を説明変数とし、角度変数F1を目的変数とする教師データを用いて学習される。上述した検証において、第1角度変数推定モデルMF1を用いた推定値と、角度変数F1の実測値との級内相関係数ICCは0.4893であった。
【0067】
第2角度変数推定モデルMF2は、特徴量の入力に応じて、角度変数F2を出力するモデルである。例えば、第2角度変数推定モデルMF2は、特徴量F2-1~8の入力に応じて、角度変数F2を出力する。第2角度変数推定モデルMF2は、角度変数F2の推定に用いられる特徴量F2-1~8を説明変数とし、角度変数F2を目的変数とする教師データを用いて学習される。上述した検証において、第2角度変数推定モデルMF2を用いた推定値と、角度変数F2の実測値との級内相関係数ICCは0.4732であった。
【0068】
第3角度変数推定モデルMF3は、特徴量の入力に応じて、角度変数F3を出力するモデルである。例えば、第3角度変数推定モデルMF3は、特徴量F3-1~2の入力に応じて、角度変数F3を出力する。第3角度変数推定モデルMF3は、角度変数F3の推定に用いられる特徴量F3-1~2を説明変数とし、角度変数F3を目的変数とする教師データを用いて学習される。上述した検証において、第3角度変数推定モデルMF3を用いた推定値と、角度変数F3の実測値との級内相関係数ICCは0.5944であった。
【0069】
第4角度変数推定モデルMF4は、特徴量の入力に応じて、角度変数F4を出力するモデルである。例えば、第4角度変数推定モデルMF4は、特徴量F4-1~2の入力に応じて、角度変数F4を出力する。第4角度変数推定モデルMF4は、角度変数F4の推定に用いられる特徴量F4-1~2を説明変数とし、角度変数F4を目的変数とする教師データを用いて学習される。上述した検証において、第4角度変数推定モデルMF4を用いた推定値と、角度変数F4の実測値との級内相関係数ICCは0.3345であった。
【0070】
歩行周期変数推定モデルMGは、特徴量の入力に応じて、歩行周期変数Gを出力するモデルである。例えば、歩行周期変数推定モデルMGは、特徴量G-1~3の入力に応じて、歩行周期変数Gを出力する。歩行周期変数推定モデルMGは、歩行周期変数Gの推定に用いられる特徴量G-1~3を説明変数とし、歩行周期変数Gを目的変数とする教師データを用いて学習される。上述した検証において、歩行周期変数推定モデルMGを用いた推定値と、歩行周期変数Gの実測値との級内相関係数ICCは0.4818であった。
【0071】
時間変数推定モデルMTは、特徴量の入力に応じて、時間変数Tを出力するモデルである。例えば、時間変数推定モデルMTは、特徴量T-1~3の入力に応じて、時間変数Tを出力する。時間変数推定モデルMTは、時間変数Tの推定に用いられる特徴量T-1~3を説明変数とし、時間変数Tを目的変数とする教師データを用いて学習される。上述した検証において、時間変数推定モデルMTを用いた推定値と、時間変数Tの実測値との級内相関係数ICCは0.7122であった。
【0072】
第2モデル群152は、AJCに関する標識変数を推定するモデルである。第2モデル群152は、AJC推定モデルMP1、AJC推定モデルMP2、AJC推定モデルMP3、およびAJC推定モデルMP4を含む。
【0073】
AJC推定モデルMP1は、特徴量の入力に応じて、AJC1を出力するモデルである。例えば、AJC推定モデルMP1は、AJC推定モデルMP1の推定に用いられる少なくとも一つの特徴量を説明変数とし、AJC推定モデルMP1を目的変数とする教師データを用いて学習される。上記の検証において、AJC推定モデルMP1を用いた推定値と、AJC1の実測値との級内相関係数ICCは0.2453であった。
【0074】
AJC推定モデルMP2は、特徴量の入力に応じて、AJC2を出力するモデルである。例えば、AJC推定モデルMP2は、AJC推定モデルMP2の推定に用いられる少なくとも一つの特徴量を説明変数とし、AJC推定モデルMP2を目的変数とする教師データを用いて学習される。上記の検証において、AJC推定モデルMP2を用いた推定値と、AJC2の実測値との級内相関係数ICCは0.4418であった。
【0075】
AJC推定モデルMP3は、特徴量の入力に応じて、AJC3を出力するモデルである。例えば、AJC推定モデルMP3は、AJC推定モデルMP3の推定に用いられる少なくとも一つの特徴量を説明変数とし、AJC推定モデルMP3を目的変数とする教師データを用いて学習される。上記の検証において、AJC推定モデルMP3を用いた推定値と、AJC3の実測値との級内相関係数ICCは0.6114であった。
【0076】
AJC推定モデルMP4は、特徴量の入力に応じて、AJC4を出力するモデルである。例えば、AJC推定モデルMP4は、AJC推定モデルMP4の推定に用いられる少なくとも一つの特徴量を説明変数とし、AJC推定モデルMP4を目的変数とする教師データを用いて学習される。上記の検証において、AJC推定モデルMP4を用いた推定値と、AJC4の実測値との級内相関係数ICCは0.6185であった。
