(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140425
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】データ処理装置およびレーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241003BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241003BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20241003BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20241003BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
H01L21/68 N
B23K26/53
B23K26/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051558
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】傍島 駿介
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
5F131
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CA04
4E168CA06
4E168CB07
4E168GA04
4E168JA13
5F057AA05
5F057AA19
5F057AA41
5F057BA01
5F057BA12
5F057BB09
5F057CA02
5F057DA03
5F057DA04
5F057DA11
5F057DA19
5F057DA22
5F057DA31
5F057GA27
5F057GB02
5F057GB11
5F131AA02
5F131BA39
5F131BA42
5F131CA09
5F131EB32
5F131EB35
(57)【要約】
【課題】測定範囲が大きくてもデータ中の特徴量の分布を良好に取得することを可能とする技術、および、低コストで高品質なレーザ加工が可能なレーザ加工装置を提供すること。
【解決手段】特徴量が二次元配列したデータを処理するデータ処理装置(74)は、特徴量を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、データの二次元配列全体の外形形状および二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、データが二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される特徴量の二次元分布を示す第二マップを生成し、第一マップと第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、評価関数が小さくなるように第二マップにおけるパラメータを更新する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特徴量が二次元配列したデータを処理する、データ処理装置(74)であって、
コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ(741)と、
前記プロセッサに接続され、前記コンピュータプログラム指令を記憶したメモリ(742)と、
を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラム指令を読み出して実行することにより、
前記特徴量を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、
前記データの二次元配列全体の外形形状および前記二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、前記データが前記二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される前記特徴量の二次元分布を示す第二マップを生成し、
前記第一マップと前記第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、
前記評価関数が小さくなるように前記第二マップにおける前記パラメータを更新する、
データ処理装置。
【請求項2】
前記外形形状は、円形であり、
前記パラメータは、前記円形の前記二次元座標系における中心位置と半径とを含む、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記特徴量は、半導体ウェハ(1)におけるレーザ光の透過率である、
請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記透過率の測定中における前記半導体ウェハの状態に基づいて、前記第二マップを補正する、
請求項3に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記状態は、前記透過率を測定するための測定光(LM)が前記半導体ウェハの外縁部に照射されている状態である、
請求項4に記載のデータ処理装置。
【請求項6】
前記状態は、前記半導体ウェハの外縁部が把持具(711)により把持されている状態である、
請求項4に記載のデータ処理装置。
【請求項7】
半導体インゴット(2)の表面(21)からレーザ光を照射することで、前記表面から半導体ウェハ(1)の厚みに相当する所定深さに剥離層(23)を形成する、レーザ加工装置(4)であって、
前記剥離層にて前記半導体インゴットから剥離することで得られた前記半導体ウェハにおける前記レーザ光の透過率を測定する、透過率測定部(7)と、
前記透過率測定部により測定した前記透過率に基づいて、前記レーザ光の照射条件を設定する、制御部(8)と、
を備え、
前記透過率測定部は、
コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ(741)と、
前記プロセッサに接続され、前記コンピュータプログラム指令を記憶したメモリ(742)と、
を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラム指令を読み出して実行することにより、
前記透過率の測定値を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、
