(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140545
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】斜軸式液圧回転機
(51)【国際特許分類】
F04B 1/2021 20200101AFI20241003BHJP
F04B 1/24 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F04B1/2021
F04B1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051727
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】土田 大嗣
【テーマコード(参考)】
3H070
【Fターム(参考)】
3H070BB05
3H070BB06
3H070CC27
3H070CC28
3H070DD07
3H070DD91
3H070DD96
(57)【要約】
【課題】ポンプヘッドと弁板との摺動部および当該摺動部に供給される潤滑油の温度上昇を、より効果的に抑制可能な斜軸式液圧回転機を提供する。
【解決手段】実施形態のポンプは、ケーシング本体12の端面12aおよびポンプヘッド14の端面14aの間に介在する基板部71と、基板部71から張り出してケーシング10の外側に露出する放熱部72とを有する金属ガスケット70を備え、基板部71は、ポンプヘッド14の内側表面に沿ってケーシング本体12の開口122の内側まで延在しており、凹形状部15の外周縁部15a、15bに沿って形成された開口部71aを有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング本体および前記ケーシング本体の開口を塞ぐポンプヘッドを含むケーシングと、
前記ケーシング内に収容されて回転する駆動シャフトと、
前記ケーシング内に収容され、前記駆動シャフトに対して傾斜した状態で前記駆動シャフトの回転に伴って回転し、複数のピストンがそれぞれ挿入される複数のシリンダおよび前記複数のシリンダのそれぞれに対応する複数のシリンダポートが設けられたシリンダブロックと、
前記ケーシング内において前記ポンプヘッドに形成された凹形状部に摺動自在に当接すると共に前記シリンダブロックと摺動自在に当接し、前記シリンダブロックの回転によって前記シリンダブロックの前記複数のシリンダポートが連通する弁板と、
前記弁板を前記凹形状部に沿って移動させて前記シリンダブロックおよび前記ピストンの傾転を制御する傾転機構と
を備えた斜軸式液圧回転機であって、
前記ケーシング本体および前記ポンプヘッドの間に介在する基板部と、前記基板部から張り出して前記ケーシングの外側に露出する放熱部とを有する金属ガスケットを備え、
前記基板部は、前記ポンプヘッドの内側表面に沿って前記ケーシング本体の前記開口の内側まで延在しており、前記凹形状部の外周縁部に沿って形成された開口部を有する
斜軸式液圧回転機。
【請求項2】
前記ポンプヘッドの前記凹形状部は、前記弁板と摺動自在に当接する摺動面と、前記摺動面よりも大きく窪み前記弁板と当接しない非摺動面とを含み、
前記金属ガスケットは、前記非摺動面に当接する当接部を有する
請求項1に記載の斜軸式液圧回転機。
【請求項3】
前記ポンプヘッドの前記非摺動面には、前記ポンプヘッドから前記弁板へと流れる作動油の吐出口が形成され、
前記金属ガスケットの前記当接部は、前記基板部から前記吐出口の縁部まで延びる
請求項2に記載の斜軸式液圧回転機。
【請求項4】
前記金属ガスケットは、前記当接部に設けられて前記吐出口に挿入される共に、少なくとも前記ポンプヘッド側の端面から前記弁板側の端面まで延びる複数の連通路が形成された吸熱部材を有する請求項3に記載の斜軸式液圧回転機。
【請求項5】
前記吸熱部材は、前記端面とは異なる互いに対向する端面の間を延び、前記複数の連通路と接続された複数の第2の連通路を有する請求項4に記載の斜軸式液圧回転機。
【請求項6】
前記放熱部は、複数の放熱フィンを有する請求項1に記載の斜軸式液圧回転機。
【請求項7】
前記ケーシング本体および前記ポンプヘッドは、前記傾転機構と前記傾転機構を駆動させる油圧式のレギュレータとの間で作動油を流通させる作動油流路を有し、
