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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140370
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20241003BHJP
   C08K 5/523 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20241003BHJP
   C08K 5/526 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/523
C08K3/22
C08K5/13
C08K5/103
C08K5/526
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051484
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】594137579
【氏名又は名称】三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 渉
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CG011
4J002DE136
4J002EF050
4J002EH049
4J002EJ029
4J002EJ037
4J002EW047
4J002EW068
4J002FD037
4J002FD068
4J002FD069
4J002FD096
4J002FD179
4J002GM00
4J002GN00
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】良好な色相を有し、耐熱変色性に優れ、優れた遮光性を有するポリカーボネート樹脂組成物。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、特定の一般式(1)で表されるトリアリールホスフェート(B)0.001~0.3質量部、及び酸化チタン(C)5超30質量部以下を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、下記一般式(1)で表されるトリアリールホスフェート(B)0.001~0.3質量部、及び酸化チタン(C)5超30質量部以下を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基である。]
【請求項2】
式(1)において、各芳香環上のR、Rがtert-ブチル基であり、各芳香環上のR、R及びRが水素原子である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
さらに、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、フェノール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから選ばれる少なくとも1種を含み、
2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、4-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、クミルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、フェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含む場合は0.002~0.1質量部を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、脂肪酸エステルを、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~1質量部含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
脂肪酸エステルが、フルエステルを主成分とする脂肪酸エステルである請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
脂肪酸エステルが、炭素数22以下のカルボン酸とアルコールから形成されている請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
脂肪酸エステルが、炭素数22以下のカルボン酸と多価アルコールから形成されている請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
脂肪酸エステルが、ステアリン酸とペンタエリスリトールのフルエステルを主成分とする脂肪酸エステルである請求項4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、フェノール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸エステルをポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.01~1質量部含み、
2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、4-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、クミルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、フェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部を、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含む場合は0.002~0.1質量部を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
さらに、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001~0.3質量部を含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなるペレット。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
【請求項13】
請求項11に記載のペレットを成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物に関し、詳しくは、良好な色相を有し、耐熱変色性に優れ、優れた遮光性を有するポリカーボネート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性等の機械的特性に優れ、且つ耐熱性、透明性等にも優れるので、各種光学部品、電気・電子機器部品、自動車内外装部品、OA機器部品、シート、機械部品、建材などの多くの用途に広く用いられている。
【0003】
そして、多くの場合、各種の添加剤を含有することにより機能性付与を行い、高機能化されたポリカーボネート樹脂組成物が多くの用途に用いられている。例えば、特許文献1では、ポリカーボネート樹脂85~95質量%にトリフェニルホスフェートを5~15質量%混合することにより、繊維強化ポリカーボネート樹脂組成物の流動性を改良する発明が記載されている。
【0004】