前記半導体ウェハの外形形状および前記二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、前記半導体ウェハが前記二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される前記透過率の二次元分布を示す第二マップを生成し、
前記第一マップと前記第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、
前記評価関数が小さくなるように前記第二マップにおける前記パラメータを更新する、
レーザ加工装置。
【請求項8】
前記パラメータは、前記半導体ウェハの前記二次元座標系における中心位置と半径とを含む、
請求項7に記載のレーザ加工装置。
【請求項9】
前記透過率の測定中における前記半導体ウェハの状態に基づいて、前記第二マップを補正する、
請求項7に記載のレーザ加工装置。
【請求項10】
前記状態は、前記透過率を測定するための測定光(LM)が前記半導体ウェハの外縁部に照射されている状態である、
請求項9に記載のレーザ加工装置。
【請求項11】
前記状態は、前記半導体ウェハの外縁部が把持具(711)により把持されている状態である、
請求項9に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴量が二次元配列したデータを処理するデータ処理装置、および、半導体インゴットの表面からレーザ光を照射するレーザ加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体のインゴットまたはウェハにレーザ光を照射するレーザ加工技術が種々知られている。例えば、特許文献1には、単結晶SiCに対して透過性を有する波長のレーザ光の集光点をSiCインゴットの内部に位置づけてSiCインゴットにレーザ光を照射して切断予定面に剥離層を形成し、剥離層が形成された切断予定面に沿ってSiCインゴットからウェハを剥離する技術が記載されている。
【0003】
ところで、SiCインゴットの内部には、ファセット領域と称される、結晶構造が異なる領域が存在する場合がある。ファセット領域は、非ファセット領域に比べて、屈折率が高いとともにエネルギの吸収率が高い。このため、レーザ光の照射によってSiCインゴットの内部に形成される剥離層の位置および出来具合が不均一となり、ファセット領域と非ファセット領域との間でウェハに段差が生じてしまうという問題がある。また、SiCインゴットから生成したウェハを研削して所望の厚みに仕上げるために、ファセット領域と非ファセット領域との間の段差を見込んで、生成すべきウェハを厚く剥離しなければならず、充分な効率化を図ることができないという問題がある。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のレーザ加工装置は、SiCインゴットの上面からファセット領域を検出して、ファセット領域と非ファセット領域との座標を設定する。具体的には、かかるレーザ加工装置は、ファセット領域検出手段を備えている。ファセット領域検出手段は、保持テーブルに保持されたSiCインゴットを上面から撮像する撮像手段を有し、撮像手段が撮像したSiCインゴットの画像に二値化処理等の画像処理を施して、ファセット領域と非ファセット領域との判別を行う。そして、かかるレーザ加工装置は、SiCに対して透過性を有する波長のレーザ光の集光点を生成すべきウェハの厚みに相当する深さに位置づけてレーザ光を照射しながら加工送りして帯状の剥離層を形成する。このとき、ファセット領域にレーザ光線を照射する際のレーザ光線のエネルギを上昇させるとともに集光器の位置を上昇させる。これにより、ファセット領域と非ファセット領域との間に段差のないウェハを生成することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のレーザ加工装置においては、ファセット領域の検出のために撮像手段を用いており、露光が必要になるなど装置コストが上昇する。また、かかるレーザ加工装置においては、ファセット領域と非ファセット領域との判別のみを行っている。しかしながら、レーザ光の屈折率や透過率やエネルギ吸収率等の位置によるバラツキは、ファセット領域と非ファセット領域との差には限られず、ファセット領域内あるいは非ファセット領域内においても生じ得る。
【0007】
このように、この種のレーザ加工技術において、加工対象物である半導体インゴットや半導体ウェハには、面内方向について、レーザ光の透過率等に分布が生じることがある。「面内方向」とは、加工対象物である半導体インゴットや半導体ウェハにおけるレーザ光照射面に沿った方向である。すなわち、加工対象物が半導体インゴットである場合は、「面内方向」は、半導体インゴットの高さ方向と直交する方向となる。一方、加工対象物が半導体ウェハである場合は、「面内方向」は、半導体ウェハの厚さ方向と直交する方向となる。
【0008】
したがって、加工対象物における透過率等の特徴量の面内方向分布を測定し、この測定結果をフィードバックした照射条件で次のレーザ光の照射を行うことで、より高品質なレーザ加工が可能となる。ところで、測定結果データは、通常、そのまま次のレーザ加工に供されるのではなく、何らかのデータ処理が施される。かかるデータ処理は、処理対象である測定結果データが二次元座標の各々に特徴量を割り付けた構造、すなわち、画像データに類する構造であるため、画像処理と同様の処理となる。しかしながら、半導体インゴット等の加工対象物の全面について測定を行った場合、測定範囲が大きくなり、測定結果データも非常に大きなデータとなる。このため、測定結果データに対して従来公知の画像処理手法を適用することで加工対象物の全体における特徴量の面内方向分布を取得することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、測定範囲が大きくてもデータ中の特徴量の分布を良好に取得することを可能とする技術、および、低コストで高品質なレーザ加工が可能なレーザ加工装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載のデータ処理装置(74)は、特徴量が二次元配列したデータを処理するものであって、
コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ(741)と、
前記プロセッサに接続され、前記コンピュータプログラム指令を記憶したメモリ(742)と、