前記金属ガスケットの前記基板部には、前記ケーシング本体の前記作動油流路と前記ポンプヘッドの前記作動油流路とを連通させる複数の連通孔が形成されている
請求項1に記載の斜軸式液圧回転機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は斜軸式液圧回転機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜軸式液圧回転機といった液圧回転機に関する技術が知られている。例えば、特許文献1には、ケーシングを構成するヘッドケーシング(ポンプヘッド)に対して弁板が摺動して傾転する可変容量型の斜軸式液圧回転機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液圧回転機は、複数の摺動部を有しており、これら摺動部は、高い摺動面圧や微小摺動を原因とする摺動部品同士の焼付きや異常摩耗などを抑制するために潤滑油(作動油)による潤滑が必要である。特に、上記特許文献1に記載された斜軸式液圧回転機のポンプヘッドと弁板との摺動部では、長時間にわたって弁板が変位しない場合、ポンプヘッドと弁板との間に潤滑油が供給されづらくなる。また、ポンプの振動によってポンプヘッドと弁板とは常に微小摺動する。このため、ポンプヘッドと弁板との間の油膜切れが生じる可能性がある。このような潤滑油の油膜切れを抑制し、また、高温環境で低下しがちな潤滑油の潤滑性能を維持するためには、できる限り潤滑油および摺動部の温度上昇を抑制することが求められる。
【0005】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ポンプヘッドと弁板との摺動部および当該摺動部に供給される潤滑油の温度上昇を、より効果的に抑制可能な斜軸式液圧回転機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の斜軸式液圧回転機は、ケーシング本体および前記ケーシング本体の開口を塞ぐポンプヘッドを含むケーシングと、前記ケーシング内に収容されて回転する駆動シャフトと、前記ケーシング内に収容され、前記駆動シャフトに対して傾斜した状態で前記駆動シャフトの回転に伴って回転し、複数のピストンがそれぞれ挿入される複数のシリンダおよび前記複数のシリンダのそれぞれに対応する複数のシリンダポートが設けられたシリンダブロックと、前記ケーシング内において前記ポンプヘッドに形成された凹形状部に摺動自在に当接すると共に前記シリンダブロックと摺動自在に当接し、前記シリンダブロックの回転によって前記シリンダブロックの前記複数のシリンダポートが連通する弁板と、前記弁板を前記凹形状部に沿って移動させて前記シリンダブロックおよび前記ピストンの傾転を制御する傾転機構とを備えた斜軸式液圧回転機であって、前記ケーシング本体および前記ポンプヘッドの間に介在する基板部と、前記基板部から張り出して前記ケーシングの外側に露出する放熱部とを有する金属ガスケットを備え、前記基板部は、前記ポンプヘッドの内側表面に沿って前記ケーシング本体の前記開口の内側まで延在しており、前記凹形状部の外周縁部に沿って形成された開口部を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の斜軸式液圧回転機によれば、ポンプヘッドと弁板との摺動部および当該摺動部に供給される潤滑油の温度上昇を、より効果的に抑制可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態の斜軸式液圧回転機としての斜軸式油圧ポンプの概略構成を示す説明図である。
【
図2】ポンプヘッド、弁板および金属ガスケットを示す分解斜視図である。
【
図4】ポンプヘッドをケーシング本体側から視た正面図である。
【
図5】金属ガスケットをケーシング本体側から視た正面図である。
【
図6】金属ガスケットを
図5の側方から視た側面図である。
【
図7】金属ガスケットにおける熱の流れの一例を示す説明図である。
【
図8】2ポンプ式の斜軸式液圧回転機に適用される金属ガスケットの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づき本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
(斜軸式油圧ポンプ)