【0077】
実測値と推定値との級内相関係数ICCは、区間に応じて、異なる値であった。第1区間P1においては、計測装置10の動きが複雑であり、センサデータにノイズが含まれやすい。その結果、実測値と推定値と級内相関係数ICCが低下したものと推定される。一方、第3区間P3および第4区間P4においては、計測装置10の動きが安定し、実測値と推定値と級内相関係数ICCが比較的良好であったものと推定される。
【0078】
標識変数推定部135(標識変数推定手段)は、標識変数推定モデル155から出力された複数の標識変数を主成分分析する。すなわち、標識変数推定部135は、第1モデル群151および第2モデル群152の出力を主成分分析する。例えば、標識変数推定部135は、学習データに基づいて予め構築された主成分計算式を用いて、複数の標識変数を主成分分析する。例えば、標識変数推定部135は、予め学習された主成分分析モデル(図示しない)を用いて、複数の標識変数を主成分分析してもよい。主成分分析モデルは、標識変数の入力に応じて、主成分分析PCA(Principal Component Analysis)を実行する。標識変数推定モデル155は、少なくとも一つの主成分を含む主成分ベクトルPCV(Principal Component Vector)を出力する。
【0079】
図13は、標識変数推定部135による主成分分析PCAについて説明するための概念図である。具体的には、標識変数推定部135は、角度変数F1、角度変数F2、角度変数F3、角度変数F4、歩行周期変数G、時間変数T、AJC1、AJC2、AJC3、AJC4を用いて、主成分分析を実行する。標識変数推定部135は、主成分分析によって、主成分ベクトルPCV1、主成分ベクトルPCV2、・・・、主成分ベクトルPCVnを生成する(nは自然数)。
【0080】
例えば、標識変数推定部135は、膝痛の有無によって2群に分類された複数の被験者に関する標識変数を主成分分析して、主成分ベクトルPSVを構築する。例えば、標識変数推定部135は、2群間の分布の離れ具合を定量評価するための指標であるCohenのdを計算する。Cohenのdは、2つの標本間における平均値の差を標準偏差で割って標準化した値(効果量)である。Cohenのdは、2つの標本の平均値がどれだけ離れているかを表す。Cohenのdの値が大きいほど、2つの標本における平均値が離れていることになるため、膝痛リスクの推定に有効である。標識変数推定部135が算出する値は、Cohenのdに限定されない。例えば、標識変数推定部135は、Hedgesのgを計算してもよい。
【0081】
膝痛リスク推定部136(膝痛リスク推定手段)は、標識変数推定部135によって構築された主成分ベクトルPSVを取得する。膝痛リスク推定部136は、取得した主成分ベクトルPSVを指標推定モデル156に入力して、膝痛リスク指標を推定する。
【0082】
図14は、膝痛リスク推定部136による膝痛リスク指標Srの推定例を示す概念図である。指標推定モデル156は、主成分ベクトルPSVを説明変数とし、膝痛リスク指標Srを目的変数とする教師データを用いた学習で生成されたモデルである。膝痛リスク指標Srは、将来において膝痛が原因で受診する可能性を示す指標である。例えば、膝痛リスク指標Srは、5年後に、膝痛が原因で受診する可能性を示す。例えば、膝痛リスク指標Srは、数値で表された点数である。例えば、膝痛リスク指標Srは、膝痛リスクがない(判定A)、5年後に受診する可能性がある(判定B)、5年後に確実に受診する(判定C)、既に受診している(判定D)などといった判定であってもよい。なお、膝痛リスク指標Srは、将来において膝痛が原因で受診する可能性を示す指標であれば、5年後において膝痛が原因で受診する可能性ではない判定基準であってもよい。
【0083】
図15は、指標推定モデル156を検証した結果を示すグラフである。図15は、複数の被験者の歩行に関して、指標推定モデル156を用いて推定された膝痛リスク指標(推定値)と、専門家によって評価された膝痛リスク得点(真値)との相関を示す。ここでは、25人(男性6人、女性19人)の被験者に対して行われた検証例をあげる。この検証では、計測装置10が搭載された靴を履いた被験者に、通常の歩行速度で10mの直線経路を4往復歩行させた。被験者の歩行状態は、側方、前方、および後方から動画で撮影することによって記録された。被験者の膝痛リスク指標は、被験者の歩行状態が撮影された動画を用いて、専門家集団によって判別された。専門家集団には、医師や理学療法士が含まれる。指標推定モデル156を用いた膝痛リスク指標の推定においては、上述した10個の標識変数を主成分分析することで得られた主成分ベクトルが用いられた。
