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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140612
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/10 20060101AFI20241003BHJP
   A01N 47/16 20060101ALI20241003BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20241003BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
A01N25/10
A01N47/16 A
A01P17/00
B01J13/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051827
(22)【出願日】2023-03-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】000222129
【氏名又は名称】東洋エアゾール工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 賢也
(72)【発明者】
【氏名】山口 実愛
(72)【発明者】
【氏名】松下 将士
(72)【発明者】
【氏名】坪内 誠
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊郎
【テーマコード(参考)】
4G065
4H011
【Fターム(参考)】
4G065AB11Y
4G065AB33Y
4G065AB35Y
4G065AB38Y
4G065BB04
4G065CA03
4G065DA02
4G065EA01
4G065EA10
4H011AC06
4H011BA01
4H011BB13
4H011BC01
4H011BC06
4H011BC19
4H011BC22
4H011DA16
4H011DH02
(57)【要約】
【課題】実質的に界面活性剤を含有していなくとも、分散安定性に優れた、イカリジンを含有する水中油型乳化組成物。
【解決手段】水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一、水、イカリジン、並びにエステル油を含有する水中油型乳化組成物であって、該エステル油のけん化価が、150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、該エステル油のIOB値が、0.15~0.60であり、該水中油型乳化組成物は、実質的に界面活性剤を含まないことを特徴とする水中油型乳化組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一、水、イカリジン、並びにエステル油を含有する水中油型乳化組成物であって、
該エステル油のけん化価が、150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、
該エステル油のIOB値が、0.15~0.60であり、
該水中油型乳化組成物は、実質的に界面活性剤を含まないことを特徴とする水中油型乳化組成物。
【請求項2】
前記水中油型乳化組成物中の前記エステル油の含有量が、0.05質量%~10.00質量%である請求項1に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
前記水中油型乳化組成物中の前記水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一の合計の含有量が、0.005質量%~10.00質量%である請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項4】
前記水中油型乳化組成物中の前記イカリジンの含有量が、0.50質量%~30.00質量%である請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項5】
前記エステル油が、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、クエン酸トリエチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、オリーブ果実油、アンズ核油、及びブドウ種子油からなる群から選択される少なくとも一を含む請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール及びセルロース系高分子からなる群から選択される一以上を含む請求項1又は2に記載の水中油型乳化組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
蚊をはじめとする害虫は、デング熱やジカ熱などの多くの感染症を媒介し、人体に多くの被害をもたらす。蚊などの害虫から人体を守るために、害虫に対する忌避成分(害虫忌避成分)が広く実用されている。
【0003】
害虫忌避成分として、ディート(DEET)、p-メンタン-3,8-ジオール、イカリジンなどが知られている。中でもイカリジンは、優れた忌避効果を発揮し、皮膚刺激性が低いことが知られている。しかしながら、イカリジンは水に対する溶解度が非常に小さい油性の化合物である。そこで、従来、適量のイカリジンを肌などの対象面へ均一に塗布できるようにするために、イカリジンを低級アルコールなどの水性溶媒や有機溶媒へ溶解させて使用する方法が用いられている。
【0004】
例えば、イカリジンを含有する耐水性忌避剤において、溶媒としてエタノールを用いる技術が提案されている(特許文献1)。また、水とエタノールに加えてスルホン化微細セルロース繊維を含有させることにより、イカリジンを水中で均一な状態にできるようにする技術が提案されている(特許文献2)。
【0005】
一方、近年、ナチュラル志向の高まりから、アルコールや界面活性剤の刺激による人体への負担を軽減するため、また、省資源化のため、アルコールや界面活性剤を含まない製品に対する要求が高まっている。
【0006】