図1は、実施形態の斜軸式液圧回転機としての斜軸式油圧ポンプの概略構成を示す説明図である。斜軸式油圧ポンプ1(以下、単に「ポンプ1」と称する)は、例えば油圧ショベルといった建設機械などに搭載され、エンジンや電動モータなどの駆動源によって駆動されて作動油を下流側の各種油圧機器に圧送する可変容量型の油圧ポンプである。ポンプ1は、ケーシング本体12およびポンプヘッド14を含むケーシング10と、駆動シャフト20と、センタシャフト24と、複数のピストン26と、シリンダブロック30と、弁板40と、傾転機構50と、レギュレータ60と、金属ガスケット70とを備えている。
【0011】
(ケーシング本体)
ケーシング本体12は、一端側に底部121が配置されると共に、他端側に開口122が形成された有底筒状部材である。ケーシング本体12は、例えば鋳鉄により形成される。ケーシング本体12は、ポンプヘッド14と共にポンプ1の外殻となるケーシング10を形成する。ケーシング本体12には、レギュレータ60との間で作動油を流通させる作動油流路CL1、CL2が形成されている。作動油流路CL1、CL2は、レギュレータ60に接続される位置からポンプヘッド14側の端面12aまでケーシング本体12の内部を延びる。
【0012】
(ポンプヘッド)
ポンプヘッド14は、ケーシング本体12の開口122を閉塞する矩形状部材である。ポンプヘッド14は、例えば鋳鉄により形成される。以下、
図1から
図4を参照しながら、ポンプヘッド14の構成について説明する。
図2は、ポンプヘッド14、弁板40および金属ガスケット70を示す分解斜視図である。
図3は、ポンプヘッド14を示す斜視図である。
図4は、ポンプヘッド14をケーシング本体12側から視た正面図である。
【0013】
ポンプヘッド14は、金属ガスケット70を介してケーシング本体12のポンプヘッド14側の端面12aと当接する端面14aを有する。ケーシング本体12とポンプヘッド14とは、端面12aおよび端面14aで互いに接合される。また、ポンプヘッド14は、端面14aからケーシング本体12とは反対側に向けて円弧状に窪む凹形状部15を有している。凹形状部15は、弁板40が摺動自在に篏合される部分である。
【0014】
凹形状部15は、
図3および
図4に示すように、一対の摺動面152と、非摺動面154と、一対の側面156とを含む。なお、
図4では、一対の摺動面152に斜線を付して示している。一対の摺動面152は、弁板40が傾転機構50により傾転する際の軌道面を形成し、円弧状に延びる。一対の摺動面152は、端面14aに沿った方向(
図4の左右方向)において互いに間隔を空けて形成されている。非摺動面154は、端面14aに沿った方向において一対の摺動面152の間に形成され、一対の摺動面152よりもケーシング本体12とは反対側に向けて大きく窪む。非摺動面154は、弁板40とは当接しない面となる。一対の側面156は、摺動面152の端面14aに沿った方向の端部からケーシング本体12側に延びる。また、端面14aに沿った方向において、一対の側面156の外側には、ケーシング本体12とは反対側に向けて凹形状に窪む位置決め部158が形成されている。位置決め部158は、金属ガスケット70を位置決めすると共に支持するための部分となる。
【0015】
また、ポンプヘッド14は、
図3に白抜き矢印で作動油の流れを示すように、図示しない作動油タンクからの作動油を弁板40側へと供給する吸入流路を有する。吸入流路は、上記作動油タンクに接続された吸入口161から、非摺動面154に形成された吐出口162までポンプヘッド14の内部を延びる。また、ポンプヘッド14は、
図3に灰色矢印で作動油の流れを示すように、弁板40側からの作動油を下流側の図示しない油圧機器へと供給する吐出流路を有する。吐出流路は、摺動面152に形成された吸入口163から、図示しない油圧機器と接続された図示しない吐出口までポンプヘッド14の内部を延びる。なお、上記吸入流路および上記吐出流路は、以下に説明する作動油流路PL1、PL2や、シリンダ52の各油圧室と連通するものではない。
【0016】
さらに、ポンプヘッド14は、
図1に示すように、レギュレータ60との間で作動油を流通させる作動油流路PL1、PL2を有する。作動油流路PL1は、図示しないパイロットポンプに接続された吸入口164(
図3参照)から端面14aに形成された吐出口165(
図3参照)までポンプヘッド14の内部を延びる。なお、
