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特開2024-140400ガス測定器及びガス測定器の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140400
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ガス測定器及びガス測定器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/00 20060101AFI20241003BHJP
   G01N 27/12 20060101ALI20241003BHJP
   G01N 27/04 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N30/00 C
G01N27/12 D
G01N27/12 B
G01N27/12 C
G01N27/04 F
B01J20/285 T
B01J20/285 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051528
(22)【出願日】2023-03-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】水谷 学世
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 誉久
(72)【発明者】
【氏名】澤田 和明
(72)【発明者】
【氏名】野田 俊彦
【テーマコード(参考)】
2G046
2G060
【Fターム(参考)】
2G046AA18
2G046AA23
2G046AA24
2G046BA01
2G046BA09
2G046BB02
2G046BH02
2G046CA02
2G046DC18
2G046EA10
2G046FA01
2G046FA02
2G046FB01
2G046FE39
2G060AA01
2G060AB15
2G060AE19
2G060AF07
2G060BA01
2G060BB14
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】所定の異性体と、所定の異性体とは別の異性体とを判別できる技術を提供する。
【解決手段】ガス測定器は、複数の異性体を持つ化合物を含むサンプルガスが導入され、複数の異性体のうち所定の異性体を吸着する誘導体を含む吸着部材を有し、サンプルガスを通過させるフィルタと、その内部にフィルタを通過したサンプルガスが導入されるガス室と、ガス室の内部に配置され、化合物を検知するセンサと、を備える。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の異性体を持つ化合物を含むサンプルガスが導入され、前記複数の異性体のうち所定の異性体を吸着する誘導体を含む吸着部材を有し、前記サンプルガスを通過させるフィルタと、
その内部に前記フィルタを通過した前記サンプルガスが導入されるガス室と、
前記ガス室の前記内部に配置され、前記化合物を検知するセンサと、
を備える、ガス測定器。
【請求項2】
前記誘導体は、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の置換基を含む、請求項1に記載のガス測定器。
【請求項3】
前記誘導体は、セルロースから構成される、請求項1又は2に記載のガス測定器。
【請求項4】
前記誘導体は、アミロースから構成される、請求項1又は2に記載のガス測定器。
【請求項5】
前記フィルタは、前記サンプルガスが通過する複数の開口を含むメッシュ部材を有し、
前記吸着部材は、前記メッシュ部材の表面を被膜する、請求項1又は2に記載のガス測定器。
【請求項6】
前記メッシュ部材の前記吸着部材に吸着された前記所定の異性体を検知する別のセンサを更に備える、請求項5に記載のガス測定器。
【請求項7】
前記センサ及び前記別のセンサと通信可能に構成される制御部を更に備え、
前記制御部は、前記センサが検知した前記サンプルガスにおける前記化合物の濃度と、前記別のセンサが検知した前記サンプルガスにおける前記化合物の濃度との割合を出力する、請求項6に記載のガス測定器。
【請求項8】
前記センサは、前記化合物が付着する多孔質構造の検知部材を有する、請求項6に記載のガス測定器。
【請求項9】
前記フィルタは、最小幅が15μm以下の開口を含む、請求項1又は2に記載のガス測定器。
【請求項10】
前記メッシュ部材は、多孔質構造を有する、請求項8に記載のガス測定器。
