(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024140640
(43)【公開日】2024-10-10
(54)【発明の名称】ガス缶の気化補助器
(51)【国際特許分類】
F24C 3/14 20210101AFI20241003BHJP
F23D 14/28 20060101ALI20241003BHJP
【FI】
F24C3/14 K
F23D14/28 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023051885
(22)【出願日】2023-03-28
(71)【出願人】
【識別番号】516053475
【氏名又は名称】有限会社日本OMC
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100219483
【弁理士】
【氏名又は名称】宇野 智也
(72)【発明者】
【氏名】百武 省彦
(57)【要約】
【課題】熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能なガス缶の気化補助器の提供。
【解決手段】底部22の外面側に凹部を有する金属製のガス容器20に液化石油ガスGが充填されたガス缶2の気化補助器であって、ガス容器20を保持する柔軟素材により形成されたカップ状の柔軟性容器3であり、ガス容器20の外周面21Aを覆って密着する第1袋30と、ガス容器20の底部22の凹部の外面(凹面)22Aに密着する凸部31Aを有する第2袋31とを備え、第1袋30および第2袋31の内部に、凝固点が液化石油ガスGの沸点よりも高い水32が充填された柔軟性容器3からなる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部の外面側に凹部を有する金属製のガス容器に液化石油ガスが充填されたガス缶の気化補助器であって、
前記ガス容器を保持する柔軟素材により形成されたカップ状の柔軟性容器であり、前記ガス容器の外周面を覆って密着する側壁部と、前記ガス容器の底部の凹部の外面に密着する凸部を有する底部とを備え、前記側壁部および前記底部の内部に、凝固点が前記液化石油ガスの沸点よりも高い液体が充填された柔軟性容器からなるガス缶の気化補助器。
【請求項2】
前記柔軟素材の熱伝導率が0.33W/m・K以上である請求項1記載のガス缶の気化補助器。
【請求項3】
前記液体の粘度が100,000mPa・s以下である請求項1または2に記載のガス缶の気化補助器。
【請求項4】
前記液体が水である請求項1または2に記載のガス缶の気化補助器。
【請求項5】
前記柔軟性容器を収容して吊り下げ可能な網袋を有する請求項1または2に記載のガス缶の気化補助器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製のガス容器に充填された液化石油ガスの気化力を維持するガス缶の気化補助器に関する。
【背景技術】
【0002】
キャンプや避難所等においては、ランタンやバーナー等のガス機器の燃料として、ガス容器(缶)に液化石油ガスが充填された、いわゆるCB缶やOD缶などのガス缶が良く使用される。ガス缶の中は常に高圧であるため、この高圧に耐えられるようにガス容器は金属製となっており、圧力で容器が変形しないように底には凹みが設けられている。
【0003】
ところで、このようなガス缶では、液化石油ガスが気化する際の気化熱によってガス容器の温度が低下する。そのため、ガス機器を周囲温度が低温の環境で連続的に使用すると、ガス容器の温度が充填された液化石油ガスの沸点を下回って液化石油ガスの気化が阻害され、ガス容器内に液化石油ガスが残っているにも関わらず、燃焼が止まってしまうことがある。
【0004】
そこで、このような現象を予防するために、特許文献1,2に記載の技術が知られている。特許文献1には、液化ガスを封入したカートリッジの上端にバーナーを有する携帯コンロにおいて、バーナーの五徳上に、横風を防ぐことのできる円筒状の風防板を配設し、風防板には着脱可能に垂設されたヒート板を取り付け、ヒート板を介してバーナー側の熱をカートリッジに伝えるようにした携帯コンロ用装備具が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、低温液体ボンベ本体の高さとほぼ同一とした円筒状形の温水ジャケットによって低温液体ボンベの外周面を覆い、ヒーターが設けられた温水源からの温水を温水ジャケット内部に循環させることによって、低温液体ボンベに気化熱を供給するようにした低温液体ボンベ気化用温水ジャケットが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平5-66405号公報
