(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140509
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】防錆性能管理システム
(51)【国際特許分類】
G01N 17/02 20060101AFI20241003BHJP
B23K 31/00 20060101ALI20241003BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20241003BHJP
G01N 27/26 20060101ALI20241003BHJP
B62D 65/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
G01N17/02
B23K31/00 K
G01N27/00 L
G01N27/26 351J
G01N27/26 351L
B62D65/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051672
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100168871
【弁理士】
【氏名又は名称】岩上 健
(72)【発明者】
【氏名】橙 来樹
(72)【発明者】
【氏名】浅田 照朗
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 達哉
(72)【発明者】
【氏名】足立 崇勝
(72)【発明者】
【氏名】重永 勉
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見 明秀
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和夫
【テーマコード(参考)】
2G050
2G060
3D114
【Fターム(参考)】
2G050AA02
2G050AA04
2G050BA02
2G050CA04
2G050EB03
2G060AA10
2G060AE28
2G060AF02
2G060AF07
2G060EA08
3D114CA10
(57)【要約】
【課題】金属製品の表面に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を管理する防錆性能管理システムにおいて、防錆性能の異常の予兆を精度よく検出可能にする。
【解決手段】防錆性能管理システム100においては、金属製品メーカーシステム20が、車両用鋼部材1の製造ロット毎に所定数の車両用鋼部材を抽出し、車両用鋼部材の絶縁性塗膜4の表面に腐食因子5を接触させた状態で絶縁性塗膜の表面と車両用鋼部材の鋼板3との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定し、車両メーカーシステム10が、車両用鋼部材において測定を行った位置を示す位置情報と、電流の経時的変化の波形の傾き、ピークの数及びピークの高さを含む特徴量とに基づき、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能を評価し、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能の推移に基づき、防錆性能の異常の予兆を検出し、異常の予兆が検出された場合に通知を出力する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品の表面に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を管理する防錆性能管理システムであって、
前記金属製品の製造ロット毎に所定数の前記金属製品を抽出し、当該金属製品の前記絶縁性塗膜の表面に腐食因子を接触させた状態で当該絶縁性塗膜の表面と前記金属製品の金属製基材との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定する測定部と、
前記金属製品において前記測定を行った位置を示す位置情報と、前記電流の経時的変化の波形の傾き、ピークの数及びピークの高さを含む特徴量とに基づき、前記製造ロット毎の前記絶縁性塗膜の防錆性能を評価する評価部と、
前記製造ロット毎の前記絶縁性塗膜の防錆性能の推移に基づき、前記防錆性能の異常の予兆を検出する異常予兆検出部と、
前記異常の予兆が検出された場合に通知を出力する通知部と、
を備える、防錆性能管理システム。
【請求項2】
前記測定を行う位置は、前記金属製品の主要面、エッジ部、及び溶接部を含む、
請求項1に記載の防錆性能管理システム。
【請求項3】
前記異常予兆検出部は、前記防錆性能の異常の予兆を検出した場合、前記位置情報及び前記特徴量と前記防錆性能の異常の原因とを予め関連付けた異常原因推定モデルと、前記異常の予兆が検出されたときの前記位置情報及び前記特徴量とに基づき、前記異常の予兆の原因を推定する、
請求項1又は2に記載の防錆性能管理システム。
【請求項4】
前記異常予兆検出部は、前記防錆性能の異常の予兆を検出した場合、推定した前記異常の予兆の原因に関連する前記金属製品又は前記絶縁性塗膜の生産管理項目を取得し、
前記通知部は、取得された前記生産管理項目を前記通知と共に出力する、
請求項3に記載の防錆性能管理システム。
【請求項5】
前記評価部は、前記防錆性能が異常となるリスクが高いほど数値が大きくなるリスクスコアにより前記防錆性能を評価し、
