(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140393
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】焼成用治具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/64 20060101AFI20241003BHJP
C23C 4/11 20160101ALI20241003BHJP
【FI】
C04B35/64
C23C4/11
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051518
(22)【出願日】2023-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】大橋 智実
(72)【発明者】
【氏名】小野田 和洋
(72)【発明者】
【氏名】松永 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】近藤 広務
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA03
4K031AB02
4K031AB08
4K031AB11
4K031BA01
4K031CB42
4K031CB43
4K031CB48
4K031DA01
4K031DA04
(57)【要約】
【課題】機械的強度が高く、温度追従性が良好な焼成用治具を提供すること。
【解決手段】ここに開示される焼成用治具100は、被焼成材料を載置するための焼成用治具100であってニッケルを主成分とする基材10と、基材10の少なくとも一部を被覆するセラミックからなる被膜20と、を備えている。基材10は、被焼成材料を載置するための平板部12を有し、平板部12は複数の貫通孔30を有している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼成材料を載置するための焼成用治具であって、
ニッケルを主成分とする基材と、
前記基材の少なくとも一部を被覆するセラミックからなる被膜と、
を備えており、
前記基材は、被焼成材料を載置するための平板部を有し、
前記平板部は、複数の貫通孔を有している、焼成用治具。
【請求項2】
前記平板部は矩形状であり、前記基材は該矩形状の平板部の2辺から上方に延び相互に対向する一対の側壁をさらに有している、請求項1に記載の焼成用治具。
【請求項3】
前記貫通孔がエッチング孔である、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【請求項4】
前記貫通孔の平均孔径が0.2mm以上1mm以下である、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【請求項5】
前記被膜は、ジルコニア、ムライト、シリカ、および、アルミナのうち少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【請求項6】
前記被膜は、セラミック溶射被膜である、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【請求項7】
平均厚みが0.2mm以上2mm以下である、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば積層セラミックコンデンサ(Multilayer Ceramic
Capacitors:MLCC)等の電子部品の焼成には、セラミックからなる焼成用治具(焼成用容器)が用いられている。一例として、特許文献1には、セラミック製の第1線条部と、セラミック製の第2線条部と、を有し、第1線条部と第2線条部とが交差することによって、格子をなし、該格子によって画成される複数の貫通孔を有するセラミック格子体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の比較例においては、ニッケル線材を平織りにして形成したニッケル金網にジルコニアをコートした格子体が開示されている。しかしながら、かかる格子体は、機械的強度が低いために、繰り返し使用した際には変形することが記載されている。
【0005】
MLCC等の小型電子部品は、性能発現性や生産性の観点からなるべく高速、短時間で焼成することが求められている。その一方で、セラミック製の焼成用治具は温度追従性が低いことが知られている。例えば特許文献1に記載されるように、セラミック製の線材を格子状に組み合わせて貫通孔を設けた場合には、焼成用治具の厚み等が大きくなりがちであり、熱容量を低くすることが難しい。このため、より高品質な電子部品を効率よく生産する観点から未だ改善の余地があった。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、機械的強度が高く、温度追従性が良好な焼成用治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される焼成用治具は、被焼成材料を載置するための焼成用治具であって、ニッケルを主成分とする基材と、上記基材の少なくとも一部を被覆するセラミックからなる被膜と、を備えている。上記基材は、被焼成材料を載置するための平板部を有し、上記平板部は複数の貫通孔を有している。
