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特開2024-140367レーザピーニング方法及びレーザピーニング装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140367
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】レーザピーニング方法及びレーザピーニング装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/356 20140101AFI20241003BHJP
   B23K 26/146 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/146
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051479
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】渡利 威士
(72)【発明者】
【氏名】木根 悠太
(72)【発明者】
【氏名】栗田 隆史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 浩一
(72)【発明者】
【氏名】倉田 将輝
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AC02
4E168FB09
4E168JA02
4E168JA03
4E168JA04
(57)【要約】
【課題】ワークの表面における加工領域の設計自由度を高めることができるレーザピーニング方法及びレーザピーニング装置を提供する。
【解決手段】このレーザピーニング方法は、ワークWに対して拡張治具12を配置し、加工領域Kの正面視においてワークWの表面Waよりも外側に拡張治具12による拡張面15を形成する配置工程と、狙い位置M1に向けた吐出水Pwによって、レーザ光Lの照射位置M2及び拡張面15の少なくとも一部に跨るように層流による水膜Pを形成する形成工程と、ワークWの表面Waに対してレーザ光Lの照射位置M2及び吐出水Pwの狙い位置M1を走査し、水膜Pを介して加工領域Kにレーザ光Lを照射する加工工程と、を備える。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの表面に設定された加工領域にレーザ光を照射してピーニングを行うレーザピーニング方法であって、
前記ワークに対して拡張治具を配置し、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面よりも外側の領域に前記拡張治具による拡張面を形成する配置工程と、
狙い位置に向けた吐出水によって、前記レーザ光の照射位置及び前記拡張面の少なくとも一部に跨るように層流による水膜を形成する形成工程と、
前記水膜を介して前記加工領域に前記レーザ光を照射する加工工程と、を備えるレーザピーニング方法。
【請求項2】
前記配置工程では、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面よりも上側に前記拡張治具による拡張面を形成する請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項3】
前記配置工程では、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面を囲むように前記拡張治具による拡張面を形成する請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項4】
前記配置工程では、前記ワークの表面と前記拡張治具による拡張面とが面一となるように前記ワークに対して前記拡張治具を配置する請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項5】
前記配置工程では、前記ワークに対して前記拡張治具を密接させ、前記ワークの表面と前記拡張治具による拡張面とを密接した面とする請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項6】
前記配置工程では、前記拡張面の算術平均粗さRaが20μm以下の拡張治具を用いる請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項7】
前記配置工程では、前記ワークの背面及び前記拡張治具の背面を保持する保持治具を配置する請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項8】
前記加工工程では、前記照射位置と前記狙い位置との間隔を一定に保った状態で前記照射位置及び前記狙い位置を走査する請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項9】
前記加工工程では、前記照射位置及び前記狙い位置を定位置とし、前記ワークを前記照射位置及び前記狙い位置に対して走査する請求項1記載のレーザピーニング方法。
【請求項10】
前記ワークの表面において、少なくとも前記加工領域の全体に犠牲層を配置する保護工程を更に備える請求項1~9のいずれか一項記載のレーザピーニング方法。
【請求項11】
前記保護工程では、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面の縁に至るように前記犠牲層を配置する請求項10記載のレーザピーニング方法。
【請求項12】
前記保護工程では、前記拡張治具による拡張面に至るように前記犠牲層を配置する請求項10記載のレーザピーニング方法。
【請求項13】
ワークの表面に設定された加工領域にレーザ光を照射してピーニングを行うレーザピーニング装置であって、
前記ワークに対して配置され、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面よりも外側の領域に拡張面を形成する拡張治具と、
狙い位置に向けた吐出水によって、前記レーザ光の照射位置及び前記拡張面の少なくとも一部に跨るように層流による水膜を形成する吐出部と、
