(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140390
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】オーバーロックミシンのカッター装置
(51)【国際特許分類】
D05B 65/02 20060101AFI20241003BHJP
D05B 1/10 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
D05B65/02 E
D05B1/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051511
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000113229
【氏名又は名称】株式会社PEGASUS
(72)【発明者】
【氏名】金島 律
【テーマコード(参考)】
3B150
【Fターム(参考)】
3B150AA08
3B150CD08
3B150CE23
3B150FH04
3B150FH06
3B150FH09
3B150FH20
3B150JA12
3B150JA32
(57)【要約】
【課題】
従来と比較して制御装置による制御を簡略化でき、さらに駆動機器が二つあることで生じる製造原価の増加を抑制できるオーバーロックミシンのカッター装置を提供する。
【解決手段】
カッター装置4は、カッター機構3を操作するカッター作動機構5と、一つのモーター6と、モーター軸に固定されて押え上げ機構2を作動する押え上げ駆動クランク7と、モーター軸に固定されてカッター作動機構5と連結するカッター駆動クランク8と、を備える。これらより駆動機器を一つにして、押え上げ機構2とカッター機構3を操作することができ、従来と比較して駆動機器の制御装置による制御を簡略化でき、さらに駆動機器が二つあることで生じる製造原価の増加を抑制できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地を押圧する押えと、押えが固定される押え台と、押え台を支持する押え棒と、押えを押圧する押え棒ばねと、押え台に固定される押え台揺動軸と、押え台揺動軸の他端に配置される押え揺動レバーと、を含む押え上げ機構および、生地送り方向と直交して設置される固定刃と、固定刃に相対して配置される移動刃と、移動刃の一端に固定される移動刃揺動軸と、を含むカッター機構と、を備えるオーバーロックミシンのカッター装置において、
前記カッター装置は、カッター機構を操作するカッター作動機構と、駆動機器である一つのモーターと、前記モーターのモーター軸に固定されて押え上げ機構を作動する押え上げ駆動クランクと、前記モーターのモーター軸に固定されてカッター作動機構と連結するカッター駆動クランクと、を備えることを特徴とするオーバーロックミシンのカッター装置。
【請求項2】
前記カッター装置は、押え上げ機構と接続するときに押え上げを作動する押え上げ駆動クランクを備えること、を特徴とする請求項1に記載のオーバーロックミシンのカッター装置。
【請求項3】
前記カッター装置は、前記押え上げ駆動クランクの作用部に設置されるクランクローラと、押え揺動レバーに固定されクランクローラを案内するローラ案内部材と、を備えることを特徴とする請求項2に記載のオーバーロックミシンのカッター装置。
【請求項4】
前記カッター作動機構は、前記カッター駆動クランクと連結する連結案内部材と、連結案内部材と連動する作動レバー部材と、作動レバー部材が接続するときにカッター機構を操作する受動レバー部材と、を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のオーバーロックミシンのカッター装置。
【請求項5】
前記カッター装置は、前記押え上げ駆動クランクの作用部に対して、その作用部を任意の位相差に変更可能にて、モーター軸に固定されるカッター駆動クランクを備えること、を特徴とする請求項4に記載のオーバーロックミシンのカッター装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオーバーロックミシンのカッター装置に関するものである。本発明において、前後とは布送り方向における前後方向をいい、左右とはミシンを正面から見たときの左右方向をいう。また上下とはミシンの上下方向をいう。
【背景技術】
【0002】
従来のオーバーロックミシンのカッター装置として、縫製の終わりに生地後端に連なる糸の空環や生地と共に縫製されたテープ等を切断するためのカッターが、ミシンの押えと針板の後部にて揺動軸の軸端に固着して設けてあり、カッターは揺動軸の揺動運動により生地送り方向に直交する揺動運動を行い、固定刃と協動して切断を行い、揺動軸の駆動機器としてロータリーソレノイドを備える、といった構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。また従来のオーバーロックミシンの押え上げ装置として、駆動機器としてエアシリンダもしくはソレノイドを備える、といった構成のものが知られている(例えば、特許文献2参照)。縫製の終わりに切断,押え上げ,ミシンからの生地の取り外しを素早く行うためには、カッター装置と押え上げ装置の両方が装着される。
