(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024014062
(43)【公開日】2024-02-01
(54)【発明の名称】塩化マグネシウム吸引管、貯留槽、塩化マグネシウム吸引管の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 7/00 20060101AFI20240125BHJP
C25C 3/04 20060101ALI20240125BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20240125BHJP
C22B 26/22 20060101ALI20240125BHJP
【FI】
C25C7/00 302B
C25C3/04
C25C7/06 302
C22B26/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022116627
(22)【出願日】2022-07-21
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】秋元 文二
【テーマコード(参考)】
4K001
4K058
【Fターム(参考)】
4K001AA38
4K001BA08
4K058AA11
4K058BA05
4K058BB05
4K058CB03
4K058CB05
4K058FA02
4K058FC26
(57)【要約】
【課題】金属マグネシウム及び塩化マグネシウムを含む溶融体から分離させる塩化マグネシウムへの、金属マグネシウムの混入を抑制することができる塩化マグネシウム吸引管、貯留槽、塩化マグネシウム吸引管の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】この発明の塩化マグネシウム吸引管1は、貯留槽11内で互いに分離した上方側の金属マグネシウム層Lmと下方側の塩化マグネシウム層Lcを含む溶融体MBで、前記塩化マグネシウム層Lcから塩化マグネシウムを吸引することに用いられるものであって、塩化マグネシウムの吸引端部2aを含む内側管2と、前記内側管2の少なくとも前記吸引端部2a側の周囲に設けられ、金属マグネシウムの捕捉端部3aを含む外側管3とを有するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留槽内で互いに分離した上方側の金属マグネシウム層と下方側の塩化マグネシウム層を含む溶融体で、前記塩化マグネシウム層から塩化マグネシウムを吸引することに用いられる塩化マグネシウム吸引管であって、
塩化マグネシウムの吸引端部を含む内側管と、前記内側管の少なくとも前記吸引端部側の周囲に設けられ、金属マグネシウムの捕捉端部を含む外側管とを有する、塩化マグネシウム吸引管。
【請求項2】
前記内側管の前記吸引端部が、前記外側管の前記捕捉端部よりも突出して位置する、請求項1に記載の塩化マグネシウム吸引管。
【請求項3】
当該塩化マグネシウム吸引管を前記溶融体に浸漬させた状態で、前記外側管が、前記溶融体の金属マグネシウム層の厚みを超える長さを有する、請求項1に記載の塩化マグネシウム吸引管。
【請求項4】
前記外側管が、溶融体中に存在する金属マグネシウムの液滴の表面に形成された被膜を破壊する被膜破壊部を含む、請求項1に記載の塩化マグネシウム吸引管。
【請求項5】
塩化マグネシウム及び金属マグネシウムを含む溶融体の貯留に用いられる貯留槽であって、
槽本体と、前記槽本体に取り付けられた請求項1~4のいずれか一項に記載の塩化マグネシウム吸引管とを備える貯留槽。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の塩化マグネシウム吸引管を使用する方法であって、
内側管の前記吸引端部及び外側管の前記捕捉端部を、前記金属マグネシウム層と塩化マグネシウム層との界面よりも前記貯留槽の底部側に位置させた状態で、
内側管により塩化マグネシウムを吸引する間、金属マグネシウムを外側管の前記捕捉端部で捕捉する、塩化マグネシウム吸引管の使用方法。
【請求項7】
