IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 不二製油株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140399
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】打錠剤用粉末油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/12 20160101AFI20241003BHJP
   A23D 9/00 20060101ALI20241003BHJP
   A23D 9/06 20060101ALI20241003BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 5/00 20160101ALI20241003BHJP
   A23G 3/34 20060101ALI20241003BHJP
   A23L 33/185 20160101ALI20241003BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20241003BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20241003BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A23L33/12
A23D9/00 518
A23D9/06
A23D9/02
A23L5/00 L
A23L5/00 M
A23G3/34 101
A23L33/185
A61K9/20
A61K47/12
A61K47/26
A61K47/42
A61K47/22
A61K47/14
A61K9/107
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051527
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】堀 遂人
(72)【発明者】
【氏名】水嶋 茂樹
【テーマコード(参考)】
4B014
4B018
4B026
4B035
4C076
【Fターム(参考)】
4B014GB08
4B014GE06
4B014GG12
4B014GG14
4B014GL01
4B014GL07
4B014GP01
4B014GQ05
4B018LE01
4B018MD04
4B018MD11
4B018MD12
4B018MD20
4B018ME13
4B018MF02
4B018MF06
4B018MF08
4B026DC04
4B026DC05
4B026DG20
4B026DL04
4B026DP01
4B026DX05
4B035LC04
4B035LC06
4B035LC16
4B035LE01
4B035LE05
4B035LG07
4B035LG15
4B035LG19
4B035LK09
4B035LK13
4B035LP21
4C076AA17
4C076AA37
4C076BB01
4C076CC50
4C076DD26
4C076DD29
4C076DD38
4C076DD41
4C076DD46
4C076DD59S
4C076DD67
4C076EE30
4C076EE39
4C076EE41
4C076EE53
4C076FF16
4C076FF36
4C076FF43
4C076FF52
4C076FF68
4C076GG14
4C076GG45
(57)【要約】
【課題】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤用粉末油脂組成物を提供すること、また、それを用いた打錠剤及びその製造法を提供すること、更に、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤において、酸化に伴う経時的な異風味の発生を抑制する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
所定の植物性蛋白質素材の使用により、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂が得られること、かかる粉末油脂が、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤への使用に適することを見いだし、本発明を完成させた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成からなる、打錠剤用粉末油脂組成物。
1 高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。
2 高度不飽和脂肪酸を含有する油相Bを連続相とし、水溶性抗酸化剤が15~50質量%溶解した水相Aが分散している。
3 植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。
但し、該植物性蛋白質素材Fは以下a)~c)の要件を満たす。
a)固形分中の蛋白質含量が70質量%以上。
b)NSIが80以上。
c)分子量分布の測定結果で、2,000Da以上20,000Da未満の面積比率が45~90%。
【請求項2】
請求項1に記載の打錠剤用粉末油脂組成物と糖アルコールを、15:85~1:99の割合で含む、打錠剤。
【請求項3】
該糖アルコールが粉末状である、請求項2に記載の打錠剤。
【請求項4】
打錠剤が、錠菓である、請求項2又は請求項3に記載の打錠剤。
【請求項5】
以下の構成からなる打錠剤用粉末油脂組成物と糖アルコールを、15:85~1:99の割合で配合し、圧縮成形を行う、打錠剤の製造方法。
1 高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。
2 高度不飽和脂肪酸を含有する油相Bを連続相とし、水溶性抗酸化剤が15~50質量%溶解した水相Aが分散している。
3 植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。
但し、該植物性蛋白質素材Fは以下a)~c)の要件を満たす。
a)固形分中の蛋白質含量が70質量%以上。
b)NSIが80以上。
