(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140591
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】デュアルキュア型歯科用硬化性組成物及び該デュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キット
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20241003BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20241003BHJP
A61K 6/61 20200101ALI20241003BHJP
A61K 6/62 20200101ALI20241003BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/831
A61K6/61
A61K6/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051792
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 瑞紀
(72)【発明者】
【氏名】深谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 歩
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC03
4C089BC06
4C089BC08
4C089BD02
4C089BD03
4C089CA03
(57)【要約】
【課題】 支台築造用コンポジットレジンとして使用されている、重合性単量体;フィラー;有機過酸化物及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジンからなる化学重合開始剤;並びにα-ジケトン、電子供与体化合物及びヨードニウム塩を含む光重合開始剤;を含み、手押しのダブルシリンジタイプ容器に2剤に分けて包装されるデュアルキュア型歯科用硬化性組成物において、硬化性を損なうことなく長期間安定に保存できるようにすると共に、使用時におけるシリンジからの吐出性を良好にする。
【解決手段】 BHTなどの重合禁止剤を重合性単量体100質量部に対して0.05~1質量部配合すると共に、ヨードニウム塩としてスルホナートなどの対アニオンがオキソ酸の共役塩基であるものを使用し、更に重合禁止剤の含有量に対する該ヨードニウム塩の含有量の比(モル比)を0.5~5.0とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(A):100質量部、
フィラー(B):150~400質量部、
α-ジケトン化合物(c1):0.1~10質量部、及びヨードニウム塩化合物(c2):0.05~3質量部及び電子供与体化合物(c3):0.1~10質量部を含む光重合開始剤(C)、
有機過酸化物(d1):0.1~10質量部及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2):0.1~10質量部を含む化学重合開始剤(D)、並びに
重合禁止剤(E):0.05~1質量部
を含み、
前記ヨードニウム塩化合物(c2)が、オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)であり、
前記重合禁止剤(E)の総含有量(モル):MEに対する前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)の総含有量(モル):Mc2aの割合:Mc2a/MEが、0.5~5.0である、
ことを特徴とするデュアルキュア型歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
前記電子供与体化合物(c3)が芳香環上に直接結合したカルボニル基を有する芳香族第3級アミン化合物である、請求項1に記載のデュアルキュア型歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のデュアルキュア型歯科用硬化性組成物を調製するためのキットであって、
互いに物理的に接触不可な状態で包装された第一の部分組成物からなる第1剤と第二の部分組成物からなる第2剤の組み合わせから構成され、
前記第1剤は、前記重合性単量体(A)の一部、前記フィラーの(B)一部、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)、前記電子供与体化合物(c3)、前記N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含み、前記α-ジケトン化合物(c1)、前記有機過酸化物(d1)を含まず、
前記第2剤は、前記重合性単量体(A)の残部、前記フィラー(B)の残部、前記α-ジケトン化合物(c1)、前記有機過酸化物(d1)及び前記重合禁止剤(E)を含み、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)、前記電子供与体化合物(c3)及び前記N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含まない、
ことを特徴とするデュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キット。
【請求項4】
着脱可能なキャップにより封止された吐出口を先端に有する筒状バレルと、先端部にガスケットを有する押し子と、を有し前記バレルの後端部より前記ガスケットを摺動可能に挿入することによりガスケットより先端側のバレル内に形成される流体収容空間に流体を保持することができる第1のシリンジと、当該第1のシリンジと同一又は実質的に同一の第2のシリンジとを有し、前記第1のシリンジの前記流体収容空間に前記第1剤が、前記第2のシリンジの前記流体収容空間に前記第2剤が夫々充填されることによって、前記第1剤と前記第2剤とが互いに物理的に接触不可な状態で包装された請求項3に記載のデュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キット。
【請求項5】
前記第1のシリンジ及び前記第2のシリンジを夫々の吐出口が隣接するようにして並列に配置して保持する保持機構と、
夫々キャップを外した前記2つのシリンジの両吐出口に混合器を着脱可能に装着できるようにする混合器装着機構と、
前記2つのシリンジの両押し子を連動させて各押し子を同時に各バレル内に押し込むことができようにする押し子連動機構と、を有し、
前記2つのシリンジの各流体保持空間に保持された前記第1剤及び第2剤を各吐出口より同時に流出させて、各吐出口より流出したこれら剤を前記混合器により混合できるようにした、
請求項4に記載のデュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学重合開始剤及び光重合開始剤が配合されたデュアルキュア型歯科用硬化性組成物及び該デュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
コンポジットレジン(以下、「CR」と略記することもある。)とは、補綴治療を行う際に使用される材料であり、重合性単量体及びフィラー(充填材)の混合物を主成分とし、更に前記重合性単量体を重合硬化させるための重合開始剤が配合された硬化性組成物からなる。そして、CRは、使用する重合開始剤の種類によって、増感用化合物(単に、増感剤と呼ばれることもある。)と電子供与体化合物(単に供与体或と呼ばれることもある。)との組み合わせを含む光重合開始剤を用いる光硬化型、酸化剤と還元剤との組合せを含む化学重合開始剤を用いる化学重合型、両重合開始剤を併用するデュアルキュア型に大別される。
