(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140384
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】LDHセパレータ及び亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20241003BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/497 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20241003BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M50/463 B
H01M50/434
H01M50/443 M
H01M50/497
H01M50/451
H01M50/489
H01M50/403 B
H01M50/446
H01M50/414
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051504
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 義信
(72)【発明者】
【氏名】武井 大輝
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄樹
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021BB05
5H021CC04
5H021EE02
5H021EE22
5H021HH00
5H021HH01
5H021HH03
(57)【要約】
【課題】電池のサイクル特性をより一層向上可能なLDHセパレータを提供する。
【解決手段】層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含むLDHセパレータであって、平面視した場合に、低伝導度領域及び高伝導度領域を有し、低伝導度領域のイオン伝導度C
Lに対する高伝導度領域のイオン伝導度C
Hの比C
H/C
Lが1.5~6.5である、LDHセパレータ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含むLDHセパレータであって、
前記LDHセパレータは、平面視した場合に、低伝導度領域及び高伝導度領域を有し、前記低伝導度領域のイオン伝導度CLに対する前記高伝導度領域のイオン伝導度CHの比CH/CLが1.5~6.5である、LDHセパレータ。
【請求項2】
前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域の合計領域における、前記低伝導度領域の占める割合が20~70%である、請求項1に記載のLDHセパレータ。
【請求項3】
前記低伝導度領域が、前記高伝導度領域を取り囲むパターンで設けられる、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項4】
前記高伝導度領域を取り囲む前記低伝導度領域のパターンが、前記LDHセパレータの長さに対して25%以下の幅を有する、請求項3に記載のLDHセパレータ。
【請求項5】
前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域がそれぞれ複数存在しており、前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域が市松模様のパターンで交互に設けられる、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項6】
前記市松模様を構成する前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域の各々が10~50mm角のサイズである、請求項5に記載のLDHセパレータ。
【請求項7】
前記低伝導度領域のイオン伝導度CLが0.5~2.2S/cm2である、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項8】
前記高伝導度領域のイオン伝導度CHが2.0~5.1S/cm2である、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項9】
前記LDHセパレータが多孔質基材をさらに含み、前記多孔質基材の孔に前記水酸化物イオン伝導層状化合物が充填されている、且つ/又は前記多孔質基材の少なくとも一方の表面に前記水酸化物イオン伝導層状化合物を含む表層が設けられている、請求項1又は2に記載のLDHセパレータ。
【請求項10】
前記多孔質基材が高分子材料で構成される、請求項9に記載のLDHセパレータ。
【請求項11】
前記LDHセパレータの単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項9に記載のLDHセパレータ。
【請求項12】
前記LDHセパレータが、該LDHセパレータの厚さ方向にプレスされたものである、請求項9に記載のLDHセパレータ。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のLDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池。
【請求項14】
請求項1又は2に記載のLDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はLDHセパレータ及び亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。水熱処理を経て作製したLDH/多孔質基材の複合材料をロールプレスすることで更なる緻密化を実現したLDHセパレータも提案されている。例えば、特許文献4(国際公開第2019/124270号)には、高分子多孔質基材と、この多孔質基材に充填されるLDHとを含み、波長1000nmにおける直線透過率が1%以上である、LDHセパレータが開示されている。
【0004】
また、LDHとは呼べないもののそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物としてLDH様化合物が知られており、LDHとともに水酸化物イオン伝導層状化合物と総称できる程に類似した水酸化物イオン伝導特性を呈する。例えば、特許文献5(国際公開第2020/255856号)には、多孔質基材と、多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、水酸化物イオン伝導セパレータであって、このLDH様化合物が、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるものが開示されている。また、特許文献6(国際公開第2021/229916号)には、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)In、Bi、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である添加元素Mとを含むLDH様化合物を用いたLDHセパレータが開示されている。さらに、特許文献7(国際公開第2021/229917号)には、LDH様化合物及びIn(OH)3の混合物を含むLDHセパレータに関して、LDH様化合物が、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるものが開示されている。特許文献5~7に開示されるセパレータによれば、従来のLDHセパレータと比べ、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制できるとされている。
