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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140513
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】スパイラルタップ
(51)【国際特許分類】
   B23G 5/06 20060101AFI20241003BHJP
   B23P 15/52 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
B23G5/06 Z
B23G5/06 D
B23G5/06 C
B23P15/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051680
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】591131822
【氏名又は名称】株式会社彌満和製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100153729
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 有一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅野 美里
(72)【発明者】
【氏名】安西 真吾
(72)【発明者】
【氏名】内田 靖
(57)【要約】
【課題】安定した切りくずの排出が可能なスパイラルタップを提供する。
【解決手段】スパイラルタップ1は、食付き部3及び完全山部4からなるおねじ部2と、おねじ部2の後端から後方に向かっておねじ部2から続くねじ山がテーパ状に山払いされたテーパ部5と、テーパ部5とシャンク6との間に設けられ且つシャンク6よりも大径の円柱状に形成されたガイド部7と、おねじ部2を分断するように軸線方向に沿って螺旋状に設けられた複数のねじれ溝8と、を具備し、完全山部4の外径の基準寸法をDとし、おねじ部2のピッチをPとしたとき、ガイド部7の外径がD-1.5Pであり、テーパ部5のこう配角度θが10~15度の範囲内である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食付き部及び完全山部からなるおねじ部と、前記おねじ部の後端から後方に向かって前記おねじ部から続くねじ山がテーパ状に山払いされたテーパ部と、前記テーパ部とシャンクとの間に設けられ且つシャンクよりも大径の円柱状に形成されたガイド部と、前記おねじ部を分断するように軸線方向に沿って螺旋状に設けられた複数のねじれ溝と、を具備し、
前記完全山部の外径の基準寸法をDとし、前記おねじ部のピッチをPとしたとき、前記ガイド部の外径がD-1.5Pであり、
前記テーパ部のこう配角度が10~15度の範囲内であることを特徴とするスパイラルタップ。
【請求項2】
前記おねじ部の全長が1.2D以下である請求項1に記載のスパイラルタップ。
【請求項3】
前記おねじ部がM18以上である請求項1又は2に記載のスパイラルタップ。
【請求項4】
少なくとも前記おねじ部に対してコーティング処理、酸化処理、又は、窒化処理が施され、当該スパイラルタップの軸線に対する前記ねじれ溝のねじれ角が40~48度の範囲内である請求項1又は2に記載のスパイラルタップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパイラルタップに関する。
【背景技術】
【0002】
被削材にめねじを形成するための工具として切削タップが知られている。切削タップは、回転しながら被削材にねじ込まれ、切削によって生成される切りくずを本体の外面に設けられている複数の溝に収容しながらめねじ形成を行う。切削タップでは、上記溝の方向及び形状によって、生成される切りくずの形状や排出方向が異なる。例えば、螺旋状のねじれ溝を備えたスパイラルタップが公知である(特許文献1及び2)。スパイラルタップは、その切りくずの排出方向の特徴から、主に止まり穴に対するめねじ加工用タップとして用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008-136123号