前記水膜を介して前記加工領域に前記レーザ光を照射する光源部と、を備えるレーザピーニング装置。
【請求項14】
前記ワークの表面と前記拡張治具による拡張面との位置関係を調整する調整機構を更に備える請求項13記載のレーザピーニング装置。
【請求項15】
前記拡張面の算術平均粗さRaは、20μm以下となっている請求項13又は14記載のレーザピーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザピーニング方法及びレーザピーニング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の表面に対する加工技術の一つとして、レーザピーニングと称される手法が知られている。レーザピーニングは、水などの干渉層に接するワークに対して高ピークのパルスレーザ光を照射し、干渉層で発生したプラズマの圧力によって生じた衝撃波を利用して、ワークの表面から所定の深さにわたってピーニング効果(例えば圧縮応力の付与)を生じさせる手法である。
【0003】
従来のレーザピーニングに関する技術として、例えば非特許文献1に記載の方法がある。この従来の方法では、加工対象となるワークを支持基板によって支持し、さらに、当該支持基盤を3軸のロボットアームで保持している。ワークの表面には、当該表面のレーザ損傷を防止する観点から、金属テープなどによる犠牲層が設けられている。ワークの近傍には、水を吐出するノズルが設置されている。レーザ光をワークに向けて照射する際、ノズルからの吐出水によってワークの表面に層流による水膜が形成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J.Kaufman et al., “The effect of laser shock peening with and without protectivecoating on intergranular corrosion of sensitized AA5083”, Corrosion Science 194 (2022) 109925
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような従来のレーザピーニングの手法では、吐出水がワークの表面の縁付近に当たる場合、吐出水によって形成される水膜に乱れが生じ易く、層流による水膜を安定して形成することが困難となる。レーザ光の照射位置において、層流による水膜が安定して形成されない場合、水膜によるプラズマ閉じ込め効果が弱くなることで、加工ムラが生じてしまうことが考えられる。例えばワークのサイズが小さい場合、或いはワークの表面の縁付近を加工領域とする場合、ワークの表面のスペースが不足し、吐出水の狙い位置をワークの表面の縁付近に設定せざるを得なくなり、上述の加工ムラの問題が生じ得る。かかる問題を回避しようとする結果、ワークの表面の加工領域の設計が制限されてしまうおそれがある。
【0006】
本開示は、上記課題の解決のためになされたものであり、ワークの表面における加工領域の設計自由度を高めることができるレーザピーニング方法及びレーザピーニング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面に係るレーザピーニング方法は、ワークの表面に設定された加工領域にレーザ光を照射してピーニングを行うレーザピーニング方法であって、ワークに対して拡張治具を配置し、加工領域の正面視において、ワークの表面よりも外側の領域に拡張治具による拡張面を形成する配置工程と、狙い位置に向けた吐出水によって、前記レーザ光の照射位置及び前記拡張面の少なくとも一部に跨るように層流による水膜を形成する形成工程と、水膜を介して加工領域にレーザ光を照射する加工工程と、を備える。
【0008】
このレーザピーニング方法では、ワークに対して拡張治具を配置することで、ワークの表面よりも外側の領域に拡張治具による拡張面を形成する。このような拡張面の形成により、水膜を介して加工領域にレーザ光を照射する際に、レーザ光の照射位置及び拡張面の少なくとも一部に跨って層流による水膜を形成できる。これにより、ワークのサイズが小さい場合、或いはワークの全面を加工領域とする場合であっても、例えばワークの表面の縁付近における水膜の乱れを防止することが可能となる。したがって、このレーザピーニング方法によれば、加工領域の位置による加工ムラの問題を解消でき、ワークの表面における加工領域の設計自由度を高めることができる。
【0009】
配置工程では、加工領域の正面視において、ワークの表面よりも上側に拡張治具による拡張面を形成してもよい。この場合、吐出水の狙い位置をワークの表面よりも上側に設定でき、ワークの表面の上縁に層流による水膜を安定して形成できる。したがって、ワークの表面の上縁付近に加工領域を位置させることが可能となる。
【0010】
配置工程では、加工領域の正面視において、ワークの表面を囲むように拡張治具による拡張面を形成してもよい。この場合、吐出水の狙い位置をワークの表面の周囲に設定でき、ワークの表面の周縁全体に層流による水膜を安定して形成できる。したがって、ワークの表面の縁全体に加工領域を位置させることが可能となる。
【0011】
配置工程では、ワークの表面と拡張治具による拡張面とが面一となるようにワークに対して拡張治具を配置してもよい。この場合、ワークの表面と拡張治具による拡張面との間の段差が無くなるため、加工領域においてより均一な層流で水膜を形成できる。
【0012】
配置工程では、ワークに対して拡張治具を密接させ、ワークの表面と拡張治具による拡張面とを密接した面としてもよい。この場合、ワークの表面と拡張治具による拡張面との間の隙間が抑制されるため、加工領域においてより均一な層流で水膜を形成できる。
【0013】
配置工程では、拡張面の算術平均粗さRaが20μm以下の拡張治具を用いてもよい。拡張面の粗さを抑えることで、拡張面を流れる吐出水が乱流となることを抑制でき、加工領域においてより均一な層流で水膜を形成できる。
【0014】
配置工程では、ワークの背面及び拡張治具の背面を保持する保持治具を配置してもよい。この場合、ワークに対する拡張治具の配置が容易となる。また、保持治具でワークの背面を保持することで、加工中のワークの変形を抑制できる。したがって、加工領域におけるピーニング効果を高めることができる。