請求項6に記載の塩化マグネシウム吸引管の使用方法により前記溶融体から取り出した塩化マグネシウムに対し、溶融塩電解を行い、金属マグネシウムと塩素ガスとを生成させる、金属マグネシウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、貯留槽の上方側の金属マグネシウム層と下方側の塩化マグネシウム層を含む溶融体に浸漬させて用いられる塩化マグネシウム吸引管、貯留槽、塩化マグネシウム吸引管の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロール法によりチタンを製造するには、還元容器内にて、四塩化チタンを金属マグネシウムで還元し、金属チタンを生成させる。この際に、副生成物として生成される塩化マグネシウムは、該塩化マグネシウムを含む溶融塩浴を用いた電気分解(いわゆる溶融塩電解)に供され、金属マグネシウムと塩素ガスが生成する。溶融塩電解で得られる金属マグネシウムは再度、四塩化チタンの還元に用いられる。
【0003】
たとえば特許文献1~3には、四塩化チタンの還元で生成する塩化マグネシウムの取扱いに関する記載がある。
【0004】
特許文献1には、「還元工程で副生する塩化マグネシウムを溶融状態で保存する塩化マグネシウム保存工程」について記載されている。
【0005】
特許文献2では、「容器内に2種以上の溶融物が存在している場合、それらの界面よりも下層側の溶融物を抜き取る際、当該界面よりも上層側の溶融物が混入することを抑制するコンテナを提供すること」を目的として、「密閉可能である容器と、前記容器の内外にわたって配置され、一端部が該容器の外側に位置するパイプ本体を有し、溶融金属または溶融塩を移送するための溶融物移送用部材とを備え、前記溶融物移送用部材が、前記容器の内側に位置する他端部にフランジを更に有する、コンテナ」が提案されている。
【0006】
特許文献3では、「特に還元容器から溶融塩化マグネシウムの排出管におけるような、スポンジチタン製造工程で取り扱う高温融体用の移送管において、熱変形が小さくまた酸化消耗の少なく、それにより修理コスト低減を可能する高温融体移送管構造を提供すること」を課題としている。そして、特許文献3は、「スポンジチタン製造工程で取り扱う高温融体用の移送管において、該移送管の内部または外部に同心状に保護管を設けたことを特徴とする高温融体移送管」を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-306789号公報
【特許文献2】特開2021-91941号公報
【特許文献3】特開2002-168375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
四塩化チタンの還元後、還元反応によって生成した塩化マグネシウムは、還元反応に使用されなかった未反応の金属マグネシウムとともに還元容器から回収される。
【0009】
そのような金属マグネシウムを含んだまま塩化マグネシウムを溶融塩電解に用いると、その金属マグネシウムが含有する還元容器由来のニッケル等の不純物により、溶融塩電解で得られる金属マグネシウムが汚染される。不純物で汚染された金属マグネシウムは、四塩化チタンの還元に用いた場合、還元で生成する金属チタンの純度の低下を招くおそれがある。それ故に、還元容器から回収した塩化マグネシウムは、金属マグネシウムを分離した後に、溶融塩電解で用いることが望ましい。
【0010】
塩化マグネシウムから金属マグネシウムを分離させるには、それらを貯留槽内にて溶融状態の溶融体として静置することが考えられる。そうすると、比重差に基づいて、金属マグネシウムが上方側に浮上するとともに、塩化マグネシウムが下方側に沈降する。これにより、貯留槽内で溶融体が金属マグネシウム層と塩化マグネシウム層に分かれる。その状態で、溶融体に浸漬させた吸引管により、塩化マグネシウム層から塩化マグネシウムを吸引することで、塩化マグネシウムを金属マグネシウムと分離して回収することができる。
【0011】
ここで、溶融体の塩化マグネシウム層から塩化マグネシウムを吸引すると、底部側の塩化マグネシウム層の厚みが塩化マグネシウムの減量に伴って減少にするに従い、溶融体の液面及び、金属マグネシウム層と塩化マグネシウム層との界面が降下していく。特にその界面が、当該界面よりも深い箇所に位置する吸引管の吸引端部に近づくと、吸引端部から吸引される塩化マグネシウムに、上方側の金属マグネシウム層の金属マグネシウムが巻き込まれて共に吸引されて混入しやすくなるという問題があった。