【請求項11】
請求項5に記載のガス測定器の製造方法であって、
金属から構成されるメッシュ部材を準備する工程と、
前記メッシュ部材に陽極酸化処理を施す工程と、
陽極酸化処理が施された前記メッシュ部材に、前記吸着部材を被膜する工程と、を含む、ガス測定器の製造方法。
【請求項12】
請求項1に記載のガス測定器の製造方法であって、
金属から構成される基板を準備する工程と、
前記基板に陽極酸化処理を施す工程と、
陽極酸化処理が施された前記基板に、前記化合物を検知する検知部材を形成する工程と、を含む、ガス測定器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガス測定器及びガス測定器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、基板及び基板上に形成された酸化スズ膜から構成されるセンサを備えるガス測定器を開示する。このガス測定器は、酸化スズ膜の表面に吸着した一酸化炭素と酸化スズ膜の酸素とが反応することで変化する抵抗値に基づいて、一酸化炭素を検知する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-090324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サンプルガスに含まれる化合物は、複数の異性体を持つ場合がある。複数の異性体のそれぞれは、同一の元素組成を有し、かつ、原子の結合状態及び立体配置が互いに異なる。異性体は、互いに等しい分子量を有する。特許文献1に記載のガス測定器は、センサの表面に吸着したガス分子とセンサとの間の酸化還元反応に基づいてガス分子を検知する。酸化還元反応は複数の異性体のそれぞれで共通であるため、特許文献1に記載のガス測定器では、サンプルガスが異性体の関係にある化合物のうち何れの異性体を含むのかを判別できない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一側面に係るガス測定器は、フィルタ、ガス室及びセンサを備える。フィルタは、複数の異性体を持つ化合物を含むサンプルガスが導入され、吸着部材を有する。吸着部材は、誘導体を含む。誘導体は、複数の異性体のうち所定の異性体を吸着する。フィルタは、サンプルガスを通過させる。ガス室は、その内部にフィルタを通過したサンプルガスが導入される。センサは、ガス室の内部に配置される。センサは、化合物を検知する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、所定の異性体と、所定の異性体とは別の異性体とを判別できる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態に係るガス測定器の斜視図である。
図2図2は、実施形態に係るガス測定器の断面構成を模式的に示す図である。
図3図3の(A)は、別のセンサが化合物を検知した一例を示すグラフである。図3の(B)は、センサが化合物を検知した一例を示すグラフである。
図4図4は、実施形態に係るガス測定方法を示すフローチャートである。
図5図5は、変形例に係るガス測定方法を示すフローチャートである。
図6図6は、変形例に係るガス測定器の製造方法を示すフローチャートである。
図7図7は、別の変形例に係るガス測定器の製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0009】
(条項1) 本開示の一側面に係るガス測定器は、フィルタ、ガス室及びセンサを備える。フィルタは、複数の異性体を持つ化合物を含むサンプルガスが導入され、吸着部材を有する。吸着部材は、誘導体を含む。誘導体は、複数の異性体のうち所定の異性体を吸着する。フィルタは、サンプルガスを通過させる。ガス室は、その内部にフィルタを通過したサンプルガスが導入される。センサは、ガス室の内部に配置される。センサは、化合物を検知する。
【0010】
このガス測定器では、フィルタの吸着部材が含む誘導体は、複数の異性体のうち所定の異性体を吸着する。ガス室には、フィルタによって所定の異性体がフィルタリングされたサンプルガスが導入される。したがって、センサは、所定の異性体とは別の異性体をサンプルガスから検知できる。結果として、このガス測定器は、サンプルガスに含まれる化合物について、吸着部材に吸着される所定の異性体と、所定の異性体とは別の異性体とを判別できる。
【0011】
(条項2) 条項1に記載のガス測定器において、誘導体は、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の置換基を含んでいてもよい。
