(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014058
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】真空ポンプ、及び、制御方法
(51)【国際特許分類】
F16C 32/04 20060101AFI20240125BHJP
F04D 19/04 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
F16C32/04 A
F04D19/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116619
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100221372
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 信治
(72)【発明者】
【氏名】平田 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】孫 浩
【テーマコード(参考)】
3H131
3J102
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131BA11
3H131BA15
3H131CA13
3J102AA01
3J102BA02
3J102CA02
3J102CA12
3J102CA22
3J102DA02
3J102DA03
3J102DA35
3J102DB05
3J102DB08
3J102DB18
3J102DB29
3J102DB30
3J102GA06
(57)【要約】
【課題】ロータの加減速中においても真空ポンプにおいて無駄な発熱及び振動が生じることを防止する。
【解決手段】真空ポンプ1は、ロータ4と、磁気軸受41Dと、第1変位センサ43Aと、制御部62と、を備える。ロータ4は、所定の軸周りに回転する。磁気軸受41Dは、ロータ4の軸方向の位置を調整するための磁力を発生させる。第1変位センサ43Aは、ロータ4の軸方向の位置を表す第1位置信号を出力する。制御部62は、第1位置信号に基づいて磁気軸受41Dに供給する電流を制御して、ロータ4の軸方向の位置を一定にする。制御部62は、ロータ4の回転数に対応するロータ回転周波数で変動する信号成分を第1位置信号から除去した第1除去信号を生成し、第1除去信号に基づいて磁気軸受41Dに供給する電流を制御する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の軸周りに回転するロータと、
前記ロータの軸方向の位置を調整するための磁力を発生させる磁気軸受と、
前記ロータの軸方向の位置を表す位置信号を出力する変位センサと、
前記変位センサから前記位置信号を受け取り、前記位置信号に基づいて前記磁気軸受に供給する電流を制御して、前記ロータの軸方向の位置を一定にする制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で変動する信号成分を前記位置信号から除去した除去信号を生成し、
前記除去信号に基づいて前記磁気軸受に供給する電流を制御する、
真空ポンプ。
【請求項2】
前記制御部は、
前記ロータ回転周波数で振動する信号成分のみを通過させるトラッキングフィルタにより前記位置信号から前記信号成分を抽出し、
前記位置信号と抽出された前記信号成分との差分を前記除去信号として生成する、
請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記制御部は、前記ロータの回転数に応じてサンプル周波数を変更したノッチフィルタに前記位置信号を通過させることで、前記位置信号から前記信号成分を除去して前記除去信号を生成する、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記トラッキングフィルタは、前記位置信号をフーリエ変換することで前記信号成分の大きさと位相とを抽出し、前記信号成分の大きさと位相を逆フーリエ変換することで、前記位置信号から前記信号成分を抽出する、請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記ロータの回転数を測定する回転数センサをさらに備える、請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
前記ロータを回転させるモータをさらに備え、
前記制御部は、前記ロータが回転することで前記モータに生じる逆起電力に基づいて、前記ロータの回転数を測定する、
