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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140407
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】多結晶SiC自立成形体
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20241003BHJP
【FI】
C23C16/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051538
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000219576
【氏名又は名称】東海カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石塚 明日美
(72)【発明者】
【氏名】池田 柊人
(72)【発明者】
【氏名】屋敷田 励子
(72)【発明者】
【氏名】牛嶋 裕次
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA09
4K030AA17
4K030BA37
4K030BB03
4K030CA01
4K030CA12
4K030DA03
4K030JA01
4K030JA05
4K030JA06
4K030JA09
4K030JA10
4K030JA11
4K030JA12
(57)【要約】
【課題】半導体製造装置用の多結晶SiC自立成形体であって、厚み方向の窒素濃度勾配が小さく、品質バラつきの小さい、ドーパント源(特に窒素)の少ないことが要求される工程に有効な多結晶SiC自立成形体を提供することにある。
【解決手段】厚みが200μm以上であり、第一の主面及び第二の主面の窒素濃度がいずれも3.00×1016atoms/cm以下であり、該第一の主面から該第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1017atoms/cm以下であり、該第一の主面と該第二の主面の窒素濃度差の絶対値が1.80×1016atoms/cm以下であること、を特徴とする多結晶SiC自立成形体。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが200μm以上であり、
第一の主面及び第二の主面の窒素濃度がいずれも3.00×1016atoms/cm以下であり、
該第一の主面から該第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1017atoms/cm以下であり、
該第一の主面と該第二の主面の窒素濃度差の絶対値が1.80×1016atoms/cm以下であること、
を特徴とする多結晶SiC自立成形体。
【請求項2】
前記第一の主面及び前記第二の主面の窒素濃度がいずれも0.50×1016atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の多結晶SiC自立成形体。
【請求項3】
前記厚みが1000μm以上であることを特徴とする請求項1記載の多結晶SiC自立成形体。
【請求項4】
前記第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1016atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の多結晶SiC自立成形体。
【請求項5】
前記第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値が0.40×1016atoms/cm以下であることを特徴とする請求項1記載の多結晶SiC自立成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD法により形成された多結晶SiCの自立成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶SiC成形体は、耐熱性、耐蝕性及び強度等の種々の特性に優れており、様々な用途に使用されており、中でも、半導体製造装置用部材に用いられる場合には、高抵抗及び高純度であることが求められる。
【0003】
多結晶SiC成形体に含まれる不純物としては、N、B、Al、P等があり、これらは半導体素子へのドーパント源となるため、不純物含有量が多いと半導体製造において問題となる。そして、これらの元素のうち、Nは、大気中に大量に存在するため、低減させることが困難であった。
【0004】