【0005】
ところで、亜鉛二次電池の短寿命化を招く別の要因として、負極活物質である亜鉛の形態変化が挙げられる。すなわち、充放電の繰り返しにより亜鉛が溶解及び析出を繰り返すにつれて、負極が形態変化して、気孔の閉塞による高抵抗化、孤立亜鉛の蓄積による充電活物質の減少等を生じ、その結果、充放電が困難になるとの問題がある。この問題に対処すべく、特許文献8(国際公開第2020/049902号)には、ZnO粒子と、(i)所定粒径の金属Zn粒子、(ii)所定の金属元素及び(iii)ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂から選択される少なくとも2つとを組み合わせて負極に用いることが提案されている。この負極によれば、亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極の劣化を抑制して耐久性を向上し、それによりサイクル寿命を長くすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【特許文献3】国際公開第2016/067884号
【特許文献4】国際公開第2019/124270号
【特許文献5】国際公開第2020/255856号
【特許文献6】国際公開第2021/229916号
【特許文献7】国際公開第2021/229917号
【特許文献8】国際公開第2020/049902号
【発明の概要】
【0007】
特許文献1~7に開示されるようなLDHセパレータを用いてニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡等をある程度防止できる。しかしながら、サイクル特性の更なる改善が望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、LDHセパレータの面内に、イオン伝導度の比が所定範囲内に制御された低伝導度領域及び高伝導度領域を設けることにより、これを備えた電池のサイクル特性をより一層向上できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、電池のサイクル特性をより一層向上可能なLDHセパレータを提供することにある。
【0010】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含むLDHセパレータであって、
前記LDHセパレータは、平面視した場合に、低伝導度領域及び高伝導度領域を有し、前記低伝導度領域のイオン伝導度CLに対する前記高伝導度領域のイオン伝導度CHの比CH/CLが1.5~6.5である、LDHセパレータ。
[態様2]
前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域の合計領域における、前記低伝導度領域の占める割合が20~70%である、態様1に記載のLDHセパレータ。
[態様3]
前記低伝導度領域が、前記高伝導度領域を取り囲むパターンで設けられる、態様1又は2に記載のLDHセパレータ。
[態様4]
前記高伝導度領域を取り囲む前記低伝導度領域のパターンが、前記LDHセパレータの長さに対して25%以下の幅を有する、態様3に記載のLDHセパレータ。
[態様5]
前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域がそれぞれ複数存在しており、前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域が市松模様のパターンで交互に設けられる、態様1~4のいずれか一つに記載のLDHセパレータ。
[態様6]
前記市松模様を構成する前記低伝導度領域及び前記高伝導度領域の各々が10~50mm角のサイズである、態様5に記載のLDHセパレータ。
[態様7]
前記低伝導度領域のイオン伝導度CLが0.5~2.2S/cm2である、態様1~6のいずれか一つに記載のLDHセパレータ。
[態様8]
前記高伝導度領域のイオン伝導度CHが2.0~5.1S/cm2である、態様1~7のいずれか一つに記載のLDHセパレータ。
[態様9]
前記LDHセパレータが多孔質基材をさらに含み、前記多孔質基材の孔に前記水酸化物イオン伝導層状化合物が充填されている、且つ/又は前記多孔質基材の少なくとも一方の表面に前記水酸化物イオン伝導層状化合物を含む表層が設けられている、態様1~8のいずれか一つに記載のLDHセパレータ。
[態様10]
前記多孔質基材が高分子材料で構成される、態様9に記載のLDHセパレータ。
[態様11]
前記LDHセパレータの単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、態様1~10のいずれか一つに記載のLDHセパレータ。
[態様12]
前記LDHセパレータが、該LDHセパレータの厚さ方向にプレスされたものである、態様1~11のいずれか一つに記載のLDHセパレータ。
[態様13]
態様1~12のいずれか一つに記載のLDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池。
[態様14]
態様1~12のいずれか一つに記載のLDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のLDHセパレータの一例を概念的に示す模式上面図である。
【
図2】本発明のLDHセパレータの製造方法の一例を斜視図で示す工程流れ図である。
【
図3A】例A1~B3で用いたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
【
図3B】
図3Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
【
図4】例A1~B3で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
【
図5】例A8における打ち抜き加工後のLDHセパレータの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
LDHセパレータ
本発明のLDHセパレータ10は、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含む。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないが水酸化物イオン伝導性を有する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。また、