c)分子量分布の測定結果で、2,000Da以上20,000Da未満の面積比率が45~90%。
【請求項6】
該糖アルコールが粉末状である、請求項5に記載の打錠剤の製造方法。
【請求項7】
打錠剤が、錠菓である、請求項5又は請求項6に記載の打錠剤の製造方法。
【請求項8】
以下の構成からなる打錠剤用粉末油脂組成物と、糖アルコールを、15:85~1:99の割合で配合する、打錠剤の異風味抑制方法。
1 高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。
2 高度不飽和脂肪酸を含有する油相Bを連続相とし、水溶性抗酸化剤が15~50質量%溶解した水相Aが分散している。
3 植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。
但し、該植物性蛋白質素材Fは以下a)~c)の要件を満たす。
a)固形分中の蛋白質含量が70質量%以上。
b)NSIが80以上。
c)分子量分布の測定結果で、2,000Da以上20,000Da未満の面積比率が45~90%。
【請求項9】
該糖アルコールが粉末状である、請求項8に記載の打錠剤の異風味抑制方法。
【請求項10】
打錠剤が、錠菓である、請求項8又は請求項9に記載の打錠剤の異風味抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤用粉末油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)に代表される、高度不飽和脂肪酸は、その生理作用等から摂取が推奨されており、より簡便に摂取する方法が望まれている。
【0003】
特許文献1は、「粉末油脂」と称する出願であり、大豆蛋白を例として含む高蛋白微粉末を使用する旨記載されている。
特許文献2は、「粉末油脂」と称する出願であり、粉末化基材の例示として、大豆蛋白、小麦蛋白が記載されている。また、使用する油脂として魚油の記載もある。
特許文献3は「乳化食品製造用蛋白質含有油脂乳化組成物」と称する出願であり、分子量分布により特定された蛋白質について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-294275号公報
【特許文献2】特開2007-289116号公報
【特許文献3】国際公開WO2019/189810号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高度不飽和脂肪酸を簡便に摂取する方法として、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂を使用した、打錠剤による摂取が考えられる。
本発明者らは、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂を使用した打錠剤について検討を重ねた。しかしながら、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂において、酸化に伴う経時的な異風味が発生するため、打錠剤を得るうえで大きな課題となった。
【0006】
前記のように、引用文献1~引用文献3いずれの出願にも、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂については開示されていないし、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑制された打錠剤を提供するものでもなかった。
そこで本発明の目的は、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑制された、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤用粉末油脂組成物を提供すること、また、それを用いた打錠剤及びその製造法を提供すること、更に、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤において、酸化に伴う経時的な異風味の発生を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意研究を重ねたところ、所定の植物性蛋白質素材の使用により、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂が得られるという知見を得た。そして、この所定の植物性蛋白質素材を含む、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂が、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤への使用に適することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は以下の内容を含む。
(1) 以下の構成からなる、打錠剤用粉末油脂組成物。
1 高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。
2 高度不飽和脂肪酸を含有する油相Bを連続相とし、水溶性抗酸化剤が15~50質量%溶解した水相Aが分散している。
3 植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。
但し、該植物性蛋白質素材Fは以下a)~c)の要件を満たす。
a)固形分中の蛋白質含量が70質量%以上。
b)NSIが80以上。
c)分子量分布の測定結果で、2,000Da以上20,000Da未満の面積比率が45~90%。
(2) (1)の打錠剤用粉末油脂組成物と糖アルコールを、15:85~1:99の割合で含む、打錠剤。
(3) 該糖アルコールが粉末状である、(2)の打錠剤。
(4) 打錠剤が、錠菓である、(2)又は(3)の打錠剤。
(5) 以下の構成からなる打錠剤用粉末油脂組成物と糖アルコールを、15:85~1:99の割合で配合し、圧縮成形を行う、打錠剤の製造方法。
1 高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。
2 高度不飽和脂肪酸を含有する油相Bを連続相とし、水溶性抗酸化剤が15~50質量%溶解した水相Aが分散している。