図3の斜線を付した矢印は、作動油流路PL1、PL2を流れる作動油の流れを示す。作動油流路PL1は、ポンプヘッド14の内部に形成された傾転機構50のシリンダ52の第1油圧室52aと連通すると共に、金属ガスケット70に形成された第1連通孔711を介してケーシング本体12の作動油流路CL1と連通する。それにより、作動油流路CL1、PL1および第1連通孔711は、図示しないパイロットポンプとレギュレータ60および第1油圧室52aとを連通させる第1作動油流路L1を構成する。一方、作動油流路PL2は、ポンプヘッド14の内部に形成されたシリンダ52の第2油圧室52bから、端面14aに形成された吸入口166までポンプヘッド14の内部を延びる。作動油流路PL2は、金属ガスケット70に形成された第2連通孔712を介してケーシング本体12の作動油流路CL2と連通する。それにより、作動油流路CL2、PL2および第2連通孔712は、レギュレータ60と第2油圧室52bとを連通させる第2作動油流路L2を構成する。なお、
図1では、第1作動油流路L1および第2作動油流路L2の形成位置の一例を記載している。
【0017】
(駆動シャフト)
駆動シャフト20は、ケーシング10内に収容され、ケーシング本体12により複数の軸受けを介して回転自在に支持される。駆動シャフト20は、ケーシング本体12を貫通してケーシング10の外側に位置する突出端が図示しない駆動源に接続される。一方、駆動シャフト20のケーシング10の内側に位置する内側端には、円板状の駆動ディスク22が設けられている。駆動ディスク22には、その中心にセンタシャフト24が揺動自在に取り付けられると共に、駆動シャフト20の周方向に沿って互いに間隔を空けて複数のピストン26が揺動自在に取り付けられる。
【0018】
(シリンダブロック)
シリンダブロック30は、ケーシング10内に収容された円柱状部材である。シリンダブロック30は、中心軸に沿って形成されたセンタ孔にセンタシャフト24が篏合されており、センタシャフト24によって駆動シャフト20に対するセンタリングがなされる。また、シリンダブロック30には、センタ孔の周囲で周方向に沿って互いに間隔を空けて形成された複数のシリンダ32内に、複数のピストン26がそれぞれ摺動自在に挿入されている。シリンダブロック30は、複数のシリンダ32のそれぞれに対応する複数のシリンダポート33が設けられている。シリンダブロック30は、センタシャフト24および複数のピストン26を介して駆動ディスク22に連結され、駆動ディスク22と一体に回転する。
【0019】
(弁板)
弁板40は、ケーシング10内において、ポンプヘッド14とシリンダブロック30との間に介在する。弁板40は、
図1および
図2に示すように、四角形状の外形に形成されており、ポンプヘッド14の凹形状部15に篏合される。弁板40は、
図1に示すように、シリンダブロック30と対面する端面41で当該シリンダブロック30と摺動自在に当接する。一方、弁板40のポンプヘッド14側と対面する端面42は、上記凹形状部15の一対の摺動面152に沿って円弧状に形成されている。弁板40は、端面42が一対の摺動面152に摺動自在に当接すると共に、一対の側面43が凹形状部15の一対の側面156に摺動自在に当接するように、凹形状部15内に挿入される。それにより、弁板40は、凹形状部15内でポンプヘッド14に対して一対の摺動面152に沿って摺動自在に配置される。
【0020】
また、弁板40は、
図1に示すように、端面41から端面42まで中央部を貫通する貫通孔40aが形成されている。貫通孔40a内には、センタシャフト24から延出された延出部が篏合される。また、貫通孔40a内には、傾転機構50のサーボピストン54に設けられたサーボピン54pが篏合される。
【0021】
さらに、弁板40は、貫通孔40aの周囲で端面41から端面42まで貫通する吸入ポート45と吐出ポート46とを有する。吸入ポート45および吐出ポート46は、円弧状または眉形状に形成されている。弁板40がポンプヘッド14の凹形状部15の摺動面152に当接した状態では、
図4に破線で示すように、吸入ポート45がポンプヘッド14の吐出口162(すなわち吸入流路)と連通すると共に、吐出ポート46がポンプヘッド14の吸入口163(すなわち吐出流路)と連通する。吸入ポート45および吐出ポート46は、シリンダブロック30の回転に伴って、シリンダブロック30に形成された各シリンダポート33を介して、各シリンダ32と間欠的に連通するように構成されている。