ここで、適量の油性成分を対象面へ均一に塗布するための手法として、水を分散媒とする水中油型(O/W)エマルションが知られている。そして、上記の要求に応えるために、界面活性剤を含まない水中油型エマルションの開発が行われている。
例えば、界面活性剤を用いず、粉末状の固体粒子を界面に吸着させることによって調製するエマルションは、ピッカリングエマルションとして従来知られている(例えば非特許文献1や特許文献3)。また、ポリオキシエチレン(10)硬化ヒマシ油などにより形成される閉鎖小胞体及び/又は水酸基を有する重縮合ポリマーの粒子が、油-水の界面に介在して、ファンデルワールス力により油相に付着することで乳化させる方法は、三相乳化法として従来知られている(例えば非特許文献2や特許文献4)。さらに、水中油型エマルションの調製において、界面活性剤を用いずに、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンを用いてホモジナイザーなどの機械力により乳化させる方法が知られている(例えば特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-094319号公報
【特許文献2】特開2022-075638号公報
【特許文献3】特開2007-332037号公報
【特許文献4】特開2020-037109号公報
【特許文献5】特開2022-126615号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Robert Aveyard et. al, Advances in Colloid and Interface Science 100-102, 503-546 (2003)
【非特許文献2】Yasutaka.Enomoto et. al, Journal of Oleo Science 66, (7) 689-697 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、界面活性剤を用いずにイカリジンを含む水中油型エマルションを調製する場合、水溶性高分子又は固体粒子を用いて機械力により乳化させる方法では、乳化粒子の粒子径が大きくなってしまい、良好な分散安定性が得られないという問題がある。
【0010】
このような課題に鑑み、本開示は、実質的に界面活性剤を含有していなくとも、分散安定性に優れた、イカリジンを含有する水中油型乳化組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は以下の態様を含む。
[1]水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一、水、イカリジン、並びにエステル油を含有する水中油型乳化組成物であって、
該エステル油のけん化価が、150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、
該エステル油のIOB値が、0.15~0.60であり、
該水中油型乳化組成物は、実質的に界面活性剤を含まないことを特徴とする水中油型乳化組成物。
[2]前記水中油型乳化組成物中の前記エステル油の含有量が、0.05質量%~10.00質量%である[1]に記載の水中油型乳化組成物。
[3]前記水中油型乳化組成物中の前記水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一の合計の含有量が、0.005質量%~10.00質量%である[1]又は[2]に記載の水中油型乳化組成物。
[4]前記水中油型乳化組成物中の前記イカリジンの含有量が、0.50質量%~30.00質量%である[1]~[3]のいずれかに記載の水中油型乳化組成物。
[5]前記エステル油が、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、クエン酸トリエチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、オリーブ果実油、アンズ核油、及びブドウ種子油からなる群から選択される少なくとも一を含む[1]~[4]のいずれかに記載の水中油型乳化組成物。
[6]前記水溶性高分子が、ポリビニルアルコール及びセルロース系高分子からなる群から選択される一以上を含む[1]~[5]のいずれかに記載の水中油型乳化組成物。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、実質的に界面活性剤を含有していなくとも、分散安定性に優れた、イカリジンを含有する水中油型乳化組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例9に係る水中油型乳化組成物のエマルションの光学顕微鏡写真。
図2】実施例10に係る水中油型乳化組成物のエマルションの光学顕微鏡写真。
図3】実施例11に係る水中油型乳化組成物のエマルションの光学顕微鏡写真。
図4】比較例11に係る水中油型乳化組成物のエマルションの光学顕微鏡写真。
図5】比較例12に係る水中油型乳化組成物のエマルションの光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
数値範囲を表す「XX以上YY以下」や「XX~YY」の記載は、特に断りのない限り、端点である下限及び上限を含む数値範囲を意味する。数値範囲が段階的に記載されてい
る場合、各数値範囲の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。
【0015】
本開示において、界面活性剤とは、分子内に水になじみやすい親水部及び疎水性物質になじみやすい疎水部(すなわち、明確な親水性のヘッドグループ及び疎水性のテールグループ)を有する両親媒性物質であり、親水部が水へ、疎水部が疎水性物質と相互作用する事により水-疎水性物質界面に吸着して、水-疎水性物質界面の界面張力を著しく減少させて、エマルションやサスペンジョンの分散安定性を向上させることができる物質のことをいう。
【0016】
