(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140403
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】複合体
(51)【国際特許分類】
C03C 17/04 20060101AFI20241003BHJP
C03C 8/04 20060101ALI20241003BHJP
C03C 8/02 20060101ALI20241003BHJP
C03C 8/20 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C03C17/04 A
C03C8/04
C03C8/02
C03C8/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051531
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 麻子
(72)【発明者】
【氏名】林 博道
(72)【発明者】
【氏名】小島 厚輝
【テーマコード(参考)】
4G059
4G062
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA08
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4G062PP09
(57)【要約】
【課題】基材と加飾膜との密着性を向上させる技術の提供
【解決手段】ここで開示される複合体1は、ガラス製の基材10と、基材10の表面に設けられた加飾膜12と、を備えている。加飾膜12は、無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでいる。加飾膜12は、基材10の30℃から300℃までの熱膨張率CTE
Bよりも大きい、30℃から300℃までの熱膨張率CTE
Aを有している。熱膨張率CTE
Aと熱膨張率CTE
Bとの差δCTEは、1.0×10
-6/K以上7.0×10
-6/K以下である。加飾膜12は、多孔質な膜である。ここで、基材10と加飾膜12との平均接合割合A
aveは、25%以上50%以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス製の基材と、
前記基材の表面に設けられた加飾膜と、
を備える複合体であって、
前記加飾膜は、
無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでおり、
前記基材の30℃から300℃までの熱膨張率CTEBよりも大きい、30℃から300℃までの熱膨張率CTEAを有し、前記熱膨張率CTEAと前記熱膨張率CTEBとの差δCTEは、1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下であり、
多孔質な膜であり、
ここで、前記加飾膜の厚み方向の断面における前記基材と前記加飾膜との界面について、無作為に抽出された複数視野についての電子顕微鏡による観察画像の各々において、前記基材と前記加飾膜とが接合した部分の長さの合計Xと、前記基材と前記加飾膜とが接合していない部分の長さの合計Yとを用いて、以下の数式(1):
接合割合A(%)=(前記合計X)/(前記合計X+前記合計Y)×100 (1)
に基づいて算出された接合割合Aの算術平均値である、前記基材と前記加飾膜との平均接合割合Aaveは、25%以上50%以下である、複合体。
【請求項2】
前記加飾膜全体を100体積%としたときに、該加飾膜は、20体積%以上70体積%以下の前記ガラスマトリックスを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記ガラスマトリックスは、全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、ケイ素成分と、ホウ素成分と、アルミニウム成分と、亜鉛成分と、アルカリ金属成分と、のうちの少なくとも3つの成分をそれぞれ10mol%以上含むガラスで構成されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
前記ガラスマトリックスは、
全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のSiO2と、10mol%以上のB2O3と、10mol%以上のZnOとを含むSiO2-B2O3-ZnO系ガラス、または、
全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のLi2Oと、10mol%以上のAl2O3と、10mol%以上のSiO2とを含むLi2O-Al2O3-SiO2系ガラス、
で構成されている、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
前記平均接合割合Aaveは、35%以下である、請求項1に記載の複合体。
【請求項6】
前記差δCTEに前記平均接合割合Aaveを乗じて得られた数値は、25×10-6以上60×10-6以下である、請求項5に記載の複合体。
【請求項7】
さらに無機フィラーを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス製の基材と、該基材の表面に設けられた加飾膜と、を備える複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器、セラミックタイル、ガラス等の無機基材に、顔料とガラスとを含む組成物をインクジェット印刷、スクリーン印刷等することによって画像を描写し、その後、焼付けて、無機基材を装飾する技術がある。この装飾では、顔料は、例えば、ガラスによって無機基材に固着する。
【0003】
これに関して、例えば、特許文献1には、ガラスプレートと、該ガラスプレートの表面に設けられた多孔質の遮光層と、を有する遮光性ガラスプレートが開示されている。ガラスプレートは、透明な低膨張結晶化ガラスからなる。遮光層は、無機顔料粉末40~90重量%と、ガラスフラックス10~60重量%とからなる。この遮光性ガラスプレートでは、隣接する無機顔料粉末同士、または、無機顔料粉末とガラスプレートとの間は、ガラスフラックスが溶融、固化したガラスによって接着している。この公報では、かかる構成の遮光性ガラスプレートは、機械的強度と耐熱衝撃性とに優れると記載されている。
【0004】
また、特許文献2で開示される装飾ガラス基板は、低膨張ガラス基板の表面に着色用組成物が絵付けされ、焼成されることによって、模様が形成されている。この着色用組成物は、鉛を含まない所定の構成からなるガラスフラックスと、着色顔料とを有するものである。この公報では、かかる装飾ガラス基板は、鉛を含んでおらず、クラックの発生が抑制されており、優れた防汚性、耐酸性および耐アルカリ性を有すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-273342号公報