【0084】
図15には、指標推定モデル156を用いて推定された膝痛リスク指標(推定値)と、専門家によって評価された膝痛リスク得点(真値)との相関を示す回帰直線を図示する。回帰直線の相関係数rは、0.72であった。膝痛リスク得点(真値)による膝痛リスクの判定閾値は60点である。膝痛リスク得点(真値)に関しては、60点以上が高リスク群であり、60点未満が低リスク群である。図15の例において、膝痛リスク得点(真値)の判定閾値である60点に相当する膝痛リスク指標(推定値)は、-1である。図15の例において、膝痛リスク指標(推定値)に関しては、-1以下が高リスク群であり、-1超過が低リスク群である。すなわち、膝痛リスク指標(推定値)が-1以下の被験者(ユーザ)には膝痛リスクがある。
【0085】
膝痛リスク推定部136は、指標推定モデル156を用いて推定された膝痛リスク指標(推定値)に応じた情報(膝痛リスク情報)を生成する。例えば、膝痛リスク推定部136は、膝痛リスク情報として、膝痛リスク指標の推定値を含む情報を生成する。例えば、膝痛リスク推定部136は、膝痛リスク情報として、膝痛リスク指標の推定値に応じた推定結果を含む情報を生成する。例えば、膝痛リスク推定部136は、膝痛リスク情報として、膝痛リスク指標の推定値に応じた行動推薦を含む情報を生成する。膝痛リスク推定部136によって生成される膝痛リスク情報は、膝痛リスクに関する情報であれば、特に限定されない。
【0086】
出力部137(出力手段)は、膝痛リスク推定部136によって推定された膝痛リスク情報を取得する。出力部137は、取得した膝痛リスク情報を出力する。例えば、出力部137は、被験者(ユーザ)の携帯端末180の画面に、膝痛リスク情報を表示させる。例えば、出力部137は、膝痛リスク情報を使用する外部システム等に対して、その膝痛リスク情報を出力する。出力部137から出力された膝痛リスク情報の使用に関しては、特に限定しない。
【0087】
ここで、膝痛リスク推定装置13から出力された膝痛リスク情報の表示例について図面を参照しながら説明する。以下の表示例においては、靴に搭載された計測装置10によって計測されたセンサデータを用いて、ユーザが携帯する携帯端末にインストールされた膝痛リスク推定装置13の機能が、膝痛リスク情報を推定する例を示す。
【0088】
図16図17は、計測装置10が配置された靴100を履いて歩行するユーザの携帯する携帯端末180の画面に、膝痛リスク推定装置13による推定結果を表示させる一例を示す概念図である。図16図17は、ユーザの歩行に応じて計測されたセンサデータに基づく特徴量データを用いた膝痛リスクの推定結果に応じた膝痛リスク情報を、携帯端末180の画面に表示させる例である。
【0089】
図16は、膝痛リスクの推定結果に応じた膝痛リスク情報が、携帯端末180の画面に表示される一例である。図16の例では、膝痛リスクの推定結果に応じて、「あなたの歩容に基づいて、膝痛リスクが認められました。」という膝痛リスク情報が、携帯端末180の画面に表示される。また、図16の例では、膝痛リスクの推定結果に応じて、「膝痛リスクを低減する運動をお薦めします。トレーニングZが最適です。下記の動画をご覧ください。」という膝痛リスクの推定結果に応じた推薦情報が、携帯端末180の表示部に表示される。携帯端末180の表示部に表示された情報を確認したユーザは、推薦情報に応じてトレーニングZの動画を参照して運動することによって、膝痛リスクの回避につながるトレーニングを実践できる。
【0090】
図17は、膝痛リスクの推定結果に応じた膝痛リスク情報が、携帯端末180の画面に表示される別の一例である。図16の例では、膝痛リスクの推定結果に応じて、「膝痛リスクがあります。」という膝痛リスク情報が、携帯端末180の画面に表示される。また、図16の例では、膝痛リスクの推定結果に応じて、「病院で診察を受けることをお薦めします。」という推薦情報が、携帯端末180の表示部に表示される。例えば、診察可能な病院のサイトへのリンク先や電話番号を、携帯端末180の画面に表示させてもよい。携帯端末180の表示部に表示された情報を確認したユーザは、推薦情報に応じて病院に行くことによって、膝に関する疾患の診察を適宜受けることができる。
【0091】
推定された膝痛リスク情報は、ユーザ以外に提供されてもよい。例えば、膝痛リスク情報は、ユーザの体調管理を行うトレーナーや医師、ユーザの家族などの使用する端末装置(図示しない)に出力されてもよい。例えば、膝痛リスク情報は、健康管理等の目的で構築されたデータベース(図示しない)に記録されてもよい。
【0092】
(動作)
次に、身体状態推定システム1の動作の一例について図面を参照しながら説明する。ここでは、身体状態推定システム1に含まれる計測装置10および膝痛リスク推定装置13について、個別に説明する。計測装置10に関しては、計測装置10に含まれる構成要素の動作について説明する。
