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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140430
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】化粧シート、化粧材
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20241003BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241003BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B32B27/18 A
B32B27/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051565
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】河西 優衣
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20E
4F100AK01A
4F100AK01C
4F100AK01D
4F100AK01E
4F100AK03A
4F100AK04A
4F100AK07C
4F100AK07E
4F100AK51B
4F100AL07C
4F100AL07E
4F100AT00D
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CA05B
4F100CA07B
4F100CA13B
4F100DD01C
4F100EH23
4F100EH46
4F100EJ19
4F100EJ65E
4F100HB00A
4F100HB00B
4F100HB01B
4F100HB31
4F100JB05B
4F100JB14D
4F100JB16A
4F100JB16C
4F100JB16E
4F100JL09
4F100JL10A
4F100JL10B
4F100JN01C
4F100JN01E
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F100YY00E
(57)【要約】
【課題】水性インキを用いて形成した構成であっても、耐候性の低下を抑制することが可能な、化粧シートと化粧材を提供する。
【解決手段】化粧材100が、基板20と、基板20の少なくとも一方の面に積層された化粧シート1を備え、化粧シート1は、基材層2と、絵柄模様層4と、透明熱可塑性樹脂層6と、表面保護層8を備え、基材層2は、着色した熱可塑性樹脂を用いて形成され、絵柄模様層4は、基材層2の一方の面に積層され、且つ絵柄が形成され、透明熱可塑性樹脂層6は、絵柄模様層4の一方の面に積層され、且つ透明な熱可塑性樹脂を用いて形成され、表面保護層8は、透明熱可塑性樹脂層6の一方の面に積層され、さらに、絵柄模様層4は、紫外線吸収剤と光安定剤を含有する水性インキを用いて形成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色した熱可塑性樹脂を用いて形成された基材層と、
前記基材層の一方の面に積層され、且つ絵柄が形成された絵柄模様層と、
前記絵柄模様層の一方の面に積層され、且つ透明な熱可塑性樹脂を用いて形成された透明熱可塑性樹脂層と、
前記透明熱可塑性樹脂層の一方の面に積層された表面保護層と、を備え、
前記絵柄模様層は、紫外線吸収剤と、光安定剤と、を含有する水性インキを用いて形成されている化粧シート。
【請求項2】
前記水性インキは、前記水性インキの固形分100%に対して前記紫外線吸収剤と前記光安定剤とを1%以上4%以下の範囲内で含有する請求項1に記載した化粧シート。
【請求項3】
前記水性インキは、さらに、水系ポリウレタン樹脂と、顔料と、を含有する請求項1に記載した化粧シート。
【請求項4】
前記紫外線吸収剤は、水に分散する紫外線吸収剤である請求項1に記載した化粧シート。
【請求項5】
前記光安定剤は、水に分散する光安定剤である請求項1に記載した化粧シート。
【請求項6】
前記基材層は、ポリオレフィン系の材料を用いて形成され、
前記基材層の厚さは、50μm以上200μm以下の範囲内であり、
前記透明熱可塑性樹脂層には、複数の凹部が形成されており、
前記透明熱可塑性樹脂層のうち前記凹部が形成されていない部分の厚さは、70μm以上150μm以下の範囲内であり、
前記表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含有する請求項1に記載した化粧シート。
【請求項7】
前記透明熱可塑性樹脂層は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂へ添加して形成され、且つ前記絵柄模様層の一方の面に積層された第一樹脂層と、前記第一樹脂層の一方の面に積層された第二樹脂層と、を備え、
前記第二樹脂層は、透明ポリプロピレン樹脂を含有する請求項1に記載した化粧シート。
【請求項8】
前記造核剤ベシクルの添加量は、前記透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、前記造核剤ベシクルが内包する前記造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である請求項7に記載した化粧シート。
【請求項9】
前記造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである請求項7に記載した化粧シート。
【請求項10】
前記造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに前記造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている請求項7に記載した化粧シート。
【請求項11】