【0008】
かかる構成によれば、金属製(例えばニッケル)の基材と被膜とを有することにより、焼成用治具の機械的強度と温度追従性とが好適に両立される。そして、平板部が複数の貫通孔を有することにより焼成用治具の通気性が向上する。また、セラミック被膜を有することにより、電子部品等の被焼成材料と基材との反応を好適に抑制することができる。
【0009】
ここに開示される焼成用治具の好ましい一態様では、上記平板部は矩形状であり、上記基材は該矩形状の平板部の2辺から上方に延び相互に対向する一対の側壁をさらに有している。
かかる構成によれば、焼成用治具を多段積みすることができ、焼成用治具の取扱性が向上する。
【0010】
ここに開示される焼成用治具の好ましい一態様では、上記貫通孔がエッチング孔である。
かかる構成によれば、平滑性や均一性の高い貫通孔であるため、被焼成材料をより好適に支持することができる。
【0011】
ここに開示される焼成用治具の好ましい一態様では、上記貫通孔の平均孔径が0.2mm以上1mm以下である。
かかる構成によれば、機械的強度と温度追従性とがより好適に両立される焼成用治具を提供することができる。
【0012】
ここに開示される焼成用治具の好ましい一態様では、上記被膜は、ジルコニア、ムライト、シリカ、および、アルミナのうち少なくとも一種を含む。
かかる構成によれば、より好適に電子部品等の被焼成材料と基材との反応を抑制することができる。
【0013】
ここに開示される焼成用治具の好ましい一態様では、上記被膜は、セラミック溶射被膜である。
かかる構成によれば、基材と被膜との密着性がより向上し、耐久性の高い焼成用治具を提供することができる。
【0014】
ここに開示される焼成用治具の好ましい一態様では、焼成用治具の平均厚みが0.2mm以上2mm以下である。
かかる構成によれば、温度追従性がより好適に向上し、さらに機械的強度も確保される焼成用治具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る焼成用治具を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、焼成用治具の一部分を拡大した平面図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る焼成用治具を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、焼成用治具に被焼成材料を載置して積み上げた状態を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態の1つについて、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を反映するものではない。以下の説明において、図面中の符号Xは焼成用治具の「奥行方向」を示し、符号Yは「幅方向」を示し、符号Zは「厚み方向(高さ方向ともいう。)」を示すものとする。
【0017】
ここに開示される焼成用治具は、電子部品等の被焼成材料を焼成する際に用いられる治具である。焼成用治具は、例えば被焼成材料を載置するための焼成用セッター、プレート、匣鉢等を包含する概念であり得る。焼成用治具は、その表面に被焼成材料が載置された状態で、被処理材料とともに焼成炉内で焼成される。ここで、被焼成材料は、例えば電子部品に用いられるセラミック材料や、車載用のMLCC等であり得る。焼成用治具は、例えば、被焼成材料が供給される供給装置と、被焼成材料を焼成する焼成炉と、焼成後の被焼成材料を回収する回収装置と、を備える焼成システムにおいて繰り返し用いられ得る。
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る焼成用治具100を模式的に示す斜視図である。
図1に示すように、焼成用治具100は、基材10と、当該基材10の少なくとも一部を被覆する被膜20と、を備えている。基材10は、被焼成材料を載置するための平板部12を有しており、当該平板部12には、複数の貫通孔30が設けられている。複数の貫通孔30は、平板部12の厚み方向(平板部12の板厚み方向、
図1のZ方向)に基材10および被膜20を貫通している。
【0019】
焼成用治具100の形状は、焼成炉や被焼成材料50(
図4参照)の種類等によって適宜調整されればよく、特に限定されない。一例として、
図1に示すように、焼成用治具100は、被焼成材料50を載置するための平板部12を有し、平面視において略四角形状である板状部材であってもよい。ここで、本明細書において「略四角形状」とは、完全な四角形状(例えば矩形状や正方形状)に加えて、2辺を接続する角部が丸められてR状になっている形状や、角部が所定の角度(例えば45°)で切り落とされてC面を有する形状等をも包含する用語である。焼成用治具100は、平面視において正方形状であってもよく、長方形状であってもよく、四角形状であって2辺が接続する角部に面取り部(例えばR面やC面等)を有する形状であってもよい。焼成用治具100は、被焼成材料50を載置するための平板部12を有するように構成されていればよく、例えば、平面視において、真円であってもよく、楕円であってもよく、多角形等であってもよい。
