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特開2024-140424高張力鋼のサブマージアーク溶接方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140424
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】高張力鋼のサブマージアーク溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/362 20060101AFI20241003BHJP
   B23K 35/30 20060101ALI20241003BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20241003BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23K35/362 310C
B23K35/362 310B
B23K35/30 320F
C22C38/00 301A
C22C38/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051557
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】302040135
【氏名又は名称】日鉄溶接工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】横尾 友美
(72)【発明者】
【氏名】桑原 直也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 博志
【テーマコード(参考)】
4E084
【Fターム(参考)】
4E084AA02
4E084AA03
4E084AA07
4E084AA09
4E084AA11
4E084AA12
4E084AA20
4E084AA26
4E084AA36
4E084CA03
4E084CA16
4E084GA03
4E084HA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定した溶接金属の強度及び低温靭性が得られ、かつ、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥が無く、溶接作業性が良好なサブマージアーク溶接方法を提供する。
【解決手段】高張力鋼のサブマージアーク溶接方法において、SiO2:5~20%、CaO:5~20%、MgO:25~35%、Al23:10~20%、CaF2:23~35%、CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値:2~7%、Si:0.3~2.0%、Na2O及びK2Oの1種または2種以上の合計:1~5%、TiO2:0.1%以下からなるボンドフラックスとC:0.08~0.15%、Si:0.1~0.3%、Mn:1.5~2.5%、Ni:2.0~3.0%、Mo:0.5~1.5%、Ti:0.02~0.08%を含有し、Al:0.05%以下、P:0.015%以下、S:0.015%以下からなるソリッドワイヤとを組合せて溶接する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高張力鋼のサブマージアーク溶接方法において、サブマージアーク溶接用ボンドフラックス全質量に対する質量%で、
SiO2:5~20%、
CaO:5~20%、
MgO:25~35%、
Al23:10~20%、
CaF2:23~35%、
CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値:2~7%、
Si:0.3~2.0%、
Na2O及びK2Oの1種または2種以上の合計:1~5%を含有し、
TiO2:0.1%以下であり、
残部は鉄合金からのFe分及び不可避不純物からなるサブマージアーク溶接用ボンドフラックスと、
ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、
C:0.08~0.15%、
Si:0.1~0.3%、
Mn:1.5~2.5%、
Ni:2.0~3.0%、
Mo:0.5~1.5%、
Ti:0.02~0.08%を含有し、
Al:0.05%以下、
P:0.015%以下、
S:0.015%以下であり、