請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項7】
所定の軸周りに回転するロータと、前記ロータの軸方向の位置を調整するための磁力を発生させる磁気軸受と、を備える真空ポンプの制御方法であって、
前記ロータの軸方向の位置を表す位置信号を取得するステップと、
前記ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で振動する信号成分を前記位置信号から除去した除去信号を生成するステップと、
前記除去信号に基づいて前記磁気軸受に供給する電流を制御して、前記ロータの軸方向の位置を一定にするステップと、
を備える、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、及び、真空ポンプの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空ポンプには、回転駆動されるロータと、ロータと協働して気体を排気するステータと、備えるものがある(例えば、特許文献1)。ロータは、磁気軸受により径方向及び軸方向に支持される。ここで、ロータを支持するとは、ロータの径方向の位置及び軸方向の位置を一定にすることをいう。磁気軸受は、ロータに対して引力又は斥力を発生させる磁力を発生させる電磁石を有し、ロータに対する引力と斥力とのバランスにより、ロータを支持する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の真空ポンプでは、磁気軸受のうちロータを軸方向に支持する磁気軸受(スラスト磁気軸受と呼ばれることもある)の電磁石に供給する電流は、センサ等により測定された軸方向におけるロータの位置に基づいて制御される。また、回転中のロータは、例えばロータの重心位置のずれなどに起因して、ロータの軸方向に振動することがある。この軸方向の振動は、ロータの回転数に対応する周波数を有する。
【0005】
これらの結果、ロータの回転中において、センサ等により測定されるロータの軸方向における位置がロータの回転数に対応する周波数で変動し、それにより、スラスト磁気軸受の電磁石に供給される電流が、ロータの回転数に対応する周波数で変動する成分を含むことがある。上記の電流成分は、ロータを軸方向に支持するためには本来は不要な成分である。従って、電磁石に供給される電流が上記成分を含むと、真空ポンプにおいて無駄な発熱が生じることがある。また、電磁石に供給される電流が上記成分を含むと、真空ポンプにおいて振動が生じることがある。
【0006】
ロータの回転数に対応する周波数で変動する成分を除去するために、電磁石に供給する電流をノッチフィルタなどの特定の周波数の成分を除去するフィルタに通過させることが考えられる。しかしながら、ロータの加減速中においては、ロータの回転数が変化するため、上記成分が有する周波数も変化し、ノッチフィルタで除去できない場合がある。
【0007】
本発明の目的は、ロータの加減速中においても、スラスト磁気軸受に供給する電流から、ロータの回転数に対応する周波数で変動する成分を除去して、真空ポンプにおいて無駄な発熱及び振動が生じることを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る真空ポンプは、ロータと、磁気軸受と、変位センサと、制御部と、を備える。ロータは、所定の軸周りに回転する。磁気軸受は、ロータの軸方向の位置を調整するための磁力を発生させる。変位センサは、軸方向におけるロータの位置を表す位置信号を出力する。制御部は、変位センサから位置信号を受け取り、位置信号に基づいて磁気軸受に供給する電流を制御して、ロータの軸方向の位置を一定にする。この真空ポンプにおいて、制御部は、ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で変動する信号成分を位置信号から除去した除去信号を生成し、この除去信号に基づいて磁気軸受に供給する電流を制御する。
【発明の効果】
【0009】
上述した本発明の一態様に係る真空ポンプでは、制御部が、ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で振動する信号成分を位置信号から除去した除去信号を生成し、当該除去信号に基づいて、磁気軸受に供給する電流を制御している。これにより、磁気軸受に供給する電流は、ロータの回転数が変化するか否かにかかわらずロータ回転周波数で変動する成分を含まなくなるので、真空ポンプにおいて無駄な発熱及び振動が生じることを常時抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】真空ポンプの動作を示すフローチャートである。