【0093】
〔計測装置〕
図18は、計測装置10の動作について説明するためのフローチャートである。図18のフローチャートに沿った処理に関する説明においては、計測装置10の構成要素を動作主体として説明する。
【0094】
図18において、まず、通信部115が、計測開始信号を受信する(ステップS111)。計測開始信号は、膝痛リスク推定装置13から送信された信号である。
【0095】
次に、制御部113が、計測開始信号に応じて、センサ110による計測を開始させる(ステップS112)。
【0096】
次に、センサ110が、空間加速度および空間角速度を計測する(ステップS113)。空間加速度は、加速度センサ111によって計測される。空間角速度は、角速度センサ112によって計測される。
【0097】
次に、制御部113が、空間加速度および空間角速度をセンサデータに変換する(ステップS114)。
【0098】
ここで、通信部115によって計測終了信号が受信されると(ステップS115でYes)、制御部113は、センサ110による計測を終了させる(ステップS116)。通信部115によって計測終了信号が受信されていない段階においては(ステップS115でNo)、制御部113は、センサ110による計測を継続する(ステップS113に戻る)。
【0099】
ステップS116の次に、通信部115が、変換後のセンサデータを送信する(ステップS117)。送信されたセンサデータは、時系列データである。センサデータの時系列データは、膝痛リスク推定装置13による膝痛リスク情報の推定に用いられる。
【0100】
〔膝痛リスク推定装置〕
図19は、膝痛リスク推定装置13の動作について説明するためのフローチャートである。図19のフローチャートに沿った説明においては、膝痛リスク推定装置13の構成要素を動作主体として説明する。
【0101】
図19において、まず、通信部131が、計測開始信号を送信する(ステップS121)。計測開始信号は、計測装置10によって受信される。計測装置10が計測開始を制御する場合、ステップS121は省略される。
【0102】
次に、通信部131が、センサデータの時系列データを受信する(ステップS122)。
【0103】
次に、歩行波形処理部132が、センサデータの時系列データを用いて、正規化された歩行波形を生成する(ステップS123)。ステップS123において、歩行波形処理部132は、センサデータの時系列データから踵接地および爪先離地を検出する。歩行波形処理部132は、連続する踵接地間の区間の時系列データを、一歩行周期分の歩行波形データとして抽出する。歩行波形処理部132は、一歩行周期分の歩行波形データを0~100%の歩行周期に正規化する(第1正規化)。さらに、歩行波形処理部132は、第1正規化された一歩行周期分の歩行波形データの立脚相と遊脚相の比を60:40に正規化する(第2正規化)。
【0104】
次に、特徴量構築部133が、特徴量構築処理を実行する(ステップS124)。特徴量構築処理の詳細については、後述する(図20)。
【0105】
次に、標識変数推定部135が、標識変数構築処理を実行する(ステップS125)。特徴量構築処理の詳細については、後述する(図21)。
【0106】
次に、膝痛リスク推定部136が、膝痛リスク推定処理を実行する(ステップS126)。特徴量構築処理の詳細については、後述する(図22)。
【0107】
次に、出力部137が、生成された膝痛リスク情報を出力する(ステップS127)。
【0108】
処理を終了する場合(ステップS128でYes)、通信部131が、計測終了信号を送信する(ステップS129)。計測終了信号は、計測装置10によって受信される。処理を継続する場合(ステップS128でNo)、ステップS122に戻る。計測装置10が計測終了を制御する場合、ステップS129は省略される。
【0109】
<特徴量構築処理>
図20は、特徴量構築処理(図19のステップS124)について説明するためのフローチャートである。図20のフローチャートに沿った説明においては、特徴量構築部133を動作主体として説明する。
【0110】
図20において、まず、特徴量構築部133が、正規化された歩行波形から、膝関節屈曲角度およびAJCに関する標識変数の推定に用いられる特徴量を抽出する(ステップS131)。
【0111】
次に、特徴量構築部133が、抽出された特徴量を用いて、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を生成する(ステップS132)。ステップS132の後は、図19のステップS125の標識変数構築処理(図21)に進む。
【0112】
<標識変数構築処理>
図21は、標識変数構築処理(図19のステップS125)について説明するためのフローチャートである。図21のフローチャートに沿った説明においては、標識変数推定部135を動作主体として説明する。