【0003】
一つのミシンにカッター装置と押え上げ装置の両方を装着させる場合、二つの駆動機器を要する。またカッター装置と押え上げ装置を縫製の様態に応じて速やかに連続で動作させたり、もしくは一方を停止状態のまま一方を単独で動作させたりする場合には、さらに二つの駆動機器を連携させる制御装置を要する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭56ー088481号公報
【特許文献2】特公平07ー067512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の技術では、縫製の終わりに生地後端に連なる糸の空環や生地と共に縫製されたテープ等を切断して、速やかに連続して押えを上昇させる押え上げを行い、生地をミシンから取り外すときに、カッター装置の駆動機器と押え上げ装置の駆動機器とを連携させる制御装置を用いていた。また二つの駆動機器の加速減速の程度をそれぞれの負荷に応じて最適化して、各装置の動作時間をできる限り少なくして連携させることで、一度の縫製の作業時間を減らすことができていたが、これは制御装置による制御が複雑なものとなっていた。加えてカッター装置と押え上げ装置をそれぞれ単独で動作させたいときには、別個の制御を追加で要し制御がより複雑なものとなっていた。また駆動機器が二つあることで付随する電気部品も加わり、製造原価の増加の要因となっていた。
【0006】
本発明の課題は従来と比較して制御装置による制御を簡略化でき、さらに駆動機器が二つあることで生じる製造原価の増加を抑制できるオーバーロックミシンのカッター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、生地を押圧する押えと、押えが固定される押え台と、押え台を支持する押え棒と、押えを押圧する押え棒ばねと、押え台に固定される押え台揺動軸と、押え台揺動軸の他端に配置される押え揺動レバーと、を含む押え上げ機構および、生地送り方向と直交して設置される固定刃と、固定刃に相対して配置される移動刃と、移動刃の一端に固定される移動刃揺動軸と、を含むカッター機構と、を備えるオーバーロックミシンのカッター装置において、前記カッター装置は、カッター機構を操作するカッター作動機構と、駆動機器である一つのモーターと、前記モーターのモーター軸に固定されて押え上げ機構を作動する押え上げ駆動クランクと、前記モーターのモーター軸に固定されてカッター作動機構と連結するカッター駆動クランクと、を備えることを特徴とするものである。
【0008】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のオーバーロックミシンのカッター装置であって、押え上げ機構と接続するときに押え上げを作動する押え上げ駆動クランクを備えること、を特徴とするものである。
【0009】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のオーバーロックミシンのカッター装置であって、前記押え上げ駆動クランクの作用部に設置されるクランクローラと、押え揺動レバーに固定されクランクローラを案内するローラ案内部材と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれかに記載のオーバーロックミシンのカッター装置であって、前記カッター作動機構は、前記カッター駆動クランクと連結する連結案内部材と、連結案内部材と連動する作動レバー部材と、作動レバー部材が接続するときにカッター機構を操作する受動レバー部材と、を備えることを特徴とするものである。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のオーバーロックミシンのカッター装置であって、前記押え上げ駆動クランクの作用部に対して、その作用部を任意の位相差に変更可能にて、モーター軸に固定されるカッター駆動クランクを備えること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のカッター装置によれば、駆動機器を一つにして押え上げ機構とカッター機構を操作することができる。これにより従来と比較して駆動機器の制御装置による制御を簡略化でき、さらに駆動機器が二つあることで生じる製造原価の増加を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に適用されるミシンの左後方からの斜視図。X軸の正の向きは右方向、Y軸の正の向きは後ろ方向、Z軸の正の向きは上方向を示す。