を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラム指令を読み出して実行することにより、
前記特徴量を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、
前記データの二次元配列全体の外形形状および前記二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、前記データが前記二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される前記特徴量の二次元分布を示す第二マップを生成し、
前記第一マップと前記第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、
前記評価関数が小さくなるように前記第二マップにおける前記パラメータを更新する。
請求項7に記載のレーザ加工装置(4)は、半導体インゴット(2)の表面(21)からレーザ光を照射することで、前記表面から半導体ウェハ(1)の厚みに相当する所定深さに剥離層(23)を形成するものであって、
前記剥離層にて前記半導体インゴットから剥離することで得られた前記半導体ウェハにおける前記レーザ光の透過率を測定する、透過率測定部(7)と、
前記透過率測定部により測定した前記透過率に基づいて、前記レーザ光の照射条件を設定する、制御部(8)と、
を備え、
前記透過率測定部は、
コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ(741)と、
前記プロセッサに接続され、前記コンピュータプログラム指令を記憶したメモリ(742)と、
を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラム指令を読み出して実行することにより、
前記透過率の測定値を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、
前記半導体ウェハの外形形状および前記二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、前記半導体ウェハが前記二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される前記透過率の二次元分布を示す第二マップを生成し、
前記第一マップと前記第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、
前記評価関数が小さくなるように前記第二マップにおける前記パラメータを更新する。
【0011】
なお、出願書類の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付される場合がある。しかしながら、かかる参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を、単に示すものにすぎない。よって、本発明は、上記の参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】半導体ウェハの概略構成を示す平面図である。
【
図2】
図1に示された半導体ウェハを半導体インゴットから生成するウェハ生成方法の概要を示す概略図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るレーザ加工装置の概略構成を示す平面図である。
【
図4】
図3に示された透過率測定部の概略構成を示す図である。
【
図5A】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示す概略図である。
【
図5B】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示す概略図である。
【
図5C】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示す概略図である。
【
図6A】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示す概略図である。
【
図6B】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示す概略図である。
【
図6C】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示す概略図である。
【
図7】
図3に示されたデータ処理部における動作概要を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例は、一つの実施形態に関する一連の説明の後に、まとめて記載する。
【0014】
(半導体ウェハおよび半導体インゴットの構造)
図1に示されているように、半導体ウェハ1は、オリエンテーションフラット10を有する略円形の外形形状を有する薄板状に形成されている。なお、
図1において、xyz座標は、x軸がオリエンテーションフラット10と平行となり、且つ、z軸が半導体ウェハ1の厚さ方向と平行となるように設定されているものとする。半導体ウェハ1は、ファセット領域RF、非ファセット領域RN、および高透過率領域RHを有している。非ファセット領域RNは、ファセット領域RF以外の領域である。高透過率領域RHは、非ファセット領域RN内の一部分であって、他の部分よりもレーザ光(すなわち
図2に示された加工光LP)の透過率が高い領域である。半導体ウェハ1におけるファセット領域RF、非ファセット領域RN、および高透過率領域RHは、
図2に示された半導体インゴット2が有するファセット領域RF、非ファセット領域RN、高透過率領域RHに起因するものである。
【0015】
図2を参照すると、半導体ウェハ1は、SiC単結晶ウェハであって、一対の主面であるウェハC面11およびウェハSi面12を有している。「主面」は、板状物における厚さ方向と直交する表面であって、「上面」や「底面」あるいは「板面」とも称され得る。半導体ウェハ1は、略円柱状のSiC単結晶インゴットである半導体インゴット2を、その高さ方向に分割するようにスライスすることによって形成されている。半導体インゴット2は、頂面であるインゴットC面21と、底面であるインゴットSi面22とを有している。なお、
図2において、xyz座標は、z軸が半導体インゴット2の高さ方向と平行でインゴットC面21およびインゴットSi面22がxy平面と平行となり、且つ、
図1におけるxyz座標と整合するように設定されているものとする。よって、「面内方向」は、xy平面と平行な方向、すなわち、ウェハC面11やウェハSi面12やインゴットC面21やインゴットSi面22に沿った方向となる。
