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特開2024-140556歩行軌道測定装置、処理装置、歩行軌道計測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140556
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】歩行軌道測定装置、処理装置、歩行軌道計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241003BHJP
   G01C 21/26 20060101ALN20241003BHJP
【FI】
A61B5/11 230
G01C21/26 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051741
(22)【出願日】2023-03-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年3月30日に、ウェブサイト上のアドレス(https://www.nature.com/articles/s41598-022-09372-w)に発表
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】三宅 美博
(72)【発明者】
【氏名】内富 寛隆
【テーマコード(参考)】
2F129
4C038
【Fターム(参考)】
2F129AA02
2F129BB22
2F129BB26
2F129EE94
4C038VA04
4C038VA12
4C038VB14
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】長期間にわたる連続的な歩行軌道を高精度に測定する。
【解決手段】センサ110は、歩行者20の下腿22に取り付けられる。処理装置120は、センサ110が生成する3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データにもとづいて、歩行軌道を計算する。処理装置120は、センサ110が生成するデータにもとづいて1歩ごとの歩行軌道S3を計算する。処理装置120は、隣接するストライドベクトルがなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出し、当該回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道S3を結合することにより連続歩行軌道S5を生成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行軌道測定装置であって、
歩行者の下腿に取り付けられるセンサと、
前記センサが生成する3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データにもとづいて、歩行軌道を計算する処理装置と、
を備え、
前記処理装置は、
前記センサが生成するデータにもとづいて1歩ごとの歩行軌道を計算し、隣接するストライドベクトルがなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出し、当該回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合することにより連続歩行軌道を生成することを特徴とする歩行軌道測定装置。
【請求項2】
歩行軌道を計算する処理装置であって、
歩行者の下腿に取り付けられたセンサから、3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データを受信するインタフェース部と、
前記時系列データから1歩ごとの波形を切り出し、1歩ごとの歩行軌道を計算するローカル歩行軌道算出部と、
隣接する歩行軌道のストライドベクトルのなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出する回転角算出部と、
前記回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合することにより連続歩行軌道を生成する結合部と、
を備えることを特徴とする処理装置。
【請求項3】
歩行者の下腿に取り付けられたセンサによって、3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データを生成するステップと、
前記時系列データから1歩ごとの波形を切り出し、1歩ごとの歩行軌道を計算するステップと、
隣接する歩行軌道のストライドベクトルのなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出するステップと、
前記回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合することにより連続歩行軌道を生成するステップと、
を備えることを特徴とする歩行軌道計測方法。
【請求項4】
歩行者の下腿に取り付けられたセンサによって、3次元の加速度データおよび角速度データを含む計測データを計測するステップと、
前記計測データに基づいて3次元の歩行軌道を生成するステップと、
を備え、
前記歩行軌道を生成するステップは、
1歩分の第1歩行軌道およびその直前の隣接する1歩分の第2歩行軌道に基づいて、前記第1歩行軌道と前記第2歩行軌道との隣接軌道差分角度を生成することを特徴とする歩行軌道計測方法。
【請求項5】