【特許文献2】特開平8-338594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の装備具では、カートリッジを連結した携帯コンロに装着するだけであるため、簡単に使用できる。しかし、バーナー側の熱をカートリッジに伝えるため、加熱しすぎると暴発の恐れがある。また、特許文献2では、低温液体ボンベを覆った温水ジャケットに温水を循環させるため、温水を加熱するヒーター等の熱源が別途必要である。そのため、特許文献2に記載の装置では、キャンプや避難所等のように熱源が簡単に得られないような場所には適さない。
【0008】
そこで、本発明においては、熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能なガス缶の気化補助器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のガス缶の気化補助器は、底部の外面側に凹部を有する金属製のガス容器に液化石油ガスが充填されたガス缶の気化補助器であって、ガス容器を保持する柔軟素材により形成されたカップ状の柔軟性容器であり、ガス容器の外周面を覆って密着する側壁部と、ガス容器の底部の凹部の外面に密着する凸部を有する底部とを備え、側壁部および底部の内部に、凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が充填された柔軟性容器からなる。
【0010】
本発明のガス缶の気化補助器では、ガス容器の外周面が側壁部に密着し、ガス容器の底部の凹部の外面に底部の凸部が密着し、これらの側壁部および底部の内部に凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が充填されているため、ガス容器の外周面だけでなくガス容器の底部の凹部の外面からガス容器内の液化石油ガスに、この凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができる。
【0011】
ここで、柔軟素材の熱伝導率は、0.33W/m・K以上であることが望ましい。熱伝導率が0.33W/m・K以上の柔軟素材としては、ポリエチレン(0.33~0.52W/m・K)やナイロン(0.35~0.43W/m・K)がある。これらの熱伝導率が大きい柔軟素材により凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が充填された柔軟性容器が形成されていることにより、この液体が持つ潜熱がガス容器内の液化石油ガスに効率良く熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができる。
【0012】
また、液体の粘度は、100,000mPa・s以下、好ましくは1,000mPa・s、より好ましくは100mPa・s以下、さらに好ましくは10mPa・s以下であることが望ましい。これにより、柔軟性容器内に充填された液体が持つ潜熱がガス容器内の液化石油ガスに熱伝導されて液体の温度が変化した際に自然対流することで、柔軟性容器内の液体の温度分布を均一にすることができる。
【0013】
また、本発明のガス缶の気化補助器は、柔軟性容器を収容して吊り下げ可能な網袋を有することが望ましい。これにより、液体が充填された柔軟性容器の自重により、柔軟性容器に保持するガス容器に対して柔軟性容器の側壁部および底部を一定の圧着力で密着させることが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
(1)ガス容器を保持する柔軟素材により形成されたカップ状の柔軟性容器であり、ガス容器の外周面を覆って密着する側壁部と、ガス容器の底部の凹部の外面に密着する凸部を有する底部とを備え、側壁部および底部の内部に、凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が充填された柔軟性容器からなるガス缶の気化補助器によれば、ガス容器の外周面だけでなくガス容器の底部の凹部の外面からガス容器内の液化石油ガスに、この凝固点が液化石油ガスの沸点よりも高い液体が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができ、熱源を必要とせず、また、ガス缶が液体と直接接触しないため、ガス缶を液体により濡らすことなく、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能となる。
