(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140361
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】流動性内容物を除去する滑落膜、及び、滑落膜形成塗料
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20241003BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241003BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051467
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】502435454
【氏名又は名称】株式会社SNT
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【弁理士】
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】松川 義彦
(72)【発明者】
【氏名】金森 進一郎
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CB171
4J038JA57
4J038KA10
4J038MA09
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA09
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】流動性内容物(例えば乳液)に対する除去性に優れ、且つ、耐久性にも優れた滑落膜を提供すること。
【解決手段】本発明の滑落膜は、基材の表面に形成され、
(A)成分:熱可塑性樹脂と、
(B)成分:中鎖脂肪酸トリグリセリドと、を含み、
(A)成分と(B)成分の配合比((A)/(B))が、4/96~46/54であり、該滑落膜の面積あたりの(B)成分の重量が、3.7~81g/m2である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:熱可塑性樹脂と、
(B)成分:中鎖脂肪酸トリグリセリドと、
溶剤と、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分の配合比((A)/(B))が4/96~46/54であることを特徴とする滑落膜形成塗料。
【請求項2】
基材の表面に形成される滑落膜であって、
(A)成分:熱可塑性樹脂と、
(B)成分:中鎖脂肪酸トリグリセリドと、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分の配合比((A)/(B))が、4/96~46/54であり、該滑落膜の面積あたりの前記(B)成分の重量が、3.7~81g/m2であることを特徴とする滑落膜。
【請求項3】
膜厚が5~109μmであることを特徴とする請求項2記載の滑落膜。
【請求項4】
滑落させる対象物が乳液であって、
前記基材に対する該滑落膜の付着エネルギーが、該滑落膜に対する前記乳液の付着エネルギーよりも大きいことを特徴とする請求項2又は3記載の滑落膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性内容物の除去性に優れた塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性内容物の保存容器において、使用者がその流動性内容物を速やかに排出するため、或いは、容器内に残存させることなく最後まで綺麗に使い切るために、傾けた容器内を流動性内容物が速やかに滑り落ちるような塗膜の形成が望まれている。
【0003】
発明者は先に、ラジカル重合性の反応基を有する有機溶剤可溶性フッ素樹脂、片末端ラジカル重合性ポリシロキサン、および、メタクリレート系単量体を共重合したグラフト共重合体と、片末端反応性シリコーンオイルと、硬化剤と、有機溶剤と、を含む塗料組成物を提案し、これによる塗膜の水や油に対する滑落性を試験し、所定の滑落性を有していることを確認している(特許文献1参照)。
また、発明者は先に、基材上の樹脂に、植物油やシリコーンオイルなどのオイルが多数分布している状態になっている滑落膜であって、表面付近においてオイルが占めている体積割合が、内部領域においてオイルが占めている体積割合よりも大きく、表面付近にある複数のオイルの集合体が、それぞれ表面から突出した状態で露出している滑落膜を提案し、所定の滑落性を有していることを確認している(特許文献2参照)。
また、着雪防止の膜で、熱可塑性樹脂とアクリルシリコーン化合物とシリコーンオイルと溶剤を備える被膜組成物が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-218462号公報
【特許文献2】特開2018-184536号公報
【特許文献3】特開2020-084127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1から3の従来の塗膜においても、流動性内容物(特に、乳液などの水性乳濁液)に対する除去性については、改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、流動性内容物(特に、乳液などの水性乳濁液)に対する除去性(滑落性)に優れ、且つ、耐久性にも優れた滑落膜、および、滑落膜形成塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、流動性内容物に対する滑落性について多くの実験を行った結果、特に、乳液などの水性乳濁液に対しては、熱可塑性樹脂に25℃で液体のオイルとして中鎖脂肪酸トリグリセリドを配合した塗料を用いることで、所望の滑落性と耐久性を備えた滑落膜が得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明の滑落膜形成塗料は、
(A)成分:熱可塑性樹脂と、
(B)成分:中鎖脂肪酸トリグリセリドと、
溶剤と、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分の配合比((A)/(B))が4/96~46/54であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の滑落膜は、基材の表面に形成され、
(A)成分:熱可塑性樹脂と、
(B)成分:中鎖脂肪酸トリグリセリドと、を含み、
前記(A)成分と前記(B)成分の配合比((A)/(B))が、4/96~46/54であり、該滑落膜の面積あたりの前記(B)成分の重量が、3.7~81g/m2であることを特徴とする。
【0010】
ここで、滑落膜の膜厚が5~109μmであることが好ましい。