【
図4】状態空間モデルに基づくノッチフィルタの特性の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して一実施形態に係る真空ポンプについて説明する。
図1は、実施形態に係る真空ポンプ1の断面図である。
図1に示すように、真空ポンプ1は、ハウジング2と、ベース3と、ロータ4と、ステータ5と、制御装置6と、を含む。
【0012】
ハウジング2は、第1端部11と、第2端部12と、第1内部空間SP1とを含む。第1端部11には吸気口13が設けられている。第1端部11は、排気対象装置(図示せず)に取り付けられる。排気対象装置は、例えば、半導体製造装置のプロセスチャンバである。第1内部空間SP1は、吸気口13に連通している。第2端部12は、ロータ4の軸線方向(以下、単に「軸線方向A1」と呼ぶ)において、第1端部11の反対に位置している。第2端部12は、ベース3に接続される。ベース3は、ベース端部14を含む。ベース端部14は、ハウジング2の第2端部12に接続される。ベース3は、例えば、アルミニウム製の部材である。
【0013】
ロータ4は、シャフト21を含む。シャフト21は、軸線方向A1に延びている。シャフト21は、ベース3に回転可能に収納されている。シャフト21の下部には、スラストディスク21Aが設けられる。さらに、シャフト21の下端には、ターゲット21Bがネジ止めされている。
【0014】
ロータ4は、複数段のロータ翼22と、ロータ円筒部23と、を含む。複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21に接続されている。複数のロータ翼22は、軸線方向A1に互いに間隔をおいて配置されている。図示を省略するが、複数段のロータ翼22は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のロータ翼22の1つのみに符号が付されており、他のロータ翼22の符号は省略されている。ロータ円筒部23は、複数段のロータ翼22の下方に配置されている。ロータ円筒部23は、軸線方向A1に延びている。
【0015】
ステータ5は、ロータ4の外周側に配置されている。ステータ5は、複数段のステータ翼31と、ステータ円筒部32と、を含む。複数段のステータ翼31は、ハウジング2の内面に接続されている。複数段のステータ翼31は、軸線方向A1において、互いに間隔をおいて配置されている。複数段のステータ翼31は、それぞれ複数段のロータ翼22の間に配置されている。図示を省略するが、複数段のステータ翼31は、それぞれシャフト21を中心として放射状に延びている。なお、図面においては、複数段のステータ翼31の2つのみに符号が付されており、他のステータ翼31の符号は省略されている。ステータ円筒部32は、ベース3に接触した状態で固定されている。ステータ円筒部32は、ロータ円筒部23の径方向において、わずかな隙間を空けてロータ円筒部23の外周面と向かい合って配置されている。ロータ円筒部23と向かい合うステータ円筒部32の内周面には、らせん状溝が設けられている。
【0016】
図1に示すように、ロータ円筒部23とステータ円筒部32の排気下流側の端部のさらに下流側には、排気空間SP2が形成されている。排気空間SP2には、排気対象装置から排気された排気対象気体が導かれる。排気空間SP2は、排気口15に連通している。排気口15は、ベース3に設けられる。排気口15には、他の真空ポンプ(図示せず)が接続される。なお、排気下流側とは、軸線方向A1において、排気空間SP2により近い側をいう。また、排気下流方向とは、排気空間SP2に向かう方向をいう。
【0017】
真空ポンプ1は、軸受41A、41Eと、磁気軸受41B~41Dと、モータ42と、を含む。軸受41A、41Eは、ベース3のシャフト21を収納した位置に取り付けられている。軸受41A、41Eは、シャフト21を回転可能に支持する。軸受41A、41Eは、ボールベアリングである。磁気軸受41B~41Dは、ロータ4のシャフト21を磁力により支持する軸受である。このうち、磁気軸受41B、41Cは、シャフト21を径方向に支持するラジアル磁気軸受である。磁気軸受41Dは、シャフト21を軸方向に支持するスラスト磁気軸受である。
【0018】
スラスト磁気軸受である磁気軸受41Dは、スラストディスク21Aを挟んで軸方向に対向して配置された一対の電磁石411を有する。磁気軸受41Dは、一対の電磁石411から発生する磁力により、スラストディスク21Aを一対の電磁石411の間で浮上させることで、ロータ4を軸方向に支持する。
【0019】
