(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140491
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60B 35/18 20060101AFI20241003BHJP
B60B 35/16 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B60B35/18 A
B60B35/16 B
B60B35/16 E
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051648
(22)【出願日】2023-03-28
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-03-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋輝
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 雄太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴宏
(72)【発明者】
【氏名】川田 理央
(72)【発明者】
【氏名】内野 哲郎
(57)【要約】
【課題】温度センサを軸受に当接させることなく軸受の温度を正確に検出する。
【解決手段】ダンプトラック1は、筒状のスピンドル12と、スピンドル12の外周面に取付けられ、車輪取付筒18をスピンドル12に対して回転可能に支持する第1,第2の軸受16,17と、スピンドル12の内周側に設けられ、走行用モータ13の回転を車輪取付筒18に伝達する回転軸14と、第1,第2の軸受16,17の温度を検出する第1,第2の温度センサ42,43と、第1,第2の温度センサ42,43により検出された温度に基づいて第1,第2の軸受16,17の異常を判定する制御装置44と、を備えている。第1,第2の温度センサ42,43は、スピンドル12の内周側に配置され、スピンドル12の外周面から内周側へと伝わる熱によって第1,第2の軸受16,17の温度を正確に検出する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体および車輪と、
前記車体に固定された筒状のスピンドルと、
前記スピンドルの外周面に取付けられ、前記車輪が取付けられる車輪取付筒を前記スピンドルに対して回転可能に支持する軸受と、
前記スピンドルの内周側に回転可能に設けられ、駆動源の回転を減速機構を介して前記車輪取付筒に伝達する回転軸と、
前記軸受の温度を検出する温度センサと、
前記温度センサにより検出された温度に基づいて前記軸受の異常を判定する制御装置と、を備えてなる作業車両において、
前記温度センサは、前記スピンドルの内周側に配置されていることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記車輪取付筒の内周側には前記減速機構を潤滑する潤滑油が貯留され、
前記潤滑油の液面は、前記回転軸の軸中心よりも下側に配置され、
前記温度センサは、前記回転軸の軸中心よりも上側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記温度センサは、前記スピンドルのうち前記軸受の取付部位に対応する内周面に取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項4】
前記軸受は、前記スピンドルの外周面に軸方向に離間して取付けられた第1の軸受と第2の軸受とにより構成され、
前記温度センサは、前記スピンドルのうち前記第1の軸受および前記第2の軸受の取付部位に対応する内周面に取付けられた第1の温度センサおよび第2の温度センサにより構成され、
前記制御装置は、前記第1の温度センサにより検出された温度と前記第2の温度センサにより検出された温度との温度差に基づいて前記第1の軸受および前記第2の軸受の異常を判定することを特徴とする請求項3に記載の作業車両。
【請求項5】
前記スピンドルの内周側には軸受取付部材が設けられ、
前記回転軸は、前記軸受取付部材に取付けられた第3の軸受に回転可能に支持され、
前記軸受取付部材のうち前記第3の軸受の取付面とは反対側の面には、前記第3の軸受の温度を検出する第3の温度センサが取付けられていることを特徴とする請求項4に記載の作業車両。
【請求項6】
前記減速機構は、前記スピンドルにスプライン結合されたキャリアと、前記キャリアに取付けられた第4の軸受と、前記第4の軸受により回転可能に支持された遊星歯車とを有し、
前記キャリアのうち前記第4の軸受の取付部位に隣接した部位には、前記第4の軸受の温度を検出する第4の温度センサが取付けられ、
前記制御装置は、前記第1,第2,第3,第4の温度センサにより検出された温度に基づいて前記第1,第2,第3,第4の軸受の異常を判定することを特徴とする請求項5に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばダンプトラック等の車輪を有する作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
ダンプトラック等の作業車両は、車輪を駆動する走行装置を備えている。この走行装置は、車体に固定された筒状のスピンドルと、スピンドルの外周面に取付けられ、車輪が取付けられた車輪取付筒を前記スピンドルに対して回転可能に支持する軸受と、駆動源の回転を減速機構を介して車輪取付筒に伝達する回転軸とを含んで構成されている。車輪を支持する軸受には、荷物を積載したダンプトラックから大きな重量が作用している。このため、ダンプトラックの稼働時には、軸受が発生する熱を温度センサによって検出し、検出された温度に応じて軸受の異常の有無を判定することにより、オペレータに対して軸受の異常に関する情報を報知する必要がある。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、回転体を支持する2つの軸受の内輪と外輪との温度差に応じて発電量が変化する発電装置と、発電装置の発電量に基づいて軸受の異常を検知する異常検知装置とを備えた軸受装置が提案されている。