また、滑落させる対象物が乳液であって、前記基材に対する該滑落膜の付着エネルギーが、該滑落膜に対する前記乳液の付着エネルギーよりも大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基材の表面に形成される滑落膜が、中鎖脂肪酸トリグリセリドだけでなく、熱可塑性樹脂を含んでいることによって、当該熱可塑性樹脂を含有する中鎖脂肪酸トリグリセリドの油層による流動性内容物(特に、乳液などの水性乳濁液)に対する優れた除去性を発現できるようになる。更に、流動性内容物に対する除去性が長く維持されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例に使用する容器(PET容器、WJ型ガラス容器、SV型ガラス容器)の形状を示す画像である。
【
図2】PET容器内において乳液の滑落の判断基準になる画像である。
【
図3】WJ型ガラス容器内において乳液の滑落の判断基準になる画像である。
【
図4】SV型ガラス容器内において乳液の滑落の判断基準になる画像である。
【
図5】PET基材上の滑落膜に対する乳液の付着エネルギーに基づく評価結果を示す図である。
【
図6】ガラス基材上の滑落膜に対する乳液の付着エネルギーに基づく評価結果を示す図である。
【
図7】滑落膜をPET基材上に形成した場合と、PET基材のままである場合において、様々な乳液の付着エネルギーの変化を示す図である。
【
図8】滑落膜をガラス基材上に形成した場合と、ガラス基材のままである場合において、様々な乳液の付着エネルギーの変化を示す図である。
【
図9】PET基材に対する滑落膜の付着エネルギーBと、当該滑落膜に対する乳液1の付着エネルギーAとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を説明するが、これらは本発明の実施態様の代表例であり、本発明はその要旨を超えない限りにおいて、これらの内容に限定されない。なお、以下の説明において「部」は特に断らない限り「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
【0014】
<滑落膜を有する構造体>
本実施形態の滑落膜を有する構造体は、流動性内容物である水性懸濁液(例えば乳液)の保存容器であり、用途に応じてガラス製、樹脂製を選択できる。具体的な用途は、各種の化粧品、洗剤、食用品などの保存である。水性懸濁液が接触する容器内面には、25℃で液体のオイルとして中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)を含む塗料によって滑落膜が形成されている。そのため、滑落膜の表面にはオイルが露出していて、流動性内容物に対する滑落性が発揮される。
【0015】
流動性内容物は、外部からの力で容易にその形状が変化するようなもの(形態保持性を示さないもの)を指し、流動性を示すものである。流動性内容物は、水中油型(O/W)エマルション、つまり、水性懸濁液であり、例えば、乳液等の化粧液、液体洗剤、水性糊、食用のソース・ケチャップ類などである。流動性内容物の粘度は、L4スピンドルを用いたB型粘度計により、所望の回転数(1,12,30,60rpmのいずれか)、温度25℃で300秒間測定したときに、以下の範囲内であるものとする。
回転数( 1rpm):9,000~24,000mPa・s
回転数(12rpm):1,750~ 3,600mPa・s
回転数(30rpm): 800~ 4,500mPa・s
回転数(60rpm): 700~ 1,200mPa・s
【0016】
<塗料>
容器内面に滑落膜を形成する塗料は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)と、(C)溶剤と、必要により適宜の(D)添加剤を含む。
【0017】
(A)熱可塑性樹脂:
熱可塑性樹脂は、実施形態の塗料を使って滑落膜を形成したときに、マトリックスとなる成分である。
塗料に含める熱可塑性樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;塩素化ポリオレフィン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリスチレン;ナイロン;ポリビニルアルコール;ポリ酢酸ビニル;ポリメチルメタクリレート;ポリウレタン;ポリウレタンアクリレート;ポリウレタンメタクリレート;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂;エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂;メタクリルスチレン共重合体樹脂; アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂等の合成ゴム類;アクリル系樹脂;ポリアミド;ポリアセタール;ポリカーボネート;ポリエステル;酢酸セルロース;環状ポリオレフィン等を挙げることができる。
滑落膜を施す物品の用途にもよるが、例えば、化粧品用の容器に施す滑落膜のマトリックスとして好適な熱可塑性樹脂は、硬くて透明な樹脂である。実施形態の塗料に用いる熱可塑性樹脂として、特にポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン、ポリスチレン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレタンアクリレート、ポリウレタンメタクリレート、ポリエステルなどを好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂として、透明性および基材への密着性をさらに高めるために、塩素化ポリオレフィン、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル系樹脂などが好適である。
なお、これらの高分子化合物の中から1種を選択し、又は2種以上を選択して混合したものを熱可塑性樹脂として用いることができる。
【0018】
ポリオレフィン樹脂は、好ましくは、ポリプロピレン樹脂、又はプロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘプテン)を共重合して得られるポリオレフィン樹脂である。より好ましくは、プロピレン系ランダム共重合体であり、さらに好ましくは、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、又はエチレン-プロピレン-ブテン共重合体である。
塩素化ポリオレフィンは、水素原子の少なくとも一部が塩素原子で置換されたポリオレフィンであり、塩素含有率(JIS-K7229:1995に基づいて測定可能)は10~40質量%が好ましく、15~30質量%がより好ましい。塩素含油率を上記範囲にすることで、樹脂成分の極性を一定範囲に調整することができるので、塗料中の他の成分との相溶性が良好となり、また、基材との密着性が十分に得られる。
また、オイルとの相溶性と親和性が良好となるように、塩素化ポリオレフィンの重量平均分子量は、50,000~200,000であることが好ましい。重量平均分子量が50,000以上であれば、樹脂成分の凝集力が十分になり、基材への付着性が良好になる。重量平均分子量の上限が200,000以下であれば、塗料中の他の成分との相溶性が良好となり、基材への密着性が十分に得られる。
【0019】
なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)装置に、標準ポリスチレン検量線を使って求めることができる。GPCの測定条件は以下の通り。