前記異常予兆検出部は、過去の製造ロットにおける前記リスクスコアの平均値を算出し、前記平均値からの前記リスクスコアの偏差が所定値以上且つ当該リスクスコアが予兆閾値以上である場合に、前記異常の予兆を検出する、
請求項1又は2に記載の防錆性能管理システム。
【請求項6】
前記金属製品は、車両用鋼部材である、
請求項1又は2に記載の防錆性能管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製品の表面に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を管理する防錆性能管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体などの被塗物における塗装の品質を管理する技術が知られている。例えば、特許文献1には、塗装の工程管理項目(具体的には、塗装設備内部の温度及び湿度、洗浄液の流量及び圧力、電着塗装装置に流れる電流値、乾燥温度、塗装機の回転数)及びその経時変化履歴と、品質管理項目(具体的には、色相、光沢、平滑性、ゴミ、はじき、ムラ、ピンホールの有無など)との相関関係を学習する品質管理システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような従来の技術は、例えば、塗装の工程管理項目及びその経時変化履歴と品質管理項目との相関関係を予め学習した上で、品質目標を満たすように塗装の工程を管理するものに過ぎず、実際の塗装の状態に基づいて塗装の工程を管理するものではない。したがって、例えば何れかの工程が想定通りに管理されず、実際には塗装の品質が低下したとしても、そのことを把握したり、塗装の品質低下が進んで異常に至る予兆を検出したりすることができない。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、金属製品の表面に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を管理する防錆性能管理システムにおいて、防錆性能の異常の予兆を精度よく検出可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の防錆性能管理システムは、金属製品の表面に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を管理する防錆性能管理システムであって、金属製品の製造ロット毎に所定数の金属製品を抽出し、当該金属製品の絶縁性塗膜の表面に腐食因子を接触させた状態で当該絶縁性塗膜の表面と金属製品の金属製基材との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定する測定部と、金属製品において測定を行った位置を示す位置情報と、電流の経時的変化の波形の傾き、ピークの数及びピークの高さを含む特徴量とに基づき、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能を評価する評価部と、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能の推移に基づき、防錆性能の異常の予兆を検出する異常予兆検出部と、異常の予兆が検出された場合に通知を出力する通知部と、を備える。
【0007】
このように構成された本発明においては、金属製品の絶縁性塗膜の表面に腐食因子を接触させた状態で当該絶縁性塗膜の表面と金属製品の金属製基材との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定し、測定を行った位置を示す位置情報と、電流の経時的変化の波形の傾き、ピークの数及びピークの高さを含む特徴量とに基づき、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能を評価するので、絶縁性塗膜の防錆性能に影響を及ぼす欠陥の数、大きさや種類、導電性、膜厚、絶縁性の質(膜質)等の要素を考慮して、防錆性能を精度よく評価することができる。そして、このように高精度に評価された製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能の推移に基づき、防錆性能の異常の予兆を検出するので、防錆性能の低下が進んで異常に至る予兆を精度よく検出することができる。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、測定を行う位置は、金属製品の主要面、エッジ部、及び溶接部を含む。
このように構成された本発明においては、電流の経時的変化における特徴量の現れ方が測定位置に応じて異なることも考慮に入れて、精度よく防錆性能を評価することができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、異常予兆検出部は、防錆性能の異常の予兆を検出した場合、位置情報及び特徴量と防錆性能の異常の原因とを予め関連付けた異常原因推定モデルと、異常の予兆が検出されたときの位置情報及び特徴量とに基づき、異常の予兆の原因を推定する。
このように構成された本発明においては、実際に測定された電流の経時的変化に関する位置情報及び特徴量に基づいて、異常の予兆の原因を推定するので、異常の予兆の原因を精度よく推定することができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、異常予兆検出部は、防錆性能の異常の予兆を検出した場合、推定した異常の予兆の原因に関連する金属製品又は絶縁性塗膜の生産管理項目を取得し、通知部は、取得された生産管理項目を通知と共に出力する。