【0016】
(ウェハ製造方法の概略)
ウェハ製造方法は、半導体インゴット2をスライスして半導体ウェハ1を得る方法である。本実施形態におけるウェハ製造方法は、いわゆるレーザスライスを用いて半導体インゴット2の頂面側すなわちインゴットC面21側から半導体ウェハ1を切り出すものであって、少なくとも以下に示す工程を含む。
【0017】
(1)剥離層形成工程
半導体インゴット2を構成する材料(すなわち本実施形態においては単結晶SiC)に対して所定程度の透過性を有するレーザ光である加工光LPをインゴットC面21に照射することで、インゴットC面21から半導体ウェハ1の厚みに対応する深さに剥離層23を形成する。ここで、「所定程度の透過性」とは、半導体インゴット2の内側における半導体ウェハ1の厚みに対応する深さに加工光LPの集光点を形成することが可能な程度の透過性である。また、「半導体ウェハ1の厚みに対応する深さ」は、完成品である半導体ウェハ1の厚み(すなわち厚みの狙い値)に、後述するウェハ平坦化工程等における所定の加工代に相当する厚み(すなわち研削や研磨される分の厚み)を加算した寸法であって、「半導体ウェハ1の厚みに相当する深さ」とも称され得る。
【0018】
(2)ウェハ剥離工程
レーザ照射面であるインゴットC面21と剥離層23との間の部分であるウェハ前駆体24を、剥離層23にて半導体インゴット2から剥離する。ここで、上記の「ウェハ剥離工程」という表現の如く、半導体インゴット2からウェハ前駆体24を剥離することで得られた板状物は、社会通念上、半導体ウェハ1と同視できるものと評価することが可能である。しかしながら、エピレディに鏡面化された主面を有する製造後の最終的な半導体ウェハ1と区別するため、かかる板状物を、以下、「剥離体30」と称する。剥離体30は、一対の主面である、非剥離面31および剥離面32を有している。非剥離面31は、ウェハ剥離工程前において剥離層23を構成していなかった側の表面、すなわち、剥離層形成工程やウェハ剥離工程を行う前におけるインゴットC面21に対応する表面である。これに対し、剥離面32は、ウェハ剥離工程前において剥離層23を構成しており、ウェハ剥離工程によって新たに生じた表面である。剥離面32は、剥離層23における改質層生成深さのバラツキおよびウェハ剥離工程による剥離に起因する、粗い(すなわち研削あるいは研磨が必要な程度の)凹凸を有している。
【0019】
(3)ウェハ平坦化工程
剥離体30における一対の主面である非剥離面31および剥離面32のうちの、少なくとも剥離面32を平坦化することで、製造後の最終的な半導体ウェハ1を得る。ウェハ平坦化工程においては、一般的な砥石研磨やCMPに加えて、ECMGやECMPを用いることが可能である。なお、CMPはChemical Mechanical Polishingの略である。ECMGはElectro-Chemical Mechanical Grindingの略である。ECMPはElectro-Chemical Mechanical Polishingの略である。ウェハ平坦化工程は、これらの複数種類の平坦化工程を、単独で、あるいは、適宜組み合わせることで行われ得る。
【0020】
(4)インゴット平坦化工程
半導体インゴット2からウェハ前駆体24を剥離した後に、新たに生じた半導体インゴット2の頂面を、剥離層形成工程に再度供することができるように、平坦化すなわち鏡面化する。インゴット平坦化工程においても、一般的な砥石研磨やCMPに加えて、ECMGやECMPを用いることが可能である。インゴット平坦化工程も、これらの複数種類の平坦化工程を、単独で、あるいは、適宜組み合わせることで行われ得る。
【0021】
(レーザ加工装置)
図3に示されたレーザ加工装置4は、上記の剥離層形成工程に用いられる装置であって、インゴットC面21から半導体インゴット2にレーザ光である加工光LPを照射することで、インゴットC面21から半導体ウェハ1の厚みに相当する所定深さに剥離層23を形成するように構成されている。
図3を参照すると、本実施形態に係るレーザ加工装置4は、ワーク保持部5と、レーザ照射部6と、透過率測定部7と、制御部8とを備えている。なお、
図3において、xyz座標は、z軸が半導体インゴット2の高さ方向と平行となり、且つ、
図1や
図2と整合するように設定されているものとする。
【0022】
ワーク保持部5は、加工対象としての半導体インゴット2を保持するとともにxy方向に移動可能に構成されている。具体的には、ワーク保持部5は、第一ワーク粗動部51と、第二ワーク粗動部52と、ワーク微動部53とを備えている。第一ワーク粗動部51は、保持した半導体インゴット2をx方向に粗動するように構成されている。第二ワーク粗動部52は、保持した半導体インゴット2をy方向に粗動するように構成されている。ワーク微動部53は、保持した半導体インゴット2をxy方向に微動するように構成されている。
【0023】
レーザ照射部6は、ワーク保持部5に保持された半導体インゴット2に対して加工光LPを照射するように構成されている。具体的には、レーザ照射部6は、レーザ発振器61と集光器62とを備えている。レーザ発振器61は、所定波長の加工光LPを発振するように設けられている。集光器62は、ワーク保持部5に保持された半導体インゴット2に対向することで、レーザ発振器61にて発振された加工光LPを半導体インゴット2に向けて照射するように設けられている。
【0024】
透過率測定部7は、測定対象物Wにおける、加工光LPと同一波長のレーザ光の透過率を測定するように構成されている。測定対象物Wは、
図2に示されているような、剥離層23にて半導体インゴット2から剥離することで得られた剥離体30、かかる剥離体30における少なくとも非剥離面31を平坦化したもの、あるいは半導体ウェハ1である。透過率測定部7の構成の詳細については後述する。制御部8は、いわゆるマイクロコンピュータとしての構成を有していて、レーザ加工装置4における各所に備えられたスイッチ類やセンサ類からの信号に基づいて、レーザ加工装置4の全体の動作を制御するようになっている。具体的には、制御部8は、透過率測定部7により測定した透過率に基づいて、加工光LPの照射条件を設定するように構成されている。
【0025】
(透過率測定部)
図4は、
図3に示された透過率測定部7の概略構成を示す。
図4を参照すると、透過率測定部7は、測定対象移動部71と、測定光照射部72と、ディテクタ73と、データ処理部74とを備えている。
【0026】