【0020】
焼成用治具100のサイズは、焼成炉や被焼成材料50の種類等によって適宜調整されればよく、特に限定されない。焼成用治具100の奥行方向Xの長さは、例えば、100mm以上350mm以下であることが好ましく、100mm以上330mm以下であってもよい。また、焼成用治具100の幅方向Yの長さは、奥行方向Xと同等程度であってよく、例えば、100mm以上350mm以下であることが好ましく、100mm以上330mm以下であってもよい。
【0021】
焼成用治具100の厚み(基材10と被膜20との合計厚み。以下同じ。)t1は、機械的強度を確保する観点から、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上がより好ましい。一方で、熱容量を低くする観点からは、焼成用治具100の厚みt1は、より薄いことが好ましい。かかる観点から焼成用治具100の厚みt1は、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。これにより、焼成用治具の温度追従性を好適に向上させることができる。なお、焼成用治具の厚みt1は、焼成用治具の厚みを無作為的に3点以上(例えば5点)測定した平均値(平均板厚み)とすることができる。焼成用治具の厚みは、例えば電子マイクロメータ等により測定することができる。
【0022】
焼成用治具100は、上記したとおり、基材10と被膜20とを備えている。これにより、焼成用治具100は、一定の機械的強度を有し得る。機械的強度をさらに十分に確保する観点からは、基材10は金属製であることが好ましい。基材10は、例えば、ニッケル、タングステン、ステンレス等の金属材料から構成されることが好ましい。ステンレスとしては具体的に、SUS304、SUS430、SUS410等が挙げられる。基材10を金属製とすることにより、厚みを薄くして軽量化しても、焼成用治具100の機械的強度が十分に確保される。このため、厚みを薄くして温度追従性を好適に向上させつつ、機械的強度が十分に確保される焼成用治具100を実現することができる。
【0023】
ところで、電子部品等の被焼成材料50は、性能発現性や生産性の観点から高速、短時間で焼成することが好ましい。上記した金属材料の中でもニッケルは耐熱性が高く、温度追従性も良好である。また、ニッケルは加工が容易であるという利点も有する。このため、焼成用治具100の基材10としてニッケルを主成分とした基材を用いることが好ましい。これにより、被焼成材料50を高速、短時間で焼成することができる。また、電子部品等においては、ニッケルを含む導電性ペーストが用いられ得る。このため、ニッケルを主成分とした基材10を用いることにより、コンタミ等の発生をさらに低減することができる。したがって、ニッケルを主成分として構成される基材10を備える焼成用治具100を用いることにより、高品質な電子部品(例えばMLCC)を効率よく生産することができる。
【0024】
ここで、「ニッケルを主成分とする基材」とは、基材を構成する金属成分のうち、原子数基準で最も多く含まれる成分がニッケルであることを意味する。例えば、「ニッケルを主成分とする基材」とは、該基材の50atm%以上、60atm%以上、70atm%以上、好ましくは80atm%以上、90atm%以上、あるいは95atm%以上(例えば100atm%であってもよい)がニッケルから構成される基材をいう。なお、基材に含まれる金属元素の元素数は、例えば基材の断面SEM画像に対してエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を実施して求めることができる。
【0025】
基材10の大きさや厚みは、焼成炉や被焼成材料50の種類等によって適宜調整されればよく、特に限定されない。一例として、基材10の奥行方向Xの長さは、例えば、100mm以上350mm以下であることが好ましく、100mm以上330mm以下であってもよい。また、焼成用治具100の幅方向Yの長さは、奥行方向Xと同等程度であってよく、例えば、100mm以上350mm以下であることが好ましく、100mm以上330mm以下であってもよい。基材10の厚み(平均板厚み)t2は、2mm以下であることが好ましく、1.5mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましい。また、基材10の厚みt2は、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上がより好ましい。このような厚みや大きさの基材10であれば、温度追従性が良好かつ機械的強度が好適に向上する。このため、例えば焼成炉で焼成された際の熱により、焼成用治具100の反りや表面が波状にうねることが抑制され、焼成用治具100を繰り返し使用することができる。