そして、近年は、各種機器の高機能化、高性能化が急速に進展する中で、ポリカーボネート樹脂には、特に色相と耐熱変色性の向上が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3308657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的(課題)は、良好な色相を有し、耐熱変色性に優れ、優れた遮光性を有するポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、特定のトリアリールホスフェート化合物と酸化チタンをそれぞれ特定の量で含有するポリカーボネート樹脂組成物が、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下のポリカーボネート樹脂組成物及び成形体に関する。
【0008】
1.ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、下記一般式(1)で表されるトリアリールホスフェート(B)0.001~0.3質量部、及び酸化チタン(C)5超30質量部以下を含有することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
[式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基である。]
2.式(1)において、各芳香環上のR、Rがtert-ブチル基であり、各芳香環上のR、R及びRが水素原子である上記1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
3.さらに、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、フェノール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから選ばれる少なくとも1種を含み、
2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、4-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、クミルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、フェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含む場合は0.002~0.1質量部を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、含有する上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
4.さらに、脂肪酸エステルを、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.01~1質量部含有する上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
5.脂肪酸エステルが、フルエステルを主成分とする脂肪酸エステルである上記4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
6.脂肪酸エステルが、炭素数22以下のカルボン酸とアルコールから形成されている上記4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
7.脂肪酸エステルが、炭素数22以下のカルボン酸と多価アルコールから形成されている上記4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
8.脂肪酸エステルが、ステアリン酸とペンタエリスリトールのフルエステルを主成分とする脂肪酸エステルである上記4に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
9.さらに、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、フェノール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから選ばれる少なくとも1種と、脂肪酸エステルをポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し0.01~1質量部含み、
2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、4-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、クミルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、フェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部を、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含む場合は0.002~0.1質量部を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、含有する請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
10.さらに、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001~0.3質量部を含有する上記1または2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
11.上記1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなるペレット。
12.上記1~10のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物からなる成形体。
13.上記11に記載のペレットを成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、良好な色相を有し、耐熱変色性に優れ、優れた遮光性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明する。
なお、本明細書において、「~」とは、特に断りがない場合、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、前記一般式(1)で表されるトリアリールホスフェート(B)0.001~0.3質量部、及び酸化チタン5超30質量部以下を含有することを特徴とすることを特徴とする。
【0012】
[ポリカーボネート樹脂(A)]
本発明において使用するポリカーボネート樹脂(A)は、その種類に制限は無く、また、1種のみを用いてもよく、2種以上を、任意の組み合わせ及び任意の比率で、併用してもよい。
ポリカーボネート樹脂は、炭酸結合に直接結合する炭素がそれぞれ芳香族炭素である芳香族ポリカーボネート樹脂、及び脂肪族炭素である脂肪族ポリカーボネート樹脂に分類できるが、いずれを用いることもできる。中でも、ポリカーボネート樹脂(A)としては、耐熱性、機械的物性、電気的特性等の観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0013】
芳香族ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、芳香族ジヒドロキシ化合物の例を挙げると、
1,2-ジヒドロキシベンゼン、1,3-ジヒドロキシベンゼン(即ち、レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン等のジヒドロキシベンゼン類;
2,5-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類;
【0014】