【0015】
(2)柔軟素材の熱伝導率が0.33W/m・K以上であることにより、柔軟性容器内の液体が持つ潜熱がガス容器内の液化石油ガスに効率良く熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができる。
【0016】
(3)液体の粘度が100,000mPa・s以下であることにより、柔軟性容器内の液体の温度分布を均一にすることができ、柔軟性容器内の液体が持つ潜熱がガス容器内の液化石油ガスに効率良く熱伝導され、ガス容器内の液化石油ガスの沸点を下回るのを防止することができる。
【0017】
(4)柔軟性容器を収容して吊り下げ可能な網袋を有することにより、液体が充填された柔軟性容器の自重により、柔軟性容器に保持するガス容器に対して柔軟性容器の側壁部および底部を一定の圧着力で密着させ、ガス容器内の液化石油ガスに液体が持つ潜熱を効率良く熱伝導させ、液化石油ガスの気化力を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態におけるガス缶の気化補助器を示す説明図である。
【
図3】本発明の別の実施の形態におけるガス缶の気化補助器を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は本発明の実施の形態におけるガス缶の気化補助器を示す説明図、
図2は
図1の縦断面図である。
【0020】
図1および
図2に示すように、本発明の実施の形態における気化補助器1は、ガス缶2を保持するカップ状の柔軟性容器3からなる。ガス缶2は、金属(鋼)製のガス容器20に液化石油ガス(以下、単に「ガス」と称す。)Gが充填されたものであり、いわゆるCB缶やOD缶として市販されているものである。なお、本実施形態においては、気化補助器1は、ガス容器20の内容量が5,000cm
3以下のガス缶2に対して使用する。この種のガス缶2は、ガス缶2自身の外周部を利用して、気化に必要な熱をガス容器20が接触している空気塊から取り込む自然気化方式である。
【0021】
ガスGは、ノルマルブタン(沸点-0.5℃)、イソブタン(沸点-11.7℃)やプロパン(沸点-42.1℃)等を単体または所定の比率で配合した混合ガスである。ガス容器20は、円筒状の側壁部21と、容器内側に向かって凸状の凹面22Aを有する底部22と、ガス機器(図示せず。)が取り付けられる天蓋部23とから構成される。なお、ガス容器20の側壁部21、底部22および天蓋部23の厚みは0.2mm~3.0mmである。
【0022】
柔軟性容器3は、ガス容器20の円筒状の側壁部21の外周面21Aを覆って密着する側壁部としての第1袋30と、ガス容器20の底部22の下面の凹面22A、すなわち底部22の外面側に有する凹部の外面に密着する凸部31Aを有する底部としての第2袋31とから構成される。第1袋30は、ガス容器20の円筒状の側壁部21の外周面21Aに長方形の一辺を置き、外周面21Aの中心軸周りに回転させることにより形成される環状体である。第2袋は、この第1袋30の下方に同軸上に配置される円柱体であり、その中心部がガス容器20の凹面22Aに面接触するドーム状の凸部31Aとなっている。
【0023】
第1袋30および第2袋31は、それぞれ熱伝導率が大きく、防水性および耐水性がある樹脂素材を使用して作られた袋である。第1袋30および第2袋31は、例えば、ポリエチレン(0.33~0.52W/m・K)やナイロン(0.35~0.43W/m・K)等のフィルムにより形成された袋内に、凝固点がガス容器20に充填されたガスGの沸点よりも高い液体としての水32が充填され、密閉されたものである。水の凝固点(融点)は0℃である。
【0024】
上記構成のガス缶2の気化補助器1では、ガス容器20の外周面21Aが柔軟性容器3の第1袋30に密着し、ガス容器20の底部22の凹面22Aに柔軟性容器3の第2袋の凸部31Aが密着する。柔軟性容器3の第1袋30および第2袋31の内部には、凝固点がガスGの沸点よりも高い水32が充填されているため、ガス容器20の外周面21Aだけでなくガス容器20の底部22の凹面22Aからガス容器20内のガスGに、水32が持つ潜熱が熱伝導され、ガス容器20内のガスGがその沸点を下回るのを防止することができ、熱源を必要とせず、簡単な構成で、ガスGの気化力を維持することができる。
【0025】
また、第1袋30および第2袋31は、熱伝導率が0.33W/m・K以上と大きいことにより、柔軟性容器3内の水32が持つ潜熱がガス容器20内のガスGに効率良く熱伝導され、ガス容器20内のガスGがその沸点を下回るのを防止することができる。