ラジアル磁気軸受である磁気軸受41B、41Cは、シャフト21を挟んで軸方向とは垂直な第1方向に対向して配置された一対の電磁石412と、シャフト21を挟んで軸方向及び第1方向とは垂直な第2方向に対向して配置された一対の電磁石413と、を有する。磁気軸受41B、41Cは、一対の電磁石412と一対の電磁石413から発生する磁力により、シャフト21をこれら電磁石の間で保持することで、ロータ4を径方向に支持する。
【0020】
モータ42は、ロータ4を回転駆動する。モータ42は、モータロータ42Aとモータステータ42Bとを含む。モータロータ42Aは、シャフト21に取り付けられている。モータステータ42Bは、ベース3に取り付けられている。モータステータ42Bは、モータロータ42Aと向かい合って配置されている。
【0021】
真空ポンプ1は、第1変位センサ43Aと、回転数センサ45と、を含む。第1変位センサ43Aは、ターゲット21Bの位置を検知することでロータ4の上下方向の位置を検知し、上下方向におけるロータ4の位置を表す第1位置信号を出力する。なお、ここでいう「上下方向」とは、シャフト21の軸方向(軸線方向A1)と平行な方向を意味する。また、真空ポンプ1には、第2変位センサ43Bが設けられる。第2変位センサ43Bは、シャフト21の径方向の位置を検知し、径方向におけるロータ4の位置を表す第2位置信号を出力する。
【0022】
回転数センサ45は、例えば、ターゲット21Bの底部に設けられた溝(図示せず)を検出し、当該溝を検出したときに検出信号を出力する。この検出信号の単位時間あたりの発生回数は、ロータ4の単位時間当たりの回転数に対応する。
【0023】
制御装置6は、CPU、ROMなどの記憶装置、各種インタフェース等を備えるコンピュータシステムであり、真空ポンプ1を制御する。
【0024】
真空ポンプ1では、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とは、ターボ分子ポンプ部を構成する。また、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とは、ネジ溝ポンプ部を構成する。真空ポンプ1では、モータ42によってロータ4が回転することで、吸気口13から第1内部空間SP1へ排気対象気体が流入する。第1内部空間SP1の排気対象気体は、ターボ分子ポンプ部とネジ溝ポンプ部を通過して、排気空間SP2に導かれる。排気空間SP2の排気対象気体は、排気口15から排気される。この結果、吸気口13に取り付けられた排気対象装置の内部が、高真空状態となる。
【0025】
<制御装置の構成>
図2を用いて、制御装置6の構成を説明する。
図2は、制御装置6の構成を示す図である。制御装置6は、記憶部61と、制御部62と、を有する。記憶部61は、制御装置6を構成する記憶装置に設けられた記憶領域の一部又は全部である。記憶部61は、真空ポンプ1に関する各種パラメータ、真空ポンプ1を制御するためのプログラム等を記憶する。
【0026】
制御部62は、制御装置6を構成するCPUと各種インタフェースにより構成されるハードウェア部分であり、真空ポンプ1の制御を実行する。制御部62は、真空ポンプ1の制御に関する機能を、記憶部61に記憶されたプログラムを実行することにより実現する。また、一部の機能は、制御部62に含まれるハードウェアにより実現されてもよい。
【0027】
具体的には、制御部62は、モータ42と接続されており、モータ42を制御してロータ4を回転させる。制御部62は、磁気軸受41D、及び、第1変位センサ43Aと接続されている。
【0028】
制御部62は、第1変位センサ43Aから出力された第1位置信号(すなわち、上下方向におけるロータ4の位置)に基づいて、磁気軸受41Dの電磁石411に供給する電流を制御し、スラストディスク21Aを電磁石411の間の所定位置で浮上させる。これにより、ロータ4は、上下方向における位置が上記の所定位置で一定となった状態で、上下方向に支持される。
【0029】
また、制御部62は、第2変位センサ43Bから出力された第2位置信号(すなわち、径方向におけるロータ4の位置)に基づいて、磁気軸受41B、41Cの電磁石412、413に供給する電流を制御して、電磁石412、413の間の所定位置にシャフト21を存在させる。これにより、ロータ4は、シャフト21の位置が上記の所定位置で一定となった状態で、径方向に支持される。
【0030】
後述するように、制御部62は、回転数センサ45から出力される検出信号を磁気軸受41B~41Dの電磁石411~413へ供給する供給電流の算出に用いる。上記のとおり、検出信号の単位時間あたりの発生回数は、ロータ4の単位時間当たりの回転数に対応する。従って、回転数センサ45から出力される検出信号を磁気軸受41B~41Dの電磁石411~413へ供給する供給電流の算出に用いることで、ロータ4の回転数に基づいて供給電流を算出できる。具体的には、後述するように、第1位置信号からロータ4の回転数に対応する信号成分を除去した供給電流を算出できる。