【0012】
この発明の目的は、金属マグネシウム及び塩化マグネシウムを含む溶融体から分離させる塩化マグネシウムへの、金属マグネシウムの混入を抑制することができる塩化マグネシウム吸引管、貯留槽、塩化マグネシウム吸引管の使用方法及び、金属マグネシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者は鋭意検討の結果、塩化マグネシウム吸引管を、塩化マグネシウム吸引用の内側管と、金属マグネシウム捕捉用の外側管とを含む少なくとも二重の管構造にすることを案出した。これにより、塩化マグネシウム吸引管の溶融体中の端部の周囲で、吸引端部に引き込まれる塩化マグネシウムの流れに、金属マグネシウムが巻き込まれたとしても、比重が相対的に小さい当該金属マグネシウムは、内側管の吸引端部に至る手前の途中で浮上して、外側管の捕捉端部で捕捉される。その結果、内側管に吸引される塩化マグネシウムに、金属マグネシウムが混入することが抑制される。
【0014】
この発明の塩化マグネシウム吸引管は、貯留槽内で互いに分離した上方側の金属マグネシウム層と下方側の塩化マグネシウム層を含む溶融体で、前記塩化マグネシウム層から塩化マグネシウムを吸引することに用いられるものであって、塩化マグネシウムの吸引端部を含む内側管と、前記内側管の少なくとも前記吸引端部側の周囲に設けられ、金属マグネシウムの捕捉端部を含む外側管とを有するものである。
【0015】
上記の塩化マグネシウム吸引管では、前記内側管の前記吸引端部が、前記外側管の前記捕捉端部よりも突出して位置することが好ましい。
【0016】
上記の塩化マグネシウム吸引管では、当該塩化マグネシウム吸引管を前記溶融体に浸漬させた状態で、前記外側管が、前記溶融体の金属マグネシウム層の厚みを超える長さを有することが好ましい。
【0017】
上記の塩化マグネシウム吸引管では、前記外側管が、溶融体中に存在する金属マグネシウムの液滴の表面に形成された被膜を破壊する被膜破壊部を含むことが好ましい。
【0018】
この発明の貯留槽は、塩化マグネシウム及び金属マグネシウムを含む溶融体の貯留に用いられるものであって、槽本体と、前記槽本体に取り付けられた上記のいずれかの塩化マグネシウム吸引管とを備えるものである。
【0019】
この発明の塩化マグネシウム吸引管の使用方法は、上記のいずれかの塩化マグネシウム吸引管を使用する方法であって、内側管の前記吸引端部及び外側管の前記捕捉端部を、前記金属マグネシウム層と塩化マグネシウム層との界面よりも前記貯留槽の底部側に位置させた状態で、内側管により塩化マグネシウムを吸引する間、金属マグネシウムを外側管の前記捕捉端部で捕捉するというものである。
【0020】
この発明の金属マグネシウムの製造方法は、上記の塩化マグネシウム吸引管の使用方法により前記溶融体から取り出した塩化マグネシウムに対し、溶融塩電解を行い、金属マグネシウムと塩素ガスとを生成させるというものである。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、金属マグネシウム及び塩化マグネシウムを含む溶融体から分離させる塩化マグネシウムへの、金属マグネシウムの混入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】この発明の一の実施形態の塩化マグネシウム吸引管を備える貯留槽の一例を示す、深さ方向に沿う断面図である。
【
図3】他の実施形態の塩化マグネシウム吸引管を示す。
図2と同様の図である。
【
図4】さらに他の実施形態の塩化マグネシウム吸引管を示す。
図2と同様の図である。
【
図5】さらに他の実施形態の塩化マグネシウム吸引管を示す。
図2と同様の図である。
【
図6】さらに他の実施形態の塩化マグネシウム吸引管を示す。
図2と同様の図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1に例示する塩化マグネシウム吸引管1は、塩化マグネシウム及び金属マグネシウムを含む溶融体MBを貯留させる貯留槽11に設けられ得るものである。
【0024】