この軸受装置を構成する2つの軸受間には、内輪間に配置される内輪間座と、外輪間に配置される外輪間座とが設けられ、発電装置は外輪間座に取付けられた状態で軸受の外輪に当接している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、作業車両の走行装置のように、スピンドルの外周面に軸受が取付けられる構成においては、温度センサ等を軸受に当接させた状態で軸受の温度を検出することが困難であるという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、温度センサを軸受に当接させることなく軸受の温度を正確に検出することができるようにした作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車体および車輪と、前記車体に固定された筒状のスピンドルと、前記スピンドルの外周面に取付けられ、前記車輪が取付けられる車輪取付筒を前記スピンドルに対して回転可能に支持する軸受と、前記スピンドルの内周側に回転可能に設けられ、駆動源の回転を減速機構を介して前記車輪取付筒に伝達する回転軸と、前記軸受の温度を検出する温度センサと、前記温度センサにより検出された温度に基づいて前記軸受の異常を判定する制御装置と、を備えてなる作業車両において、前記温度センサは、前記スピンドルの内周側に配置されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、スピンドルの外周面に取付けられた軸受からの熱が、スピンドルの外周面から内周側へと伝わることにより、軸受に当接するように温度センサを設けることができない場合でも、スピンドルの内周側に配置された温度センサによって軸受の温度を正確に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明が適用されたダンプトラックを示す左側面図である。
【
図2】ダンプトラックを後方からみた背面図である。
【
図3】後輪側の走行装置を
図1中の矢示III-III方向から見た断面図である。
【
図4】第1の実施形態による温度センサ、スピンドル、車輪取付筒、軸受等を示す拡大断面図である。
【
図5】温度センサ、制御装置、表示モニタの接続関係を示すブロック図である。
【
図6】軸受の異常情報を表示した表示モニタの簡略図である。
【
図7】第1の実施形態による軸受の異常検出に関して制御装置が実行する制御処理を示す流れ図である。
【
図8】第1の温度センサが検出した温度と第2の温度センサが検出した温度との温度差を示す特性線図である。
【
図9】第2の実施形態による軸受の異常検出に関して制御装置が実行する制御処理を示す流れ図である。
【
図10】第3の実施形態による温度センサ、スピンドル、車輪取付筒、軸受等を示す
図4と同様位置の拡大断面図である。
【
図11】第3の実施形態による温度センサ、制御装置、表示モニタの接続関係を示すブロック図である。
【
図12】第1,第2,第3の温度センサが検出した温度の平均値と第4の温度センサが検出した温度との温度差を示す特性線図である。
【
図13】第3の実施形態による軸受の異常検出に関して制御装置が実行する制御処理を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明による車両作業を、後輪駆動式のダンプトラックを例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。なお、実施形態では、ダンプトラックの走行方向を前後方向とし、走行方向と直交する方向を左右方向として説明する。
【0011】
図1ないし
図7は本発明の第1の実施形態を示している。図中、ダンプトラック1は、頑丈なフレーム構造をなす車体2と、車体2上に起伏可能に搭載されたベッセル(荷台)3と、車体2の前部に設けられたキャブ5と、車輪としての左右の前輪6および左右の後輪7と、を含んで構成されている。
【0012】
ベッセル3は、例えば砕石物等の重量物を積載する大型の容器として形成され、ベッセル3の後側底部は、車体2の後端側に連結ピン4等を介して起伏(傾転)可能に連結されている。ベッセル3の前側上部には、キャブ5を上側から覆う庇部3Aが一体に設けられている。キャブ5は、庇部3Aの下側に位置して車体2の前部に設けられている。キャブ5は運転室を形成し、キャブ5の内部には、運転席、起動スイッチ、アクセルペダル、ブレーキペダル、操舵用のハンドル、操作レバー等の操作機器(いずれも図示せず)、および後述の表示モニタ48等が配置されている。
【0013】
左右の前輪6は、車体2の前部側に回転可能に設けられている(左前輪のみ図示)。左右の前輪6は、オペレータによって操舵される操舵輪を構成している。左右の後輪7は、車体2の後部側に回転可能に設けられている。左右の後輪7は、ダンプトラック1の駆動輪を構成し、
図3に示す走行装置11により車輪取付筒18と一体に回転駆動される。後輪7は、複輪式タイヤからなる2列のタイヤ7Aと、タイヤ7Aの径方向内側に配設されるリム7Bとを含んで構成されている。
【0014】
エンジン8は、キャブ5の下側に位置して車体2内に設けられている。エンジン8は、例えばディーゼルエンジン等により構成され、車体2に搭載された発電機および油圧ポンプ(いずれも図示せず)を回転駆動する。油圧ポンプから吐出された圧油は、後述するホイストシリンダ9、パワーステアリング用の操舵シリンダ(図示せず)等に供給される。
【0015】
ホイストシリンダ9は、車体2とベッセル3との間に設けられている。ホイストシリンダ9は、前輪6と後輪7との間に位置して車体2の左,右両側に配設され、油圧ポンプからの圧油が給排されることにより上,下方向に伸縮し、連結ピン4を中心にしてベッセル3を起伏(傾転)させる。
【0016】
後輪側のアクスルハウジング10は、車体2の後部側に設けられている。アクスルハウジング10は、左右方向(軸方向)に延びる中空な円筒体からなり、左右の後輪側サスペンション10Aを介して車体2の後部側に取付けられている。アクスルハウジング10の左右両側には、左右の後輪7を駆動する走行装置11がそれぞれ設けられている。
【0017】
走行装置11は、アクスルハウジング10の左右両側にそれぞれ設けられている。
図3に示すように、走行装置11は、スピンドル12と、走行用モータ13と、回転軸14と、第1の軸受16および第2の軸受17と、車輪取付筒18と、減速機構21と、第1の温度センサ42および第2の温度センサ43とを含んで構成されている。走行装置11は、回転軸14の回転を減速機構21によって減速し、駆動輪となる左右の後輪7を大きな回転トルクをもって回転駆動する。
【0018】