例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル-10、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸グリセリル、ラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ステアリン酸PEG45、ヤシ油脂肪酸メチルタウリンナトリウム、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
【0017】
そのほか、界面活性剤としては以下のものが挙げられる。
アニオン界面活性剤として、脂肪酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルメチルアミノ酸塩、アシル乳酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸メチルエステル塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルケンスルホン酸塩、アシルイセチオン酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪酸アルカノールアミド硫酸エステル、モノアシルグリセリン硫酸エステル、アルキルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩など。
カチオン界面活性剤として、脂肪酸アミドアミン塩、エステル含有3級アミン塩、アーコベル型3級アミン塩、モノアルキル4級アンモニウム塩、ジアルキル4級アンモニウム塩、トリアルキル4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩、モノアルキルエーテル型4級アンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、アルキルイソキノリウム塩、塩化ベンゼトニウム、ベンザルコニウム型4級アンモニウム塩など。
【0018】
ノニオン界面活性剤として、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油脂肪酸エステル、モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、アルキルポリグルコシド、ポリオキシアルキレンステロールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、アルキルグリセリルエーテル、プルロニック型界面活性剤など。
【0019】
両性界面活性剤として、グリシン型両性界面活性剤、アミノプロピオン酸型両性活性剤、酢酸ベタイン型両性界面活性剤、イミダゾリン型両性界面活性剤、アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン、アルキルアミンオキサイド、アルキルジメチルアミンオキサイド、アミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルカルボキシメチルヒドロキシエチルイミダゾリウムベタイン、アルキルアミドプロピルベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタイン、アルキルスルホベタイン、アミドスルホベタイン、脂肪酸アミドプロピルベタインなど。
また、ポリエーテル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、ポリグリセリン変性シリ
コーンなどのシリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤;レシチン、サポニン、胆汁酸、サーファクチン、スピクリスポール酸、アガリチン酸、長鎖ジカルボン酸、ラムノリピッド、トレハロースリピッド、サクシノイルトレハロースリピッド、オリゴ糖脂肪酸エステル、グリコースリピッドなどの天然界面活性剤が挙げられる。
【0020】
水中油型乳化組成物は、実質的に界面活性剤を含まない。本開示において、「実質的に界面活性剤を含まない」とは、水中油型乳化組成物に分散安定性を高める目的で界面活性剤を添加しないことをいい、水中油型乳化組成物の製造において不可避的にわずかに混入する微量の界面活性剤や製剤の機能性向上(保湿効果、抗炎症効果、防腐効果の付加など)を目的とし配合されるような界面活性物質を含んでいてもよい。例えば、配合されている成分に付随する界面活性剤であって水中油型乳化組成物中には分散安定性を高める効果が発揮されるより少ない量(例えば乳化組成物中の界面活性剤含有量が臨界ミセル濃度以下)しか含まれないような界面活性剤(いわゆるキャリーオーバー成分)は含んでいてもよい。例えば、水中油型乳化組成物中の界面活性剤の含有量は、0.10質量%未満であり、好ましくは0.05質量%以下であり、より好ましくは0.01質量%以下であり、さらに好ましくは0.001質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。
【0021】
以下、水中油型乳化組成物に用いる各成分について説明する。
【0022】
(イカリジン)
水中油型乳化組成物は、イカリジンを含有する。イカリジンは、別名ピカリジンとも呼ばれ、より具体的な体系名が、1-(1-メチルプロポキシカルボニル)-2-(2-ヒドロキシエチル)ピペリジン、2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボン酸1-メチルプロピルエステル、又は1-メチルプロピル2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピぺリジンカルボキシレートであり、害虫忌避成分である。イカリジンは、構造中に2つの不斉炭素原子を有し、4つの光学異性体を有するがそれらを包含する総称である。
イカリジンは、市販されているものを用いてもよく、化学合成により合成したものを用いてもよい。
【0023】
水中油型乳化組成物中のイカリジンの含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.50質量%~30.00質量%であり、より好ましくは0.70質量%~25.00質量%であり、さらに好ましくは1.00質量%~20.00質量%である。上記範囲であれば、十分な忌避効果が得られる。