2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル、1,2-ジヒドロキシナフタレン、1,3-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,7-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン等のジヒドロキシナフタレン類;
【0015】
2,2’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル、1,4-ビス(3-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン等のジヒドロキシジアリールエーテル類;
【0016】
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)、
2,2-ビス(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-メトキシ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、
α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼン、
1,3-ビス[2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキシルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)(4-プロペニルフェニル)メタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、
ビス(4-ヒドロキシフェニル)ナフチルメタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-ナフチルエタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、
4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ノナン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ドデカン、
等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類;
【0017】
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,4-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,5-ジメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-プロピル-5-メチルシクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-tert-ブチル-シクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-フェニルシクロヘキサン、
1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-フェニルシクロヘキサン、
等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類;
【0018】
9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、
9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン等のカルド構造含有ビスフェノール類;
【0019】
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド等のジヒドロキシジアリールスルフィド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類;
4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、
4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類;
等が挙げられる。
【0020】
これらの中ではビス(ヒドロキシアリール)アルカン類が好ましく、中でもビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン類が好ましく、特に耐衝撃性、耐熱性の点から2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールC)が好ましい。
なお、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の原料となるモノマーのうち、カーボネート前駆体の例を挙げると、カルボニルハライド、カーボネートエステル等が使用される。なお、カーボネート前駆体は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0022】
カルボニルハライドとしては、具体的には例えば、ホスゲン;ジヒドロキシ化合物のビスクロロホルメート体、ジヒドロキシ化合物のモノクロロホルメート体等のハロホルメート等が挙げられる。
【0023】
カーボネートエステルとしては、具体的には例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類;ジヒドロキシ化合物のビスカーボネート体、ジヒドロキシ化合物のモノカーボネート体、環状カーボネート等のジヒドロキシ化合物のカーボネート体等が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。これらの中では、界面重合法、溶融エステル交換法によるものが耐湿熱性の向上効果がより高い点から好ましく、界面重合法が特に好ましい。
【0025】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量(Mv)で、好ましくは10,000~50,000であり、より好ましくは10,000~40,000,中でも10,000~30,000、10,000~26,000であり、更には10,500以上、11,000以上、特には11,500以上、最も好ましくは12,000以上であり、さらには24,000以下、特に好ましくは20,000以下である。粘度平均分子量を上記範囲の下限値以上とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度をより向上させることができ、粘度平均分子量を上記範囲の上限値以下とすることにより、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の流動性低下を抑制して改善でき、成形加工性を高めて成形加工を容易に行えるようになる。
なお、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記の好適な範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。
【0026】
なお、粘度平均分子量[Mv]とは、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10-4Mv0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dl)での比粘度[ηsp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0027】