貯留槽11は、塩化マグネシウム吸引管1及び容器状の槽本体12の他、さらに、図示は省略するが、槽本体12の周囲に配置されて槽本体12の内部を加熱することができるヒーター等を備えるものである。なお、図示の槽本体12は、円筒その他の筒状の側壁部12aと、側壁部12aの下方側を密閉する円板等の板状の底部12bと、槽本体12の側壁部12aの上方側の開口部12cを覆蓋する蓋体12dとを有するが、溶融体MBを貯留できれば、そのような具体的な形状ないし構造に限らない。また、貯留槽11は、ここでは図示しない他の部材ないし部分をさらに有するものであってもよい。
【0025】
貯留槽11内では、上記のヒーター等を用いた加熱により、塩化マグネシウム及び金属マグネシウムは溶融し、溶融体MBとなる。そして、その溶融状態を維持すると、比重が相対的に小さい金属マグネシウムは上方側に浮上する一方で、比重が相対的に大きい塩化マグネシウムは下方側に沈降する。それにより、貯留槽11内の溶融体MBは、図示のように、上方側の金属マグネシウム層Lmと、下方側の塩化マグネシウム層Lcとに分かれる。
【0026】
上記のような比重分離によって互いに分離した金属マグネシウム層Lm及び塩化マグネシウム層Lcを含む溶融体MBに対しては、塩化マグネシウム吸引管1を用いて、そのうちの塩化マグネシウム層Lcから塩化マグネシウムを吸引することができる。
【0027】
ここでは、内側管2及び外側管3を有する少なくとも二重の管構造の塩化マグネシウム吸引管1を使用する。内側管2は、塩化マグネシウムを吸引するためのものであり、塩化マグネシウム吸引管1の、溶融体MB中に浸漬させるほうの端部に、吸引端部2aが設けられている。内側管2の内部には、吸引端部2aから吸引された塩化マグネシウムが通る吸引空間2bが区画される。なお、内側管2は、塩化マグネシウム吸引管1の、貯留槽11の外部に位置するほうの端部側で、塩化マグネシウムの吸引をもたらすべく駆動される図示しないポンプに接続され得る。
【0028】
上記の内側管2の少なくとも吸引端部2aの周囲、図示の例では内側管2のほぼ全体の周囲には、外側管3が設けられている。外側管3は、金属マグネシウムが吸引端部2aから内側管2に吸引されないように、金属マグネシウムを捕捉するものであり、そのための捕捉端部3aが含まれる。外側管3と内側管2との間のスペースは、捕捉端部3aから入り込んだ金属マグネシウムが溜まる捕捉空間3bになる。この捕捉空間3bには、金属マグネシウムのみならず塩化マグネシウムも入ることがある。なお、外側管3の捕捉空間3bもポンプ等で吸引してもよいが、外側管3側を吸引することは必ずしも必要ではない。
【0029】
この塩化マグネシウム吸引管1は、次に述べるようにして使用することができる。
はじめに、塩化マグネシウム吸引管1の吸引端部2a及び捕捉端部3aを、貯留槽11内にて溶融体MBの金属マグネシウム層Lmと塩化マグネシウム層Lcとの界面IFよりも深い箇所(底部12b側の箇所)、すなわち、塩化マグネシウム層Lc内の箇所に位置させておく。
【0030】
次いで、塩化マグネシウム層Lc内の塩化マグネシウムを、吸引端部2aから吸引空間2bに通して吸引する。塩化マグネシウム層Lcから塩化マグネシウムが吸引されると、塩化マグネシウム層Lc内の塩化マグネシウムが減少するので、塩化マグネシウム層Lcの厚みが減少する。それに伴い、溶融体MBの液面LFが降下する。一方、金属マグネシウム層Lmの厚みは実質的に変化しないことから、液面LFの降下とともに、金属マグネシウム層Lmと塩化マグネシウム層Lcとの界面IFも降下する。
【0031】
そうすると、界面IFが、塩化マグネシウム吸引管1の吸引端部2a及び捕捉端部3aに次第に近づいていく。このため、界面IFよりも上方側の金属マグネシウム層Lmに含まれる金属マグネシウムが、吸引端部2a及び捕捉端部3aの周囲での吸引端部2aに向かう塩化マグネシウムの流れに巻き込まれて、吸引端部2aに吸引される塩化マグネシウムに混入しやすくなる。このような金属マグネシウムの巻込みは、塩化マグネシウムの吸引端部2aの近傍で顕著に起こり得る。これにより、図示は省略するが、仮に吸引端部を有する一重の管構造の吸引管を用いて、その吸引端部から塩化マグネシウムを吸引すると、特に、金属マグネシウム層と塩化マグネシウム層との界面が吸引端部よりも若干上方側に位置するときに、上述したような金属マグネシウムの巻込みにより、塩化マグネシウムのみならず金属マグネシウムも、吸引空間2bに吸引される。
