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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140385
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/28 20060101AFI20241003BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 4/42 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/497 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20241003BHJP
   H01M 10/30 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20241003BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20241003BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20241003BHJP
【FI】
H01M10/28 Z
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/42
H01M50/434
H01M50/497
H01M50/463 Z
H01M50/449
H01M50/414
H01M50/403 B
H01M4/52
H01M10/30 Z
H01M12/08 K
H01M50/46
H01M50/489
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051505
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】藤巻 義信
(72)【発明者】
【氏名】森本 拓海
(72)【発明者】
【氏名】犬飼 直子
(72)【発明者】
【氏名】藤田 雄樹
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H032
5H050
【Fターム(参考)】
5H021BB02
5H021EE02
5H021EE22
5H028AA05
5H028BB04
5H028CC08
5H032AA02
5H032AS03
5H032CC06
5H032EE02
5H050AA07
5H050CA03
5H050CB02
5H050CB13
(57)【要約】
【課題】サイクル特性をより一層向上な亜鉛二次電池を提供する。
【解決手段】亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含み、第一面及び第二面を有する負極板と、負極板の第一面及び第二面と対向するように設けられる、正極活物質を含む1対の正極板と、1対の正極板と負極板との間に介在され、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含む、1対のLDHセパレータと、電解液とを備え、1対のLDHセパレータが、負極板の第一面側に設けられる低伝導セパレータと、負極板の第二面側に設けられる高伝導セパレータとを有し、低伝導セパレータのイオン伝導度Cに対する高伝導セパレータのイオン伝導度Cの比C/Cが1.1~13.0である、亜鉛二次電池。
【選択図】図4

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含み、第一面及び第二面を有する負極板と、
前記負極板の第一面及び第二面と対向するように設けられる、正極活物質を含む1対の正極板と、
前記1対の正極板と前記負極板との間に介在され、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含む、1対のLDHセパレータと、
電解液と、
を備え、前記1対のLDHセパレータが、前記負極板の第一面側に設けられる低伝導セパレータと、前記負極板の第二面側に設けられる高伝導セパレータとを有し、前記低伝導セパレータのイオン伝導度Cに対する前記高伝導セパレータのイオン伝導度Cの比C/Cが1.1~13.0である、亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記低伝導セパレータのイオン伝導度Cが0.8~2.5S/cmである、請求項1に記載の亜鉛二次電池。
【請求項3】
前記高伝導セパレータのイオン伝導度Cが2.5~10.0S/cmである、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項4】
前記負極板が、前記1対のLDHセパレータで覆われる又は包み込まれている、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項5】
前記LDHセパレータが多孔質基材をさらに含み、前記多孔質基材の孔に前記水酸化物イオン伝導層状化合物が充填されている、且つ/又は前記多孔質基材の少なくとも一方の表面に前記水酸化物イオン伝導層状化合物を含む表層が設けられている、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項6】
前記多孔質基材が高分子材料で構成される、請求項5に記載の亜鉛二次電池。
【請求項7】
前記低伝導セパレータ及び前記高伝導セパレータの各々は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、請求項5に記載の亜鉛二次電池。
【請求項8】
前記低伝導セパレータ及び前記高伝導セパレータの各々が、セパレータの厚さ方向にプレスされたものである、請求項5に記載の亜鉛二次電池。
【請求項9】
前記亜鉛二次電池が積層セルを備えており、前記積層セルが、
複数の前記正極板と、
複数の前記負極板と、
複数対の前記LDHセパレータと、
前記電解液と、
を備え、前記正極板と前記負極板が前記LDHセパレータを挟んで交互積層されたものであり、前記複数の負極板の各々の第一面側に前記低伝導セパレータが配置され、前記複数の負極板の各々の第二面側に前記高伝導セパレータが配置される、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項10】
前記正極板が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。
【請求項11】
前記正極板が空気極であり、それにより前記亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなす、請求項1又は2に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池等の亜鉛二次電池では、充電時に負極から金属亜鉛がデンドライト状に析出し、不織布等のセパレータの空隙を貫通して正極に到達し、その結果、短絡を引き起こすことが知られている。このような亜鉛デンドライトに起因する短絡は繰り返し充放電寿命の短縮を招く。
【0003】
上記問題に対処すべく、水酸化物イオンを選択的に透過させながら、亜鉛デンドライトの貫通を阻止する、層状複水酸化物(LDH)セパレータを備えた電池が提案されている。例えば、特許文献1(国際公開第2013/118561号)には、ニッケル亜鉛二次電池においてLDHセパレータを正極及び負極間に設けることが開示されている。また、特許文献2(国際公開第2016/076047号)には、樹脂製外枠に嵌合又は接合されたLDHセパレータを備えたセパレータ構造体が開示されており、LDHセパレータがガス不透過性及び/又は水不透過性を有する程の高い緻密性を有することが開示されている。また、この文献にはLDHセパレータが多孔質基材と複合化されうることも開示されている。さらに、特許文献3(国際公開第2016/067884号)には多孔質基材の表面にLDH緻密膜を形成して複合材料を得るための様々な方法が開示されている。この方法は、多孔質基材にLDHの結晶成長の起点を与えうる起点物質を均一に付着させ、原料水溶液中で多孔質基材に水熱処理を施してLDH緻密膜を多孔質基材の表面に形成させる工程を含むものである。水熱処理を経て作製したLDH/多孔質基材の複合材料をロールプレスすることで更なる緻密化を実現したLDHセパレータも提案されている。例えば、特許文献4(国際公開第2019/124270号)には、高分子多孔質基材と、この多孔質基材に充填されるLDHとを含み、波長1000nmにおける直線透過率が1%以上である、LDHセパレータが開示されている。
【0004】
また、LDHとは呼べないもののそれに類する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物としてLDH様化合物が知られており、LDHとともに水酸化物イオン伝導層状化合物と総称できる程に類似した水酸化物イオン伝導特性を呈する。例えば、特許文献5(国際公開第2020/255856号)には、多孔質基材と、多孔質基材の孔を塞ぐ層状複水酸化物(LDH)様化合物とを含む、LDHセパレータであって、このLDH様化合物が、Mgと、Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるものが開示されている。また、特許文献6(国際公開第2021/229916号)には、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)In、Bi、Ca、Sr及びBaからなる群から選択される少なくとも1種である添加元素Mとを含むLDH様化合物を用いたLDHセパレータが開示されている。さらに、特許文献7(国際公開第2021/229917号)には、LDH様化合物及びIn(OH)の混合物を含むLDHセパレータに関して、LDH様化合物が、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるものが開示されている。特許文献5~7に開示されるセパレータによれば、従来のLDHセパレータと比べ、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制できるとされている。
【0005】