【0022】
以上の構成により、駆動シャフト20が回転すると、シリンダブロック30が駆動ディスク22と一体に回転し、シリンダブロック30内の各ピストン26がシリンダ32内を上死点から下死点へと摺動する吸入工程と、各ピストン26がシリンダ32内を下死点から上死点へと摺動する吐出工程とを繰り返す。吸入工程では、ポンプヘッド14の吸入流路および弁板40の吸入ポート45を介してシリンダ32内に作動油が吸入される。吐出工程では、シリンダ32でピストン26により圧縮された作動油が弁板40の吐出ポート46およびポンプヘッド14の排出流路を介して下流側の油圧機器へと圧送される。
【0023】
(傾転機構)
傾転機構50は、弁板40を凹形状部15に沿って移動させてシリンダブロック30および複数のピストン26の傾転を制御する機構である。傾転機構50は、
図1に示すように、ポンプヘッド14内に形成されたシリンダ52と、シリンダ52内に摺動自在に挿入されたサーボピストン54とを有する。シリンダ52においては、上述したように、ポンプヘッド14の作動油流路PL1(すなわち第1作動油流路L1)と第1油圧室52aとが連通している。また、この作動油流路PL1および第1油圧室52aには、パイロットポンプ(図示せず)から一定圧の作動油が供給される。一方、シリンダ52における作動油流路PL2(すなわち第2作動油流路L2)と第2油圧室52bとが連通すると共に、レギュレータ60を介してパイロットポンプからの作動油が作動油流路PL2および第2油圧室52bに供給される。それにより、レギュレータ60の動作に応じて第1油圧室52aまたは第2油圧室52bに作動油が供給されることで、サーボピストン54がシリンダ52内で摺動して移動する。
【0024】
サーボピストン54は、移動方向の中央部に弁板40側に向けて突出するサーボピン54pを有する。サーボピストン54のサーボピン54pが形成された箇所近傍は、
図2から
図4に示すように、ポンプヘッド14の吐出流路内に配置されており、サーボピン54pが吐出口162から弁板40側へと露出するように構成されている。そして、サーボピン54pは、弁板40の貫通孔40aに篏合される。サーボピストン54がシリンダ52内で移動すると、サーボピン54pが篏合された弁板40がポンプヘッド14の摺動面152に沿って摺動し、弁板40とシリンダブロック30とが駆動シャフト20に対して傾転する。このように、傾転機構50は、駆動シャフト20に対するシリンダブロック30と弁板40の傾転角度を所定の位置間で調整する。それにより、ピストン26のストローク長が増減し、シリンダ32内における作動油の吸入量および吐出量が調整される。すなわち、斜軸式油圧ポンプ1の容量を可変とすることができる。
【0025】
(レギュレータ)
レギュレータ60は、
図1に示すように、ケーシング本体12内に設けられている。レギュレータ60は、パイロットポンプからの制御油圧に応じて、スプール弁64がスリーブ62内を摺動して移動するように構成されている。それにより、スプール弁64が
図1に示す位置にある状態では、第1作動油流路L1と第2作動油流路L2とが連通しない状態となり、パイロットポンプからの作動油が傾転機構50のシリンダ52の第1油圧室52aにのみ供給される。一方、スプール弁64が
図1に示す状態から図中右側に移動すると、第1作動油流路L1と第2作動油流路L2とがレギュレータ60を介して連通される。その結果、パイロットポンプからの作動油が第1作動油流路L1、レギュレータ60および第2作動油流路L2を介して傾転機構50のシリンダ52の第2油圧室52bにも供給される。このように、レギュレータ60は、第1油圧室52aまたは第2油圧室52bへと供給される作動油の油圧を調整することで、傾転機構50のサーボピストン54の位置を調整するポンプ1の容量制御弁として機能する。
【0026】
上述のように構成されたポンプ1では、シリンダブロック30との摺動により弁板40の温度が上昇しやすい。また、高温の作動油が弁板40やポンプヘッド14の温度を上昇させる。そして、そのようにポンプ1の駆動中に温度上昇するポンプヘッド14および弁板40の摺動部を含む凹形状部15内には作動油が満たされ、作動油がポンプヘッド14と弁板40との間の潤滑油となる。しかしながら、長時間にわたって弁板40が変位しない場合、ポンプヘッド14と弁板40との間に潤滑油としての作動油が供給されづらくなってしまう。また、斜軸式油圧ポンプ1の振動によってポンプヘッド14と弁板40とは常に微小摺動する。このため、ポンプヘッド14と弁板40との間の油膜切れが生じる可能性がある。このような潤滑油の油膜切れを抑制し、また、高温環境で低下しがちな作動油の潤滑性能を維持するためには、できる限り作動油および摺動面152を中心としたポンプヘッド14、弁板40の温度上昇を抑制することが求められる。そこで、本実施形態の斜軸式油圧ポンプ1は、上記金属ガスケット70を備えている。
