(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140409
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】遮音構造体
(51)【国際特許分類】
G10K 11/172 20060101AFI20241003BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G10K11/172
G10K11/16 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051540
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】久米田 健太
(72)【発明者】
【氏名】中島 友則
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061CC04
(57)【要約】
【課題】十分な遮音性が得られ、曲面状の載置面に容易に安定的に載置できる薄型で軽量の遮音構造体を提供する。
【解決手段】遮音構造体1が、非通気層2と、弾性を有する支持壁部4および膜部3と、錘部5を有する。膜部3は、支持壁部4と同方向に突出する複数の収容部7を有し、錘部5は収容部7内に配置されている。収容部7は、支持壁部4と同方向に延びる側壁部7aと、底部7bとからなる、有底で中空の筒状である。支持壁部4に仕切られた区画8内に1つずつ収容部7が配置され、側壁部7aと底部7bと非通気層2とに囲まれた空間に錘部5が配置されている。錘部5の一端は底部7bに固定され、他端は自由端である。支持壁部4の高さH1は側壁部7aの高さH2より大きく、側壁部7aの高さH2は錘部の高さH3より大きい。膜部3がばね部として、錘部5が質量部としてばねマス共振器を構成している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の非通気層と、弾性を有し前記非通気層の一方の表面側に突出する支持壁部と、弾性を有する膜部と、錘部と、を有し、
前記膜部は、前記支持壁部と同じ方向に突出する複数の収容部を有し、
前記錘部は前記収容部の内部に配置されており、
前記収容部は、前記支持壁部と同じ方向に延びる側壁部と、前記側壁部の先端部に繋がっており前記非通気層と平行な底部とからなる、有底で中空の円筒状または角筒状であり、
前記支持壁部は、前記非通気層上の空間の少なくとも一部を複数の区画に分割しており、
前記支持壁部によって仕切られた複数の前記区画の全ての内部に、または複数の前記区画のうちの一部の区画の内部に1つずつ前記収容部が配置され、前記収容部の前記側壁部と前記底部と前記非通気層とに囲まれた空間に1つずつ前記錘部が配置されており、前記錘部の一端は前記収容部の前記底部に固定された固定端であり、他端は非固定の自由端であり、
前記支持壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは、前記収容部の前記側壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さよりも大きく、前記側壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは、前記錘部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さよりも大きく、
前記膜部がばね部として、前記錘部が質量部としてばねマス共振器を構成していることを特徴とする、遮音構造体。
【請求項2】
前記膜部は、複数の前記収容部と、隣り合う前記収容部同士の間に位置し前記非通気層に重ね合せられて接合されている平坦部と、を有し、
前記支持壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に向けて立設されており、
前記側壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に屈曲している部分である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項3】
前記膜部は、互いに独立した複数の前記収容部を有し、
前記支持壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に向けて立設されており、
前記側壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に屈曲している部分である、請求項1に記載の遮音構造体。
【請求項4】
前記膜部と前記支持壁部はいずれも、エネルギー弾性を有しておらずゴム弾性を有する材料と、ゴム弾性を有しておらずエネルギー弾性を有する材料と、ゴム弾性とエネルギー弾性の両方を有する材料とのうちのいずれかからなる、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項5】
前記膜部と前記支持壁部はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率が0.01MPa以上100MPa以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項6】
前記膜部と前記支持壁部はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接が0.01以上0.50以下である、請求項5に記載の遮音構造体。
【請求項7】
前記支持壁部は、前記非通気層に直交する方向に延びるとともに前記非通気層に平行な第1の方向に延びる複数の第1壁部と、前記非通気層に直交する方向に延びるとともに前記第1の方向に直交する第2の方向に延びる複数の第2壁部と、を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項8】
前記支持壁部は、個々の前記区画を画定する円形、楕円形または長円形の横断面形状を有する円筒状、あるいは、個々の前記区画を画定する多角形の横断面形状を有する角筒状である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項9】
各々の前記区画の前記非通気層に投影した投影面積は、100mm2以上1000mm2以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項10】
各々の前記底部の前記非通気層に投影した投影面積は、各々の前記区画の前記投影面積の5%以上70%以下である、請求項9に記載の遮音構造体。
【請求項11】
各々の前記底部の前記非通気層に投影した投影面積は、各々の前記区画の前記投影面積の10%以上60%以下である、請求項10に記載の遮音構造体。
【請求項12】
前記膜部の前記非通気層に投影した投影面積1000cm2あたり10個以上1000個以下の前記区画が設けられている、請求項2に記載の遮音構造体。
【請求項13】
前記膜部の前記非通気層に投影した投影面積1000cm2あたり50個以上500個以下の前記区画が設けられている、請求項12に記載の遮音構造体。
【請求項14】