SiC膜中の窒素濃度の低減について、例えば、特許文献1には、炭素系材料と、前記炭素系材料に被覆されるSiC被膜とを有するSiC被覆炭素系材料であって、SIMS分析法によって測定される前記SiC被膜の窒素含有量が、5×1016atoms/cm以下であるSiC被覆炭素系材料が開示されている。また、特許文献2には、グロー放電質量分析法による窒素濃度が100ppm以下である低窒素濃度炭素系材料が開示されており、該炭素系材料をSiC被覆黒鉛材の基材として用いることが記載されている。また、実施例等では、CVD法により炭素系材料にSiCが被覆されており、該SiC中の窒素含有量が2×1015atoms/cm~1.2×1016atoms/cmであることが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、第1の端面と前記第1の端面と反対側の端面である第2の端面とを有し、前記第1の端面と前記第2の端面とが対向する方向である成長方向における窒素濃度の勾配が1×1016cm-4以上1×1018cm-4以下である、炭化珪素インゴットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-132637号公報
【特許文献2】特開2002-249376号公報
【特許文献3】特開2015-98420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、半導体製造装置に用いられる多結晶SiCからなる部材には、コート品や自立成形体などが用いられる。コート品とは、基材の表面にSiCを被覆したものを指し、自立成形体とは、基材を含まないSiC成形体を指す。この内、多結晶SiCの自立成形体には、SiC膜(コート品)とは異なり、窒素濃度の低減に加えて、第一の主面(成長面)から第二の主面(基材面)方向の窒素濃度勾配の問題が存在する。多結晶SiCからなる部材を用いた半導体製造装置により、例えば半導体ウエハ(以下、単にウエハと呼ぶこともある)が製造されるが、多結晶SiC自立成形体の第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が大きいと、半導体ウエハ中のドーパント源である窒素の濃度が厚み方向で安定しないため、例えばエッチング用途を考えると、SiCが消耗するにつれ、ウエハ近傍の窒素濃度や分圧が経時変化してしまう。
【0008】
特許文献1及び2に記載されているSiCは、炭素材料の表面に被覆されるSiC膜であり、SiCの自立成形体ではない。そのため、窒素濃度勾配の影響が問題視されにくく、特許文献1及び2においては、第一の主面(成長面)から第二の主面(基材面)方向の窒素濃度勾配を低減する課題につき記載されていない。
【0009】
また、半導体製造装置に用いられる多結晶SiCからなる部材は、多結晶であるが、特許文献3は、単結晶のSiCインゴットの発明であり、多結晶SiCではない。単結晶のSiCインゴットは、多結晶SiC自立成形体とは異なり、製造コストが高く、高価である。また、複雑な形状のものが製造できず、大口径の製造が困難である。上記の理由で、単結晶のSiCインゴットは半導体製造装置用の部材には、用いることが困難である。また、特許文献3の実施例において、SiCインゴット中の窒素濃度は1.0×1017~2.0×1019cm-3と非常に窒素濃度が高いものしか得られていない。
【0010】
従って、本発明の目的は、半導体製造装置用の多結晶SiC自立成形体であって、厚み方向の窒素濃度勾配が小さく、品質バラつきの小さい、ドーパント源(特に窒素)の少ないことが要求される工程に有効な多結晶SiC自立成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討した結果、多結晶SiC材を形成させるときのCVD条件及びSiC粒子の成長環境を制御することにより、窒素濃度が低く、且つ、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配が小さい多結晶SiC自立成形体が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)厚みが200μm以上であり、
第一の主面及び第二の主面の窒素濃度がいずれも3.00×1016atoms/cm以下であり、
該第一の主面から該第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1017atoms/cm以下であり、
該第一の主面と該第二の主面の窒素濃度差の絶対値が1.80×1016atoms/cm以下であること、
を特徴とする多結晶SiC自立成形体。
(2)前記第一の主面及び前記第二の主面の窒素濃度がいずれも0.50×1016atoms/cm以下であることを特徴とする(1)記載の多結晶SiC自立成形体。
(3)前記厚みが1000μm以上であることを特徴とする(1)記載の多結晶SiC自立成形体。
(4)前記第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1016atoms/cm以下であることを特徴とする(1)記載の多結晶SiC自立成形体。