残部はFe、ワイヤ表面の銅めっきからのCu及び不可避不純物からなるソリッドワイヤとを組合せて溶接することを特徴とする高張力鋼のサブマージアーク溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、780MPa級の高張力鋼のサブマージアーク溶接方法に関し、安定した溶接金属の強度及び低温靭性が得られ、かつ、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥が無く、溶接作業性が良好なサブマージアーク溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は、高能率で良好な溶接作業性及び優れた機械性能を有する溶接金属が得られることから、造船、鉄骨、造管、橋梁、車両など幅広い分野で適用されている。
【0003】
近年、エネルギー産業の発展に伴い、鋼材の高強度化及び高靭性化、また構造物の大型化に伴う板厚の極厚化などが検討されており、品質及び生産性の面からサブマージアーク溶接の適用比率が年々増加している。このような高張力鋼のサブマージアーク溶接では、溶接施工における生産性の向上や安全性、耐久性の確保のため、更なる品質向上が求められており、その中でも溶接の高能率化と鋼材特性に見合った溶接金属の強度及び靭性が要望されている。サブマージアーク溶接は、被覆アーク溶接やガスシールドアーク溶接に比べ、溶接入熱量が多く、母材希釈率が大きいため、溶接作業性や溶接金属の性能は、フラックスとワイヤの成分組成でほぼ決定される。高張力鋼のサブマージアーク溶接では、鋼材に見合った溶接金属の強度及び靭性を確保するため、溶接金属の化学成分を自由に調整することができるボンドフラックスが適用されている。しかし、高張力鋼の溶接においてはボンドフラックスに合金成分を添加するだけでは溶接金属の高強度化及び高靭性を得ることはできない。そのため溶接金属の適正な強度及び靭性を得るためには、組合せるソリッドワイヤにSi、Mn等の合金成分を含有させるとともに、フラックス及びソリッドワイヤそれぞれの化学成分を併せて考慮し、最適な組合せを選定する必要がある。
【0004】
これらの点を考慮し良好な溶接作業性及び溶接金属機械性能が得られる高張力鋼のサブマージアーク溶接方法については従来から種々の技術開発が行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1には、ボンドフラックスとワイヤの成分を適正とすることにより高強度で-60℃までの優れた低温靭性を有する溶接金属が得られるサブマージアーク溶接用ボンドフラックス及びワイヤが開示されている。しかし、特許文献1に記載のボンドフラックスはCaF2が少量しか添加されていないため、スラグの塩基度が低く、ソリッドワイヤにおいてもSi及びTiが適正でないため、-60℃以上では安定した低温靭性を有する溶接金属が得られないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2には、ソリッドワイヤとボンドフラックスの組合せで得られる溶接金属の成分を適正とすることで、高強度で-20℃までの優れた靭性が得られる溶接金属が開示されている。しかし、特許文献2の記載の溶接金属を得るためのボンドフラックスのCaF2、ソリッドワイヤのSi及びTiが適正でないため、-60℃以上での良好な低温靭性を有する溶接金属が得られないという問題があった。
【0007】
また、特許文献3には、高張力鋼のサブマージアーク溶接方法に関しボンドフラックスの成分とソリッドワイヤの炭素当量を規定することにより溶接まま、PWHTいずれにおいても-30℃までの優れた靭性が得られる溶接金属が開示されている。しかし、特許文献3に記載のソリッドワイヤのNi、Tiが適正でないため、-60℃以上での良好な低温靭性を有する溶接金属が得られないという問題があった。
【0008】
さらに、特許文献4には、高張力鋼のサブマージアーク溶接に関し、ボンドフラックスの成分を適正にして、ソリッドワイヤのSi低くすることで炭素当量を適正範囲にすることにより高強度で良好な低温靭性を有する溶接金属が得られる技術が開示されている。しかし、特許文献4に記載のボンドフラックスは、CaF2が低く、ワイヤ中のSi量が低いため溶接金属の酸素量が高くなり、-60℃でも、さらに良好で安定した低温靭性が得られないとい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-39604号公報
【特許文献2】特開2007-260696号公報
【特許文献3】特開平8-257789号公報