【0012】
(条項3) 条項1又は2に記載のガス測定器において、誘導体は、セルロースから構成されていてもよい。
【0013】
(条項4) 条項1又は2に記載のガス測定器において、誘導体は、アミロースから構成されていてもよい。
【0014】
(条項5) 条項1~4の何れか一項に記載のガス測定器において、フィルタは、メッシュ部材を有してもよい。メッシュ部材は、サンプルガスが通過する複数の開口を含む。吸着部材は、メッシュ部材の表面を被膜していてもよい。サンプルガスが通過する複数の開口を含むメッシュ部材の表面は、所定の異性体を吸着する吸着部材に被膜されている。したがって、メッシュ部材を通過するサンプルガスの所定の異性体は吸着部材に吸着されるので、所定の異性体とは別の異性体を含むサンプルガスがガス室に導入される。結果として、このガス測定器は、サンプルガスに含まれる化合物について、所定の異性体と、所定の異性体とは別の異性体とを判別できる。
【0015】
(条項6) 条項5に記載のガス測定器において、メッシュ部材の吸着部材に吸着された所定の異性体を検知する別のセンサを更に備えてもよい。このガス測定器は、別のセンサによって、サンプルガスに含まれる所定の異性体も検知できる。
【0016】
(条項7) 条項6に記載のガス測定器において、センサ及び別のセンサと通信可能に構成される制御部を更に備えてもよい。制御部は、センサが検知したサンプルガスにおける化合物の濃度と、別のセンサが検知したサンプルガスにおける化合物の濃度との割合を出力してもよい。センサは、複数の異性体のうち所定の異性体とは別の異性体を検知する。したがって、制御部は、センサの出力からセンサが検知している別の異性体の量を取得できる。別のセンサは、複数の異性体のうち所定の異性体を検知する。したがって、制御部は、別のセンサの出力からセンサが検知している所定の異性体の量を取得できる。結果として、制御部は、別の異性体の量と所定の異性体の量とを比較できるので、ガス測定器は、サンプルガスが含む化合物の所定の異性体と別の異性体との割合を出力できる。
【0017】
(条項8) 条項1~7の何れか一項に記載のガス測定器において、センサは、化合物が付着する多孔質構造の検知部材を有してもよい。多孔質構造を有する検知部材の表面積は、多孔質構造を有さない検知部材の表面積よりも大きい。大きな表面積の検知部材には、より多くの化合物が吸着する。したがって、このガス測定器は、センサの精度を向上し得る。
【0018】
(条項9) 条項1~8の何れか一項に記載のガス測定器において、フィルタは、最小幅が15μm以下の開口を含んでもよい。当該フィルタは、開口によってガス分子をふるい分けることができる。したがって、このガス測定器は、センサが検知する化合物をふるい分けることができる。
【0019】
(条項10) 条項1~9の何れか一項に記載のガス測定器において、メッシュ部材は、多孔質構造を有していてもよい。多孔質構造を有するメッシュ部材の表面積は、多孔質構造を有さないメッシュ部材の表面積よりも大きい。大きな表面積のメッシュ部材には、より多くの所定の異性体が吸着する。したがって、このガス測定器は、センサの精度を向上し得る。
【0020】
(条項11) 条項5~7の何れか一項に記載のガス測定器の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を備える。
(1)金属から構成されるメッシュ部材を準備する工程。
(2)メッシュ部材に陽極酸化処理を施す工程。
(3)陽極酸化処理が施されたメッシュ部材に、吸着部材を被膜する工程。
【0021】
このガス測定器の製造方法では、フィルタは、陽極酸化処理が施されたメッシュ部材と、メッシュ部材を被覆する吸着部材によって構成される。陽極酸化処理は、金属から構成されるメッシュ部材に多孔質構造を形成する。多孔質構造が形成されたメッシュ部材に、所定の異性体を吸着する誘導体を含む吸着部材が被膜される。多孔質構造を有するフィルタの表面積は、多孔質構造を有さないフィルタの表面積よりも大きい。したがって、この製造方法は、大きな表面積のフィルタを備えるガス測定器を、安価かつ簡易に製造できる。
【0022】
(条項12) 条項1~10の何れか一項に記載のガス測定器の製造方法は、以下の(1)~(3)の工程を備える。
(1)金属から構成される基板を準備する工程。
(2)基板に陽極酸化処理を施す工程。
(3)陽極酸化処理が施された基板に、化合物を検知する検知部材を形成する工程。
【0023】