【0003】
ここで、CR用の光重合開始剤としては、硬化速度、硬化深度および保存寿命が良好であるという理由から増感剤としてのα-ジケトン化合物、供与体としての第三級アミン化合物及びアリールヨードニウム塩を組み合わせたものを使用することが多い(特許文献1及び2参照)。また、化学重合開始剤としては酸化剤として有機過酸化物を使用し、還元剤として第三級アミン化合物を用いたものが使用されることが多い(特許文献1~3参照)。
【0004】
光重合型CRは、1ペーストで、光重合開始剤を活性化させる光を短時間照射するだけで高い重合率で重合硬化が起こる反面、光が到達し難い深部では硬化が不十分となってしまうという特徴があり、化学硬化型CRは深部においても重合硬化するが、分離包装された2剤(2種類のペースト)を混合する操作が必要であり、硬化速度も光重合型に比べると遅いという特徴を有する。デュアルキュア型CRは、2剤混合操作は必要であるが、光が届く範囲では光照射により素早く硬化し、光が届かない深部においても化学重合開始剤の作用により硬化するという特徴を有する。
【0005】
これらのタイプのCRは、用途によって使い分けられており、例えば、「支台築造用コンポジットレジン」、具体的には、根幹治療を行った後に歯冠修復を行う場合に、根管充填材を除去して形成したポスト孔に洗浄・前処理を施してから、必要に応じてファイバーポストを挿入してコンポジットレジンを注入硬化させることによりポスト(支柱)を形成し、更に同じコンポジットレジンを築盛して大まかな形状を整えた後に硬化させ、硬化後に研削加工を行ってコア(支台)を築造するという用途に使用されるCRにおいては、デュアルキュア型が使用されることが多い。
【0006】
支台築造用デュアルキュア型CRにおいては、深部における(化学重合による)硬化は十分に行われる必要がある。また、コア(支台)形成時において光照射を行う前の築盛・整形段階の操作性を良好とするために、2剤混合後において操作性が良好となる粘度を維持できる時間を数分程度確保することも重要である。このため、支台築造用デュアルキュア型コンポジットレジンに使用される化学重合開始剤としては、2剤を混合してから化学重合を開始するまでに適度な時間を要し、しかも、化学重合が開始すると、短時間で重合反応が完了するような高活性を示すものを使用することが好ましく、このような特徴を有する化学重合開始剤、具体的には、有機過酸化物及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物からなる化学重合開始剤を使用した、支台築造用デュアルキュア型CRも開発されている。
【0007】
例えば、特許文献2には、支台築造用デュアルキュア型CRとして好適に使用できるデュアルキュア型硬化材料キットとして、ラジカル重合性単量体と;α-ジケトン化合物、特定の第三級脂肪族アミン化合物、及び置換基としてトリハロメチル基を有するs-トリアジン化合物またはジアリールヨードニウム塩化合物からなる光重合開始剤成分と;上記化学重合開始剤成分を含むデュアルキュア型硬化材料が開示されている。
【0008】
なお、特許文献2には、上記デュアルキュア型硬化材料を使用する時において、2剤(2つのペースト)を練和する際に不可避的に照射される環境光よって引き起こされる硬化を可及的に防止するという(所謂、環境光安定性の)観点から、光重合開始剤における電子供与体化合物として特定の第三級脂肪族アミン化合物を用いる旨が説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-273602号公報
【特許文献2】国際公開第2010/067790号
【特許文献3】特開2020-40937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前記したようなデュアルキュア型CRを使用する場合には、夫々シリンジなどに充填された2種類のペーストを練和紙などに一旦取り出してからヘラなどで所望の形状に整えることもあるが、2つのバレルが一体化した所謂「ダブルシリンジタイプ」の容器を用い、その各バレル内に(分包されるべき)2つのペーストが夫々収納保持された包装体を、必要に応じてディスペンサーにセットした後に、各シリンジの吐出口にミキシングチップと呼ばれるノズルチップタイプの混合器装着機構を装着してから手指を用いて直接、或いは前記ディスペンサーを介して、2つの押し子を連動させて各バレル内に押し込み、ミキシングチップ内で混合されたペーストをミキシングチップ先端より所望の位置に押出して使用することが一般的である。後者の使用形態は、前記環境光の問題が起こり難いため、光重合開始剤における供与体として前記特定の第三級脂肪族アミン化合物を使用する必要はなく、また、操作性もよいという利点を有する。そして、ディスペンサーを使用せずに「手押し」によってミキシングチップの先端からペーストを所望の位置に吐出させることができれば、取り扱い操作をより簡便にすることができる。
【0011】
一方、支台築造用のCRにおいては、混錬後のペーストを盛り上げて硬化させて支台築造を行うため、チキソトロピー性調整剤を配合してペースト築盛時の形態保持性(支台形状を整えるときの整え易さ。賦形性とも言われる。)を改善することが行われている。ところが、チキソトロピー性調整剤配合量が多い場合には著しい粘度上昇によりシリンジから押し出すときに要する力(吐出力)が上昇することが知られている(特許文献3参照)。チキソトロピー性調整剤の配合量や表面処理を制御することにより吐出圧上昇を抑えることは可能であるが、ディスペンサーを使用しないときの「手押しの吐出性」については、あまり検討されていないのが実情である。なお、「手押しの吐出性」とは、手で直接押し子を押してペーストを吐出させる際の操作性の指標であり、比較的弱い力で容易に吐出速度を制御できる場合には、吐出性が良く、ペーストを吐出させるのに強い力を要し、吐出量の制御が難しい場合は吐出性が悪いと評価されるものである(以下、本明細書における「吐出性」とは、この「手押しの吐出性」を意味するものとする)。
【0012】
また、化学重合開始剤の成分として有機過酸化物を含むデュアルキュア型CRにおいては、第三級アミン化合物と共存しないように分包しても、長期間保管した場合に有機過酸化物が(単独で)徐々にラジカル種を発生させて重合を進行させてしまうことを防止するために一定量の重合禁止剤を配合することが多い。
【0013】
このような状況に鑑み本発明者等が、有機過酸化物及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物からなる化学重合開始剤、並びにα-ジケトン化合物、電子供与体化合物及びヨードニウム塩化合物を含む光重合開始剤を用いたデュアルキュア型CRに重合禁止剤を添加したときの影響について検討したところ、重合禁止剤の存在下では、光硬化深さに対するヨードニウム塩の効果の発現が抑制されて硬化性が低下してしまうことがあること、及びヨードニウム塩の配合量を増やすことによりこのような問題は解消できるが、その場合には、前記吐出性が悪化するという新たな問題が発生することが明らかとなった。
【0014】