ところで、亜鉛二次電池の短寿命化を招く別の要因として、負極活物質である亜鉛の形態変化が挙げられる。すなわち、充放電の繰り返しにより亜鉛が溶解及び析出を繰り返すにつれて、負極が形態変化して、気孔の閉塞による高抵抗化、孤立亜鉛の蓄積による充電活物質の減少等を生じ、その結果、充放電が困難になるとの問題がある。この問題に対処すべく、特許文献8(国際公開第2020/049902号)には、ZnO粒子と、(i)所定粒径の金属Zn粒子、(ii)所定の金属元素及び(iii)ヒドロキシル基を有するバインダー樹脂から選択される少なくとも2つとを組み合わせて負極に用いることが提案されている。この負極によれば、亜鉛二次電池において、充放電の繰り返しに伴う負極の劣化を抑制して耐久性を向上し、それによりサイクル寿命を長くすることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/118561号
【特許文献2】国際公開第2016/076047号
【特許文献3】国際公開第2016/067884号
【特許文献4】国際公開第2019/124270号
【特許文献5】国際公開第2020/255856号
【特許文献6】国際公開第2021/229916号
【特許文献7】国際公開第2021/229917号
【特許文献8】国際公開第2020/049902号
【発明の概要】
【0007】
特許文献1~7に開示されるようなLDHセパレータを用いてニッケル亜鉛電池等の亜鉛二次電池を構成した場合、亜鉛デンドライトによる短絡等をある程度防止できる。しかしながら、サイクル特性の更なる改善が望まれる。
【0008】
本発明者らは、今般、1対の正極板、負極板、及びそれらの間に介在される1対のLDHセパレータを含む亜鉛二次電池において、LDHセパレータとしてイオン伝導度の比が所定の範囲内に制御された低伝導セパレータ及び高伝導セパレータを用いることにより、サイクル特性をより一層向上できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、サイクル特性をより一層向上な亜鉛二次電池を提供することにある。
【0010】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む負極活物質を含み、第一面及び第二面を有する負極板と、
前記負極板の第一面及び第二面と対向するように設けられる、正極活物質を含む1対の正極板と、
前記1対の正極板と前記負極板との間に介在され、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含む、1対のLDHセパレータと、
電解液と、
を備え、前記1対のLDHセパレータが、前記負極板の第一面側に設けられる低伝導セパレータと、前記負極板の第二面側に設けられる高伝導セパレータとを有し、前記低伝導セパレータのイオン伝導度Cに対する前記高伝導セパレータのイオン伝導度Cの比C/Cが1.1~13.0である、亜鉛二次電池。
[態様2]
前記低伝導セパレータのイオン伝導度Cが0.8~2.5S/cmである、態様1に記載の亜鉛二次電池。
[態様3]
前記高伝導セパレータのイオン伝導度Cが2.5~10.0S/cmである、態様1又は2に記載の亜鉛二次電池。
[態様4]
前記負極板が、前記1対のLDHセパレータで覆われる又は包み込まれている、態様1~3のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
[態様5]
前記LDHセパレータが多孔質基材をさらに含み、前記多孔質基材の孔に前記水酸化物イオン伝導層状化合物が充填されている、且つ/又は前記多孔質基材の少なくとも一方の表面に前記水酸化物イオン伝導層状化合物を含む表層が設けられている、態様1~4のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
[態様6]
前記多孔質基材が高分子材料で構成される、態様5に記載の亜鉛二次電池。
[態様7]
前記低伝導セパレータ及び前記高伝導セパレータの各々は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下である、態様1~6のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
[態様8]
前記低伝導セパレータ及び前記高伝導セパレータの各々が、セパレータの厚さ方向にプレスされたものである、態様1~7のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
[態様9]
前記亜鉛二次電池が積層セルを備えており、前記積層セルが、
複数の前記正極板と、
複数の前記負極板と、
複数対の前記LDHセパレータと、
前記電解液と、
を備え、前記正極板と前記負極板が前記LDHセパレータを挟んで交互積層されたものであり、前記複数の負極板の各々の第一面側に前記低伝導セパレータが配置され、前記複数の負極板の各々の第二面側に前記高伝導セパレータが配置される、態様1~8のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
[態様10]
前記正極板が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより前記亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなす、態様1~9のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
[態様11]
前記正極板が空気極であり、それにより前記亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなす、態様1~9のいずれか一つに記載の亜鉛二次電池。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明による亜鉛二次電池の一例を示す模式断面図である。
図2図1に示される亜鉛二次電池のA-A’線断面を模式的に示す図である。
図3図1に示される亜鉛二次電池の積層セルを模式的に示す斜視図である。
図4図1に示される亜鉛二次電池の積層セルを模式的に示す断面図である。
図5図4に示される積層セルにおいて、充放電サイクルを繰り返した後の一例を示す断面図である。
図6】従来の亜鉛二次電池における、充放電サイクルの繰り返しによる負極板の形態変化を説明するための図である。
図7A】例A1~B3で用いたHe透過度測定系の一例を示す概念図である。
図7B図7Aに示される測定系に用いられる試料ホルダ及びその周辺構成の模式断面図である。
図8】例A1~B3で用いた電気化学測定系を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
亜鉛二次電池
本発明の亜鉛二次電池は、亜鉛を負極として用い、かつ、アルカリ電解液(典型的にはアルカリ金属水酸化物水溶液)を用いた二次電池であれば特に限定されない。したがって、ニッケル亜鉛二次電池、酸化銀亜鉛二次電池、酸化マンガン亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池、その他各種のアルカリ亜鉛二次電池であることができる。例えば、正極板が水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含み、それにより亜鉛二次電池がニッケル亜鉛二次電池をなすのが好ましい。あるいは、正極板が空気極であり、それにより亜鉛二次電池が空気亜鉛二次電池をなしてもよい。
【0013】
図1~4に本発明による亜鉛二次電池及びその内部構造の一態様を示す。これらの図に示される亜鉛二次電池10は、第一面S及び第二面Sを有する負極板12と、1対の正極板14と、1対のLDHセパレータ16と、電解液(図示せず)とを備える。負極板12は負極活物質12a及び所望により負極集電体12bを含む。負極活物質12aは、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。1対の正極板14は、負極板12の第一面S及び第二面Sと対向するように設けられる。正極板14は正極活物質14a及び所望により正極集電体14bを含む。1対のLDHセパレータ16は、1対の正極板14と負極板12との間に介在される。LDHセパレータ16は、層状複水酸化物(LDH)及び/又はLDH様化合物である水酸化物イオン伝導層状化合物を含む。本明細書において「LDHセパレータ」は、LDH及び/又はLDH様化合物を含むセパレータであって、専らLDH及び/又はLDH様化合物の水酸化物イオン伝導性を利用して水酸化物イオンを選択的に通すものとして定義される。本明細書において「LDH様化合物」は、LDHとは呼べないかもしれないが水酸化物イオン伝導性を有する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDHの均等物といえるものである。もっとも、広義の定義として、「LDH」はLDHのみならずLDH様化合物を包含するものとして解釈することも可能である。1対のLDHセパレータ16は、低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bを有する。低伝導セパレータ16aは、負極板12の第一面S側に設けられる。高伝導セパレータ16bは、負極板12の第二面S側に設けられる。そして、低伝導セパレータ16aのイオン伝導度Cに対する高伝導セパレータ16bのイオン伝導度Cの比C/Cが1.1~13.0である。このように、1対の正極板14、負極板12、及びそれらの間に介在される1対のLDHセパレータ16を含む亜鉛二次電池10において、LDHセパレータ16としてイオン伝導度の比C/Cが所定の範囲内に制御された低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bを用いることにより、サイクル特性をより一層向上することが可能となる。
【0014】