前記基材層の他方の面に積層されたプライマー層を備える請求項1に記載した化粧シート。
【請求項12】
基板と、
前記基板の少なくとも一方の面に積層された請求項1から請求項11のうちいずれか1項に記載した化粧シートと、を備える化粧材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧シートと化粧材に関する。
【背景技術】
【0002】
建具や床材に用いる化粧シートの構成としては、例えば、特許文献1に開示されているように、絵柄模様層を、有機溶剤を含有するインキ(有機溶剤インキ)を用いて形成した構成がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-188941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている技術では、化粧シートを形成するインキとして有機溶剤インキを用いるため、印刷工場における作業性の低下、大気汚染、残留溶剤の発生等、各種の問題が発生する可能性がある。
各種の問題へ対応する対策としては、化粧シートを形成するインキを、有機溶剤インキから水性インキへ変更する対策が考えられる。しかしながら、水性インキは、有機溶剤インキよりも耐候性が低いため、建具や床材に用いる化粧シートに用いることは不適切であるという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した問題点を鑑み、水性インキを用いて形成した構成であっても、耐候性の低下を抑制することが可能な、化粧シートと化粧材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、基材層と、絵柄模様層と、透明熱可塑性樹脂層と、表面保護層を備える化粧シートである。基材層は、着色した熱可塑性樹脂を用いて形成された層である。絵柄模様層は、基材層の一方の面に積層され、且つ絵柄が形成された層である。透明熱可塑性樹脂層は、絵柄模様層の一方の面に積層され、且つ透明な熱可塑性樹脂を用いて形成された層である。表面保護層は、透明熱可塑性樹脂層の一方の面に積層された層である。そして、絵柄模様層は、紫外線吸収剤と、光安定剤とを含有する水性インキを用いて形成されている。
また、上述した課題を解決するために、本発明の一態様は、基板と、基板の少なくとも一方の面に積層された化粧シートとを備える化粧材である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、水性インキを用いて形成した構成であっても、耐候性の低下を抑制することが可能な、化粧シートと化粧材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施形態の化粧シートを表す断面図である。
図2】第一実施形態の化粧材を表す断面図である。
図3】第一実施形態の変形例における化粧シートを表す断面図である。
図4】第一実施形態の変形例における化粧材を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本技術の実施形態を説明する。図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面は模式的なものであり、現実のものとは異なる場合が含まれる。以下に示す実施形態は、本技術の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本技術の技術的思想は、下記の実施形態に例示した装置や方法に特定するものでない。本技術の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることが可能である。また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」になり、「右」が「左」になることは勿論である。
【0010】
(第一実施形態)
以下、図1を参照して、第一実施形態における化粧シート1の構成について説明する。
化粧シート1は、図1に示すように、基材層2と、絵柄模様層4と、透明熱可塑性樹脂層6と、表面保護層8と、プライマー層12を備える。
【0011】
<基材層>
基材層2は、緩衝層として機能し、耐摩耗性を向上させるための層である。
また、基材層2は、着色した熱可塑性樹脂(例えば、ポリオレフィン系樹脂)を用いて、シート状に形成する。
第一実施形態では、一例として、基材層2を、ポリオレフィン系の材料を用いて形成した場合について説明する。
ポリオレフィン系樹脂は、特に限定されるものではなく、化粧シートの分野で一般的に用いられているものを使用することが可能である。したがって、ポリオレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン‐プロピレン‐ブテン共重合体、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等を使用することが可能である。特に、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー等が好適である。
【0012】
また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレンを主成分とする単独、又は、共重合体も好適であり、例えば、ホモポリプロピレン樹脂、ランダムポリプロピレン樹脂、ブロックポリプロピレン樹脂、ポリプロピレン結晶部を有し、且つプロピレン以外の炭素数2から20のα-オレフィン等を使用することが可能である。その他、エチレン、ブテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、又は、オクテン-1のコモノマーを15モル%以上含有するプロピレン-α-オレフィン共重合体等を使用することが可能である。
【0013】