そこで、本発明は、支台築造用CRとして使用されている、有機過酸化物及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物からなる化学重合開始剤;並びにα-ジケトン化合物、電子供与体化合物及びヨードニウム塩化合物を含む光重合開始剤;を用いたデュアルキュア型CRにおいて、良好な硬化特性を維持したまま保存安定性を向上させ、且つ手押しのダブルシリンジタイプの容器に包装して使用する際に良好な吐出性を有するようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記課題を解決するものであり、本発明の第一の形態は、重合性単量体(A):100質量部;フィラー(B):150~400質量部;α-ジケトン化合物(c1):0.1~10質量部、ヨードニウム塩化合物(c2):0.05~3質量部、及び電子供与体化合物(c3):0.1~10質量部を含む光重合開始剤(C);有機過酸化物(d1):0.1~10質量部及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2):0.1~10質量部を含む化学重合開始剤(D);並びに重合禁止剤(E):0.05~1質量部;を含み、前記ヨードニウム塩化合物(c2)が、オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)であり、前記重合禁止剤(E)の総含有量(モル):MEに対する前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)の総含有量(モル):Mc2aの割合:Mc2a/MEが、0.5~5.0である、ことを特徴とするデュアルキュア型歯科用硬化性組成物である。
【0016】
上記形態のデュアルキュア型歯科用硬化性組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう。)においては、前記電子供与体化合物(c3)が芳香環上に直接結合したカルボニル基を有する芳香族第3級アミン化合物である、ことが好ましい。
【0017】
本発明の第二の形態は、本発明の組成物を調製するためのキットであって、
互いに物理的に接触不可な状態で包装された第一の部分組成物からなる第1剤と第二の部分組成物からなる第2剤の組み合わせから構成され、
前記第1剤は、前記重合性単量体(A)の一部、前記フィラー(B)の一部、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)、前記電子供与体化合物(c3)、前記N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含み、前記α-ジケトン化合物(c1)、前記有機過酸化物(d1)を含まず、
前記第2剤は、前記重合性単量体(A)の残部、前記フィラー(B)の残部、前記α-ジケトン化合物(c1)、前記有機過酸化物(d1)及び前記重合禁止剤(E)を含み、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)、前記電子供与体化合物(c3)及び前記N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含まない、
ことを特徴とするデュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キットである。
【0018】
上記形態のデュアルキュア型歯科用硬化性組成物調製用キット(以下、「本発明のキット」ともいう。)においては、着脱可能なキャップにより封止された吐出口を先端に有する筒状バレルと、先端部にガスケットを有する押し子と、を有し前記バレルの後端部より前記ガスケットを摺動可能に挿入することによりガスケットより先端側のバレル内に形成される流体収容空間に流体を保持することができる第1のシリンジと、当該第1のシリンジと同一又は実質的に同一の第2のシリンジとを有し、前記第1のシリンジの前記流体収容空間に前記第1剤が、前記第2のシリンジの前記流体収容空間に前記第2剤が夫々充填されることによって、前記第1剤と前記第2剤とが互いに物理的に接触不可な状態で包装されたものであることが好ましい。
【0019】
また、上記の好適な態様においては、前記第1のシリンジ及び前記第2のシリンジを夫々の吐出口が隣接するようにして並列に配置して保持する保持機構と、夫々キャップを外した前記2つのシリンジの両吐出口に混合器を着脱可能に装着できるようにする混合器装着機構と、前記2つのシリンジの両押し子を連動させて各押し子を同時に各バレル内に押し込むことができようにする押し子連動機構と、を有し、前記2つのシリンジの各流体保持空間に保持された前記第1剤及び第2剤を各吐出口より同時に流出させて、各吐出口より流出したこれら剤を前記混合器により混合できるようにした、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の組成物は、2剤混合後において操作性が良好となる粘度を維持できる時間を数分程度確保することができ、且つ深部における硬化性が良好であるという特長と、光重合における硬化速度が速く硬化深度が深いという特長と、を併せ持つ、有機過酸化物及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物からなる化学重合開始剤;並びにα-ジケトン化合物、電子供与体化合物及びヨードニウム塩化合物を含む光重合開始剤含むデュアルキュア型CRの特長を維持したまま、2分包して保管したときの保存安定性が高く、更に前記吐出性が良好であるという優れた特長を有する。また、形態保持性を良好にすることもできるため、支台築造用CRとして好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.本発明の組成物の概要
本発明の組成物は、
重合性単量体(A):100質量部;
フィラー(B):150~400質量部;
α-ジケトン化合物(c1):0.1~10質量部、及びヨードニウム塩化合物(c2):0.05~3質量部、及び電子供与体化合物(c3):0.1~10質量部を含む光重合開始剤(C);並びに
有機過酸化物(d1):0.1~10質量部及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2):0.1~10質量部を含む化学重合開始剤(D);
を含むデュアルキュア型歯科用硬化性組成物であって、
重合禁止剤(E):0.05~1質量部を更に含み、
前記ヨードニウム塩化合物(c2)が、オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)であり、
前記重合禁止剤(E)の総含有量(モル):MEに対する前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)の総含有量(モル):Mc2aの割合:Mc2a/MEが、0.5~5.0である、ことを特徴とする。
【0022】
前記した様に、前記光重合開始剤(C)は、硬化速度、硬化深度および保存寿命が良好であることが知られたものであり、前記化学重合開始剤(D)は、前記(d1)と前記(d2)とが共存しないように2剤に分けて分包されたものを混合してこれらと重合性単量体とを共存させたときに操作性が良好となる粘度を維持できる時間を数分程度確保することができ、且つ深部における硬化性が良好であることが知られたものである。したがって、本発明の組成物は、これら特長を併せ持つことができる。また、重合禁止剤(E)を重合性単量体(A)100質量部に対して0.05~1質量部含むことにより、(d1)と(E)とが共存するように分包保管することで長期間安定に保存することができる。さらに、ヨードニウム塩化合物(c2)としてオキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)を使用すると共に前記Mc2a/MEを0.5~5.0とすることにより、前記吐出性を良好に保つことを可能としている。
【0023】
