(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140639
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 9/042 20060101AFI20241003BHJP
H01G 9/045 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
H01G9/042 500
H01G9/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051880
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 航太朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 嘉孝
(72)【発明者】
【氏名】石本 仁
(57)【要約】
【課題】ESRを低減することが可能なコンデンサを提供する。
【解決手段】開示されるコンデンサは、第1電極111と、第1電極111の表面に形成された誘電体層112と、誘電体層112上に配置された導電層120と、導電層120上に配置された第2電極131とを含む。導電層120の表層120aは、無機材料からなる結晶粒で構成された結晶層である。当該結晶粒は、柱状結晶を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサであって、
第1電極と、
前記第1電極の表面に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上に配置された導電層と、
前記導電層上に配置された第2電極とを含み、
前記導電層の表層は、無機材料からなる結晶粒で構成された結晶層であり、
前記結晶粒は柱状結晶を含む、コンデンサ。
【請求項2】
前記結晶層の断面であって前記導電層の厚さ方向Dtに平行な断面において、c軸の方向と前記厚さ方向Dtとがなす角度αが60°未満である前記結晶粒の面積が前記結晶層の面積に占める割合は、80%以上である、請求項1に記載のコンデンサ。
【請求項3】
前記導電層は、金属酸化物を含む無機材料からなり、
前記結晶層は前記金属酸化物からなる、請求項1または2に記載のコンデンサ。
【請求項4】
前記金属酸化物は、ZnO、TiO2、SnO2、CuInO2、およびCuCrO2からなる群より選択される少なくとも1種を主成分とする導電性金属酸化物である、請求項3に記載のコンデンサ。
【請求項5】
前記導電性金属酸化物は、導電性を向上させるための添加元素を含む、請求項4に記載のコンデンサ。
【請求項6】
前記第1電極は陽極であり、前記第2電極は陰極である、請求項1または2に記載のコンデンサ。
【請求項7】
前記第1電極は、アルミニウム箔またはタンタル焼結体である、請求項1または2に記載のコンデンサ。
【請求項8】
前記第1電極は、表層に多孔質部を有し、
前記誘電体層は、前記多孔質部の表面に形成されており、
前記多孔質部の空隙内には前記導電層の一部が配置されている、請求項1または2に記載のコンデンサ。
【請求項9】
前記導電層は、前記誘電体層と接触している第1導電層と、前記第2電極と接触している第2導電層とを含み、
前記第2導電層は、前記結晶層を有し、且つ、前記第1導電層の組成とは異なる組成を有する、請求項1または2に記載のコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、様々なコンデンサが提案されている。特許文献1(特開2017-103412号公報)の請求項1には、「陽極体と、前記陽極体の表面に配置された誘電体層と、前記誘電体層の表面に配置され、1(S/cm)以上の導電率を有する酸化亜鉛を用いて構成された固体電解質層と、を備える、固体電解コンデンサ」が記載されている。
【0003】
特許文献2(特開2020-35890号公報)の請求項1には、「弁金属からなる陽極体と、前記陽極体の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層の上に形成された半導体層と、前記半導体層の上に形成された陰極層と、を備え、前記半導体層は、p型無機半導体を用いて構成されている、固体電解コンデンサ」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-103412号公報
【特許文献2】特開2020-35890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