【特許文献2】特開2002-255584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、基材の熱膨張率と、加飾膜の熱膨張率とは、相互に異なることがある。基材の熱膨張率と加飾膜の熱膨張率とに差がある場合において、加飾膜と基材との密着性を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで開示される複合体は、ガラス製の基材と、前記基材の表面に設けられた加飾膜と、を備える。加飾膜は、無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでいる。また、加飾膜は、基材の30℃から300℃までの熱膨張率CTEBよりも大きい、30℃から300℃までの熱膨張率CTEAを有している。熱膨張率CTEAと熱膨張率CTEBとの差δCTEは、1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下である。また、加飾膜は、多孔質な膜である。ここで、基材と加飾膜との平均接合割合Aaveは、25%以上50%以下である。平均接合割合Aaveは、加飾膜の厚み方向の断面における基材と加飾膜との界面について、無作為に抽出された複数視野についての電子顕微鏡による観察画像の各々において、基材と加飾膜とが接合した部分の長さの合計Xと、基材と加飾膜とが接合していない部分の長さの合計Yとを用いて、以下の数式(1):
接合割合A(%)=(合計X)/(合計X+合計Y)×100 (1)
に基づいて算出された接合割合Aの算術平均値である。かかる構成の複合体では、加飾膜と基材との密着性が高められている。
【0008】
ここで開示される複合体の好ましい一態様では、加飾膜全体を100体積%としたときに、加飾膜は、20体積%以上70体積%以下のガラスマトリックスを含む。かかる構成によると、加飾膜と基材との密着性がより高められる。また、基材に対して、無機顔料がより安定的に保持される。
【0009】
ここで開示される複合体の好ましい他の一態様では、ガラスマトリックスは、全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、ケイ素成分と、ホウ素成分と、アルミニウム成分と、亜鉛成分と、アルカリ金属成分と、のうちの少なくとも3つの成分をそれぞれ10mol%以上含むガラスで構成されている。かかる構成によると、加飾膜に適度な強度が付与され、基材への密着性が高められる。
【0010】
ここで開示される複合体の好ましい他の一態様では、ガラスマトリックスは、SiO2-B2O3-ZnO系ガラス、または、Li2O-Al2O3-SiO2系ガラス、で構成されている。SiO2-B2O3-ZnO系ガラスは、全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のSiO2と、10mol%以上のB2O3と、10mol%以上のZnOとを含むガラスである。Li2O-Al2O3-SiO2系ガラスは、全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のLi2Oと、10mol%以上のAl2O3と、10mol%以上のSiO2とを含むガラスである。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果がよりよく実現される。
【0011】
ここで開示される複合体の好ましい他の一態様では、平均接合割合Aaveは、35%以下である。かかる構成によると、ここで開示される技術の効果がよりよく実現される。
【0012】
ここで開示される複合体の好ましい他の一態様では、差δCTEに平均接合割合Aaveを乗じて得られた数値は、25×10-6以上60×10-6以下である。かかる構成によると、加飾膜の耐衝撃性をより高めることができる。
【0013】
ここで開示される複合体は、さらに、無機フィラーを含んでもよい。かかる構成によると、所望の平均接合割合Aaveをより実現しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図4】
図4は、インクジェット装置1000の概略図である。
【
図5】
図5は、インクジェットヘッド50の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ここで開示される技術の一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、特にここで開示される技術を限定することを意図したものではない。ここで開示される技術は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、同一の作用を奏する部材・部位には、適宜に同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、数値範囲を示す「P~Q」の表記は、特に言及されない限りにおいて「P以上Q以下」を意味するとともに、「Pを上回り、かつ、Qを下回る」の意味をも包含する。
【0016】
図1は、複合体1の断面図である。
図1には、加飾膜12の厚み方向Zに沿った断面図が示されている。
図1に示されているように、複合体1は、基材10と加飾膜12とを備えている。
図1に示された形態では、基材10は、板状(基板)である。ただし、基材10の形状は、特に限定されず、必要に応じて適宜変更されうる。基材10は、例えば、ガラス製である。基材10は、例えば、耐熱性が高く、熱膨張率(coefficient of thermal expansion)が低いガラスで構成されていることが好ましい。基材10は、例えば、30℃から300℃までの熱膨張率が1.0×10
-6/K以下の低膨張ガラスで構成されているとよい。かかる低膨張ガラスとしては、例えば、石英ガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。なお、以下、説明の便宜上、基材10の30℃から300℃までの熱膨張率(すなわち、基材10を構成するガラスの熱膨張率)を、「熱膨張率CTE
B」とも称する。また、本明細書において、基材10と加飾膜12とに関して「熱膨張率」とは、示差膨張方式で測定された熱膨張率をいう。熱膨張率の測定では、例えば、後述の試験例に記載されているとおり、市販の分析装置が用いられる。ここでは、予め定められた形状(寸法)に成形された試験片を、所定の雰囲気中(例えば、大気雰囲気中)に置き、30℃から300℃までの温度範囲で加熱することによって、試験片の熱膨張率が測定される。あるいは、熱膨張率としては、必要に応じて、メーカー等の公称値が採用されてもよい。