【0032】
これに対し、この実施形態の塩化マグネシウム吸引管では、外側管3が設けられている。外側管3を設けることにより、塩化マグネシウムとともに吸引端部2aに吸引されそうになる金属マグネシウムは、
図2に矢印で示すように、小さな比重の故に、吸引端部2aに至る手前で浮上し、吸引端部2aに到達せずに、外側管3の捕捉端部3aで捕捉され得る。その結果、吸引端部2aから内側管2内に吸引される塩化マグネシウムに、金属マグネシウムが混入することが抑えられる。
【0033】
外側管3は、内側管2の少なくとも吸引端部2a側の周囲に位置する捕捉端部3aを含み、その捕捉端部3a分の長さを有するものであれば、上述したような金属マグネシウムの捕捉が可能である。
【0034】
一方、図示の実施形態のように、塩化マグネシウム吸引管1を溶融体MBに浸漬させたときに、外側管3が、溶融体MBの金属マグネシウム層Lmの厚みを超える長さで、液面LFよりも上方側に延びる長さを有するものとした場合、捕捉端部3aから外側管3と内側管2との間の捕捉空間3bに、溶融体MBが、たとえば液面LFと同じ高さ又は液面LFよりも上方側の高さになるまで入り込むことがある。そしてその状態で、塩化マグネシウムの吸引時に、捕捉端部3aで金属マグネシウムが捕捉されると、当該金属マグネシウムは、その下方側に位置する塩化マグネシウムにより、図示のように捕捉空間3b内で上方側に浮上する。それ故に、この場合は、一旦捕捉端部3aで捕捉された金属マグネシウムが、捕捉端部3aから流出して吸引端部2aに吸引される可能性を十分に低くすることができる。外側管3が、液面LFよりも上方側に延びるものであれば、多くの金属マグネシウムを捕捉空間3b内に捕捉することができる。
【0035】
なお、図示は省略するが、外側管の周囲にさらに管部材を設けて、三重以上の管構造としてもよい。この場合も、外側管及びさらに外側の管部材により、金属マグネシウムの捕捉が可能になる。
【0036】
内側管2の吸引端部2aは、浸漬した状態では貯留槽11の底部12b側に、外側管3の捕捉端部3aよりも突出して位置することが好ましい。言い換えると、吸引端部2aは、捕捉端部3aの端面から突き出る突出部分2cを有することが好適である。吸引端部2aが突出部分2cを有する場合、塩化マグネシウムの流れに巻き込まれながら浮上する金属マグネシウムは、突出部分2cの周壁によって、吸引端部2aまで至ることが遮られるとともに、その周囲の捕捉端部3aに入り込みやすくなる。
【0037】
但し、
図3に示す実施形態のように、吸引端部2aに突出部分2cを設けずに、吸引端部2aの端面と捕捉端部3aの端面とが実質的に同一平面上にあるものとしてもよい。なお、吸引端部2aが捕捉端部3aよりも奥まって位置する場合(すなわち、捕捉端部3aが吸引端部2aよりも突出して位置する場合)、塩化マグネシウムの流れに巻き込まれた金属マグネシウムが、捕捉空間3bで浮上する前に吸引端部2aに到達しやすくなる可能性がある。
【0038】
ところで、溶融体MB中では、金属マグネシウムの大部分は液体状もしくは融体状で金属マグネシウム層Lmを構成しているが、ごく一部が液滴状ないし溶融状態の粒状として存在することがある。この金属マグネシウムの液滴は、溶融体MBが貯留槽11で貯留される前もしくは間に空気中の酸素と接触したこと等に起因して、表面に酸化物等の被膜が形成され、大部分の液体状の金属マグネシウムから分離していると考えられる。
【0039】
なかでも、金属マグネシウムの微小な液滴は、上方側に浮上しにくく溶融体MB中を浮遊していることから、界面IFの近傍では、吸引端部2aに吸引される塩化マグネシウムの流れに巻き込まれて、該塩化マグネシウム中に混入しやすい傾向がある。かかる微小な液滴の混入を抑制するには、液滴の周囲に形成された被膜を破壊することが望ましい。液滴の被膜が破壊されると、その液滴は、他の液滴と凝集もしくは集合して、ある程度粗大な液滴となるか、又は金属マグネシウム層Lmに取り込まれると考えられる。なお、粗大な液滴は浮上しやすいので、塩化マグネシウムとともに吸引端部2aに吸引されることが起こりにくい。