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントに高結晶性で且つ高融点の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントにガラス転移温度が-70℃以下の非晶性ポリエーテルを使用したブロックポリマーである。特に、アイソタクチックポリプロピレンを用いて形成されたハードセグメントと、アタクチックポリプロピレンを用いて形成されたソフトセグメントとを、重量比を80:20として混合したものが好適である。
また、ポリオレフィン系樹脂は、例えば、カレンダー法、インフレーション法、Tダイ押し出し法等により、フィルム状に形成する。
【0014】
基材層2の厚さは、特に限定されるものではなく、製品の特性に応じて設定する。
第一実施形態では、一例として、基材層2の厚さを、50μm以上200μm以下の範囲内とした場合について説明する。これは、基材層2の厚さが50μm以上200μm以下の範囲内であれば、床材の性能として必要な、耐衝撃性、耐キャスター性及び加工性を、十分に備えた化粧シート1を形成することが可能となることに起因する。
【0015】
基材層2には、必要に応じて、添加剤を配合してもよい。
添加剤としては、例えば、炭酸カルシウム、クレー等の充填剤、水酸化マグネシウム等の難燃剤、酸化防止剤、滑剤、発泡剤、後述する着色剤等を用いることが可能である。添加剤の配合量は、製品に要求される特性に応じて、適宜設定することが可能である。
【0016】
着色剤は、特に限定されるものではなく、顔料、染料等の公知の着色剤を用いることが可能である。したがって、着色剤は、例えば、チタン白、亜鉛華、弁柄、朱、群青、コバルトブルー、チタン黄、黄鉛、カーボンブラック等の無機顔料;イソインドリノン、ハンザイエローA、キナクリドン、パーマネントレッド4R、フタロシアニンブルー、インダスレンブルーRS、アニリンブラック等の有機顔料(染料も含む);アルミニウム、真鍮等の金属顔料;二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の箔粉からなる真珠光沢(パール)顔料等を用いることが可能である。
【0017】
基材層2を着色する態様には、透明着色と不透明着色(隠蔽着色)があり、任意に選択することが可能である。例えば、被着材(化粧シート1を接着する基材)の地色を着色して隠蔽する場合には、基材層2を着色する態様として、不透明着色を選択する。一方、例えば、被着材の地模様を目視することが可能とする場合には、基材層2を着色する態様として、透明着色を選択する。
基材層2の一方の面(図1では、上側の面)や他方の面(図1では、下側の面)には、必要に応じて、コロナ放電処理、オゾン処理、プラズマ処理、電離放射線処理、重クロム酸処理等の表面処理を施してもよい。例えば、コロナ放電処理を行う場合には、基材シート表面の表面張力が30dyne以上、好ましくは40dyne以上となるようにする。
【0018】
<絵柄模様層>
絵柄模様層4は、基材層2の一方の面に積層され、且つ絵柄が形成された層であり、化粧シート1に意匠性を付与するための絵柄を付加するための層である。
また、絵柄模様層4は、印刷インキを用いて形成される。
絵柄模様層4を形成する印刷インキとしては、紫外線吸収剤と光安定剤とを含有する水性インキを用いる。
水性インキは、水性インキの固形分100%に対して、紫外線吸収剤と光安定剤とを、1%以上4%以下の範囲内で含有する。
紫外線吸収剤は、水に分散する紫外線吸収剤である。
光安定剤は、水に分散する光安定剤である。
また、水性インキは、水系ポリウレタン樹脂と、顔料とを含有する。
絵柄模様層4を形成する水性インキは、例えば、グラビア印刷法やオフセット印刷法等、各種の印刷法や、グラビアコート法やロールコート法等、各種の塗工法等を用いて塗布される。
【0019】
絵柄模様層4の乾燥後の重量は、好ましくは0.1[g/m]以上15[g/m]以下の範囲内、より好ましくは3[g/m]以上10[g/m]以下の範囲内、さらに好ましくは6[g/m]以上9[g/m]以下の範囲内である。
絵柄模様層4の絵柄としては、任意の絵柄を用いることが可能であり、例えば、木目柄、石目柄、布目柄、抽象柄、幾何学模様、文字、記号、単色無地等、又はそれらの組み合わせ等を用いることが可能である。
また、絵柄模様層4は、例えば、化粧シート1が貼りつけられる下地の色・模様を隠蔽するために、ベタ塗りされた着色基材層と、意匠性を付与するための絵柄を付加するための絵柄模様層とを有する構成としてもよい。
【0020】
絵柄模様層4の厚さは、1[μm]以上10[μm]以下の範囲内、好ましくは0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内、より好ましくは0.5[μm]以上5[μm]以下の範囲内、さらに好ましくは0.7[μm]以上3[μm]以下の範囲内に設定する。これは、絵柄模様層4の厚さが1[μm]以上である場合、印刷を明瞭にすることが可能であることに起因する。また、絵柄模様層4の厚さが10[μm]以下である場合、化粧シート1を製造する際の印刷作業性が向上し、且つ製造コストを抑制することが可能であることに起因する。
なお、絵柄模様層4には、各種機能を付与するために、例えば、体質顔料、可塑剤、分散剤、界面活性剤、粘着付与剤、接着助剤、乾燥剤、硬化剤、硬化促進剤、硬化遅延剤等の機能性添加剤を添加してもよい。
【0021】
<透明熱可塑性樹脂層>
透明熱可塑性樹脂層6は、絵柄模様層4の一方の面(図1では、上側の面)に積層され、透明な熱可塑性樹脂を用いて形成された層である。
また、透明熱可塑性樹脂層6は、第一樹脂層6aと、第二樹脂層6bを備える。
第一樹脂層6aは、絵柄模様層4の一方の面に積層された層である。
また、第一樹脂層6aは、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂へ添加して形成されている。
ナノサイズの造核剤とは、造核剤をナノサイズ化する手法(ナノ化処理)によってナノサイズの粒子とされた造核剤のことである。
ナノ化処理としては、例えば、固相法、液相法、気相法等の方法を用いることが可能である。
【0022】