【0026】
前述のように、ガス缶2は、通常、ガス容器20を空気の中に露出させてその空気から気化熱を連続的に吸収して気化力熱を得ているが、本実施形態における気化補助器1では、空気の代わりに、空気が持つ熱伝導率の20倍以上の熱伝導率を持つ水を利用することで、気化熱伝導の効率性を高めている。液体の水1gの温度が1℃下がるために放出する熱量は4.186Jであり、水の比熱は4.186J/g・Kである。また、0℃の水1gが0℃の氷1gになるために放出する熱量は、333.6J/g・Kである。沸点が-11.7℃である液化イソブタンを例に作用を説明すると、空気に比べて高い熱伝導率を持つ水がガス容器20の表面に接触している状態で、例えば柔軟性容器3内の水が10℃とすると、その柔軟性容器3内の水の水温が0℃になるまでは水1g当り4.186Jの熱量を常に放出し続ける。すなわち、沸点がガスの沸点-11.7℃より約12℃高い温度である0℃の柔軟性容器3内の水の全てが0℃の氷に変化するまでは1g当り333.6J/gの熱量が常に放出され続けるので、液化イソブタンガスの気化に必要な気化熱量を安定的にかつ連続的に供給することができる。本実施形態における気化補助器1では、この水の冷めにくく凍結しにくいという特性を利用している。
【0027】
なお、柔軟性容器3に充填する水32に代えて、他の液体を使用することも可能である。要するに、柔軟性容器3内には、凝固点がガス容器20に充填されたガスGの沸点よりも高い、好ましくは10℃以上高い、より好ましくは15℃以上高い液体を充填する。柔軟性容器3内に充填する液体として、凝固点がガス容器20に充填されたガスGの沸点よりも高い油を使用することも可能であるが、この場合、流動しうる最低温度である流動点がガスGの沸点よりも高い油を使用することが望ましい。
【0028】
また、柔軟性容器3内に充填する液体の粘度は、0.01~100,000mPa・sとする。液体が純水の場合、粘度は0℃で約1.8mPa・sであるが、液体の粘度が100,000mPa・s以下であれば、柔軟性容器3内の液体が自然対流するので、柔軟性容器3内の液体の温度分布を均一にすることができ、柔軟性容器3内の液体が持つ潜熱がガス容器20内のガスGに効率良く熱伝導され、ガス容器20内のガスGの沸点を下回るのを防止することができる。
【0029】
特に、液体が水32の場合、その比重が4℃で最大となるという特性があり、柔軟性容器3内の水32の自然対流を生み出すことで水32を攪拌させることができる。柔軟性容器3内の水32に対流が起こらなければ、ガス容器20の表面の特定の部位、特に、底部22で大きな気化熱が求められるので、その部分の温度が急速に低下し、接触部分凍結が始まり、気化力低下に繋がる。一方、本実施形態における気化補助器1では、柔軟性容器3と接触している部分の水温が4℃になった場合、その比重により水32が自然に下層部に移動することになり、4℃を下回る水温になるとその水塊の比重が軽くなることで水32が上層部に移動する。この作用により柔軟性容器3の水32の攪拌が自然に行われ、全量凍結までの時間がかかることになり、結果的に長時間に亘って333.6J/gの凝固熱量を気化熱としてガス容器20に供給することができる。
【0030】
なお、
図1および
図2に示す柔軟性容器3は、第1袋30および第2袋31の2ピース構成であるが、これらの第1袋30および第2袋31を一体の袋40とした
図3に示す1ピース構成の柔軟性容器4とすることも可能である。
【0031】
また、本実施形態における気化補助器1は、
図4に示すように、柔軟性容器3を収容して吊り下げ可能な網袋5を使用して、グリルなどのフックに吊り下げて使用することが可能である。この場合、液体が充填された柔軟性容器3の自重により、柔軟性容器3に保持するガス容器20に対して柔軟性容器3の側壁部および底部を一定の圧着力で密着させることができ、ガス容器20内のガスGに液体が持つ潜熱を効率良く熱伝導させ、ガスGの気化力を維持することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、金属製のガス容器に充填された液化石油ガスの気化力を維持するガス缶の気化補助器として有用であり、特に、熱源を必要とせず、簡単な構成で、液化石油ガスの気化力を維持することが可能なガス缶の気化補助器として好適である。
【符号の説明】
【0033】
1 気化補助器
2 ガス缶
3,4 柔軟性容器
5 網袋
20 ガス容器
21 側壁部
21A 外周面
22 底部
22A 凹面
23 天蓋部
30 第1袋
31 第2袋
31A 凸部