【特許文献4】特開平5-212583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、780MPa級の高張力鋼のサブマージアーク溶接方法に関し、安定した溶接金属の強度及び低温靭性が得られ、かつ、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥が無く、溶接作業性が良好なサブマージアーク溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、高張力鋼のサブマージアーク溶接方法において、ボンドフラックス全質量に対する質量%で、SiO2:5~20%、CaO:5~20%、MgO:25~35%、Al23:10~20%、CaF2:23~35%、CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値:2~7%、Si:0.3~2.0%、Na2O及びK2Oの1種または2種以上の合計:1~5%、TiO2:0.1%以下を含有し、残部は鉄合金からのFe分及び不可避不純物からなるボンドフラックスと、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%で、C:0.08~0.15%、Si:0.1~0.3%、Mn:1.5~2.5%、Ni:2.0~3.0%、Mo:0.5~1.5%、Ti:0.02~0.08%、Al:0.05%以下、P:0.015%以下、S:0.015%以下を含有し、残部はFe、ワイヤ表面の銅めっきからのCu及び不可避不純物からなるソリッドワイヤとを組合せて溶接することを特徴とする高張力鋼のサブマージアーク溶接方法にある。
【発明の効果】
【0012】
本発明を適用した高張力鋼のサブマージアーク溶接方法によれば、安定した溶接金属の強度及び低温靭性が得られ、かつ、溶接金属の拡散性水素量が低く、溶接欠陥が無く、溶接作業性が得られるなど、高能率に高品質な溶接部を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、780MPa級の高張力鋼のサブマージアーク溶接を行う上で、上述した課題を解決するために、サブマージアーク溶接用ボンドフラックス(以下、ボンドフラックスという。)の化学組成及びこれに組合せるソリッドワイヤの化学成分について種々試作して検討した。その結果、フラックス中のCaO、MgO、CaF2を適量含有させてスラグの塩基度を高め、かつ、脱酸元素であるSiを適量添加し、組合せるソリッドワイヤのC、Si、Mn、Ni、Mo、Tiを適正な範囲とすることで溶接金属の強度及び酸素量を適正化し安定した低温靭性が得られることを見出した。また、フラックス中の金属炭酸塩を適量化することで拡散性水素量を低減できることを見出した。さらに、アーク安定性にはNa2OとK2O及びAl23の適量化、スラグ剥離性にはSiO2を適量含有することによってこれらの溶接作業性が良好になることを見出した。
【0014】
まず、以下に本発明を適用したサブマージアーク溶接方法に用いるボンドフラックス成分組成の限定理由について説明する。以下、各成分についての%は、ボンドフラックス全質量に対する質量%を示す。
【0015】
[SiO2:5~20%]
SiO2は、スラグの粘性を調整して、良好な溶接ビードを形成するための重要な成分である。SiO2を添加することで、スラグをガラス質の性状にして、砕けやすく剥離性の良好なスラグが得られる。SiO2が5%未満では、スラグ剥離性が劣化し、アンダーカットも発生しやすくなる。一方、SiO2が20%を超えると、溶接金属の酸素量が増加して低温靭性が劣化する。したがって、SiO2は5~20%とする。なお、SiO2は原料として例えば珪砂、水ガラス等から添加できる。
【0016】
[CaO:5~20%]
CaOは、スラグの塩基度を高めて溶接金属の酸素量を低減することで低温靭性を向上させる効果がある。CaOが5%未満では、この効果が得られず溶接金属の低温靭性が低下する。一方、CaOが20%を超えると、スラグの塩基度が高くなり、アークが不安定となり、スラグ剥離性が劣化する。したがって、CaOは5~20%とする。なお、CaOは原料として例えば珪灰石、酸化カルシウム等から添加できる。
【0017】
[MgO:25~35%]
MgOは、スラグの塩基度を高めて溶接金属の酸素量を低減することで低温靭性を向上させる効果がある。MgOが25%未満では、この効果が得られず、溶接金属の低温靭性が劣化する。一方、MgOが35%を超えると、スラグの融点が高くなり、スラグ剥離性及びビード外観が劣化し、またスラグ巻込み等の溶接欠陥が発生しやすくなる。したがって、MgOは25~35%とする。なお、MgOは原料としてマグネシアクリンカー等から添加できる。
【0018】
[Al23:10~20%]
Al23は、スラグ形成剤として作用し、またアークの安定性を良好にする効果もある。Al23が10%未満では、アークが不安定となり、スラグ剥離性及びビード外観が劣化する。一方、Al23が20%を超えると、溶接金属の酸素量が増加し、溶接金属の低温靭性が劣化する。したがって、Al23は10~20%とする。なお、Al23は原料として例えばアルミナ等から添加できる。
【0019】
[CaF2:23~35%]
CaF2は、スラグの塩基度を高めて溶接金属の酸素量を低減することで低温靭性を向上させる効果がある。CaF2が23%未満では、この効果が得られず溶接金属の低温靭性が低下する。一方、CaF2が35%を超えると、アークが不安定となり、スラグ剥離性及びビード外観が劣化する。したがって、CaF2は23~35%とする。なお、CaF2は原料として例えば蛍石等から添加できる。