亜鉛二次電池のサイクル特性が向上するメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のようなものと考えられる。すなわち、上述のとおり、従来の亜鉛二次電池においては、充放電の繰り返しにより亜鉛が溶解及び析出を繰り返すにつれて、負極が形態変化し、最終的に充放電が困難になるとの問題がある。ここで、従来の亜鉛二次電池における、充放電サイクルの繰り返しによる負極板の形態変化の一例を図6に示す。図6(i)に示される亜鉛二次電池110は、第一面S及び第二面Sを有する負極板112と、負極板112の第一面S及び第二面Sと対向するように設けられる1対の正極板114と、1対の正極板114と負極板112との間に介在される1対のLDHセパレータ116と、電解液(図示せず)とを備えた積層セル111を有する。負極板112は負極活物質112a及び負極集電体112bを含み、正極板114は正極活物質114a及び正極集電体114bを含む。そして、負極板112の第一面S側に設けられるLDHセパレータ116と、第二面S側に設けられるLDHセパレータ116とは同程度のイオン伝導度を有するものである。このような亜鉛二次電池110に対して充放電サイクルを繰り返した場合、図6(ii)に示されるように、負極板112に大きな変形が生じる。すなわち、負極板112の面内において充放電反応が起こりやすい箇所は負極活物質112aが消失する一方、負極板112の面内において充放電反応が起こりにくい箇所は負極活物質112aが残存する。その結果、負極板112の面内において凹凸が発生する。この点、負極板112の第一面S側及び第二面S側に同程度のイオン伝導度を有するLDHセパレータ116が設けられているため、負極板112の両面で充放電反応が同程度に進行し、凹凸の発生頻度が増加することになる。その結果、負極板112の変形が大きくなり、負極板112上に設けられるLDHセパレータ116も変形して欠陥(例えば空隙、クラック及び剥離)が生じやすくなる。そして、この欠陥を起点として、デンドライトによるセパレータの貫通を招き、サイクル特性に悪影響を及ぼすと考えられる。
【0015】
これに対して、本発明の亜鉛二次電池10は、負極板12の第一面S側にイオン伝導度が相対的に低い低伝導セパレータ16aを用いているため、負極板12の第一面S側において充放電反応が抑制され、主に負極板12の第二面S側において充放電反応が進行する。その結果、充放電サイクルの繰り返しにより負極板12の形態変化が発生した場合でも、図5に示されるように、負極板12の第二面S側の負極活物質12aが優先的に消失し、負極板12の第一面S側の負極活物質12aは残存することになる。つまり、負極板12全体として見た場合に、負極活物質12aが平滑に残存することになり、負極板12の変形が抑制される。したがって、負極板12上のLDHセパレータ16の変形も効果的に抑制され、デンドライト短絡が生じにくくなる結果、サイクル特性を向上できると考えられる。
【0016】
したがって、亜鉛二次電池10における、低伝導セパレータ16aのイオン伝導度Cに対する高伝導セパレータ16bのイオン伝導度Cの比C/Cは1.1~13.0であり、好ましくは2.0~10.0である。これらの範囲内であると、充放電反応のスムーズな進行を促進させながらも、負極板12を平滑に残存させてLDHセパレータ16の変形を効果的に抑制することができ、サイクル特性を向上できる。
【0017】
低伝導セパレータ16aのイオン伝導度Cは0.8~2.5S/cmであるのが好ましく、より好ましくは1.0~2.5S/cmである。これらの範囲内であると、充放電反応のスムーズな進行と負極板12の変形抑制とをバランス良く実現することができ、サイクル特性をより一層向上できる。
【0018】
高伝導セパレータ16bのイオン伝導度Cは2.5~10.0S/cmであるのが好ましく、より好ましくは5.0~10.0S/cmである。これらの範囲内であると、負極反応がよりスムーズに進行する結果、負極板12の劣化を効果的に抑制して、サイクル特性をより一層向上できる。
【0019】
LDHセパレータ16の製造方法は特に限定されず、既に知られるLDHセパレータ(あるいはLDH含有機能層及び複合材料)の製造方法(例えば特許文献1~7を参照)の諸条件をそのまま採用するか、あるいは適宜変更することにより作製することができる。また、低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bのイオン伝導度は、セパレータの厚さ及び/又は密度を変更することや、高抵抗の層(例えばポリマー層)を塗布すること等により制御することができる。例えば、1枚のLDHセパレータに対してプレスを行うことにより高伝導セパレータ16bを作製する一方、2枚のLDHセパレータを積層した状態でプレスを行い、これら2枚のLDHセパレータを一体化させて低伝導セパレータ16aを作製してもよい。こうすることで、高伝導セパレータ16bに対して相対的にイオン伝導度の低い低伝導セパレータ16aを作製することができる。プレス手法は、例えばロールプレス、一軸加圧プレス、CIP(冷間等方圧加圧)等であってよいが、好ましくはロールプレスである。このようにLDHセパレータに対してプレス処理を行って更に緻密化することにより、イオン伝導度を好ましい範囲内に制御しつつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。したがって、低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bの各々(以下、単に「LDHセパレータ16」と称することがある)は、セパレータの厚さ方向にプレスされたものであるのが好ましい。また、図5を参照しつつ上述したとおり、負極板12の第一面S側は負極活物質12aが残存しやすく、それ故、第一面S側に設けられる低伝導セパレータ16aに向かって亜鉛デンドライトが伸展しやすいといえる。この点、LDHセパレータを2枚以上積層して低伝導セパレータ16aを形成することで、突刺強度を高くすることができ、結果として亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制することができる。
【0020】
したがって、低伝導セパレータ16aの厚さTは、高伝導セパレータ16bの厚さTよりも大きいのが好ましい。具体的には、高伝導セパレータ16bの厚さTに対する低伝導セパレータ16aの厚さTの比T/Tは1.1~20であるのが好ましく、より好ましくは1.5~12である。低伝導セパレータ16aの厚さは20~100μmであるのが好ましく、より好ましくは20~60μmである。こうすることで、亜鉛デンドライトによる短絡をより効果的に抑制して、サイクル特性をより一層向上することができる。一方、高伝導セパレータ16bの厚さは5~50μmであるのが好ましく、より好ましくは5~25μmである。
【0021】
LDHセパレータ16は、正極板14及び負極板12を水酸化物イオン伝導可能に隔離するように設けられる。例えば、負極板12が、1対のLDHセパレータ16で覆われる又は包み込まれる構成としてもよい。こうすることで、LDHセパレータ16と電池容器との煩雑な封止接合を不要にして、亜鉛デンドライト伸展を防止可能な亜鉛二次電池(特にその積層電池)を極めて簡便にかつ高い生産性で作製することが可能となる。例えば、低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bをそれぞれ負極板12の第一面S及び第二面Sからはみ出すように配置し、負極板12からはみ出した低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bの余剰部分を熱融着等の手法により封止してもよい。もっとも、負極板12の両側に1対のLDHセパレータ16が配置されるシンプルな構成であってもよい。
【0022】
LDHセパレータ16の緻密性は、He透過度により評価することができる。すなわち、低伝導セパレータ16a及び高伝導セパレータ16bの各々は、単位面積あたりのHe透過度が10cm/min・atm以下であるのが好ましく、より好ましくは5.0cm/min・atm以下、さらに好ましくは1.0cm/min・atm以下である。このような範囲内のHe透過度を有するLDHセパレータ16は緻密性が極めて高いといえる。したがって、He透過度が10cm/min・atm以下であるセパレータは、水酸化物イオン以外の物質の通過を高いレベルで阻止することができる。例えば、亜鉛二次電池の場合、電解液中においてZnの透過(典型的には亜鉛イオン又は亜鉛酸イオンの透過)を極めて効果的に抑制することができる。He透過度は、セパレータの一方の面にHeガスを供給してセパレータにHeガスを透過させる工程と、He透過度を算出してLDHセパレータの緻密性を評価する工程とを経て測定される。He透過度は、単位時間あたりのHeガスの透過量F、Heガス透過時にセパレータに加わる差圧P、及びHeガスが透過する膜面積Sを用いて、F/(P×S)の式により算出する。このようにHeガスを用いてガス透過性の評価を行うことにより、極めて高いレベルでの緻密性の有無を評価することができ、その結果、水酸化物イオン以外の物質(特に亜鉛デンドライト成長を引き起こすZn)を極力透過させない(極微量しか透過させない)といった高度な緻密性を効果的に評価することができる。これは、Heガスが、ガスを構成しうる多種多様な原子ないし分子の中でも最も小さい構成単位を有しており、しかも反応性が極めて低いためである。すなわち、Heは、分子を形成することなく、He原子単体でHeガスを構成する。この点、水素ガスはH分子により構成されるため、ガス構成単位としてはHe原子単体の方がより小さい。そもそもHガスは可燃性ガスのため危険である。そして、上述した式により定義されるHeガス透過度という指標を採用することで、様々な試料サイズや測定条件の相違を問わず、緻密性に関する客観的な評価を簡便に行うことができる。こうして、セパレータが亜鉛二次電池用セパレータに適した十分に高い緻密性を有するのか否かを簡便、安全かつ効果的に評価することができる。He透過度の測定は、後述する実施例の評価4に示される手順に従って好ましく行うことができる。
【0023】