このガス測定器の製造方法では、センサは、陽極酸化処理が施された基板と、基板に形成された検知部材とによって構成される。陽極酸化処理は、金属から構成される基板に多孔質構造を形成する。多孔質構造が形成された基板に、化合物を検知する多孔質構造の検知部材が形成される。多孔質構造の検知部材を有するセンサの表面積は、多孔質構造の検知部材を有さないセンサの表面積よりも大きい。したがって、この製造方法は、大きな表面積のセンサを備えるガス測定器を、安価かつ簡易に製造できる。
【0024】
[本開示の実施形態の例示]
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0025】
図1は、実施形態に係るガス測定器1の斜視図である。図2は、実施形態に係るガス測定器1の断面構成を模式的に示す図である。ガス測定器1は、サンプルガスに含まれる化合物を測定する。本実施形態では、ガス測定器1は、植物が放出する植物ホルモンを測定する。植物ホルモンとは、例えば、αピネン、βピネン、リモネン、ボルネオール、又はメントールである。
【0026】
植物ホルモンは、複数の異性体を含む場合がある。異性体には、構造異性体又は立体異性体などの種々の異性体が含まれる。複数の異性体のそれぞれは、同一の元素組成を有し、かつ、原子の結合状態及び立体配置が互いに異なる。一例として、ボルネオールは、一対の光学異性体を構成する(-)ボルネオール及び(+)ボルネオールを含んでいる。植物ホルモンが複数の異性体を含む場合には、複数の異性体のうち特定の異性体が植物に作用することがある。この場合、植物が発生している植物ホルモンを、植物に作用する特定の異性体と、特定の異性体とは別の異性体とを判別することで、この植物の状態を検知できる。以下では、(-)ボルネオールを特定の異性体(所定の異性体とは別の異性体)、(+)ボルネオールを特定の異性体とは別の異性体(所定の異性体)の例として、実施形態に係るガス測定器1について説明する。
【0027】
本実施形態では、ガス測定器1は、半導体デバイスとして提供される。ガス測定器1は、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールを含むサンプルガスを測定する。図1及び図2に示されるように、ガス測定器1は、フィルタ10、ケース20及びセンサ30を備える。ケース20は、その内部にガス室Sを画成する。ケース20は、例えば、一対の二酸化ケイ素(SiO2)の層21,22と、一対の二酸化ケイ素の層21,22の間に位置するケイ素(Si)の層23とによって構成されている。二酸化ケイ素の層21は、ケース20の上面を構成する。二酸化ケイ素の層22は、ケース20の下面を構成する。
【0028】
ケース20の二酸化ケイ素の層21には、ガス室Sに連通する開口が形成されている。フィルタ10は、その開口を覆うように配置されている。ガス室Sの内部には、フィルタ10を通過したサンプルガスが導入される。図2に示されるように、フィルタ10は、吸着部材11及びメッシュ部材12を有している。メッシュ部材12は、サンプルガスが通過する複数の開口を含んでいる。一例として、図1に示されるように、メッシュ部材12は、所定の方向(Y方向)に延在する複数のスリットを形成する櫛状を呈している。この場合、複数の開口は、複数のスリットから構成されている。メッシュ部材12は、例えば、アルミニウムから形成されている。なお、メッシュ部材12は、格子状を呈していてもよい。
【0029】
吸着部材11は、誘導体を含んでいる。本実施形態では、誘導体は、セルロースから構成されている。誘導体は、アミノ基及びカルボキシル基からなる群より選択される1以上の置換基を含んでいてもよい。アミノ基及びカルボキシル基は、アミノ酸とペプチド結合を形成する。一例として、吸着部材11は、その一部がアミノ基によって置換されたセルロースから構成されている。なお、誘導体は、アミロースであってもよい。
【0030】
吸着部材11は、メッシュ部材12の表面を被膜している。図2に示されるように、本実施形態では、吸着部材11は、櫛状を呈するメッシュ部材12を構成する複数の櫛歯のそれぞれを被膜している。サンプルガスは、吸着部材11によって被膜された複数の櫛歯の間のスリットを通過してガス室Sに導入される。図2に示されるように、ガス測定器1は、ポンプ50を備えていてもよい。ポンプ50は、ガス室Sを減圧する。減圧されたガス室Sには、サンプルガスが容易に導入される。
【0031】