【0020】
[CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値:2~7%]
CaCO3やMgCO3からのCO2換算値は、溶接中にCaCO3やMgCO3を分解してCOまたはCO2ガスがアーク雰囲気中の水素分圧を下げ、溶接金属中の拡散性水素量を低減する効果がある。CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値が2%未満では、拡散性水素量を低減させる効果が得られない。一方、CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値が7%を超えると、ビード表面にポックマークが発生しやすくなり、また溶接金属の酸素量が増加し、溶接金属の低温靭性が劣化する。したがって、CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値は2~7%とする。
【0021】
[Si:0.3~2.0%]
Siは、脱酸元素であり溶接金属の酸素量を低減することでビード外観を良好にする効果がある。Siが0.3%未満では、脱酸効果が得られずビード表面にポックマークが発生しやすくなる。一方、Siが2.0%を超えると、溶接金属の強度が高くなり低温靭性が劣化する。したがって、Siは0.3~2.0%とする。なお、Siは原料として例えば金属Si、Fe-Si及びFe-Si-Mn等から添加できる。
【0022】
[Na2O及びK2Oの1種または2種の合計:1~5%]
Na2O及びK2Oは、アークの安定性を良好する効果がある。Na2O及びK2Oの1種または2種の合計が1%未満では、この効果が得られずアークが不安定となる。Na2O及びK2Oの1種または2種の合計が5%を超えると、ポックマークが発生しやすくなり、ビード外観が劣化する。したがって、Na2O及びK2Oの1種または2種の合計は1~5%とする。なお、Na2O及びK2Oは原料として例えば炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム等から添加できる。
【0023】
[TiO2:0.1%以下]
TiO2は、スラグ剥離性を劣化するため、できるだけ含有しないことが望ましい。特にTiO2は0.1%を超えるとスラグ剥離性の劣化が顕著になる。したがって、TiO2は0.1%以下とする。なお、TiO2はチタン酸カルシウム、イルミナイト等から添加される。
【0024】
ボンドフラックスの上記成分以外の残部は、鉄合金からのFe分、MnO、P、S等の不可避不純物であり、PおよびSは共に低融点の化合物を生成して靭性を低下させるので、できるだけ低いことが好ましい。
【0025】
次に、前記ボンドフラックスと組合せるソリッドワイヤの成分について述べる。以下、各成分についての%は、ソリッドワイヤ全質量に対する質量%を示す。
【0026】
[C:0.08~0.15%]
Cは、固溶強化により溶接金属の強度を確保する重要な元素であると共に、アーク中の酸素と反応しアーク雰囲気及び溶接金属の酸素量を低減することで低温靭性を向上させる効果がある。Cが0.08%未満では、脱酸効果が得られず、ポックマークが発生しやすくなり、溶接金属の低温靭性も低下する。一方、Cが0.15%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり低温靭性が劣化する。したがって、Cは0.08~0.15%とする。
【0027】
[Si:0.1~0.3%]
Siは、溶接金属の酸素量を低減する効果がありビード外観及び低温靭性を向上させる効果がある。Siが0.1%未満であると、脱酸効果が得られず、溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Siが0.3%を超えると、溶接金属のマトリックスを固溶強化するが、結晶粒を粗大化させるため著しく低温靭性が低下する。したがって、Siは0.1~0.3%とする。
【0028】
[Mn:1.5~2.5%]
Mnは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Mnが1.5%未満では、その効果が得られず溶接金属の強度が低下する。一方、Mnが2.5%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり低温靭性が劣化する。したがって、Mnは1.5~2.5%とする。
【0029】
[Ni:2.0~3.0%]