このような優れた効果が得られる機構は必ずしも明らかではないが、ヨードニウム塩の重合促進効果が維持された点については、ヨードニウム塩は、(c1)と(c3)の反応によって生じた、開始不活性なケチルラジカルと反応して開始活性を有するラジカルを発生することで重合を促進させると考えられるところ、Mc2a/MEを上記範囲に保つことにより、上記反応と競争的に起こるケチルラジカルの重合禁止剤の捕捉が低く抑えられたものと考えられる。
【0024】
また、吐出性が維持できることに関しては、次の様な理由によると考えられる。すなわち、歯科用硬化性組成物に含まれる無機充填材の表面は正又は負に帯電して分散しており、イオン性化合物を添加した場合には、無機酸化物表面と反対電荷を有する(イオン性化合物の)カチオン又はアニオンの静電引力によってペーストの粘度が上昇して、吐出性が低下する傾向がある。これに対して、本発明で用いる「オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)」は、平衡によりイオンがフリーになり難いため無機酸化物に対して静電引力が働き難く、重合促進に必要な量を配合しても吐出性が低下しなかったと考えられる。この点は、後述する参考例に示すように、ヨードニウム塩には該当しない(カチオン及びアニオンが遊離しない)双性イオン化合物であるジフェニルヨードニウム-2-カルボキシラート一水和物(DPIC)を用いた場合にも同様の効果が得られることからも支持される。
【0025】
以下、本発明の組成物の成分について説明した上で、本発明のキットについて説明する。なお、本明細書においては特に断らない限り、数値x及びyを用いた「x~y」という表記は「x以上y以下」を意味するものとする。かかる表記において数値yのみに単位を付した場合には、当該単位が数値xにも適用されるものとする。また、本明細書において、「(メタ)アクリル系」との用語は「アクリル系」及び「メタクリル系」の両者を意味する。同様に、「(メタ)アクリレート」との用語は「アクリレート」及び「メタクリレート」の両者を意味し、「(メタ)アクリロイル」との用語は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の両者を意味する。
【0026】
2.本発明の性組成物の成分について
2-1.重合性単量体(A)
本発明の組成物における重合性単量体(A)としては、従来の歯科用硬化性組成物で使用されるものが特に制限なく使用できる。硬化速度、硬化体の機械的物性、耐水性、耐着色性、保存安定性等が良好であるという理由から、酸性基(スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸残基等)を有さない重合性単量体、特に、アクリロイル基、メタクリロイル基を有する重合性単量体を使用することが好ましい。また、硬化体の機械的強度を向上させる観点から、重合性単量体は、上記ラジカル重合性基を複数有する多官能重合性単量体を含むことが好適である。
【0027】
本発明で使用できる重合性単量体を例示すれば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、グリジジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート等の単官能性重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリオイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス[4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシエトキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2’-ビス{4-[2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,2,4-トリメチルヘキサン、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)-2,4,4-トリメチルヘキサン、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等の多官能性重合性(メタ)アクリレート系単量体などを挙げることができる。
【0028】
2-2.フィラー(B)
本発明の組成物は、重合性単量体(A):100質量部に対して150~400質量部のフィラー(B)を含む。硬化体の強度の観点から、フィラー(B)は無機粒子からなる粉粒体(無機粉粒体)であることが好ましい。流動性と物性のバランスが良好になるという理由から、フィラー(B)の配合量は、重合性単量体100質量部に対して250~350質量部であることが好ましく、270~330質量部であることが特に好ましい。
【0029】
無機粉粒体を構成する無機粒子としては、シリカガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、アルミノシリケートガラス、及びフルオロアルミノシリケートガラス、重金属(例えばバリウム、ストロンチウム、ジルコニウム)を含むガラス;それらのガラスに結晶を析出させた結晶化ガラス、ディオプサイド、リューサイト等の結晶を析出させた結晶化ガラス等のガラスセラミックス;シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-アルミナ等の複合無機酸化物;あるいはそれらの複合酸化物にI族金属酸化物を添加した酸化物;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア等の金属無機酸化物等の歯科用硬化性組成物用の無機フィラーとして使用できる無機粒子が特に制限なく使用できる。
【0030】
屈折率の調整が容易であり、更に、粒子表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等を用いて表面改質が行い易いという理由から、フィラー(B)は、シリカ及び/又はシリカ系複合酸化物粒子からなる粒粉体であることが特に好適である。シリカ系複合酸化物としては、強いX線造影性を有するという理由からシリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-チタニア-ジルコニアが好適に使用され、加えて耐摩耗性に優れた硬化体が得られるという理由からシリカ-ジルコニアが最も好適に使用される。
【0031】
これらの無機粉粒体は、シランカップリング剤等の表面処理剤で表面処理して使用してもよい。
【0032】
フィラー(B)として無機粉粒体を用いる場合には、粒子形状、平均粒子径、表面処理状態などの異なる複数の粒粉体の混合物を用いることにより、本発明の組成物の(ペースト)性状や、硬化体物性を制御することが可能である。例えば、前記特許文献3には、界面活性剤及び疎水化処理剤で処理された、平均粒子径が0.05μm以上、1μm以下である無機粒子を用いることにより、流動性と形態保持性を両立させることができる旨が記載れている。また、特開2005-170813号公報には、平均粒子径が1μm以上6μm以下の不定形無機粒子、平均粒子径が0.05μm以上1μm以下の球状無機粒子及び必要に応じて配合される粒径が0.05μm未満の無機粒子を所定量配合することにより、深い窩洞に対しても隅々まで容易に行き渡るような流動性のペーストとし、更に機械的・物理的強度の良好な硬化体を与えることができる旨が記載されている。さらに、特開2011-225526号公報には、特定のシランカップリング剤で処理された平均粒子径1.6~10μmの無機粒子、特定のシランカップリング剤で処理された平均粒子径0.01~0.1μmの無機粒子及び表面処理されていない平均粒子径0.01~0.1μmの無機粒子を併用することによりペーストの吐出性及び形態保持性(賦形性)を良好にし、更に機械的強度を良好とすることができる旨が記載されている。本発明で使用するフィラー(B)においてもこれら技術が特に制限なく適用できる。