前記隣接軌道差分角度は、前記第1歩行軌道の第1始点位置から第1終点位置までの第1ストライドベクトルと、前記第2歩行軌道の第2始点位置から第2終点位置までの第2ストライドベクトルと、から算出されるストライドベクトル差分角度に基づいて決定されることを特徴とする請求項4に記載の歩行軌道計測方法。
【請求項6】
前記ストライドベクトル差分角度は、前記計測データから第1始点位置の第1下腿方向および第2始点位置の第2下腿方向から算出される下腿方向差分角度に基づいて決定されることを特徴とする請求項5に記載の歩行軌道計測方法。
【請求項7】
前記ストライドベクトル差分角度は、さらに、第1下腿方向に対する第1ストライドベクトルがなす第1移動方向角度と、第2下腿方向に対する第2ストライドベクトルがなす第2移動方向角度と、から決定されることを特徴とする請求項6に記載の歩行軌道計測方法。
【請求項8】
前記歩行軌道を生成するステップは、隣接軌道差分角度を積分することによりグローバル座標を決定するステップを備え、
前記グローバル座標に対して前記第1歩行軌道がなす第1角と、前記グローバル座標に対して前記第2歩行軌道がなす第2角と、に基づいて、前記第1歩行軌道と前記第2歩行軌道とを連結して、前記連続歩行軌道を生成することを特徴とする請求項7に記載の歩行軌道計測方法。
【請求項9】
前記角速度データに基づいて前記計測データを分割することで第1分割データおよび第2分割データを生成し、前記第1分割データにもとづいて前記第1歩行軌道を算出するとともに、前記第2分割データにもとづいて前記第2歩行軌道を算出することを特徴とする請求項8に記載の歩行軌道計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歩行軌道の測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行軌道をウェアラブルに計測及び推定しようとする場合、慣性センサが利用される。
【0003】
特許文献1には、遊脚期間毎に区切られた加速度等データを積分処理することで誤差補正を行い、一歩毎の歩行軌道を推定する技術が開示される。また特許文献2には、慣性センサの計測データのドリフト等の誤差補正にGPSの位置情報を利用して、身体に装着した慣性センサで歩行運動を解析する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-110399号公報
【特許文献2】特開2014-059315号公報
【特許文献3】国際公開WO2017/065241号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、一歩毎の歩行軌道の算出にフォーカスしており、人間の連続的な歩行運動の移動軌跡は推定できない。また特許文献2では、GPSでドリフト等の誤差補正を実施するため、GPSの電波の届かない場所では使用できない。またGPS計測精度が十分ではなく、一歩毎の足部の歩行軌道等のような小さな動きを解析する際のドリフト補正には適用が難しい。
【0006】
本開示は係る状況においてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、長期間にわたる連続的な歩行軌道を高精度に測定可能な歩行測定技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある態様は、歩行軌道測定装置に関する。歩行軌道測定装置は、歩行者の下腿に取り付けられるセンサと、センサが生成する3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データにもとづいて、歩行軌道を計算する処理装置と、を備える。処理装置は、センサが生成するデータにもとづいて1歩ごとの歩行軌道を計算し、隣接するストライドベクトルがなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出し、当該回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合することにより連続歩行軌道を生成する。
【0008】
本開示の別の態様は、歩行軌道を計算する処理装置である。処理装置は、歩行者の下腿に取り付けられたセンサから、3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データを受信するインタフェース部と、時系列データから1歩ごとの波形を切り出し、1歩ごとの歩行軌道を計算するローカル歩行軌道算出部と、隣接する歩行軌道のストライドベクトルのなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出する回転角算出部と、回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合することにより連続歩行軌道を生成する結合部と、を備える。
【0009】
本開示のさらに別の態様は、歩行軌道計測方法である。この方法は、歩行者の下腿に取り付けられたセンサによって、3次元の加速度および3次元の角速度を含む時系列データを生成するステップと、時系列データから1歩ごとの波形を切り出し、1歩ごとの歩行軌道を計算するステップと、隣接する歩行軌道のストライドベクトルのなす角度δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出するステップと、回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合することにより連続歩行軌道を生成するステップと、を備える。
【0010】