このように構成された本発明においては、推定した異常の予兆の原因に関連する生産管理項目を出力するので、異常の発生を予防するために対処が必要な生産管理項目をユーザーに知らせることができる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、評価部は、防錆性能が異常となるリスクが高いほど数値が大きくなるリスクスコアにより防錆性能を評価し、異常予兆検出部は、過去の製造ロットにおけるリスクスコアの平均値を算出し、平均値からのリスクスコアの偏差が所定値以上且つ当該リスクスコアが予兆閾値以上である場合に、異常の予兆を検出する、
このように構成された本発明においては、リスクスコアを用いて防錆性能を定量的に評価でき、リスクスコアの推移に基づいて異常の予兆を精度よく検出することができる。
【0012】
本発明において好適な例では、金属製品は、車両用鋼部材である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属製品の表面に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を管理する防錆性能管理システムにおいて、防錆性能の異常の予兆を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態による防錆性能管理システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態による車両メーカーシステムのプロセッサ及びメモリの機能的構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態による防錆性能管理システムの測定装置の一例を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態による防錆性能管理システムが実行する処理を示すフローチャートである。
【
図5】本発明の実施形態における、絶縁性塗膜の表面と金属製品との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化と、その経時的変化における特徴量との一例を示す説明図である。
【
図6】本発明の実施形態における、絶縁性塗膜の防錆性能が正常、異常の予兆、及び異常のそれぞれの状態にあるときの、各特徴量の数値範囲の一例を示す表である。
【
図7】本発明の実施形態における、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能の推移の一例を示す説明図である。
【
図8】本発明の実施形態における、生産工程、異常又は異常の予兆の原因、影響する絶縁性塗膜の性能、データの推移、生産管理項目、及び出力される通知が互いに関連付けられた生産管理項目データの一例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による防錆性能管理システムを説明する。なお、以下では、本発明に係る防錆性能管理システムを、金属製品としての車両の部品(車両用鋼部材)に適用した実施形態について説明する。
【0016】
[システム構成]
まず、
図1乃至
図3を参照して、本実施形態に係る防錆性能管理システムの構成について説明する。
図1は、本実施形態による防錆性能管理システムの概略構成を示すブロック図である。
図2は、本実施形態による車両メーカーシステムのプロセッサ及びメモリの機能的構成を示すブロック図である。
図3は、本実施形態による防錆性能管理システムの測定装置の一例を示す図である。
【0017】
図1に示すように、防錆性能管理システム100は、車両メーカー(自動車メーカー)において用いられる車両メーカーシステム10と、車両に用いられる金属製品を製造する金属製品メーカーにおいて用いられる金属製品メーカーシステム20と、を有する。防錆性能管理システム100では、これらシステム10、20は、通信回線30を介して接続されている。
【0018】
本実施形態では、防錆性能管理システム100は、ユーザーにより使用される金属製品、具体的には車両を構成する種々の部品に用いられる車両用鋼部材について、その表面に設けられた絶縁性塗膜(樹脂塗膜(電着塗膜)などの絶縁性の表面処理膜)の防錆性能を管理するシステムである。なお、
図1では、1つの金属製品メーカーシステム20しか示していないが、実際には、複数の金属製品メーカーシステム20が存在してもよい。
【0019】
具体的には、車両メーカーシステム10及び金属製品メーカーシステム20は、それぞれ、情報処理装置11、21を有する。これら情報処理装置11、21のそれぞれは、種々の処理を実行するCPUなどのプロセッサ11a、21aと、プロセッサ11a、21aに実行させるプログラムや、このプログラムの実行に必要な種々のデータなどを記憶するメモリ11b、21b(ROMやRAMやハードディスクなど)と、通信回線30を介して通信するための通信装置11c、21cと、情報処理装置11、21に種々の情報を入力するためのマウスやキーボードやタッチパネルなどの入力装置11d、21dと、情報処理装置11、21から種々の情報を出力するためのディスプレイやスピーカやプリンタなどの出力装置11e、21eと、を主に有する。また、金属製品メーカーシステム20は、測定装置22を有する。測定装置22は、車両用鋼部材に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能の評価に必要な特徴量を測定するための装置であり、測定部として機能する。