3 植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。
但し、該植物性蛋白質素材Fは以下a)~c)の要件を満たす。
a)固形分中の蛋白質含量が70質量%以上。
b)NSIが80以上。
c)分子量分布の測定結果で、2,000Da以上20,000Da未満の面積比率が45~90%。
(6) 該糖アルコールが粉末状である、(5)の打錠剤の製造方法。
(7) 打錠剤が、錠菓である、(5)又は(6)の打錠剤の製造方法。
(8) 以下の構成からなる打錠剤用粉末油脂組成物と、糖アルコールを、15:85~1:99の割合で配合する、打錠剤の異風味抑制方法。
1 高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。
2 高度不飽和脂肪酸を含有する油相Bを連続相とし、水溶性抗酸化剤が15~50質量%溶解した水相Aが分散している。
3 植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。
但し、該植物性蛋白質素材Fは以下a)~c)の要件を満たす。
a)固形分中の蛋白質含量が70質量%以上。
b)NSIが80以上。
c)分子量分布の測定結果で、2,000Da以上20,000Da未満の面積比率が45~90%。
(9) 該糖アルコールが粉末状である、(8)の打錠剤の異風味抑制方法。
(10) 打錠剤が、錠菓である、(8)又は(9)の打錠剤の異風味抑制方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤への使用に適した、打錠剤用粉末油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において高度不飽和脂肪酸とは、不飽和結合を2以上有する不飽和脂肪酸のことを言う。代表的には、DHAやEPAを挙げる事ができる。
なお、本発明における高度不飽和脂肪酸は、グリセリンに1~3のいずれかの個数結合したトリグリセライド(いわゆる油脂)の状態で存在するものである。このような油脂を、本発明ではPUFA含有油脂と称することがある。
【0011】
本明細書において、打錠剤とは、打錠して得られる、医薬用の錠剤や、栄養補助食品として使用される錠菓を例示することができる。好ましい態様は、種々の風味成分と配合された場合に異風味の抑制を望まれる場合があるため、栄養補助食品として使用される錠菓である。
【0012】
(打錠剤用粉末油脂組成物)
本発明において粉末油脂組成物とは、打錠剤に使用しても、酸化に伴う経時的な異風味の発生がない粉末油脂組成物であり、打錠剤の製造に適した粉末油脂組成物のことである。本発明は、所定の粉末油脂組成物が打錠剤の製造に適するという、新たな属性を発見したことに基づく用途発明である。
また、本発明の粉末油脂組成物は、原則、常温で液状の油脂と、他の可食性成分を含有し、外見上粉末状としたものである。そのため、たとえば常温で固体の油脂を粉末状にしたようなものは、本発明でいう粉末油脂組成物には該当しない。
なお、粉末脂組成物の製造法としては、可食性成分を含む水相と、常温で液状の油脂を水中油型に乳化した後に、噴霧乾燥等により水分を蒸発させ、粉末状とするのが一般的である。
【0013】
(水溶性抗酸化剤)
本発明において水溶性抗酸化剤とは、水に溶ける性質をもつ抗酸化剤である。具体的には、アスコルビン酸、アミノ酸、各種ポリフェノール類を挙げることができる。アスコルビン酸にはアスコルビン酸塩も含む。望ましいのはアスコルビン酸ナトリウムである。各種ポリフェノール類としては、カテキンを挙げることができる。なお、カテキンを有効成分とする「茶抽出物」を使用することもできる。そして、複数の水溶性抗酸化剤を使用することもできる。
なお、酸化しやすい油脂において、その酸化を防ぐためには、油溶性の酸化防止剤を使用することが一般的である。しかし本発明においては、水溶性の抗酸化剤を使用することに特徴がある。ただし、油溶性の抗酸化剤を併用する事は妨げない。適当な抗酸化剤を使用することで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0014】
(水相A)
水相とは、原材料において、水及び水に溶解する成分を混合したものである。
本発明においては、水溶性抗酸化剤を溶解した水相を準備する。この水相を便宜的に水相Aと称する。水相Aにおける水溶性抗酸化剤の量は15~50質量%である必要があり、この量は、より望ましくは20~47質量%であり、更に望ましくは22~45質量%である。
水相A中の水溶性抗酸化剤の種類や量が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0015】
水相Aには、水溶性抗酸化剤の他に、水溶性固形分を溶解することが望ましい。水溶性抗酸化剤を含む、水相Aにおける水溶性固形分の合計量は、30~70質量%であることが望ましく、より望ましくは35~65質量%であり、更に望ましくは40~60質量%である。
水溶性抗酸化剤以外の水溶性固形分としては、各種糖質や蛋白質等の可食性成分を使用することができる。より具体的には、デキストリン、ショ糖、マルトースを挙げる事ができる。
水相A中の水溶性抗酸化剤以外の水溶性固形分の種類及び、水溶性抗酸化剤を含む水溶性固形分量が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0016】
(油相B)
油相とは、原材料において、油脂及び油脂に溶解する成分を混合したものである。
本発明においては、PUFA含有油脂を含む油相を調製する。この油相を便宜的に油相Bと称する。油相には、PUFA含有油脂の他、他の食用油脂を混合する事もできるし、最初から、食用油脂が混合されたPUFA含有油脂を使用することもできる。
油相Bにおける高度不飽和脂肪酸の量は5~40質量%であることが望ましく、より望ましくは10~35質量%であり、更に望ましくは13~30質量%である。油相Bにおける高度不飽和脂肪酸の量が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
油相Bには、他に油溶性の抗酸化剤や油溶性乳化剤を使用することができる。
【0017】
(W/O型乳化物C)