(5)前記第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値が0.40×1016atoms/cm以下であることを特徴とする(1)記載の多結晶SiC自立成形体。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体製造装置用の多結晶SiC自立成形体であって、厚み方向の窒素濃度勾配の絶対値が小さく、品質バラつきの小さい、ドーパント源(特に窒素)の少ないことが要求される工程に有効な多結晶SiC部材を製造することができる多結晶SiC自立成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】多結晶SiC自立成形体の一例を示す。
図2】実施例及び比較例におけるメチルトリクロロシランガスの炉内の滞留時間と第一の主面の窒素濃度の関係を示すグラフである。
図3】実施例及び比較例におけるCVDを行う前の炉内環境の制御と第二の主面の窒素濃度の関係を示すグラフである。
図4】実施例及び比較例におけるCVDを行う前の炉内環境の制御と第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値の関係を示すグラフである。
図5】実施例及び比較例におけるCVDを行う前の炉内環境の制御と第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値の関係を示すグラフである。
図6】実施例及び比較例での厚みが大きい多結晶SiC自立成形体におけるCVDを行う前の炉内環境の制御及び滞留時間と第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値の関係を示すグラフである。
図7】実施例及び比較例におけるCVDを行う前の炉内環境の制御と第二の主面の窒素濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の本発明の詳細な説明は実施形態の例示のひとつであり、本発明は本実施形態に何ら限定して解釈されるものではない。
【0016】
本発明の多結晶SiC自立成形体は、厚みが200μm以上であり、
第一の主面及び第二の主面の窒素濃度がいずれも3.00×1016atoms/cm以下であり、
該第一の主面から該第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1017atoms/cm以下であり、
該第一の主面と該第二の主面の窒素濃度差の絶対値が1.80×1016atoms/cm以下であること、
を特徴とする。なお、本発明において、第一の主面とは、CVD法(化学的気相蒸着法)による多結晶SiC材の形成において、多結晶SiC材の成長側の面(成長面)を指し、また、第二の主面とは、基材側の面(基材面)を指す。
【0017】
本発明の多結晶SiC自立成形体は、CVD法(化学的気相蒸着法)を用いて成膜されることにより製造されたものである。例えば、図1に示すように、多結晶SiC自立成形体10は、板状又は円筒状であり、第一の主面1と第二の主面2とを有し、容易に取り扱える程度の厚みを有している。
【0018】
本発明の多結晶SiC自立成形体の厚みは、200μm以上である。本発明の多結晶SiC自立成形体の厚みは、自立成形体としての強度を確保する観点から少なくとも200μm以上であり、好ましくは350μm以上、より好ましくは500μm以上である。
【0019】
また、本発明の多結晶SiC自立成形体を例えば半導体製造装置の部材用として用いる場合、多結晶SiC自立成形体が厚いほど半導体製造装置の部材として長持ちし、製造される半導体ウエハの品質バラつきが小さくなり好ましい。上記の観点から、本発明の多結晶SiC自立成形体の厚みは好ましくは1000μm以上であり、より好ましくは2000μm以上である。
【0020】
本発明の多結晶SiC自立成形体の厚みの上限値は、特に制限されないが、10000μm以下の厚みのものが通常のCVD法により製造される。
【0021】
本発明の多結晶SiC自立成形体では、第一の主面及び第二の主面の窒素濃度がいずれも、3.00×1016atoms/cm以下、好ましくは2.00×1016atoms/cm以下、より好ましくは1.00×1016atoms/cm以下、特に好ましくは0.50×1016atoms/cm以下である。本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法によれば、窒素濃度が3.00×1016atoms/cm以下と、従来のものに比べ低い多結晶SiC自立成形体が得られ、特に、0.50×1016atoms/cm以下と、窒素濃度が従来のものに比べ1桁小さいものが得られるので、本発明の多結晶SiC自立成形体は、極めて低窒素濃度の多結晶SiC部材を提供できる。
【0022】
本発明の多結晶SiC自立成形体では、第一の主面及び第二の主面の窒素濃度の下限値は、特に制限されないが、第一の主面及び第二の主面の窒素濃度は、例えば、いずれも、0.020×1016atoms/cm以上である。
【0023】