固相法は、造核剤に対して、主に機械的な粉砕を行ってナノサイズの粒子を得る方法である。また、固相法としては、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、コロイドミル、コニカルミル、ディスクミル、ハンマーミル、ジェットミル等を用いることが可能である。
液相法は、造核剤や当該造核剤を溶解させた溶液中でナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う方法である。また、液相法としては、晶析法、共沈法、ゾルゲル法、液相還元法、水熱合成法等を用いることが可能である。
【0023】
気相法は、造核剤や当該造核剤からなるガスや蒸気からナノサイズの粒子の合成や結晶化を行う方法である。また、気相法としては、電気炉法、化学炎法、レーザー法、熱プラズマ法等を用いることが可能である。
また、造核剤内包ベシクルとは、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞状のカプセルのことであり、特に、内部に液相を含むものが造核剤内包ベシクルと呼ばれている。本発明においては、液相中に造核剤が含まれている場合について説明する。
【0024】
また、造核剤内包ベシクルは、互いの外膜同士が反発し合う作用によって粒子が凝集することがなく、極めて高い分散性を有している。そして、互いの外膜同士が反発し合う作用によって、各樹脂層を構成する樹脂組成物中に対し、造核剤を均一に分散させることを可能とする。
ナノ化処理の中で、ナノサイズの造核剤を造核剤内包ベシクルとして得る手法(ベシクル化処理)として、第一実施形態では、超臨界逆相蒸発法を用いる。
【0025】
超臨界逆相蒸発法は、単層膜の外膜を備える造核剤内包ベシクルを得るための方法である。
したがって、造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている。
なお、造核剤ベシクルは、超臨界逆相蒸発法以外にも、例えば、Bangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法等によって調製することが可能である。
【0026】
超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態又は臨界点以上の温度条件下、もしくは、圧力条件下の二酸化炭素を用いて、対象物質を内包したカプセルを作製する方法である。超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98[℃])及び臨界圧力(7.3773±0.0030[MPa])以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味する。
臨界点以上の温度条件下、もしくは、圧力条件下の二酸化炭素とは、臨界温度だけ、又は、臨界圧力だけが臨界条件を超えた条件下の二酸化炭素を意味する。
【0027】
超臨界逆相蒸発法による具体的なベシクル化処理は、超臨界二酸化炭素と、分散剤としてのリン脂質と、内包物質としての造核剤の混合流体中に水相を注入し、攪拌することによって超臨界二酸化炭素と水相のエマルションを生成する。その後に減圧すると、二酸化炭素が膨張・蒸発して転相が生じ、リン脂質が造核剤粒子の表面を単層膜で覆ったナノカプセルが生成される。
超臨界逆相蒸発法を用いることにより、造核剤粒子表面で分散剤が多重膜となる従来のカプセル化方法とは異なり、容易に単層膜のカプセルを生成することが可能となるため、より小径なカプセルを調製することが可能となる。
【0028】
なお、多重膜のカプセルとしたい場合には、リン脂質、造核剤、水相の混合流体中に超臨界二酸化炭素を注入することで、容易に作製することが可能となる。
造核剤内包ベシクルを調製する際に用いるリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセルロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質等が挙げられる。また、造核剤内包ベシクルは、リン脂質の外膜を備えることにより、樹脂材料との優れた相溶性を実現することが可能である。
【0029】
また、造核剤内包ベシクルは、分散剤を含む外膜を備えていてもよい。分散剤としては、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、変性樹脂等が挙げられる。
高分子系の界面活性剤としては、脂肪族多価ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アルキルアミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0030】
脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸、ラウリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、リシノール酸、ミリスチン酸等とリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウム等が結合したものが挙げられる。
シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0031】
チタネートカップリング剤としては、テトラキス[2,2-ビス(アリルオキシメチル)ブトキシ]チタン(IV)、ジ-i-プロポキシチタンジオソステアレート、(2-nーブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、トリイソステアリン酸イソプロピルチタン、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン等が挙げられる。
【0032】
シリコーンとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル、アルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル等のオレフィンを重合又は、ポリオレフィンを熱分解したもので、それをさらに酸化又はマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸等によって変性したものが挙げられる。
【0033】
樹脂としては、ポリオレフィンをマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸等によって変性したものが挙げられる。
以上により、第一樹脂層6aには、ナノ化処理した造核剤が添加されている。すなわち、第一樹脂層6aは、スマートナノ処方の透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を用いて形成されている。
【0034】
また、第一樹脂層6aに添加されている造核剤は、例えば、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)ホスホン酸ナトリウムを含む。
造核剤ベシクルの添加量は、ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である。
また、造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである。
【0035】
造核剤ベシクルを構成する外膜は例えば単層膜から構成される。また、造核剤ベシクルを構成する外膜は、例えば、リン脂質等の生体脂質を含む物質から構成される。
第一実施形態では、外膜がリン脂質のような生体脂質を含む物質から構成される造核剤ベシクルを、造核剤リポソームと称する。
外膜を構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0036】
ベシクルの外膜となるその他の物質としては、例えば、ノニオン系界面活性剤や、ノニオン系界面活性剤とコレステロール類又はトリアシルグリセロールの混合物等の分散剤が挙げられる。
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ2-ビニルピリジン、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種、又は、2種以上を使用することが可能である。
コレステロール類としては、例えば、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5、24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウム又はコレカルシフェロール等を使用することが可能である。
【0037】
また、リポソームの外膜は、リン脂質と分散剤との混合物から形成してもよい。
第一実施形態の化粧シート1においては、造核剤ベシクルを、リン脂質を含む外膜を具備したラジカル捕捉剤リポソームとすることが好ましい。これは、リポソームの外膜をリン脂質で構成することによって、透明熱可塑性樹脂層6の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を、良好なものとすることが可能であることに起因する。
【0038】
造核剤としては、樹脂が結晶化する際に結晶化の起点となる物質であれば、特に限定するものではない。したがって、造核剤としては、例えば、リン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩、ベンジリデンソルビトール、キナクリドン、シアニンブルー及びタルク等を用いることが可能である。特に、ナノ化処理の効果を最大限に得るためには、非溶融型で良好な透明性が期待されるリン酸エステル金属塩、安息香酸金属塩、ピメリン酸金属塩、ロジン金属塩を用いることが好ましいが、ナノ化処理によって材料自体の透明化が可能な場合には、有色のキナクリドン、シアニンブルー、タルク等も用いることが可能である。また、非溶融型の造核剤に対して、溶融型のベンジリデンソルビトールを適宜混合して用いてもよい。
【0039】
上述したように、第一実施形態の化粧シート1の特徴(発明特定事項)の一つは、「透明熱可塑性樹脂層6が、ベシクルに内包された造核剤を含有する」ことである。そして、造核剤をベシクルに内包させた状態で樹脂組成物に添加することで、樹脂材料中、すなわち、透明熱可塑性樹脂層6への造核剤の分散性を、飛躍的に向上させるという効果を奏する。
しかしながら、第一実施形態の化粧シート1の特徴を、完成された化粧シート1の状態における物の構造や特性にて直接特定することは、状況により困難な場合も想定され、非実際的である。
【0040】
すなわち、ベシクルの状態で添加された造核剤は、高い分散性を有して分散された状態になっており、作製した化粧シート1の状態においても、造核剤は透明熱可塑性樹脂層6に高分散されている。しかしながら、透明熱可塑性樹脂層6を構成する樹脂組成物に、造核剤をベシクルの状態で添加して透明熱可塑性樹脂層6を作製した後の、化粧シート1の作製工程においては、通常、積層体への圧縮処理や硬化処理等、種々の処理が施されるが、これらの処理によって、造核剤を内包するベシクルの外膜に破砕や化学反応が発生して、造核剤が外膜で包含(包皮)されていない可能性も高く、外膜に破砕や化学反応が発生している状態が化粧シート1の処理工程によってばらつくためである。そして、造核剤が外膜で包含されていない等の状況は、物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また、破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか造核剤とは別に添加された材料なのか、判定が困難な場合も想定される。このように、第一実施形態は、従来に比して、透明熱可塑性樹脂層6に対し、造核剤が高分散で配合されている点で相違があるものの、造核剤を内包するベシクルの状態で添加されたためなのか否かが、化粧シート1の状態において、構造や特性を、測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