吸着部材11は、複数の異性体を持つ化合物から所定の異性体を吸着できる。本実施形態では、吸着部材11は、サンプルガスに含まれる(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールを吸着する。例えば、サンプルガスに含まれる(+)ボルネオールは、サンプルガスがメッシュ部材12の開口を通過するときに、メッシュ部材12を被膜している吸着部材11に吸着される。ガス室Sには、(+)ボルネオールがフィルタリングされたサンプルガスが導入される。
【0032】
センサ30は、ガス室Sの内部に配置されている。センサ30は、複数の異性体を持つ化合物を検知する。センサ30は、一例として、基板31と、基板31の上に形成された検知部材32とを含んでいる。本実施形態では、センサ30は、半導体式であって、ポリアニリンなどの有機膜、及び酸化スズ(SnO)などの酸化物半導体を含むVOC(Volatile Organic Compounds)センサである。センサ30は、VOCセンサに限定されず、ガスの検知が可能なセンサであればよい。なお、ガス室Sの内部に複数のセンサが配置されていてもよい。複数のセンサは、それぞれ異なる化合物を検知してもよい。
【0033】
センサ30は、サンプルガスに含まれるボルネオールを検知する。ガス室Sに導入されたサンプルガスが含むボルネオールは、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールが吸着部材11に吸着されている。したがって、センサ30は、(-)ボルネオールを検知できる。
【0034】
ガス測定器1では、吸着部材11が含むセルロースは、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールを吸着する。ガス室Sには、フィルタ10によって(+)ボルネオールがフィルタリングされたサンプルガスが導入される。したがって、センサ30は、サンプルガスから(-)ボルネオールを検知できる。結果として、ガス測定器1は、サンプルガスに含まれるボルネオールについて、吸着部材11に吸着される(+)ボルネオールと、(-)ボルネオールとを判別できる。
【0035】
ガス測定器1は、センサ30とは別のセンサ30Aを更に備えてもよい。別のセンサ30Aは、メッシュ部材12の吸着部材11に吸着された所定の異性体を検知する。図2に示されるように、一例として、別のセンサ30Aは、メッシュ部材12の吸着部材11を検知部材とするセンサである。別のセンサ30Aは、例えばVOCセンサとして構成され得る。別のセンサ30Aは、VOCセンサに限定されず、ガスの検知が可能なセンサであればよい。吸着部材11は、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールを吸着する。したがって、別のセンサ30Aは、その表面の吸着部材11に吸着された(+)ボルネオールを検知できる。この場合、ガス測定器1は、サンプルガスに含まれる(+)ボルネオールと(-)ボルネオールとをそれぞれ検知できる。
【0036】
図2に示されるように、ガス測定器1は、制御部40を更に備えていてもよい。制御部40は、センサ30及び別のセンサ30Aと通信可能に構成されている。制御部40は、センサ30が検知した(-)ボルネオールの濃度と、別のセンサ30Aが検知した(+)ボルネオールの濃度との割合を出力する。
【0037】
図3の(A)は、一例として、別のセンサ30Aが(+)ボルネオールを検知したときの出力と時間との関係を示すグラフである。図3の(B)は、一例として、センサ30が(-)ボルネオールを検知したときの出力と時間との関係を示すグラフである。本実施形態では、制御部40は、別のセンサ30A及びセンサ30のそれぞれの出力と時間との関係に基づいて、サンプルガスに含まれる(-)ボルネオールの濃度と(+)ボルネオールの濃度との間の比を出力する。一例として、制御部40は、図3の(A)に示される出力のピークP1と出力のベースラインL1とが画成する面積A1と、図3の(B)に示される出力のピークP2と出力のベースラインL2とが画成する面積A2との間の比を出力する。面積A1は、別のセンサ30Aが検知した(+)ボルネオールの量に相当する。面積A2は、センサ30が検知した(-)ボルネオールの量に相当する。面積A1と面積A2との割合は、サンプルガスに含まれる(-)ボルネオールの濃度と(+)ボルネオールの濃度との割合に対応する。
【0038】
制御部40は、校正用のガスによって校正されていてもよい。例えば、所定の濃度の(-)ボルネオールと所定の濃度の(+)ボルネオールとを含む校正用のガスを検知したときの面積A1及び面積A2と、サンプルガスを検知したときの面積A1及び面積A2とを比較することによって、制御部40は、サンプルガスに含まれる(-)ボルネオール及び(+)ボルネオールのそれぞれの濃度を出力してもよい。