本発明では、該水相Aと、該油相Bにより、W/O型乳化物C(以下単に乳化物Cと称することがある)を調製する。ここでW/O型乳化物とは、連続相が油相であり、油相中に水相が分散した構造の乳化物である。水相Aと油相Bの量比は、水相A/油相B=0.01~0.5が望ましく、より望ましくは、0.02~0.4であり、更に望ましくは0.08~0.3である。水相Aと油相Bの量比が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0018】
乳化物Cの調製にあたっては、油相Bを攪拌しているところへ水相Aを添加し、そのまま攪拌して略乳化物とし、更に、乳化機を用いることが望ましい。乳化機には各種の装置を使用することができる。具体的には、高圧ホモゲナイザーや超音波乳化機、また、湿式ジェットミルとも言われる2液衝突型の乳化装置を用いることができる。適当な乳化装置を使用することで、所定の抗酸化油脂組成物を得ることができる。なお、高圧ホモゲナイザーを使用する場合の一般的な乳化条件は、30~40MPa、10~30パスである。一般的な乳化機を用いることで、粒子径を容易に細かく出来るのは、水相において水溶性固形分が溶解状態で多量に存在している事が関係している可能性もある。
【0019】
乳化物Cにおける水相Aの粒子径は、500nm以下であることが望ましく、より望ましくは300nm以下であり、更に望ましくは200nm以下である。
乳化粒子径の測定方法は、以下の通りである。
装置名:ゼータサイザーナノS、製造元:マルバーン
測定する油脂組成物10μl をヘキサン2mlに希釈し、測定した。 (サンプル調製後1日目の段階での測定結果を判断指標とする。)
温度: 20.0℃
平衡時間: 240秒
セル:ガラスセル
測定角度: 173°
ポジショニング法:最適ポジション選択
自動減衰の選択:有
水相の粒子径が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0020】
(水相D)
本発明では、所定の植物性蛋白質素材Fを溶解した水相Dを調製する。言うまでもなく、水相Dは、水相Aとは別の水相である。
水相Dにおける植物性蛋白質素材Fの量は3~45質量%である必要があり、より望ましくは5~40質量%であり、更に望ましくは6~35質量%である。
水相Dにおいては、適当な植物性蛋白質素材Fを、適当な量含有することで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
水相Dには、本発明の効果を妨げない範囲で、他の成分を含む事もできる。ただし、水相Dは、O/W型乳化剤や植物性蛋白質素材F以外の水溶性蛋白質を含有しないことが望ましい。
水相Dに適当な成分が適当な量含有されることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0021】
なお、本発明において、O/W型乳化剤とは、O/W型の乳化を安定させる働きのある乳化剤であり、HLBが7以上の乳化剤である。また、本発明において植物性蛋白質素材F以外の水溶性蛋白質とは、従来からある、従来法で調製された水溶性蛋白質であり、具体的には、カゼインナトリウムや、通常の製法で調製された分離大豆蛋白質を挙げる事ができる。
【0022】
(W/O/W型乳化物E)
本発明においては、上記W/O型乳化物Cと水相Dにより、W/O/W型乳化物Eを調製する。ここで水相Dは最外層に存在する水相である。
具体的なW/O/W型乳化物Eの構造は、水相Dに、W/O型乳化物Cが分散した構造を有するものである。その調製は、水相Dを攪拌しているところへ乳化物Cを徐々に添加することで可能である。
W/O型乳化物Cと水相Dの重量比は、(W/O型乳化物C)/水相D=0.15~0.5であることが望ましく、より望ましくは0.2~0.45であり、更に望ましくは0.22~0.4である。W/O型乳化物Cと水相Dの量比が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0023】
(植物性蛋白質素材F)
本発明における植物性蛋白質素材Fの由来としては、大豆、エンドウ、緑豆、ルピン豆、ヒヨコ豆、インゲン豆、ヒラ豆、ササゲ等の豆類、ゴマ、キャノーラ種子、ココナッツ種子、アーモンド種子等の種子類、とうもろこし、そば、麦、米などの穀物類、野菜類、果物類を挙げる事ができる。より望ましくは豆類であり、より具体的には、大豆、エンドウ豆、緑豆、空豆を挙げることができ、最も望ましくは大豆である。
また、該植物性蛋白質素材Fを得る上での中間原料としては、分離大豆蛋白が望ましい。
望ましい原料を用いることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0024】
a)蛋白質純度
該植物性蛋白質素材Fは、固形分中の蛋白質含量が70質量%以上である必要があり、より望ましくは75質量%以上であり、更に望ましくは80質量%以上である。固形分中の蛋白質含量が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0025】
<蛋白質純度の測定>
蛋白質純度はケルダール法により測定する。具体的には、105℃で12時間乾燥した蛋白質素材質量に対して、ケルダール法により測定した窒素の質量を、乾燥物中の蛋白質含量として「質量%」で表す。なお、窒素換算係数は6.25とする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0026】
b)蛋白質のNSI
該植物性蛋白質素材Fは、蛋白質の溶解性の指標として用いられているNSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)が80以上のものであることが必要である。より好ましくは85以上であり、更に望ましくは90以上である。
例えば、NSIが高い植物性蛋白質素材として、蛋白質が不溶化される処理、例えば酵素分解処理やミネラルの添加処理等、がされていないもの、あるいはされていたとしてもわずかであるもの、を用いることが好ましい。
なお、NSIは後述する方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(質量%)で表すものとし、本発明においては後述の方法に準じて測定された値とする。
NSIが適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0027】