図1に概念的に示されるように、LDHセパレータ10は、平面視した場合に、低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bを有する。そして、低伝導度領域10aのイオン伝導度C
Lに対する高伝導度領域10bのイオン伝導度C
Hの比C
H/C
Lが1.5~6.5である。このように、LDHセパレータ10の面内に、イオン伝導度の比C
H/C
Lが所定範囲内に制御された低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bを設けることにより、これを備えた電池のサイクル特性をより一層向上させることが可能となる。
【0013】
LDHセパレータ10を備えた電池のサイクル特性が向上するメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のようなものと考えられる。すなわち、上述のとおり、従来の亜鉛二次電池においては、充放電の繰り返しにより亜鉛が溶解及び析出を繰り返すにつれて、負極が形態変化して、気孔の閉塞による高抵抗化、孤立亜鉛の蓄積による充電活物質の減少等を生じ、その結果、充放電が困難になるとの問題がある。つまり、負極の充放電反応が一部エリアにおいて過剰に進行する結果、亜鉛が偏析するものと考えられる。この点、負極表面に設けられるLDHセパレータ10において、高伝導度領域10bと比べてイオン伝導度が相対的に低い低伝導度領域10aが存在する場合、低伝導度領域10a上における負極反応が進行しにくいものとなる。こうして負極の一部エリアにおいて、過剰に進行しがちな負極反応が効果的に抑制されることにより、負極全体の充放電反応が均一化する。その結果、亜鉛の偏析が抑制されて、電池のサイクル寿命を長くすることができるものと考えられる。また、充放電サイクルの進行に伴う負極の形態変化により、負極表面に設けられるセパレータも変形して空隙(欠陥)が生じうる。そして、この空隙を起点として、デンドライトによるセパレータの貫通を招きうる。この点、上述のとおり、本発明のLDHセパレータ10によって亜鉛の偏析が抑制されることで、負極の形態変化が起こりにくいものとなり、結果としてLDHセパレータ10の変形及び空隙も生じにくいものとなる。したがって、LDHセパレータ10を備えた電池は、デンドライト短絡防止特性にも優れるといえる。
【0014】
LDHセパレータ10は、低伝導度領域のイオン伝導度CLに対する高伝導度領域のイオン伝導度CHの比CH/CLが1.5~6.5であり、好ましくは2.0~5.0である。これらの範囲内であると、LDHセパレータ10を備えた電池において、負極全体の充放電反応を均一化して、サイクル特性を向上できる。低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bにおけるイオン伝導度の測定は、後述する実施例の評価5に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0015】
低伝導度領域のイオン伝導度CLは0.5~2.2S/cm2であるのが好ましく、より好ましくは0.8~1.6S/cm2である。これらの範囲内であると、LDHセパレータ10を備えた電池において、負極の一部エリアにおいて過剰に進行しがちな負極反応をより一層効果的に抑制して、サイクル特性をより一層向上できる。
【0016】
高伝導度領域のイオン伝導度CHは2.0~5.1S/cm2であるのが好ましく、より好ましくは3.2~4.0S/cm2である。これらの範囲内であると、LDHセパレータ10を備えた電池において、負極全体としての反応がよりスムーズに進行する結果、負極の劣化を効果的に抑制して、サイクル特性をより一層向上できる。
【0017】
LDHセパレータ10を平面視した場合に、低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bの合計領域における、低伝導度領域10aの占める割合(面積割合)が20~70%であるのが好ましく、より好ましくは30~60%である。これらの範囲内であると、LDHセパレータ10を備えた電池において、負極反応の均一化とスムーズな進行とをより一層バランス良く実現することができ、結果としてサイクル特性をより一層向上できる。
【0018】
本発明の好ましい態様によれば、
図1に示されるように、LDHセパレータ10において、低伝導度領域10aが高伝導度領域10bを取り囲むパターン(外周パターン)で設けられる。ここで、亜鉛二次電池等における負極は、中央部と比べて外周部の方が電解液を多く保持可能であるため、負極の反応が外周部ほど進行しやすい傾向がある。この点、負極の外周部に対応するLDHセパレータ10の外周部に低伝導度領域10aを設けることにより、負極反応をより効率的に均一化させることが可能となり、サイクル特性をより一層向上できる。
【0019】
上記態様において、高伝導度領域10bを取り囲む低伝導度領域10aのパターンは、LDHセパレータ10の長さに対して25%以下の幅を有するのが好ましく、より好ましくは5~24%である。これらの範囲内であると、LDHセパレータ10を備えた電池において、負極外周部における反応の進行を効果的に抑制して、負極反応の均一化とスムーズな進行とをより一層バランス良く実現することができる。ここで、上記比率は、
図1に示されるように、LDHセパレータ10の長辺の長さLに対する、外周パターンにおける低伝導度領域10aの上記長辺方向の長さlの比率(=(l/L)×100)、及び/又はLDHセパレータ10の短辺の長さSに対する、外周パターンにおける低伝導度領域10aの上記短辺方向の長さsの比率(=(s/S)×100)を意味するものとする。したがって、LDHセパレータ10の形状は矩形状であるのが典型的である。
【0020】
本発明の別の好ましい態様によれば、LDHセパレータ10において、低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bがそれぞれ複数存在しており、低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bが市松模様のパターンで交互に設けられる。こうすることで、LDHセパレータ10を備えた電池において、特定箇所に集中しがちな負極反応を効果的に分散させることができ、サイクル特性をより一層向上できる。かかる態様において、LDHセパレータ10の全域が市松模様パターンを構成するものであってもよく、LDHセパレータ10の一部(例えば中央部)が市松模様パターンを構成するものであってもよい。
【0021】
上記態様において、市松模様を構成する低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bの各々は10~50mm角のサイズであるのが好ましく、より好ましくは10~35mm角のサイズである。これらの範囲内であると、LDHセパレータ10を備えた電池において、特定箇所に集中しがちな負極反応をより一層効果的に分散させることができ、サイクル特性をより一層向上できる。
【0022】