導電性高分子を用いて形成された固体電解質層の代わりに、無機物層を用いることによって、コンデンサの耐熱性を向上させることが可能である。一方、コンデンサでは、等価直列抵抗(ESR)の低減が求められている。本開示の目的の1つは、ESRを低減することが可能なコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面は、コンデンサに関する。当該コンデンサは、第1電極と、前記第1電極の表面に形成された誘電体層と、前記誘電体層上に配置された導電層と、前記導電層上に配置された第2電極とを含み、前記導電層の表層は、無機材料からなる結晶粒で構成された結晶層であり、前記結晶粒は柱状結晶を含む。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、ESRを低減することが可能なコンデンサが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る一例のコンデンサの一部を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、実験1で作製した一例の酸化亜鉛層を電子線後方散乱回折法で分析した結果を示す。
【
図3】
図3は、実験1で作製した他の一例の酸化亜鉛層を電子線後方散乱回折法で分析した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本開示に係る実施形態について例を挙げて説明するが、本開示は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本開示に係る発明を実施できる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。この明細書において、「数値A~数値B」という記載は、数値Aおよび数値Bを含み、「数値A以上で数値B以下」と読み替えることが可能である。以下の説明において、特定の物性や条件などに関する数値の下限と上限とを例示した場合、下限が上限以上とならない限り、例示した下限のいずれかと例示した上限のいずれかとを任意に組み合わせることができる。
【0010】
(コンデンサ)
本実施形態に係るコンデンサを、以下では、「コンデンサ(C)」と称する場合がある。コンデンサ(C)は、第1電極と、前記第1電極の表面に形成された誘電体層と、誘電体層上に配置された導電層と、導電層上に配置された第2電極とを含む。導電層の表層は、無機材料からなる結晶粒で構成された結晶層である。当該結晶粒は、柱状結晶を含む。
【0011】
導電層は、無機材料で形成できる。そのため、導電層を無機物層と読み替えることが可能である。コンデンサ(C)の導電層の好ましい一例は、有機材料(例えば導電性高分子)を含まない。導電層を無機材料で形成することによって、耐熱性が高いコンデンサ(C)が得られる。また、導電層が柱状結晶を含むことによって、等価直列抵抗(ESR)が低いコンデンサが得られる。なお、柱状結晶とは、一方向に延びて柱状となっている結晶を意味し、円柱状でなくてもよい。
【0012】
上記結晶層の断面であって導電層の厚さ方向Dtに平行な断面において、c軸の方向と前記厚さ方向Dtとがなす角度αが60°未満である結晶粒の面積が結晶層の面積に占める割合(以下では、「割合R」と称する場合がある)は、80%以上である。割合Rは、実施例で説明する方法で求められる。
【0013】
割合Rは、80%~100%の範囲にある。別の観点では、上記結晶層の断面であって厚さ方向Dtに平行な断面において、c軸の方向と厚さ方向Dtとがなす角度αが60°より大きい結晶粒の面積が結晶層の面積に占める割合は、20%未満である。
【0014】
結晶粒は、c軸の方向に沿って成長しやすい。そのため、柱状結晶は、通常、c軸の方向に延びている。割合Rが高いほど、厚さ方向Dtに近い方向に延びる柱状結晶の割合が高くなり、導電層の厚さ方向Dtに沿って電流が流れやすくなる。そのため、割合Rを80%以上とすることによって、コンデンサ(C)のESRを特に低くできる。
【0015】
導電層の厚さ方向Dtに平行な断面において、c軸の方向と厚さ方向Dtとの傾きが20°以上である結晶粒の面積が結晶層の面積に占める割合Xは、20%以上(例えば、30%以上、40%以上、または45%以上)であってもよく、90%以下(例えば80%以下)であってもよい。割合Xを20%以上とすることによって、方向Dtからずれて延びる結晶粒の割合が多くなり、その結果、導電層の表層の表面が適度に粗面化される。導電層の表層の表面が粗面化されることによって、導電層と第2の電極との密着性が高くなる。その結果、コンデンサ(C)の信頼性を向上させることや、コンデンサ(C)のESRを低減することが可能になる。