【0039】
フィルタ10は、最小幅が15μm以下の開口を含んでいてもよい。当該開口の最小幅は、例えば、15μm以下、5μm以上である。フィルタ10は、一例として、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)である。フィルタ10は、フィルタ10を通過するガス分子をふるい分けることができる。フィルタ10の開口の最小幅が15μm以下の場合には、フィルタ10はより適切にガス分子をふるい分けできる。フィルタ10は、メッシュ部材12の開口の大きさを調節することによって、フィルタ10を通過するガス分子をふるい分けてもよい。この場合、フィルタ10は、開口の大きさを調整する駆動部又は温度調整部を含んでいる。フィルタ10は、フィルタ10を通過するガス分子に電界を作用させることによって、ガス分子をふるい分けてもよい。この場合、フィルタ10は、ガス分子に電界を作用させる電極板又はコイルを含んでいる。フィルタ10は、フィルタ10を通過するガス分子を化学的に反応させることによって、ガス分子をふるい分けてもよい。この場合、フィルタ10は、ガス分子を化学的に反応させる触媒部又は発熱部を含んでいる。
【0040】
図4は、実施形態に係るガス測定方法Mを示すフローチャートである。ガス測定方法Mは、ガス測定器1によって実行される。ガス測定方法Mでは、最初に、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールを含むサンプルガスが吸引される(ステップS10)。例えば、ポンプ50がガス室Sを減圧することによって、サンプルガスは、ガス室Sに吸引される。吸引されたサンプルガスは、フィルタ10を通過する。
【0041】
次に、サンプルガスに含まれる(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールが吸着部材11に吸着される(ステップS20)。例えば、(+)ボルネオールは、サンプルガスがメッシュ部材12の開口を通過するときに、メッシュ部材12を被膜している吸着部材11に吸着される。
【0042】
次に、(+)ボルネオールが別のセンサ30Aに検知される(ステップS30)。例えば、別のセンサ30Aは、その表面を被膜する吸着部材11に吸着された(+)ボルネオールを検知する。
【0043】
次に、サンプルガスにおける(+)ボルネオールの濃度が測定される(ステップS40)。例えば、制御部40は、所定の濃度の(+)ボルネオールを含む校正用のガスを検知したときの面積A1と、サンプルガスを検知したときの面積A1とを比較することによって、サンプルガスにおける(+)ボルネオールの濃度を測定する。
【0044】
次に、フィルタ10を通過したサンプルガスがガス室Sに導入される(ステップS50)。ガス室Sに導入されたサンプルガスは、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールが吸着部材11に吸着されている。
【0045】
次に、(-)ボルネオールがセンサ30に検知される(ステップS60)。ガス室Sに導入されたサンプルガスが含むボルネオールは、(+)ボルネオール及び(-)ボルネオールのうち(+)ボルネオールが吸着部材11に吸着されているので、センサ30は、(-)ボルネオールを検知する。
【0046】
次に、サンプルガスにおける(-)ボルネオールの濃度が測定される(ステップS70)。例えば、制御部40は、所定の濃度の(-)ボルネオールを含む校正用のガスを検知したときの面積A2と、サンプルガスを検知したときの面積A2とを比較することによって、サンプルガスにおける(-)ボルネオールの濃度を測定する。
【0047】
最後に、サンプルガスに含まれる(-)ボルネオールの濃度と(+)ボルネオールの濃度との割合が出力される(ステップS80)。例えば、制御部40は、ステップS70において測定された(-)ボルネオールの濃度と、ステップS40において測定された(+)ボルネオールの濃度とをそれぞれ出力してもよい。
【0048】
図5は、ステップS70の変形例に係るガス測定方法MAを示すフローチャートである。ガス測定方法MAでは、最初に、(-)ボルネオールの濃度が閾値を超えたか否かが判定される(ステップS71)。例えば、制御部40は、予め設定された所定の濃度の閾値と、サンプルガスにおける(-)ボルネオールの濃度とを比較して、(-)ボルネオールの濃度が所定の濃度の閾値を超えるか否かを判定する。(-)ボルネオールの濃度が所定の濃度の閾値を超えない場合には、ガス測定方法MAは終了する。