LDHセパレータ10は、平面視した場合に、低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bのいずれにも属さない通常伝導度領域を有していてもよい。この通常伝導度領域のイオン伝導度CMは、低伝導度領域10aのイオン伝導度CLより高く、かつ、高伝導度領域10bのイオン伝導度CHより低い。典型的には、通常伝導度領域のイオン伝導度CMに対する、高伝導度領域のイオン伝導度CHの比CH/CMは1.0を超え1.5未満である。なお、上述した比CH/CL及び/又は比CH/CMを満たす限り、各領域内において、イオン伝導度に勾配があることは許容される。
【0023】
LDHセパレータ10の緻密性は、He透過度により評価することができる。すなわち、LDHセパレータ10は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有するLDHセパレータ10は緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下であるセパレータは、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルで阻止することができる。例えば、亜鉛二次電池の場合、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出して水酸化物イオン伝導セパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH2分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもH2ガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価4に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0024】
LDHセパレータ10は、亜鉛二次電池に組み込まれた場合に、正極板と負極板とを水酸化物イオン伝導可能に隔離するものである。好ましいLDHセパレータ10はガス不透過性及び/又は水不透過性を有する。換言すれば、LDHセパレータ10はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDHセパレータ10がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータ10が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータ10は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータ10は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0025】
LDHセパレータ10は、多孔質基材をさらに含むのが好ましい。この場合、多孔質基材の孔に水酸化物イオン伝導層状化合物が充填されている、且つ/又は多孔質基材の少なくとも一方の表面に水酸化物イオン伝導層状化合物を含む表層が設けられているのが好ましい。表層によってデンドライトの伸展を極めて効果的に阻止することができるため、このような表層を備えたLDHセパレータ10は、デンドライト短絡耐性に特に優れたものとなる。表層は、多孔質基材の一方の表面のみに設けられるものであってもよく、多孔質基材の両面に設けられるものであってもよい。また、水酸化物イオン伝導層状化合物は、多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。もっとも、多孔質基材の孔は完全に塞がれている必要はなく、残留気孔が僅かに存在していてもよい。LDHセパレータ10の厚さ(例えば多孔質基材及び表層の合計厚さ)は、好ましくは3~100μmであり、より好ましくは3~80μm、さらに好ましくは3~60μmである。
【0026】
多孔質基材は高分子材料で構成されるのが好ましい。高分子多孔質基材には、1)可撓性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含む水酸化物イオン伝導セパレータを簡単に折り曲げる又は封止接合することができるとの利点もある。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。より好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せ等が挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。水酸化物イオン伝導層状化合物は多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば高分子多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔が水酸化物イオン伝導層状化合物で埋まっている)のが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0027】
LDHセパレータ10に含まれる水酸化物イオン伝導層状化合物は、上述したとおりLDH及び/又はLDH様化合物である。以下、LDH及びLDH様化合物の好ましい態様について説明する。
【0028】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びH2Oで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH-及び/又はCO3
2-を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。一般的に、LDHは、M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH-及びCO3
2-が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An-がOH-及び/又はCO3
2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオン(例えばTi4+)で置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn-の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0029】
例えば、LDHの水酸化物基本層は、Mg、Al及びOH基を含むのが好ましく、Tiをさらに含む(すなわちMg、Al、Ti及びOH基を含む)のが優れた耐アルカリ性を呈する点で特に好ましい。この場合、水酸化物基本層は、Mg、Al及びOH基(所望によりさらにTi)を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。例えば、LDHないし水酸化物基本層には、Y及び/又はZnが含まれていてもよい。また、LDHないし水酸化物基本層にY及び/又はZnが含まれている場合、LDHないし水酸化物基本層にはAl又はTiが含まれていなくてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてMg、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/Alの原子比が0.5~12であるのが好ましく、より好ましくは1.0~12である。上記範囲内であると、イオン伝導性を損なうことなく、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。同様の理由から、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.1~0.7であるのが好ましく、より好ましくは0.2~0.7である。また、LDHにおけるAl/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.05~0.4であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.25である。さらに、LDHにおけるMg/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.2~0.7であるのが好ましく、より好ましくは0.2~0.6である。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0030】