Niは、溶接金属の低温靭性を安定させる効果がある。Niが2.0%未満では、その効果が得られず溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Niが3.0%を超えると、溶接金属のオーステナイト粒径を粗大化させて低温靭性を低下させる。したがって、Niは2.0~3.0%とする。
【0030】
[Mo:0.5~1.5%]
Moは、溶接金属の強度を向上させる効果がある。Moが0.5%未満では、その効果が得られず溶接金属の強度が低下する。一方、Moが1.5%を超えると、溶接金属中に金属間化合物を生成して溶接金属の強度が過剰に高くなり低温靭性が低下する。したがって、Moは0.5~1.5%とする。
【0031】
[Ti:0.02~0.08%]
Tiは、アーク中の酸素と反応しアーク雰囲気及び溶接金属の酸素量を低減することで低温靭性を向上させる効果がある。Tiが0.02%未満であると、その効果が得られず溶接金属の低温靭性が低下する。一方、Tiが0.08%を超えると、溶接金属の固溶Tiが多くなって低温靭性が低下する。したがって、Tiは0.02~0.08%とする。
【0032】
[Al:0.05%以下、P:0.015%以下、S:0.015%以下]
Al、P及びSは共に低融点の化合物を生成して低温靭性を低下させるため、できるだけ含有しないことが望ましい。したがって、Alは0.05%以下、Pは0.015%以下、Sは0.015%以下とする。
【0033】
なお、ソリッドワイヤの上記成分以外の残部は、Fe、ワイヤ表面の銅めっきからのCu及びW、V、P、S等の不可避不純物であり、PおよびSは共に低融点の化合物を生成して靭性を低下させるので、できるだけ低いことが好ましい。
【実施例0034】
以下、実施例により本発明の効果をさらに詳細に説明する。
【0035】
表1に示す各種成分のボンドフラックスと表2に示すソリッドワイヤを試作し、これらを組み合せて溶接作業性および機械性能評価をするため表3に示す化学成分からなる、板厚25mmの780MPa級鋼板を、開先角度を30°、ルート間隔を13mmの開先形状に加工し、裏当金を当てて表4に示す溶接条件で多層盛溶接試験を実施した。
【0036】
なお、表1に示すボンドフラックスは各種鉱物原材料を配合、混合した後、水ガラスを固着剤として造粒した後、400~550℃で2時間焼成して1.4×0.15mmに整粒した。また、表2に示すワイヤは原線を縮径、焼鈍、めっきした素線とし、それらの素線を直径4.0mmまで伸線して用いた。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
【表4】
【0041】
表5に各種試作ボンドフラックスと各種試作ソリッドワイヤの組合せを示す。各試験の評価は、多層盛溶接時のアーク安定性、ビード外観、スラグ剥離性及びX線透過試験による溶接欠陥の有無を調査し、さらに溶接金属の機械性能を調査した。
【0042】
(アーク安定性)
溶接時の溶接電圧の変動が少なく、一定となっているものを安定とした。
【0043】
(ビード外観)
ビードの幅、余盛高さ、波目や表面状態が一定でかつアンダーカットやポックマーク等がないものを良好とした。
【0044】
(スラグ剥離性)
溶接後、自然剥離または凝固スラグをチッピングハンマーにて叩いた時、スラグに亀裂が入り、その後簡単に除去できる場合を良好とした。
【0045】
(溶接欠陥)
X線透過試験では、JIS Z 3104:1995に示す鋼溶接継手の放射線透過試験に基いて試験を行い、スラグ巻込み等発生していない場合を無とした。
【0046】
(機械性能評価)
溶接金属の機械性能評価は、AWS A5.23に準拠した引張試験片及び衝撃試験片を採取して機械試験した。引張試験の評価は、引張強さが780MPa~880MPaを良好とした。衝撃試験の評価は-74℃におけるシャルピー衝撃試験を行い、各々繰返し数5本のうち最小値と最大値を除いた3本の平均が80J以上を良好とした。溶接金属の拡散性水素量の測定は、JIS Z3118:2007に準じて行った。溶接金属の拡散性水素量は5ml/100g以下を良好とした。これらの調査結果も表5にまとめて示す。
【0047】
【表5】
【0048】
表5中試験記号T1~T16が本発明例、試験記号T17~T38は比較例である。本発明例である試験記号T1~T16は、フラックス記号F1~F16及び組合せたワイヤ記号W1~W14が本発明の構成用件を満たしているので、アークが安定し、ビード外観、及びスラグ剥離性等の溶接作業性が良好で、溶接欠陥も無く、溶接金属の引張強さ及び吸収エネルギーも良好で、溶接金属の拡散性水素量も低く極めて満足な結果であった。
【0049】
比較例中試験記号T17は、フラックス記号F17のSiO2が少ないのでスラグ剥離性が不良となり、アンダーカットが発生した。また、組合わせたワイヤ記号W15のMoが多いので溶接金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
【0050】