【0016】
導電層は、金属酸化物を含む無機材料からなるものであってもよい。その場合、導電層の表層の結晶層は、当該金属酸化物からなるものであってもよく、導電層全体が当該金属酸化物からなるものであってもよい。金属酸化物は、ZnO、TiO2、SnO2、CuInO2、およびCuCrO2からなる群より選択される少なくとも1種を主成分とする導電性金属酸化物であってもよいし、当該少なくとも1種からなる導電性金属酸化物であってもよい。金属酸化物は、上記群より選択されるいずれか1種を主成分とする導電性金属酸化物であってもよく、当該1種からなる導電性金属酸化物であってもよい。例えば、金属酸化物は、ZnOを主成分とする導電性金属酸化物であってもよく、ZnOであってもよい。なお、ZnOは、半導体に分類されることがあるが、導電性を有するため、この明細書では導電性金属酸化物として扱う。金属酸化物に関して、主成分とは、含有率が50質量%以上であることを意味する。金属酸化物における主成分の含有率は、80~100質量%の範囲、90~100質量%の範囲、または95~100質量%の範囲にあってもよい。
【0017】
上記導電性金属酸化物は、酸素空孔を含んでもよい。酸素空孔を含むことによって、導電性金属酸化物の導電性を高めることが可能である。導電性金属酸化物が酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする場合、ZnO1-x(0≦x≦0.25)で表される酸化亜鉛を主成分としてもよい。ここで、xは0より大きくてもよい。
【0018】
上記導電性金属酸化物は、導電性を向上させるための添加元素を含んでもよい。導電性金属酸化物がZnOを主成分とする場合、Al、Ga、B、およびInからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、その含有率が10原子%以下となるようにZnOに添加してもよい。
【0019】
導電性金属酸化物がTiO2を主成分とする場合、NbおよびTaからなる群より選択される少なくとも1種の元素を、その含有率が10原子%以下となるようにTiO2に添加してもよい。導電性金属酸化物がSnO2を主成分とする場合、Sbを、その含有率が12.5原子%以下となるようにSnO2に添加してもよい。導電性金属酸化物がCuInO2を主成分とする場合、Caを、その含有率が3原子%以下となるようにCuInO2に添加してもよい。導電性金属酸化物がCuCrO2を主成分とする場合、Mgを、その含有率が5原子%以下となるようにCuCrO2に添加してもよい。
【0020】
コンデンサ(C)において、第1電極は陽極であってもよく、第2電極は陰極であってもよい。コンデンサ(C)において、第1電極は、アルミニウム箔またはタンタル焼結体であってもよい。第1電極がアルミニウム箔である場合、誘電体層は酸化アルミニウム層であってもよい。
【0021】
コンデンサ(C)において、第1電極は、表層に多孔質部を有してもよい。その場合、誘電体層は、多孔質部の表面に形成されており、多孔質部の空隙内には導電層の一部が配置されている。表層に多孔質部を有する第1電極は、エッチングされたアルミニウム箔であってもよいし、弁金属の焼結体(例えば、タンタル焼結体)であってもよい。
【0022】
導電層は、誘電体層と接する第1導電層と、第2電極と接する第2導電層とを含んでもよい。導電層は、第1導電層と第2導電層とによって構成されていてもよい。第2導電層は、上記結晶層を有する。第2導電層は、第1導電層の組成とは異なる組成を有してもよいし、第1導電層の組成と同じ組成を有してもよい。第1導電層および第2導電層は、上述した導電性金属酸化物で構成されていてもよい。第1電極の表層に多孔質部が存在する場合、第1導電層の少なくとも一部は多孔質部の凹部内に形成されていてもよい。
【0023】
導電層の導電率は、1S/cm以上、または10S/cm以上であってもよい。導電層の導電率は、10000S/cm以下、または1000S/cm以下であってもよい。導電層は、導電率が1S/cm以上である無機物層であってもよい。
【0024】
導電層の厚さは特に限定されない。導電層の厚さは、0.1μm~100μmの範囲(例えば、1μm~10μmの範囲)にあってもよい。
【0025】