【0024】
(けん化価が150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、かつ、IOB値が0.15~0.60であるエステル油)
水中油型乳化組成物は、けん化価が150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、かつ、IOB値が0.15~0.60であるエステル油を含有する。「エステル油」とは、カルボキシエステル構造と長鎖炭化水素基とを含むものをいう。エステル油は、例えば、水に不溶である(水と相分離する)。中でも、25℃で液状のものが好ましい。
【0025】
エステル油のけん化価は、150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、好ましくは160mgKOH/g~365mgKOH/gであり、より好ましくは180mgKOH/g~360mgKOH/gであり、さらに好ましくは190mgKOH/g~320mgKOH/gである。けん化価が上記範囲であれば、乳化粒子の粒子径を小さくすることができ、エマルション形成能を向上させることができる。また、長期保存の際のクリーミング、沈降、乳化粒子の合一、オストワルドライプニングなどの進行を抑制することができ、良好な長期分散安定性を得ることができる。
【0026】
けん化価は、1gの試料中のエステルをけん化するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を意味する。本開示において、けん化価は、例えば医薬部外品原料規格2021の一般試験法に収載されているけん化価測定法により求めることができる。
【0027】
エステル油のIOB値は、0.15~0.60であり、好ましくは0.15~0.55であり、より好ましくは0.16~0.53である。IOB値が上記範囲であれば、乳化粒子の粒子径を小さくすることができ、エマルション形成能を向上させることができる。また、長期保存の際のクリーミング、沈降、乳化粒子の合一、オストワルドライプニングなどの進行を抑制することができ、良好な長期分散安定性を得ることができる。
【0028】
IOB値とは、Inorganic/Organic Balance(無機性値/有機性値比)の略であって、無機性値の有機性値に対する比率を表す値であり、有機化合物の極性の度合いを示す指標となるものである。IOB値は、具体的には、IOB値=無機性値/有機性値として表される。
ここで、「無機性値」、「有機性値」のそれぞれについては、例えば、分子中の炭素原子1個について「有機性値」が20、同水酸基1個について「無機性値」が100といったように、各種原子又は官能基に応じた「無機性値」、「有機性値」が設定されており、有機化合物中の全ての原子及び官能基の「無機性値」、「有機性値」を積算することによって、当該有機化合物のIOB値を算出することができる。
【0029】
エステル油としては、けん化価が150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、かつ、IOB値が0.15~0.60であるエステル油であれば、特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、以下のエステル油が挙げられる。
【0030】
ミリスチン酸イソプロピル(IOB値:0.18)、パルミチン酸イソプロピル(IOB値:0.16)、オレイン酸エチル(IOB値:0.16)、リノール酸エチル(IOB値:0.16)、リノール酸イソプロピル(IOB値:0.16)ミリスチン酸ブチル(IOB値:0.17)などの直鎖脂肪酸と低級アルコールのエステル;
ラウリン酸ヘキシル(IOB値:0.17)などの直鎖脂肪酸と直鎖高級アルコールとのエステル;
イソステアリン酸イソプロピル(IOB値:0.15)などの分枝脂肪酸と低級アルコールとのエステル、
トリエチルヘキサノイン(IOB値:0.35)、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル(IOB値:0.30)などの脂肪酸と多価アルコールとのエステル;
イソノナン酸エチルヘキシル(IOB値:0.20)などの分枝脂肪酸と分枝アルコールとのエステル;
クエン酸トリエチルヘキシル(IOB値:0.50)などの水酸基を持つエステル;
オリーブ果実油(IOB値:約0.16)、アンズ核油(IOB値:約0.16)、ブドウ種子油(IOB値:約0.17)などの植物油等が挙げられる。
これらのエステル油は単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
エステル油は公知の製造方法に従って製造して用いてもよく、市販の製品を用いることもできる。市販の製品としては、日光ケミカルズ株式会社より販売されている、
「NIKKOL IPM-100」(ミリスチン酸イソプロピル、IOB値:0.18、けん化価:204―210);
「NIKKOL IPP」(パルミチン酸イソプロピル、IOB値:0.16、けん化価:179―189);
「NIKKOL EOO」(オレイン酸エチル、IOB値:0.16、けん化価:176―186);
「NIKKOL VF-E」(リノール酸エチル、IOB値:0.16、けん化価:1
77―187);
「NIKKOL VF-IP」(リノール酸イソプロピル、IOB値:0.16、けん化価:170―180);
「NIKKOL BM」(ミリスチン酸ブチル、IOB値:0.17、けん化価:194―204);
「NIKKOL IPIS」(イソステアリン酸イソプロピル、IOB値:0.15、けん化価:165―185);
「NIKKOL Trifat S-308」(トリエチルヘキサノイン、IOB値:0.35、けん化価:350―360);
「NIKKOL トリエスター F-810」(トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、(IOB値:0.30、けん化価:330―360);
「NIKKOL TOC」(クエン酸トリエチルヘキシル、IOB値:0.50、けん化価:300―330);
「NIKKOL オリーブ油」(オリーブ果実油、IOB値:約0.16、けん化価:186―194);