【0049】
次に、(-)ボルネオールの濃度が所定の濃度の閾値を超える場合には、(-)ボルネオールの濃度が閾値を超えたことが出力される(ステップS72)。例えば、制御部40は、作業者などに(-)ボルネオールの濃度が閾値を超えたことを報知する。
【0050】
次に、(-)ボルネオールは、異常を示す異性体であるか否かが判定される(ステップS73)。例えば、制御部40は、植物の異常を示す植物ホルモンの情報を含む表を記憶している。植物の異常を示す植物ホルモンとは、一例として、植物が変形する可能性を示す植物ホルモンである。制御部40は、センサ30が検知した情報と、この表の情報とを照会することによって、異常を示す異性体か否かを判定する。(-)ボルネオールが異常を示す異性体ではない場合には、ガス測定方法MAは終了する。なお、制御部40は、植物の異常を示さない植物ホルモンの情報を含む表を記憶していてもよい。植物の異常を示さない植物ホルモンとは、一例として、植物の繁殖状態を示す植物ホルモンである。
【0051】
最後に、(-)ボルネオールが異常を示す異性体である場合には、作業手順が出力される(ステップS74)。例えば、制御部40は、作業者等に、植物を治療するための作業手順を表示する。
【0052】
以上、種々の例示的実施形態について説明してきたが、本開示は上記実施形態に限定されることなく、様々な省略、置換、及び変更がなされてもよい。フィルタ10は、MEMSには限定されない。フィルタ10は、電場、磁場及び熱などのエネルギーによって、ガス分子をふるい分けてもよい。
【0053】
メッシュ部材12は、多孔質構造を有していてもよい。例えば、メッシュ部材12は、陽極酸化被膜を含んでいてもよい。陽極酸化被膜は、1nm以上、10μm以下の複数の細孔を含んでいる。多孔質構造を有するメッシュ部材12の表面積は、多孔質構造を有さないメッシュ部材12の表面積よりも大きい。大きな表面積のメッシュ部材12には、より多くの(+)ボルネオールが吸着する。したがって、メッシュ部材12が多孔質構造を有する場合には、センサの精度は向上し得る。
【0054】
図6は、メッシュ部材12が陽極酸化被膜を有する場合のガス測定器の製造方法MM1を示すフローチャートである。最初に、メッシュ部材12が準備される(ステップS100)。例えば、アルミニウムから形成されているメッシュ部材12が準備される。メッシュ部材12は、銅から形成されていてもよい。
【0055】
次に、メッシュ部材12が陽極酸化処理される(ステップS110)。具体的には、水酸化ナトリウム水溶液を用いてメッシュ部材12を洗浄する工程、希硝酸を用いてメッシュ部材12に付着した水酸化ナトリウムを中和する工程、過塩素酸及び酢酸の混合液を用いてメッシュ部材12を電解研磨する工程、希硫酸を用いてメッシュ部材12を陽極酸化する工程、及びメッシュ部材12を水で洗浄して乾燥する工程が実行される。メッシュ部材12を陽極酸化する工程では、希硫酸の温度を20℃程度とし、かつ、陽極と陰極との間の距離を約8cmとすることが望ましい。
【0056】
最後に、メッシュ部材12に吸着部材11が被膜される(ステップS120)。例えば、誘導体を含む溶液がメッシュ部材12の表面に塗布される。塗布された溶液が乾燥することによって、メッシュ部材12の表面に吸着部材11が被膜される。
【0057】
センサ30は、多孔質構造の検知部材32を有していてもよい。例えば、基板31は、陽極酸化被膜を含んでいてもよい。陽極酸化被膜を含む基板31上には、多孔質構造を有する検知部材32が形成される。多孔質構造を有する検知部材32の表面積は、多孔質構造を有さない検知部材32の表面積よりも大きい。大きな表面積の検知部材32には、より多くの(-)ボルネオールが吸着する。したがって、検知部材32が多孔質構造を有する場合には、センサの精度は向上し得る。
【0058】
図7は、基板31が陽極酸化被膜を有する場合のガス測定器の製造方法MM2を示すフローチャートである。最初に、基板31が準備される(ステップS200)。例えば、アルミニウムから形成されている基板31が準備される。基板31は、銅から形成されていてもよい。次に、基板31が陽極酸化処理される(ステップS210)。最後に、基板31に検知部材32が形成される(ステップS220)。
【符号の説明】
【0059】
1…ガス測定器、10…フィルタ、11…吸着部材、12…メッシュ部材、30,30A…センサ、31…基板、32…検知部材、40…制御部、MM1,MM2…製造方法、S…ガス室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7