【0026】
焼成用治具100は、少なくとも基材10の一部を被覆する被膜20を備えている。被膜20はセラミックからなるセラミック被膜である。被膜20は、焼成用治具100に載置される被焼成材料50(例えば電子部品等)が基材10と反応することを防止する。セラミック成分としては、例えば、各種金属の酸化物からなるセラミック(酸化物系セラミック)材料であってもよいし、炭化物、方化物、窒化物、アパタイト等の非酸化物からなるセラミック材料であってもよい。セラミック成分としては、具体的に、ジルコニア、アルミナ、ムライト、シリカ、イットリア、クロミア、チタニア、コバルタイト、マグネシア、カルシア、セリア、フェライト、スピネル、コーディライト、チタン酸バリウム等が挙げられる。なかでも、セラミック成分としては、ジルコニア、アルミナ、ムライト、シリカを好ましく用いることができる。セラミック成分は、上記した中から1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
特に限定されないが、被膜20は、ジルコニア、アルミナ、ムライトおよびシリカのうち、少なくとも1種または2種以上を組み合わせたセラミック被膜であることが好ましい。なかでも、被膜20は、ジルコニアからなるジルコニア被膜であることがより好ましい。MLCC等は反応性の高い小型電子部品であるが、ジルコニアはこれら小型電子部品との耐反応性が高いため、被膜20のセラミック成分として特に好ましく用いることができる。ジルコニアとしては、安定化ジルコニアが好ましく用いられ得る。安定化ジルコニアとしては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等が挙げられる。
【0028】
図1に示す形態では、焼成用治具100の基材10は、被膜20によって両面全面を被覆(コート)されているが、被膜20の被覆の形態はこれに限定されない。例えば被膜20は、基材10の平板部12の一部のみを被覆していてもよいし、平板部12の片面を全て被覆していてもよい。被膜20は、上記したとおりセラミックから構成され、被焼成材料50が基材10と反応することを防止する。かかる観点からは、被焼成材料50が配置される部分が被膜20によって被覆されているとよい。例えば、基材10の片面全面(被焼成材料50が配置される側の表面全面)が被膜20によって被覆されていることが好ましい。被焼成材料50が基材10と反応することをさらに好適に防止する観点からは、基材10の両面全面が被膜20によって被覆されていることがより好ましい。
【0029】
被膜20の厚み(平均厚み)t3は、薄すぎる場合には基材10と被焼成材料50との反応を十分に抑制できないことがあり得る。一方で、被膜20の厚みt3が厚すぎる場合には焼成用治具100の温度追従性が低下する虞がある。このため、被膜20の片面の厚みt3は、例えば20μm以上500μm以下とすることが好ましく、30μm以上250μm以下であってもよく、50μm以上100μm以下であってもよい。なお、被膜の厚みt3は、被膜の厚み(片面厚み)を無作為的に3点以上(例えば5点)測定した平均値(平均厚み)とすることができる。被膜の厚みは、例えば焼成用治具の断面を電子顕微鏡で観察することにより求めることができる。
【0030】
特に限定されないが、被膜20は、例えば、セラミック溶射によって形成されたセラミック溶射被膜であることが好ましい。これにより、被膜20と基材10との密着性が向上し、焼成用治具100を繰り返し使用した場合でも、基材10と被焼成材料50とが反応することを好適に抑制し得る。
【0031】
ここに開示される焼成用治具100の平板部12は、複数の貫通孔30を有している。複数の貫通孔30は、平板部12の厚み方向に基材10と被膜20とを貫通する。焼成用治具100がこのような貫通孔30を有していることにより、被焼成材料50を焼成する際の通気性が向上し、高品質な電子部品等を製造することができる。
【0032】
特に限定されないが、貫通孔30は、エッチング処理によって形成されたエッチング孔であることが好ましい。エッチング孔は、例えばドリル等で形成された貫通孔よりもバリが少なく、平滑性や均一性の高い貫通孔である。また、エッチング孔は、比較的安価に形成することができ、コストの面からも好ましい。
【0033】
貫通孔30は、断面視において柱状であってもよいし、基材10の一方の表面から他方の表面に向かって断面積が小さくなるように形成された錐形状であってもよい。
図2は、ここに開示される焼成用治具100の一部を拡大した平面図である。
図2に示すように、貫通孔30の平面視における形状は、ここでは円形状(真円形状)である。ただし、貫通孔30の平面視における形状は、楕円形状であってもよいし、三角形や四角形等の多角形状であってもよい。一例として、ここに開示される焼成用治具100は、略円柱形状の貫通孔30が複数形成されている。
【0034】