スピンドル12は、アクスルハウジング10の左右両側に取付けられている。スピンドル12は、左右方向に延びる段付き円筒状に形成され、テーパ部12Aと、中間円筒部12Bと、小径円筒部12Cとを有している。テーパ部12Aは、スピンドル12の軸方向一側(アクスルハウジング10側)から軸方向他側に向けて徐々に縮径するテーパ形状をなし、アクスルハウジング10の端部に複数のボルト12Dを用いて取付けられている。中間円筒部12Bは、テーパ部12Aの縮径側に一体形成され、軸方向に延びている。小径円筒部12Cは、中間円筒部12Bよりも小さい外径寸法を有し、中間円筒部12Bの先端側に一体形成されている。
【0019】
テーパ部12Aの軸方向一側には、径方向内向きに突出する複数のモータ取付座12Eが設けられ、モータ取付座12Eには、走行用モータ13が取付けられている。テーパ部12Aの外周側には、径方向外向きに突出する環状のフランジ部12Fが設けられ、フランジ部12Fには、後述の湿式ブレーキ35が取付けられている。
【0020】
小径円筒部12Cの先端は開口端となり、その内周側には後述する2段目のキャリア33の筒状突出部33Aがスプライン結合されている。小径円筒部12Cの軸方向の中間部の内周側には、径方向内側に突出する環状の内側突部12Gが形成され、内側突部12Gには、後述するリテーナ40が取付けられている。小径円筒部12Cの下部側には、上下方向(小径円筒部12Cの径方向)に貫通する径方向穴12Hが穿設され、この径方向穴12H内には、後述する吸込管38の先端38Aが挿通されている。
【0021】
駆動源としての走行用モータ13は、アクスルハウジング10およびスピンドル12のテーパ部12A内に配置されている。走行用モータ13の外周側には複数の取付フランジ13Aが設けられ、取付フランジ13Aがスピンドル12(テーパ部12A)のモータ取付座12Eにボルト等を用いて取付けられている。走行用モータ13は、電動モータにより構成され、車体2に搭載された発電機(図示せず)からの電力が供給されることにより、回転軸14を回転駆動する。
【0022】
回転軸14は、スピンドル12の内周側を軸方向に伸長して設けられている。回転軸14は、1本の長尺な棒状体を用いて形成され、回転軸14の一端側は、走行用モータ13の出力軸(図示せず)にカップリング15を介して接続され、回転軸14は、走行用モータ13によって回転駆動される。回転軸14の他端側は、スピンドル12の小径円筒部12Cの開口端から突出し、回転軸14の他端(突出端)には、後述の太陽歯車23が取付けられている。回転軸14の軸方向の中間部は、後述する第3の軸受41によりスピンドル12に対して回転可能に支持されている。
【0023】
第1の軸受16および第2の軸受17は、スピンドル12を構成する小径円筒部12Cの外周面に、軸方向に間隔をもって取付けられている。これら第1,第2の軸受16,17は、スピンドル12に対して車輪取付筒18を回転可能に支持している。
図4に示すように、第1の軸受16は、小径円筒部12Cの外周面に嵌合した内輪16Aと、車輪取付筒18(中空円筒部18A)の内周面に嵌合した外輪16Bと、内輪16Aと外輪16Bとの間に設けられた転動体16Cとを有している。同様に、第2の軸受17も、小径円筒部12Cの外周面に嵌合した内輪17Aと、車輪取付筒18の内周面に嵌合した外輪17Bと、内輪17Aと外輪17Bとの間に設けられた転動体17Cとを有している。
【0024】
車輪取付筒18は、スピンドル12を構成する小径円筒部12Cの外周側に、第1,第2の軸受16,17を介して回転可能に取付けられている。車輪取付筒18は、第1,第2の軸受16,17に支持され、小径円筒部12Cの外周側を軸方向に延びる中空円筒部18Aと、中空円筒部18Aの先端から軸方向に突出し、スピンドル12から離れる方向に延びる延長円筒部18Bとを有している。車輪取付筒18の外周側には、後輪7を構成する円筒状のリム7Bが着脱可能に取付けられ、後輪7は車輪取付筒18と一体に回転する。車輪取付筒18の延長円筒部18Bの端部には、後述の内歯車32と外側ドラム19とが長尺ボルト20を用いて一体的に固定されている。外側ドラム19は円筒体からなり、軸方向の一側には環状のフランジ部19Aが設けられている。フランジ部19Aは、内歯車32を介して車輪取付筒18に固定され、外側ドラム19の軸方向の他側は、開口端となっている。
【0025】
減速機構21は、回転軸14と車輪取付筒18との間に設けられている。減速機構21は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とにより構成され、回転軸14の回転を2段減速して車輪取付筒18に伝達する。
【0026】
1段目の遊星歯車減速機構22は、太陽歯車23と、複数の遊星歯車24と、キャリア26とを含んで構成されている。太陽歯車23は、スピンドル12(小径円筒部12C)から突出した回転軸14の先端にスプライン結合されている。複数の遊星歯車24は、太陽歯車23とリング状の内歯車25とに噛合し、太陽歯車23の周囲を自転しつつ公転する。キャリア26は、車輪取付筒18に一体化された外側ドラム19の開口端にボルト等を介して固定され、支持ピン27を介して遊星歯車24を回転可能に支持している。
【0027】
ここで、内歯車25はリングギヤを用いて形成され、太陽歯車23および複数の遊星歯車24を径方向外側から取囲んでいる。内歯車25は、外側ドラム19の内周面との間に径方向の隙間を介して相対回転可能に配置されている。内歯車25の回転は、カップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29に伝達される。
【0028】
カップリング28は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29との間に設けられている。カップリング28は、中心部にボス28Aを有する円板状に形成されている。カップリング28の外周側は、1段目の内歯車25にスプライン結合され、カップリング28のボス28Aの内周側は、後述する2段目の太陽歯車30にスプライン結合されている。カップリング28は、1段目の内歯車25の回転を2段目の太陽歯車30に伝達し、太陽歯車30を1段目の内歯車25と一体に回転させる。
【0029】