前記支持壁部の板厚は0.5mm以上5.0mm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項15】
前記支持壁部の板厚は1.0mm以上3.0mm以下である、請求項14に記載の遮音構造体。
【請求項16】
前記膜部の膜厚は0.1mm以上3.0mm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項17】
前記非通気層の膜厚は前記膜部の膜厚よりも小さい、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項18】
前記非通気層に直交する方向の高さが5mm以上20mm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項19】
前記支持壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは5mm以上20mm以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項20】
前記錘部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは1mm以上である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【請求項21】
前記膜部のデュロメータA硬さは50以上であり、前記支持壁部のデュロメータA硬さは1以上90以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の遮音構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遮音構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集合住宅、オフィスビル、ホテル等の建物の室内においては、建物の外部の自動車、鉄道、航空機、船舶等からの屋外騒音や、建物内のその室の外部で発生する設備騒音や人声を遮断して、その室の用途に適した静謐性が要求される。また、自動車、鉄道、航空機、船舶等の乗物の内部においては、風切り音やエンジン音を遮断して、乗員に静粛で快適な空間を提供するために騒音を低減する必要がある。そのため、建物や乗物の外部から内部への騒音や振動の伝搬、また建物や乗物の内部における室外から室内への騒音や振動の伝搬を遮断する手段、すなわち、遮音性の高い部材が求められている。近年では、建物においては高層化等に伴い軽量の遮音部材が求められており、また、乗物においてもエネルギー効率向上のため軽量の遮音部材が求められている。乗物や建物における防音壁等を形成する遮音構造体の例が、特許文献1~4に開示されている。
【0003】
特許文献1に記載された発明では、複数の個々のセルに分割された剛性のフレームと、フレキシブルな材料のシートと、複数の重りとを備えている音響減衰パネルにおいて、各重りは各セルにそれぞれ重りが設けられるようにフレキシブルな材料のシートに固定されており、減衰された音響は重りの質量の適切な選択により制御される。
【0004】
特許文献2に記載された発明では、弾性を有するシートと、シートを保持するとともにシートを区画部に区画する支持部とを備えている防音材において、区画部におけるシートの剛性とシートの面密度との関係が規定されている。
【0005】
特許文献3に記載された発明の遮音材は、平板状の基板部と、基板部と連結し所定の共振周波数を有する複数の共振部とを備えている構造体であって、複数の共振部のそれぞれは、錘部と、錘部を基板部と連結する連結部とを有しており、基板部に垂直な方向から見た投影図において、共振部の重心が基板部と連結部との接合領域の外側に位置するように構成されている。
【0006】
特許文献4に記載された発明の振動低減装置は、車体に装着されて車体を通じて伝達される振動を遮断する音響メタ構造を有し、車体に装着されて一定空間を一定領域に区画する十字形状のフレームと、フレームによって区画される各領域のコーナー部に構成されそれぞれの固有振動数を有するように構成されて車体からフレームを通じて伝達される振動を遮断する振動子とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005-250474号公報
【特許文献2】国際公開WO2019/022245号公報
【特許文献3】特開2021-152584号公報
【特許文献4】特開2020-91481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されている音響減衰パネルは、柔軟でない剛性のフレームを有しており、この剛性のフレームを介してシートに振動が伝達されるため、十分な遮音性が得られないおそれがある。また、剛性のフレームを載置する載置面が曲面状または凹凸を有する場合には、音響減衰パネルを安定して保持できない可能性がある。特に、一般的な乗物(例えば自動車)のパネルには曲面状または凹凸を有する部分が多いため、乗物用の遮音材として簡便に使用することが困難である。また、剛性のフレームは質量が大きく、防音材による質量の増大が問題になる場合がある。
【0009】
特許文献2に記載されている防音材は、支持部の高さ、すなわちシートからそのシートに直交する方向に延びる高さが高く、好ましくは25mm以上である。このように高さが高い支持部によってシートを安定的に支持するために支持部は剛性を有することが好ましく、その結果、支持部を介して振動が伝達されるため十分な遮音性が得られないおそれがあるとともに、乗物(例えば自動車)のパネル等の曲面状または凹凸を有する載置面に載置することが困難である。また、このように高さが高い支持部が防音材全体の大型化および重量化を招き、乗物のパネル等に載置すると、乗物の内部において防音材が大きなスペースを占めてスペース効率を低下させ、他部材の設置の妨げになることや、乗員の邪魔になることが懸念される。
【0010】
特許文献3に記載されている遮音材は、遮音効果を発揮する機能部分である共振部が支持壁等に覆われることなく露出しており、この共振部に他の部材や人体が接触すると遮音性が低下または変化するおそれがある。従って、共振部の周囲に大きな空間を設ける必要があり、スペース効率が低下する。
【0011】
特許文献4に記載されている振動低減装置は、膜部を有しておらず、複数の振動子とそれらを繋ぐフレームとからなる。従って、特許文献3の遮音材と同様に、遮音効果を発揮する機能部分である振動子が露出しており、この振動子に他の部材や人体が接触すると遮音性が低下または変化するおそれがある。また、振動低減装置の構造的な最低限の強度を確保するために、フレームが剛性を有することが求められる。その結果、フレームを介して振動が伝達されるため十分な遮音性が得られないおそれがあるとともに、乗物(例えば自動車)のパネル等の曲面状または凹凸を有する載置面に載置することが困難である。
【0012】