試験記号T18は、フラックス記号F18のSiO2が多いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0051】
試験記号T19は、フラックス記号F19のCaOが少ないので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0052】
試験記号T20は、フラックス記号F20のCaOが多いのでアークが不安定で、スラグ剥離性も不良であった。また、ワイヤ記号W16のCが少ないのでポックマークが発生し、また溶着金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0053】
試験記号T21は、フラックス記号F21のMgOが少ないので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。さらに、Na2O及びK2Oの1種または2種の合計が多いので、ポックマークが発生した。
【0054】
試験記号T22は、フラックス記号F22のAl23が少ないのでアークが不安定で、スラグ剥離性及びビード外観が不良となった。また、ワイヤ記号W17のSiが少ないので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0055】
試験記号T23は、フラックス記号F23のAl23が多いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。また、ワイヤ記号W18のMnが少ないので溶接金属の引張強さが低かった。
【0056】
試験記号T24は、フラックス記号F24のCaF2が少ないので溶接金属の吸収エネルギーが低値となった。また、Na2O及びK2Oの1種または2種の合計が少ないのでアークが不安定であった。
【0057】
試験記号T25は、フラックス記号F25のCaF2が多いのでアークが不安定で、スラグ剥離性及びビード外観が不良であった。また、ワイヤ記号W19のMnが多いので溶接金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
【0058】
試験記号T26は、フラックス記号F26のMgOが多いのでスラグ剥離性及びビード外観が不良となり、溶接金属中にスラグ巻込みが発生した。また、CaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値が少ないので溶接金属の拡散性水素量が高かった。さらに、ワイヤ記号W20のMoが少ないので溶接金属の引張強さが低かった。
【0059】
試験記号T27は、フラックス記号F27のCaCO3及びMgCO3の1種または2種のCO2換算値が多いのでポックマークが発生し、また溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0060】
試験記号T28は、フラックス記号F28のSiが少ないのでポックマークが発生した。また、ワイヤ記号W21のCが多いので溶接金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
【0061】
試験記号T29は、ワイヤ記号W22のSiが多いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0062】
試験記号T30は、ワイヤ記号W23のNiが少ないので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0063】
試験記号T31は、ワイヤ記号W24のNiが多いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0064】
試験記号T32は、フラックス記号F29のSiが多いので溶接金属の引張強さが高くなり吸収エネルギーが低値であった。
【0065】
試験記号T33は、ワイヤ記号W25のTiが多いので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0066】
試験記号T34は、ワイヤ記号W26のTiが少ないので溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0067】
試験記号T35は、フラックス記号F30のTiO2が多いのでスラグ剥離性が不良であった。
【0068】
試験記号T36は、ワイヤ記号W27のAlが多いでの溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0069】
試験記号T37は、ワイヤ記号W28のPが多いでの溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。
【0070】
試験記号T38は、ワイヤ記号W29のSが多いでの溶接金属の吸収エネルギーが低値であった。