【0015】
加工工程では、照射位置と狙い位置との間隔を一定に保った状態で照射位置及び狙い位置を走査してもよい。これにより、ワークの表面に当たる際のレーザ光及び吐出水の安定化が図られ、水膜によるプラズマ閉じ込め効果を安定して発生させることができる。したがって、加工領域におけるピーニング効果を高めることができる。
【0016】
加工工程では、照射位置及び狙い位置を定位置とし、ワークを照射位置及び狙い位置に対して走査してもよい。この場合、加工中のレーザ光の照射位置及び吐出水の狙い位置を安定させることができる。したがって、加工領域におけるピーニング効果の均一化が図られる。
【0017】
ワークの表面において、少なくとも加工領域の全体に犠牲層を配置する保護工程を更に備えてもよい。加工領域に犠牲層を配置することで、レーザ光に対するワークの表面の保護が図られる。これにより、加工領域におけるワークの表面の粗化、焦げ、意図しない効果(例えば引張応力の付与)の発生を抑制できる。
【0018】
保護工程では、加工領域の正面視において、ワークの表面の縁に至るように犠牲層を配置してもよい。この場合、ワークの表面と犠牲層との間の段差が無くなるため、加工領域においてより均一な層流で水膜を形成できる。
【0019】
保護工程では、拡張治具による拡張面に至るように犠牲層を配置してもよい。この場合、吐出水をワークの表面に当てる際に、ワークの表面から犠牲層が剥離することを好適に抑制できる。
【0020】
本開示の一側面に係るレーザピーニング装置は、ワークの表面に設定された加工領域にレーザ光を照射してピーニングを行うレーザピーニング装置であって、ワークに対して配置され、加工領域の正面視において、ワークの表面よりも外側の領域に拡張面を形成する拡張治具と、狙い位置に向けた吐出水によって、レーザ光の照射位置及び拡張面の少なくとも一部に跨るように層流による水膜を形成する吐出部と、水膜を介して加工領域にレーザ光を照射する光源部と、を備える。
【0021】
このレーザピーニング装置では、ワークに対して拡張治具が配置されることで、ワークの表面よりも外側の領域に拡張治具による拡張面が形成される。このような拡張面の形成により、レーザ光の照射位置及び拡張面の少なくとも一部に跨って層流による水膜を形成できる。これにより、ワークのサイズが小さい場合、或いはワークの全面を加工領域とする場合であっても、例えばワークの表面の縁付近における水膜の乱れを防止することが可能となる。したがって、このレーザピーニング装置によれば、加工領域の位置による加工ムラの問題を解消でき、ワークの表面における加工領域の設計自由度を高めることができる。
【0022】
レーザピーニング装置は、ワークの表面と拡張治具による拡張面との位置関係を調整する調整機構を更に備えていてもよい。この場合、ワークの表面と拡張治具による拡張面との間の段差を無くすこと、或いはワークの表面と拡張治具による拡張面とを密接した面とすることが可能となる。したがって、加工領域においてより均一な層流で水膜を形成できる。
【0023】
拡張面の算術平均粗さRaは、20μm以下となっていてもよい。拡張面の粗さを抑えることで、拡張面を流れる吐出水が乱流となることを抑制でき、加工領域においてより均一な層流で水膜を形成できる。
【発明の効果】
【0024】
本開示によれば、ワークの表面における加工領域の設計自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本開示の一実施形態に係るレーザピーニング装置を示す概略図である。
図2図1に示したレーザピーニング装置を用いたワークの加工の様子を示す斜視図である。
図3図2に示した保持治具及び拡張治具の分解斜視図である。
図4】本開示の一実施形態に係るレーザピーニング方法を示すフローチャートである。
図5】配置工程を示す斜視図である。
図6図5の後続の工程を示す斜視図である。
図7】形成工程を示す斜視図である。
図8】加工工程を示す正面図である。
図9】(a)~(d)は、配置工程の変形例を示す正面図である。
図10】(a)及び(b)は、形成工程の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら、本開示の一側面に係るレーザピーニング方法及びレーザピーニング装置の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本開示の一実施形態に係るレーザピーニング装置を示す概略図である。また、図2は、図1に示したレーザピーニング装置を用いたワークの加工の様子を示す斜視図である。図1及び図2に示すレーザピーニング装置1は、水などの干渉層(ここでは後述の水膜P)に接するワークWに対して高ピークのパルスレーザ光を照射し、干渉層で発生したプラズマの圧力によって生じた衝撃波を利用して、ワークWの表面Waから所定の深さにわたってピーニング効果(例えば圧縮応力の付与)を生じさせる装置である。
【0028】
ワークWは、例えば銅、アルミニウム、鉄などの各種金属材料からなる物体である。図1及び図2では、ワークWとして、金属製の矩形の板状部材を例示する。ワークWの表面Waのサイズは、例えば10mm角となっている。ワークWの表面Waには、ワークWの用途などに応じて予め加工領域Kが設定されている。本実施形態では、矩形の板状部材であるワークWの一方の主面の全体が加工領域Kとして設定されている。すなわち、本実施形態では、ワークWの正面視において、矩形をなすワークWの表面Waの四辺の縁までが加工領域Kとして設定されている。
【0029】
図1及び図2に示すように、レーザピーニング装置1は、例えばワークWに向けてレーザ光Lを出力する光源部2と、水膜Pを形成する水(以下「吐出水Pw」と称す)を吐出する吐出部3と、ワークWを保持する保持部4とを含んで構成されている。
【0030】
光源部2は、レーザ光Lを出力する光源装置を含んで構成されている。光源部2の動作及びレーザ光Lの出力条件は、不図示の制御部によって制御される。制御部は、例えばFPGA(Field-programmable gate array)などの集積回路によって構成され得る。光源部2に用いられる光源装置の種類に特に制限は無く、ワークWの構成材料に応じて種々の光源を用いることができる。レーザ光Lの波長は、ワークWの構成材料に対して吸収性を有する範囲で選択される。レーザ光Lは、例えばパルス光である。一例として、レーザ光Lの強度は、0.5GW/cm~20GW/cm、レーザ光Lの繰り返し周波数は、1Hzとなっている。