【0020】
次に、
図2に示すように、車両メーカーシステム10において、プロセッサ11aは、評価部、異常予兆検出部、及び通知部として機能する。具体的には、評価部は、車両における複数の部位ごとに、金属製品メーカーシステム20から受信した測定データに基づき、製造ロット毎の前記絶縁性塗膜の防錆性能を評価する。また、異常予兆検出部は、製造ロット毎の絶縁性塗膜の防錆性能の推移に基づき、防錆性能の異常の予兆を検出すると共に、測定データに基づき異常の予兆の原因を推定する。また、通知部は、異常の予兆が検出された場合に出力装置21eにより通知を出力させる。
【0021】
また、車両メーカーシステム10は、異常原因推定モデルと、生産管理項目データと、評価結果データとを、メモリ11bに記憶している。異常原因推定モデルは、異常予兆検出部が測定データに基づき異常の予兆の原因を推定するときに使用するモデルである。生産管理項目データは、防錆性能の異常の予兆の原因と、異常の予兆の原因に関連する生産管理項目と、生産管理項目に応じた通知の内容とを、相互に対応付けたデータである。評価結果データは、評価部が製造ロット毎に車両用鋼部材に設けられた絶縁性塗膜の防錆性能を評価した結果を蓄積したデータである。
【0022】
次に、
図3に示すように、車両用鋼部材1においては、化成被膜2が形成された鋼板3(金属製基材)の表面に絶縁性塗膜4が設けられている。測定装置22は、この絶縁性塗膜4の表面に腐食因子5(水、塩化ナトリウムなどの支持電解質、及びカオリナイトなどの粘土鉱物を含有する電解質材料)を接触させた状態で、絶縁性塗膜4の表面と鋼板3との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定する。
【0023】
具体的には、測定装置22は、容器40と、電極41と、電源42とを有する。
【0024】
容器40は、液漏れ防止用のシール材43を介して車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4上に載置されている。腐食因子5は、容器40内に収容された状態で、絶縁性塗膜4の表面に接触している。容器40の形状や材料は特に限定されるものではなく、例えば、アクリル樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂材料を用いて円筒状、多角筒状等の筒状に形成される。
【0025】
シール材43は、例えばシリコーン樹脂製のシート状のシール材であり、容器40を車両用鋼部材1上に載置したときに、容器40と絶縁性塗膜4との密着性を向上させるとともに、両者の隙間を埋めることができる。そうして、容器40と絶縁性塗膜4との間からの腐食因子5の漏れを効果的に抑制することができる。
【0026】
電極41は、鋼板3と絶縁性塗膜4の表面との間に電圧を印加するためのものであり、車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4側において、少なくともその先端が容器40内の腐食因子5に埋没して腐食因子5に接触するように設けられている。電極41としては、電気化学測定において一般的に用いられる電極を使用することができ、具体的には例えば炭素電極、白金電極等を使用することができる。
【0027】
電源42は、配線44を介して電極41と鋼板3とに接続されており、電極41と鋼板3との間に電圧を印加する。また、同時に、電源42は、電圧の印加に伴って電極41と鋼板3との間に流れる電流の経時的変化を測定する。この電源による電圧の印加及び電流の測定は、情報処理装置21により制御され、測定されたデータ(測定データ)は電源から情報処理装置21に出力される。なお測定データは、時間に対して検出電流値をプロットしたデータであってもよいし、漸増する電圧を印加する場合は、印加電圧値に対して検出電流値をプロットしたデータであってもよい。また、測定データには、検出電流値や印加電圧値、測定時刻の他に、測定を行った車両用鋼部材1の製造ロットや、車両用鋼部材1における測定位置を特定する情報も含まれる。
【0028】
[システム処理]
次に、
図4を参照して、上記した防錆性能管理システム100において行われる処理について説明する。
図4は、本実施形態による防錆性能管理システム100が実行する処理を示すフローチャートである。なお、
図4のフローチャートを説明するに当たって、実際には、このフローチャートに含まれる処理は、車両メーカーシステム10の情報処理装置11(代表的には情報処理装置11内のプロセッサ11a)及び金属製品メーカーシステム20の情報処理装置21(代表的には情報処理装置21内のプロセッサ21a)により実行されるが、便宜上の理由から、車両メーカーシステム10及び金属製品メーカーシステム20により実行されるものとして説明する。
【0029】
図4に示すフローチャートの処理は、定期的に、例えば車両用鋼部材1の製造ロット毎に実施される。製造ロットとは、一般的には生産あるいは注文の単位をいう。本実施形態においては、例えば、出荷単位、生産単位、製造月/日、原材料(例えば塗料)のロット、原材料の変化点、工程の変化点(例えば車両用鋼部材1の切断刃の交換時)等によって区切られる単位を、製造ロットとすることができる。
【0030】
まず、ステップS201において、金属製品メーカーシステム20は、製造ロット毎に所定数の車両用鋼部材1を抽出する。抽出数は、製造ロットのサイズや想定される異常の発生確率等に基づいて適宜設定される。