測定対象移動部71は、把持具711によって測定対象物Wの外縁部を保持しつつ、測定対象物Wをxy方向に移動可能に構成されている。測定光照射部72は、把持具711によって保持された測定対象物Wに対して、加工光LPと同一波長の測定光LMを、測定対象物Wの厚さ方向と平行に照射するように設けられている。ディテクタ73は、測定光照射部72から出射された測定光LMを受光してその受光強度に応じた出力を発生するフォトダイオードを備えていて、測定対象物Wを挟んで測定光照射部72と対向配置されている。すなわち、ディテクタ73は、測定対象物Wを透過した測定光LMの強度に対応する出力を発生するように構成されている。
【0027】
本発明のデータ処理装置としてのデータ処理部74は、測定対象移動部71による測定対象物Wの移動状態とディテクタ73の出力とに基づいて透過率マップを生成するとともに、かかる透過率マップに対して所定のデータ処理を実行するように構成されている。「透過率マップ」とは、特徴量である測定光LMの透過率がxy二次元座標上に二次元配列したデータである。すなわち、透過率マップは、xy二次元座標位置と、当該位置に対応する透過率とを有するデータであり、厳密な意味での画像データとは異なるものの、画像データと共通あるいは類似のデータ構造を有している。
【0028】
データ処理部74は、コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ741と、かかるプロセッサに接続されたメモリ742とを備えている。プロセッサ741は、CPUあるいはMPUとしての構成を有している。CPUはCentral Processing Unitの略である。MPUはMicro Processing Unitの略である。メモリ742は、プロセッサ741により実行されるコンピュータプログラム指令や、かかるコンピュータプログラム指令の実行の際に必要となるルックアップテーブルや初期値等の各種データを保持する、不揮発性の非遷移的実体的記憶媒体としての構成を有している。具体的には、メモリ742は、ROM、フラッシュメモリ、磁気ディスク、等のうちの、少なくとも一種の記憶媒体を備えている。ROMはRead Only Memoryの略である。そして、データ処理部74は、プロセッサ741がメモリ742に記憶されたコンピュータプログラム指令を読み出して実行することで、透過率マップの生成動作およびこれに対する処理動作を実行するように構成されている。そして、レーザ加工装置4は、データ処理部74により生成および処理された透過率マップに応じて半導体インゴット2におけるインゴットC面21から加工光LPを照射するように構成されている。
【0029】
(動作概要)
以下、本実施形態に係るレーザ加工装置4、透過率測定部7、およびデータ処理部74の動作の概要、ならびに、データ処理部74により実行される方法およびプログラムの概要について、これらにより奏される効果とともに説明する。なお、以下の説明において、上記構成と、これにより実行される方法(すなわちデータ処理方法または透過率測定方法)およびプログラム(すなわちデータ処理プログラムまたは透過率測定プログラム)とを総称して、単に「本実施形態」と称することがある。
【0030】
半導体インゴット2における加工光LPの透過率には、面内方向について分布が生じることがあり得る。すなわち、例えば、
図2に示されているように、半導体インゴット2には、ファセット領域RFと非ファセット領域RNとが生じ得る。ファセット領域RFは、非ファセット領域RNに比べて、透過率が低く、加工光LPのエネルギの吸収率が高い。また、ファセット領域RF内においても、透過率は面内方向について必ずしも一様ではなく、面内方向分布が生じ得る。非ファセット領域RNについても同様である。特に、ファセット領域RFと非ファセット領域RNとの境界部分において、透過率の変動が大きくなり得る。このように、面内方向について透過率の分布が存在する半導体インゴット2に対して、加工光LPの照射条件(例えば出力やパルス幅やデューティ比等)を一様にしたのでは、改質層の深さにバラツキが生じたり、多段クラックが生じたり、未亀裂が発生したりすることがあり得る。
【0031】
そこで、本実施形態は、同一の半導体インゴット2から前回切り出された薄板状の測定対象物Wについて、測定光LMを用いて透過率の面内方向分布を測定し、その測定結果を今回の剥離層形成工程にフィードバックする。これにより、改質層をインゴットC面21からの狙いの一定深さに安定的に形成することができる。すなわち、剥離層23の、インゴットC面21からの深さのバラツキが、良好に抑制される。このため、剥離面32や、剥離体30の剥離により新たに発生したインゴットC面21における表面粗さが、良好に低減され得る。よって、剥離後の研削や研磨の加工代を小さくすることができ、以て材料歩留まりが向上する。
【0032】
本実施形態に係るレーザ加工装置4においては、透過率の測定に、撮像手段(すなわちカメラ)に代えてディテクタ73を用いている。これにより、撮像手段を用いる場合に必要であった露光が不要となり、装置コストが低減され得る。また、ディテクタ73を用いることで、光電流を増幅しつつ高速で測定対象物Wを相対移動させながら透過率を二次元的に測定して透過率マップを生成することができる。生成した透過率マップは、上記の通り、画像データそのものではないが、画像データと共通あるいは類似のデータ構造を有しているため、画像処理あるいはこれに類する処理に供することで、透過率分布の真値に可能な限り近づけることが可能である。
【0033】
ここで、剥離層23を構成する改質層の形成深さの、面内方向における半導体インゴット2の透過率分布に起因したバラツキは、透過率マップを高精細化することで、より良好に抑制され得る。しかしながら、半導体ウェハ1の外形形状に相当する外形形状を有する測定対象物Wの全面すなわち全域について測定した場合、測定範囲が大きくなり、透過率マップも非常に大きなデータとなる。また、半導体ウェハ1や半導体インゴット2の外形形状、すなわち、外径やオリエンテーションフラット10の中心からの距離については、製品公差が大きい。このため、透過率の測定位置については、0.5~1mm程度の誤差が生じ得る。このため、従来のこの種のレーザ加工に対して従来公知あるいは周知の画像処理手法を適用した場合、半導体インゴット2の全体における透過率の面内方向分布を高解像度且つ正確に測定することは困難であった。
【0034】
この点、本実施形態においては、測定対象物Wは、その外形形状がほぼ既知(すなわちほぼ円形)となっている。そこで、発明者は、測定対象物Wの外形形状およびxy二次元座標系における位置をパラメータとみなし、かかるパラメータが仮に真値であった場合にどのような透過率分布になるかという仮想データあるいは理想データと実際の測定データとの差が最小となるパラメータを探索するという手法を案出した。以下、かかる手法の概要について、