あるいは、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むものであってもよい。この場合、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/(Ni+Ti+Al)の原子比が、0.10~0.90であるのが好ましく、より好ましくは0.20~0.80、さらに好ましくは0.25~0.70、特に好ましくは0.30~0.61である。上記範囲内であると、耐アルカリ性とイオン伝導性の両方を向上することができる。したがって、水酸化物イオン伝導層状化合物は、LDHのみならずチタニアを副生させるほど多くのTiを含んでいてもよい。すなわち、水酸化物イオン伝導層状化合物はチタニアをさらに含むものであってもよい。チタニアの含有により、親水性が上がり、電解液との濡れ性が向上する(すなわち伝導率が向上する)ことが期待できる。
【0031】
LDH様化合物は、(i)Mgと、(ii)Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含むのが好ましい。このように、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、少なくともMg及びTiを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制可能な水酸化物イオン伝導セパレータを提供することができる。したがって、好ましいLDH様化合物は、(i)Mgと、(ii)Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、所望によりY、及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物であり、特に好ましくはMg、Ti、Y及びAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0032】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータ10の表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びH2Oが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0033】
エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、LDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0034】
本発明の別の好ましい態様によれば、LDH様化合物は、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物は、Ti、Y、添加元素M、所望によりAl及び所望によりMgの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。添加元素Mは、In、Bi、Ca、Sr、Ba又はそれらの組合せである。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0035】
上記態様によるLDHセパレータは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比が0.50~0.85であるのが好ましく、より好ましくは0.56~0.81である。LDH様化合物におけるY/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.20であるのが好ましく、より好ましくは0.07~0.15である。LDH様化合物におけるM/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.35であるのが好ましく、より好ましくは0.03~0.32である。LDH様化合物におけるMg/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.10であるのが好ましく、より好ましくは0~0.02である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.04である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0036】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、LDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDH様化合物がIn(OH)3との混合物の形態で存在するものでありうる。この態様のLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、所望によりAl、及び所望によりInの、複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。なお、LDH様化合物に含まれうるInは、LDH様化合物中に意図的に添加されたもののみならず、In(OH)3の形成等に由来してLDH様化合物中に不可避的に混入したものであってもよい。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+
1-xM3+
x(OH)2An-
x/n・mH2O(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。
【0037】
上記態様による混合物はLDH様化合物のみならずIn(OH)3をも含む(典型的にはLDH様化合物及びIn(OH)3で構成される)。In(OH)3の含有により、LDHセパレータにおける耐アルカリ性及びデンドライト耐性を効果的に向上することができる。混合物におけるIn(OH)3の含有割合は、LDHセパレータの水酸化物イオン伝導性を殆ど損なわずに耐アルカリ性及びデンドライト耐性を向上できる量であるのが好ましく、特に限定されない。In(OH)3はキューブ状の結晶構造を有するものであってもよく、In(OH)3の結晶がLDH様化合物で取り囲まれている構成であってもよい。In(OH)3はX線回折により同定することができる。