<NSIの測定法>
試料3gに60mlの水を加え、37℃で1時間プロペラ攪拌した後、1400×gにて10分間遠心分離し、上澄み液(I)を採取する。次に、残った沈殿に再度水100mlを加え、再度37℃で1時間プロペラ撹拌した後、遠心分離し、上澄み液(II)を採取する。(I)液及び(II)液を合わせ、その混合液に水を加えて250mlとする。これをろ紙(NO.5)にてろ過した後、ろ液中の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素量をケルダール法にて測定し、ろ液として回収された窒素量(水溶性窒素)の試料中の全窒素量に対する割合を質量%として表したものをNSIとする。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0028】
c)分子量分布
該植物性蛋白質素材Fはゲルろ過によって分子量を測定した場合に、その分子量分布の面積比率は、2,000Da以上20,000Da未満が45~90%である必要がある。この値は、望ましくは47~85%であり、更に望ましくは50~75%である。
分子量分布が適当であることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0029】
<分子量分布の測定法>
溶離液で蛋白質素材を0.1質量%濃度に調整し、0.2μmフィルターでろ過したものを試料液とする。2種のカラム直列接続によってゲルろ過システムを組み、はじめに分子量マーカーとなる既知の蛋白質等(表1)をチャージし、分子量と保持時間の関係において検量線を求める。次に試料液をチャージし、各分子量画分の含有量比率%を全体の吸光度のチャート面積に対する、特定の分子量範囲(時間範囲)の面積の割合によって求める(1stカラム:「TSK gel G3000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社)、2ndカラム:「TSK gel G2000SWXL」(SIGMA-ALDRICH社)、溶離液:1%SDS+1.17%NaCl+50mMリン酸バッファー(pH7.0)、23℃、流速:0.4ml/分、検出:UV220nm)。基本的に、小数点以下第2桁の数値を四捨五入して求められる。
【0030】
分子量マーカー
【0031】
分子量分布調整処理または変性・分子量分布調整処理
該植物性蛋白質素材Fは、蛋白質の分解及び/又は変性と、分子量分布の調整を組み合わせることにより得られ得る。蛋白質を分解又は変性させる処理の例として、酵素処理、pH調整処理(例えば、酸処理、アルカリ処理)、変性剤処理、加熱処理、冷却処理、高圧処理、有機溶媒処理、ミネラル添加処理、超臨界処理、超音波処理、電気分解処理及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。分子量分布を調整する処理の例として、酵素処理、ろ過、ゲルろ過、クロマトグラフィー、遠心分離、電気泳動、透析及びこれらの組み合わせ等が挙げられる。蛋白質を分解又は変性させる処理と、分子量分布を調整する処理の順序及び回数は特に限定されず、蛋白質を分解又は変性させる処理を行ってから分子量分布を調整する処理を行ってもよいし、分子量分布を調整する処理を行ってから蛋白質を分解又は変性させる処理を行ってもよいし、両処理を同時に行ってもよい。また、例えば2回以上の分子量分布を調整する処理の間に蛋白質を分解又は変性する処理を行う、2回以上の蛋白質を分解又は変性する処理の間に分子量分布を調整する処理を行う、各々複数回の処理を任意の順に行う、等も可能である。なお、蛋白質を分解又は変性させる処理によって所望の分子量分布が得られる場合は、分子量分布の調整のための処理を行わなくてもよい。これらの処理を組み合わせて、複数回行う際、原料から全ての処理を連続で行ってもよいし、時間をおいてから行ってもよい。例えば、ある処理を経た市販品を原料として他の処理を行ってもよい。本明細書において、このような処理を便宜上「分子量分布調整処理」、蛋白質の変性を伴う場合は「変性・分子量分布調整処理」と称する。なお、上記特性を満たす限り、分子量分布調整処理又は変性・分子量分布調整処理を経た植物性蛋白質素材と、分子量分布調整処理又は変性・分子量分布調整処理を経ていない蛋白質を混合して、特定の植物性蛋白質素材としてもよい。この場合、両者の比率(処理を経た蛋白質素材:処理を経ていない蛋白質)は上記特性を満たす範囲で適宜調整可能であるが、質量比で例えば1:99~99:1、例えば50:50~95:5、75:25~90:10等が挙げられる。ある実施形態では、該植物性蛋白質素材Fは、分子量分布調整処理又は変性・分子量分布調整処理を経た植物性蛋白質素材からなる。
【0032】
蛋白質を分解又は変性させる処理の条件、例えば酵素、酸、アルカリ、有機溶媒、ミネラル等の濃度、温度、圧力、出力強度、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。pH調整処理の場合、例えばpH2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12の任意の値を上限、下限とするpH範囲で処理し得る。酸処理の場合、酸を添加する方法であっても、また、乳酸発酵などの発酵処理を行う方法であってもよい。添加する酸の例として、塩酸、リン酸等の無機酸、酢酸、乳酸、クエン酸、グルコン酸、フィチン酸、ソルビン酸、アジピン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。また、レモンなどの果汁、濃縮果汁、発酵乳、ヨーグルト、醸造酢などの酸を含有する飲食品を用いて酸を添加してもよい。アルカリ処理の場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリを添加し得る。変性剤処理の場合、塩酸グアニジン、尿素、アルギニン、PEG等の変性剤を添加し得る。加熱又は冷却処理の場合、加熱温度の例として、60~150℃、例えば80℃~110℃、100℃~135℃、125℃~145℃が挙げられる。冷却温度の例として、-10~-75℃、例えば-15℃~-70℃、-20℃~-45℃が挙げられる。加熱又は冷却時間の例として、5秒~200分間、例えば10秒~10分間、5~60分間、30~120分間、90~150分間等が挙げられる。高圧処理の場合、圧力の条件として、100~1,000MPa、例えば200~700MPa、300~500MPa等が挙げられる。有機溶媒処理の場合、用いられる溶媒の例として、アルコールやケトン、例えばエタノールやアセトンが挙げられる。ミネラル添加処理の場合、用いられるミネラルの例として、カルシウム、マグネシウムなどの2価金属イオンが挙げられる。超臨界処理の場合、例えば、温度約30℃以上で約7MPa以上の超臨界状態の二酸化炭素を使用して処理できる。超音波処理の場合、例えば100KHz~2MHzの周波数で100~1,000Wの出力で照射して処理し得る。電気分解処理の場合、例えば蛋白質水溶液を100mV~1,000mVの電圧を印加することにより処理し得る。具体的な実施形態において、蛋白質を分解又は変性させる処理は、変性剤処理、加熱処理、及びそれらの組み合わせから選択される。