【
図2】本発明に適用されるミシンの押え上げ機構とカッター装置の押え上げ駆動クランクの斜視図。
【
図3】本発明に適用されるミシンのカッター機構とカッター装置のカッター駆動クランク,カッター作動機構の斜視図。
【
図4】本発明に適用されるミシンの押え上げ機構とカッター装置の押え上げ駆動クランクの左側面視図。
【
図5】本発明に適用されるミシンの押え上げ機構とカッター装置の押え上げ駆動クランク,クランクローラ,ローラ案内部材の左側面視図。
【
図6】本発明に適用されるミシンのモーター軸の回転による機械状態の遷移の様子を示す左側面視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下
図1から
図3に基づいて本発明の第一実施形態を説明する。
図1は本発明に適用されるミシンの左後方からの斜視図である。ミシン1は針(図示なし)とルーパー(図示なし)の協働で縫製を行う部位である縫製領域の上方と下方に押え20と針板(図示なし)が配置される。生地を縫製する際に押え20は、始めに生地を押え20と針板の間に設置するために、生地の厚みより大きい高さまで上昇させて、生地を設置の後には下降させて生地を押圧する。押え上げ機構2は押え20の押え上げを以下のようにして作動することができる。押え上げ機構2は、前部に押え20が固定される押え台21と、押え台21を上方より支持する押え棒22と、押え棒22を押圧することで押え台21と押え20を押圧する押え棒ばね23と、押え台21の後部に一端が固定されて揺動することで押え上げを作動する押え台揺動軸24と、押え台揺動軸24と四節リンク機構を通じて連動する押え台揺動副軸25の一端もしくは押え台揺動軸24の他端に配置される押え揺動レバー26と、をその構成に含む。これにより押え揺動レバー26を下方向に揺動させることで、押え20の押え上げが作動して押えが上昇する。
【0015】
図2は本発明に適用されるミシンの押え上げ機構とカッター装置の押え上げ駆動クランクの斜視図である。押え台揺動軸24と、押え台揺動軸24もしくは押え台揺動副軸25の一端に挿通して配置され単独で揺動可能な押え揺動レバー26とは、それぞれ押え台揺動軸24の他端に固定された押え台揺動軸クランク27により連動する。押え台揺動副軸25の他端に押え揺動レバー26が配置される場合には、押え台揺動軸24の一端に固定された押え台揺動軸クランク27は、平行リンク等を用いた四節リンク機構を通じて押え揺動レバー26と連動して、また押え台揺動軸24の他端に押え揺動レバー26が配置される場合には、押え台揺動軸24の一端に固定された押え台揺動軸クランク27は直に接して押え揺動レバー26と連動する。
【0016】
駆動機器であるモーター6はミシン1のベッド10の後背面に固定されたモーター取付ブラケット61にネジ締結にて固定される。モーター6のモーター軸(図示なし)には押え上げ駆動クランク7が固定され出力に応じて回動される。バランスウェイト72は押え上げ駆動クランク7の一端に固定されモーター軸と共に回動される。バランスウェイト72はその質量でモーター軸まわりの回転の重心を偏らせることで、モーター6が無出力の際に押え上げ駆動クランク7を重力により一定の位置に保持して、これを各種動作の初期の位置とできる。これはモーター6の出力開始時に、センサーによる位置検知でモーター軸の位相角を任意の初期の位置に合わせるとしてもよい。押え揺動レバー26は、モーター軸と共に回動する押え上げ駆動クランク7の作用部すなわち力を伝達する対偶に、直に接して、もしくはリンク機構等で連結することで連動して揺動される。
【0017】
図3は本発明に適用されるミシンのカッター機構とカッター装置のカッター駆動クランク,カッター作動機構の斜視図である。モーター軸には押え上げ駆動クランク7と共にカッター駆動クランク8が固定され出力に応じて回動される。
【0018】
カッター機構3は、押え20の後方下部で生地送り方向Fと直交して設置される固定刃30と、固定刃30に相対して配置される移動刃31と、移動刃31の一端に固定されて揺動することで移動刃31を切断動作させる移動刃揺動軸32と、をその構成に含む。移動刃揺動軸32はコイルバネ(図示なし)により軸方向に押圧され固定刃30と移動刃31の刃の合わさりに圧力が与えられる。移動刃揺動軸32の前端には移動刃31が固定され、後端には移動刃揺動軸歯車33がネジ締結にて固定される。移動刃揺動軸32の後端はベッド10の後背面から突出しており、移動刃揺動軸歯車33についてもベッド10の後背面から突出して設置される。
【0019】