【0040】
この観点から、外側管3は、金属マグネシウムの液滴の表面に形成された被膜を破壊する被膜破壊部を含むことが好適である。被膜破壊部として具体的には、
図4~6に示すものが挙げられる。
【0041】
図4に示す例では、捕捉端部3aの最先端部分をメッシュ状部分3cとしている。このようにすれば、吸引端部2aに吸引される塩化マグネシウムの流れに巻き込まれた金属マグネシウムの液滴は、メッシュ状部分3cに接触することで、その被膜が破壊される。それにより、当該液滴は、他の液滴と集合すること等によって吸引端部2aへの吸引が抑制される。
【0042】
図5では、捕捉端部3aの最先端部分の外面を、他の部分の表面よりも粗くして、その部分を外面凹凸部分3dとしている。外面凹凸部分3dの外面は、他の部分よりも粗いことから、それに接触した金属マグネシウムの液滴の被膜を良好に破壊することができる。なお、たとえば、外面凹凸部分3dの外面は、高さが0.1mm以上かつ10mm以下の凹凸の繰り返しパターンとする場合がある。他の部分の表面は、通常の仕上加工で形成されることがあり、外面凹凸部分3dの外面よりも平滑であればよい。
【0043】
図6の外側管3は、被膜破壊部として、図示しないが、たとえば貯留槽11の外部に設けられた駆動源を有し、その駆動源により超音波振動等にて、自身(外側管3)が振動するよう構成されたものである。振動方向は、同図に白抜き矢印で示す上下方向の他、左右方向、それらの方向に対して傾斜する方向等の様々な方向があり、特に問わない。振動方向は、図示の方向に限らず、適宜変更することが可能である。外側管3が振動すると、それに接した金属マグネシウムの液滴の被膜は、比較的容易に破壊され得る。
【0044】
なお、内側管2や外側管3を構成する材料は、特に限定されないが、たとえば、ステンレス鋼、炭素鋼、チタン、窒化珪素等とすることができる。
【0045】
塩化マグネシウム吸引管1を備える貯留槽11では、多くの場合、その塩化マグネシウム吸引管1が槽本体12又は蓋体12d等に固定して取り付けられるが、塩化マグネシウム吸引管1を動かすことができるように取り付けて、吸引端部2a及び捕捉端部3aの深さ方向の位置を変更可能としてもよい。
【0046】
貯留槽11は典型的には、四塩化チタンの還元を行った還元容器から回収された溶融体MBを、溶融塩電解で使用するまでの間に保管しておくタンク(いわゆるリザーバー)である。
【0047】
但し、貯留槽11は、溶融体MBを貯留する容器状のものであればよく、上記のリザーバー以外のものとすることもでき、いわゆるコンテナのような移動可能な容器であってもよい。
【0048】
上述したようにして溶融体MBから取り出した塩化マグネシウムは、溶融塩電解に供することで、金属マグネシウムと塩素とに分解することができる。これにより、金属マグネシウムが製造される。そのようにして製造された金属マグネシウムは、溶融塩電解に供した塩化マグネシウムから金属マグネシウムが十分に分離されていたことにより、還元容器由来のニッケル等の不純物をほぼ含まないものになる。その結果、上記の溶融塩電解で製造した金属マグネシウムを用いて、四塩化チタンの還元を行うと、不純物が少なく純度が高い金属チタンを得ることができる。
【実施例0049】
次に、この発明の塩化マグネシウム吸引管を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、この説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0050】
(試験例1)
還元容器内で四塩化チタンの還元を行った後、還元容器内に残留した溶融体3000kgを、容積が5m3である貯留槽に移した。溶融体には質量基準で、30質量%の金属マグネシウム及び、70質量%の塩化マグネシウムが含まれていた。
【0051】
貯留槽内にて、上記の溶融体を750℃~800℃の範囲内の温度に維持しながら、2時間にわたって載置したところ、溶融体は、上方側の金属マグネシウム層と下方側の塩化マグネシウム層とに分離した。
【0052】
その後、実施例1では、