【0038】
LDHセパレータ10の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDHセパレータ(あるいはLDH含有機能層及び複合材料)の製造方法(例えば特許文献1~7を参照)の諸条件を適宜変更することにより作製することができる。例えば、以下の手順により好ましくLDHセパレータ10を作製することができる。
(1)多孔質基材を用意する。
(2)多孔質基材に対して、i)アルミナゾル(あるいはさらにチタニアゾル)(LDHを形成する場合)、又はii)チタニアゾル(あるいはさらにイットリアゾル及び/又はアルミナゾル)(LDH様化合物を形成する場合)を含む溶液を塗布して乾燥させる。
(3)マグネシウムイオン(Mg
2+)及び尿素(あるいはさらにイットリウムイオン(Y
3+))を含む原料水溶液に多孔質基材を浸漬させる。
(4)原料水溶液中で多孔質基材を水熱処理して、水酸化物イオン伝導層状化合物を多孔質基材上及び/又は多孔質基材中に形成させて、LDHセパレータを得る。
(5)LDHセパレータの所定の領域に対して打ち抜き加工を行い、
図2(i)に示されるように、孔Hが形成されたLDHセパレータ2を作製する。なお、この孔HはLDHセパレータ10における高伝導度領域10bに対応する部分となる。
(6)
図2(ii)に示されるように、上記(5)で得られた孔Hが形成されたLDHセパレータ2と、上記(4)で得られたLDHセパレータ4とを積層した状態でプレスを行う。これにより、
図2(iii)に示されるように、LDHセパレータ2,4を一体化させて、低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bを有するLDHセパレータ10を得る。
【0039】
特に、水酸化物イオン伝導層状化合物が多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているLDHセパレータ10を作製する場合、上記(2)におけるゾル溶液の基材への塗布を、ゾル溶液を基材内部の全体又は大部分に浸透させるような手法で行うのが好ましい。こうすることで最終的に多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔を水酸化物イオン伝導層状化合物で埋めることができる。好ましい塗布手法の例としては、ディップコート、ろ過コート等が挙げられ、特に好ましくはディップコートである。ディップコート等の塗布回数を調整することで、ゾル溶液の付着量を調整することができる。ディップコート等によりゾル溶液が塗布された基材は、乾燥させた後、上記(3)及び(4)の工程を実施すればよい。
【0040】
上記工程(3)において尿素が存在することで、尿素の加水分解を利用してアンモニアが溶液中に発生することによりpH値が上昇し、共存する金属イオンが水酸化物及び/又は酸化物を形成することにより水酸化物イオン伝導層状化合物(すなわちLDH及び/又はLDH様化合物)を得ることができるものと考えられる。そして、加水分解に二酸化炭素の発生を伴うため、LDHを形成する場合には、陰イオンが炭酸イオン型のLDHを得ることができる。
【0041】
上記工程(6)におけるプレス手法は、例えばロールプレス、一軸加圧プレス、CIP(冷間等方圧加圧)等であってよいが、好ましくはロールプレスである。このとき、ロールプレス時の荷重を2~4tとするのが好ましく、温度を25~90℃とするのが好ましい。このような条件でロールプレス等のプレスを行うことで、複数枚のLDHセパレータを一体化させて極めて高度に緻密化することができ、所定の低伝導度領域10a及び高伝導度領域10bを有するLDHセパレータ10を形成しやすくなる。また、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。したがって、本発明のLDHセパレータは厚さ方向にプレスされたものであるのが好ましい。その他、LDHセパレータの所定領域に対して高抵抗の層(例えばポリマー層)を塗布することにより、低伝導度領域10aを設けてもよい。
【0042】
亜鉛二次電池
本発明のLDHセパレータは亜鉛二次電池に適用されるのが好ましい。したがって、本発明の好ましい態様によれば、LDHセパレータを備えた、亜鉛二次電池が提供される。典型的な亜鉛二次電池は、正極と、負極と、電解液とを備え、LDHセパレータを介して正極と負極が互いに隔離されるものである。本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が亜鉛空気二次電池をなしてもよい。
【0043】
固体アルカリ形燃料電池
本発明のLDHセパレータは固体アルカリ形燃料電池に適用することも可能である。すなわち、高度に緻密化させたLDHセパレータを用いることで、燃料の空気極側への透過(例えばメタノールのクロスオーバー)に起因する起電力の低下を効果的に抑制可能な、固体アルカリ形燃料電池を提供できる。LDHセパレータの有する水酸化物イオン伝導性を発揮させながら、メタノール等の燃料のLDHセパレータの透過を効果的に抑制できるためである。したがって、本発明の別の好ましい態様によれば、LDHセパレータを備えた、固体アルカリ形燃料電池が提供される。本態様による典型的な固体アルカリ形燃料電池は、酸素が供給される空気極と、液体燃料及び/又は気体燃料が供給される燃料極と、燃料極と空気極の間に介在されるLDHセパレータとを備える。
【0044】
その他の電池
本発明のLDHセパレータはニッケル亜鉛電池や固体アルカリ形燃料電池の他、例えばニッケル水素電池にも使用することができる。この場合、LDHセパレータは当該電池の自己放電の要因であるナイトライドシャトル(nitride shuttle)(硝酸基の電極間移動)をブロックする機能を果たす。また、本発明のLDHセパレータは、リチウム電池(リチウム金属が負極の電池)、リチウムイオン電池(負極がカーボン等の電池)あるいはリチウム空気電池等にも使用可能である。
【実施例0045】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例で作製されるLDHセパレータの評価方法は以下のとおりとした。
【0046】
評価1:微構造の観察
LDHセパレータの表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。
【0047】
評価2:元素分析評価(EDS)
LDHセパレータ表面に対してEDS分析装置(装置名:X-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて組成分析を行い、所定の元素が結晶に取り込まれていることを確認した。この分析は、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行った。
【0048】
評価3:水酸化物イオン伝導層状化合物の同定
X線回折装置(リガク社製、RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:5~70°の測定条件で、水酸化物イオン伝導層状化合物の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。
【0049】