【0017】
図1に示されているように、加飾膜12は、基材10の表面に設けられている。この実施形態では、加飾膜12は、基材10の片面に設けられている。加飾膜12は、基材10における一の面の全体に設けられてもよいし、一部に設けられてもよい。加飾膜12は、ここでは、基材10の表面に付与された加飾用組成物が焼成されることによって設けられた、焼成膜である。
【0018】
図2は、
図1における枠Aの拡大図である。
図2には、基材10と加飾膜12との境界の断面構造が拡大されて示されている。加飾膜12は、例えば、無機顔料とガラスマトリックスとを含みうる。
【0019】
無機顔料は、例えば、金属化合物であるとよい。金属化合物としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、プラセオジム(Pr)、クロム(Cr)、アンチモン(Sb)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、および、カドミウム(Cd)のうちの少なくとも一つを含む金属化合物、あるいは、複合金属化合物が挙げられる。無機顔料は、耐熱性の観点から、上述した金属の酸化物であるとよく、なかでも、ジルコニウム(Zr)を含むZr系複合金属酸化物であることが好ましい。Zr系複合金属酸化物としては、例えば、ZeSiO4が挙げられる。
【0020】
インクジェット印刷では、例えば、シアンと、イエローと、マゼンタとの3色のインクが組み合わせられて、所望の色の画像が描画されることがある。Zr系複合金属酸化物を無機顔料として用いる場合、例えば、Zr系複合金属酸化物に所定の金属元素をドープすることによって、3色の無機顔料を得ることができる。シアンのZr系複合金属酸化物としては、例えば、ZrSiO4-V(バナジウム)がある。また、イエローのZr系複合金属酸化物としては、ZrSiO4-Pr(プラセオジム)がある。また、マゼンタのZr系複合金属酸化物としては、ZrSiO4-Fe(鉄)がある。これに加えて、ブラックのインクが用いられることがある。ブラックのインクに用いられる無機顔料としては、例えば、FeCr系の複合金属化合物(例えばスピネルブラック)が挙げられる。なお、無機顔料としては、従来から用いられているものが特に制限なく用いられてもよい。
【0021】
無機顔料は、例えば、粒子状であるとよい。無機顔料の平均粒子径は、特に限定されず、例えば、インクジェット印刷機の種類、吐出口の口径等に応じて、適宜設定されうる。無機顔料の平均粒子径は、概ね0.01μm~2μmであり、0.1μm~1μmであることが好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径」とは、レーザー回折・光散乱法で測定した体積基準の粒度分布における、粒子径が小さい側から累積50%に相当する粒子径(D50径)をいう。
【0022】
加飾膜12における無機顔料の割合は、特に限定されない。加飾膜12全体を100体積%としたときに、無機顔料の割合は、例えば10体積%~70体積%であり、20体積%~60体積%であることが好ましい。
【0023】
ガラスマトリックスは、例えば、無機顔料、後述する無機フィラー等を基材10に接着させやすくする機能を有し、加飾膜の耐久性向上に寄与しうる。加飾膜12は、例えば、600℃~1000℃(好ましくは、700℃~900℃)の温度条件下で加飾用組成物の印刷膜を焼成することによって得られうる。このため、ガラスマトリックスは、ガラス転移点(Tg)が400℃以上のガラスで構成されているとよい。ガラスマトリクスを構成するガラスのガラス転移点は、425℃以上が好ましく、450℃以上がより好ましい。一方、かかるガラス転移点は、例えば700℃以下であり、600℃以下が好ましく、550℃以下がより好ましい。また、ガラスマトリクスを構成するガラスの屈伏点(Ts)は、例えば450℃以上であり、500℃以上が好ましい。一方、かかる屈伏点は、例えば750℃以下であり、700℃以下が好ましく、650℃以下がより好ましく、600℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、ガラス転移点と屈伏点とは、市販の熱分析装置(Thermomechanical Analysis:TMA)を用いることによって測定されたものをいう。また、必要に応じてメーカーの公称値が用いられてもよい。
【0024】
ガラスマトリックスは、例えば、全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、ケイ素成分と、ホウ素成分と、アルミニウム成分と、亜鉛成分と、アルカリ金属成分と、のうちの少なくとも3つの成分をそれぞれ10mol%以上含むガラスで構成されているとよい。ガラスマトリックスを上述の成分から3つ以上の成分で構成することによって、加飾膜12に適度な強度を付与して加飾膜の形状等を所望の状態に維持するとともに、複合体1の強度を高めることができる。また、基材10への加飾膜12の密着性が高められうる。
【0025】
ケイ素成分は、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)からなる。ケイ素成分は、例えば、ガラスマトリックスの骨格を構成する成分であり、ガラスマトリックスの熱安定性を高める機能、ガラスマトリックスの軟化点を高める機能等を有している。ホウ素成分は、例えば、酸化ホウ素(B2O3)からなる。ホウ素成分は、例えば、ガラスマトリックスの軟化点を低くする機能等を有している。ホウ素成分は、例えば、焼成中の加飾用組成物の流動性を高めることに寄与しうる。このため、ホウ素成分は、基材10への加飾膜12の定着性を高めることができる。アルミニウム成分は、例えば、酸化アルミニウム(アルミナ)(Al2O3)からなる。アルミニウム成分は、例えば、ガラスマトリックスの流動性を制御する機能、ガラスマトリックスの付着安定性を高める機能等を有している。亜鉛成分は、例えば、酸化亜鉛(ZnO)からなる。亜鉛成分は、例えば、ガラスマトリックスの熱安定性を高める機能、ガラスマトリックスの軟化点を高める機能等を有している。アルカリ金属成分は、例えば、酸化リチウム(Li2O)と、酸化ナトリウム(Na2O)と、酸化カリウム(K2O)とのいずれか少なくとも一つからなる。アルカリ金属成分は、ガラスマトリックスの軟化点を低くする機能等を有している。アルカリ金属成分は、例えば、焼成中の加飾用組成物の流動性を高めることに寄与しうる。このため、アルカリ金属成分は、基材10への加飾膜12の定着性を高めることができる。
【0026】