【0027】
(金属ガスケット)
図5は、金属ガスケット70をケーシング本体12側から視た正面図であり、
図6は、金属ガスケット70を
図5の側方から視た側面図である。また、
図7は、金属ガスケット70における熱の流れの一例を示す説明図である。なお、
図5では、後述する放熱フィン75の記載を一部省略している。
【0028】
金属ガスケット70は、
図1に示すように、ケーシング本体12とポンプヘッド14との間に介在する板状部材である。金属ガスケット70は、ケーシング10を形成する材料(例えば鋳鉄)よりも熱伝導率が高い材料(例えばアルミニウム)によって形成される。なお、金属ガスケット70は、以下に説明する各部位を別体の板状部材として、各板状部材を接合して形成されるものであってもよいし、1つの板状部材を加工して各部位が形成されるものであってもよい。金属ガスケット70は、ケーシング本体12とポンプヘッド14との間に介在する基板部71と、基板部71から連続して延出されてケーシング10の外側に露出する放熱部72とを有する。なお、放熱部72は、
図1では基板部71から奥行方向に延びてケーシング10の外側に露出するものである。
【0029】
基板部71は、ケーシング本体12の端面12aおよびポンプヘッド14の端面14aに沿って平板状に形成される。基板部71は、端面12aと端面14aとの双方に当接し、両部材間をシールするシール部としても機能する。なお、端面12aと端面14aとのシールは、別途シール部材を設けることで行ってもよい。基板部71は、ポンプヘッド14の端面14aのケーシング10内における内側表面に沿って、ケーシング本体12の開口122の内側まで延在する。基板部71には、
図5に示すように、複数のボルト孔71c(
図5にのみ例示)が形成されており、当該ボルト孔71cを介して図示しないボルトによりケーシング本体12またはポンプヘッド14に締結により固定される。また、基板部71には、作動油流路CL1および作動油流路PL1を連通させる第1連通孔711と、作動油流路CL2および作動油流路PL2を連通させる第2連通孔712とが形成されている。
【0030】
そして、基板部71には、その中央部に開口部71aが形成されている。開口部71aは、ポンプヘッド14の凹形状部15に向けて弁板40を挿入するため、すなわち、基板部71と弁板40との干渉をさけるために設けられる。本実施形態において、開口部71aは、
図5に破線で示すように、凹形状部15の最外周における外周縁部15a、15bに沿って形成される。言い換えると、基板部71は、ケーシング10内において、凹形状部15の最外周における外周縁部15a、15bまで延在する。それにより、
図7の灰色矢印で示すように、基板部71が凹形状部15の近傍、すなわち、摺動面152の近傍におけるポンプヘッド14の端面14aから吸熱することができる。
【0031】
また、基板部71には、開口部71aに近接してポンプヘッド14側に向けて凸形状に突出する一対の突出部71bが形成されている。一対の突出部71bは、ポンプヘッド14の端面14aに形成された位置決め部158に対応した位置に設けられており、当該位置決め部158に篏合される。それにより、ポンプヘッド14に対して金属ガスケット70を容易に位置決めし、かつ、ポンプヘッド14で金属ガスケット70を安定的に支持することができる。また、凹形状部15の近傍において、金属ガスケット70とポンプヘッド14の端面14aとの接触面積を増やすことができる。それにより、基板部71によりポンプヘッド14からより効果的に吸熱することが可能となる。
【0032】
さらに、基板部71は、開口部71aに周縁近傍から、一対の当接部73(