1段目の遊星歯車減速機構22は、走行用モータ13によって回転軸14と一体に太陽歯車23が回転することにより、太陽歯車23の回転を、複数の遊星歯車24の自転運動と公転運動とに変換する。そして、遊星歯車24の自転運動は、内歯車25に減速した回転として伝えられ、内歯車25の回転は、カップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29に伝達される。一方、遊星歯車24の公転運動は、キャリア26の回転となって外側ドラム19を介して車輪取付筒18に伝達される。このとき、車輪取付筒18は、2段目の内歯車32と一体に回転するため、遊星歯車24の公転は、車輪取付筒18に同期した回転に抑えられる。
【0030】
2段目の遊星歯車減速機構29は、円筒状の太陽歯車30と、複数の遊星歯車31と、キャリア33とを含んで構成されている。太陽歯車30は、カップリング28のボス28Aの内周側にスプライン結合され、カップリング28と一体に回転する。複数の遊星歯車31は、太陽歯車30とリング状の内歯車32とに噛合し、太陽歯車30の周囲を自転しつつ公転する。キャリア33は、支持ピン34を介して遊星歯車31を回転可能に支持している。キャリア33の中心部には円筒状の筒状突出部33Aが設けられ、筒状突出部33Aの外周側は、小径円筒部12Cの内周側にスプライン結合されている。ここで、2段目の内歯車32は、太陽歯車30、複数の遊星歯車31等を径方向外側から取囲むリングギヤを用いて形成され、車輪取付筒18の延長円筒部18Bと外側ドラム19との間に長尺ボルト20を用いて一体的に固着されている。
【0031】
2段目の遊星歯車減速機構29は、キャリア33の筒状突出部33Aがスピンドル12の小径円筒部12Cにスプライン結合されることにより、遊星歯車31の公転(キャリア33の回転)が拘束される。従って、2段目の遊星歯車減速機構29は、太陽歯車30がカップリング28と一体に回転することにより、太陽歯車30の回転を遊星歯車31の自転に変換し、この遊星歯車31の自転を2段目の内歯車32に伝達する。これにより、内歯車32が減速して回転し、内歯車32が固定された車輪取付筒18に対し、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とで2段階で減速された大出力の回転トルクが伝達される。
【0032】
車輪取付筒18の内周側には、潤滑油Lが貯留されている。潤滑油Lの液面は、回転軸14の軸中心A-Aよりも下側となる位置、具体的にはスピンドル12を構成する小径円筒部12Cの最下部よりも低い位置にある。従って、第1,第2の軸受16,17の下側部位は潤滑油Lに浸漬され、遊星歯車減速機構22,29の一部は、常に潤滑油Lによって潤滑される。また、遊星歯車減速機構22,29によって跳ね上げられた潤滑油Lは、ミスト状となってスピンドル12内に飛散し、回転軸14を支持する第3の軸受41にも供給される。これにより、走行装置11の作動時において、潤滑油Lの攪拌による抵抗を小さくしてエネルギロスを抑えることができ、かつ走行装置11の発熱を抑えることができる。
【0033】
湿式ブレーキ35は、スピンドル12のフランジ部12Fに取付けられている。湿式ブレーキ35は、湿式多板型の油圧ブレーキにより構成され、車輪取付筒18に取付けられたブレーキハブ36に対して制動力を付与する。これにより、車輪取付筒18の回転、即ち、後輪7の回転に制動力が付与される。
【0034】
隔壁37は、スピンドル12内に設けられている。隔壁37は、環状の板体により形成され、隔壁37の外周側は、スピンドル12のテーパ部12Aと中間円筒部12Bとの境界部にボルト等を用いて取付けられている。隔壁37は、スピンドル12内を、走行用モータ13を収容するモータ収容空間部37Aと、車輪取付筒18の内部に連通する筒状空間部37Bとに仕切っている。
【0035】
吸込管38は、スピンドル12およびアクスルハウジング10内に設けられている。吸込管38の長さ方向一側は、潤滑油ポンプ(図示せず)の吸込側に接続されている。吸込管38の長さ方向他側は、回転軸14の下側に位置してスピンドル12内を軸方向に延び、リテーナ40に保持されている。リテーナ40から突出した吸込管38の先端38Aは、スピンドル12の径方向穴12Hを通じて車輪取付筒18内の潤滑油Lに浸漬され、潤滑油ポンプは吸込管38を通じて潤滑油Lを吸上げる。
【0036】
供給管39は、スピンドル12およびアクスルハウジング10内に設けられ、吸込管38、潤滑油ポンプ等と共に潤滑油Lの循環回路を形成している。供給管39の長さ方向一側は、潤滑油ポンプの吐出側に接続されている。供給管39の長さ方向他側は、回転軸14の上側に位置してスピンドル12内を軸方向に延び、リテーナ40に保持されている。リテーナ40から突出した供給管39の先端39Aは、2段目のキャリア33の筒状突出部33A内へと延びている。潤滑油ポンプから吐出した潤滑油Lは、供給管39の先端39Aから回転軸14に供給され、回転軸14を冷却すると共に、回転軸14から飛散して第3の軸受41等を潤滑する。
【0037】
軸受取付部材としてのリテーナ40は、スピンドル12(小径円筒部12C)の内側突部12Gにボルト等を用いて取付けられている。リテーナ40は、中心部に軸受嵌合穴40Aが形成された円板からなり、軸受嵌合穴40Aに嵌合された第3の軸受41を保持すると共に、吸込管38および供給管39を保持している。リテーナ40のうち走行用モータ13側となる軸方向の一側面には、軸受嵌合穴40Aの内周面から径方向内側に張出す環状の鍔部40Bが設けられている。リテーナ40の軸受嵌合穴40Aには、第3の軸受41の外輪が嵌合し、第3の軸受41の内輪には、回転軸14が嵌合している。このように、第3の軸受41は、リテーナ40を介してスピンドル12の内周側に配置され、スピンドル12に対して回転軸14を回転可能に支持している。
【0038】
第1の温度センサ42、第2の温度センサ43は、それぞれスピンドル12の内周側に配置されている。第1の温度センサ42は、スピンドル12の小径円筒部12Cのうち、第1の軸受16の取付部位12Jに対応する内周面に取付けられ、第1の軸受16の温度を検出する。第2の温度センサ43は、スピンドル12の小径円筒部12Cのうち、第2の軸受17の取付部位12Kに対応する内周面に取付けられ、第2の軸受17の温度を検出する。これら第1,第2の温度センサ42,43は、いずれも回転軸14の軸中心A-Aよりも上側に配置され、潤滑油Lを被らないようになっている。第1の温度センサ42に接続されたケーブル42Aおよび第2の温度センサ43に接続されたケーブル43Aは、スピンドル12の内周側を通ってアクスルハウジング10の外部へと導出され、制御装置44の入力側に接続される。
【0039】