装置:HLC-8320GPC(東ソー社製)
カラム:TSK-gel G-6000HXL,G-5000HXL,G-4000HXL,G-3000HXL,G-2000HXL(東ソー社製)
溶離液:THF
流速:1mL/min
温度:ポンプオーブン、カラムオーブン40℃
注入量:100μL
標準物質: ポリスチレン EasiCal PS-1(Agilent Technology社製)
【0020】
塩素化ポリオレフィン樹脂としては、塩素化ポリプロピレンが好ましい。
本実施形態において塩素化ポリオレフィンは、他のモノマーとの共重合樹脂であってもよい。共重合可能なモノマーとしては、アクリルモノマー、酸性モノマー、酢酸ビニルモノマー、スチレンモノマーなどがよい。酸性モノマーとしては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸などが挙げられる。
【0021】
また、熱可塑性樹脂として、塩化ビニル-酢酸ビニル-アクリル共重合体樹脂(塩酢ビアクリル樹脂とも呼ぶ)や、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体含有ウレタン樹脂(塩酢ビウレタン樹脂とも呼ぶ)を用いてもよい。
塩酢ビアクリル樹脂は、60~95質量%の塩化ビニル単量体と、2~15質量%の酢酸ビニル単量体と、2~30質量%のヒドロキシル基含有アクリレートと、を共重合させて形成される。
ここで、塩化ビニル単量体を60~95質量%にすることで、滑落膜に強靭性と高い表面硬度が付与される。60質量%未満では、滑落膜の強度が低下し、95質量%を超えると、溶剤に対する溶解性が低下し、塗料の粘度が高くなって分散性が低下する。
酢酸ビニル単量体を2~15質量%にする。2質量%未満では、溶剤に対する溶解性の低下と共に塗料の粘度が高くなって分散性が低下する。15質量%を超えると、塗膜の強度や耐久性が低下する。
ヒドロキシル基含有アクリレートを2~30質量%にする。2質量%未満では、塗膜の耐久性、密着性の面で性能が劣化し、30質量%を超えると、ガラス転移温度が低下してブロッキング等が生じる。ヒドロキシル基含有アクリレートとして、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート等を好適に用いることができる。
塩酢ビアクリル樹脂として、例えば、日信化学工業(株)製の塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂「ソルバイン」(登録商標)の品名TA3を用いることができる。
一方、塩酢ビウレタン樹脂は、例えば、固形分15%の水酸基を有する塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂溶液を3~50質量%と、固形分30%のポリプロピレングリコール含有ポリウレタン樹脂溶液を25~60質量%と、を含有する樹脂溶液として作成される。
【0022】
(B)中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)
25℃で液体のオイルは、常温(25℃)で流動性を示すものである。形成される塗膜表面にオイルが滲出し、塗膜の非粘着性を更に向上させることが目的であるため、オイル自体の表面張力が小さいことが好ましく、25℃における表面張力が30mN/m以下であることが好ましい。このような条件を満たすためには、分子間相互作用の小さいオイルであることが求められるため、脂肪酸エステル、ポリオールエステル、ポリグリコール、ポリエーテル、ポリフェニルエーテルなどの炭化水素系オイルを挙げることができる。
【0023】
本実施形態のオイルとしては、少なくとも脂肪酸エステルである中鎖脂肪酸トリグリセリドを含んでいるものとする。中鎖脂肪酸トリグリセリドを単独で用いるほか、上記に列挙した分子間相互作用の小さいオイルを混合して用いることができる。中鎖脂肪酸トリグリセリドの一般式を式(1)に示す。
【0024】
【化1】
なお、R1,R2,R3は、炭素数5~11の炭化水素鎖であり、炭素の二重結合を含んでいてもよい。
【0025】
(A)熱可塑性樹脂と(B)中鎖脂肪酸トリグリセリドの配合比((A)/(B))が4/96~46/54の範囲内であることが好ましい。オイルの配合量が少ないと、容器内面に良好な滑落性を確保できない場合がある。また、多過ぎると、成形性が損なわれたり、或いは容器特性に悪影響を及ぼしたりする場合がある。
本実施形態の塗料において、中鎖脂肪酸トリグリセリドは、滑落性、特に、流動性内容物である水性懸濁液(例えば乳液)の除去性を付与するものとして用いられる。滑落膜の表面上を水性懸濁液が滑る(球状になって転がる)ように移動する性質を強化するのである。
中鎖脂肪酸トリグリセリドは、熱可塑性樹脂の高分子構造体の表面に良く馴染むので、その熱可塑性樹脂の表面にオイル成分が薄く広がって、オイル成分の層が容易に形成される。このように物品に滑落膜を施した際に、滑落膜の表面により多くの中鎖脂肪酸トリグリセリドが偏在してオイル成分の層を形成して、滑落膜表面の滑落性が向上する。
また、中鎖脂肪酸トリグリセリドが滑落膜の内部にも存在することで、熱可塑性樹脂の表面が常にオイル成分で濡れた状態になり易く、その滑落性が長く維持される。
このようにして、滑落膜表面のオイル成分の膜に接触する水性懸濁液(O/Wエマルション。例えば乳液)は、オイル成分の膜との表面張力差によって、表面を滑り落ちる。
中鎖脂肪酸トリグリセリドが好適である理由は、これよりも炭化水素鎖の炭素数が大きいと、熱可塑性樹脂の高分子構造体の表面との馴染みが低下して、オイル成分が表面に長く維持されにくくなる。また、塗料の他の成分(熱可塑性樹脂など)との相溶性が悪くなり、白濁した滑落膜になる可能性もある。
【0026】
(C)溶剤
溶剤の目的として溶質を十分に溶解させることができるものであればよい。
溶剤として、特にアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸エチル、酢酸イソペンチル等のエステル類; メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエステル類;メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、メチルトリグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、メチルメトキシブタノール等のグリコールエーテル類;ホルムアミド、アセトアミド、ベンズアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、イソオクタン、ノルマルデカン、ノルマルペンタン等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;およびこれらのハロゲン化物等を挙げることができる。これらの中から選択される一種以上の溶剤を適宜混合して用いることができる。特に、常温付近の空気中で揮発するメチルエチルケトン、イソプロパノール、酢酸ブチル等を用いると、簡単に滑落膜を作製可能な塗料を得ることができる。
【0027】