本開示のさらに別の態様は、歩行軌道計測方法に関する。この方法は、歩行者の下腿に取り付けられたセンサによって、3次元の加速度データおよび角速度データを含む計測データを計測するステップと、前記計測データに基づいて3次元の歩行軌道を生成するステップと、を備える。歩行軌道を生成するステップは、1歩分の第1歩行軌道およびその直前の隣接する1歩分の第2歩行軌道に基づいて、第1歩行軌道と第2歩行軌道との隣接軌道差分角度Δθを生成する。
【0011】
ある態様において、隣接軌道差分角度Δθは、第1歩行軌道の第1始点位置から第1終点位置までの第1ストライドベクトルと、第2歩行軌道の第2始点位置から第2終点位置までの第2ストライドベクトルと、から算出されるストライドベクトル差分角度Δθに基づいて決定されてもよい。
【0012】
ある態様において、ストライドベクトル差分角度Δθは、計測データから第1始点位置の第1下腿方向および第2始点位置の第2下腿方向から算出される下腿方向差分角度δθに基づいて決定されてもよい。
【0013】
ある態様において、ストライドベクトル差分角度は、さらに、第1下腿方向に対する第1ストライドベクトルがなす第1移動方向角度ξと、第2下腿方向に対する第2ストライドベクトルがなす第2移動方向角度ξと、から決定されてもよい。
【0014】
ある態様において、歩行軌道を生成するステップは、隣接軌道差分角度Δθを積分することによりグローバル座標を決定するステップを備えてもよい。グローバル座標に対して第1歩行軌道がなす第1角θ(i)および、グローバル座標に対して第2歩行軌道がなす第2角θ(i)に基づいて、第1歩行軌道と第2歩行軌道とを連結して、連続歩行軌道を生成してもよい。
【0015】
ある態様において、角速度データに基づいて計測データを分割することで第1分割データおよび第2分割データを生成し、第1分割データにもとづいて第1歩行軌道を算出するとともに、第2分割データにもとづいて第2歩行軌道を算出してもよい。
【0016】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、あるいは本開示の表現を、方法、装置などの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0017】
本開示のある態様によれば、歩行軌道を高精度で推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る歩行軌道の測定装置を示す図である。
図2】センサが測定する加速度および角速度を説明する図である。
図3】歩行軌道を説明する図である。
図4】実施形態に係る連続歩行軌道推定方法を示すフローチャートである。
図5】1歩ごとの歩行軌道の例を示す図である。
図6】複数のサイクルにわたる歩行軌道の連続を説明する図である。
図7】回転角θ(i)を説明する図である。
図8図8(a)~(i)は、実験時の歩行環境を説明する図である。
図9】比較技術に係る歩行測定方法のアルゴリズムを示す図である。
図10】比較技術における回転角θmsの計算を説明する図である。
図11図11(a)~(i)は、実施形態に係る測定装置によって生成された3次元の連続歩行軌道を示す図である。
図12図12(a)~(i)は、実施形態に係る測定装置によって生成された水平面内の連続歩行軌道を示す図である。
図13図13(a)~(i)は、実施形態とゴールデンスタンダードそれぞれにより得られた回転角θに関するピアソンの積率相関分析結果を示す図である。
図14図14(a)~(i)は、実施形態とゴールデンスタンダードそれぞれにより得られたストライド長に関するピアソンの積率相関分析結果を示す図である。
図15図15(a)は、ストライド長に関する実施形態の測定結果とゴールデンスタンダードのBland-Altman分析の結果を示す図であり、図15(b)は、回転角に関する実施形態の測定結果とゴールデンスタンダードのBland-Altman分析の結果を示す図である。
図16図16(a)~(c)は、実施形態に係る測定手法のゴールデンスタンダードに対する推定エラーのボックスプロットを示す図である。
図17】比較技術に係る測定手法によって生成された水平面内の連続歩行軌道を示す図である。
図18図18(a)~(c)は、実施形態および比較技術に係る手法それぞれの、ゴールデンスタンダードに対する推定エラーのボックスプロットを示す図である。
図19】立脚中期の検出および歩行周期の分割を説明する図である。
図20】双方向積分処理による位置時系列データp(k)の生成を説明する図である。
図21】Z軸の角速度データを示す図である。
図22】軌道推定のフローチャートである。
図23図21(a)は、X軸角度の補正を説明する図であり、図21(b)は、実施の形態に係る推定手法により、歩行時の加速度および角速度データから得られた足首の三次元軌道(1周期分)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好適な実施の形態について図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1は、実施形態に係る歩行軌道の測定装置を示す図である。測定装置100は、センサ110および処理装置120を備える。連続歩行軌跡の推定には、単一のセンサ110が利用される。センサ110は、加速度センサおよび角速度センサを含む。センサ110としては、加速度センサおよび角速度センサが統合されたIMU(IMU:Inertial Measurement Unit)を用いることができる。
【0021】
センサ110は、測定対象の人間(歩行者)20の一方の下腿22に取り付けられる。センサ110によって、3軸の加速度および3軸の角速度の時系列データ(生データ)が生成される。たとえばセンサ110は、左右一方の足の下腿の外側に取り付けられる。
【0022】