(コンデンサの製造方法)
本実施形態に係る製造方法を、以下では、製造方法(M)と称する場合がある。製造方法(M)によれば、コンデンサ(C)を製造することができる。ただし、コンデンサ(C)は、製造方法(M)以外の方法で製造してもよい。コンデンサ(C)について説明した事項は製造方法(M)に適用できるため、重複する説明を省略する。製造方法(M)について説明した事項をコンデンサ(C)に適用してもよい。
【0026】
製造方法(M)は、第1電極と第1電極の表面に形成された誘電体層とを含むコンデンサの製造方法である。製造方法(M)は、工程(i)と工程(ii)とをこの順に含む。それらの工程について、以下に説明する。
【0027】
工程(i)は、第1電極の表面に形成された誘電体層上に導電層を形成する工程である。導電層は、コンデンサ(C)について説明した導電層である。工程(i)において、導電層の表層が上記結晶層となるように、導電層を形成する。導電層のうち少なくとも表層は、液相成長法で形成できる。液相成長法によれば、結晶成長によって導電層(導電性を有する結晶層)を形成できる。このとき、液相成長法の条件を選択することによって、上記結晶層を形成できる。
【0028】
表層が酸化亜鉛の結晶層からなる場合、以下の条件で、上述した結晶層を形成できる。まず、液相成長(溶液成長)のための溶液を準備する。溶液の例には、硝酸亜鉛と他の添加剤とが溶解された水溶液などが含まれる。添加剤の例には、ヘキサメチレンテトラミン、アンモニア、クエン酸、硝酸アンモニウム、硝酸アルミニウム、硝酸ガリウム、硝酸インジウム、などが含まれる。上述した添加元素をZnOに添加する場合には、添加元素を含む化合物を溶解させればよい。当該溶液のpHは、例えば、6~11の範囲にある。当該溶液における硝酸亜鉛の濃度は、例えば、0.01mol/L~2mol/Lの範囲にある。第1電極の温度は、例えば、85℃~95℃の範囲にある。溶液の温度は、例えば、85℃以下の温度とする。溶液の温度は、0~85℃の範囲(例えば10~50℃の範囲や、10~40℃の範囲)にあってもよい。さらに、導電層を形成する面が下向きになるように第1電極を配置し、溶液を循環させた状態で導電層を形成することが好ましい。以上の条件によって、上述した結晶層を形成できる。
【0029】
上述した割合Rは、液相成長時の第1電極の向き、溶液の循環の有無などによって変化させることができる。導電層を形成する面が下向きになるように第1電極を配置することによって、割合Rを高くすることが可能である。また、溶液を循環させた状態で導電層を形成することによって、割合Rを高くすることが可能である。
【0030】
酸化亜鉛層を形成する前に、酸化亜鉛からなる下地層を予め形成しておいてもよい。例えば、気相法によって酸化亜鉛からなる下地層を形成してもよい。気相法の例には、原子層堆積法(ALD法)、スパッタリング法、化学気相成長法(CVD法)などが含まれる。下地層を用いることによって、酸化亜鉛層を液相成長法によって形成しやすくなる。ALD法は、多孔質部の凹部内に層を形成しやすい点で好ましい。
【0031】
酸化亜鉛層以外の導電層(例えば上述した導電性金属酸化物からなる導電層)も、液相成長法で形成できる。その場合は、形成される導電性金属酸化物に応じた溶液を選択すればよい。
【0032】
上記結晶層以外の導電層の形成方法は限定されない。表層以外の導電層は、気相法または液相法によって形成してもよい。気相法の例には、上述した気相法が含まれる。液相成長法によって導電層全体を形成してもよく、上述した表層を形成する条件と同じ条件で導電層全体を形成してもよい。液相成長法によって導電層全体を形成する場合、上述したように、誘電体層上に下地層を予め形成しておいてもよい。あるいは、誘電体層上にALD法によってある程度の厚さを有する第1導電層を形成し、その後、液相成長法によって第2導電層を形成してもよい。いずれの場合でも、上記結晶層が形成される条件で、導電層の表層が形成される。
【0033】
導電層が第1導電層と第2導電層とを含む場合、第1導電層と第2導電層とは、同じ形成方法で形成してもよいし、異なる形成方法で形成してもよい。例えば、組成が異なる第1導電層と第2導電層とを、同じ形成方法で形成してもよい。あるいは、組成が同じ第1導電層と第2導電層とを、異なる形成方法で形成してもよい。
【0034】
工程(ii)は、導電層上に第2電極を形成する工程である。このとき、第2電極は、導電層の表層上に形成される。表面が粗い表層上に第2電極を形成することによって、導電層と第2電極とを強固に固定することが可能である。