図5A~
図5Cを用いて説明する。
【0035】
図5Aは、特徴量である透過率の測定値を暫定的な二次元座標系であるXY二次元座標系に割り付けた、本発明における第一マップに相当する第一透過率マップM1の一部を拡大して示す。かかる第一透過率マップM1は、XY二次元座標空間を複数の画素領域Pで格子状に分割し、それぞれの画素領域Pに、ディテクタ73の出力に対応する透過率データを割り付けたものである。画素領域Pは、透過率の測定ピッチに対応する寸法および形状を有する矩形状領域であって、例えば、測定ピッチがx方向およびy方向についてそれぞれ1mmである場合、1mm×1mmの正方形状となる。なお、図中、第一透過率マップM1は、透過率が低いほどグレー濃度が高くなるようにグレースケールで表示している。第一透過率マップM1の各画素領域Pにおける透過率は、所定段階(例えば2
n段階:nは2以上の整数であって典型的には4あるいは8)で設定することが可能である。後述の第二透過率マップM2も同様である。
【0036】
図5Bおよび
図5Cは、本発明における第二マップに相当する第二透過率マップM2の生成方法を説明する図である。第二透過率マップM2は、透過率データの二次元配列全体の外形形状(すなわち測定対象物Wの外形形状)およびそのxy二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、透過率データがxy二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される透過率の二次元分布を示す。すなわち、第二透過率マップM2は、中心位置座標(a,b)で半径rの円形とした場合の、透過率分布の仮想データあるいは理想データである、
【0037】
まず、
図5Bに示されているように、上記の円形すなわち(x-a)
2+(y-b)
2=r
2を示す推定外形線Eを、a,b,rの各パラメータについての適当な初期値(例えば所定径の半導体ウェハ1の規格中心値)を用いつつ、xy二次元座標系に貼り付ける。そして、これらのパラメータが真値であると仮定した場合の透過率マップを第二透過率マップM2として生成する。具体的には、
図5Bを参照すると、透過率が半導体インゴット2における平均的な値で均一であると仮定して、各画素領域Pにおける、推定外形線E内の領域と重なる面積率に応じて、
図5Cに示されているような、透過率のビットマップとしての第二透過率マップM2を生成する。
図5Cにおける(a)および(b)については後述する。
【0038】
次に、第一透過率マップM1と第二透過率マップM2との差が大きい程値が大きくなる評価関数Jを、下記の式(1)の通り定義する。
【数1】
【0039】
式(1)中、iは、
図6Aに示されているように、透過率マップをxy二次元座標系における第一象限に割り付けた場合の、x軸方向における原点に近い方からi番目の画素領域Pを示すインデックスである。同様に、jは、y軸方向における原点に近い方からi番目の画素領域Pを示すインデックスである。「透過率測定値」は、原点に近い方から(i,j)番目の画素領域Pにおける透過率の測定値であり、第一透過率マップM1から読み取られる。「透過率推定値」は、原点に近い方から(i,j)番目の画素領域Pにおける透過率の推定値であり、第二透過率マップM2から読み取られる。かかる評価関数Jを計算することで、実際の透過率マップである第一透過率マップM1と、仮想の透過率マップである第二透過率マップM2とを比較する。
図5Aと
図5Cとを対比した場合、
図5Cにおいて、(a)は評価関数Jの値が小さくなるケースを示し、(b)は評価関数Jの値が大きくなるケースを示す。そして、かかる評価関数Jの値が小さくなるように、a,b,rの各パラメータを順次更新し、評価関数Jが最小となるパラメータを探索する。これにより、最終的な透過率マップが得られる。
【0040】
以下、パラメータの更新について、
図6A~
図6Cを用いつつ、より詳細に説明する。
図6Aは、真の透過率マップである透過率マップ真値Mを仮想的に示す。かかる透過率マップ真値Mにおいて、a,b,rの各パラメータは、真値であるが、不知であるものとする。
【0041】
まず、
図6Bに示されているように、所定の初期値a0,b0,r0を用いて、推定外形線Eをxy二次元座標系に貼り付ける。すなわち、
図6Bは、
図5Bに対応する図である。次に、推定外形線E内の領域と各画素領域Pとの重なり度合に応じたビットマップとしての、
図6Cに示された第二透過率マップM2を生成する。すなわち、
図6Cは、
図5Cに対応する図である。
【0042】
続いて、各パラメータに関する評価関数Jの偏微分を求め、下記の式(2)のように、評価関数Jの急勾配方向に各パラメータを更新する。式(2)中、nは、「n回目」のパラメータの更新であることを示し、1以上の整数である。また、αは所定の更新係数である。
【数2】
【0043】
そして、更新量が充分に小さくなるまで各パラメータの更新を続行する。すなわち、n回目に推定した各パラメータと、各パラメータの真値との間には、下記の式(3)の関係が成立する。
【数3】
【0044】
以上の処理をまとめたものが、
図7に示されているフローチャートである。
図7において、「S」は、「ステップ」を略記したものである。測定対象物Wが透過率測定部7にセットされた後、透過率測定処理がスタートすると、ステップ101~ステップ107の処理が順に実行される。
【0045】
ステップ101にて、制御部8は、透過率測定部7の動作を制御して、測定対象物Wの透過率を、x方向およびy方向について所定ピッチ(例えば1mm)で測定する。ステップ102にて、データ処理部74は、ステップ101における測定結果としての、透過率の二次元分布に対応するビットマップデータを取得する。ステップ103にて、データ処理部74は、第一透過率マップM1を生成する。ステップ104にて、データ処理部74は、各パラメータの初期値を用いて、第二透過率マップM2の初期値を生成する。ステップ105にて、データ処理部74は、評価関数Jを計算する。ステップ106にて、データ処理部74は、各パラメータを更新する。ステップ107にて、データ処理部74は、各パラメータの更新量が閾値よりも小さいか否かを判定する。各パラメータの更新量が閾値以上である間は、ステップ107における判定結果が「NO」となり、処理がステップ103に戻る。各パラメータの更新量が閾値よりも小さくなると、ステップ107における判定結果が「YES」となり、透過率測定処理が終了する。