センサ110が生成する時系列データS1は、処理装置120に供給される。処理装置120は、たとえばコンピュータであり、ソフトウェアプログラムを実行することにより、時系列データS1を処理し、連続歩行軌道データS5を生成する。
【0023】
図2は、センサ110が測定する加速度および角速度を説明する図である。本実施形態では、センサ110は、下腿22の外側、くるぶしより上の歩行の妨げとならない位置に取り付けられる。センサ110のX軸は、歩行者の頭尾方向、Y軸は前後方向、Z軸は内側外側方向に対応しており、X軸、Y軸、Z軸方向それぞれの加速度データと、X軸周りの回転(ピッチング)、Y軸周りの回転(ロール)Z軸周りの回転(ヨー)それぞれの角速度データが生成される。X、Y、Zをセンサ座標系と称し、座標フレームSとも称する。
【0024】
本実施形態では、センサ110の出力にもとづいて、歩行者20の連続歩行軌道を3次元で推定する。
【0025】
図3は、歩行軌道を説明する図である。歩行軌道200は、センサ110の通過する軌道として測定される。なおセンサ座標系は歩行運動とともに常に動くため、最終的な3次元の連続歩行軌道は、固定された座標系において与える必要がある。固定された座標系を、座標フレームCと称する。たとえば座標フレームCは、歩行開始時の初期状態におけるセンサ座標系としてもよい。これにより、歩行開始時の足部の方向を基準として歩行軌道を計算して出力することができることから、歩行開始時の足部の方向を基準として歩行軌道を意味理解したい場合に利用しやすいという効果がある。また、たとえば座標フレームCは、歩行開始時の歩行軌道の開始位置と、歩行終了時の歩行軌道の終了位置とを通る直線を座標軸の一つとして含むものとして設定してもよい。事例としては、歩行開始時の歩行軌道の開始位置と、歩行終了時の歩行軌道の終了位置とを通る直線を歩行軌道のためのフレームCにおける前後方向の軸に設定し、これと直行すると共に地面に平行な直線を左右方向の軸に設定し、さらにこれと直行すると共に地面と直行する直線を上下方向の軸に設定するというものである。これにより、歩行開始時の歩行軌道の開始位置と、歩行終了時の歩行軌道の終了位置とを基準として歩行軌道を計算して出力することができることから、歩行軌道の開始位置と終了位置とを基準として歩行軌道を意味理解したい場合に利用しやすいという効果がある。
【0026】
図1に戻る。処理装置120は、インタフェース部122、ローカル歩行軌道算出部124、回転角算出部126、結合部128を含む。なお、このブロック図は、処理装置120の機能や処理を説明するためのものであり、ハードウェアの構成を限定するものではない。
【0027】
インタフェース部122は、センサ110から3次元の加速度αおよび3次元の角速度ωを含む時系列データを受信する。受信した時系列データはメモリに格納される。ローカル歩行軌道算出部124は、時系列データS2から1歩ごとの波形を切り出し、1歩ごとの歩行軌道S3を計算する。
【0028】
回転角算出部126は、1歩ごとの歩行軌道S3のストライドベクトルvを算出する。そして、隣接する歩行軌道のストライドベクトルのなす角度(下腿方向差分角度ともいう)δθ(i)を積分することにより回転角θ(i)を算出する。
【0029】
結合部128は、回転角θ(i)を示すデータS4を利用して、1歩ごとの歩行軌道S3を結合することにより連続歩行軌道S5を生成する。
【0030】
図4は、実施形態に係る連続歩行軌道推定方法を示すフローチャートである。センサ110によって、角速度ωおよび加速度αが測定される(S100)。
【0031】
そして、角速度ωおよび加速度αにもとづいて、1歩ごとの歩行軌道を推定する(S110)。1歩ごとの歩行軌道の推定は、従来技術あるいは将来利用可能な技術を用いることができ、特に限定されない。
【0032】
1歩ごとの歩行軌道の推定については、本明細書の最後の付記に記載する。
【0033】
図5は、1歩ごとの歩行軌道の例を示す図である。1歩ごとの歩行軌道は、座標フレームEにおいて計算される。各歩行軌道の座標フレームEの座標軸は、各歩行サイクルの初期状態における座標フレームSに基づいている。座標フレームEのAPは前後方向を、MLは左右方向を、CCは頭尾方向を示す。
【0034】
図6は、複数のサイクルにわたる歩行軌道の連続を説明する図である。iはi番目の歩行サイクルを示している。1歩ごとの歩行軌道について、ストライドベクトルv(i)が定義される。ストライドベクトルv(i)は、1歩の始点と終点を結ぶYZの2次元のベクトルである。上述のように、座標フレームEは1歩ごとに、足の向きを基準として更新されていく。ストライドベクトルv(i)とy軸のなす角度を、下腿方向ξ(i)とする。
【0035】
i-1番目の歩行サイクルにおいて、足の向きがδθ(i)すると、次の歩行サイクルにおける座標フレームEは、i-1番目の歩行サイクルの座標フレームEに対して、δθ(i)回転する関係にある。
【0036】
図4に戻る。1歩ごとの歩行軌道を結合するために、歩行軌道の回転角(転向角)θ(i)を計算する(S120)。結合は、座標フレームCにおいて行われる。回転角θ(i)は、足接地から次の足接地までの歩行方向の水平回転角である。
【0037】
図7は、回転角θ(i)を説明する図である。回転角θ(i)は、座標フレームCのy軸と、現在の歩行サイクルのストライドベクトルv(i)のなす角度である。ストライドベクトルv(i-1)とv(i)がなす角度をδθ(i)とするとき、回転角θc(i)は、δθ(i)をサイクルごとに積分することにより計算される。
θ(i)=θ(i-1)+δθ(i)
の関係が成り立つ。ただし、θ(0)=0である。
【0038】
図4に戻る。そして、回転角θ(i)を利用して、1歩ごとの歩行軌道を結合し、連続歩行軌道を生成する(S130)。