【0033】
特殊な表面処理を要さずに好ましいペースト性状にすることができるという観点から、フィラー(B)としては、不定形無機粒子からなる平均粒子径が1~6μmの粉粒体(b1):40~90質量%、球状無機粒子からなる平均粒子径が0.1~1μmの粉粒体(b2):10~60質量%、及び平均粒子径が0.05μm以下である無機粉粒体(b3):0~1.5質量%からなり、且つ前記重合性単量体(A)100質量部に対する前記(b1)及び(b2)の含有量は夫々50質量部以上であり、前記(b3)の含有量は3質量部以下である、無機粉粒体を用いることが好ましい。ここで、各粒粉体の平均粒子径とは、レーザー回折粒度分布測定によって粒子径が0.05μm以上の粒子を計算し、粒径-体積積算分布において、積算分布が50%となる粒径を意味する。ただし、0.05μm未満の粒子については一般的に分散が困難であるため、電子顕微鏡によって粒径を測定する。すなわち、走査型または透過型の電子顕微鏡で粒子を観察し、その単位視野内の粒子30個以上を無作為に選び、夫々の一次粒子径(最大径)を計測する。その一次粒子径の合計を選択した粒子の数で除して得られる値を平均粒子径とする。また、球状とは、SEMで観察される粒子が丸みを帯びており、かつ、その最大径に直交する方向の粒径をその最大径で除した平均斉度が0.6以上であることを意味する。さらに、不定形粒子からなるとは、粉粒体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した場合に粒子の形状が一定ではないことを意味し、上記球状粒子以外の粒子によって構成される粉体を意味する。粉粒体(b1)を構成する粒子は、多くの場合、破砕粒子に見られるような角部を有する。
【0034】
2-3.光重合開始剤(C)
本発明の組成物では、光重合開始剤として、α-ジケトン化合物(c1)オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)、電子供与体化合物(c3)及びを含む光重合開始剤(C)を使用する。以下にこれら各成分について説明する。
【0035】
(1)α-ジケトン化合物(c1)
α-ジケトン化合物(c1)としては、光重合開始剤の増感剤として使用されるα-ジケトン化合物が特に制限なく使用できる。好適に使用できるα-ジケトン化合物を例示すれば、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。これらの中でも人体に対して安全な可視光域に極大吸収波長を有しているカンファーキノン類、特にカンファーキノンを使用することが好ましい。
【0036】
α-ジケトン化合物の配合量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~10質量部であればよいが、効果の観点から、0.2~2質量部とするのが好ましく、0.3~1質量部とすることがより好ましい。
【0037】
(2)オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)
本発明の組成物では、オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)を使用する。なお、「オキソ酸の共役塩基」とはブレンステッドの酸塩基説により、オキソ酸からプロトンが離脱したものの意である。例えば、オキソ酸の一種であるカルボン酸からプロトンが脱離したカルボキシラートイオンは「オキソ酸の共役塩基」である。
【0038】
高活性であるという理由から前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)はジアリールヨウドニウム塩化合物であることが好ましい。
【0039】
【0040】
なお、上記一般式(1)中のR1、R2、R3、R4、R5、及びR6は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のパーフルオロアルキル基、炭素数6~14のアリール基、炭素数2~14のアルケニル基、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~14のアリールオキシ基、又はニトロ基を表す。また、M-は、カルボキシラート、スルホナート、スルフェート、ニトレート、パークロレート又はホスホネートを表している。
【0041】
上記一般式(1)で示されるヨードニウム塩のうち、好適なヨードニウム塩を具体的に例示すると、カチオン及びアニオンが夫々以下に示すものであるヨードニウム塩を挙げることができる。
【0042】
[カチオン]: ジフェニルヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、p-イソプロピルフェニル-p-メチルフェニルヨードニウム、ビス(m-ニトロフェニル)ヨードニウム、p-tert-ブチルフェニルフェニルヨードニウム、(4-メチルフェニル)(2,4,6-トリメチルフェニル)ヨードニウム、フェニル[3-(トリフルオロメチル)フェニル]ヨードニウム、p-メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p-メトキシフェニル)ヨードニウム、p-オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム、又はp-ビフェニリル(2,4,6-トリメトキシフェニル)ヨードニウム。
【0043】
[アニオン]: アセテート、クロロアセテート、ベンゾエート、メタンスルホナート、p-トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、ノナフルオロブタンスルホナート、ニトレート、又はパークロレート。
【0044】
これらヨードニウム塩化合物の中でも、重合性単量体に対する溶解性、入手の容易性及び効果の観点から、p-トルエンスルホナート塩トリフルオロメタンスルホナート塩及び/又はノナフルオロブタンスルホナート塩を用いることが特に好ましい。
【0045】
前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)の配合量は、重合性単量体(A)100質量部当り、0.05~3質量部であればよいが、重合活性と吐出性のバランスの観点から、0.07~2質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。なお、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)の配合量が多いほど重合活性が高くなり、少ないほど吐出性が良好となる傾向がある。
【0046】
(3)電子供与体化合物(c3)
電子供与体化合物(c3)としては、α-ジケトン化合物(c1)を増感剤とする光重合開始剤に対する電子供与体化合物として使用される、第三級アミン化合物等の化合物が特に制限なく使用できる。カルボニル基の電子求引性によって化学重合への活性が低く、光重合の活性が高いという理由からは、下記一般式(2)で示される、芳香環上に直接結合したカルボニル基を有する芳香族第三級アミン化合物を使用することが好ましい。
【0047】
【0048】
なお、上記一般式(2)中の、Aは、ヒドロキシカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基を表し、mは1~3の整数を表す。このとき、mが2又は3の場合において複数存在するAは互いに異なっていてもよい。また、R7及びR8は各々独立に、炭素数1~6のアルキル基を表す。
【0049】