「NIKKOL 杏仁油」(アンズ核油、IOB値:約0.16、けん化価:188―200);
「NIKKOL グレープシード油」(ブドウ種子油、IOB値:約0.17、けん化価:186―203)等が挙げられる。
なお、各製品のけん化価は、上述の範囲で変化し得る。例えば、「NIKKOL IPM-100」のけん化価は、204~210の範囲で変化し得る。
【0032】
エステル油は、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、クエン酸トリエチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、オリーブ果実油、アンズ核油、及びブドウ種子油からなる群から選択される少なくとも一を含むことが好ましく、クエン酸トリエチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、オリーブ果実油、アンズ核油、及びブドウ種子油からなる群から選択される少なくとも一を含むことがより好ましく、クエン酸トリエチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、及びブドウ種子油からなる群から選択される少なくとも一を含むことがさらに好ましい。
【0033】
水中油型乳化組成物中の、けん化価が150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、かつ、IOB値が0.15~0.60であるエステル油の含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.05質量%~10.00質量%であり、より好ましくは0.07質量%~7.00質量%であり、さらに好ましくは0.10質量%~5.00質量%であり、さらにより好ましくは0.15質量%~3.00質量%である。
【0034】
水中油型乳化組成物は、水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一を含有する。なお、水溶性高分子及び微細繊維状セルロースは、従来の界面活性剤とは考えない。水溶性高分子及び微細繊維状セルロース繊維としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。
【0035】
(水溶性高分子)
水溶性高分子としては、例えば、以下のものが挙げられる。
セルロースガム、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル、カルボキシメチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウムなどのセルロース系高分子;
アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、グアーガム、グルコマンナン、キサンタンガム、ペクチン、寒天などの植物系増粘剤;
デンプン、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプンなどのデンプン類;
アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどのアルギン酸系ポリマー;
ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレンイミン、高重合ポリエチレングリコールなどの合成高分子;
高重合ポリエチレングリコール(高重合PEG、好ましくは平均重合度2000~150000)、(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマー、ポリウレタンなどの重合系ポリマーなどが挙げられる。
これらの水溶性高分子は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
水溶性高分子は公知の製造方法に従って製造して用いてもよく、市販の製品を用いることもできる。市販の製品としては、三菱ケミカル株式会社より販売されている「ゴーセノール(商標) EG-05C」(ポリビニルアルコール)、大同化成工業株式会社より販売されている「サンジェロース60M」(ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル)、「サンジェロース60L」(ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル)、「サンジェロース90M」(ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル)、「サンジェロース90L」(ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル)等が例示できる。
【0037】
水溶性高分子は、ポリビニルアルコール及びセルロース系高分子からなる群から選択される一以上を含むことが好ましい。
特に、ポリビニルアルコールは、従来の界面活性剤とは異なり、水溶性でありながら油性成分に配向しうる性質を有している。そのため、イカリジンやエステル油などの油性成分の分散体の粒子径を小さくすることが容易になり、水中油型乳化組成物中の油性成分を安定的に分散させることが容易になる。
【0038】
ポリビニルアルコールの数平均分子量Mnは、特に制限されないが、好ましくは400以上であり、より好ましくは500以上であり、さらに好ましくは1000以上であり、さらにより好ましくは2000以上である。一方、上限は、好ましくは100000以下であり、より好ましくは30000以下であり、さらに好ましくは15000以下である。
【0039】
ポリビニルアルコールのけん化度、すなわちポリビニルアルコール中の水酸基及びアセトキシ基の合計に対する水酸基の割合[水酸基/(水酸基+アセトキシ基)×100](モル%)は、特に制限されないが、好ましくは70~100モル%であり、より好ましくは80~95モル%であり、さらに好ましくは82~93モル%であり、さらにより好ましくは85~90モル%である。
【0040】
本開示において、「セルロース系高分子」とは、水溶性高分子の1種であり、セルロースの水酸基が部分的に他の置換基に変換されたセルロース誘導体をいう。