本実施形態の塗料をスプレー又は流し塗りできるものとするために、塗料中に、(A)熱可塑性樹脂、(B)中鎖脂肪酸トリグリセリド及び(D)添加剤の合計質量の0.1~5倍の量の(C)溶剤を用いることが好ましい。溶剤の量が少な過ぎると、塗料の粘度が高くなって塗工が難しくなる。また溶剤の量が多過ぎると、塗料の粘度が小さくなって塗工しても表面から流れてしまうため、さらに滑落膜の膜厚を増やすには重ね塗りなどの余計な工程が必要になってしまう。
【0028】
本実施形態の塗料は、(A)熱可塑性樹脂と(B)中鎖脂肪酸トリグリセリドを混合し、これを(C)溶剤に溶解することにより製造することができる。さらに、本実施形態の塗料に、上記の成分の他、容器の用途等に応じて、それ自体公知の各種の(D)添加剤、例えば、可塑剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、レベリング剤(スプレー塗装時のはじき防止用)が配合されていてもよく、さらに、透明性が要求されない用途においては、顔料や染料等の着色剤を配合することもできる。さらに、結晶性の添加剤(酸化チタンなどの無機酸化物や各種ワックス類)を配合することも可能である。必要に応じて、硬化剤を配合することもできる。
ただし、このような添加剤の配合量は、塗料中の中鎖脂肪酸トリグリセリドの量が前述した範囲に維持され、しかも塗膜の成形性が損なわれず、さらに、容器内面の滑落性が損なわれない程度の少量とする。
【0029】
本実施形態の塗料は、容器内の基材表面への塗布後、加熱による乾燥等によって溶剤を揮発させて、滑落膜を形成することができる。
滑落膜の面積あたりの中鎖脂肪酸トリグリセリドの重量は、3.7~81g/m2であるとよい。また、滑落膜の厚さは、用途に応じて自由に変えることができるが、5~109μmであるとよい。塗膜の厚さが5μm未満であると、柔らかい塗膜が作製されても、薄いために長期間の使用で塗膜が削れてしまう場合がある。逆に、109μmよりも厚いと、現実的に使用する年数以上の過剰の膜厚となるため、経済的ではない場合がある。より好ましくは、塗膜の厚さは8~109μmである。
【0030】
本実施形態では、塗料に含まれる各組成が溶剤中での分散状態を維持し、6ヶ月以上の静置後も、分離しないことを条件とする。
【0031】
本実施形態の塗料を塗布する基材として、ガラス、樹脂などを挙げることができる。樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
本実施形態の塗料の基材表面への塗布は、ドクターブレード法、バーコート法、ディッピング法、エアスプレー法、ローラーブラシ法、ローラーコーター法等の従来のコーティング方法により適宜行うことができる。乾燥方法については、加熱による乾燥の他に、塗料を塗布した基材を溶剤が十分揮発するまで常温付近の雰囲気下に放置して、滑落膜を形成することもできる。
【実施例0032】
以下、実施例に基づいて本発明についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【0033】
物性値等は、別途記載のない限り次の測定方法による。
[(A)成分と(B)成分の配合比((A)/(B))]
配合比は、乾燥後(不揮発分ベース)の塗膜重量に基づいて算出する。後述する製造例1の場合で、不揮発分ベースの配合割合の算出方法を説明する。製造例1の樹脂例A-1(塩素化ポリオレフィン)の不揮発分は21.3%であり、オイル例B-1(中鎖脂肪酸トリグリセリド)の不揮発分は0%である。溶剤を含んだ状態の樹脂例A-1とオイル例B-1を60:40で混合する場合、樹脂例A-1の不揮発分ベースの配合割合は、60%×0.213/(60%×0.213+40%)=0.2421、つまり、24%になる。また、オイル例B-1の不揮発分ベースの配合割合は、40%/(60%×0.213+40%)=0.7579、つまり、76%になる。よって、配合比は24:76になる。
【0034】
[オイル重量]
オイル重量((B)成分の重量)は、塗工面積あたりの塗膜に含まれるオイルの重量であり、計算値である。まず、塗工前と塗工乾燥後の容器重量の差より、塗工乾燥後の塗膜の使用量(g)を求め、配合比からオイルの使用量(g)を得た。これを容器内の塗工面積で割った値をオイル重量(g/m2)とした。このように算出されるオイル重量は、乾燥後の塗膜重量である。容器内の塗工面積の詳細は後述する。
【0035】
[膜厚]
膜厚は計算値である。上記の塗工乾燥後の塗膜の重量と配合比から、(i)熱可塑性樹脂のみの塗布量(g/m2)、及び(ii)オイルのみの塗布量(g/m2)を算出し、これらを各々の比重で除算したものの合計を、膜厚(μm)とした。
なお、熱可塑性樹脂およびオイルの各比重は、不揮発分の比重である。このように算出される膜厚は、塗膜の塗工・乾燥後の膜厚に相当する。
【0036】
(塗料に配合する樹脂例)
熱可塑性樹脂である塩素化ポリオレフィン(A-1)と塩酢ビアクリル樹脂(A-2)を用いた。比較のため、熱硬化性樹脂であるフッ素アクリルポリシロキサン(A-3)を用いた。
塩素化ポリオレフィンには、櫻宮化学株式会社製の「CA-PL01」(有機溶剤を含む)を使用し、
塩酢ビアクリル樹脂には、櫻宮化学株式会社製の「KW」(有機溶剤を含む)を使用し、
フッ素アクリルポリシロキサンには、大和製罐株式会社製の「SW-S51」(PET基材用)、「SW-S06」(ガラス基材用)(いずれも有機溶剤を含む)を使用した。
これらの樹脂例の一覧を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1の樹脂の表面自由エネルギーは、代表的なKaelble and Uyの理論式に基づく。まず、スライドガラス上に樹脂のみの塗膜を形成し、塗膜に対する2つの試薬(水、ジヨードメタン、ホルムアミド)の10μL液滴の接触角を接触角計Drop Master DMs-401(協和界面科学社製)を用いて測定する。これらの接触角の測定値を理論式に当て嵌めて、表面自由エネルギーの分散成分と極性成分を算出し、これらを合計したものを樹脂の表面自由エネルギーとする。
【0039】
(塗料に配合するオイル例)
中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)として、理研ビタミン株式会社製の「アクターM-1」を用いた。アクターM-1は、表面張力が27.6mN/m(25℃)、懸適法実測値であり、動粘度(計算値)が21cStであり、平均分子量(ケン化価からの計算値、中央値)が501である。
比較のため、ジメチルシリコーンオイル(B-2)とメチルフェニルシリコーンオイル(B-3)を用いた。ジメチルシリコーンオイルには、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製の「AK350」を使用した。ジメチルシリコーンオイルは、表面張力(カタログ値)が21.0mN/m(25℃)であり、動粘度(カタログ値)が350cStである。
メチルフェニルシリコーンオイルには、信越化学株式会社製の「KF-56A」を使用した。メチルフェニルシリコーンオイルは、表面張力(カタログ値)が24.4mN/m(25℃)であり、動粘度(カタログ値)が15cStであり、揮発分が15%(105℃×3時間)である。