好適に使用できる前記一般式(2)で示される化合物を具体的に例示すると、4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸-2-エチルヘキシル、3-(ジメチルアミノ)安息香酸メチル等を挙げることができる。これらの中でも、入手または合成が容易であり、かつ化合物の化学的な安定性および重合性単量体への溶解性に優れること等の理由から、4-ジメチルアミノ安息香酸エチルまたは4-ジメチルアミノ安息香酸メチルを用いることが好ましい。
【0050】
電子供与体化合物(c3)の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して0.1~10質量部であればよいが、光重合活性と着色リスク等のバランスの観点から、0.2~5質量部が好ましく、0.3~2質量部が更に好ましい。
【0051】
2-4.化学重合開始剤(D)
本発明の組成物では、化学重合開始剤として、有機過酸化物(d1)及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含む化学重合開始剤(D)を使用する。前記した様に、このような(d1)及(d2)を含む化学重合開始剤は、2剤を混合してから化学重合を開始するまでに適度な時間を要し、しかも、化学重合が開始すると、短時間で重合反応が完了するような高活性を示すものであることから、特許文献2に記載されているように、以前より支台築造用デュアルキュア型CR用の化学重合開始剤と使用されているものである。本発明で使用する化学重合開始剤(D)も特許文献2に記載されている化学重合開始剤と特に変わる点は無いが、以下に各成分について簡単に説明する。
【0052】
(1)有機過酸化物(d1)
有機過酸化物(d1)としては、ケトンパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ハイドロパーオキサイド類、ジアルキルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシエステル類等を使用することができる。重合活性が高い点で、ケトンパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類が好ましく、ジアシルパーオキサイド類又はハイドロパーオキサイド類がより好ましく、ジアシルパーオキサイド類が最も好ましい。
【0053】
有機過酸化物(d1)の配合量は、重合性単量体100質量部に対して、0.1~10質量部であればよいが、重合活性と保存安定性の観点から、0.3~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましい。
【0054】
(2)N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)
化学重合開始剤において、(d2)成分のN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物は、上記有機過酸化物(d1)から重合活性種(ラジカル)を生成させるための反応種として配合される。
【0055】
ヒドロキシアルキル基におけるアルキル基の炭素数が1~6のものが好ましく、1~3のものがより好ましい。具体的には、N,N-ジ(ヒドロキシメチル)-p-トルイジン、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ジ(ヒドロキシプロピル)-p-トルイジン、N,N-ジ(ヒドロキシへキシル)-p-トルイジン等が例示される。これらの中でも、重合活性が最も高いことから、N,N-ジ(ヒドロキシエチル)-p-トルイジンが、特に好ましい。
【0056】
N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して、0.1~10質量部とするが、化学重合性と光重合性のバランスの観点から、0.3~5質量部が好ましく、0.5~3質量部がより好ましい。ここで、N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)の使用量が多いほど化学重合による硬化活性が向上し、配合量が過剰である場合は、光重合時の硬化活性を低下させる傾向がある。
【0057】
2-5.重合禁止剤(E)
本発明の組成物は、2分包して保管したときの保存安定性を高めるために重合禁止剤(E)を重合性単量体(A)100質量部に対して、0.05~1質量部含む。重合禁止剤としては、CR等の歯科用硬化性組成物において使用される重合禁止剤が特に制限されずに使用できるが、フェノール系の重合禁止剤を使用することが好ましい。好適に使用できるフェノール系重合禁止剤を具体的に例示すると、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノ-t-ブチルハイドロキノン、p-t-ブチルカテコール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,4,6-トリ-t-ブチルフェノール等が挙げることができる。
【0058】
重合禁止剤(E)の配合量は、重合性単量体(A)100質量部に対して0.05~1質量部であればよいが、重合活性の観点から、0.7質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることが特に好ましい。
【0059】
本発明の組成物においては、高い重合活性と保存安定性を両立させるために、前記重合禁止剤(E)の総含有量(モル):MEに対する前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)の総含有量(モル):Mc2aの割合:Mc2a/MEを0.5~5.0とする必要がある。Mc2a/MEが5.0を越える場合は重合禁止剤が不足し、十分な操作時間や保管期間を確保できなくなる。または、吐出性が悪化する。Mc2a/MEが小さいほど吐出性が良好となる傾向があるが、0.5未満となると重合禁止剤が過剰となり、硬化性が低下してしまう。Mc2a/MEは、0.55~4.0であることが好ましく、0.6~3.0であることが特に好ましい。
【0060】
2-6.その他成分
本発明の組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記光重合開始剤や化学重合開始剤に作用する他の重合促進剤を配合しても良い。化学重合開始剤に作用する他の重合促進剤の具体例としては、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、酸化バナジウム(IV)アセチルアセトナート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム等の金属塩や、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、4-t-ブチル-N,N-ジメチルアニリン等の、カルボニル基およびヒドロキシ基を有しない第3級アミン化合物が挙げられる。
【0061】
さらに、本発明のデュアルキュア型コンポジットレジンにおいては、目的に応じて、顔料、蛍光顔料、染料、紫外線に対する変色防止のために紫外線吸収剤等を適宜の包装に配合させても良い。
【0062】
3.本発明のキット
本発明の組成物は、化学重合開始剤を含むデュアルキュア型であるため、重合性単量体(A)、有機過酸化物(d1)及びN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)の全てが共存しないように2つの組成物(ペースト)に分けて包装・保管され、使用時に都度(要時)調製される。
【0063】
本発明の本発明のキットは、本発明の組成物を(要時)調製するためのキットであって、互いに物理的に接触不可な状態で包装された第一の部分組成物からなる第1剤と第二の部分組成物からなる第2剤の組み合わせから構成され、