【0039】
以上が実施形態に係る測定装置100および測定方法である。
【0040】
続いて、この測定装置100の有効性を検討するために行った実験について説明する。
【0041】
・実験のセットアップ
参加者の歩行を、実施形態に係る単一のIMUを利用した測定装置と、ゴールデンスタンダードとしてのOMC(Optical Motion Capture)と、で同時に測定した。
【0042】
生の測定データは、実験参加者の左下腿に取り付けられた1つのIMU(TSND151、ATR-Promotions、京都、日本)を使用して取得した。IMUのサイズは約40mm(W)×50mm(H)×14mm(D)、重量は約27gである。IMUは、ゴムバンドに設けられたハウジングポケットに収容され、ゴムバンドは、脛骨の足首から0.03cm上の位置に取り付けた。
【0043】
IMUによって測定された生データは、XYZ3軸の加速度(±8G範囲)とXYZ3軸の角速度(±1000°/s(DPS)範囲)である。IMUのサンプリング周波数は100Hzである。センサー座標系では、X軸、Y軸、Z軸は、それぞれ頭尾方向、前後方向、内側外側方向に対応する。IMUはBluetooth(登録商標)プロトコル接続を介して、処理装置120であるラップトップPC(Lenovo、ThinkPad T480s、Window10)に接続され、生データはIMUデータ専用ソフトウェアであるALTIMA (ATR-Promotions、Windows(登録商標))を使用してラップトップPCに保存した。
【0044】
実験参加者の歩行運動を、IMUと、ゴールデンスタンダードとしてのOMCの両方で測定した。
【0045】
図8(a)~(i)は、実験時の歩行環境を説明する図である。OMCとしては、24台のカメラを備えたOMC(VENUS3D、NOBBYTECH、日本)およびOMC用のソフトウェア (Motive: Tracker、NaturalPoint、 Inc.)を比較参照およびゴールドスタンダードとして実験環境で使用しました。OMC用のマーカは、IMUの外面の中央に取り付けた。OMCは、全体的な変位誤差が1mm未満になるように調整されている。OMCとIMUのサンプリング周波数はいずれも100Hzである。実験条件での歩行開始前にIMUとOMCの両方を測定した後、参加者は左右の足をそれぞれ1回ずつ踏み、IMUデータとOMCデータを同期させた。データの処理と分析にはPython 3.6 (Python Software Foundation)を使用した。図8(a)~(i)において1グリッドは1mを表す。
【0046】
さらに、実施形態に係る手法の性能を検証するために、提案手法だけでなく、従来の典型的なSHSアルゴリズムを使用した代表的な以前の手法(比較技術)を使用して、IMU測定の生データを分析した。
【0047】
図9は、比較技術に係る歩行測定方法のアルゴリズムを示す図である。比較技術は、単純積分とZUPT(Zero Velocity Potential Update)の組み合わせに基づいたものである。具体的には、単純な二重積分とZUPTを加速度に関連するプロセスで使用して、局所的な区分的軌道を推定した。
【0048】
センサ110によって、角速度ωおよび加速度αが測定される(S200)。そして、角速度ωおよび加速度αにもとづいて、1歩ごとの歩行軌道を推定する(S210)。これらの処理は、実施形態の処理S100,S110と同様である。
【0049】
比較技術では、回転角θms(i)を、角速度ωの単純積分によって計算する(S220)。そして回転角θms(i)を利用して、複数の1歩ごとの歩行軌道を結合し、連続歩行軌道を生成する(S230)。
【0050】
図10は、比較技術における回転角θmsの計算を説明する図である。比較技術では、立脚中期(ミッドスタンス)における回転角θmsを、角速度ωの積分として算出する。ms(i)番目は、歩行サイクル内において何番目のサンプルが、立脚中期であるかを示すインデックスである。
【0051】
連続歩行軌道の中の局所的な1歩ごとの歩行軌道についてはセグメント評価を行い、連続歩行軌道の終点位置については全体評価を行った。
【0052】
・セグメント評価
セグメント評価法では、連続した3次元の足の軌跡の局所的な区分的軌跡に対してピアソン相関分析を使用して、1つのストライドごとの歩幅と回転角を評価した。歩幅は、足が地面に接触してから次の足が地面に接触するまでの直線の長さである。上述のように、回転角は、足接地から次の足接地までの歩行方向の水平回転角である。さらに、Bland-Altman 分析[24]を導入して、提案手法であるIMUとゴールドスタンダードであるOMCとの一致を評価した。統計解析では、IMUとOMCの歩幅と回転角の差を実施形態に係る方法の推定誤差として算出した。OMCの回転角は、水平面内の隣接するストライドベクトル間の角度出力を使用して計算した。評価実験の結果から、推定誤差の中央値と四分位数(第1四分位数~第3四分位数)を算出した。
【0053】
・全体評価
正規化された終点位置エラーは、評価全体で評価され、連続歩行軌道のグローバルな終着地点である。統計解析では、歩行周期数で正規化したOMCの計測結果の終点位置をゴールドスタンダードとして、IMUを用いた提案手法の正規化終点位置誤差を評価した。さらに、評価誤差の中央値と四分位数(第1四分位数~第3四分位数)を計算した。
【0054】
図11(a)~(i)は、実施形態に係る測定装置によって生成された3次元の連続歩行軌道を示す図である。図11(a)~(i)の歩行軌道は、図8(a)~(i)の歩行条件に対応している。
【0055】