第二樹脂層6bは、第一樹脂層6aの一方の面(図1では、上側の面)に積層された層である。
また、第二樹脂層6bは、透明ポリプロピレン樹脂を含有している。
【0041】
<表面保護層>
表面保護層8は、透明熱可塑性樹脂層6の一方の面(図1では、上側の面)に積層されており、化粧シート1に対して、耐候性、耐傷性、耐汚染性、意匠性等の機能を付与するために設けられた層である。
また、表面保護層8は、電離放射線硬化型樹脂を含有している。
また、表面保護層8には、必要に応じて、耐候剤、可塑剤、安定剤、充填剤、分散剤、染料、顔料等の着色剤、溶剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、ブロッキング防止剤、触媒捕捉剤、着色剤、光散乱剤及び艶調整剤等の各種添加剤等を含有させてもよい。また、表面保護層8には、必要に応じて、抗菌剤、防カビ剤等の機能性添加剤等を含有させてもよい。
なお、表面保護層8は、UVコートとして形成しても、EBコートとして形成してもよい。
【0042】
<凹部>
透明熱可塑性樹脂層6と表面保護層8には、複数の凹部10が形成されている。
凹部10は、透明熱可塑性樹脂層6及び表面保護層8に対するエンボス加工により、形成されている。
透明熱可塑性樹脂層6のうち、凹部10が形成されていない部分の厚さは、70μm以上150μm以下の範囲内である。
<プライマー層>
プライマー層12は、プライマー(下塗り剤)を基材層2の他方の面に塗布することで、基材層2の他方の面に積層して形成されている層である。
<化粧材>
図1を参照しつつ、図2を用いて、化粧材100の構成を説明する。
図2に表すように、化粧材100は、例えば、板状に形成されており、化粧シート1と、基板20を備える。
【0043】
<基板>
基板20は、化粧シート1のうち、プライマー層12の他方の面(図2では、下側の面)の側に配置されている。
また、基板20は、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、木質系材料、金属系材料を用いて形成する。木質系材料としては、木材単板、合板、集成材、パーティクルボード、中密度繊維板、硬質繊維板等を用いることが可能である。金属系材料としては、鋼板、真鍮板、アルミニウム板、ジュラルミン板、ステンレス板等を用いることが可能である。
基板20に化粧シート1を積層する際には、必要に応じて適宜選択した接着剤を介して積層しても良いし、接着剤等を介さずに直接積層しても良い。
【0044】
化粧シート1を基板20に積層して接着する方法としては、金属板を接触させて平圧プレスする方法や、円圧式の連続ラミネート方式を用いることが可能である。特に、金属製の無端ベルトを使用した連続ラミネート方式を用いると、表面の反りや波打ち等が無く、さらに、層間の密着性が良く、稠密に硬化一体化された高品質の化粧材100を、高速で連続的に製造することが可能となる。
なお、上述した第一実施形態は、本発明の一例であり、本発明は、上述した第一実施形態に限定されることはなく、この第一実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0045】
(第一実施形態の効果)
第一実施形態の化粧シート1であれば、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(1)基材層2と、絵柄模様層4と、透明熱可塑性樹脂層6と、表面保護層8を備え、絵柄模様層4が、紫外線吸収剤と光安定剤を含有する水性インキを用いて形成されている。
その結果、水性インキを用いて形成した絵柄模様層4の耐候性が低下することを抑制することが可能となり、水性インキを用いて形成した構成であっても、耐候性の低下を抑制することが可能な、化粧シート1を提供することが可能となる。
これにより、水性インキを用いて形成した構成であっても、化粧シート1を、建具や床材に対して適切に用いることが可能となる。
また、有機溶剤インキを用いて化粧シート1を形成した場合と比較して、印刷工場における作業性の低下、大気汚染、残留溶剤の発生等を低減させることが可能となる。
【0046】
(2)水性インキは、水性インキの固形分100%に対して紫外線吸収剤と光安定剤とを1%以上4%以下の範囲内で含有する。
その結果、絵柄模様層4に絵柄を形成すると共に、耐候性の低下を抑制することが可能となる。
(3)水性インキは、さらに、水系ポリウレタン樹脂と、顔料とを含有する。
その結果、絵柄模様層4に絵柄を形成すると共に、絵柄模様層4の強度を向上させることが可能となる。
【0047】
(4)紫外線吸収剤は、水に分散する紫外線吸収剤である。
その結果、紫外線吸収剤を、水に分散しない紫外線吸収剤とした場合と比較して、水性インキによる絵柄模様層4の形成が容易となる。
(5)光安定剤は、水に分散する光安定剤である。
その結果、光安定剤を、水に分散しない光安定剤とした場合と比較して、水性インキによる絵柄模様層4の形成が容易となる。
【0048】
(6)基材層2は、ポリオレフィン系の材料を用いて形成され、基材層2の厚さは、50μm以上200μm以下の範囲内であり、透明熱可塑性樹脂層6には、複数の凹部10が形成されている。これに加え、透明熱可塑性樹脂層6のうち凹部10が形成されていない部分の厚さは、70μm以上150μm以下の範囲内であり、表面保護層8は、電離放射線硬化型樹脂を含有する。
その結果、基材層2の厚さが50μm未満である場合や、基材層2の厚さが200μmを超える場合と比較して、床材の性能として必要な、耐衝撃性、耐キャスター性及び加工性を、十分に備えた化粧シート1を形成することが可能となる。
【0049】
(7)透明熱可塑性樹脂層6は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂へ添加して形成され、且つ絵柄模様層4の一方の面に積層された第一樹脂層6aと、第一樹脂層6aの一方の面に積層された第二樹脂層6bを備える。これに加え、第二樹脂層6bは、透明ポリプロピレン樹脂を含有する。
その結果、化粧シート1に対し、耐傷性及び耐摩耗性を向上させることが可能となる。