また、スライドガラス上にオイルのみを塗工し、油膜に対する試薬(水、ホルムアミド、ジヨードメタン)の10μL液滴の接触角を測定し、オイルの表面自由エネルギーを算出した。これらのオイル例の一覧を表2に示す。
【0040】
【0041】
(有機溶剤例)
ケトン類、エステル類、アルコール類、炭化水素類の中から、樹脂に応じて使用した。また、容器が樹脂製である場合は、その樹脂(例えば、透明ポリエステル樹脂)の結晶化による白濁を回避することができるものを選んで使用した。
【0042】
(塗料の製造例1~14)
製造例1では、樹脂例(A-1)およびオイル例(B-1)を24:76の乾燥後の配合比になるように混合し、攪拌し均一にすることで塗料を得た。
同様に、製造例2~11では、上記の樹脂例(A-1)~(A-3)およびオイル例(B-1)、(B-3)を組み合わせて、以下の表3に示す乾燥後の配合比で混合し、これに有機溶剤を加えて攪拌し均一にすることで、塗料を得た。
製造例12~14では、樹脂のみ、又は、オイルのみの塗料を得た。
有機溶剤の希釈倍率は、樹脂およびオイルの重量を基準に0.1~5.0倍の範囲で調整した。
これらの塗料によって形成した塗膜に対する試薬(水、ホルムアミド、ジヨードメタン)の10μL液滴の接触角を測定し、塗膜の表面自由エネルギーを算出した。
【0043】
【0044】
製造例1~14の塗料を使ってPET製の容器(PET容器と呼ぶ)またはガラス製の容器(ガラス容器と呼ぶ)の内部を塗工して塗膜を作製した。
PET容器は、ポリエチレンテレフタレート(PET)製であり、PET容器の塗工面積は、容器の内部を円柱形状(内径36.72mm、高さ102.5mm)とみなして、底面および側面の面積を合計した簡易計算値(1.23×10-2m2)を用いる。
ガラス容器は、「WJ」型と、「SV」型の2種類を使用した。「WJ」型ガラス容器の塗工面積は、容器の内部を円柱形状(内径45.9mm、容積85cm3)とみなして、底面および側面の面積を合計した簡易計算値(0.91×10-2m2)を用いる。「SV」型ガラス容器の塗工面積は、容器の内部を円柱形状(内径36.4mm、高さ75mm)とみなして、底面および側面の面積を合計した簡易計算値(0.96×10-2m2)を用いる。
これらの容器の一覧を表4に示す。これらの容器(基材)に対する試薬(水、ジヨードメタン)の10μL液滴の接触角を測定し、容器の表面自由エネルギーを算出した。
【0045】
【0046】
容器の内面への塗工方法は、「スプレー」または「流し塗り」とした。いずれの塗工方法も塗工後に乾燥を行った。乾燥温度および乾燥時間は、PET容器で100℃および30秒間とし、ガラス容器で100℃および2分間とした。ただし、乾燥時間を十分に確保できる場合は、25℃での常温乾燥処理でも塗膜の形成が可能である。また、乾燥前に塗料が流れ落ちる場合は、塗料を複数回に分けて塗工して、所定の膜厚が得られるようにした。上述した計算方法に基づいて、オイル重量および膜厚を算出した。
作成した塗膜に対して乳液による滑落耐久性(除去性能の耐久性)試験を実施した。
試験に用いる市販品の乳液の物性値を表5に示す。
【0047】
【0048】
粘度については、文献による値として、「マヨネーズ」の粘度が8000mPa・sであることから、B型粘度計にて回転数の設定を様々に変更して「キユーピーハーフ(登録商標)」の粘度を測定し、文献による値と同等の粘度値が得られる回転数の条件を確認したところ、30rpm時に、7670mPa・sの実測値が得られた。これに基づき、乳液の粘度を測定する際の回転数の条件を30rpmとした。
乳液の粘度の測定のために、容量20gでバイアル瓶(SV-50A)(日電理化硝子社製)を用いて、その内径26.5mmの内部の中心部にL4スピンドル(直径3.2mm)を設置し、スピンドルと瓶の内壁とのギャップを11.65mmとした。
【0049】
表面自由エネルギーについては、乳液の表面自由エネルギーの測定方法は、上述の熱可塑性樹脂およびオイルの表面自由エネルギーの測定方法と同様にした。スライドガラス上に乳液を延伸させて膜を形成し、乳液の膜に対する2つの試薬(ジヨードメタン及びヘキサデカン)の10μL液滴の接触角を接触角計Drop Master DMs-401(協和界面科学社製)を用いて測定し、これらの接触角の測定値を使って、乳液の表面自由エネルギーを算出した。
【0050】
以下に示すように、本実施例の滑落膜は、特に表5の表面自由エネルギーが27~33mJ/m2である乳液に対して優れた滑落耐久性を示す。
【0051】
[滑落耐久性試験]
塗膜付きの容器に流動性内容物として市販の乳液を10g充填し、中栓とキャップ(中栓のない容器はキャップのみ)をして密封状態にする。次の要領で、容器の倒置、正置の反転作業を繰り返し、その反転作業ごとに乳液に対する塗膜の滑落性(除去性能)を目視で評価する。
1回目:正置→倒置(倒置時の日時を記録:1回目開始日時)
最初の反転作業の後、容器内面(底面・側面)に乳液の付着がなくなり、キャップ側に乳液が滑落したと判断できるまで、容器を倒置のまま放置する。乳液の滑落が目視で確認できた時点で2回目の反転作業を開始する。
2回目:倒置→正置(正置時の日時を記録:2回目開始日時)
容器内面(肩部・側面)に乳液の付着がなくなり、底面側に乳液が滑落したと判断できるまで、容器を正置のまま放置する。乳液の滑落が目視で確認できた時点で3回目の反転作業を開始する。
3回目(および、以降の奇数回):正置→倒置(1回目と同様)
4回目(および、以降の偶数回):倒置→正置(2回目と同様)
【0052】
容器内面の滑落性の良否(付着しやすい、又は、付着しにくい)は、容器内面の材質の違いだけでなく、容器の形状(例えば、肩部分の形状、底面の形状など)の違いの影響も受ける。そのため、実施例で用いた3種類の容器(PET容器、WJ型ガラス容器、SV型ガラス容器)の形状を
図1に示しておく。
【0053】
乳液が滑落したかどうかを目視で確認する際の判断基準について
図2~
図4の画像を用いて説明する。
図2の左の画像は、実施例1-2にて198回目の反転開始前のPET容器の外観であり、乳液2が滑落したと判断する基準になる画像である。
図2の右の画像は、比較例5-2にて113回目の反転開始から約1ヶ月経過後のPET容器の外観(側壁に縦方向の乳液2のスジが付着している)であり、乳液2が滑落しなかったと判断する基準になる画像である。
図3の左の画像は、実施例42-1にて74回目の反転開始前のWJ型ガラス容器の外観であり、乳液1が滑落したと判断する基準になる画像である。
図3の中央の画像は、比較例26-1(オイルのみの塗膜)にて1回目の反転開始から3ヶ月以上経過後のWJ型ガラス容器の外観(底面および側壁の前面に乳液1が付着している)であり、塗膜がオイルのみである場合に、乳液1が滑落しなかったと判断する基準になる画像である。
図3の右の画像は、比較例19-1(塗膜なし)にて1回目の反転開始から2ヶ月以上経過後のWJ型ガラス容器の外観(底面および側壁の前面に乳液1が付着している)であり、塗膜なしの場合に、乳液1が滑落しなかったと判断する基準になる画像である。
図4の左の画像は、実施例13-2にて200回目の反転開始から1日後のSV型ガラス容器の外観であり、乳液2が滑落したと判断する基準になる画像である。
