(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140497
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】成形体の製造方法、光透過性樹脂組成物を得るための組成物のセット、光透過性樹脂組成物及びキット
(51)【国際特許分類】
C08J 5/00 20060101AFI20241003BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20241003BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20241003BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20241003BHJP
C08G 69/26 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
C08J5/00 CFG
C08L77/00
C08K7/02
C08K5/00
C08G69/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051658
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 浩平
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 功
【テーマコード(参考)】
4F071
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA55
4F071AA84
4F071AA88
4F071AB28
4F071AC19
4F071AD01
4F071AE09
4F071AE17
4F071AF30Y
4F071AH19
4F071BA01
4F071BB05
4F071BC01
4F071BC03
4F071BC12
4J001DA01
4J001DB03
4J001EB08
4J001EB09
4J001EB14
4J001EB35
4J001EB36
4J001EB37
4J001EB46
4J001EC08
4J001EC09
4J001EC14
4J001EC16
4J001EE28C
4J001EE74D
4J001FA01
4J001FB03
4J001FB05
4J001FB06
4J001FC03
4J001FC05
4J001GA12
4J001JA01
4J001JB06
4J002CL031
4J002DL006
4J002EA067
4J002EE057
4J002EL087
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD097
(57)【要約】
【課題】耐熱性を有しつつ、変色が抑制された成形体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の成形体の製造方法は、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを溶融混練して、ポリアミド樹脂組成物を得る工程と、前記ポリアミド樹脂組成物と、光透過性色素(C)とをドライブレンドして、光透過性樹脂組成物を得る工程と、前記光透過性樹脂組成物を成形する工程とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットを準備する工程と、
前記ポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)とをドライブレンドして、光透過性樹脂組成物を得る工程と、
前記光透過性樹脂組成物を成形する工程と、
を含む、
成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂組成物のペレットを準備する工程では、
前記ポリアミド樹脂(A)と前記繊維状充填材(B)とを溶融混練して、前記ペレットを得る、
請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)と、ジアミンに由来する構成単位(Ab)とを含み、
前記ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)は、前記ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)の総モル数に対して、テレフタル酸に由来する構成単位を50モル%以上含み、
前記ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、炭素数4以上15以下の脂肪族ジアミンに由来する構成単位と炭素数4以上20以下の脂環族ジアミンに由来する構成単位の少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項4】
前記ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、前記ジアミンに由来する構成単位(Ab)の総モル数に対して、炭素数4以上15以下の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する構成単位を50モル%超含む、
請求項3に記載の成形体の製造方法。
【請求項5】
前記光透過性樹脂組成物を得る工程では、
前記ポリアミド樹脂組成物と、前記光透過性色素(C)及び融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)を含むマスターバッチと、をドライブレンドする、
請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項6】
前記光透過性色素(C)は、波長800nm以上1064nm以下の範囲に吸収波長の極大値を有しない色素を含む、
請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項7】
前記波長800nm以上1064nm以下の範囲に吸収波長の極大値を有しない色素は、ペリレン誘導体、ピラゾロン誘導体、ペリノン誘導体、及びアントラキノン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、
請求項6に記載の成形体の製造方法。
【請求項8】
前記光透過性樹脂組成物における前記光透過性色素(C)の含有量は、前記光透過性樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下である、
請求項1に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
光透過性樹脂組成物を得るための組成物のセットであって、
示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットと、
光透過性色素(C)と、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)とを含むマスターバッチと、
を含む、
セット。
【請求項10】
示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットと、
光透過性色素(C)と、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)とを含むマスターバッチと、
のドライブレンド物を含む、
光透過性樹脂組成物。
【請求項11】
レーザー溶着体を得るためのキットであって、
請求項9に記載のセット、又は、請求項10に記載の光透過性樹脂組成物と、
熱可塑性樹脂と、光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物と、
を含む、
キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体の製造方法、光透過性樹脂組成物を得るための組成物のセット、光透過性樹脂組成物及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂部材同士を接合する方法の一つとして、レーザー溶着法が知られている。レーザー溶着法では、レーザー光を透過する透過材と、レーザー光を吸収する吸収材とを重ね合わせて、透過材を介してレーザー光を照射する。そして、吸収材でレーザー光を吸収、発熱させ、透過材・吸収材の界面の樹脂を溶融させて、透過材と吸収材を接着させる。この方法では、ボルトでの固定と比べて部品数を削減でき、軽量化できることや、振動溶着と比べてバリが発生しないことが利点として挙げられる。
【0003】
レーザー溶着法により溶着される透過材としては、特許文献1では、熱可塑性樹脂と、特定の金属アゾ錯体染料を有する黒色着色剤と、を含む熱可塑性樹脂組成物が開示されている。この文献の実施例では、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6が使用されている。しかしながら、ポリアミド6のような脂肪族ポリアミドは耐熱性が十分ではないことから、半芳香族ポリアミドの使用が検討されている。