図12(a)~(i)は、実施形態に係る測定装置によって生成された水平面内の連続歩行軌道(IMU)を示す図である。図12(a)~(i)には、OMC法により計算されるゴールデンスタンダードが併せて示される。図12(a)~(i)から分かるように、実施形態に係る測定手法は、ゴールデンスタンダードと高精度で一致している。
【0056】
図13(a)~(i)は、実施形態とゴールデンスタンダードそれぞれにより得られた回転角θに関するピアソンの積率相関分析結果を示す図である。
【0057】
図14(a)~(i)は、実施形態とゴールデンスタンダードそれぞれにより得られたストライド長に関するピアソンの積率相関分析結果を示す図である。
【0058】
図15(a)は、ストライド長に関する実施形態の測定結果とゴールデンスタンダードのBland-Altman分析の結果を示す図であり、図15(b)は、回転角に関する実施形態の測定結果とゴールデンスタンダードのBland-Altman分析の結果を示す図である。
【0059】
図16(a)~(c)は、実施形態に係る測定手法のゴールデンスタンダードに対する推定エラーのボックスプロットを示す図である。図16(a)は、ストライド長、図16(b)は、回転角θ図16(c)は、正規化した終着点の推定エラーを示す。
【0060】
実施形態に係る測定手法の利点は、比較技術との対比によって一層、明らかとなる。
【0061】
図17は、比較技術に係る測定手法によって生成された水平面内の連続歩行軌道(IMU)を示す図である。図17(a)~(i)には、OMC法により計算されるゴールデンスタンダードが併せて示される。図17(a)~(i)から分かるように、比較技術では、回転角θに誤差が累積していくため、ゴールデンスタンダードとの乖離が大きい。図12(a)~(i)を図17(a)~(i)と比較すると、実施形態では、ゴールデンスタンダートとの乖離が著しく小さくなっていることが分かる。
【0062】
図18(a)~(c)は、実施形態および比較技術に係る手法それぞれの、ゴールデンスタンダードに対する推定エラーのボックスプロットを示す図である。図18(a)は、ストライド長、図18(b)は、回転角θ図18(c)は、正規化した終着点の推定エラーを示す。実施形態と比較技術を比較すると分かるように、図18(a)のストライド長については、推定エラーに顕著な差は無いと言えるが、図18(b)の回転角θに関して、実施形態では比較技術に比べて誤差が小さくなっている。その結果、連続歩行軌道の誤差が小さくなり、終着点の誤差も小さくなる。
【0063】
・軌道計算の具体例
最後に、実施形態に係る軌道計算の具体例を説明する。
【0064】
・1歩ごとの歩行軌道
1歩ごとの歩行軌道の算出は、文献[11]に記載の技術にもとづいている。IMUからセンサー座標の加速度と角速度の生データを取得し、以下に説明する方法を適用することで、歩行中の下腿の1歩ごとの歩行軌跡を高精度に推定する。
【0065】
概説すると、この手法では、歩行の立脚期に観測される特徴的な時系列データ波形は、放物線回帰モデルを使用してモデル化される。歩行周期ごとのデータを分割・切り出すことで、誤差の蓄積を抑えた1歩ごとの下腿の軌道を推定する。歩行周期毎の加速度・速度時系列の積分処理は、時間前方方向の積分演算と時間後方方向の積分演算を組み合わせることで実現される。
【0066】
センサ110は、センサー座標系の座標フレームSにおける加速度α(k)と角速度ω(k)の生データが生成される。
【数1】
【数2】
【0067】
式(1)および(2)において、(k)は瞬時変数のk番目のサンプルを表し、Nは瞬時変数のサンプルの総数、Nは自然数の集合である。
【0068】
図19は、立脚中期の検出および歩行周期の分割を説明する図である。図19にはz軸周りの角速度の波形が示される。歩行周期は、大きく、立脚相(立脚期:Stance phase)と遊脚相(遊脚期)に分けられる。図19の左は、z軸の角速度の生データをウィンドウ長が5のメジアンフィルタで処理したものである。図19の中央に示す様に、フィルタ処理後の波形について区間極大を検出することにより、踵接地(heel strike)と足尖離地(toe off)のタイミングが検出される。足尖離地(toe off)と踵接地(heel strike)の間の立脚相の波形は、放物線回帰モデルを使用して近似され、その頂点が、立脚中期として推定される。立脚中期のインデックスmsは、推定された立脚中期の位置(何番目のサンプルであるか)を示す。(N)は、立脚中期の総数を表す。
【数3】
【0069】
フレームEでのローカルステップワイズ歩行軌跡の位置時系列データp(k)は、加速度α(k)と角速度ω(k)の生データとインデックスms(i)を使用して推定される。ここで、フレームEはワールド座標を表す。具体的には、加速度α(k)の生データは、初期静止状態における重力加速度の方向に基づくIMUの初期姿勢と、IMUの初期姿勢からの角速度の積分に基づくIMUの姿勢の回転変化と、を用いて、フレームEの加速度に変換される。
【0070】
立脚中期を基準に分割された、各座標フレームEの局所的な歩容軌跡の位置時系列データp(k)は、このフレームEの加速度に双方向積分処理を適用することで算出される。速度を計算するために、3軸方向の各加速度成分に双方向積分処理を適用する。軌跡を計算するために、図20に示すように頭尾方向の速度成分に適用し、その他の方向の速度成分には単純積分処理を適用した。
【0071】
図20は、双方向積分処理による位置時系列データp(k)の生成を説明する図である。双方向積分処理は、例えば軌道の頭尾成分の場合、図20の左の部分に示すように順方向の積分値を計算する。また図20の中央に示す様に、入力データの最後から最初に向かって逆方向の積分値を計算する。そして、順方向の積分値と逆方向の積分値の加重平均を計算することにより、図20の右に示す位置時系列データp(k)が得られる。