図1に示すようなステンレス鋼製の塩化マグネシウム吸引管(二重の管構造)を用いて、貯留槽内の溶融体の塩化マグネシウム層から塩化マグネシウムを吸引した。塩化マグネシウム吸引管は、内側管の内径が5cm、外径が6cmであり、外側管の内径10cm、外径が11cmであり、突出部分の突出高さが1cmであった。
【0053】
実施例2で用いた塩化マグネシウム供給管は、外側管の周囲にさらに、内径が16cmであって外径が17cmである管部材を設けた三重の管構造を有することを除いて、実施例1のものと同様とした。
【0054】
実施例3で用いた塩化マグネシウム供給管は、
図4に示すように外側管にメッシュ状部分(被膜破壊部)を設けたことを除いて実施例1のものと同様とした。メッシュ状部分は、材質が吸引管と同じステンレス鋼製であり、網目形状である目開きの寸法が10mmであるものとした。
【0055】
比較例1で用いた塩化マグネシウム供給管は、外側管を含まない一重の管構造を有することを除いて実施例1のものと同様とした。
【0056】
実施例1~3及び比較例1のそれぞれで貯留槽から回収した塩化マグネシウムを用いて、溶融塩電解を行った。なお、この溶融塩電解の電解槽内の溶融塩浴は、MgCl2を13~25質量%の範囲内で含み、残部がCaCl2及びNaClである組成とし、電気分解の間、温度を650℃~700℃の範囲内に維持した。陽極及び陰極の本数は各7本とし、陽極と陰極との間の複極の枚数は2枚とした。溶融塩電解では適宜のタイミングで貯留槽から回収した塩化マグネシウムを電解槽に補充した。なお、塩化マグネシウムの補充量およびタイミングは実施例1~3及び比較例1で同じとした。
【0057】
上記の溶融塩電解を1年間にわたって継続したところ、一時的な短絡が発生した確率を、表1に示す。この短絡は、電極の表面に金属マグネシウムの液滴ないし粒子が滞留し、それが成長して発生するものである。その確率は、塩化マグネシウムの総補充回数のうち、塩化マグネシウムを補充した時から20分が経過するまでの間に短絡が発生した補充回数の割合を百分率で表したものである。たとえば、塩化マグネシウムを10回補充し、そのうちの5回の補充で当該補充時から20分以内に短絡が発生した場合は、短絡確率は50%である。なお、補充の際には、短絡が一回又は複数回発生することがあるが、上記の確率は、一回の補充当たりの当該短絡の回数に関わらず、一回又は複数回の短絡が発生した補充の回数の割合である。上記の短絡は、溶融塩電解に使用する塩化マグネシウムに、金属マグネシウムが多く含まれるほど発生しやすくなると考えられる。
【0058】
【0059】
表1からわかるように、溶融塩電解での短絡の発生確率は、比較例1では高いのに対し、実施例1~3では低く抑えられている。これは、実施例1~3では、貯留槽からの塩化マグネシウムの回収に、二重以上の管構造の塩化マグネシウム吸引管を使用したことで、溶融塩電解に使用した当該塩化マグネシウムへの金属マグネシウムの混入が適切に抑制されていたことによるものと考えられる。
【0060】
この結果から、この発明の塩化マグネシウム吸引管によれば、溶融体から分離させる塩化マグネシウムへの、金属マグネシウムの混入を抑制できることがわかった。
【0061】
(試験例2)
金属マグネシウムが10質量%で含まれる塩化マグネシウムを用いて、溶融塩電解を行った。この塩化マグネシウムに含まれる前記金属マグネシウムには、ニッケルが400質量ppm含まれていた。溶融塩電解の条件は、試験例1と実質的に同様とした。溶融塩電解の後、それにより得られた金属マグネシウムのニッケル含有量を調べたところ、ニッケル含有量は110質量ppmであった。
【0062】
その後、上記の溶融塩電解で得られた金属マグネシウムを用いて、還元容器内で四塩化チタンの還元を行った。この還元で得られた金属チタン(スポンジチタン)は、ニッケルを103質量ppm含むものであった。
【0063】
一方、溶融塩電解に用いた塩化マグネシウムの金属マグネシウム含有量が0.1質量%であったことを除いて、上述したところと同様にして、溶融塩電解及び還元を行った。この場合、溶融塩電解で得られた金属マグネシウムのニッケル含有量は、2質量ppm、還元で得られた金属チタン(スポンジチタン)のニッケル含有量は、2質量ppmであった。
【0064】
以上より、高純度の金属チタンを得るには、溶融塩電解に供する塩化マグネシウムの金属マグネシウム含有量を減らすことが重要であることがわかった。