また、成形体の外観の向上や流動性の向上を図るため、ポリカーボネート樹脂(A)は、ポリカーボネートオリゴマーを含有していてもよい。このポリカーボネートオリゴマーの粘度平均分子量[Mv]は、通常1,500以上、好ましくは2,000以上であり、また、通常9,500以下、好ましくは9,000以下である。さらに、含有されるポリカーボネートオリゴマーは、ポリカーボネート樹脂(ポリカーボネートオリゴマーを含む)の30質量%以下とすることが好ましい。
【0028】
さらにポリカーボネート樹脂(A)は、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂(いわゆるマテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂)であってもよく、バージン原料とリサイクル樹脂の両方を含有することも好ましく、リサイクルポリカーボネート樹脂からなることでもよい。ポリカーボネート樹脂(A)中のリサイクルポリカーボネート樹脂の割合は40%以上、50%以上、60%以上、80%以上が好ましく、100%が特に好ましい。
【0029】
[トリアリールホスフェート(B)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、一般式(1)で表されるトリアリールホスフェート(B)を含有する。なお、本明細書において、アリール基とは、置換基を有してもよい、単環式又は多環式の芳香族基を含む基を意味し、特に好ましくは置換基を有してもよいフェニル基を意味する。を意味する。
【化2】
【0030】
式(1)中、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~12のアルキル基であるが、炭素数1~12のアルキル基としては、炭素数1~8のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基またはオクチル基が好ましく挙げられる。これらの中でも炭素数が1~6のアルキル基、特に炭素数1~4のアルキル基が好ましい。
【0031】
式(1)中、3つある芳香環上のR~Rの2以上がアルキル基である場合、当該アルキル基はそれぞれ同一であっても、または互いに相異なっていてもよい。
トリアリールホスフェート(B)としては、式(1)中、各芳香環上のR~Rは、その少なくとも1つ以上が炭素数1~12のアルキル基であることが好ましい。
さらに、各芳香環上のR、Rが炭素数1~12のアルキル基であり、各芳香環上のR、R及びRが水素原子であることがより好ましい。
【0032】
トリアリールホスフェート(B)の具体例としては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジル-2,6-ジキシレニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート等を挙げることができる。
【0033】
中でも、トリアリールホスフェート(B)は、式(1)において、各芳香環上のR、Rがtert-ブチル基であり、各芳香環上のR、R及びRが水素原子であるものが好ましく、特にトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスフェートが好ましい。
【0034】
トリアリールホスフェート(B)は一種を単独で使用してもよく、二種以上を併用してもよい。
【0035】
トリアリールホスフェート(B)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001~0.3質量部である。このような量で含有する樹脂組成物が、良好な色相を有し、耐熱変色性に優れる。トリアリールホスフェート(B)の含有量は、好ましくは0.002質量部以上であり、中でも0.003質量部以上、0.004質量部以上、特に好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.13質量部以下、特に好ましくは0.12質量部以下である。
【0036】
[酸化チタン(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、酸化チタン(C)を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5超30質量部以下の量で含有する。このような多い量で酸化チタン(C)をトリアリールホスフェート(B)と併せて含有することにより、樹脂組成物からなる成形体を白度が高くて遮光性に優れ、さらに耐熱変色性に優れたものとすることが可能になる。
【0037】
酸化チタン(C)としては、一般に市販されているものの中で、酸化チタンを80質量%以上含有するものを用いるのが好ましい。酸化チタン(C)としては、例えば、一酸化チタン(TiO)、三酸化二チタン(Ti)、二酸化チタン(TiO)などが挙げられ、これらのいずれを使用してもよいが、二酸化チタンが好ましい。また、酸化チタンとしては、ルチル型の結晶構造を有するものが好ましい。
【0038】
酸化チタン(C)の平均一次粒子径は、1μm以下であることが好ましく、0.001~0.5μmの範囲内であることがより好ましく、0.002~0.1μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0039】
酸化チタン(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5超30質量部以下であるが、好ましくは6質量部超、より好ましくは7質量部超、さらに好ましくは8質量部超、中でも9質量部超、10質量部超、特には11質量部以上が好ましい。また、好ましくは29質量部以下、より好ましくは28質量部以下、さらに好ましくは27質量部以下、中でも26質量部以下、25質量部以下、24質量部以下、23質量部以下、22質量部以下、21質量部以下、20質量部以下、19質量部以下、18質量部以下、17質量部以下、16質量部以下、特には15質量部以下が好ましい。
【0040】
[フェノール構造を有する化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、2,4-ジ-tert-ブチルフェノール、4-tert-ブチルフェノール、クミルフェノール、フェノール、及び2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから選ばれる少なくとも1種である、フェノール構造を有する化合物を含むことが好ましく、2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、4-tert-ブチルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、クミルフェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、フェノールを含む場合は0.0012~0.1質量部、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンを含む場合は0.002~0.1質量部を、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、含有することが好ましい。
上記したフェノール構造を有する化合物を、トリアリールホスフェート(B)及び酸化チタン(C)と併せて含有することで、色相と耐熱変色性をより向上させることができる。
【0041】
2,4-ジ-tert-ブチルフェノールを含む場合の含有量は、好ましくは0.002質量部以上であり、中でも0.003質量部以上、0.004質量部以上、特に好ましくは0.005質量部以上であり、また、好ましくは0.10質量部以下であり、より好ましくは0.08質量部以下であり、中でも0.07質量部以下、特に好ましくは0.06質量部以下である。