LDHセパレータ16はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するのが好ましい。換言すれば、LDHセパレータ16はガス不透過性及び/又は水不透過性を有するほどに緻密化されているのが好ましい。なお、本明細書において「ガス不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、水中で測定対象物の一面側にヘリウムガスを0.5atmの差圧で接触させても他面側からヘリウムガスに起因する泡の発生がみられないことを意味する。また、本明細書において「水不透過性を有する」とは、特許文献2及び3に記載されるように、測定対象物の一面側に接触した水が他面側に透過しないことを意味する。すなわち、LDHセパレータ16がガス不透過性及び/又は水不透過性を有するということは、LDHセパレータ16が気体又は水を通さない程の高度な緻密性を有することを意味し、透水性又はガス透過性を有する多孔性フィルムやその他の多孔質材料ではないことを意味する。こうすることで、LDHセパレータ16は、その水酸化物イオン伝導性に起因して水酸化物イオンのみを選択的に通すものとなり、電池用セパレータとしての機能を呈することができる。このため、充電時に生成する亜鉛デンドライトによるセパレータの貫通を物理的に阻止して正負極間の短絡を防止するのに極めて効果的な構成となっている。LDHセパレータ16は水酸化物イオン伝導性を有するため、正極板と負極板との間で必要な水酸化物イオンの効率的な移動を可能として正極板及び負極板における充放電反応を実現することができる。
【0024】
LDHセパレータ16は、多孔質基材をさらに含むのが好ましい。この場合、多孔質基材の孔に水酸化物イオン伝導層状化合物が充填されている、且つ/又は多孔質基材の少なくとも一方の表面に水酸化物イオン伝導層状化合物を含む表層が設けられているのが好ましい。表層によってデンドライトの伸展を極めて効果的に阻止することができるため、このような表層を備えたLDHセパレータ16は、デンドライト短絡耐性に特に優れたものとなる。表層は、多孔質基材の一方の表面のみに設けられるものであってもよく、多孔質基材の両面に設けられるものであってもよい。また、水酸化物イオン伝導層状化合物は、多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれているのが特に好ましい。もっとも、多孔質基材の孔は完全に塞がれている必要はなく、残留気孔が僅かに存在していてもよい。
【0025】
多孔質基材は高分子材料で構成されるのが好ましい。高分子多孔質基材には、1)可撓性を有する(それ故薄くしても割れにくい)、2)気孔率を高くしやすい、3)伝導率を高くしやすい(気孔率を高めながら厚さを薄くできるため)、4)製造及びハンドリングしやすいといった利点がある。また、上記1)の可撓性に由来する利点を活かして、5)高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータを簡単に折り曲げる又は封止接合することができるとの利点もある。高分子材料の好ましい例としては、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、セルロース、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せが挙げられる。より好ましくは、加熱プレスに適した熱可塑性樹脂という観点から、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリプロピレン、エポキシ樹脂、ポリフェニレンサルファイド、フッ素樹脂(四フッ素化樹脂:PTFE等)、ナイロン、ポリエチレン及びそれらの任意の組合せ等が挙げられる。上述した各種の好ましい材料はいずれも電池の電解液に対する耐性として耐アルカリ性を有するものである。特に好ましい高分子材料は、耐熱水性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れ、しかも低コストである点から、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンであり、最も好ましくはポリプロピレン又はポリエチレンである。水酸化物イオン伝導層状化合物は多孔質基材の厚さ方向の全域にわたって組み込まれている(例えば高分子多孔質基材内部の大半又はほぼ全部の孔が水酸化物イオン伝導層状化合物で埋まっている)のが特に好ましい。このような高分子多孔質基材として、市販の高分子微多孔膜を好ましく用いることができる。
【0026】
LDHセパレータ16に含まれる水酸化物イオン伝導層状化合物は、上述したとおりLDH及び/又はLDH様化合物である。以下、LDH及びLDH様化合物の好ましい態様について説明する。
【0027】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。水酸化物基本層は主として金属元素(典型的には金属イオン)とOH基で構成される。LDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO 2-を含む。また、LDHはその固有の性質に起因して優れたイオン伝導性を有する。一般的に、LDHは、M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオンであり、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数であり、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)の基本組成式で代表されるものとして知られている。上記基本組成式において、M2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg2+、Ca2+及びZn2+が挙げられ、より好ましくはMg2+である。M3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl3+又はCr3+が挙げられ、より好ましくはAl3+である。An-は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH及びCO 2-が挙げられる。したがって、上記基本組成式において、M2+がMg2+を含み、M3+がAl3+を含み、An-がOH及び/又はCO 2-を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1~0.4であるが、好ましくは0.2~0.35である。mは水のモル数を意味する任意の数であり、0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である。もっとも、上記基本組成式は、一般にLDHに関して代表的に例示される「基本組成」の式にすぎず、構成イオンを適宜置き換え可能なものである。例えば、上記基本組成式においてM3+の一部または全部を4価またはそれ以上の価数の陽イオン(例えばTi4+)で置き換えてもよく、その場合は、上記一般式における陰イオンAn-の係数x/nは適宜変更されてよい。
【0028】
例えば、LDHの水酸化物基本層は、Mg、Al及びOH基を含むのが好ましく、Tiをさらに含む(すなわちMg、Al、Ti及びOH基を含む)のが優れた耐アルカリ性を呈する点で特に好ましい。この場合、水酸化物基本層は、Mg、Al及びOH基(所望によりさらにTi)を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。例えば、LDHないし水酸化物基本層には、Y及び/又はZnが含まれていてもよい。また、LDHないし水酸化物基本層にY及び/又はZnが含まれている場合、LDHないし水酸化物基本層にはAl又はTiが含まれていなくてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてMg、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Mg、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/Alの原子比が0.5~12であるのが好ましく、より好ましくは1.0~12である。上記範囲内であると、イオン伝導性を損なうことなく、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。同様の理由から、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.1~0.7であるのが好ましく、より好ましくは0.2~0.7である。また、LDHにおけるAl/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.05~0.4であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.25である。さらに、LDHにおけるMg/(Mg+Ti+Al)の原子比は0.2~0.7であるのが好ましく、より好ましくは0.2~0.6である。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0029】
あるいは、LDHの水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含むものであってもよい。この場合、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を含んでいさえすれば、他の元素ないしイオンを含んでいてもよい。もっとも、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましい。すなわち、水酸化物基本層は、主としてNi、Al、Ti及びOH基からなるのが好ましい。したがって、水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti、OH基及び場合により不可避不純物で構成されるのが典型的である。エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDHにおけるTi/(Ni+Ti+Al)の原子比が、0.10~0.90であるのが好ましく、より好ましくは0.20~0.80、さらに好ましくは0.25~0.70、特に好ましくは0.30~0.61である。上記範囲内であると、耐アルカリ性とイオン伝導性の両方を向上することができる。したがって、水酸化物イオン伝導層状化合物は、LDHのみならずチタニアを副生させるほど多くのTiを含んでいてもよい。すなわち、水酸化物イオン伝導層状化合物はチタニアをさらに含むものであってもよい。チタニアの含有により、親水性が上がり、電解液との濡れ性が向上する(すなわち伝導率が向上する)ことが期待できる。
【0030】