【0033】
分子量分布を調整する処理の条件、例えば酵素の種類、ろ材の種類、回転数、電流、時間等は、当業者が適宜設定できる。使用される酵素の例として、「金属プロテアーゼ」、「酸性プロテアーゼ」、「チオールプロテアーゼ」、「セリンプロテアーゼ」に分類されるプロテアーゼが挙げられる。反応温度は20~80℃、好ましくは40~60℃で反応を行うことができる。ろ材の例として、ろ紙、ろ布、ケイ藻土、セラミック、ガラス、メンブラン等が挙げられる。ゲルろ過の担体の例として、デキストラン、アガロース等が挙げられる。遠心分離の条件の例として、1,000~3,000G、5~20分間等が挙げられる。
【0034】
(噴霧乾燥)
本発明において噴霧乾燥とは、水を含む組成物を霧状としつつ熱風を吹き付け、水を乾燥除去することにより粉末とする操作である。
本発明においては、上記W/O/W型乳化物Eを噴霧乾燥機に供し、最外層の水相Dの水分を蒸発させることで粉末油脂組成物を得る操作である。
噴霧乾燥の条件は、適宜設定することができる。すなわち、スプレードライヤーを用いる場合は、 熱風温度 130~200℃ 排風温度 60~100℃であることが望ましい。
【0035】
噴霧乾燥により得られる粉末油脂は、高度不飽和脂肪酸を5~30質量%含有する。この値は、より望ましくは7~20質量%であり、更に望ましくは8~14質量%である。
また、該粉末油脂の水分は0.5~5質量%とする事が望ましく、より望ましくは0.7~3質量%であり、更に望ましくは0.8~2質量%である。そして、噴霧乾燥前に対して減少した水分は、最外層の水相Dに由来するものであることは言うまでもない。
さらに、該粉末油脂には、植物性蛋白質素材Fを5~60質量%含有する。この値は、より望ましくは6~55質量%であり、更に望ましくは7~53質量%である。植物性蛋白質素材Fを適当な量含む事で、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する粉末油脂組成物を得ることができる。
【0036】
本発明の打錠剤は、上記の打錠剤用粉末油脂組成物と糖アルコールを、15:85~1:99の割合で含む。好ましくは13:87~1:99、より好ましくは12:88~2:98、さらに好ましくは10:90~3:97である。かかる数値範囲内とすることで、酸化安定性に優れ、酸化に伴う経時的な異風味の発生が抑えられた、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤を得ることができる。糖アルコールの割合が85未満の場合には、打錠剤の硬度が低くなる場合がある。99を超えると、打錠剤中の高度不飽和脂肪酸の含有量が低下するため、高度不飽和脂肪酸を含有する打錠剤の訴求効果が低くなるため望ましくない。
【0037】
本発明で使用する糖アルコールは、打錠剤の製造が容易なため、粉末状の糖アルコールが望ましい。粉末状であれば制限はないが、物産フードサイエンス(株)の「ソルビトールSP」、「ソルビトールFP」等を例示することができる。
【0038】
本発明の打錠剤には、本発明の機能を阻害しない範囲内において、必要に応じて前記以外の成分を配合しても良い。賦形剤、崩壊剤、滑沢剤を添加しても良く、賦形剤としては、デンプン、デキストリン、乳糖、結晶セルロース、粉末セルロース等を例示することができる。崩壊剤としては、寒天、アルファー化澱粉、クロスポビドン、カルメロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを例示することができる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルを例示することができる。その他成分として、糖類、たんぱく質、機能性素材、甘味料、酸味料、香料、果汁、栄養強化剤、着色料、保存料等を添加しても良い。
【0039】
本発明の打錠剤の製造方法は、原材料として本発明の粉末油脂組成物を必須成分として使用し、必要に応じて前記構成を採用すれば、その製造方法に制限はないが、好ましい製造方法として、本発明の打錠剤用粉末油脂組成物と糖アルコールを、15:85~1:99の割合で配合し、その他必要な成分を混合して、圧縮成形を行う製造方法を例示することができる。打錠剤の製造が容易なため、糖アルコールは粉末状であることが好ましい。上記した原材料を混合して得られた混合粉体をそのまま圧縮成形しても良いし、混合粉体を造粒機により造粒して、造粒物を圧縮成形しても良い。圧縮成形を行う打錠機は、単発式の堅型成形機、連続式のロータリー式成形機のどちらも使用可能である。また、打錠剤の形状は特に限定されない。目的、用途に応じて適宜、打錠剤の重量、打錠機の臼・杵の種類を選択して所望の打錠剤を得ることができる。
【実施例0040】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0041】
検討1 W/O型乳化物Cの調製
表1-1の配合に従いW/O型乳化物Cを調製した。具体的な調製法は「●W/O型乳化物Cの調製法」に従った。
得られたW/O型乳化物Cにおける水相粒子径をそれぞれ測定し、合わせて、表1-1に記載した。
【0042】
表1-1 W/O型乳化物Cの配合
・PUFA含有油脂1には、DHAとEPAが合計22.1質量%含有する油脂を使用した。
・PUFA含有油脂2には、DHAとEPAが合計25.4質量%含有する油脂を使用した。