図4の右の画像は、比較例9-2にて20回目の反転開始から4ヶ月以上経過後のSV型ガラス容器の外観(側壁の高さ方向の中央部に円周方向に沿って乳液2が付着している)であり、乳液2が滑落しなかったと判断する基準になる画像である。
【0054】
「滑落耐久性の評価方法」
容器が乳液の滑落性をいつまで維持できるか(滑落耐久性)を評価する方法について説明する。まず、市販品の乳液(60mL容器入り)の使用形態を説明する。1回の使用量を100円玉くらいの面積になる量と想定(約2.5mL/回)すると、1つの市販品の乳液の使用回数は24回になる。つまり、24回目の使用後まで乳液の滑落性が維持されれば、容器の外観(透明性)が良好に維持されるので、乳液用容器の滑落耐久性があると評価できる。
市販品の乳液の1回の使用動作は、正置状態の容器を持ち上げる、容器を傾斜させる(乳液を吐出する)、その後正置状態に戻すという、「正置→倒置→正置」の動作になるので、上記試験における反転作業を48回目まで繰り返すことは、1つの市販品の乳液の使用回数(24回)に相当する。
そこで、反転作業を2倍以上の100回目まで繰り返して、100回目の開始時まで容器内面に乳液の付着(残存)がなく、乳液の滑落が目視で確認できたならば、「滑落耐久性(乳液除去性の耐久性)あり」と判断することができる。100回目以降も、滑落耐久性の評価自体は、さらに2倍の200回目の開始まで続けて、200回目の開始と同時に評価を終了することにした。
【0055】
滑落耐久性試験においては、乳液に対する滑落耐久性を、さらに、乳液の滑落速度も考慮して適正に評価するために、「12時間あたり回数(休日を含む)」を用いることにした。一般に、市販品の乳液の使用回数は1日に2回(12時間おきに)と想定される。そのため、容器の反転後、長くとも12時間後には容器内面に乳液がほとんど残存しておらず、乳液の滑落を目視で確認できることが望ましい。つまり、上記の滑落耐久性試験において、12時間あたりの反転回数が1回以上であれば、滑落耐久性の評価が高くなる。そこで、滑落耐久性の程度を示す数値として、「12時間あたり回数」を導入することにした。ただし、休日等は乳液を使用せずに放置したままであることが多いことを考慮して、滑落耐久性の有りの判断基準を、12時間あたり回数(休日を含む)が0.71回(≒1回×5日/7日)以上であることにした。
例えば、反転作業が200回目に達して(反転回数:199回)、それまでの経過日数が54日である場合の12時間あたり回数(休日を含む)は、199回/(54日×2)=1.84回と計算する。
【0056】
反転後、乳液が滑落したと判断できるまで容器を放置するので、いつまでも乳液の付着が続く場合は、一定期間の経過時点で評価を終了した。この場合も、最後の反転時における反転回数と経過日数から、12時間あたりの反転回数を算出した。例えば、最後の反転時の反転回数が37回で、経過日数が28日である場合の12時間あたりの反転回数(休日を含む)は、37回/(28日×2)=0.66回と計算する。
【0057】
滑落耐久性の程度を以下の基準で評価した。12時間あたりの反転回数(休日を含む)が0.71回以上(A~C評価)であれば実用上の問題はない。
A:12時間あたり回数(休日を含む)が1.5以上
B:12時間あたり回数(休日を含む)が1.0以上、1.5未満
C:12時間あたり回数(休日を含む)が0.71以上、1.0未満
D:12時間あたり回数(休日を含む)が0.71未満
なお、乳液の種類や使用者によって1回の使用量や使用方法が変わるため、ここでの評価基準はあくまでも目安として設定したに過ぎない。
PET容器を用いた評価結果を表6~表8に示す。
【0058】
【0059】
<乳液1を用いた評価>
表6に示すように、比較例1-1(PET基材のみ)の12時間あたり回数を基準にする。乳液1に対してだけ、PET基材の滑落耐久性が認められた。比較例30-1は、樹脂を使用せず、中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)のみを塗布したため、オイル重量が12g/m2であっても滑落耐久性が得られない。比較例31-1も、ジメチルシリコーンオイル(B-2)のみを塗布したため、滑落耐久性が得られない。なお、中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)のみの塗膜の場合、塗膜全体の膜厚は、実質的にオイルの膜厚になる。
これに対して、実施例1-1~3-1は、塩素化ポリオレフィン(A-1)と中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)を24:76の配合比で含有する塗料を用いること、また、オイル重量が所定の範囲に収まることにより、いずれも実用に足るだけの滑落耐久性を示す。特に、塗布量を変更してオイル重量および膜厚を増加させることが可能であり、実施例1-1および実施例2-1ではオイル重量および塗膜全体の膜厚が比較的大きい。これらの数値が大きい実施例1-1は優れた滑落耐久性を示し、次に大きい実施例2-1は良好な滑落耐久性を示している。
表中の「回数」の欄に199回の記載があるものは、次の200回目の開始と同時に評価を終了したことを示す。
【0060】
【0061】
<乳液2を用いた試験>
表7の実施例1-2は、実施例1-1と同じ塗膜であり、乳液2に対する優れた滑落耐久性を示す。実施例30-2では、オイル重量を実施例1-2の半分にしたが、反復作業を143回繰り返した時点でも良好な滑落耐久性を維持している。なお、実施例30-2のように評価の継続中であるものは、備考欄に「継続中」を示した。実施例31-2は、オイル重量が比較的小さい場合であるが、実用に足る滑落耐久性を示す。
実施例17-2では、塩酢ビアクリル(A-2)と中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)を4:96の配合比で含有する塗料を用いること、また、オイル重量が所定の範囲に収まることにより、乳液2に対して優れた滑落耐久性を示す。
表7の比較例5-2では、オイルがメチルフェニルシリコーンオイル(B-3)であるため、配合比およびオイル重量が所定の範囲に収まっていても、滑落耐久性が得られない。備考欄は、113回目の反復作業後、一定期間を経過しても、容器内の側壁に縦スジ状の乳液が付着したままになったため、評価を終了したことを示す。比較例2-2、比較例3-2では、樹脂がフッ素アクリルポリシロキサン(A-3)であること、また、配合比((A)/(B))が所定の範囲外であることにより、どちらも実用に足る滑落耐久性が得られない。比較例30-2では、比較例30-1同様、樹脂を使用せず、中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)のみを塗布するため、塗布量を調整してもオイル重量の増加には限度がある。しかし、乳液2に対しては、実用に足る程度の滑落耐久性が得られる。なお、比較例1-2はPET基材のみの場合であり、比較例1-2では、乳液2に対するPET基材の滑落耐久性が得られない。
【0062】
【0063】
<乳液3、乳液7、乳液10、乳液12を用いた試験>
表8の比較例1-3、比較例1-7、比較例1-10、比較例1-12はPET基材のみの場合であり、乳液ごとのPET基材の滑落耐久性を評価している。その結果、どの乳液に対してもPET基材の滑落耐久性は得られない。