前記第1剤は、前記重合性単量体(A)の一部、前記フィラーの(B)一部、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)、前記電子供与体化合物(c3)、前記N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含み、前記α-ジケトン化合物(c1)、前記有機過酸化物(d1)を含まず、
前記第2剤は、前記重合性単量体(A)の残部、前記フィラー(B)の残部、前記α-ジケトン化合物(c1)、前記有機過酸化物(d1)及び前記重合禁止剤(E)を含み、前記ヨードニウム塩化合物(c2-a)、前記電子供与体化合物(c3)及び前記N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)を含まない、
ことを特徴とする。
【0064】
なお、上記第一の部分組成物は本発明の組成物の一部を構成するものであり、上記第一の部分組成物は本発明の組成物の残部を構成するものである。すなわち、前記第1剤と第2剤とが満たすべき条件を満足するように本発明の組成物を(互いに組成の異なる)2つの組成物に分けたときに1剤となる一方の組成物が第一の部分組成物であり、他方(1剤となる組成物)が第二の部分組成物である。そして、両組成物(両剤)を混合することにより本発明の組成物を調製することができる。
【0065】
前記したような条件を満足するように分包することにより、各剤を長期間安定に保存することが可能となる。
【0066】
ここで、「物理的に接触不可能な状態で包装される」とは、第1剤と第2剤とが両者間での分子拡散を阻害する阻害部材(包装部材)によって分離されて包装されている状態を意味する。
【0067】
なお、本発明の組成物が前記した必須成分以外の任意成分を含む場合、本発明の効果の発現を損なう副反応等が起こらないようにして、前記第1剤もしくは前記第2剤のいずれかに配合する。第1剤及び第2剤それぞれの組成は、基本的には、両者を等量で混合したとき{1剤と2剤との混合比(1剤の量/2剤の量):1/1、あるいは、1剤と2剤との混合比率(100×1剤の量/2剤の量):100%で混合したとき}に、本発明の組成物の組成となるように決定される。そして、このようにして決定された組成に従い、各成分を秤量し混合することにより容易に第1剤及び第2剤を調製することができる。このときの混合は、遮光下、メカニカルスターラーに代表される攪拌機や乳鉢や遊星型混練機等の混練機により均一になるまで混練すればよい。
【0068】
分包の際に用いる包装部材としては、一般的には、容器や袋の素材として好適に用いられる樹脂等が用いられる。「物理的に接触不可能な状態」の典型例としては、たとえば、外気および外光を遮断する容器内に密封された状態で1種類の組成物が保管されている状態が挙げられる。具体的な包装形態としては、ボトル、チューブ、シリンジなどの容器内に充填された形態を挙げることができる。本発明のキットを用いて本発明の好適歯科用硬化性組成物を調製する方法としては、たとえば、i)練和紙上に第1剤と、第2剤と適量採取して、両者をヘラで練和する方法、ii)先端にミキシングチップを接続したシリンジから第1剤と第2剤とを同時に押出す方法等が採用できる。
【0069】
利便性及び吐出性が良好であるという効果を生かすことができるという観点から上記ii)の方法を採用するのが好ましく、分包容器としても該方法が採用できる以下に示すようなシリンジタイプのものを用いることが好ましい。すなわち、着脱可能なキャップにより封止された吐出口を先端に有する筒状バレルと、先端部にガスケットを有する押し子と、を有し前記バレルの後端部より前記ガスケットを摺動可能に挿入することによりガスケットより先端側のバレル内に形成される流体収容空間に流体を保持することができる第1のシリンジと、当該第1のシリンジと同一又は実質的に同一の第2のシリンジとを有する、所謂「ダブルシリンジ」タイプの容器を用い、その一方のシリンジの前記流体収容空間に前記第1剤が、他方のシリンジの前記流体収容空間に前記第2剤が夫々充填されることによって、前記第1剤と前記第2剤とが互いに物理的に接触不可な状態で包装することが好ましい。
【0070】
通常、「ダブルシリンジ」タイプの容器は、前記第1のシリンジ及び前記第2のシリンジを夫々の吐出口が隣接するようにして並列に配置して保持する保持機構と、夫々キャップを外した前記2つのシリンジの両吐出口に混合器を着脱可能に装着できるようにする混合器装着機構と、前記2つのシリンジの両押し子を連動させて各押し子を同時に各バレル内に押し込むことができようにする押し子連動機構と、を有し、前記2つのシリンジの各流体保持空間に保持された前記第1剤及び第2剤を各吐出口より同時に流出させて、各吐出口より流出したこれら剤を前記混合器により混合できるようされている。なお、上記保持機構は、第1のシリンジ及び第2のシリンジが上記したように並列に配置されたものを一体成形する等の方法により一体化することを含み、押し子連動機構も、例えば一体成型することにより、2つの押し子とこれらを連結する部材とを一体化すること、或いは各押し子末端の操作部(指で押す部分)を連結して両押し子を並列に配置した状態で一体化することを含む。
【0071】
ディスペンサーと呼ばれる押し子を押し込むための治具を使用しない、所謂「手押しダブルシリンジタイプ」のものは、上記保持機構及び押し子連動機構としてこのような一体化を採用したものが使用され、前記キャップが外された2つの吐出口にミキシングチップ等の混合器装着機構を取り付けてから、前記2つのシリンジの両押し子を連動させて各押し子を同時に各バレル内に押し込み、第1剤及び第2剤を各吐出口より同時に、所定の量比(通常は等量)で流出させて、各吐出口より流出したこれら剤を前記混合器により混合することによって、CRが(要時)調製される。片手で容易に必要量のペーストを押し出すことが可能であるという本発明の組成物の特長を有効に生かせるという観点から、本発明のキットは、このような「手押しダブルシリンジタイプ」容器を用いたものであることが特に好ましい。
【0072】
本発明のキットを用いて(要時)調製された本発明の組成物は、2剤を混合することにより前記化学重合開始剤(D)の有機過酸化物(d1)とN,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p―トルイジン化合物(d2)とが接触する。その結果、所定の時間(通常2~10分間)が経過した後、速やかに化学重合が開始する。所定の時間は、化学重合開始剤の配合量、重合促進剤等を調節することにより調整することができる。更に、一定以上の高強度の光照射を行うことにより、光重合を進行させて急速に硬化させることができる。照射する光は、α-ジケトン系の光重合開始剤で単量体を硬化させるために通常用いられる光の光源と同じ公知の光源を用いることができる。具体的には、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、LED、ハロゲンランプ、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の可視光線を照射する光源(好ましくは400~600nmの波長の光を中心波長とするもの)を好適に使用できる。照射時間は、光源の照射する光の波長、強度、及び硬化体の形状や材質に応じて適宜決定すればよい。例えば、本キットを歯科用コンポジットレジンとして使用する場合は、5秒以上、好ましくは10秒~1分間の照射を行えば充分に硬化する。
【実施例0073】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0074】