本発明の多結晶SiC自立成形体において、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値(((第一の主面の窒素濃度-第二の主面の窒素濃度)/厚み)の絶対値)は、3.00×1017atoms/cm以下である。多結晶SiC自立成形体における第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1017atoms/cm以下であることにより、ウエハ中のドーパント源である窒素の濃度が厚み方向で安定し、SiCが消耗する際の、ウエハ近傍の窒素濃度や分圧の経時変化を抑制することができる。一方、多結晶SiC自立成形体における第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が3.00×1017atoms/cmを超えると、ウエハ中のドーパント源である窒素の濃度が厚み方向で安定せず、窒素濃度や分圧の経時変化が生じる。そして、本発明の効果が高くなる点で、本発明の多結晶SiC自立成形体において、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値は、好ましくは1.00×1017atoms/cm以下、より好ましくは3.00×1016atoms/cm以下である。
【0024】
本発明の多結晶SiC自立成形体において、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値の下限値は、特に制限されないが、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値は、例えば、1.00×1016atoms/cm以上である。
【0025】
本発明の多結晶SiC自立成形体において、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値((第一の主面の窒素濃度-第二の主面の窒素濃度)の絶対値)は1.80×1016atoms/cm以下である。多結晶SiC自立成形体における第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値が1.80×1016atoms/cm以下であることにより、ウエハ中のドーパント源である窒素の濃度が厚み方向で安定し、SiCが消耗する際の、ウエハ近傍の窒素濃度や分圧の経時変化を抑制することができる。一方、多結晶SiC自立成形体における第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値が1.80×1016atoms/cmを超えると、ウエハ中のドーパント源である窒素の濃度が厚み方向で安定せず、窒素濃度や分圧の経時変化が生じる。そして、本発明の効果が高くなる点で、本発明の多結晶SiC自立成形体において、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値は、好ましくは0.60×1016atoms/cm以下、より好ましくは0.40×1016atoms/cm以下である。
【0026】
本発明の多結晶SiC自立成形体において、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値の下限値は、特に制限されないが、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値は、例えば、0.10×1016atoms/cm以上である。
【0027】
また、本発明の多結晶SiC自立成形体において、光透過率は特に制限されないが、通常は窒素濃度が高いほど光透過率は低くなる。本発明の多結晶SiC自立成形体の波長390以上900nm以下における単位厚み当たりの光透過率であるが、窒素濃度が3.00×1016atoms/cm以下の場合には光透過率は0.5%/mm以上であり、また、窒素濃度が2.00×1016atoms/cm以下の場合には光透過率は5.0%/mm以上であり、また、窒素濃度が1.00×1016atoms/cm以下の場合には光透過率は10.0%/mm以上であり、また、窒素濃度が0.50×1016atoms/cm以下の場合には光透過率は15.0%/mm以上である。なお、本発明の多結晶SiC自立成形体の窒素濃度が0.020×1016atoms/cm以上の場合、本発明の多結晶SiC自立成形体の波長390以上900nm以下における単位厚み当たりの光透過率は17.0%/mm以下である。
【0028】
本発明の多結晶SiC自立成形体は、CVD法を用いる多結晶SiC自立成形体の製造方法において、反応条件及び反応環境を選択することにより得られる。
【0029】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、CVD法により黒鉛基材上に多結晶SiCを生成させることにより、黒鉛基材上に形成された多結晶SiC材を得るCVD工程を行う。例えば、先ず、キャリアガスと、SiCの供給源となる原料ガスとを、混合器で混合し、混合ガスを生成させ、次いで、混合ガスを、混合器からCVD炉に供給する。このCVD炉内には、黒鉛基材を配置しておき、CVD炉に混合ガスを供給することにより、CVD法によって黒鉛基材上に多結晶SiCが生成し、黒鉛基材上に形成された多結晶SiC材が得られる。なお、SiCの製造原料となる原料ガスは、1成分系(Si及びCを含むガス)でも、2成分系(Siを含むガスとCを含むガス)でもよい。