LDH様化合物は、(i)Mgと、(ii)Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含むのが好ましい。このように、従来のLDHの代わりに、水酸化物イオン伝導物質として、少なくともMg及びTiを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であるLDH様化合物を用いることにより、耐アルカリ性に優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡をより一層効果的に抑制できる。したがって、好ましいLDH様化合物は、(i)Mgと、(ii)Ti、Y及びAlからなる群から選択される少なくともTiを含む1以上の元素とを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、所望によりY、及び所望によりAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物であり、特に好ましくはMg、Ti、Y及びAlの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0031】
LDH様化合物はX線回折により同定することができる。具体的には、LDHセパレータ16の表面に対してX線回折を行った場合、典型的には5°≦2θ≦10°の範囲に、より典型的には7°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出される。前述のとおり、LDHは積み重なった水酸化物基本層の間に、中間層として交換可能な陰イオン及びHOが存在する交互積層構造を有する物質である。この点、LDHをX線回折法により測定した場合、本来的には2θ=11~12°の位置にLDHの結晶構造に起因したピーク(すなわちLDHの(003)ピーク)が検出される。これに対して、LDH様化合物をX線回折法により測定した場合、典型的にはLDHの上記ピーク位置よりも低角側にシフトした上述の範囲でピークが検出される。また、X線回折におけるLDH様化合物に由来するピークに対応する2θを用いてBraggの式により、層状結晶構造の層間距離を決定することができる。こうして決定されるLDH様化合物を構成する層状結晶構造の層間距離は0.883~1.8nmであるのが典型的であり、より典型的には0.883~1.3nmである。
【0032】
エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるMg/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比が0.03~0.25であるのが好ましく、より好ましくは0.05~0.2である。また、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0.40~0.97であるのが好ましく、より好ましくは0.47~0.94である。さらに、LDH様化合物におけるY/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.45であるのが好ましく、より好ましくは0~0.37である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Ti+Y+Al)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.03である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、LDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0033】
本発明の別の好ましい態様によれば、LDH様化合物は、(i)Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はMgと、(ii)添加元素Mとを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物でありうる。したがって、典型的なLDH様化合物は、Ti、Y、添加元素M、所望によりAl及び所望によりMgの複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。添加元素Mは、In、Bi、Ca、Sr、Ba又はそれらの組合せである。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。
【0034】
上記態様によるLDHセパレータは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により決定される、LDH様化合物におけるTi/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比が0.50~0.85であるのが好ましく、より好ましくは0.56~0.81である。LDH様化合物におけるY/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.20であるのが好ましく、より好ましくは0.07~0.15である。LDH様化合物におけるM/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0.03~0.35であるのが好ましく、より好ましくは0.03~0.32である。LDH様化合物におけるMg/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.10であるのが好ましく、より好ましくは0~0.02である。そして、LDH様化合物におけるAl/(Mg+Al+Ti+Y+M)の原子比は0~0.05であるのが好ましく、より好ましくは0~0.04である。上記範囲内であると、耐アルカリ性により一層優れ、かつ、亜鉛デンドライトに起因する短絡の抑制効果(すなわちデンドライト耐性)をより効果的に実現することができる。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における上記原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。なお、EDS分析は、EDS分析装置(例えばX-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行い、4)合計6点の平均値を算出することにより行うのが好ましい。
【0035】
本発明の更に別の好ましい態様によれば、LDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物であり、LDH様化合物がIn(OH)との混合物の形態で存在するものでありうる。この態様のLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、及び所望によりAl及び/又はInを含む、層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物である。したがって、典型的なLDH様化合物は、Mg、Ti、Y、所望によりAl、及び所望によりInの、複合水酸化物及び/又は複合酸化物である。なお、LDH様化合物に含まれうるInは、LDH様化合物中に意図的に添加されたもののみならず、In(OH)の形成等に由来してLDH様化合物中に不可避的に混入したものであってもよい。LDH様化合物の基本的特性を損なわない程度に上記元素は他の元素又はイオンで置き換えられてもよいが、LDH様化合物はNiを含まないのが好ましい。ところで、LDHセパレータに関して従来から知られるLDHは一般式:M2+ 1-x3+ (OH)n- x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An-はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1~0.4であり、mは0以上である)なる基本組成で表しうる。これに対して、LDH様化合物における原子比は、LDHの上記一般式から概して逸脱している。このため、本態様におけるLDH様化合物は、概して、従来のLDHとは異なる組成比(原子比)を有するといえる。
【0036】
上記態様による混合物はLDH様化合物のみならずIn(OH)をも含む(典型的にはLDH様化合物及びIn(OH)で構成される)。In(OH)の含有により、LDHセパレータにおける耐アルカリ性及びデンドライト耐性を効果的に向上することができる。混合物におけるIn(OH)の含有割合は、LDHセパレータの水酸化物イオン伝導性を殆ど損なわずに耐アルカリ性及びデンドライト耐性を向上できる量であるのが好ましく、特に限定されない。In(OH)はキューブ状の結晶構造を有するものであってもよく、In(OH)の結晶がLDH様化合物で取り囲まれている構成であってもよい。In(OH)はX線回折により同定することができる。
【0037】
亜鉛二次電池10は、積層セル11を例えば電池容器20中に備えたものであるのが好ましい。積層セル11は、図3に示されるように、複数の負極板12、複数の正極板14、複数対のLDHセパレータ16、及び電解液(図示せず)を備え、負極板12と正極板14がLDHセパレータ16を挟んで交互積層されたものである。そして、複数の負極板12の各々の第一面S側に低伝導セパレータ16aが配置され、複数の負極板12の各々の第二面S側に高伝導セパレータ16bが配置される。すなわち、亜鉛二次電池10は、負極板12、負極集電部材13、正極板14、正極集電部材15、LDHセパレータ16、及び電解液を含む単位セルを複数個有し、それにより複数個の単位セルが全体として積層セル11をなしているのが好ましい。これはいわゆる組電池ないし積層電池の構成であり、高電圧や大電流が得られる点で有利である。
【0038】
負極板12は負極活物質12aを含む。負極活物質12aは、亜鉛、酸化亜鉛、亜鉛合金及び亜鉛化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。亜鉛は、負極に適した電気化学的活性を有するものであれば、亜鉛金属、亜鉛化合物及び亜鉛合金のいずれの形態で含まれていてもよい。負極材料の好ましい例としては、酸化亜鉛、亜鉛金属、亜鉛酸カルシウム等が挙げられるが、亜鉛金属及び酸化亜鉛の混合物がより好ましい。負極活物質はゲル状に構成してもよいし、電解液と混合して負極合材としてもよい。例えば、負極活物質に電解液及び増粘剤を添加することにより容易にゲル化した負極を得ることができる。増粘剤の例としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸塩、CMC、アルギン酸等が挙げられるが、ポリアクリル酸が強アルカリに対する耐薬品性に優れているため好ましい。