【0035】
第2電極は、導電性を有する材料を用いて形成される。第2電極の材料は特に限定されず、コンデンサの電極として用いることができる材料であればよい。第2電極の形成方法は特に限定されないが、導電層と第2電極とが強固に接続される形成方法を用いることが好ましい。例えば、導電性粒子を含む導電性ペーストを塗布することによって第2電極を形成してもよい。あるいは、第2電極は、気相法やメッキ法などによって形成してもよい。
【0036】
第2電極は、導電層側から順に積層されたカーボン層と銀粒子層とを含んでもよい。その場合、まず、導電性カーボン粒子を含むカーボンペーストを塗布する。次に、銀粒子を含む銀ペーストを塗布する。その後、熱処理することによって、カーボン層と銀粒子層を形成する。このようにして、第2の電極が形成される。なお、必要に応じて、銀ペーストの塗布後だけでなく、銀ペーストの塗布前にも熱処理を行ってもよい。カーボンペーストおよび銀ペーストは限定されず、公知のカーボンペーストおよび銀ペーストを用いてもよい。
【0037】
以上の工程によって、第1電極、誘電体層、導電層、および第2電極を含むコンデンサ素子が形成される。工程(ii)の後は、必要に応じて、リードの接続や、外装体によるコンデンサ素子の収容などが行われる。このようにして、コンデンサ(C)が得られる。
【0038】
コンデンサ(C)の構成および構成部材の例について、以下に説明する。本開示に特徴的な部分以外の構成部材には、公知の構成部材を適用してもよい。
【0039】
(第1電極)
第1電極は、弁金属、弁金属を含む合金、および弁金属を含む化合物などを用いて形成できる。これらの材料は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。弁金属としては、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタンが好ましく使用される。第1電極には、上記の材料の箔(例えばアルミニウム箔などの金属箔)を用いてもよい。
【0040】
表面に多孔質部を有する第1電極は、例えば、弁金属を含む金属箔の表面を粗面化することによって得られる。粗面化は、電解エッチング等によって行ってもよい。
【0041】
第1電極は、上記材料の粒子を焼結することによって形成してもよい。例えば、第1電極はタンタルの焼結体であってもよい。第1電極が焼結体である場合、その表面には多孔質部が存在する。第1電極が焼結体である場合、コンデンサ(C)は、一部が焼結体に埋め込まれた陽極ワイヤを含んでもよい。
【0042】
(誘電体層)
誘電体層は、誘電体として機能する絶縁性の層である。誘電体層は、第1電極(例えば金属箔)の表面の弁金属を、陽極酸化することによって形成してもよい。誘電体層は、第1電極の少なくとも一部を覆うように形成されていればよい。誘電体層は、通常、第1電極の表面に形成される。第1電極の表面に多孔質部が存在する場合、誘電体層は、第1電極の多孔質部の表面に形成される。
【0043】
典型的な誘電体層は、弁金属の酸化物を含む。第1電極は弁金属で形成されていてもよく、誘電体層は当該弁金属の酸化物で形成されていてもよい。例えば、第1の電極の材料としてタンタルを用いた場合、誘電体層は酸化タンタル層であってもよい。第1の電極の材料としてアルミニウムを用いた場合、誘電体層は酸化アルミニウム層であってもよい。ただし、誘電体層はこれらに限らず、誘電体層として機能するものであればよい。
【0044】
(第2電極)
第2電極は、導電性を有する層である。第2電極は、導電性カーボンや金属を用いて形成してもよい。具体的には、第2電極は、導電性カーボンの粒子を含むカーボンペーストや、金属粒子を含む金属ペーストを用いて形成してもよい。あるいは、第2電極は、金属のみからなる層(蒸着層や金属箔)を含んでもよい。導電性カーボンの例には、グラファイト、カーボンブラック、グラフェン片、カーボンナノチューブなどが含まれる。金属ペーストの例には、銀粒子を含む銀ペーストなどが含まれる。
【0045】
第2電極は、導電層上に形成された第1の層と、第1の層上に形成された第2の層とを含んでもよい。その場合、第1の層は、導電性カーボンを含むカーボン層であってもよく、第2の層は、金属ペーストで形成された層であってもよい。
【0046】
(リードおよび外装体)
コンデンサ(C)は、必要に応じて他の構成要素を含み、例えば、リードおよび外装体などを含んでもよい。リードおよび外装体に特に限定はなく、公知のリードおよび外装体を用いてもよい。
【0047】
(コンデンサ(C)の構造)