セルロース系高分子は、置換基の置換度や分子量に制限はないが、例えば、重量平均分子量は5000~1000000であることが好ましく、10000~700000であることがより好ましく、10000~500000であることがさらに好ましい。
【0041】
セルロース系高分子としては、疎水化セルロースが好ましい。疎水化セルロースは、疎水化されているセルロース化合物であり、例えば、疎水化セルロース、疎水化セルロースエステルなどがある。具体的にはヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルなどがある。疎水基として長鎖アルキル基を有することが好ましく、長鎖アルキル基
は例えば、C12以上が好ましく、C14以上がより好ましく、C16以上がさらに好ましく、C18以上がさらにより好ましい。
【0042】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテルとしては、特に制限されないが、その構成単位となるグルコース残基の水酸基の内、20~40%、好ましくは27~30%がメトキシル基;5~20%、好ましくは7~11%がヒドロキシプロポキシル基;0.1~4.0%、好ましくは0.3~0.6%がステアリルオキシヒドロキシプロポキシル基に置換されているものが好適な一例として挙げられる。
【0043】
(微細繊維状セルロース)
微細繊維状セルロースは、植物由来のセルロースを微細繊維化することで調製することができる。また、微細繊維状セルロースは繊維間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その水酸基の一部を化学処理することができる。
【0044】
微細繊維状セルロース表面の置換基及び置換度に制限はないが、例えば、以下の微細繊維状セルロースが挙げられる。
TEMPO酸化セルロースファイバー、リン酸エステル化セルロースファイバー、亜リン酸エステル化セルロースファイバー、スルホン化セルロースファイバー、次亜酸化セルロースファイバー、アシル化セルロールファイバー、カルボキシメチルエーテル化セルロースファイバー、ザンテートエステル化セルロースファイバー。
【0045】
微細繊維状セルロースは公知の製造方法に従って製造して用いてもよく、市販の製品を用いることもできる。市販の製品としては、第一工業製薬株式会社より販売されている「レオクリスタC-2SP」(結晶セルロース)が例示できる。
【0046】
微細繊維状セルロースはα-セルロースを部分的に解重合して精製したものであれば特に制限されないが、最大繊維径が5000nm以下である微細繊維状セルロースが好ましく、最大繊維径が1000nm以下である微細繊維状セルロースがより好ましい。
【0047】
微細繊維状セルロースとしては、数平均繊維径が2~100nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、I型結晶構造を有するとともに、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてアルデヒド基及びカルボキシル基に変性されており、上記カルボキシル基量が0.6~2.2mmol/gの範囲であって、アルデヒド基量が0.03~0.3mmol/gの範囲が好ましい。
【0048】
水中油型乳化組成物中の、水溶性高分子及び微細繊維状セルロースからなる群から選択される少なくとも一の合計の含有量は、特に制限されないが、好ましくは0.005質量%~10.00質量%であり、より好ましくは0.05質量%~7.00質量%であり、さらに好ましくは0.08質量%~5.00質量%であり、さらにより好ましくは0.10質量%~1.00質量%である。
【0049】
水中油型乳化組成物中の、けん化価が150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、かつ、IOB値が0.15~0.60であるエステル油に対する、水溶性高分子及び/又は微細繊維状セルロースの合計の含有比率(質量比)は、好ましくは1/10~10/1であり、より好ましくは1/3~5/1であり、さらに好ましくは1/3~3/1である。
【0050】
(水)
水中油型乳化組成物は、水を含有する。水中油型乳化組成物中の水の含有量は、特に制限されないが、好ましくは50.00質量%~99.85質量%であり、より好ましくは
60.00質量%~99.50質量%であり、さらに好ましくは70.00質量%~99.30質量%である。
【0051】
以下、その他の添加剤について説明する。
水中油型乳化組成物は、本発明の効果を損なわない程度に、その他の公知の添加剤を含有していてもよい。具体的には、例えば以下のものが挙げられる。
けん化価が150mgKOH/g~370mgKOH/gであり、かつ、IOB値が0.15~0.60であるエステル油及びイカリジン以外の油性成分(例えばスクワランなどのパラフィン油);イカリジン以外の害虫忌避成分(例えばディート);低級アルコール(例えばエタノールなどの炭素数1~3の脂肪族一価アルコール);多価アルコール(例えばグリセリン、プロピレングリコール(PG)、ジプロピレングリコール(DPG)、1,3-ブタンジオールなどのブタンジオール、);pH調整剤(例えばクエン酸、乳酸、トリエタノールアミン、KOH、NaOH);防錆剤(例えばアンモニア水、安息香酸アンモニウム、亜硝酸ナトリウム);防腐剤(例えばパラベン類、フェノキシエタノール、エチルヘキシルグリセリン、モノウンデシレン酸グリセリル、ジメチロールプロピオン酸ヘキシル);尿素;カルシウム、鉄、ナトリウムなどのミネラル;顔料;色素;抗炎症剤(例えばグリチルリチン酸ジカリウム、キミルアルコール);紫外線吸収剤(例えばテレフタリリデンジカンフルスルホン酸)、保湿剤(例えばバチルアルコール、PPG-4ブテス-4)など。
【0052】
水中油型乳化組成物は、油性成分を含む油相が水性成分を含む水相に分散した水中油型(O/W)である。水中油型乳化組成物中の油性成分の含有量は、好ましくは0.30質量%~45.00質量%であり、より好ましくは0.50質量%~35.00質量%であり、さらに好ましくは1.00質量%~30.00質量%であり、さらにより好ましくは1.20~25.00質量%である。なお、ここで油性成分とは、必須成分であるエステル油及びイカリジンを含む、水に不溶な(水と相分離する)公知の油性成分をいう。「水に不溶」とは、例えば、25℃において、100gの水への溶解度が1.0g以下であることを指す。