【0030】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、CVD工程を行った後、黒鉛基材上に形成された多結晶SiC材を取り出し、酸化燃焼や機械研削等により分離し、次いで、分離した多結晶SiC材をダイヤモンド砥粒等により研削することにより、多結晶SiC自立成形体を得る。
【0031】
CVD工程では、反応炉に原料ガスを含む供給ガスを供給し、反応後の排ガスを反応炉から排出しつつ、反応炉内を加熱することにより、黒鉛基材上に多結晶SiCを生成させて、多結晶SiC層を成長方向に成長させて、多結晶SiC材を得る。
【0032】
CVD工程では、多結晶SiCの生成に用いられる供給ガスは、原料ガスとキャリアガスとを含有する。キャリアガスとしては、N、B、Al、P等を含まなければ、特に限定されるものでは無いが、例えば、水素ガス、Arガス等が挙げられる。
【0033】
原料ガスとしては、Si源及びC源を含むガスであれば特に限定されるものではない。原料ガスとしては、(A)分子内にSi及びCを含有するガス、(B)分子内にSiを含有するSi源ガスと、C源である炭化水素ガスと、の混合ガスが挙げられる。(A)の原料ガスを用いる場合は、1成分系であり、このような1成分系の原料ガスとしては、メチルトリクロロシラン、トリクロロフェニルシラン、ジクロロメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロトリメチルシラン等が挙げられる。また、(B)の原料ガスを用いる場合は、2成分系であり、このような2成分系の原料ガスとしては、トリクロロシラン、モノシラン等のシラン含有ガスと、炭化水素ガスとの混合物が挙げられる。これらのうち、原料ガスとしては、メチルトリクロロシランが、SiとC比が分子レベルで1:1で安定しており、膜質の均一性や、多結晶SiC自立成形体のSi原子とC原子のモル比の点で好ましいため、実施例ではメチルトリクロロシランを用いたが、これは一例であり、これに限定されるものではない。
【0034】
CVD工程において、供給ガス中の原料ガスの濃度は、14.0~25.0体積%であり、好ましくは20.0~25.0体積%である。供給ガス中の原料ガスの濃度が上記範囲にあることによって、膜厚が200μm以上の自立成形体であっても、成膜に要する時間の短縮が実現できる。これによりCVD工程で取り込む雰囲気中の窒素量が抑えられ、本発明の多結晶SiC自立成形体を得ることができる。
【0035】
また、一般的に、CVD工程における反応温度は、1100~1600℃、好ましくは1200~1450℃、より好ましくは1200~1350℃である。
【0036】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、(I)反応前に、反応炉内に黒鉛基材を設置した状態で、炉内を減圧した後水素ガスで復圧し、次いで、炉内を減圧した後水素ガスで復圧する操作を行うこと、(II)反応前に、反応炉内を水素ガス雰囲気で所定の温度で所定の時間保持すること、(III)反応中の供給ガスの滞留時間と形成させる多結晶SiC材の厚みとの関係を調節することにより、自立成形体として必要な厚みを有し、窒素濃度が低く、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が小さく、且つ、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値が小さい多結晶SiC材を形成させることができる。よって、本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、上記(I)、(II)及び(III)を行うことにより、本発明の多結晶SiC自立成形体を得ることができる。
【0037】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、(I)反応前に、反応炉内に黒鉛基材を設置した状態で、炉内を減圧した後水素ガスで復圧し、次いで、炉内を減圧した後水素ガスで復圧する操作を行い、黒鉛基材の表面及び反応炉の雰囲気中に存在している窒素分子を除去することにより、第二の主面(基材面)の窒素濃度を低くすることができる。反応炉内を減圧するときの圧力は、絶対圧で80~200Pa、好ましくは80~90Paである。反応炉内を水素ガスで復圧したときの復圧後の圧力は、絶対圧で70×10~100×10Pa、好ましくは90×10~100×10Paである。反応炉内の減圧及び復圧を行っているときの反応炉内の温度は、-5~45℃である。反応前に「減圧→水素ガスでの復圧→減圧→水素ガスでの復圧」との操作を行っていれば、それらの一連の操作の前に、減圧及び窒素ガスでの復圧の操作や減圧及び水素ガスでの復圧の操作を行ってもよい。