【0113】
図21において、まず、標識変数推定部135が、歩行フェーズクラスターごとの特徴量を、標識変数推定モデル155に入力する(ステップS141)。
【0114】
次に、標識変数推定部135が、標識変数推定モデル155から出力された標識変数を主成分分析して、主成分ベクトルを構築する(ステップS142)。ステップS142の後は、図19のステップS126の標識変数推定処理(図22)に進む。
【0115】
<膝痛リスク推定処理>
図22は、膝痛リスク推定処理(図19のステップS126)について説明するためのフローチャートである。図22のフローチャートに沿った説明においては、膝痛リスク推定部136を動作主体として説明する。
【0116】
図22において、まず、膝痛リスク推定部136が、構築された主成分ベクトルを指標推定モデル156に入力して、膝痛リスク指標を推定する(ステップS151)。
【0117】
次に、膝痛リスク推定部136が、指標推定モデル156から出力された推定された膝痛リスク指標に応じて、膝痛リスク情報を生成する(ステップS152)。ステップS152の後は、図19のステップS127に進む。
【0118】
以上のように、本実施形態の身体情報推定システムは、計測装置および膝痛リスク推定装置を備える。計測装置は、膝痛リスク情報の推定対象であるユーザの履物に設置される。計測装置は、空間加速度および空間角速度を計測する。計測装置は、計測した空間加速度および空間角速度を用いて、歩行に応じたセンサデータを生成する。計測装置は、生成したセンサデータを膝痛リスク推定装置に送信する。
【0119】
膝痛リスク推定装置は、通信部、歩行波形処理部、特徴量構築部、標識変数推定部、膝痛リスク推定部、および出力部を備える。通信部は、計測装置によって計測されたセンサデータを取得する。歩行波形処理部は、足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出する。歩行波形処理部は、抽出された歩行波形を正規化する。特徴量構築部は、正規化された歩行波形を用いて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する。標識変数推定部は、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデルに特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定する。標識変数推定部は、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する。膝痛リスク推定部は、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデルに、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定する。膝痛リスク推定部は、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する。出力部は、生成された膝痛リスク情報を出力する。
【0120】
本実施形態の膝痛リスク推定装置は、計測装置によって計測されたセンサデータに基づいて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する。本実施形態の膝痛リスク推定装置は、構築された特徴量の入力に応じて標識変数推定モデルから出力された標識変数を主成分分析する。本実施形態の膝痛リスク推定装置は、主成分分析によって生成された主成分ベクトルの入力に応じて指標推定モデルから出力された膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する。そのため、本実施形態によれば、将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる。
【0121】
日常の歩行において、膝は、重要な機能を持つ。日常的な膝の痛みは、日常生活のQoL(Quality of Life)に影響を与える。例えば、変形性膝関節症により関節炎等が生じると、日常的に膝に疼痛が発生する。膝痛には、早期発見や予防が重要である。しかし、現状では、早期発見や予防に関して、専門的な装置を用いた計測や、専門家による診断が必要である。そのため、日常の生活において、膝痛を早期発見・予防することは難しい。本実施形態によれば、専門的な装置を用いずに、日常生活を送る中で、膝痛リスクを推定できる。
【0122】
本実施形態の一態様において、指標推定モデルは、主成分ベクトルの入力に応じて、5年後に膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスク指標を出力する。本態様によれば、5年後に膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスク指標に関する膝痛リスク情報を生成できる。