カッター作動機構5は、土台50,連結案内部材51,作動レバー部材52,作動レバー軸53,受動レバー部材54と、をその構成に含む。土台50はミシン1のベッド10の後背面に固定される。作動レバー軸53は土台50に設けられた軸穴に挿通され回動可能で配置される。連結案内部材51は作動レバー軸53の一端に固定され作動レバー軸53と共に揺動可能で配置される。作動レバー部材52は作動レバー軸53の他端に固定され作動レバー軸53と共に揺動可能で配置される。よって連結案内部材51が揺動されれば作動レバー部材52は揺動される。
【0020】
モーター軸に固定されたカッター駆動クランク8と連結案内部材51は、カッター駆動クランク8を原動節とし、カッター駆動クランク8の作用部をすべり対偶として、相対する連結案内部材51にすべり案内が設けられた揺動スライダクランク機構にて連結される。よってカッター駆動クランク8が回動されることで連結案内部材51は揺動されて、作動レバー部材52は揺動される。
【0021】
受動レバー部材54は軸部があり、土台50に設けられた軸穴に挿通され揺動可能で配置される。受動レバー部材54には軸部を回転中心とする二枝の腕節があり、一方の腕節の端は歯車の機能をもち、移動刃揺動軸歯車33と歯車結合されて揺動が連動される。これはベルト,チェーン伝動等に代えてもよい。そして他方の腕節の端はピン等の力を受けることができる部位が設置されて、これを操作することで受動レバー部材54は揺動される。
【0022】
作動レバー部材52は、作用部を、受動レバー部材54のピン等の力を受けることができる部位に、直に接して、もしくはリンク機構等で連結することで連動して揺動させる。これらによりモーター軸の出力は、連結案内部材51,作動レバー部材52,受動レバー部材54,移動刃揺動軸32,移動刃31と伝達されて切断動作させる。また受動レバー部材54には受動レバー部材保持ばね55が連結されており、揺動の死点で土台50に設置された回り止め(図示なし)にばねの力で接することで、切断動作されないときには移動刃31を揺動の死点にある切断動作の開始位置にてばねの力で保持させる。これらより駆動機器を一つにして、押え上げ機構2とカッター機構3を操作することができ、従来と比較して駆動機器の制御装置による制御を簡略化でき、さらに駆動機器が二つあることで生じる製造原価の増加を抑制できる。
【0023】
図4は本発明に適用されるミシンの押え上げ機構とカッター装置の押え上げ駆動クランクの左側面視図である。本発明に適用されるミシンのカッター装置では、上述の第一実施形態に以下の構成を加えた第二実施形態をとることができる。上述のカッター装置4は、押え上げ機構2と接続するときに押え20の押え上げを作動する押え上げ駆動クランク7を備える構成とできる。これは押え上げ駆動クランク7と押え揺動レバー26を以下のように配置することで可能である。押え上げ駆動クランク7はモーター軸を中心として回動して、このとき腕節先端にある作用部は円の軌跡を描く。この円の軌跡に対して押え揺動レバー26の上端が、円の軌跡の下部にて干渉する位置にそれぞれ配置する。これにより作用部が押え揺動レバー26の上端より上方にあるときには押え揺動レバー26と分離しており力が伝達されないが、回転して押え揺動レバー26の上端と接続する位置に達すれば力が伝達され、以降押え揺動レバー26は下方向に揺動する。押え揺動レバー26が下方向に揺動すれば押え20は上昇し、また上昇の途中でモーター軸を反転させれば、押え棒ばね23,押え棒22から受ける力により押え揺動レバー26が上方向に揺動して押え20は下降する。
【0024】
上述によりモーター軸が一回転する中で、押え上げ駆動クランク7は押え上げ機構2と接続するときに押え20の押え上げを作動して、押え上げ機構2から離れているときに押え20の押え上げを作動しないため、押え20を押え上げ操作する区間と押え上げ操作しない区間が設定される。これによりカッター機構3が対象物を切断するときに、押え20を押え上げ操作しない区間となるようにカッター駆動クランク8と押え上げ駆動クランク7を配置することで、押え上げが機能せずに押え20が生地を押圧する状態で、生地と共に縫製されたテープ等の保持を安定して切断することができる。
【0025】
図5は本発明に適用されるミシンの押え上げ機構とカッター装置の押え上げ駆動クランク,クランクローラ,ローラ案内部材の左側面視図である。本発明に適用されるミシンのカッター装置では、上述の第二実施形態に以下の構成を加えた第三実施形態をとることができる。上述のカッター装置4は、押え上げ駆動クランク7の作用部に設置されるクランクローラ71と、押え揺動レバー26に固定されクランクローラ71を案内するローラ案内部材28と、を備える構成とできる。上述の押え上げ駆動クランク7と押え揺動レバー26を配置して直に接するときに、押え揺動レバー26には上方向に力が働く。これは押え棒ばね23の力が押え棒22,押え台21,押え台揺動軸24,押え台揺動軸クランク27を経て働く力である。この上方向の力は、押え上げ駆動クランク7の作用部が押え揺動レバー26の上端と接する位置を基点として、押え上げ駆動クランク7の回転中心へ向かう方向の分力と、押え上げ駆動クランク7の作用部の円の軌跡の接線方向の分力に分解して看做すことができる。この押え上げ駆動クランク7の回転中心へ向かう方向の分力は、押え上げ駆動クランク7に働く垂直抗力であって、モーター軸の回転にともない押え上げ駆動クランク7が回動する際に、モーター軸の回転に逆らって働く摩擦力の要因となる。