【0031】
光源部2と保持部4との間には、不図示の導光光学系が配置され得る。導光光学系は、例えば反射ミラー及び集光レンズを含んで構成される。光源部2から出射したレーザ光Lは、反射ミラーによって所定の光路で導光された後、集光レンズによって集光した状態でワークWの表面Waに照射される(図2参照)。レーザ光Lの集光径は、例えば1mm程度となっている。レーザ光Lの集光形状は、通常は円形であるが、楕円形、矩形、線形などであってもよい。
【0032】
吐出部3は、吐出水Pwを所定の径で吐出するノズル5を含んで構成されている。吐出部3の動作及び吐出水Pwの供給条件は、上述の制御部によって制御される。ノズル5は、図2に示すように、例えばワークWの表面Waにおける吐出水Pwの狙い位置M1がレーザ光Lの照射位置M2の上方となるように配置されている。本実施形態では、吐出水Pwの狙い位置M1は、レーザ光Lの照射位置M2よりも5mm程度上方に位置している。一例として、吐出水Pwの吐出量は、0.1L/分~1L/分、狙い位置M1における吐出水Pwの径は、1mm~5mmとなっている。
【0033】
ノズル5の先端から吐出した吐出水Pwは、狙い位置M1においてワークWの表面Waに当たり、一定の幅に拡がりながら狙い位置M1の下方に層流による水膜Pを形成する(図2参照)。層流とは、流体が互いに混ざり合わず、流れ方向に沿って規則正しく流れる状態を指す。層流による水膜Pを安定して形成することで、レーザ光Lの照射の際の水膜Pによるプラズマ閉じ込め効果を十分に生じさせることが可能となり、加工領域Kに加工ムラが生じることを抑制できる。
【0034】
水膜Pの厚さは、例えば0.1~10mm程度であり、好ましくは1mm程度である。水膜Pの厚さが0.1mm以上であれば、レーザ光Lの照射の際の水膜Pによるプラズマ閉じ込め効果を十分に生じさせることが可能となる。水膜Pの厚さが10mm以下であれば、たとえレーザ光Lが水により吸収される波長域を含んでいたとしても、水膜Pによるレーザ光Lの強度の減衰を抑制できる。
【0035】
保持部4は、図3に示すように、ワークWに対して配置される保持治具11及び拡張治具12と、保持治具11及び拡張治具12を保持する可動ステージ13(図1参照)とを含んで構成されている。保持治具11は、ワークWの背面側を保持する部材である。本実施形態では、保持治具11は、ワークWよりも一回り大きい矩形の板状部材によって構成されている。保持治具11の構成材料は、特に制限はないが、ワークWの硬度と同等以上の硬度を有する材料を用いることが好適である。
【0036】
本実施形態では、保持治具11の中央の矩形領域がワークWの保持領域となっており、保持治具11自体が鉛直に可動ステージ13に保持されることで、ワークWの表面Waが鉛直となるようにワークWを保持する。ワークWの表面Waが鉛直となることで、加工領域Kも鉛直に配置される。したがって、ワークWの表面Waの水膜Pも鉛直方向下方に流れる層流によって形成されることとなる。
【0037】
拡張治具12は、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waよりも外側の領域に拡張面15を形成する治具である。本実施形態では、拡張治具12は、例えばワークWと同程度の厚さを有する矩形の板状部材によって構成され、拡張治具12の一方の主面の全体が拡張面15として用いられる。拡張治具12の構成材料は、特に制限は無いが、保持治具11と同様に、ワークWの硬度と同等以上の硬度を有する材料を用いることが好適である。拡張面15は、平滑性を有していることが好ましい。本実施形態では、拡張面15の算術平均粗さRaは、20μm以下となっている。また、後述の犠牲層20との密接性を考慮する場合、拡張面15の算術平均粗さRaは、10μm以下となっていることが好適である。拡張面15の平滑性は、一般的な金属材料に対して用いられる表面仕上げ(例えば機械研磨或いはフライス加工)によって担保可能である。
【0038】
本実施形態では、ワークWに対して複数の拡張治具12が用意されている。図3の例では、拡張治具12は、上側拡張治具12A、下側拡張治具12B、及び一対の横側拡張治具12C、12Cによって構成されている。上側拡張治具12Aは、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waよりも上側に拡張面15を形成する治具であり、下側拡張治具12Bは、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waよりも下側に拡張面15を形成する治具である。一対の横側拡張治具12C、12Cは、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waの左右に拡張面15を形成する治具である。
【0039】
図3の例では、上側拡張治具12A、下側拡張治具12B、及び一対の横側拡張治具12C、12Cのそれぞれの縦幅は、ワークWの縦幅と同程度となっている。一対の横側拡張治具12C、12Cの横幅は、ワークWの横幅と同程度となっている。上側拡張治具12A及び下側拡張治具12の横幅は、ワークWの横幅と一対の横側拡張治具12C、12Cの横幅との合計と同程度となっている。保持治具11の中央の保持領域に保持されたワークWの上下左右に上側拡張治具12A、下側拡張治具12、及び一対の横側拡張治具12C、12Cをそれぞれ配置することで、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waを囲むように拡張治具12による拡張面15が形成される。
【0040】