特に限定されないが、貫通孔30の平均孔径r1は、例えば0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましい。また、貫通孔30の平均孔径r1は、1mm以下であることが好ましく、0.7mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよい。貫通孔30の平均孔径r1をかかるサイズとすることで、機械的強度と温度追従性とがより好適に両立される。なお、本明細書において「孔径」とは、貫通孔の開口部の最大長さのことをいう。すなわち、貫通孔30の平面視の形状が
図2に示すような円形状である場合、孔径は直径である。一方で、貫通孔30の平面視における形状が四角形である場合、孔径は対角線の長さとなる。また、「平均孔径」を算出する際には、複数(例えば100個)の貫通孔の孔径を測定し、その平均値を算出するとよい。
【0035】
また、特に限定されないが、例えば、焼成用治具100は概ね25メッシュ相当~80メッシュ相当(例えば32メッシュ相当~60メッシュ相当)の目開きを有することが好ましい。なお、「メッシュ」は、1インチ(25.4mm)あたりの網目数(線の数であり得る)を示している。
【0036】
特に限定されないが、焼成用治具100における貫通孔30のピッチP1は、0.3mm以上であることが好ましく、0.4mm以上であることがより好ましい。これによって、隣接する貫通孔30の間隔を十分に空けることができるため、焼成用治具100の機械的強度を確保することができる。一方で、焼成用治具100における貫通孔30のピッチP1は、0.9mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがより好ましい。
【0037】
図2に示すように、複数の貫通孔30は、ここでは平面視において一列ごとに位置をずらした千鳥状(ジグザグ状)に形成されている。しかしながら、複数の貫通孔30を形成する位置は、千鳥状に限定されず、必要に応じて適宜変更することができる。例えば、複数の貫通孔30は、行列状に配置されていてもよい。
【0038】
上記した焼成用治具100は、例えば以下の手順で作製することができる。ここに開示される焼成用治具100の製造方法は、例えば、基材10に複数の貫通孔30を形成する貫通孔形成工程と、複数の貫通孔30が形成された基材10に被膜20を形成する被膜形成工程と、を含み得る。ただし、ここに開示される焼成用治具100の製造方法をこれに限定することを意図したものではない。
【0039】
貫通孔形成工程では、まず、基材10としての金属板(例えばニッケル板)を用意する。金属板の厚みや大きさ等は、特に限定されず、所望する被焼成材料等に合わせて適宜選択すればよい。次いで、金属板に複数の貫通孔30を形成する。貫通孔30の形成方法は、特に限定されないが、例えば、エッチング処理(腐食処理)、レーザー加工、ドリル加工、パンチング加工等が挙げられる。なかでも、ここに開示される焼成用治具100の複数の貫通孔30は、エッチング処理によって形成することが好ましい。エッチング処理によって複数の貫通孔30を形成することにより、ドリル等を用いて形成する場合よりも、バリが低減し、平滑性の高い貫通孔30を形成することができる。また、エッチング処理は、他の加工方法と比較して工程数が少なく、比較的安価に複数の貫通孔30を形成することができるため、コストの面からも好ましい。エッチング処理は、室温または沸点以下の温度(例えば20℃~40℃程度)に加熱した硫酸、塩酸、硝酸、過酸化水素水等を用いた湿式エッチング(ウェットエッチング)が好適である。
【0040】
次いで、被膜形成工程では、複数の貫通孔30を有する基材10に対して、被膜20を形成する。被膜20の形成方法は、特に限定されないが、例えば、溶射、化学蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)や、物理蒸着法(PVD:Physical Vapor Deposition)、スパッタリング、スピンクート、ディッピング、噴霧塗装等が挙げられる。なかでも、ここに開示される焼成用治具100の被膜20は、セラミック溶射によって形成することが好ましい。これにより、基材10との密着性が良好な被膜20を形成することができる。溶射方法は特に限定されないが、例えば、大気プラズマ溶射(APS:atmospheric plasma spraying)、減圧プラズマ溶射(LPS:low pressure plasma spraying)、加圧プラズマ溶射(high pressure plasma spraying)等のプラズマ溶射法、酸素支燃型高速フレーム(High Velocity Oxygen Flame:HVOF)溶射法、ウォームスプレー溶射法および空気支燃型(High Velocity Air flame:HVAF)高速フレーム溶射法等の高速フレーム溶射等が挙げられる。
【0041】
特に限定されないが、基材10と被膜20との密着性や密着強度を向上させるために、セラミック溶射によって被膜20を形成する前に、基材10の表面を粗面化処理してから被膜20を形成するとよい。これにより、基材10の隙間に溶射されたセラミックが入り込みアンカー効果が発揮されて、より好適な密着強度を実現し得る。粗面化処理としては、例えば、#10~50程度の砥粒を用いたブラスト処理等を好ましく採用することができる。