【0123】
本実施形態の一態様において、指標推定モデルは、主成分ベクトルを説明変数とし、将来において膝痛が原因で受診する可能性を示す膝痛リスク指標を目的変数とする学習で生成されたモデルである。本態様によれば、少なくとも一つの標識変数を主成分分析することで生成された主成分ベクトルと膝痛リスク指標とを学習させた指標推定モデルを用いて、膝痛リスク指標を推定できる。
【0124】
本実施形態の一態様において、膝痛リスク推定部は、指標推定モデルから出力された膝痛リスク指標の値に応じた判定結果を示す膝痛リスク情報を生成する。本態様によれば、膝痛リスク指標の値に応じて、膝痛リスク情報を生成できる。
【0125】
本実施形態の一態様において、特徴量構築部は、膝痛リスクに関する標識変数として、膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数と、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の標識変数との推定に用いられる特徴量を構築する。標識変数推定モデルは、第1モデル群および第2モデル群を含む。第1モデル群は、膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数の各々を推定する複数のモデルを含む。第2モデル群は、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の標識変数の各々を推定する複数のモデルを含む。標識変数推定部は、第1モデル群に含まれる複数のモデルの各々に、膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数の推定に用いられる特徴量を入力して、膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数を推定する。標識変数推定部は、第2モデル群に含まれる複数のモデルの各々に、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の標識変数の推定に用いられる特徴量を入力して、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の標識変数を推定する。本態様によれば、膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数と、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の標識変数とを用いて、将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる。
【0126】
本実施形態の一態様において、第1モデル群は、一歩行周期の膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークに関連する膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数の各々を推定する複数のモデルを含む。また、第1モデル群は、一歩行周期の膝関節屈曲角度の時系列データに表れる二つのピークのうち遊脚相に表れるピークのタイミングと爪先離地のタイミングとの時間的関係を含む膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数の各々を推定する複数のモデルを含む。第2モデル群は、立脚相に含まれる複数の区間の各々に関して、膝の運動の円滑さを示すコストに関する標識変数を推定する複数のモデルを含む。本態様によれば、膝関節屈曲角度に関する複数の標識変数と、膝の運動の円滑さを示すコストに関する複数の標識変数とを用いて、将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる。
【0127】
本実施形態の一態様において、膝痛リスク推定装置は、ユーザによって閲覧可能な端末装置の画面に、ユーザに関して推定された膝痛リスク情報を表示させる。本態様によれば、ユーザに関する膝痛リスク情報を端末装置の画面に表示させることによって、膝痛リスクに関する情報をユーザに提供できる。
【0128】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態に係る膝痛リスク推定装置について図面を参照ながら説明する。本実施形態の膝痛リスク推定装置は、第1実施形態の膝痛リスク推定装置を簡略化した構成である。
【0129】
(構成)
図23は、本実施形態に係る膝痛リスク推定装置23の構成の一例を示すブロック図である。膝痛リスク推定装置23は、歩行波形処理部232、特徴量構築部233、標識変数推定部235、膝痛リスク推定部236、および出力部237を備える。