【0004】
特許文献2には、融点が300℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、光透過性色素(C)と、繊維状充填材(D)とを含み、補正融解熱量(ΔHR)が10J/g以上70J/g以下に調整されたポリアミド樹脂組成物が開示されている。融点が300℃以上であるポリアミド樹脂(A)として、半芳香族ポリアミドが使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003-522269号公報
【特許文献2】国際公開第2019/160117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの透過材(成形体)は、通常、ポリアミド樹脂と、光透過性色素とを、押出機等の成形機で溶融混練してペレットとした後、当該ペレットを用いて射出成型機等の成形機で成形することによって製造される。このうち、成形体を成形する工程では、成形機のメンテナンス等のために、製造途中で成形機の運転を一旦停止させた後、運転を再開させる場合がある。
【0007】
しかしながら、融点が310℃以上のポリアミド樹脂を用いた場合、成形機での滞留時間が長くなると、ポリアミド樹脂組成物の色が変色しやすく、成形体の色味が損なわれることがあった。このような現象は、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂を用いた場合にはみられず、融点が310℃以上のポリアミド樹脂を用いた場合に特有のものであった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐熱性を有しつつ、変色が抑制された成形体の製造方法、光透過性樹脂組成物を得るための組成物のセット、光透過性樹脂組成物及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1] 示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットを準備する工程と、前記ポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)とをドライブレンドして、光透過性樹脂組成物を得る工程と、前記光透過性樹脂組成物を成形する工程と、を含む、成形体の製造方法。
[2] 前記ポリアミド樹脂組成物のペレットを準備する工程では、前記ポリアミド樹脂(A)と前記繊維状充填材(B)とを溶融混練して、前記ペレットを得る、[1]に記載の成形体の製造方法。
[3] 前記ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)と、ジアミンに由来する構成単位(Ab)とを含み、前記ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)は、前記ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)の総モル数に対して、テレフタル酸に由来する構成単位を50モル%以上含み、前記ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、炭素数4以上15以下の脂肪族ジアミンに由来する構成単位と炭素数4以上20以下の脂環族ジアミンに由来する構成単位の少なくとも一方を含む、[1]又は[2]に記載の成形体の製造方法。
[4] 前記ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、前記ジアミンに由来する構成単位(Ab)の総モル数に対して、炭素数4以上15以下の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する構成単位を50モル%超含む、[3]に記載の成形体の製造方法。
[5] 前記光透過性樹脂組成物を得る工程では、前記ポリアミド樹脂組成物と、前記光透過性色素(C)及び融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)を含むマスターバッチと、をドライブレンドする、[1]~[4]のいずれかに記載の成形体の製造方法。
[6] 前記光透過性色素(C)は、波長800nm以上1064nm以下の範囲に吸収波長の極大値を有しない色素を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の成形体の製造方法。
[7] 前記波長800nm以上1064nm以下の範囲に吸収波長の極大値を有しない色素は、ペリレン誘導体、ピラゾロン誘導体、ペリノン誘導体、及びアントラキノン誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[6]に記載の成形体の製造方法。
[8] 前記光透過性樹脂組成物における前記光透過性色素(C)の含有量は、前記光透過性樹脂組成物100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の成形体の製造方法。
[9] 光透過性樹脂組成物を得るための組成物のセットであって、示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)と、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)とを含むマスターバッチと、を含む、セット。
[10] 示差走査熱量計(DSC)により測定される融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)と、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)とを含むマスターバッチと、のドライブレンド物を含む、光透過性樹脂組成物。
[11] レーザー溶着体を得るためのキットであって、[9]に記載のセット、又は、[10]に記載の光透過性樹脂組成物と、熱可塑性樹脂と光吸収性色素とを含む光吸収性樹脂組成物と、を含む、キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性を有しつつ、変色が抑制された成形体の製造方法、組成物セット、光透過性樹脂組成物及びキットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上述の通り、融点が310℃以上のポリアミド樹脂と光透過性色素を溶融混練したポリアミド樹脂組成物のペレットを用いて成形機で成形体を製造する際に、成形機での滞留時間が長くなると、ポリアミド樹脂組成物の色が変色し、成形体の色味が損なわれることがあった。
【0012】
このような現象が起きる理由は明らかではないが、以下のように推測される。融点が310℃以上のポリアミド樹脂を溶融させるには、高温で加熱する必要がある。そのような高温に光透過性色素が曝されると、光透過性色素に含まれる芳香環や共役系の部分において、高温下での熱劣化や酸化劣化により構造が変化し、吸収波長が変化する。このような変化は、高温に曝された時間が長くなればなるほど(熱履歴が長くなるほど)進行していき、その時間がある時間を超えて長時間になると構造の変化や吸収波長の変化が顕著になる。それにより、特定波長での透過率の低下や変色が発生すると考えられる。
【0013】
これに対し、本発明では、ポリアミド樹脂と光透過性色素を溶融混練したペレットを成形材料とするのではなく、ポリアミド樹脂を加熱溶融したペレットと、光透過性色素とをドライブレンド(非溶融混合)したブレンド物を成形材料とする。これにより、射出成形等の成形工程においてはポリアミド樹脂を溶融する必要があるため、光透過性色素が高温に曝されることは避けられないが、それよりも前の工程において光透過性色素が高温に曝される時間をできるだけ短くする。それにより、光透過性色素が長時間、高温に曝されないようにしうるため、光透過性色素の構造の変化に伴う吸収波長の変化を抑制しうる。その結果、得られる成形体の変色(色味の悪化)を抑制できる。
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る成形体の製造方法及びそれに用いられる成形材料について具体的に説明する。
【0015】
1.成形体の製造方法
本発明の一実施形態に係る成形体の製造方法は、
1)融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットを準備する工程、
2)当該ポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)とをドライブレンドして、光透過性樹脂組成物を得る工程、
3)光透過性樹脂組成物を成形して、成形体を得る工程、
を含む。
【0016】
1-1.ポリアミド樹脂組成物のペレットを準備する工程