そこで、本発明の目的は、十分な遮音性が得られるとともに、建物や機械装置、乗物(例えば自動車)のパネル等の曲面状または凹凸を有する載置面にも容易に安定的に載置することができる薄型かつ軽量の遮音構造体であって、特に1000Hz以下の低周波数領域での良好な遮音性を有する遮音構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の遮音構造体は、シート状の非通気層と、弾性を有し前記非通気層の一方の表面側に突出する支持壁部と、弾性を有する膜部と、錘部と、を有し、前記膜部は、前記支持壁部と同じ方向に突出する複数の収容部を有し、前記錘部は前記収容部の内部に配置されており、前記収容部は、前記支持壁部と同じ方向に延びる側壁部と、前記側壁部の先端部に繋がっており前記非通気層と平行な底部とからなる、有底で中空の円筒状または角筒状であり、前記支持壁部は、前記非通気層上の空間の少なくとも一部を複数の区画に分割しており、前記支持壁部によって仕切られた複数の前記区画の全ての内部に、または複数の前記区画のうちの一部の区画の内部に1つずつ前記収容部が配置され、前記収容部の前記側壁部と前記底部と前記非通気層とに囲まれた空間に1つずつ前記錘部が配置されており、前記錘部の一端は前記収容部の前記底部に固定された固定端であり、他端は非固定の自由端であり、前記支持壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは、前記収容部の前記側壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さよりも大きく、前記側壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは、前記錘部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さよりも大きく、前記膜部がばね部として、前記錘部が質量部としてばねマス共振器を構成していることを特徴とする。
なお、ここで言う弾性とは、外部から与えられた力によって変形した固体物質が、外力を取り除いた際に元の形状に復元する性質を指し、エネルギー弾性とゴム弾性(エントロピー弾性)とを含む。ここでは、エネルギー弾性とゴム弾性(エントロピー弾性)の少なくとも一方を有する場合を「弾性を有する」と称している。
前記膜部は、複数の前記収容部と、隣り合う前記収容部同士の間に位置し前記非通気層に重ね合せられて接合されている平坦部と、を有し、前記支持壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に向けて立設されており、前記側壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に屈曲している部分であってよい。
前記膜部は、互いに独立した複数の前記収容部を有し、前記支持壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に向けて立設されており、前記側壁部は、前記平坦部から前記非通気層の反対側に屈曲している部分であってよい。
前記膜部と前記支持壁部はいずれも、エネルギー弾性を有しておらずゴム弾性を有する材料と、ゴム弾性を有しておらずエネルギー弾性を有する材料と、ゴム弾性とエネルギー弾性の両方を有する材料とのうちのいずれかからなるものであってよい。
前記膜部と前記支持壁部はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率が0.01MPa以上100MPa以下であってよい。さらに、前記膜部と前記支持壁部はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接が0.01以上0.50以下であってよい。より好ましくは、前記膜部と前記支持壁部はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が0.05MPa以上50MPa以下で、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接が0.05以上0.45以下の弾性体からなるものであってよい。具体的には、膜部と支持壁部の弾性は、JISK7244に準じて、動的粘弾性測定装置の引張または圧縮モードで周波数依存性を測定し、23℃基準のマスターカーブを求めることで得られる動的貯蔵弾性率(E’)で評価されるものであり、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が0.01MPa以上100MPa以下であるものとする。
前記支持壁部は、前記非通気層に直交する方向に延びるとともに前記非通気層に平行な第1の方向に延びる複数の第1壁部と、前記非通気層に直交する方向に延びるとともに前記第1の方向に直交する第2の方向に延びる複数の第2壁部と、を含んでいてよい。
前記支持壁部は、個々の前記区画を画定する円形、楕円形または長円形の横断面形状を有する円筒状、あるいは、個々の前記区画を画定する多角形の横断面形状を有する角筒状であってよい。
各々の前記区画の前記非通気層に投影した投影面積は、100mm2以上1000mm2以下であってよい。
各々の前記底部の前記非通気層に投影した投影面積は、各々の前記区画の前記投影面積の5%以上70%以下であってよい。さらに、各々の前記底部の前記非通気層に投影した投影面積は、各々の前記区画の前記投影面積の10%以上60%以下であってよい。
前記膜部の前記非通気層に投影した投影面積1000cm2あたり10個以上1000個以下の前記区画が設けられていてよい。さらに、前記膜部の前記非通気層に投影した投影面積1000cm2あたり50個以上500個以下の前記区画が設けられていてよい。
前記支持壁部の板厚は0.5mm以上5.0mm以下であってよい。さらに、前記支持壁部の板厚は1.0mm以上3.0mm以下であってよい。
前記膜部の膜厚は0.1mm以上3.0mm以下であってよい。
前記非通気層の膜厚は前記膜部の膜厚よりも小さくてよい。
前記非通気層に直交する方向の高さが5mm以上20mm以下であってよい。
前記支持壁部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは5mm以上20mm以下であってよく、部分的に高さが異なっていてもよい。
前記錘部の、前記非通気層に直交する方向に延びる高さは1mm以上であってよい。
前記膜部のデュロメータA硬さは50以上であり、前記支持壁部のデュロメータA硬さは1以上90以下であってよい。デュロメータA硬さは、JIS K 6253-3に準じて測定することで得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、十分な遮音性が得られるとともに、建物や機械装置、乗物(例えば自動車)のパネル等の曲面状または凹凸を有する載置面にも容易に安定的に載置することができる薄型かつ軽量の遮音構造体であって、特に1000Hz以下の低周波数領域での良好な遮音性を有する遮音構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】(A)は本発明の第1の実施形態の遮音構造体の斜視図であり、(B)はそのA-A線断面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態の変形例の遮音構造体の断面図である。
【