図1では、破線参照)が延出されている。一対の当接部73は、ポンプヘッド14の非摺動面154に対応した位置に設けられており、非摺動面154に沿って円弧状に形成される。一対の当接部73は、基板部71が端面14aに当接した状態で非摺動面154に当接する。ただし、一対の当接部73は、非摺動面154に当接した状態でポンプヘッド14の吐出口162を閉塞しないように、吐出口162の縁部まで延在するように形成されている。それにより、一対の当接部73によってポンプヘッド14の非摺動面154から吸熱することが可能となる。また、
図7の斜線を付した矢印で示すように、一対の当接部73によって、凹形状部15内を流れる作動油から吸熱することもできる。
【0033】
上記一対の当接部73の先端には、吸熱部材74(
図1では、破線参照)が設けられている。本実施形態において、吸熱部材74は、一対の当接部73よりもポンプヘッド14側に位置し、一対の当接部73の間を延びる板状部材として形成されている。吸熱部材74は、ポンプヘッド14の吐出口162に挿入可能な大きさに形成され、一対の当接部73が非摺動面154に当接した状態で、吐出口162を介してポンプヘッド14内の吸入流路内に配置される。ただし、吸熱部材74は、吸入流路内の上記サーボピストン54とは干渉しないように配置される。
【0034】
吸熱部材74には、ポンプヘッド14側の端面74a(
図6参照)から弁板40側の端面74b(
図6参照)までを延びる(貫通する)孔部としての複数の連通路741が2列に並んで形成されている。すなわち、吸熱部材74は、複数の連通路741により網目状(格子状)に形成される。ポンプヘッド14内の吸入流路を流れる作動油は、吸熱部材74の複数の連通路741や吸熱部材74の周囲を通った後、吐出口162から弁板40側へと流れる。その結果、
図7の斜線を付した矢印で模式的に示すように、吸熱部材74によって、凹形状部15内へと供給される作動油から吸熱することが可能となる。
【0035】
金属ガスケット70の放熱部72は、複数の放熱フィン75を有している。複数の放熱フィン75は、
図6に示すように、放熱部72の両面から板厚方向に向けて突出する平板状のフィンとして形成されている。上述のようにして金属ガスケット70に吸熱された熱は、
図7の白抜き矢印に示すように、基板部71を通してケーシング10の外側に露出する放熱部72へと伝わり、放熱部72からポンプ1の外部へと放熱される。このとき、複数の放熱フィン75を介して効果的に放熱することが可能となる。なお、放熱フィン75の形状や数、形成位置は、十分な放熱効果を得られ、かつ、ケーシング10やポンプ1の周囲の部品との干渉を避けることができるように設定されればよい。
【0036】
(実施形態の効果)
以上説明したように、実施形態のポンプ(斜軸式液圧回転機)1は、ケーシング本体12の端面12aおよびポンプヘッド14の端面14aの間に介在する基板部71と、基板部71から張り出してケーシング10の外側に露出する放熱部72とを有する金属ガスケット70を備え、基板部71は、ポンプヘッド14の内側表面に沿ってケーシング本体12の開口122の内側まで延在しており、凹形状部15の外周縁部15a、15bに沿って形成された開口部71aを有する。
【0037】
この構成により、開口部71aによって金属ガスケット70の基板部71と弁板40との干渉を避けつつ、基板部71をケーシング10内の凹形状部15の外周縁部15a、15bまで延在させることができる。その結果、基板部71によって、凹形状部15の近傍におけるポンプヘッド14の端面14aから吸熱することが可能となる。そして、基板部71から連続して延出され、ケーシング10の外側へと露出する放熱部72により、上記吸熱した熱を小さい伝達ロスでポンプ1の外部へと放熱することができる。したがって、実施形態のポンプ1によれば、ポンプヘッド14と弁板40との摺動部(摺動面152)および当該摺動部に供給される潤滑油としての作動油の温度上昇を、より効果的に抑制可能となる。ひいては、摺動面152に供給される作動油の油膜切れや、摺動面152の異常摩耗といったリスクを低減させることができる。
【0038】
また、ポンプヘッド14の凹形状部15は、弁板40と摺動自在に当接する摺動面152と、摺動面152よりも大きく窪み弁板40と当接しない非摺動面154とを含み、金属ガスケット70は、基板部71から延出されて非摺動面154に当接する一対の当接部73を有する。この構成により、一対の当接部73によって、ポンプヘッド14の非摺動面154からの吸熱、凹形状部15内を流れる作動油からの吸熱が可能となる。その結果、ポンプヘッド14と弁板40との摺動環境の温度上昇を、さらに効果的に抑制することができる。