【数4】
【数5】
【0072】
・1歩ごとの歩行軌道の調節
局所的な歩行軌道を連続的な歩行軌道に変換するために、新しい座標フレームMを導入して、局所的な歩行軌道を調整する。座標フレームMでは、y軸方向は軌道の各ストライドベクトルの前方方向に揃えられ、矢状面は座標フレームEのy軸とx軸によって構築される。
【0073】
座標フレームMは、局所歩行軌道のストライドベクトルを一致させるために使用され、座標フレームEの歩行軌道(位置時系列データp(k))は、座標フレームMの位置時系列データp(k)に変換される。この位置時系列データp(k)を調節された歩行軌道と呼ぶ。
【0074】
フレームMの3つの標準基底ベクトルは、3つの列ベクトルによって表される。この行列はフレームEの下にある。この定義は、フレームEからフレームMへの回転行列を取得するために必要である。
【数6】
【0075】
ここで、M(i)は回転行列を表し、ベクトルm (i)、m (i)およびm (i)はi番目の歩行周期の標準基底ベクトルを表す。
【0076】
(i)の方向は前進方向として定義され、各歩行周期のp(k)の初期値と最終値を使用して計算される。
【数7】
【0077】
ここで、m (i)はフレームEのx軸によって決定される平面に垂直なベクトルとして定義される。これは、外積を使用して計算および正規化される。
【数8】
【0078】
x軸、y軸、z軸の単位ベクトルは式(9)で表される。
【数9】
次に、m (i)とm (i)の外積からm (i)を求める。
【数10】
【0079】
ここで、フレームMの下に表されるフレームMの回転行列は3×3単位行列Iであり、主な対角要素は1である。
【数11】
【0080】
したがって、回転行列REM(i)は、式(12)で与えられる。
【数12】
【0081】
セグメント化されたフレームEにおける位置時系列データp(k)は、回転行列Mを適用することにより、フレームMに調整された1歩ごとの歩行軌跡p(k)に変換される。
【0082】
【数13】
【0083】
・1歩ごとの下腿方向ξ(i)の計算
図6に示したように、調整されたローカル1歩ごとの歩行軌道p(k)を、連続歩行軌道に変換するには、水平面内の下腿方向ξ(i)とストライドベクトル角度δθ(i)を導出する必要がある。これらを導出するには、下腿の姿勢はIMUデータからのオイラー角を使用して推定される。
【0084】
座標フレームSから座標フレームEに変換する各歩行周期の回転行列は、次のように表される。
【数14】
【0085】
ここで、オイラー角はZ-Y-X回転によって与えられる。ここで、R(θ)、R(φ)、R(ψ)は次のように定義される。
【数15】
【数16】
【数17】
【0086】
初期オイラー角は、歩行周期ごとに計算される。各サイクルの開始時、つまりk=ms(i)で、足は床と完全に接触しており、一時的に静止していると見なすことができる。加速度センサは、最初は重力加速度gのみを検出すると仮定する。
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
【数23】
【0087】
したがって、インデックスms(i)では、下腿の姿勢としての初期オイラー角ベクトルがIMUデータから次のように計算される。
【数24】
ここで、θ(i)、φ(i)、ψ(i)は、それぞれx軸、y軸、z軸の周りの初期オイラー角である。
【0088】
次に、オイラー角の時間導関数を計算して、経時的なオイラー角を取得する。オイラー角の角速度と時間導関数の関係は、次のように表される。
【数25】
【0089】
オイラー角は、積分によって次のように計算される。
【数26】
ここで、Δtはサンプリング間隔を表す。k=ms(i)の場合、θ(k)=θms(i)が優先的に適用される。
【0090】
・ストライドベクトル角ξ(i)の計算
各歩行周期におけるストライドベクトルと前方向との間の水平角ξ(i)は、以下の式で表される。
【数27】
【0091】
各歩行周期における下腿の向きの水平角度δθ(i)は、次の式で表される。
【数28】
【0092】
これらξ(i)とδθ(i)に基づいて、各歩行周期における隣接するストライドベクトル間の角度δθ(i)は次のように与えられる(図7)。
【数29】
【0093】
・回転角θ(i)の計算
上述したように、座標フレームCは、連続歩行軌跡を構築するための座標である。フレームCは、初期状態(i=0)での下腿の前方方向をy軸、内外方向をz軸、上下方向をx軸とする座標である。各歩行サイクルのストライドベクトルがフレームCのy軸に対して作る水平面内の局所的な段階的回転角θc(i)は、次のように与えられる。
【数30】
【0094】
フレームMからフレームPへの座標変換の回転行列は、以下のように表される。
【数31】
ここでは水平回転のみを処理するため、φ=ψ=0である。
【0095】
・連続歩行軌道の計算
各歩行周期におけるストライドベクトルのy軸とz軸の並進ベクトルは、バイアス成分として使用するために計算される。各歩行サイクルの歩幅l(i)は、次のように計算される。
【数32】
【0096】
角度θ(i)に基づいて、各歩行周期のストライド長l(i)は、前方向のy軸と内外方向のz軸の成分に分解される。
【数33】
【0097】
したがって、座標フレームCでの前方向のy軸と内外方向のz軸のバイアスは、次のように取得できる。
【数34】
【0098】
回転と平行移動はアフィン行列で表される。回転行列と平行移動ベクトルに基づいて、フレームMのi番目の歩行軌跡に適用されるアフィン行列AMC(i)は次のように表される。
【数35】
【数36】
【0099】