【0026】
押え上げ駆動クランク7の作用部に設置されるクランクローラ71は、カムフォロアもしくは軸と空転するローラを組み合わせた部材で構成され、上述の摩擦力に対して転がり摩擦での摩擦力を生じさせる。これにより滑り摩擦による摩擦力よりも小さい摩擦力に抑えることができ、モーター軸の回転に逆らう摩擦力を軽減してモーター6の出力を軽減できる。またローラ案内部材28は、押え揺動レバー26にネジ締結で固定され、押え上げ駆動クランク7の腕節先端の作用部に対して、ローラ案内部材28の上端を接するようにして、押え揺動レバー26の代わりに摩擦力を受ける。ローラ案内部材28には摩擦力を軽減するための仕上加工,表面処理を施すことで、モーター6の出力を軽減できる。また長期間の使用で損耗した際に部品交換を容易にできる。
【0027】
本発明に適用されるミシンのカッター装置では、上述の第一実施形態,第二実施形態,第三実施形態のいずれかに以下の構成を加えた第四実施形態をとることができる。上述のカッター作動機構5は、カッター駆動クランク8と連結する連結案内部材51と、連結案内部材51と連動する作動レバー部材52と、作動レバー部材52が接続するときにカッター機構3を操作する受動レバー部材54と、を備える構成とできる。これにより押え20を押え上げ操作する区間と押え上げ操作しない区間が設定されるときと同様にして、受動レバー部材54は作動レバー部材52が接続するときにカッター機構3を操作して、作動レバー部材52が離れているときにカッター機構3を操作しない配置とし、モーター軸が一回転する中で、カッター機構3を切断動作させる区間と切断動作させない区間が設定される。切断動作されない区間では、移動刃31は受動レバー部材保持ばね55により切断動作の開始位置にて保持される。
【0028】
上述により押え20の押え上げを作動する押え上げ駆動クランク7を例えば時計回りにて押え上げ操作するときにカッター機構3を切断動作させない区間とし、反時計回りにて押え上げ操作するときに一部をカッター機構3を切断動作させる区間とすることで、時計回りにて押え上げを単独動作して反時計回りにて切断と押え上げの連続動作する構成となり、縫製の仕様によって使い分けることができる。これは押え上げの動作と切断の動作の連携を駆動機器の制御装置に頼らないため制御を簡略化できる。
【0029】
本発明に適用されるミシンのカッター装置では、上述の第一実施形態,第二実施形態,第三実施形態,第四実施形態のいずれかに以下の構成を加えた第五実施形態をとることができる。上述のカッター装置4は、押え上げ駆動クランク7の作用部に対して、その作用部を任意の位相差に変更可能にて、モーター軸に固定されるカッター駆動クランク8を備える構成とできる。これはカッター駆動クランク8を六角穴ボルトによる抱き締め締結でモーター軸へ固定することで為される。
【0030】
図6は本発明に適用されるミシンのモーター軸の回転による機械状態の遷移の様子を示す左側面視図である。押え上げ駆動クランク7の作用部とカッター駆動クランク8の作用部は、任意の位相差をもって配置され、
図6では、実施形態の一つとして45度の位相差を与えている。
【0031】
図6の(a)は、モーター軸の中心に対して、押え上げ駆動クランク7の作用部が上向きの状態であり、モーター軸の位相角の初期の位置を示す。このとき押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28は離れており、カッター駆動クランク8と連動する作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と離れている。この状態では押え20は押え上げ操作されずに生地を押圧している状態であり、移動刃31は切断動作を行っておらず、切断動作の開始位置にて保持される。
【0032】
図6の(b)は、モーター軸が回転して、押え上げ駆動クランク7の作用部が、(a)より反時計回りに進んでいる状態を示す。本実施形態では(a)(b)間で62度進んでいる。このとき押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28はまだ離れており、作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と接し始める。この状態では押え20は押え上げ操作されずに生地を押圧している状態であり、移動刃31は切断動作を行っておらず、切断動作の開始位置にて保持される。これよりさらにモーター軸が回転して反時計回りに進むことで、切断動作が行われる。(a)(b)間はモーター軸の回転の助走区間であり、この間に加速することで慣性力を載せて切断の力を増加させる。これは生地と共に縫製されたテープ等を切断する際に有利となる。