ポリアミド樹脂組成物のペレットは、市販品を用いてもよいし、製造してもよい。本実施形態では、ポリアミド樹脂組成物のペレットは、融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを溶融混練した後、造粒又は粉砕して得ることができる。ポリアミド樹脂組成物のペレットに含まれる各成分については、後で詳細に説明する。
【0017】
溶融混練は、公知の方法、例えば押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等により加熱溶融する方法により行うことができる。溶融混練する前に、必要に応じてタンブラーやスーパーミキサー等の混合機による混合を行ってもよい。
【0018】
溶融混練する時の溶融温度は、ポリアミド樹脂(A)が分解しない程度に十分に溶融しうる温度であればよいが、例えばポリアミド樹脂(A)の融点をTm(℃)としたとき、(Tm+5)℃以上(Tm+25)℃以下でありうる。
【0019】
次いで、得られた溶融混練物を造粒又は粉砕して、ポリアミド樹脂組成物のペレットを得ることができる。ペレットの大きさは、特に制限されないが、例えばノギスで測定したときの最長部が0.05mm以上10mm以下程度でありうる。
【0020】
1-2.ドライブレンドする工程
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)とをドライブレンドして、光透過性樹脂組成物を得る。なお、本明細書における「ドライブレンド」とは、ポリアミド樹脂組成物のペレットと光透過性色素(C)とを、固相状態で混合することを指す。より具体的には、ポリアミド樹脂組成物のペレットに含まれるポリアミド樹脂(A)の融点未満の温度で、ポリアミド樹脂(A)が溶融しないように、ポリアミド樹脂組成物のペレットと光透過性色素(C)とを混合することを指す。
【0021】
(光透過性色素(C))
光透過性色素(C)は、レーザー溶着で使用する特定の波長のレーザー光に対する透過率の低下を抑制しつつ、ポリアミド樹脂組成物を着色するための成分である。即ち、光透過性色素(C)は、レーザー溶着で使用する特定の波長のレーザー光に対する透過性を有する色素であり、具体的には、波長800nm以上1064nm以下の範囲に吸収波長の極大値を有しない色素である。
【0022】
光透過性色素(C)は、ナフタロシアニン及びその誘導体、フタロシアニン及びその誘導体、ポルフィリン及びその誘導体、ペリノン及びその誘導体、クオテリレン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、ピラゾロン及びその誘導体、ペリレン及びその誘導体、クロム錯体、スクエア酸及びその誘導体、アニリンブラック、アゾ染料、及びインモニウム染料を含むことが好ましい。レーザー光に対する透過性及び着色性の両立の観点から、光透過性色素(C)は、ペリレン誘導体、ピラゾロン誘導体、ペリノン誘導体、及びアントラキノン誘導体の少なくとも1種を含むことが好ましく、ペリレン誘導体、及びアントラキノン誘導体の少なくとも1種を含むことがより好ましく、アントラキノン誘導体を含むことが特に好ましい。
【0023】
光透過性色素(C)は、黒色色素であることが好ましい。光透過性色素(C)が黒色色素である場合、有彩色色素を2種類以上混ぜて黒色色素としたものを用いてもよい。
【0024】
光透過性色素(C)の市販品の例には、オリヱント化学工業社製の着色剤であるeBind ACW-9871、e-BIND LTW-8731H、e-BIND LTW-8701H等が例示される。
【0025】
ドライブレンドされる光透過性色素(C)の量は、得られる光透過性樹脂組成物の波長940nmの光の透過率が所定以上となり、且つ、光透過性樹脂組成物が所望の色味を呈するように設定されればよく、光透過性樹脂組成物における光透過性色素(C)の含有量が後述する範囲となるような量であればよい。
【0026】
(ドライブレンド)
上記1)の工程で得られたポリアミド樹脂組成物のペレットに、光透過性色素(C)を直接ドライブレンドしてもよいし、光透過性色素(C)を含むマスターバッチをドライブレンドしてもよい。中でも、ポリアミド樹脂組成物への光透過性色素(C)の分散性をより高める観点から、光透過性色素(C)を含むマスターバッチをドライブレンドすることが好ましい。マスターバッチの構成については、後で詳細に説明する。
【0027】
ドライブレンドは、加熱溶融を伴わない乾式混合であればよい。ドライブレンドは、公知の混合手段、例えばタンブラーやスーパーミキサー等の混合機を用いて行うことができる。なお、ドライブレンドにおいて加熱を行ってもよい。ポリアミド樹脂(A)の融点をTm(℃)としたとき、ドライブレンド工程におけるポリアミド樹脂組成物のペレットと光透過性色素(C)とを含む混合物の温度は、0℃以上(Tm-50)℃以下とすることが好ましく、0℃以上(Tm-100)℃以下とすることがより好ましく、0℃以上(Tm-200)℃以下とすることがさらに好ましく、0℃以上(Tm-250)℃以下とすることが特に好ましい。
【0028】
(光透過性樹脂組成物)
上記ドライブレンドにより、ポリアミド樹脂(A)、繊維状充填材(B)及び光透過性色素(C)を含む光透過性樹脂組成物が得られる。
【0029】
光透過性樹脂組成物における、ポリアミド樹脂(A)の含有量は、光透過性樹脂組成物100質量部に対して45質量部以上85質量部以下であることが好ましく、55質量部以上75質量部以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の上記含有量が45質量部以上であると、成形加工時の成形性をより確保しやすい。ポリアミド樹脂(A)の含有量が90質量部以下であると、例えば繊維状充填材(B)の相対的な量が多くなるため、成形体の機械的強度をより高めやすい。
【0030】
光透過性樹脂組成物における、繊維状充填材(B)の含有量は、光透過性樹脂組成物100質量部に対して10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。繊維状充填材(B)の上記含有量が10質量部以上であると、成形体の機械的強度をより高めやすい。繊維状充填材(B)の上記含有量が50質量部以下であると、成形体のレーザー光の透過性をより損なわれにくくし、それによる溶着強度の低下や成形時の過度な粘度上昇もより生じにくくしうる。繊維状充填材(B)の上記含有量は、25質量部以上45質量部以下であることがより好ましい。
【0031】
光透過性樹脂組成物における、光透過性色素(C)の含有量は、得られる光透過性樹脂組成物の波長940nmの光の透過率が所定以上となるように設定されればよい。具体的には、光透過性色素(C)の含有量は、光透過性樹脂組成物100質量部に対して、0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましい。光透過性色素(C)の上記含有量が0.1質量部以上であると、より着色しやすいため、意匠性をより高めやすく、5質量部以下であると、レーザー光の透過率の顕著な低下やそれによる溶着強度の顕著な低下をより抑制しうる。光透過性色素(C)の上記含有量は、0.1質量部以上4質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以上3質量部以下であることがより好ましい。
【0032】
光透過性樹脂組成物は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、ポリアミド樹脂(A)以外の他の重合体、例えば融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)や、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(D)以外の他のポリアミド樹脂が含まれる。なお、上述のポリアミド樹脂組成物のペレットが、ポリアミド樹脂(A)以外の他の重合体を含んでいてもよく、ポリアミド樹脂(D)や、上記他のポリアミド樹脂を含んでいてもよい。ポリアミド樹脂(D)は、後述するマスターバッチに含まれるキャリアレジンであり、それについては後で詳細に説明する。
【0033】
光透過性樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(D)の含有量は、ポリアミド樹脂(A)とポリアミド樹脂(D)の合計100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることがより好ましい。
【0034】
他の成分の合計量は、光透過性樹脂組成物100質量部に対して5質量%以下であることが好ましく、0.4質量部以2質量部以下としうる。
【0035】