ガラスマトリックスを構成するガラスとしては、例えば、SiO2-B2O3-ZnO系ガラスが好ましく用いられうる。SiO2-B2O3-ZnO系ガラスとは、ここでは、ガラス全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のSiO2と、10mol%以上のB2O3と、10mol%以上のZnOとを含むガラスをいう。SiO2-B2O3-ZnO系ガラスを用いることによって、SiO2を骨格として有し、B2O3による基材10への定着性向上効果と、ZnOによる熱安定性向上効果とがともに実現された加飾膜12を実現することができる。
【0027】
ガラスマトリックスを構成するガラスの好ましい他の例としては、Li2O-Al2O3-SiO2系ガラスが挙げられる。Li2O-Al2O3-SiO2系ガラスとは、ここでは、ガラス全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のLi2Oと、10mol%以上のAl2O3と、10mol%以上のSiO2とを含むガラスをいう。Li2O-Al2O3-SiO2系ガラスを用いることによって、SiO2を骨格として有し、Li2Oによる基材10への定着性向上効果と、Al2O3による基材10への付着安定性向上効果とがともに実現された加飾膜12を実現することができる。
【0028】
ガラスマトリックスは、上述の成分に加えて、さらにBaO、MgO、CaO、SrO等のアルカリ土類金属成分;TiO2、ZrO2、Fe2O3等の遷移金属成分;Au2O3等の貴金属成分;等のその他の成分を含んでもよい。
【0029】
ガラスマトリックスを構成するガラスとして好ましく用いられるSiO2-B2O3-ZnO系ガラスは、例えば、以下の組成:
Li2O 3mol%~5mol%;
B2O3 20mol%~25mol%;
Na2O 0mol%~0.15mol%;
Al2O3 1.5mol%~3.5mol%;
SiO2 37mol%~43mol%;
K2O 0mol%~0.05mol%;
ZnO 22mol%~28mol%;
SrO 0mol%~0.05mol%;
BaO 3mol%~5mol%;および、
Au2O3 0.15mol%~0.35mol%;
からなる。
【0030】
ガラスマトリックスを構成するガラスとして好ましく用いられるSiO2-B2O3-ZnO系ガラスの他の例は、以下の組成:
Li2O 4mol%~6mol%;
B2O3 30mol%~35mol%;
Na2O 0.05mol%~0.25mol%;
Al2O3 3mol%~5mol%;
SiO2 10mol%~15mol%;
K2O 0mol%~0.2mol%;
CaO 0mol%~0.1mol%;
ZnO 35mol%~40mol%;
SrO 0mol%~0.1mol%;および、
BaO 5mol%~7mol%;
からなる。
【0031】
ガラスマトリックスを構成するガラスとして好ましく用いられるLi2O-Al2O3-SiO2系ガラスは、例えば、以下の組成:
Li2O 14mol%~18mol%;
B2O3 5mol%~10mol%;
Na2O 0.2mol%~0.7mol%;
Al2O3 13.5mol%~15.5mol%;
SiO2 55mol%~60mol%;
K2O 0.1mol%~0.4mol%;
CaO 0.05mol%~0.25mol%;および、
ZrO2 0.5mol%~0.7mol%;
からなる。
【0032】
加飾膜12におけるガラスマトリックスの割合は、特に限定されない。加飾膜12全体を100体積%としたときに、ガラスマトリックスの割合は、例えば20体積%~70体積%であり、30体積%~67.5体積%が好ましく、40体積%~65体積%がより好ましい。加飾膜12におけるガラスマトリックスの割合を上記範囲に設定することによって、基材10への加飾膜12の密着性を高めることができる。また、無機顔料等がより安定的に加飾膜12中に保持されうる。
【0033】
特に限定するものではないが、加飾膜12は、必要に応じて無機フィラーを含んでもよい。無機フィラーを含むことによって、後述する加飾膜12と基材10との接合割合を、より容易に所望の範囲に調整することができる。このため、延いては、基材10への加飾膜12の密着性が高められるとともに、複合体1の強度が高められうる。無機フィラーの種類は、特に限定されず、この種の用途で用いられる種々の無機フィラーが特に制限なく選択されうる。かかる無機フィラーとしては、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、低熱膨張結晶化ガラス等からなる無機フィラーが挙げられる。無機フィラーの平均粒子径は、例えば、0.1μm~1μm(好ましくは、0.15μm~0.5μm)であるとよい。
【0034】
加飾膜12における無機フィラーの割合は、特に限定されない。加飾膜12全体を100体積%としたときに、無機フィラーの割合は、例えば、0体積%超過でもよく、3体積%以上でもよく、5体積%以上でもよく、10体積%以上でもよく、あるいは、30体積%以下でもよく、25体積%以下でもよい。加飾膜12における無機フィラーの割合を上記範囲に設定することによって、基材10に対する加飾膜12の接合割合をより容易に所望の範囲に調整することができる。なお、加飾膜12における無機フィラーの含有は必須ではない。このため、加飾膜12は無機フィラーを含まないことがある。この場合、加飾膜12における無機フィラーの割合は、0体積%である。
【0035】
加飾膜12の30℃から300℃までの熱膨張率(以下、「熱膨張率CTEA」ともいう。)は、例えば、基材の熱膨張率CTEBよりも大きい。また、熱膨張率CTEAと熱膨張率CTEBとの差δCTEは、例えば、1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下でありうる。
【0036】
上述のように、基材と加飾膜との複合体において、基材の熱膨張率と加飾膜の熱膨張率とに差がある場合、本発明者の知見によれば、例えば、基材上に付与された加飾用組成物を焼成して加飾膜を形成する際に、加飾膜にクラックや剥離が生じやすくなっている。また、加飾膜にクラックや剥離が生じない場合でも、基材と加飾膜との接合部が起点となって、複合体に損傷が生じやすくなっている。そこで、本発明者は、焼成における加飾用組成物の膨張を緩衝することによって、基材と加飾膜との密着性を高めて加飾膜にクラックや剥離が生じるのを抑制することを検討した。
【0037】
加飾膜12は、ここでは、多孔質な膜である。
図2に示されているように、加飾膜12では、空隙12sが形成されている。
図2に示された加飾膜12では、空隙12sは、加飾膜12内に形成されている(空隙12s1)。また、空隙12sは、基材10と加飾膜12との界面に形成されている(空隙12s2)。このため、基材10における加飾膜が設けられた領域には、基材10と加飾膜12とが接合している領域と、基材10と加飾膜12とが接合していない領域とがある。