【0031】
真空ポンプ1において、回転中のロータ4は、ロータ4の重心位置のずれなどに起因して、ロータ4の径方向及び/又は軸方向に振動することがある。この振動は、ロータ4の回転数に対応する周波数(ロータ回転周波数と呼ぶ)を有する。このため、ロータ4の回転中において、第1変位センサ43A及び第2変位センサ43Bにより測定されるロータ4の位置が、ロータ回転周波数で変動することがある。すなわち、第1変位センサ43Aから出力される第1位置信号、及び/又は、第2変位センサ43Bから出力される第2位置信号が、ロータ回転周波数で振動する成分を含むことがある。
【0032】
上記の位置信号にロータ回転周波数で振動する成分が含まれていると、磁気軸受41B~41Dの電磁石に供給される電流が、ロータ回転周波数で振動する成分を含むこととなる。電磁石に供給される電流がロータ回転周波数で振動する成分を含んでいると、真空ポンプ1において無駄な発熱及び/又は振動が生じることがある。
【0033】
この問題を解決するために、制御部62は、変位センサから出力される第1位置信号及び第2位置信号から、ロータ回転周波数で振動する成分を除去した除去信号を生成し、当該除去信号に基づいて磁気軸受41B~41Dの電磁石411~413に供給する供給電流を制御することで、供給電流に、ロータ回転周波数で振動する成分が含まれないようにする。以下、第1位置信号からロータ回転周波数で振動する成分を除去した信号を「第1除去信号」と呼ぶ。第2位置信号からロータ回転周波数で振動する成分を除去した信号を「第2除去信号」と呼ぶ。
【0034】
制御部62は、第1位置信号をトラッキングフィルタに通過させることで、第1位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出し、第1位置信号と抽出された信号成分との差分を第1除去信号として生成する。
【0035】
第1位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出するトラッキングフィルタは、第1位置信号を離散フーリエ変換することで、ロータ回転周波数で振動する信号成分の大きさと位相とを抽出し、この信号成分の大きさと位相を離散逆フーリエ変換することで実現できる。第1位置信号の離散フーリエ変換は、所定の長さ(例えば、二周期分以上)の第1位置信号を所定の個数だけサンプリングして、以下の数1により離散フーリエ変換の実部と虚部を算出することで実現できる。なお、上記の「信号成分の位相を抽出する」とは、フーリエ変換後の信号の実部と虚部とを抽出することを意味する。
【0036】
【0037】
上記の数1において、Rは離散フーリエ変換後の信号の実部であり、Iは離散フーリエ変換後の信号の虚部である。Nは、第1位置信号のサンプリング数である。fnは、第1位置信号のn番目にサンプリングされた値である。ωは、ロータ回転周波数である。nは、正の整数である。
【0038】
数1のcos関数及びsin関数は、ロータ4が回転することで回転数センサ45から発生する検出信号をフェーズロックループ(PLL)に入力してロータ4の回転の位相と同期した信号を発生し、当該信号に基づいて生成される。これにより、回転数センサ45などにより実測されたロータ回転周波数に応じたcos関数及びsin関数を生成できる。すなわち、ロータ4の回転数(ロータ回転周波数(ω))が変動しても、その変動に応じたcos関数及びsin関数を生成できる。この結果、ロータ4の回転数が変動しても、第実測されたロータ4の回転数に対応するロータ回転周波数(ω)の変動に応じた信号成分を1位置信号から除去できる。
【0039】
なお、上記の離散フーリエ変換を実行するにあたり、第1位置信号に対してハニング窓を適用してもよい。これにより、スペクトルリークが少ないフーリエ変換結果を得ることができる。
【0040】
また、ロータ回転周波数で振動する信号成分は、以下の数2により、離散フーリエ変換で抽出した信号成分の大きさと位相とを離散逆フーリエ変換することで算出できる。以下の数2において、Sigが、第1位置信号に含まれるロータ回転周波数で振動する信号成分である。具体的には、離散フーリエ変換後の信号の実部(R)とロータ回転周波数を有するcos関数との積と、離散フーリエ変換後の信号の虚部(I)とロータ回転周波数を有するcos関数との積と、の差分としてロータ回転周波数で振動する信号成分が抽出される。
【0041】
【0042】