光透過性樹脂組成物は、レーザー溶着の際に使用する特定の波長のレーザー光の透過率が高い成形体を付与しうる。光透過性樹脂組成物を、厚み0.7mmの成形体としたときの、当該成形体の波長940nmのレーザー光の透過率は50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。これらの波長940nmのレーザー光の透過率の上限値は特に制限されないが、例えば90%であってもよい。成形体のレーザー光の透過率は、オフィール社製パワーメータF300-SHにより、試料を透過させた場合と透過させない場合のレーザー光強度を比較することで測定することができる。
【0036】
波長940nmのレーザー光の透過率は、例えば光透過性色素(C)の種類や含有量によって調整することができる。例えば、光透過性色素(C)の含有量を少なくすると、波長940nmのレーザー光の透過率が高くなりやすい。
【0037】
1-3.成形する工程
得られた光透過性樹脂組成物を成形して、成形体を得る。
【0038】
成形方法は、特に制限されず、公知の成形方法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形等の成形方法を適用することができる。中でも、流動性が良好である観点から、射出成形が好ましい。射出成形法では、樹脂温度を250℃以上300℃以下に調整することが好ましい。
【0039】
1-4.成形体
上記光透過性樹脂組成物を成形して得られる成形体は、レーザー光に対する高い透過性を有する。そのため、上記成形体は、レーザー溶着方法において、レーザー光を透過させる光透過性樹脂部材として好ましく用いることができる。
【0040】
2.成形材料
上記成形体の製造方法に用いられる成形材料としては、ポリアミド樹脂(A)と繊維状充填材(B)とを含むポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)を含むマスターバッチと、を組み合わせた組成物のセットを用いてもよいし;上記ポリアミド樹脂組成物のペレットとマスターバッチとが所定の比率で予めドライブレンドされた光透過性樹脂組成物を用いてもよい。
【0041】
2-1.組成物のセット
上記組成物のセットは、ポリアミド樹脂組成物のペレットと、マスターバッチとを含む。
【0042】
ポリアミド樹脂組成物のペレットは、上述の通り、ポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)と、必要に応じて他の成分とを溶融混練して得られるペレット(ナチュラルペレット)であり、光透過性色素(C)を実質的に含まない。光透過性色素(C)を実質的に含まないとは、光透過性色素(C)の含有量が0.05質量%以下、好ましくは0質量%であることをいう。マスターバッチは、光透過性色素(C)を含む着色剤組成物である。そして、上記成形体の製造方法の2)の工程において、ポリアミド樹脂組成物のペレットと、マスターバッチとをドライブレンドして、光透過性樹脂組成物を得ることができる。これらのブレンド比率を調整することで、任意のレーザー光の透過率を有する光透過性樹脂組成物を調製することができる。以下、各組成物について説明する。また、ポリアミド樹脂組成物のペレットを、単に「ポリアミド樹脂組成物」ともいう。
【0043】
2-1-1.ポリアミド樹脂組成物のペレット
ポリアミド樹脂組成物のペレットは、融点が310℃以上であるポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)とを含む。
【0044】
(ポリアミド樹脂(A))
ポリアミド樹脂(A)の、示唆走査熱量計(DSC)により測定される融点(Tm)は、310℃以上であり、好ましくは310℃以上340℃以下であり、より好ましくは310℃以上330℃以下である。ポリアミド樹脂(A)の融点が310℃以上であると、ポリアミド樹脂組成物の耐熱性及び強度を高めることができる。また、融点が340℃以下であると、ポリアミド樹脂組成物の溶融成形時にポリマーや各種添加剤の熱分解が生じることをより抑制することができる。
【0045】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)は、例えば、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて測定することができる。具体的には、約5mgのポリアミド樹脂(A)を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱する。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持し、次いで、10℃/minで30℃まで冷却する。30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行う。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)を融点(Tm)とする。また、ガラス転移に相当する変位点をガラス転移温度(Tg)とする。
【0046】
ポリアミド樹脂(A)の融点(Tm)は、当該ポリアミド樹脂の組成を調整することによって、上記範囲にすることができる。例えば、後述するテレフタル酸に由来する構成単位の含有比率を多くすることによって、融点(Tm)を高めることができる。
【0047】
ポリアミド樹脂(A)の示差走査熱量測定(DSC)により測定される融解熱量(ΔH)は、5J/g超であることが好ましい。融解熱量は、樹脂の結晶性の指標であり、融解熱量が大きいほど、結晶性が高いことを示す。ポリアミド樹脂(A)の融解熱量(ΔH)が5J/gを超えると、結晶性がより高いため、成形体の強度を一層高めうる。
【0048】
融解熱量(ΔH)は、JIS K7122:2012に準じて、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求められる値である。
【0049】
ポリアミド樹脂(A)は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)と、ジアミンに由来する構成単位(Ab)とを含むことが好ましい。
【0050】
(ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa))
ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)の総モル数に対して、40モル%以上の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位の含有量が40モル%以上であると、ポリアミド樹脂の結晶性をより高めうるため、得られる成形体の耐熱性や機械的強度(引張強度)、耐水性をより高めうる。同様の観点から、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)の総モル数に対して60モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であることが特に好ましい。
【0051】
ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)は、芳香族ジカルボン酸として少なくともテレフタル酸に由来する構成単位を含むことが好ましい。テレフタル酸に由来する構成単位を含むポリアミド樹脂(A)は結晶性が高いため、成形体の耐熱性や機械的強度、耐水性をより高めうる。テレフタル酸の例には、テレフタル酸、テレフタル酸エステル等が含まれる。
【0052】
テレフタル酸に由来する構成単位の含有量は、ポリアミド樹脂(A)中のジカルボン酸に由来する成分の総モル数(Aa)に対して50モル%以上であることが好ましく、55モル%以上95モル%以下であることがより好ましく、60モル%以上80モル%以下であることがさらに好ましい。テレフタル酸に由来する構成単位の含有量が50モル%以上であると、ポリアミド樹脂(A)の結晶性をより高くすることができる。
【0053】
ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他のジカルボン酸に由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。他のジカルボン酸は、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂環族ジカルボン酸でありうる。
【0054】
テレフタル酸以外の芳香族カルボン酸の例には、イソフタル酸、2-メチルテレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等が含まれる。これらの中でも、イソフタル酸が好ましい。
【0055】
脂肪族ジカルボン酸は、炭素数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸であり、上記炭素数は6以上12以下であることが好ましい。そのような脂肪族ジカルボン酸の例には、アジピン酸、アゼライン酸及びセバシン酸が含まれる。これらの中でも、アジピン酸及びセバシン酸が好ましい。
【0056】
脂環族ジカルボン酸の例には、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸等が含まれる。