【0050】
(8)造核剤ベシクルの添加量は、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である。
その結果、透明熱可塑性樹脂層6を構成する樹脂材料の結晶化度が十分に向上するため、耐傷性及び耐摩耗性を十分に有する化粧シート1を提供することが可能となる。
【0051】
(9)透明熱可塑性樹脂層6を形成する造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである。
その結果、透明熱可塑性樹脂層6の主成分である樹脂材料とベシクルとの相溶性を、良好なものとすることが可能となる。
【0052】
(10)透明熱可塑性樹脂層6を形成する造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている。
その結果、単層膜の、造核剤を内包したベシクルを容易に生成することが可能となり、より小径な、造核剤を内包したベシクル(カプセル)を調製することが可能となる。
(11)基材層2の他方の面に積層されたプライマー層12を備える。
その結果、例えば、化粧シート1と基板20との層間密着力を向上させることが可能となる。
【0053】
また、第一実施形態における化粧材100であれば、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(12)基板20と、基板20の少なくとも一方の面に積層された化粧シート1とを備える。
その結果、水性インキを用いて形成した構成であっても、耐候性の低下を抑制することが可能な、化粧材100を提供することが可能となる。
【0054】
<第一実施形態の変形例>
(1)第一実施形態では、透明熱可塑性樹脂層6の構成を、第一樹脂層6aと第二樹脂層6bを積層した複層構造としたが、これに限定するものではなく、透明熱可塑性樹脂層6の構成を、単層構造としてもよい。
(2)第一実施形態では、化粧シート1の構成を、凹部10を備える構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、化粧シート1の構成を、図3に示すように、凹部10を備えていない構成としてもよい。
(3)第一実施形態では、化粧材100の構成を、凹部10を備える構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、化粧材100の構成を、図4に示すように、凹部10を備えていない構成としてもよい。
【実施例0055】
第一実施形態を参照しつつ、以下、実施例1から4の化粧シートと、比較例1から3の化粧シートについて説明する。
【0056】
(実施例1)
基材層は、ポリエチレンフィルムを用いて形成した。
絵柄模様層は、基材層の一方の面に紫外線吸収剤と光安定剤とを含有する水性インキを用いて、グラビア印刷法によって木目模様を印刷して形成した。
透明熱可塑性樹脂層は、絵柄模様層の一方の面に、溶融した透明な熱可塑性樹脂をTダイで押し出して積層して形成した。
表面保護層は、まず、一対のゴムロールによって、基材層、絵柄模様層、透明熱可塑性樹脂層の積層体を挟みながら搬送することでラミネートを行った。次に、積層体のうち、透明熱可塑性樹脂層の一方の面に表面処理を行った後、アクリル系紫外線硬化型樹脂をコートして形成した。
【0057】
プライマー層は、基材層の他方の面に表面処理を施した後、基材層の他方の面に、プライマー塗工液を、乾燥後の塗布量が1g/mとなるようにグラビアコートでコートして形成した。プライマー塗工液は、ポリオール100重量部に対して、シリカ10重量部を添加して含有させ、イソシアネート3重量部を加えて形成した。
以上により、実施例1の化粧シートを形成した。
【0058】
(実施例2)
基材層の厚さを55μmとした点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例2の化粧シートを形成した。
(実施例3)
透明熱可塑性樹脂層の厚さを70μmとした点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例3の化粧シートを形成した。
(実施例4)
透明熱可塑性樹脂層を、第一樹脂層と第二樹脂層を積層させて形成した点を除き、実施例1と同様に形成して、実施例4の化粧シートを形成した。
【0059】
第一樹脂層は、絵柄模様層の一方の面に、溶融した透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を積層させて形成した。
第二樹脂層は、第一樹脂層の一方の面に、フェノール系酸化防止剤を0.2重量部、ヒンダードアミン系光安定剤を0.3重量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.5重量部添加した、溶融した透明ポリプロピレン樹脂を積層させて形成した。
【0060】
なお、第一樹脂層と第二樹脂層を、溶融した透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂と溶融したポリプロピレン樹脂とを、多軸エクストルーダーよりTダイで押し出して積層することで、透明熱可塑性樹脂層を形成した。
また、第一樹脂層には、透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、造核剤ベシクルが内包する造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内で、造核剤ベシクルを添加した。
第一樹脂層の厚さは10.5μmとし、第二樹脂層の厚さは59.5μmとした。
【0061】
(比較例1)
絵柄模様層を、紫外線吸収剤を含有しない水性インキを用いて形成した点を除き、実施例1と同様に形成して、比較例1の化粧シートを形成した。
(比較例2)
絵柄模様層を、光安定剤を含有しない水性インキを用いて形成した点を除き、実施例1と同様に形成して、比較例2の化粧シートを形成した。
(比較例3)