【0033】
図6の(c)は、モーター軸が回転して、押え上げ駆動クランク7の作用部が、(b)より反時計回りに進んでいる状態を示す。本実施形態では(b)(c)間で73度、(a)(c)間で135度進んでいる。このとき押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28はまだ離れており、カッター駆動クランク8と連動する作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と接して押している。この状態では押え20は押え上げ操作されずに生地を押圧している状態であり、移動刃31は切断動作を行っている。またカッター駆動クランク8は連結案内部材51との運動の死点にあり、作動レバー部材52の作用部,受動レバー部材54,移動刃31も運動の死点となる。従って移動刃31と固定刃30はこの状態が最も閉じた状態となり、切断の終了となる。
【0034】
図6の(d)は、モーター軸が回転して、押え上げ駆動クランク7の作用部が、(c)より反時計回りに進んでいる状態を示す。本実施形態では(c)(d)間で7度、(a)(d)間で142度進んでいる。このとき押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28は接し始めており、作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と接している。この状態では押え20は押え上げ操作されずに生地を押圧している状態であり、これよりさらにモーター軸が回転して反時計回りに進むことで押え20は上昇する。移動刃31は切断の終了から進んで、切断動作の開始位置へ戻る過程である。従ってこれよりさらにモーター軸が回転して反時計回りに進むことで押え20は上昇し、同時に移動刃31は切断の終了から進んで切断動作の開始位置へ戻ることとなる。
【0035】
図6の(e)は、モーター軸が回転して、押え上げ駆動クランク7の作用部が、(d)より反時計回りに進んでいる状態を示す。本実施形態では(d)(e)間で33度、(a)(e)間で175度進んでいる。このとき押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28は接しており、作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と接している。この状態では押え20は上昇している。また押え上げ駆動クランク7はローラ案内部材28との運動の死点にあり、押え20も運動の死点であって上方向の死点となる。これよりさらにモーター軸が回転して反時計回りに進むことで押え20は下降する。作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と接しているが、受動レバー部材54は揺動の死点付近まで戻っており、移動刃31は切断動作の開始位置付近で縫製作業に支障のない位置へ戻っている。これよりさらにモーター軸が回転して反時計回りに進むことで、作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と離れて、移動刃31は切断動作の開始位置に保持される。よってモーター軸を(e)にて停止保持させることで、従来の押え上げ装置と同様の機能を満たすことができる。
【0036】
図6の(f)は、モーター軸が回転して、押え上げ駆動クランク7の作用部が、(e)より反時計回りに進んでいる状態を示す。本実施形態では(e)(f)間で27度、(a)(f)間で202度進んでいる。このとき押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28は接しており、作動レバー部材52の作用部は受動レバー部材54と離れている。これよりさらにモーター軸が回転して反時計回りに進むことで、押え上げ駆動クランク7の作用部とローラ案内部材28は離れる。従ってこの状態では押え20は下降を終えており生地を押圧している状態であり、移動刃31は切断動作を行っておらず、切断動作の開始位置にて保持される。
【0037】
図6の(a)(b)(c)(d)(e)(f)(a)の順でモーター軸を反時計回りに一回転させることで、押え20は押え上げ操作されずに生地を押圧している状態でかつ移動刃31は切断動作の開始位置にて保持されている状態から、移動刃31が切断動作の開始位置から切断の終了まで移行し、移動刃31が切断動作の開始位置へ戻リ始め、押え20が上昇し始め、押え20が上方向の死点で移動刃31は切断動作の開始位置付近となり、押え20は下降して移動刃31は切断動作の開始位置となり、押え20は下降を終えて、一回転して元の状態に戻ることとなる。従って切断と押え上げを連続動作させることになる。