4-tert-ブチルフェノールを含有する場合の含有量は、好ましくは0.002質量部以上であり、中でも0.003質量部以上、0.0035質量部以上である。
クミルフェノール[則ち、2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-フェニルプロパン、あるいは4-α-クミルフェノール]を含有する場合の含有量は、好ましくは0.0012~0.05質量部である。
フェノールを含有する場合の含有量は、好ましくは0.003質量部以上であり、中でも0.004質量部以上であり、また、好ましくは0.05質量部以下である。
2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(則ち、ビスフェノールA)を含有する場合の含有量は、好ましくは0.003質量部以上であり、中でも0.004質量部以上であり、また、好ましくは0.05質量部以下である。
【0042】
[トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらに、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトを、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.001~0.3質量部を含有することが好ましい。トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトをこのような量で、トリアリールホスフェート(B)と組み合わせて、含有することで、さらに色相と耐熱変色性を向上させることができる。
トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトの含有量は、より好ましくは0.002質量部以上であり、中でも0.003質量部以上、0.004質量部以上、特に好ましくは0.005質量部以上であり、また、より好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.13質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以下である。
【0043】
[アリールホスフィン、アリールホスフィンオキシド]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらにアリールホスフィンまたはアリールホスフィンオキシドを含有することも好ましい。
【0044】
アリールホスフィンとしては、例えばトリフェニルホスフィン、ジフェニルブチルホスフィン、ジフェニルオクタデシルホスフィン、トリス(p-トリル)ホスフィン、トリス(p-ノニルフェニル)ホスフィン、トリス(ナフチル)ホスフィン、ジフェニル(ヒドロキシメチル)ホスフィン、ジフェニル(アセトキシメチル)、ジフェニル(β-エチルカルボキシエチル)ホスフィン、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィン、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィン、ジフェニルベンジルホスフィン、ジフェニル-β-シアノエチルホスフィン、ジフェニル(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィン、ジフェニル-1,4-ジヒドロキシフェニル-2-ホスフィン、フェニルナフチルベンジルホスフィン等が好ましく挙げられ、トリアリールホスフィンが好ましく、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィン等が好ましく挙げられ、特に好ましくはトリフェニルホスフィンである。
【0045】
アリールホスフィンを含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~0.3質量部である。このような量で、トリアリールホスフェート(B)と併せて含有する樹脂組成物が、色相と耐熱変色性をより優れるものとすることができる。アリールホスフィンの含有量は、より好ましくは0.005質量部以上であり、中でも0.008質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上であり、また、より好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.1質量部以下、0.05質量部以下、特に0.04質量部以下が好ましい。
【0046】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、アリールホスフィンオキシドを含有することも好ましい。アリールホスフィンオキシドとしては、トリフェニルホスフィンオキシド、ジフェニルブチルホスフィンオキシド、ジフェニルオクタデシルホスフィンオキシド、トリス(p-トリル)ホスフィンオキシド、トリス(p-ノニルフェニル)ホスフィンオキシド、トリス(ナフチル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(ヒドロキシメチル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(アセトキシメチル)ホスフィンオキシド、ジフェニル(β-エチルカルボキシエチル)ホスフィンオキシド、トリス(p-クロロフェニル)ホスフィンオキシド、トリス(p-フルオロフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニルベンジルホスフィンオキシド、ジフェニル-β-シアノエチルホスフィンオキシド、ジフェニル(p-ヒドロキシフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニル-1,4-ジヒドロキシフェニル-2-ホスフィンオキシド、フェニルナフチルベンジルホスフィンオキシド等が好ましく挙げられ、トリアリールホスフィンオキシドが好ましく、特に好ましくはトリフェニルホスフィンオキシドである。
【0047】
アリールホスフィンオキシドを含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~0.3質量部である。このような量で、トリアリールホスフェート(B)、さらには上記した各成分と組み合わせて含有する樹脂組成物が、良好な色相を有し耐熱変色性にも優れる。アリールホスフィンオキシドの含有量は、より好ましくは0.002質量部以上であり、中でも0.003質量部以上、0.004質量部以上、特に好ましくは0.005質量部以上であり、また、より好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.13質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以下である。
【0048】
[エポキシ化合物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、エポキシ化合物を含有することも好ましい。