【0057】
これらのうち、他のジカルボン酸は、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸が好ましく、イソフタル酸がより好ましい。
【0058】
他のジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Aa)の総モル数に対して、例えば50モル%以下であり、5モル%以上45モル%以下であることがより好ましく、20モル%以上40モル%以下であることがさらに好ましい。例えば、イソフタル酸等の、テレフタル酸以外の芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位を上述の含有量で含むことで、ポリアミド樹脂(A)の過度な結晶化を抑制し、結晶部を溶融させるのに必要なエネルギーを低減しうる。
【0059】
(ジアミンに由来する構成単位(Ab))
ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、炭素数4以上15以下の脂肪族ジアミンに由来する構成単位と炭素数4以上20以下の脂環族ジアミンに由来する構成単位の少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0060】
炭素数4以上15以下の脂肪族ジアミンは、炭素数4以上15以下の直鎖状脂肪族ジアミンを含むことが好ましい。炭素数4以上15以下の直鎖状脂肪族ジアミンは、好ましくは炭素数4以上8以下、より好ましくは6以上8以下の直鎖状脂肪族ジアミンでありうる。炭素数4以上15以下の直鎖状の脂肪族ジアミンの例には、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が含まれる。これらの中でも、1,6-ジアミノヘキサン、1,9-ノナンジアミン及び1,10-ジアミノデカンが好ましく、1,6-ジアミノヘキサンがより好ましい。
【0061】
炭素数4以上20以下の脂環族ジアミンの例には、1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、4,4'-ジアミノ-3,3'-ジメチルジシクロヘキシルメタン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナン及び2,6-ビスアミノメチルノルボルナンが好ましく;1,3-ジアミノシクロヘキサン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、1,3-ビス(アミノシクロヘキシル)メタン、2,5-ビスアミノメチルノルボルナン、2,6-ビスアミノメチルノルボルナンが含まれる。
【0062】
このうち、ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、炭素数4以上15以下の直鎖状の脂肪族ジアミンに由来する構成単位を含むことが好ましい。
【0063】
炭素数4以上15以下の脂肪族ジアミンに由来する構成単位と炭素数4以上20以下の脂環族ジアミンに由来する構成単位の合計量(好ましくは炭素数4以上15以下の直鎖状脂肪族ジアミンに由来する構成単位の含有量)は、ジアミンに由来する構成単位(Ab)の合計量に対して50モル%超であることが好ましく、60モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。上記合計量が50モル%超であると、得られる成形体の耐熱性や機械的強度、耐水性がより高まりやすい。
【0064】
ジアミンに由来する構成単位(Ab)は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の他のジアミンに由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のジアミンの例には、芳香族ジアミンが含まれる。他のジアミンに由来する構成単位の含有量は、ジアミンに由来する構成単位(Ab)の総モル数に対して、50モル%未満、好ましくは40モル%以下、より好ましくは10モル%以下としうる。
【0065】
ポリアミド樹脂(A)の各構成単位及びその比率は、ポリアミド樹脂(A)の調製時の仕込み比から算出するか、又は、NMR法で測定することができる。
【0066】
1H-NMR測定の場合、例えば、核磁気共鳴装置(日本電子(株)製 ECX400型)を用い、溶媒は重水素化オルトジクロロベンゼンとし、試料濃度は20mg/0.6mL、測定温度は120℃、観測核は1H(400MHz)、シーケンスはシングルパルス、パルス幅は5.12μ秒(45°パルス)、繰り返し時間は7.0秒、積算回数は500回以上とする条件である。基準のケミカルシフトは、テトラメチルシランの水素を0ppmとするが、他にも、重水素化オルトジクロロベンゼンの残存水素由来のピークを7.10ppmとしてケミカルシフトの基準値とすることでも同様の結果を得ることができる。官能基含有化合物由来の1H等のピークは、常法によりアサインしうる。
【0067】
13C-NMR測定の場合、例えば、測定装置として核磁気共鳴装置(日本電子(株)製ECP500型)を用い、溶媒としてオルトジクロロベンゼン/重ベンゼン(80/20容量%)混合溶媒、測定温度は120℃、観測核は13C(125MHz)、シングルパルスプロトンデカップリング、45°パルス、繰り返し時間は5.5秒、積算回数は1万回以上、27.50ppmをケミカルシフトの基準値とする条件である。各種シグナルのアサインは常法を基にして行い、シグナル強度の積算値を基に定量を行うことができる。
【0068】
ポリアミド樹脂(A)の具体例には、ポリアミド6T/6I(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー)や;ポリアミド6T/66(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンアジパミドコポリマー)等が含まれる。ポリアミド樹脂(A)は、1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0069】
ポリアミド樹脂(A)の、濃硫酸中25℃の温度で測定される極限粘度[η]は、0.70dl/g以上1.60dl/g以下であることが好ましく、0.80dl/g以上1.20dl/g以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]が0.70dl/g以上であると、成形体の機械的強度をより高めうる。極限粘度[η]が1.60dl/g以下であると、ポリアミド樹脂組成物の成形時の流動性が損なわれにくい。
【0070】
ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は、以下のようにして測定することができる。ポリアミド樹脂(A)0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させて、試料溶液とする。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、下記式に基づき算出する。
[η]=ηSP/(C*(1+0.205ηSP))
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0071】
ポリアミド樹脂(A)は、公知のポリアミド樹脂と同様の方法で製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを均一溶液中で重縮合させて製造することができる。具体的には、ジカルボン酸とジアミンとを、国際公開第03/085029号に記載されているように触媒の存在下で加熱することにより低次縮合物を得て、次いでこの低次縮合物の溶融物にせん断応力を付与して重縮合させることで製造することができる。
【0072】
ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)の含有量は、得られる光透過性樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)の量が上述した範囲となるように調整されていればよい。例えば、ポリアミド樹脂組成物におけるポリアミド樹脂(A)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物(上述の、ポリアミド樹脂組成物を準備する工程で準備されたペレット)100質量部に対して40質量部以上90質量部以下としうる。
【0073】
(繊維状充填材(B))
繊維状充填材(B)の例には、ガラス繊維、ワラストナイト、チタン酸カリウムウィスカー、炭酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、硫酸マグネシウムウィスカー、酸化亜鉛ウィスカー、ミルドファイバー及びカットファイバー等が含まれる。これらのうち、一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。中でも、成形体の機械的強度を高めやすいこと等から、ワラストナイト、ガラス繊維、チタン酸カリウムウィスカーが好ましく、ワラストナイト又はガラス繊維がより好ましい。