このように、フーリエ変換と逆フーリエ変換を用いたトラッキングフィルタを用いることにより、一軸のみの信号成分しか有さない第1位置信号から、ロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出できる。その結果、第1位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を確実に除去した第1除去信号を生成できるので、この第1除去信号に基づいて磁気軸受41Dの電磁石411に供給する供給電流を制御することで、真空ポンプ1において無駄な発熱及び振動が生じることを抑制できる。
【0043】
一方、制御部62は、第2位置信号をトラッキングフィルタに通過させることで、第2位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出し、第2位置信号と抽出された信号成分との差分を第2除去信号として生成する。
【0044】
第2位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出するトラッキングフィルタは、二軸の成分を含む第2位置信号を回転座標系の信号に変換し、変換後の信号をローパスフィルタに通過させて高次の信号成分を除去し、高次の信号成分を除去後の信号を二軸の固定座標系の信号に変換することで実現できる。
【0045】
このように、信号の座標変換に基づいたトラッキングフィルタを用いることにより、二軸の信号成分を有する第2位置信号から、ロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出できる。その結果、第2位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を確実に除去した第2除去信号を生成できるので、この第2除去信号に基づいて磁気軸受41B、41Cの電磁石412、413に供給する供給電流を制御することで、真空ポンプ1において無駄な発熱及び振動が生じることを抑制できる。
【0046】
<真空ポンプの動作>
以下、
図3を用いて、真空ポンプ1の動作を説明する。
図3は、真空ポンプ1の動作を示すフローチャートである。真空ポンプ1の始動が指令されると、制御部62は、モータ42を制御してロータ4を回転させる(ステップS1)。これにより、真空ポンプ1の運転が開始される。
【0047】
真空ポンプ1の運転中に、制御部62は、回転中のロータ4の位置を一定にした状態で支持するよう、磁気軸受41B~41Dから発生する磁力を制御する。具体的には、以下の処理が実行される。まず、制御部62は、第1変位センサ43Aから、上下方向におけるロータ4の位置を表す第1位置信号を取得する。また、第2変位センサ43Bから、径方向におけるロータ4の位置を表す第2位置信号を取得する(ステップS2)。
【0048】
次に、制御部62は、第1位置信号及び第2位置信号からロータ回転周波数の信号成分を除去して、第1除去信号及び第2除去信号を生成する(ステップS3)。具体的には、上記にて説明した、離散フーリエ変換と離散逆フーリエ変換を用いたトラッキングフィルタに第1位置信号を通過させてロータ回転周波数の信号成分を抽出し、第1位置信号と抽出したロータ回転周波数の信号成分との差分を、第1除去信号として生成する。
【0049】
また、上記にて説明した、信号の座標変換に基づいたトラッキングフィルタに第2位置信号を通過させてロータ回転周波数の信号成分を抽出し、第2位置信号と抽出したロータ回転周波数の信号成分との差分を、第2除去信号として生成する。
【0050】
その後、制御部62は、ステップS3にて生成した除去信号に基づいて、磁気軸受41B~41Dの電磁石411~413に供給する供給電流を制御する(ステップS4)。具体的には、制御部62は、第1除去信号に基づいて、磁気軸受41Dの電磁石411への供給電流を制御し、電磁石411に出力する。また、第2除去信号に基づいて、磁気軸受41B、41Cの電磁石412、413への供給電流を制御し、電磁石412、413に出力する。
【0051】
<変形例>
上記の実施形態においては、離散フーリエ変換と逆離散フーリエ変換とを用いたトラッキングフィルタにより、ロータ4の上下方向における位置を表す第1位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出し、第1位置信号と抽出した信号成分との差分を第1除去信号として算出していた。しかしながら、これに限られず、ロータ4の回転数に応じてサンプル周波数を変更したノッチフィルタに第1位置信号を通過させることで、第1位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を除去することによっても、第1除去信号を生成できる。