エポキシ化合物としては、1分子中にエポキシ基を1個以上有する化合物が用いられる。具体的には、フェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、2,3-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4-(3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシル)ブチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチレンオキシド、シクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル-6’-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、ビスフェノール-Aジグリシジルエーテル、テトラブロモビスフェノール-Aグリシジルエーテル、フタル酸のジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸のジグリシジルエステル、ビス-エポキシジシクロペンタジエニルエーテル、ビス-エポキシエチレングリコール、ビス-エポキシシクロヘキシルアジペート、ブタジエンジエポキシド、テトラフェニルエチレンエポキシド、オクチルエポキシタレート、エポキシ化ポリブタジエン、3,4-ジメチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、3,5-ジメチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、3-メチル-5-t-ブチル-1,2-エポキシシクロヘキサン、オクタデシル-2,2-ジメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N-ブチル-2,2-ジメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、シクロヘキシル-2-メチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、N-ブチル-2-イソプロピル-3,4-エポキシ-5-メチルシクロヘキシルカルボキシレート、オクタデシル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、2-エチルヘキシル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,6-ジメチル-2,3-エポキシシクロヘキシル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、4,5-エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、3-t-ブチル-4,5-エポキシ無水テトラヒドロフタル酸、ジエチル4,5-エポキシ-シス-1,2-シクロヘキシルジカルボキシレート、ジ-n-ブチル-3-t-ブチル-4,5-エポキシ-シス-1,2-シクロヘキシルジカルボキシレート、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などを好ましく例示することができる。
【0049】
これらのうち、脂環族エポキシ化合物が好ましく用いられ、特に3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキシルカルボキシレートが好ましい。
【0050】
エポキシ化合物を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.001~0.3質量部である。このような量で、トリアリールホスフェート(B)、さらには上記した各成分と組み合わせて含有する樹脂組成物が、良好な色相を有し耐熱変色性にも優れる。エポキシ化合物の含有量は、より好ましくは0.005質量部以上であり、中でも0.008質量部以上、特に好ましくは0.01質量部以上であり、また、より好ましくは0.25質量部以下であり、中でも0.2質量部以下、0.15質量部以下、0.1質量部以下、0.07質量部以下、0.05質量部以下、特に0.04質量部以下が好ましい。
【0051】
[脂肪酸エステル]
本発明の樹脂組成物は脂肪酸エステルを含有することも好ましい。
脂肪酸エステルは、脂肪族カルボン酸とアルコールとから構成される。
【0052】
脂肪族カルボン酸としては、例えば、飽和または不飽和の脂肪族一価、二価または三価カルボン酸を挙げることができる。ここで脂肪族カルボン酸とは、脂環式のカルボン酸も包含する。これらの中で好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数が22以下の脂肪族カルボン酸、中でも炭素数6~20の脂肪族飽和一価カルボン酸がさらに好ましい。かかる脂肪族カルボン酸の具体例としては、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ベヘン酸などが好ましく挙げられる。これら中でも炭素数12~22の脂肪族飽和一価カルボン酸が特に好ましい。
【0053】
アルコールとしては、例えば、飽和または不飽和の一価または多価アルコールが挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の一価または多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和一価アルコールまたは脂肪族飽和多価アルコールがより好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和多価アルコールがより好ましい。なお、ここで脂肪族とは、脂環式化合物も包含する用語として使用される。
【0054】
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0055】
脂肪酸エステルは、フルエステルであることが好ましい。ここでフルエステルとは、エステル化度が好ましくは90%以上であることを意味する。ただし、上記のエステルは、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよい。また、上記のエステルは、純物質であってもよいが、複数の化合物の混合物であってもよい。さらに、結合して一つのエステルを構成する脂肪族カルボン酸及びアルコールは、それぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0056】
脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステルの具体例としては、ステアリン酸ステアリル、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸ステアリル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0057】
脂肪酸エステルの含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01~1質量部であり、より好ましくは0.03質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上、中でも0.08質量部以上、特には0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.8質量部以下、さらに好ましくは0.6質量部以下、中でも0.4質量部以下、特には0.3質量部以下が好ましい。脂肪酸エステルをこのような量で含有することにより、成形加工時に、加工機と樹脂の間および樹脂同士、樹脂と酸化チタンの間で起こる摩擦を減少させ、加工時の樹脂温度の上昇を抑制し、樹脂分解を抑制するため耐熱変色性をより優れたものとすることが可能となり、後述するΔE*を小さくすることが可能となる。
【0058】
[紫外線吸収剤]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線吸収剤を含有することも好ましい。