【0031】
次に、ステップS202において、金属製品メーカーシステム20は、測定装置22により、抽出した車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4の表面に腐食因子5を接触させた状態で、絶縁性塗膜4の表面と鋼板3との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定する。測定を行う位置は、車両用鋼部材1の主要面、エッジ部、及び溶接部を含む。
【0032】
次に、ステップS203において、金属製品メーカーシステム20は、ステップS202で得られた測定データを、通信装置21cを介して、車両メーカーシステム10に送信する。そして、ステップS101において、車両メーカーシステム10は、通信装置11cを介して、金属製品メーカーシステム20から測定データを受信する。
【0033】
次に、ステップS102において、車両メーカーシステム10は、ステップS101で受信した測定データに基づき、その測定データが取得された製造ロットにおける車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4の防錆性能を評価し、評価結果データをメモリ11bに格納する。
【0034】
ここで、
図5を参照して、車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4の防錆性能を評価するために用いられる、測定データに含まれる特徴量について説明する。
図5は、本実施形態における、絶縁性塗膜4の表面と車両用鋼部材1の鋼板3との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化と、その経時的変化における特徴量との一例を示す説明図である。
【0035】
絶縁性塗膜4に欠陥がない場合、電極と鋼板3との間に漸増する直流電圧を印加すると、電圧が絶縁破壊電圧に到達するまで電流はほとんど流れず、電圧が絶縁破壊電圧に達すると、電流は急激に増大する。これは、印加電圧が絶縁破壊電圧に至るまでは腐食因子5に対する絶縁性塗膜4の遮断性能が維持され、絶縁破壊電圧に達すると、電圧の印加により腐食因子5の絶縁性塗膜4への浸透が促され、絶縁性塗膜4の最も脆弱な箇所、例えば樹脂の架橋構造が相対的に少ない箇所等において腐食因子5が鋼板3の表面に到達することを表している。言い換えると、検出電流値の急激な上昇は、腐食因子5の鋼板3の表面への到達により、絶縁性塗膜4の防錆性能が失われたことを示している。
【0036】
一方、絶縁性塗膜4に局所的に欠陥(例えば、ガスピン、溶接スパッタ及びスラグ、バリ、鉄粉等の異物、鋼板3の表面の凹凸等)があり、絶縁性塗膜4の実質的な膜厚が小さい箇所が局所的に存在する場合、電極と鋼板3との間に漸増する直流電圧を印加すると、両者の間に生じる電流は例えば
図5のような経時的変化を示す。
【0037】
すなわち、絶縁性塗膜4に局所的な欠陥が存在する場合、欠陥位置において局所的な腐食因子5の浸入が発生する。そして、ある欠陥位置において腐食因子5が絶縁性塗膜4に浸透して鋼板3に到達すると導通が起こり、電流値が瞬間的に上昇する。この時点で、水の電気分解が起こる電圧以上の電圧が電極と鋼板3との間に印加されていると、導通により鋼板3の表面において水の電気分解等の電気化学反応が進行する。その結果、発生したガスや電解生成物が欠陥に溜まり導通が遮断され、電流値が低下する。すなわち、局所的な欠陥が存在すると、欠陥位置における導通及びその後の遮断により、検出電流値の経時的変化データの波形には、電流値の瞬間的な上昇及び低下を示すピークが発生する。
【0038】
欠陥が複数存在する場合には、
図5に示すように、欠陥の数に対応する数Npのピークが発生する。また、ピークにおける電流値、すなわちピークの高さIpは、電流が流れる導通経路の大きさ、すなわち欠陥の大きさや種類、導電性と関連性がある。さらに、欠陥により絶縁性塗膜4の膜厚が小さい箇所ほど低い印加電圧値で導通が起こるので、ピークを与える印加電圧値は、欠陥の存在する箇所の膜厚と相関がある。
【0039】
また、絶縁性塗膜4に全体的な欠陥(例えば、塗料の触媒不足による低架橋密度、鋼板3表面の酸化膜等)が存在する場合、絶縁性塗膜4全体への腐食因子5が浸透し、鋼板3に到達する。その結果、検出電流値の経時的変化データの波形には、電流値の緩やかな上昇が発生する。すなわち、検出電流値が増大するときの経時的変化データの波形の傾きSは、絶縁性塗膜4の絶縁性の質(膜質)と関連がある。
【0040】
上記の欠陥の数、大きさや種類、導電性、膜厚、膜質は、何れも絶縁性塗膜4の防錆性能に影響を及ぼす要素である。そこで、
図4に戻ると、ステップS102において、車両メーカーシステム10は、これらの要素に関連性を有する電流値のピークの数Np、ピークの高さIp、及び、電流の経時的変化の波形の傾きSを、絶縁性塗膜4の防錆性能を特徴づける特徴量として、ステップS101で受信した測定データから取得する。また、電流の経時的変化を測定する位置(車両用鋼部材1の主要面、エッジ部、及び溶接部を含む)に応じて、電流内のピークの発生し易さが異なることから、車両メーカーシステム10は、絶縁性塗膜4の防錆性能を評価するためのパラメータとして、電流の経時的変化の測定を行った位置を示す位置情報も、測定データから取得する。
【0041】