図4】(A)は本発明の第2の実施形態の遮音構造体の斜視図であり、(B)はそのA-A線断面図である。
【
図5】(A)は本発明の遮音構造体の1つの区画を模式的に示す平面図であり、(B)は複数の区画を模式的に示す平面図である。
【
図6】(A)は本発明の遮音構造体の他の例の1つの区画を模式的に示す平面図であり、(B)は複数の区画を模式的に示す平面図である。
【
図7】(A)は本発明の遮音構造体のさらに他の例の1つの区画を模式的に示す平面図であり、(B)は複数の区画を模式的に示す平面図である。
【
図8】(A)は本発明の遮音構造体のさらに他の例の1つの区画を模式的に示す平面図であり、(B)は複数の区画を模式的に示す平面図である。
【
図9】(A)は本発明の遮音構造体のさらに他の例の1つの区画を模式的に示す平面図であり、(B)は複数の区画を模式的に示す平面図である。
【
図10】本発明の実施例1の遮音構造体が鉄板に取り付けられた状態を示す断面図である。
【
図11】(A)~(C)は本発明の実施例1~3および比較例1~4の遮音性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
[第1の実施形態]
図1(A)は本発明の第1の実施形態の遮音構造体1の、非通気層2の反対側から見た斜視図であり、
図1(B)は
図1(A)のA-A線に沿って切断し、非通気層2を上側にして記載した断面図である。
図2は、遮音構造体1の分解正面図である。この遮音構造体1は、シート状の非通気層2と、弾性を有し非通気層2の一方の表面側に突出する支持壁部4と、弾性を有する膜部3と、錘部5と、を有する。膜部3は、支持壁部4と同じ方向に突出する複数の収容部7と、隣り合う収容部7同士の間に位置し、非通気層2に重ね合せられて接合されている平坦部6と、を有する。すなわち、本実施形態の膜部3は、複数の収容部7と平坦部6とからなる。このように膜部3の一部である収容部7は、支持壁部4と同じ方向に延びる側壁部7aと、側壁部7aの先端部に繋がっており非通気層2と平行な底部7bとからなる、有底で中空の円筒状または角筒状である。錘部5は収容部7の内部に配置されている。
【0017】
支持壁部4は、非通気層2上の空間の少なくとも一部を複数の区画8に分割している。支持壁部4によって仕切られた複数の区画8の全ての内部に、または複数の区画8のうちの一部の区画8の内部に1つずつ収容部7が配置されている。収容部7の側壁部7aと底部7bと非通気層2とに囲まれた空間に1つずつ錘部5が配置されている。錘部5の一端は収容部7の底部7bに固定された固定端であり、他端は非固定の自由端である。支持壁部4の、非通気層2に直交する方向に延びる高さH1は、収容部7の側壁部7aの、非通気層2に直交する方向に延びる高さH2よりも大きい。側壁部7aの、非通気層2に直交する方向に延びる高さH2は、錘部5の、非通気層2に直交する方向に延びる高さH3よりも大きい。そして、膜部3(平坦部6と収容部7の少なくとも一方)がばね部として、錘部5が質量部としてばねマス共振器を構成している。ここで言う弾性とは、外部から与えられた力によって変形した固体物質が、外力を取り除いた際に元の形状に復元する性質を指し、エネルギー弾性とゴム弾性(エントロピー弾性)とを含む。ここでは、エネルギー弾性とゴム弾性(エントロピー弾性)の少なくとも一方を有する場合を「弾性を有する」と称している。
【0018】
本実施形態の膜部3は、複数の収容部7がマトリクス状に配置され、隣り合う収容部7同士の間に平坦部6が位置する構成である。支持壁部4は、平坦部6から非通気層2の反対側に向けて立設されている。側壁部7aは平坦部6から非通気層2の反対側に屈曲している部分である。
図1に示す構成では、膜部3の収容部7の底部7bが円形であって、側壁部7aの横断面形状の輪郭が底部7bの輪郭と一致する円形である。従って、収容部7は有底で中空の円筒状である。この収容部7の側壁部7aと底部7bと非通気層2とに囲まれた閉じた空間の内部に、1つの錘部5が配置されている。錘部5は非通気層2には接しておらず、収容部7が振動しても錘部5が非通気層2に当接しないように錘部5と非通気層2との間に隙間が存在する。一例としては、側壁部7の非変形状態(初期状態)で、錘部5と非通気層2との間に、側壁部の高さH2の5%~10%程度の隙間が存在することが好ましい。また、錘部5は側壁部7aに接することなく錘部5と側壁部7aとの間に隙間が存在することが好ましい。
【0019】
本実施形態の支持壁部4は、膜部3に平行な第1の方向D1に延びる複数の第1壁部4aと、第1の方向D1に直交する第2の方向D2に延びる複数の第2壁部4bと、を含む。具体的には、複数の第1壁部4aが平行に並ぶとともに、複数の第2壁部4bが平行に並んでおり、第1壁部4aと第2壁部4bとは交点において一体化している。こうして複数の第1壁部4aと複数の第2壁部4bとが格子構造を構成しており、第1壁部4aと第2壁部4bとによって仕切られる平面形状が正方形の複数の区画8がマトリクス状に並んでいる。言い替えると、支持壁部4は、個々の区画8を画定する正方形の横断面形状を有する四角筒が複数並べられた構造である。支持壁部4は、ゴム、エラストマー、樹脂発泡体などの柔軟材料からなることが好ましい。ここで言う柔軟材料とは、エネルギー弾性を有しておらずゴム弾性を有する材料と、ゴム弾性を有しておらずエネルギー弾性を有する材料と、ゴム弾性とエネルギー弾性の両方を有する材料とのうちのいずれかである。
【0020】
本実施形態の遮音構造体1によると、膜部3に伝わった振動が、膜部3(平坦部6と収容部7の少なくとも一方)と錘部5とが構成しているばねマス共振器の作用により制御される。特に、特定の周波数域(例えば、自動車におけるロードノイズの主な周波数帯である1000Hz以下の周波数)において、膜振動が大幅に低減され、その結果、膜部3からの放射音が小さくなり、高い遮音性が発揮される。
【0021】
本実施形態の遮音構造体1の区画8は、膜部3の、非通気層2に投影した投影面積1000cm2あたり10個以上1000個以下設けられることが好ましく、50個以上500個以下設けられることがより好ましい。仮に、区画8が少なすぎると、遮音構造体1全体を複数の区画8に分割してそれぞれの区画毎に遮音効果を発現させることの作用効果が乏しく、遮音構造体1全体の遮音性が低くなるおそれがある。一方、区画8が多すぎると遮音構造体1全体の重量が増加するおそれがある。各区画8のそれぞれの非通気層2に投影した投影面積は100mm2以上1000mm2以下であることが好ましく、200mm2以上800mm2以下であることがより好ましい。仮に、各区画8のそれぞれの投影面積が小さすぎると、内部に収容部7を配置することが難しくなるおそれがあり、一方、投影面積が大きすぎると、膜部3に対する錘部5の効果が乏しく、遮音性が低くなるおそれがある。遮音構造体1全体の、膜部3に直交する方向の高さは、5mm以上20mm以下であることが好ましい。仮に遮音構造体1全体の高さが低すぎると、錘部5がばねマス共振器として十分な高さを持たなくなるおそれがあり、一方、高すぎると遮音構造体1全体の重量が増加するおそれがある。
【0022】