【0038】
加飾膜12と基材10との平均接合割合Aaveは、例えば、25%以上50%以下であるとよい。平均接合割合Aaveが上記範囲にあることによって、焼成時に加飾用組成物が膨張しても、かかる膨張した分を隙間(ここでは、基材10と加飾用組成物との界面における、両者が接合していない部位)が緩衝しうる。このため、加飾膜12におけるクラックや剥離の発生が抑制され、延いては、基材10と加飾膜12との密着性が向上し、複合体1の強度が高められる。複合体1の強度をより向上させる観点から、平均接合割合Aaveは、45%以下が好ましく、40%以下がより好ましく、35%以下がさらに好ましい。
【0039】
本明細書における「基材と加飾膜との平均接合割合Aave」は、加飾膜の厚み方向における断面を電子顕微鏡(electron scanning microscope;SEM)で観察することによって、測定される。平均接合割合Aaveは、加飾膜の厚み方向の断面における基材と加飾膜との界面について、無作為に抽出された複数(概ね5~10、例えば10程度)の視野におけるSEM観察画像の各々において、基材と加飾膜とが接合した部分の長さの合計Xと、基材と加飾膜とが接合していない部分の長さの合計Yとを用いて、以下の数式(1):
接合割合A(%)=(合計X)/(合計X+合計Y)×100 (1)
に基づいて算出された接合割合Aの算術平均値である。
【0040】
なお、一例として、
図2における基材10と加飾膜12との接合割合Aは、以下のように求められる。
図2では、基材10と加飾膜12との界面について、基材10と加飾膜12とが接合している部分は4カ所あり、基材10と加飾膜12とが接合していない部分(すなわち、空隙12s2となっている部分)が3カ所ある。これについて、上記数式(1)を用いると、(x1+x2+x3+x4)/{(x1+x2+x3+x4)+(y1+y2+y3)}×100との数式によって、接合割合Aが算出される。なお、
図2に示されているように、x1~x4は、基材10の表面に沿う、基材10と加飾膜12とが接合している部分の長さである。また、y1~y3は、基材10の表面に沿う、基材10と加飾膜12とが接合していない部分(すなわち、空隙12s2となっている部分)の長さである。
【0041】
複合体1の製造方法は、例えば、加飾膜12を形成するための加飾用組成物を基材10にインクジェット印刷することを包含しうる。加飾用組成物は、ここでは、インクジェットインクであるとよい。まず、加飾用組成物の材料として、ガラス粉末と、無機顔料と、必要に応じて無機フィラーと、光硬化性モノマーと、任意の添加剤とを用意する。ガラス粉末としては、例えば、加飾膜12を形成した際に、上述したガラスマトリックスの特徴を有するガラス粉末を用意するとよい。また、無機顔料と無機フィラーとしては、上述したものを用意するとよい。また、光硬化性モノマーとしては、この種の用途で用いられる光硬化性モノマーを用意するとよい。
【0042】
図3は、撹拌粉砕機100の断面図である。加飾用組成物の作製では、例えば、
図3に示されているような撹拌粉砕機100を用いて、スラリーの撹拌と、無機固形分(ガラス粉末、無機顔料、および無機フィラー)の粉砕を行う。ここでは、加飾用組成物(スラリー)に粉砕用ビーズ(例えば、直径0.5mmのジルコニアビーズ)を添加した後に、供給口110から撹拌容器120内にスラリーを供給する。撹拌容器120内には、複数の撹拌羽132を有したシャフト134が収容されている。かかるシャフト134の一端はモータ(図示省略)に取り付けられており、当該モータを稼働させてシャフト134を回転させることによって複数の撹拌羽132でスラリーを送液方向Pの下流側に送り出しながら撹拌する。この撹拌の際に、スラリーに添加された粉砕用ビーズによって無機固形分が粉砕され、微粒化した無機固形分がスラリー中に分散される。
【0043】
そして、送液方向Pの下流側まで送り出されたスラリーは、フィルター140を通過する。これによって、粉砕用ビーズや微粒化されなかった無機固形分がフィルター140によって捕集され、微粒化された無機固形分が十分に分散されたインクジェットインクが排出口150から排出される。このときのフィルター140の孔径を調節することによって、インクジェットインク中の無機固形分の最大粒子径を制御することができる。
【0044】
次いで、基材10にインクジェットインク(加飾用組成物)を付与する。本明細書において、「基材(基材10)にインクジェットインク(加飾用組成物)を付与する」とは、基材(基材10)にインクジェットインク(加飾用組成物)を直接付与する態様のみならず、転写紙等を用いて間接的にインクジェットインク(加飾用組成物)を基材(基材10)に付与する態様を含む。以下では、インクジェットインクを用いて、ガラス基材用転写紙を製造する方法(転写紙の表面に画像を描画する印刷方法)を説明する。
図4は、インクジェット装置1000の概略図である。
図5は、インクジェットヘッド50の断面図である。
【0045】
インクジェットインクは、
図4に示されているインクジェット装置1000のインクジェットヘッド50内に貯蔵される。インクジェット装置1000は、4個のインクジェットヘッド50を備えている。各々のインクジェットヘッド50には、ブラック(K)、シアン(C)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)の異なる4色のインクが貯蔵される。インクジェットインクは、ブラック(K)、シアン(C)、イエロー(Y)、およびマゼンタ(M)のインクジェットヘッド50に貯蔵される。そして、各々のインクジェットヘッド50は、印刷カートリッジ40の内部に収容されている。印刷カートリッジ40は、ガイド軸20に挿通されており、当該ガイド軸20の軸方向Xに沿って往復動するように構成されている。また、図示は省略するが、インクジェット装置1000は、ガイド軸20を垂直方向Yに移動させる移動手段を備えている。これによって、転写紙の台紙Wの所望の位置に向けてインクジェットヘッド50からインクを吐出することができる。
【0046】
図4に示されているインクジェットヘッド50には、例えば、
図5に示されているようなピエゾ型のインクジェットヘッドが用いられる。ピエゾ型のインクジェットヘッド50には、ケース52内にインクを貯蔵する貯蔵部53が設けられており、貯蔵部53が送液経路55を介して吐出部56と連通している。吐出部56には、ケース52外に開放された吐出口57が設けられているとともに、吐出口57に対向するようにピエゾ素子58が配置されている。インクジェットヘッド50では、ピエゾ素子58を振動させることによって、吐出部56内のインクは、吐出口57から台紙W(
図3参照)に向けて吐出される。
【0047】
そして、