紫外線吸収剤としては、例えば、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤;ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オキサニリド化合物、マロン酸エステル化合物、ヒンダードアミン化合物などの有機紫外線吸収剤などが挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましい。有機紫外線吸収剤を選択することで、本発明の樹脂組成物の透明性や機械物性が良好なものになる。
【0059】
ベンゾトリアゾール化合物の具体例としては、例えば、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-アミル)-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]等が挙げられ、中でも2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)フェノール]が好ましく、特に2-(2’-ヒドロキシ-5’-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾールが好ましい。
【0060】
ベンゾフェノン化合物の具体例としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-スルホン酸、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-n-ドデシロキシベンゾフェノン、ビス(5-ベンゾイル-4-ヒドロキシ-2-メトキシフェニル)メタン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0061】
サリシレート化合物の具体例としては、例えば、フェニルサリシレート、4-tert-ブチルフェニルサリシレート等が挙げられる。
シアノアクリレート化合物の具体例としては、例えば、エチル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等が挙げられる。
オキサニリド化合物の具体例としては、例えば、2-エトキシ-2’-エチルオキサリックアシッドビスアリニド等が挙げられる。
マロン酸エステル化合物としては、2-(アルキリデン)マロン酸エステル類が好ましく、2-(1-アリールアルキリデン)マロン酸エステル類がより好ましい。
【0062】
紫外線吸収剤を含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、通常0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常1質量部以下、好ましくは0.5質量部以下である。紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の下限値未満の場合は、耐候性、耐光性の改良効果が不十分となる可能性があり、紫外線吸収剤の含有量が前記範囲の上限値を超える場合は、モールドデボジット等が生じ金型汚染を引き起こす可能性がある。
紫外線吸収剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0063】
[添加剤等]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した以外のその他の添加剤、例えば、蛍光増白剤、顔料、染料、難燃剤、耐衝撃改良剤、可塑剤、相溶化剤などの添加剤を含有することができる。これらの添加剤は一種又は二種以上を含有してもよい。なお、充填材、特に繊維状充填材は含有してもよいが、含有する場合の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、5質量部未満であることが好ましい。
また、ポリカーボネート樹脂(A)以外の他の樹脂を含有してもよい。その他の樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性ポリエステル樹脂;ポリスチレン樹脂、高衝撃ポリスチレン樹脂(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)などのスチレン系樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリメタクリレート樹脂等が挙げられる。その他の樹脂としては、特にABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
【0064】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、耐熱変色性に優れるので、厚さ1mmの試験片を、温度140℃に300時間保持した後の厚み方向(1mmt)の色相E*(試験後E*)と、試験前の色相E*(初期E*)との差ΔE*が、好ましくは3.1以下であり、より好ましくは3.0以下、中でも2.9以下、2.8以下、特には2.7以下とすることが可能である。
なお、ΔE*の測定方法の詳細は、実施例に記載する通りである。
【実施例0065】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の効果を確認するため、以下を行ったが、本発明は以下の例に限定して解釈されるものではない。
使用した成分は、以下の表1~2の通りである。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例1~35、比較例1~5)
上記した各成分を、後記表3以下に記した割合(質量部)で配合し、タンブラーにて20分混合した後、1ベントを備えた日本製鋼所社製二軸押出機(TEX30α)に上流のフィーダーより供給し、回転数350rpm、吐出量45kg/時間、バレル温度260℃の条件で混練し、ストランド状に押出された溶融樹脂を水槽にて急冷し、ペレタイザーを用いてペレット化し、樹脂組成物のペレットを得た。
【0069】
得られたペレットを120℃で5時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、射出成形機(日本製鋼所社製「J55AD」)により、樹脂温度320℃、金型温度80℃で、厚さ1.0mm、2.0mm、3.0mmの部分をそれぞれ有する3段プレートを成形した。射出成形は以下の条件で行った。
スクリュー回転数:100rpm
背圧(ゲージ圧力):10MPa
射出保圧時間:10sec
冷却時間:20sec
【0070】
上記3段プレートの厚さ1.0mmの部分について、JIS K7105、JIS Z8781-4に従い、日本電色工業社製色差計「SE-6000」を使用して、光源はD65、視野角10度、反射法の条件でCIE表色系での色相E*(初期E*)を測定した。
次いで、この3段プレートを、温度140℃の熱風オーブン中に300時間保持した後、同様にしてE*(試験後E*)を測定し、以下の式からΔE*を求めた。
ΔE*=(試験後E*)-(初期E*)
ΔE*が小さいほど耐熱変色性が優れることを示す。
【0071】
[遮光性評価(全光線透過率)]
日本電色工業社製NDH4000型濁度計を用い、JIS K7361-1に準拠し、3段プレートの1mm厚部の全光線透過率(単位:%)を測定した。
全光線透過率が小さいほど、遮光性が優れることを意味している。
全光線透過率は、1.0%以下であることが好ましい。
【0072】
以上の結果を、下記表3以下に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
【表4】
【0075】
【表5】
【0076】
【表6】
【0077】
【表7】
【0078】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、良好な色相を有し、耐熱変色性に優れ、優れた遮光性を有するので、各種の成形品に好適に利用できる。