各々の収容部7の底部7bの非通気層2に投影した投影面積は、各々の区画8の投影面積(支持壁部4が接合されている部分は除く)よりも小さく、各々の区画8の投影面積の5%以上70%以下であることが好ましく、10%以上60%以下であることがより好ましい。仮に、底部7bの投影面積が、区画8の投影面積の5%より小さい場合、または70%より大きい場合には、振動低減を意図する主な周波数帯(1kHz以下)における共振系として十分に機能しないおそれがある。収容部7の側壁部7aの、非通気層2に直交する方向に延びる高さH2は、支持壁部4の非通気層に直交する方向に延びる高さH1よりも小さいことが好ましい。
【0023】
本実施形態の遮音構造体1の膜部3(平坦部6および収容部7)と支持壁部4はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が0.01MPa以上100MPa以下であることが好ましく、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接が0.01以上0.50以下であることが好ましい。さらに、本実施形態の膜部3と支持壁部4はいずれも、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が0.05MPa以上50MPa以下で、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接(tanδ)が0.05以上0.50以下であることがより好ましい。動的貯蔵弾性率(E’)および損失正接(tanδ)は、動的粘弾性試験機を用いて、23℃基準のマスターカーブを作成することで求められる。仮に、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が0.01MPa未満であると、対象とする周波数帯の遮音性が悪化するおそれがあり、膜部3(平坦部6および収容部7)や支持壁部4の形状保持性も悪化するおそれがある。23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が100MPaより大きいと、遮音対象とする周波数帯の振動が悪化するおそれがあり、遮音構造体1が剛直になり設置性も悪化するおそれがある。膜部3(平坦部6および収容部7)と支持壁部4とは同じ材料で形成されていても、異なる材料で形成されていてもよい。膜部3(平坦部6および収容部7)も柔軟材料、すなわちエネルギー弾性を有しておらずゴム弾性を有する材料と、ゴム弾性を有しておらずエネルギー弾性を有する材料と、ゴム弾性とエネルギー弾性の両方を有する材料とのうちのいずれかからなることが好ましい。
【0024】
膜部3は、錘部5が取り付けられる弾性膜である。膜部3の動的貯蔵弾性率(E’)は15MPa以上であることが好ましく、厚さ(膜厚)は0.1mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm程度であることがより好ましい。仮に、膜部3の厚さが0.1mm未満であると、遮音対象とする周波数帯の振動が悪化するおそれがあり、膜部3の厚さが3.0mmより大きいと、遮音構造体1全体の厚さや重量が増加するおそれがある。膜部3の材料は、JIS K6253によるデュロメータA硬さが50以上であることが好ましく、70以上であることがより好ましい。膜部3のデュロメータA硬さが50より小さいと、遮音対象とする周波数帯の振動が悪化するおそれがある。
【0025】
膜部3の材料としては、架橋(加硫)ゴム、熱可塑性エラストマー、プラスチックが挙げられる。架橋(加硫)ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)およびエチレン-ブテン-ジエンゴム(EBDM)等のエチレン・α-オレフィン・非共役ポリエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、アクリルゴム(ACM)、エチレン-アクリルゴム(AEM)、エチレン-酢酸ビニルゴム(EVA)、エピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)、多硫化ゴム(T)、メチルビニルシリコーンゴム(VMQ)およびフッ化シリコーンゴム(FVMQ)などのシリコーンゴム(Q)、ウレタンゴム(U)、フッ素ゴム(FKM)等の各種ゴム材料を架橋(加硫)させたものが挙げられる。これらの架橋(加硫)ゴムは、単独で用いることもでき、または2種類以上の組み合わせで用いることもできる。なお、架橋(加硫)方式としては、例えば、架橋剤(加硫剤)として、有機過酸化物、フェノール樹脂、オキシム化合物、イオウ、イオウ系化合物、ポリアミン化合物を用いて、加熱により架橋(加硫)させる方法や、電子線を照射して架橋させる方法が挙げられる。なお、架橋(加硫)ゴムには、一般にゴム配合剤として使用される各種公知の配合剤(カーボンブラック、シリカ等の補強剤、炭酸カルシウムなどの充填剤、パラフィンオイル、可塑剤等の軟化剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、難燃剤、防カビ剤、受酸剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等)が配合されていてよい。また、これらの架橋(加硫)ゴム、架橋剤(加硫剤)、配合剤は、バイオマス原料からなるものであってもよい。
【0026】
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、エチレン-酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。また、プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、またはそれらを含む複合樹脂などが挙げられる。また、これらの架橋(加硫)ゴム、架橋剤(加硫剤)、配合剤は、バイオマス原料からなるものであってもよい。
【0027】
具体的には、膜部3の材料は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、熱可塑性オレフィン系エラストマー、熱可塑性スチレン系エラストマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートなどであることが好ましい。
【0028】
支持壁部4は、膜部3を支持可能な範囲で柔らかい柔軟材料からなることが好ましい。支持壁部4の板厚は0.5mm以上5.0mm以下であることが好ましく、1.0mm以上3.0mm以下であることがより好ましい。仮に支持壁部4の板厚が0.5mm未満であると、遮音構造体1の形状保持性が悪化するおそれがあり、支持壁部4の板厚が5.0mmより大きいと、支持壁部4からの振動が膜部3に伝達し、膜部3の振動が大きくなることで、遮音対象となる周波数帯の遮音性が悪化するおそれがあり、遮音構造体1全体の重量も増加するおそれがある。支持壁部4の材料は、JIS K6253によるデュロメータA硬さが1以上90以下のものであることが好ましく、10以上70以下のものであることがより好ましい。支持壁部4のデュロメータA硬さが1未満であると遮音構造体1の形状保持性が悪化するおそれがあり、90より大きいと、支持壁部4からの振動が膜部3に伝達し、遮音性能が悪化するとともに、遮音構造体1が剛直になり設置性が悪化するおそれがある。そして、支持壁部4の剛性kは、動的貯蔵弾性率E’と支持壁部4の断面積Aと支持壁部4の高さLとから、k=E’×A/Lと表され、剛性の評価対象とする支持壁部4の面積が1000cm2である時に、剛性kが10N/mm以上106N/mm以下であることが好ましく、102N/mm以上105N/mm以下であることがより好ましい。支持壁部4の面積が1000cm2である時の剛性kが10N/mm未満であると、遮音構造体1の形状保持性が悪化するおそれがあり、106N/mmより大きいと、支持壁部4からの振動が膜部3に伝達し、遮音性能が悪化するとともに、遮音構造体1が剛直になり設置性が悪化するおそれがある。