連続歩行軌跡の位置時系列データp(k)は、AMC(i)をp(k)に適用することで得ることができる。ここで、p(k)とp(k)は、4×4 アフィン行列を使用したアフィン変換の行列計算の便宜上、4要素ベクトルに変換される。
【数37】
【0100】
(付記)
・歩行計測
歩行計測に際しては、足首やひざ、腰等に複数装着した加速度や角速度センサ群から得られる足首の軌道情報を主として利用する。軌道の運動学的な特徴や、歩幅や歩行周期、それらの左右非対称性や時間変動等に注目する。
【0101】
軌道を推定する方法は、連続歩行データを周期ごとに分割する段階と、各周期において軌道を推定する段階の2段階に分けられる。それぞれの詳細を以下に示す。
【0102】
図21は、Z軸の角速度データを示す図である。歩行は周期運動であるため、センサ群より取得した加速度や角速度のデータは周期的なパターンを示す。そこで、計測されたデータを1周期ずつに分割する。分割点は足が接地した安定状態であり、かつ角速度が0に近いところとすることが望ましい。これにより積分時の初期値の仮定が容易となるからである。歩行を1周期ごとに分割することで、加速度や角速度を積分する際の累積誤差を低減できる。さらに、各周期の特徴量を効率的に抽出することができる。
【0103】
こうして分割された周期ごとに軌道の推定を行う。図22は、軌道推定のフローチャートである。はじめに、各軸の角度の初期値θz0を決定する(S100)。たとえば式(4)にもとづき、初期値θz0を決定することができる。
θz0=tan-1(^a/-^a) …(4)
【0104】
^は移動平均を示す。移動平均の区間は、各周期の始点を含む前後の複数の個のポイントであり、たとえば前後5個、計11個とすることができる。これにより、定常成分、つまり重力成分を取り出し、Y軸、Z軸の初期角度を推定することができる。X軸に関しては、初期角度をゼロと仮定し、後に補正する。
【0105】
軌道を求めるには各軸において加速度を二重積分するだけでは不十分である。なぜなら、脚は回転運動を伴い、姿勢が常に変化するからである。そこで、まず式(5)のように各軸の角速度ω(i)をそれぞれ積分することでセンサの姿勢を推定する(S102)。このとき積分時の角度の初期値は、式(4)で求めたそれを用いる。
θ=θi-1+ω(i)×Δt …(5)
【0106】
続いて、各軸の角度にもとづいて、センサの姿勢Tを推定する(S104)。姿勢Tは、x軸、y軸、z軸を列とする3列の行列で表される。次に、各時刻iにおける加速度aを、推定されたセンサの姿勢Tを用いて、行列演算により進行方向α、上下方向α、側面方向αに分解する(S106)。
【0107】
そして、式(6)、式(7)を用いてそれぞれの方向において時間に関して二重積分して位置を求める(S108)。
=vi-1+αi×Δt …(6)
=pi-1+v×Δt …(7)
【0108】
積分に先立ち、初期値を設定する必要がある。そこで、各方向の速度の初期値をゼロと仮定し、位置についても各周期の始点を原点とする。ここで接地時の安定状態において、上下・左右方向だけでなく、前後方向においても足の振り出し運動に比べ十分小さいので0に近似する。これを基に各方向に関して式(6)、(7)の二重積分を行い、歩行時の足首の軌道を推定する。
【0109】
ここで積分によるノイズの累積を考慮しなければならない。そこで、角度、速度、位置を積分して求める際に、各周期の始点と終点の両方向から積分して得られた2つの波形について、始点・終点からの距離に応じた重みを式(8)、(9)のようにとり、式(10)にしたがい加重平均をとる。ただし、iは各周期における時刻(つまり何番目のサンプリング点か)を示し、各周期の総サンプル数(つまり、周期がΔtの何倍か)を示す。
【0110】
本実施の形態ではパラメータmは0.1程度とすることが好ましい。また逆方向から積分(時間軸を戻る方向)する際にも初期値を設定しなければならない。そこで、速度、位置については同様に0とし、角度の初期値は次の周期の始点の角度と同一とする。
=1-w …(8)
=1/{1+exp{-m(i-T/2)}} …(9)
V=w1×Vfwrd+w2×Vback …(10)
【0111】
つまり、各周期の境界、つまり始点と終点での誤差が小さいことを利用し、ある周期の始点から時間を進める方向の積分と、その周期の終点から時間を戻る方向の積分を、係数w,wにて重み付けして加算することで、誤差の影響を低減することができる。
【0112】
最後に、X軸角度の初期値を0に仮定した誤差を補正しなければならない。図23(a)は、X軸角度の補正を説明する図である。もし、初期姿勢でφ傾いていたとすると、図23のように原点と終点を結んだ直線が進行方向からφ傾くことになる。そこで、上記の累積誤差対策を行わずに側面方向の位置を求め、側面-進行方向平面において終点が進行方向と一致するように軌道を回転して補正する(S110)。軌道の回転は行列演算で行うことができる。図23(b)は、実施の形態に係る推定手法により、歩行時の加速度および角速度データから得られた足首の三次元軌道(1周期分)を示す図である。
【0113】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【0114】
・文献リスト
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【符号の説明】
【0115】
10 センサ
20 歩行者
22 下腿
100 測定装置
110 センサ
120 処理装置
122 インタフェース部
124 ローカル歩行軌道算出部
126 回転角算出部
128 結合部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23