【0046】
図8は、本実施形態による効果を検証した結果を示す。かかる効果検証は、以下の通り行った。まず、xyそれぞれ1mmピッチの既知の透過率マップを用意する。かかる既知の透過率マップにおいて、各パラメータの真値は、a=-0.751,b=0.730,r=75.000である。次に、かかる既知の透過率マップをx方向および/またはy方向に所定量シフトさせた検証用データを生成する。表中の「真値」は、シフト後の各パラメータの真値を示す。そして、検証用データに対して、各パラメータの更新を実行する。シフト量すなわち真値は既知であるので、パラメータの更新結果である推定値と真値との差が推定誤差となる。
【0047】
図8に示されているように、本実施形態によれば、小さな推定誤差で、各パラメータを推定できることが確認された。ここで、
図5Aに示されているように、各画素領域Pにおける透過率を画素濃度に置き換えて考えると、透過率マップにおける、隣り合う複数の画素領域Pの間の画素濃度変化は、ステップ状となる。また、画素濃度分布の微分値の変化も、ステップ状となる。但し、ステップ状の微分値分布をスムージングすることで推定した、微分値の真値グラフは、面内方向について連続的に変化する。よって、かかる微分値の真値グラフを用いれば、レーザ照射条件設定に用いる透過率マップにおける分解能を、測定ピッチよりも細かくすることが可能となる。この点、発明者は、上記の推定誤差に対して標準偏差を算出することで、かかる透過率マップの精度を評価した。標準偏差をσとすると、発明者は、5mmのビットマップデータから±4σで100μmの精度が得られることを確認した。すなわち、発明者は、位置計測について、測定ピッチの1/40程度の精度が出ることを確認した。このように、本実施形態によれば、測定ピッチが1mmでも、これよりも精細な解像度(例えば0.1mm程度あるいはそれ以下)の透過率マップが得られ、測定ピッチよりも細かい照射ピッチで加工光LPを照射する際の照射条件をきめ細かに制御することが可能となる。
【0048】
(変形例)
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではない。故に、上記実施形態等に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態等との相違点を主として説明する。また、上記実施形態等と以下の変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一の符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態等と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態等における説明が適宜援用され得る。
【0049】
本発明は、上記実施形態に示された具体的な装置構成に限定されるものではない。すなわち、例えば、半導体ウェハ1や半導体インゴット2は、SiC単結晶には限定されない。また、上記実施形態においては、ウェハ剥離工程に用いる剥離装置や、剥離体30をそのままあるいは剥離面32を平坦化して測定対象物Wとして透過率測定部7にセットするための各種装置については、説明や図示を省略している。これらの装置は、レーザ加工装置4に設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。透過率測定部7における測定対象物Wの保持方法、すなわち、把持具711の形状や構造についても、特段の限定はない。例えば、把持具711による測定対象物Wの保持方法として、チャックする方法や、側面から押さえ付ける方法や、エアチャックによる方法、等を用いることが可能である。
【0050】
測定光LMと加工光LPとは、同一光源により生成されてもよい。すなわち、測定光LMは、例えば、レーザ発振器61にて発振されたレーザ光の一部をビームスプリッタにより分岐したものであってもよい。これにより、レーザ光の出力変動の影響が最小化され、以て高精度化が達成され得る。
【0051】
データ処理部74は、制御部8と一体化されていてもよい。すなわち、データ処理部74は、制御部8に設けられたマイクロコンピュータであってもよい。
【0052】
上記実施形態においては、データ処理部74は、レーザ加工装置4に適用されていた。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されない。すなわち、本発明は、処理対象の全体の外形形状が既知である二次元データ(例えば画像データ)に対する処理、例えば、工業製品の品質検査用の画像や月面画像に対する画像処理に対しても、好適に適用され得る。
【0053】
上記実施形態にて説明した、各種の動作、手順、あるいは処理を実行可能とする、本発明に係るプログラムは、通信を介してダウンロードあるいはアップグレードされ得る。かかるプログラムの格納先は、メモリーカード、光学ディスク、磁気ディスク、等であってもよい。
【0054】
このように、上記の各機能構成および処理は、コンピュータプログラムにより具体化された一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および処理は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、上記の各機能構成および処理は、一つあるいは複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサおよびメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移的実体的記憶媒体に記憶されていてもよい。すなわち、上記の各機能構成および処理は、これを実現するための手順を含むコンピュータプログラム、あるいは、当該プログラムを記憶した非遷移的実体的記憶媒体としても表現可能である。
【0055】
本発明は、上記実施形態に示された具体的な動作態様に限定されるものではない。すなわち、例えば、透過率の測定中における測定対象物Wの状態に応じて、第二透過率マップM2を補正する必要性が生じることがある。例えば、透過率測定においては、各画素領域Pにおける濃淡の情報が重要となる。この点、測定した透過率データの信頼性が失われるケースとして、下記のようなケースが考えられる。
例1:測定対象物Wの外縁部は、誤差が大きくなりがちである。これは、測定光LMの一部が測定対象物Wの内部を透過し、残部が外側を通過しているケースであり、透過部分の情報のみが欲しいにもかかわらず、外側を通過した光の影響を受けることで、信頼性のないデータになる。