コンデンサ(C)は、コンデンサ素子を1つだけ含んでもよい。あるいは、コンデンサ(C)は、複数のコンデンサ素子を含んでもよい。例えば、コンデンサ素子(C)は、並列に接続された複数のコンデンサ素子を含んでもよい。複数のコンデンサ素子(C)は、通常、積層された状態で並列に接続され、外装体で覆われる。
【0048】
本開示に係る実施形態の例について、図面を参照して以下に具体的に説明する。以下で説明する例の構成要素には、上述した構成要素を適用できる。また、以下で説明する例は、上述した記載に基づいて変更できる。また、以下で説明する事項を、上記の実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する実施形態において、本開示のコンデンサに必須ではない構成要素は省略してもよい。なお、以下の図は模式的なものであり、実際の構成とは異なる場合がある。
【0049】
(実施形態1)
図1は、実施形態1に係るコンデンサの一部を模式的に示す断面図である。
図1に示すコンデンサ10は、第1電極111、誘電体層112、コンデンサ素子100は、第1電極111、誘電体層112、導電層120、および第2電極131を含む。なお、実際のコンデンサは、通常、リードや外装体を含むが、
図1では、コンデンサ素子の一部のみを示す。
【0050】
誘電体層112は、第1電極111の表面の少なくとも一部を覆うように形成されている。導電層120は、誘電体層112の少なくとも一部を覆うように形成されている。第2電極131は、導電層120の少なくとも一部を覆うように形成されている。導電層120は、上述した導電層である。
【0051】
図1に示す一例の第1電極111は、表面に多孔質部111aを有する。実際の多孔質部111aは、より複雑な形状を有する場合があるが、
図1では、多孔質部111aを簡略化して記載している。導電層120の少なくとも表層120aは、上記結晶層である。
【0052】
(付記)
以上の記載によって、以下の技術が開示される。
(技術1)
コンデンサであって、
第1電極と、
前記第1電極の表面に形成された誘電体層と、
前記誘電体層上に配置された導電層と、
前記導電層上に配置された第2電極とを含み、
前記導電層の表層は、無機材料からなる結晶粒で構成された結晶層であり、
前記結晶粒は柱状結晶を含む、コンデンサ。
(技術2)
前記結晶層の断面であって前記導電層の厚さ方向Dtに平行な断面において、c軸の方向と前記厚さ方向Dtとがなす角度αが60°未満である前記結晶粒の面積が前記結晶層の面積に占める割合は、80%以上である、技術1に記載のコンデンサ。
(技術3)
前記導電層は、金属酸化物を含む無機材料からなり、
前記結晶層は前記金属酸化物からなる、技術1または2に記載のコンデンサ。
(技術4)
前記金属酸化物は、ZnO、TiO2、SnO2、CuInO2、およびCuCrO2からなる群より選択される少なくとも1種を主成分とする導電性金属酸化物である、技術3に記載のコンデンサ。
(技術5)
前記導電性金属酸化物は、導電性を向上させるための添加元素を含む、技術4に記載のコンデンサ。
(技術6)
前記第1電極は陽極であり、前記第2電極は陰極である、技術1~5のいずれか1つに記載のコンデンサ。
(技術7)
前記第1電極は、アルミニウム箔またはタンタル焼結体である、技術1~6のいずれか1つに記載のコンデンサ。
(技術8)
前記第1電極は、表層に多孔質部を有し、
前記誘電体層は、前記多孔質部の表面に形成されており、
前記多孔質部の空隙内には前記導電層の一部が配置されている、技術1~7のいずれか1つに記載のコンデンサ。
(技術9)
前記導電層は、前記誘電体層と接触している第1導電層と、前記第2電極と接触している第2導電層とを含み、
前記第2導電層は、前記結晶層を有し、且つ、前記第1導電層の組成とは異なる組成を有する、技術1~8のいずれか1つに記載のコンデンサ。
【実施例0053】
本開示に係るコンデンサ(C)について、実施例によって、より詳細に説明する。
【0054】
(実験1)
実験1では、導電層が異なる複数のコンデンサ(コンデンサ素子)を作製して評価した。導電層には、異なる条件で形成されたZnO層を用いた。
【0055】
(コンデンサA1)
コンデンサA1は、以下の方法で作製した。まず、表面に誘電体層(酸化アルミニウム層)が形成されたアルミニウム箔を準備した。アルミニウム箔には、エッチングによって形成された多孔質部を表面に有するアルミニウム箔を用いた。酸化アルミニウム層は、アルミニウム箔を化成処理することによって形成した。