これに対して、実施例1-3、実施例1-7、実施例30-10、実施例30-12では、PET基材に実施例1-1と同じ塗料((A-1)と(B-1)を24:76の配合比で含有する塗料)による塗膜を形成し、乳液ごとの滑落耐久性を評価している。それぞれのオイル重量にはバラツキがあるが、所定の範囲に収まっていることから、それぞれの乳液に対して実用に足るだけの滑落耐久性が得られている。
また、表8の実施例17-3、実施例17-10では、PET基材に実施例17-2と同じ塗料((A-2)と(B-1)を4:96の配合比で含有する塗料)による塗膜を形成し、乳液3、乳液10に対する滑落耐久性を評価している。その結果、乳液3、乳液10の両方とも、優れた滑落耐久性が得られている。
【0064】
次に、ガラス容器を用いた評価結果を表9~表11に示す。
【0065】
【0066】
<乳液1を用いた試験>
表9に示すように、実施例40-1、実施例41-1、実施例16-1、実施例42-1では、ガラス基材に実施例1-1と同じ塗料を同じ配合比で塗膜を形成したこと、また、塗膜のオイル重量が所定の範囲に収まることにより、いずれも乳液1に対して実用に足るだけの滑落耐久性を示す。特に、塗布量を変更してオイル重量および塗膜全体の膜厚を増加させることが可能であり、実施例40-1、実施例41-1、実施例16-1ではオイル重量および塗膜全体の膜厚が比較的大きい。これらの数値が大きい実施例40-1は優れた滑落耐久性を示し、次に大きい実施例41-1、実施例16-1は良好な滑落耐久性を示している。
これに対して、表9の比較例26-1は、樹脂を使用せず、中鎖脂肪酸トリグリセリド(B-1)のみを塗布したため、オイル重量が11g/m2であっても乳液1に対する滑落耐久性が得られない。
比較例19-1はガラス基材(WJ型ガラス容器)のみの場合であり、乳液1に対するガラス基材の滑落耐久性が得られない。また、比較例40-1はガラス基材(SV型ガラス容器)のみの場合であり、乳液1に対するガラス基材の滑落耐久性が得られない。このように乳液1については、2種類のガラス基材(ガラス容器)のいずれも滑落耐久性が得られなかった。
【0067】
【0068】
<乳液2を用いた試験>
表10の実施例40-2、実施例14-2、実施例13-2、実施例15-2、実施例16-2では、ガラス基材に実施例1-1と同じ塗料((A-1)と(B-1)を24:76の配合比で含有する塗料)による塗膜を形成し、乳液2に対する滑落耐久性を評価している。それぞれのオイル重量にはバラツキがあるが、所定の範囲に収まっている。その結果、いずれの塗膜も乳液2に対して良好な滑落耐久性を示している。なお、ガラス容器の形状の違い(WJ型かSV型)に着目して、オイル重量が近い3つの実施例を比較すると、
実施例14-2(WJ型、24g/m2、12時間あたり1.03回)、
実施例13-2(SV型、33g/m2、12時間あたり2.62回)、
実施例15-2(WJ型、41g/m2、12時間あたり1.33回)、
となっている。ガラス容器の形状の違いは、
肩部の形状(WJ型:いかり肩、SV型:なで肩)、
底部の形状(WJ型:内面に凸であるドーム状、SV型:平坦)、
側壁の形状(WJ型:不均一な肉厚、段差あり、SV型:均一な肉厚、平坦)、
となっていて、このことが滑落耐久性に差を生じる理由と考えられ、SV型の方が、WJ型よりも優れた滑落耐久性を示している。
実施例12-2は(A-1)と(B-1)の配合比を所定の範囲内で(A-1)の比率を大きくした場合であるが、乳液2に対する実用に足るだけの滑落耐久性を示している。
表10の比較例9-2では、実施例12-2と同じ塗料を用いたが、オイル重量が所定の範囲よりも小さいために、滑落耐久性が得られない。
表10の比較例41-2、比較例42-2、比較例43-2、比較例44-2、比較例45-2、比較例46-2では、樹脂がフッ素アクリルポリシロキサン(A-3)であることから、配合比((A)/(B))を10/90~100/0の範囲で様々に変えているが、いずれも実用に足る滑落耐久性が得られない。なお、比較例46-2は、オイルを用いず、フッ素アクリルポリシロキサン(A-3)のみの塗膜である。
比較例19-2はWJ型ガラス容器のみの場合であり、比較例6-2はSV型ガラス容器のみの場合であり、乳液2に対しても、2種類のガラス基材(ガラス容器)のいずれも滑落耐久性が得られなかった。
【0069】
【0070】
<乳液3、11を用いた試験>
表11の比較例19-3、比較例19-11はガラス基材のみの場合であり、乳液ごとのガラス基材の滑落耐久性を評価している。その結果、いずれの乳液に対してもガラス基材の滑落耐久性は得られない。
これに対して、実施例16-3、実施例16-11では、ガラス基材に実施例1-1と同じ塗料((A-1)と(B-1)を24:76の配合比で含有する塗料)による塗膜を形成し、乳液ごとの滑落耐久性を評価している。それぞれのオイル重量は所定の範囲に収まっていることから、乳液3と乳液11に対しては実用に足るだけの滑落耐久性が得られている。
【0071】
<乳液の付着エネルギーに基づく滑落膜の滑落耐久性の評価>
発明者らは、乳液の種類によって滑落耐久性に差異があるため、塗膜に対する乳液の付着エネルギー(付着エネルギーAと呼ぶ)による滑落耐久性の評価を試みた。
【0072】
「付着エネルギーの算出方法」
一般に、塗膜と乳液の界面自由エネルギー(γLS)は、式(2)によって表される。
γLS=γL+γS-2√(γLd・γSd) ・・・(2)
ここで、 γL:乳液の表面自由エネルギー、
(以降、指示がない場合は、分散成分と極性成分の合計値を指す。)
γS:塗膜の表面自由エネルギー、
γLd:乳液の表面自由エネルギー(分散成分)、
γSd:塗膜の表面自由エネルギー(分散成分)。
は、Fowkes(フォークス)の理論式に基づく。Fowkesは、無極性分子間および無極性分子と極性分子間には、分散力のみが働き、その相互作用は各々の表面張力の幾何平均で表されると仮定し、固液間の界面張力に対して式(2)の理論式を1964年に提出した。
一方、付着エネルギー(WSL)は、Young(ヤング)の式「γSV=γLVcosθ+γSL」と、Dupre(デュプレ)の式「γSV+γLV=WSL+γSL」とによって式(3)で表される。
WSL=γSV+γLV-γSL ・・・(3)
式(2)の記号を用いると、式(3)は、式(4)のように表される。
WSL=γL+γS-γLS ・・・(4)
このように、塗膜に対する乳液の付着エネルギーAは、「γL+γS-γLS」で表される。つまり、式(2)の表面自由エネルギーγL、γS、γLd、γSdを、表面自由エネルギーの理論式であるKaelble and Uyを使用して、表1の表面自由エネルギーの説明で述べた通り、試薬の10μL液滴の接触角を接触角計を用いて測定する。そして、式(2)よりγLSを得て、式(4)より、WSLで表される付着エネルギーAを得ることができる。
【0073】
ここでは、乳液ごとに、塗膜に対する乳液の付着エネルギー(付着エネルギーA)を算出した。比較のため、基材に対する乳液の付着エネルギーと、塗膜(オイルのみ)に対する乳液の付着エネルギーも算出した。さらに、発明者らは、基材に対する塗膜の付着エネルギー(付着エネルギーBと呼ぶ)を上記の理論を使って、同様に算出した。