【0038】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、(I)の操作を行った後、(II)反応前に、反応炉内を水素ガス雰囲気で所定の温度で所定の時間保持して、反応炉内の断熱材に吸着している窒素分子を脱離させ、次いで、反応炉内に水素ガスを供給して反応炉内の気体を炉外に排出して、あるいは、反応炉内に水素ガスを供給しながら、所定の温度で所定の時間保持して、反応炉内の断熱材に吸着している窒素分子を脱離させると共に、反応炉内の気体を炉外に排出して、反応炉内の断熱材に吸着している窒素分子を除去することにより、第二の主面(基材面)の窒素濃度を低くすることができる。反応炉内の温度を保持するときの保持温度は、好ましくは1100℃以上であり、工業的な効率の観点からは、1200~1450℃がより好ましい。反応炉内の温度を保持するときの保持時間は、好ましくは0.5時間以上であり、工業的な効率の観点からは、0.5~1.5時間がより好ましい。
【0039】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、(III)反応中の供給ガスの滞留時間と形成させる多結晶SiC材の厚みとの関係を調節することにより、第一の主面(成長面)の窒素濃度を低くすること、また、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値を小さくすること、また、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値を小さくすることができる。なお、多結晶SiC材の厚みや反応温度、その他の製造条件を同一とした場合において、滞留時間が短いほど窒素の取り込み量が減少し、第一の主面(成長面)の窒素濃度をより低くすることができる。一方、滞留時間が短いほど得られる多結晶SiC材の組織の不均質性が大きくなる。上記を踏まえて、反応中の供給ガスの滞留時間は、2~50秒の範囲で、形成させる多結晶SiC材の厚みに応じて、適宜選択することが好ましく、4~12秒で適宜選択することがより好ましい。
【0040】
なお、供給ガスの滞留時間とは、CVD反応を行う際に原料ガスがCVD反応室内に滞留して反応に関与する時間を表すパラメータとなるものであり、下記式によって算出される値である。
【0041】
【数1】
【0042】
CVD工程において形成させる多結晶SiC材の厚みは、200μm以上であり、好ましくは500μm以上、より好ましくは2000μm以上で選択される。また、CVD工程において形成させる多結晶SiC材の厚みは、10000μm以下、好ましくは8000μm以下の範囲で、適宜選択される。
【0043】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、CVD工程におけるSiC層の成長速度は、60μm/時間以上であり、多結晶SiC自立成形体の窒素濃度を低くすることができる観点から、好ましくは500μm/時間以上、より好ましくは1000μm/時間以上である。
【0044】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、CVD工程における反応時間は、0.17~1.67時間であり、多結晶SiC自立成形体の厚みを大きく、かつ窒素濃度を低くすることができる観点から、好ましくは0.50~1.33時間、より好ましくは1.00~1.33時間である。
【0045】
本発明の多結晶SiC自立成形体の製造方法では、CVD工程において、CVD法による多結晶SiC材の形成が終了すると、多結晶SiC材が形成された黒鉛基材をCVD炉から取り出し、その後、多結晶SiC自立成形体のみを取り出すように加工する。
【実施例0046】
本発明を以下の実施例を用いて説明する。
【0047】
(実施例1)
CVD炉内に、直径300mm、厚さ4mmの黒鉛基板を設置した。次いで、絶対圧80~90Paまで減圧した後、窒素ガスで100×10Paまで復圧するとの操作を行った。次いで、絶対圧80~90Paまで減圧した後、水素ガスで100×10Paまで復圧するとの操作を、3回繰り返した。
次いで、水素ガスを供給しながら、反応炉内を1300℃で60分間加熱した。
次いで、CVD炉内に、表1に示す供給ガス流量でメチルトリクロロシラン(原料ガス、純度99.5%)を25体積%含む供給ガスを導入し、1300℃、表1に示す炉内圧で、反応を行い、黒鉛基材上に形成された多結晶SiC材を得た。このときの供給ガスの滞留時間を表1に示す。
CVD工程後、黒鉛基板をCVD炉から取り出し、黒鉛基板を除去して、多結晶SiC自立成形体を得た。得られた多結晶SiC自立成形体の評価結果を表2に示す。
【0048】
(実施例2~7)
CVD工程で原料ガスを表1に示す供給ガス流量で供給することにより、供給ガスの滞留時間を表1に示す値とすること以外は、実施例1と同様に行った。実施例5では、黒鉛基板として、CF雰囲気2400℃で高純度化、さらに減圧下2000℃以上で超高純度化したものを用いた。
【0049】
(比較例1~3)
CVD炉内に、直径300mm、厚さ4mmの黒鉛基板を設置した。