【0029】
支持壁部4の材料としては、架橋(加硫)ゴム、熱可塑性エラストマー、樹脂発泡体などが挙げられる。架橋(加硫)ゴム、熱可塑性エラストマーは、膜部3の材料として挙げられた材料と同じであってよい。樹脂発泡体としては、独立気泡構造でも、連続気泡構造でもよく、ポリウレタンフォーム、ポリスチレンフォーム、ポリエチレンフォーム、エチレン-酢酸ビニルゴム(EVA)フォームなどが挙げられる。具体的には、支持壁部4の材料は、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性オレフィン系エラストマー、熱可塑性スチレン系エラストマー、熱可塑性ポリウレタン、ポリウレタンフォームなどであることが好ましい。これらの樹脂発泡体はバイオマス原料からなるものであってもよい。
【0030】
錘部5の材料は特に限定しないが、樹脂または金属等からなり、例えば0.1g以上2.0g以下の質量を有している。錘部5は膜部3と一体的に形成されていてもよく、また、別々に形成された後に互いに接合されていてもよい。錘部5の形状は任意に決定可能であり、特に限定されない。例えば、図示しないが、錘部5は非通気層2から離れる方向に向かって先細の円錐台形であってもよい。錘部5の材料が樹脂である場合、その樹脂はバイオマス原料からなるものであってもよい。
【0031】
非通気層2の材料は特に限定しないが、非通気性を有し軽量の樹脂フィルムであることが好ましい。非通気層2は膜部3と同じ材料で形成されていてもよいが、より軽量の材料から形成されることが好ましい。樹脂フィルムとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリスチレン、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリル、ポリイミド、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、またはそれらを含む複合樹脂などが挙げられる。また、膜部3と同様な架橋(加硫)ゴム、熱可塑性エラストマーが用いられていてもよい。非通気層2を形成するこれらの樹脂材料は、バイオマス原料からなるものであってよい。一例としては、非通気層2は厚さ0.1mm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムである。非通気層2は、全ての収容部7を覆うことが可能であれば、必ずしも膜部3の全面を覆っていなくてもよい。非通気層2の厚さ(膜厚)は0.001mm以上0.3mm以下であることが好ましく、0.01mm以上0.2mm以下であることがより好ましい。仮に非通気層2の厚さが0.001mm未満であると、薄過ぎて取り扱いが困難になる。また、非通気層2の厚さが0.3mmより大きいと、遮音構造体1が重くなるとともに、剛直になり設置性が悪化するおそれがある。
【0032】
このような構成であると、非通気層2、膜部3(平坦部6および収容部7)、支持壁部4、錘部5のいずれも比較的軽量であり、非通気層2に直交する方向の寸法が比較的小さい。このように本実施形態の遮音構造体1は軽量かつ薄型でありながら、前述した通り特定の周波数域(例えば1000Hz以下)において高い遮音性が得られる。そして、柔軟材料からなる支持壁部4を、平面状の載置面にも、曲面状や凹凸を有する載置面にも、接着等により固定しなくても、容易かつ安定的に設置することができる。
【0033】
図3は本発明の第1の実施形態の遮音構造体1の変形例の断面図である。本変形の膜部3は平坦部を持たず、複数の収容部7のみからなり、各収容部7の側壁部7aの端面が非通気層に直接固定されている。本変形例の遮音構造体1においても、膜部3(収容部7)と錘部5とが構成しているばねマス共振器の作用により振動が制御される。特に、特定の周波数域(例えば、自動車におけるロードノイズの主な周波数帯である1000Hz以下の周波数)において、膜振動が大幅に低減され、その結果、膜部3からの放射音が小さくなり、高い遮音性が発揮される。
【0034】
[第2の実施形態]
図4(A)は本発明の第2の実施形態の遮音構造体1の、非通気層2の反対側から見た斜視図であり、
図4(B)は
図4(A)のA-A線に沿って切断し、非通気層2を上側にして記載した断面図である。本実施形態の遮音構造体1では、収容部7は、4つの側壁部7aと1つの底部7bを有する有底で中空の四角筒状である。収容部7の4つの側壁部7aと底部7bと非通気層2とに囲まれた閉じた空間の内部に、1つの錘部5が配置されている。錘部5は非通気層2には接していない。本実施形態の遮音構造体1においても、膜部3(平坦部6および収容部7の少なくとも一方)と錘部5とが構成しているばねマス共振器の作用により振動が制御される。特に、特定の周波数域(例えば、自動車におけるロードノイズの主な周波数帯である1000Hz以下の周波数)において、膜振動が大幅に低減され、その結果、膜部3からの放射音が小さくなり、高い遮音性が発揮される。なお、本実施形態でも、
図3に示す第1の実施形態の変形例と同様に、膜部3は平坦部を持たず、複数の収容部7のみからなり、各収容部7の側壁部7aの端面が非通気層に直接固定されている構成にすることもできる。
【0035】
第1~2の実施形態のいずれにおいても、膜部3と支持壁部4とを、前述した材料の射出成形、圧縮成形、プレス成型、押出成形、トランスファー成形、注型等による一体成形や二色成形により形成可能である。さらに、非通気層2と錘部5も、膜部3および支持壁部4とともに、前述した材料の一体成形や二色成形やインサート成形等によって形成できる場合もある。ただし、非通気層2と膜部3と支持壁部4と錘部5とをそれぞれ別々に形成した後で、接着や熱融着により互いに接合することによって遮音構造体1を組み立てるようにしてもよく、遮音構造体1の一部を構成する複数の部分を一体成形するとともに、残りの部分を別々に成形して、それらを接着や熱融着により互いに接合することによって遮音構造体1を組み立てるようにしても構わない。
【0036】
以上説明した遮音構造体1の構成では、
図5に示すように、支持壁部4が、膜部3に平行な第1の方向D1に延びる複数の第1壁部4aと、第1の方向D1に直交する第2の方向D2に延びる複数の第2壁部4bと、を含んでおり、各区画8の平面形状は正方形である。言い替えると、支持壁部4は、個々の区画8を画定する正方形の横断面形状を有する角筒状であり、角筒状の支持壁部4が多数並べて配置され、隣接する区画8の支持壁部4が一体化している構成である。しかし、このような構成に限定されない。例えば、