例2:測定対象物Wを動かしながら測定するケースにおいては、
図4に示されているように、測定対象物Wを把持しなければならない。このとき、把持具711により把持した部分のデータが欠損する。
【0056】
そこで、理想的な形状を元に、元のデータに補正をかけてもよい。具体的には、例1のように、測定光LMが測定対象物Wの外縁部に照射されている状態に対しては、各画素領域Pにおける測定光LMが測定対象物Wの外側を通過している部分(すなわち
図5Bにおける白地部分)の面積分、透過率が高く出ているので、その分の補正をかけるという方法が考えられる。また、例2のように、外縁部が把持具711により把持されている状態に対しては、情報が抜けている画素領域Pの情報を仮想データから補間するという方法が考えられる。
【0057】
上記実施形態においては、測定対象物Wあるいは二次元データの外形形状は、円形であった。なお、ここにいう「円形」とは、真円のみを指すものではなく、オリエンテーションフラット10のようなDカット部等を有する「略円形」をも含む概念であるものとする。具体的には、例えば、オリエンテーションフラット10を有する場合、これに相当する直線をy=px+qのように表し、パラメータpおよびqをも最小化するようにすればよい。もっとも、本発明は、上記のような円形に限定されず、測定対象物Wあるいは二次元データの外形形状が既知である場合に良好に適用され得る。よって、例えば、矩形状等の多角形状であってもよい。また、本発明は、透過率測定データに限定されず、画像データに対しても適用可能である。
【0058】
変形例も、上記の例示に限定されない。また、複数の変形例が、互いに組み合わされ得る。さらに、上記実施形態の全部または一部と、変形例の全部または一部とが、互いに組み合わされ得る。また、上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数値に限定される場合等を除き、その特定の数値に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0059】
(観点)
上記の通りの、実施形態および変形例に係る構成および動作の説明から明らかなように、本明細書による開示は、少なくとも、以下の観点を含む。
[観点1]
特徴量が二次元配列したデータを処理する、データ処理装置(74)であって、
コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ(741)と、
前記プロセッサに接続され、前記コンピュータプログラム指令を記憶したメモリ(742)と、
を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラム指令を読み出して実行することにより、
前記特徴量を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、
前記データの二次元配列全体の外形形状および前記二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、前記データが前記二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される前記特徴量の二次元分布を示す第二マップを生成し、
前記第一マップと前記第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、
前記評価関数が小さくなるように前記第二マップにおける前記パラメータを更新する、
データ処理装置。
[観点2]
前記外形形状は、円形であり、
前記パラメータは、前記円形の前記二次元座標系における中心位置と半径とを含む、
観点1に記載のデータ処理装置。
[観点3]
前記特徴量は、半導体ウェハ(1)におけるレーザ光の透過率である、
観点1または2に記載のデータ処理装置。
[観点4]
前記透過率の測定中における前記半導体ウェハの状態に基づいて、前記第二マップを補正する、
観点3に記載のデータ処理装置。
[観点5]
前記状態は、前記透過率を測定するための測定光(LM)が前記半導体ウェハの外縁部に照射されている状態である、
観点4に記載のデータ処理装置。
[観点6]
前記状態は、前記半導体ウェハの外縁部が把持具(711)により把持されている状態である、
観点4または5に記載のデータ処理装置。
[観点7]
半導体インゴット(2)の表面(21)からレーザ光を照射することで、前記表面から半導体ウェハ(1)の厚みに相当する所定深さに剥離層(23)を形成する、レーザ加工装置(4)であって、
前記剥離層にて前記半導体インゴットから剥離することで得られた前記半導体ウェハにおける前記レーザ光の透過率を測定する、透過率測定部(7)と、
前記透過率測定部により測定した前記透過率に基づいて、前記レーザ光の照射条件を設定する、制御部(8)と、
を備え、
前記透過率測定部は、
コンピュータプログラム指令を実行可能なプロセッサ(741)と、
前記プロセッサに接続され、前記コンピュータプログラム指令を記憶したメモリ(742)と、
を備え、
前記プロセッサは、前記メモリに記憶された前記コンピュータプログラム指令を読み出して実行することにより、
前記透過率の測定値を二次元座標系に割り付けた第一マップを生成し、
前記半導体ウェハの外形形状および前記二次元座標系における位置に関するパラメータを有し、前記半導体ウェハが前記二次元座標系に正確に配置されていると仮定した場合に想定される前記透過率の二次元分布を示す第二マップを生成し、
前記第一マップと前記第二マップとの差が大きい程値が大きくなる評価関数を計算し、
前記評価関数が小さくなるように前記第二マップにおける前記パラメータを更新する、
レーザ加工装置。
[観点8]
前記パラメータは、前記半導体ウェハの前記二次元座標系における中心位置と半径とを含む、
観点7に記載のレーザ加工装置。
[観点9]
前記透過率の測定中における前記半導体ウェハの状態に基づいて、前記第二マップを補正する、
観点7または8に記載のレーザ加工装置。
[観点10]
前記状態は、前記透過率を測定するための測定光(LM)が前記半導体ウェハの外縁部に照射されている状態である、
観点9に記載のレーザ加工装置。
[観点11]
前記状態は、前記半導体ウェハの外縁部が把持具(711)により把持されている状態である、
観点9または10に記載のレーザ加工装置。
【符号の説明】
【0060】
1 半導体ウェハ
2 半導体インゴット
21 インゴットC面(表面)
23 剥離層
4 レーザ加工装置
7 透過率測定部
74 データ処理部(データ処理装置)
741 プロセッサ
742 メモリ
8 制御部