【特許文献2】実開平5-12042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、スパイラルタップでは、食付き部の山数に応じて生じる複数の切りくずが、対応するねじれ溝内で溝形状に従ってカールし、連なりながらシャンク方向へと排出される。すなわち、切りくずは、螺旋状にカールした一連の線状に形成される。切りくずの形状によっては同一のねじれ溝内又は隣接するねじれ溝内で生じた複数の切りくずが絡み合うこと、切りくずがスパイラルタップ又は被削材に絡むこと、及び、加工によって形成されたねじ山とスパイラルタップのねじ山との間に切りくずが噛み込むこと等によって、スパイラルタップ及び加工によって被削材に形成されたねじ山が損傷する虞がある。そのため、複数の切りくずが互いに絡み合わないように、また、切りくずがスパイラルタップ又は被削材に絡まないように、適宜切りくずの除去作業が必要になる場合がある。
【0005】
特に、本発明者による試験によれば、加工したいめねじのサイズがM20程度の太径や、呼び径に対し2倍以上のねじ長を持つめねじを加工する際は、ねじ長に比例して長く連なった切りくずが生じるため、上述したような問題がより発生しやすい。スパイラルタップを用いた安定した連続加工を行うためには、切りくずに起因する上記問題の解決が重要となる。
【0006】
切りくずの噛み込みを抑制する方法として、特許文献1に記載のスパイラルタップでは、1山~5山からなる完全山部からシャンク側へ向かうに従って小径となるようテーパ状に山払いされたテーパ部を備えている。それによって、食付き山によって生じた切りくずがねじれ溝内で噛み込むことを抑制している。しかしながら、加工深さが呼び径の2倍に近い深穴加工の場合、切りくずの噛み込みの問題は解決できても、ねじれ溝による切りくずの排出機能が低下し、切りくずがうまく排出されずにスパイラルタップに絡む問題が残る。
【0007】
一方で、特許文献2に記載のスパイラルタップには、おねじ部とシャンク部との間に切りくず排出用のガイド部が設けられている。ガイド部の外径寸法を被削材の下穴寸法に近似させることにより、排出される切りくずをガイド部のねじれ溝を通路として排出されるよう誘導される。そのため、切りくずがスパイラルタップに絡む問題や、隣接するねじれ溝から排出された切りくず同士が絡まる問題が解決される。しかしながら、被削材の種類や切削条件によって切りくず形状が異なる可能性があるため、被削材の下穴寸法に近似したガイド部が被削材の基準面に対し深く挿入されることに起因して、同一のねじれ溝内で生じる複数の切りくずが絡み合うことや、形成されたねじ山とスパイラルタップのねじ山との間に切りくずが噛み込み易くなる問題が残る。
【0008】
本発明は、安定した切りくずの排出が可能なスパイラルタップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、食付き部及び完全山部からなるおねじ部と、前記おねじ部の後端から後方に向かって前記おねじ部から続くねじ山がテーパ状に山払いされたテーパ部と、前記テーパ部とシャンクとの間に設けられ且つシャンクよりも大径の円柱状に形成されたガイド部と、前記おねじ部を分断するように軸線方向に沿って螺旋状に設けられた複数のねじれ溝と、を具備し、前記完全山部の外径の基準寸法をDとし、前記おねじ部のピッチをPとしたとき、前記ガイド部の外径がD-1.5Pであり、前記テーパ部のこう配角度が10~15度の範囲内であることを特徴とするスパイラルタップが提供される。
【0010】
前記おねじ部の全長が1.2D以下であってもよい。前記おねじ部がM18以上であってもよい。少なくとも前記おねじ部に対してコーティング処理、酸化処理、又は、窒化処理が施され、当該スパイラルタップの軸線に対する前記ねじれ溝のねじれ角が40~48度の範囲内であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の態様によれば、安定した切りくずの排出が可能なスパイラルタップを提供するという共通の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本発明の実施形態によるスパイラルタップの側面図である。
図2図2は、図1のスパイラルタップの概略図である。
図3図3は、図1のスパイラルタップのおねじ部側の端面図である
図4図4は、スパイラルタップによる加工を示す断面図である。
図5図5は、本発明の第1実施例によるスパイラルタップ及びこれを用いためねじ加工によって生じた切りくずの写真である。
図6図6は、本発明の第2実施例によるスパイラルタップ及びこれを用いためねじ加工によって生じた切りくずの写真である。