次いで、CVD炉内に、表1に示す供給ガス流量で、メチルトリクロロシラン(原料ガス、純度99.5%)を25体積%含む供給ガスを導入し、1300℃、表1に示す炉内圧で、反応を行い、黒鉛基材上に形成された多結晶SiC材を得た。このときの供給ガスの滞留時間を表1に示す。比較例3では、黒鉛基板として、CF雰囲気2400℃で高純度化、さらに減圧下2000℃以上で超高純度化したものを用いた。
CVD工程後、黒鉛基板をCVD炉から取り出し、黒鉛基板を除去して、多結晶SiC自立成形体を得た。得られた多結晶SiC自立成形体の評価結果を表2に示す。
つまり、比較例1~3では、反応前の減圧及び水素ガスでの復圧の操作と、反応炉内の水素ガス雰囲気での加熱保持の操作を行っていない。
【0050】
(窒素濃度、窒素濃度勾配、窒素濃度差の分析)
各実施例及び比較例において得られた多結晶SiC自立成形体の窒素濃度を、ダイナミックSIMSを用いて厚さ0.1~8.0μmの範囲で測定した。多結晶SiC自立成形体について、厚み計で測定した厚みを用いて、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値を算出した。厚み方向の窒素濃度分布については、機械加工実施後、厚み計で厚みを測定し、それぞれ窒素濃度をダイナミックSIMSで測定した。窒素濃度差は、第一の主面と第二の主面の窒素濃度をダイナミックSIMSで測定し、その差から算出した。
(体積抵抗率)
三菱ケミカルアナリテック製ロレスタGPを用いて、四探針法によって体積抵抗率を測定した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
表中、第一の主面窒素濃度は第一の主面(成長面)の窒素濃度を意味し、第二の主面窒素濃度は第二の主面(基材面)の窒素濃度を意味する。また、第一の主面と第二の主面の窒素濃度差は第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値を指し、窒素濃度勾配は第一の主面から第二主面の方向の窒素濃度勾配の絶対値を指す。
【0054】
<滞留時間>
表3及び図2に示すように、多結晶SiC自立成形体の形成厚みを500μmとしたときの原料ガスの反応炉内の滞留時間と第一の主面の窒素濃度の関係において、実施例1、2及び6の滞留時間だと、第一の主面の窒素濃度は低くなり、滞留時間が短いほど第一の主面の窒素濃度が低くなっている。一方、比較例1程度まで滞留時間が長くなると、第一の主面の窒素濃度が高くなってしまう。これらの結果は、CVD工程でのガス滞留時間が短いほど、窒素の取り込み量が減少することを示す。
【0055】
【表3】
【0056】
<反応前の減圧及び水素ガスでの復圧と水素ガス雰囲気での炉内の加熱保持>
表4及び図3図5に示すように、実施例5~7では、反応前に減圧及び水素ガスでの復圧と水素ガス雰囲気での炉内の加熱保持を行うことにより、第二の主面の窒素濃度を低くすることができ、加えて、多結晶SiC材の形成厚みと滞留時間との関係を調節することにより、第一の主面の窒素濃度を低くすること、第一の主面と第二の主面との窒素濃度差の絶対値を小さくすること、及び第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値を小さくすることができる。一方、比較例3では、第二の主面の窒素濃度が高く、第一の主面の窒素濃度が高く及び第一の主面と第二の主面の窒素濃度差の絶対値が大きく、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が大きくなってしまった。比較例3からは、黒鉛基材としてCFで純化処理したものを用いるだけでは、第二の主面の窒素濃度を低くすることができないことがわかる。
【0057】
【表4】
【0058】
<厚みの大きい多結晶SiC自立成形体の製造>
表5及び図6に示すように、反応前の減圧及び水素ガスでの復圧と水素ガス雰囲気での炉内の加熱保持と、厚みが大きい場合に応じた滞留時間を選択することにより、実施例3及び4では、厚みが2000μmと大きいにも関わらず、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値が小さい多結晶SiC自立成形体を得ることができる。一方、比較例2では、反応前の減圧及び水素ガスでの復圧と水素ガス雰囲気での炉内の加熱保持を行っていないために、滞留時間の調節のみによっては、厚みが2000μmと大きくする場合には、第一の主面から第二の主面方向の窒素濃度勾配の絶対値を小さくできない。
【0059】
【表5】
【0060】
<反応前の減圧及び水素ガスでの復圧と水素ガス雰囲気での炉内の加熱保持>
表6及び図7に示すように、実施例4では、黒鉛基材としてCFで純化処理したものを用いていないにも関わらず、黒鉛基材としてCFで純化処理したものを用いる実施例5と同程度に第二の主面の窒素濃度が低くなっている。一方、比較例3からは、黒鉛基材としてCFで純化処理したものを用いるだけでは、第二の主面の窒素濃度を低くすることができないことがわかる。
【0061】
【表6】
【符号の説明】
【0062】
1 第一の主面
2 第二の主面
10 多結晶SiC自立成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7