層流による水膜Pの安定性の観点から、ワークWの表面Waと拡張面15とは、面一となっていることが好ましい。ワークWの厚さと拡張治具12の厚さとを揃えることで、ワークWの表面Waと拡張面15とを面一にすることができる。ワークWの表面Waと拡張面15とを面一にすることが理想であるが、ワークW或いは拡張治具12の寸法公差などによって僅かな段差が生じ得る。この場合、拡張治具12の厚さをワークWの厚さよりも大きくしておき、ワークWと保持治具11との間に所定の厚さのシム16(図3参照)を適宜挟むことによってワークWの表面Waと拡張面15とを面一にしてもよい。シム16は、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との位置関係を調整する調整機構の一つである。シム16を用いることで、ワークWの厚さ方向にワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との位置関係を調整できる。層流による水膜Pの安定性の観点から、ワークWの表面Waと拡張面15との間の厚さ方向における段差は、例えば0.1mm以下であってもよい。
【0041】
同様に、層流による水膜Pの安定性の観点から、ワークWの表面Waと拡張面15とは、これらの面方向に密接した面となっていることが好ましい。ここでの密接とは、ワークWの表面Waと拡張面15とが隙間無く連続していることが理想であるが、ワークW或いは拡張治具12の寸法公差などによって僅かな隙間が生じ得る。この場合の隙間は、例えばレーザ光Lのレイリー長(レーザ光Lの照射位置M2と、レーザ光Lの断面積が照射位置M2における断面積の2倍になる位置との間の距離)以下であることが好ましい。隙間は、ワークWの表面Waのサイズの1/100以下であってもよい。また、隙間は、照射されるレーザ光Lの集光径の1/10以下であってもよい。本実施形態では、ワークWの表面Waのサイズが10mm角となっており、隙間が0.1mm以下であることが好ましい。
【0042】
本実施形態では、上側拡張治具12Aは、保持治具11に対して一体に設けられている。上側拡張治具12Aは、保持治具11の肉厚部分によって構成されていてもよく、別体の板状部材を接着や溶接などで保持治具11に接合することによって構成されていてもよい。また、本実施形態では、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との位置関係を調整する調整機構の一つとして、拡張治具12にネジ17、長孔18、及びネジ孔19が設けられている。ネジ17及び長孔18により、ワークWの表面Waの面内方向にワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との位置関係を調整できる。
【0043】
ここでは、保持治具11への下側拡張治具12及び一対の横側拡張治具12C、12Cの固定にはネジ17が用いられ、保持治具11には、長孔18,18に対応する複数のネジ孔19が設けられている。また、下側拡張治具12には、鉛直方向を長軸とする長孔18が設けられ、一対の横側拡張治具12C、12Cには、水平方向を長軸とする長孔18が設けられている。下側拡張治具12及び一対の横側拡張治具12C、12Cの具体的な固定方向については後述する。
【0044】
可動ステージ13は、例えばXYステージによって構成されている。可動ステージ13の動作は、上述の制御部によって制御される。可動ステージ13は、図1に示すように、ワークWの表面Waがレーザ光Lの光軸と直交するようにワークW及び拡張治具12が固定された保持治具11を保持し、ワークWの表面Waの面内で当該保持治具11を鉛直方向及び水平方向に移動させる。これにより、レーザ光Lの照射位置M2と吐出水Pwの狙い位置M1との間隔を一定に保った状態で、ワークWの表面Waにおける照射位置M2及び狙い位置M1が走査される。
【0045】
加工にあたっては、ワークWの表面Waのレーザ損傷を防止する観点から、図2に示すように、ワークWの表面において少なくとも加工領域Kの全体に犠牲層20が配置される。犠牲層20の厚さは、例えば10μm~1000μm程度であり、好ましくは100μm程度である。犠牲層20の厚さを10μm以上とすることで、加工領域KにおけるワークWの表面Waの粗化、焦げ、意図しない効果(例えば引張応力の付与)の発生を好適に抑制できる。
【0046】
犠牲層20には、塗料やオイルなどが用いられる場合もあるが、ここでは厚さ100μm程度の金属テープが用いられている。犠牲層20は、例えば矩形状をなしており、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waの縁に至るように配置されている。本実施形態では、ワークWの表面Waの全体が加工領域Kとして設定されており、犠牲層20は、ワークWの表面Waの四辺の縁まで延びている。
【0047】
さらに、本実施形態では、犠牲層20は、ワークWの表面Waよりも一回り大きい矩形状をなしており、ワークWの表面Waの四辺の縁を超えて、上側拡張治具12A、下側拡張治具12、及び一対の横側拡張治具12C、12Cによるそれぞれの拡張面15に至るように延びている。犠牲層20が拡張面15に至るように延びていることで、ワークWの表面Waにおける照射位置M2及び狙い位置M1が走査される際、吐出水Pwの狙い位置M1が犠牲層20に重なるようになっている。このため、層流による水膜Pは、犠牲層20の厚さに起因するワークWの表面Waと犠牲層20との間の段差の影響を受けずに、狙い位置M1の下方に形成される。
【0048】
本実施形態のように、金属テープによって犠牲層20を構成する場合、レーザ光Lの照射によってプラズマの圧力が生じた際、当該プラズマの圧力によって犠牲層20が面内方向に延びるように力が生じることが考えられる。この力が犠牲層20の縁に働くと、犠牲層20がワークWの表面Waから剥離する方向に作用することが想定される。したがって、犠牲層20を拡張面15に至るように配置し、犠牲層20の縁をレーザ光Lの照射位置M2から外すことで、上記力の作用による犠牲層20の剥離を抑制することが可能となる。
【0049】
続いて、本開示の一実施形態に係るレーザピーニング方法について説明する。図4は、本開示の一実施形態に係るレーザピーニング方法を示すフローチャートである。図4に示すように、このレーザピーニング方法は、配置工程(ステップS01)と、保護工程(ステップS02)と、形成工程(ステップS03)と、加工工程(ステップS04)とを備えている。本実施形態では、上述したレーザピーニング装置1を用いてレーザピーニング方法の各工程を実施する。
【0050】