図7図7は、本発明に対する比較例によるスパイラルタップ及びこれを用いためねじ加工によって生じた切りくずの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に亘り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0014】
図1は、本発明の実施形態によるスパイラルタップ1の側面図であり、図2は、図1のスパイラルタップ1の概略図であり、図3は、図1のスパイラルタップ1のおねじ部2側の端面図である。
【0015】
スパイラルタップ1は、食付き部3、及び、完全なねじ山形状を有する完全山部4からなるおねじ部2と、おねじ部2の後端から後方に向かっておねじ部2から続くねじ山がテーパ状に山払いされたテーパ部5と、テーパ部5とシャンク6との間に設けられ且つシャンク6よりも大径の円柱状に形成されたガイド部7と、おねじ部2を分断するように軸線Cに沿って軸線C周りに等間隔に螺旋状に設けられた4つのねじれ溝8(図3)と、を有している。ねじれ溝8は、テーパ部5及びシャンク6間に設けられ、且つ、シャンク6よりも僅かばかり小径のネック9まで延びている。本明細書中では、スパイラルタップ1の軸線方向において、おねじ部2側を「前」側と規定し、おねじ部2とは反対側のシャンク6を「後」側と規定する。
【0016】
スパイラルタップ1のねじれ溝8は、右ねじれに設けられ、ガイド部7を超えてシャンク6側に延びている。ねじれ溝8の各々に沿って切れ刃が設けられている。スパイラルタップ1の少なくともおねじ部2には、TiCN等のコーティング処理、酸化処理、又は、窒化処理等の表面処理が施されている。
【0017】
テーパ部5の軸線Cに対するテーパ部5のこう配角度をθとし、完全山部4の外径の基準寸法をDとし、おねじ部2のピッチをPとしたとき、ガイド部7の外径はD-1.5Pであることが好ましい。このとき、テーパ部5のこう配角度θは10~15度の範囲内であることが好ましい。おねじ部2の全長は、1.2D以下であることが好ましい。おねじ部2は、M18以上であることが好ましく、M24以下であることがさらに好ましい。
【0018】
図4は、スパイラルタップ1による加工を示す断面図である。被削材100の表面には、下穴101が設けられている。下穴101に対してスパイラルタップ1の先端側からねじ込まれることによって下穴101の内周面を切削加工し、めねじ102が形成される。切削加工によって生じた切りくずGは、ねじれ溝8内を通って下穴101の開口近傍に到達し、下穴101の開口から放射状にシャンク6側へ排出される。切りくずGは、螺旋状にカールした一連の線状に形成される。
【0019】
スパイラルタップ1では、テーパ部5と形成されためねじ102との間に所定の隙間が形成される。したがって、食付き部3によって形成されためねじ102に対して完全山部4が通過し、続いてテーパ部5がねじ込まれる際には所定の隙間があることによって切りくずの噛み込みが抑制される。そのため、噛み込みによる刃欠けや切削トルクの上昇、折損等が抑制され、スパイラルタップ1の耐久性が一層向上する。また、テーパ部5では山払いされた残りの裾野の部分が、完全山部4の完全なねじ山形状の裾野の部分と同じであるため、完全山部4及びテーパ部5によって優れた案内作用(リード送り)が得られ、高い加工精度でめねじを切削加工することができる。
【0020】
テーパ部5の後方に設けられたガイド部7と形成されためねじ102との間にも所定の隙間が形成される。切りくずは、ガイド部7によって一定方向に排出されるようにねじれ溝8内に案内され、切りくずが被削材100とスパイラルタップ1との間で噛み込むリスクが低減される。さらに、切りくずは、ガイド部7に形成されたねじれ溝8を通路とし一定方向に排出されるため、スパイラルタップ1、具体的にはシャンク6に絡むことや、異なるねじれ溝8から排出された切りくず同士が絡まることが抑制され、安定した切りくずの排出が可能となる。
【0021】
スパイラルタップ1の軸線Cに対するねじれ溝8のねじれ角は、40~48度の範囲内であることが好ましい。ここで、おねじ部にコーティング処理、酸化処理、又は、窒化処理等の表面処理が施されている場合には、スパイラルタップの耐摩耗性能が向上する一方で、高い潤滑性に起因して切りくずが伸びやすくなり切りくずの長さが長くなる。そのため、切りくずがスパイラルタップ又は被削材に絡まり易くなる。そこで、本発明の実施形態によるスパイラルタップ1では、ねじれ溝8のねじれ角を上述した範囲内とすることで、切削性能に対して適切なカール径になるよう切りくずの形状を調整した。その結果、排出された切りくずがスパイラルタップ1に絡むことや、異なるねじれ溝8から排出された切りくず同士が絡まることが抑制され、安定した切りくずの排出が可能となる。