制御装置44は、車体2に搭載され、キャブ5内に設けられた操作機器(図示せず)に対する操作に応じてダンプトラック1の動作を制御する。また、制御装置44は、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度、および第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度に基づいて、第1,第2の軸受16,17に異常が生じているか否かを判定する。
図5に示すように、制御装置44は、異常判定部45、車体制御部46、送信部47を有し、第1の温度センサ42および第2の温度センサ43は、異常判定部45に接続されている。
【0040】
異常判定部45は、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度、および第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度のうち少なくとも一方の温度が、予め設定された閾値を超えたか否かを監視する。そして、異常判定部45は、第1,第2の軸受16,17の少なくとも一方の温度が閾値を超えた場合には、このことを示す異常検出信号を車体制御部46に出力する。異常検出信号が入力された車体制御部46は、キャブ5内に配置された表示モニタ48に対し、送信部47を介して異常情報を送信する。これにより、表示モニタ48は、第1,第2の軸受16,17の少なくとも一方の温度が閾値を超えた場合に対応する異常表示を行う(
図6参照)。キャブ5内でダンプトラック1を操縦するオペレータは、表示モニタ48に表示された異常情報に基づき、例えば走行速度を低下させることにより、第1,第2の軸受16,17の温度上昇を抑制することができる構成となっている。
【0041】
本実施形態によるダンプトラック1は上述の如き構成を有するもので、オペレータがキャブ5内に配置された起動スイッチによってエンジン8を起動すると、油圧ポンプが回転駆動されると共に発電機(いずれも図示せず)により発電が行われる。ダンプトラック1の走行駆動時には、発電機から走行用モータ13に電力が供給され、回転軸14が回転する。
【0042】
回転軸14の回転は、1段目の遊星歯車減速機構22の太陽歯車23から遊星歯車24に減速されて伝達され、遊星歯車24の回転は、内歯車25およびカップリング28を介して2段目の遊星歯車減速機構29の太陽歯車30に減速されて伝達される。2段目の遊星歯車減速機構29の遊星歯車31には、太陽歯車30の回転が伝達される。このとき、遊星歯車31を支持するキャリア33は、筒状突出部33Aがスピンドル12の小径円筒部12Cにスプライン結合されている。このため、遊星歯車31の公転(キャリア33の回転)は拘束される。
【0043】
従って、遊星歯車31は、太陽歯車30の周囲で自転のみを行い、車輪取付筒18に固定された内歯車32には、遊星歯車31の自転により減速された回転が伝達される。これにより、車輪取付筒18は、1段目の遊星歯車減速機構22と2段目の遊星歯車減速機構29とで2段減速された大きな回転トルクをもって回転する。この結果、駆動輪となる左右の後輪7は、車輪取付筒18と一体に回転し、ダンプトラック1を走行させることができる。
【0044】
ダンプトラック1の走行時には、車輪取付筒18の内周側に貯溜された潤滑油Lが、遊星歯車減速機構22,29を構成する遊星歯車24,31等によって掻き上げられ、歯車間の噛合部、第1,第2の軸受16,17等に供給される。これにより、遊星歯車減速機構22,29、第1,第2の軸受16,17等が適宜に潤滑および冷却される。
【0045】
ここで、車輪取付筒18を支持する第1,第2の軸受16,17には、荷物を積載したダンプトラック1からの大きな重量が常に作用し、第1,第2の軸受16,17の温度は上昇していく。このため、ダンプトラック1の稼働時には、第1,第2の軸受16,17の温度を第1,第2の温度センサ42,43によって常に検出し、制御装置44は、検出された温度に応じて第1,第2の軸受16,17の異常の有無を監視する。そして、制御装置44は、第1,第2の軸受16,17のうち少なくとも一方の温度が予め設定された閾値を超えた場合には、第1,第2の軸受16,17に関する異常情報を表示モニタ48に表示し、オペレータに報知する。
【0046】
次に、第1,第2の軸受16,17の異常を検出するために制御装置44が実行する制御処理について、
図7を参照して説明する。この制御処理は、例えばダンプトラック1の起動スイッチ(図示せず)が操作されることによりスタートする。制御装置44は、ステップS1において、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度T1、および第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度T2を読み込んだ後、ステップS2に移行する。
【0047】
この場合、第1の温度センサ42は、スピンドル12の小径円筒部12Cのうち、第1の軸受16の取付部位12Jに対応する内周面に取付けられている。従って、第1の軸受16が発した熱は、スピンドル12の取付部位12Jを介して第1の温度センサ42に伝わる。このため、第1の軸受16に直接当接する温度センサを設けることができない場合でも、第1の軸受16の温度を正確に検出することができる。同様に、第2の温度センサ43は、スピンドル12の小径円筒部12Cのうち、第2の軸受17の取付部位12Kに対応する内周面に取付けられている。従って、第2の軸受17が発した熱は、スピンドル12の取付部位12Kを介して第2の温度センサ43に伝わる。このため、第2の軸受17に直接当接する温度センサを用いることなく、第2の軸受17の温度を正確に検出することができる。
【0048】
ステップS2において、制御装置44(異常判定部45)は、第1の軸受16の温度T1および第2の軸受17の温度T2が、予め設定された閾値Tthよりも大きいか否か(T1>Tth、T2>Tth)を判定する。ステップS2で「NO」と判定した場合には、ステップS1に戻る。ステップS2で「YES」と判定した場合、即ち、第1の軸受16の温度T1および第2の軸受17の温度T2のうち少なくとも一方が、閾値Tthよりも大きいと判定した場合には、ステップS3に移行する。
【0049】