配置工程は、ワークWに対して拡張治具12を配置し、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waよりも外側の領域に拡張治具12による拡張面15を形成する工程である。具体的には、配置工程では、まず、図5に示すように、保持部4における保持治具11の中央の保持領域にワークWをセットする。このとき、必要に応じてワークWと保持治具11との間にシム16を配置し、ワークWの表面と拡張治具12の拡張面15とが面一となるように位置関係を調整する。
【0051】
次に、ワークWの上面を上側拡張治具12Aの下面に突き当てることで、上側拡張治具12Aに対してワークWを位置決めする。これにより、ワークWの表面Waの上縁と上側拡張治具12Aの拡張面15とを密接させる。上側拡張治具12Aに対してワークWを位置決めした後、下側拡張治具12の上面をワークWの下面に突き当て、上側拡張治具12Aと下側拡張治具12とでワークWを上下に挟み込みつつ、ワークWに対して下側拡張治具12を位置決めする。この状態で長孔18を介して保持治具11のネジ孔19にネジ17を螺合することで、ワークWの表面Waの下縁と下側拡張治具12の拡張面15とが密接した状態で、下側拡張治具12が保持治具11に固定される。
【0052】
下側拡張治具12を固定した後、図6に示すように、上側拡張治具12Aと下側拡張治具12との間でワークWを左右に挟み込むように一対の横側拡張治具12C、12Cを配置する。そして、一対の横側拡張治具12C、12Cの側面をワークWの左右の側面にそれぞれ突き当て、ワークWに対して一対の横側拡張治具12C、12Cを位置決めする。この状態で長孔18を介して保持治具11のネジ孔19にネジ17を螺合することで、ワークWの表面Waの左右縁と一対の横側拡張治具12C、12Cのそれぞれの拡張面15,15とが密接した状態で、一対の横側拡張治具12C、12Cが保持治具11に固定される。
【0053】
保護工程は、少なくとも加工領域Kの全体に犠牲層20を配置する工程である。本実施形態では、図7に示すように、ワークWの表面Waの全体が加工領域Kとして設定されており、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waの四辺の縁に至るように矩形状の犠牲層20を配置する。本実施形態では、ワークWの表面Waよりも一回り大きい矩形状の犠牲層20を用い、ワークWの表面Waの四辺の縁を超えて、上側拡張治具12A、下側拡張治具12、及び一対の横側拡張治具12C、12Cによるそれぞれの拡張面15に至るように犠牲層20を配置する。ワークWの表面Waの四辺の縁から拡張面15への犠牲層20のはみ出し量は、例えば3mm~4mm程度とされる。
【0054】
形成工程は、狙い位置M1に向けた吐出水Pwによって、レーザ光Lの照射位置M2及び拡張面15の少なくとも一部に跨るように層流による水膜Pを形成する工程である。形成工程では、ノズル5の先端から吐出した吐出水Pwを狙い位置M1においてワークWの表面Waに当て、狙い位置M1の下方に層流による水膜Pを形成する。上述の保護工程では、上側拡張治具12A、下側拡張治具12、及び一対の横側拡張治具12C、12Cによるそれぞれの拡張面15に至るように犠牲層20を配置する。このため、本実施形態では、吐出水Pwの狙い位置M1が犠牲層20に重なり、吐出水Pwは、狙い位置M1においてワークWの表面Waに直接当たるのではなく、犠牲層20に当たるようになっている(図2参照)。
【0055】
加工工程は、水膜Pを介して加工領域Kにレーザ光Lを照射する工程である。レーザ光Lの照射によって、干渉層である水膜Pでプラズマが発生する。当該プラズマの圧力で生じた衝撃波によって、ワークWの表面Waから所定の深さにわたってピーニング効果(例えば圧縮応力の付与)が生じる。レーザ光Lの照射の際、ワークWの表面Waに犠牲層20が設けられていることにより、ワークWの表面Waのレーザ損傷が防止される。
【0056】
加工工程では、図8(ネジ17及び長孔18は不図示)に示すように、照射位置M2と狙い位置M1との間隔を一定に保った状態で照射位置M2及び狙い位置M1を走査する。本実施形態では、照射位置M2及び狙い位置M1を定位置とし、ワークW及び拡張治具12を保持した保持治具11を可動ステージ13で鉛直方向及び水平方向に移動させ、ワークWの表面Waにおける照射位置M2及び狙い位置M1を走査する。図8の例では、水平方向の双方向走査(水平方向の一方向に走査した後、鉛直方向に走査し、その後に水平方向の反対方向に走査する)を示している。走査順序はこれに限られず、鉛直方向の双方向走査(鉛直方向の一方向に走査した後、水平方向下方に走査し、その後に鉛直方向の反対方向に走査する)であってもよい。
【0057】
以上説明したように、レーザピーニング装置1及びレーザピーニング方法では、ワークWに対して拡張治具12を配置することで、ワークWの表面Waよりも外側の領域に拡張治具12による拡張面15を形成する。このような拡張面15の形成により、レーザ光Lの照射位置M2及び拡張面15の少なくとも一部に跨って層流による水膜Pを形成できる。これにより、ワークWのサイズが小さい場合、或いはワークWの全面を加工領域Kとする場合であっても、例えばワークWの表面Waの縁付近における水膜Pの乱れを防止することが可能となる。したがって、レーザピーニング装置1及びレーザピーニング方法によれば、加工領域Kの位置による加工ムラの問題を解消でき、ワークWの表面Waにおける加工領域Kの設計自由度を高めることができる。
【0058】
配置工程では、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waよりも上側に拡張治具12による拡張面15を形成している。これにより、吐出水Pwの狙い位置M1をワークWの表面Waよりも上側に設定でき、ワークWの表面の上縁に層流による水膜Pを安定して形成できる。したがって、ワークWの表面Waの上縁付近に加工領域Kを位置させることが可能となる。
【0059】
配置工程では、加工領域の正面視において、ワークWの表面Waを囲むように拡張治具12による拡張面15を形成している。これにより、吐出水Pwの狙い位置M1をワークWの表面Waの周囲に設定でき、ワークWの表面Waの周縁全体に層流による水膜Pを安定して形成できる。したがって、ワークWの表面Waの縁全体に加工領域Kを位置させることが可能となる。