【0022】
図5は、本発明の第1実施例によるスパイラルタップ1及びこれを用いためねじ加工によって生じた切りくずの写真であり、図6は、本発明の第2実施例によるスパイラルタップ1及びこれを用いためねじ加工によって生じた切りくずの写真である。図7は、本発明に対する比較例によるスパイラルタップ及びこれを用いためねじ加工によって生じた切りくずの写真である。図7(A)は、第1比較例であり、図7(B)は第2比較例であり、図7(C)は第3比較例である。
【0023】
各実施例及び各比較例によるスパイラルタップはいずれも、M20×2.5のスパイラルタップであり、おねじ部の長さは、20mmであり、シャンク6の外径は15.0mmであり、ネック9の外径は14.5mmである。
【0024】
被削材としてS50Cを使用し、立て形マシニングセンタに対してスパイラルタップ1をセットする。加工条件として、切削速度は10m/min、加工深さは47.5mm、切削油は水溶性切削油剤20倍希釈とした。加工深さは、スパイラルタップ1の完全山部4の外径の基準寸法をDとしたときめねじのねじ長が2Dとなるようとして、上記値を設定した。
【0025】
図5の左図に示されるように、第1実施例によるスパイラルタップ1では、テーパ部5のこう配角度が12.5度であり、16.3mmの外径を備えたガイド部7が設けられている。すなわちガイド部7の外径は、上述したように、D-1.5Pであることが好ましく、M20×2.5のスパイラルタップの寸法から、上記値を設定した。第1実施例によるスパイラルタップ1を用いた場合、切りくずの噛み込み及び噛み込みによるスパイラルタップ1の刃欠けや切削トルクの上昇、折損等は確認されず、切りくずは良好に排出された。また、図5の右図に示されるように、切りくずのカール径は略均一であり、切りくずの各々の長さも略均一であった。
【0026】
図6の左図に示されるように、第2実施例によるスパイラルタップ1では、テーパ部5のこう配角度が15度である点において第1実施例によるスパイラルタップ1と異なる。第2実施例によるスパイラルタップ1を用いた場合、切りくずの噛み込み及び噛み込みによるスパイラルタップ1の刃欠けや切削トルクの上昇、折損等は確認されず、切りくずは良好に排出された。また、図6の右図に示されるように、切りくずのカール径は略均一であり、切りくずの各々の長さも略均一であった。
【0027】
図7(A)の左図に示されるように、第1比較例によるスパイラルタップでは、テーパ部のこう配角度が30度である点において第1実施例によるスパイラルタップ1と異なる。第1比較例によるスパイラルタップを用いた場合、切りくずの噛み込みが発生し、切りくずは良好に排出されなかった。また、切削トルクの上昇は僅かに確認された。一方で、噛み込みによるスパイラルタップ1の刃欠けや折損等は確認されなかった。図7(A)の右図に示されるように、切りくずは、カールしきれずに、細かく分断された。
【0028】
図7(B)の左図に示されるように、第2比較例によるスパイラルタップでは、テーパ部のこう配角度が5度である。また、テーパ部のこう配角度が小さいことから、ガイド部は実質的に設けられていない。第2比較例によるスパイラルタップを用いた場合、切りくずの噛み込み及び切削トルクの上昇が発生した。一方で、切りくずは比較的良好に排出された。また、噛み込みによるスパイラルタップ1の刃欠けや折損は確認されなかった。図7(B)の右図に示されるように、切りくずのカール径は比較的均一であるが、長さに多少のばらつきがあった。
【0029】
図7(C)の左図に示されるように、第3比較例によるスパイラルタップでは、テーパ部のこう配角度が15度であるが、ガイド部が設けられていない点において第1実施例によるスパイラルタップ1と異なる。第3比較例によるスパイラルタップを用いた場合、切りくずの噛み込みが発生し、切りくずは良好に排出されなかった。また、切削トルクの上昇は僅かに確認され、切りくずがスパイラルタップに対して絡むことが確認された。図7(C)の右図に示されるように、切りくずは、カールしきれずに、細かく分断された。
【0030】
以上より、スパイラルタップ1によれば、安定した切りくずの排出が可能となり、連続加工時の切りくずの絡まり等が防止される。
【符号の説明】
【0031】
1 スパイラルタップ
2 おねじ部
3 食付き部
4 完全山部
5 テーパ部
6 シャンク
7 ガイド部
8 ねじれ溝
9 ネック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7