【0130】
歩行波形処理部232は、足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出する。歩行波形処理部232は、抽出された歩行波形を正規化する。特徴量構築部233は、正規化された歩行波形を用いて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する。標識変数推定部235は、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデル255に特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定する。標識変数推定部235は、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する。膝痛リスク推定部236は、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデル256に、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定する。膝痛リスク推定部236は、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する。出力部237は、生成された膝痛リスク情報を出力する。
【0131】
(動作)
図24は、本実施形態に係る膝痛リスク推定装置23の動作の一例について説明するためのフローチャートである。図24のフローチャートに沿った処理については、膝痛リスク推定装置23の構成要素を動作主体として説明する。
【0132】
図24において、まず、歩行波形処理部232が、足の動きに応じて計測されたセンサデータから一歩行周期分の歩行波形を抽出する(ステップS21)。
【0133】
次に、歩行波形処理部232が、抽出された歩行波形を正規化する(ステップS22)。
【0134】
特徴量構築部233が、正規化された歩行波形を用いて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する(ステップS23)。
【0135】
標識変数推定部235が、特徴量の入力に応じて膝痛リスクの推定に用いられる標識変数を出力する標識変数推定モデル255に特徴量を入力して少なくとも一つの標識変数を推定する(ステップS24)。
【0136】
標識変数推定部235が、推定された少なくとも一つの標識変数を主成分分析して主成分ベクトルを生成する(ステップS25)。
【0137】
膝痛リスク推定部236が、主成分ベクトルの入力に応じて膝痛リスク指標を出力する指標推定モデル256に、主成分ベクトルを入力して膝痛リスク指標を推定する(ステップS26)。
【0138】
膝痛リスク推定部236が、推定された膝痛リスク指標を用いて、膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する(ステップS27)。
【0139】
出力部237が、生成された膝痛リスク情報を出力する(ステップS28)。
【0140】
本実施形態の膝痛リスク推定装置は、足の動きに応じて計測されたセンサデータに基づいて、将来において膝痛が原因で受診するリスクを示す膝痛リスクの推定に用いられる標識変数に関する特徴量を構築する。本実施形態の膝痛リスク推定装置は、構築された特徴量の入力に応じて標識変数推定モデルから出力された標識変数を主成分分析する。本実施形態の膝痛リスク推定装置は、主成分分析によって生成された主成分ベクトルの入力に応じて指標推定モデルから出力された膝痛リスクに関する膝痛リスク情報を生成する。そのため、本実施形態によれば、将来において発生し得る膝痛リスクを推定できる。
【0141】
(ハードウェア)
次に、本開示の各実施形態に係る制御や処理を実行するハードウェア構成について、図面を参照しながら説明する。ここでは、そのようなハードウェア構成の一例として、図25の情報処理装置90(コンピュータ)をあげる。図25の情報処理装置90は、各実施形態の制御や処理を実行するための構成例であって、本開示の範囲を限定するものではない。
【0142】
図25のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。図25においては、インターフェースをI/F(Interface)と略記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して、互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0143】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラム(命令)を、主記憶装置92に展開する。例えば、プログラムは、各実施形態の制御や処理を実行するためのソフトウェアプログラムである。プロセッサ91は、主記憶装置92に展開されたプログラムを実行する。プロセッサ91は、プログラムを実行することによって、各実施形態に係る制御や処理を実行する。