【0074】
繊維状充填材(B)の平均繊維長は、ポリアミド樹脂組成物の成形性、及び得られる成形体の機械的強度や耐熱性の観点から、1μm以上20mm以下であることが好ましく、5μm以上10mm以下であることがより好ましく、10μm以上5mm以下であることがさらに好ましい。また、繊維状充填材(B)のアスペクト比は、5以上2000以下であることが好ましく、30以上600以下であることがより好ましい。
【0075】
繊維状充填材(B)の平均繊維長と平均繊維径は、以下の方法により測定することができる。
1)ポリアミド樹脂組成物を、ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶液(0.1/0.9体積%)に溶解させた後、濾過して得られる濾過物を採取する。
2)前記1)で得られた濾過物を水に分散させ、光学顕微鏡(倍率:50倍)で任意の300本それぞれの繊維長(Li)と繊維径(di)を計測する。繊維長がLiである繊維の本数をqiとし、次式に基づいて重量平均長さ(Lw)を算出し、これを繊維状充填材(B)の平均繊維長とする。
重量平均長さ(Lw)=(Σqi×Li<2>)/(Σqi×Li)
同様に、繊維径がDiである繊維の本数をriとし、次式に基づいて重量平均径(Dw)を算出し、これを繊維状充填材(B)の平均繊維径とする。
重量平均径(Dw)=(Σri×Di<2>)/(Σri×Di)
【0076】
繊維状充填材(B)は、表面処理が施されたものであってもよい。表面処理が施されていると、マトリックス樹脂であるポリアミド樹脂(A)との接着性が高まりやすい。表面処理剤の例には、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、及びアルミネート系カップリング剤等のカップリング剤;集束剤等が含まれる。また、好適に使用される集束剤の例には、エポキシ系化合物、ウレタン系化合物、カルボン酸系化合物、ウレタン/マレイン酸変性化合物及びウレタン/アミン変性系化合物が含まれる。
【0077】
ポリアミド樹脂組成物における繊維状充填材(B)の含有量は、得られる光透過性樹脂組成物における繊維状充填材(B)の量が上述した範囲となるように調整されていればよい。例えば、ポリアミド樹脂組成物における繊維状充填材(B)の含有量は、ポリアミド樹脂組成物(上述の、ポリアミド樹脂組成物を準備する工程で準備されたペレット)100質量部に対して25質量部以上40質量部以下としうる。
【0078】
(他の成分)
上記ポリアミド樹脂組成物は、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。但し、ポリアミド樹脂組成物は、光透過性色素(C)は実質的に含まないものとする。
【0079】
2-1-2.マスターバッチ
マスターバッチは、上述した光透過性色素(C)と、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(D)とを含むことが好ましい。
【0080】
マスターバッチにおける光透過性色素(C)の含有量は、マスターバッチに対して30質量%以上80質量%以下であることが好ましく、40質量%以上70質量%以下であることがより好ましい。光透過性色素(C)の上記含有量が30質量%以上であると、ポリアミド樹脂組成物をより十分に着色しやすい。
【0081】
(ポリアミド樹脂(D))
ポリアミド樹脂(D)の融点が310℃よりも低いと、マスターバッチを得る際の溶融混練時に光透過性色素(C)の変質に伴う変色を抑制できる。それにより、マスターバッチを用いても、得られる光透過性樹脂組成物の変色を抑制できる。ポリアミド樹脂(D)の融点は、220℃以上310℃以下であることが好ましい。融点の測定方法は、上述したポリアミド樹脂(A)の融点の測定方法と同様である。
【0082】
また、光透過性色素(C)の熱による変質を抑制しつつ、ポリアミド樹脂組成物との溶融混練性をより高める観点では、ポリアミド樹脂(D)とポリアミド樹脂(A)の融点の差は、10℃以上であることが好ましく、20℃以上150℃以下であることがより好ましく、30℃以上100℃以下であることがさらに好ましい。
【0083】
ポリアミド樹脂(D)の融点(Tm)は、当該ポリアミド樹脂の組成によって調整することができる。例えば、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位の含有比率を少なくすることによって、融点(Tm)を低くすることができる。
【0084】
ポリアミド樹脂(D)は、融点が上記範囲となるものであれば特に制限されないが、脂肪族ポリアミドであることが好ましい。脂肪族ポリアミドは、アミド結合を含み、且つ芳香環を含まない構成単位(芳香環を含まないアミド結合含有構成単位)を主成分として含む。主成分として含むとは、アミド結合含有構成単位の総モル数に対して80モル%以上、好ましくは90モル%以上含むことをいう。
【0085】
ポリアミド樹脂(D)は、ジカルボン酸とジアミンを重縮合反応させたものであってもよいし、アミノカルボン酸を重縮合反応させたものであってもよいし、ラクタムを開環重合反応させたものであってもよい。
【0086】
例えば、ポリアミド樹脂(D)は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Da)と、ジアミンに由来する構成単位(Db)とを含みうる。
【0087】
(ジカルボン酸に由来する構成単位(Da))
ジカルボン酸に由来する構成単位(Da)は、脂肪族ジカルボン酸を含むことが好ましい。脂肪族ジカルボン酸は、炭素数4以上20以下の脂肪族ジカルボン酸であり、上記炭素数は6以上12以下であることが好ましい。そのような脂肪族ジカルボン酸の例には、脂肪族ジカルボン酸の例には、シュウ酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸及びテトラデカン二酸等が含まれる。中でも、アジピン酸、アゼライン酸及びセバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。
【0088】
脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Da)の総モル数に対して、例えば80モル%以上であり、90モル%以上であることがより好ましく、100モル%であってもよい。
【0089】
ジカルボン酸に由来する構成単位(Da)は、必要に応じて上記以外の他のジカルボン酸に由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸や脂環式ジカルボン酸等が含まれる。他のジカルボン酸に由来する構成単位の含有量は、ジカルボン酸に由来する構成単位(Da)の総モル数に対して、例えば20モル%以下であり、10モル%以下であることがより好ましい。
【0090】
(ジアミンに由来する構成単位(Db))
ジアミンに由来する構成単位(Db)は、ジアミンに由来する構成単位(Ab)と同様としうる。
【0091】
或いは、ポリアミド樹脂(D)は、アミノカルボン酸に由来する構成単位又はラクタムに由来する構成単位を含みうる。
【0092】
(アミノカルボン酸に由来する構成単位)
アミノカルボン酸は、炭素数6以上12以下、好ましくは炭素数6以上10以下のアミノカルボン酸でありうる。そのようなアミノカルボン酸の例には、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等が含まれる。
【0093】
(ラクタムに由来する構成単位)
ラクタムは、炭素数6以上12以下、好ましくは炭素数6以上10以下のラクタムでありうる。そのようなラクタムの例には、α-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ω-ラウロラクタム、ε-エナントラクタム等が含まれる。
【0094】
ポリアミド樹脂(D)の例には、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド92、ポリアミド1010が挙げられ、ポリアミド6、ポリアミド66及びポリアミド610が好ましい。
【0095】
マスターバッチにおけるポリアミド樹脂(D)の含有量は、マスターバッチに対して20質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上60質量%以下であることがより好ましい。ポリアミド樹脂(D)の上記含有量が20質量%以上であると、ポリアミド樹脂組成物中に光透過性色素(C)をより分散させやすく、より均一に着色することができる。
【0096】
(他のポリアミド樹脂)