評価4:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、
図3A及び
図3Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0050】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0051】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1~30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm3/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm2)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm3/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05~0.90atmの範囲内となるように供給された。
【0052】
評価5:イオン伝導度の測定
電解液中でのLDHセパレータの伝導率を
図4に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。LDHセパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン440で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル442に組み込んだ。電極446として、#100メッシュのニッケル金網をセル442内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液444として、6MのKOH水溶液をセル442内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット -周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz~0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片をLDHセパレータ試料Sの抵抗とした。上記同様の測定をLDHセパレータ試料S無しの構成で行い、ブランク抵抗も求めた。LDHセパレータ試料Sの抵抗とブランク抵抗の差をLDHセパレータの抵抗とした。得られたLDHセパレータの抵抗と、LDHセパレータ試料Sの面積を用いてイオン伝導度を求めた。LDHセパレータの高伝導度領域及び低伝導度領域(存在する場合)を別々に切り出して、それぞれLDHセパレータ試料Sとすることで、高伝導度領域及び低伝導度領域のイオン伝導度を別々に算出した。
【0053】
評価6:デンドライト耐性の評価(サイクル試験)
LDHセパレータの亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(デンドライト耐性)を評価すべくサイクル試験を以下のとおり行った。まず、正極(水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む)と負極(亜鉛及び/又は酸化亜鉛を含む)の各々を不織布で包むとともに、電流取り出し端子を溶接した。こうして準備された正極及び負極を、LDHセパレータを介して対向させ、電流取り出し口が設けられたラミネートフィルムに挟んで、ラミネートフィルムの3辺を熱融着した。こうして得られた上部開放されたセル容器に電解液(5.4MのKOH水溶液中に0.4Mの酸化亜鉛を溶解させたもの)を加え、真空引き等により電解液を十分に正極及び負極に浸透させた。その後、ラミネートフィルムの残りの1辺も熱融着して、簡易密閉セルとした。充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、簡易密閉セルに対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを実施した。同一条件で繰り返し充放電サイクルを実施しながら、正極及び負極間の電圧を電圧計でモニタリングし、正極及び負極間における亜鉛デンドライトに起因する短絡に伴う急激な電圧低下(具体的には直前にプロットされた電圧に対して5mV以上の電圧低下)の有無を調べ、以下の基準で評価した。
・短絡なし:300サイクル後も充電中に上記急激な電圧低下が見られなかった。
・短絡あり:300サイクル未満で充電中に上記急激な電圧低下が見られた。
【0054】
例A1~A12
Mg-(Al,Ti,Y)-LDH様化合物を含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0055】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10~25μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、縦16.0cm×横14.0cmの大きさになるように切り出した。
【0056】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニア・イットリアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニア溶液(AM-15、多木化学株式会社製)とイットリアゾルとを上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニア溶液とイットリアゾルをTi/(Y+Al)(mol比)=2、及びY/Al(mol比)=8となるように混合することにより、調製した。ディップコートは、ゾル溶液1Lに基材を浸漬させてから垂直に引き上げることにより行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0057】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O、関東化学株式会社製)及び尿素((NH2)2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/L、尿素/NO3
-(mol比)=96となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を3Lとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0058】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量5L、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で30時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の両面及び孔内にLDH様化合物を形成させたLDHセパレータを得た。
【0059】
(5)LDHセパレータの孔形成