【0039】
亜鉛合金として、無汞化亜鉛合金として知られている水銀及び鉛を含まない亜鉛合金を用いることができる。例えば、インジウムを0.01~0.1質量%、ビスマスを0.005~0.02質量%、アルミニウムを0.0035~0.015質量%を含む亜鉛合金が水素ガス発生の抑制効果があるので好ましい。とりわけ、インジウムやビスマスは放電性能を向上させる点で有利である。亜鉛合金の負極への使用は、アルカリ性電解液中での自己溶解速度を遅くすることで、水素ガス発生を抑制して安全性を向上できる。
【0040】
負極材料の形状は特に限定されないが、粉末状とすることが好ましく、それにより表面積が増大して大電流放電に対応可能となる。好ましい負極材料の平均粒径は、亜鉛合金の場合、短径で3~100μmの範囲であり、この範囲内であると表面積が大きいことから大電流放電への対応に適するとともに、電解液及びゲル化剤と均一に混合しやすく、電池組み立て時の取り扱い性も良い。
【0041】
負極板12は、負極集電体12bをさらに含むのが典型的である。負極集電体12bは、負極集電部材13として延出する部分を除いて、負極活物質12aの内部及び/又は表面に設けられる。好ましくは、負極集電体12bの両面に負極活物質12aが配置される構成である。そして、負極集電体12bから(例えば上方向に)延出する又はそれに接続する金属製の負極集電部材13がさらに設けられるのが好ましい。負極集電部材13は、正極集電部材15と重ならない位置に設けられるのが好ましい。負極集電部材13は負極集電体12bと同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。いずれにしても、そのようなタブにタブリード等の別の集電部材を継ぎ足して負極集電部材13を延長してもよい。複数枚の負極集電部材13が1つの負極端子26又はそれと電気的に接続された更なる負極集電部材13に接合されるのが好ましい。負極端子26は、負極集電部材13に接続し、電池容器20から突出するのが典型的である。
【0042】
負極集電体12bは複数(又は多数)の開口部を有する金属板を用いるのが、活物質密着性の観点から好ましい。そのような負極集電体12bの好ましい例としては、エキスパンドメタル、パンチングメタル、及びメタルメッシュ、及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくは、銅エキスパンドメタル、銅パンチングメタル、及びそれらの組合せ、特に好ましくは銅エキスパンドメタルが挙げられる。この場合、例えば、銅エキスパンドメタル上に、酸化亜鉛粉末及び/又は亜鉛粉末、並びに所望によりバインダー(例えばポリテトラフルオロエチレン粒子)を含んでなる混合物を塗布して負極/負極集電体からなる負極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の負極板(すなわち負極/負極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。なお、エキスパンドメタルとは、金属板をエキスパンド製造機によって千鳥状に切れ目を入れながら押し広げ、その切れ目を菱形や亀甲形に成形したメッシュ状の金属板である。パンチングメタルは、打抜金網(perforated metal)とも呼ばれ、金属板に打ち抜き加工により孔を開けたものである。メタルメッシュとは、金網構造の金属製品であり、エキスパンドメタルやパンチングメタルとは異なるものである。
【0043】
正極板14は、正極活物質14aを含む。正極活物質14aは、亜鉛二次電池の種類に応じて公知の正極材料を適宜選択すればよく、特に限定されない。例えば、ニッケル亜鉛二次電池の場合には、水酸化ニッケル及び/又はオキシ水酸化ニッケルを含む正極板を用いればよい。あるいは、空気亜鉛二次電池の場合には、空気極を正極板として用いればよい。正極板14は正極集電体14bをさらに含んでいるのが典型的であり、正極集電体から(例えば上方向に)延出する又はそれに接続する金属製の正極集電部材15がさらに設けられるのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板が挙げられる。この場合、例えば、ニッケル製多孔質基板上に水酸化ニッケル等の電極活物質を含むペーストを均一に塗布して乾燥させることにより正極/正極集電体からなる正極板を好ましく作製することができる。その際、乾燥後の正極板(すなわち正極/正極集電体)にプレス処理を施して、電極活物質の脱落防止や電極密度の向上を図ることも好ましい。正極集電部材15は正極集電体と同じ材料で構成されていてもよいし、異なる材料で構成されていてもよい。正極集電体が発泡ニッケル板等のニッケル製多孔質基板の場合、これをプレスすることでタブ状に加工することができる。いずれにしても、そのようなタブにタブリード等の別の集電部材を継ぎ足して正極集電部材15を延長してもよい。いずれにしても、複数枚の正極集電部材15が1つの正極端子28又はそれと電気的に接続された更なる正極集電部材15に接合されるのが好ましい。正極端子28は、正極集電部材15に接続し、電池容器20から突出するのが典型的である。
【0044】
正極板14は、銀化合物、マンガン化合物、及びチタン化合物からなる群から選択される少なくとも1種である添加剤を含んでいてもよく、これにより自己放電反応により発生する水素ガスを吸収する正極反応を促進することができる。また、正極板14は、コバルトをさらに含んでいてもよい。コバルトは、オキシ水酸化コバルトの形態で正極板14に含まれるのが好ましい。正極板14において、コバルトは導電助剤として機能することで、充放電容量の向上に寄与する。
【0045】
図1及び2に示されるように、負極板12、負極集電部材13、正極板14、正極集電部材15、及びLDHセパレータ16の各々が縦向きに配置され、正極端子28及び負極端子26が電池容器20の上蓋20aに設けられているのが好ましい。したがって、多層セルの場合、セルが横方向に多層化されているのが好ましい。また、正極集電部材15及び負極集電部材13が上向きに延在しているのが好ましい。
【0046】
亜鉛二次電池10は、正極板14及び/又は負極板12に接触する保液部材(図示せず)を更に備えていてもよい。例えば、正極板14及び負極板12の間に、LDHセパレータ16のみならず、保液部材が介在されているのが好ましい。そして、正極板14及び/又は負極板12が保液部材で覆われる又は包み込まれているのが好ましい。もっとも、正極板14又は負極板12の一面側に保液部材が配置されるシンプルな構成であってもよい。いずれにしても、保液部材を介在させることで、正極板14及び/負極板12とLDHセパレータ16の間に電解液を万遍なく存在させることができ、正極板14及び/負極板12とLDHセパレータ16との間における水酸化物イオンの授受を効率良く行うことができる。保液部材は電解液を保持可能な部材であれば特に限定されないが、シート状の部材であるのが好ましい。保液部材の好ましい例としては不織布、吸水性樹脂、保液性樹脂、多孔シート、各種スペーサが挙げられるが、特に好ましくは、低コストで性能の良い負極構造体を作製できる点で不織布である。保液部材ないし不織布は10~200μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは20~200μmであり、さらに好ましくは20~150μmであり、特に好ましくは20~100μmであり、最も好ましくは20~60μmである。上記範囲内の厚さであると、正極構造体及び/又は負極構造体の全体サイズを無駄無くコンパクトに抑えながら、保液部材内に十分な量の電解液を保持させることができる。
【0047】
正極板14及び/又は負極板12が、保液部材及び/又はLDHセパレータ16で覆われる又は包み込まれる場合、それらの外縁が(正極集電部材15や負極集電部材13が延出される辺を除いて)閉じられているのが好ましい。この場合、保液部材及び/又はLDHセパレータ16の外縁の閉じられた辺が、保液部材及び/又はLDHセパレータ16の折り曲げや、保液部材同士及び/又はLDHセパレータ16同士の封止により実現されているのが好ましい。封止手法の好ましい例としては、接着剤、熱溶着、超音波溶着、接着テープ、封止テープ、及びそれらの組合せが挙げられる。特に、高分子材料製の多孔質基材を含むLDHセパレータはフレキシブル性を有するが故に折り曲げやすいとの利点を有するため、LDHセパレータを長尺状に形成してそれを折り曲げることで、外縁の1辺が閉じた状態を形成するのが好ましい。熱溶着及び超音波溶着は市販のヒートシーラー等を用いて行えばよいが、LDHセパレータ同士の封止の場合、外周部分を構成するLDHセパレータの間に保液部材の外周部分を挟み込むようにして熱溶着及び超音波溶着を行うのが、より効果的な封止を行える点で好ましい。一方、接着剤、接着テープ及び封止テープは市販品を用いればよいが、アルカリ電解液中での劣化を防ぐため、耐アルカリ性を有する樹脂を含むものが好ましい。かかる観点から、好ましい接着剤の例としては、エポキシ樹脂系接着剤、天然樹脂系接着剤、変性オレフィン樹脂系接着剤、及び変成シリコーン樹脂系接着剤が挙げられ、中でもエポキシ樹脂系接着剤が耐アルカリ性に特に優れる点でより好ましい。エポキシ樹脂系接着剤の製品例としては、エポキシ接着剤Hysol(登録商標)(Henkel製)が挙げられる。
【0048】
LDHセパレータ16の上端となる1辺の外縁は開放されているのが好ましい。この上部開放型の構成はニッケル亜鉛電池等における過充電時の問題への対処を可能とするものである。すなわち、ニッケル亜鉛電池等において過充電されると正極板14で酸素(O)が発生しうるが、LDHセパレータは水酸化物イオンしか実質的に通さないといった高度な緻密性を有するが故に、Oを通さない。この点、上部開放型の構成によれば、電池容器20内において、Oを正極板14の上方に逃がして上部開放部を介して負極板12側へと送り込むことができ、それによってOで負極活物質のZnを酸化してZnOへと戻すことができる。このような酸素反応サイクルを経ることで、上部開放型の積層セル11を密閉型亜鉛二次電池に用いることで過充電耐性を向上させることができる。なお、LDHセパレータ16や保液部材の上端となる1辺の外縁が閉じられている場合であっても、閉じられた外縁の一部に通気孔を設けることで上記開放型の構成と同様の効果が期待できる。例えば、LDHセパレータの上端となる1辺の外縁を封止した後に通気孔を開けてもよいし、封止の際、通気孔が形成されるように上記外縁の一部を非封止としてもよい。