【0052】
サンプル周波数を変更可能なノッチフィルタは、以下の数3に示す状態空間モデルを用いて実現できる。以下の数3において、x(n)はn番目の状態ベクトル、x(n+1)はn+1番目の状態ベクトル、u(n)はn番目の入力ベクトル(すなわち、第1位置信号)、y(n)はn番目の出力ベクトル(すなわち、ノッチフィルタによる出力)、A~Dは、所定の行列である。以下の数3において、行列A~Dの数値を適宜決定することで、ノッチフィルタを実現できる。例えば、ノッチフィルタの所望する中心周波数とQ値とを用いて、当該ノッチフィルタの伝達関数を作成し、当該伝達関数を状態空間モデルに変換することで、行列A~Dを算出できる。また、n番目の状態ベクトルx(n)を取得してから次の状態ベクトルx(n+1)を取得するまでの時間の逆数がサンプル周波数に対応する。
【0053】
【0054】
上記の状態空間モデルに基づくノッチフィルタは、制御部62にて実行可能なソフトウェアにより実現できる。上記の状態空間モデルに基づくノッチフィルタは、
図4に示すような特性を有する。
図4は、状態空間モデルに基づくノッチフィルタの特性の一例を示す図である。
図4に示すように、状態空間モデルに基づくノッチフィルタは、特定の周波数(
図4のfr1、fr2)の信号成分を大きく減衰させる(すなわち、デシベル値が負値)一方で、その他の信号成分をほとんど減衰させない(すなわち、デシベル値が0近辺)。
【0055】
図4に示すノッチフィルタの例において、fr1がロータ回転周波数であり、fr2はfr1の2倍である。すなわち、
図4に示すノッチフィルタは、ロータ回転周波数の信号成分だけでなく、高次の信号成分も減衰できる。
【0056】
図4に示すような状態空間モデルに基づくノッチフィルタにおいて、サンプル周波数を変化させると、減衰する信号成分の周波数(fr1、fr2)がサンプル周波数に比例して変化する。この特性を利用して、ノッチフィルタのサンプル周波数をロータ4の回転数の変化に応じて変化させ、このノッチフィルタに第1位置信号を通過させることにより、上記の実施形態と同様に、第1位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を除去した第1除去信号を生成できる。
【0057】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0058】
制御部62は、ロータ4が回転することでモータ42に生じる逆起電力に基づいて、ロータ4の回転数を測定することもできる。すなわち、制御部62は、ロータ4が回転することでモータ42に生じる逆起電力をフェーズロックループに入力することで発生する信号に基づいて、数1のcos関数及びsin関数を生成できる。この結果、ロータの回転数を測定するセンサ等を用いることなく、第1位置信号から、実測されたロータ4の回転数に対応するロータ回転周波数の変動に応じた信号成分を除去できる。
【0059】
また、制御部62は、回転数センサ45とモータ42の逆起電力との両方から、ロータ4の回転数に関する信号(すなわち、フェーズロックループに入力する信号)を取得可能となっていてもよい。これにより、例えば、回転数センサ45に異常等が発生したときに、回転数センサ45からの検出信号の代わりに、モータ42の逆起電力をフェーズロックループに入力することで、数1のcos関数及びsin関数を生成できる。
【0060】
上記の実施形態に係る真空ポンプ1は、複数段のロータ翼22と複数段のステータ翼31とにより構成されるターボ分子ポンプと、ロータ円筒部23とステータ円筒部32とにより構成されるネジ溝ポンプとが一体化されたポンプである。しかし、ネジ溝ポンプは省略されてもよい。すなわち、真空ポンプ1は、ターボ分子ポンプであってもよい。或いは、ターボ分子ポンプは省略されてもよい。すなわち、真空ポンプ1は、ネジ溝ポンプであってもよい。
【0061】
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0062】
(第1態様)真空ポンプは、ロータと、磁気軸受と、変位センサと、制御部と、を備える。ロータは、所定の軸周りに回転する。磁気軸受は、ロータの軸方向の位置を調整するための磁力を発生させる。変位センサは、ロータの軸方向の位置を表す位置信号を出力する。制御部は、変位センサから位置信号を受け取り、位置信号に基づいて磁気軸受に供給する電流を制御して、ロータの軸方向の位置を一定にする。この真空ポンプにおいて、制御部は、ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で変動する信号成分を位置信号から除去した除去信号を生成し、この除去信号に基づいて磁気軸受に供給する電流を制御する。