そして、車両メーカーシステム10は、測定データから取得した位置情報と特徴量とに基づき、その測定データが取得された製造ロットにおける車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4の防錆性能を数値で評価し、メモリ11bに格納する。具体的には、車両メーカーシステム10は、予め設定されメモリ11bに記憶されている換算式やマップを用いて、測定データから取得した各特徴量、すなわち電流値のピークの数Np、ピークの高さIp、及び、電流の経時的変化の波形の傾きSのそれぞれを、0以上1以下の無次元数であるリスクスコアRsに換算する。
【0042】
ここで、リスクスコアRsは、絶縁性塗膜4の防錆性能が異常となるリスクの高さを表す数値であり、大きいほど異常となるリスクが高いことを示す。例えば、本実施形態では、リスクスコアRsが0.5未満の場合に防錆性能が正常であり、リスクスコアRsが0.75以上の場合に防錆性能が異常であり、リスクスコアRsが0.5以上0.75未満の場合に防錆性能が異常には至っていないが異常発生の予兆があるものとする。
【0043】
そして、車両メーカーシステム10は、各特徴量から算出したリスクスコアRsの平均値を総合リスクスコアRsiとして算出し、この総合リスクスコアRsiを防錆性能の評価結果として、メモリ11bに格納する。
【0044】
ここで、
図6を参照して、防錆性能の各特徴量とリスクスコアとの関係を説明する。
図6は、本実施形態における、絶縁性塗膜4の防錆性能が正常、異常の予兆、及び異常のそれぞれの状態にあるときの、各特徴量の数値範囲の一例を示す表である。
【0045】
図6に示す表では、絶縁性塗膜4の防錆性能が正常である場合(「正常」(リスクスコアRs<0.5))、異常には至っていないが異常発生の予兆がある場合(「異常予兆」(リスクスコア 0.5≦Rs<0.75))、及び、異常である場合(「異常」(リスクスコア 0.75≦Rs))のそれぞれの場合において、電流の経時的変化の各測定位置における特徴量(すなわち電流値のピークの数Np、ピークの高さIp、及び、電流の経時的変化の波形の傾きS)が取り得る数値範囲を示している。
【0046】
図6の例では、例えば絶縁性塗膜4の防錆性能が正常である場合、溶接部で測定された電流の経時的変化におけるピークの数Npは4未満となり、防錆性能が異常予兆である場合、溶接部で測定された電流の経時的変化におけるピークの数Npは4以上6未満となり、防錆性能が異常である場合、溶接部で測定された電流の経時的変化におけるピークの数Npは6以上となる。
【0047】
一方、車両用鋼部材1のエッジ部で電流の経時的変化が測定された場合には、エッジ部の先端近傍では他の位置と比較して局所的に膜厚が小さい箇所が多いので、絶縁性塗膜4に欠陥が無くても電流の経時的変化においてピークが生じやすい傾向にある。したがって、測定位置がエッジ部である場合の防錆性能の各状態に対応するピークの数Npは、測定位置が溶接部である場合と比較して大きくなっている。
【0048】
また、車両用鋼部材1の主要面で電流の経時的変化が測定された場合には、主要面における鋼板3の表面は他の位置と比較して平滑であり、膜厚が均一になりやすいので、電流の経時的変化においてピークが生じにくい傾向にある。したがって、測定位置が主要面である場合の防錆性能の各状態に対応するピークの数Npは、測定位置が溶接部である場合と比較して小さくなっている。
【0049】
なお、
図6の例では、電流の経時的変化におけるピークの高さIp、及び、波形の傾きSについては、測定位置による差異はないが、ピークの数Npと同様に測定位置に応じてこれらの特徴量の範囲が異なっていてもよい。
【0050】
図4に戻ると、ステップS102の後のステップS103において、車両メーカーシステム10は、メモリ11bに格納されている、製造ロット毎の絶縁性塗膜4の防錆性能の評価結果の推移に基づき、防錆性能の異常又は異常の予兆を検出する。具体的には、車両メーカーシステム10は、過去の各製造ロットにおける総合リスクスコアRsi(防錆性能)の平均値を算出し、その平均値からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値以上、且つ、総合リスクスコアRsiが所定の異常予兆閾値以上である場合に、異常の予兆が検出されたものとする。なお、総合リスクスコアRsiの平均値は、過去の各製造ロットにおける総合リスクスコアRsiの算術平均でもよく、所定期間あるいは所定数の製造ロット毎の移動平均でもよい。また、総合リスクスコアRsiが所定の異常閾値以上である場合には、異常が検出されたものとする。
【0051】
ここで、
図7を参照して、絶縁性塗膜4の防錆性能の異常予兆が検出される例を説明する。
図7は、本実施形態における、製造ロット毎の絶縁性塗膜4の防錆性能の推移の一例を示す説明図である。
【0052】
図7において、実線は各製造ロットにおける総合リスクスコアRsi(防錆性能)の推移を示し、破線は総合リスクスコアRsiの移動平均を示している。また、総合リスクスコアRsiの異常閾値(例えば0.75)及び異常予兆閾値(例えば0.5)を、それぞれ点線により示している。
【0053】
図7において移動平均線(破線)に表れているように、例えば絶縁性塗膜4の製造工程における部材、塗料、水洗、炉等の温度が季節に応じて変化することに伴い、総合リスクスコアRsiも、緩やかに変化することがある。しかしながら、そのような変化は絶縁性塗膜4の防錆性能に異常をもたらすものではないので、移動平均からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値未満の場合には、車両メーカーシステム10は異常の予兆とは判定しない。また、移動平均からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値以上の場合であっても、総合リスクスコアRsiが異常予兆閾値未満の場合には、絶縁性塗膜4の防錆性能が維持されているので、やはり車両メーカーシステム10は異常の予兆とは判定しない。