(1)化合物の略称
≪重合性単量体(A)≫
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・Bis-GMA:2,2’-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン
・D-2.6E:下記式で示される化合物
【0075】
【0076】
≪フィラー(B)≫
・F1:不定形シリカ-ジルコニア、平均粒径;5μm、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで処理したもの
・F2:球状シリカ-ジルコニア、平均粒径;0.2μm、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで処理したもの
・F3:微粉末シリカ、平均粒径;0.01μm程度、ヘキサメチルジシラザンで処理したもの。
【0077】
≪光重合開始剤(C)≫
<α-ジケトン化合物(c1)>
・CQ:カンファーキノン。
【0078】
<ヨードニウム塩化合物(c2)等>
[オキソ酸の共役塩基である対アニオンを有するヨードニウム塩化合物(c2-a)]
・BPITF:ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート
・BPITS:ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウムp-トルエンスルホナート
[ヨードニウム系双性イオン化合物(c2-b)]
・DPIC:ジフェニルヨードニウム-2-カルボキシラート一水和物
[(c2-a)以外のヨードニウム塩化合物(c2-c)]
・DPIB:p-イソプロピルフェニル-p-メチルフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート。
【0079】
<電子供与体化合物(c3)>
・DMBE:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル。
【0080】
≪化学重合開始剤(D)≫
<有機過酸化物(d1)>
・BPO:過酸化ベンゾイル
<N,N-ジ(ヒドロキシアルキル)-p-トルイジン化合物(d2)>
・DEPT:p-トリルジエタノールアミン。
【0081】
≪重合禁止剤(E)≫
・BHT:2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール
・HQME:ヒドロキノンモノメチルエーテル。
【0082】
(2)実施例、参考例及び比較例
実施例1
重合性単量体(A)の一部としてのD-2.6E:22質量部、3G:22質量部及びBis-GMA:6質量部の混合物に、光重合開始剤(C)の成分である(c2)としてのBPITF:0.2質量部および(c3)としてのDMBE:0.5質量部、化学重合開始剤(D)の成分である(d2)DEPT:1.0質量部を配合して重合性単量体組成物を調製した。その後、得られた重合性単量体組成物と、フィラー(B)の一部としてのF1:160質量部及びF2:140質量部と、を、乳鉢を用いて均一になるまで攪拌混合して、第1剤となる第一の部分組成物(以下「組成物A」ともいう。)であるペースト:PA-1を調製した。
【0083】
次に、これとは別に、重合性単量体(A)の残部としてのD-2.6E:22質量部、3G:22質量部及びBis-GMA:6質量部の混合物に、光重合開始剤(C)の成分である(c1)としてのCQ:0.4質量部、化学重合開始剤(D)の成分である(d1)としてのBPO:1.6質量部、及び重合禁止剤(E)としてのBHT:0.07質量部を配合して重合性単量体組成物を調製した。その後、得られた重合性単量体組成物と、無機充填材(B)の残部としてのF1:160質量部、F2:135質量部およびF3:5質量部と、を、乳鉢を用いて均一になるまで攪拌混合して第2剤となる第二の部分組成物(以下「組成物B」ともいう。)であるペースト:PB-1を調製した。
【0084】
得られたPA-1およびPB-1を、手押しダブルシリンジタイプの容器(株式会社トクヤマデンタル社製、商品名:エステコアハンドタイプで使用しているものと同じ容器)の各シリンジの各バレル内に、(2つのシリンジバレル内に挿入された押し子を引くことによって)吸引して充填した後に、2つのシリンジの両吐出口にミキシングチップ(先端部内径φ0.8mm)を装着してから手で押し子を押すことによって両剤を混合して、混合されたペースト(歯科用硬化性組成物)を押し出し、次のようにして光硬化深さ、保存安定性および吐出性の評価を行った。
【0085】
また、これとは別に上記と同様にしてPA-1およびPB-1を調製した後に、同様にして手押しダブルシリンジタイプの容器に充填した後に2つのシリンジの両吐出口をキャップで塞ぎ、封止したサンプルを用いて、次のようにして保存安定性の評価を行った。
【0086】
<光硬化深さ評価>
ミキシングチップ先端から混和されたペーストを押し出し、直径4mm、高さ10mmの孔を有するSUS製割型に充填した後、ポリプロピレンフィルムで圧接し、上部から歯科用光照射器(トクヤマデンタル社製、トクソーパワーライト;光出力密度400mW/cm2)で10秒間光照射した。型からペーストを外し、未硬化部分を除去した後に、硬化したペーストの高さをマイクロメーターで測定した。なお、測定値を2で割った値を光硬化深さとした。試験は2回行い、平均を求めた。その結果、光硬化深さは、1.60mmであった。
【0087】
<吐出性(吐出感)評価>
押し子を押すことでミキシングチップ先端からペースト0.2gをガラス板上に吐出させた。このときの押し子の押し易さを確認し、以下の評価基準に従って、ペーストの吐出性(吐出感)を評価した。その結果、評価は1であった。
1:弱い力で押してもペーストの吐出が可能で、吐出感は非常に良い
2:難なくペーストの吐出が可能で、吐出感は良好である
3:少し力強く押せばペーストの吐出が可能であり、吐出感は許容
4:力強く押せばペーストの吐出は可能であるが、吐出感は悪い
5:ペーストを全く吐出できない。
【0088】
<保存安定性評価(ゲル化試験)>
前記封止サンプルを摂氏40℃に設定したインキュベーターにて10日間保管した後、前記シリンジ容器の先端部に前記ミキシングチップを装着し、押し子を押した。充填したペーストを全量押し出せる場合は「〇」、ゲル化したことによって全量を押し出すことができない場合は「×」とした。その結果、評価は〇であった。
【0089】
実施例2~8、参考例1~2及び比較例1~5
第1剤(組成物A)および第2剤(組成物B)の組成が表1および表2に示すものとなるように変更する以外は実施例1と同様にしてペーストを調製し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
上記表3に示されるように、本発明のキットを用いて本発明の組成物を調製した実施例1~8では、光硬化深さが1.6mm以上である上、吐出感も良好(1から3の範囲内)であった。また、保存安定性も良好であった。一方、ヨードニウム塩化合物(c2)を配合しない比較例1では、光硬化深さが低い値であった。また、対アニオンがオキソ酸の共役塩基ではないヨードニウム塩(c2-c)を添加した比較例2および3では、吐出感への影響が大きいため、光硬化深さと吐出性の両立が困難であることがわかる。さらに、Mc2a/MEが、0.5未満である比較例4は、光硬化深さが低かった。また、重合禁止剤(E)の配合量が、(A)100質量部に対して0.05質量部未満の比較例5では、保存安定性が低かった。また、対アニオンがオキソ酸の共役塩基であるヨードニウム塩(c2-a)に代えてヨードニウム系双性イオン化合物(c2-b)であるDPICを用いた参考例では、実施例と同様の効果が得られた。