図4に示されているインクジェット装置1000のガイド軸20には、UV照射手段30が取り付けられている。UV照射手段30は、印刷カートリッジ40に隣接するように配置されており、印刷カートリッジ40の往復動に伴って移動し、インクが付着した台紙Wに紫外線を照射する。これによって、台紙Wの表面に付着した直後にインクが硬化する。このため、十分な厚みのインクを転写紙(台紙W)の表面に定着させることができる。
【0048】
次いで、インクジェットインクを基材10の表面に付着させる。ここでは、上述の転写紙を介して基材10にインクジェットインクを付着させる。なお、他の態様において、インクジェット装置を用いて、基材10の表面に直接インクジェットインクを付着させる場合は、上述した手順と同様にして、基材10の表面にインクジェットインクを吐出させるとよい。
【0049】
次いで、インクジェットインクが付着された基材10を、450℃~1200℃(好ましくは500℃~1000℃、より好ましくは550℃~850℃)の範囲内で最高焼成温度が設定される条件で焼成する。これによって、モノマーが硬化した樹脂成分が焼失するとともに、無機固形分中のガラス粉末が融解する。そして、焼成後に冷却されることによって、融解したガラス粉末が固化し、無機顔料が基材10表面に定着する。このようにして、加飾膜12が基材10上に形成され、複合体1が製造される。
【0050】
複合体1は、特に限定するものではないが、例えば、各種の食器、各種の調理器具、各種の装飾器等、加飾膜で構成された加飾部を有する物品として用いられうる。
【0051】
上述のとおり、ここで開示される複合体1は、ガラス製の基材10と、基材10の表面に設けられた加飾膜12と、を備えている。加飾膜12は、無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでいる。加飾膜12は、基材10の熱膨張率CTEBよりも大きい熱膨張率CTEAを有している。熱膨張率CTEAと熱膨張率CTEBとの差δCTEは、1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下である。加飾膜12は、多孔質な膜である。ここで、加飾膜12の厚み方向Zの断面における基材10と加飾膜12との界面について、無作為に抽出された複数視野におけるSEM画像の各々において、基材10と加飾膜12とが接合した部分の長さの合計Xと、基材10と加飾膜12とが接合していない部分の長さの合計Yとを用いて、
以下の数式(1):
接合割合A(%)=(合計X)/(合計X+合計Y)×100 (1)
に基づいて算出された接合割合Aの算術平均値である、基材10と加飾膜12との平均接合割合Aaveは、25%以上50%以下である。
【0052】
複合体1において、加飾膜12は、無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでいる。これによって、複合体1の前駆体が所定の焼成条件で焼成された際にガラスマトリックスを構成するガラス材料が溶融し、ガラスマトリックスが形成され、無機顔料が基材10に適切に保持される。また、加飾膜12は、基材10の熱膨張率CTEBよりも大きい熱膨張率CTEAを有するところ、その差δCTEが1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下に設定されている。また、加飾膜12は、多孔質な膜であり、基材10と加飾膜12との平均接合割合Aaveが25%以上50%以下になるように形成されている。これによって、複合体1の前駆体が焼成される際に、基材10との間に適度に隙間が空いた状態で加飾膜12が形成される。換言すれば、複合体1の前駆体が焼成される際に、加飾用組成物が熱膨張するものの、かかる熱膨張が基材10との間に形成される隙間によって緩衝されながら、加飾膜12が形成される。このため、複合体1の前駆体の焼成によって、クラックや剥離が生じた状態で加飾膜12が形成されるリスクが低減され、延いては、複合体1における基材10と加飾膜12との密着性が高められうる。
【0053】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0054】
<加飾用組成物の作製>
加飾用組成物(ここでは、加飾用インクジェットインク)の出発材料として、ガラス粉末A~Dと、無機顔料A~Gと、無機フィラーA,Bと、を用意した。ガラス粉末A~Dに関して、それぞれの組成は、表1に示されている。表1には、各ガラス粉末全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときの各酸化物の割合(mol%)が記載されている。表1における「-」の記載は、当該酸化物が含まれていないことを示している。なお、ガラス粉末A~Dの平均粒子径は、いずれも、0.4μm~0.5μmであった。また、ガラス粉末Aに関して、ガラス転移点は537℃であり、屈伏点は570℃であった。ガラス粉末Bに関して、ガラス転移点は506℃であり、屈伏点は535℃であった。ガラス粉末Cに関して、ガラス転移点は458℃であり、屈伏点は506℃であった。ガラス粉末Dに関して、ガラス転移点は520℃であり、屈伏点は637℃であった。
【0055】
【0056】
無機顔料A~Gについては、以下のとおりである。
・無機顔料A:スズスフェーン系ピンク顔料
・無機顔料B:ジルコン系シアン顔料
・無機顔料C:酸化鉄系弁柄顔料1(D50>0.25μm)
・無機顔料D:ルチル型のチタニア系イエロー顔料
・無機顔料E:スピネル系黒顔料
・無機顔料F:チタニア系白顔料
・無機顔料G:酸化鉄系弁柄顔料2(D50≦0.25μm)
なお、無機顔料A~Gの平均粒子径は、いずれも0.1μm~1μmであった。
【0057】
無機フィラーに関して、無機フィラーAとしては、平均粒子径が0.2μmのシリカを用意した。無機フィラーBとしては、平均粒子径が0.4μmの、融点が850℃以上の高融点ガラスフィラーを用意した。
【0058】
-実施例1-
無機顔料Aとガラス粉末Aと光硬化性モノマーと光重合開始剤と添加剤とを含む材料を用意した。次いで、市販のビーズミル(株式会社アイメックス製)を用いて材料を混合し、本例の加飾用組成物を作製した。材料の混合時には、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いた。無機固形成分の体積全体を100体積%としたときに、ガラス粉末Aの割合は65体積%であり、無機顔料Aの割合は35体積%であった。なお、本試験例において、「無機固形成分」とは、無機顔料とガラス粉末と、必要に応じて無機フィラーと、からなる成分をいう。
【0059】