【0060】
配置工程では、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15とが面一となるようにワークWに対して拡張治具を配置している。これにより、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との間の段差が無くなるため、加工領域Kにおいてより均一な層流で水膜Pを形成できる。
【0061】
配置工程では、ワークWに対して拡張治具12を密接させ、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15とを密接した面としている。これにより、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との間の隙間が抑制されるため、加工領域Kにおいてより均一な層流で水膜Pを形成できる。
【0062】
配置工程では、拡張面15の算術平均粗さRaが20μm以下の拡張治具12を用いている。拡張面15の粗さを抑えることで、拡張面15を流れる吐出水Pwが乱流となることを抑制でき、加工領域Kにおいてより均一な層流で水膜Pを形成できる。さらに、拡張面15の算術平均粗さRaが10μm以下の拡張治具12を用いることで、拡張面15に対する犠牲層20の密接性を十分に確保できる。
【0063】
配置工程では、ワークWの背面及び拡張治具12の背面を保持する保持治具11を配置している。これにより、ワークWに対する拡張治具12の配置が容易となる。また、保持治具11でワークWの背面を保持することで、加工中のワークWの変形を抑制できる。したがって、加工領域Kにおけるピーニング効果を高めることができる。
【0064】
加工工程では、照射位置M2と狙い位置M1との間隔を一定に保った状態で照射位置M2及び狙い位置M1を走査している。これにより、ワークWの表面Waに当たる際のレーザ光L及び吐出水Pwの安定化が図られ、水膜Pによるプラズマ閉じ込め効果を安定して発生させることができる。したがって、加工領域Kにおけるピーニング効果を高めることができる。
【0065】
加工工程では、照射位置M2及び狙い位置M1を定位置とし、ワークWを照射位置M2及び狙い位置M1に対して走査している。この場合、レーザ光Lの導光光学系や吐出水Pwのノズル5を固定することで、加工中のレーザ光Lの照射位置M2及び吐出水Pwの狙い位置M1を安定させることができる。したがって、加工領域Kにおけるピーニング効果の均一化が図られる。
【0066】
保護工程では、ワークWの表面Waにおいて、少なくとも加工領域Kの全体に犠牲層20を配置している。加工領域Kに犠牲層20を配置することで、レーザ光Lに対するワークWの表面Waの保護が図られる。これにより、加工領域KにおけるワークWの表面Waの粗化、焦げ、意図しない効果(例えば引張応力の付与)の発生を抑制できる。
【0067】
保護工程では、加工領域Kの正面視において、ワークWの表面Waの縁に至るように犠牲層20を配置している。これにより、ワークWの表面Waと犠牲層20との間の段差が無くなるため、加工領域Kにおいてより均一な層流で水膜を形成できる。さらに、保護工程では、拡張治具12による拡張面15に至るように犠牲層20を配置している。このため、吐出水PwをワークWの表面Waに当てる際に、ワークWの表面Waから犠牲層20が剥離することを好適に抑制できる。
【0068】
レーザピーニング装置1では、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との位置関係を調整する調整機構(シム16、ネジ17、長孔18、及びネジ孔19)が設けられている。このような調整機構の導入により、ワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15との間の段差を無くすこと、或いはワークWの表面Waと拡張治具12による拡張面15とを密接した面とすることが可能となる。したがって、加工領域Kにおいてより均一な層流で水膜Pを形成できる。
【0069】
また、レーザピーニング装置1では、拡張治具12における拡張面15の算術平均粗さRaが20μm以下となっている。拡張面15の粗さを抑えることで、拡張面15を流れる吐出水Pwが乱流となることを抑制でき、加工領域Kにおいてより均一な層流で水膜Pを形成できる。
【0070】
本開示は、上記実施形態に限られるものではない。例えば上記実施形態では、ワークWの表面Waの全体が加工領域Kとして設定されているが、加工領域Kの設定は任意であり、ワークWの表面Waの一部を加工領域Kとして設定してもよい。加工領域Kは、線状に設定されていてもよく、点状に設定されていてもよい。点状の加工領域とは、例えばレーザ光LをワークWの表面Waに対して走査せず、1回のレーザ光Lの照射によって加工される領域を指す。つまり、点状の加工領域とは、例えばレーザ光Lの集光径に対応する領域である。
【0071】
上記実施形態では、照射位置M2及び狙い位置M1の走査にあたって、拡張面15に張り出した犠牲層20を吐出水Pwの狙い位置M1に含めているが、拡張面15自体を狙い位置M1に含めてもよい。上記実施形態では、照射位置M2及び狙い位置M1を定位置とし、ワークWを照射位置M2及び狙い位置M1に対して走査しているが、ワークWを定位置とし、照射位置M2及び狙い位置M1をワークWに対して走査する態様としてもよい。
【0072】
上記実施形態では、ワークWの表面Waを囲むように当該表面Waの上下左右に拡張治具12による拡張面15を形成しているが、拡張面15の形成態様はこれに限られるものではなく、加工領域Kの設定に応じて種々の変形を取り得る。例えば図9(a)に示すように、上側拡張治具12A及び下側拡張治具12のみを用いてワークWの表面Waの上側及び下側に拡張面15を形成してもよく、図9(b)に示すように、上側拡張治具12Aのみを用いてワークWの表面Waの上側のみに拡張面15を形成してもよい。図9(c)に示すように、一対の横側拡張治具12C、12Cのみを用いてワークWの表面Waの左右に拡張面15を形成してもよく、図9(d)に示すように、下側拡張治具12のみを用いてワークWの表面Waの下側のみに拡張面15を形成してもよい。図9(c)の更なる変形として、一対の横側拡張治具12C,12Cの一方のみを用いてワークWの表面Waの左右いずれかに拡張面15を形成してもよい。