【0049】
電解液はアルカリ金属水酸化物水溶液を含むのが好ましい。図1~4において電解液は図示されていないが、これは正極板14及び負極板12の全体に行き渡っているためである。アルカリ金属水酸化物の例としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、水酸化カリウムがより好ましい。亜鉛及び/又は酸化亜鉛の自己溶解を抑制するために、電解液中に酸化亜鉛、水酸化亜鉛等の亜鉛化合物を添加してもよい。前述のとおり、電解液は正極活物質及び/又は負極活物質と混合させて正極合材及び/又は負極合材の形態で存在させてもよい。また、電解液の漏洩を防止するために電解液をゲル化してもよい。ゲル化剤としては電解液の溶媒を吸収して膨潤するようなポリマーを用いるのが望ましく、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドなどのポリマーやデンプンが用いられる。
【0050】
電池容器20は樹脂製であるのが好ましい。電池容器20を構成する樹脂は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物に対する耐性を有する樹脂であるのが好ましく、より好ましくはポリオレフィン樹脂、ABS樹脂、又は変性ポリフェニレンエーテルであり、さらに好ましくはABS樹脂又は変性ポリフェニレンエーテルである。電池容器20は上蓋20aを有する。電池容器20(例えば上蓋20a)はガスを放出するための放圧弁を有していてもよい。また、2以上の電池容器20が配列された容器群を外枠内に収容して、電池モジュールの構成としてもよい。
【実施例0051】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。なお、以下の例で作製されるLDHセパレータ及び亜鉛二次電池の評価方法は以下のとおりとした。
【0052】
評価1:微構造の観察
LDHセパレータの表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-6610LV、JEOL社製)を用いて10~20kVの加速電圧で観察した。
【0053】
評価2:元素分析評価(EDS)
LDHセパレータ表面に対してEDS分析装置(装置名:X-act、オックスフォード・インストゥルメンツ社製)を用いて組成分析を行い、所定の元素が結晶に取り込まれていることを確認した。この分析は、1)加速電圧20kV、倍率5,000倍で像を取り込み、2)点分析モードで5μm程度間隔を空け、3点分析を行い、3)上記1)及び2)をさらに1回繰り返し行った。
【0054】
評価3:水酸化物イオン伝導層状化合物の同定
X線回折装置(リガク社製、RINT TTR III)にて、電圧:50kV、電流値:300mA、測定範囲:5~70°の測定条件で、水酸化物イオン伝導層状化合物の結晶相を測定してXRDプロファイルを得た。
【0055】
評価4:He透過測定
He透過性の観点からLDHセパレータの緻密性を評価すべくHe透過試験を以下のとおり行った。まず、図7A及び図7Bに示されるHe透過度測定系310を構築した。He透過度測定系310は、Heガスを充填したガスボンベからのHeガスが圧力計312及び流量計314(デジタルフローメーター)を介して試料ホルダ316に供給され、この試料ホルダ316に保持されたLDHセパレータ318の一方の面から他方の面に透過させて排出させるように構成した。
【0056】
試料ホルダ316は、ガス供給口316a、密閉空間316b及びガス排出口316cを備えた構造を有するものであり、次のようにして組み立てた。まず、LDHセパレータ318の外周に沿って接着剤322を塗布して、中央に開口部を有する治具324(ABS樹脂製)に取り付けた。この治具324の上端及び下端に密封部材326a,326bとしてブチルゴム製のパッキンを配設し、さらに密封部材326a,326bの外側から、フランジからなる開口部を備えた支持部材328a,328b(PTFE製)で挟持した。こうして、LDHセパレータ318、治具324、密封部材326a及び支持部材328aにより密閉空間316bを区画した。支持部材328a,328bを、ガス排出口316c以外の部分からHeガスの漏れが生じないように、ネジを用いた締結手段330で互いに堅く締め付けた。こうして組み立てられた試料ホルダ316のガス供給口316aに、継手332を介してガス供給管334を接続した。
【0057】
次いで、He透過度測定系310にガス供給管334を経てHeガスを供給し、試料ホルダ316内に保持されたLDHセパレータ318に透過させた。このとき、圧力計312及び流量計314によりガス供給圧と流量をモニタリングした。Heガスの透過を1~30分間行った後、He透過度を算出した。He透過度の算出は、単位時間あたりのHeガスの透過量F(cm/min)、Heガス透過時にLDHセパレータに加わる差圧P(atm)、及びHeガスが透過する膜面積S(cm)を用いて、F/(P×S)の式により算出した。Heガスの透過量F(cm/min)は流量計314から直接読み取った。また、差圧Pは圧力計312から読み取ったゲージ圧を用いた。なお、Heガスは差圧Pが0.05~0.90atmの範囲内となるように供給された。上記He透過度の測定を低伝導セパレータ及び高伝導セパレータの各々について行った。
【0058】
評価5:イオン伝導度の測定
電解液中でのLDHセパレータの伝導率を図8に示される電気化学測定系を用いて以下のようにして測定した。LDHセパレータ試料Sを両側から厚み1mmシリコーンパッキン440で挟み、内径6mmのPTFE製フランジ型セル442に組み込んだ。電極446として、#100メッシュのニッケル金網をセル442内に直径6mmの円筒状にして組み込み、電極間距離が2.2mmになるようにした。電解液444として、6MのKOH水溶液をセル442内に充填した。電気化学測定システム(ポテンショ/ガルバノスタット -周波数応答アナライザ、ソーラトロン社製1287A型及び1255B型)を用い、周波数範囲は1MHz~0.1Hz、印加電圧は10mVの条件で測定を行い、実数軸の切片をLDHセパレータ試料Sの抵抗とした。上記同様の測定をLDHセパレータ試料S無しの構成で行い、ブランク抵抗も求めた。LDHセパレータ試料Sの抵抗とブランク抵抗の差をLDHセパレータの抵抗とした。得られたLDHセパレータの抵抗と、LDHセパレータ試料Sの面積を用いてイオン伝導度を求めた。上記イオン伝導度の測定を低伝導セパレータ及び高伝導セパレータの各々について行った。
【0059】
評価6:サイクル試験
亜鉛二次電池のサイクル試験を以下のとおり行った。まず、充放電装置(東洋システム株式会社製、TOSCAT3100)を用いて、作製した亜鉛二次電池に対し、0.1C充電及び0.2C放電で化成を実施した。その後、1C充放電サイクルを実施した。同一条件で繰り返し充放電サイクルを実施しながら、正極及び負極間の電圧を電圧計でモニタリングし、正極及び負極間における亜鉛デンドライトに起因する短絡に伴う急激な電圧低下(具体的には直前にプロットされた電圧に対して5mV以上の電圧低下)の有無を調べ、以下の基準で評価した。
・短絡なし:300サイクル後も充電中に上記急激な電圧低下が見られなかった。
・短絡あり:300サイクル未満で充電中に上記急激な電圧低下が見られた。
【0060】
例A1~A4
Mg-(Al,Ti,Y)-LDH様化合物を含むLDHセパレータ及びそれを備えた亜鉛二次電池の作製及び評価を以下のようにして行った。
【0061】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、16cm×14cmの大きさになるように切り出した。
【0062】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニア・イットリアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニア溶液(AM-15、多木化学株式会社製)とイットリアゾルとを上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニア溶液とイットリアゾルをTi/(Y+Al)(mol比)=2、及びY/Al(mol比)=8となるように混合することにより、調製した。ディップコートは、ゾル溶液1Lに基材を浸漬させてから垂直に引き上げることにより行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0063】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.0075mol/L、尿素/NO (mol比)=96となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を3Lとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0064】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量5L、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度120℃で30時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDH様化合物の形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の両面及び孔内にLDH様化合物を形成させたLDHセパレータを得た。
【0065】
(5)ロールプレス処理