絵柄模様層を、紫外線吸収剤と光安定剤とを含有しない水性インキを用いて形成した点を除き、実施例1と同様に形成して、比較例3の化粧シートを形成した。
【0062】
(性能評価)
実施例1から4の化粧シートと、比較例1から3の化粧シートに対し、それぞれ、耐候性を評価した。
耐候性の評価には、以下に記載したメタルウェザー試験を用いた。
メタルウェザー試験機(ダイプラ・ウィンテス(株)製ダイプラ・メタルウェザーKU-R5DC1-A)を用い、以下の試験条件を繰り返し、240時間の促進耐候性試験と、144時間の促進耐候性試験を行った。
【0063】
試験条件
ライト条件…照度:65[mW/cm]、ブラックパネルの温度:53[℃]、層内の湿度:70[%RH]、照射時間:20時間
結露条件…照度:0[mW/cm]、ブラックパネルの温度:30[℃]、層内の湿度:98[%RH]、照射時間:4時間
水噴霧条件…結露条件の前後30秒間
【0064】
上述した条件で行ったメタルウェザー試験により、実施例1から4の化粧シートと、比較例1から3の化粧シートに対し、それぞれ、目視によって退色の度合いを判定することで、耐候性を評価した。そして、240時間の促進耐候性試験において著しい退色が無い場合を、「○」と評価した。また、240時間の促進耐候性試験において退色が有る場合と、144時間の促進耐候性試験において著しい退色が無い場合とを、「△」と評価した。さらに、144時間の促進耐候性試験において著しい退色が有る場合を、「×」と評価した。
また、耐候性の評価が「○」である場合にのみ、建具や床材に用いる化粧シートに対して要求される、高い耐候性を有しているとの判定を「○」とする。
【0065】
【表1】
【0066】
(評価結果)
上述した方法を用いて、耐候性を評価した結果、実施例1から4の化粧シートは、比較例1から3の化粧シートと比較して、高い耐候性を有することが確認された。
なお、本技術は、以下のような構成を取ることが可能である。
(1)
着色した熱可塑性樹脂を用いて形成された基材層と、
前記基材層の一方の面に積層され、且つ絵柄が形成された絵柄模様層と、
前記絵柄模様層の一方の面に積層され、且つ透明な熱可塑性樹脂を用いて形成された透明熱可塑性樹脂層と、
前記透明熱可塑性樹脂層の一方の面に積層された表面保護層と、を備え、
前記絵柄模様層は、紫外線吸収剤と、光安定剤と、を含有する水性インキを用いて形成されている化粧シート。
(2)
前記水性インキは、前記水性インキの固形分100%に対して前記紫外線吸収剤と前記光安定剤とを1%以上4%以下の範囲内で含有する前記(1)に記載した化粧シート。
(3)
前記水性インキは、さらに、水系ポリウレタン樹脂と、顔料と、を含有する前記(1)又は(2)に記載した化粧シート。
(4)
前記紫外線吸収剤は、水に分散する紫外線吸収剤である前記(1)~(3)のいずれかに記載した化粧シート。
(5)
前記光安定剤は、水に分散する光安定剤である前記(1)~(4)のいずれかに記載した化粧シート。
(6)
前記基材層は、ポリオレフィン系の材料を用いて形成され、
前記基材層の厚さは、50μm以上200μm以下の範囲内であり、
前記透明熱可塑性樹脂層には、複数の凹部が形成されており、
前記透明熱可塑性樹脂層のうち前記凹部が形成されていない部分の厚さは、70μm以上150μm以下の範囲内であり、
前記表面保護層は、電離放射線硬化型樹脂を含有する前記(1)~(5)のいずれかに記載した化粧シート。
(7)
前記透明熱可塑性樹脂層は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂へ添加して形成され、且つ前記絵柄模様層の一方の面に積層された第一樹脂層と、前記第一樹脂層の一方の面に積層された第二樹脂層と、を備え、
前記第二樹脂層は、透明ポリプロピレン樹脂を含有する前記(1)~(6)のいずれかに記載した化粧シート。
(8)
前記造核剤ベシクルの添加量は、前記透明マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂100質量部に対し、前記造核剤ベシクルが内包する前記造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である前記(7)に記載した化粧シート。
(9)
前記造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである前記(7)又は(8)に記載した化粧シート。
(10)
前記造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに前記造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている前記(7)~(9)のいずれかに記載した化粧シート。
(11)
前記表面保護層は、単層膜の外膜を備えるベシクルにナノサイズの造核剤が内包された造核剤ベシクルを電離放射線硬化型樹脂へ添加して形成され、
前記造核剤ベシクルの添加量は、前記電離放射線硬化型樹脂100質量部に対し、前記造核剤ベシクルが内包する前記造核剤に換算して0.05質量部以上0.5質量部以下の範囲内である前記(1)~(10)のいずれかに記載した化粧シート。
(12)
前記造核剤ベシクルは、リン脂質を用いて形成された外膜を備える造核剤リポソームである前記(11)に記載した化粧シート。
(13)
前記造核剤ベシクルは、単層膜を備えるベシクルに前記造核剤を内包させ、さらに、超臨界逆相蒸発法によってベシクル化して形成されている前記(11)又は(12)に記載した化粧シート。
(14)
前記基材層の他方の面に積層されたプライマー層を備える前記(1)~(13)のいずれかに記載した化粧シート。
(15)
基板と、
前記基板の少なくとも一方の面に積層された前記(1)~(14)のいずれかに記載した化粧シートと、を備える化粧材。
【符号の説明】
【0067】
1…化粧シート、2…基材層、4…絵柄模様層、6…透明熱可塑性樹脂層、6a…第一樹脂層、6b…第二樹脂層、8…表面保護層、10…凹部、12…プライマー層、20…基板、100…化粧材
図1
図2
図3
図4