【0073】
上記実施形態では、ワークWの表面Waの四辺の縁を超えて、上側拡張治具12A、下側拡張治具12、及び一対の横側拡張治具12C、12Cによるそれぞれの拡張面15に至るように犠牲層20が延びているが、犠牲層20の配置態様は、これに限られるものではなく、加工領域Kの設定に応じて種々の変形を取り得る。例えば図10(a)に示すように、ワークWの表面Waの四辺の縁と揃うように犠牲層20を配置してもよく、図10(b)に示すように、ワークWの表面Waの上側の拡張面15のみに至るように犠牲層20を配置してもよい。図示は省略するが、ワークWの表面Waの一又は複数の任意の方向の拡張面15に至るように犠牲層20を配置してもよい。
【0074】
本実施形態では、ワークWの表面Waの形状(ワークWの正面視の形状)として矩形を例示したが、ワークWの表面Waの形状は、円形状、楕円形状、多角形状などの他の形状であってもよい。拡張治具12の拡張面15の形状も、ワークWの表面Waの形状に応じて矩形以外の形状とすることができる。
【0075】
本実施形態では、ワークWの表面Waと拡張面15とが面一になっているが、レーザ光Lの照射位置M2及び拡張面15の少なくとも一部に跨るように層流による水膜Pが形成されていれば、ワークWの表面Waと拡張面15とは必ずしも面一でなくてもよい。すなわち、レーザ光Lの照射位置M2及び拡張面15の少なくとも一部に跨るように層流による水膜Pが形成される範囲であれば、表面Waと拡張面15との間に段差が生じていてもよい。かかる段差は、例えば0.1mmより大きくなっていてもよい。
【0076】
また、本実施形態では、ワークWの表面Waと拡張面15とがこれらの面方向に密接した面となっているが、レーザ光Lの照射位置M2及び拡張面15の少なくとも一部に跨るように層流による水膜Pが形成される範囲であれば、ワークWの表面Waと拡張面15との間に面方向の隙間が生じていてもよい。かかる隙間は、例えば0.1mmより大きくなっていてもよい。
【0077】
本開示の要旨は、以下の[1]~[15]に示すとおりである。
[1]ワークの表面に設定された加工領域にレーザ光を照射してピーニングを行うレーザピーニング方法であって、前記ワークに対して拡張治具を配置し、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面よりも外側の領域に前記拡張治具による拡張面を形成する配置工程と、狙い位置に向けた吐出水によって、前記レーザ光の照射位置及び前記拡張面の少なくとも一部に跨るように層流による水膜を形成する形成工程と、前記水膜を介して前記加工領域に前記レーザ光を照射する加工工程と、を備えるレーザピーニング方法。
[2]前記配置工程では、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面よりも上側に前記拡張治具による拡張面を形成する[1]記載のレーザピーニング方法。
[3]前記配置工程では、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面を囲むように前記拡張治具による拡張面を形成する[1]又は[2]記載のレーザピーニング方法。
[4]前記配置工程では、前記ワークの表面と前記拡張治具による拡張面とが面一となるように前記ワークに対して前記拡張治具を配置する[1]~[3]のいずれか記載のレーザピーニング方法。
[5]前記配置工程では、前記ワークに対して前記拡張治具を密接させ、前記ワークの表面と前記拡張治具による拡張面とを密接した面とする[1]~[4]のいずれか記載のレーザピーニング方法。
[6]前記配置工程では、前記拡張面の算術平均粗さRaが20μm以下の拡張治具を用いる[1]~[5]記載のレーザピーニング方法。
[7]前記配置工程では、前記ワークの背面及び前記拡張治具の背面を保持する保持治具を配置する[1]~[6]記載のレーザピーニング方法。
[8]前記加工工程では、前記照射位置と前記狙い位置との間隔を一定に保った状態で前記照射位置及び前記狙い位置を走査する[1]~[7]記載のレーザピーニング方法。
[9]前記加工工程では、前記照射位置及び前記狙い位置を定位置とし、前記ワークを前記照射位置及び前記狙い位置に対して走査する[1]~[8]記載のレーザピーニング方法。
[10]前記ワークの表面において、少なくとも前記加工領域の全体に犠牲層を配置する保護工程を更に備える[1]~[9]のいずれか一項記載のレーザピーニング方法。
[11]前記保護工程では、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面の縁に至るように前記犠牲層を配置する[10]記載のレーザピーニング方法。
[12]前記保護工程では、前記拡張治具による拡張面に至るように前記犠牲層を配置する[10]又は[11]記載のレーザピーニング方法。
[13]ワークの表面に設定された加工領域にレーザ光を照射してピーニングを行うレーザピーニング装置であって、前記ワークに対して配置され、前記加工領域の正面視において、前記ワークの表面よりも外側の領域に拡張面を形成する拡張治具と、狙い位置に向けた吐出水によって前記レーザ光の照射位置及び前記拡張面の少なくとも一部に跨るように層流による水膜を形成する吐出部と、前記水膜を介して前記加工領域に前記レーザ光を照射する光源部と、を備えるレーザピーニング装置。
[14]前記ワークの表面と前記拡張治具による拡張面との位置関係を調整する調整機構を更に備える[13]記載のレーザピーニング装置。
[15]前記拡張面の算術平均粗さRaは、20μm以下となっている請求項[13]又は[14]記載のレーザピーニング装置。
【符号の説明】
【0078】
1…レーザピーニング装置、2…光源部、3…吐出部、11…保持治具、12…拡張治具、15…拡張面、シム16(調整機構)、ネジ17(調整機構)、長孔18(調整機構)、ネジ孔19(調整機構)、20…犠牲層、W…ワーク、Wa…表面、K…加工領域、L…レーザ光、M1…狙い位置、M2…照射位置、P…水膜、Pw…吐出水。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10