例A1及びA2について、上記(4)で得られた1枚のLDHセパレータに対してロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを作製した。一方、例A3及びA4については、高伝導セパレータとして、上記(4)で得られた1枚のLDHセパレータに対してロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。また、上記(4)で得られた2枚のLDHセパレータを積層した状態でロールプレスを行い、2枚のセパレータを一体化させて、低伝導セパレータとした。このとき、ロールプレスの温度及び荷重を表1に示すように適宜変更した。こうして、イオン伝導度及び厚さの異なる複数のLDHセパレータを作製した。
【0066】
(6)亜鉛二次電池の作製
上記(5)で得られたLDHセパレータ(高伝導セパレータ及び低伝導セパレータ)、並びに以下に示される正極板、正極集電部材、負極板、負極集電部材、不織布、電池容器、及び電解液を用意した。
・正極板:発泡ニッケルの孔内に水酸化ニッケル及びバインダーを含む正極ペーストを充填して乾燥させたもの(発泡ニッケルの端部1辺の近傍に正極ペーストを塗工しない未塗工部が存在)。
・正極集電部材:正極板を構成する発泡ニッケルの未塗工部をロールプレスで圧縮してタブに加工し、このタブにタブリード(純ニッケル製、厚さ:100μm)を超音波溶接して延長させたもの。
・負極板:ZnO粉末、金属Zn粉末、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)及びプロピレングリコールを含む負極ペーストを集電体(銅エキスパンドメタル)に圧着したもの(銅エキスパンドメタルの端部1辺の近傍に負極ペーストを塗工しない未塗工部が存在)。
・負極集電部材:銅エキスパンドメタルの未塗工部にタブリード(銅製、厚さ:100μm)を超音波溶接で接続したもの。
・不織布:ポリプロピレン製、厚さ100μm
・電池容器:変性ポリフェニレンエーテル樹脂製の箱型ケース(ケース内で発生したガスを放出可能とする放圧弁を備える)、内寸:長さ190mm、幅24mm、高さ165mm、外寸:長さ200mm、幅30mm、高さ170mm(正極端子および負極端子の高さを含まない)
・電解液:5.4MのKOH水溶液中に0.4Mの酸化亜鉛を溶解させたもの
【0067】
正極板を両面から覆うように不織布で包み込んで、正極集電部材が延出する1辺を除く残り3辺から不織布が若干はみ出すようにした。正極板の3辺からはみ出した不織布の余剰部分をヒートシールバーで熱融着封止して、正極構造体を得た。また、負極板を両面から不織布及びLDHセパレータで順に包み込み、負極集電部材が延出する1辺を除く残り3辺から不織布及びLDHセパレータが若干はみ出すようにした。このとき、負極板の第一面側に低伝導セパレータを配置し、負極板の第二面側に高伝導セパレータを配置した。負極板の3辺からはみ出した不織布及びLDHセパレータの余剰部分をヒートシールバーで熱融着封止して、負極構造体を得た。こうして、複数枚の正極構造体及び複数枚の負極構造体を準備した。
【0068】
12枚の正極構造体及び13枚の負極構造体を交互に積み重ねて電極積層体を作製した。図3に示される構成と同様に、複数枚の正極集電部材15と、複数枚の負極集電部材13は、平面視した場合に、電極集電体から互いに異なる位置から延出する設計になっているため、複数枚の正極集電部材15同士が重ねられる一方、それとは別の位置で複数枚の負極集電部材13同士が重ねられる。図1及び2に示されるように、複数枚の正極集電部材15の重なり部分をまとめて正極端子28にレーザー溶接により接合した。同様に、複数枚の負極集電部材13の重なり部分をまとめてレーザー溶接により負極端子26に接合した。こうして、正極集電部材15及び負極集電部材13を備えた電極構造体のスタックを積層セル11として得た。この積層セル11を箱型の電池容器20に入れて、電解液を注入して積層セル11に含浸させて、上蓋20aを閉じて封止した。こうして亜鉛二次電池を作製した。
【0069】
(7)各種評価
得られたLDHセパレータ及び亜鉛二次電池に対して評価1~6を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状形状が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDH様化合物の構成元素であるMg、Al、Ti及びYが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、5°≦2θ≦10°の範囲にLDH様化合物に由来するピークが検出された。通常、LDHの(003)ピーク位置は、2θ=11~12°に観察されるため、上記ピークはLDHの(003)ピークが低角側にシフトしたものであると考えられる。このため、上記ピークはLDHとは呼べないかもしれないが水酸化物イオン伝導性を有する層状結晶構造の水酸化物及び/又は酸化物(すなわちLDH様化合物)に由来するピークであることを示唆するものである。
‐評価4:例A1~A4において、He透過度0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価5:低伝導セパレータのイオン伝導度C、高伝導セパレータのイオン伝導度C、及び比C/Cは表1に示されるとおりであった。
‐評価6:表1に示されるとおり、例A2~A4において、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたサイクル耐久性能が確認された。一方、例A1(比較例)では、300サイクル未満で亜鉛デンドライトに起因する短絡が生じたことから、サイクル耐久性能に劣ることが判明した。
【0070】
【表1】
【0071】
例B1~B3
Mg-(Al,Ti)-LDHを含むLDHセパレータ及びそれを備えた亜鉛二次電池の作製及び評価を以下のようにして行った。
【0072】
(1)高分子多孔質基材の準備
気孔率50%、平均気孔径0.1μm及び厚さ20μmの市販のポリエチレン微多孔膜を高分子多孔質基材として用意し、16cm×14cmの大きさになるように切り出した。
【0073】
(2)高分子多孔質基材へのアルミナ・チタニアゾルコート
無定形アルミナ溶液(Al-L7、多木化学株式会社製)とチタニアゾル溶液(AM-15、多木化学株式会社製)とを上記(1)で用意された基材へディップコートにより塗布した。ディップ液は、無定形アルミナ溶液とチタニアゾル溶液をTi/Al(mol比)=2となるように混合することにより、調製した。ディップコートは、ゾル溶液1Lに基材を浸漬させてから垂直に引き上げることにより行った。その後、ディップコートされた基材を室温で1時間乾燥させた。
【0074】
(3)原料水溶液の調製
原料として、硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学株式会社製)及び尿素((NHCO、シグマアルドリッチ製)を用意した。硝酸マグネシウム六水和物を0.015mol/L、尿素/NO (mol比)=32となるように原料を秤量してビーカーに入れ、そこにイオン交換水を加えて全量を3Lとした。その後、攪拌して原料水溶液を得た。
【0075】
(4)水熱処理による成膜
テフロン(登録商標)製密閉容器(オートクレーブ容器、内容量5L、外側がステンレス製ジャケット)に原料水溶液とディップコートされた基材を共に封入した。このとき、基材はテフロン(登録商標)製密閉容器の底から浮かせて固定し、基材両面に溶液が接するように垂直に設置した。その後、水熱温度90℃で30時間水熱処理を施すことにより基材表面と内部にLDHの形成を行った。所定時間の経過後、基材を密閉容器から取り出し、イオン交換水で洗浄し、室温で一晩乾燥させて、多孔質基材の表面及び孔内にLDHを形成させた。こうして、LDHセパレータを得た。
【0076】
(5)ロールプレス処理
例B1について、上記(4)で得られた1枚のLDHセパレータに対してロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを作製した。一方、例B2及びB3については、高伝導セパレータとして、上記(4)で得られた1枚のLDHセパレータに対してロールプレスを行い、さらに緻密化されたLDHセパレータを得た。また、上記(4)で得られた2枚のLDHセパレータを積層した状態でロールプレスを行い、2枚のセパレータを一体化させて、低伝導セパレータとした。このとき、ロールプレスの温度及び荷重を表2に示すように適宜変更した。こうして、イオン伝導度及び厚さの異なる複数のLDHセパレータを作製した。
【0077】
(6)亜鉛二次電池の作製
例A1~A4と同様にして亜鉛二次電池を作製した。
【0078】
(7)各種評価
得られたLDHセパレータ及び亜鉛二次電池に対して評価1~6を行った。結果は以下のとおりであった。
‐評価1:LDH特有の板状結晶が多数確認された。
‐評価2:EDS元素分析の結果、LDHの構成元素であるMg、Al及びTiが検出された。すなわち、これらの元素が取り込まれ、水酸化物イオン伝導層状化合物として結晶化していることを確認した。
‐評価3:XRDプロファイルにおいて、2θ=11.5°付近にピークが検出され、LDH(ハイドロタルサイト類化合物)と同定された。この同定は、JCPDSカードNO.35-0964に記載されるLDH(ハイドロタルサイト類化合物)の回折ピークを用いて行った。
‐評価4:例B1~B3において、He透過度0.0cm/min・atmという極めて高い緻密性が確認された。
‐評価5:低伝導セパレータのイオン伝導度C、高伝導セパレータのイオン伝導度C、及び比C/Cは表2に示されるとおりであった。
‐評価6:表2に示されるとおり、例B2及びB3において、300サイクル後でも亜鉛デンドライトに起因する短絡が無いという優れたサイクル耐久性能が確認された。一方、例B1(比較例)では、300サイクル未満で亜鉛デンドライトに起因する短絡が生じたことから、サイクル耐久性能に劣ることが判明した。
【0079】
【表2】
【符号の説明】
【0080】
10,110 亜鉛二次電池
11,111 積層セル
12,112 負極板
12a,112a 負極活物質
12b,112b 負極集電体
13 負極集電部材
14,114 正極板
14a,114a 正極活物質
14b,114b 正極集電体
15 正極集電部材
16,116 LDHセパレータ
16a 低伝導セパレータ
16b 高伝導セパレータ
20 電池容器
20a 上蓋
26 負極端子
28 正極端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8