例A2~A7について、打ち抜き加工によりLDHセパレータの中央部分に孔を形成した。このとき、例A2~A6については、縦9.2cm×横7.2cmの孔を形成し、例A7については、縦14.4cm×横12.4cmの孔を形成した。一方、例A8~A12については、孔部分とセパレータ部分とが市松模様を構成するように、LDHセパレータの打ち抜き加工を行った。このとき、市松模様を構成する個々の領域のサイズは表1に示されるとおりとした。参考のため、例A8における、打ち抜き加工後の孔Hを形成したLDHセパレータ2を
図5に示す。
【0060】
(6)ロールプレス処理
例A1について、上記(4)で得られた1枚のLDHセパレータに対してロールプレスを行い、高伝導度領域のみを有するLDHセパレータを作製した。一方、例A2~A12については、上記(4)で得られた1枚のセパレータと、上記(5)で得られた孔が所定のパターンで形成されたLDHセパレータとを積層した状態でロールプレスを行った。これにより、低伝導度領域が高伝導度領域を取り囲むパターン(外周パターン)で設けられたLDHセパレータ(例A2~A7)、並びに低伝導度領域及び高伝導度領域が市松模様のパターンで交互に設けられたLDHセパレータ(例A8~A12)を作製した。このとき、孔を形成したセパレータの厚さ、並びにロールプレスの温度及び荷重を表1に示すように変更することで、各領域のイオン伝導度が異なるLDHセパレータとした。
【0061】
(7)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状形状が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti及びYが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、5°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないかもしれないが水酸化物イオン伝導性を有する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。
‐評価4:例A1~A12において、He透過度0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価5:低伝導度領域のイオン伝導度C
L、高伝導度領域のイオン伝導度C
H、及び比C
H/C
Lは表1に示されるとおりであった。
‐評価6:表1に示されるとおり、例A2~A12において、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたサイクル耐久性能が確認された。一方、例A1(比較例)では、300サイクル未満で亜鉛デンドライトに起因する短絡が生じたことから、サイクル耐久性能に劣ることが判明した。
【表1】
【0062】
例B1~B3
Mg-(Al,Ti)-LDHを含むLDHセパレータの作製及び評価を以下のようにして行った。
【0063】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ10~25μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、縦16.0cm×横14.0cmの大きさになるように切り出した。
【0064】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニアゾル溶液(AM-15、多木化学株式会社製)とを上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニアゾル溶液をTi/Al(mol比)=2となるように混合することにより、調製した。ディップコートは、ゾル溶液1Lに基材を浸漬させてから垂直に引き上げることにより行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0065】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO3)2・6H2O、関東化学株式会社製)及び尿素((NH2)2CO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.015mol/L、尿素/NO3
-(mol比)=32となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を3Lとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0066】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量5L、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度90℃で30時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の表面及び孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0067】
(5)LDHセパレータの孔形成
例B2及びB3について、打ち抜き加工によりLDHセパレータの中央部分に2.75cm角の孔を形成した。
【0068】
(6)ロールプレス処理
例B1について、上記(4)で得られた1枚のLDHセパレータに対してロールプレスを行い、高伝導度領域のみを有するLDHセパレータを作製した。一方、例B2及びB3については、上記(4)で得られた1枚のセパレータと、上記(5)で得られた孔が所定のパターンで形成されたLDHセパレータとを積層した状態でロールプレスを行った。これにより高伝導度領域を低伝導度領域が取り囲むパターン(外周パターン)のLDHセパレータを作製した。このとき、孔を形成したセパレータの厚さ、並びにロールプレスの温度及び荷重を表2に示すように変更することで、各領域のイオン伝導度が異なるLDHセパレータとした。
【0069】
(7)各種評価
得られたLDHセパレータに対して評価1~6を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状結晶が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDHの構成元素であるMg、Al及びTiが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、2θ=11.5°付近にピークが検出され、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)と同定された。この同定は、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて行った。
‐評価4:例B1~B3において、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価5:低伝導度領域のイオン伝導度CL、高伝導度領域のイオン伝導度CH、及び比CH/CLは表2に示されるとおりであった。
‐評価6:表2に示されるとおり、例B2及びB3において、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたサイクル耐久性能が確認された。一方、例B1(比較例)では、300サイクル未満で亜鉛デンドライトに起因する短絡が生じたことから、サイクル耐久性能に劣ることが判明した。
【0070】