上述の通り、光透過性樹脂組成物又はポリアミド樹脂組成物のペレットは、ポリアミド樹脂(A)及びポリアミド樹脂(D)以外の他のポリアミド樹脂をさらに含んでいてもよい。他のポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド6T/DT(ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリ-2-メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリマー)、ポリアミド9T(ポリノナメチレンテレフタルアミド)、ポリアミド10T(ポリデカメチレンテレフタルアミド)等が挙げられる。
【0097】
2-2.光透過性樹脂組成物
本実施形態に係る光透過性樹脂組成物は、上記ポリアミド樹脂組成物のペレットと、上記マスターバッチとのドライブレンド物を含む。上記光透過性樹脂組成物における(A)成分,(B)成分,(C)成分の含有量は、それぞれ上述した通りである。
【0098】
なお、上記実施形態において、ポリアミド樹脂(A)やポリアミド樹脂(D)を始めとする各成分や、各成分を製造するために使用される原料の全部又は一部は、バイオマス由来のものを用いてもよい。例えば、ポリアミド樹脂(A)のジカルボン酸由来のジカルボン酸由来のジカルボン酸成分単位(Aa)は、バイオマス由来のジカルボン酸に由来する成分単位を含んでもよいし、ジアミン由来のジアミン成分単位(Ab)は、バイオマス由来のジアミンに由来する成分単位を含んでもよい。また、ポリアミド樹脂(A)は、バイオマス由来の原料を含む原料群を重合してなる、バイオマス由来のポリアミド樹脂(A)であってもよい。
【0099】
3.レーザー溶着体の製造方法
本実施形態では、上記光透過性樹脂組成物の成形体(第1成形体)と、光吸収性樹脂組成物の成形体(第2成形体)とを、当該第1成形体を介してレーザー光を照射し、溶着させて、レーザー溶着体を製造することができる。
【0100】
第1成形体は、上記2-1の組成物のセットを用いて成形したものであってもよいし、上記2-2の光透過性樹脂組成物を成形したものであってもよい。
【0101】
第2成形体は、光吸収性樹脂組成物を成形したものであってよい。光吸収性樹脂組成物について、以下、説明する。
【0102】
3-1.光吸収性樹脂組成物
光吸収性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と、光吸収性色素とを含み、必要に応じて繊維状充填材をさらに含んでもよい。
【0103】
熱可塑性樹脂は、特に制限されないが、上記光透過性樹脂組成物の成形体との良好な溶着強度を得やすくする観点から、ポリアミド樹脂であることが好ましく、上記ポリアミド樹脂(A)と同様のものであることがより好ましい。また、繊維状充填材も、繊維状充填材(B)と同様のものであることが好ましい。つまり、光吸収性樹脂組成物は、色素の種類や含有量以外は、光透過性樹脂組成物と同様に構成されうる。
【0104】
(光吸収性色素)
光吸収性色素は、照射するレーザー光の波長の範囲、すなわち、波長800nm以上1064nm以下の範囲に吸収波長を有する色素である。そのような光吸収性色素は、レーザー光を吸収して発熱し、熱可塑性樹脂を溶融させる。その熱により、第1成形体に含まれる樹脂成分を溶融させて、溶着させることができる。
【0105】
光吸収性色素は、無機顔料であってもよいし、有機顔料であってもよい。無機顔料の例には、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック)等の黒色顔料;酸化鉄赤等の赤色顔料;モリブデートオレンジ等の橙色顔料;酸化チタン等の白色顔料が含まれる。有機顔料の例には、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等が含まれる。中でも、無機顔料は、一般的に隠ぺい力が強いため好ましく、黒色顔料がより好ましい。
【0106】
光吸収性色素は、分散性を向上させる観点から、光吸収性樹脂組成物の製造時にマスターバッチとして添加されることが好ましい。カーボンブラックのマスターバッチの例には、日弘ビックス株式会社製、PA-0896A(カーボンブラック含有量50質量%のマスターバッチ)等が含まれる。
【0107】
光吸収性樹脂組成物における光吸収性色素の含有量は、樹脂成分100質量部に対して0.01質量部以上1質量部以下であることが好ましい。
【0108】
3-2.キット
上記光吸収性樹脂組成物は、上記光透過性樹脂組成物と共に、レーザー溶着体を得るための成形材料のキットとして用いられうる。即ち、レーザー溶着体を得るためのキットは、1)上記組成物のセット又は上記光透過性樹脂組成物と、2)光吸収性樹脂組成物と、を含む。
【0109】
3-3.レーザー溶着体の製造方法
次に、本実施形態に係るレーザー溶着体の製造方法について説明する。
【0110】
本実施形態に係るレーザー溶着体の製造方法は、第1成形体と第2成形体とを重ね合わせ、第1成形体を介してレーザー光を照射して、第1成形体と第2成形体とを溶着させる工程とを含む。
【0111】
第1成形体及び第2成形体の形状は、特に制限されないが、成形体同士をレーザー溶着により接合して用いるため、通常、少なくとも面接触が可能な面(平面又は曲面)を有する。レーザー溶着では、光透過性樹脂部材である第1成形体を透過したレーザー光が、光吸収性樹脂部材である第2成形体に吸収されて溶融し、両部材が溶着される。上記光透過性樹脂組成物を成形してなる第1成形体は、繊維状充填材(B)を含んでいるにも係わらず、レーザー光に対する透過性が高いことから、レーザー溶着方法における透過樹脂部材として好ましく用いることができる。
【0112】
第1成形体の厚み(レーザー光が透過する部分におけるレーザー透過方向の厚み)は、用途や、光透過性樹脂組成物の組成等を考慮して適宜設定されうるが、例えば5mm以下であり、好ましくは4mm以下である。
【0113】
第1成形体と第2成形体とを重ね合わせ、第1成形体を介してレーザー光を照射して、第1成形体と第2成形体とをレーザー溶着させる。
【0114】
具体的には、第1成形体と第2成形体の溶着箇所同士を相互に接触させる。このとき、第1成形体と第2成形体の溶着箇所は、面接触していることが好ましい。面接触は、平面同士の接触であってもよいし、曲面同士の接触であってもよいし、平面と曲面の接触であってもよい。
【0115】
次いで、レーザー光を、光透過性樹脂部材である第1成形体を介して照射する。レーザー光の照射は、レーザー光を効率よく溶着面に到達させやすくする観点から、溶着面に対して85°以上95°以下の角度から行うことが好ましい。また、必要に応じてレンズ系を用いて、第1成形体と第2成形体の界面にレーザー光を集光させてもよい。その集光ビームは、第1成形体中を透過し、第2成形体の表面近傍で吸収されて発熱し、溶融する。次に、その熱は熱伝導によって第1成形体にも伝わって溶融し、両者の界面に溶融プールが形成される。この溶融プールは、冷却固化されて、溶着部(接合部)となる。
【0116】
用いられるレーザー光源は、光吸収性色素の光に応じて選択することができる。例えば、波長800nm以上1064nm以下のレーザー光源が好ましく、例えば、半導体レーザーを用いることができる。
【0117】
このようにして、第1成形体と第2成形体とをレーザー溶着させて得られるレーザー溶着体は、高い溶着強度(接合強度)を有する。
【0118】
得られたレーザー溶着体は、機械的強度が良好で、高い溶着強度を有し、レーザー光照射による樹脂の損傷も少ない。そのため、得られたレーザー溶着体は、種々の用途、例えば、各種保存容器、電気・電子機器部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、車両機構部品等に適用できる。特に、食品用容器、薬品用容器、油脂製品容器、車両用中空部品(各種タンク、インテークマニホールド部品、温度調節バルブ部品、サーモスタットケース、カメラ筐体等)、車両用電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品等)モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、ブレーカー部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品等に好適に用いることができる。
【実施例0119】
以下、実施例を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例の記載に限定されない。
【0120】
1.構成材料
1-1.ポリアミド樹脂の調製
<ポリアミド樹脂(A)の調製>
テレフタル酸2774g(16.7モル)、イソフタル酸1196g(7.2モル)、1,6-ヘキサンジアミン2800g(24.3モル)、安息香酸36.6g(0.3モル)、次亜リン酸ナトリウム一水和物5.7g及び蒸留水545gを内容量13.6Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。190℃から攪拌を開始し、3時間かけて内部温度を250℃まで昇温させた。このとき、オートクレーブの内圧を3.03MPaまで昇圧させた。このまま1時間反応を続けた後、オートクレーブ下部に設置したスプレーノズルから大気放出して低縮合物を抜き出した。その後、この低縮合物を室温まで冷却後、低縮合物を粉砕機で1.5mm以下の粒径まで粉砕し、110℃で24時間乾燥させた。得られた低縮合物の水分量は4100ppm、極限粘度[η]は0.15dl/gであった。