【0039】
また、ポンプヘッド14の非摺動面154には、ポンプヘッド14から弁板40へと流れる作動油の吐出口162が形成され、金属ガスケット70の当接部73は、基板部71から吐出口162の縁部まで延びる。この構成により、当接部73によって吐出口162からの作動油の吐出が妨げられないようにしながら、非摺動面154からの吸熱を行うことができる。
【0040】
また、金属ガスケット70は、当接部73に設けられて吐出口162に挿入される共に、ポンプヘッド14側の端面74aから弁板40側の端面74bまで延びる複数の連通路741が形成された吸熱部材74を有する。この構成により、吸熱部材74によって複数の連通路741を通過する作動油からの吸熱が可能となり、作動油の温度上昇をさらに効果的に抑制することができる。
【0041】
また、放熱部72は、複数の放熱フィン75を有する。この構成により、基板部71で吸熱した熱を放熱部72からより効果的にポンプ1の外部へと放熱することができる。
【0042】
また、ケーシング本体12およびポンプヘッド14は、傾転機構50と傾転機構50を駆動させる油圧式のレギュレータ60との間で作動油を流通させる作動油流路CL1、作動油流路CL2、作動油流路PL1および作動油流路PL2を有し、金属ガスケット70の基板部71は、作動油流路CL1と作動油流路PL1とを連通させる第1連通孔(連通孔)711、作動油流路CL2と作動油流路PL2とを連通させる第2連通孔(連通孔)712が形成されている。この構成により、基板部71をケーシング本体12およびポンプヘッド14の間に介在させつつ、レギュレータ60と傾転機構50との間で作動油を流通させることができる。
【0043】
(変形例)
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明は、斜軸式ポンプに限らず、斜軸式モータといった他の斜軸式液圧回転機に適用されてもよい。
【0044】
また、本実施形態では、1ポンプ式の斜軸式液圧回転機に本発明を適用したが、本発明は、2ポンプ式の斜軸式液圧回転機に適用してもよい。
図8は、2ポンプ式の斜軸式液圧回転機に適用される金属ガスケット80の一例を示す説明図である。2ポンプ式の斜軸式液圧回転機は、少なくとも上記駆動シャフト20、複数のピストン26、シリンダブロック30、弁板40を一対で有し、ポンプヘッド14の凹形状部15も一対で形成される。そこで、金属ガスケット80は、一対の凹形状部15や弁板40にあわせて、上記開口部71a、一対の当接部73および吸熱部材74を一対で備えるものであればよい。
【0045】
また、本実施形態では、吸熱部材74を板状部材として形成したが、吸熱部材の形状は、これに限られない。
図9は、吸熱部材の他の例を示す説明図ある。
図9に示す吸熱部材84は、直方体状に形成される。つまり、吸熱部材84は、上記吸熱部材74の厚みをより大きくしたものといえる。そして、吸熱部材84には、端面74a、74bを貫通する複数の連通路741に加えて、端面74a、74bとは異なる他の互いに対向する端面74c、74dの間を延びる複数の連通路(第2の連通路)742、端面74d、74fの間を延びる複数の連通路(第2の連通路)743が形成されている。複数の連通路741、742、743は、吸熱部材84の内部で互いに接続される。この構成により、吸熱部材84と作動油との接触面積をさらに増加させ、より吸熱効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 ポンプ(斜軸式液圧回転機)
10 ケーシング
12 ケーシング本体
122 開口
14 ポンプヘッド
15 凹形状部
15a、15b 外周縁部
152 摺動面
154 非摺動面
162 吐出口
20 駆動シャフト
30 シリンダヘッド
32 シリンダ
33 シリンダポート
40 弁板
50 傾転機構
60 レギュレータ
70、80 金属ガスケット
71 基板部
71a 開口部
711 第1連通孔(連通孔)
712 第2連通孔(連通孔)
72 放熱部
73 一対の当接部
74、84 吸熱部材
741 連通路
742、743 連通路(第2の連通路)
74a、74b、74c、74d、74d、74f 端面
75 放熱フィン
CL1、CL2、PL1、PL2 作動油流路
L1 第1作動油流路
L2 第2作動油流路