【0042】
ここに開示される焼成用治具100は、上記したとおり、基材10と被膜20とを備え、基材10の平板部12において複数の貫通孔30を有していることにより、機械的強度と温度追従性が好適に両立されている。上述した焼成用治具100は、各種用途に利用可能であるが、特に電子部品等の被焼成材料を焼成する際に好適に用いることができる。
【0043】
上述した一実施形態は、ここに開示される焼成用治具の一例に過ぎない。ここに開示される技術は、他にも種々の形態にて実施することができる。以下、ここに開示される技術の他の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、特に言及している点以外は、上記第1実施形態に係る焼成用治具100と略同等の構成を採用することができる。
【0044】
<第2実施形態>
上記した第1実施形態において焼成用治具100は、基材10は平板部12のみを有していた。しかしながら、焼成用治具の基材は被焼成材料50を載置できる平板部を有する限り、基材の形態は特に限定されない。
図3は、第2実施形態に係る焼成用治具200を模式的に示す図である。
図4は、被焼成材料50を焼成用治具200に載置して当該焼成用治具200を積み上げた状態を模式的に示す側面図である。
図3に示すように、焼成用治具200は、平板部212および側壁214を有する基材210と、被膜220とを有しており、平板部212には、複数の貫通孔230が設けられている。複数の貫通孔230は、平板部212の厚み方向(平板部212の板厚み方向、
図3のZ方向)に基材210および被膜220を貫通している。焼成用治具200が基材210と被膜220とを有していることにより、機械的強度の向上と温度追従性との両立が好適に実現される。また、基材210の平板部212に複数の貫通孔230が設けられていることにより、通気性が向上する。
【0045】
基材210は、
図3に示すように、被焼成材料50を載置するための平板部212を有している。平板部212は、平面視において略矩形状である。基材210は、平板部212の2辺から上方に延び、相互に対向する一対の側壁214を有している。基材210が平板部212と側壁214とを有することにより、
図4に示すように、支持部材(例えばスペーサー等)を用いることなく焼成用治具200を多段積みすることができる。このため、焼成用治具200の取扱性が向上し得る。
【0046】
また、図示は省略するが、基材は、平面視において略矩形状の平板部と、該矩形状の平板部の4辺からそれぞれ上方に延びる4つの側壁と、を備えていてもよい。言い換えれば、焼成用治具200は、上面が開口した箱型の容器であってもよい。これにより、より安定して焼成用治具200を多段積みすることができる。
【0047】
側壁214の高さh(
図3の上下方向Zの長さ)は、特に限定されないが、例えば、5mm以上25mm以下であることが好ましく、10mm以上15mm以下であることがより好ましい。側壁214がかかる範囲の高さhであることにより、多段積みした場合でも通気性を良好にすることができる。
【0048】
第2実施形態に係る焼成用治具200は、少なくとも平板部212において複数の貫通孔230を有している。複数の貫通孔30は、焼成用治具200の厚み方向Zに基材210と被膜220とを貫通する。焼成用治具200がこのような貫通孔230を有していることにより、被焼成材料50を焼成する際の通気性が向上し、高品質な電子部品等を製造することができる。
【0049】
焼成用治具200の側壁214には、複数の貫通孔230が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。通気性を向上させる観点からは、側壁214は複数の貫通孔230を有していることが好ましい。例えば、側壁214において、側壁214の厚み方向(
図3のX方向)に当該側壁214を貫通する貫通孔230が複数設けられているとよい。
【0050】
上記した焼成用治具200は、例えば以下の手順で作製することができる。ここに開示される焼成用治具200の製造方法は、例えば、基材210に複数の貫通孔230を形成する貫通孔形成工程と、基材210に被膜220を形成する被膜形成工程と、基材210を成形する成形工程と、を少なくとも含み得る。ただし、ここに開示される焼成用治具200の製造方法をこれに限定することを意図したものではない。また、貫通孔形成工程と被膜形成工程と成形工程とは順不同に実施することができる。
【0051】