【0038】
また
図6の(a)(f)(e)の順でモーター軸を時計回りに半回転させて、(e)(f)(a)の順でモーター軸を反時計回りに半回転させることで、移動刃31を切断動作させずに押え20を押え上げ操作することとなる。従って押え上げを単独動作させることになる。また(a)(b)(c)の順でモーター軸を、反時計回りに八分の三回転させて、(c)(b)(a)の順でモーター軸を時計回りに八分の三回転させることで、押え20を押え上げ操作せずに移動刃31を切断動作させることとなる。従って切断を単独動作させることになる。
【0039】
上述の実施形態では、
図6の(c)における移動刃31の切断の終了と、(d)の押え20の上昇の開始の間で、動作が連続しないようにモーター軸の位相角に差を設けている。これは切断と押え上げの連続動作と切断の単独動作を併用する場合には、切断の単独動作では(c)でモーター軸を反転させる必要があり、この反転時に慣性力で目的の位置より余剰に進行するオーバーフィードが生じたときに、押え上げを動作させないための余裕の区間である。
【0040】
押え上げ駆動クランク7の作用部とカッター駆動クランク8の作用部は、任意の位相差をもって配置することができ、上述の実施形態より位相差を変更して、
図6の(c)と(d)を同時とすることができる。これにより切断の単独動作を併用せずに切断と押え上げの連続動作のみで用いる場合は、上述の余裕の区間を要しないため動作の時間を減らすことができる。またモーター軸の位相角の初期の位置を(b)とすることで、上述の(a)(b)間の助走区間による慣性力を要しない糸の空環のみ等の軽微な切断の用途であれば、さらに動作の時間を減らすことができる。
【0041】
押え上げ駆動クランク7の作用部とカッター駆動クランク8の作用部は、任意の位相差をもって配置することができ、上述の実施形態より位相差を変更して、押え20を押え上げ操作する区間と、移動刃31を切断動作させる区間を、区間の一部が重ならないように分けることができる。押え上げの単独動作と切断の単独動作のみで用いる場合は、上述の二つの区間の間をモーター軸の位相角の初期の位置とすることで、時計回りの回転で押え上げ、反時計回りの回転で切断動作、等とすることができる。またモーター軸の位相角の初期の位置から移動刃31を切断動作させる区間に達するまでの時間を大きく取れるように配置し、この時間でモーター軸を加速して慣性力を大きく載せて切断の力を増大させることができる。これは厚みのあるテープ等の切断に有利となる。
【0042】
上述のようにカッター駆動クランク8の作用部を、押え上げ駆動クランク7の作用部に対して、任意の位相差に変更可能にて、モーター軸に固定される構成とすることで、切断と押え上げの連続動作、押え上げを単独動作、切断を単独動作、これらの併用、動作の時間の低減、慣性力による切断の力の増大等、縫製の仕様に応じて機械を調節して制御することができる。よって駆動機器の制御装置による制御を簡略化できる。
【0043】
以上説明したオーバーロックミシンのカッター装置によれば、カッター装置は、カッター機構を操作するカッター作動機構と、駆動機器である一つのモーターと、モーター軸に固定されて押え上げ機構を作動する押え上げ駆動クランクと、モーター軸に固定されてカッター作動機構と連結するカッター駆動クランクと、を備える構成とすることで、駆動機器を一つにして、押え上げ機構とカッター機構を操作することができて、これにより従来と比較して駆動機器の制御装置による制御を簡略化でき、さらに駆動機器が二つあることで生じる製造原価の増加を抑制できる。
【0044】
本発明は以上説明した実施例に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施例に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。また本実施例はオーバーロックミシンを用いたが、これに限定されるものではなく、例えばオーバーロックミシンと同様のカッター機構を備える環縫いミシンであるインターロックミシン等にも実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 ミシン
2 押え上げ機構
3 カッター機構
4 カッター装置
5 カッター作動機構
6 モーター
7 押え上げ駆動クランク
8 カッター駆動クランク
10 ベッド
20 押え
21 押え台
22 押え棒
23 押え棒ばね
24 押え台揺動軸
25 押え台揺動副軸
26 押え揺動レバー
27 押え台揺動軸クランク
28 ローラ案内部材
30 固定刃
31 移動刃
32 移動刃揺動軸
33 移動刃揺動軸歯車
50 土台
51 連結案内部材
52 作動レバー部材
53 作動レバー軸
54 受動レバー部材
55 受動レバー部材保持ばね
61 モーター取付ブラケット
71 クランクローラ
72 バランスウェイト
F 生地送り方向