・PUFA含有油脂3には、DHAとEPAが合計24.5質量%含有する油脂を使用した。
・PUFA含有油脂4には、DHAとEPAが合計22.5質量%含有する油脂を使用した。
・PUFA含有油脂5には、DHAとEPAが合計30.2質量%含有する油脂を使用した。
・ビタミンEにはタマ生化学株式会社製ミックストコフェロール製剤「イーミックス-70L」を使用した。
・乳化剤1には阪本薬品工業株式会社製ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル「CRS-75」を使用した。HLBは3.3であった。
・乳化剤2には理研ビタミン製グリセリン脂肪酸エステルである「エマルジーMS」を使用した。HLBは4であった。
・レシチンには辻製油株式会社製「SLPペーストF」を使用した。
・デキストリンには松谷化学工業株式会社製「TK-16」を使用した。
・チャ抽出物には太陽化学株式会社製「サンフェノン90S」を使用した。
【0043】
●W/O型乳化物Cの調製法
1 配合に従い、水相Aの原材料を混合し、水相Aを調製した。(水相Aが存在しない配合では、何もしなかった)。
2 配合に従い、油相Bの原材料を混合し、油相Bを調製した。
3 油相Bを攪拌しているところへ水相Aを添加して攪拌し、略乳化物Cとした。
4 略乳化物Cを高圧ホモゲナイザーにて、30~40MPa、20パス処理し、W/O型乳化物Cとした。
【0044】
検討2 水相Dの調製
表2-1の配合に従い、水相Dを調製した。調製は、水に各成分を溶解して行った。
【0045】
表2-1 水相Dの配合
・植物性蛋白質素材F-1,F-2,F-3及びZの調製法は,以下に記載した。
・カゼインナトリウムには、Fonterra社製「Sodium Caseinate 180」を使用した。
・デキストリンには松谷化学工業株式会社製「TK-16」を使用した。
・βシクロデキストリンには、Wacker Chemical社製「CAVAMAX W7 Food」を使用した。
・分離大豆蛋白質素材1には、不二製油株式会社製の一般的な分離大豆蛋白質素材である「フジプロR」を使用した。
・分離大豆蛋白質素材2には、不二製油株式会社製の部分的に酵素分解した分離大豆蛋白質素材である「フジプロCL」を使用した。
・大豆ペプチド1には、不二製油株式会社製の「ハイニュートAM」を使用した。
・加工でん粉には日澱化学株式会社製のオクテニルコハク酸デンプンナトリウムである「アミコール 乳華 D」を使用した。
・プルランには株式会社林原製「プルラン」を使用した。
・イヌリンにはフジ日本精糖株式会社製「Fuji FF」を使用した。
・チャ抽出物には太陽化学株式会社製「サンフェノン90S」を使用した。・ポリリン酸ナトリウムはキシダ化学株式会社製「ポリリン酸ナトリウム」を使用した。
・乳化剤1には、阪本薬品工業株式会社製のヘキサグリセリンモノエステル(O/W型乳化剤)である「SYグリスターMS-5S」を使用した。HLBは11.6であった。
【0046】
検討3 植物性たん白質素材の調製
以下、植物性蛋白質素材F1,F2,F3及びZの調製法を記載した。また、分離大豆蛋白質1,2及び大豆ペプチド1とあわせ、蛋白質純度、NSI,分子量分布の結果を表3-1にまとめた。
【0047】
検討3-1 植物性蛋白質素材F-1について
酵素分解分離大豆蛋白質(フジプロCL)(不二製油株式会社)水溶液に、変性剤としてアルギニンを0.5Mとなるように添加した。この水溶液を121℃10分間加熱した後、脱塩し、塩酸でpH4.5に調整し、10,000G、10分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清をMW3500透析チューブを用いて脱塩し、再度10,000G、10分間遠心分離し、上清を回収して、噴霧乾燥(熱風温度 140℃、排風温度 70℃)を行い、水分1.0%の植物性蛋白質素材F-1を得た。
【0048】
検討3-2 植物性蛋白質素材F-2について
分離大豆蛋白質(フジプロR)(不二製油株式会社)水溶液に、変性剤としてアルギニンを0.5Mとなるように添加した。この水溶液を121℃10分間加熱した後、脱塩し、塩酸でpH4.5に調整し、10,000G、10分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清をMW3500透析チューブを用いて脱塩し、再度10,000G、10分間遠心分離し、上清を回収して、噴霧乾燥(熱風温度 140℃、排風温度 70℃)を行い、水分1.0%の植物性蛋白質素材F-2を得た。
【0049】
検討3-3 植物性蛋白質素材F-3について
分離大豆蛋白質(フジプロR)(不二製油株式会社)水溶液に、変性剤として塩酸グアニジンを4Mとなるように添加した。この水溶液を121℃10分間加熱した後、冷却し、塩酸でpH4.5に調整し、10,000G、10分間遠心分離し、上清を回収した。回収した上清をMW3500透析チューブを用いて脱塩し、再度10,000G、10分間遠心分離し、上清を回収して、噴霧乾燥(熱風温度 140℃、排風温度 70℃)を行い、水分1.0%の植物性蛋白質素材F-3を得た。
【0050】
検討3-4 植物性蛋白質素材Zについて
植物性蛋白質素材Zは、国際公開WO2019/189810号の記載を参照して調製した。
【0051】
表3-1 各蛋白質素材等の分析値
【0052】
検討4 W/O/W型乳化物Eの調製
表4-1の配合に従い、W/O/W型乳化物Eの調製を行った。調製法は「●W/O/W型乳化物Eの調製法」に従った。
【0053】
表4-1 W/O/W型乳化物Eの配合
【0054】
●W/O/W型乳化物Eの調製法
配合に従い、各水相Dを攪拌しているところへ、各乳化物Cを添加し、更に攪拌してW/O/W型乳化物とした。
【0055】
検討5噴霧乾燥と評価
検討4で得られた各W/O/W型乳化物Eをそれぞれ噴霧乾燥に供した。噴霧乾燥の条件は、熱風150℃、排風90℃であった。
得られた粉末油脂を、表5-1にまとめた。
次に、得られた各粉末油脂について、以下の評価を行った。結果を表5-1に合わせて記載した。
【0056】
○噴霧乾燥後の水分の測定
各試作後の粉体の水分は常圧加熱乾燥法(105℃、5時間)により求めた。
【0057】
○試作直後の風味評価
各試作後の粉体を、室温にて1時間放置した後、パネラー5名の合議により、以下の基準で採点を行った。