図6に示すように、各区画8の平面形状が三角形であって、支持壁部4は、個々の区画8を画定する三角形の横断面形状を有する角筒状であってもよい。また、
図7に示すように、各区画8の平面形状が五角形であって、支持壁部4は、個々の区画8を画定する五角形の横断面形状を有する角筒状であってもよい。
図8に示すように、各区画8の平面形状が六角形であって、支持壁部4は、個々の区画8を画定する六角形の横断面形状を有する角筒状で、いわゆるハニカム構造を構成するものであってもよい。さらに、
図9に示すように、各区画8の平面形状が円形であって、支持壁部4は、個々の区画8を画定する円形の横断面形状を有する円筒状であってもよい。
図7,9に示す構成の場合には、区画8同士の間に隙間が生じるので、隙間が小さくなるように支持壁部4の形状および寸法を決定することが好ましい。
図5,6,8に示す構成の場合には、区画8同士の間に隙間が生じない。さらに、各区画8は、図示されていない様々な形状、例えば、長方形、平行四辺形、台形、七角形以上の多角形、楕円形、長円形等であってもよく、不規則な形状であってもよい。支持壁部4は、各区画8の平面形状に合わせた形状および寸法に形成される。図示しないが、収容部7も、支持壁部4と同様に、円筒状または四角筒状に限られず、三角筒状または、五角筒状以上の角筒状等であってもよい。
【0037】
本発明の遮音構造体1は、非常に薄く軽量であり、曲面や凹凸を有する面の上に載置することも容易であるため、乗物、特に自動車のパネル上に載置されて使用されてもよい。自動車等のパネルは基本的に通気性のない板であり、一例として、金属板(鉄板、鋼板、アルミニウム板)、樹脂板などが挙げられる。遮音構造体1が載置されるパネルが金属板である場合には、その厚さは0.5mm~2.0mmの範囲であることが好ましく、樹脂板である場合には、その厚さは0.5mm~20mmの範囲であることが好ましい。遮音構造体1を自動車のパネル上に載置する場合には、遮音構造体1の支持壁部4の、膜部3または非通気層2に取り付けられている側と反対側の端面がパネル上に載置されることが好ましい。また、この際、支持壁部4とパネルとは接着されていても接着されていなくても構わないが、支持壁部4がパネルに接着されずにパネル上に載置されて使用されることが好ましい。
【0038】
また、本発明の遮音構造体1は単独で用いられてもよく、他の部材(図示せず)と組み合わせて用いられてもよい。本発明の遮音構造体1が他の部材と組み合わせて用いられる場合には、他の部材と積層または結合されて用いられてもよい。他の部材と積層または結合される場合には、遮音構造体1が載置される部位(例えば自動車のパネル)に遮音構造体1が接するように載置されていてもよく、あるいは、その部位に他の部材が接するように載置されていてもよい。遮音構造体1と組み合わせて用いられる他の部材は、様々な材料からなるものであってよい。
【0039】
本発明の遮音構造体1を自動車に設置する部位としては、エンジンコンパートメントにおいては、エンジンヘッドカバー、エンジンボディカバー、フードインシュレーター、ダッシュ前インシュレーター、エアボックスの壁、エアインテークのクリーナー、ダストサイドダクト、アンダーカバーなどが挙げられ、キャビンにおいては、ダッシュインシュレーター、ダッシュパネル、フロアカーペット(フロアサイレンサー)、スペーサー、ドアのドアトリム、ドアトリムの内部、インストパネル、インストセンターボックス、インストアッパーボックス、エアコンの筐体、ルーフのトリム、ルーフトリムの内部、サンバイザー、後席向けエアコンダクト、電池搭載車両における電池冷却システムの冷却ダクト、冷却ファン、センターコンソールのトリム、コンソールの内部、パーセルトリム、パーセルパネル、シートのヘッドレスト、フロントシートのシートバック、リアシートのシートバックなどが挙げられ、トランクにおいては、トランクサイドのトリム、トリムの内部、ドラフターカバーなどが挙げられる。また、本発明の遮音構造体1は、自動車の骨格内やパネル間にも設置可能であり、さらには、車外に位置するフロア下のアンダーカバー、フェンダープロテクター、バックドア、ホイールカバー、サスペンションの空力カバーなどにも設置可能である。
【実施例0040】
本発明の具体的な実施例と比較例について以下に説明する。
[実施例1]
本発明の実施例1の遮音構造体1は、
図1~2に示す第1の実施形態と同じ構造である。本実施例の非通気層2は、膜厚が0.1mmのPETフィルムからなる。本実施例の膜部3は、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率が0.01MPa以上100MPa以下で、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接が0.01以上0.50以下の範囲内である弾性体からなる。より具体的には、本実施例の膜部3は、23℃で周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が20.4MPaで、損失正接(tanδ)が0.12であり、23℃で周波数10Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が23.0MPaで、損失正接(tanδ)が0.13であり、23℃で周波数100Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が25.4MPaで、損失正接(tanδ)が0.16であり、23℃で周波数1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が28.8MPaで、損失正接(tanδ)が0.14であり、JIS K6253によるデュロメータA硬さが70で、膜厚が0.5mmのEPDM(エチレン-プロピレン-ジエンゴム)からなる。本実施形態の収容部7は、外径が15mmで内径が14mmの円筒状であり、側壁部7aの、非通気層2に直交する方向の高さH2が8mmである。
【0041】
本実施例の支持壁部4は、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける動的貯蔵弾性率が0.01MPa以上100MPa以下で、23℃で周波数1Hz~1000Hzにおける損失正接が0.01以上0.50以下の範囲内である弾性体からなる。より具体的には、本実施例の支持壁部4は、23℃で周波数1Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が13.2MPaで、損失正接(tanδ)が0.12であり、23℃で周波数10Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が15.0MPaで、損失正接(tanδ)が0.14であり、23℃で周波数100Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が17.4MPaで、損失正接(tanδ)が0.17であり、23℃で周波数1000Hzにおける動的貯蔵弾性率(E’)が20.2MPaで、損失正接(tanδ)が0.16であり、JIS K6253によるデュロメータA硬さが65で、板厚が1.6mmで、非通気層2に直交する方向の高さH1が10mmのEPDMからなる。ただし、最も外側に位置する支持壁部4のみは、板厚が半分の0.8mmである。複数の支持壁部4(第1壁部4aおよび第2壁部4b)によって画定される区画8は25mm×25mmの正方形状であり、膜部3(非通気層2上の空間)の平面形状が200mm×200mmの正方形の領域(評価面)に49個の区画8が存在する。ただし、図面にはこの領域の一部のみを模式的に示している。各々の収容部7の底部7bの非通気層2に投影した投影面積は、各々の区画8の投影面積(支持壁部4が接合されている部分は除く)の28%である。