【0053】
水中油型乳化組成物における乳化粒子の体積平均粒子径は、好ましくは0.5μm~7.0μmであり、より好ましくは1.0μm~5.0μmであり、さらにより好ましくは2.0μm~5.0μmである。体積平均粒子径は、油滴の体積平均粒子径である。体積平均粒子径は、乳化させる際の分散強度や水中油型乳化組成物の各成分の含有量などにより制御することができる。
【0054】
体積平均粒子径の測定は、例えば、光学顕微鏡(株式会社キーエンス:VHX-7000)を用いて測定でき、光学顕微鏡で観察された視野における任意の150個の乳化粒子径を測定することで算出できる。
【0055】
イカリジンは害虫に対する忌避作用を有するため、本開示の水中油型乳化組成物は、害虫忌避の用途に好適に用いることができる。したがって、水中油型乳化組成物は、害虫忌避用であることが好ましい。害虫に対する忌避作用とは、害虫が寄り付かないことに加え、害虫が寄り付きにくくなるということや、害虫が人などの皮膚や衣服に付着又は降着しても停留せずにすぐに離れていくことを含む概念である。
水中油型乳化組成物の忌避の対象となる害虫としては、限定はされないが、例えば、蚊(蚊成虫を含む)、ブユ、サシバエ、イエバエ、マダニ、ナンキンムシ、アブ等の衛生害虫に加え、ユスリカ、チョウバエ等の不快害虫などが挙げられる。
【0056】
水中油型乳化組成物の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。例えば、水、イカリジン、エステル油、並びに水溶性高分子及び微細繊維状セルロースか
らなる群から選択される少なくとも一、並びに必要に応じてその他の成分を任意の割合で混合し、回転式ホモジナイザーや超音波乳化機、高圧ホモジナイザーなどを用いて乳化させる方法が挙げられる。
【0057】
水中油型乳化組成物は、特に制限されないが、人体用品、家庭用品、工業用品などに用いることができる。
水中油型乳化組成物は、公知の容器に充填して使用することができる。公知の容器としては、具体的には、チューブ、ポンプ、エアゾール容器などを使用できる。容器からの吐出形態は、特に制限されないが、例えばローション状、ジェル状、泡状、又はスプレー状とすることができる。また、不織布等のシートに水中油型乳化組成物を含浸させたシート剤等の形態で使用することもできる。
【実施例0058】
以下、実施例を参照して本開示を具体的に説明する。ただし、本開示は以下の実施例の態様に制限されない。
【0059】
<実施例1~11及び比較例1~12>
エステル油として、表1及び2に示す通り、トリエチルヘキサノイン、トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル、オリーブ果実油、アンズ核油、ブドウ種子油、クエン酸トリエチルヘキシル、ミリスチン酸イソプロピル、カプリル酸PG、エチルヘキサン酸セチル、イソステアリン酸デシル、ミリスチン酸イソセチル、セバシン酸ジエチル、アジピン酸ジイソプロピルを用いた。各エステル油のIOB値を表1及び2に示す。
【0060】
各エステル油のIOB値は、「特集総説 乳化技術の基礎と進化(1) 乳化基礎理論」(堀内 照夫、J.Soc. Cosmet. Chem. Jpn. 44(1) 2-22 (2010))のTable-3に記載された各官能基の有機性値及び無機性値に基づき算出した。
なお、オリーブ果実油のIOB値は、オリーブ果実油に含まれる成分の平均割合(オレイン酸82.5%、パルミチン酸9.0%、リノール酸6.0%、ステアリン酸2.3%、アラキン酸0.2%)をもとに算出した。アンズ核油のIOB値は、アンズ核油に含まれる成分の平均割合(オレイン酸69.5%、パルミチン酸3.0%、リノール酸25.0%、ステアリン酸2.5%)をもとに算出した。ブドウ種子油のIOB値は、ブドウ種子油に含まれる成分の平均割合(オレイン酸17.0%、パルミチン酸7.0%、リノール酸71.0%、ステアリン酸5.0%)をもとに算出した。
【0061】
医薬部外品原料規格2021の一般試験法に収載されているけん化価測定法に従い、各エステル油のけん化価を求めた。具体的には、以下の手順でけん化価を求めた。
試料としてエステル油1~2gを精密に量り、200mlのフラスコに入れ、0.5mol/L水酸化カリウム・エタノール液25mlを加えた。これに、長さ750mm、内径6mmの空気冷却器を付けて水浴上で時々揺り動かしながら1時間加熱した。その後、室温まで冷却し、0.5mol/L塩酸で過量の水酸化カリウムを滴定した。なお、指示薬としてフェノールフタレイン試液1mlを用いた。また、エステル油を加えないこと以外は同様の方法により滴定し、これを空試験とした。
【0062】
以下の式から各エステル油のけん化価を求めた。求めたけん化価を表1及び2に示す。
【0063】
【数1】

式中、aは空試験の0.5mol/L塩酸の消費量(mL)を示し、bは試料の0.5mol/L塩酸の消費量(mL)を示し、cは試料の量(g)を示す。
【0064】
表1及び2に示す処方(質量%)にてガラスビーカーに合計100gの各原料を採取して混合した後、ローター式ホモジナイザー(プライミクス社製:ホモミクサーMARK II 2.5型)を用いて25℃で8000rpm、3分間乳化を行い、実施例1~11及び比較例1~12の水中油型乳化組成物を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表中、使用した原料は以下の通りである。
(水)
水:精製水
【0068】
(水溶性高分子)
ポリビニルアルコール:ゴーセノール(商標) EG-05C(Mn約10200、ケン化度86.5~89.0モル%、三菱ケミカル株式会社)
ヒドロキシプロピルメチルセルロースステアロキシエーテル:サンジェロース60L(大同化成工業株式会社)
【0069】
(微細繊維状セルロース)
結晶セルロース、フェノキシエタノール、及び水の混合物:レオクリスタC-2SP(第一工業製薬株式会社)(2質量%の微細繊維状セルロース及び1質量%のフェノキシエタノールを97質量%の水中に含む製品)