ステップS3において、制御装置44(異常判定部45)は車体制御部46に対し、第1の軸受16の温度T1および第2の軸受17の温度T2のうち少なくとも一方の温度が閾値Tthを超えたことを示す異常検出信号を出力する。これにより、制御装置44(車体制御部46)は、キャブ5内に配置された表示モニタ48に対し、送信部47を介して異常情報を送信する。表示モニタ48は、
図6に示す異常表示を行い、ダンプトラック1を操縦するオペレータに対し、第1の軸受16および第2の軸受17のうち少なくとも一方に異常が生じていることを報知する。
【0050】
表示モニタ48の異常表示を確認したオペレータは、例えばダンプトラック1の走行速度を低下させてクーリング運転を実行する。この結果、第1,第2の軸受16,17の温度上昇を抑制することができ、ダンプトラック1を稼働させながら、第1,第2の軸受16,17を保護することができる。従って、第1,第2の軸受16,17の損傷等によってダンプトラック1の稼働時間が減少するのを抑え、ダンプトラック1の長時間稼働に対する耐久性、信頼性を向上させることができる。この場合、閾値Tthを低い温度に設定することにより、第1,第2の軸受16,17の温度上昇を早い段階でオペレータに報知することができる。これにより、第1,第2の軸受16,17の温度上昇を抑えるための対策を早めにとることができ、第1,第2の軸受16,17の寿命を延ばすことができる。
【0051】
このように、制御装置44は、第1の軸受16の温度T1および第2の軸受17の温度T2のうち少なくとも一方が、閾値Tthよりも大きいと判定した場合には、表示モニタ48によって第1,第2の軸受16,17に関する異常表示を行い、オペレータに対して注意を喚起する。その後、制御装置44はステップS1に戻り、ステップS1以降の制御処理を繰り返す。
【0052】
かくして、実施形態によるダンプトラック1は、車体2および車輪(前輪6および後輪7)と、車体2に固定された筒状のスピンドル12と、スピンドル12の外周面に取付けられ、後輪7が取付けられる車輪取付筒18をスピンドル12に対して回転可能に支持する第1,第2の軸受16,17と、スピンドル12の内周側に回転可能に設けられ、走行用モータ13の回転を減速機構21を介して車輪取付筒18に伝達する回転軸14と、第1,第2の軸受16,17の温度を検出する第1,第2の温度センサ42,43と、第1,第2の温度センサ42,43により検出された温度に基づいて第1,第2の軸受16,17の異常を判定する制御装置44と、を備えている。そして、第1,第2の温度センサ42,43は、スピンドル12の内周側に配置されている。
【0053】
この構成によれば、スピンドル12の外周面に取付けられた第1,第2の軸受16,17からの熱が、スピンドル12の外周面から内周側へと伝わる。これにより、第1,第2の軸受16,17に当接するように温度センサを設けることができない場合でも、スピンドル12の内周側に配置された第1,第2の温度センサ42,43によって第1,第2の軸受16,17の温度を正確に検出することができる。この結果、制御装置44は、第1,第2の温度センサ42,43により検出された温度に基づいて、第1,第2の軸受16,17の異常を的確に判定することができる。
【0054】
実施形態では、車輪取付筒18の内周側には減速機構21を潤滑する潤滑油Lが貯留され、潤滑油Lの液面は、回転軸14の軸中心A-Aよりも下側に配置され、第1,第2の温度センサ42,43は、回転軸14の軸中心A-Aよりも上側に配置されている。この構成によれば、減速機構21、第1,第2の軸受16,17等を潤滑することにより、潤滑油Lの温度が上昇したとしても、第1,第2の温度センサ42,43が潤滑油Lを被るのを防止することができる。この結果、第1,第2の温度センサ42,43によって検出される第1,第2の軸受16,17の温度が、潤滑油Lによって誤差を生じるのを抑え、正確な第1,第2の軸受16,17の温度を検出することができる。
【0055】
実施形態では、第1の温度センサ42は、スピンドル12のうち第1の軸受16の取付部位12Jに対応する内周面に取付けられ、第2の温度センサ43は、スピンドル12のうち第2の軸受17の取付部位12Kに対応する内周面に取付けられている。この構成によれば、第1の軸受16が発した熱は、スピンドル12の取付部位12Jを介して第1の温度センサ42に伝わり、第2の軸受17が発した熱は、スピンドル12の取付部位12Kを介して第2の温度センサ43に伝わる。この結果、第1,第2の軸受16,17に直接当接する温度センサを設けることができない場合でも、第1,第2の温度センサ42,43を用いて第1,第2の軸受16,17の温度を正確に検出することができる。
【0056】
次に、
図8および
図9は本発明の第2の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、制御装置が、第1の温度センサにより検出された温度と第2の温度センサにより検出された温度との温度差に基づいて、第1の軸受および第2の軸受の異常を判定することにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0057】
本実施形態による制御装置44は、異常判定部45により、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度T1と、第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTを算出する。そして、算出した温度差ΔTが、予め設定された温度差の閾値ΔTthよりも大きい場合には、第1の軸受16または第2の軸受17が異常を生じていると判定する構成となっている。
【0058】
本実施形態は、上述のごとき構成を有するもので、
図8に示すように、ダンプトラック1の稼働時間が増加することにより、特性線49で示す第1の軸受16の温度T1と、特性線50で示す第2の軸受17の温度T2とは、共に上昇していく。ここで、例えば第1の軸受16よりも第2の軸受17の回転が鈍くなった場合(第2の軸受17が異常を生じた場合)には、第1の軸受16の温度T1に比較して、第2の軸受17の温度T2が急激に増加する。これにより、時点t1において、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTが、温度差の閾値ΔTthよりも大きくなる。
【0059】
このように、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTが、温度差の閾値ΔTthよりも大きくなると、制御装置44は、第1の軸受16または第2の軸受17が異常を生じていると判定する。そして、制御装置44は、表示モニタ48による異常表示(