【0042】
本実施例の錘部5は、JIS K6253によるデュロメータA硬さが70のEPDMからなり、直径が11mmで非通気層2に直交する方向の高さH3が6.5mmの円柱状である。錘部5の質量は約0.7gであり、膜部3(平坦部6および収容部7の少なくとも一方)と錘部5とからなるばねマス系で、錘部5の設置面に垂直な方向に対して、周波数600Hz~650Hzにピークを示す共振を有する。遮音構造体1全体の高さは10.6mmであり、1つの区画5における非通気層2、膜部3(平坦部6および収容部7)、支持壁部4、錘部5を含む全体の面密度は、3.41kg/m2である。
【0043】
図10に示すように、遮音構造体1の支持壁部4の、膜部3に取り付けられている側と反対側の端面を、厚さ0.8mmの鉄板9上に載置した。1つの区画8における非通気層2、膜部3(平坦部6および収容部7)、支持壁部4、錘部5に、鉄板9を加えた全体の面密度は、9.43kg/m
2であった。鉄板9の遮音構造体1を載置した側と反対側の面を入射音側として遮音性を測定した。具体的には、JIS A1441-1に示されているインテンシティ法に準じ、音源室が残響室であり受音室が半無響室である試験設備室を用い、1/3オクターブバンド分析による1/3オクターブバンド中心周波数[Hz]に対する音響透過損失(透過損失)[dB]を求めた。1/3オクターブバンド中心周波数と音響透過損失との関係を求め、
図11(A)~11(C)に示している。音響透過損失が大きいほど遮音性が高い。なお、
図11(A)~11(C)に示されている1/3オクターブバンド中心周波数[Hz]において、1kHzは1000Hzであり、接頭語「k」は1000を意味する。
【0044】
[実施例2]
図示しないが、本発明の実施例2の遮音構造体1は、実施例1の遮音構造体1と実質的に同じ構造である。本実施例の支持壁部4は、JIS K6253-3によるデュロメータA硬さが30のEPDMからなる。それ以外の構成は実施例1と同じである。そして、この構成の面密度は、3.20kg/m
2であった。この遮音構造体1の支持壁部4の、膜部3に取り付けられている側と反対側の端面を、厚さ0.8mmの鉄板9上に載置し、鉄板9を含めた面密度は、9.22kg/m
2であった。この遮音構造体1の遮音性を求め、
図11(A)に示している。
【0045】
[実施例3]
図示しないが、本発明の実施例3の遮音構造体1は、実施例1の遮音構造体1と実質的に同じ構造である。本実施例の支持壁部4は、非通気層2に直交する方向の高さが14mmである。それ以外の構成は実施例1と同じである。そして、この構成の面密度は、4.02kg/m
2であった。この遮音構造体1の支持壁部4の、膜部3に取り付けられている側と反対側の端面を、厚さ0.8mmの鉄板9上に載置し、鉄板9を含めた面密度は、10.04kg/m
2であった。この遮音構造体1の遮音性を求め、
図11(A)に示している。
【0046】
[比較例1]
比較例1として、厚さ0.8mmの鉄板9上に、実施例1の遮音構造体1と同じ質量の部材が載置された場合の、質量則に基づいて算出される遮音性の理論値を求めて、1/3オクターブバンド中心周波数と音響透過損失との関係を
図11(B)に示している。この構成の面密度は、9.43kg/m
2である。
【0047】
[比較例2]
比較例2として、
図12に示すように、厚さ0.8mmの鉄板9上に何も載置しない状態で遮音性を測定し、1/3オクターブバンド中心周波数と音響透過損失との関係を
図11(B)に示している。これは、遮音構造体が設けられていない状態を示す。この構成の面密度は、6.02kg/m
2である。
【0048】
[比較例3]
比較例3として、
図13に示すように、厚さ0.8mmの鉄板9上に膜部3(平坦部6および収容部7)と支持壁部4と錘部5のみからなる構造体10を載置して遮音性を測定し、1/3オクターブバンド中心周波数と音響透過損失との関係を
図11(C)に示している。本実施例の膜部3(平坦部6および収容部7)、支持壁部4、錘部5は、実施例1の膜部3(平坦部6および収容部7)、支持壁部4、錘部5と同じであるが、非通気層2が存在しない。この構造体10の面密度は、3.25kg/m
2であり、鉄板9を含めた面密度は、9.27kg/m
2であった。
【0049】
[比較例4]
比較例4として、
図14に示すように、厚さ0.8mmの鉄板9上に膜部3(平坦部6および収容部7)と支持壁部4のみからなる構造体11を載置して遮音性を測定し、1/3オクターブバンド中心周波数と音響透過損失との関係を
図11(C)に示している。本実施例の膜部3(平坦部6および収容部7)および支持壁部4は、実施例1の膜部3(平坦部6および収容部7)および支持壁部4と同じであるが、非通気層2と錘部5が存在しない。この構造体11の面密度は、2.68kg/m
2であり、鉄板9を含めた面密度は、8.70kg/m
2であった。
【0050】
[結果]
前述した本発明の実施例1~3と比較例1~4を対比した結果を説明する。
図11(A)~11(C)を参照すると、本発明の遮音構造体1によって遮音効果が向上することがわかる。特に、実施例1~3の遮音構造体1によると、1kHzよりも低い周波数帯において、質量則に基づく理論値(比較例1)よりも著しく大きな遮音効果が得られ、本発明の効果が大きいことがわかる。また、比較例3に比べて、実施例1~3の遮音構造体1によると、特に1kHzよりも低い周波数帯で大きな遮音効果が得られることがわかる。これは、比較例3では、機能部位である収容部7および錘部5が外部に露出しているため、音が再放射したからであると推測される。このことから、非通気層2を設けることが極めて有効であると言える。さらに、比較例4に比べて、実施例1~3の遮音構造体1によると大きな遮音効果が得られることがわかる。これは、比較例4の構造体は、単なる中空二重壁として振る舞うだけであり、鉄板9と構造体11の内部の間の空気層の遮音効果のみが発揮されるのみであり、特に1.25kHzより低い周波数帯の遮音効果が小さい。このことから、非通気層2と錘部5とを設けることが極めて有効であると言える。
【0051】
なお、錘部5の重さによって、遮音性が特に良好な周波数帯を調整することができる。例えば、錘部5が、実施例1の錘部5と同程度の質量であると、遮音性が特に良好な周波数帯が1000Hz付近であり、錘部5を軽くすると、遮音性が特に良好な周波数帯を高周波数側にシフトすることができる。