【0070】
(エステル油)
トリエチルヘキサノイン:NIKKOL Trifat S-308(日光ケミカルズ株式会社)
トリ(カプリル/カプリン酸)グリセリル:NIKKOL トリエスター F-810(日光ケミカルズ株式会社)
オリーブ果実油:NIKKOL オリーブ油(日光ケミカルズ株式会社)
アンズ核油:NIKKOL 杏仁油(日光ケミカルズ株式会社)
ブドウ種子油:NIKKOL グレープシード油(日光ケミカルズ株式会社)
クエン酸トリエチルヘキシル:NIKKOL TOC(日光ケミカルズ株式会社)
ミリスチン酸イソプロピル:NIKKOL IPM-100(日光ケミカルズ株式会社)カプリル酸PG:NIKKOL Sefsol-218(日光ケミカルズ株式会社)
エチルヘキサン酸セチル:NIKKOL CIO(日光ケミカルズ株式会社)
イソステアリン酸デシル:NIKKOL GS-DIS(日光ケミカルズ株式会社)
ミリスチン酸イソセチル:NIKKOL ICM-R(日光ケミカルズ株式会社)
セバシン酸ジエチル:NIKKOL DES-SP(日光ケミカルズ株式会社)
アジピン酸ジイソプロピル:NIKKOL DID(日光ケミカルズ株式会社)
【0071】
(添加剤)
水添ポリイソブテン:パールリーム(登録商標)3(日油株式会社)
スクワラン:NIKKOL スクワラン(日光ケミカルズ株式会社)
【0072】
<透過光強度及び後方散乱光強度の測定>
得られた水中油型乳化組成物の透過光強度及び後方散乱光強度を測定した。測定には、高機能液中分散安定性評価装置Turbiscan Lab(FORMULACTION社)を用いた。
【0073】
Turbiscan Lab付属のガラスボトルに、調製直後の水中油型乳化組成物を、高さ40mmまで充填した。このガラスボトルに880nmのレーザー光を照射し、透過光強度(Abs)及び後方散乱光強度(BS)をそれぞれ測定し、これを1回目の測定とした。
【0074】
なお、光を照射した範囲は、ガラスボトルの底からサンプル液のメニスカスがすべて含まれる高さまで(すなわち、ガラスボトルの高さ0mm~40mm)である。透過光強度を測定した範囲は、ガラスボトルの高さ0mm~5mm及び35mm~40mmの範囲である。以下、ガラスボトルの高さ0mm~5mmにおいて測定した透過光強度をAbsとも称し、ガラスボトルの高さ35mm~40mmにおいて測定した透過光強度をAbsとも称する。後方散乱光強度を測定した範囲は、ガラスボトルの高さ17.5mm~22.5mmの範囲である。また、装置内部の温度は25℃を維持した。
【0075】
1回目の測定後の、水中油型乳化組成物が充填されたガラスボトルを、25℃下で8日間静置した。その後、1回目の測定と同様の方法により、透過光強度(Abs、Abs)及び後方散乱光強度(BS)を測定し、これを2回目の測定とした。
【0076】
(1)エマルション形成能
上記した1回目の測定により得られた後方散乱光強度(1回目のBS)に基づき、エマルション形成能を以下の基準で評価した。
なお、後方散乱光強度(BS)は乳化粒子の大きさと乳化粒子濃度に依存する。したがって、1回目のBSが大きいほど乳化粒子径は小さく乳化粒子濃度が高いことを示し、1回目のBSが小さいほど乳化粒子径は大きく乳化粒子濃度が低いことを示す。
【0077】
(評価基準)
A:1回目のBSが13%以上
B+:1回目のBSが11%以上13%未満
B:1回目のBSが9%以上11%未満
C:1回目のBSが7%以上9%未満
D:1回目のBSが7%未満
【0078】
(2)後方散乱光強度の変化率
下記式により、後方散乱光強度の変化率(BS変化率)を算出した。
BS変化率(%)=(2回目の測定により得られたBS)/(1回目の測定により得られたBS)×100
【0079】
算出したBS変化率に基づき、分散安定性を以下の基準で評価した。BS変化率が10
0%に近いほど、乳化粒子径及び乳化粒子濃度の経時変化が小さく、乳化粒子の合一やクリーミング・沈降などが進行しづらいことを示す。また、BS変化率が100%より小さいほど、乳化粒子径及び乳化粒子濃度の経時変化が大きく、乳化粒子の合一やクリーミング・沈降などが進行しやすいことを示す。
【0080】
(評価基準)
A:BS変化率が90以上
B:BS変化率が79以上90未満
C:BS変化率が68以上79未満
D:BS変化率が68未満
【0081】
(3)透過光強度の変化量の評価
下記式により、透過光強度の変化量(ΔAbs及びΔAbs)をそれぞれ算出した。
ΔAbs=|(2回目の測定により得られたAbs)-(1回目の測定により得られたAbs)|
ΔAbs=|(2回目の測定により得られたAbs)-(1回目の測定により得られたAbs)|
【0082】
算出したΔAbs、ΔAbsに基づき、分散安定性を以下の基準で評価した。なお、ΔAbsが小さいほど、ガラスボトル下部における乳化粒子の濃度勾配の経時変化が小さいことを示し、ΔAbsが大きいほど、ガラスボトル下部における乳化粒子の濃度勾配の経時変化が大きいことを示す。また、ΔAbsが小さいほど、ガラスボトル上部における乳化粒子の濃度勾配の経時変化が小さいことを示し、ΔAbsが大きいほど、ガラスボトル上部における乳化粒子の濃度勾配の経時変化が大きいことを示す。したがって、ΔAbs及びΔAbsが小さいほど、油滴がクリーミング・沈降しづらく、ΔAbs及びΔAbsが大きいほど、油滴がクリーミング・沈降しやすいことを示す。
【0083】
(評価基準)
A:ΔAbs及びΔAbsがいずれも0以上1未満
B:ΔAbs及びΔAbsのいずれか一方が0以上1未満であり、もう一方が1以上30未満
C:ΔAbs及びΔAbsがいずれも1以上30未満
D:ΔAbs及びΔAbsの少なくとも一方が30以上
【0084】
(4)エマルション中の油滴の観察
光学顕微鏡(キーエンス株式会社:VHX-7000)を用いて、1500の倍率で、調製直後の実施例9~11及び比較例11~12の水中油型乳化組成物のエマルション中の油滴を観察した。その結果を図1~5に示す。
また、前記油滴の体積平均粒子径を、光学顕微鏡で観察された視野における任意の150個の粒子の測定値から算出した。算出した体積平均粒子径を表2に示す。
図1
図2
図3
図4
図5