【0121】
次に、この低縮合物を棚段式固相重合装置に入れ、窒素置換後、約1時間30分かけて180℃まで昇温した。その後、1時間30分反応させ、室温まで降温させた。得られたプレポリマーの極限粘度[η]は0.20dl/gであった。
その後、このプレポリマーを、スクリュー径30mm、L/D=36の二軸押出機にて、バレル設定温度を330℃、スクリュー回転数200rpm、6Kg/hの樹脂供給速度で溶融重合させて、ポリアミド樹脂を調製した。
【0122】
得られたポリアミド樹脂(A)の組成は、6T/6I(70/30モル比)であった。また、ポリアミド樹脂(A)の融点Tmは330℃、ガラス転移温度Tgは125℃であった。また、ポリアミド樹脂(A)の極限粘度[η]は1.0dl/gであり、融解熱量(ΔH)は55J/gであった。
【0123】
<ポリアミド樹脂(E)の調製>
1,6-ヘキサンジアミン1312g(11.3モル)、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン1312g(11.3モル)、テレフタル酸3655g(22.0モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム5.5g(5.2×10-2モル)、及びイオン交換水640mlを1リットルの反応器に仕込み、窒素置換後、250℃、35kg/cm2の条件で1時間反応させた。1,6-ヘキサンジアミンと2-メチル-1,5-ペンタンジアミンとのモル比は50:50とした。1時間経過後、反応器内に生成した反応生成物を、この反応器と連結され、且つ圧力が約10kg/cm2低く設定された受器に抜き出して、極限粘度[η]が0.15dl/gである低次縮合物を得た。
【0124】
次いで、得られた低次縮合物を乾燥させた後、二軸押出機を用いてシリンダー設定温度330℃で溶融重合させて、ポリアミド樹脂(E)を得た。
【0125】
得られたポリアミド樹脂(E)の組成は、6T/DT(50/50モル比)であった。また、ポリアミド樹脂(E)の極限粘度[η]は1.0dl/g、融点(Tm)は300℃、ガラス転移温度(Tg)は140℃であった。
【0126】
これらのポリアミド樹脂の極限粘度[η]、融点Tm及び融解熱量ΔHは、以下の方法で測定した。
【0127】
[極限粘度[η]]
ポリアミド樹脂0.5gを96.5%硫酸溶液50mlに溶解させた。得られた溶液の、25℃±0.05℃の条件下での流下秒数を、ウベローデ粘度計を使用して測定し、「数式:[η]=ηSP/(C(1+0.205ηSP))」に基づき算出した。
[η]:極限粘度(dl/g)
ηSP:比粘度
C:試料濃度(g/dl)
t:試料溶液の流下秒数(秒)
t0:ブランク硫酸の流下秒数(秒)
ηSP=(t-t0)/t0
【0128】
[融点Tm]
ポリアミド樹脂の融点Tmは、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて以下のように測定した。
【0129】
約5mgのポリアミド樹脂を測定用アルミニウムパン中に密封し、室温から10℃/minで350℃まで加熱した。樹脂を完全融解させるために、350℃で3分間保持した後、10℃/minで30℃まで冷却した。そして、30℃で5分間置いた後、10℃/minで350℃まで2度目の加熱を行った。この2度目の加熱における吸熱ピークの温度(℃)をポリアミド樹脂の融点(Tm)とした。
【0130】
[融解熱量ΔH]
ポリアミド樹脂の融解熱量ΔHは、示差走査熱量計(DSC220C型、セイコーインスツル社製)を用いて、JIS K7121:2012に準拠して、1度目の昇温過程での融解時の吸熱ピークの面積から求めた。
【0131】
1-2.繊維状充填材(B)
・ガラス繊維(ECS 03 T-747H、日本電気硝子社製、集束剤:エポキシ樹脂/ウレタン樹脂、繊維径10.5μm)
【0132】
1-3.光透過性色素(C)を含むマスターバッチ
オリヱント化学工業社製e-BIND LTW-8701H(ポリアミド樹脂(D)としてポリアミド66(融点260℃)を50質量%と、光透過性色素(C)(アントラキノン誘導体を含む黒色色素)を50質量%とを含むマスターバッチ)を用いた。
【0133】
2.光透過性樹脂組成物の調製
(実施例1~3)
(1)ポリアミド樹脂組成物のペレットの調製
ポリアミド樹脂(A)と繊維状充填材(B)をタンブラーブレンダーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド樹脂の融点(Tm)+15)℃で溶融混錬した。その後、ストランド状に押出し、水槽で冷却した。そして、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットして、ポリアミド樹脂組成物の直径2.7mm、長さ3.5mmの円柱状ペレットを得た。
【0134】
(2)光透過性樹脂組成物の調製
得られたポリアミド樹脂組成物のペレットと、光透過性色素(C)を含むマスターバッチのペレットとを、表1に示される組成となるように、タンブラーブレンダーにて混合(ドライブレンド)して、ペレット状の光透過性樹脂組成物を得た。なお、タンブラーブレンダーによる混合は、室温(25℃)で行った。
【0135】
(比較例1~3)
ポリアミド樹脂(A)、繊維状充填材(B)、及びマスターバッチをタンブラーブレンダーにて混合し、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)にて、シリンダー温度(ポリアミド樹脂の融点(Tm)+15)℃で溶融混錬した。その後、ストランド状に押出し、水槽で冷却した。そして、ペレタイザーでストランドを引き取り、カットして、ペレット状の光透過性樹脂組成物とした。
【0136】
(参考例1)
ポリアミド樹脂(A)をポリアミド樹脂(E)に変更した以外は実施例2と同様にして、光透過性樹脂組成物を調製した。
【0137】
(参考例2)
ポリアミド樹脂(A)をポリアミド樹脂(E)に変更した以外は比較例2と同様にして、光透過性樹脂組成物を調製した。
【0138】
3.評価
上記調製した実施例1~3、比較例1~3及び参考例1~2の光透過性樹脂組成物について、レーザー光の透過率の維持率を評価した。
【0139】
(レーザー光の透過率の維持率)
得られた光透過性樹脂組成物を、下記射出成形機を用いて、下記の成形条件で成形して、長さ30mm、幅30mm、厚さ0.7mmの試験片を得た。
成形機:東芝機械(株)製 EC75N-2A
成形機シリンダー温度:ポリアミド樹脂組成物の融点(Tm)+10℃
金型温度:160℃
シリンダー内に滞留する時間は1分とした。そして、得られた試験片の波長940nmにおけるレーザー光の透過率T0をオフィール社製パワーメータF300-SHを用いて測定した。
【0140】
加えて、同一成形機を用い、冷却時間のみを延長してシリンダー内に滞留する時間が25分となるように設定し、上記試験片を得た。同様にレーザー光の透過率Tを測定した。そして、下記式に基づいて、上記測定したレーザー透過率T0に対する維持率を算出した。
レーザー光透過率の維持率(%)=(T/T0)×100
【0141】
実施例1~3、比較例1~3及び参考例1~2の評価結果を表1に示す。
【0142】
【0143】
表1から明らかなように、ポリアミド樹脂(A)と、繊維状充填材(B)と、光透過性色素(C)を含むマスターバッチとを溶融混練したペレットを用いた比較例1~3の成形体は、レーザー光透過率の維持率が90%よりも低く、変色が生じていた。
【0144】
これに対し、ポリアミド樹脂(A)と繊維状充填材(B)とを溶融混練したペレットと、光透過性色素(C)を含むマスターバッチとのドライブレンド物を用いた実施例1~3の成形体は、レーザー光透過率の維持率が96%以上と高く、変色が低減されていた。
【0145】
これらのことから、光透過性色素(C)を含むマスターバッチをドライブレンドにより後添加することで、成形体のレーザー光透過率の維持率を高めることができ、変色が少ない成形体を得ることができることがわかる。
【0146】
一方、融点が310℃よりも低いポリアミド樹脂(E)を用いた場合には、光透過性色素(C)を含むマスターバッチを最初から溶融混練した場合(参考例2)と、ドライブレンドにより後添加した場合(参考例1)とで、レーザー光透過率の維持率にほとんど差がみられなかった。すなわち、溶融混錬した場合(参考例2)であっても、レーザー光透過率の維持率が90%以上と高かった。これらのことから、光透過性色素(C)を他の成分とともに溶融混練した場合に、得られる成形体に変色が生じるという現象は、融点が310℃以上のポリアミド樹脂において顕在化する課題であることが示唆される。