貫通孔形成工程および被膜形成工程は、上記第1実施形態において説明した方法に沿って略同様に実施することができる。すなわち、基材210としての金属板(例えばニッケル)を用意し、当該金属板に複数の貫通孔230を形成する。貫通孔230の形成方法は、特に限定されないが、例えば、エッチング処理(腐食処理)、レーザー加工、ドリル加工、パンチング加工等が挙げられる。なかでも、ここに開示される焼成用治具200の複数の貫通孔230は、エッチング処理によって形成することが好ましい。次いで、被膜形成工程では、複数の貫通孔230を有する基材210に対して、被膜220を形成する。被膜220の形成方法は、特に限定されないが、例えば、溶射、化学蒸着や、物理蒸着法、スパッタリング、スピンクート、ディッピング、噴霧塗装等が挙げられる。なかでも、ここに開示される焼成用治具100の被膜220は、セラミック溶射によって形成することが好ましい。また、基材210と被膜220の密着強度を向上させるために、粗面化処理をしてからセラミック溶射を実施してもよい。
【0052】
成形工程では、平板状の基材210を所望する形状に成形する。かかる成形工程は、例えば絞り加工(深絞り加工を含む)と呼ばれるプレス加工によって実施され得る。ただし、焼成用治具200の成形は、絞り加工に限定されない。例えば、複数の貫通孔230を有し、被膜220が形成された平板状の部材を複数用意して、複数の部材の端辺をそれぞれ溶接接合(例えばレーザー溶接)することによって、平板部212と側壁214とを有する治具を作製してもよい。
【0053】
上記した成形工程は、貫通孔形成工程および被膜形成工程よりも前に実施してもよい。すなわち、基材210が平板部212と側壁214を有するように成形した後で、基材210に複数の貫通孔30を形成し、基材210の少なくとも一部の表面に被膜220を形成してもよい。あるいは、貫通孔形成工程の後であって、被膜形成工程よりも前に実施してもよい。すなわち、基材210に複数の貫通孔30を形成した後、基材210を平板部212と側壁214とを有するように成形し、成形された基材210の少なくとも一部の表面に被膜220を形成してもよい。
【0054】
以上、具体的な実施形態を挙げて詳細な説明を行ったが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。また、ここでの開示は、種々変更でき、特段の問題が生じない限りにおいて、各構成要素やここで言及された各処理は適宜に省略され、または、適宜に組み合わされうる。
【0055】
なお、ここに開示される技術は以下の項目1~7を含んでいる。以下の項目1~7は、上記した実施形態に限定されない。
【0056】
項目1は、被焼成材料を載置するための焼成用治具に関する。項目1における焼成用治具は、
ニッケルを主成分とする基材と、
前記基材の少なくとも一部を被覆するセラミックからなる被膜と、
を備えており、
前記基材は、被焼成材料を載置するための平板部を有し、
前記平板部は、複数の貫通孔を有している。
【0057】
項目2は、項目1に記載された焼成用治具であって、
前記平板部は矩形状であり、前記基材は該矩形状の平板部の2辺から上方に延び相互に対向する一対の側壁をさらに有している。
【0058】
項目3は、項目1または2に記載された焼成用治具であって、
前記貫通孔がエッチング孔である。
【0059】
項目4は、項目1~3のいずれか一つに記載された焼成用治具であって、
前記貫通孔の平均孔径が0.2mm以上1mm以下である。
【0060】
項目5は、項目1~4のいずれか一つに記載された焼成用治具であって、
前記被膜は、ジルコニア、ムライト、シリカ、および、アルミナのうち少なくとも一種を含む。
【0061】
項目6は、項目1~5のいずれか一つに記載された焼成用治具であって、
前記被膜は、セラミック溶射被膜である。
【0062】
項目7は、項目1~6のいずれか一つに記載された焼成用治具であって、
平均厚みが、0.2mm以上2mm以下である。
【符号の説明】
【0063】
10 基材
12 平板部
14 側壁
20 被膜
30 貫通孔
50 被焼成材料
100 焼成用治具
200 焼成用治具
210 基材
212 平板部
214 側壁
220 被膜
230 貫通孔
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被焼成材料を載置するための焼成用治具であって、
ニッケルを主成分とする基材と、
前記基材の少なくとも一部を被覆するセラミックからなる被膜と、
を備えており、
前記焼成用治具の平均厚みが0.2mm以上2mm以下であり、
前記基材は、被焼成材料を載置するための平板部を有し、
前記平板部は、複数の通気性を有する貫通孔を有し、
前記貫通孔はエッチング孔である、焼成用治具。
【請求項2】
前記平板部は矩形状であり、前記基材は該矩形状の平板部の2辺から上方に延び相互に対向する一対の側壁をさらに有している、請求項1に記載の焼成用治具。
【請求項3】
前記貫通孔の平均孔径が0.2mm以上1mm以下である、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【請求項4】
前記被膜は、ジルコニア、ムライト、シリカ、および、アルミナのうち少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の焼成用治具。
【請求項5】
前記被膜は、セラミック溶射被膜である、請求項1または2に記載の焼成用治具。