図6参照)を行い、ダンプトラック1を操縦するオペレータに対し、第1の軸受16または第2の軸受17に異常が生じていることを報知する。この結果、表示モニタ48の異常表示を確認したオペレータが、例えばダンプトラック1の走行速度を低下させてクーリング運転を実行することにより、第1,第2の軸受16,17の温度上昇を抑制することができる。
【0060】
次に、本実施形態において第1,第2の軸受16,17の異常を検出するために制御装置44が実行する制御処理について、
図9を参照して説明する。制御処理がスタートすると、制御装置44は、ステップS11において、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度T1、および第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度T2を読み込んだ後、ステップS12に移行する。
【0061】
ステップS12において、制御装置44は、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTを算出し、続くステップS13において、算出した温度差ΔTが、予め設定された温度差の閾値ΔTthよりも大きいか否か(ΔT>ΔTth)を判定する。ステップS13で「NO」と判定した場合には、ステップS11に戻る。ステップS13で「YES」と判定した場合、即ち、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTが、温度差の閾値ΔTthよりも大きいと判定した場合には、ステップS14に移行する。
【0062】
ステップS14において、制御装置44は車体制御部46に対し、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTが、温度差の閾値ΔTthを超えたことを示す異常検出信号を出力する。これにより、制御装置44(車体制御部46)は、キャブ5内に配置された表示モニタ48に対し、送信部47を介して異常情報を送信する。表示モニタ48は、
図6に示す異常表示を行い、ダンプトラック1を操縦するオペレータに対し、第1の軸受16または第2の軸受17に異常が生じていることを報知する。制御装置44は、ステップS14を実行した後、ステップS11に戻り、ステップS11以降の制御処理を繰り返す。
【0063】
なお、ステップS13において、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTが、予め設定された温度差の閾値ΔTthよりも大きいか否か(ΔT>ΔTth)を判定した後に、例えば温度T1が温度T2よりも大きい(T1>T2)か否かを判定しても良い。これにより、第1,第2の軸受16,17のどちらが異常を生じたのかを判定することができ、メンテナンスの対象を明確にすることができる。
【0064】
このように、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。この場合、本実施形態においては、制御装置44が、第1の軸受16の温度T1と第2の軸受17の温度T2との温度差ΔTが温度差の閾値ΔTthを超えたときに、第1の軸受16または第2の軸受17の異常を判定する構成としている。このため、例えばダンプトラック1の稼働時間が短く、第1,第2の軸受16,17の温度が比較的低い状態においても、第1,第2の軸受16,17の一方が異常を生じて温度が急激に上昇した場合には、温度差ΔTが閾値ΔTthを超えることになる。従って、第1,第2の軸受16,17の一方が異常を生じていることを、制御装置44によって早期に判定することができる。この結果、第1の軸受16および第2の軸受17に対する点検・保守等を早期に行うことができ、第1,第2の軸受16,17の故障を防止し、これらの寿命を延ばすことができる。
【0065】
次に、
図10ないし
図13は本発明の第3の実施形態を示している。本実施形態の特徴は、第3の軸受の温度を検出する第3の温度センサと、第4の軸受の温度を検出する第4の温度センサが設けられ、制御装置は、第1,第2,第3,第4の温度センサにより検出された温度に基づいて第1,第2,第3,第4の軸受の異常を判定することにある。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略する。
【0066】
第3の温度センサ51は、第3の軸受41を保持するリテーナ40に取付けられている。第3の温度センサ51は、リテーナ40の鍔部40Bのうち第3の軸受41の取付面とは反対側の面であるセンサ取付面40Cに取付けられ、第3の軸受41の温度を検出する。第3の温度センサ51は、回転軸14の軸中心A-Aよりも上側に配置され、潤滑油Lを被らないようになっている。第3の温度センサ51に接続されたケーブル51Aは、スピンドル12の内周側を通ってアクスルハウジング10の外部へと導出され、制御装置44の入力側に接続される。
【0067】
第4の温度センサ52は、2段目の遊星歯車減速機構29を構成する2段目のキャリア33に取付けられている。遊星歯車減速機構29を構成する複数の遊星歯車31は、キャリア33に取付けられた支持ピン34に対し、第4の軸受53を介して回転可能に支持されている。第4の温度センサ52は、キャリア33のうち第4の軸受53の取付部位33Bに隣接した部位に取付けられ、第4の軸受53の温度を検出する。第4の温度センサ52は、回転軸14の軸中心A-Aよりも上側に配置され、潤滑油Lを被らないようになっている。第4の温度センサ52に接続されたケーブル52Aは、キャリア33の筒状突出部33Aおよびスピンドル12の内周側を通ってアクスルハウジング10の外部へと導出され、制御装置44の入力側に接続される。
【0068】
制御装置44は、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度、第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度、第3の温度センサ51によって検出された第3の軸受41の温度、第4の温度センサ52によって検出された第4の軸受53の温度を常に監視し、異常判定部45において、第1,第2,第3,第4の軸受16,17,41,53の異常を判定する。具体的には、制御装置44は、第1,第2,第3,第4の軸受16,17,41,53のうちいずれか一つの軸受の温度が、予め設定された閾値よりも大きく、かつ、第1,第2,第3,第4の軸受16,17,41,53のうちいずれか一つの軸受の温度と他の三つの軸受の温度の平均値との温度差が予め設定された温度差の閾値よりも大きい場合に、前記一つの軸受が異常を生じていると判定する。この判定は、ダンプトラック1が稼働している間、第1,第2,第3,第4の軸受16,17,41,53に対し、順番に繰返して行われる構成となっている。