5点 高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭は感じられなかった。
4点 2名以下のパネラーが高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭を感じるが、問題とはならないレベルと判断されたもの。
3点 わずかに高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭が感じられるものの、許容範囲と判断されたもの。
2点 高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭が感じられ、許容範囲を超えると判断されたもの。
1点 かなり強い、高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭が感じられたもの。
(保管後の風味において、3点以上を合格と判断した。 )
【0058】
○保存後の風味評価
各試作後の粉体をポリエチレン製の袋へ入れ、(窒素置換は行わず)40℃、60日間遮光保管した後、「○試作直後の風味評価」と同様の方法で評価を行った。
【0059】
○保管後の抽出油POVの測定
1 各試作後の粉体をポリエチレン製の袋へ入れ、(窒素置換は行わず)40℃、60日間遮光保管した。
2 各サンプル30gへ、ノルマルヘキサン 300gを入れ、濾別、ヘキサン層へ油分を抽出した。これを
3 ロータリーエバポレーター用いた減圧蒸留によりヘキサンを除去し、抽出油を得た。
4 各抽出油の過酸化物価(POV)を、日本基準油脂分析試験法 2.5.2.1-2013 過酸化物価(酢酸ーイソオクタン法)に準じ測定した。
9以下を合格と判断した。
【0060】
表5-1 各粉末油脂
【0061】
考察
・比較例5-1は従来法により調製された粉末油脂であったが、試作直後の段階で、風味は不合格であった。
・比較例5-2は、従来法による粉末油脂の調製において、水相に水溶性抗酸化剤を添加したものであったが、試作直後の段階で、風味は不合格であった。
・比較例5-3は、比較例5-2に対して,水相に添加する水溶性抗酸化剤の量を増やしたものであった。調製直後の段階では、風味は合格であったが、保管試験を行った後は、風味は不合格となった。
・比較例5-4は、二重乳化の状態としたものだが、保存後の風味は不合格であった。
・比較例5-5は、比較例5-4と同様に二重乳化としたもので、更に、油相にレシチンを添加することで乳化の安定を図ったものであるが、保存後の風味は不合格であった。
・比較例5-6は、比較例5-4と同様に二重乳化としたもので、水相Dにカゼインナトリウムを添加せず、デキストリンと加工でん粉を添加したものだが、保存後の風味は不合格であった。
・比較例5-7は、比較例5-4と同様に二重乳化としたもので、水相Dにカゼインナトリウム、デキストリン、プルランを添加したものだが、保存後の風味は不合格であった。
・比較例5-8は、比較例5-7において、プルランの代わりにイヌリンを添加したものであるが、保存後の風味は不合格であった。
・比較5-9,5-10,5-11は、それぞれ、従来からある水溶性蛋白質素材及び大豆ペプチド素材を添加したものであるが、保存後の風味は不合格であった。
・比較例5-12は、国際公開WO2019/189810号を参考に調製した植物世蛋白質素材Zを使用したものだが、保存後の風味は不合格であった。
・実施例5-1~5-16では、所定の植物性蛋白質素材Fを所定量添加したものであるが、保存後の風味も良好であって、打錠剤の使用に適した粉末油脂が得られた。
【0062】
検討6 粉末油脂組成物を使用した打錠剤の評価
上記で得られた粉末油脂を本発明の粉末油脂組成物として使用した。
表6-1の配合に従い、記載された原材料を混錬した後、回転式ロータリー打錠機を用いて打錠した。打錠条件は打錠剤直径8.0mm、R7.5、重量230mg/粒で行い打錠剤(アップル風味錠菓)を得た。
得られた打錠剤について、以下の評価を行った。結果を表6-2に記載した。
【0063】
表6-1 打錠剤の配合
・糖アルコールには、物産フードサイエンス株式会社製「ソルビトール FP50M」を使用した。
・微粒二酸化ケイ素は、富士シリシア化学株式会社製を使用した。
・ステアリン酸カルシウムは、堺化学工業株式会社製を使用した。
・香料には、高砂香料株式会社製「アップルフレーバー」を使用した。
【0064】
〇試作直後の打錠剤の風味評価
各試作後の打錠剤を、パネラー5名の合議により、以下の基準で採点を行った。
5点 高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭は感じられなかった。
4点 2名以下のパネラーが高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭を感じるが、問題とはならないレベルと判断されたもの。
3点 わずかに高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭が感じられるものの、許容範囲と判断されたもの。
2点 高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭が感じられ、許容範囲を超えると判断されたもの。
1点 かなり強い、高度不飽和脂肪酸の酸化に伴う異臭が感じられたもの。
(保管後の風味において、3点以上を合格と判断した。 )
【0065】
〇保存後の打錠剤の風味評価
各試作後の打錠剤をポリエチレン製の袋へ入れ、(窒素置換は行わず)30℃、180日間遮光保管した後、「○試作直後の打錠剤の風味評価」と同様の方法で評価を行った。
【0066】
〇打錠剤の硬度評価
木屋式デジタル硬度計(株式会社藤原製作所製「KTH-20」)にて打錠剤10粒の硬度を測定し、平均値を算出した。10kgf以上を合格と判断した。
【0067】
表6-2 打錠剤の評価結果
【0068】
考察
・比較例6-1は、粉末油脂試作直後の段階で、風味が不合格であった比較例5-1の粉末油脂を使用した打錠剤であったが、試作直後の打錠剤の風味も不合格であった。
・保存後の風味も良好であった実施例5-1の粉末油脂を使用した、実施例6-1~6-2打錠剤は、保存後の打錠剤の風味も良好であった。
・実施例6-1~6-2では、打錠剤の硬度も良好であった。