【0054】
一方、
図7の製造ロットLxにおいて、移動平均からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値以上且つ総合リスクスコアRsiが異常予兆閾値以上である場合、車両メーカーシステム10は、異常の予兆が現れているものと判定する。
【0055】
また、総合リスクスコアRsiが異常閾値以上である場合には、移動平均からの総合リスクスコアRsiの偏差にかかわらず、車両メーカーシステム10は、異常が発生したものと判定する。
【0056】
図4に戻ると、ステップS103の後のステップS104において、車両メーカーシステム10は、ステップS103で防錆性能の異常又は異常の予兆が検出されたか否かを判定する。その結果、異常又は異常の予兆が検出されていない場合(ステップS104:No)、すなわち防錆性能が正常である場合、車両メーカーシステム10は、処理を終了する。
【0057】
一方、防錆性能の異常又は異常の予兆が検出された場合(ステップS104:Yes)、ステップS105において、車両メーカーシステム10は、メモリ11bに格納されている異常原因推定モデルを用いて、防錆性能の異常又は異常の予兆が検出された製造ロットについてステップS101で受信した測定データの位置情報及び特徴量に対応する、異常又は異常の予兆の原因を推定する。
【0058】
異常原因推定モデルは、異常又は異常の予兆が検出されたときの測定データの位置情報及び特徴量を入力として、検出された異常又は異常の予兆の原因を出力するモデルである。この異常原因推定モデルは、過去に蓄積された測定データから、絶縁性塗膜4の防錆性能に異常又は異常の予兆が発生したときの測定データにおける位置情報及び各特徴量と、そのときの異常又は異常の予兆の原因とを教師データとして、ランダムフォレスト等の機械学習アルゴリズムを用いて予め構築されメモリ11bに格納されている。
【0059】
また、ステップS105において、車両メーカーシステム10は、メモリ11bに格納されている生産管理項目データを参照して、推定した異常又は異常の予兆の原因に関連する車両用鋼部材1又は絶縁性塗膜4の生産管理項目を取得する。次いで、ステップS106において、車両メーカーシステム10は、ステップS105において取得した生産管理項目が、車両メーカー又は金属製品メーカーのどちらにおける生産管理項目かを判定する。その結果、車両メーカーにおける生産管理項目である場合、車両メーカーシステム10は、異常又は異常の予兆が検出されたこと、及び、異常又は異常の予兆の原因に関連する生産管理項目についての通知を、車両メーカーシステム10の出力装置11eにより出力させる。また、金属製品メーカーにおける生産管理項目である場合には、車両メーカーシステム10は、異常又は異常の予兆が検出されたこと、及び、異常又は異常の予兆の原因に関連する生産管理項目についての通知を、通信装置11cを介して金属メーカーシステム20に送信する。金属メーカーシステム20は、車両メーカーシステム10から通信装置21cを介して通知を受信し、ステップS204において、受信した通知を出力装置21eにより出力させる。
【0060】
ここで、
図8を参照して、異常又は異常の予兆の原因、生産管理項目、及び出力される通知について説明する。
図8は、生産工程、異常又は異常の予兆の原因、影響する絶縁性塗膜4の性能、データの推移、生産管理項目、及び出力される通知が互いに関連付けられた生産管理項目データの一例を示す表である。
図8に示すように、生産管理項目データにおいては、生産工程(例えば「材料」)と、異常又は異常の予兆の原因(例えば「鋼板表面凹凸大」)と、異常又は異常の予兆によって影響を受ける絶縁性塗膜4の性能(膜厚又は膜質)と、異常又は異常の予兆が存在する場合にデータ(総合リスクスコア)に表れる推移(例えば、製造ロット毎のばらつき(該当する1つの製造ロット内において影響するもの)に関連付けられる短期の周期的変動、製造ロットを跨いで影響を受ける長期の周期的変動、製造ロット以外の要因(例えば異常気象等の環境要因、生産ラインの停止や機械の整備等の機械的要因、その他の人為的要因等)に起因する想定外の変動)と、異常又は異常の予兆の原因に関わる生産管理項目(例えば「表面粗さ」)と、異常又は異常の予兆が検出されたときに通知する内容、例えば異常又は異常の予兆の原因に関わる生産管理項目において対処すべき事項(例えば「表面粗さを確認してください」)とが、相互に関連付けて格納されている。車両メーカーシステム10は、ステップS105において推定された異常又は異常の予兆の原因に対応する生産管理項目及び通知を、この生産管理項目データから取得し、出力装置11eにより通知を出力させる。
【0061】
図4に戻ると、ステップS106の後、車両メーカーシステム10は、処理を終了する。
【0062】
[変形例]
次に、本発明の実施形態のさらなる変形例を説明する。
まず、上述した実施形態においては、測定装置22は、絶縁性塗膜4の表面に腐食因子5を接触させた状態で、絶縁性塗膜4の表面と鋼板3との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定すると説明したが、絶縁性塗膜4の表面と鋼板3との間に電流を印加することにより両者の間に生じる電圧の経時的変化を測定するようにしてもよい。この場合、車両メーカーシステム10は、位置情報と、電圧の経時的変化の波形の傾き、ピークの数及びピークの高さを含む特徴量とに基づき、製造ロット毎の絶縁性塗膜4の防錆性能を評価することができる。