【0056】
次に、誘電体層上に、ALD法によって、酸化亜鉛からなる下地層を形成した。次に、下地層上に酸化亜鉛(ZnO)からなる結晶層(導電層)を形成した。酸化亜鉛層のサイズは、約1cm×2cmとした。具体的には、下地層が形成されたアルミニウム箔を所定の溶液中に浸漬し、6時間保持することによって、下地層上に、酸化亜鉛からなる結晶層を形成した。
【0057】
溶液には、硝酸亜鉛・六水和物とヘキサメチレンテトラミンとを1:1(モル比)で溶解した水溶液を用いた。溶液中における硝酸亜鉛・六水和物の濃度は、0.05mol/Lとした。溶液のpHは6.5~7.5とした。溶液の温度は室温(約24℃)とした。酸化亜鉛の成長中は、アルミニウム箔の裏面(酸化亜鉛の成長面とは反対の面)にヒータを接触させて、アルミニウム箔の温度を一定の温度(約85℃)に加熱した。
【0058】
上記の溶液2Lを槽に配置して液相成長を行った。酸化亜鉛の成長は、酸化亜鉛層を形成する面を下向きにしてアルミニウム箔を溶液に浸漬した状態で行った。このとき、溶液を1L/分の流量で循環させた。
【0059】
酸化亜鉛層を液相成長させた後に、酸化亜鉛層が形成されたアルミニウム箔を洗浄した。次に、酸化亜鉛層上に第2電極(銀粒子層)を形成した。第2電極は、直径が3mmの円形の銀粒子層を酸化亜鉛層上に8箇所形成することによって形成した。銀粒子層は、銀ペーストで形成した。このようにして、コンデンサA1を作製した。
【0060】
(コンデンサR1)
酸化亜鉛層(導電層)の形成方法が異なることを除いて、コンデンサA1の作製と同様の方法および条件でコンデンサR1を作製した。コンデンサR1の酸化亜鉛層は、アルミニウム箔の配置の方向を変えたこと、および、溶液を循環させなかったことを除いて、コンデンサA1の導電層の形成と同様の方法および条件で形成した。コンデンサR1の酸化亜鉛層は、酸化亜鉛層を形成する面を上に向けて形成した。
【0061】
コンデンサA1の酸化亜鉛層Za1について、以下の方法で割合Rを求めた。まず、上述した方法で酸化亜鉛層Za1を形成した。次に、酸化亜鉛層Za1が形成されたサンプルを切断し、露出した断面を、一般的な透過型電子顕微鏡における観察と同様に、イオンビームで加工した。次に、酸化亜鉛層Za1の断面を電子線後方散乱回折法(EBSD法)で分析した。結晶粒のc軸の方向と厚さ方向Dtとがなす角度αが所定の範囲にある結晶粒の面積が、結晶層(酸化亜鉛層Za1)の面積に占める割合を表1に示す。コンデンサR1の酸化亜鉛層Zr1についても、上記と同様の方法で分析を行った。酸化亜鉛層Zr1についての評価結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
酸化亜鉛層Za1について、角度αの大きさによって結晶粒を色分けした結果を
図2に示す。
図2には、c軸の方向と前記厚さ方向Dtとがなす角度αを概念的に示す。同様に、酸化亜鉛層Zr1について、角度αの大きさによって結晶粒を色分けした結果を
図3に示す。表1に示すように、酸化亜鉛層Za1において、角度αが60°未満である結晶粒の面積が結晶層の面積に占める割合Rは91%であった。また、酸化亜鉛層Za1において、角度αが20°以上である結晶粒の面積が結晶層の面積に占める割合Xは、71%であった。
【0064】
酸化亜鉛層Zr1における割合Rは、49%であった。また、酸化亜鉛層Zr1において、角度αが20°以上である結晶粒の面積が結晶層(酸化亜鉛層Zr1)の面積に占める割合Xは、96%であった。
【0065】
コンデンサA1およびコンデンサR1のそれぞれの酸化亜鉛層の表面の電子顕微鏡画像を観察した。上記分析結果および酸化亜鉛層Za1の表面の電子顕微鏡画像から、コンデンサA1の酸化亜鉛層Za1の表層は、c軸方向に延びている柱状結晶を有する結晶層であることが分かった。一方、上記分析結果および酸化亜鉛層Zr1の表面の電子顕微鏡画像から、コンデンサR1の酸化亜鉛層Zr1の表層は、粒子状の酸化亜鉛で構成されていることが分かった。
【0066】
作製されたコンデンサA1およびR1について、静電容量と電気抵抗とを測定した。そして、それぞれ8個のコンデンサの静電容量および電気抵抗の平均値を求めた。測定結果を表2に示す。
【0067】
【0068】
コンデンサA1は、本開示に係るコンデンサ(C)である。コンデンサR1は、比較例である。表2に示すように、コンデンサA1の静電容量はコンデンサR1の静電容量に比べて大幅に高かった。さらに、コンデンサA1の電気抵抗は、コンデンサR1の電気抵抗に比べて大幅に低かった。