これは、乳液の付着エネルギーAよりも、塗膜の付着エネルギーBの方が大きければ、乳液に対して良好な滑落耐久性が得られるであろうという予測に基づく。
【0074】
これらの付着エネルギーは、表2から表5に示した表面自由エネルギーの測定値を用いて算出することができる。
【0075】
代表例の製造例1(A-1:B-1=24:76)の滑落膜をPET基材上に形成した場合について、乳液1の付着エネルギーAに基づく評価結果を
図5に示す。比較例1-1では、PET基材に対する乳液1の付着エネルギーAが比較的大きい。比較例30-1で、塗膜(中鎖脂肪酸トリグリセリドのみ)を形成することで、塗膜に対する乳液1の付着エネルギーAは小さくなる。しかし、滑落耐久性の試験結果は悪い(D)。
これに対して、実施例3-1で、塗膜(塩素化ポリオレフィン+中鎖脂肪酸トリグリセリド)を形成した場合、付着エネルギーA、Bは比較例30-1と同等であるが、より少ないオイル重量においても所定の滑落耐久性が得られている。
さらに、実施例2-1、実施例1-1では、塗膜に塩素化ポリオレフィンが含まれていることで、オイル重量の大きい滑落膜が形成される。また、乳液の付着エネルギーAよりも、塗膜の付着エネルギーBの方が大きい。これらのことが、優れた滑落耐久性が得られた理由の1つであると考えられる。
【0076】
図5には、乳液2の付着エネルギーAに基づく評価結果も合わせて示す。比較例1-2では、PET基材に対する乳液2の付着エネルギーAが比較的大きく、滑落耐久性の試験結果が悪い。比較例30-2では、塗膜(中鎖脂肪酸トリグリセリドのみ)を形成することで、塗膜に対する乳液1の付着エネルギーAが小さくなり、滑落耐久性の試験結果も少し改善されている。
これに対して、実施例31-2では、塗膜(塩素化ポリオレフィン+中鎖脂肪酸トリグリセリド)を形成したことで、付着エネルギーA、Bは比較例30-2と同等であるが、より少ないオイル重量においても所定の滑落耐久性が得られている。
さらに、実施例30-2、実施例1-2では、塗膜に塩素化ポリオレフィンが含まれていることで、オイル重量の大きい滑落膜が形成される。また、乳液の付着エネルギーAよりも、塗膜の付着エネルギーBの方が大きい。このように乳液1と同様な結果となった。
【0077】
また、
図6に、製造例1および製造例2(A-1:B-1=46:54)の滑落膜をガラス基材上に形成した場合について、乳液2の付着エネルギーAに基づく評価結果を示す。
図6より、ガラス基材においても本実施例の滑落膜によって同様の効果が得られることが分かる。
【0078】
また、製造例1の滑落膜をPET基材上に形成したものと、PET基材のままであるものと、それぞれに対する乳液の付着エネルギーを算出した結果を
図7に示す。これによると、どの乳液についても、滑落膜に対する乳液の付着エネルギーAよりも、PET基材に対する塗膜の付着エネルギーB(測定値:55.30mJ/m
2)の方が大きくなっている。なお、
図7では便宜上、横軸のスケールが左半分と右半分とで異なっている。
また、
図7の結果より、PET基材においては、本実施例の滑落膜を有することで、PET基材だけの場合よりも、各種の乳液の付着エネルギーが20mJ/m
2以上減少している。例えば20~25mJ/m
2減少している。本実施例の滑落膜によって乳液が滑落し易くなっていることが明らかになった。
【0079】
同様に、製造例1の滑落膜をガラス基材(WJ型)上に形成したものと、ガラス基材(WJ型)のままであるものと、それぞれに対する乳液の付着エネルギーを算出した結果を
図8に示す。
また、
図8の結果より、ガラス基材においては、本実施例の滑落膜を有することで、ガラス基材だけの場合よりも、各種の乳液の付着エネルギーが4mJ/m
2以上減少している。例えば4~5mJ/m
2減少している。本実施例の滑落膜によって乳液が滑落し易くなっていることが明らかになった。
【0080】
以下に、実施例および比較例の個々のケースについて、算出した乳液の付着エネルギーAを、滑落耐久性の試験結果とともに、表12(PET基材)、表13(ガラス基材)にそれぞれ示す。
【0081】
【0082】
【0083】
表14に、基材に対する塗膜の付着エネルギーBの算出値を示す。
【0084】
【0085】
ここで、乳液の付着エネルギーAと、基材に対する塗膜の付着エネルギーBとの関係について更に詳しく検討するため、実施例2-1に対して、比較例50-1~50-5を追加し、これらの評価結果を表15に示す。滑落耐久性について、12時間あたり回数(休日含む)の目標値を0.71とし、更に、反復回数の目標値を199回とする。両方の目標値に達しているものは、実施例2-1および比較例50-4(オイルのみ)の2つである。
【0086】
【0087】
PET基材に対する本実施例の滑落膜の付着エネルギーBと、当該滑落膜に対する乳液1の付着エネルギーAとの比(B/A)は、乳液と基材が同じであるため、いずれも1.265になる。すなわち、表15の結果は、付着エネルギーBを縦軸とし、付着エネルギーAを横軸とするグラフにおいて、B/A=1.265の関数上にプロットされる(
図9参照)。
【0088】
図9において、横軸の付着エネルギーAが小さい方が乳液は付着し難く、縦軸の付着エネルギーBが大きい方が基材に対する滑落膜の密着性に優れる。目標値に達したものを「黒丸」で示し、目標値に達していないものを「白抜きの丸」で示す。上記のように、比(B/A)が一定になることから、乳液の除去性能を向上させるためには、付着エネルギーAをいかに小さくするかが重要になると言える。
図9のように付着エネルギーAが小さい方が12時間あたり回数が大きくなることから、滑落膜の条件によって付着エネルギーAを下げるとよい。乳液1の場合は、目標値をクリアできたものとクリアできなかったものとの境界は、付着エネルギーAが43.72~46.36mJ/m
2である範囲にあると推定される。
【0089】
付着エネルギーの比(B/A)は、理論式上、
B/A=√(基材の分散成分/乳液の分散成分)
で表され、基材の表面自由エネルギーの分散成分と乳液の表面自由エネルギーの分散成分とによって定まる。よって、付着エネルギーの比(B/A)を1以上にするには、表4に示すように分散成分が比較的大きいPET基材の方が有利になる。ガラス基材の場合、乳液の特性によっては、付着エネルギーの比(B/A)を1以上にするのが困難な場合が生じる。しかし、実施例(乳液1の実施例40-1、41-1、16-1、42-1、乳液11の実施例16-11等)が示すように、比(B/A)が1以上にならない条件でも、良好な滑落耐久性を示すものが存在する。これらの実施例は、付着エネルギーの比(B/A)を1以上にするのが困難な場合であるが、塗膜に対する乳液の付着エネルギーAを小さくすることで、良好な滑落耐久性を確保している。
【0090】
付着エネルギーの比(B/A)が同じで、付着エネルギーAも同じである場合(例えば
図5の乳液1の実施例1-1、2-1、3-1等)は、オイル重量が多い方が12時間あたり回数が大きくなる。本実施例の結果より、オイル重量は、3.7~81g/m
2であるとよい。3.7g/m
2以上であれば、実用に足るだけの滑落耐久性が得られる。