光硬化性モノマーは、単官能アクリレートモノマーと、単官能N-ビニル化合物モノマーと、多官能アクリレートモノマーと、多官能ビニルエーテルモノマーとを所定の体積比で混合したものである。なお、単官能アクリレートモノマーとしては、イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)と、ベンジルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)と、フェノキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製と)、環状トリメチロールプロパンホルマールアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)と、を混合したものを使用した。また、単官能N-ビニル化合物モノマーとしては、N-ビニルカプロラクタム(東京化成株式会社製)を使用した。さらに、多官能アクリレートモノマーとしては、1,9-ノナンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)を使用した。そして、多官能ビニルエーテルモノマーとしては、トリエチレングリコールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製)と、ジエチレングリコールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製)と、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(日本カーバイド株式会社製)とを混合したものを使用した。
【0060】
また、光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤(IGMRESINS社製:Omnirad 819)を使用した。また、本例で用いられた添加剤は、分散剤(ビックケミー・ジャパン株式会社製:DISPERBYK-2013)と、重合禁止剤(富士フィルム和光純薬株式会社製:Q-1301(N-ニトロソ-N-フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム))と、であった。
【0061】
-実施例2~11、比較例1~5-
表2の該当欄に示されたガラス粉末と、同表の該当欄に示された無機顔料と、同表の該当欄に示された無機フィラーとを用いた。無機固形成分の体積全体を100体積%としたときの、各成分の割合(体積%)は、表2の該当欄に示されるとおりであった。それ以外は実施例1で用いられた材料と手順とを用いて、各例の加飾用組成物を作製した。なお、表2では、該当欄における「-」の表記によって、加飾用組成物に当該成分が含まれていないことが示されている。
【0062】
【0063】
<熱膨張率の測定>
実施例1~11と比較例1~5との加飾用組成物とを、800℃で焼成し、約3mm×3mm×15mmの寸法となるように加工し、測定用の試験片とした。また、後述の複合体を作製する際に用いるガラス基板については、加工された各例の加飾用組成物と同じ寸法となるように加工し、測定用の試験片とした。各例の加飾用組成物とガラス基板とにつき、2つずつの試験片を用意した。次いで、熱機械分析装置(株式会社リガク製:TMA8310)を用いて、示差膨張方式で試験片の熱膨張率を測定した。大気雰囲気中で、試験片を30℃から300°までの温度範囲で加熱することによって、各例の加飾用組成物についての試験片の熱膨張率CTEAとガラス基板についての熱膨張率CTEBとを測定した。そして、得られた熱膨張率から、差δCTEを算出した。得られた数値を表3の「δCTE(×10-6/K)」欄に示す。なお、比較例5については上記焼成によってガラスが十分溶融しなかったため、熱膨張率の測定以下の評価を行わなかった。表3の該当欄における「-」の記載は、評価を行わなかったことを示している。
【0064】
<複合体の作製>
実施例1~11と比較例1~5との加飾用組成物(ここでは、インクジェットインク)を、インクジェット印刷機(富士フィルム株式会社製:マテリアルプリンター DMP-2831)を用いて、ガラス基板に印刷した。ガラス基板としては、熱膨張率が-7×10-7/K以下の低熱膨張ガラス基板を用いた。次いで、各例の加飾用組成物が印刷されたガラス基板を、800℃で焼成した。これによって、各例の複合体を作製した。
【0065】
<評価試験>
-落球試験-
各例の複合体の耐衝撃性を評価するために、JIS R3212:1998に準拠して、落球試験を実施した。具体的には、市販の落球試験機を用いて、複合体における加飾膜が形成されていない面に重量が535gの鋼球を落下させ、鋼球によって複合体に破損が生じるか否かを評価した。この際、鋼球を落下させる高さを変えつつ、複合体に破損が生じた最小の高さ(以下、「破損高さH」ともいう。)を調べた。本試験では、鋼球が複合体を貫通した場合、複合体が断片化した場合、「破損が生じた」と評価した。表3の「高さ(mm)」欄に、破損高さHを示す。
【0066】
また、各例で得られた破損高さHに基づいて、各例の耐衝撃性を以下の項目にあるとおり、評価した。評価結果を表3の該当欄に示す。
「E(優れた耐衝撃性)」:600mm以上の破損高さH
「G(良好な耐衝撃性)」:300mm以上600mm未満の破損高さH
「P(耐衝撃性に乏しい)」:300mm未満の破損高さH
【0067】
-引っかき硬度試験-
各例の複合体における加飾膜の密着性を評価するために、JIS K 5600-5-4:1999に準拠して、引っかき硬度試験(鉛筆法)を実施した。市販の引っかき硬度試験機を用いて、鉛筆で加飾膜を引っかき、加飾膜に傷が生じるか否かを評価した。この際、鉛筆の硬度を変えつつ、加飾膜に傷が生じなかった最大の硬度を調べた。表3の「硬度」欄に、加飾膜に傷が生じた最小の硬度を示す。なお、表3における「6H≦」の記載は、少なくとも6Hの硬度の鉛筆では、加飾膜に引っかき傷が生じなかったことを示している。また、表3における「≦B」の記載は、BまたはBよりも硬度が低い(Bよりも柔らかい)鉛筆で、加飾膜に引っかき傷が生じたことを示している。
【0068】
-密着性試験-
各例の複合体における加飾膜の密着性を評価する試験を行った。各例の複合体において、ガラス基板と加飾膜とにセロハンテープを貼り付け、90度でセロハンテープを引き上げた際に、加飾膜が剥離するか否かを調べた。加飾膜の剥離率が0~50%未満だった場合を「○(密着性あり)」と評価し、加飾膜の剥離率が50%以上だった場合を「×(密着性が乏しい)」と評価した。評価結果を表3の「テープ」欄に示す。
【0069】
引っかき硬度試験と密着試験との結果に基づいて、各例における加飾膜の密着性を、以下のとおり、評価した。評価結果を表3の該当欄に示す。
「E(優れた密着性)」:
加飾膜に引っかき傷が生じなかった最大の鉛筆硬度がH以上であり、かつ、セロハンテープを用いた試験において「○」の評価であった場合
「P(密着性に乏しい)」:
加飾膜に引っかき傷が生じなかった最大の鉛筆硬度がHよりも小さい、または、セロハンテープを用いた試験において「×」の評価であった場合
【0070】
-接合割合の測定-
各例の複合体における、ガラス基板と加飾膜との接合割合をSEM観察に基づいて測定した。ここでは、まず、各例の複合体について、加飾膜の厚み方向に沿った断面について、SEM(日本電子株式会社製:JSM-IT510)を用いて、無作為に10視野の観察画像を取得した。このときの観察倍率は、3000倍であった。次いで、各観察画像について、イメージソフトを用いて、ガラス基板と加飾膜とが接合した部分の長さの合計Xと、ガラス基板と加飾膜とが接合していない部分の長さの合計Yとを算出した。ここで得られた合計Xと合計Yとを用いて、上記数式(1)に基づいて、各観察画像における接合割合Aを算出した。そして、上記10視野の観察画像についての算術平均値(すなわち、平均接合割合A
ave)を算出した。結果を表3の該当欄に示す。また、上述のように測定した熱膨張率に平均接合割合A
aveを乗じ、得られた数値を表3の該当欄に示す。なお、観察画像の例を
図6~
図8に示す。
図6は、実施例4のSEM観察画像である。
図6に示された観察画像には、実施例4について、加飾膜の厚み方向の断面における、ガラス基板と加飾膜との界面が示されている。
図6に示された観察画像は、3000倍の観察倍率で取得されたものである。
図7は、実施例8のSEM観察画像である。
図7に示された観察画像には、実施例8について、加飾膜の厚み方向の断面における、ガラス基板と加飾膜との界面が示されている。
図7に示された観察画像は、3000倍の観察倍率で取得されたものである。
図8は、比較例2のSEM観察画像である。
図8に示された観察画像には、比較例2について、加飾膜の厚み方向の断面における、ガラス基板と加飾膜との界面が示されている。
図8に示された観察画像は、5000倍の観察倍率で取得されたものである。
図6~
図8のスケールバーは、いずれも5μmを示している。
【0071】
【0072】
ガラス基板と、加飾膜とを備えた複合体について、実施例1~11では、加飾膜は、無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでいる。また、加飾膜は、ガラス基板の熱膨張率CTEBよりも大きい熱膨張率CTEAを有している。熱膨張率CTEAと熱膨張率CTEBとの差δCTEが1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下である。また、加飾膜は、多孔質な膜である。そして、ガラス基板と加飾膜との平均接合割合Aaveは、25%以上50%以下である。実施例1~11では、表3に示されているように、平均接合割合Aaveが25%以上50%以下を満たさない比較例1~5と比較して、密着性に優れるとともに、衝撃耐性にも優れることがわかった。また、実施例1~11のなかでも、平均接合割合Aaveが35%以下であった実施例5~11では、耐衝撃性がより高くなっていた。
【0073】
また、表2と表3とに示された結果から、無機顔料と無機フィラーとに関して、平均粒子径が0.25μm以上0.4μm以下の粒子が増えるほど、平均接合割合Aaveが大きくなる傾向があることがわかった。また、無機顔料と無機フィラーとに関して、平均粒子径が0.4μm超過の粒子が増えるほど、平均接合割合Aaveが小さくなる傾向があることがわかった。
【0074】
-ここで開示される技術に包含される形態-
また、ここで開示される技術は、以下の項1~項7に記載の形態を包含する。
【0075】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
項1:
ガラス製の基材と、
前記基材の表面に設けられた加飾膜と、
を備える複合体であって、
前記加飾膜は、
無機顔料と、ガラス転移点が400℃以上のガラスで構成されたガラスマトリックスとを含んでおり、
前記基材の30℃から300℃までの熱膨張率CTEBよりも大きい、30℃から300℃までの熱膨張率CTEAを有し、前記熱膨張率CTEAと前記熱膨張率CTEBとの差δCTEは、1.0×10-6/K以上7.0×10-6/K以下であり、
多孔質な膜であり、
ここで、前記加飾膜の厚み方向の断面における前記基材と前記加飾膜との界面について、無作為に抽出された複数視野についての電子顕微鏡による観察画像の各々において、前記基材と前記加飾膜とが接合した部分の長さの合計Xと、前記基材と前記加飾膜とが接合していない部分の長さの合計Yとを用いて、以下の数式(1):
接合割合A(%)=(前記合計X)/(前記合計X+前記合計Y)×100 (1)
に基づいて算出された接合割合Aの算術平均値である、前記基材と前記加飾膜との平均接合割合Aaveは、25%以上50%以下である、複合体。
項2:
前記加飾膜全体を100体積%としたときに、該加飾膜は、20体積%以上70体積以下の前記ガラスマトリックスを含む、項1に記載の複合体。
項3:
前記ガラスマトリックスは、全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、ケイ素成分と、ホウ素成分と、アルミニウム成分と、亜鉛成分と、アルカリ金属成分と、のうちの少なくとも3つの成分をそれぞれ10mol%以上含むガラスで構成されている、項1または2に記載の複合体。
項4:
前記ガラスマトリックスは、
全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のSiO2と、10mol%以上のB2O3と、10mol%以上のZnOとを含むSiO2-B2O3-ZnO系ガラス、または、
全体を酸化物換算のモル比で100mol%としたときに、10mol%以上のLi2Oと、10mol%以上のAl2O3と、10mol%以上のSiO2とを含むLi2O-Al2O3-SiO2系ガラス、
で構成されている、項1~3のいずれか一つに記載の複合体。
項5:
前記平均接合割合Aaveは、35%以下である、項1~4のいずれか一つに記載の複合体。
項6:
前記差δCTEに前記平均接合割合Aaveを乗じて得られた数値は、25×10-6以上60×10-6以下である、項1~5のいずれか一つに記載の複合体。
項7:
さらに無機フィラーを含む、項1~6のいずれか一項に記載の複合体。
【符号の説明】
【0076】
1 複合体
10 基材
12 加飾膜
12s 空隙
20 ガイド軸
30 UV照射手段
40 印刷カートリッジ
50 インクジェットヘッド
52 ケース
53 貯蔵部
55 送液経路
56 吐出部
57 吐出口
58 ピエゾ素子
100 撹拌粉砕機
110 供給口
120 撹拌容器
132 撹拌羽
134 シャフト
140 フィルター
150 排出口
P 送液方向
X ガイド軸の軸方向
Y ガイド軸の垂直方向
1000 インクジェット装置