【0063】
また、上記した実施形態では、車両メーカーシステム10は、総合リスクスコアRsiの移動平均からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値以上且つ総合リスクスコアRsiが異常予兆閾値以上である場合、異常の予兆が現れているものと判定すると説明したが、直近の所定数の製造ロットにおける総合リスクスコアRsiの変化率が所定値以上の場合に、異常の予兆を検出するようにしてもよい。
【0064】
また、上記した実施形態では、出荷単位、生産単位、製造月/日、原材料(例えば塗料)のロット、原材料の変化点、工程の変化点(例えば車両用鋼部材1の切断刃の交換時)等によって区切られる単位を、製造ロットとすることができると説明したが、原材料の変化点及び工程の変化点等、複数の観点で区切られた製造ロットのそれぞれについて、個別に絶縁性塗膜4の防錆性能を評価し、異常予兆の検出、原因推定及び通知を行うようにしてもよい。あるいは、複数の観点で区切られた製造ロットのそれぞれにおける防錆性能の評価に基づき、総合的に異常予兆の検出や原因推定、通知を行ってもよい。
【0065】
また、上記した実施形態では、車両メーカーシステム10は、過去の各製造ロットにおける総合リスクスコアRsi(防錆性能)の平均値を算出し、その平均値からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値以上、且つ、総合リスクスコアRsiが所定の異常予兆閾値以上である場合に、異常の予兆が検出されたものとすると説明したが、過去の各製造ロットにおける総合リスクスコアRsiの最大値(最悪値)からの総合リスクスコアRsiの偏差が所定値以上、且つ、総合リスクスコアRsiが所定の異常予兆閾値以上である場合に、異常の予兆が検出されたと判定してもよい。
【0066】
また、例えば異常気象等の環境要因、生産ラインの停止や機械の整備等の機械的要因、その他の人為的要因等の想定外の変動に起因して異常の発生リスクが高いと判断される場合には、製造ロット毎に抽出する車両用鋼部材1の抽出数を増加させてもよい。
【0067】
また、上記した実施形態では、本発明を車両(具体的には車両用鋼部材1)に適用する例を示したが、本発明は、表面に絶縁性塗膜4が設けられる種々の金属製品(例えば建材や家電製品など)に適用可能である。
【0068】
[作用及び効果]
次に、上述した本発明の実施形態及び本発明の実施形態の変形例による防錆性能管理システム100の作用及び効果を説明する。
【0069】
まず、金属製品メーカーシステム20は、車両用鋼部材1の絶縁性塗膜4の表面に腐食因子5を接触させた状態で当該絶縁性塗膜4の表面と車両用鋼部材1の鋼板3との間に電圧を印加することにより両者の間に生じる電流の経時的変化を測定し、車両メーカーシステム10は、測定を行った位置を示す位置情報と、電流の経時的変化の波形の傾き、ピークの数及びピークの高さを含む特徴量とに基づき、製造ロット毎の絶縁性塗膜4の防錆性能を評価するので、絶縁性塗膜4の防錆性能に影響を及ぼす欠陥の数、大きさや種類、導電性、膜厚、絶縁性の質(膜質)等の要素を考慮して、防錆性能を精度よく評価することができる。そして、このように高精度に評価された製造ロット毎の絶縁性塗膜4の防錆性能の推移に基づき、防錆性能の異常の予兆を検出するので、防錆性能の低下が進んで異常に至る予兆を精度よく検出することができる。
【0070】
また、電流の経時的変化の測定を行う位置は、車両用鋼部材1の主要面、エッジ部、及び溶接部を含むので、電流の経時的変化における特徴量の現れ方が測定位置に応じて異なることも考慮に入れて、精度よく防錆性能を評価することができる。
【0071】
また、車両メーカーシステム10は、防錆性能の異常の予兆を検出した場合、位置情報及び特徴量と防錆性能の異常の原因とを予め関連付けた異常原因推定モデルと、異常の予兆が検出されたときの位置情報及び特徴量とに基づき、異常の予兆の原因を推定するので、実際に測定された電流の経時的変化に関する位置情報及び特徴量に基づいて、異常の予兆の原因を推定することができ、異常の予兆の原因を精度よく推定することができる。
【0072】
また、車両メーカーシステム10は、防錆性能の異常の予兆を検出した場合、推定した異常の予兆の原因に関連する車両用鋼部材1又は絶縁性塗膜4の生産管理項目を取得し、取得された生産管理項目を通知と共に出力するので、推定した異常の予兆の原因に関連する生産管理項目を出力することにより、異常の発生を予防するために対処が必要な生産管理項目をユーザーに知らせることができる。
【0073】
また、車両メーカーシステム10は、防錆性能が異常となるリスクが高いほど数値が大きくなるリスクスコアにより防錆性能を評価し、過去の製造ロットにおけるリスクスコアの平均値を算出し、平均値からのリスクスコアの偏差が所定値以上且つ当該リスクスコアが予兆閾値以上である場合に、異常の予兆を検出するので、リスクスコアを用いて防錆性能を定量的に評価でき、リスクスコアの推移に基づいて異常の予兆を精度よく検出することができる。
【符号の説明】
【0074】
1 車両用鋼部材
3 鋼板
4 絶縁性塗膜
10 車両メーカーシステム
20 金属製品メーカーシステム
11、21 情報処理装置
100 防錆性能管理システム