【0069】
本実施形態は上述のごとき構成を有するもので、次に、制御装置44が、第4の軸受53の異常を判定する場合について説明する。
図12に示すように、ダンプトラック1の稼働時間が増加することにより、特性線54で示す第1の軸受16の温度T1、特性線55で示す第2の軸受17の温度T2、特性線56で示す第3の軸受41の温度T3、特性線57で示す第4の軸受53の温度T4は、共に上昇していく。ここで、例えば第4の軸受53の回転が鈍くなった場合(第4の軸受53が異常を生じた場合)には、第1,第2,第3の軸受16,17,41の温度T1,T2,T3に比較して、第4の軸受53の温度T4が急激に増加する。
【0070】
制御装置44は、第4の軸受53の温度T4と予め設定された閾値Tth2とを比較すると共に、第1,第2,第3の軸受16,17,41の温度T1,T2,T3の平均値Tave(
図12中の特性線58)を算出し、この平均値Taveと第4の軸受53の温度T4との温度差ΔT2と予め設定された温度差の閾値ΔTth2とを比較する。そして、制御装置44は、時点t2において第4の軸受53の温度T4が閾値Tth2よりも大きくなり、かつ、温度T1,T2,T3の平均値Taveと第4の軸受53の温度T4との温度差ΔT2が、時点t3において温度差の閾値ΔTth2よりも大きくなった場合には、第4の軸受53が異常を生じていると判定する。これにより、制御装置44は、表示モニタ48による異常表示を行い、ダンプトラック1を操縦するオペレータに対し、第4の軸受53に異常が生じていることを報知する。
【0071】
次に、本実施形態において第4の軸受53の異常を検出するために制御装置44が実行する制御処理について、
図13を参照して説明する。制御処理がスタートすると、制御装置44は、ステップS21において、第1の温度センサ42によって検出された第1の軸受16の温度T1、第2の温度センサ43によって検出された第2の軸受17の温度T2、第3の温度センサ51によって検出された第3の軸受41の温度T3、第4の温度センサ52によって検出された第4の軸受53の温度T4を読み込んだ後、ステップS22に移行する。
【0072】
ステップS22において、制御装置44は、第4の軸受53の温度T4が、予め設定された閾値Tth2よりも大きいか否か(T4>Tth2)を判定する。ステップS22で「NO」と判定した場合には、ステップS21に戻る。ステップS22で「YES」と判定した場合、即ち、第4の軸受53の温度T4が閾値Tth2よりも大きいと判定した場合には、ステップS23に移行する。ステップS23において、制御装置44は、第1,第2,第3の軸受16,17,41の温度T1,T2,T3の平均値Taveを算出した後、ステップS24に移行し、算出した平均値Taveと第4の軸受53の温度T4との温度差ΔT2を算出する。
【0073】
続くステップS25において、制御装置44は、算出した温度差ΔT2が、予め設定された温度差の閾値ΔTth2よりも大きいか否か(ΔT2>ΔTth2)を判定する。ステップS25で「NO」と判定した場合には、ステップS21に戻る。ステップS25で「YES」と判定した場合、即ち、温度T1,T2,T3の平均値Taveと第4の軸受53の温度T4との温度差ΔT2が、温度差の閾値ΔTth2よりも大きいと判定した場合には、ステップS26に移行する。そして、制御装置44は、ステップS26において、車体制御部46に対し、第4の軸受53が異常を生じていることを示す異常検出信号を出力する。これにより、表示モニタ48は、
図6に示す異常表示を行い、ダンプトラック1を操縦するオペレータに対し、第4の軸受53に異常が生じていることを報知する。制御装置44は、ステップS26を実行した後、ステップS21に戻り、ステップS21以降の制御処理を繰り返す。
【0074】
かくして、制御装置44は、第4の軸受53の異常検出に関する制御処理を実行し、これと同様に、第1の軸受16、第2の軸受17、第3の軸受41の異常を検出するための制御処理も順次実行する。これにより、ダンプトラック1の稼働時には、制御装置44により、第1,第2,第3,第4の軸受16,17,41,53の異常を常に監視し、異常が生じたときには直ちに表示モニタ48によってオペレータに報知することができる。
【0075】
このように、本実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。この場合、本実施形態においては、第4の軸受53の温度T4が閾値Tth2よりも大きくなり、かつ、温度T1,T2,T3の平均値Taveと第4の軸受53の温度T4との温度差ΔT2が、温度差の閾値ΔTth2よりも大きくなった場合に、第4の軸受53が異常を生じていると判定する。このため、例えば軸受の異常を早い段階で見つけるために閾値Tth2の温度が低く設定されている場合に、第4の軸受53の温度T4が閾値Tth2よりも大きくなったとしても、温度T1,T2,T3の平均値Taveと第4の軸受53の温度T4との温度差ΔT2が、温度差の閾値ΔTth2以下であれば、第4の軸受53の温度T4のみが突出して上昇している状態ではないと判定できる。この結果、閾値Tth2の温度が低く設定されている場合においても、第4の軸受53に対する異常判定の正確性を高めることができる。
【0076】
なお、実施形態では、後輪駆動式のダンプトラック1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば前輪駆動式または前,後輪を共に駆動する4輪駆動式のダンプトラックに適用してもよい。
【符号の説明】
【0077】
1 ダンプトラック
2 車体
7 後輪(車輪)
12 スピンドル
12J,12K 取付部位
13 走行用モータ(駆動源)
14 回転軸
16 第1の軸受
17 第2の軸受
18 車輪取付筒
21 減速機構
31 遊星歯車
33 キャリア
33B 取付部位
40 リテーナ(軸受取付部材)
41 第3の軸受
42 第1の温度センサ
43 第2の温度センサ
44 制御装置
51 第3の温度センサ
52 第4の温度センサ
53 第4の軸受