【0144】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92には、プロセッサ91によって、補助記憶装置93等に格納されたプログラムが展開される。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリによって実現される。また、主記憶装置92として、MRAM(Magneto resistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリが構成/追加されてもよい。
【0145】
補助記憶装置93は、プログラムなどの種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって実現される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0146】
入出力インターフェース95は、規格や仕様に基づいて、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。外部機器と接続されるインターフェースとして、入出力インターフェース95と通信インターフェース96とが共通化されてもよい。
【0147】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器が接続されてもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。入力機器としてタッチパネルが用いられる場合、タッチパネルの機能を有する画面がインターフェースになる。プロセッサ91と入力機器とは、入出力インターフェース95を介して接続される。
【0148】
情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器が備え付けられてもよい。表示機器が備え付けられる場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられる。情報処理装置90と表示機器は、入出力インターフェース95を介して接続される。
【0149】
情報処理装置90には、ドライブ装置が備え付けられてもよい。ドライブ装置は、プロセッサ91と記録媒体(プログラム記録媒体)との間で、記録媒体に格納されたデータやプログラムの読み込みや、情報処理装置90の処理結果の記録媒体への書き込みを仲介する。情報処理装置90とドライブ装置は、入出力インターフェース95を介して接続される。
【0150】
以上が、本開示の各実施形態に係る制御や処理を可能とするためのハードウェア構成の一例である。図25のハードウェア構成は、各実施形態に係る制御や処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本開示の範囲を限定するものではない。各実施形態に係る制御や処理をコンピュータに実行させるプログラムも、本開示の範囲に含まれる。
【0151】
各実施形態に係るプログラムを記録したプログラム記録媒体も、本開示の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体によって実現されてもよい。また、記録媒体は、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現されてもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0152】
各実施形態の構成要素は、任意に組み合わせられてもよい。各実施形態の構成要素は、ソフトウェアによって実現されてもよい。各実施形態の構成要素は、回路によって実現されてもよい。
【0153】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0154】
1 身体状態推定システム
10 計測装置
13、23 膝痛リスク推定装置
110 センサ
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 通信部
131 通信部
132、232 歩行波形処理部
133、233 特徴量構築部
134 記憶部
135、235 標識変数推定部
136、236 膝痛リスク推定部
137、237 出力部
155、255 標識変数推定モデル
156、256 指標推定モデル
図1
図2
図3
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