【0063】
第1態様に係る真空ポンプでは、制御部が、ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で振動する信号成分を位置信号から除去した除去信号を生成し、当該除去信号に基づいて、磁気軸受に供給する電流を制御している。これにより、磁気軸受に供給する電流は、ロータの回転数が変化するか否かにかかわらずロータ回転周波数で変動する成分を含まなくなるので、真空ポンプにおいて無駄な発熱及び振動が生じることを常時抑制できる。
【0064】
(第2態様)第1態様に係る真空ポンプにおいて、制御部は、ロータ回転周波数で振動する信号成分のみを通過させるトラッキングフィルタにより位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出し、位置信号と抽出された信号成分との差分を除去信号として生成してもよい。第2態様に係る真空ポンプでは、ロータ4の回転数が変化する場合であっても、ロータ回転周波数で振動する信号成分を位置信号から確実に除去できる。
【0065】
(第3態様)第1態様に係る真空ポンプにおいて、制御部は、ロータの回転数に応じてサンプル周波数を変更したノッチフィルタに位置信号を通過させることで、位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を除去して除去信号を生成してもよい。第3態様に係る真空ポンプでは、上記のノッチフィルタに位置信号を通過させるだけで、除去信号を生成できる。
【0066】
(第4態様)第2態様に係る真空ポンプにおいて、トラッキングフィルタは、位置信号をフーリエ変換することで、ロータ回転周波数で振動する信号成分の大きさと位相とを抽出し、抽出された信号成分の大きさと位相を逆フーリエ変換することで、位置信号からロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出してもよい。これにより、一軸のみの成分を含む位置信号からでも、ロータ回転周波数で振動する信号成分を抽出できる。
【0067】
(第5態様)第1態様~第4態様のいずれかに係る真空ポンプは、ロータの回転数を測定する回転数センサをさらに備えてもよい。これにより、ロータの回転数が変化しても、実測されたロータの回転数の変動に応じた信号成分を位置信号から除去できる。
【0068】
(第6態様)第1態様~第5態様のいずれかに係る真空ポンプは、ロータを回転させるモータをさらに備えてもよい。この場合、制御部は、ロータが回転することでモータに生じる逆起電力に基づいて、ロータの回転数を測定してもよい。これにより、ロータの回転数を測定するセンサ等を用いることなく、実測されたロータの回転数の変動に応じた信号成分を位置信号から除去できる。
【0069】
(第7態様)第7態様に係る制御方法は、所定の軸周りに回転するロータと、ロータの軸方向の位置を調整するための磁力を発生させる磁気軸受と、を備える真空ポンプの制御方法である。制御方法は、以下のステップを備える。
◎ロータの軸方向の位置を表す位置信号を取得するステップ。
◎ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で振動する信号成分を位置信号から除去した除去信号を生成するステップ。
◎除去信号に基づいて磁気軸受に供給する電流を制御して、ロータの軸方向の位置を一定にするステップ。
【0070】
第7態様に係る真空ポンプの制御方法では、ロータの回転数に対応するロータ回転周波数で振動する信号成分を位置信号から除去した除去信号を生成し、当該除去信号に基づいて、磁気軸受に供給する電流を制御している。これにより、磁気軸受に供給する電流は、ロータの回転数が変化するか否かにかかわらずロータ回転周波数で変動する成分を含まなくなるので、真空ポンプにおいて無駄な発熱及び振動が生じることを常時抑制できる。
【符号の説明】
【0071】
1 :真空ポンプ
2 :ハウジング
3 :ベース
4 :ロータ
5 :ステータ
6 :制御装置
61 :記憶部
62 :制御部
11 :第1端部
12 :第2端部
13 :吸気口
14 :ベース端部
15 :排気口
21 :シャフト
21A :スラストディスク
21B :ターゲット
22 :ロータ翼
23 :ロータ円筒部
31 :ステータ翼
32 :ステータ円筒部
41A、41E :軸受
41B~41D :磁気軸受
411~413 :電磁石
42 :モータ
42A :モータロータ
42B :モータステータ
43A :第1変位センサ
43B :第2変位センサ
45 :回転数センサ
SP1 :第1内部空間
SP2 :排気空間